辻産業問題 経営悪化は中国進出前から24年間の粉飾決算など明るみに
管財人団による辻産業の調査報告書では、過去24年間にわたる粉飾決算の実態など、ずさんな
経営実態も明らかになった。同社の破綻は中国事業の失敗によるものではなく、むしろ中国
進出前から経営が悪化していたことが明らかになった
報告書によると辻産業は次年度売上を一部前倒しで計上する粉飾決算を1985年5月期から継続
していた。さらに赤字受注が常態化し、この間に損失が累積していたという。中国法人での
造船事業進出については、造船契約の前受金で親会社の資金繰りを充当する計画だったと
報告書は指摘。実際に前受金は部材購入や業務委託量の名目で親会社に送金していたが、
部材などの購入だけでなく借入金返済など他の目的に流用されていたという。
またメーンバンクの親和銀行(後にふくおかフィナンシャルグループ)とは2005年から私的
再建手続きを続けていたことも明らかになった。ただ銀行側の整理案に同意せず、これは成立
しなかったという。
管財人団は辻産業破綻の原因が「長期にわたる粉飾決算、継続的な損失の累積と管理体制の欠如、
無謀な投資など、いわゆる放漫経営に原因があると思料される」とし、責任調査委員会を設けて
調査を行い、調査結果によっては役員に対して民事・刑事の責任を追及するとしている。
舶用は大島造船に譲渡、中国は分離辻産業、更生計画の策定作業進む
前受金使途や経営責任は別途調査
会社更生手続き中の辻産業は、国内での事業を舶用事業に特化して大島造船所に譲渡する一方、
中国2工場の造船事業は切り離して独自に営業継続を図る方向で更生計画を策定する方針だ。
また、更生計画の立案と別途に調査委員会を立ち上げ、懸案となっている中国工場での前受金の
使途解明や、前役員に対する責任などの調査も進める。
管財人団がこのほど、会社更生手続きに至った経緯や現状を裁判所に報告し、関係者にも書面で
報告した。9月末までに更生計画案を提出する予定。
今後の事業展開として、主力のデッキクレーンやチップ・アンローダ、ガントリークレーン、
ハッチカバーなど舶用製品については、競争力が高く利益率が高い製品に注力するなどして事業を
継続する見通し。橋梁などの事業は撤退の可能性がある。セルフアンローダーなどの既受注案件に
ついては、造船所に値上げ要請を行っていることも伝えられる。
舶用事業のスポンサー候補の大島造船所は、既にDIPファイナンス(事業再生融資)提供など
金融支援や事業支援を行っている。事業管財人にも大島造船の小林正宜副会長が選任されており、
舶用事業は大島造船所への譲渡でほぼ固まっているが、関係者によると大島造船所への単独譲渡
だけでなく、他社との共同出資などの可能性も検討対象となっているもようだ。
更生に向けて事業の大幅な見直しにも着手する。国内の東京支店と大阪支店、広島営業所は今月20日に
閉鎖しており、海外の上海事務所や釜山事務所も随時閉鎖の方向。また、本社の人員削減などの検討を
進めていることも伝えられている。
一方、中国の辻産業重機(江蘇)と辻産業重工(舟山)の新造船事業については、2社が独自営業継続
できるよう「管財人として引き続きサポートしていく」としている。
ただ懸案となっているのが、中国工場が得ていた前受金だ。中国法人の辻産業重機(江蘇)が新造船
受注で得た前受金の一部は、親会社が他の目的に流用していたもよう(別項参照)。これら中国建造船の
リファンド・ギャランティ(前受金返還保証)を発給していた中国銀行と中国農業銀行、中国建設銀行は、
船主の一部造船契約のキャンセルに伴い、辻産業重機に対する求償権を取得。親会社が求償債務を保証
していたことから、中国金融機関が辻産業の大口の更正債権者となっており、辻重機から流れた前受金の
使途解明と返還を要求している。管財人団は別途「前受金調査特別委員会」を設けて、使途などについて
調査を進めている。