カレル・ヴァン・ウォルフレンの日本分析 2.0

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1名無しさんの主張

K.V.ウォルフレンは舌鋒鋭く、日本社会、政治構造などを鮮やかに分析、全く新しい視点を
提供してくれた。
今日においても、価値の高い彼の日本社会分析について考える。

●カレル・ヴァン・ウォルフレン Wolferen,Karel van
 一九四一年オランダ生れ。十八歳より世界各国を巡り、八二〜八九年、オランダの「N
RCハンデルスブラッド」のアジア特派員。現在アムステルダム大学教授。 89年に『日
本/権力構造の謎』を出版し、国際的ベストセラーになる。
 その他の著書に、人間を幸福にしない日本というシステム、なぜ日本人は日本を愛せな
いのか―この不幸な国の行方 、ウォルフレン教授のやさしい日本経済 、日本という国を
あなたのものにするために、ブッシュ/世界を壊した権力の真実 、支配者を支配せよ―選
挙/選挙後 、アメリカを幸福にし世界を不幸にする不条理な仕組み、怒れ!日本の中流階
級、アメリカからの“独立”が日本人を幸福にする、民は愚かに保て―日本/官僚、大新
聞の本音、快傑ウォルフレンの「日本ワイド劇場」、日本の知識人へ など多数。
2名無しさんの主張:2010/11/13(土) 08:39:23 ID:???

前すれ
カレル・ヴァン・ウォルフレンの日本分析
http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/soc/1085141939/

3名無しさんの主張:2010/11/13(土) 10:34:00 ID:???
時代遅れの化石だな。
4名無しさんの主張:2010/11/13(土) 20:50:21 ID:???
Wolfrenは日本語もろくに話せないタコだ。
日本のことが良く分かるはずがない。
5名無しさんの主張:2010/11/14(日) 08:52:31 ID:???
カレル・ヴァン・ウォルフレン氏講演会動画

http://www.youtube.com/watch?v=vRNFxs2013U
6名無しさんの主張:2010/11/14(日) 19:35:06 ID:???
ジャーナリスト、ウォルフレン氏がトーク&サイン会 
2010.11.10 00:34

 徳間書店は15日午後7時から、丸善丸の内本店(東京)で、「アメリカとともに沈みゆく自由世界」の刊行記念として、
著者のカレル・ヴァン・ウォルフレン氏のトーク&サイン会を開く。

 オバマ大統領の失策によって変質しつつある米国が、日本を含めた自由世界を混乱に巻き込んでゆくという
近未来を、政治と経済の両面から描いた警告の書で、著者のウォルフレン氏は著名なオランダ人ジャーナリスト。
日本社会の仕組みを批判的に分析した「日本/権力構造の謎」(早川書房)、「人間を幸福にしない日本という
システム」(毎日新聞社)など日本研究の著書が多数ある。

 トーク&サイン会参加には書籍購入時に配布される整理券が必要で先着100人まで。
問い合わせは03・5288・8881(電話予約可)。

http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/101110/fnc1011100035002-n1.htm
7名無しさんの主張:2010/11/15(月) 22:12:29 ID:???
茨城で釣りをした。
昔の話。
8名無しさんの主張:2010/11/16(火) 23:20:12 ID:sl6GVbrM
カレル・ヴァン・ウォルフレン 公式ホームページ

このウェブサイトは日本の読者のみなさんとの新しい触れ合いの場として設けたものです。

http://www.wolferen.jp
9名無しさんの主張:2010/11/17(水) 19:24:49 ID:W/0T8RRV
アメリカからの独立は、アメリカ人がアメリカを取り返す事が先決。
10名無しさんの主張:2010/11/17(水) 20:19:14 ID:???
枯れる・晩年
11名無しさんの主張:2010/11/20(土) 23:00:41 ID:???
立ち枯れ、オランダ!
12 ◆JeacknUANQ :2010/11/21(日) 13:57:50 ID:RO730qw/

/// 〈システム〉に仕える人びと 1 ////////////////

カレル・ヴァン・ウォルフレン著、原著1989年発行
日本 権力構造の謎〈上〉 ハヤカワ文庫NF、篠原 勝 (翻訳)より

・・・・・
4章 <システム>に仕える人びと

 <システム>の抱き込みがいかに逃れようのないものであるか、その典型が労働運動、教育界の一部、
マスコミなどである。これらは、他の非独裁社会では、敵意をあからさまにはしないにしても、
既存の社会・政治権力の秩序との間で、多かれ少なかれ垣常的な緊張関係にあるのが、普通である。
日本の "飼い慣らされた" 労働組合については、すでに見てきた。学校やマスコミも、もちろん
<システム>の存続にかかわる重要な要素である。もう一つ極端な例として、犯罪分子までが
− 他の国では、権力の埒外と考えられている − <システム>に支配されている。
<システム>の抱き込み体制がいかに広範に及んでいるかを示す好例である。
 学童と、ジャーナリストと、暴力団とを一緒くたに論じるのは、意地が悪いと思われるかもしれない。
だが、現実には、日本の学校も新聞も犯罪組織も、いずれも共に<システム>に仕える高度に政治化された
存在である。真の対抗勢力の存在を容赦しない<システム>だから、重要な社会組織はなんであれ、
抱き込んでしまわなければ気がすまない。したがって、日本の管理者の主要グループを時おり
脅すほどの社会組織は、いずれ権カヒエラルキー下部の二次的構成員として組み込まれてしまう。
マスコミと、犯罪組織も特異な形態ではあるがその範疇に入る。そして、日本の学校がそのいい例だが、
比較的力の弱い社会組織は、<システム>全体の目的に完全に従わされる破目になる。

//////////////// 「日本/権力構造の謎」<上> ///


13 ◆JeacknUANQ :2010/11/22(月) 20:26:29 ID:ZduwfMzB

/// 〈システム〉に仕える人びと 2 ////////////////

    <システム>に従う教育制度

 日教組というきわめて闘争的なアンチ<システム>組織がその存在基盤を、<システム>の
人材養成に重要な役割を果たし、本質的に性質の異なる<システム>構成員同士を結束させる、
その当の教育制度に依存しているのだと言っても、皮肉には聞こえるだろうが驚くことではない。
 かねてより日教組は、あからさまに<システム>に奉仕することになるであろう道徳教育の
導入を強力にはばんできた。管理者階級の重要な成員は、日本の教育はこのために大きな欠点を
抱えていると考えているのだが、日本の教育はひそかに、そうとはわからない形で<システム>に
好意的なイデオロギーを教えているのだ。しかしもっと重要なことは、教育が、試験選抜制に
もとづくヒエラルキーの維持にほぼ完全に服従していることである。学校が、いく重にも重なり合う
さまざまなヒエラルキーの成員となる人材を集め、選別する人材選別マシーンとして機能している
のである。この選別機能は、あらゆる段階での有名校に顕著で、人材選別以外の学校の機能は
どこかに忘れ去られたと思わされるほど強調され、その結果、日本の若者の知的成長を
大いに阻んでいる。

////////////////////////// 原書1989年刊 ///

14 ◆JeacknUANQ :2010/11/23(火) 21:37:13 ID:/+aFAMDi

/// 〈システム〉に仕える人びと 3 ////////////////

        知的な芽をつむ学校

 日本の教育制度は、世界一ではないにしても世界有数の立派な制度として海外でも評判が高い。
この評判は、世界中でおこなわれる数学のテストでの日本の学童の高得点(多くの場合、最高点)に
もとづいており、また日本の経済的成功と関係があると思われているためである。日本の教育が
高い評価を得ていることは外国の教育専門家の意見にもうかがえる。彼らは、日本の学校の
水準の高さ、母親に見られる教育熱心さ、膨大な量のデータを丸ごと吸収する生徒の能力に
強い印象を受けている。
 日本の児童生徒が、国際的な筆記テストで高得点をとるのは、別に驚くべきことではない。
まさに、そのたぐいのテストのために、小学校から高校まで訓練されるのである。しかし、
そのテストが、たとえば自分で考えて結論を引き出したり、事実を抽象し、その抽象を理論的に
構成したり、自分の考えを小論文にまとめる、あるいは外国語で自分を表現する、あるいは、
単に質問する能力でもよいのだが、そういった能力を評価するテストであれば、たちまち、
日本の教育制度の欠陥がどこにあるかが露呈してしまうだろう。

////////////////////////////// 早川書房 ///


15名無しさんの主張:2010/11/24(水) 21:53:05 ID:4j5LwMOi

 民主党の鳩山由紀夫前首相は24日、国会内で開いた外交問題に関する同党議員の勉強会で
「『日米同盟』と金科玉条のように言われているが、米国が日本をどのような目で見ているのか、
真の意味での信頼関係があるのか、根源的なところが問われなければならない」と述べた。
朝鮮半島の緊張が高まる中、国内外で波紋を呼ぶ可能性がある。

 鳩山氏は「せっかく政権交代を果たしたのだから、政権交代の意義を失わせてはならない」と指摘。
新たな日米関係を模索する必要性を強調した。
勉強会ではオランダのジャーナリスト、カレル・V・ウォルフレン氏が日米関係と日本政治をめぐって講演した。

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101124/plc1011242001021-n1.htm
16 ◆JeacknUANQ :2010/11/25(木) 21:37:55 ID:wg2hPbOd

/// 〈システム〉に仕える人びと 4 ////////////////

 日本の教育の目標は、英語の education という言葉の原義 "精神の諸力を生み育てる" から
遠くかけ離れており、単に事実情報を伝えることにとどまっていると思われる。生徒に合理的に
考える能力を錬磨させるどころか、日本の教育制度はこのような目標には冷淡である。
自発的に考え、自発的に行動することは、ほぼすべての学校で組織的に抑えられてしまう。
独創性に対する許容度が低いのである。生徒は、論理的に思考したり、当を得た質問を −
いや、実際には、どんな質問もいっさい − しないよう教育される。逆に、丸暗記に重点が
おかれる。だから、日本で "成績がいい" 学生の頭の中には、膨大な量のデータが詰まっている。
(逆の仮説をするならば)もし学生がそのデータを体系化し、そこから整った人生観を
見い出せたとしても、自力でそうしなければならなかったのである。ある教育問題の専門家は
次のように言っている。教育の目的は「テクノ=メリトクラート(試験評価で選抜された
専門技術者)制に必要な、志気と技術をもった労働者階層を養成することである。
テクノ=メリトクラート社会には、厳格な身分制と細かい調整のゆきとどいた組織社会
という環境の中で、着実にその能力を発揮できる社会意識をもった個人が必要だからである」。

////////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

17 ◆JeacknUANQ :2010/11/27(土) 22:35:20 ID:NKBM/3bX

/// 〈システム〉に仕える人びと 5 ////////////////

 ある人間が<システム>の、どのヒエラルキーの、どの部署の、どのレベルに行けるかを
教育が決定づけるのは、日本に限らず大概の国で見られることだが、日本の場合、教育による
この機能は、欧米のどの国よりも、また、おそらく共産圏のどの国よりも情け容赦なく徹底的に
働いている。日本の教育制度はイギリスのパブリック・スクールや大学の卒業生のネットワークと
よく似ているが、それより何倍も拡大した規摸をもち、<システム>中の各所に散らばって、
<システム>に求心力を与えるエリート階級を形成する。

//////////////////////////// 840円(税込) ///


18 ◆JeacknUANQ :2010/11/30(火) 20:42:10 ID:pJMH2ggC

/// 〈システム〉に仕える人びと 6 ////////////////

 人材選別は教育のごく早い時期から始まるが、なぜそうなのかを理解するには、まず逆の方向、
つまり、毎年、大企業や官庁に卒業生を供給する大学の方から見ていかなければならない。
 日本の高等教育は、東大、もっと具体的に言えば、その法学部を頂点とするヒエラルキーを
形成する。東大の卒業生なら、首相の座や自民党の重要ポストを獲得するための一番の跳躍台
である大蔵省に入るチャンスが多い。東大はまた、将来の産業コングロマリットの経営者の
人材も供給する。東大とほぼ同じレベルの京大や他の旧帝大もエリート層の一部分をなす。
東大ブランドが、どれほど尊重されるかは語りつくせない。過去一世紀にわたり、東大法学部は
日本のトップ管理者のほとんどを、 "聖選" してきた。その卒業証書は実質上、日本の
支配階級へのパスポートである。

/////////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

19 ◆JeacknUANQ :2010/12/04(土) 23:27:06 ID:51OsYcCt

/// 〈システム〉に仕える人びと 7 ////////////////

 フランスの政治について詳しい人は、それがグラン・ゼコール(フランスの大学校)にも
見られる制度だと指摘するかもしれない。だが、グラン・ゼコールの場合には、一つの大学に
限られず、多数の大学がある。しかも、学生が何を専攻し、どれだけ熱心に学んだかが
ひじょうに重要である。
 ヒエラルキーの中でランクは一つ下になるが、名声があり入学も難しいのは、私立大学の
早稲田と慶応である。早稲田の名声は、多くの政治家やジャーナリストを輩出しているためであり、
慶応の方は、経済界の上層幹部を送り出していることによる。その次のヒエラルキーに、
中央、明治、上智、立教、青山、日大といった、中位ランクの大学がある。関西地方には
同志社、立命館などがある。その下には、過剰なほど多くのより小規模な地方の国・公立大学、
私立の総合大学、私立の単科大学、女子短期大学、専修学校、芸術大学や音楽大学などがあって、
それぞれに独立した無名の小さなヒエラルキーを形成する。

//////////////// 「日本/権力構造の謎」<上> ///


20 ◆JeacknUANQ :2010/12/11(土) 19:01:11 ID:9IUonDH/

/// 〈システム〉に仕える人びと 8 ////////////////

 日本では、大学教育の質が上層管理機構に昇るための基準にはならなかった。一九世紀の
最後の数十年に、政治的決定を下す特権が世襲その他の非選抜によらず試験によって選び出された
者に与えられることが確立した後、議論は、教育の質でも内容でもなく、どの権威による試験が
選抜の役を果たすべきかに集中した。日本の管理者のヒエラルキーの頂点に立つ条件を持つ
東大法学部の卒業生が、今日、在学中に学ぶことは、多くのヨーロッパの大学や質の良い
アメリカの大学の学生が卒業までに学び取らなければならないことに比べれば、かなり内容に
乏しいといえる。

////////////////////////// 原書1989年刊 ///



21 ◆JeacknUANQ :2010/12/15(水) 21:16:55 ID:uI1yc48P

/// 〈システム〉に仕える人びと 9 ////////////////

 逆に、最下位ランクの大学であっても、エリート大学より授業の質が、必ずしも劣るわけ
でもない。逆に、中位から上の大学は、どれだけ内容がお粗末でもそのランクから落とされる
ことはないし、有名大学としての評判を失うこともない。官庁も大企業も、就職試験はだれでも
受けられることになっている。しかし、実際には、慣例どおりの人数割り制に従って、新卒者が
採用される。教育界のヒエラルキーは経済界と官界のそれに対応している。中堅企業は、
東大法学部の卒業生を採用しようとは夢にも思わないであろうし、また同じ意味で、中央大学の
卒業生が経済界のトップにのし上がることはひじょうに少なく、政府の要職につくことは
ほぼ皆無といえるだろう。

/////////////////////////////////// 早川書房 ///


22 ◆JeacknUANQ :2010/12/17(金) 20:09:29 ID:aKBZD/sA

/// 〈システム〉に仕える人びと 10 ////////////////

 日本人は、つき合う相手の学歴を熟知している。筆者の知り合いのある外国人が、ガールフレンド
から、三カ月間会わないでほしいと言われたことがある。彼女の姉が東大卒の人物と見合いをして、
身上調査をされている最中だったのだ。つまり、絶好の縁談をとり逃さないためには、家族の
一人が外国人と交際しているということも含め、マイナス条件はいっさい排除されるのである。
 日本では、官・財界の "エリート・コース" とは無関係なコースに進むことになる医・工・
自然科学分野の学部を除けば、学生が大学の四年間、どんな勉強をしたかということは、
ほとんど問題にされない。法学部、経済学部、商学部では、もっぱらそれぞれの分野で
管理行政的側面から、学者がどう言っているかを教えるだけに終始し、単に<システム>の
より高いレベルに参入するために好まれる学部でしかない。

////////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///


23 ◆JeacknUANQ :2010/12/20(月) 22:26:48 ID:J/QMF0Sl

/// 〈システム〉に仕える人びと 11 ////////////////

筆者は早稲田大学で四年間教えたことがあるが、その時に知ったのは、学内の最上位にランク
されている政経学部でも、学生はほとんど何も勉強しないということだ。専門分野の本 −
それも特別よく知られてもいない本のことが多いのだが − を数冊読むだけだし、たいてい、
読んだこともわずかしか頭に残ってないようだった。それでも学生が授業に出席するかぎり、
通常は、単位を与えるようにと大学側から指示された。
 卒業は、ほとんど自動的なものだ。ほかよりよく勉強した学生は、官庁や一流企業に入る
チャンスが増える。だが、有名大学で四年間なにもしなかった学生の方が、能力はあるが
ランクが下の大学を出た者よりは、つねに、上位ランクの就職先を見つけられるのである。
たいていの学生にとって、大学は、厳格な組織に組み込まれる企業に入る前の、つかのまの、
息抜きの場にすぎない。

//////////////////////////// 840円(税込) ///


24 ◆JeacknUANQ :2010/12/22(水) 20:40:27 ID:sOhq3Eaf

/// 〈システム〉に仕える人びと 12 ////////////////

        人生をかけた詰め込み学習

 多くの日本人が、 "いい大学" に入った学生は "のんびり" してもいいと考えているのだが、
ある意味では、これは正しいといえる。そのような大学に入るには、極度に神経をすり減らす
準備が必要だからだ。時には金や親のコネがものをいう − 特に私立医大や歯科大に入るには
− こともあるが、たいがいの場合、定員の一〇倍、二〇倍、あるいは、それ以上いる
競争相手に勝つために、志を抱いた若者が努力するしかない。そのための最短距離は、
これまで合格者をたくさん出したと定評のある高校に入ることだ。事実、日本の高校は、
大学の合格率を基準にしてランクづけされている。全国にある五四五三の高校の中の
わずか三校から、東大合格者の約一割が出る。

/////////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///


25 ◆JeacknUANQ :2010/12/25(土) 21:06:03 ID:FvVNqq2p

/// 〈システム〉に仕える人びと 13 ////////////////

 大学受験の合格率で学校の品定めをするのは、日本中の人の楽しみのひとつとさえいえるかも
しれないが、平均より上とみなされている高校では、学生は受験勉強に時間の大半を費やす
ことになる。いわゆる有名校なら、入試問題(べーバーテストがほとんど)の傾向に対する
研究は万全だし、また、入試問題を作る側の大学教師も、正解をかなり恣意的に決めることが
多いから、このような高校では、学科をきちんと教えるよりも出題者の意図が読める達人を
つくる訓練に力が注がれる。
 英語を例にとれば、受験生は、実用的な英語力にはあまり自信のない教授がつくる、多項目
選択肢問題の試験に合格するように勉強する。こうした試験には、あいまいでまぎらわしい
問題や、明らかな文法的な誤りが含まれていることも多い。英語は、数学、国語とならんで、
大学入試の三大主要科目の一つとされていて、生徒は大学教育まで含めると一〇年間にわたって
英語を学ぶが、わずかな例外を除き、英語で意思の疎通ができるところまではいかないのである。

//////////////// 「日本/権力構造の謎」<上> ///

26 ◆JeacknUANQ :2010/12/28(火) 23:04:35 ID:IbsZJsOK

/// 〈システム〉に仕える人びと 14 ////////////////

 数学や物理は筆記試験向きであるから、学校の授業では数学で合格点がとれるようにと
努力する。一方、歴史やその他社会科学系の科目については、ある専門家がいみじくも
言ったように「クイズ・マニアのかわりに、学者がつくった瑣末な事実の記憶コンテスト
以外のなにものでもない」ようだ。
 入学試験がただごとでなくなるにつれて、学校の正規の授業時間の後に開かれる "塾"
という一大下請け民間産業が繁栄することとなった。塾も、入学試験の合格率によって
ランクづけされている。名門大学の入試に失敗した学生の多くは、時として三年も四年も
続けて再挑戦し、その間、浪人生は塾や予備校に通う。そして、塾も予備校も、膨大な
数の学生を受け入れるため、どんどん増えている。予備校の教え方には、秘伝伝授的な
ところがある。授業は、公表された過去の入試問題の詳細検討、分析、解説と、まるで
新しく発見された古代中国の文献を古典学者が扱うようにして、進められていく。一部の
プロの予備校講師は、ラスベガスのギャンブルで必勝法を教えて金をもらう "賭の理論家"
さながらに、客である学生用の確率理論を案出したりもする。

////////////////////////// 原書1989年刊 ///

27 ◆JeacknUANQ :2011/01/01(土) 19:32:30 ID:n28vN6zI

/// 〈システム〉に仕える人びと 15 ////////////////

 さて、名門高校に首尾よく入るには、名門中学に行くことがほとんど絶対条件である。
<システム>内の上級コースに賭けると親が決めた子供たちは、二つ、三つ、あるいは四つと
違う中学をかけもち受験する。そして、有名高校への進学率がもっとも高い中学校に入る
ためには、しかるべき小学校に行くことがまた重要になる。小学校の評判は、逆に、その
小学校からランクが高い中学や高校への合格率で決められるのだ。有名小学校の入試用の
練習問題集まで市販されている。しかし実のところ、選択は、もっと幼い時期から
始まっていることも多いのである。

////////////////////////////// 早川書房 ///


28 ◆JeacknUANQ :2011/01/04(火) 21:02:40 ID:XuPlXSoR

/// 〈システム〉に仕える人びと 16 ////////////////

        ゆりかごから官庁まで

 小学校から大学まで、比較的楽をして行きたければ、大学付属の高校、中学校、小学校、
また時には幼稚園までついている、金のかかる私立学校に進む手がある。いったん、この
コースに乗れば、上にあがる各段階の試験はほとんど形式的なものとなる。このエスカレーター校に
入る一番の早道は、上位校につながる幼稚園に入ることである。という次第で、入園に際して
極端に多額の金がいる有名幼稚園がいくつかあり、実際に、独自の入園テストをおこなっている。
幼稚園あるいは小学校レベルからはじまって、エスカレーターの一番上に大学まである有名学校には、
慶応、学習院、成城学園、青山学院などがある。こうした幼稚園の入園テストでは、目撃した
人の話によると、ひらがなを読んだり、ブロックを組み立てる能力などが試されるということだ。

////////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

29まるたん・ゆ・あーる改:2011/01/06(木) 19:06:42 ID:2YtnHaFz
ウォルフレンのあとをつぐ、偉大な日本分析者がいない。
30名無しさんの主張:2011/01/07(金) 02:06:46 ID:uF23v91A
666 :まるたん・ゆ・あーる改:2010/12/14(火) 02:44:05 ID:xyJA7Kyy0
これから、未来、
たくさんの人が失業し、再就職ができない、という状況が生まれてくる。
外国の安い労働力に仕事を奪われ、日本人のなかには、かなり苦しい生活を
強いられる人たちもめずらしくなくなる。
お金は本当に貯めておくべきだよ。

673 :まるたん・ゆ・あーる改:2010/12/20(月) 20:27:15 ID:vZcQB01A0
今日のニュースだが、外国人留学生を企業が求めるようになっているんだそうな。


674 :名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/22(水) 22:51:15 ID:vm24WcAu0
まるたん・ゆ・あーる改は日本人か?



676 :まるたん・ゆ・あーる改:2010/12/24(金) 05:06:36 ID:DZsaREhL0
>>674
あたりまえだ。



677 :名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/25(土) 03:40:23 ID:48CAG0CB0
まるたん・ゆ・あーる改なんて名前で日本人とはな。


31 ◆JeacknUANQ :2011/01/07(金) 20:21:51 ID:Ua5Php2i

/// 〈システム〉に仕える人びと 17 ////////////////

ある例では、お定まりのテストのここぞという時に、幼い子供に紙に包んだアメが渡された。
関係者の視線がいっせいにその子に注がれる。彼は、アメの包み紙をきれいにたたむか、
ぽいと床にすてるか、テストされていたのである。
 しかし、ほんとうの出発点はさらに幼い時にある。幼稚園の入試に成功するよう、三歳児に
家庭教師をつける母親までいるのだ。東京のある有名幼稚園に入るには、幼児用の塾で特訓を
受けるのが普通だ。しかるべき幼稚園に子供を入れるという目的だけのために東京に引っ越してくる
親の話も、よくきく。幼稚園の入園保証つきの出産広告を出した産院さえあらわれた。

////////////////////////////// 840円(税込) ///

32 ◆JeacknUANQ :2011/01/10(月) 20:37:52 ID:j7G7R4H+

/// 〈システム〉に仕える人びと 18 ////////////////

 女の子も、官庁入りを目指すのなら男の子と同じコースで競争できる。だが、野心のある
両親をもつ女の子の大半は、平行する別のコース、つまり私立女子大学ヒエラルキーの中に
送られることとなる。この道は良縁を願う母親のためだけでなく、一流の花嫁を自社の
従業員にと探し求める会社の採用係にとっても重要である。また、製造業で働く質の高い
工場労働者を供給するための、ブルーカラー版高校ヒエラルキーもある。

///////////////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

33 ◆JeacknUANQ :2011/01/13(木) 20:53:05 ID:4qoOG1Qm

/// 〈システム〉に仕える人びと 19 ////////////////

        "試験地獄"

 教育制度は、<システム>の中でももっとも批判される要素である。元通産審議官天谷直弘は、
「わが国の現在の教育システムは、出来のよくないロボットしか作り出せないようだ」と述べている。
また、日本の教育が作り出すのは芸を仕込まれたアシカだ、と日本のもっとも多才な評論家の一人、
加藤周一は言う。 "受験地獄" と、それが生みだした "教育ママ" は、つねに非難の的になる。
"教育ママ"は、教育の全段階でわが子を押し上げるのに懸命なあまり、子供からあたりまえの
生活をとりあげてしまっている。日本では、子供の成績の良し悪しは主に母親の責任とされるので、
わが子の入試の成否は近所づきあいでも彼女の地位に大きく影響することになる。受験生をもつ
家では、家族全員の運命がその子に託されたかのように気をつかい、試験日が近づくとみな息を
殺して生活する。入試に失敗すれば心理的な荒廃がおとずれることにもなる。それも、受験生
本人だけではない。子供に強いられる人間ばなれした努力、そしてそれに伴って家族の間に広がる
緊張感が、今や、日本の中産階級の家庭でくりひろげられる主要なドラマになっている。

//////////////// 「日本/権力構造の謎」<上> ///


34名無しさんの主張:2011/01/14(金) 15:10:22 ID:ZnEBUsdJ
カレルにはB2ランクをあげる
ガイジンにしてはよく見てる
35 ◆JeacknUANQ :2011/01/17(月) 20:13:04 ID:yurCcI1Y

/// 〈システム〉に仕える人びと 20 ////////////////

 子供たちが真剣にとりくむとなると、ただひたすら入試に向けて勉強するために遊びも、趣味も、
スポーツも、友達とのつき合いも、全部あきらめさせられる。それも、入試前の二年間ほぼずっと
である。学校と塾から戻れば、さらに深夜まで詰め込み勉強がある。ある塾は、一二歳の子供を
対象に、土曜の夜九時から日曜の朝六時までの詰め込み授業をおこなっている。一部の子供は
軍隊さながらの肉体耐久鍛練に参加させられる。一四歳で午前一時にまだ勉強机に向かっているのも、
別にめずらしくはない。数時間、詰め込み学習をした後は、もうほとんどなにも頭に入らない
ことなど問題ではなく、彼らとしては、熱心にやっている、そして、忍耐力で頑張っている
ところを見せることが重要なのである。

////////////////////////// 原書1989年刊 ///


36名無しさんの主張:2011/01/18(火) 11:42:40 ID:???
いかにもな詰め込み批判だな
日本人よりオランダ人のほうが実のある教育を受けているとも思えない

日本の左翼から情報もらってる感じ
37 ◆JeacknUANQ :2011/01/20(木) 21:34:07 ID:baYyt4Hu

/// 〈システム〉に仕える人びと 21 ////////////////

 このような試験による選抜システムがうまくいくのはひとえに、日本の子供たちが我慢して
耐えるからであろう。また、子供たちがこれほどまで親のいうなりになるのは、日本の子供と
母親の関係がわからなければ理解できない。日本の典型的な子育てでは、世の中はどう機能
するかという普遍的な成り立ちを教えるのではなく、子供の気持ちを操作することによって、
何が正しいおこないなのかを、教えることが多い。したがって、たいていの場合、子供は、
母親の顔色を見て善悪を見分けるようになる。つまり、教育ママは自分の子供に強い罪の
意識をうえつけることもできるので、それを彼女は、子供の勉強に拍車をかける手段に
使うわけである。
 入試の悩みや失敗が原因と思われる自殺が新聞などで大きく取り上げられ、学齢期の子供の
死の主因が受験地獄であるかのような印象を与えるが、実際は、そうではない。しかし、
子供の人格形成上に与えるゆがみ、親子関係のトラブルなどが、慢性的な試験不安によって
悪化することはたしかだ。

////////////////////////////// 早川書房 ///

38名無しさんの主張:2011/01/22(土) 15:43:05 ID:???
オランダ人の「自由な」発想と「進んだ」放任主義の教育のおかげで
現在の移民に汚染され乗っ取られたオランダの現実があるw
39名無しさんの主張:2011/01/22(土) 18:35:29 ID:???
>>38
ゆとり教育のお陰で「対馬があぶなーい!!」
by山谷えり子
40 ◆JeacknUANQ :2011/01/22(土) 19:41:57 ID:u8kAWNdg

/// 〈システム〉に仕える人びと 22 ////////////////

 日本人のほとんど全員が受験制度は過酷であり、廃止すべきだということに同意しているし、
同時にほとんどの人が、今後も選別方式を変えるなんの手も打たれないであろうことも知っている。
つまるところ、この制度は<システム>の意向にもののみごとに合致しているわけだ。頭の中に
詰め込まれた膨大な量のデータが、ほとんどなんの役にも立たず、学生たちが(英語の場合
のように)正しく学び直すのも難しい間違った癖を身につけてしまったとしても、選抜されて
トップまで行くような人は非常に粘り強いし、きわめて記憶力が良いことであろう。官界と
経済界が高く評価するのは、創造性よりも、持続性、献身的な態度、そして記憶力である。

///////////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///


41名無しさんの主張:2011/01/22(土) 23:50:51 ID:???
じゅけんせいどははいしすべきなんだー、ふーん
42名無しさんの主張:2011/01/23(日) 00:49:47 ID:???
★良書悪書 人材を劣化させる「就活断層」 - 『くたばれ!就職氷河期』 1
 池田信夫/アゴラ 2011年01月22日13時58分

くたばれ!就職氷河期 就活格差を乗り越えろ (角川SSC新書)
著者:常見 陽平 角川SSコミュニケーションズ(2010-09-10)
販売元:Amazon.co.jp ★★★★☆

就活に走り回る学生には、日本の労働市場のゆがみが集中的にしわ寄せされている。特に
「リクナビ」などの就職サイトが就活を大きく変えた。会社回りには物理的な限界があるが、
サイトから応募するのは簡単なので、学生は手当たり次第に有名企業に応募する。その結果、
人気企業のエントリー数は5万人以上になり、会社説明会も数千人規模になり、応募のハードルを
上げるためにエントリーシートは複雑で膨大になる。

しかし大手企業は、実際には「20校リスト」と呼ばれる有名大学(旧帝大〜MARCH)からしか
採用したくない。本書によれば、都内の私大生がある金融機関のセミナーを予約しようとしたら
すべて満席なので、不審に思って別名のアカウントをつくり、所属を「東大」にしたらすべての
セミナーに空きができたという。激増する応募を「足切り」するために、学歴差別がソフトウェア
によって自動化されているのだ。

つまり学生は有名企業に集中する一方、企業は有名大学に集中し、それ以外の学生にも企業にも
チャンスがない就活断層が拡大している、と著者は指摘する。就職サイトで見かけ上の募集範囲が
広がったため、もともと大手企業には絶対に入れない学生が大量に応募し、リクルート活動に
エネルギーを浪費する。他方、掲載料が数百万円もするリクナビにPRを掲載できない中小企業は
学生を採用できない。
43名無しさんの主張:2011/01/23(日) 00:50:58 ID:???
★良書悪書 人材を劣化させる「就活断層」 - 『くたばれ!就職氷河期』 2

これに対して政府や財界が「卒業後3年間は新卒扱いにしよう」とか「会社説明会は4年生の8月
からに自粛しよう」などと呼びかけても意味がない。こういう横並びの採用が行なわれるのは、
長期雇用によって人材が企業にロックインされるため、中途採用では優秀な人材が採れないからだ。
このような硬直的な労働市場を生み出しているのは、労働者を企業にしばりつける退出障壁である。

長期雇用の保障されている大企業では、幹部になれる人材は会社に残るので、転職するのは
昇進の見込みのない二流の人材だと見られる。したがって企業は、中途採用で手垢のついた
二流の人材を採るより新卒でピカピカの人材を採って社内で教育したほうがいい。この教育コストを
回収するには長期雇用が必要だから年功賃金や年金・退職金などによって退出障壁を高める
・・・という悪循環になっているのだ。

この構造は、私がサラリーマンだったころからまったく変わっていないどころか、就職サイトで
悪化している面もある。企業の人事担当者は、口先では「尖った人材」や「肉食系のガッツの
ある若者」がほしいなどというが、実際に採用するときは4億円(生涯賃金)の固定費になる
ことを考えると、汎用サラリーマンとして使い回せる有名大学の無難な人材になってしまう。

就活断層は求人と求職のミスマッチを拡大し、若者の就職機会を奪うと同時に企業の人材を
劣化させている。これは日本の企業システムに起因する問題なので、規制改革によって簡単に
解決できるとは思えないが、少なくとも政府が退出障壁を高くするような制度はやめ、企業年金を
ポータブルにして退職金や付加給付に課税するするなど、雇用慣行に中立な制度にすべきだ。

なお著者(常見陽平氏)には、2月2日のアゴラ就職セミナーで就活断層の実態をくわしく
話していただく予定である。

http://news.livedoor.com/article/detail/5288090/
44名無しさんの主張:2011/01/23(日) 01:10:52 ID:???
池田信夫さんは専用ウォッチスレがいくつもありますよ。
45 ◆JeacknUANQ :2011/01/24(月) 22:03:20 ID:sckExaKz

/// 〈システム〉に仕える人びと 23 ///////////////////

 ところで、日本の教育に対するこうした見方は、ま新しいものではない。日本最初の外国人
教師の一人、アメリカ人宣教師ウィリアム・グリフィスは、なんと一八七四年に日本の教師に
ついてこう書いているのだ。「彼らの第一の仕事は、とにかく生徒の頭の中にしゃにむに知識を
詰め込むことであった。少年の精神力を豊かにし高め、知的なものの見方を広げ、自分で
考えるよう教えたりしたのでは、教師の仕事に反するのだ」
 この学校制度を通して、日本の管理者階級の出身家庭は高度に均質化される。理論的には
出世の階段はすべての者に開かれているのだが、貧しい家庭は、子供を授業料の高い私立校に
行かせることもできないし、一流国立教育機関へ入れるための準備ができる家庭環境を
整えることはまず無理である。

//////////////////////////////// 840円(税込) ///


46 ◆JeacknUANQ :2011/01/26(水) 21:54:55 ID://6SKK2K

/// 〈システム〉に仕える人びと 24 ///////////////////

このようにして、あらかじめ憤重に選別された日本企業の "メンバー" は<システム>の他の
部分でしかるべき地位を占めているから、自社にとって役に立ちそうな昔の同窓生との
つきあいを大切にする。契約や法律外でこうして保たれる日本の企業および官界の人脈は、
細かくはりめぐらされたネットワークとなり、<システム>の神経系統の役割を果たす。
この情報ネットワークのおかげで、重要な情報は、<システム>内の各部にちらばる関係者全員に
文字どおり分単位で伝達される。このネットワークはまた、<システム>の構成員間の衝突をも
緩和するのに役立つ。産業コングロマリット内では、多くの場合、経営陣の出身校別の
私的なグループができ、さらにコミュニケーションが深められる。

////////////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

47 ◆JeacknUANQ :2011/01/28(金) 20:53:16 ID:AP6+GZPO

/// 〈システム〉に仕える人びと 25 //////////////////

        創造性の欠如

 多項目選択肢問題テストの達人を作り出すことに主眼をおく教育制度からは、独創的な
考えを持つ者は選び出されない。知的好奇心は既成の秩序や慣行をおびやかす恐れがあるから、
積極的におさえられるのだ。このため日本の教育環境は、創造的な考えには冷たい。だが、
ここ数年、産業界と官界の一部から、このような日本人の創造性の貧困を問題にする声が
あがりはじめている。一九八七年に、アメリカ在住の日本人利根川進博士が医学部門で
ノーベル賞を授与された時、多くの新聞が指摘したのは、何十年間か海外で学び海外の研究所で
仕事をするという刺激がなかったら、受賞できなかったであろうということだ。日本の大学
にいる科学者は、有能な研究者を下積みの地位にしばりつける極端に硬直した学界ヒエラルキーと、
文部官僚の過度の規制とに妨げられて思うように研究もできないのである。

////////////////// 「日本/権力構造の謎」<上> ///

48 ◆JeacknUANQ :2011/01/30(日) 22:58:03 ID:j3lMJB0E

/// 〈システム〉に仕える人びと 26 ////////////////

 戦後の三〇年間は、創造性の問題もそれほど心配にはならなかった。それというのも基本的な
発明の多くがすでに公開されており、技術も安く買えた。しかし、日本の産業が、前人未踏の
分野に踏み込みはじめ、外国の特許が以前ほど簡単には入手できなくなるにつれ、日本にも
発明者が必要になってきたのである。これに対する懸念は、通産省の定例報告書で創造力問題が
必ず取り上げられることや、いわゆる第五世代コンピューターの研究プロジェクトで開発に
携わる非常に若い研究者が、創造性が発揮できるようにとの配慮から、欧米人のように
くつろいで仕事をするよう勧められることに表われている。

//////////////////////////////// 原書1989年刊 ///


49 ◆JeacknUANQ :2011/02/02(水) 21:24:11 ID:KR5gG77P

/// 〈システム〉に仕える人びと 27 ////////////////

 一九八五年の夏、当時の中曾根首相によって設置された、教育学者、学識経験者、財界人が
構成する臨時教育審議会は、教育制度全体への批判以外のなにものでもない第一次答申を発表した。
報告書によると、日本の教育が作ってきたのは、明確な個性を持たず、まともに考えることも
できず、自分で判断もできないといった特徴をもった、型に嵌まった人間であった。報告書は
創造性の障壁になるものについても言及している。要約すれば、報告書は、リベラル派知識層が
長年訴えつづけてきた不満の多くをとりまとめたものであった。とはいえ、報告書に盛られた
対策は、文部省代表と自民党内の教育改革派など、あまりリベラルでない審議会メンバーの
意見を色濃く反映していた。(このことから、女性による民間教育審議会が、親たちの真の
希望を無視していると中曾根審議会を非難し、独自の報告書を発表した)。一九八六年および
八七年に発表された第二、第三の臨教審答申は一段と逆行が進み、個性的な考えの人間を
教育する必要性を無視する後退した印象になっている。

///////////////////////////////////// 早川書房 ///

50 ◆JeacknUANQ :2011/02/05(土) 20:30:39 ID:g8jB0Akv

/// 〈システム〉に仕える人びと 28 ////////////////

        "質の高い労働者" の養成

 財界のトップが、創造性の欠如について不満を述べるのはよいが、日本の学校が今日のように
なった責任のかなりの部分は、彼らがとるべきだろう。一九六〇年代初めに、経済団体の代表
(経済審議会)が経済発展に最適な状況をつくるため、国の教育制度を一部手直し、学校を
「高い技術をもった高質の労働者を養成する訓練所」にする必要性を「経済発展における
人的能力開発の課題と対策」として提言している。その二年後には、日経連の教育特別委員会が、
高等学校の役割についてさらに具体的な提言をすることとなった。これに続いて、他の
主要経済団体もそれぞれの提言をおこない、やがてこれらは、政府の中央教育審議会の
基本答申に組み込まれた。答申にもられた提案はその後、各種の委員会の具体的計画に、
もり込まれ、七〇年代に文部省が改定したカリキュラムに徐々に反映されていった。

////////////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

51 ◆JeacknUANQ :2011/02/12(土) 19:38:37 ID:gLiUlwJ0

/// 〈システム〉に仕える人びと 29 //////////////////

 このようなカリキュラム改定の結果、教師の推定を総合した統計によれば、小学校児童の三割、
中学生の五割、高校生の七割が授業について行けなくなっている。公立校では理解の遅い
子供のために授業のペースを落とすことはできない。というのも学童の約九割が公立の学校に
通っており、そこでは全体のカリキュラム構成も、進度も、文部省によって決められて
いるからである。
 産業界の提言にもとづいて立案された教育計画の一環として、教育当局は、どの上級学校へ
進学させるかの進路指導にあたって、すべての生徒を成績によって五段階に分けた。
八○年代になると、偏差値の子供への圧力はさらに増大した。

