日本のニュースに出てくるブータンといえば、ゴ(国王も着ていた男性用の民族衣装)やキラ(王妃が着ていた女性用の民族衣装)を着た人たちばかり。だが、都市部の若者の格好は今や他国と大差はない。
DJがかけているのはヨーロッパのハウスに、ネパールやインドのヒップホップ。フロアではレーザーのエフェクトにミラーボールが回転する。
僕は十数人に質問をぶつけてみた。
「今、幸せですか?」
「何に一番幸せを感じる?」
「これからのブータンに望むことは?」
まず最初の問いについて、「幸福でない」と答えた者は誰ひとりとしていなかった。皆一様に「幸福です」とか「とても!」と答え、ひとまずみんなが幸福だというのは根拠のないでっちあげではないようだ。
二つ目の質問については、「人生そのもの」とか「友達」とか。このへんは普通の国と変わりはない。そして三つ目の質問にもダボダボの服を着た彼らが「今のままがいい」とほぼ全員。
あとは「他国のように自然を壊さずに発展してほしい」と幾人かが答えていたことが何よりも印象的だった。
現在、ブータンを訪れる旅行者で最も多いのは、皮肉にもGDP1位のアメリカ人と、最近まで2位だった日本人。
ブータンでは自由旅行が認められず、旅するには少々お金がかかる(旅行者は一日200ドルの公定料金を日数分あらかじめ政府に払う)のだが、そのおかげか、旅行者はそれなりに裕福な人々が多い。
そんな裕福な外国人がたくさん来て、口々にブータンを褒めていくのだから、誇らしくなるのも当然だろう。ディスコで出会った観光業に携わる女性は僕に言った。
「いい国でしょ? 日本から来た旅行者は皆、お年寄り夫婦から若い女性まで、『日本がなくしてしまった本当の豊かさがブータンにはある』と感動していくの」
つまり、本来なら羨望の対象であるはずの豊かな国の人々から逆に「ブータンは幸せな国だ」と盛んに言われ続けることで、ブータンの人々の「自分たちは幸せだ」という思いがより強くなる。
一見、順序が逆にも思えるが、人間が「幸せ」を自覚するきっかけとは案外そういうものなのかもしれない。
(取材・文・撮影/佐藤健寿)