馬蹄等の物語第八話
【紅の騎士たち(仮題)】エピローグ
私の名は、奥の院与一。このスレの番人である
私の役目は、
いつの日かこの地に「御宗家」といわれるお方が訪れる、
そのときが来るまで、ココ奥の院を保守しつづけること。
それだけだ。
私自身は「御宗家」と呼ばれる方を知らない。
会ったこともないし、声を聞いたこともない。
しかし「そなたの役目は御宗家様がお越しになるまで、
この地を守り続けることだ」と、ある人物に言われた。
私はその人物を深く信頼している、だからココにいる。
・・・
私の名は、奥の院与一
私はココ奥の院を守り続ける
いつの日か、
「御宗家様」と呼ばれるお方がこの地にやってくる、
そのときが訪れるまで。
・・・・
幼いころよりお転婆な娘だった
どのくらいのお転婆だったかというと、たとえば
そこらへんの野や山を男児たちと一緒に走り回り、
草むらで地を這う蛇を見つければ、
敏捷にその尾をむんずとつかむや
その蛇を頭上でびゅんびゅんと振り回しつつ
周りの男児を追っかけて泣かすというような、
まぁその程度のお茶目なことは日常茶飯事、というぐらいのお転婆だった
「私の育て方が悪かっのでございましょうか
おなごだと言うのにあんなお転婆に育ってしまって…」
「いやいや良いではないか。あの子は聡い。
その上にあれだけ心身闊達ならば、何も申すことはない
そなたの育て方が悪いなどということは決してないぞ
健やかに育っているではないか。気に懸けるようなことはない」
母の心配をよそに父の方は楽しげに目を細めて、
そんなお転婆な愛娘を見つめていた
しかしそんな親バカな父も、
やがて娘に驚かされるときがきた。
お転婆だった娘が成長し成人のときを迎えると、
父は家の慣わしに従い、
娘に一振りの太刀を与えるとともに
そなたの願い事をひとつだけ聞いてやる、と告げた
これはそのときに何を願うかによってその子の資質を見極めるという、
養育の最終確認の意味合いを持つものでもあった
長ずるに及んで容姿はすっかり女性らしくなってはいたものの、
幼いときよりのいたずら好きの瞳を依然としてもっていた娘は
その利発そうな瞳で父を見つつ、こう願い出たのだ
「私、一度べつの世界を見てみとうございます」
・・・・
訂正二箇所
>>27 【紅の騎士たち(仮題)】エピローグ×⇒プロローグ○
>>28 私の育て方が悪かっのでございましょうか⇒悪かった
【邂逅】
まず履歴書に書かれてある名前が、読めなかった
緒万戸源朝臣デ紅
これは何だ?何と読むのか?どこまでが苗字で
どこからが名なのか?・・さっぱりわからない
「ええっと…失礼ですが貴女のこのお名前ですが…どう読むんですか?」
「おまんこのみなもとのあそんでくれない、と申します
『おまんこのみなもとのあそん』までが苗字で、
『くれない』というのが私個人の名になります」
「はあ…すると、この『デ』というのは何です?」
「接続語です。元々はdeと書きます。
仏蘭西とか独逸で使われるつなぎの言葉なので、無くてもかまいません。
源の朝臣というのも通常は名乗りません。
ただ、本日は採用試験と伺っていたので
一応フルネームを書かせていただきました」
・・やっぱりわからない
本来であれば
こういう訳のわからない人をパートに採用するのは
極力避けるべきなのかもしれない
しかしそのときは他の応募者がとにかく酷かった
デブスの家事鉄で経験無しなのに最低時給三千円くれとか、
中年の多重債務者のオッサンで前金で10万もらいたいとか、
ろくでもない連中ばかりで
その中では彼女はぶっちぎりで印象が良かった
面接してすぐわかったことだが頭の回転も速いし
容姿もこんな場末のコンビニに置いておくにはもったいないくらいだ
少々風変わりであることぐらいは大目に見るべきだ、
むしろ掘り出し物ではないか
そう考えた私は、結局彼女を採用することにした
33 :
愛と死の名無しさん:2012/10/24(水) 09:02:22.95
ちょい話そうが成立したのに
なぜかそこで終わって先に行かない
サクラくさい
【与一の視点】
面接のときに受けた印象のとおり、
緒万戸の源朝臣デ紅は極めて優秀なパートさんだった
いや、彼女の能力はパートなどという領域を完全に超えていた
レジ打ち棚卸しなどという作業はあっという間に覚え、
さらには帳簿のつけ方までいつの間にか会得しており、
店長としての私の仕事はすごく楽になった
もちろん当初から感じていた風変わりさも相変わらずだった
たとえば彼女は商品の値段の相場というものをまったく知らなかった
プッチンプリンが百円なのか一万円なのか。知らない
海苔弁当が三百円なのか三万円なのか。全然知らない
・・このひとは今までどこでどういう暮らしをしてきたのか?