//////////////////////////////// 840円(税込) ///


52名無しさんの主張:2011/02/16(水) 15:37:19 ID:yqERyXc1
偉大なる人間のもとへは、黙っていても、若者が集まってくるものだ。
ダメオヤジたちはそれがわからない。
なぜなら、自分たちのところへ若者があつまってきたことがないのだから。

私は天才以外の者が偉そうにするのを許せない。
私は、天才という存在に憧れている。
哀れな権威主義なのかもしれない。
しかし、天才というものが存在するのも事実だ。
それは美男美女のごとく、天才はいる。
凡才が偉そうにしていると、なにをおまえごときが!
レベル低いくせに! 歳だけとって何にもできていないじゃねーか!
ザコだ、おまえは!
と思わずにはいられない。心のどこかで、無名人を見下している。
天才だけに学ぶ、天才崇拝の思想を、君たちも持つべきだろう。
53名無しさんの主張:2011/02/16(水) 19:34:56 ID:yqERyXc1
草食系男子のように、女性に対して積極的になれない男性が増えている。
その理由は、たとえば、メディアなどでイケメンをみなれたことにより、
男性の容姿を小ばかにする女性が増え、容姿にコンプレックスを持つ男性が増えたこと。
経済が低迷するなか、資産をもたず、収入もない男性が、女性に対してコンプレックスをもつ
ようになっていること。
さらには、女性のほうが恋愛の達人であり、性的な面から、女性相手にひるんでしまい、
逃げ腰になってしまうこと、などがあげられると思う。
女性を恐がらず、女性と交際をさせ、そして、女性と結婚させられるようにすることでしか、
日本の未来は開けないと思う。
女性恐怖を克服させるには、どうすればいいか?
54名無しさんの主張:2011/02/17(木) 02:08:56 ID:sBSCDPTW
マスコミにとって一番コントロールしにくい存在は、
自信と知識をもった若者である。
逆にコントロールしやすいのは、無能なオッサンオバサンと、無教養な若者である。
知性ある若者は本を信じ、知性なきオッサンは映像の影響を受けやすい。
活字派の若者は「みやぶる」ことが得意だ。

子どもたちの人をみる目は厳しい。
中途半端な大人は評価しない。スポーツなら金メダリストしか尊敬しない。
銀メダリストは敗北者だと思っている。
子どもは残酷。ヒューマニティがない。辛口批評家だ。
55名無しさんの主張:2011/02/17(木) 22:53:15 ID:???
二位はビリの代表らしいね。
本を書く人が一番で読む人二番。
若者も敗北者の知性らしいね。
56名無しさんの主張:2011/02/19(土) 06:11:10 ID:CRQ1Pkn3
セレブという世界に憧れる。
底辺のリーマン、ビデオ店の店員、派遣社員、セールスマン、ロック歌手、プログラマー、
アニメーター、B級タレント、トランペッターなどには社会の仕組みはわからない。
それがわかるような鋭さがあれば、セレブになっているからだ。

社会経験は大して役にたたない。
経験ではなく、洞察力の問題である。

けっきょく、大人も子供も、その知識の大半は、メディアから得たもの。
自分で見てきたものなんて、ほとんどない。
おれのジイサンも、富山の山奥からほとんど出たことがない生活を
送ってた農業人だったが、
芸能界や政治の裏側にものすごく詳しかった。
57名無しさんの主張:2011/02/19(土) 14:27:47 ID:???
>本を書く人が一番で読む人二番

釣り?
58 ◆JeacknUANQ :2011/02/20(日) 23:20:51.66 ID:pUHvYIwD

/// 〈システム〉に仕える人びと 30 ////////////////

 日本の学校では、ふつう、ほとんどの生徒が自動的に進級し、卒業する。だが、この教育制度が
好む "優れた記憶力" のない子供の大半は、一二歳になる頃には自分が社会階層の中か下で一生
過ごさなければならないことに気づく。中・高生の暴力や青少年犯罪がますます顕著になるのは、
このやりきれなさが直接の原因だというのが、日教組の見方である。学校の荒廃をさらに悪化
させているのは、通常、一学級の生徒数が四〇人から五〇人に達する大人数であることだろう。
こんなに大勢の生徒がいては、生徒の一人一人に教師が個人的に接することはほとんど不可能だ。
その反面、生徒のランクづけ制度の導入によって、教師が生徒を間接的に支配する力は
増したのである。

////////////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

59名無しさんの主張:2011/02/23(水) 23:16:25.02 ID:rPYfqNcj
セレブという生き方にひたすらあこがれる。
現代において、セレブでない人生など、
いったい、何の価値があるのだろうか?
財力で、人生を満喫する。
それがセレブという人生。
セレブでなければ、意味がなさすぎる。
私はかならずセレブになる!
60名無しさんの主張:2011/02/27(日) 17:26:52.50 ID:0rpaP5N9
日本では無理
61 ◆JeacknUANQ :2011/02/27(日) 22:08:39.01 ID:mGcBrZLc

/// 早川書房 ////////////////////////

 カレル・ヴァン・ウォルフレン(Karel Van Wolferen) (著)、篠原 勝 (翻訳)、
 原著1989年発行、邦訳 早川書房1990年発行
 「日本/権力構造の謎」 The Enigma of Japanese Power
 日本 権力構造の謎〈上〉 ハヤカワ文庫NF、840円(税込)、ISBN: 4150501777

http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi?W-NIPS=9940226551
http://www.7andy.jp/books/detail?accd=18988933
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4150501777/qid=1104753738
http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/40b9c78bede2b01032ee?aid=&bibid=01055138&volno=0000
http://books.rakuten.co.jp/RBOOKS/0000650744/

///////////////////// 絶賛発売中!///

62 ◆JeacknUANQ :2011/03/01(火) 21:03:06.57 ID:2GgEq28D

/// 〈システム〉に仕える人びと 31 ///////////////////

        厳しい校則で激増する校内暴カ

 一九八○年代前半には、校内暴力に関連して、一般の人々も今の教育制度の欠陥をいやと
いうほど思い知らされることになった。一九八三年の数カ月間、新聞には生徒に襲われた教師の
記事があふれた。卒業式の後、復警だといって教え子に待ち伏せされ、襲われた教師もいる。
給食やハサミを顔に投げつけられた教師もいる。日本の学校は極端に世論を気にし、校内の
不祥事はたいてい外にはもらさないため、警察や新聞社の耳に届いた事件は、氷山の一角に
すぎないだろう。さて、一九八五年になって、もっと深刻な問題が表面化した。集団で弱い者を
いじめたり、からかったりする大がかりな "いじめ" 現象が、日本中のあちこちの学校で起こっている
というのだ。警察庁と法務省も、この問題について報告書を出し、つづいて文都省も、同省
はじまって以来の暴力事件の調査を四万校の小・中学校で実施することになった。日教組の
全国大会で判ったことだが、組合員教師の約半分が学校の秩序維持には、時には体罰も必要だと
考えている。ある弁護士グルーブが調べた九八五校の大半で、生徒がほとんど毎日のように
教師に殴られたり蹴られたりしているという。こうした処罰の方法は、 "いじめ" と密接に
関係があると見られる。

/////////////////////// 「日本/権力構造の謎」<上> ///

63名無しさんの主張:2011/03/03(木) 15:39:44.63 ID:nPTAF9bU
最近は自衛隊のいじめ自殺が問題になっているが。
64 ◆JeacknUANQ :2011/03/05(土) 20:58:28.59 ID:7ZBGOhTI

/// 〈システム〉に仕える人びと 32 ////////////////

 ここで旗色を鮮明にしようとばかりに、朝日新聞がいくつかの実例を社説で取り上げた。
その一つは、ある中学教師が、喫煙しているのが見つかった女生徒の家に行き、その子に
包丁で切腹して死ねばよいと言ったあと、床に土下座して謝るその子の頭を蹴ったという
事件である。新聞で報道されるよりもっと多くの事件が、調査によって明るみに出たことからも、
学校での体罰は日常化していると、この社説は結論した。当局の調査が明らかにしたのは、
他の子供とどこか違う子を、先頭に立って集団で制裁する教師が多いことや、不文律に違反した
生徒を除け者にするのにも教師がしばしば同意を与えていたということである。周囲に自分を
合わせることは日本の社会では高く評価されるが、 "いじめ" が同調を強いる目的でおこなわれる
のは許されない、と結論で述べている。前述の臨教審リベラル派メンバーは、新聞社代表との
会談で、この問題は日本社会全体の秩序の乱れを反映しているとまで言いきった。軽い(時として、
それほど軽くない)形の威嚇は、社会における権力のヒエラルキーを維持するのに役立つと
考えていることは、ふだんはおくびにも出さない彼らなのだが、思わず本音を吐いてしまったようだ。
生徒にけしかけて弱い者いじめをさせる教師は、まさしく<システム>がいかに機能するかを
示す一つの範例といえる。

//////////////////////////////// 原書1989年刊 ///

65 ◆JeacknUANQ :2011/03/09(水) 21:08:34.93 ID:9dM3C1cu

/// 〈システム〉に仕える人びと 33 ////////////////

        規則の大量生産

 いじめ問題は、各新聞にセンセーショナルな記事と怒りの社説を書く機会を与えた。しかし、
この問題には、はるかに重要な意味がこめられているのである。これはいわば象徴的な問題で、
深く道徳がかかわっている。すなわち、二つの陣営が支配権をめぐってしのぎを削る闘いを
くり広げており、勝者のやり方で若い世代を<システム>に適応させようというものであった。
 この種の問題はどれも、戦前の教育慣行の復活に有利な土壌づくりを目指す、しつけ重視の
文部省と、教育問題に熱心な自民党内のグループを、ある程度、利するものである。これに
反対する陣営には活動家教師、問題を憂慮する知識人と親たちがいる。管理者の考えでは、
米占領軍当局が国粋主義的な教育を一掃して以来、しかるべき "道徳" 教育の不在が、今の
教育制度の最大の問題だとする。政府の見解は、中曾根元首相の発言にあるように、この問題の
大もとは各家庭と社会全般に規律がないためだとしている。

////////////////////////////// 早川書房 ///

66 ◆JeacknUANQ :2011/03/13(日) 17:04:47.97 ID:Q/Hxodb5

/// 〈システム〉に仕える人びと 34 ///////////////

 一方、日弁連(日本弁護士連合会)は、本当の問題は校則が厳しすぎるためだと反対の結論を
出している。公立中学や高校で増える校内暴力について、日教組はその原因を、ついていけない
授業や、生徒をランクづけする制度にあるとしているが、管理主義をさらに強化することによって
対処しようとする学校が多くなっている。校則は、一九七〇年代末頃から急激に増えはじめた
もので、馬鹿げた制限が多い。
 日弁連は、子供の人権の重大な侵害が広範に見られるという結論の報告書をまとめた。
日弁連が調べた大半の学校で、生徒の座り方、立ち方、歩き方、そして、手を上げる時の角度や
高さまでこと細かに規定した校則が適用されている。下校路を指定している学校も多い。
級友と道で会話を交わすのを禁じている学校もあれば、給食のおかずを食べる順番を決めている
学校まである。このような校則は、自宅でも休暇中でも適用される。原則として、夕方六時以降は
外出禁止で、起床時間も定められている。日曜日も例外ではない。読んでよいのは学校の
選んだ図書に限られ、見てよいテレビ番組を決めるのは、親ではなく学校である。
休暇中の家族旅行にも、許可が必要な学校もある。

/////////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///


67名無しさんの主張:2011/03/13(日) 20:40:35.53 ID:???
>>65-66
もしかして小泉がウォルフレンがよしとするリベラルな教育を実現されてくれるんじゃないか、とwktkして
華麗に裏切られた国民も決して少なくはないんじゃないかな…
68 ◆JeacknUANQ :2011/03/14(月) 20:39:46.93 ID:jmza8Ke5

/// 〈システム〉に仕える人びと 35 ////////////////

 このスパルタ教育の学校の生徒全員が、常時制服着用が義務付けられているのは、いうまでもない。
そのほか、髪型も同じでないといけない。生まれつき巻き毛か、髪の色が黒くない女子生徒は、
学期が始まる時点で、それが生まれつきである旨、母親の証明書を提出しておいたほうがよい。
バーマをかけたり髪を染めることは厳重な処罰の対象となるからだ。
 規則が多ければ非行が減るという考え方にもとづいて、これだけ多くの校則がつくられたのは明らかだ。
だが、これは少なくとも部分的には誤算だった。日弁連も日教組も、無意味な校則は、生徒同士
あるいは生徒の教師に対する暴力事件と直接的な関係があると見ている。校則を強化し、 "生産的" な
社会人の必要性を説くやりくちは、明治時代への逆戻りといえよう。あの時代にも、一般教養教育を
受ける権利を求めるリベラルな思想に対して、同様の反動が起こったからだ。

///////////////////////////////// 840円(税込) ///

69 ◆JeacknUANQ :2011/03/15(火) 20:56:16.51 ID:FhP/mqVL

/// 〈システム〉に仕える人びと 36 ////////////////////

 この反動傾向は、日教組の力が弱まりつつある今、止めようがないようだ。そして日弁連は、
行き過ぎを指摘することはできても戦う態勢にはない。日本の新聞は、時々、警告を発しはするが、
一貫した姿勢で対処するわけではなく、ましてや深く調査して分析するところまではいかないようだ。
文部官僚に批判的にみえる編集委員が、一方では、校内暴力は家庭でのしつけが足りないからだ
という公式見解を支持する書き方をする。管理者が教育方針と統制の方式を定める権利とその
可否に関して、新聞がとる姿勢は、せいぜいよくみて、両面肯定的であり、きわめて日本的な
マスコミの体質そのものである。

/////////////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///


70 ◆JeacknUANQ :2011/03/17(木) 22:14:32.95 ID:p4Ar7daB

/// 〈システム〉に仕える人びと 37 //////////////////

    座敷牢につながれた日本の新聞

 日本のマスコミは、教育制度に比べれば独立性が高く、一見したところ<システム>内で仇役の
立場を演じているように見える。ところが、日本の新聞かほぼ一貫して見せる"反体制"の姿勢は、
いたって表面的なものである。日本の新聞は、決して<システム>を"真正面から本格的"に論じる
ことはない。時折、<システム>の一部構成員に対して激しい怒りを示すことはあっても、それが
二、三週間以上続くことはまずめったにない。また、その怒りも、かえって他の競合構成員の
利益になることが多い。なによりも重大なことは、新聞が<システム>を分析しようとはしないし、
<システム>の本質的な特徴やそれがどの方向に日本を導いているかについて、読者が検討できるよう、
批判的な観方を用意していないことなのである。

//////////////////// 「日本/権力構造の謎」<上> ///

71 ◆JeacknUANQ :2011/03/19(土) 19:52:06.02 ID:+hyNIR8D

/// 〈システム〉に仕える人びと 38 //////////////

 この点において現代日本のジャーナリストは、初期の新聞や一九二〇年代の新聞で働いた先輩に
くらべ勇気がないといえる。一八六八年の革命的な変化(明治維新)とともに、国の指導者を
助けるものとして、新聞が登場した。初期の新聞記者や編集者の多くが、政府の役職の選にもれた
武士だった。一八七〇年代には、彼ら日本の新聞人の草分けは、新しく成立した少数独裁政府が
すべきことは何か、いろいろと比較してどの方向に日本の政治が発展していくのが望ましいか、
活発に議論を展開した。もっとも、当時は「報道の自由の概念はまだ成熟していなかったのだが、
政府が新聞をより厳しく規制する方法もまだ成熟していなかった」から、このような議論も自由に
展開できたのであろう。その後、報道の自由の概念と、それを規制する方法が、同時に発達していった。
すでに一八七〇年代の中頃には、新聞社は一八七五年の新聞紙条例に定められた刑期を務める
覚悟のできた"獄中編集者"を雇っていた。

////////////////////////// 原書1989年刊 ///

72 ◆JeacknUANQ :2011/03/21(月) 19:27:28.85 ID:nnMfCExh

/// 〈システム〉に仕える人びと 39 ///////////////////

        自主検閲の伝統

 一九世紀末の数十年かは、権力保持者も新聞の協力を得るのに、それほど強硬な手段に訴えなくても
よかった。ジャーナリストが、新しくつくられた神格天皇の神話と"家族国家"という国家主義的思想を
広めるのに、重要な役割を担うことになったのである。二〇世紀のはじめの三〇年間は、当局の
一貫性に欠けた気まぐれな検閲のもとに生まれた自主検閲を通して、おもに新聞が規制された。
公の指示は不明確で抽象的であいまいだったので、なにが検閲されるのかさえ判らなかったのである。
 米騒動や、一九二三年の関東大震災後の朝鮮系住民に対する襲撃など、重大な事件がいろいろあっても、
新聞紙上ではほとんど注目されないか無視された。共産党の結成やその後の消息を書くことはいっさい
タブーだった。以上のような明らかに政治的に重要な話題でなくても、不快な事柄はすべて、"愛国心"
という上からの圧力の結果、黙殺されることとなった。法律や新聞紙条例は、このような抑圧の
脇役的な手段にすぎず、官僚が好んで用いたのは記録に残らない個人的な警告だった。これは、今も、
日本の官僚の広く用いる常套手段である。つまりだれも責任を問われない、とらえどころのない
規制法である。

///////////////////////////////////// 早川書房 ///

73 ◆JeacknUANQ :2011/03/22(火) 21:42:48.97 ID:nlAvAkR1

/// 〈システム〉に仕える人びと 40 ////////////////

 一九二〇年以降、報道の自由に対する抑圧は度を深めていった。今日の日本の知識人の共通認識
とは違って、これは"軍国主義"が盛んになった結果というよりむしろ、実際は、官僚側の規制と
報道機関ので"自主規制"とが相乗した結果である。
 自主検閲は、今も、日本のきわだった特徴として受け継がれている。新聞社、通信社、放送局は、
記者クラブを通して政府や経済界のニュースを集める。記者クラブは公式に検閲がおこなわれていた
戦時中に出現したもので、ジャーナリストとその取材対象である<システム>側の各組織体とが
共生するための制度化された機関である。ジャーナリストの側からいえば、重要なニュースを
見逃す心配がないから役に立つし、権力者には、報道媒体の自主規制を円滑化するなによりの
方法である。その数約四〇〇を数える記者クラブは、すべての省庁、政府機関、日本銀行、自民党、
警察、経済団体など、日本を円滑に運営していく役目を担う、ありとあらゆる機開や人物に付随して
設置されている。記者クラブに出入りするのは、一六〇以上の報道媒体を代表するおよそ一万
二〇〇〇人のジャーナリストである。クラブを通さずに、主要機関からほんとうのニュースを
収集するのは難しい。実質的にはまったく不可能なときすらある。日本でおこなわれる正式の
記者会見は、こっけいなくらい、演出されたものである。

////////////////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

74名無しさんの主張:2011/03/24(木) 11:34:00.88 ID:tQBVYHaI
ウォルフレンが指摘した「国家資本主義の実験室」としての《満州》や
《革新官僚》が戦後復興に果たした役割を、今後の大震災で思い出した。

というのも今回行政の姿が全く見えないにもかかわらず、行政権力が
行使されなければ不可能な国家総動員的な被災地支援が行なわれている
からだ。

東電が初めて実施した計画停電を前回行なった主体は東電の前身である
日本発送電という国策会社だし、東電は占領下の電力民営化で誕生した
日本発送電最大の分家だ。

震災後の物不足は国民の買い占めが原因だという公式発表にも疑問がある。

買い占めが仮に物不足と因果関係があるとしてもそれは結果に過ぎない。

物資の絶対量が不足した場合、国はちょうど水道の蛇口をしめたり、水路
に優先順位をつけて各々に水量を割り当てる様々な権限を持っている。

国民生活安定緊急措置法や石油需給適正化法などで物資・物価統制できる。

俺はまだ国が民間部門に統制権を行使したという明白な証拠をつかんでは
いないのだが、どうしてもその疑いを拭い去ることは出来ない。

これは全く個人的見解だが、政府(特に経産省)はこの大震災を利用して
大規模な経済統制の実験を東日本全域で実施中なのではないか、と考える。

それはかつて革新官僚が満州国で実施したのと同じ展開だと思う。

つまり、3・11は満州事変と同じ衝撃を国内にもたらしたと言える。
75 ◆JeacknUANQ :2011/03/24(木) 21:36:29.28 ID:N7u2iKt2

/// 〈システム〉に仕える人びと 41 ////////////////

 首相には、毎日、主要な新聞から派遣された記者数人が密着し、彼がどこにいこうとも離れず
ついて行き、彼の言葉はすべてメモに取る。中言根が首相だった時には、毎週、禅寺に座禅に
行くときだけ、記者クラブのメンバーは同行を禁じられていた。政治家の自宅に夜うちをかけるのは
記者が好んで用いる方法で、何時間も待った後、パジャマ姿でくつろいだ大物自民党議員が
家族なみに部屋に招き入れ、話のひとつも聞かせてくれるかもしれない。もっとも忠実な内輪の
記者が、政治家とプライベートに話し合えるのだが、重要な新事実が判明したり何かふっと
漏らされても、特別待遇の資格を失いたくないから決して公表したりしない。お互いに、
このような場で得た情報は決して印刷されないと了解しているのである。時には、記者クラブの
メンバーが、取材対象の人物から贈り物をもらうこともある。

/////////////////////////////////// 840円(税込) ///

76 ◆JeacknUANQ :2011/03/26(土) 20:32:10.25 ID:C1OcQYce

/// 〈システム〉に仕える人びと 42 ////////////////

 大半の日本人記者は、一日中、記者クラブの仲間と時間を過ごし、クラブ関係以外の情報源には
あまり接触しないのが通常だ。記者クラブでは会員記者が、報道すべきか否かを、時には記事の
調子までを協定する。筆者の同僚のある日本人記者によると、ある大手新聞の記者は、掲載しないと
クラブで協定したのに自分のところだけ記事にしてしまったため、六ヵ月間にわたり記者クラブの
出入禁止処分を受けたという。実際には、別のデスクの同僚が他の情報源から入手した情報を
もとに記事を書いたのだから、彼は責められるべきではないのだが、そうしたことは情状酌量の
根拠にはならなかったようだ。こうした記者クラブは、かなり排他的で、在日外国記者協会の
代々の会長の一〇年以上の交渉のかいもなく、外国人ジャーナリストには、記者クラブの多くが
門を閉ざしたままである。

//////////////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///


77 ◆JeacknUANQ :2011/03/28(月) 21:04:24.22 ID:yMZrdDLN

/// 〈システム〉に仕える人びと 43 ////////////////

 いまさらいうまでもないだろうが、この記者クラブ制度は、本来、新聞が厳しくその行動や
目的を調査吟味すべき人々との関係を、「なあなあ」で居心地のいいものにしている。この制度が
あるかぎり、個々の記者が独自になにかを調べる気を起こすこともないし、仲間の記者が出した
結論にそぐわない形で問題を取り上げてもなんの報いもない。ところが、政治家や経済界の
スキャンダルが明るみに出て全マスコミが一斉に報道しはじめると、典型的なことであるが、
日本ではまさしく情報の雪崩現象が起こる。多くのジャーナリストがすでにその詳細を発端から
知っているからだ。あるベテランの外国のジャーナリストは次のように書いている。

  スキャンダルが暴露されると、人びとは一瞬にして、毎日、毎週、新聞、雑誌、テレビなどから
  溢れ出る暴露の洪水に首までひたされる。スキャンダル自体が何か正常な政治過程のように
  見えてきて、あたかもスキャンダルはそれだけで独立し、過去とは切り難された新事実であるかの
  ように目にうつるようになる。後から後からとスキャンダルは起こり消えてゆくが、そこからは
  いかなる政治的教訓も学ばれないし、いかなる本物の改革もなし遂げられないのである。

//////////////// 「日本/権力構造の謎」<上> ///

78名無しさんの主張:2011/03/29(火) 17:53:25.09 ID:IN0ME6tV


雇われ工作員死ね
しかし今回の原発事故で日本のシステムが転換するチャンスなんだが。
ご参考
http://www.videonews.com/on-demand/511520/001784.php
79 ◆JeacknUANQ :2011/03/30(水) 21:23:03.21 ID:KNCSuJda

/// 〈システム〉に仕える人びと 44 ////////////////

 日本の編集者やジャーナリストは、いつもきまって"人びとの知る権利"を強調し、時には、
政府がその権利を人びとから奪いとっているといって形式的な非難もするが、実際に管理者が
日本をどう運営しているかの詳細を内密にしておくのに、彼ら自身が一役買っていることが多い。
なにか特定の分野を専門に報道してきたジャーナリストのほとんどが、実態と公式の"リアリティ"とが
大きく違うことを充分に知っている。ところが自分の報道分野以外のこととなると、この二つを
混同してしまうのは驚きにあたいする。<システム>が基本的に議会民主主義のしきたりと
原則に矛盾しているという現実を、正面きって認めた記者や編集者はほとんどいない。いるのは
<システム>をきちんと分析しないで使い古されたきまり文句"独占資本主義"を後生大事に
くり返すものだけである。

///////////////////////////////// 原書1989年刊 ///

80 ◆JeacknUANQ :2011/04/01(金) 21:30:16.32 ID:YeMTV5/G

/// 〈システム〉に仕える人びと 45 //////////////////

 編集者がみずから招いた無知が、時として、かなり不気味な結果としてあらわれることがある。
たとえば、普段から、国会はたとえ国益に直接かかおるものでも外交政策をあまり討議しない
という事実はあっさり棚にあげて、野党が議会をボイコットしたために日本の選良たちが世界の
重大事件を討議できなかったと各紙が嘆いたりすることがある。また、ある大きな横領事件について、
読売新聞の社説は、株主と労組がその会社でなにが起こっているかをきちんと監視しているべぎだった、
と述べた。だが、日本の会社で、株主や労組がそうした役割をほんのわずかでも果たしたことなど
一度もない。日本の新聞には、毎日といってもいいほどこの種の論説が現われる。

//////////////////////////////////// 早川書房 ///


81 ◆JeacknUANQ :2011/04/03(日) 21:05:55.19 ID:JhKKNs11

/// 〈システム〉に仕える人びと 46 ////////////////////

  マスコミ合唱団の大斉唱

 日本のマスコミの権力の源泉は、その一枚岩的な性質にある。五大全国紙(五大紙の朝・夕刊の
総発行部数は三九〇〇万)が、その日一番に出す朝刊第一版のニュースの選び方や社説の趣旨は、
各紙によって違うかもしれない。ところが、大都市で読まれる最終坂の朝刊では、各紙の違いが
はっきりと出るおきまりの論争(たとえば防衛費について)以外は、ニュースの扱いがどの新聞も
似通ったものになってしまう。各紙の編集者が他紙の早版に大急ぎで目を通し、自社の新聞を
点検するのだ。だから、貴重な特ダネ記事は通常、都市部で発行される最終版までとっておかれる。
早版に載せてしまっては、それがその社の特ダネだとはだれにも分かってもらえないからだ。
重要事件直後の数日のトップ記事は、立場をはっきりさせず、あいまいでどっちつかずの記事に
なりがちであり、たいてい、他紙の記事と見分けがつかない。こうした全国紙の記事は、ぼう大な
数の外廻り記者が送稿してくる"発表もの原稿"と、外部からの政治的影響も受けながらデスクの
編集記者がまとめた、意外性のないものである。先にふれた決まりきった論点以外は、記事に
対して他から文句をつけられることもほとんどない。すべての日本人が、毎日ほとんど同じ
記事を読み、実質的に源が一つのニュースをもとに自分たちの意見を形成させられる。

//////////////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

82 ◆JeacknUANQ :2011/04/05(火) 20:49:05.31 ID:Vqdg+mkW

/// 〈システム〉に仕える人びと 47 ////////////////

 このように統一された新聞の声は、しばしば批判的ではあるが、国会での野党の嘆きの声に
よく似ているようである。たまにはこぶしを振り上げて当局を非難しても失礼にはあたらないと
されているが、それさえ儀礼の域を出ない。<システム>の一部の構成員は、対抗する構成員に
反撃あるいは抑圧をおこなう場合、予想どおりに展開される新聞の攻撃を利用する。事実、新聞は、
権力者の一部の集団が強くなりすぎるのを他の集団が防ぎ、力の均衡を保つのに重要な役割を
果たしている。
 周期的に登場する、限定されたテーマについての政治的論争になると、まるでベルが鳴ると
条件反射で唾液を出すパブロフの犬のように、全紙が即刻に同じように予想されたとおりの反応を
示すことになる。ある新聞が他紙と一致しなくても、そのパターンは容易に予想がつく。たとえば、
朝日新聞は、自国の防衛のために日本はもっと軍事費を負担すべきだという要求も含めて、
"右翼"勢力がわに立つとされる事柄にはすべて、不賛成の意を表する傾向にある。官僚を制御する
政治力を増大させようとする中曾根の努力に対しても、同様に疑問を呈した。同紙の反米傾向のある
コラムニストや論説委員の中には時代遅れの日本版マルクス主義から乳離れしていない者もいるが、
それでも朝日の編集方針に影響を与える。

//////////////////////////// 840円(税込) ///

83 ◆JeacknUANQ :2011/04/06(水) 21:19:23.50 ID:WmTl7P8v

/// 〈システム〉に仕える人びと 48 ////////////////

 最近の新聞界におけるもっとも重要な変化は、読売新聞が、旧来の反米、反防衛の姿勢を捨てた
ことだ。読売は日本最大の新聞で、発行部数は一日に九〇〇万部。毎日新聞はまだ、従来から他紙が
みなそうであるように、朝日の方針に追従する傾向がある。経済紙を除く四つの全国紙のうち最小の
産経新聞は、右寄りに評される。このことは、北京に特派員駐在許可と交換条件に、毛沢東支配下の
中国に肯定的な記事を書くことを日本の報道機関が中国政府と協定した時、同紙だけが拒否し
たことから裏づけられるようだ。読売新聞が態度を変え、産経の反左翼の姿勢、それに、最大の
経済紙日本経済新聞の経済中心の編集方針が相まって、軍事は議論しないという戦後のタブーを
破るのに大きく寄与した。それと同時に、以前ほど左翼グループの声に注意がはらわれなくなって
きている。

///////////////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///


84 ◆JeacknUANQ :2011/04/07(木) 21:22:28.88 ID:S7JKQoOx

/// 〈システム〉に仕える人びと 49 ////////////////

  社会的制裁機関としての新聞

 日本のジャーナリストは、矛盾を指摘したのに報われない状況におかれて、ほぞをかむ思いに
かられることがある。権力保持者たちが公式ルールに忠実に従わない時、新聞はそのことを指摘し
批判するのに理想的な立場にあるはずなのだが、<システム>が提示するリアリティを乱すまいと
おもんぱかる同僚ジャーナリストや編集者によって、それも厳しくチェックされてしまう。
<システム>内で実際にどのようなことがおこなわれているかについて、あふれる情報を持っている
日本のジャーナリストは、どうするのがよいのだろう? すでに構造化した重大な規則違反を
一貫して指摘しようものなら、そのジャーナリストのまわりの(理想とは違う)現実の小世界が
くずれ落ちて、押しつぶされてしまうことにもなりかねない。常につきまとう問題は、どこまでが
正直な報道なのか判断のしようがないということである。適度に自己検閲できる器量のことを、
日本では、通常、ジャーナリストとしての"おとなの考え方"という。

/////////////////// 「日本/権力構造の謎」<上> ///

85 ◆JeacknUANQ :2011/04/09(土) 21:53:37.73 ID:9MomHAwa

/// 〈システム〉に仕える人びと 50 ////////////////

 立派なジャーナリストの本分はジャーナリスト修行中に必ず教えられるが、それに恥じない仕事を
してないという後めたさは、よく感じられることのようだ。しかも、社会秩序の維持と道徳の番人役
というのが、新聞がみずからに課し、また、社会的に受け入れられている(そして、期待されている)
報道機関の機能なので、問題がより複雑になる。その結果起こる欲求不満のはけ口は、いろいろある。
日本社会における、他のあきらかに解決不可能な軋轢の場合と同様に、儀式によってそういった
世俗の問題は解決されるのだ。そこで、新聞は、伝統の「一罰百戒」を念頭に、周期的に怒りの
エネルギーを発散すべくみずからのガス抜きのためのためのキャンペーンを展開することになる。

/////////////////////////////// 原書1989年刊 ///


86 ◆JeacknUANQ :2011/04/11(月) 21:40:27.98 ID:CMjLAizB

/// 〈システム〉に仕える人びと 51 ///////////////

 ほぼ一年おきに、教育熱心な親に入試問題を売った厚顔無恥な教師が"発見"される。国際電信電話
株式会社の役員数人がささやかな品物を国内に密輸入しようとして捕まった際、各紙は一斉に彼らを
たたき、同社は悔恨の情を示すため、ついに(法外に高かった)国際電話料金を下げると約束する
ことになった。ある有名デパートの社長は、そのデパートで売っていたペルシャの古美術品が実は
横浜製だと判明して、大いにはずかしめを受けた。ホテル・ニュージャパンが炎上し、後になって
法に定められた安全設備がそろっていなかったことが判明した時、モのホテルの所有者に対する
新聞の扱い方も、そうした例の一つだった。このように選び出された事件の"後日談"は、何週間、
時には何カ月間も続けて、新聞の一面を飾ることになる。その間、責任を問われた人々は、社会の
敵として、編集者の怒りの総攻撃をうける。しかも、こうした制裁は逮捕以前からはじめられる
ことが多い。

///////////////////////////////////// 早川書房 ///


87 ◆JeacknUANQ :2011/04/13(水) 21:19:00.41 ID:fNP4RkYE

/// 〈システム〉に仕える人びと 52 ////////////////

 これで、他のデパートやホテルのオーナー、あるいは、次にやり玉にあがる組織がどこで
あるにせよ、そのトップも、恐怖心をおぼえ気をつける。また、いたるところでおこなわれている
ゆすり、たかりまがいの悪徳商法にも、ある程度歯止めがかけられ社会の役に立つ。法律が、
市民を護るためというより、官僚の行政目的のためにある(といっても過言ではない)国に
おいては、新聞が重要な制裁役をつとめる。日本人は、自分の評判に傷がついた後の結果を
極度に恐れるから、新聞にこういうことができるのである。名声を維持したいという気持ちは、
かなりの程度、組織やその成員に規律を乱させないための法的な制裁のかわりになるのである。

//////////////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

88 ◆JeacknUANQ :2011/04/15(金) 21:22:17.58 ID:KYuAsIws

/// 〈システム〉に仕える人びと 53 ////////////////

   "問題"現象

 <システム>は不可欠なものだということを、間接的に国民に教え込む日本の新聞は、<システム>の
役に立つ。だが、時には、新聞の矯正的な機能が<システム>自体のうまく機能していない面に対して
向けられることもある。ときおり、ある事柄が連日マスコミによって攻撃され、国中が燃えるという
ことがある。このように、大いに注目され、強く否定される事柄は、一般に"○○問題"と呼ばれる。
 前述の、学校でのいじめ"問題"は、一年以上もとりあげられて新記録だった。たいていの場合、
新聞がいい出す"問題"は、長くて二ヵ月間、一面に載せられる。この間は、バーにいっても、
喫茶店にいっても、どこにいっても、みなの話題がなにか、考えなくてもすぐわかる。少なくとも、
その話題があるおかけで、社会との一体感がもてる。その月に問題にされていることについて、
マスメディアが流しているのとは違う意見を言うと、まるで、きまりきった天気の挨拶にあえて異を
となえたように驚かれる。

////////////////////////////// 945円(税込) ///

89 ◆JeacknUANQ :2011/04/17(日) 20:47:03.94 ID:FG1Cb8yX

/// 〈システム〉に仕える人びと 54 ////////////////

 ここ数十年の記念碑的"問題"は、産業排出物による大気、土壌、水の汚染に焦点を合わせた
公害問題であった。おおよそ半年間にわたり全国紙が筆を揃えて、恐ろしい話をつぎつぎと載せた
キャンペーンを続けたのだ。その結果、日本人はすっかりといっていいほど魚を食べなくなり、
海産物市場がひどく脅かされることになった。おそらく問題が手におえなくなるのを恐れたのだろう、
それ以後、公害問題はすっかり一面から姿を消した。それにかわって、大地震によって東京の
大部分が破壊される可能性がある、さて、政府は非常事態に備えているか、というニュース記事や
論評がどっと一面を埋めることになったのであった。このように新聞が一斉に書き立てる結果、
時として大衆が過剰反応し、ひどいときにはマス・ヒステリア寸前に至る。

//////////////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

90 ◆JeacknUANQ :2011/04/19(火) 22:03:23.49 ID:FJCBNy0O

/// 〈システム〉に仕える人びと 55 ////////////////

  ポロ儲けを糾弾するマスコミ

 時どき、官僚が目をつぶっている不正行為に対し、新聞が襲いかかることがある。サラ金と
いわれる"サラリーマン金融"会社がよい例だろう。暴力団とつながるこのような金貸しは、銀行、
保険会社、その他の金融機関と正常な取引関係を持ち、ちゃんとした事務所で営業することが多い。
 日本の消費者向け貸付けが未発達であることが、サラ金を登場させる原因になった。日本人は
もう何十年も貯金(平均して、収入の二割弱)を商業銀行や郵便貯金に入れてきたが、その資金は、
そこから一方的に大企業に流されてきた。銀行には、将来の個人見込客の信用度を判断するだけの
用意ができておらず、個人への使途制限なしローンは、長い間、ほとんどなかった。一九七〇年代末
から八〇年代初めに、諸般の事情から消費者ローンヘの需要が高まった時にサラ金が登場し、
無担保の短期貸付けにサラリーマンを誘ったのである。ワナは、四割〜七割、あるいは、それ以上
という高利にあった。不慣れな借り手は借金の深みにはまりこみ、高利貸しの思うつぼにはめられた。

//////////////// 「日本/権力構造の謎」<上> ///

91 ◆JeacknUANQ :2011/04/21(木) 20:52:34.99 ID:Warrearv

/// 〈システム〉に仕える人びと 56 /////////////////////

 一九八四年に、このような状況がもたらした一家心中や自殺を新聞が記事にしはじめた。
借金の取り立てに暴力団がやって来て騒ぎたて、その結果、評判を落とされた負債者が近隣に
顔を見せられなくなった。負債者の子供の学校に手紙が送りつけられたり、窮地においこまれた
妻がサラ企業者に言われて売春婦になって身をほろぼしたり……と、恐ろしい話があいついだ。
 このような商売を規制するはずの法律が、逆に業者を保護する結果を招いた。法の救済を求めて
法廷に持ちこまれた多くのひどい事例はたいてい、負債者にとってあまり有利な裁決は出されなかった。
犠牲者を代弁する代理人機関もないところから、新聞が唯一の番犬役を買って出た。事実、
新聞が書き立てたことで(不十分ではあるが)新法が制定され、より安い利息のサラ金へと
官僚が行政指導をするきっかけになった。

////////////////////////////////// 原書1989年刊 ///


92 ◆JeacknUANQ :2011/04/23(土) 19:43:35.53 ID:tgwbb3sQ

/// 〈システム〉に仕える人びと 57 ////////////////

 その法律ができた過程を見れば、<システム>のもとでは、消費者の利益への配慮が後回しに
されることがはっきりわかる。省庁間の縄張り争いや、"政治資金"と引き換えにサラ企業者を
保護しようとする自民党の動きによって、五つの関係法案の承認が延期になり、成立が六年も
遅らされたのである。やっとできた法律も、サラ金を合法化して最高利息を七割三分までとし、
サラ金の"経済状態"に合わせて実行可能になった日からは、四割に引き下げると定めるものであった。
一方にすでに、利息は年二割を限度とすると明文化された相反する法律があったにもかかわらずだ!
この新法により、いちばん得をしたのは、最大規模のサラ金と大蔵省だった。大蔵省は、金融界を
完全に制御していたところへ新種の金融業者の参入のため統制が乱れて、頭を悩ませていたのだ。
新法によってサラ企業者が登録制になり、それによって大蔵省は、強制的に情報を把握するとともに
行政指導もできるようになった。

////////////////////////////////// 早川書房 ///

93 ◆JeacknUANQ :2011/04/25(月) 21:52:01.99 ID:FjrRmHce

/// 〈システム〉に仕える人びと 58 ////////////////

 日本には、一般国民を護るための法律が整備されていないので、さまざまなポロ儲けをはびこらせて
しまう。サラ金は、ほんの一例にすぎない。そのほかにも、一部の学習塾、過剰投薬の医者、自民党
政治家を当選させるための後援会など、いろいろなものがある。脅迫まがいのボロ儲けは、不動産業や
株式市揚でも横行している。だが、こうしたボロ儲けの取り締まりを目的にした本格的な改革がなされる
気配はない。この仕事はマスコミにまかされ、実際に、社会の秩序を乱すおそれがあるほどのものは、
マスコミが働くほかないのである。

/////////////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///


94 ◆JeacknUANQ :2011/04/29(金) 21:59:23.46 ID:XfZpXXZa

/// 早川書房 //////////////////////

 カレル・ヴァン・ウォルフレン(Karel Van Wolferen) (著)、篠原 勝 (翻訳)、
 原著1989年発行、邦訳 早川書房1990年発行
 「日本/権力構造の謎」 The Enigma of Japanese Power
 日本 権力構造の謎〈上〉 ハヤカワ文庫NF、945円(税込)、ISBN: 4150501777

http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4150501777.html
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////////////////// 絶賛発売中!///

