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スポーツ好きさん:
その恐ろしいまでの均衡に情欲を伝える一線がぞくぞくと背を走った。それでもなお、ピアノを軽やかに弾くようにリズミカルな人差し指と中指が内田の手の甲の骨のラインをいたずらにノックするので、それまで伏せていた手のひらをくるりと裏返した。
ちょうど手のひらの中央に降りてきた二つの指を五本の指で包むように柔らかく捕らえた。きゅうと優しく握られた中指は一旦停止したが、器用にもすぐに拘束から逃げ出した。
懲りずに今度は吉田の手の甲があらわになった内田の右の二の腕を、たった一度だけつるりと撫でた。余韻が残る皮膚が熱く、淡い熱は勢いを増してじわじわと内田の四肢まで侵食した。
視界の端に映る恋人は反応を示さない内田にむくれるでもなく戯れに笑むでもなく、ただ淡々と前を向くのみだ。
やがて熱が理性を焼き切ると内田はついに散々悪さをした手首を掴んで引き寄せた。こうなることはある程度予測がついていたのだろう。吉田は大して緊張感のない小さな悲鳴を上げつつ内田の膝になだれ込んだ。
うつ伏せになった吉田はまるで内田の腰にすがりつくような格好となった。背中から腰へ掛けてしなやかなラインがすっと伸びている。裾がめくれ上がり僅かに覗く腰の健康的な肌色が目にも鮮やかだ。つい指を這わせたくなる。なかなか眺めが良い。
「こうしてほしかった?」
腰を折り唇を吉田の耳元にそっと寄せて囁いた。膝の上の恋人はくすぐったそうに身をよじり、からからと笑いながら顔を上げた。明らかな身長差のせいで内田が滅多にお目にかかれない恋人の上目遣いだ。その目尻は甘くたわみ色めいた欲を孕んでいる。
「もっと、ひどいことを」
膝の上の恋人が内田の腰を抱き寄せながらそう蠱惑的にねだる。逸る気持ちを抑えながら、あくまでも紳士的に、なんなりと、と答えた。