焦点の一つはパンデミックの定義。WHOは数年前まで「多数の人々が感染または死亡する」事態としていたが、
今回の宣言に当たり「人々が免疫を持っていないウイルスが大陸を超えて広がる」事態にハードルを下げた、という指摘だ。
フクダ博士は「症状の重さは流行の過程で変わり得る。我々の仕事は予防で、被害を減らすことだ」と説いたが、
欧州会議は一連の経緯を検証することを決めた。
欧米でWHOが批判されるのは、金融経済危機に伴う財政難で予算の“無駄遣い”に世論が過敏になっている事情もある。
推計では、欧州全体で薬とワクチンの準備に充てられた予算は総額120億ユーロ(約1兆4850億円)。
WHOが当初2回接種を推奨したことから、人口を上回る量を確保した国も多く、製薬会社は収益を大きく伸ばした。
ところが、実際に使用されたワクチンは想定を大幅に下回った。各国はワクチンの余剰を減らすため製薬会社と交渉。
先月、ドイツが注文した5000万接種分の3割削減で合意。仏も約半分を削減した。
両国は十数億〜数百億円を支払わずに済んだが、残りを使い切れるか不明だ。
一方、AP通信によると、ポーランドはワクチンを一切輸入していないが死亡率は他の欧州諸国と大差なかった。
だが、欧米のWHO批判は「富める国のエゴ」の側面も否定できない。
WHOは余剰ワクチンを途上国などに振り分けることを推進しているが、
先進諸国は「予算の無駄」批判を恐れて余剰分を解約・売却しようとするため、なかなか進まない。
WHO担当者は警告する。「自国優先の論理と地球全体の要請の間には、ずれがある。
はるかに毒性の強い鳥インフルエンザが大流行したら、世界がバランスよく迅速に対応できるだろうか」【ジュネーブ伊藤智永】