95 ◆JeacknUANQ :2011/05/01(日) 18:18:08.68 ID:m2umc98b

/// 〈システム〉に仕える人びと 59 ////////////////

  便宜を因ってもらう暴力団

 <システム>が、アウトサイダーとみなされる集団をいかにその目的達成のために利用するかの、
もっとも驚くべき例は、警察と犯罪者の一群との関係である。日本には、やくざという、かなり
ロマンチックなイメージももたれている、おおよそ一〇万人のギャングで構成される非合法社会
があって、これが勢力を誇っている。アメリカのマフィアとは違い、現代の主流やくざは正業の
ビジネスの世界とは明確に一線を画している。彼らの儲けの大部分が、不法行為によって得たものだ。
彼らは、自分たちがやくざであることを隠そうとはしない。みな、ダブルの濃紺スーツに、
白いネクタイと黒いサングラスといういでたちだから、むしろ目立つ。
 警察の推定によると、やくざの収入は、不法行為から得たものだけでも一年に約一兆五〇〇〇億円
にものぼる。しかし、民間の専門家にいわせると、これは、ごく少なく見積もった額だという。
法律の裏で運営されているセックス産業から入るほぼ同額の儲けが、見逃されているというのである。
日本最大の暴力団山口組の顧問弁護士によれば、負債回収や倒産"整理"その他の重要な儲けは、
警察の推定額からは抜け落ちている。いずれにせよ、やくざはぬれ手に粟で金を手にしている。
ばか高いアメリカの大型車に乗れるのは、彼らのほかに歯科医ぐらいである。

//////////////////////////// 945円(税込) ///

96 ◆JeacknUANQ :2011/05/03(火) 20:09:22.33 ID:Lv3WT6oF

/// 〈システム〉に仕える人びと 60 ////////////////

   究極の共生

 何世紀も前から続いている伝統的な制度によって、犯罪組織は犯罪分子みずからか統制する。
それに肋けられて、警察は、組織外の犯罪を取り締まるだけでよい。犯罪を完全になくす
ことは不可能だから、組織化されていない犯罪を最小限に抑えるのに犯罪組織を利用しようと
考えだしたのは、徳川幕府のお目付け役すなわち、警察官と行政官を兼ねていた町奉行たちの
知恵であった。また、当時の犯罪は、京都と江戸を結ぶ東海道中心に起こった。高い地位にある
人びとも、追いはぎも、その他しもじもの者も、みなが東海道を使ったのである。幕府の
役人が考え出した解決法は簡単で、この往還の秩序を保つ責任を、賭博と売春というおきまりの
悪行を生業にする日陰者の組織にまかせたのだ。

/////////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

97 ◆JeacknUANQ :2011/05/05(木) 19:50:13.23 ID:vEyn+Qk8

/// 〈システム〉に仕える人びと 61 ////////////////

 やくざは日本映画の花形であり、社会も寛容さを見せて黙認している。ちょうど、法律に
ふれるかふれないかギリギリのところで活躍するカウボーイのように、映画に出てくるやくざは、
悪の犠牲者をかばう闘士である。だが、カウボーイと違うのは、個人主義者や一匹狼として
描き出されることはないということだ。やくざは、近代化によって当世風の主流の社会から
失われてしまった旧来の敬うべき慣習や美徳を今も持ち続けていると、まだ広く一般の日本人の
間で信じられている。それはつまり、仲間うちの強い団結とか、主人=親分に対する絶対忠誠の
手頃な手本であるという意味である。やくざ映画は、時代劇と同じように美化された昔の武士の
伝統的な男らしさをロマンチックに描きだす。いや、実際には、「やくざの方が、ある意味で
さむらいの英雄より伝統的であり、本質的に日本的だと言える」。映画の外の、現実のやくざ、
それも、とくに年配のやくざは、自分たちはほんとうに伝統の守護者だと信じているようだ。
やくざ映画が大好きなやくざは、映画の中の"生粋の"日本人的な態度に影響をうけるのである。

//////////////// 「日本/権力構造の謎」<上> ///

98 ◆JeacknUANQ :2011/05/07(土) 20:03:26.56 ID:33TXgzk8

/// 〈システム〉に仕える人びと 62 /////////////

 警察の調書にも、そんな実例がよく載っている−−「どんな犠牲を払っても、親分の命令に
従う義理があります。親分がカラスは白だと言われるなら、私も白と言いやしょう。どうしても
白い服を着なけりやならねえんなら〔やくざどうしの抗争で死ぬ〕それもよし、それとも、
青い服でも〔刑務所に入る〕、あっしに文句はありやせん。」やくざの間では、盃を交わす
儀式を通して擬制的血縁関係が結ばれる。やくざの弁護を専門にするある弁護士は、彼らが
親分とか兄弟とか言いあっているのを聞いて、はじめは、馬鹿げたセンチメンタリズムだと
思ったのだが、今は、それがやくざにはいかに説得力のあるものかが判るようになってきた、という。
 「理屈や金では、我の強い組員の統制はできない。親分を"父親"とする、不合理だが絶対的な
原理を振り回すことによって、組織は組員をなんにでも服従させることができる」

//////////////////////// 原書1989年刊 ///

99 ◆JeacknUANQ :2011/05/09(月) 21:14:25.32 ID:4pl8HVmf

/// 〈システム〉に仕える人びと 63 ////////////

 やくざは、高い地位にいる人びとに保護されるのに慣れている。戦前、戦後、いずれの時代にも、
会社は彼らをスト破りに使った。非のうちどころがない有名大企業だからといって、威嚇の
目的に彼らを使わない、とはいえない。まれだが、たとえば、そうした大企業を相手どって
訴訟が起こされた時などである。やくざが、政治家にかわって汚れ仕事をするのはよく知られたことだ。
佐藤栄作首相には、呼べばすぐ来るやくざの"ボディガード"がいたし、政治集会に、用心のため
やくざを出席させていた政治家も多い。日本で、おどしによってどれだけのものが達成でぎるかを
考えれば、高位のやくざと仲よくするのはいいことだと自民党の政治家がいま考えても不思議
ではない。大臣がやくざの結婚式に出席したり花を贈ったりしても、それほど大騒ぎすることも
ないと考えられてきた。黒幕として大きな影響力をもった岸信介元首相は、一九六三年におこなわれた
あるやくざの葬儀副委員長を務め、一九七四年には、山口組組長の息子、田岡満の結婚式に際し
祝電を送っている。

////////////////////////////// 早川書房 ///


100 ◆JeacknUANQ :2011/05/12(木) 21:15:24.15 ID:xgG393qu

/// 〈システム〉に仕える人びと 64 ////////////////

 やくざも右翼も、非行少年、とくに暴走族などから新しいメンバーを募る。やくざ組織に
新しく入る者の三〜四割が暴走族である。 今世紀中ずっと、警察と企業は、マルクス主義の
影響を牽制するのにやくざを利用してきた。日米安全保障条約の延長に関連して、急進的左翼の
学生と労組が政府と衝突した六〇年安保闘争では、アイゼンハワー大統領訪日予定期間中、
警察の警備の不足を補うため、児玉誉士夫が自民党と東京のやくざの組長たちとの間をとりもって、
三万人以上のやくざと右翼の行動隊が組織された。不穏な状態が続いて、同大統領の訪日は
取り止めになったが、その間、やくざはチラシ、腕章、輸送車、器材、糧食などを準備して
待機していたのである。その頃のやくざは自信に満ちあふれており、一九六四年の最盛期には、
組員の数も約二〇万人に連した。

////////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

101 ◆JeacknUANQ :2011/05/15(日) 22:39:06.41 ID:SpxJywry

/// 〈システム〉に仕える人びと 65 ////////////////

 一九六〇年代なかばになると、やくざが強くなりすぎたと見て、警察は一部のやくざ組織に
手入れをし、咎めだてたり、住宅地区からのやくざ追放運動をおこなう市民団体を援助したりした。
しかし、本気でやくざ組織を解散させようとしたことは一度もなかった。その根底に腐敗が
あるからではない。個々人あるいは小グループで犯罪者が活動しはじめたら大混乱になり、
警察が独力でこれに対処しなければならないとすれば、今は低い日本の犯罪率が上がるのは
必定というのが事実なのである。日本の警察に関する研究者が論断するように、「双方に
利益がある関係である。警察もやくざもともに親密な関係を保ち、表面的には互いの顔を
たてながらその関係を強化することが得策と考えている。大きな事件が起きて、警察がやくざを
制裁しなければならなくなっても、互いの友情と理解の核心部分は、変わらないとみえる」。

//////////////////////////// 945円(税込) ///

102 ◆JeacknUANQ :2011/05/19(木) 22:01:06.75 ID:oZMvTRXo

/// 〈システム〉に仕える人びと 64 ////////////////

 やくざの世界は、唯一の愛国者と自称する右翼の世界と境を接しており、部分的には交じり
合っている。極右としては、全部で一〇万人をかなり越える会員を擁する八○○以上の団体があり、
その五分の一はきわめて活動的である。彼ら極右活動家は、主に、音量をいっぱいにあげた
軍歌を鳴り響かせながら、往来をトラックでジグザグ運転したり、何回も日教組本部に向けて
爆弾を投げ込もうとしたりして自分たちの存在を世に知らす。だが、得体の知れない赤報隊
という極右集団に所属すると思われる銃を持った暴漢に、朝日新聞の記者が射殺される事件が
一九八七年に起こった。その後もこの極右集団は、同新聞社に対して"警告"を発するほか、
中曾根康弘元首相を殺すと脅したりしている。

//////////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///


103 ◆JeacknUANQ :2011/05/21(土) 21:03:54.10 ID:q95bGQlw

/// 〈システム〉に仕える人びと 65 ////////////////

 これら極右とは別に、報道機関、大学、自民党に及ぶ、右翼の大義に共感するシンパの
大規模なネットワークがある。私財を貯えた権力ブローカーで、多数のトップ政治家を陰で
策動していた、近年もっともよく知られている右翼二人は、やくざのつながりも使ってその地位まで
登った。その一人は、ロッキード収賄事件にかかわっていたことから一九八四年に死亡するまで
大いに注目を浴びた児玉誉士夫、そして、もう一人は、独自の慈善事業をとおして今も注目される
笹川良一である。一九九〇年に、笹川はノーベル平和賞獲得のため懸命に運動し、日米文化交流
促進のため米日財団を設立した。彼は、国連への最大の個人寄付者である。一九七八年には
勲一等瑞宝章を、一九八七年には勲一等旭日大綬章を、日本政府から授けられている。

//////////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///


104 ◆JeacknUANQ :2011/05/23(月) 21:09:58.35 ID:MTrTqgLP

/// 〈システム〉に仕える人びと 68 ////////////////

 警察の暴力団担当官は、やくざの組本部を定期的に訪れては、組から追放された者は
いないか調べ、もしいたら、すぐに逮捕の段取りを整える。はぐれ狼の犯罪者が復讐を企てて
街を彷徨するのを未然に防げば、警察も組も両方が助かるからだ。大きな組織は組の紋章を
掲げた事務所を堂々と街なかに開く。
 警察とやくざの組長たちは、各組の縄張りを定め、非公式協定を暗黙のうちに確かめ合うため、
時々トップ会談を催す。武器不法所持の捜査に関連しても、継続的取引かおこなわれている。
警察はやくざに、たとえば覚醒剤の案件は不問にするかわり、不法な拳銃を手離すようにと
言いわたしたりする。このような要求に応じるためだけに、やくざが拳銃を買い求めておく
ということもよく知られた事実である。

/////////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

105 ◆JeacknUANQ :2011/05/25(水) 21:36:05.69 ID:nI2uT67w

/// 〈システム〉に仕える人びと 69 //////////////

   ロビン・フッド気取り、弱者の味方

 やくざは、自分では社会的に重要な機能を果たしていると確信しているようだ。日本では、
やくざの親分や幹部がインタビューされ、やくざの活動について述べたりもする。そんな時、
彼らは、組の組織がなければ反社会的な若者は行くところがなく、社会の厄介者が増えて
困ることになると、自信をもって主張する。これは近代的やくざの親分の中の大物、故田岡一雄の弁、
すなわち世の中の落伍者が野放しにならないよう面倒をみてやった、の受け売りである。
あえて宣伝しようとはしないが、たしかに、やくざの組はひどい差別を受けている日本の少数派、
彼差別部落出身者や在日韓国・朝前人を迎え入れる、数少ない組織の一つである。なぜ多くの
組が、京都、大阪、神戸をとりまく関西地域に生まれたかの理由の一つであろうが、この地域には
そうしたコミュニティが集中している。

//////////////////////////// 早川書房 ///

106 ◆JeacknUANQ :2011/05/27(金) 21:09:21.61 ID:ncpjlh2X

/// 〈システム〉に仕える人びと 70 //////////////////

 田岡は、戦後すぐ、兵庫署を襲撃しようとしていたある朝鮮系グループの排除に協力して
署を護ってやった、と回想録に書いている。また、一九九四年八月に放送された山口組を
取り上げたNHKの一時間の番組で、組の幹部は、その存在がいかに社会の役に立っているか、
二五〇〇万人の視聴者に説明する機会を与えられたのだった。
 山口組が発行していた機関誌を見ると、やくざが、どのようなイメージを自分にあてはめ
たがっているかがあるていど分かる。表紙をめくるとすぐその裏には、「侠道精神に則り
国家・社会の興隆に貢献」するための組の綱領が書いてある。つまり、組長は、「(一)内を
固むるに和親合一を最も尊ぶ、(二)外は接するに愛念を持し、信義を重んず、(三)長幼の
序を弁え礼に終始す、(四)世に処するに己の節を守り譏を招かず、(五)先人の経験を聞き
人格の向上をはかる」というわけだ。

////////////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

107 ◆JeacknUANQ :2011/06/11(土) 20:54:41.36 ID:PaSriTqk

/// 〈システム〉に仕える人びと 71 ////////////////

 この後に、自然と人生をテーマにした詩が続く。田岡一雄は巻頭エッセイの中で、麻薬取引は
良くないから、全国麻薬撲滅運動に名を連ねたのであり、組長は、その取引にかかわっては
いけないと述べる。また別の幹部は、徳川時代に社会的に圧迫された人々が、無法者どうしで
集団を作り、いかにいたわり合い助け合ったかを説明する。これに続いて、その下の幹部が、
山口組は単なる犯罪者の集団ではないのだから、かたぎからもっと敬愛される山口組になるには、
どうしたらよいかを講釈する。そして、次は、故人となった組長を讃えるその組長の娘の追悼文。
読者の声欄では、傘下の小組織の組長が、過去をふりかえって、戦争直後に市当局が凶暴化した
朝鮮系や中国系の人たちをなだめるのに、組がいかに力を貸したかを説明している。また、
組の地方支部をつくるにしても、商業フランチャイズのネットワークを広げるのとはわけが
違うのだから、あまり急速に勢力範囲を拡張しようとするな、という警告がある。

//////////////////////////// 945円(税込) ///

108 ◆JeacknUANQ :2011/06/15(水) 21:42:07.49 ID:yZaN0jlN

/// 〈システム〉に仕える人びと 72 //////////////

日本社会の不公平さの不満や、傘下組織の組長たちの、組内の調和をどう高めるかへの
アドバイスなどもある。別の回顧ものでは、路上強盗、強姦、殺人、誘拐なども、組が救援に
のり出すまではいかに警察が無力であったかを描いている。法律論、亡くなった親分への
鎮魂歌、続いて機関誌は最後に近々出所する組長の名と個人情報、歓迎会の日時を知らせる。
組長の葬儀の日時も告知されているが、巻末には必ず服役中の組長の連絡先がある。
 たいがいの日本人には、弱い者の味方として美化されているやくざのロビン・フッド的
イメージと、あまりいただけない実態との区別がつけにくい。やくざは用心棒と称して
各地の飲食店や娯楽施設を食いものにするが、そうでなくても、やくざが隣りに事務所を
構えるだけ店の客は来なくなってしまうのである。

//////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

109 ◆JeacknUANQ :2011/06/19(日) 14:42:32.07 ID:eub8LRPJ

/// 〈システム〉に仕える人びと 73 //////////////

 <システム>の不文律では、やくざは、用心棒、売春とそれに関連する不法な稼業はいいが、
拳銃所持と麻薬取引は御法度とされている。啓示は、いろいろな組の連合体が全国統一組織を
作ることを、極度にいやがっているようだ。もしそうなれば、分割統治という警察の強みも
なくなるからである。やくざの組どうしの抗争に、関係のない一般市民を巻き込んで傷つけては
いけないのは鉄則である。社会が麻薬中毒の危険にさらされたり、罪のない人々の血が流されない
かぎりにおいて、やくざは警察との特別な関係を保っていけることはあきらかである。
鉄則を破った組員を、組の方から進んで捜査当局に差し出した例は数多い。もっとも、逮捕され
刑務所に入ると、箔がついてやくざのヒエラルキーで昇進するという重要な利点があるのも事実だ。

//////////////// 「日本/権力構造の謎」<上> ///

110 ◆JeacknUANQ :2011/06/22(水) 22:01:57.69 ID:PNfK/TvB

/// アドミニストレーター 1 ///////////////////

 日本 権力構造の謎〈上〉 ハヤカワ文庫NF、945円(税込)
 カレル・ヴァン・ウォルフレン(Karel Van Wolferen) (著)、篠原 勝 (翻訳)、
 原著「The Enigma of Japanese Power」1989年発行、邦訳 早川書房1990年発行

 http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4150501777.html
 http://www.7andy.jp/books/detail?accd=18988933
 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4150501777/

・・・・
5章 アドミニストレーター

 日本には、はっきりと識別できる支配階級が存在する。その成員は主に、官僚、財界人、
自民党員の一部からなり、すべて本質的には管理者である。したがってここには志の高い
政治家の入り込む余地はない。この支配階級は厳密にいえば、世襲制ではない。今日でも、
第二次大戦直後の10年ほどではないにしても、かなり開放的である。しかしこの階級に
入り込むうえで、管理者の子息は大いに有利な立場にある。また極端に性差別的な男性の
領分である。いずれにせよ、生まれに関係なく、たいていの男の子が中学生になる頃には
自分にチャンスがあるかどうかが判る。

///////////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

111 ◆JeacknUANQ :2011/06/24(金) 22:03:25.82 ID:yRXdUxVb

/// アドミニストレーター 2 ////////////////

 どの社会の支配階級エリートも、自分たちの階級を永続させようとするものである。違いが
でてくるのはその規模、排他性の強弱、グループ内部の統一性の度合、被支配大衆に対する
態度である。比較的大規模な日本の管理者階級に入るには、非常に狭い学校ヒエラルキーの
はしごを昇るしかない。階層内部には衝突があり、分裂してもいるのだが、他の階層の者の
目には驚くほど統一された様相を見せる。この階級の存続は<システム>の存続次第であるから、
支配エリートは<システム>の維持を共通の目的としている。

 <システム>の維持

 日本の<システム>を存続させるうえでもっとも重要な条件は、構成員の資格基準および
管理者間の業務を統御するルールを仲間うちで非公式に管理することによって、管理者階級を
守りつづけることである。この基準やルールは、現に<システム>を<システム>たらしめている
ものであって、これらの関係は憲法にもとづいていないし、他の法律にも、省庁の公式の行政令にも、
自民党、企業あるいはその他の管理機関の公式な規則にももとづかない、非公式なものである。

////////////////////// 原書1989年刊 ///
112 ◆JeacknUANQ :2011/06/26(日) 20:02:06.41 ID:9OFF8tvZ

/// アドミニストレーター 3 //////////////////

  非公式な人的ネットワーク

 "コネ"は日本社会のあらゆるレベルで決定的に重要である。成功はだれを知っているかによって
ほぼ決まってしまう。望ましい大学に入るにも、いい就職口を見つけるにも、コネがものをいう。
最高の医療を受けるにも、多忙な名医への特別の紹介状が不可欠である。この意味で、日本人なら
たいていが、無数の他人に借りがあり、相手もまためぐりめぐって借りがあることになる。
この絶え間ない恩義のやりとりは、日本社会の特徴の一つである。
 社会の上層レベルでは、コネはさらに複雑化し、特別な関係の一大ネットワークを形成する。
こういった複合的なコネは、一回の恩義から生まれることもあるし、同じ学校だったり、経験の
共有だったり、複雑な事情があっての互いのごぎげん取りを通して生じる。このような人と人との
つながりを"人脈"というが、文字通り、社会の構造中に広がる人の鉱脈あるいは網の目である。
日本の人脈は、欧米の有名校の同窓生ネットワークよりはるかに広範囲に及ぶもので、比較できない
ほどの重要性をもっている。

//////////////////////////// 早川書房 ///

113名無しさんの主張:2011/06/27(月) 06:31:57.53 ID:hEkE7F5c
スルガ銀行による個人情報違法利用についての裁判で,
個人情報保護法18条2項により,
個人情報利用目的の事前明示義務が定められているにもかかわらず,
スルガ銀行代理人神谷町セントラル法律事務所弁護士奥島健二・金森浩児は,
「本人確認が完了していないから個人情報保護法18条は適用されない。」
と誤りを主張し,
これを鵜呑みにした簡裁裁判官岡崎昌吾(現在,相模原簡易裁判所)は,
「本人確認が完了していないから個人情報保護法は適用されない。」としました。
相模原簡易裁判所・岡崎昌吾は馬鹿です。
114 ◆JeacknUANQ :2011/06/28(火) 22:08:10.59 ID:cw9f7/+m

/// アドミニストレーター 4 ///////////////////

 政・財・官界では、婚姻関係によって、エリートどうしの非公式なつながりが築き上げられていく。
自民党の政治家は、先輩の有力政治家の娘と結婚することによって自分の地位を固め、次に、
自分の息子や娘を羽振りのいい有力財界人の子供と結婚させ"閨閥"を形成していく。こうした
管理者階級の結びつきをさらに強化するため、専門に世話をする仲人がいる。たとえば元華族学校の
学習院女子部の同窓会のさるグループも、その一つである。池田勇人元首相夫人が創設した議員夫人の
グループもあり、「良縁」情報を活発に交換し合っている。名門大学を卒業した婦人と通産省、大蔵省、
外務省のエリート官僚一〇〇〇人で構成される高輪会は、年に六回、パーティという形で集まるが、
すでに何百組もの上流カップルを成立させている。一九四二年の成立で、おそらくもっとも排他的な
集まりである軽井沢会は、会員の一人正田美智子が皇太子(現・天皇)と結婚し、一躍注目を浴びる
こととなった。この会は、皇室につながる人たちをはじめ、著名な産業人や政治家の家族の縁結びをする。
会員の子息は軽井沢で開かれる個人パーティで知り合うわけである。また、有望な若手政治家令官僚の
結婚相手探しを趣味として、個人の時間をすべてつぎこみエリート官庁の大臣官房の秘書課長と
緊密な連絡をとり合いながら、縁結びにはげむ人もいる。

/////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

115 ◆JeacknUANQ :2011/06/30(木) 20:50:01.22 ID:GcC2mYsI

/// アドミニストレーター 5 ///////////////////

 非公式な人間関係を技きにしては、上層管理者は果たすべき役割を果たせない。高い地位にある
日本人の実力は、彼の持つ人脈にかかっている。よい人脈を持たない官僚は、高位への昇進は望めない。
強力な人脈のない大臣は、所轄の省庁にとっても、自民党内の彼の派閥にとっても価値がない。
日本の有力政治家の力は、恩義、金、婚姻関係、政治的才腕によって作り上げた、広大で複雑に
入り組んだ人脈から引き出される。社会の中層レベルにいて人脈を作り上げるには、時間とエネルギーと
個人的な魅力とお世辞、そして、大量の酒をこなせるだけの強靭な肝臓が必要になる。会社員の
社内での評価も、彼の人脈によって大部分が決まる。企業目的を効率よく果たせるかどうかは、
部・課長クラスの者なら、電話で事を処理できる有益なコネをどれだけ持っているかにかかって
いるからだ。このような下層管理者にとっては、よい人脈が高収入につながる。たくさんの人びとに
恩義の貸しがあれば、退職後の生活の保証にもなるわけだ。

////////////////////////// 945円(税込) ///

116名無しさんの主張:2011/07/01(金) 12:02:36.80 ID:8x7ZVBj/
AGE
117 ◆JeacknUANQ :2011/07/02(土) 20:38:56.38 ID:DHICq5Im

/// アドミニストレーター 6 //////////////////

   トップ・アドミニストレーターの養成

 東大、とくにここの法学部を卒業すれば、いつでもすぐに活用できる巨大な人のネットワークに
自動的こ組み込まれる。東大法学部が日本の教育システムの頂点とされるのは、学問の質が高いから
ではない。卒業生がトップ・クラスの管理者になるという伝統があるからだ。そして、新卒者は
自動的に確立された同窓生のネットワークに加われる。
 大蔵省の課長以上の地位にある役付官僚の八八.六パーセントが、東大卒である。その他、外務省では
七六パーセント、国土庁では七三.五パーセント、運輸省では六八.五パーセントとなっている。
毎年、大蔵省が採用する新卒者二〇人から三〇人のうちの八〜九割が、東大法学部出身である。
田中角栄と竹下登という際立った例外を除き、戦後、影響力のあった日本の歴代総理大臣のほとんどは、
東大の卒業生である。戦後の内閣の重要なポストも、東大卒で占められてきた。田中内閣においてさえ、
七人の大臣が東大法学部卒だった。国会議員の四分の一以上、そして自民党議員の三分の一以上が
東大卒である。一九七〇年代なかばには、一流企業五〇社の全取締役一四三四人のうち東大出身者が
五三三人で全体の三七.二パーセントを占め、圧倒的多数を維持していた。一九九五年には、上位
一四五四社の大企業のうち四〇一社の社長が東大卒で、実質的に同じランクとされている京大と
一橋大の卒業生が、それぞれ一四〇社、七二社の社長であった。

/////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

118名無しさんの主張:2011/07/04(月) 17:41:36.87 ID:???
良スレ
119 ◆JeacknUANQ :2011/07/04(月) 21:09:24.84 ID:wK/ng1a9

/// アドミニストレーター 7 ///////////////////

 一九七二年の総裁指名レースの序盤戦は、大蔵省の最高位までいった東大卒業者の中でも際立っていた
福田赳夫の対抗馬として田中角栄が頭角を現わした時で、当時、財界の隠然たる支配者だった石坂泰三は、
田中指名に強く反対した。彼は「土方あがりに総理のイスをわたせるか」と言ったという。田中は、
日本の歴史においても数少ない、自力でたたきあげ大物ビジネスマンになった立志伝中の人物の一人だが、
経団連の会長として表向きには実業界を代表する石坂泰三は、田中を仲間だとは少しも思っていなかった
のである。そういう石坂自身は、東大法学部を出た後、逓信省官僚の職を経て、日本最初の保険会社、
第一生命の社長の座にまで昇った。彼のケースは典型といえよう。一九八〇年代に(一九八七年に
死亡する前年まで)経団連最大の実力者だった稲山嘉寛、一九六九年以来、その名が日本商工会議所と
同義語であった永野重雄、一九六八年に会長になる以前から経団連の中枢的人物だった植村甲午郎、
彼らはみな東大卒で、キャリアの初期には政府の役人をしている。日本の産業界の精鋭やほとんどの
銀行の頭取が、東大ルートを経てトップに達した者だ。

///////////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

120名無しさんの主張:2011/07/05(火) 06:51:47.11 ID:FsjIleUm
>118同感
121 ◆JeacknUANQ :2011/07/06(水) 22:10:40.78 ID:HDmnTWUr

/// アドミニストレーター 8 ///////////////////

 こうした東大法学部の卒業生(それに、京大法学部の卒業生も加えるべぎであろう)の世界は、
非常に排他的である。彼ら以外の者は、"エリート・コース"の他の支流から来た者でも、自分の
働く省庁にほんとうは"属して"いないのだとしばしば感じるという。秦野章は、中曾根内閣の
法務大臣だったが、慎ましくも日本大学専門部(夜学)の卒業生だったので、法務省と司法関係
官僚たちからいっせいにつまはじきにされた。秦野のほうも、そのお返しに、あからさまに彼らへの
憎悪を隠そうとしなかった。内藤誉三郎も、東大卒でなくて次官(文部省)の地位まで登った
数少ない人物の一人だった。彼は、それより前、課長から局長に昇格しそうになったとき、自分を
局長にしないでほしいと上役に嘆願したという。東大法学部出身者で占められている先輩たちに、
妬まれるのを恐れたのである。
 日本の詐欺師、ペテン師の類は、よく東大の卒業生になりすます。そして、正真正銘の東大出
という肩書は、見合いの相手としてこの上なく貴重な価値がある。ここで言っておかなければ
ならいのは、多くの著名な反体制の人物や丸山真男のように今の政治体制を批判する人も東大
法学部卒だということだ。彼らを日本の管理者のグループに入れることはできないが、こういった
現象の研究者が言うように、東大法学部出という経歴のおかけで、彼らは安全地帯にいて大いに
好きなことが言えるわけだ。

///////////////////////// 原書1989年刊 ///

122 ◆JeacknUANQ :2011/07/08(金) 21:49:47.32 ID:0OpfG8m7

/// アドミニストレーター 9 /////////////////

   手厚く保護されるアドミニストレーーター

 <システム>は管理者層を保護する。全体的に、エリート階級は常識をはずれたイデオロギー主導の
政治から安全に隔離されている。それに個人的にも、自分の行為の結果の責任について、一般の
日本人よりはるかに保護されているといえる。
 こういった保護がどの程度おこなわれるかは、三光汽船のケースを見るとよく判る。河本敏夫は
数回大臣をつとめ、一時は最有力首相候補にもなった自民党の派閥の領袖だが、この会社の株式の
大半を所有していた。一九九五年の夏、三光汽船は法の保護を求めて、戦後最大規模の会社更生法
適用を申請した。同社は、世界一のタンカー船隊(倒産時点で、総船腹二六四隻、計二一〇〇万
重量トン)、国内および海外に一一〇の事務所、そして子会社数社を擁していた。経営行きづまりの
原因は、無責任な投機的拡張を長期に続けた経営政策にあり、長びく海運不況のなか多額の負債を
かかえながら次々と新造タンカー船を発注しつづけ、ついに音をあげたものであった。河本の地位による
後盾がなければ、このようなことはできなかったはずだ。日本の大企業は、"メインバンク"が融資を
続けるので、ほとんど破産することがない。河本の会社の場合、すでに救済可能な段階をはるかに
以前に超えていた。三光汽船の準主力銀行二行が、首相(中曾根)も大蔵大臣(竹下)も派閥の
ボス仲間である河本を救う気はないと察知してはじめて、関係全銀行はこれ以上の多額の損失を
くいとめるべきだと、主力銀行を説得したのであった。

//////////////////////////// 早川書房 ///

123 ◆JeacknUANQ :2011/07/09(土) 18:48:35.07 ID:afO7A8X1

/// アドミニストレーター 10 ////////////////

 このように管理者グループあるものは他より厚い保護を受けている。なかでも官僚がもっとも
保護された集団であることに疑いの余地はない。憲法第一五条には「公務員を選定し、及びこれを
罷免することは、国民固有の権利である」と明記されているが、この条項ほど現実とかけ離れている
ものはない。日本の官僚は、国の正式な行政規定より上に位置している。また、政治家がらみの
金銭スキャンダルでも、官僚はたいてい追求を逸れる。
 どれほど官僚が保護されているかは、東芝の子会社がココム(西側諸国が特定分野の商品の
共産圏諸国向け輸出を統制する国際機関で、日本も加盟している)の規定に違反して、ソ連に
禁制品の機械を売った際の状況からも推測できる。この事件は、アメリカの立法府の議員の多くに
貿易問題と防衛問題とが関連していると印象づけ、日米関係に重大な事態を招くことになった。
日本の管理者たちは、この問題に対し、東芝社長の形式的な辞任と大げさに報道された人事処理を
もって対応した。

/////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

124 ◆JeacknUANQ :2011/07/12(火) 20:50:23.53 ID:oW+PGDLF

/// アドミニストレーター 11 ///////////////////

日本で適用されるココム関連国内法規定違反を監視しようという外務省および防衛庁からの協力申出を
断ったのは、通産省の役人であり、東芝のような日本企業はこのような法の規定をまじめに受け取らない
であろうということも、彼らが知らなかったはずがない。だが、通産省の役人の責任を指摘したものは
いなかった。
 官僚出身の自民党議員も、かなり安全な立場にあるグループのひとつである。彼らはもし元官僚
という経歴がなければ、もっと弱い立場にあるだろう。だが、彼らの場合には、政治家としての
地位によって、安全度が大きく変わってくるのもたしかだ。
 戦後に大企業が倒産した例は三光汽船をはじめ、他にも三、四ケースあるのを見ると、日本の
大企業がすべて安全というわけではない。日本の経済界の上層部や財界の大物リーダーは十分保護
されてはいるか、それでも官僚や政治家ほど無条件ではない。いうまでもなく、経済界の人間で
"管理者"とみなされるのは最高地位にある者だけで、そこから遠のくにつれ、いずれは単に企業家
としてのカテゴリーに入れられてしまう。

////////////////////////// 945円(税込) ///

125 ◆JeacknUANQ :2011/07/13(水) 20:43:22.89 ID:ZEY+WbvE

/// アドミニストレーター 12 ///////////////////

   相互扶助のルール

 日本の政治においてもっとも重要な要素は、管理者間、とくに政府機関相互と自民党の諸派閥の間で、
果てしなくくり返される抗争である。このような抗争のために、国内政策の幅に制限が加えられ、
世界に対する日本の態度も重大な影響を受ける。だが、これは、公と民の抗争ではない。時折、
経済四団体のひとつ、あるいはいくつかが、特定の問題に関連してある部門の官僚の姿勢にあえて
強く反対することはあるが、官僚は、通常、他省の官僚とよりも自分たちが監視にあたる民間会社
とのほうが、折り合いがよい。おおむね、政治家は官僚と経済界との両方と共生関係にある。
 管理者層での人の移動と交流が予想できるパターンでおこなわれることにこの関係がよく現われている。
生えぬきの官僚は、同一省内で局から局へとつねに異動するものであり、例外として、特別な目的で
一時的に別の省庁に出向するとか、いくつかの省庁が影響力を競い合う新設の政府機関に異動する
ことがあるだけだ。標準的な上位クラスヘの転職は、官界から経済界や自民党に移るもので、その逆は
耳にしない。アメリカのように、政治家による指名を受けた者や外部の専門家が官庁に職を得、
またやめていく状況は、日本の官僚にとってはぞっとするほどイヤなものであろう。なにしろ、
各省庁へ自民党から大臣が送り込まれることすら、煩わしいと思っている人種である。

///////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

126名無しさんの主張:2011/07/13(水) 22:47:47.67 ID:HYI0/MWW
小沢一郎は日本の宝。
我々日本国民の本当の味方。
127 ◆JeacknUANQ :2011/07/14(木) 21:05:54.78 ID:7WmrfTVC

/// アドミニストレーター 13 /////////////////

 官僚は四半世紀地道に勤めた見返りとして、自民党の代議士、国や半官半民の公団・公社の要職
あるいは、もっとも一般的には、大企業や大手銀行の重役になって、第二の人生を送るのである。
天下り官僚が天下り先から受けとる報酬は、少なくとも官僚時代の二倍の収入と、それに加えて
時によっては権勢や大盤振る舞いの給料外特典である。
 経済界の人材も自民党代議士の議席を狙うが、その数は官僚ほど多くない。経済人や自民党の
政治家は官僚にはなれないが、経済界の指導者は、各種行政諮問機関の委員長の職を委嘱され、
長期的政策の策定の指揮をとることができる。
 日本の管理者集団の間でもっとも重視される不文律は、各集団がうまくやっていけるよう、互いに
助け合わなければならないということだ。彼らは、正式にはどこにも定めのない規則に従って、
相互扶助を遂行する。時として、公の法規定の条文や精神に明らかに違反することすらある。
官僚は、国民を助成金や公共事業で買収することによって、自民党が政治を担当できるよう
取りはからっている。自民党国会議員は、官僚にゆさぶりをかけるでもなく、また、戦争直後に
登場したままの産業拡大政策の見直しに指一本ふれるでもなく放置して、官僚の仕事を奪わない
ようにしている。このように自民党と官僚は、経済界を外国の競争者から守り、拡大主義的な
事業計画に承認を与えて、経済界の健全な運営に気を使っているのである。

///////////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

128 ◆JeacknUANQ :2011/07/15(金) 22:22:23.18 ID:WRlz7SYl

/// アドミニストレーター 14 //////////////////

   日本中の建設事業が支える権力

 建設業界ほど、管理者の三大主要集団間の関係を、はっきり見せてくれるものはない。
建設省と、同省管轄産業分野についても、詳しく見る価値がある。建設業が、<システム>を
維持するうえで不可欠な要素となっているからだ。3章で述べた農業事業分野のコングロマリット、
農協とともに、建設業界が、たしかに自民党の国会支配を保証するのに一役買っている。
 建設省の威信は、大蔵省、外務省、通産省ほど高くはない。だが、国の一般会計予算をこれらの
省より多く(総予算の八〜一四パーセント)割り当てられるし、いわゆる第二の予算のおよそ
四分の一を得ている。これは他のどの省庁よりも多い。この"第二の予算" (郵便貯金などを
原資とする財政投融資計画)は、一般会計予算額のおよそ半分に相当し、事実上官僚の自由裁量
によって管理されている。建設省には、建設業者の事業免許の許認可権がある。また、直接に、
二三二の各種工事事務所と六五四の出張所を擁している。一九八六年には、五〇万件以上の公
共事業工事がおこなわれたが、その大半が同省の直接・間接の監督の下に実施された。また、
建設省の傘下には、同省からの天下りを吸収する公社をはじめ、外郭団体や組織が一六二ある。

/////////////////////// 原書1989年刊 ///

129 ◆JeacknUANQ :2011/07/16(土) 21:24:19.97 ID:b6VlY2Nu

/// アドミニストレーター 15 ///////////////////

 建設投資は、毎年、GNP(国民総生産)の一五〜一六パーセントを占め、建設産業就労者は
五三〇万人にのぼる。したがって、建設官僚は日本でいちばん力のある官僚のなかに入れなければ
なるまい。彼らが力を持つようになったのは、朝鮮戦争によって政府の建設事業が活気づけられ、
この軍需景気で蓄積された利益が都市建設ブームと大規模な電源開発事業に注ぎ込まれた時以降である。
 国の富を配分するうえで建設省がどれほど大きな役割を果たしているかは、一年中ほとんど毎日、
大勢の陳情団が同省にやって来ることからもよくわかる。とくに各局の局長室や次官室には
あまりにもたくさん押しかけるので、午前中は彼らが本来の仕事ができるよう、一九六〇年代初期から、
「陳情接受は午後です」と書いた告知がドアに張られるようになったほどだ。たとえば、その道路の
等級を指定する権限もこの省にあるので、陳情者の中には地方自治体の代表も多い。市道や県道を
国道に格上げしてもらえば、道路は政府が維持管理することになるから、地方自治体としては、
浮いた維持費を別の用途に使えるようになるわけである。

///////////////////////////// 早川書房 ///

130 ◆JeacknUANQ :2011/07/17(日) 21:35:22.24 ID:SSW+TGiZ

/// アドミニストレーター 16 ///////////////////

   恐ろしく干渉的だった大臣たち

 建設大臣は、自分自身のためにも仲間のためにも"政治資金"を集めるのに理想的な地位なので、
自民党の有力議員がもっともよく狙うポストのひとつである。建設大臣のポストは、人脈を
つくるうえで、首相や自民党の幹事長と同等の価値があると考えられている。したがって、
首相はこのポストにはほとんど必ず自分の派閥のメンバーを指名する。首相のほかに仲間を
建設大臣にできる派閥の領袖がいるとすれば、その人物は、与党内できわめて実力があることの
証拠である。もっとも有名な例は、田中角栄である。
 日本の他の官僚と同じく建設省の役人も、"強い"大臣には、二律背反する気持ちを抱く。
建て前では予算を多く獲得する力のある自民党政治家が大臣になってほしいと思う反面、
省内人事に政治の干渉がおよぶことを恐れるのだ。

////////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

131 ◆JeacknUANQ :2011/07/18(月) 18:38:50.78 ID:uozAmAJv

/// アドミニストレーター 17 ///////////////////

通常、日本の官僚と大臣とがどのような関係にあるかがわかる、異例の最たるものと考えられている
ケースがある――事実、その事例は大臣による恐るべき統制として、今も日本の官僚たちが恐怖の
時代として記億にとどめている。一九六二年から六四年まで建設大臣をつとめた河野一郎は、以前、
農林省でもそうしたように、不文律をすべて無視した人事をおこない、悪名をとどろかせたのである。
彼は、三人の警察官僚を引き抜いて建設省の最高の地位に据えた。その一つは、なんと事務次官に
次ぐ高位の官房長のポストであった。建設省での河野の最大の罪とされたのは、省としての
アイデンティティをまだ確立できていなかった当時の建設省を傷つけたことだった。建設省は、
解体された旧内務省の一部の業務を引き継ぐ形で再出発した省であり、旧内務省の中核は警察だった
からである。

////////////////////////// 945円(税込) ///

132 ◆JeacknUANQ :2011/07/19(火) 21:25:57.73 ID:5U70Jkxl

/// アドミニストレーター 18 /////////////////

 省内の人事管理上の不文律は、どこにでもある官僚のセクショナリズムによって引き起こされる
緊張状態を緩和するためのものである。日本のたいていの省庁や政府機関の内部は党派に分かれており、
時として、党派間のいさかいが高じて互いを麻痺状態に陥らせることもある。
 建設省では、上級職技官と同事務官との問につねに潜在的なあつれきがある。そしてこれは、
建設官僚が、戦前の内務省の工務局で低い地位におかれていた時代の名残りである。そこで同省では、
事務官と技官との力のバランスを保つため、約一万人の技官グループと約一万三〇〇〇人の事務官とが
ほぼ均衡を保って巧妙に棲み分けている。事務官と技官が交代で省内の最高ポストである次官に
就任する(他者では、技官はふつう次官に昇進できない)。建設省の地方建設局の局長ポストは
技官に与えられ、もっとも重要な本省の官房長には主として事務官が就くという具合だ。道路・河川の
両局長は技官、都市計画の両局の長は事務官、住宅局長は技官と事務官が交代する。どの局においても
分業は徹底していて、技官が上役の事務官を、また逆に、事務官が上役の技官を支え仕事を進める。

/////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

133名無しさんの主張:2011/07/20(水) 20:56:14.44 ID:???
★国土交通省道路局の犯罪 続報     1

河野太郎公式ブログ ごまめの歯ぎしり 2011年07月19日 20:20

財団法人道路保全技術センター(現在、精算手続き中)というとんでもない組織があった。
このセンターは、全く能力がないにもかかわらず、道路下の空洞化調査を受注し、道路の下に
あいた空洞をほとんど見逃すという人命を危険にさらすようなあくどいことをやったあげく、
解散させられることになった。
その際に、当時の理事長(佐藤信彦国土交通省元技監)は、退職金を辞退せず、留保したまま
退任して、国土交通省傘下の社団法人日本トンネル技術協会会長におさまった。
そして、センターの解散に伴う精算業務が始まると、退職金の支払いを求めて裁判を起こした。
平成23年6月30日に私が提出した質問主意書のなかの「政府は解散前の同センターに対し、
佐藤信彦氏の退職金支払いについてどのような指導をしていたか」という問いに対する菅内閣の
答弁は、「国土交通省においては、平成23年3月18日に、財団法人道路保全技術センターに対し、
佐藤信彦氏に対する退職金の不支給について検討するよう、文書により要請したところである」。
しかし、被告側のセンターは、裁判で何の弁論もせず、退職金の支払いを容認した。
判決申し渡しには、原告側、被告側双方から誰も出席しないという出来レースだ。
しかも、センター側は上告もせず、判決が確定。
なぜ、こんなことになったのかと国土交通省道路局道路保全企画室に問い合わせると、
国土交通政務官の指示ですとの答え。

134名無しさんの主張:2011/07/20(水) 21:05:33.58 ID:???
★国土交通省道路局の犯罪 続報    2

それだけではない。
このセンターに残された30億円ちかい資産についても、その全額を国が召し上げるはずになっていたのが、
同じ国土交通政務官の指示で、国交省の天下り法人も寄付先に指定された。
社団法人土木学会、公益社団法人地盤工学会、独立行政法人土木研究所だ。独立行政法人土木研究所などは、
国土交通省から官僚が研究所の理事に現役出向している。
国土交通省の天下り組織の焼け太りではないか。しかも政務三役ぐるみで。
さらに今年の1月7日付けの中央環境審議会大気環境部会の委員名簿をみると、諸悪の根源の
日本トンネル技術協会会長が臨時委員として名を連ねている。
人命を危険にさらし、国費をかすめ取っていた国土交通省の天下り組織のトップでも、環境省なら
政府の審議会の委員になるのか。
政治主導はどこへ行った?