これほど物の値段を知らずにどうやって今まで生きたこれたのだろう
本当に日本人なのだろうか?
しかし日本語はちゃんとしている。むしろ丁寧すぎるほどだ
帰国子女か何かだろうか? とにかく不思議な人だった
いまひとつ風変わりなことといえば、
彼女は私のことを店長とは呼ばず、与一様と呼んだ
どう考えても普通は「店長」だろう。与一様て…
まるで愛人みたいな感じがして少しこそばゆかったが
潤いに乏しい人生を送ってきた私にはそう呼ばれることが妙に嬉しくもあり、
あえて「店長と呼びなさい」とは言わなかった
私も妙齢の女性に対して「おまんこさん」とは言いづらかったので
彼女のことを「くれないさん」と呼んでいた
「くれないさん」ではなく「くれないチャン」と呼んでいいほど、
私と彼女の年は離れていたし、
彼女自身も決してお高くとまっているような女性ではなかったのだが、
なぜか「チャン」づけで気安く呼べない、
そんな雰囲気が彼女には漂っていたのだ…
【紅の視点】
今日は初めての給料日。
与一様から『お金』の入った封筒を渡されたので畏まって礼を述べ、
着替えを済ませてから私はお勤め先のコンビニ「エイトテン」を後にした
与一様は少々モッサリとしたお方だが、良きおひとだ
私がお給料の礼を述べると、なぜか少し顔を赤らめながら
「今日は早めに帰っていいよ。遅くなるとここら辺も物騒だからね」
と、仰ってくれた
そんなこと心配なさらなくともよいのに…
しかしいずれにせよ、良きお方ではある
いまは黄昏時。
家路に向う私の傍らに下郎が一人、スッと寄ってきた
「ようよう、お姉ちゃん。暇なら一寸一緒にお茶でもどうよ?
で、お茶飲んだ後はさ、ホテルでも行って気持ちいいこと…」
下郎がそこまで言い掛けたところで、
私のこぶしが相手の顔面に炸裂した
相手は数メートル吹っ飛んで鼻から血をだらだら流しつつ、
それでもおなごに殴られたということが沽券にかかわるとでも思ったか、
「このクソアマがぁぁぁ!」と叫びながら殴りかかってきたので、
今度はしっかりと腰を入れた肘撃ち一発で、相手を昏倒させた
ざわつく人の群れを後にし、私はそそくさとその場を離れる
少し行ったところで今度は二つの人影が私を待ち受けていた
その人影のひとつが私にこう言った
「相変わらずのお転婆ぶりでございますな、姫。
もそっと、女子(おなご)らしゅうなさいませ」
p.s.
ライトノベルタッチな感じが少し気に食わないので、
あとからすべてを差し替える可能性もある
_ _/|
rー-'´ !
ヽ _, r ミ Zzzzzzzz.....................
