ぼくはうんこ。
さっき生まれたんだ。
でもすぐ津波に流されちゃった。
あーびっくりした。死ぬかと思ったよ。
下水道をプカプカ泳いでいると、へんなおじさんに声をかけられた。
「おいぼうず、お前は誰から生まれてきたんだ?」
「わかんない」
「よーし、おれが鑑定してやる」
クンクン。
おじさんが僕を嗅いできた。
「マクドナルドのハンバーガー、チーズケーキ、クッキー、サラダ、ビタミン補助剤の臭い。
間違いない。お前は女子高生から生まれてきたんだ。にくいな。このあんちくしょう」
「・・・・・・・・そ、そうなの?おじさんは?」
「俺からする臭いはレトルトカレー、コンビニ弁当、ピザだからむさい男だろう。
やっぱうんことして生まれてくるからには女子高生から生まれたいよな。それがロマンだ。」
「・・・・・・・よくわかんないや」
「その女子高生が便秘だったら腸の中に何日もいられるんだ。俺がお前なら1秒でも長く
女子高生の中に留まるよう血もにじむ努力をするさ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「おおっと、子供にはこの話は難しかったかな?じゃあな!ぼうず」
おじさんは行ってしまった。
女子高生云々の話をしていたときのおじさんの、何か楽しそうな目が忘れられなかった。
ある日、おじさんうんこは下水道で泣いている人間の男の子を遭遇した。
「おい、人間の少年。こんなところで何を泣いている」
「え?うんこがしゃべった!!」
「おいおい、うんこは本当はしゃべるんだよ。人間が話しかけないだけで」
「そ、そうなの?」
「で、何を泣いているんだ?」
「うん・・・・・。僕、学校でうんこをしたからバカにされてるんだ?」
「なんだって。信じられない。人はみんなうんこをするじゃないか!
うんこをしないと生きていけないじゃないか。」
「うん・・・・・。」
「お前をバカにするヤツだって健康なら1日1回うんこをしてるんだ。それなのになぜ!。
ようし、おじさんがいい方法を教えてやる」
「え?ホント?」
「お前をいじめるグループの奴らが学校でうんこをしたくなったらどうすると思う?
そいつらだってうんこを我慢できるわけがないんだ。学校でするしかないんだ」
「うん」
「そのとき個室の上から覗くんだ。そしてガン見するんだ!
そしてこう言うんだ。『お前もうんこ製造器じゃないか。人はみんなうんこ製造器なんだ』って」
「え〜。そんなこと出来ないよ」
「するしかないんだ。じゃないとずっとバカにされるぞ。
休み時間そいつらをこっそりマークして誰か一人が
グループから離れて、どこか別の場所に行きそうになったらあとをつけるんだ。
階が違うトイレに入ったらこっちのもんだ。」
「うん。じゃあやってみるよ」
「1日やってダメだったからと言って諦めるなよ。食べる物によってうんこをしたくなる
時間なんていくらでも変わるんだ。だから必ずいつか学校でうんこをするんだ。
学校生活を送っているヤツがその学校で一度も
うんこをしないまま卒業するなんてあり得ないんだ」
「わかったよ。やってみる。じゃあね、おじさん。」
少年は走っていった。
このとき、少年はおじさんがもうすぐ消滅する運命だとは気づいていなかった。
2日後、人間の少年は、うんこのおじさんと会話した場所にやってきた。
おじさんの言われたとおりの行動を取ったことを報告するために。
でも、おじさんは見あたらない。
「おじさんいないなぁ。」
少年は臭い中待った。しかしおじさんは現れない。
「・・・・も、もしかして」
少年は下水処理場に走っていった。
その頃、下水処理場のタンクの上の方で
うんこのおじさんが処理されまいと頑張っていた。
「あの少年がどうなったか見届けるまで俺はくたばるわけにはいかない」
しかし、おじさんの体力の限界はそこまで来ていた。
「俺、もうだめかもな。次は人間として生まれてくるかな。
人間に生まれたらサッカー選手になってサンフレッチェ広島でACL獲りたいな。
でもまたうんこかな。だったら次は女子高生のうんこで生まれたいな」
薄れゆく意識の中でおじさんは、少年の声を聞いた。
「あ、おじさん見つけた!おじさん!おじさんの
言われたとおりやったよ。そうしたらバカにされなくなったよ。」
聞こえているがおじさんはしゃべることが出来ない。
「おじさん。ありがとう」
気力の限りを尽くしおじさんはしゃべった。
「そうかよかったな。」
「おじさん。すぐ助けるから」
「や、やめろ、俺はこうなる運命なんだ」
「で、でも・・・」
「うんこの俺でも役に立つことがあったんだ。うれしいぜ。達者でな!少年」
「お・・・・おじさ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!」
うんこのおじさんは笑顔で消滅した。
10年後、少年はサンフレッチェ広島のトップチームの中心選手に成長した。
サンフレッチェ広島に入団して、ACLを獲るのがうんこのおじさんの夢だと
うんこづてに聞いてから、必死にサッカーに打ち込んだ。
彼は、よくインタビューでサッカーを始めたきっかけを聞かれるが
本当のことを話すことは一度もなかった。
ACL決勝の昼、少年はトイレに入ってうんこをした。
「よお少年。がんばっているじゃないか」
便器から声がした。
うんこ物語=完=