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名無しさん@社会人:
加へて、第二次大戦を転機に、世界的に被害者と加害者の逆転がおこつた。先進国が後進国に負ひ目をもち、
大国のアメリカが外ではベトナム、内では黒人問題で手をやく――といつた一連の現象である。つまり弱者が
優位に立つといふ“逆勢力均衡”なのだが、その先端を切つたのは、被害者の極、ヒロシマなのであつた。
将来、小型爆弾が使はれる可能性は、皆無ではないだらう。ベトナムのやうに、今使ふかと世界の注目をあびて
ゐる地点よりも、未開の国で突如使はれるかもしれない。大国が、中程度の国をそそのかして核使用の口実を
つくることも考へられる。
だが、いちばん危険なのは、防衛力としてのABM(弾道弾迎撃ミサイル)が開発されて、攻撃力としての
ICBM(大陸間弾道弾)との均衛が成立したとき、つまり大国がICBMに対して自国の安全を守れるといふ考へに
達した時であらう。
三島由紀夫「私の中のヒロシマ――原爆の日によせて」より