(`彡 __,xノ゙ヽ
/ | ヽ
/ l ヽ
 ̄ ̄ ̄(__,ノ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
【近衛のものども】
「青海か。製鎖もおるか。…そなたたち、いつから見ておったのじゃ?」
「事の最初から最後まで、とくと拝見いたしておりました」
「これはまた底意地が悪い
そなたらは父上の近衛のものとはいえ、
いまは私の護衛がお役目であろうに。
なにゆえもそっと早う、私を助けてはくれぬのじゃ」
「お助けするも何も…」
製鎖が髪をポリポリと掻きながら言った
「あんなにアッサリと片付けてしまわれたのでは、
我等お助けする暇(いとま)もございませんので」
「そもそも我等が出て参ったらあの下郎、死んでおります
さしたる悪党でもなし、我等が助太刀いたさずとも、
姫さまお一人で十分でございましたでしょう?」
青海もニヤニヤ笑いながら答えた
「あのような些細なことで、いちいちお助けするために
我等わざわざ姫のお供をしているわけではありませんので」
「当てにならん護衛じゃな。
まったくつれなきものどもであることよ…」
と紅は嘆いてみせたが、無論本気ではない。
彼女自身もニコニコ笑っている
「そうじゃ。青海、製鎖。今日は初のお給料日であった
ほれ、これが紙幣というものじゃ。見たことがあるか?」
「まあこちらに来てから少しは日数も立ちますので、2度や3度は。
しかし・・ただの紙切れでございましょう?」
「いかにもただの紙切れじゃが、
これ無くば、こちらの世界では何事もうまく事が運ばぬ由」
「面妖なことでございますな」
「確かにわれらにとっては面妖至極なものじゃ。
されど今宵は与一様がお給料を下さったので、
その面妖なものが…ほれ、このとおり。一杯ある。
また明日は私の仕事もお休みの日である。
されば私がそなたらにおごってやるゆえ、明日は一日、私に付き合え」
「一日と仰いますと…どこぞ行ってみたいところでもおありで?」
「うむ。この世界にきたときから一度は行ってみたいと思っていた…
総の国は鼠の園に参ろうと思っているゆえ、そなたらも付き合え」
「姫…その鼠の園とはもしや…でぃずにーらんどと申すところでは?」
「存じておったか♪、ならば好都合。
青海。製鎖。明日は三人でそのディずにニーランドに参るとしようぞ
心配いたすな。すべて私のおごりじゃ」
「・・・・・」
p.s.
製鎖は盛佐に置き換える
青海と盛佐は、
訓読みなら「あおみ」と「もりすけ」
音読みなら「せいかい」と「せいさ」
【近衛のものたち】書き直し文
「青海。静蛇。…そなたたち、いつから見ておったのじゃ?」
「ことの最初から最後まで、とくと拝見いたしておりました」
「これはまた、ひとが悪い
そなたらはお父上の近衛のものたちとはいえ、
いまは私の護衛がお役目であろう。
なにゆえもそっと早うに、私を助けてはくれぬのじゃ」
「お助けするも何も…」 静蛇が髪をポリポリと掻きながら言った
「あんなにアッサリと片付けてしまわれては、
お助けする暇(いとま)などございませんよ」
「そもそも下郎の一匹や二匹、
我等がお助けせずとも、姫お一人で十分でございましょう?」
青海もニヤニヤ笑いながら答えた
「あのような些細な輩から、いちいちお助けするために
我等姫御前の護衛をしているわけではありませんので。
あの程度のもののお相手は、姫様ご自身でなさいませ」
「まったく当てにならん護衛じゃな。
つれ無きものたちであることよ…」
と紅は嘆いてみせたが、無論本気ではない。
彼女自身もニコニコ笑っている
「そうじゃ。
そういえば今日は初のお給料日であった
また明日は私の仕事もお休みの日である
そなたらもこちらに参ってより、さぞかし退屈していることであろう
