「どうしてもプロに行きたいのなら勝手にしろ。ただし、俺は契約に立ち会わない」。
流経大(関東1部)の中野雄二監督は今年初め、所属選手にこう伝えた。苦渋の宣告だった。
獲得を申し出たJ2クラブは「トレーニング費用を払えない」と伝えてきていた。
提示された年俸は180万円。
「それでもプロと言えるのか。そんなクラブが選手を大切にするはずがない」。
中野監督はぶちまける。
大卒選手がプロ入りした場合、大学はJクラブに対し、トレーニング費用を請求できる。
在籍1年につき30万円で、4年間で最大120万円。
しかし、多くのJ2クラブが支払っていない。理由は「経営に余裕がないから」という。
J1でも不払いは存在する。
中野監督は、J1クラブから「トレーニング費用を払う」と告げられた後、契約書を見て驚いたことがあったという。
大卒当初の年俸上限480万円に対し、提示された年俸は360万円。トレーニング費用を加えて、ちょうど480万円になる。
中野監督は「大学への金は要らない。年俸を480万円にしてあげてほしい」と申し入れた。
複数のJ1クラブが競合するトップ選手と異なり、J2に進む選手は「プロに入れるかのボーダーライン上」も目立つ。
大学指導者が独自のパイプでJクラブに選手を受け入れてもらうケースなど、両者の合意の上での不払いは存在する。
ただ、プロへの道を切り開いてあげたい指導者の親心や、プロと大学の縦関係をもとに、Jクラブ側が、いわば「泣き寝入り」を強いている側面もある。
関大(関西1部)の島岡健太監督は、「お金のことでしつこく言いにくい。プロと良い関係を続けたい」と本音を打ち明ける。
毎年50人以上をプロに輩出し、J選手の最大供給減となった大学界。
全日本大学連盟の幹部は、大学にトレーニング費用が払われる数が半数に満たないと見る。
幹部は「数年前から日本協会やJリーグに改善を訴えているが、何一つ変わらない」と不満を隠さない。