日本経済新聞 2002年(平成14年) 12月12日(木曜日) より抜粋
ポストW杯 日本サッカーの針路 6
目指せビッグクラブ
「二、三年後をメドに年間入場者数を五十万人台に乗せたい」。そんな大きな数字
を掲げるクラブ経営者がいる。Jリーグ随一の人気チーム、浦和の犬飼基昭社長。
1試合平均なら三万三千人となる勘定だ。
■入場料で総年俸を
今年、リーグトップの三十九万人を集めた浦和は、ワールドカップ(W杯)のために
新設した六万人収容の埼玉スタジアムの使用を増やすことで、「五十万人」が夢ではな
く目標になった。実現すれば入場料収入は十五億円(今季十三億円)となり、選手の
年俸をほぼまかなえる。
観客が増えれば広告価値も高まるから、会場の看板料も増額できる。スポンサーから
十五億円を得るとすると、グッズの売り上げなどを合わせた総収入は、現在より一割
増しの四十億円になる青写真だ。
一九九三年、Jリーグは「1クラブ年間十億円の赤字が十年は続くかも」という覚悟の
もとで、スタートした。十年目を終えた今も、J1のほとんどのクラブが親会社からの
支援に頼り続けている。例えば昨年度に、広告料の名目で十億円以上を親会社から受
けたクラブが7つある。
Jリーグ発足当初の爆発的ブームが去ったあと、各クラブが「身の丈にあった経営」
をめざし、選手年俸を抑制した結果、昨年度はJ1、J2の計28クラブ中、六割を超える
18クラブが黒字を計上した。だが、それも親会社の大きな支援を受けてのこと。
経営的な自立、その先のビッグクラブ誕生への道は険しい。
浦和も、親会社からの広告料を減らしてきたとはいえ、完全な自立には至っていない。
だからこそ、大スタジアムを得た今の好機を逃したくない。「自立の仕方にもいろいろ
あって、縮小均衡では次のステップに進めない。五万人を集められるような夢を与える
ビッグクラブを目指す」と犬飼社長は力を込める。
W杯の開催で、今や三万人以上収容のスタジアムは十を超えた。鹿島や横浜M、静岡
の2クラブ、J2では新潟などの大きな発展は夢ではなくなった。