されば私がそなたらにおごってやるゆえ、明日は一日、私に付き合え」
「確かにいささか無聊ではございますが…
一日と仰いますと、どこぞ行ってみたい処でもおありなので?」
「うむ。こちらにきたときから一度は行ってみたいと思っていた
下総国は鼠園に参ろうと思っているゆえ、そなたらも付き合え」
「姫…その鼠園とはもしや…デぃずにーらんどと申す遊戯場のことでは?」
「存じておったか♪ならば好都合。
青海。静蛇。明日は三人でディずにニーランドに参るとしようぞ
お金のことなら心配いたすな。すべて私のおごりじゃ」
「・・・・・」
【もう一人の「紅」】
ディズニーランドのお供と知って、悄然とする青海と静蛇、
そして彼ら二人の気持ちも知らぬげにひとり嬉々とする紅。
黄昏の街中に消えていくその三人の馬蹄等の後姿を、
遠くからじっと見つめている一人の女がいた
面立ちは美形である
しかしその瞳は鋭く、かつ冷たい
紅たちの姿が視界から消え去ってから、その女は
おもむろに傍らに控えているものたちに言った「あれが馬蹄等の『姫』か」
「いかにも、さようで。
馬蹄等当主の娘で、緒万戸紅と申すおなごでございます」
「緒万戸?『みなもと』ではないのか?」
「公の場では源紅と称することもあるようですが、
平素は母方の姓をとり、緒万戸と名乗っておりますようで」
「…ふん。小娘の分際で生意気な」
どこらへんが生意気だというのかいまいちよくわからないが
その女は同性と相対したときはとりあえず相手を馬鹿にする
という性癖があるようで、口を歪めて侮蔑の嗤いを浮かべた
この女はコウセイ女史と言われている人物で、
赤色シナ帝国の初代皇帝、故・毛沢山の妻であった女である
毛沢山は毀誉褒貶入り乱れる謎の人物であるが、
いずれにせよ当時混乱を極めていたシナ大陸を統一して
強力な中央集権体制の一大帝国を築き上げ、
その初代皇帝に就任したという事実からも
並みの人物ではないということは知れよう
コウセイは、
その赤色シナ帝国初代皇帝毛沢山の四番目にして最後の妻である
前の三人の妻は、コウセイによって全員殺された
またコウセイは毛の妻になる前は女優業などをしており、
その頃どうしても勝てなかったライバルの女優がいたが、
その女優もコウセイが皇帝の妻になった後、無実の罪で捕縛され獄死した
コウセイは自分より優位な点を持っている女性、
あるいは今はそうでなくても将来自分より優位になりそうな女性、
そういう女性は皆、殺した
コウセイのこの苛烈な性格は、
政争の舞台においてもイカンなく発揮された
毛のライバルたちは言うに及ばず、たとえ毛の側近であったとしても、
コウセイの気に添わない人物はことごとく消された
毛の死後、
コウセイを排除しようという動きがシナ帝国の内部で画策されたが
その動きにも素早く対応し反乱を試みたものたちは全員虐殺された
その苛烈さに恐れをなした人々は彼女のことを陰でこう呼んだ、
「紅色女帝」と。
_,,..:--─‐-=,,._
./;;,ィ''"´ ̄`゙゙ヾ;ミミミ;;、
./ミミ/゙ ゙:::゙iミミミ:l
iミミ′: : ..::::_;ミミ;ミ;リ
ヽ,! ゙ .,;;;..'' ''゙゙;;_ ゙:::ヾ;;;;;;/
. } :'゙::“:゙:. l::'゙.”:゙;.::'':;;゙irく
. | ヽ .,r ..:::、 ..::::;;;トl;|
|.. :' ''ー;^''::ヽ. :':::::;;;i::ソ
. l、 ←‐'‐→、! ..::::;;;l゙´
ヽ.. `゙゙゙.,゙´ '":::';;;ハ、
_,,/`i、 -:: -:::'::゙:::;;ツ'::::`;、_