河野太郎公式ブログ ごまめの歯ぎしり 2011年07月19日 20:20
http://www.taro.org/2011/07/post-1053.php
135 ◆JeacknUANQ :2011/07/21(木) 21:24:24.12 ID:???

/// アドミニストレーター 19 ////////////////////

 官僚がもっとも気にしていることを無視して、河野が人事を発令したものだから、省内は大荒れに荒れた。
(外務・大蔵・通産省にならぶほどの)強力な大臣がこの省を統率した例は他にもあったが、官僚の
慣例にまで干渉しようとした者は他には一人もいない。河野は、東大卒ではなく早稲田大学の出身で、
一九三〇年代初めに政界入りするまでは新開記者をしていた。
 もう一人、大物政治家がいた。官僚の経歴がないばかりでなく、大学さえ出ていない田中角栄である。
田中は、むき出しの権力行使という河野のやり方とはまったく違う別の方法で、政治家が官僚をコントロール
できるということを示した。彼は、官僚の期待にそむくようなことは決してしなかった。官僚により
自信をもたせ、彼らの自由裁量による権限をも増大させた。田中は衆院建設委員だった当時から、
省内の官僚に大変気に入られていた。首相になってからも、その後もずっと、彼はこの省をしきって
いたのである。そうした省の官僚はいまだに田中に対し好意をもっている。

//////////////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

136 ◆JeacknUANQ :2011/07/22(金) 22:16:33.56 ID:???

/// アドミニストレーター 20 ///////////////////

   選挙運動と談合

 建設省出身者は、総じて選挙に強い。これは、建設省にとってもありがたいことだ。自民党内に
力のある代表がいると、建設業界に利益をもたらす法案の承認を対抗勢力に阻止されずにすむから
である。どの省庁についてもいえることだが、自民党の要職に出身者が多ければ多いほど、
その省庁が出す予算案や法案も通りやすいということだ。
 選挙における建設官僚の強さが最初に証明されたのは、一九五九年の参院選だった。わずか
半年間だけ次官だった米田正文が、全国区で空前の大量得票を果たし一位当選したのである。
これについで、鹿島建設会長の鹿島守之肋がやはり大量票を得たのをみても、建設事業の選挙に
おける威力のほどがわかろう。
 日本の選挙戦では、どの候補者も自分の尽力でこの道路も、あの橋も、そのトンネルもできたと、
数えあげるのが普通になっている。だが、建設関係の候補者が主力としてたよるのは、建設省の
地方現業組織である。各地の地方建設局が選挙運動の調整統合役を果たす。彼らは悪びれる風もなく、
堂々と建設省出身の立候補者を支持してはばからない。現役の建設大臣が、公然と選挙運動に
参加することもある。建設省はまた、都道府県の土木部長の任命についても、非公式ではあるが
隠然たる影響力をもっている。それがまた、選挙時の支援力にもつながる。

///////////////////////// 原書1989年刊 ///

137 ◆JeacknUANQ :2011/07/23(土) 21:13:11.30 ID:???

/// アドミニストレーター 21 ///////////////////

 また、各河川の流域ごとに関係者で構成する治水同盟も、建設省の河川局と密接な協力関係にある。
 建設会社自体も、後援会の中心となり、票集めネットワーク作りや維持に熱心に力を往ぐ。とくに
建設業界につながる候補者でなくても、大手建設会社の社長が自民党候補の集票マシーンの中で
中心になって働くこともよくある。これら建設会社が、秘書や車をその候補者に貸すのはその典型である。
こうして、選挙のない年も、その社の影響力を引きつづき残せる。
 自民党政治家と建設業界との実質的な共生関係は、組織的な不正談合入札操作の上に築かれている。
要点だけを説明すると、建設会社が公共土木工事入札指名業者となるためには、まず力のある政治家に
金でとり入らなければならない。次に、他の指名業者との談合がおこなわれて、仕事をもらう業者が
決まる。談合をとりしきるのは、談合屋と呼ばれるその地方のボスであり、談合屋が介在しない場合は
大手業者が調停役になる。この談合の仕組みにより、参加する業者は必ずいつかは公共事業をもらえる
ことになる。大規模な公共事業の入札の場合だと、指名リストに加えてもらうために業者が政治家に
一〇億円以上の金を積むことがある。

/////////////////////////////// 早川書房 ///

138 ◆JeacknUANQ :2011/07/25(月) 21:04:07.33 ID:zLCNgwLH

/// アドミニストレーター 22 ///////////////////

 許認可権は法律にもとづく権限であるが、官僚は、自民党の実力者が推薦した特定の業者を
拒否できる立場にない。表向きには一般公開入札であるから、実態は業者間の談合できまっても、
公式には官僚の与り知らぬことである。談合の結果、その回の落札業者と決定された業者は、
役人から内々に手に入れた情報にしたがって入札額を決める。そして、他の"競争"入札者たちは、
それを上回る入札額を出すわけだ。指名業者を選ぶ公的な委員会もあるが、少数の実力者に
しきられていて、審査はお座なりのものにすぎない。一九八二年には、談合体制に対する批判が
高まったので、建設省は、公共事業の指名競争入札業者を従来の一〇社程度から二〇社に倍増する
という通達を出した。ところが、建設業界ともっとも緊密な関係にあった自民党の実力者から
圧力がかかり、一年後にはこの通達も撤回された。

/////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

139 ◆JeacknUANQ :2011/07/26(火) 22:01:11.76 ID:LDoio31r

/// アドミニストレーター 23 ///////////////////

 建設省自体も、入札操作をきらっているわけではない。現に建設省からの天下り官僚を受け入れた
建設会社は、最低一回は大規模な工事をもらえることになっている。そうした場合、建設省の
政治的決定に敬意を表するという暗黙の了解が、"競争"入礼者の間でできている。たとえば、
ダムエ事の指名"競争"入札業者の中の一社が、退職する建設省の役人に快適な第二の人生を送る場を
提供すれば、その会社が必ずその工事を落札できる。その工事一〇年続くものなら、一〇年は
その人の顔で工事が続けられる。こんなことがあっても、野党の政治家は騒ぎもしない。彼らの中にも、
建設業界を通して有利に票を集めようとする者がかなりいるからだ。
 自民党の八〇年代後半の最有力者の一人、金丸信は、公正取引委具有が談合の実態にメスを入れよう
とした動きに抗し、この仕組みの維持、強化に中心的役割を果たした。金丸は、建設業を代表する
自民党議員の中の中核的人物であり、東京湾横断道路建設などの巨大公共事業工事から莫大な益を
得るであろう。また、金丸の援助なしには、竹下登も首相にはなれなかっただろう。

///////////////////////// 945円(税込) ///

140 ◆JeacknUANQ :2011/07/27(水) 21:55:14.98 ID:OgA4J4qU

/// アドミニストレーター 24 ///////////////////

 七〇年代以来、自民党の政治家は、建設業界の有力者の子息と婚姻関係を結ぼうと一生懸命である。
中曾根元首相の娘は鹿島建設の社長の息子と結婚している。竹下も、ひじょうに心地よく建設業界の
内に鎮座している。すなわち竹下の長女は、金丸の長男と結婚し、竹下の秘書をしている弟は、福田組
(東証二部に上場)の社長の娘と結婚、さらに、三女は、竹中工務店の前社長の次男と結婚している。
また、彼には、一八の建設会社の直接的な支持がある。竹下が首相になって間もなく、地元の島根県から
要望のあった工事はすべて、一九八八年度の当初予算案に組み込まれた。各県の代表は通常、毎年、
大蔵原案にもりこまれなかった予算の復活折衝の陳情に並々ならぬエネルギーを費やす。だが、
その時の島根県知事は、新総理に対する(官僚からの)「ご祝儀」の大盤振る舞いに対し、お礼回りを
するだけでよかった。第一次竹下内閣の建設大臣は愛媛県選出の国会議員だったが、ここも、重点要望
していた公共事業工事にはほぼ満額で大蔵原案が出ているという幸せに恵まれた。

///////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

141 ◆JeacknUANQ :2011/07/29(金) 21:42:14.91 ID:lcSJtdxR

/// アドミニストレーター 25 /////////////////

   交際好きな建設業者

 官僚志望者の中で、頭がよくて家系もよい者は大蔵省に入ろうとし、頭脳だけの者は建設省に行くと
いわれる。後者のほぼ全員が、家系のコネに恵まれた連中に阻まれる心配もなく、いずれは、どこかの
会社の重役になれる。必要なのは、"夜の部の仕事"にも耐えうる強靭な肝臓だけである。建設官僚は、
行政官僚の中でももっとも豪勢に接待されるからだ。
 国税庁は、建設業を二番目に"社交的な"業種としてあげている。一位は卸売業という雑多な業種である。
一九八五年には、建設業界は企業交際費に六三五八億二〇〇〇万円使った。建設官僚は、市長、
地方自治体の代表、国会議員などからも接待を受ける。彼らは東京でもごく限られた人びとだけが行ける
法外に高い料亭のいちばんのお得意さんであり(通産官僚が後に続く)、建設省自体が勘定を支払う
こともある。一九七七年には、会計検査院の調査官に対する建設省の主な出先工事事務所の接待費が、
わかっただけで約八○○万円にのぼっていたことが暴露され注目を集めた。

//////////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

142 ◆JeacknUANQ :2011/07/30(土) 19:54:36.64 ID:W8mQ2dbR

/// アドミニストレーター 26 ///////////////////

 建設省は、約三五〇社の土建元請業者の"ゴッドファーザー"だと、よく言われる。同省の官僚は
業者の入札指名をおこない、重要な情報を事前に業者に渡し、"おおげさな"検査は控え、さらに、
民間部門についても影響力を行使して、元請業者を助けてくれる。公共事業の総額は民間の
建設契約額より少ないが、石油危機のあと企業の投資がスローダウンして以来、公共事業が
大いにもてはやされてきた。おまけに、公共事業は契約金の四割が前渡しされるが、実際の
工事をおこなうのは支払いが一年も遅れても了承する下請け業者なので、その間、この現金は
元請の手元資金となる。

///////////////////////// 原書1989年刊 ///

143 ◆JeacknUANQ :2011/07/31(日) 21:14:03.18 ID:QgTFaLqK

/// アドミニストレーター 27 ///////////////////

 出先機関である地方建設局は汚職で摘発されることが多く、悪名高い。しかし表沙汰になる
ケースは、全体から見るとごく一部にすぎないだろう。そして建設省の本局まで責任が及ぶのは
ごくまれである。一九七三年に、河川局次長が逮捕され辞職に追い込まれたことがある。もっとも、
彼にはその後、上場企業の顧問の職が与えられている。建設省は、事件の広がりをくいとめるのに
役人一人を犠牲にしたのである。建設省内では、「現金と女には手を出すな」とささやかれている。
つまり、他の形の贈り物や接待を受けるのは許容範囲だという意味である。絶対に尻尾をつかまれない
収賄のひとつは、退職する役人に現金を渡す"餞別"である。たとえば地方建設局の出張所員
クラスでも、"餞別"が一〇〇万円をこえることもあるのだから、高官がもらうのは、おそらく
仰天するような額であろう。

///////////////////////////// 早川書房 ///

144 ◆JeacknUANQ :2011/08/05(金) 20:36:25.77 ID:vw0EN8c8

/// アドミニストレーター 28 ///////////////////

 政治家や官僚用の資金が不十分で、金の威力を威力を最大限に発揮させる人脈もない建設会社が
生き延びるのが難しいことは明らかだ。地元への利益誘導によって自民党支配が維持され、
また何百万人もの建設労働者、日雇い労働者、パートタイムで働く農民や農民の妻の仕事も
創出されている象徴的な姿が、日本中の農村部いたるところで見受けられる。昔は水田脇の
小川だったのが、巨大なコンクリート水路に変わっている。ひどい豪雨でも底が見えているものや、
草が生い茂って水路に見えない所もある。五〇〇メートルしかない道路の両側に小さな民家と
店が並ぶような田舎に、モダンなオペラ・ハウス級の公会堂と市庁舎群が建ったりする。
コンクリートの骨格工事がおわったままで放置されているところもあちこちにある。かとおもうと、
カーブをたった一本まっすぐにするのに、多額の工事費をかけてトンネルが作ってある。
地方における土木工事には、終わりがない。小さな砂防ダムを人里離れた川の上流にいくらでも
作れる。このような利権を面前でちらつかされる野党県議や市議も、そのイデオロギーに
かかわらず、<システム>の代表者に協力せざるをえなくなるのである。

///////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

145 ◆JeacknUANQ :2011/08/06(土) 09:58:16.36 ID:0BnidfNj

/// アドミニストレーター 29 ///////////////////

   「奇跡の経済」立役者の浮沈

すげての官僚が、建設官僚のように管轄下の業界となれないでいるわけではないし、自民党の圧力に
弱いわけでもない。農水省は建設省と似たり寄ったりだが、大蔵と通産の二つの経済官庁は、より
"責任感のある"省とみなされ、それだけ信頼も大きい。
 官界の頂点に立つ大蔵省は、無数にある人脈を通して裏取引が行きすぎて害を及ぼさないよう監視し、
<システム>を守る役目を非公式に担っている。他省の官僚が、助成対象の利益団体に追従したり、
政治家に左右されすぎると、予算折衝時に大蔵官僚にそっけなく扱われてしまう。特別な要望や
新規の事業計画を有利に扱ってほしければ、大蔵省内で自省の評判をよくしなければなるまい。
そのための基本条件は、数字をごまかさないことである。

////////////////////////// 945円(税込) ///

146 ◆JeacknUANQ :2011/08/09(火) 20:54:22.10 ID:8kB9BkQU

/// アドミニストレーター 30 /////////////////////

 大蔵省のもう一つの主要機能は、銀行から民間企業への資金の流れの調節にある。戦後、日本の
企業は公募市揚での資本調達には頼れず、銀行からの借入金に依存するしかなかった。実質的に、
産業界の唯一の資金源は銀行だった。銀行は、系列企業内の企業の株式の大きな部分を保有する。
密接に連携し合い、ごく一部の保険会社や信託銀行の投資機関とも連携してヒエラルキーを形成する
銀行群には、強大な政策推進力がある。この銀行群を指揮監督するのが、日銀と大蔵省である。
(系列コングロマリットに属する)いわゆる市中銀行は、その貸出戦略について日銀の承認を
得なければならない。四半期ごとに、これら市中銀行は計画案を提出し "窓口指導"をうける。
今や資金不足の時代は過去のものとなった一九八〇年代においては、"窓口指導"も形骸化したと
一般も官僚自身も考えるようになってきた。だが、東京在住の外国銀行筋や一部の専門家は、
窓口規制は依然として強力な統制手段であると考えている。大蔵省から独立したいという日銀の
意向はいまだ成功していない。したがって、"窓口指導"でも、大蔵省の意見が最終決定になる。
大蔵省の直接統制も強力である。この間の事情に詳しい三國陽夫は、大蔵省銀行局のフランチャイズ
チェーンの親企業にたとえて以下のように言っている。

//////////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///
147 ◆JeacknUANQ :2011/08/10(水) 21:01:30.15 ID:+5JwEqlI

/// アドミニストレーター 31 ///////////////////

   市中銀行はフランチャイズの子店の役割をする。霞が関にある砦のような大蔵省のビルでは、
  ワイシャツをの腕をまくり上げた四〇歳くらいの課長が、五人ずつのグループで訪ねて来る
  ダークスーツの銀行家にきびしく、命令を下す。過去数十年にもわたり――そして今もなお――
  このような儀式が、金融統制の中核になってきた。重要な内容は文書に書き表すことも詳しい
  説明もされない。課長が申し渡す口頭による指導が、統制の伝統である。この方法がながく
  続いているのも、銀行の利益を守ることが中心目的だからである。

 右の過程が日本経済に不可欠な非公式性を帯びていることは明らかだ。同氏がさらに言うように、
"統制"といっても、欧米でいう意味での統制ではない。審判もおらず、「実質的に官僚が選手兼監督を
つとめながら銀行チームを引っぱっていく」のである。大蔵官僚は、他省の官僚からも一目おかれるのが
普通である。国民大衆が彼らに対して抱いているイメージも、公共の利益だけを考える私心のない、
仕事熱心な、自己犠牲的な理想の公務員に近い。たしかに、大蔵官僚の大半が仕事熱心だ。
こんなジョークがある。ほとんど一年中、妻の顔もめったに見ずに過ごすから、主計局員の子供は
春と秋に生まれる子が多い。すなわち予算編成がおわってほっとしてできた子が秋に生まれ、
通常国会のあとにできた子が春なのだという。ここ何十年か、彼らの離婚率が異常に高くなっている。
おそらく、エリート志向の上流階級の妻たちも、不在がちの夫との家庭はもはや望まないのであろう。

///////////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

148 ◆JeacknUANQ :2011/08/12(金) 21:37:27.11 ID:i2TVUPPw

/// 今こそ、「明治維新」的改革を 13 //////////

 この結果、官僚(幹部公務員)は、国民に最も信頼されない職業集団になり下がった。
二〇〇九年五月の朝日新聞の世論調査では、官僚は「信用していない」が三五%、「あまり
信用していない」が四五%、一二頂目の中で「信用度」最下位だった(5−1図)。
幕末の武士、太平洋戦争末期の軍部に似ている。
 その機会を捉えて、○七半、安部晋三内閣は渡辺喜美氏を行革担当人臣に起用、公務員改革に
乗りだした。そこで私は「公務員制度の総合的な改革に関する懇談会」(座長/岡村正
日本商工会議所会頭)の座長代理となり、「国家公務員制度改革基本法」の原案を自ら書いた。
担当の事務局(官僚)に書かせると、必ず議論が歪曲され、逆効果的なものになる。
審議会や懇談会の答申は本来委員が執筆すべきものだ。

////////////////// 講談社 2009年9月発行 ///


149 ◆JeacknUANQ :2011/08/13(土) 21:56:03.63 ID:KBlEFz6A

/// アドミニストレーター 32 //////////////

 大蔵省は公務員の鑑以外のどんなイメージも与えたくないだろうが、ここのエリート中のエリートの
育成と大蔵省をとりまく環境を見ると、他省庁の官僚とくらべ強烈な野望を持っていないとはいえない。
むしろ、まさるかもしれない。総選挙においても、彼らは他省庁出身者より大蔵省出身者がより多く
自民党の公認候補になって当然だと考える。天下り時にも、当然、経済界ヒエラルキーでの最高地位が
与えられるものと考えている。実際に、公社や銀行、保険会社、証券会社、そしてコングロマリット企業の、
トップ経営陣の高所得のポストを与えられることが多い。
 官界でのランクが高ければ高いほど、天下りのポストもよくなる。日銀や日本輸出入銀行、日本開発銀行、
公団の総裁・理事長になる可能性がいちばん高いのは、元次官である。だが、官僚の最終ゴールが
なんであれ、しかるべき人脈があってはじめて到達できる。したがって、官僚在職中に、経済界や
政治家との間に後援者と依頼人という関係を十分に深めておく必要がある。
 大蔵官僚の黄金時代は、米軍占領時代から一九六〇年代なかばまで続いた。通産官僚と二人三脚で、
多かれ少なかれ彼らが日本を運営したといえるのが、この時期である。金融と財政に関する政策を彼らが
一手に握っていた。"日本のCIA"というあだ名がつけられるほど、彼らは、秘密主義であると同時に
きわめて詳細に情報を得ていた。そして彼らがなにをしているかについてみお、また、彼らが利用できる
財源の状態についても、彼ら以外には誰にもくわしく判らなかったから、その指示はほとんど疑問を
呈されることもなく通った。

 ・・・・
/////////////////////// 原書1989年刊 ///

150 ◆JeacknUANQ :2011/08/14(日) 22:16:33.16 ID:+5P+uswZ

/// 早川書房 //////////////////////

 カレル・ヴァン・ウォルフレン(Karel Van Wolferen) (著)、篠原 勝 (翻訳)、
 原著1989年発行、邦訳 早川書房1990年発行
 「日本/権力構造の謎」 The Enigma of Japanese Power
 日本 権力構造の謎〈上〉 ハヤカワ文庫NF、945円(税込)
 ISBN-10: 4150501777  ISBN-13: 978-4150501778

 http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4150501777.html
 http://www.7andy.jp/books/detail?accd=18988933
 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4150501777/
 http://www.bk1.jp/product/01055138
 http://books.rakuten.co.jp/RBOOKS/0000650744/
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 http://www.7netshopping.jp/books/detail/-/accd/1101172635/subno/1

////////////////// 絶賛発売中!///

151 ◆JeacknUANQ :2011/08/15(月) 23:25:06.54 ID:1zqFKM7D

/// アドミニストレーター 33 //////////////////

 ・・・・

  構造汚職

 概して、管理者の間の統制および相互依存性については、三つの問題点から論じられることが多い。
すなわち、強力な経済関係者による経済界の統制と保護、官僚と自民党政治家との間のパワープレイ、
そして経済界による自民党支持である。三番目の問題点および政治資金という決定的に重要な問題
については、さらに詳しく見ていかなければならないのだが、その前に、それまでの近代日本には
まったくなかった一大帝国を<システム>内に築き上げた、一人の政治家の来歴を見ておくことには
価値があるだろう。
 田中角栄――この名はすでにこれまでにも本書の他のさまざまな事象に関連して登場している。
なぜ彼のキャリアを詳しく見る必要があるかというと、彼が日本の管理者の世界のなかに築きあげた
帝国は、互いにからみ合う非公式な人的ネットワークと、政治行動を律する不文律によって維持
される現<システム>の見事な縮図だからだ。田中は、だれにも勝る人脈づくりの名人だった。
彼の成功物語は、完璧な人脈づくりの技に熟達した者はこの国を支配できる、ということの
実証になる。

///////////////////////////// 早川書房 ///

152 ◆JeacknUANQ :2011/08/16(火) 21:45:09.16 ID:ecpcYRBF

/// アドミニストレーター 34 ///////////////////

   "ヤミ将軍"

 一九八三年のある目、田中が呼吸困難に陥ったと聞いて、首相をはじめ自民党の重要人物の
ほぼ全員が彼の病床に見舞いに駆けつけた。田中の力をこれ以上みせつけるエピソードは他に
ないであろう。一九八五年には、脳梗塞で倒れ、それ以後は政治力にかげりが見えはじめたのだが、
その時には、永年、反田中勢力と認められてきた宮沢喜一までが病院に馳せ参じた。その時点では
まだ、首相になるためには田中の支持が必須条件であるのを宮沢は知っていたのである。
 田中角栄は、道路工事人夫から身を起こした。小学校を終えた後、夜学の土木工学科に入ったが、
その授業料も東京の土木工事請負会社で働くようになってはじめて払えたほどであった。しがない
馬喰だった父親はばくち好きで、一家がなんとか食いつないでいくには、母親ががむしゃらに
働かなければならなかった。幼くして母親の苦労する姿を見て育った息子は、しゃにむに出世を
めざして努力すると日本ではよく言われるが、田中母子はその典型だった。

/////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///


153 ◆JeacknUANQ :2011/08/17(水) 20:38:56.57 ID:VvvULf67

/// アドミニストレーター 35 //////////////////

 一九歳の時、田中は小さな設計事務所を開いた。実家が建設会社を持つ、再婚の女性と結婚した
ことが大きなチャンス到来のきっかけとなった。一九四三年に、彼は、その会社の再建を任された
のである。田中は、ピストン・リング工場を朝鮮に移設するというリスクの高い戦時契約を請負い、
支払われた軍票を抜け目なく円貨に交換し、一財産築いた。その資金の入手経路について、
敗戦後だれも質した者はいない。この財力をバネにして彼は、一九四七半に、衆議院議員の席を
獲得した。そしてツ記録的な早さで、その10年後には郵政大臣になり、その五年後には、日本の
最年少大蔵大臣になったのである。さらに、一九七二年には、学歴もない、たたきあげの人物が
首相になって歴史を作ったのであった。
 総理大臣になった田中は、国民的英雄であり、戦後日本の活気溢れる経済、流動性の高い社会、
民主主義の生きたシンボルとして敬われるようになった。首相の座についた二カ月後に、彼が
日中復交という外交の成果を土産に北京から帰ってくると、一般大衆も新聞も、この"コンピューター
つきブルドーザー"の指導の下に、日本もその力を世界に示せるようになったと確信し、
"田中ブーム"をまきおこした。

//////////////////////// 945円(税込) ///
154 ◆JeacknUANQ :2011/08/18(木) 21:20:38.96 ID:6Q1jC5ku

/// アドミニストレーター 36 /////////////////////

 それからほぼ一一年後、田中は、ロッキード収賄事件の第一審判決で有罪になったにもかかわらず、
悔恨の意を示さないといってヒステリーに近い批判の矢面に立だされることになる。田中は日本人に
あるまじき悪行を働いた悪者である、したがって社会から排斥されるべきだ、というのが新聞の
描き出した田中像であった。実際には、彼にケチがつきはじめたのは一九七三年である。田中と
彼に忠実な官僚が、"日本列島改造"という大がかりな計画(骨子は、拡大発展する産業を地方に
受けいれさせる案)に着手したころから、野放図な過熱経済が日本人の生活の質に及ぼす影響について、
重要な疑問が表出しはじめていた,田中がニクソンに続いて北京入りした直後、最高潮に達した
大衆の田中賛美熱も、インフレと経済不安が昂じるにつれ急激に冷めはじめた。このような事態は
主として田中登場以前からの官僚の誤算が結果として顕在化したものだが、一九七四年までには
日本の悪いところは、田中の"金権政治"が原因だと多くの日本人が思いだした。これは新聞が
作り出した考えであった。政治漫画にあらわれるのも、金庫をかついだり耳や鼻や口から紙幣が
溢れ出てくるといった田中の図であった。まさしく彼は、すこしばかり不快味をおびてきた
"経済的奇跡"の生きたシンボルにされたのである。

//////////////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

155 ◆JeacknUANQ :2011/08/19(金) 20:35:11.09 ID:SojMt1OY

/// アドミニストレーター  37 ///////////////////

 月刊誌『文藝春秋』のスキャンダル暴露記事によって、ダミーを使った彼の金融取引の一部が
報道された結果、一九七四年も終わりに近づいた頃、田中は首相を辞任するよう迫られた。だが、
いよいよ本格的に田中攻撃の幕が切って落とされたのは、一九七六年の春にロッキード収賄事件が
露顕してからである。その年の夏、彼は、受託収賄罪と外国為替管理法違反で起訴された。
数日間の拘置によって彼が負ったいちばんの痛手は、新聞から敬称が技けたことであった。
 田中が必死に勢力を拡大しはじめたのは、贖罪の象徴に自民党を離党(ただし議席はそのまま)
してからである。彼の派閥は、首相在職中は八○人から九〇人だったのが、それまでで最高の
一二二人に増やした。第一野党の議員数を上回るまで派閥を拡大したうえで、官界および経済界の
全体に及ぶ入り組んだ人脈のネットワークを強化し、さらに自民党他県内に多くの"隠れ田中派"を
作り出した。こうしてできあがった勢力全体を"田中軍団"という。その力によって、田中は昔からの
盟友である大平正芳の首相の座を守り、次の首相に鈴水善幸を、さらに、その後継者として
中曾根康弘を選べたのであった。"与党"の党員でもない彼に、これだけのことができたのである。
正式に承認されなくても、全体を掌握する権力タイプの究極の例といえる。

////////////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

156 ◆JeacknUANQ :2011/08/20(土) 15:06:20.99 ID:bKnZUzPR

/// アドミニストレーター 38  //////////////////////

 一九八五年二月二七目、田中は脳梗塞で倒れた。おそらく、連日の多忙なスケジュールをこなした
疲労と、呼吸困難症の病歴のためだろう。もう一つ、彼と親密だった政治家の話によれば、当時まだ
"田中軍団"の三、四番目の副司令官だった竹下登が、首相の座を目指すことを宣言すべく、田中派の
メンバー四〇人からなる"勉強会"を作ったことに対して、田中が怒りを押さえ切れなかったことも、
発病の原因にちがいないということだ。竹下は、一九八七年に首相の座を獲得した。
しかし、八九年五月リクルート事件に関連して辞任している。
 この間、日本の政治活動についての報道メディアの目は、とうてい信じられないほど狭められた。
一九六〇年代から七〇年代後半までずっと、報道メディアが取り上げつづけたのは、権力を独占する
自民党だけであった。一九七〇年代後半から八〇年代初めにかけては焦点がさらに狭められ、話題は
田中軍団内の策謀だけに集中する。一九九五年の春には、近親者と忠実な秘書・早坂茂三以外は
だれも近寄れない田中の病床に好奇の目は集中していたのである。常時、カメラマンの大群が二つ、
田中の入院している病院の向かいのビルの屋上と、田中の豪邸の塀の外にかけたはしごにのぼって
待機していたのだが、どちらのグループも、田中が病院にいるのか自宅にいるのかさえ
確認できなかったのである。

///////////////////////////// 原書1989年刊 ///

157 ◆JeacknUANQ :2011/08/21(日) 09:57:49.20 ID:Gxjr2dm2

/// アドミニストレーター  39  /////////////////

 一方、トップの管理者もだれに指示をあおげばよいのか突然判らなくなってしまった。田中が
病いに倒れた結果、国鉄や民営化で日本最大の民間企業になったばかりのNTTのトップの地位に
だれを置くかも決まらない。多くの都道府県で進行中だった、公共事業に関する交渉も一時中断
されたほどである。中曾根首相とその内閣が生き長らえるかどうかも急にあやしくなった。
 とうの昔に田中は、<システム>の中心は空洞だということ、つまり本署の中心テーマの一つを
発見していたのである。戦前の関東軍の中階級の士官たちが気づいていたのと同様に彼も、的確な
テクニックさえものにすれば、比較的簡単にこの空隙を利用して対抗する権力者たちをも自分の
後ろにつかせ得るということに気づいていたのだった。そこで彼は、本来の機能を果たしていない
議会制民主主義の殼の中に、非公式の幕府を作りあげたのであった。たぶん、<システム>を完全に
支配することは彼にもできなかったであろうが、近代日本のだれも達したことがない域まで
達したことはたしかである。

/////////////////////////////// 早川書房 ///

158 ◆JeacknUANQ :2011/08/23(火) 21:26:11.72 ID:AXaphllQ

/// アドミニストレーター 40 ///////////////////

 田中の権力は、互いに強化しあう多くの要因が相乗しあってできていた。なかでも彼の力強さの
もとは、官僚を鼓舞して行動させることができたこと、そして実質的に自分の派閥の議員に再選を
保証できたことの二つの力があったことである。
 国会議員に対する日本の有権者の評価基準が、中央官僚に道路や橋、鉄道を作らせ、病院や学校を
建てさせる能力を持つかどうかであるかぎり、たしかに田中以上の議員はいない。その昔、田中の
地元新潟は、孤立した日本海沿岸のもっとも貧しく無視されがちな地域の一つであった。それが
今日では、舗装道路におおわれ橋もたくさん建設され、住民数二、三〇人といった小さな村に
つながるトンネルもできた。県内を走り技ける高速道路も二本でき、かろうじて村といえそうな
水田の中の集落のために、超特急が止まる巨大なコンクリートの駅もある。政治家の力でおこなわれた
利益誘導による土木開発事業が、これほどまであからさまに見られる所は、おそらく新潟以外
地球上どこにもないであろう。ここ以外の全地域の住民が羨ましく思っても当然だ。なにしろ、
一九八〇年代なかばで新潟県民一人当たりの国税からの支出は、全国平均より六〇パーセントも
多いのである。八〇年代後期においても、新潟は、他のどの都道府県よりも多く公共事業補助金を
もらっている。

/////////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

159 ◆JeacknUANQ :2011/08/24(水) 22:20:53.18 ID:ou/AWzoH

/// アドミニストレーター  41 ////////////////

 田中は、東大卒で固めた官僚の要塞をも征服してしまったのである。それは個人的な魅力と
官僚がご執心の計画に大いに興味を示したためだったが、とりわけ重要だったのはその驚異的な
記憶力である。法律の条項や抜け穴、また、官界でも最高レベルのエキスパートとの会話を
通して集めた無数の情報を、彼はすべて記憶していた。彼は、官僚の弱味をにぎり操縦のツボを
心得ていた。後にも先にも不世出の政治家として、彼はどの省庁のどの課が正式にどのような
事柄の決定をする責任があるかも明確に知っていた。筆者は、田中の評判が落ちたずっと後
高官何人かにインタビューしたが、八年以上も前に、なにかのついでにちょっと助言したことの
詳細にいたるまで、田中が覚えていたといって、彼らは懐かしそうに語ったものだ。そのエネルギーと
知識のおかげて、田中は接触した官僚すべてに賞賛され敬意を表されるようになったのである。
 彼の才能は、自民党を動かす官僚出身の有力政治家たちからも認められた。岸と池田はそれぞれ、
田中にうまみのある郵政大臣と内閣の中でいちばん重要な大蔵大臣のポストを与え、その後、
佐藤首相も、彼を自分の派閥の経理責任者にすえ、自民党幹事長にした後、通産大臣に
任命している。

//////////////////////// 945円(税込) ///

160 ◆JeacknUANQ :2011/08/25(木) 21:34:44.13 ID:tIdZnY22

/// アドミニストレーター 42 ///////////////

 田中は政治経歴の初期に、新潟県の農民と季節労働者を組織したことがある。彼らは、何代にも
わたり搾取されつづけていたのだが、戦後は、左翼の活動家として台頭してきていた。そういう
彼らさえ、保守的な中央の政府・官僚の牙城を攻略して、奇跡的で即効力のある成果をあげる、
この頼りになる政治家にすっかり入れこんでいた。
 票集め組織であるよ"後援会"のなかでも、田中の越山会はユニークさで評判になり、多くの
後援会の手本になった。この組織は新潟県内だけでも九万二〇〇〇人の会員を擁し、各支部を
連結して一大ネットワークを保持し、冠婚葬祭の面倒をよくみるよう気を配った。一九七五年までは、
新婚カップルと八〇歳以上の老人の誕生日には、田中本人が署名したお祝いの色紙が贈られていた。
この方法が禁止されてからは、祝電が送られた。葬式となると、必ず毛筆書きで田中の名入り
大ろうそくが供えられる。越山会の取りもちで、大勢の人が結婚し、少なくとも一万人が職を得た。
田中の世話になった者は、親族ぐるみで一生彼に恩義を感じることになる。東京の田中邸では、
毎朝、取り巻き連と会い、御大みずからが数十人から数百人の陳情をきく。結婚を取りもったり、
就職ロを探したり、老齢者のための週末旅行を企画したり、訪問者の世話をしたり、地元の
もめごとの仲裁をしたり、というようなことは、今日のたいていの自民党政治家が、日常業務の
一部としていることだ。だが、大規模処理方式を完成させたのが田中である。

/////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

161 ◆JeacknUANQ :2011/08/26(金) 21:22:41.60 ID:977vUUwB

/// アドミニストレーター 43 /////////////////

 地方で効果のある票集めテクニックが全国的規模でも利用できることを発見した田中は、
日本の政治の歴史に独創的な貢献をしたことになる。彼は、日本中の村長、市の役人、校長、
地方の政治家などの権威ある地位の人びとがかかえるすべての問題に関心を示した。その場で
必要な資金や官僚の介入を約束できないとしても、彼の恐るべき記憶力のおかけで、少なくとも
電話の向こうの相談相手に、自分に任せておけば安心だと思わせることができた。こうして、
日本中の大勢の地方ボスを彼の賞賛者に変え、田中は彼らの東京代表とみなされるようになった。
彼らは、全面田中支持でなくてもよかった。他の政治家への忠誠心とか、自分の評判のため
田中に近すぎると思われたくない相手には、愛想よく「まあ、そこそこの支持」でよいから
と言うのが、田中の電話攻勢のやりかただった。

///////////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

162 ◆JeacknUANQ :2011/08/27(土) 08:33:11.70 ID:zqIoH3Pf

/// アドミニストレーター  44 /////////////////

 彼の集票マシーンがいちばん頼りになったので、自民党から複数の候補者が立つ選挙区で戦う新人でも、
いちばん才能ある官僚出身候補者を、田中は自派に入れることができた。さて、このような甘い
"アメ"の一方には、こらしめの"ムチ"もある。自分に敵対する自民党のメンバーを手なずけたい
ときには、同じ選挙区の対立候補者の方を田中が支持するといって脅かす。田中が応援する候補者が
勝つチャンスが大きいから、たいていの者はこれで降参してしまう。さらに、田中は警察の幹部とも
つき合いがあったおかげで、自分に対抗する者を抑え込むのに利用できる情報も多く入手できた。
必要なら、それとなく脅迫という手もあった、。
 田中が、身応優遇策によって、全国的規模で自分の方に引き寄せた政治家の巨大なグループには、
日本で最高レベルの行政手腕のある人びとが集まっていると評判だったし、この状況は竹下派に
引き継がれた今も変わらない。彼は好んで、田中軍団を大きな総合病院になぞらえた。自分の地位が
危ういと感じた政治家に救いの手を差しのべる総合病院である。彼の軍団には、ありとあらゆる
政治的な問題に詳しい専門家がそろっていた。そして、彼の"病院"は、田中軍団に属さない政治家、
それどころか自民党以外の政治家の面倒までもみたのである。

///////////////////////// 原書1989年刊 ///

163 ◆JeacknUANQ :2011/08/28(日) 16:06:04.17 ID:cleiDcxx

/// アドミニストレーター  45 ////////////

   政治を動かす母乳

 一九七四年の選挙とロッキード収賄事件の後、新聞各紙は取りつかれたように金権政治と政治倫理の
ことばかりを書いた。「田中が目ざとくとらえたのは、なによりも金が政治を動かす根源のエネルギー
であり、いちばん多く金をつかんだ者が政治を支配するということであった」と新聞は、新しい
発見でもしたように書きつらねたのである。
 金権政治が一斉に批判されることとなった。金権政治を大きな声で正面きって弁護できる者は一人も
いなかったし、金権政治なしには自民党も存在しえないと、新聞で説明できる者もいなかった。目先の
"特効薬"は政治資金規制法の強化だったが、これは自民党と経済界との関係は、あるべき姿でないままに
手つかずにされることを示していた。新聞の論説委員やあらゆる種類の政治家が言う"政治倫理"とは、
単に、国会から田中を排斥せよという意味合いになったのである。この政治倫理ということばは、
続行される自民党内の派閥争いでも武器として使われ、儀式的な野党の攻撃のうたい文句にも大いに
使われた。国民の代表としての議員を田中に辞任させることができれば、政界に自浄作用が働き始める
であろう――これが、一九八五年までに無数に書かれた論説の趣旨であった。

