荷物を極限まで持たない暮らし -9

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以下、『放浪の天才数学者エルデシュ』(ポール・ホフマン著、平石律子訳、草思社刊)より引用

“エルデシュは数学のために最大限の時間を割けるよう生活を作りあげていた。かれを縛
る妻も子供も、職務も、趣味も、家さえ持たなかった。粗末なスーツケースひとつと、ブ
ダペストにある大型百貨店セントラム・アルハズの、くすんだオレンジ色のビニール袋ひ
とつで暮らしをまかなっていた。すぐれた数学の問題と新たな才能を探す終わりのない旅
を続けながら、エルデシュは四大陸を驚異的なペースで飛びかい、大学や研究センターを
次々と移動して回った。知り合いの数学者の家の戸口に忽然と現れ、「わしの頭は営業中
だ」と宣言する。そして一日か二日、かれが退屈するか、かれを泊めてくれている数学者
が疲れきってしまうかするまでいっしょに問題を解く。それから次の数学者の家へ移ると
いう具合だった。”(pp.10)

“手持ちの衣装はすべて小さなスーツケースひとつに収まり、さらに時代遅れの大きなラ
ジオが十分入るほどのスペースが残った。持っている服があまりにも少ないので、かれを
泊めた人たちは一週間になんどもかれの靴下や下着を洗わなければならなかった。”(pp.13)

“エルデシュにとって大事な、ただひとつの所持品は数学のノートだった。死んだとき、
そうしたノートは10冊になっていた。そのときどきに浮かんだ数学的な洞察を書きとめ
ておけるように、いつもノートを一冊持ち歩いていたのである。”(pp.13)