_,...-‐''" | ゙;、 i":;;:::::;,/':::::::::;!::::`::-、.._
.l゙ ゙ヽ:;,ン'":::::::::::::/::::::::: : -ー `
l .,/;l ,r"
.ヽ /r;:ヘ、 ,,/;''
゙ ''::'`'´ ヽィ::'
毛 沢山 [mao takusan]
(1893-1976 赤色シナ帝国)
50 :
愛と死の名無しさん:2012/10/27(土) 11:51:10.92
久々に見たらちょい話そうでFOしやがった女が
写真を掲載してた
ブサイクであのときの悔しさが晴れた
【殺し屋たち】
「やはりここで片付けてしまおうというご意向で?」
コウセイの傍らに控えていたものの一人が問いかけてきた
それは問いかけというよりむしろ念押しに近いものがある
コウセイも深くうなづいた
「言うまでもないこと。
馬蹄等の当主の娘がわずかふたりばかりの供連れで、
こんなところをぶらぶらしているとは、勿怪の幸い。
この機を逃してなんとする。
そなた等もニホンザルには恨みがあろう?」
「それは確かに」
「そなたたちはこういうときに備えて、
キムの王家から取り寄せたものたち。拓。智。羅束麿。
そなた等の殺しの腕、今こそ我が前に示せ」
>>48で述べたとおり、
コウセイの前半生は殺戮の歴史そのものである
しかし彼女自身は決して自らの手を汚そうとはせず、必ず人にやらせた
そのために彼女は常にその道のプロ、
すなわち殺し屋を常時己の身辺に置いていた
それは必要のためやむなく雇っているというよりも、
むしろ彼女の趣味嗜好であるかのようにすら思えた
いわば「キラーコレクター」である
彼女はそういったものたちを平時は自らのボディガードとして使い、
有事に際しては殺し屋として現場に投入した。今このときのように。
今回帯同させている殺しの専門家は
赤色シナ帝国の保護国であるキムの王家から取り寄せておいた、
キム拓、キム智、キム羅束麿の三人。
いわゆる「三匹のキム」と陰で囁かれている殺しのスペシャリストたちだった…
【隠し札】
「三匹のキム」を去らせた後も、
「紅色女帝」コウセイは独りその場に佇んでいた
黄昏時も半ばを過ぎ、周囲は次第に夜の帳が降りはじめている
緒万戸紅の倍近くの歳月を生きているコウセイは、
2ちゃん冠婚葬祭板的に言えば、いわゆる婆であったが、
若いころに女優やモデルをやっていただけのことはあり、
その容色は衰えたりとはいえ未だ艶っぽさを残している
こんな時刻、こんな所に一人で佇んでいたら、
婆専の男から声を掛けられてもおかしくはないのだが、
不思議なことに彼女の周りには男一匹寄ってこない
それどころか、虫の音すら聞かれない
ただひたすら屍のような闇が広がっているばかりだ
彼女は懐からシガレットを一本取り出し火を点けた
口から吐き出された紫の煙が淡い渦を巻き、闇に溶けていく…
と、そのとき、コウセイが不意にその闇に向って声をかけた
「あのキムの王家から来たものたち・・・いかが見るか?」
誰もいないはずの闇。しかしすぐに応答があった
「まあ無理でしょうな。到底勝ち目はありますまい」
闇の中から一人の男が姿を現した
長身痩躯に整った顔立ち。美男子と言ってもよい。
ただ・・何かが無い。
それが何なのか明確には言えないのだが、
人間であるのならば生まれたときから死ぬまで
本来持っているはずの何かがこの男には欠けている…
この人物こそ、
コウセイの過去の重要な殺し全てにかかわってきた男。
紅色女帝の切り札とも言うべき殺し屋「淋彪」であった
「やはりキム王家程度のものたちでは使い物にならんか?」
「いや、そういうわけではありません。
あの三人もそこそこの腕前はあるでしょう、
しかし…馬蹄等のほうが凄すぎますな」
「そなたの買い被りではないのか?