//////////////////////// 早川書房 ///

164 ◆JeacknUANQ :2011/08/29(月) 22:23:33.59 ID:xzIlAYQl

/// アドミニストレーター  46 ////////////////

 経済界から自民党への一本化された資金供給は、両者のパートナー関係が公式に認められた
ものであることを物語っている。一九五五年一一月の自民党誕生にいたるまでの保守合同を
促進する過程において、財界リーダーは主要な役割を担っていた。したがって、彼らが必要な
資金を供給して自民党を維持するのも当然といえる。組織化された政治資金供給は、すでに
長い歴史のあることで、戦前のニ大政党――両党とも、完全に官僚の肝入りで組織されていた
――は、どちらも実業界の二大コングロマリット(財閥)の資金で運営されていた。
民政党は三菱、政友会は三井である。

/////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

165 ◆JeacknUANQ :2011/08/30(火) 21:41:05.25 ID:Pvejei+i

/// アドミニストレーター  47 ////////////////

 一九五五年の自由党と民主党の合同までは、政界のボスは必要な金の大半を個々の財界人から
個人的にもらい、いちばん多く献金してくれる人物と親しい政治家が、最上位の地位を占めていた。
だが、それがスキャンダルを生み、戦後初期の政治体制への国民の信頼を失墜させた。財界は、
左翼が政治的地歩を得るのを極度に恐れていたので、一九五五年一月、その脅威を無力化すべく
彼らが展開した運動が最高潮に連した時、四大経済団体によって経済再建懇談会が設立され、
よりよい資金供給体系を確立するための検討がなされることになった。この懇談会を陣頭指揮
したのは、当時の経団連の副会長で、戦前の軍部と民間の経済計画担当者を提携させた中枢的
人物であリ、戦時経済の計画立案に当たった高級官僚の一人、植村甲午郎である。懇談会の
目的は、資金を党本部に直接流して金をめぐる党派間の争いや醜い個人的な争奪戦を未然に防ぎ、
"保守派"を統一することだった。後に、この懇談会にとって代わったのが一九六一年設立の
国民協会で、一九七四年に、("金権政治"スキャンダルにからんで表面をとりつくろう必要から)
国民政治協会と改名されたのだが、一九六〇年代後半から七〇年代の自民党の正規収入の
約九割が、この団体から供給されたものである。

///////////////////////// 945円(税込) ///

166 ◆JeacknUANQ :2011/08/31(水) 22:36:12.34 ID:oZ1cPX3c

/// アドミニストレーター  48 ///////////////////

 毎年、財界代表との新年会で、自民党三役が正式に"献金"の依頼をし、"目標額"を提示する。
一九八五年の目標額は一〇〇億円だった。どの業界がどのくらい献金するかは、後に、業界どうしの
話し合いで決められる。正月から新会計年度がはじまる四月一目までの間に、自民党の経理局長は、
数百の業界団体と大企業をまわり献金依頼をおこなわなければならない。自治省が公表した報告に
よれば、より重要な地位に上がるたびに、自民党の政治家が受けとる献金額が五五〜一〇〇パーセント
増えている。一九八五年に、中曾根康弘が首相に就任した年には、前年の額の五倍にも増えたという。
 法的に許された資金をさらに増やすための新手は、自民党政治家の僚友が"励ます会"を開き、
パーティ券代として二万円から一〇〇万円をとる方法である。企業は、業界団体を通して、このような
パーティ券をたくさん売りつけられることもある。また、パーティ会場になるホテルが、パーティ券を
系列の関連役員やその他のメンバーに売ることもある。このようなパーティ券は法律違反にはならず、
監督役の自治省は、"茶菓子代"とみなしている。たとえば自民党の玉置和郎の場合、地元の選挙区で
集めた正式献金として公表された一二億二九〇〇万円に加え、一九八四年に東京と大阪でパーティを
した二カ月間の"茶菓子"から得た純収益が、四億四五〇〇万円にものばった。

///////////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

167 ◆JeacknUANQ :2011/09/01(木) 23:12:24.61 ID:1D/NBXeu

/// アドミニストレーター 49 ///////////////////

 関係省庁もパーティ券を買う。ある高級官僚は新聞記者に次のように不平を述べている。

  国会で関係する委員会の、主要メンバーが開く会に金を出したことが何回もある。役所の金だ。
  このほかに個人的に付き合わねばならない政治家には個人で出す。年間一五〜二〇人ぐらい。
  痛い出費だ。

 とくに、自民党の場合、正式に届け出のあったのは、実際の収入のほんの一部にすぎない。間接的に
経済界から金を集める方法がいろいろあるからだ。一つは、株式市場を通しておこなう方法である。
日本ではインサイダー取引がひじょうに多くおこなわれる。政治家は、多種多様な操作によって株価が
急激に上がることになっている株を買えばよい。(インサイダー取引は、もちろん法律では許されて
いない。しかし、一九四八年から一九八七年までに起訴されたのは、ただ一件だけである。日本の
企業や証券業者は、欧米諸国の株式取引所が義務づけているような監査規定に従わなくてもよい
のである。そんな規制にこだわっていては、"系列"の構造自体が危険にさらされるし、野村のような
大手の証券会社でも破産するだろう。)一九八八年夏から九九年春まで日本の政治の話題の中心を
占めたリクルート・スキャンダルは、インサイダー取引に注目を集めさせた。というのは、新分野を
きり拓く企業家江副浩正は多くの自民党政治家はじめ、新聞編集者や官僚などへの間接的支払いに
上場直前の未公開株を譲渡する手でインサイダー取引を利用したからである。

///////////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

168 ◆JeacknUANQ :2011/09/02(金) 21:34:01.51 ID:Dy6Nu0ay

/// アドミニストレーター  50 /////////////////

 自民党の政治家がそれぞれ地元で集めた金は、地方の選挙管理委員会に届けるだけでよく、
だれもいちいちその記録をせんさくしない。さらに、自民党の重要人物はみんな、うまみの
ある約束を企業や銀行と秘密で交わしているし、個々の派閥に直接金を流す"トンネル組織"もある。
 財界から政治家にこのように無制限に合が流れるのは、昔からの伝統である。かつて、日本の
政治について書いたある外国の研究者も、明治時代の政党政治家たちが収賄を通して築いた富が、
あまりにも莫大なのに驚いている。国会議員に与えられた唯一まともな権力すなわち、政府に
前年度の予算内でやりくりさせるよう強制する力があることに議員たちが気づいて以来、官界も
組織的に議員のご機嫌をとり結びはじめた。政治家たちとしても、金が必要だった。
なにしろ票を金で買う慣習は、選挙運動の歴史と同じに古いようだから。

////////////////////////// 原書1989年刊 ///

169 ◆JeacknUANQ :2011/09/03(土) 18:11:10.15 ID:wFNdi9dS

/// アドミニストレーター 51 //////////////////

 現代の自民党政治家は、自分の"秘密の"収入について、あまり隠し立てをしない者もいる。
筆者は、自民党の政治家何人かについて選挙区まわりに同行させてもらったが、茶色の紙袋に
入った何千万円もの金を受け取るのを実際に目撃した。自民党の政治家は、通常の年には
スタッフや後援会を維持するのに金が要るし、選挙の年には間接的に票を買う金が要る。
また、自民党総裁を目指して上るにつれ、対抗派閥の支持を得るためにも金が要る、時には、
複雑な政治的操作の一部として"野党"の議員に賄賂を渡すこともある。正式に届け出た
収入だけでは、これらの経費を賄うごく一部にしかならない。
 確実な平均額を出すのは不可能だが、選挙区で自分の存在を示すためには、一九八〇年代
なかばの選挙のない年で、四億円かかると筆者は推定している。

/////////////////////////// 早川書房 ///

170 ◆JeacknUANQ :2011/09/04(日) 13:35:56.86 ID:JXX68N1b

/// アドミニストレーター 52 ///////////////

 しかも、これは、ほんの基本的な経費である。あの手厚い保護を受けていた三光汽船のオーナー、
河本は、ドラマチックな方法で首相の座を金で買おうとして、広く注目を浴びた。自民党の総裁候補者の
順位を決めるための党則が導入され、草の根レベルで自民党党員による予備選挙をすることになった
ときのことである。一九七九年に一四〇万人だった自民党党員数は、新党員が一七〇万人増えて、
その数が一挙に二倍以上にふくれあがったのだ。ところがその後、予備選挙が結局おこなわれない
ことがわかったとたん、党は一時増えたはずの党員を実質的に全部"失い"、一九八〇年八月には、
もとの一四〇万人に戻った。河本自身が、この増えた党員の大半の会費を払っていたのである。
 伝えられるところによれば、田中が自民党総裁選挙に使った金は三〇〜五〇億円にのぼるということだ。
一九八四年に、中曾根派が、中曾根の総裁再選に使った金は一〇億円以上とされ、別に一〇億円が
予備対策費として取ってあったという。

///////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

171 ◆JeacknUANQ :2011/09/05(月) 21:10:57.29 ID:CXq8U6fX

/// アドミニストレーター  53 //////////////

   報酬

 自民党の政治家に金を払って経済界が買い取る利益は、かなりはっきりしたものだ。一九八四年に
届け出のあったなかで、公式に経済界が自民党に出した金の約三分の一に当たる最大の献金者は、
銀行業界であった。なるほど、盛んに宣伝された金融自由化が、日本の金融機関だけに利したのも
当然だ。銀行業界に続くのは、伝統的に高額献金者である国の保護産業である鉄鋼界と重工業、
三番目は通信事業界で、献金総額の一一パーセントに当たる。この年、一九八四年は、
テレコミュニケーション市場の開放を、アメリカが激しく要求していた年である。
 ある専門家が確認したところによると――

  官僚を動かすこと――たとえば、建設省から工事の契約をとるとか、郵政省に市場開放の実施を
  一部遅らせる――によって田中マシーンがとる礼金はその事業総額の三パーセントであった。

 政府の補助金でおこなう公共事業をとってくるために市や県など地方自治体のために動いた
自民党議員は、その事業の総額の二パーセントをもらうのが普通になっている。

/////////////////////// 945円(税込) ///

172 ◆JeacknUANQ :2011/09/06(火) 21:18:07.76 ID:HJ2DAi87

/// アドミニストレーター 54 /////////////////

 他の例をあげればきりがない。医師会および歯科医師会が、一九八四年に届け出た正規の政治献金は、
一〇億円を上回る。これは、税法上の特権を継続維持してもらっていることと、今の健康保険制度下で
暴利を得ているのに政府が目をつぶっていてくれることへのお返しである。一九八〇年代初めには、
スーパー業界の数社が、しかるべき自民党議員との関係をつちかっておけば、業界に不利な規制条件も
修正されていただろうと、遅ればせながら気がつき、自民党の資金集めパーティの券をすすんで
ひきうけた。また一九八四年に、OA機器に税金をかけるべきかどうかの討議が自民党本部でなされた時、
多数の党員が会議室につめかけ、廊下にいる業界代表に聞こえるような大声で反対を叫んだ。

//////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

173 ◆JeacknUANQ :2011/09/07(水) 21:33:45.03 ID:X0ZbXu5D

/// アドミニストレーター  55 ////////////////

自民党税制調査会の加藤六月委員長は、だれがどの業界と近い関係にあるかすぐに判ると述べた。
彼自身は、運輸省と密接につながる人脈をもっているし、日本自動車整備振興連合会(日整連)と
きわめて親しい。日整連は、五七万人の整備工を擁する約七万八〇〇〇の整備工場の利益を守る
団体で、業者の収入のかなりの部分か、定期的な強制車検整備でまかなわれている。車検制度は、
一般からはばかげた出費を強いるものだと考えられているのだが、加藤は車検制度改革案反対の
最前線に立って戦っている。また一方、選挙の前から、保険外交員たちが自民党候補者の
推薦活動を大展開したことがあった。案の定、自民党は一九九四年に、大蔵省の反対を押して、
保険業界が望んでいた所得税控除案を提出している。

/////////////// 「日本権力構造の謎」<上> ///


174 ◆JeacknUANQ :2011/09/08(木) 22:45:24.29 ID:F5hxLpNq

/// アドミニストレーター  56 //////////////

 経済界、とくに市揚が拡大または縮小しつつある業界や、理由はどうあれ政府の介入によって
利益を得る業界は、政治家にランクをつける。その業界の問題についてどれだけ知っているか、
どこまで協力してくれモうか、また過去にどれだけのことをしたかによってつけられたランキング
によって、その政治家への資金援助額が決まるのである。

///////////////////// 原書1989年刊 ///

175 ◆JeacknUANQ :2011/09/09(金) 20:42:29.63 ID:78JNOsZf

/// アドミニストレーター  57 //////////////

   スキャンダル

 戦後の首相で、経済界との共生関係から生じた収賄や疑獄事件にキャリアのどこかで関わった
ことがないといえる人物は、ほとんどいない。吉田茂は、基幹産業再建のための復興金融公庫法の
実施にからんで、炭鉱業者から資金をしぼり取った。岸信介は、台湾、ベトナム、フィリピン、
インドネシア、韓国で、賠償や援助貸付、利権あさりに関連して財を築いたといわれる政商だった。
影のフィクサー、児玉誉士夫は、戦後、鳩山一郎の主な資金援助者の一人だった。芦田均と
福田赳夫は、一九四八年に大混乱をひきおこした昭和電工不正融資事件に関連して起訴されている。
池田勇人と佐藤栄作は、一九五四年の造船疑獄にかかわっていた。一九六〇年代に明るみに出て
新聞が「黒い露」と呼んだ一連の汚職には、実質的に自民党内のほとんど全員がかかわっていたようだ。

///////////////////////// 早川書房 ///

176 ◆JeacknUANQ :2011/09/10(土) 19:27:58.04 ID:ulSD7KjN

/// アドミニストレーター  58 /////////////

 これらのスキャンダルやその他のケースでは、その都度断続的に声高に非難はされるのだがある意味で、
日本の腐敗は組織ぐるみでおこなわれる悪の申し子である。腐敗が、あまりにも高度に組織化され、
日本の<システム>のひじょうに多くのレベルで法定外の取引手段としてすっかり定着してしまっているので、
一般市民や在日外国人は、実態のなんたるかを真に見きわめもできないまま、"<システム>の一部"として
受け入れるしかないのである。新聞はこれを称して「構造汚職」というのだが、それはとりもなおさず、
現状の<システム>においては必要悪なのだと、暗に認めているわけだ。

//////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///


177 ◆JeacknUANQ :2011/09/11(日) 19:46:48.20 ID:bNO+lgBI

/// アドミニストレーター  59 ///////////////

 もし、このような状況を日本人みなが甘んじて認めているのだとすれば、首相を辞任すべきだ
といって、なぜ田中の金の取引があれだけ大騒ぎになったのか?また、なぜロッキード事件が
いつまでも騒がれたのか?ロッキード事件がまずアメリカで露顕したから、敷物の下に掃き込んで
しまうのが難しかったことは、たしかである。だが、それにしても、なぜ、田中は一九七六年以来
ずっとさらし者にされて来たのだろう。田中逮捕の三年後に、別の航空機製造会社、マクダネル・
ダグラス社が防衛庁長官に、田中がロッキードから受け取ったと同じぐらいの金額(五億円)を
払ったのが判明した。だが、この収賄事件は火花のようにぱっと光ったあと、たちまちにして
かき消されてしまった。そして今や、この事件をおぼえている人さえほとんどいない。
なぜ、田中だけが――?

/////////////////////// 945円(税込) ///

178 ◆JeacknUANQ :2011/09/12(月) 21:59:55.92 ID:J0Pl0oBl

/// アドミニストレーター 60 ////////////////

 田中があの地位まで昇り、自分の派閥を強化し、新潟の人々のためにあれだけのことをし、
日本のためになると信じた計画を官僚に実行に移させるには、並々ならぬ金がかかったことは、
みんな知っている。その金はどこからか出たはずだ。日本の政治家は、身銭だけではやっていけない。
このことは、派閥のりリーダーで、高名な実業家であり外務大臣も務めた藤山愛一郎が、自分の
金だけで首相になろうとして破産寸前までいった例を見ても、よく判る。池田勇人は、政治資金が
どこから入るかにはまったくこだわらず、身内の政治家に、金は自分のポケットや自分の経営する
事業から出すものでぱなく、「カネはもらって使え」といったという。

/////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

179 ◆JeacknUANQ :2011/09/13(火) 22:00:47.65 ID:VBTg3g0v

/// 早川書房 ////////////////////////

 カレル・ヴァン・ウォルフレン(Karel Van Wolferen) (著)、篠原 勝 (翻訳)、
 原著1989年発行、邦訳 早川書房1990年発行
 「日本/権力構造の謎」 The Enigma of Japanese Power
 日本 権力構造の謎〈上〉 ハヤカワ文庫NF、945円(税込)
 ISBN-10: 4150501777  ISBN-13: 978-4150501778

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180 ◆JeacknUANQ :2011/09/14(水) 20:44:45.26 ID:7Spj7lFo

/// アドミニストレーター  61 ///////////////

   脅威的アウトサイダーヘの罰

 田中が他の政治家と違うのは、政治資金の大部分をビジネス取引を通して作ったということだ。
一時は、新潟県には建設業以外のビジネスはないと思えるほどの状態だった。田中は政府の開発事業に
ついての内部情報を持っていたから、リスクなしに不動産投機ができた。彼はまた、土地の売買だけを
する一連のダミー会社を多数所有していた。
 田中は秘書の早坂茂三に、他の政治家が持っている背景がないから、彼らのやり方を真似るわけには
いかなかった、と説明したことがある。東大出でなかったため、<システム>の他の部分とつながりが
なかったのである。田中は、池田勇人や福田赳夫や大平正芳のように、大蔵省に勤めたことがなかったから、
銀行や保険会社、鉄鋼などの基幹産業との強力な資金的つながりも作れなかった。三木武夫のように、
化学肥料で財産を築いた資産家の娘と結婚したわけでもないし、電力会社のバックがあったわけでもない。

//////////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

181 ◆JeacknUANQ :2011/09/15(木) 20:32:20.74 ID:87FzBCrE

/// アドミニストレーター  62 /////////////

 田中がみんなに寄ってたかってたたかれた理由の一部は、おそらくここにあるのではないか。
彼は、どちらかというと独立独歩型だった。<システム>の経済界メンバーも、結局は田中を支配下に
入れるにはいたらなかった。一人の首相がひじょうな金持ちでもないかぎり、彼らは、その選任も、
留任も、拒否できるだけの力があるのだ。結局、田中は局外者であった。このことは、一九八三年に
ロッキード事件の判決が出た後、彼が悔恨のジェスチャーを少しも見せなかったことで、いやというほど
知らされた。そして、この点については、彼に同情する者の多くも敵対者だちと同じく、あれは
ひどすぎる、"日本人らしかぬ"態度だと言って非難したのである。みなが期待していたのは、田中が
形だけでも悔悛の情を示すことだった。もし彼がさらに一歩進めて、国会議員を辞め、すぐ次の
選挙で国民の裁断をあおいでおれば、大勝利をおさめ最大限の政治的自由を手にすることができたかも
しれない。しかし、田中は激怒していた。そして、この国のエリートに挑戦するほうを選んだのである。

///////////////////// 原書1989年刊 ///

182 ◆JeacknUANQ :2011/09/16(金) 20:37:00.58 ID:6qi5xSUP

/// アドミニストレーター  63 ///////////////////

 だが、おそらく、反田中騒ぎのいちばんの理由は、これまでにこの章で検討してきた〈システム〉にとって、
ありがたくない状況に発展する気配があったことがある。この無教育の政治的異才は、すべての障壁を
突き破って東大のお墨付きの管理者たちが支配する世界の中心にまでも入り込み、草の根レベルと中央との
両方で見事な操作技術を駆使して、無敵の存在になりつつあった。田中軍団の優勢によって、自民党内の
派閥バランスも大きく崩れてきていた。これは、関係者にとっては恐るべきことだった。日本の"民主主義"の
本質は<システム>内および自民党の小システム内の構成員間のバランスを保つことにあると見ている者が
多かったからである。

//////////////////////////// 早川書房 ///

183 ◆JeacknUANQ :2011/09/17(土) 17:14:39.09 ID:ooOWN0xT

/// アドミニストレーター  64 ////////////////

 他を圧する田中の存在に対して、時として狂乱に達するほどの怒りが管理者のあいだに慢性的に
充満していた。雄将田中にとって大きな皮肉だったのは新聞の編集者である。彼らは、分析者よりも
悪魔払いの役を選んだのである。この戦後の日本政治における最も興味深い状況は、合理的な思考
ではなく倫理的な怒りをさそったのだった。田中が最大権力、つまり実際にみずから日本の首相を
何人も随意に選べるような権力をふるえるようになったのは、彼が首相の座から転落した後であり、
ロッキード事件で逮捕された後のことである。この九年間に、田中の権力は増大する一方だったが、
新聞はほぼ全紙声をそろえて、田中の失墜近しとの観測を一定の間隔をおいてくりかえした。

///////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

184 ◆JeacknUANQ :2011/09/18(日) 18:24:32.30 ID:LyzTpZ7u

/// アドミニストレーター  65 ////////////////

新聞のこのような予測は、一部、自己目的への願いをこめた予言であった。田中の力は衰退しつつある
と報道することによって、日本の倫理の守護役として新聞が田中を追い払おうとしたのである。
田中ほどの人物でなければ、効き目があったであろう。日本の新聞の編集者たちは、一貫して田中を
みくびり過ぎていたのである。しかも、田中は新聞に鼻もひっかけなかったから、彼らの声は
なおいっそうきつくなりヒステリー症状をつのらせていった。"ヤミ将軍"の身体が神経麻痺に冒され
言葉もまともに話せなくなり、日本の人脈組織にかつてない強大な支配力をついに失いはじめたことが
明らかになって、やっと、新聞は田中追い落とし運動を止めたのであった。

////////////////////////// 945円(税込) ///


185 ◆JeacknUANQ :2011/09/19(月) 17:40:17.69 ID:JWKotX2l

/// アドミニストレーター  66 ////////////

  自民党内の争い、官僚と族議員

 日本の政治がかかえる大問題のひとつは、自民党が、一般の納得を得られる総裁選出方法を開発
できないでいることにある。ある期間は、経済界の勧めと支持のもとに、首相みすがら後継者を
指名するという方法でこの問題は解決されていた。岸は池田に首相職を譲り、その池田は佐藤に
引き継がせた。ところが、退陣に追いやられた佐藤が後継者を指名しなかったので、権力争いが
始まった。それ以来十何年、政治ニュースや議論の中心はもっぱらこの問題だった。

////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

186 ◆JeacknUANQ :2011/09/20(火) 21:48:19.07 ID:4R3Dt1bv

/// アドミニストレーター  67 ///////////////

   "派閥"政治

 日本の新聞の政治論評は、どの派閥のリーダーが自派閥の力を維持し他派閥をおさえるため、
なにをしているかに集中する。一九八七年の春、ついに、竹下登が田中軍団を割って、みずから
自民党総裁選に出馬を宣言した時点から、中曾根康弘の後継者をめぐって、報告メディアの
予想論議が半年間続いた。だが、総裁候補四人の中で、だれが一番いい首相になりそうかは、
どの社説も一度も論じたことがない。日本の政治論評は、もっぱら、政治家のだれがだれに
どんな働きかけをしたかなどの密室の権謀術数のごく狭い話題に限られ、憶測ゲームをはてしなく
続けるばかりである。政策案への言及は皆無である。言及しようにも政策の違いがないのだから、
しようがないのである。

//////////////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

187 ◆JeacknUANQ :2011/09/22(木) 00:19:49.63 ID:y2kM1HYK

/// アドミニストレーター  68 ////////////////

 自民党の派閥は、政治的決定への影響力をかけて互いに張り合う事実上の政党だとみなす
便宜的な理論があるが、これは間違いだ。派閥は、首相の座を得るためと、選挙区民に約束した
地方開発事業用補助金を、官僚に直談判する力を得るため、競い合う。そこには、権力はどう
行使されるべきかについての配慮も原則も入る余地はない。派閥政治は、どのような多元主義の
名にも該当しない。意味のある政治的な討議はまったく忘れ去られたパワーゲームであり、
これには選挙民の力がいっさい関与できないのである。
 派閥の数は、分裂・合併でつねに変動する。一九七〇年代および八〇年代には、どの時点でも、
五つから七つの主要派閥があった。派閥には、その領袖で、自民党総裁になる有力候補、したがって
首相の座につく可能性のある人物の名が冠せられる。かくして派閥は、自民党内で永遠に続く
衝突の源泉となる。時として、衝突が激化して緊張感が高まりすぎ、自民党が分裂寸前と
思わせることもある。

//////////////////////// 原書1989年刊 ///
188 ◆JeacknUANQ :2011/09/22(木) 23:43:46.50 ID:y2kM1HYK

/// アドミニストレーター  69 ////////////////

閣僚のポストは、それぞれ派閥の大きさにしたがって割り当てられる。どれかの派閥が大臣の
ポストをひとつでも取り過ぎとみなされた時には、ただちに、"微妙で""ひじょうにデリケートな"
状況をめぐり、論争が開始される。派閥は、政治的な利権配分を統制し、資金の支出を決める上で
決定的に重要な機能を果たす。複数定員選挙区では、自民党も複数の候補を立てるので、派閥の
幹部が自派の候補支援のため、他派の候補に対抗して選挙運動をすることになる。このように
共倒れの可能性のある選挙戦の時には、地方の自民党支部があったとしても、無意味な存在になり、
むしろ敵対視される。

/////////////////////////// 早川書房 ///

189 ◆JeacknUANQ :2011/09/25(日) 23:29:03.92 ID:sWt2i68B

/// アドミニストレーター  70 ////////////

 首相の座を獲得するためには、派閥間の連合も必要になる。成功した派閥連合は、一般に政府を
支える"主流派"とみなされるようになる。それに対抗する"反主流派"でも大臣のポストを得る
ことはでぎるが、現識者の座をおびやかすような動きが出てこないよう、反主流派大臣たちは
十分に監視されることになる。最近は、対抗する派閥のメンバーの一部が派閥から離脱したり、
派閥の枠を超えた"研究会心で新しくつながり合ったりするので、"主流派"と"反主流派"を
見分けるのがますます難しくなってきた。

/////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

190 ◆JeacknUANQ :2011/09/26(月) 22:49:48.00 ID:gOYPT/vl

/// アドミニストレーター  71 ///////////////

   角・福戦争

 一九八五年以来、派閥の作戦活動も、表面的な派閥連合も、次期首相の予想(日本の政治の
本質そのもの)もつきにくくなってきた。もはや田中が重要な決定をしなくなったからである。
一九七〇年代後半に田中がこうして権力を握る前でも、かなり容易に予測できるパターンが
決まっていた。自民党内の抗争は、他のすべてに優先する一大闘争に集約されて制度化されていた。
この戦後の日本の政界の抗争の長々しいエピソードは、一般に田中角栄の角と福田赳夫の福をとって、
角・福戦争と呼ばれていた。
 この抗争は、一九七二年に田中が自民党総裁の座を金で買った特に表面化し、福田がほぼ完敗した
一九七〇年代後半に終結した。すでにこれまでに数カ所で見てきたように、自民党の政治家は、
主に国家予算の守護人と地方の利益の間に立つブローカーとして機能し、日本の予算の分配を
統制する。

////////////////////// 945円(税込) ///

191 ◆JeacknUANQ :2011/09/27(火) 23:16:44.93 ID:iexQQ6mX

/// アドミニストレーター  72 ////////////

佐藤政権が傾きかけた時に、河野一郎が亡くなると、福田と田中という二人の政治家だけが官界に
十分な人脈を持っていた。人脈すなわち、行政機関全体を動かせるだけの恩義を売ってあり、
利権ブローカーのボスになれるだけの才能とスタミナがあるのは、この二人だけになったのである。
両大物には、共通点が多かった。どちらも、毎日の朝一番のしごとは、自宅で多数の陳情者に
会うことだった。どちらも、次々といろんな大臣のポストに就き、官僚を勤かす力を椎持しつづけた
点で、閣僚の中でも例外的な存在だった。どちらも、省庁内の重要人事で官僚を昇進させたことがあり、
それぞれに、個人的に忠誠をつくす官僚の一派を擁していた。だが、学歴と社会的背景に根ざす
二人の違いのほうが、共通性よりはるかに重要なことだった。佐藤栄作が首相の座から退いた時、
どちらも互いに、相手が最高の地位につくことは許せないと強く思っていた。たしかに首相の地位は
大きな誘惑だったが、二人の対抗を激化させた要因は首相職だけではなかった。その後の数年間に
しだいに明らかになったように、単なる首相職よりはるかに大きな広がりを持つ、日本の政治
そのものを管理する権利をかけての戦いだったのだ。

////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

192 ◆JeacknUANQ :2011/09/28(水) 21:44:33.84 ID:0+XuDQFj

/// アドミニストレーター  73 /////////////

 田中が首相の座にある間、敗けたとはいえ、福田は自分の実権までは放棄しなかった。福田は、
政治学者キャンベルが「日本の公共財政はじまって以来最大のポークバレル」とよんだ予算を
管理可能な状態に修復するため、田中の任命によって大蔵大臣に就任したが、三本武夫首相の
下でも同じポストで大きな実権かふるいつづけた。この時点で、もし田中が地下にもぐらされて
いなくても、おそらく福田のほうが田中を支配するようになっていたであろう。福田は、田中の
"金権政治"を非難する騒ぎをかきたてるうえで重要な役割を果たした。その結果、田中は退陣する
ことになったのだが、その後、福田は、今度は大平正芳と競わねばならなかった。大平は福田と
同じ大蔵官僚出身で、それまでの派閥争いでは田中の古くからの盟友だった。そして福田と大平の
力がほぼ互角であることが原因で対立は硬直化した。この行きづまりの打開を党長老・椎名悦三郎が
依頼され、弱小派閥のボス、三木武夫を総理大臣に就任させて解決したのである。その年の
自民党にとっては、例外的によ"清潔な"政治家三木の評判が役に立ったのである。

/////////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

193 ◆JeacknUANQ :2011/09/29(木) 21:29:38.50 ID:IqLiAw7y

/// アドミニストレーター  74 ////////////

 妥協の産物として三木が首相の座におさまると、政治家による選挙区への利益誘導も減少する
だろうと見る者があらわれた。三木自身、日本の政治旧来のやり方を強く嫌悪しており、明らかに
本格的な議会政治の実施を日本に導入したがっていた。その大望を果たそうにも三木には強大な
力の基盤もなく、とても達成できそうもないことだったが、"清潔な政治"の語り口は新聞から
熱情をこめて迎えられ、あたかも、日本もいよいよパワー・ブローカー制の放棄へ向かって
いるかのような幻想がつくり上げられた。
 幻想が定着していたとしても、福田が大平と手を握ったためそれは破られ、現実の政局は、
一九七六年末には三本下ろしと福田の首相就任に発展した。その後、かねて両者の約束どおり、
大平が福田の後を引き継いだ。だが、福田は、優雅にその座を渡したのではなかった。そしてこの
抗争は、福田と大平の両人が首相候補として張り合った一九七九年の四〇日にわたる国会内の
闘いをもって、自民党の歴史においても恐らくはもっともドラマチックなクライマックスに達した。
田中は大平が勝つよう尽力した。

/////////////////// 原書1989年刊 ///

194 ◆JeacknUANQ :2011/09/30(金) 20:45:57.72 ID:RT7zPcbG

/// アドミニストレーター 75 ///////////////

だが、一九八○年には、野党が発議したおきまりの不信任案の票決がおこなわれている聞、福田と三木が、
それぞれの派閥のメンバーを国会に出席させないようにし、大平の政権に背を向けたのである。この
裏切り行為が総選挙の一〇日前に大平が心臓発作で死ぬ原因になったと、一般には考えられている。
大平が死んで多くの同情票が集まり、自民党の議席は一段と増えたのだが、その分だけ田中の勢力が
さらに強くなって、田中はなんの気兼ねもなく鈴木善幸を次期首相に選べるようになった。
 ふり返ってみれば、舞台裏では自民党のどの派閥が最強の力を持つことになるかという疑問の答えは、
一九七八年に出ていたようだ。大平にも鈴木にも、パワー・ブローカーたちを牛耳るだけの野望が
なかったから、官僚と利益団体との特別な関係の維持にあたったのは、主に田中軍団だった。この
状況は、一九八〇年代後期においてもそのままで変わっていなかった。田中自身は病床にあり、政治の
舞台に登場しなくなったのだが、田中に反乱を起こした元家来、竹下登が首相の座につき、田中"機構"の
ベテランの小ボスで、竹下と姻戚関係にある金丸信を自民党の王座の影の勢力としてすえ、竹下が
正式に田中軍団の責任者をつとめていた。

//////////////////////// 早川書房 ///

195 ◆JeacknUANQ :2011/10/02(日) 12:34:48.66 ID:rZsAXujS

/// アドミニストレーター  76 //////////////

   自民党内の官僚派

 角・福戦争は、ある意味で、官僚出身の政治家と党人政治家との昔からある闘いでもあった。
少数ながら支配力は強い官僚出身派から、支配権を奪い取ろうとした田中の試みは、党人派の
それとしては二度目のものであった。自民党誕生後一〇年を持たず、河野一郎が一度試み、
不成功に終わっているのだ。昔は、この二つのグループの政治的境界線は今よりはっきりしていたが、
その区分けは今も続いていて、時として議員は官僚出身の"官僚派"と党の下部からのし上がった
"党人派"とに類別される。だが、前者は"官僚派"と呼ばれるのを好まない。つまり、自分たちも
選挙で国民によって選ばれたのだと強調したいからだ。

//////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

196 ◆JeacknUANQ :2011/10/03(月) 21:40:38.56 ID:soy4h6nZ

/// アドミニストレーター  77 ///////////////

 一九五〇年代と六〇年代には、自民党の党人派と官僚派の役割分担がはっきりと決まっていた。
前者の役割は主に、再選されることによって、議会での自民党の数の力を維持することであった。
官僚派のほうは、いかにもその名にふさわしい管理者として、法運用と、官界のもとの仲間と財界に
つながる人脈とを駆使して、日本の経済発展に役立つ政策を推進した。大野伴睦が一九六四年に、
河野一郎が一九六五年に亡くなった後は、官僚出身政治家に挑戦できる強力な党人政治家は
いなかったが、田中が、官僚出身の佐藤栄作の派閥に身を落ち着け(金づくりの才能が買われ、
佐藤の派閥にとって不可欠な存在になり)だれよりも上にのし上がったのである。

////////////////////////// 945円(税込) ///

197 ◆JeacknUANQ :2011/10/04(火) 21:55:46.88 ID:F/hdC0XO

/// アドミニストレーター  78 ///////////////

 官僚出の議員と他の自民党議員との間に、越せない階層の隔壁があるわけではない。両グループとも、
派閥内で混じり合っている。現に、大平派はとくに官僚色の濃い派閥として知られていたのだが、
田中はそんな違いなど関係なしに大平派と同盟を結んでいた。この両派の間で共生関係ができていて、
"官僚派"は"党人派"に官僚攻略のテクニックを教え、後者は前者に選挙運動の秘伝を伝授する。
現在は、官僚派が、岸や池田や佐藤の時のようには早く大臣の地位に昇進できなくなっている。
これで、たたきあげた党人政治家の不満のひとつが消えたことになる。

/////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///


198 ◆JeacknUANQ :2011/10/06(木) 21:10:43.94 ID:O1kc9MdI

/// アドミニストレーター  79 ///////////////////

 とはいえ、自民党にとっては、数の上では少数派の官僚OBが重要なことは疑う余地がない。
官僚出のほうが産業界から資金を集めやすいし、一方、党人政治家は、うさんくさい右翼団体や
裕福だがいかがわしい人物の手先となる危険がある。実力者として定評があり能力にも長けた
党人派の政治家は、一握りしかいない。元大蔵大臣の渡辺美智雄はその一人である。田中自身も、
注意深く官僚を手なずけ利用したが、年齢的にもまだ若く、ますます力を増しつつある渡辺が、
自民党の官僚出をみずから仕込み、自分の配下に置こうとしているのは、注目すべきことである。
一九八六年の衆院選では、全部で二五人という驚くべき多数の高級官僚出身新人候補が、自民党から
出馬した。派閥強化の手段として彼ら高級官僚出身者がいまだに高く評価されていることは、
(任期切れによる)首相交代前の最後の選挙で、中曾根の後釜を狙う四人の対抗者と渡辺美智雄が、
競って自派に彼らをとりこもうとしたのを見てもよく判る。さらに、官僚出身者が自民党内で
特権を与えられているもうひとつの証拠としては、一九八六年の参院選の全国区比例代表側で、
彼ら全員が当選順位登録名簿の上位に入ったという事実がある。

//////////////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

199 ◆JeacknUANQ :2011/10/07(金) 22:47:01.31 ID:mkELzjDR

/// アドミニストレーター 80 ////////////////

 自民党内の官僚出身議員は、少なくともある程度、それぞれ出身省庁の利益を代表することに
なっている。さもなければ、官界のもとの仲間との人脈も薄れ、自民党にとってあまり有益では
なくなるからだ。政治家と官僚のどちらの力が強いかについては、日本の学者とジャーナリストの
間で意見が割れているようだが、実際には、政治家と官僚とは、相互支援から本格的な共生関係まで、
さまざまな相互扶助の関係にある。河野一郎は農林・建設大臣として手当たりしだいに高級官僚を
解任、任命して官僚の反感を買ったが、これは例外である。自民党結成当時に大平正芳が書いた
「大臣は、官庁の一時的訪問者にすぎないということを考慮して、自分の省の役人に嫌われないよう、
できるだけの努力をすべきである」というのが、より一般的に認められている基準である。

////////////////////// 原書1989年刊 ///

200 ◆JeacknUANQ :2011/10/08(土) 19:06:56.46 ID:Qg9dUaG4

/// アドミニストレーター 81 //////////////

    大臣と省庁

 大臣と省庁との関係について、簡単にこんなものだろうと憶測してはならない。別の省出身の
大臣のほうが、自分の古巣である省の大臣として戻ってくる官僚出身者より受けのいいことが多い。
また、党人派の大臣のほうが、官僚派の大臣より、自分の配下の官僚に代わって熱心に弁をふるう
こともある。というのは、たいがいの場合、自分の政治的目標の推進に官僚の支持を得ようとすれば、
政治家自身のほうがよけいに努力をしなければならないからだ。

///////////////////////// 早川書房 ///

201 ◆JeacknUANQ :2011/10/09(日) 23:37:04.56 ID:h1wsfsqJ

/// アドミニストレーター  82 /////////////////

 相手が閣僚であろうとなかろうと、自民党内で高い地位にある同僚を動かす力にかけては、
党人派が官僚経験者より一枚うわてである。両者の力の違いは、官僚出身の宮沢喜一と大物政治家・
金丸信の場合を見ればよくわかる。宮沢には、主要大臣職の大半を歴任した経歴がある。しかし、
自分の派閥内で配下の中間的指導者ですら自分の考えに従わせるのはそう簡単ではなかった。一方、
金丸は、国会議員を操ることにかけては党内随一とみなされている。またこれとは別に、後藤田正晴は
官僚出身(元警察庁長官)だが、例外的な存在である。彼は、田中にも中曾根にも、官僚との
交渉にあたる右腕として重宝がられたが、同時に、政治的な操作においても多大な力をもっている。
竹下は、後藤田の独壇場になるのを恐れて彼を入閣させなかったが、新内閣発足から三週間後に、
竹下と後藤田と金丸が協議して三者で月例会議をもつことになった。一九八八年の自民党に重心が
あったとすれば、この三人組である。

/////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

202 ◆JeacknUANQ :2011/10/10(月) 19:04:30.30 ID:PTVaxNeO

/// アドミニストレーター  83 ////////////////

 各派閥に対する官僚の評判は、派閥によっていろいろ違う。たとえば、安倍晋太郎の派閥
(旧福田派)の政治家はひじょうに扱いにくいといわれ、一方、田中の派閥から出た大臣なら、
概して官僚も気楽でやりやすいという。野心のある自民党の政治家は、大蔵、建設、運輸、
農林水産省など有力な省に自分の勢力基盤を築こうとする。ひじょうに強力な政治家なら、
その省を自分の派閥のため"植民地"にすることもある。田中軍団が支配下においた郵政省が、
そのよい例である。同省では、一九七〇年代の後半以来、例外なく田中軍団の若手に政務次官の
席が与えられてきた。新しい電気通信の分野に参入するのなら、まず、田中軍団(一九八七年に
竹下派に衣替えした)のメンバーとの友好関係を確立することが前提条件となる。
 官僚のほうは、政治家にうまく対処するための材料や上手なテクニックをたくさん持っており、
派閥の連合パターンが変わるたびに、それに合わせて微妙な調整をするのにも、熟達している。
官僚自身が言う。「官僚は、昆虫のようなカンで、力の発せられる方向にアンテナを向けなければ
ならない」。

