── 海外挑戦はいつごろから意識しはじめたんですか?
「やっぱりジュビロが常勝軍団になってからかな。すごくいいクラブだし、いいメンバーに恵まれて不自由がない。
だからこそ何するんだよ、俺はってね。給料はまぁ良くて、試合をやればたいがい勝って、Jリーグで
年間チャンピオンにもなる。ファーストステージ、セカンドステージ両方勝てて、今後俺はどうすればいいのかって自問自答するわけ。
逆に一緒にやってる仲間はそう思わないのかな、何を考えてやってるんだろうと凄く思いはじめた。
もちろんジュビロのサッカーに完成はないわけで、やることはもっとたくさんあると思う。
でも限りなく探さなきゃいけない状況よりは、サッカーをもがきながらやっていたところに、
もう一回行ってみたいというのがある。それが自分にとっていいか悪いかは、行ってみないとわからないけど。」
── 高原(直泰)選手はドイツに行って、「戦術が自分を活かすためだけにあるわけじゃなくて、
誰も自分のために動いてくれない。日本にいたらその違い気付くのは無理だった」と言っていたようですが。
「今、俺はそれに気付けないわけでしょう。ああ、これかぁと。それが自分の幅になるんだと思うから。
そう、だから、W杯について自分にコメント求められることがあるけど、正直、行ってないから言えない辛さもあるんだよね。
だからW杯にも出たい。
選手やってる以上はすごく貧欲でいいと思う。やっぱり挑戦を止めたくはないというのがあるんだよね。
中山さんについて、年齢がどうこう言われるけど、中山さんは中山さんなりにまた目指してるところがある。
ベテランと言われる年齢に入っても、何かを求めたいというもはスポーツ選手だけじゃないと思う。
俺たちみたいな勝負の世界にいる人間にとっては当たり前の感覚だと思うんだよね」
── ただ欧州の移籍市場をものさしにすると、日本人選手で31歳というと限りなく厳しい。
これだけ頻繁に若手が移籍していくと、悔しいって思ったこともあるでしょう。
「移籍に向けて動き出してからハンデは痛感してる。生まれたのがもっと遅ければ、みたいなのは何回も思ったけど
もう戻れないことだからそういう感覚は捨てたね。今は自分に何ができて、どういうチャンスが自分にあるのかというのを考えてる」
── だからこそ、藤田さんの移籍は28〜29歳あたりの年代には勇気を与えられますね。
「自分が挑戦することで、そう思う人が一人でも多く生まれれば素晴らしいことだとは思うけど、そんな余裕はまだないから。
とにかく今まで10年間Jリーグでやってきて、自分に身に付いたものがどれくらいのものなのか、身に付けたものが海外で
どれくらいできるのかというのを確かめたいなあと思ってる。
例えば30歳過ぎたら肉体的には落ちてくるって言うけど、自分は落ちないためにどうしようかというのを、
今まで探し求めてきたつもりでいる。これをまず確かめたいね。それから本当に身体能力がものすごく違うのかと。
サイズが違うというのは見てわかるけど、サイズの違いというのは、自分の中では『当たりどころ』でなんとかできると
思ってるところもある。大きい人と当たる時はここで当たればいいというタイミングがわかってるつもりだけど、
それが合うのか、合わないのかを知りたいとかね。絶対にあきらめないとか、腐らないという自分の精神が、
苦境に立たされて変わっちゃうのかとかさ。とにかく自分で実験したいことが多すぎるんだよね。
これを1つ1つ経験するというのも、将来のためにいいなあと思う」
── 世界のものさしで自分を計りたくなるという衝動はよくわかります。
「代表でも海外のチームとやるけどさ、代表の1回のゲームで感じることと、リーグで感じることは違うと思ってる。
一発のゲームでは多分に運不運も加わってくる。長い期間を戦ってこそ、自分の考えてることが出せると思うから。
修正もきくしね。90分だけだったら、1回パニックに陥ったら簡単に直せないこともある。
ましてや、コンスタントにプレーしてない代表の試合に出たら、いいところ見せたい、見せたいと思いながら、
これが俺の最後の挑戦になっちゃうのかな、とか考えちゃうだろうしさ。いままでは、そこが俺にはできなかったんだよ。
少なくとも3回から5回のチャンスはあったんだろうけど、がっちりそこをつかめなかったというのは、自分の反省点だね。
もしそこで2点ぐらい入れてれば、絶対レギュラーだったもん。
でも、言葉で言うほど、サッカーについて大それた考えは持ってないよ。自分の思っている感性のままに
海外に行ってみたいと思ってるだけかもしれない。サッカーについてそんなにネガティブになったこともないし、
行くということに保証もないし、行ってからの成功も保証がないけど、一生懸命やってくればいいじゃん、
みたいなことはあるね。俺はこうやって考えて挑戦したけどダメだったというのは、本音を言えばいやだよ。
でも、Jリーグにもこれからもっともっといろんな人が出てくると思うから、そういう人が俺のことを見てくれればいいと思うし、
あいつはああやってだめだったな、でもいい。もちろん成功したいよ。ただそんなに深刻には考えてないかもしれない」