こんな遠目から少しみただけで腕前などわかるものか」
「わかりますとも。そうでなければ、
この苛烈な世界で長く生き延びることはできませんよ
私も、そして貴女も…ね」
∧_∧
( ・∀・)ワクワク
oノ∧つ⊂)
( ( ・∀・)ドキドキ
∪( ∪ ∪
と__)__)
【与一の視点】其の二
いままでパートさんとは、私的な事柄は極力話さないようにしてきた
どうせすぐ辞めてしまうし、親しくなっても仕方ないし。
特にパートさんが女性だった場合、
うかつに私的なことを尋ねたりすると妙になつかれたり、
その反対にセクハラだの職権乱用だのと絡まれたりして、
いずれにせよ、ろくなことにはならない
だから女性のパートさんとは私的な話は一切しないようにしてきたのだが、
あの時はどうして彼女に話しかけてしまったのか
今でもあのときの自分の気持ちがよくわからない…
「紅さん、なんか妙に楽しそうだね。
昨日の休日、何かいいことでもあったのかな?」
「え?ええ、とても楽しかったですよ、与一様。」
「彼氏とデートとか?」
「いえいえ、そういうのではなくて(笑)
お供…じゃなくてお友達と一緒に
ディズニーランドというところに行って来たのです
生まれて初めての体験だったのでとても楽しかった」
「へえ…紅さんぐらいの年齢の女性が、
今まで一度もディズニーランドに行ったことがないとは珍しい」
「田舎育ちなものですから。
私が生まれ育った里の近隣には、ああいうものは御座いませんでした」
「紅さんはやっぱり少し変わってますねぇ…
いや、これは決して悪い意味ではないですよ」
「変わっている?そうでしょうか?
私自身はごく普通だと思っているのですけど。
ただ、与一様はここ東京でお生まれになったのに対して、
私はちょっと田舎の、いわば鄙の里で生まれ育ちました
環境が少し違っていただけ。それだけのことで御座いましょう?」
「その、紅さんのいう『鄙の里』というのはいったい何処なんですか?」
「・・・・」
彼女が急に黙ってしまったので、私は一寸慌てた
尋ねてはいけないことだったろうのか?何かマズイことでも…
しかし暫し沈黙の後、
彼女は何か意を決したかのように再び話し始めた
「私は生まれたところは、馬蹄等の里と申すところです
とても良きところ。もしご都合良い折がありましたら、
与一様もぜひ一度お遊びにいらしてくださいませ」
訂正。
>>57下から三行目
×私は生まれたところは
↓
○私が生まれたところは
【三匹のキム】
「なんじゃ、あのおなごは。
オッサンと和やかに会話などしておって、隙だらけではないか
…いま殺らんのか?やってしまおうぞ」
「紅色女帝コウセイ様が言っておったろう、
『殺るときは事前に私に告げよ』と。
俺たちは雇われの身。気ままなことは控えよ、羅束麿」
「…ケッ。今この場にはあのクソ婆はおらんではないか。
おらんやつのことをいちいち女帝などと呼ぶな。まったく胸糞悪い」
「言葉が過ぎようぞ。
どこに誰が耳を立てているやも知れず。
罵詈雑言は極力慎め」
「しかし・・」
「智。羅束麿。少し黙って耳を澄まし鼻を立ててみよ」
ふたりの言い争いを制したのは、拓だった
「馬蹄等の女子がいる店内だけではなく、
周囲の気配もよくうかがってみるのだ」
「・・・」
拓のその言葉に、智と羅束麿も口を閉ざし気配を窺った
「・・外にふたり、か」
「そうだ。いる、ということはわかる。
だが何処にいるのかまでは、こちらには悟らせぬ…
さすがは馬蹄等の当主近衛。たった二人だけで、
姫を守ろうというだけの事はある。見事な腕だ」
「奇襲は無理、ということか
下手に踏み込めば逆にこちらが背後を取られかねん」
「そういうことだ。とりあえず今はここまでとしよう
そもそも今日は偵察が目的。これ以上留まるは無用。
戻って紅色女帝に報告し、裁断を仰ぐこととしよう」
【淋彪とコウセイの会話】
「ほう、あの連中、偵察してきた、と。
それはまた拙いことをされましたな」
「いかんのか?」
「あのものたちが馬蹄等の護衛の気配を察知できたということは、
当然馬蹄等の方もあのもの等の気配を感知したということです
わざわざ危険を知らせてやったようなもの。人数も読まれておりましょう」
「ふむ・・では、無理か?」
「コウセイ様のお望みがあの馬蹄等三人を皆殺しにせよ、
というのであればお断りします。それはもう無理ですから。
しかし殺すのはあのお姫様一人でよろしいのでしょう?