///////////////////////// 945円(税込) ///

203 ◆JeacknUANQ :2011/10/12(水) 21:39:59.95 ID:AdfGc3CF

/// アドミニストレーター  84 ///////////////

 かりに自民党政権でなかった場合、官僚がどんな手を使ってその政府を転覆させようとするで
あろうか。この答えはあくまでも推測の域を出ないが、福田赳夫が大蔵省主計局長だった当時、
片山哲の内閣を倒す原動力になった前例がある(片山内閣は、一九四七年五月に発足した日本最初で
唯一の社会主義政権だが、わずか九ヵ月で倒れた)。片山は重要な政策計画を実施するための
金が必要だったのだが、福田は原資がないと断った。その福田が、次の保守系の芦田均の内閣の
ためには予算をつけたのである。
 日常業務では、官僚は大臣が機嫌をそこねないよう気を配る一方、自分の縄張りにあまり
立ち入って詮索させないよう、あれやこれやの常套手段で対処する。大臣の考えや意向をその時の
風向きに合わせて判断できる、中堅クラスの頭のきれる役人が一人、大臣の特別"秘書"として
当てがわれる。時には、同僚の役人たちが堅固な陣地に立てこもり、猛烈に反対してきても、彼は
大臣官房長(次官につぐ上から二番目の役職)と共に、大臣の味方だと見せかけなければならない。

///////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

204 ◆JeacknUANQ :2011/10/13(木) 22:31:31.61 ID:t9urST68

/// アドミニストレーター 85 ///////////////////

 官僚は、政界のリーダーに対しあからさまに挑戦することはもとより、公然と批判することもしない。
政治家のほうは、人前で官僚をやりこめたり、叱りつけたりすることがある。時には、単に自分たちの
威信を示すためそんな振る舞いを見せるのだが、このような優位性も実はほとんど幻想にすぎない。
官僚は国会も批判することはない(ほとんどの官僚が、政治家は無知で無能だと思っている。
だが、暗黙の了解かおるから、それは活字にならない)。ただ国会議員は、官僚が必要だと
みなした範囲の情報をもらうだけである。

////////////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

205 ◆JeacknUANQ :2011/10/14(金) 21:10:49.42 ID:8yZWXuNF

/// アドミニストレーター 86 ///////////////////

 だが、官僚のほうにも、自民党政治家の間で評判を良くしようとするところがある。そうすれば
行政能力も高く評価してもらえて、上の地位へ抜擢されるチャンスにもつながるからだ。大臣には、
自分の邪魔になる高級官僚を任意に解任できる権限があり、これが大きな武器になる。しかし、
この権限をふりまわそうものなら、将来、その省から援助してもらうチャンスを永遠に失って
しまうかも知れない。省内の人事は官僚の聖域に属することであり、大臣であれ、その聖域に
立ち入っては無事には済まされない。露骨に口出しすれば人脈も築けない。するのなら事務次官
経験者の連中にそれとなくはのめかし、動かすのがコツである。たとえば、通産省では、事務次官
経験者が同省の上層部人事において強大な影響力をもっている。通産大臣は、退官していく
事務次官が指名する者を後任に任命するケースが九割以上になる。

///////////////////////// 原書1989年刊 ///

206 ◆JeacknUANQ :2011/10/15(土) 16:16:30.72 ID:bQmIB3Hi

/// アドミニストレーター   87 ///////////////

 残された力をフルに行使しても、大臣は、現実問題としてはっきりわかるほど、政策の方向を
変えることはできない。大臣になっても、使える力といえば官僚の昇進や解任にかかわったり自分の
支持者や選挙区に国庫から金をまわさせるぐらいのものである。しかし、これとても官僚機構を
ふりまわすだけの強力な政治力を振るうという意味ではない。たとえば教育問題について政府が
支配力を確立しようとしてきたような、長期の懸案事項を除いては、"政策決定"の面で、大臣の
決定権はその名に値しない。

///////////////////////////// 早川書房 ///


207 ◆JeacknUANQ :2011/10/16(日) 18:45:36.02 ID:D1gBSkW5

/// アドミニストレーター  88 ///////////////

   分業の政治的意味

 利益団体に妨げられたり、国会でうるさく反対されそうな案件への政策調整を、率先しておこなう
のも官僚である。予想される反対を回避するための先制手段として多くの審議会が利用される。
審議会の委員は高名な学者やジャーナリスト、財界人や関連の利益団体の有名な代表に委嘱される。
このような審議会の委員になるのはひとつの名誉とされ、審議会の"コンセンサス"だとされる意見は、
大いに尊重される。その会の答申は、諮問した官僚も委員に加わっているから、官僚の意向を
反映するよう誘導されるのが普通である。つまり、審議会は、官僚の計画に対して予想される
反対をぼかしたり、骨技きにしたりするのに役に立つのだ。

/////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

208 ◆JeacknUANQ :2011/10/17(月) 21:48:14.98 ID:jiPwOSn1

/// アドミニストレーター  89 ///////////////

 実際の法律作成の作業は通常、国会に議案が提出される頃には、すでに完了している。
ほとんどの場合、国民が選んだ議員たちは官僚が彼らの鼻先につきつけた法案に、ただ
機械的に判を押すだけである。法案をめぐっての実際のかけひきは、あるとすれば自民党内部の
議員間でおこなわれる。結果は、省庁間の意見の差がどのくらいかと、財界や有力陳情団との
交渉結果によって決まってくる。いったん法案が国会に提出されると、自民党はあらゆる
手段を使って承認されるようにもっていく。国会の場でもし法案を修正されたら関係省庁は
面目を失うからである。

////////////////////// 945円(税込) ///

209 ◆JeacknUANQ :2011/10/18(火) 21:48:34.25 ID:A5W8bdSY

/// アドミニストレーター 90 ///////////////

 官僚の助けなしには、自民党議員は国会で途方にくれてしまうだろう。議会制度をとっている
たいていの国では、政治的な討議が議員問で展開される。しかし日本ではこういった場面はきわめて
少ない。"討議"がおこなわれる場合でも、野党議員はわなをかけるような質問をし、基本的には
ベテランが答弁するだけである。国会の委員会に出席する大臣には、十分な準備をしてきた局長や
課長級の官僚が同行し、大臣のそっ気ない説明を官僚特有の無難な答弁で"補足"する役目をする。
公式の責任者である大臣は、管轄下にある政務全般について十分に掌握していないことが多い。
政府の政策に関する資料を通して、自民党の議員を誘導するのが高級官僚の重要な仕事の一部に
なっている。通産省の場合、課長級は勤務時間の約半分、局長級は約三分の一をこれに費やすという。

////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

210 ◆JeacknUANQ :2011/10/20(木) 22:51:55.10 ID:Nq8AU3Mv

/// アドミニストレーター  91 /////////////////

 国会議員にとって最悪なことは、自分の選挙区の住民から"無関心"、"誠意"不足と思われることだ。
そう思われないように平均的自民党議員は、多大な時間を費やしてせっせと選挙区をまわり、地元への
関心度を態度で示す。彼らは中央で高い地位にある人びとに通ずる"パイプ"を本当に持っていることも
示さなければならない。だから、選挙が近づくと、地元住民を地域の中心の体育館や公民館に集めて、
生きた"パイプ"の証拠として、できれば大臣をしている派閥の幹部を披露する。
 いざ大臣になると、自民党の政治家は、その省が保護下に集めた支持団体に特別な注意を払わなければ
ならない。彼らに"誠意"を示すためには、さまざまの儀礼行為にかかわらなければならなくなる。
予算編成が大詰めを迎える時期になると、同僚である大蔵大臣を訪れることも、そんな配慮のひとつ
である。実際には、最終折衝は下のレベルの官僚どうして決着されるのだが、蔵相の部屋から出てくる
大臣は激しい交渉ぶりを見せるのがつねである。ある大臣が「とったぞ、とったぞ」と叫んだので、
新聞記者がなんの予算をとったのかとたずねると、その大臣は「その件は次官に聞いてくれ。次官に
頓まれてオレは蔵相にアイサツに来たんだ」と答えたという。

////////////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

211 ◆JeacknUANQ :2011/10/22(土) 01:01:13.40 ID:MFi/AHAN

/// 早川書房 //////////////////////

 カレル・ヴァン・ウォルフレン(Karel Van Wolferen) (著)、篠原 勝 (翻訳)、
 原著1989年発行、邦訳 早川書房1990年発行
 「日本/権力構造の謎」 The Enigma of Japanese Power  日本 権力構造の謎〈上〉

単行本: ¥ 2,447(税込) ISBN-10: 4152034475 ISBN-13: 978-4152034472
 http://www.amazon.co.jp/dp/4152034475/
 http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4152034475.html
 http://www.bk1.jp/product/00690461
 http://books.rakuten.co.jp/rb/item/432945/
 http://www.junkudo.co.jp/detail.jsp?ISBN=9784152034472
 http://www.7netshopping.jp/books/detail/-/accd/1100923648/subno/1

ハヤカワ文庫NF、945円(税込) ISBN-10: 4150501777  ISBN-13: 978-4150501778
 http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4150501777.html
 http://www.7andy.jp/books/detail?accd=18988933
 http://www.amazon.co.jp/dp/4150501777/
 http://www.bk1.jp/product/01055138
 http://books.rakuten.co.jp/rb/item/650744/
 http://www.junkudo.co.jp/detail.jsp?ISBN=9784150501778
 http://www.7netshopping.jp/books/detail/-/accd/1101172635/subno/1

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212名無しさんの主張:2011/10/22(土) 21:10:14.92 ID:???
★長妻厚労相更迭が突きつけるリアリティー (抜粋)    1
 WEB RONZA 鈴木亘 2010年10月07日

◇長妻厚労大臣が更迭された理由◇
一言でいえば、厚労省の官僚、とくに厚労省の幹部たちとの政治力勝負に長妻氏が負けたということである。
情報戦・マスコミ操作力においても、与野党政治家や業界への根回しにおいても、人海戦術的マンパワー
においても、すべてにおいて厚労官僚に力負けし、長妻氏は土俵から寄り切られたのである。ついでに、
長妻氏同様に国民の期待の大きかった山井、足立両政務官もうっちゃられてしまった。

しかし、こういった政治的な環境変化がなくても、長妻氏はいずれどこかの時点で、やはり負けるべくして
負けたように思う。厚労省というまさに巨大な組織とその政治力に真っ向から対峙するには、長妻氏は
あまりに準備不足であったし、能力・資質も残念ながら不足していた。

また、何よりも副大臣、政務官を含めて5人という三役のマンパワー(それも一枚岩とはいえない)では、
巨大な組織を前にして如何にも非力であった。ランボー並みの破壊力をもった大臣とはいえ、5人の
傭兵部隊が、正規軍の一個師団に対峙するような趣では負け戦は必至であった。

◇長妻元大臣から呼び出されて◇
長妻氏が内閣を去って、もはや迷惑がかからないと思うので書くが、じつは昨年末のある日、わたしは
ある学者とともに、長妻大臣に個人的に呼びだされ、じっくりと官僚対策について話し合う機会があった。
当初、秘書から「ご意見を伺いたい」とだけしか聞かされていなかったため、わたしはてっきり年金の
話でご下問があるのか、それとも医療、介護、はたまた保育、生活保護、ホームレス対策という可能性も
あるだろうかなどと考えていろいろ用意して行った。

だが、いざ大臣室に入ってみると、相談内容というのは「厚生労働省の官僚たちの抵抗が非常に
激しくて困っている。自分の政策方針に合うように、官僚たちに言うことを聞かせるにはどうしたら
良いだろうか」というものであった。

当時、三役が官僚たちに洗脳されることを恐れて、官僚たちのご進講(レクチャー漬け)を避け、
ひとつずつの内容を確認してからしか決済を行わないために、通常業務が完全に立ち往生している
ことが伝えられていた。
213名無しさんの主張:2011/10/22(土) 21:15:20.91 ID:???
★長妻厚労相更迭が突きつけるリアリティー (抜粋)    2

また、これまで官僚たちが審議会を使って積み上げてきた規定路線の政策をしばしば覆したり、
官僚を怒鳴りつけたりするので、官僚からは「独裁者だ」とか「魔王だ」などという陰口も
叩かれていた。そのせいもあってか、野党時代に掲げていた年金改革などの諸改革もまったく
手が付いていない。

したがって、わたしはこのまったく専門外の質問に驚きつつも、「ああやっぱり、かなり困って
いるのだな」と思ったことを覚えている。しかし、それにしてもこの時点に至って、これまで面識の
ない外部の人間に、このあまりに基本的な戦術を尋ねるようでは、この人たちは本当に大丈夫なの
だろうかと、長妻厚労大臣の行く末を案じる思いがした。官僚に対峙するためには、相当事前に
周到な戦略を練っておかなければ、勝負になるはずがない。

◇官僚をコントロールするための4つのアドバイス◇
結局、急ごしらえであったが、わたしのアドバイスは、以下の4つであった。

第一は、厚労省独自の「事業仕分け」を行うことである(これは同席したもう一人の学者も提案した)。
第一次の事業仕分け同様、傍聴者やマスコミを入れ、インターネットの動画配信を行って賑々しく
実行する。

第二は、人事権に介入することである。大臣は厚労省内の人事に不介入ということが伝統的な
原則であるが、本来的には人事権を行使することは可能であり、幹部人事の前には候補者を面接して、
長妻氏の政策方針を支持するかどうか踏み絵を踏ませてはどうか。はじめは人事権に介入することは
なかなか難しくても、少なくとも影響力があることをみせつけることが重要である。

第三は、社会保障審議会の各部会など、すべての厚労省審議会、委員会、検討会をインターネット
動画配信する。もちろん、記者クラブ以外のマスコミ、傍聴者も入れる。国民がみている場では、
業界団体や御用学者も露骨な利益誘導を行いにくくなり、それを利用している官僚たちの思惑通りには
行かなくなる。また、こうした審議会をいわば隠れ蓑の承認機関に使っている官僚たちの顔も
公衆の面前にさらされる。
214名無しさんの主張:2011/10/22(土) 21:20:08.67 ID:???
★長妻厚労相更迭が突きつけるリアリティー (抜粋)    3

さらに、審議会の答申・報告書は最終的な決定とするのではなく、マスコミ、インターネット動画を
入れた上で、最後の山場として、審議会の座長に、長妻氏ら閣僚の前で答申を説明させ、おかしな
ところはどんどんやりあうところを国民にみせる。最後に答申を拒否することがあってよい。
そうすれば、事務局主導のおかしな結論を座長が無責任にスルーするようなことはなくなるし、
説明力の乏しい御用学者に座長が務まらなくなる。つまりは、審議会を利用する官僚主導の力を
大幅に弱めることができる。

第四は、政治家の三役側に各分野の専門家によるブレーンチームをつくることである。チームは、
学者や有識者のほか、志をもって辞めた官僚OB、地方自治体の関係部局からの出向者(敵の敵は
味方である)、民間からの出向者から構成する。官僚と政治家のあいだの圧倒的な情報格差と
マンパワー格差があるかぎり、まず官僚を統御することは不可能であり、政治家のバーゲニング力を
強めるために、専門家集団を政治の側に付けることが不可欠である。


◇政治主導と改革の困難◇
さて、その後の経緯をみると、たとえば厚労省独自の事業仕分け実施や、厚労省管轄化の独立行政法人
における幹部人事の公募導入など、一部はわたしたちの意見を取り入れてもらったのかもしれないと思う。
また、人事評価基準の改革や、各種の改革プロジェクトチームもようやく軌道に乗り始め、長妻色が
出はじめたところであった。

厚労省官僚の天下り先の公表や、非現実的な年金積立金の運用目標を拒否するなど、目立たないながらも
長妻氏のファインプレーがちらほらとはみえはじめていた。しかしながら、如何せん、当初の準備不足と
戦略不足、多勢に無勢が響いて捗捗しい成果が出ず、厚労省の政治力とマンパワーの前に屈したと
いうところであろう。
215名無しさんの主張:2011/10/22(土) 21:59:37.00 ID:???
★長妻厚労相更迭が突きつけるリアリティー (抜粋)    4

人事についてはわたしの想像をはるかに超える乱暴なこともやったようであるが、そのやり方は
ともかくとして、長妻氏の目指した方向性自体は、わたしは間違っていなかったように思う。

日本の社会保障制度を取り巻く環境変化の激しさを考えると、もはや既得権益業界の利益を代弁し、
財政膨張をすることでしか調整できない旧態依然とした厚労省幹部たちに政策を任せることはできず、
官僚組織と真っ向から対決するよりほか、日本の社会保障制度に活路は見出せないように思われる。
現在の官僚融和・丸投げ路線などもってのほかであり、官僚任せでは永遠に真の改革は不可能である。

しかし、長妻氏や、同じく今回更迭された山井氏、足立氏ほどの専門性(政治家にしては相当の
専門家であった)をもってしても、準備不足と戦略不足、多勢に無勢では、所詮、厚労省の官僚組織の
敵ではなかったのである。

正規軍に対するには、それなりの人数の専門チームを作り、官僚の抵抗を完全にシミュレート
した上で、周到な準備の上で戦略的にどんどん手を打っていく必要がある。長妻氏達の更迭によって、
政治主導の難しさ、改革の難しさのリアリティーを、国民は改めて実感すべきである。

 WEB RONZA 鈴木亘 2010年10月07日
 http://webronza.asahi.com/synodos/2010100600001.html
216名無しさんの主張:2011/10/22(土) 23:47:07.85 ID:???
★厚労省とマスコミが結託、長妻厚労相つぶしの陰湿 

長妻厚労相が示した人事案に対し、役人が「猛反発」している。
子ども手当を担当した伊岐典子雇用均等・児童家庭局長を独立行政法人労働政策研究・研修機構に
出向させる人事案をめぐり、「左遷だ」「更迭だ」などとヒステリックに騒いでいるのである。
民間でも結果を出せなければクビが飛ぶ。国民の血税でメシを食い、国民代表の政治家を支えるのが
官僚の役目なのだから、人事も「国民の意思」と同じ。イチャモンつけるなど言語道断である。
ワケが分からないのは、メディアの報道だ。この人事が発表されるとすぐ、読売は<責任を官僚に
押しつけているといった不満も漏れる>(23日)と書き、朝日も<担当局長として申し分ない
働きという評価だ。長妻氏の過剰反応とも言える>(23日)と官僚擁護記事のオンパレード。
共同通信もきのう(26日)、<民主党の公約の不備の責任を事務方に押し付けないでほしい
との声も>とダメ押しだ。
陰でコソコソ愚痴る官僚の“泣き言リーク”を競う合うように垂れ流しているのである。
元NHK政治部記者で評論家の川崎泰資氏はこう言う。
「官僚は情報操作のために記者を飼いならす。記者も、記者クラブが同じ役所内にあるため、
役人と一体感を持ちやすく、役所の雰囲気に流されて記事を書くことになる。今回の件は、
長妻大臣が閣内で求心力を失ったとみた記者たちが官僚の意向を汲んだのでしょう」
厚労省は長妻を大臣に迎える際に拍手ひとつしなかった陰湿集団だ。就任後はレクチャー攻めにし、
揚げ句、「ミスター検討中」なんてあだ名を付けてあざ笑った。省を挙げて、仕事そっちのけで
長妻潰しを画策していた連中である。それをメディアは大喜びでせっせと書いてきた。
長妻はそんな腐臭役人や役所のご機嫌取りに走り回る御用ポチ記者に遠慮することはない。
バカ役人のクビをどんどん切り、ついでに役所の広報部署と化した記者クラブも解体した方がいい。

(日刊ゲンダイ 2010/07/27 掲載)
http://www.asyura2.com/10/senkyo91/msg/443.html
217 ◆JeacknUANQ :2011/10/23(日) 11:43:22.90 ID:j4shZChe

/// アドミニストレーター  92 //////////////

   日本の総理大臣

 日本の首相に与えられている実権は、西欧のどの国の首長に比べても、たいていのアジア諸国の
首長に比べても弱い。ごく表面しか見ない外国人は、日本の首相には相当な力があるだろうと
想定するのだが、実際には、それよりかなり小さな力しかない。一九六四年の秋、佐藤栄作の
首相当時、総理府を強化し中央政府の官僚統制力を増大させようとする働きがあった。先の
池田内閣から引き継いだアイデアにもとづぎ、首相の助言役として特別秘書を数名置く内閣補佐官
制度の設立を目指すものであった。しかし計画は、自民党と官僚双方からの強い反対にあって
つぶされた。自民党の政治家は、そのような機関が自分だちと省庁の聞に入ってくれば、政治資金の
主要供給源が断たれると恐れ、官僚は、その特権の一部が取り上げられると危惧したからである。

//////////////////// 原書1989年刊 ///

218 ◆JeacknUANQ :2011/10/24(月) 21:03:46.93 ID:ARFSeMLb

/// アドミニストレーター  93 /////////////

 最終的には、歴代の首相たちが、恒久的な内聞補佐官の一団に囲まれては統制がさらにきかなくなる
危険にみずから気づいたのである。通常、時の特別問題に関する助言役として官界から出向派遣される
補佐官は、本省のスパイも兼ねている。だから首相の考えが本省に重大な影響を与える危険がある時は、
官庁側としても対策を講じられるのである。それが、恒久的な内閣補佐官制度となれば、首相としては
彼らを監視するための機関がまた別に必要になろう。

/////////////////////// 早川書房 ///

219 ◆JeacknUANQ :2011/10/25(火) 20:55:42.31 ID:j0ugj6Fu

/// アドミニストレーター   94 //////////////

 日本の首相は、国内問題に関する新しい優先事項を打ち出すこともできず、日本の国際的な
立場から考えて、決定的に重要だと考える対策も実行できないとはいえ、首相によっては
かなりのことができる。いうまでもなく、そんな首相の例として、すぐに思い出すのは田中である。
もっとも彼が、日本の政治の歴史において重要な役割を演じたのは首相を辞めた後のことであった。
しかし、首相による違いをだれよりも劇的に見せてくれたのは、田中が最後に選んだ二人の首相、
鈴木善幸と中曾根康弘である。

//////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///


220名無しさんの主張:2011/10/26(水) 21:21:25.40 ID:???
★BBC記者の目に晒された「官僚支配」   1
  笈野泉2009/01/20

Japan's political revolving door

 これは2008年9月27日付BBCのwebnewsに掲載されたBBC日本特派員
クリス・ホッグ(Chris Hogg)記者の記事の表題である。「日本の政治的回転ドア」と
仮に訳しておく。この記事は日本では2人の首相が1年経たぬうちにギヴ・アップして
政権を投げ出し、自民党が今週新たな首相(麻生首相)を選んだ、という書き出しで
始まっている。記者はこのような日本の政治を「カラオケ政治の時代」(era of karaoke
politics)と表現する。次々とマイク(政権)の持ち手が変わるからである。ホッグ記者が
日本に着任したのは2006年だが、それから僅かの期間に首相が今度で4人目。
くるくる首相が変わる様子は「回転ドア」のようである。

 言われて記憶を辿れば、回転ドアの客は「小泉」、その次は「安倍」、「安倍」の次は
「福田」で、今度は誰だ? と注目すると次は「麻生」であった。「あ、そうか」と洒落る
余裕もないほどの目まぐるしさである。日本の首相は任期が短すぎるので「外国の
リーダーが前任者の名前を覚える前に、次の首相が任命されている」。記者は
「不真面目に聞こえてほしくない」が、日本の首相の在任期間はアメリカの大統領に
ようやく会って、孫に印象づけるための写真を撮る程度の期間しかないのが現実だ、
と言う。このようにホッグ記者にかかると、我が国の首相評はさんざんである
(しかし、事実である)。

BBC記者の目に晒された「官僚支配」

 しかし、そのことは日本に多くのダメージを与えていないようだ。「日本株式会社」は
力強く進んでいる。日本は世界第2の経済大国だ、と続く。注意を要するのは、
その次のフレーズである。首相が変わっても日本がダメージを受けないその理由は、
実は「政治家は日本では問題ではない」。日本は「官僚によって動かされている」
からだ。
221名無しさんの主張:2011/10/26(水) 21:30:08.10 ID:???
★BBC記者の目に晒された「官僚支配」   2

 ホッグ記者は当初、「日本は官僚によって動かされている」というような言説に
懐疑的だったが、あることをきっかけに確信するに至った。それは福田前首相に
インタビューを申し込んだときである。官僚は首相が「ヘマをやらかす」ことを恐れ、
インタビューを避けようとしたが、数日かかってなんとか実現した。当日は部屋に入ると
官僚が多数待ち構えていた。福田首相とのインタビューのテーマは「環境問題」であったが、
官僚は、インタビューが「台本通りに運ばぬこと」を心配し、ある細工をしたのである。
その細工とは福田首相に言わせたい科白を「テレプロンプター」で映し出すことであった。
官僚は「言わせたいこと」を書き出し、それを「テレプロンプター」という文字を1行ずつ
拡大する装置に置いた、と記者は書いている。ホッグ記者は慇懃に不自然さを
指摘したものの、官僚は相手にしなかった。

"Three, two、one, cue PM."

 福田首相が入室しインタビューが始まる。補助者(官僚)がホッグ記者の背後から
身振りを始め、そしてこう叫んだ。「3,2,1、さあ、首相」(Three, two、one, cue PM.)。
そうすると、その哀れな男はテレプロンプターから読み始めたのである。「その哀れな男」
(The poor man)とは、我らが福田前首相のことである。
 ホッグ記者にはこの日の「哀れな男」が「かいらい」(puppet)のように見えたのだが、
眼の前にいるのは知的で有能な政治家であり、それらのことがその日の体験を一層
憂鬱にさせたと書いている。記事は、福田前首相の「置き換え」(replacement)である
麻生首相も、「あまり長くないかもしれない」と結んで終わっている。

222名無しさんの主張:2011/10/26(水) 21:34:41.30 ID:???
★BBC記者の目に晒された「官僚支配」   3

 私はこの記事を読んでガッカリしました。官僚が首相を意のままに操ろうとする模様が
リアルに手に取るように描写されており、実態を知ったという意味では大変勉強に
なったというものの、世界中がこの事実を知るところとなったからです。日本人の
私ですらびっくり仰天する内容―政治の舞台裏が、政治家と官僚との力関係が、
2008年9月27日付で、BBCのwebnewsに掲載され、世界中の人々の目に晒される
こととなりました。これは日本の「恥」であり、日本の首相の「権威」は地に墜ちた
というべきではないでしょうか。

 これまでも「官僚支配」については、カレル・ヴァン・ウォルフレンなどによって書かれて
きたと思いますが、この度の影響の大きさはまったく出版物の比ではありません。
日本の首相がこの報道を知らない、あるいは国際社会でこの事実に頬被りをして
行動することは、「裸の王様」に等しいものと危惧します。首相 (政治家)の「質」が
問われています。

 以上がアメリカと余りにも違う我が国の真実であり、前途には重いものがあります。
しかし、悪いことばかりではありません。為政者にとっては「不都合な真実」でも、
立場を変えれば有益な情報になるからです。では、「今後どうすれば良いのか?」
ということですが、それを「市民記者」の一人として考えていきたいと思っています。

  笈野泉2009/01/20
http://janjan.voicejapan.org/world/0901/0901185644/1.php
223名無しさんの主張:2011/10/26(水) 22:09:39.82 ID:???
★福田康夫前首相  「いかに官僚使いこなすの大変かが分かった」

24日に首相官邸を去った福田康夫前首相は退任直前、1年間にわたり務めた首相としての悔悟と誇りを
関係者に語った。
悔やまれるのは、首相就任までに経験した閣僚が官房長官だけだったこと。誇りとするのは、
「ポピュリズムに迎合しない政治を通した」ことだという。
官房長官としては歴代最長となる1289日の在任日数を務め、中央省庁に強い影響力を示し、「陰の外相」
「陰の防衛庁長官」ともいわれた。
官僚には「お役人」と呼ぶほど大きな信頼を寄せていた。
だが、年金記録紛失問題や後期高齢者医療制度への対応など「お役人」の相次ぐ不手際や怠慢に足を引っ張られた。
9月1日の辞任表明後も、事故米不正転売をめぐる不手際から農水省のトップ2人の更迭を余儀なくされた。
「官僚組織というものが官房長官では分からなかった。
官僚を使いこなすのがいかに大変かが分かった。
どこかの役所の大臣を経験した方がよかった」そう振り返った福田氏は内閣総辞職の談話で「国民目線」を
重ねて強調し「これまでの政治や行政を根本から見直さなければならない」と訴えた。
ただ、福田氏自らが「国民目線」を実践したかどうかは評価が分かれる。
各報道機関の世論調査結果ではことごとく、福田氏の指導力・発信力不足が指摘されていた。
24日の離任時も、官邸職員から花束を受け取るや、カメラを無視するように足早に官邸を去り、最後まで
パフォーマンスを封印した。
だが、社会保障担当の首相補佐官だった伊藤達也元金融担当相は、「福田氏は厚労省改革で強い指導力を
みせた」と評価する。その上で「手柄を全部われわれに与えようとする。
『首相が前面に出られたらどうですか』と促しても『いいんだよ』としか言わない。
目立とうとしない政治家は珍しい」と証言する。
「国民目線の行政」の象徴と位置づけている公務員制度改革や消費者庁設置などが今後、実を結ぶかは不透明だ。
ただ、パフォーマンスをことさら嫌わず、国民に直接語りかける場面がもっとあれば、別の「福田康夫像」が
世論から作りあげられ、政権も持続させられたのではないだろうか。

2008年9月25日 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080925-00000089-san-pol
224 ◆JeacknUANQ :2011/10/27(木) 21:15:21.20 ID:w2PnrOfq

/// アドミニストレーター   95 /////////////////

    指導者不在の好例

 鈴木善幸は、戦後の日本の首相の中でも前例のないほど、決定回避という日本的な技倆に
磨きのかかった人物だった。田中が首相だった当時、鈴木は透明人間に近い目につかない存在だった
のだが、自民党の幹部間の秩序を保つのに一役果たしたので、田中は彼を首相に選んだ。党内の
秩序を保つには派閥間および派閥内部の力関係の変化をきわめて敏感にとらえ、間に入って
巧妙にとりなす技倆が必要となる。日本の政治評論家が一致して見るとおり、鈴木はこの技倆に
たしかに長けていたのだが、それに反比例して、彼には物事を決定するという人間的な衡動が
欠けていた。彼の徹底した政治的な受け身の姿勢も、記録破りだった。

////////////////////////// 945円(税込) ///


225 ◆JeacknUANQ :2011/10/28(金) 22:19:21.44 ID:fldIINWP

/// アドミニストレーター  96 ///////////////

 鈴木が首相の座に就くとは、だれも予想しなかった。なにしろほとんどの人が、彼の存在すら
知らなかったのである。まもなく、だれの目にも明らかになったのは、彼には経済や外交についての
知識がないということだった。鈴木にとってなによりも大事なことは、だれの怒りも買わないように
することであった。それには、いっさいなにもしないのがよい。たくさんある例の一つは、
中学教科書中の日本の植民地と戦時中の歴史の記述の書き直しをめぐって、韓国と中国との
外交関係が危機に発展した時のことである。危機がもっとも高まった時、首相鈴木善幸はおもむろに
彼流の解決を下した。つまり文部省と外務省が話し合って問題を解決するようにと指示したのであった。
文部省は一貫して、象徴的な謝罪のジェスチャーを示すべぎだとする外務省の要求を、強固に
拒みつづけていたのである。

///////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

226 ◆JeacknUANQ :2011/10/29(土) 19:50:08.69 ID:Ga3mI2yX

/// アドミニストレーター   97 //////////////

 官僚は、鈴木を軽蔑していた。大臣たちも、戦後の日本で他に例がないほど徹底して鈴木首相を
無視した。内部の者もその間の事情をもらしている。鈴木は、短時間の閣議でも敬意を払われず、
なんとか首相らしい待遇を受けたのは外国訪問旅行中がはじめてだったという。日本の内閣は、
体裁だけでも閣内がまとまっているように外部へ見せかけるのが普通だが、当時経済企画庁長官
(国務大臣)たった河本敏夫は、勝手に経済刺激対策をとり入れたのに対して、大蔵省は政府政策の
一貫として処理されねばならないと否認した。

/////////// 「日本権力構造の謎」<上> ///


227 ◆JeacknUANQ :2011/10/30(日) 11:28:52.16 ID:WpnVu8Mu

/// アドミニストレーター  98 ///////////////

 以上書いたことはすべて、誇張ではない。鈴木首相につけられたあだ名の一つに「テープレコーダー」
というのがある。どうしても出席しなければならない会合があると、それに先立ち、用意した答えを
まちがいなく言えるよう、官僚の指導の下に丸暗記したからだ。そのうちに、訪日する外国の高官や
報道関係者に鈴木をできるだけ会わせないように官僚は工夫をこらすようになった。鈴木の欧州訪問に
際しては、誤解を減らすことが目的であると発表した以上、欧州の特派員との記者会見に出席せざるを
えなかった。その記者会見の約三週間前に、筆者のもとに外務省から電話が入り、鈴木首相に質問
したいか、その場合なにをききたいかとたずねられた。しばらく後、「混乱を避けるため」ある
ジャーナリストの質問に首相が答えたすぐ後に著者が質問するよう指示された。ところが、その後
さらに、記者会見までに二度、質問者として選ばれた七人の特派員の質問順変更の通知がきた。
記者会見当日、鈴木はゆったりと腰をかけ、なかば目を閉じたまま大暗記した答えを暗唱したのだが、
中に意地悪く質問を変えた特派員には、とんちんかんな答えが返ってきた。

///////////////////// 原書1989年刊 ///

228 ◆JeacknUANQ :2011/10/31(月) 22:11:59.58 ID:vLhDOn/d

/// アドミニストレーター  99 ///////////////

 "記者会見"のやま場は、最後の場面だった。ドイツ入の記者がごくていねいな言葉づかいで、
首相にこうたずねると場内に静かな賛同のどよめきが起こった。今日のこの記者会見は自然な
質疑応答らしく見せかけてはいるか、その実、事前にお膳立てされたものである、集まった
約五〇人のヨーロッパの新聞・テレビ記者は、各々質問できると思って来た、このことを首相は
ご存じであろうか。訪欧の目的は相互理解を深めるためなのに残念だと思わないか。質問の通訳は
完璧だったが、首相は、その記者が外務省に前もって提出させられたもとの質問に答えたのだった。

///////////////////////// 早川書房 ///

229 ◆JeacknUANQ :2011/11/01(火) 22:18:06.62 ID:avNISFke

/// アドミニストレーター 100 /////////////////

 鈴木が日本の国際関係にとってお荷物になることが明らかになったのは、彼がレーガン大統領と
ともに署名した共同声明文の一部を否認した時である。その後、一九八二年の主要先進国サミット
首脳会議では、アメリカの大統領の態度に鈴木とはなにも話し合いたくないという意向が、ありありと
出ていた。次の一九八二年の七カ国首脳会議の準備をするにあたり、官僚は、特別の頭痛に悩まされる
ことになった。というのは、不快な不意打ちを避けるため、まずアメリカの大統領と日本の首相間で
予備首脳会談がもたれるのが慣例化していたのだが、辛辣なことにレーガン大統領が鈴木に会う時間が
ないと言ってきたのである。こうなると、首脳会議での日本の成否は、他の首長がどれだけ鈴木を
無視しおおせるかにかかってきた。日本の新聞は鈴木には首脳会議の討議についていく知力が
備わっていない、とあからさまに書いたのである。

///////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

230 ◆JeacknUANQ :2011/11/02(水) 21:58:14.77 ID:ds/k8X+b

/// アドミニストレーター 101 /////////////////

 ある意味では、鈴木は理想的な日本の首相だった。ただし、よくいわれる日本的理想像を
判断の規準にすれば、である。彼は、つねに控え目ででしゃばらずなによりも"コンセンサス"を
大事にした。だが、マスコミは、鈴木首相はこのような理想に従うあまり忠実なだけでなんの
役にも立たず、最低限の職務も果たしていないとほとんど一致して書きたてたのである。

//////////////////////// 945円(税込) ///

231 ◆JeacknUANQ :2011/11/05(土) 20:19:24.92 ID:JO9w4Iv2

/// アドミニストレーター 102 /////////////////

   救援裏工作

 強力な黒幕が差し迫った危機を回避させることがある。一九八二年、アメリカ大統領と日本の
首相の関係が深刻化するのは、岸信介が巧妙に鈴木善幸の総裁再任を妨げたことによって食い止められた。
その年の初夏、田中角栄は、数回にわたって年老いた官僚出の政治家、岸を田舎の避暑地に訪れた。
実は二人はそれまで天敵と考えられていた。岸は、田中にとってはいちばんの敵手である福田の
政治的後援者であり、岸の婿にあたる安倍晋太郎が福田派の継承者とされていたのである。
だが、この岸・田中会談について両者の側近が一部のジャーナリストに語ったところによれば、自民党の
影の大物二人は、下界の政治的な騒ぎを共に和やかに見守るオリンポス山上の神々のようにふるまった
という。二人がどのような合意に達したがはともかく、結論は、岸が二期目の総裁候補として鈴木を
支援できないとの意向を本人に伝えるということであった。鈴木はただちに、二期目の総裁選に
立つ気はないと発表した。この発表に驚いた日本の政界のほとんどの者は、これは、はじめて
鈴木がみすがら決定したことだろうと誤ってきめつけたものだ。

/////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

232 ◆JeacknUANQ :2011/11/06(日) 11:12:41.85 ID:ZtKSQ7YY

/// アドミニストレーター 103 //////////////////

 岸がなぜこのような手を打ったかは明らかにはされていないが、推察するのは難しくない。岸は、
長年アメリカの"朋友"とみなされていて、たしかに日米の"特別な関係"についてもよく知っていた。
A級戦犯として収監されながら、一度も裁判にかけられることなく、アメリカの計らいのおかげで
政界に返り咲いたのである。彼は、とくに日米安全保障条約の改訂に尽力した人物とみなされ、
他の面でも、アメリカとの戦略上の関係を強化するのに一役買ってきた。鈴木の影響で、この関係が
ひどく損なわれることを岸は敏感に知っていたにちがいない。
 田中と岸が、一九八二年一一月に首相に選んだ派閥の長は、中曾根康弘だった。彼に要請されたのは、
こじれた日米関係の修復だった。こうして中曾根は、首相に就任する前に出した最初の声明文で、
この課題にかける熱意を表明したのである。追いかけるように、岸が慣例を破って、公然と中曾根外交を
賞賛した。さらに岸は、派閥間の争いでボスの福田赳夫の意に反しても、婿の安倍晋太郎に、
中曾根政権を支持させたのである。

//////////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

233 ◆JeacknUANQ :2011/11/07(月) 20:50:43.78 ID:N7jy7ufU

/// アドミニストレーター 104 ////////////////////

   統治したいと欲した男

 一九七〇年代にすでに政治評論家たちは、中曾根康弘は、あまり特徴のない首相が多いなかで、
例外的な首相になるのではないかと推測していた。中曾根は彼らの期待を裏切らなかった。それどころか、
それまではずっと、中曾根は首相には向かないとも考えられていたのである。理由はまさに彼の
際立つ特徴そのものであった。すなわち、はっきりした考え方、記者などが引用したくなる発言、
ナショナリズムヘの偏向など。防衛庁長官をつとめた時はめったにないほど注目され、同庁の本格的な
活性化を試みたのだが、その効果はそれほど長続きしなかった。それよりずっと昔一九五一年一月には、
新人議員だった中曾根は、大胆不敵にも、"日本人の考えているところ"を要約したという「マッカーサ
元帥に対する建白書」を元帥に提出し、アメリカ人の間で急進的なナショナリストとしてはやくから
評判になっていた。この文書の中で、彼は、日本がアメリカに屈従する状態が続けば、日本の主権が
脅かされると述べている。中曾根はまた、憲法改正を公然と主張する数少ない自民党議員の一人であった。

//////////////////////// 原書1989年刊 ///

234 ◆JeacknUANQ :2011/11/08(火) 20:29:05.30 ID:yIWII7lf

/// アドミニストレーター 105 //////////////////

 中曾根が首相になった瞬間から、最高指揮官として本気で統治するつもりのあることは、疑う余地が
なかった。一九八三年初めには、日韓関係が論議の的になっていたのに、独自に決めた韓国訪問を
既成事実として外務省に伝えたことはその証拠である。この事実によって、彼の指導カヘの野心は
ますます疑いえないものとなった。閣僚の選び方にも、彼の野望が歴然とあらわれていた。それまで
閣僚の選択は、派閣間の力の均衡を主眼におこなわれ、大臣候補の能力そのものはほとんど考慮
されなかった。ところが数次の中曾根内閣はすべて、異常に多くの"強い"大臣を配し、従来どおり
頻繁に内閣改造をおこなったにもかかわらず主要大臣については再任を認めるという点で、他の
内閣とは顕著に異なっていた。

/////////////////////////// 早川書房 ///


235 ◆JeacknUANQ :2011/11/09(水) 21:26:12.09 ID:eRvcrbXu

/// アドミニストレーター 106 //////////////////

そして一九九五年、同窓会の席で、彼が目指しているのはサッチャー首相のように強い態度で
政策遂行にあたる、大統領型の実権ある首相になることだと、その胸中を吐露したのである。
一九八六年七月二五日、第三次中曾根内閣組閣直後に、大臣一一人と個別に会合し、重要な
懸案事項の処理にあたっては、官庁の抵抗を克服して強行するよう指示した。その前日の火曜日の
組閣後初めての閣議では、大臣は各省庁のスポークスマンになるべきではない、国家的な問題を
包括的に理解すべきであると訓示している。国会でも、答弁を大臣や関係省庁の官僚まかせにせず、
彼みすがらおこなうことが多かった。このような彼の答弁は(日本の基準からいえば)明確で
ストレートだったから注目を浴びた。

