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U-名無しさん:
2008年4月16日 日本経済新聞朝刊12版41面
フットボールの熱源 クラブは苦痛を売る
「プロサッカークラブは観客に何を売っていると思いますか」。
三月末、Jリーグのゼネラルマネジャー(GM)講座で、講師を
務めたリバプール大学のローガン・テイラー博士(サッカー産業
グループ)は受講者にそう尋ねたという。
「夢を売っている」「感動を売っている」「熱狂を売っている」。
普通はそう答えるだろう。テイラー氏によれば、違うのだという。
「プロサッカークラブは苦痛を売っているんですよ」
支持するチームが先制されれば、サポーターは心を痛める。負
ければ、なおのこと,リードしていても、「追いつかれるのでは
ないだろうか」とひやひやする。勝ったとしても、「次は鹿島戦
かよ」と心配になり、「こんなことで1部に残留できるのだろう
か」と思い悩む。いつになっても心は休まらず、苦しみは続く。
たとえ優勝したとしても、新シーズンに入れば「今季は大丈夫だ
ろうか」と新たな苦悩が始まるはずだ。
もちろん観客は勝利の歓喜を求めてお金を出しているのたが、
実際はほとんど苦痛ばかりをつかまされている。それがわかって
いても、またスタジアムを訪れる。
テイラー氏の講義を聞いたある受講者は、大事なことに思い至
ったという。「苦痛を感じてくれるのは、そこに、愛があるから
ですよね,クラブのために苦悩してくれる人。サポーターという
言葉は、そう定義づけることができるのではないでしょうか」。
確かに、歌手や音楽家や俳優や画家を支持するのとは、心理的な
つながり方が決定的に異なる。
「クラブ関係者は、苦しみを抱えている人々と日々向き合って
いるということを意識しなくてはならない」とテイラJ氏は訴え
たという。その点をおろそかにしてしまうと、愛はときに破局を
迎える。 (吉田誠一)