「スカパーならば北海道のアウェー試合も見られる。しかも、アンテナやチューナー
購入などの初期費用もタダ!」。
徳島県鳴門市の鳴門総合運動公園で開かれるJ2の徳島ヴォルティスの主催試合。
応援グッズ販売ブースの一角で、CS(通信衛星)放送のスカイパーフェクト・コミュニ
ケーションズ(スカパー)の営業担当者が盛んにサポーターに声をかけた。
三月のリーグ開幕にあわせ、スカパーはJ2を中心とする約十五チームと提携した。
そして、六月から全国展開する受信装置のレンタル制度をサッカーファン向けに先行
導入する新サービスを打ち出した。全国の試合会場に社員を派遣。試合紹介のパン
フレットにスカパーの宣伝チラシを挟み、チームのホームページなどにも広告を出した。
Jリーグのリーグ公式戦の放映権はNHK、TBS、スカパーの三社が共同で所有。スカ
パーはNHKやTBSが地上波やBSなどで放送せず、スポーツニュースでも取り上げられ
ることが少ないJ2を中心に毎節5試合を生中継し、録画を含めると毎節全十五試合を
完全放送している。
その結果、〇五年のJリーグ視聴の番組パッケージ「Jリーグセット」の契約件数は前
年比で微増だが、スカパーでサッカーを担当する放送運営部長の吉沢雅治(40)は「J
2チームがある山形県、宮城県、群馬県、徳島県など八県では前年比二〇%以上も
増加した」と力を込める。東京や大阪などの大都市圏に偏りがちだったスカパーの加
入者層が地方にも広がるきっかけにもなった。
スカパー社長の重村始(60)は「地域密着型の理念によって、Jリーグは地域コンテンツ
(情報の内容)の代表に育った」とみる。吉沢も「ワールドカップ(W杯)よりもJ2を重視す
る。一過性のW杯で集客すると解約の恐れもあるが、継続性のあるJリーグは顧客をが
っちり獲得できるからだ」と説明する。
スカパーは五月に〇六年のドイツW杯の放映権を取得したが、日本との時差が大きい
こともあり、放映権が低い録画の放送にとどめた。推定の放映権料は十億円強で、日韓
W杯の百億円超に比べ極端に安かった。
一方、民法キー局のJリーグに対する見方は厳しい。一九九三年のJリーグ誕生直後は
二ケタの視聴率を稼ぐ人気番組で、放送試合数も年五十試合を超えた。しかし、〇一年
以降は二十試合未満に減り、視聴率も四%前後で低迷している。W杯出場を決めた試合
で四三%の視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を上げた日本代表の国際試合の
十分の一しかない。
リーグ公式戦の放映権を保有するTBSの編成担当幹部は「数字が出ない以上、スポンサ
ーもつかない。Jチームがある地方系列局での放送しか使い道がない」と漏らす。公式カッ
プ戦の放映権を持つフジテレビジョンも「現在の視聴率ではCS番組での放送が精一杯」と
打ち明ける。
高校サッカーやクラブ世界一を決める「トヨタカップ」の放送を手がける日本テレビ放送網
もJリーグに関しては悩みが深い。Jリーグ発足時に一世を風靡したJ1の東京ヴェルディ1969
を抱えるが、人気は低調。日テレは深夜に選手紹介の番組を放送したり、本社ビルで応援
グッズを販売するなど支援するが、なかなか目立った効果が表れない。
二〇〇六年で契約が切れるJリーグの年間放映権料は推定五十億円。NHKが半分強を負
担し、残りをスカイパーフェクト・コミュニケーションズとTBSが二対一程度の割合で支払ってい
るとみられる。しかもここ数年、放映権料が変わらないのに放送試合数は減少しているため、
1試合あたりの放送コストは上がっている。
こうした状況からある民放幹部は「TBS、フジテレビの収支は完全に赤字だろう」と指摘する。
新しい試みも始まっている。衛星放送のBSジャパンはJリーグ映像と提携し、三月からJ1・
J2の全試合を紹介する「サッカーTVワイド」を始めた。毎週木曜日午後九時から二時間放送
しており、専門的な試合解説が評判だ。Jリーグ映像に番組制作を発注する仕組みで、試合
映像を低コストですばやく放送することを実現した。Jリーグ側もゴールデンタイムの放送で
サッカー人気の底上げ効果を狙う。BSジャパン社長の上田克己(60)は「テレビ東京はかつて
サッカー番組の草分けである『ダイヤモンドサッカー』を手掛けた。同じグループとして、ファン
の期待に応えていく」と話す。
〇七年からの放映権料の交渉が年明けにも始まる見通しだが、テレビ局とサッカーを取り巻
く状況は激変している。衛星放送やケーブルテレビが一段と普及し、USENやソフトバンクなど
進行ネット企業も放送事業を強化している。今月、NTT東日本系のネット接続会社ぷららネット
ワーク(東京・豊島)がイタリアのサッカーリーグの放映権を取得して関係者を驚かせた。
国内リーグが盛り上がらなければ日本代表や欧州リーグの人気にも陰りが出る恐れがある。
日テレでスポーツ部門を担当する取締役の酒井武(60)は「多チャンネル化を活用し、世界の
トップリーグと国内リーグを結びつけてサッカー人気を深めていきたい」と話す。