////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

236 ◆JeacknUANQ :2011/11/10(木) 20:35:51.18 ID:9gssQ8mv

/// アドミニストレーター 107 //////////////////

 断固とした態度と実行を目指す強い姿勢は、管理者には嫌われる。どのレベルでも、重要な
決定は集団的な合意にもとづく場合にのみ許されるのであり、そうでなければだれにも
気づかれぬように内々に実行してしまうのが一般的である。よくとられる第三の方法は、
特に国際的な交渉に見られる手段であるが、問題の原因が自然解消するよう期待しながら、
決定を回避することである――それにここれはうまくゆくことが多い。こういった状況に
さからうような中曾根の勇猛果敢さは周囲の者を驚かせ、同僚の自民党議員の間でも不評を買った。

///////////////////////// 945円(税込) ///


237 ◆JeacknUANQ :2011/11/11(金) 21:55:57.18 ID:Z/1GKyLm

/// アドミニストレーター 108 /////////////////

 日本の新聞は彼の第一次内閣に対して批判的な反応を示し、閣僚の大半が田中軍団のメンバー
だったことから「田中曾根政権」とあだ名した。だが、新聞編集者たちは、この第一次中曾根内閣の
重要な意味を見過ごし、日本の政策展開が新しい局面に入ったという事実を完全に見落としていた。
つまり、この政治的展開によって、日本一才能のあるパワー・ブローカーと、みずから統治したい
という野望を持つ近代日本はじまって以来の果敢な首相との、(田中=中曾根)協力体制が
出現したのである。

///////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///


238 ◆JeacknUANQ :2011/11/12(土) 21:03:22.83 ID:61cD9FEU

/// アドミニストレーター 109 /////////////////

 田中が政府補助金を通してその帝国の維持に専念する間に、中曾根は経済成長に直接関係のある
事柄や地元への予算還元も一時忘れ、最高の地位の保全に心配することもなく、それ以外の問題に
専念できた。彼は「戦後政治の総決算」を標榜して、各種禁止事項やタブーなどの占領時代の
名残りを処理する必要があるとしたのである。この線に沿って、教育問題や国際的責任など、
なんらかの意味で日本の主権に関わる問題に対して、なみなみならぬ自分の決意を示した。
彼はまた、国家としての自尊心に訴えて、国会で堂々と防衛問題を議論するよう誘導し、国防を
政治の中心課題のひとつに据えようとした。中曾根がこのように振る舞えたのも、田中が後ろで
面倒を見ており、両者がたもとを分かたないかぎり首相の任期は保証されていたからだった。
田中のマシーンは、自民党内でうむを言わせぬ力があったのみならず、この進取的な首相が官界との
関係を処理するにもなによりの援軍であった。

/////////////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

239 ◆JeacknUANQ :2011/11/14(月) 22:32:18.13 ID:yA25d4RJ

/// アドミニストレーター 110 //////////////////

 数次の中曾根内閣を通し、官僚との折衝で主力になったのは、国務大臣で重要な調整役を
ひきうける内閣官房長官、後藤田正晴であった。従来、官房長官のポストは首相の派閥に
与えられるのがつねだったので、後藤田起用は中曾根の異例の快挙だと考えられた。もともと
後藤田に目をつけたのは田中で、田中軍団の中でもっとも能力のある政治家の一人とみなされ、
時には、田中の「頭脳」とまで言われる人物だった。田中は、急いで事を運ぶ際、結束を固め
頑として応じない官僚を攻略するのに後藤田をよく使った。後藤田は警察庁長官を務めたことがあり、
彼独自の人脈から得られる力をどう活用すればよいか熟知していた。そして中曾根の右腕として、
中曾根内閣の中核的人物となった。中曾根は、緊急事態が発生した際にすばやく対処できるようにと、
総務庁を新設しその初代長官に後藤田を任命した。

///////////////////////// 原書1989年刊 ///

240 ◆JeacknUANQ :2011/11/16(水) 20:58:14.18 ID:+A0ekZOy

/// アドミニストレーター 111 //////////////////

 一〇年ぶりに、日本の首相が三年以上その座に留まったことは、国際的にも大きな意味があった。
かねてより中曾根は、日本がその経済力にふさわしい世界的な役割を担うよう努力すると公言
していたのだが、その目的に重要な象徴的ジェスチャーを見せた。日本はまぎれもなく西側同盟国の
一員としての責任を積極的に果たす国として、米大統領との交渉にあたって個人的な直接外交を
展開したのである。
 レーガン大統領は初めて訪問してきた中曾根を見て、ソ連に対して自分と同じ見方をしているらしい
日本の指導者と対面し、喜びかつ驚いたものである。レーガンは「ロン」と呼んでくれと言い、
中曾根も「ヤス」で応じた。日本では相当親密な男の友人どうしでもファースト・ネームで
呼び合うことはめったにないから、この象徴的な親密さが日本では大きな意味をもった。
この"ロン・ヤス"関係のおかけで、その後数年間は、それまで貿易と防衛問題に関連して日本が
さまざまな罪を犯しているとうるさく言っていたアメリカ政府も、静まった。日本側は、この関係を
巧妙に活用した。解決すべき重要な諸問題を敷物の下に隠せたし、日本にも、ついに本格的な
指導者が登場したというアメリカの幻想をさらに強化できた。

////////////////////////// 早川書房 ///

241 ◆JeacknUANQ :2011/11/19(土) 17:01:33.02 ID:Zn0hzRpC

/// アドミニストレーター 112 /////////////////

 日本の世論調査においても、中曾祝の支持率は新記録を樹立した。田中の支持率も組閣一年目は
同様に高かったのだが、その後、記録的な低さにまで沈下している。中曽根内閣の支持率は
落ちなかった。それまでの通説に反し、国民は、回確な答弁をし国の内外で強い印象を与える
首相を高く評価したのである。
 このような国民感情と、自民党議員の大半が中曽根に対し抱いていた嫌悪感とは、対照的だった。
合理的に問題を処理し、政治目標達成を急ぎすぎるのは、人間的なあたたかさに欠けると非難
されたのである。一九九五年に田中が病いに倒れると、派閥抗争が再燃し中曽根の指導者としての
地位が危うくなってきた。一九八六年の総選挙で自民党が記録的に圧勝したおかけで、中曾根は
もう一年だけ首相の座にとどまることができた。だが、国民に支持されたからといって、必ずしも
保持できないのが日本の首相の座である。そして一九九七年の秋、中曽根は後継者として竹下を
選ばなければならなかった。

////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

242 ◆JeacknUANQ :2011/11/20(日) 22:04:44.76 ID:+2hdZZ+i

/// アドミニストレーター 113 //////////////////

   政治的潤滑剤としての審議会

 みずから統治し政策を打ち出すべく大奮闘した中曾根であるが、結果的には、政策や政府計画に
これといって意義のある変化をもたらすことはできなかった。しかし、彼がもたらした変化、
すなわちスタイルと象徴性、政治の雰囲気の変化それ自体に、十分、大きな意義がある。
彼の大きな業績は、日韓関係に突破口を開いたことである。これによって、日本はアジアの
同盟国に対しもっと思いをかげろべきだとのアメリカの願いに応えた。またこれと同様に重要な
成果は、日本の堂々たる存在を毎年の先進国首脳会議で示したことであろう。一九八六年には
彼自身が議長を務め、各国首脳の尊敬を得ることとなった。国鉄の民営化も彼の首相在職中に
おこなわれたことである。また、日本の過去の戦争にまつわる数多くのタブーにも、彼は挑戦した。

//////////////////////// 945円(税込) ///

243 ◆JeacknUANQ :2011/11/22(火) 21:41:06.07 ID:hWAXxhhF

/// アドミニストレーター 114 //////////////////

 だが、自分たちの縄張りを後生大事と守る官僚や特定の利益を代表する自民党議員は、問題を
提示されるとその緊急性を認めながらも、解決しようとはしなかった。中曾根は、半独立的な
勢力にとり囲まれていて、手も足も出せなかったのである。農水省に対しても口出しできなかったし、
大蔵省に対しても彼には発言権がなかった。
 興味深いのは、首相の権力行使の一手段に中曾根が審議会の新しい利用法をとり入れたことである。
すでに見たように、通常、審議会は官僚が自分たちの立案した計画に対する反対をぼかしたり
回避したりするのに使われる。首相自身が作ったものや、首相のための特別審議会は、彼が抽象的な
理想を長ったらしく述べただけで、具体的な提案としては未熟な計画を、ひとつの政策として
まとめて首相みずから高尚な計画として通用させるためのものである。

//////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

244 ◆JeacknUANQ :2011/11/23(水) 21:41:56.76 ID:ddW6eaLZ

/// アドミニストレーター 115 //////////////////

中曽根の前任者は、「社会開発」(佐藤)、「ライフ・サイクル」(三木)、「未来のための討議」
(福田)、「田園都市」(大平)といった、啓発的ではあるがあいまいで具体性を欠く課題について
討議するよう審議会に指示したのだが、中曾根は、タブーと官僚という二つの障害を切り抜け、
具体的な立法化の準備手段として特別審議会を活用したのである。彼はそれを首相の直属とし、
委員長や中核となる審議委員も自分の手で選んだ。また彼は、首相が審議会にどういう進言をする
答申を出してほしいかということについて誤解の余地を残さないようにした。

////////////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

245 ◆JeacknUANQ :2011/11/24(木) 21:30:25.47 ID:faTiluyk

/// アドミニストレーター 116 ///////////////////

 首相になる前の中曾根は、トップ経済人、学者、退職官僚たちが行政の規模と負担の削減を
検討する審議会の一つ、臨時行政改革審議会と緊密につながっていた。この行革審がこれまでに
完了した三つの任務は、国鉄解体、行政管理庁と総理府の一部併合による総務庁の設立、そして
日本電信電話公社のうわべだけの民営化である。中曾根はこの行革審議会と他の審議会によって、
明治維新後あるいは第二次大戦直後のような変化を日本にもたらしうると言明した。しかし
もちろん、これは彼の誇張だった。彼の首相在職中、<システム>側には余儀なく自己革新を
進めねばならないような、差し迫った危機感はまったくなかった。結局、官僚という障壁に
打ち勝つために中曾根が考え出した新手の審議会も、ごくわずかな効果しかなかった。

//////////////////////// 原書1989年刊 ///

246 ◆JeacknUANQ :2011/11/26(土) 11:15:00.55 ID://N9BW8a

/// アドミニストレーター 117 ////////////////////

 中曾根の審議会活用を非民主的だといって非難するのが、一時流行した。委員の実質審議前に
答申内容が決定されているとも批判された。また、審議会の主要メンバー数人が、中曾根の
母校の同窓生や帝国海軍時代の僚友、一時警視庁の警視をしていた頃の旧内務省の同僚であった。
これらは、たしかにすべて真実である。しかし、これは、従来からの官僚の審議会利用法や
人脈活用法と同じ方法であった。ただ中曾根に顕著な特徴は、彼の審議会が、官僚経歴のない
専門家の比率が高かったことである。このために、官僚たちはしばらくためらってしたが、
省庁や部局の利益を守るためには、このような"素人"集団にもある程度の情報を提供し
協力しなければならないと認識しだしたのであった。

////////////////////////////// 早川書房 ///

247 ◆JeacknUANQ :2011/11/27(日) 21:24:41.71 ID:HIuiPOU3

///////////////////// 早川書房 ///

 カレル・ヴァン・ウォルフレン(Karel Van Wolferen) (著)、篠原 勝 (翻訳)、
 原著1989年発行、邦訳 早川書房1990年発行
 「日本/権力構造の謎」 The Enigma of Japanese Power  日本 権力構造の謎〈上〉

単行本: ¥ 2,447(税込) ISBN-10: 4152034475 ISBN-13: 978-4152034472
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248 ◆JeacknUANQ :2011/11/29(火) 21:13:44.93 ID:nERsm4s3

/// アドミニストレーター 118 //////////////////

    新しい集団、自民党の"族"

 自民党と官僚との関係にわずかな変化をもたらす原因が他にもあった。日本経済の狂乱的急成長が
しだいにおさまってきたこと、国家予算の赤字幅増大、それにともなう官界内部の摩擦の増加、
失敗に帰した"財政硬直化打開"運動、そして、新しい産業分野をめぐる省庁間の縄張り争い
――これらが、それぞれに影響を及ぼしたのである。
 このような変化が明治時代のそれに匹敵するという中曽根の言説は、単なる政治的なレトリック
ではなかった。審議会の新しい実験も、彼の一時的な道楽ではなかった。事実、中曾根は、
田中角栄がはじめた官僚に対する自民党政治家の影響力を増大させる運動を続行していたのである。
この状況をさらによく理解するためには、管理者側に残るもう一つの公式な組織について、
その理論および広範な実態活動の両面から検討する必要かおる。

////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

249 ◆JeacknUANQ :2011/11/30(水) 21:36:26.27 ID:6yphaQLu

/// アドミニストレーター 119 ///////////////////

 自民党政治家と行政機関の官僚との間に介在して両者を結ぶもっとも重要な組織は、
政務調査会である。自民党政調合は、省庁の行政管轄におおむね相当する一七の部会で構成される。
いくつかの部会の長を経験した政治家は産業界と官界にまたがる最良の人脈に近づくことができる。
平均して一年半ほど部会長を務めた後は、自動的に自民党内の"族"の一員になることも多い。
"族"は、ある分野の成り行きを監視し、官僚が出す法律案を支持することで影響力を行使する。
元大臣や元政務次官が、古巣の省庁に関係のある"族"の一員になることも多い。

////////////////////////// 945円(税込) ///

250名無しさんの主張:2011/12/02(金) 08:11:17.23 ID:???
キリ番ですの
251 ◆JeacknUANQ :2011/12/02(金) 21:52:49.41 ID:g+K96y6v

/// アドミニストレーター 120 //////////////////

 政調合の各部会は、なにも決定しないのが常識である。部外者にはなかなかつかめないのだが、
官庁と自民党の接点である政調合は、推定できるかぎり、その任務は完全に非公式なものである。
政治家たちは少数の関係省庁の役人と有力な財界代表と協力して、圧力や微妙な脅しをかける
力を得る。そしてそのような行為の根拠となる法的規定はまったくと言ってよいほどないのだ。
特定の業界の構造改革や、新規の産業部門が登場する場合、"族"政治家が相当の影響力をもつ。
しかし、結論としては、族議員のかかおりはおおむね寄生的だといえる。政調会は、商工・
経済団体に連絡し、義務的な"自主献金"と選挙時の不可避な"援助"をとりまとめる。資金提供を
依頼する電話を一本、部会長が関係業者に入れるだけで、ただちに反応があることが多い。

///////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

252 ◆JeacknUANQ :2011/12/03(土) 12:53:20.23 ID:fIH15PYN

/// アドミニストレーター 121 //////////////////

 政調会の部会を通して政治家が力をふるいはじめたのは、一九六〇年代後半からのことで、
当時、関係省庁の官僚が利益団体とともに族議員と組んで、予算の番人大蔵省に対決するように
なった。やがて、大蔵省は政治家に対し、形式的ではなく実質的な予算説明をおこなって納得
させなければならなくなった。しかし、"族"の力を増大させた最大の要因は、田中の積極的先導力
である。田中軍団は他の並の派閥よりも上手に、官僚と政治家の関係が徐々に構造的変化を
とげていたことを利用した。郵政畑のテレコミュニケーション等の新しい重要分野も含め、
多くの"族"を田中軍団が支配していた。"族"のメンバーは、比較的長期間、特定の政策領域に
関心を持ちつづけるから、従来の自民党政治家に比べ情報が豊富である。このこと自体が、
官僚に影響力を及ぼす新しい力になったのである。

//////////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

253 ◆JeacknUANQ :2011/12/04(日) 20:16:25.45 ID:4n+Vans7

/// アドミニストレーター 122 //////////////////

 自民党内での順位および、どの"族"に属してポストを与えられるかは、当選回数が第一の
決定要因になる。一九八〇年代末では、大臣のポストを得るには通常、六、七回の連続当選が
必須条件である。当選一回組は、国会の委員会か政調会の部会の下級メンバーになる。二期目の
議員なら、政調会部会の副部会長か、国会の委員会の理事になれる。政務次官は経済界との
つながりが深く金が入りやすい非常に有利なポストであるが、これには三回当選が必要になる。
当選四、五回で、委員会の委員長か部会長になれる。だが、部会長は最重要ポストではない。
"族"ボスの内輪のグループに加わるには、たいがいの場合、まず部会の幹部を経て、その部会関係の
省庁の大臣になった後、また部会に戻った者でなければならない。

/////////////////////// 原書1989年刊 ///

254 ◆JeacknUANQ :2011/12/06(火) 21:14:31.69 ID:Pw/0aIm3

/// アドミニストレーター 123 ////////////////////

   フランスとの比較

 3章で見たように、日本の<システム>は、表面的には、"複数政党制議会主義的"または
"コーポラティスト"の政治体系と見えるかもしれない。しかし、このような体系の典型として
よく引き合いに出される国ぐにと、基本的なところがあまりに違うので、このような呼び方が
体系の内容をどこまで正確に説明するか疑問である。日本はまた、よく"官僚国家"であるとも
いわれている。ここで、西欧の"官僚国家"の好例とされるフランスとの比較において、
<システム>がどのように違うかを見ておく必要があるように思う。

////////////////////////////// 早川書房 ///

255 ◆JeacknUANQ :2011/12/09(金) 22:59:46.53 ID:5jHQnO/q

/// アドミニストレーター 124 ////////////////

 両者の問には類似点も多い。フランスの官僚制度は、一七世紀の絶対専制主義国家にはじまり、
国の政策決定機構としてナポレオンによって強化された、世界でもっとも強力な制度のひとつである。
それは恒久的で高度に中央集権化されており、権力者は、さまざまな問題についての官僚たちの
堅固な意見を、どれも無視することはできない。地方自治体、教育機関の大半、公共事業、裁判所、
警察、そしてたいていの欧米諸国では地方当局か民間に委ねられている他の分野が、日本と同様
中央官庁の管轄下に入る。

////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///


256 ◆JeacknUANQ :2011/12/10(土) 12:55:44.91 ID:KiuSCKv1

/// アドミニストレーター 125 //////////////////

 日本と同じように、フランスでもエリート集団の形成過程が高度に制度化されている。
もうひとつの際立った類似点は"パントゥフラージュ"現象、つまり公務員がしょっちゅう
民間企業に移ることである。また、フランスの官僚も多くが政界に入る。彼らは、民間部門と
官界の境界線を越えて、互いに重要な非公式の関係を維持する(公私の領域は、アングロサクソン系
諸国や西ドイツほど明確に分かれていない)。一見したところ、フランスは、日本にもっとも近い
管理者階級を作り上げてきたようである。さらにいえば、日本と同様に、戦後フランスは、
ひたすら経済拡大のための最適条件づくりに努めてきたようだ。

//////////////////////// 945円(税込) ///

257 ◆JeacknUANQ :2011/12/11(日) 23:43:09.62 ID:N1xwx7Yj

/// アドミニストレーター 126 ////////////////

 だが、よく見ると顕著な違いに気づく。フランスの高級公務員は、代表的な"グラン・ゼコール"
五校のいずれかで、かなり広範にわたる教育を受けた者である。優れた記憶力も評価されようが、
同様に大切なのは、一般教養、卓越した知力、明確な表現力である。高級官僚は、通常、さまざまな
省に配置される前に、財務監察院、外交官コール、会計検査院、国務院、内務コールという五大
主要グラン・コール・デタ(職員団)のどれかに入る。彼らには日本の官僚よりはるかに移動性があり、
一時的に役所から離れて政府の他の機関や国営企業、銀行あるいは民間企業の重要な地位に就く
ことがある。このエリート校とコールという経歴を待つ者は、どのような状況においてもその
最重要点をすばやく把握する能力を備えており、あらゆる種類の幹部職をこなせるからである。
日本では、多方面の事項に詳しくなるよう高級官僚は部局から部局へ移動させられるが、初めに
入った省庁から出ることはなく、官界全体の機能に弊害が及ぶほど本省庁帰属意識が強い。

//////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

258 ◆JeacknUANQ :2011/12/14(水) 23:24:57.52 ID:8GQNlLVV

/// アドミニストレーター 127 ////////////////////

 同じ意味で、"パントゥフラージュ"は"天下り"とまったく同じではない。新しく設立された
公社の場合は例外として、日本の会社や銀行が天下り官僚を迎え入れるのは、その官僚が
元いた省庁との接触が円滑におこなわれるようにするためである。フランスの官僚のように、
民間企業で重要な決定をしたり指導者としての役割を期待されているわけではない。
 もうひとつの重要な違いは、フランスの強い政治伝統に由来する存在、つまり非官僚の
エリートの主張する政治思想である。あるフランスの政治学者が要約するように――

   保護的な法律に守られているうえ、高学歴と優れた専門能力に支えられて、非常に
  安定した職と権威に恵まれた高級公務員はひとつの明確な専門家集団を形成している。
  これら高級官僚の意見は、じつは別の重要な専門家集団である政治家たちの意見とほとんど
  あらゆる事柄について、食い違う。かくして、これら二つの専門家集団の国政術についての
  考え方は、衝突の危険につねにさらされている。

////////////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

259名無しさんの主張:2011/12/15(木) 10:30:28.10 ID:???
MJJスレのKBが代行スレをヲチ中
書き込んであいつを引っ掛けろ
260 ◆JeacknUANQ :2011/12/17(土) 15:46:40.78 ID:DuDMQfSf

/// アドミニストレーター 128 /////////////////

 法律案を準備したり管理するのに、グラン・コール(職員団)のメンバーは不可欠である。
だが一般に、フランスの大臣は日本の大臣に比べ相当に重要視されている。反面、フランスの
官僚は日本の官僚ほど、自分たちの役割を自明のものと受けとめることぱできない。彼らは過去に、
政党政治や、大統領の力の強弱によって引き起こされる政治的混乱と変化を経験してきた。
また、第二次大戦前、一九三〇年代、第二次大戦直後、一九六八年には、エリート組織として
猛烈に攻撃された。
 いうまでもなく、決定的な違いは、フランスの官僚は、高度に中央集権化された国家に仕える
という点である。官僚に専門的な知識があっても、明確な政府からの指令があってはじめて
正しく機能する。ドゴールやミッテラン流の権力は、日本の首相の権力と比べものにならないほど
強大である。いいかえれば、フランスの管理者たちは、実際に国の優先事項を変えるだけの
手段を持っているのである。

////////////////////// 原書1989年刊 ///

261 ◆JeacknUANQ :2011/12/20(火) 21:29:02.47 ID:kImBOYzX

/// アドミニストレーター 129 //////////////////

    "不易流行"

 一九八〇年代後半になり、日本の多くの政治評論家や一部の学者が、日本の政策決定が政治の
主導によっておこなわれる方向に大きく構造変化をはじめたと主張するようになった。"族"現象が
そのような変化の例証だと彼らは主張する。これと同様の論法が、日本の貿易相手国からの批判を
抑えるのに大いに活用された。日本の政治経済は徐々に優先事項を変えたり調整する能力を身に
つけるだろうという論旨である。"族"の出現を、官僚と政治家との関係が本質的に変わる兆しであり、
したがって、日本の統治のされ方が変わる前兆だと解釈するのは、あまりにも早計である。

//////////////////////////// 早川書房 ///

262 ◆JeacknUANQ :2011/12/22(木) 20:51:02.85 ID:2bVcXfdd

/// アドミニストレーター 130 //////////////////

 状況が変われば変わるほど、事態はまったく何も以前と変わっていないように思える。むしろ、
一九九〇年代後半になって、従来の様式がさらに際立ってきた。それは古いパターンがよりうまく
組織化されたからだ。自民党の政治家の多くが田中の例にならい、それまでのやり方を組織化
していった。その結果、今まで以上に国の富がばらまかれるようになったかもしれないが、
ばらまき方は相変わらずでたらめである。国の優先事項を指示する機構は、依然として存在しない。
このような機構を欠く予算編成上の欠点が、さらに目立つようになった。
 管理者たちの相関する二大基本目標――統制力を維持し、一般民衆の政治的影響力を最小限に
抑えること――は、まったく変わっていない。一九四五年以来、日本人の政治意識はより高まった。
だがこの高まりも、一部には政府補助金や、他の自民党=官僚の連携プレーが保証する定期的な
収入という形の買収、また一部には、これから6章で検討する雇用政策によって相殺されてしまう。

////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

263 ◆JeacknUANQ :2011/12/24(土) 18:39:29.31 ID:J+6+AhSn

/// アドミニストレーター 131 /////////////////

 政治家、財界、官僚という管理機関の間の力関係は、始終変化しているのはもちろんである。
だが、その変化は、これら三大管理者集団が相互の関係を本質的に変えたことも、本質的に
新しい動機を持ったということも意味しない。高級公務員は自民党政治家の歩兵化しつつある
という結論は間違いであろう。実際には官僚支配の原則と特権に執着しながら、国会議員が事を
進めているかのように見せる方法を、官僚が発見したのである。予算編成に関する事実上の
立案者は今も官僚である。自民党政治家が"族"に属するのは、主として金と票のためであり、
日本には新しい優先事項が必要であり、それに従って新しい政策を打ち出すべきだと突然気づいた
からではない。
 管理者たちの究極の目標は、<システム>を存続させることだけである。一九四五年以来、
この目標は他の望ましい事項を犠牲にして産業拡大に重点をおく高度経済成長体制を大事に
守り育てることと、社会的統制とによって達成された。この章で見てきた<システム>の構成員たちは、
相互間の衝突はあるとしても、これら両方の面で長けていることを示しつづけている。

・・・・

/////////////////////// 945円(税込) ///

264 ◆JeacknUANQ :2011/12/29(木) 21:51:12.11 ID:9MO5IPWP

/// 早川書房 /////////////////////

 カレル・ヴァン・ウォルフレン(Karel Van Wolferen) (著)、篠原 勝 (翻訳)、
 原著1989年発行、邦訳 早川書房1990年発行
 「日本/権力構造の謎」 The Enigma of Japanese Power  日本 権力構造の謎〈上〉

単行本: ¥ 2,447(税込) ISBN-10: 4152034475 ISBN-13: 978-4152034472
 http://www.amazon.co.jp/dp/4152034475/
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//////////////// 絶賛発売中!///

265 ◆JeacknUANQ :2012/01/05(木) 21:20:52.09 ID:Zd2pEtMV

/// 従順な中産階級 1 ///////////////////////

 カレル・ヴァン・ウォルフレン(Karel Van Wolferen)著
 原著1989年、邦訳 早川書房/篠原 勝 (翻訳)1990年発行
 「日本/権力構造の謎」 The Enigma of Japanese Powerより

・・・・

 6章 従順な中産階級

 日本の<システム>は戦後の目標を、主に経済界とその組織に託してきた。<システム>は、
通商と産業ばかりにすっかり心を奪われているので、この分野の拡大は、<システム>の存続にとって
きわめて重要だと考えられているのである。政治的中核はどこにあるのか所在がはっきりしないのだが、
通商と産業拡大の目的遂行のためにはまさにうってつけの推進役として――互いにからみあって連結し、
しかもぎっしり詰まった多数の経済的組織のなかに、いわば核心のようなものが確かに存在する。

//////////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

266 ◆JeacknUANQ :2012/01/08(日) 17:00:44.03 ID:wEr+vwUw

/// 従順な中産階級 2 ///////////////////////

 製造業、銀行、商社の相互にからみあうヒエラルキーの頂点にいる管理者たちは、単なる
生産や通商以外のことにも関わっている。実際、"民間"企業は二重の機能を担っているのである。
政治的には、これら民間企業が人びとに与える影響力が重要なのだ。西欧の企業はそうしたいと
望んでもできないし、たとえでぎてもうまくはやりおおせないほど、限度をはるか超えて従業員の
行動や考え方を管理統制することによって、日本人を支配する力をもっているからである。
日本企業ならどこでも当然おこなう思想・行動の教化と、それが従業員に一つの生き方を強制し
成功をおさめていることこそが、<システム>を不動のものにするのに大きく貢献しているのである。

//////////////////////// 原書1989年刊 ///


267 ◆JeacknUANQ :2012/01/09(月) 22:48:04.35 ID:4k7XLRTB

/// 従順な中産階級 3 ///////////////////////

  典型的な"サラリーマン像"

 <システム>の巨大な核心を構成する人的集団は。サラリーマン"である。もともと、"サラリーマン"
という表現はサラリー(月給)をもらうことから起こった。月給取りを、日数計算で賃金をもらう
工場労働者などと区別するためであった。"サラリーマン"ということばには、"事務員"あるいは
"ホワイトカラー"よりはるかに多くの意味が含まれる。サラリーマンは、日本人の行動規範の
目標にされる人のことである。サラリーマンの関心や習性はあまりにも型にはまったものなので、
"サラリーマン文化"という日本語が日常語になった。明らかにサラリーマンの好みに合わせた本や
(電話帳ほどのぶ厚い漫画雑誌も含めて)雑誌の出版が、日本で一大産業になっている。
各種メディアは典型的なサラリーマンの生活を国のすみずみにまで送り届ける。

////////////////////////// 早川書房 ///


268 ◆JeacknUANQ :2012/01/10(火) 21:24:25.03 ID:EyH/zfXM

/// 従順な中産階級 4 ///////////////////////

   「社員」になるための通過儀礼

 4章で述べた選別過程を経た若い日本男性の約三分の一が、サラリーマンの世界に参入できる。
だが、希望する会社に採用されるかどうかは、それまで何回もの入学試験の難関を突破してきた
若者たちであっても、教授の紹介・推薦状、入社試験の結果、そして興信所の身上調査報告に
しばしば左右される。小・中学校や高校の先生や近所の人びとに会って、その応募者の十代の
素行を調べたりもする。被差別部落の出身者ではないか、会社への忠誠心がおろそかになりかねない
いわゆる"新興宗教"の信者ではないかをチェックする会社も多い。
 採用に続いて通常、一連の象徴的な通過儀礼が執りおこなわれる。これはその会社の"一員"に
なることを劇的に認識させ、以後、会社的状況のなかで他の社員と協調する社員としての立場を
自覚させるのだ。

////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

269 ◆JeacknUANQ :2012/01/11(水) 22:47:18.27 ID:tusMc4TU

/// 従順な中産階級 5 ////////////////////////

 "社会人"生活の門出になるのが入社式である。入社式には、時に、何百人もの同期新入社員が
出席し、グレーか紺の地味な色のスーツに会社の襟章を付け、"サラリーマンの制服"に身を正して、
社長か重役が高唱する"社是・社訓"をはじめて耳にする。そのうちに、彼は、その"社是"と
それに続く短い社訓・標語を、眠りながらでも暗唱できるようになる。

////////////////////////// 945円(税込) ///


270 ◆JeacknUANQ :2012/01/12(木) 21:48:13.02 ID:iKSSkQs9

/// 従順な中産階級 6 //////////////////////

 続いて実施される新入社員教育では、会社員としての複雑な礼儀作法にかなりの重点がおかれる。
なんと、お辞儀をする角度まできっちり決められていて、同僚と廊下ですれちがう時には一五度、
上役や重要な訪問客に会ったときには、両腕をまっすぐ伸ばしてズボンの両外側の縫い目に当て、
三〇度の角度でお辞儀する。なにかの不始末で謝らなければならない時、あるいは、特に礼を尽くす
必要がある時には、謝罪のことばやていねいな挨拶とともに、四五度のお辞儀。いたるところで
おこなわれる名刺交換にも、しかるべき練習が必要である。上役とともに乗り物に乗る時、あるいは
応接室で自分が座るべき場所についても、注意ぶかく学ばなければならない。社内の廊下を上役と
歩く際には、上役の少し後ろを歩き、エレベーターに乗る時には客より先に入らなければならない。
廊下で同輩としゃべりつづける新入社員は、まだまだ勉強が足りないということになる。外観が
与える印象がきわめて重視されるのである。

/////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

271 ◆JeacknUANQ :2012/01/13(金) 22:45:23.77 ID:YeCUqgUB

/// 従順な中産階級 7 ///////////////////////

 同時に並行して、新入社員のものの考え方の改造もおこなわれる。当世の新卒を仕込むのは
並大抵ではないといって、一片の布を下半身にまとっただけの状態で凍りつくような川に長々と
つからせたり、自衛隊員と一緒に二四時間行進させたり、同僚とともに一日中トイレを掃除させたり
という極端な荒療治をする会社もある。会社は毎年入社する新入社員を再教育の対象として
とらえているフシがある。というのはこのような特訓を通してのみ、会社との特別な関係を
新入社員に十分たたぎこみうると考えているからである。つまり、会社は単に生活費を稼ぎに来る
ところだと思ってはいけない。自分は会社と一体だと感じるようになるか、少なくとも外見上、
会社に全面的にしばられているふりができるようになるまでは、一人前の社会人として認められ
ないのである。

/////////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

272 ◆JeacknUANQ :2012/01/14(土) 22:27:15.34 ID:FQiUDHCb

/// 従順な中産階級 8 //////////////////////////

 禅寺の協力をあおぎ、ある種の耐久訓練をおこなう会社もある。約二〇〇〇社が、
毎年自衛隊の兵営に新入社員を送り込む。たいていの会社は、これより穏やかな方法で
新入社員を会社の"一員"にするための教育をおこなうが、いずれにせよ、どの会社でも、
二カ月から一年にわたる新入社員教育が実施される。

////////////////////////// 原書1989年刊 ///


273 ◆JeacknUANQ :2012/01/16(月) 23:13:05.90 ID:bWuQliW0

/// 従順な中産階級 9 /////////////////////////

 この教育期間中は、新入社員を会社の寮に宿泊させ、朝も明けぬうちに起床して、あらゆる
種類の共同作業をこなし、夜間外出禁止令を守り、一〇時には消灯という生活を強いる会社もある。
保養地に自社の厚生施設や集会施設のある大企業は、何週間か新入社員をカンヅメにして
外の世界から隔離し、集中的に協調性を身につける訓練や相互告白、その他さまざまな方法で
訓練する。これらの訓練の一部は、明らかにみそぎであり、会社の新しい一員として認められる
儀式である。新入社員教育の究極的な目的は、軍隊の新兵教練係の軍曹のそれと同じである。
つまり、組織全体の目的にさからおうとする個性はつぶし、服従の習慣を教え込むことにある。

///////////////////////////// 早川書房 ///
274 ◆JeacknUANQ :2012/01/18(水) 21:28:51.56 ID:OE+y5zXE

/// 従順な中産階級 10 ///////////////////

 一般に、いまどきの大学新卒者にはこのような特訓がとりわけ必要だと考えられている。
というわけで、日経連は毎年、代々木のオリンピック選手村跡の施設に、中小企業の新人社員を
集めて合同教育訓練をしている。この訓練の最終日には、新入社員たちが各社の社旗を先頭に
オリンピック・スタジアムを周回行進する。都市化の進行、物質的豊かさ、学校教育のものたりなさ
という環境の中で育った若者には、今まで以上にこのような特訓が必要になった、と日経連の
スポークスマンは説明する。

///////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

275 ◆JeacknUANQ :2012/01/19(木) 22:56:48.74 ID:Oa68zYom

/// 従順な中産階級 11 //////////////////////////

   会社との絆と忠誠心

 家族と会社とではどちらが大切かとの質問も含めて、毎年、新入社員の意識調査の結果が
新聞に掲載される。家族の方が大切だという者の割合が少しずつ増える傾向にあり、このことを
また、サラリーマンの意識が変わりつつあるとして、新聞が社説や記事でひとしきり取り上げる。
一九八六年には、調査回答者一〇入に八人が、会社の要求よりも個人の生活の方を重視すると
答えた。しかし、日経連の専門家たちは、このような調査結果にサラリーマンの独立心が
強まる傾向があらわれても、いっこうに気にしない。これまでの実態では、サラリーマンが
会社と家庭の板ばさみになった場合、家庭の利益が当然のこととして譲歩させられてきて
いるからである。

/////////////////////////// 945円(税込) ///


276 ◆JeacknUANQ :2012/01/22(日) 17:54:20.32 ID:RO2jQcsY

/// 従順な中産階級 12 /////////////////////

一九六〇年代および七〇年代のはじめには、妻や子供の要求を重視する若いサラリーマンの
マイホーム主義が脅威になるのではないかと、役人や経済界のエリートが恐れていたのだが、
結局、そのようなことにはならなかった。後にくる名詞がなんてあれマイ(私の)がつくと、
今なおネガティブな意味をもつ。産業界の管理者から見れば、そのような表現は仕事第一主義の
喪失を連想させるからである。しかし、一方では、マイホーム主義によって、サラリーマン家庭が
こぞってそれぞれの小さなマイホームに最新型の冷蔵庫、エアコッ、ステレオ、カラーテレビを
はじめ、多種多様な家庭電化製品を揃え、狭い駐車場に車を並べるという消費競争が、まさしく、
多くの企業をフル操業させるためには必要だったのである。

////////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

277 ◆JeacknUANQ :2012/01/24(火) 22:04:52.28 ID:rYOVnZcw

/// 従順な中産階級 13 /////////////////////

 たいていの会社が、新婚サラリーマンには特別な配慮をしてくれる。だが、結婚後二年ほどで
第一子が生まれるというのが典型的なパターンであるが、その後は、夫は本腰を入れて自分の
エネルギーも時間も意識も会社の仕事に捧げるよう要求される。
 一部の社会学者や評論家の説によると、日本男性は職場の同僚と一緒に過ごすほうを好み、
妻や子供と外出するのはおっくうに感じるそうだ。だが、実際には、サラリーマンならそうする
しかないし、家族と外出する時間もないから不慣れなだけともいえよう。家内工業や工場労働者が
圧倒的に多い田舎や都市近郊にいくと、日本人は家族中心の社会生活をするのがもともと苦手では
ないことが確認できよう。中産階級の男性が夫や父親としての機能の大部分を剥奪されるという
現象は、比較的最近にはじまったことである。「もし日本人が、文化上の条件づけに馴らされて
大きな組織のために"自然に"自我を捨てられるのなら、忠誠心や一体感を植えつけるのに企業は
これほどまで力を入れる必要がないはずである」

//////////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

278 ◆JeacknUANQ :2012/01/25(水) 22:07:15.46 ID:8dv5A3Lt

/// 従順な中産階級 14 ///////////////////////

 サラリーマンは会社に対する忠誠心を積極的に行動で示さなければならない。示し方の一つとして、
一九六〇〜七〇年代の鉄道ストの際、徒歩で出勤したサラリーマンがいた。一九八〇年代には、
有給休暇の一部あるいは全部を返上するサラリーマンがいる。もっとも一般的な忠誠心のあらわし方は、
残業したり、退社後も同僚や仕事の関係者と時を過ごすことである。こうすれば必然的に、家族との
時間は、夜の十一時から朝の七時までしかなくなってしまう。
 いうまでもなく、このような会社と社員との絆が保たれるのは、他に転職先がない場合である。
普通は転職先がない。下請けの中小企業などの経済ヒエラルキーの下層では始終従業員の顔ぶれが
変わるのもいたって普通のことだが、サラリーマンの世界では、転職は可能だとしても、せいぜい
入社してから二、三年以内に限られる。

////////////////////// 原書1989年刊 ///

279 ◆JeacknUANQ :2012/01/27(金) 23:31:04.90 ID:Buf3uU4B

/// 従順な中産階級 15 /////////////////////

 この移動性の欠如ということについては、これまであまりにも"心理的"な側面からの説明が
なされすぎてきた。同じ会社にとどまるのを良しとする考え方がサラリーマンに植えつけられるのは
確かであるが、より重要なのは、転職するとまず必ず、給料も個人的な評判も将来の見込みも悪くなる
という事実があることだ。会社側の都合による場合でない限り、他者に勤めていたホワイトカラーは
採用しない、あるいは、受け入れたとしても、元の会社よりかなり下の地位に配置するというのが
大企業の方針になっている。

//////////////////////// 早川書房 ///


280 ◆JeacknUANQ :2012/01/28(土) 19:32:51.84 ID:oo1YkOkk

/// 従順な中産階級 16 ///////////////////////

 このような方針は、サラリーマンに強い忠誠心を持たせつづけるための、明らかに政治的な
予防策である。一九八〇年代には、とくにエンジニアやソフトウェアの開発者など、急増する需要に
供給が追いつかない専門職の労働市場の自由化が、ためらいがちながらもぼちぼち始められたが、
経団連は、このような傾向は無責任であり、望ましくないと指摘する報告書を出した。経済界の
管理者たちは、子が親に依存するように、サラリーマンも完全に会社に依存すべきだとする希望を
隠そうとはしない。

