さて、話は変わってオシム・ジャパンの練習についてレクチャーしよう。テーマは「マスコミ操作」だ。
今回のミニ合宿は月曜の16日夕方に選手は浦安市のホテルに集合。その日は軽く汗を流し、翌17日の火曜から
本格的な練習はスタートした。午前中は6人ずつのグループによるボール回しやリフティングなどで
新顔選手とのコミュニケーションを図りつつ、ハーフコートに分かれてのフォーメーション練習だった。
攻撃陣はサイドからの攻め上がりを主眼に置き、守備陣はマイボールになってからの素早いつなぎによる
カウンターという、攻守ともテーマを与えられたオシム監督らしい合理的な練習だった。
ただし、月曜夕方の練習には鈴木啓太が発熱で休み、火曜の午前練は闘莉王や羽生が別メニューで
ランニングやストレッチに励んでいた。すると、練習の終わりにオシム監督は通訳とトレーナーを交えて、
サイドライン際で闘莉王と話し込んでいる。闘莉王は両手を後ろに回し、首をうな垂れてオシム監督の言葉に耳を傾けていた。
異変に気がついたのは、その様子を撮影していたカメラマンだ。「闘莉王が涙目になってオシム監督の話を聞いている。
何か厳しいことを言われているようだ」と色めき立った。午前中の練習では監督会見も、選手の囲み取材もNGとなっている。
果たして何があったのか?
すると、サッカー協会広報のN氏がマスコミ陣の待ち構えるエリアに来て、次のように説明した。
「右大腿裏を負傷している闘莉王は、練習参加をオシム監督に直訴したものの、オシム監督が無理をするなと諌めた」ため、
闘莉王はうな垂れていたとのこと。夕方から市原で行われる練習には参加する予定です、とのことだった。
この言葉を鵜呑みにした日刊スポーツとサンスポは広報N氏の言葉をそのまま原稿にしたが、
午後練まで粘ったスポニチと報知はまったく逆の原稿を掲載した。午後練でもオシム監督は「選手に話を聞いてください」と
取材には応じなかったが、真相は広報N氏の説明とは逆で、ACLや日曜のJリーグ、柏戦で90分間プレーしていたにもかかわらず、
代表の練習で負傷を恐れて全体練習に参加しなかった闘莉王に、オシム監督は激怒して雷を落としたようだ。
闘莉王にしてみれば、中澤の代表復帰もあり危機感を抱いていたのかもしれない。浦和でリハビリするより、
負傷を押してでも代表の練習に参加し、少しでも選手とのコミュニケーションを図ろうと努力したかったのかもしれない。
調子が良ければ全体練習にも参加したかったのだろう。しかし、オシム監督は違った。
水曜の明海大学との練習試合後、記者の質問に答え「負傷しているのであれば今回の合宿には呼んでいない。
ただ、負傷するリスクが高いようなので、それを優先して今回の措置を取った。彼がギャラをもらっているのは浦和で、
彼は浦和にとって必要な選手です。無理をさせて練習させると、取り返しがつかなくなることもある。
と同時に、彼が確実に代表に入るというわけでもありません」と答えている。
その真意は何か。答えは今回始めて召集された森勇介や内田篤人、柏木陽介らに隠されているだろう。
当初はG大阪の加地や二川をミニ合宿に呼ぶ予定だったが、ご存知のようにG大阪は家長を五輪に取られ、
今回も遠藤、播戸、橋本の3人を代表に送り出している。このため二川や加地までも代表合宿に送り出しては
チーム練習に支障があるため参加を辞退したようだ。
そこで、浦和の相馬が長期離脱中のためサイドDFが不在となる。それなら彼らのバックアップにサイドDFの内田と森、
中盤の柏木を抜擢して代表練習の経験を積ませ、選手層の拡充を図ったのではないだろうか。
そう考えると、闘莉王が負傷して使えないなら、そうした事態を想定して新たなCB候補を今回の合宿でも呼ぶことが出来た。
その可能性を、負傷しているにもかかわらず代表合宿に参加しながら全体練習に参加出来ない闘莉王が潰してしまったことに、
オシム監督は激怒して叱ったのではないだろうか。
結局、火曜の午前練、水曜の練習試合とも闘莉王はリハビリに終始し、帰り際には親しい記者(報知)の問いかけに、
「こっちに来て判断しようと思っていた」とだけ言葉少なに話して秋津を後にした。
果たして次回の練習に闘莉王は呼ばれるのかどうか。オシム監督の意図はもっともだし、闘莉王の心情も理解できる。
問題は、そうした微妙な人間関係の機微を、たぶん闘莉王を守ろうとしてだろうが、事実とは異なる情報をリークし、
その結果として相反する情報が、メディアを通じてサッカーファンに流れた結果、
浦和や日本代表を始めとするサッカーファンの混乱と不信感を増幅したのではないだろうか。
広報のN氏の責任は重大である。果たして彼は誰のために仕事をしているのか。
広報としてメディアのために存在しているのか、それとも選手を守るためなのか。はたまたオシム監督のためなのか。
もしもこのまま闘莉王が代表から外されたら、その責任は間違いなく彼にあるだろう。