それでしたら、まあなんとか…」
「いかなる手立てか?」
「あの三人のキムを捨て駒に使います」
「ふん…まあよかろう。して、仔細はいかに?」
「あの馬蹄等たちには小細工は通用しませんので、
三人に正面から当たらせるように仕向けなされ
彼等三人が護衛二人の動きを一秒だけ抑えてくれれば、
その間に私が馬蹄等の姫を仕留めましょう」
「一秒?たったそれだけでよいのか?」
「コウセイ様。
たったそれだけと仰いますがね、一秒というのは結構な長さですよ。
少なくともコンマ以下の動きで生死が決まる我々殺しの世界では、ね」
「・・・・」
/ :/ ...:/:′::/ :.:.:.....:./.:/:!:.:.:.i:..!:.:.....:{:.:.:.:.:.:ハ /
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'://:′::/斗:十 |::.::.::.:.:.:.: :}}ハ ::ハ:{:≧ト|:::/ な な な ぅ
{//::{: /|i:八::{=从:{ i::::: :N孑弐{ミト∨:::|::′ る. る .る (
. i :从 ::::{イァ:う{ミト爪ト::::. ! ん):::::ハヽト、:{:| ほ ほ ほ )
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. | ::!::|ハト.乂__ノ ー ' | :::< |
八::| :|::::i /i, , , /i/ , }:::}i::人 __ ノ\
(__):::l:::::. i.:/::::::::厂「{:::::::{ ` ー― ´
/ :{ | :V:入 { ̄`ソ }/}::::}/::::::l.|:::::::|
{ ::|人::∨::::>... ` . ィ升|:::/::::::::八::::::{
【紅の視点】其の二
お勤めを終えた私がお店から外に出ると、
青海と静蛇の二人がいつになく厳しい顔つきで待ち受けていた
「ん?二人ともどうした?そんな険しい顔をして」
「姫。どうやらこの世界から立ち退くべきときが参ったようでございます」
「なんと言う?」
「さきほど不穏なものどもが三人ほど、
姫がおられます店内を仔細にうかがっておりました
われらに害意をもつものとみて間違いありますまい」
「・・・いずれの手のものか?」
「さてそこまではわかりかねますが、
顔立ちが我等とおなじモンゴロイドでありましたゆえ、
おそらくは半島か大陸のものどもと思われます
姫・・いま少しこの地に留まりたいとう姫のお気持ち、
我等も重々承知いたしておりましたが、これ以上のご滞在は危険でございます
速やかに身づくろいいたし、里にお帰りあるが肝要かと存じます」
・・・・
「そうか・・いま少しこちらに居たくはあったが、
そなたたち程のものに緊張を強いるほどの敵手が現れたのでは詮方も無い
里に戻るとしよう。されど…」
「なんぞ心残りなことでも御座いますのか?」
「青海。静蛇。
このたびの帰郷に際して与一様を一緒にお連れする、と言うわけにはいかんかな?」
「与一様と申しますと?」
「私がこちらに来てより働いているコンビニ『エイトテン』の主。
こちらの世界での私の雇い主に当たるお方だ。
あのお方にわれらのふるさとである馬蹄等の里を一度お見せしたいのだ」
「それは・・・・」
物に動じぬ青海、静蛇の二人も、この紅の言葉には絶句した
暫し呼吸を整えてから、青海が諭すように訥々と述べ始めた
「いかに姫様のご所望といえど、それはご無理で御座います
我等のおります仮初の婚活の世界と
与一殿がおられるこなたの移し世の世界では、生きる世界が違います。
このたびは姫のご成人に際しての願い事ということで、
馬蹄等の呪術によって、我等ごく一時だけこちらに参っているだけの事。
まして、こちらの世界の人間を我等の里にお連れするなどと言うことができるのは、
馬蹄等最強の呪術師といわれた歳の左近様か、
その左近様の薫陶を受け自らも一流の呪術者となられた御宗家源朝臣鞠子様。
このお二方ぐらいしか、おわしますまい」
【与一の視点】其の三
翌日、出勤時刻になっても紅さんは姿を見せなかった
これが今までのパートさんだったら
出勤時刻に遅れるなどということはザラで、こちらも特に驚きはしない
給料を手渡した翌日から何の連絡も無くぷっつり来なくなる、
などという手合いも珍しくない
こちらとしても「ああ、あいつバックレたか」で御しまいだ
しかし紅さんはそういうことをするひとではない
今まで無断欠勤はおろか遅刻などもまったく無い、
本当に優秀なパートさんだったから…
やはり昨日、私的な話をしたことがまずかったのだろうか?
