▼2005年のJ1で降格するチーム予想!!その31▼
新刊案内。
書籍名『残留争い〜神戸物語〜』
著者名『戸神牛』
ページ数・版型『157P 20cm』
価格(税込)『1,470円』
書籍内容
『2005J1リーグ第21節、神戸vs大分。終了間際、栗原のゴールで神戸劇的勝利。2−1。裏天王山を制したのは神戸だった。』
一部抜粋。↓
ホイッスルが鳴った。勝ち点3をもぎ取ったのは、神戸だった。
「やったぁ! 勝ったあぁ!」喜び勇んで跳ね上がる神戸。
「もう、駄目ぽ」大分は項垂れる。
「よしよしよし! これで大分君と勝ち点で並んだあぁ!」満面の笑みで拳を握り締める神戸。
「神戸君と同じ位置ぽ……。もう残留無理ぽ」涙を流す大分。
「この勢いでがんがん上目指すぜえぇ!」
神戸は力強く叫んだ。
ほんの一瞬だった。手の甲に水滴が落ち、ふいに空を見上げた、そんな感じの一瞬。
その一瞬、目を離した神戸。
「あれっ! 大分君がいない!」
隣に居たはずの大分が忽然と姿を消したのだ。
「どこ? どこどこどこ? 大分君はどこ?」
焦燥感に駆られる神戸。下を探す。しかし、そこにはJ2への入り口扉が、悠然と佇んでいるだけだ。
上を見上げる神戸。ふと違和感を覚える。見慣れない橙色の物体が目についた。橙色の物体は背中に何か負ぶったまま右往左往している。
よく目を凝らすと足ががくがく震えている。相当に重たそうだ。橙色に負ぶられた物体の額には、「山」とある。神戸は全身が総毛立つのを感じた。
その物体には心当たりがあった。神戸たち、残留争い常連者たちのあいだで噂されている疫病神だ。神戸は身震いして、橙色から目を逸らした。
それにしても、と神戸は考える。大分君はどこへ消えたのか?
あの、激闘の裏天王山を終え、これからともに上を目指そう、そう思っていた矢先だ。
再び下を探す。無論、そこにはJ2への入り口扉しかない。横を探す。しかし、大分の姿はない。
神戸は意を決して上を見上げた。なるべく橙色を目に留めないよう注意しながら大分を探す。だが、大分は見つからない。
居るのは踏ん反り返って煙草を吸っている緑や黄色いラモスだ。ラモスは身振り手振りを激しく、何か叫んでいる。その更に上を見上げたが、頂上に見えるのは鯱だ。
それより上には、残留決定入り口の物々しい扉が構えてあるだけだ。
神戸は全身が熱くなるのを感じた。大分が完全に消えている。
神戸は足元に置いてある『勝ち点袋』を掴んだ。最近全く触れていないその袋には、これまで稼いだ勝ち点20が詰まっている。
勝ち点袋を大事そうに抱きかかえながら、神戸は人知れず泣いた。久しぶりの涙だった。共に肩を並べて戦った大分君が消えてしまったのだ。
目頭が熱くなるのを押さえ、神戸は天に誓った。
――消滅してしまった大分君のためにも、僕は絶対残留するんだ。
帯:『泣きながら一気に読みました。――柴咲コウ』