・・私は酷く気を揉んでいた
そのとき、入店者を知らせる鈴の音が聞こえた
商品の棚上げを中断してカウンターに戻った私は、
入店者たちの姿を見て、一瞬思考が停止した。
薄い藍色を基調にした地味な色合いではあるが、
明らかに時代錯誤な、鎌倉武士のような身なりをした人たちが三人、
カウンターの前に立っていたからだ
彼らは皆一様に腰には太刀を差し、
頭には…これは烏帽子というのだろうか…そのようなものをかぶっている
(なんなんだこのひとたちは・・・)
ぼんやりとそんなことを思いつつ、
しばらく彼らを凝視してあとで漸く私は、
その三人の真ん中にたっている小柄な人物が紅さんであることに気づいた
「紅さん・・・これはいったい・・・」
「与一様。長らくお世話になりました。
このたび火急のことが起こりまして、
私、急遽馬蹄等の里に帰郷いたすことになりました。
本当に急なことで与一様にはご迷惑をおかけして申し訳ございません
お名残惜しく存じ、かかる挨拶に参ったしだい。
…こちらのものたちは、私とともにこの世界に参り、
今まで私を守護してくれていたものたちにて、歳の青海と紀の静蛇と申すものたち。
青海、静蛇ともども、与一様にはお礼申し上げます」
・・・
なんと答えてよいものか、私にはわからなかった
辞めるときにこんな礼を述べてくれたパートさんは
いままで老若男女を含めて唯の一人もいなかったし、
それより何よりそもそも世界が違いすぎる…
呆然として答礼もできずにいる私に、
紅さんの傍らにいた男性が声をかけてきた
「与一殿と申されるか。
我は紅姫のお供の一人にて、紀の静蛇と申す者。
さぞや驚かれておられることと存ずる。
実は我等もそなた殿には黙って姿を消そうと思っておったのだが、
姫がどうしてもそなた殿に最後の挨拶をしたいと仰せられたので、
かようなことと相成った次第。
与一殿。・・・全ては夢であったと思われよ
そのほうが互いのために宜しかろうと存ずる
・・姫。そろそろ急ぎませんと」
紀静蛇と名乗ったその人物が紅さんを促すと、
紅さんはもう一度私に深々と頭を下げてから、二人の男性と共に店の外に出て行った
【離脱】
「ウマは何処にあるか?」
「ここより少し先の河畔に三頭、控えております
シキガミに見張らせておりますゆえ、ご安心を」
「そうか・・青海。静蛇。済まなかったな
私のワガママに付き合わせてしまって…」
「何を仰せられます、姫。
姫あっての我等ではございませんか。水臭いことを言われますな」
【与一の視点】其の四
三人が店内から姿を消した後も、私はしばらく呆然としていた
なにがなんだかさっぱりわからない
あの男性がさきほど言ったように、
全ては夢であったと思うべきなのだろうか?
しかし…本当にそれでいいのか?それでいいのか?…与一。
私は自分でも知らぬ間にふらふらと店の外に出ていた
彼らがどちらの方角に向かったのかすら、わからない
それでも私は彼らの姿を求めて歩き出した
もうコンビニエンスストアのマネージメントなど、
どうでもいいという心境になっていた…