/////////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

281 ◆JeacknUANQ :2012/01/29(日) 12:53:49.78 ID:tLKwmoZ1

/// 従順な中産階級 17 //////////////////

家族主義的な思想

 エリート管理者にとって、サラリーマンの会社への忠誠は、すべての日本人と<システム>との
理想的な関係の縮図である。このことは、企業は一種の家族だとするイメージにもっともよく
表わされている。このイメージは、外国人による日本の経済生活への評価の中に入りこんで、
これまで頻繁に引用されてきた。このような家族的な関係は、何世紀にもわたる心理的・社会的な
伝統から自然発生したものだと広く信じられている。だが、徳川時代から受け継いだ日本の家族の
社会・政治的な機能、擬制的親族関係がある程度下地になったとはいえ、実際には、会社は家族
というこの思想は、近代以降の比較的最近の創作物である。

////////////////// 945円(税込) ///


282 ◆JeacknUANQ :2012/01/31(火) 22:43:15.50 ID:f/ZToo7s

/// 従順な中産階級 18 ////////////////

 政治的視点とはっきり区別して、社会・経済的な視点から見ると、日本の会社が擬制的家族
になる必然性はなかった。明治時代には、かなり個人主義的な企業家が会社を経営することが
多かった。また当時は、はなはだしい労働者搾取、そこから引き起こされる産業界の動揺、
そしていうまでもなくひじょうに顕著な身分差があったから、家族という比喩を持ち出しても、
当時ならとても受け入れられなかったであろう。

////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

283 ◆JeacknUANQ :2012/02/01(水) 23:43:38.57 ID:yym7IkS7

/// 従順な中産階級 19 ///////////////

 とはいえ、産業界内の家族主義的な組織が、突然、無から出現したわけではない。擬制的親族関係は
何世紀もの間広く存在している。また、このすぐ後で検討することになるが、徳川募府は、ある意味で、
今の会社の前身のような社会・政治的な機能を家に持たせていた。もっと近い例、つまり明治日本で
急速に拡大しつつあった企業活動がもたらした活気溢れる労働市場に、出現したモデルがある。
この労働市場はもともと、"親方" "子方"と互いに呼び合う、頭によって統率される組の労働者群に
よって形成されていた。そこでは、子方が親方に忠誠を誓い服従する代償として親方は子方に恩恵を
施すという擬制的な家族関係によって互いに結ばれていた。初期の労働組合はしばしば実質的には
この親方子方集団にすぎなかった。この仕組みはまた、ある程度、今日の暴力団組織にも類似しており、
事実、一九世紀から二〇世紀に入る頃には、両者が時として関係し合うこともあった。沖仲仕や
炭鉱夫がよい例である。

////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

284 ◆JeacknUANQ :2012/02/02(木) 22:25:42.80 ID:C9Yn0C7j

/// 従順な中産階級 20 ////////////////

 企業の規模が大きくなって、より洗練された技能が必要になり、また一方では、大企業は
労働運動の活発化を恐れていたから、企業は必要に迫られて、また、政府官僚からも強く
促されて、恒久的な従業員からなる社員集団を組織すべく、労働者の雇い入れと社員教育を
しはじめた。しかし、家族主義的イデオロギーが経営者の間で広がりはじめたのは、それから
まだ何十年も後のことである。その頃になると、もはや多くの会社のトップから独立精神
旺盛な企業家の姿は消えていた。「家族主義的な理念を取り入れたのは、大学卒業後すぐに
官僚的経営陣に加わった最初の世代の人たちであった」。

///////////////// 原書1989年刊 ///

285 ◆JeacknUANQ :2012/02/03(金) 22:43:07.49 ID:bdjuy/FQ

/// 従順な中産階級 21 ////////////////

経済界にこのような初期の管理者がいなかったならば、家族主義的巧言もそれほど広く
受け入れられていなかったかもしれない。彼らと同類の東大法学部卒の仲間が官界で同時に、
慈悲深い天皇によって統合される"家族国家"の思想を激賞していた。しかし、家族としての
会社という考えが日本中に広がりへ組織としての再調整がおこなわれるようになったのは、
たかだか一九三〇年代も後半に入ってからのことで、中国での戦争により政府が産業政策を
生産増大に焦点を合わせて本格的に取り組み出してからである。有名な日本の"終身雇用"制度の
特徴の一部は、一九四二年の重要事業所労務管理令とともに、初めて導入されたものである。

///////////////////// 早川書房 ///

286 ◆JeacknUANQ :2012/02/04(土) 21:36:29.71 ID:dVZGq4CH

/// 従順な中産階級 22 ////////////////

   "公"と"私"の領域

 戦争は、つねに官僚の産業管理を容易にさせる。この場合、"公"と"私"の領域の区別をしない
という伝統が日本にはあるので、なおさら官僚はやりやすかった。二、三〇〇年前は、あらゆる
階層の日本人は、複雑な父子主義的な構造に組み入れられた個人的なつながりを通してのみ
統制がおこなわれていた。身分の低い小作人とその家族が権威として知っていたのは自分たちの
地主だけで、彼らは地主の下請けであった。地主とその一族にとっては、権威というのは、
唯一、自分たちの上にいる人物によって、体現されたもの、すなわち、大名の家臣であった。

////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///


287 ◆JeacknUANQ :2012/02/05(日) 13:36:14.36 ID:91pfcyUw

/// 従順な中産階級 23 //////////////////

そして、その家臣にとって、臣従の義務があるのは、自分か仕える大名に対してだけであった。
徳川時代の経済生活がより複雑化するにつれ、自治的な職業階級や職能別集団ができはしめた。
町の労働者、商人、職人が、時たま、直属の上位者や株仲間より上層からも支配力を感じさせられる
ことはあったであろう。しかし、彼らは、自分の行動に対して客観的な判断を下す国家の前身と
なるような、個人的な関係を超越した政治的組織など、まだまったく認識していなかったといえる。
"公"のこととは、単に、彼の上位階層者が役職柄、責任をもって世話をしていることの総計、
というくらいの意味しかなかったのである。

/////////////////// 945円(税込) ///

288名無しさんの主張:2012/02/06(月) 03:11:02.54 ID:???
良スレだな。
289名無しさんの主張:2012/02/07(火) 09:11:04.81 ID:???
>53
無理だな。あきらめろ。
「草食男子」のそもそもの意味を勘違いしているのだからな。

だがヒントはやろう。命名者は深澤真紀。これがヒントだ。
290 ◆JeacknUANQ :2012/02/07(火) 22:28:28.56 ID:at0lNDQ2

/// 従順な中産階級 24 //////////////////

 何世紀かの間に、政治的統合が進み国の文化も進化したが、それに並行して国家への帰属意識は
発達しなかった。もし、その間に、このような概念が日本人の考えの中に確立されておれば、
日本人の政治に対する態度は今日まったく違うものになっていたであろう。"国家"という概念が
備わっておれば、どこまでが権威の範囲であるかが想定できる。また、公の領域と私の領域とを
区別して頭の中に描ける。このことは、公が必要以上に私を侵害した場合、どの程度どのような
方法で侵害しているかを見きわめる際の必要条件となる。物を考える時に役立つこの知的構造物が
なければ、政治的秩序と"社会"とがまるで同じものになってしまう。事実、日本の知的伝統に
おいては一貫して、政治的領域と"社会"とが明確に区別できないままであった。

////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

291 ◆JeacknUANQ :2012/02/09(木) 22:34:55.30 ID:OiJmZQqH

/// 従順な中産階級 25 ////////////////

 "マイホーム主義"がネガティブな意味あいで生き残っていることからもわかるように、理想的な
日本の物の見方では、戦場、多世代家庭、学校、同好会などは、私的領域とはみなされない。
したがって、公的領域が個人の精神領域の境界ぎりぎりにまで侵入しうることは、いうまでもない。
多くの日本人にとって、家族や友達や同僚は、政府や会社の権威に面と向かって、自分を守って
くれたり精神的な支えになってくれる緩衝役ではないのである。肌すれすれのところまで政治的な
世界が広がっているわけだ。また逆に、世界全体が"私"の世界だといってもよいかもしれない。
胃潰瘍のもとになりそうな"家族"内での緊張やほかの問題は、"個人的な関係"を通してのみ
解決可能とされる。

////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

292 ◆JeacknUANQ :2012/02/11(土) 13:10:12.41 ID:RKZGvBS7

/// 従順な中産階級 26 ////////////////

   政治化された家

 より一層の理解のため、ここで、すでに3章でふれた事柄について、さらに詳しく見ることに
しよう。つまり、日本のイエについて、とくに、徳川支配下のイエは中国の家の概念とはどのように
異なっていたかということである。中国の家との比較は問題の解明に大いに有益である。というのは、
日本も中国も、儒教の家族の概念を共有しているのだが、中国の家族とは違い、日本のイエには
血縁よりも共同で担う経済的な役割によってつながる、社会的な単位という意味がある。
いうまでもなく、"皿縁関係"にもとづく家族が、経済単位としてのイエと一致する部分もあるが、
家系の継承者を養子縁組によって求める場合を見ると中国と日本の違いが実に明確になる。中国では、
家長になるべき男性の継承者がいない場合、血縁的にその家族に一番近しい者を養子にする。
一方、日本では、継承者として適格かどうかがひじょうに重要な問題とされ、実の息子であっても、
資格不十分とみなされれば、継承者になれないこともあった。

/////////////// 原書1989年刊 ///

293名無しさんの主張:2012/02/11(土) 14:11:34.17 ID:???
既得権益層からしたら
『草食系になったゆとり世代』
だろうが根本的は
『草食系にさせた既得権益層』
既得権益層はそう言うと
『俺たちが額に汗して働いたから豊かになったんだ』
違う
利権や既得権を自分たちで作り、それにどっぷり浸かって利権たらい回しすることで、組織化になり、言われたことしか出来ない様にさせたのが現実
294 ◆JeacknUANQ :2012/02/12(日) 20:58:20.06 ID:/DgR3Cw2

/// 従順な中産階級 27 ////////////////

息子がいないかできの悪い息子しかいない家がとった通常の解決法は、婿養子を迎えるか、あるいは、
まず女の子を養女にして、いずれその家の養子にできそうな適切な男性をその子の配偶者に選ぶこと
であった。この伝統は今も生きている。筆者の友人の一人は、子供のいない仏教僧なのだが、
一〇年間養子にする若い女性を探しつづけたが、見つからなかった。その女性と若い僧とを結婚させ、
後でその僧に彼の小さな寺を継がせるつもりだったのである。また、日本では、女中や農業手伝い
などはイエの一員とみなされる一方、家族であっても、同じ屋根の下に住んでいない者はイエの
一員とはみなされなかった。これと対照的に、中国人は、何世代にもわたり太平洋を隔てて住んで
いても、同一家系の一員としての強い同族意識を持ちつづける。

//////////////////// 早川書房 ///

295 ◆JeacknUANQ :2012/02/14(火) 22:07:06.16 ID:FSas3do8

/// 従順な中産階級 28 ///////////////

 日本のイエの共同体的特徴は、自然の成り行きとしてではなく、念入りに作り上げられた
社会管理制度の一環として徳川幕府が強制した結果できたものである。約三五〇年前に、
きわめて意図的に、イエは一つの政治的単位に変身させられたのである。当初はそれは武家だけに、
後に、村の素封家や町の商家にも適用されるようになった。財産は個人が所有するのではなく、
イエに属した。人々はイエの正式構成員として登録され、家長の責任下におかれた。家長は、
イエの構成員に対して、ほとんど無制限の法的権限をもっていた。
 政治的単位としてのイエの重要性は、形而上学的特性にある。イエは単に社会的な便宜ではなく、
実際であれ虚構であれ、継続的につづく家系があるから存続でき、さまざまな恩恵も享受できた。
しかるべく継承するかぎり、未来永劫、継続していける。イエは、神々が進水させた一隻の
船のようなもので、くず鉄として売り払われることは絶対にない。乗組員は始終変わるが、
彼らに共通の神聖なる仕事は、船を沈没から守り進路をはずさないことである。

/////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

296 ◆JeacknUANQ :2012/02/15(水) 22:24:36.63 ID:CRzqG5QQ

/// 従順な中産階級 29 ////////////////

 権力者にとってこれは、最大限に利用できるすばらしい基本単位であった。明治の寡頭政治家たちは、
法的組織としてのイエをあらゆる階層に広げて適用した。二〇世紀においても、一九四五年までは、
イエは良識ある市民をつくる法的責任を負わされていた。戦後の民法は、このようなイエの概念と、
家長の法的な権利義務を取り除き、公的にはイエの概念を完全に捨てた。しかし、組織体の理想の
中にイエは今も息づいているのである。

/////////////////// 945円(税込) ///


297 ◆JeacknUANQ :2012/02/16(木) 21:13:34.56 ID:32Tk8I1j

/// 従順な中産階級 30 ////////////////

 徳川時代および明治初期には、事業に従事する当事者は法律上の規定ではイエであった。
今世紀初頭に、管理者タイプの経営者が起業家的な企業家に取ってかわりはじめた時、彼らが
イエの概念をふたたび取り入れ、もともと概念的な政治的構築物であったものを自分たちの
会社に適用したのである。今日、多くの大企業で、伝説的な創業者やそのすぐ後を継いだ
社長たちが先祖のごとくに崇められている。代々の後続社員のために、彼ら先祖が"経営理念"や
"社訓"を残したわけだ。そして、日本の企業がつくる豪華絢爛たる自社紹介パンフレットで、
この経営理念や社訓についての説明がなされる。このようなパンフレットに謳われているのは、
商業的な利益追求は、日本の経営者の関心事ではないとでもいいたげな表現である。会社は、
全人類とはいわないまでも人の役に立つためにあるものとして描かれ、事実、かなり多くの
会社の販売促進パンフレットに「世界の平和のため貢献する」という文句が一つや二つ登場する。
そうは言うものの世間の常識では、まず第一に会社は儲けており、社員のために存在している
ことは確かで、社がここまでになったのも代々の経営者のおかげである、よって社員はその恩に
報いるよう"誠意ある努力"をしなければならない、というわけである。

///////////// K.V.ウォルフレン著 ///

298 ◆JeacknUANQ :2012/02/17(金) 22:09:16.14 ID:KgVQUbGB

/// 早川書房 //////////////////////

 カレル・ヴァン・ウォルフレン(Karel Van Wolferen) (著)、篠原 勝 (翻訳)、
 原著1989年発行、邦訳 早川書房1990年発行
 「日本/権力構造の謎」 The Enigma of Japanese Power  日本 権力構造の謎〈上〉

単行本: ¥ 2,447(税込) ISBN-10: 4152034475 ISBN-13: 978-4152034472
 http://www.amazon.co.jp/dp/4152034475/
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////////////////// 絶賛発売中!///


299 ◆JeacknUANQ :2012/02/18(土) 18:47:57.76 ID:yi/nrfsg

/// 従順な中産階級 31 //////////////////

   職場第一主義

 家庭を職場と同一視することを、西欧の場合と比較して、さらに別の角度から見てみるのも
有益である。産業革命以前には、ヨーロッパでも、中国や日本と同じように、家族が経済的生産の
基本単位だった。だが、工業化が進むにつれ、西欧の人びとは家の外で仕事をみつけ、公的な
職場に出て働きはしめた。労働の機能が家族単位から分離したのである。一方、日本では、
移行期をへた後、今日の<システム>が確立強化され、家族の機能が労働単位から分離したとも
いうべき状況になった。今日のイエは大企業の中の労働グループとして存在する。

////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

300 ◆JeacknUANQ :2012/02/20(月) 20:56:15.52 ID:wCU69G+t

/// 従順な中産階級 32 ////////////////

 中国では氏族制と中央政府の代表との間に長い緊張の歴史が続いている。当然のことながら、
一九四九年以後も、家族への献身と、人為的な集産主義的国家の要求との間でおこる衝突が
数多く報告されてきた。とくに大躍進政策実施中に、中国共産党が国民の間に定着させようと
したのは、まさしく、中央政府の強制勧告なしに日本人がここしばらくしてみせてきた態度、
つまり、共同体の経済的目的を遂行するためなら個人や家族の利益はすすんで犠牲にしてもよい
という態度そのものであった。<システム>が采配をふるうという仕組み上、日本のサラリーマンは、
他に選択をもたない。しかも日本の支配エリートは、日本社会を構築する基本単位は家族ではなく
職域だという、社会学者が無意識のうちに出してしまった理論的結論に大いに満足している。

///////////////// 原書1989年刊 ///


301 ◆JeacknUANQ :2012/02/21(火) 22:45:35.60 ID:SlYagaqh

/// 従順な中産階級 33 ////////////////

   歌と犠牲

 サラリーマンをして、会社に全身全霊を捧げさせるためには、励みになる象徴が必要になる。
すなわち私的時間、エネルギー、個人的な関心事を犠牲にしても悔いない価値あることのために
働いていることを確認させるもの、つまり、会社は、利潤を上げたり社員に生活の糧を支給する
目的のためだけではなく、それ以上の組織だというイメージを与えなければならない。それは
大むね、会社には本質的使命があるという形で示される。時には、会社の屋上に作られた神社が、
過去代々、そして現在、未来へと続けられる会社の航海に貢献するみんなの努力に精神的な
意義があるということを、それとなくいつも社員に思い出させる役割を果たす。

////////////////// 早川書房 ///


302 ◆JeacknUANQ :2012/02/23(木) 21:13:42.12 ID:xlZUxFde

/// 従順な中産階級 34 //////////////

近代的大企業のひとつの重要な象徴は、昔の由緒ある家の家紋(ヨーロッパの盾形紋章にあたる)を
思い出させる社章である。会社によっては、これも昔の商家にあったような忠敬と守るべき本分を
並べた"社訓"もある。そして、大企業なら、よく教義問答集に似た会社案内に説明されている
会社の理想にもとづく、固有の"社風"が必ずなければならない。日本で工場見学をすると、
帰りには、何冊もの小冊子やパンフレットをかかえ込むことになる。それにはいずれも、世の中の
幸福のために貢献する使命感とその企業ならではの英知と伝統が詳しく述べてある。

/////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

303 ◆JeacknUANQ :2012/02/24(金) 21:24:49.58 ID:kPxHr3oE

/// 従順な中産階級 35 //////////////

 社員が共有する会社文化は、みんなで歌う社歌によって定期的に再確認される。
たとえば、日立造船の社員が歌うのは――

あけぼのの すがしき光
うまれゆく 平和にっぽん、
………………………
いざや造らむ、つとめは重し、
祈りあり、日立造船
国の富つちかわむかな。
…… あふるる生気、
さかんなり、日立造船
人の幸もたらさむかな

………………………
人の和を 誇るわれらぞ、
船の橋もて 世界をば
いざや結ばむ、……
栄えあれ、日立造船
日に月に進めよや、いざ。

//////////////// 945円(税込) ///

304 ◆JeacknUANQ :2012/02/26(日) 18:48:39.34 ID:LMsNSjhF

/// 従順な中産階級 36 ////////////////

 日本ビクターの社員の会社観を表わす社歌は――

ひろきわが世の 天才偉人
ここに集むる 音響の饗宴
 文化の精粋 人技の誇り
   (繰り返し) ビクター ビクター
          われらのビクター
国の親善 家庭の和楽
果たすわれらの 使命は楽し
 時代の先鋒 世界の誇り
…… わが製品を
つくる焔ぞ われらが至誠
文化の精粋 人技の誇り

大林組の社員が歌うのは――

虹を架けよう あの空へ
希望をこめて 槌ふれば
建設の歌が こだまする
明日の空へと ひびいてゆく
世界を拓く 大林
夢をきざもう この大地
新しいもの 生まれてる
……………………………
輝く夜明けへ つづいてゆく
世界に伸びる 大林

////////////// K.V.ウォルフレン著 ///
305 ◆JeacknUANQ :2012/02/27(月) 22:28:11.51 ID:0I+Q9mUp

/// 従順な中産階級 37 ////////////////

 トヨタ自動車の社歌に謳われて、その社員に満ちあふれているのは――

あふれる日ざし 緑に映えて
永遠に広がる 人の絆と
熱い血潮で 時代を開く
のびゆく明日 心はひとつ
たゆまぬ前進 われらのわれらのわれらのトヨタ

…… 英知と夢と
豊かな技術で 歴史をきずく
輝く未来 心はひとつ
新たな飛躍 われらのわれらのわれらのトヨタ

 ほかの会社の社歌を見ても、内容は大体似たりよったりであろう。どの社歌にもたいてい
「明るい未来」「調和」という言葉が入っている。歌には、大家族に属していて、日本の
建設に貢献し、漠然とした目標を断固達成するという内容が盛り込まれることが多い。
また、多くの社歌では、先人のおかげで今の会社があるのだから、仕事に励むのは後輩の
義務である、といったような意味あいがある。

////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

306名無しさんの主張:2012/02/29(水) 22:03:38.73 ID:YLcBUzpH

/// 従順な中産階級 38 ////////////////

  服従と秩序

 日本経済の成果が一般向けに広く書きたてられた結果、日本人の会社に対する忠誠心は伝説化
しているが、ここで改めて明確にとらえ直す必要がある。一世紀あまり前、ふたたび外国人の
入国が許されるようになって以来、西欧の文筆家が感銘とともに記してぎたのは、日本人の
忠誠心の迫力である。そしてそれは、今も、日本人の生活において最重視されていると論断
されることが多い。たしかに事実ではあるが、日本人の忠誠心は何から成り立っているかを
見きわめないかぎり、誤解のもとになるであろう。

///////////////// 原書1989年刊 ///

307名無しさんの主張:2012/03/01(木) 21:52:35.18 ID:FZiE6R1o

/// 従順な中産階級 39 ////////////////

   上位者への忠敬

 まず第一に、日本人の忠誠心はもっぱら集団や人に対するものであり、信条や抽象的概念には
向けられない。そして、<システム>に敵対する可能性のある組織は、ほとんど完全に社会から
排除されているから、日本人の忠誠心は既存の社会・政治的秩序を直接的に支える力となる。
 忠誠心は"孝行"と並べて口にされることが多い。どちらも儒教の中核をなす倫理的概念で、
その昔、日本の貴族政治家が自分たちの権力の理論的支えとして中国から取り入れたものである。
こうして導入された孝行は多大な影響力を及ぼしたにちがいない。二〇世紀のはじめ、B・H・
チェンバレンは書いた――「日本の人びとにとって『二十四孝』の話ほどのお気に入りはない。

//////////////////// 早川書房 ///

308 ◆JeacknUANQ :2012/03/03(土) 00:00:54.91 ID:+3hnDky5

/// 従順な中産階級 40 ////////////////

その奇妙な孝徳談は中国の伝説に記されている」。たとえば、ある孝行息子に無慈悲な継母がいた。
これがたいそう魚が好きたった。息子は継母のひどい仕打ちを怨むでなく、寒中裸になって
凍った湖の表面に横だわった。体温で氷が融けて穴があくと、二匹の鰻が息をつぎに上がってきた。
彼はこれを捕えて母の食膳に供したという。また別の孝行息子は、裸で寝て自分が蚊にくわれる
ようにし、両親の睡眠が妨げられないようにした。筆者がいちばん気にいっているのは、九〇歳の
両親にそんなに年をとっていないと思いこませるため、七〇歳の孝行息子が赤ん坊用の服を着て
床をはいまわった、という話である。

//////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

309 ◆JeacknUANQ :2012/03/03(土) 19:35:21.10 ID:+3hnDky5

/// 従順な中産階級 41 //////////////////

 明治政府は、政治的に重要な家族的道徳観と愛国心を育成する目的で、親孝行を広く宣伝した
のみならず、親孝行と天皇への忠誠は同じ一つことであると布告した。そのずっと以前にも
この中国の倫理体系が政治的な目的で大きく改変されたことがある。徳川時代の支配者たちは、
この中国の倫理を逆さにして、自分の仕える領主に対する忠誠こそ至上命令であり、親孝行は
二の次だとしたのである。

/////////////////// 945円(税込) ///

310 ◆JeacknUANQ :2012/03/04(日) 14:46:57.95 ID:pFuXaSHX

/// 従順な中産階級 42 ///////////////

 日本の将軍たちは、神の直系とされる天皇を脇に押しやってしまったから、配下の領主を
服従させるための説得にあたって普遍的な原理に訴えることができなかった。これは大きな
問題であった。そこで、軍隊の階級構造を利用して、ある程度この問題を解決し、幕府に対する
忠誠の基準を作り上げることができた。どの軍事組織にも自動的に包含されている服従の
規律と倫理が、日本的忠誠礼讃体系を作り上げるのに理想的な背景になった。このような
状況のもとでは、ほとんどの場合、忠誠は支配権をもつ者への盲従を意味する。中世ヨーロッパ
においては、騎士は神の名にかけて自分の領主を見捨てることができたし、自分固有の権利も
明確化されていた。この封建制度は統率者と家来とが互恵的に忠誠を守るという条件のうえに
成り立っていたのである。これと対照的に、日本の統率者と家来との関係は「義務は後者
のみにかかり、統率者の命令には絶対服従が要求されるという特徴をもっていた」。

///////////// K.V.ウォルフレン著 ///

311名無しさんの主張:2012/03/06(火) 02:30:07.50 ID:???
312 ◆JeacknUANQ :2012/03/06(火) 21:26:13.36 ID:6I85Pf49

/// 従順な中産階級 43 ///////////////////

 今日、現代日本人の上位者への服従は、盲従もしくは無条件服従ではなくなったが、たいていの場合、
いまだに選択の余地がない。大企業の社員大半の、上役に対する不満が極限に達したとしても、
彼らは"忠節な"部下でありつづけるしかない。というのは、これまでに見たように、勤め先に
辞表を出してもほかに今と同等の給料がもらえる転職先がない。今日においても、自分の上役に
対する忠誠がほかの倫理的配慮に優先する。一九七六年、ロッキード汚職事件に関連する衆院予算委員会での
証人喚問で、重役たちが終始一貫して計画的に、しかも彼らの雇主たる会社を"護る"ためにあきらかに
偽証するのをテレビの国会中継で見た全国の視聴者は、このことを再確認させられた。この場合のように、
"忠誠心"がからむ組織ぐるみの欺隔は、かなりの程度、広く社会的に是認され、賞賛されるのである。
 歌舞伎や一部の現代映画で描かれるような忠誠心の表現の極致――たとえば、殿様の子の命を牧う
ためわが子を殺すというような物語は、西欧人には道徳的に受け入れられないものである。しかし、
なにはともあれ重要なことは、日本人の忠誠の倫理観は、本質において、服従の倫理観であることを
理解しなければならない。

///////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

313 ◆JeacknUANQ :2012/03/08(木) 21:39:35.74 ID:1XL1LaMt

/// 従順な中産階級 44 ////////////////////

   忠誠を尽くす下請け業者

 日本の会社に、社員が"忠誠"を尽くすよう強制されるばかりでなく、下請けの中小業者も、
注文主の大企業の景気が悪い時には、受注部品や半完成品に対する支払いを遅らせられたり
代金を減らされても、そのまま受け入れるしかない。
 サラリーマンの世界とその関心事が、現代日本人の生活の基調を決定しているかに見えるが、
サラリーマンは全労働人口のほぼ三分の一にすぎない。従業員か一〇〇人から一〇〇〇人までの
事業体が全体の約一六パーセントの職を提供し、一〇〇〇人以上の事業体が一五パーセントの職を
提供している。ここ以外では、比較的安定した雇用保証、いわゆる"終身雇用側制"(通常、五五〜
五八歳が定年)は適用されない。非サラリーマン世界には、企業家的野心が生きているから、
サラリーマンの抱負や生き方とはまた別の自負心が生まれる。すなわち、自分の会社を持つ夢は
今も多くの人をとらえており、これが、いわゆる二重構造経済が続いている主な理由である。
巨大な企業集団のヒエラルキーを支えているのは、不景気時には押しつぶされる可能性もある
中小企業の膨大な群である。

/////////////////// 原書1989年刊 ///

314 ◆JeacknUANQ :2012/03/10(土) 14:51:40.19 ID:EKpLIS2f

/// 従順な中産階級 45 ////////////////

 日本の製造業労働者の半数近くが、作業員数五〇人以下の工場で働いており、その多くは
夫婦共に日に一〇時間以上働いている低賃金零細工場である。このような零細企業は下請けとして、
有名企業が流通経路にのせる製品・部品を作ったり完成品に組み立てるのであるが、低賃金労働力の
供給源になり、不況時のショックの大部分を吸収する役目をしている。一九八五〜八七年に
日本円の対米ドル価が二倍の円高になった際、海外のマーケット・シェアを失いたくないと
切望する大企業の利潤が目減りしたのだが、その損失の大部分をこれら零細企業が負担させられた。

///////////////////// 早川書房 ///

315 ◆JeacknUANQ :2012/03/12(月) 21:42:57.61 ID:qEs0hhn5

/// 従順な中産階級 46 ////////////////

 高度に工業化された欧米諸国に比べ、日本ではこのような零細企業の割合がはるかに大きい。
日本企業全体のうち、一〇〇〇人以上の労働者を雇用しているのはわずか〇.二パーセントである
(もっとも、数でいえば、〇.二パーセントといっても二〇〇〇社以上になる)。自営労働者と
家内労働者(主に女性)が日本の労働人口の二九パーセントを占めているが、これが英国では
八パーセント、アメリカでは九パーセント、西ドイツで一四パーセント、フランスでは一七パーセント
である。経済変動に直面した時、これら膨大な数の零細企業の弾力性が、日本の大企業が国際市場で
凄まじい競争を展開するうえで、なくてはならない重要な支えになっている。多くの零細企業が
破産するが、ほぼ同じ数だけまた新会社ができる。同じ企業家が別の業種で事業を始めるのである。
部外者がめったに訪れない東京や大阪の裏通りに行くと、何百という木戸の向こうから一〇年、
二〇年前と同じように、ギーカチャン、ギーカチャンという機械の音がしてくる。同じ機械音
ではあるが、今日そこで作っているのは昔とはまったく違うものだ。

/////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

316 ◆JeacknUANQ :2012/03/13(火) 23:21:23.34 ID:G+TaSwoe

/// 従順な中産階級 47 //////////////////

 自分の名前を冠した会社の社長になれるということにおいては、たしかに小規模の企業家には
自由があるといえる。しかし、中小製造会社の約三分の二が、労働条件まで指示する大企業の
どれかに財務を依存していることからいえば、自由など存在しないことになる。ここにおいても、
家族関係の比喩が大いに適用される。"親会社"は、下請け会社に必要な原材料を供給し、設備投資も
含め技術的な援助をする。親会社はなにかの異変でもないかがり、代金のより安い下請け会社に
変えることはない。そのかわり、"子会社"は不景気の時にはショック吸収役を引き受けなければならない。

/////////////////// 945円(税込) ///

317名無しさんの主張:2012/03/14(水) 16:14:41.55 ID:???
本の内容を写しているだけとは・・稀に見るクソスレ。自分の言葉で書きなよ。
318 ◆JeacknUANQ :2012/03/14(水) 22:10:22.79 ID:Ms+F4b29

/// 従順な中産階級 48 ///////////////

 ここでも<システム>が機能し、その抱き込みが多数の中小企業団体、そして、それらを統括し
選挙時には自民党の候補者を支援するいくつかの連盟に及んでいるのは、明らかである。自民党の
後押しで、官僚は、小規模の製造業者には厳しい法規制を課さず、また、これはもっとも重要な
点だが、公式、非公式に税制上の特典を与えることによって、二重構造経済の維持を助けている。
通産省には中小企業庁があり、地方銀行などの融資を通して複雑な支援体系を整合し、中小企業間の
ヒエラルキーの維持にも一役買っている。自民党に対してより大きな恩義を感じている中小企業の
中でも比較的大規模の業者が、より小規模の会社の統制に力を貸している。

////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

319 ◆JeacknUANQ :2012/03/17(土) 16:20:30.32 ID:UG5CgxZd

/// 従順な中産階級 49 //////////////////

   会社の格づけ即サラリーマンの格づけ

 日本の経済界は、サラリーマンの考え方や行動を統制して<システム>の秩序維持に助力しているが、
その他の点でも秩序維持に貢献している。会社内には強固なヒエラルキーがあり、会社と会社の
間にもヒエラルキー制がある。下請け業者の場合は、特にそうである。ヒエラルキーの各層に
属する企業が雇用するのは、全人口の平均的代表グループではなく、学校ヒエラルキーの各段階に
おいて選抜される狭い範囲の特定グループの者だけである。大企業は、それ自体の企業グループ内や
各業界団体内で順位づけられているのだが、そのような大企業が日本人をいわば"等級化"する
ことによって、社会秩序のヒエラルキー化をさらに強化しているのである。

////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

320 ◆JeacknUANQ :2012/03/18(日) 11:44:38.17 ID:ABwDlbnu

/// 従順な中産階級 50 ////////////////

 就職希望者は、就職先が、保険会社なのか化学会社なのかといった業種はあまり気にしない。
最大の関心事は、その会社がどのランクにあるかである。なぜなら、会社の格が直接、彼らの
社会におけるランクづけに結びつくからである。また、新人サラリーマンにとっては、入社する
会社の繁栄もそれほど重要な要素ではない。日本をのぞく西洋および他の大部分の国においては、
会社の成功度は収益性など経済的要因によって決まる。日本では、会社の成功度をはかる時、
会社の規模、マーケット・シェア、そしてこれに関連して決まる企業ヒエラルキーにおける
その社の位置など、政治的な要素がものをいうのである。

////////////////// 原書1989年刊 ///

321 ◆JeacknUANQ :2012/03/20(火) 20:29:39.31 ID:Rs98pF8y

/// 従順な中産階級 51 ////////////////

 日本の会社はまた、制度的に女性を差別することによっても、社会秩序の維持に一役買っている。
女性は労働人口のひじょうに重要な一部をなしている。既婚女性の半数以上が、多くの場合
下請け会社でフルタイム社員あるいはパートタイマーとして働き、一家の収入を補っている。
これらの勤労女性は、意図的な企業の方針によって、<システム>の巨大な低賃金労働源になっている。
この方策は"日本の社会的慣習および伝統"に従うものだとはっきり企業側が弁明して官僚からも
支持されている。女子は、一八歳か二〇歳でサービス業や事務職に就き、二〇代なかばになると、
結婚して退職する。一人か二人子供を育てた後、その多くが三〇代なかばに再び職場にもどる。
事務職に就く女性の給料は、同じ年に就職した同僚男性の給料よりほぼ一割安く、後にこの差は
さらに三割に達する。女性の場合、職場に復帰しても、男性のようには"終身雇用制"の年功を
主張できないし、典型的な例は、同僚男性と同じ時間働きながら、彼らの半分の給料で、
福利厚生などの特典もほとんど適用されない"パートタイム"契約で雇われている。

///////////////////// 早川書房 ///

322 ◆JeacknUANQ :2012/03/21(水) 22:14:26.90 ID:MgwA3YCP

/// 従順な中産階級 52 ///////////////

   女は女のいるべき場所におく

 一九七〇年代に、女子従業員のごく一部の活動家が訴訟をおこしはじめた結果、女性が
"退職年齢"に達したり結婚しても、大企業はそう簡単に彼女たちを解雇でぎなくなった。
しかし、"自発的に"退職させようとする圧力にさからうことはほとんど不可能である。
銀行、保険会社、官庁、デパート、外資系会社など、キャリアとして女性が働ける企業・
組織に勤めないかぎり、二九歳になろうとする女子社員は、夫か別の収入源を見つけ
なければならない。

//////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///


323 ◆JeacknUANQ :2012/03/22(木) 22:32:29.10 ID:RTHQs4LQ

/// 従順な中産階級 53 ////////////////

 一九八五年の春に、男女雇用機会均等法ができた。それは、基本的に日本の企業が男子社員と
女子社員とを同等に扱ってみようという"試み"を義務づけている。しかし、この法律には
罰則規定はなく、長年にわたり、官僚指導のもとに審議会が討議して出した最終答申は、
経営者側の勝利と一般にみなされている。この法律は、国際的なイメージを気にして、日本が
妥協できる最小限の譲歩であり、国連の「婦人に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」の
批准に間に合わせて、国内法整備のために法制化したものである。

////////////////// 945円(税込) ///



324 ◆JeacknUANQ :2012/03/24(土) 20:18:27.87 ID:7lJjcZd+

/// 従順な中産階級 54 //////////////

 日本の女性の経済活動の中での役割が問題となってきている。しかし、活動家集団の政治的圧力に
表われているのは、そのほんの一部にすぎない。一九八五年の働く既婚女性の数は二〇年前の
二倍に増え、"ハネムーン・ヘイビー"現象は激減した。また、まだまだ低いとはいえ離婚率が高く
なりつつあるのも、自分のキャリアを遂行したいと望む妻が積極的に離婚を言い出したことに主に
由来する。このような女性の職場進出によって生じる緊張と摩擦を緩和するため、管理者は、
マスメディアや体制派"社会評論家"が唱える"伝統的な"日本の家族の図柄を積極的に肯定する。
まじめな雑誌が雇用機会均等法の適用強化ばかりを唱えた女性解放活動家のやり方に激しく反論を
加えていることなどからみて、日本"文化"の命脈が保てるかどうかが問題になっていると結論
できるようだ。

////////////// K.V.ウォルフレン著 ///


325 ◆JeacknUANQ :2012/03/27(火) 21:47:01.09 ID:PaxStlnw

/// 従順な中産階級 55 //////////////////

 実際には、働く女性に顔をしかめる伝統は日本にはないし、今日働く既婚女性で一番多いのは
家計を補うために働いているケースだが、政府が公式に打ち出す"健全な"家庭像では、きまって、
女性のいるべき場所は家庭だとされる。皆と同じであることを大切にするお国柄であれば、
伝統的に作り出された正しい女性の役割が特に目につく。理想的な女性像は、かしこまって
丁寧な態度、計算ずくの無邪気さと愛嬌、地声よりも一オクターブ高い"やさしい"声、そして、
いつも面倒見がよく母親のように振る舞うことまでの広い内容を含む。サラリーマンの世界で
理想の女性とされるのは、ナイチンゲールと大蔵大臣を兼務できる女である(日本では女性が
家計の全責任を担うことは普通である)。

////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

326 ◆JeacknUANQ :2012/03/30(金) 00:24:24.44 ID:c1Et9QWg

/// 従順な中産階級 56 ////////////////

女の子や婦人にとって優れた知性はマイナス点になるから隠さなければならない。女性は、
テレビやコミック・ブックで軽く、時には軽くではすまないほど卑しめられることが多い。
SMコーナーのある本屋は多く、そこでもっとも人気があるのは、淑女たちをハムのように
縛り上げた写真を載せた雑誌や本である。一九九五年には、文部省文化庁長官の三浦朱門が、
二、三の雑誌に、強姦は紳士のするべきことではないが、昨今の若き女性のモラル基準は
いずれにせよ低下しているのだから、彼女たちを強姦するのならそれほど悪いことでもない
と書き、いささか物議をかもした。

////////////////// 原書1989年刊 ///

327 ◆JeacknUANQ :2012/03/30(金) 22:00:42.82 ID:c1Et9QWg

/// 従順な中産階級 57 ///////////////

 しかし、暗い図ばかりではない。米占領軍当局の主導のもとに、姦通を刑事犯とする項目が
法律から削除され、日本女性の法のうえでの解放に大きな一歩がふみ出された。旧法では、
儒数的慣行に合わせて、妻のみが姦通罪に間われたのであった。また、実情をいえば、家族の間で
より力があるのは、たいがいの場合まちがいなく妻である。会社に縛りつけられていることを
考えれば、夫も妻と同じくらい解放を必要としているともいえよう。だが、こうあるべきだと
される図が、おびただしい数のコミック・ブックや映画、そしてテレビに溢れる連続ホームドラマを
通してたたき込まれる。

/////////////////// 早川書房 ///

328 ◆JeacknUANQ :2012/03/31(土) 11:17:23.46 ID:gAwZWkmk

/// 従順な中産階級 58 ///////////////

ホームドラマは、それがある国ならどこでも、規範としての社会的慣習を支持する役を果たしがち
ではあるが、日本のものは、概して、慣習非順応型の登場人物に厳しい。一定の限度を越えて
自分の思いどおりに突き進もうとする、冒険心と独立心旺盛な若き女性は必ず、ありとあらゆる
障害と災難に逢うことになっているのだ。ごく一部の例外を除き、女たちは不文律にしたがって
しばらく働き、結婚して出産し、年老いた舅姑の世話をするという、日本女性の一生にふさわしい
過程を経てハッピーエンドとなるわけである。

//////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///


329 ◆JeacknUANQ :2012/04/01(日) 18:27:33.87 ID:O/p6Pdwa

/// 従順な中産階級 59 ///////////////

   利益代表をもたない中産階級

 ここまでで、農村部の日本人がいかに<システム>に縛りつけられているか、また、医者や大学教授や
中小製造業者もいかに<システム>の一部になっているかを見てきた。比較的自由なのは、小売店主、
美容院経営者、芸術家などである。しかしここでも、小売店主はメーカーによって統制される
取引業者連合会に縛られることが多いし、他の職種の揚合にも連合会活動が盛んで、しばしば
連合会の取決めに従うよう会員に強要する。しかし、どの職種にしてもサラリーマンほど自由を
奪われてはいない。<システム>は、サラリーマンの生活と彼らが属する組織を通して、もっとも
効果的に日本の人々を経済的に支配している。他の工業国と比較してきわめて顕著なのは、サラリーマンには
転職市場がほとんど存在しないに等しいために、<システム>を牽制できる力として労働者の勢力が
存在しないということである。

///////////////// 945円(税込) ///

330名無しさんの主張:2012/04/02(月) 08:44:05.42 ID:???
良スレ
331名無しさんの主張:2012/04/02(月) 22:08:09.97 ID:???
橋下が「公務員叩き」=庶民のルサンチマンを利用しながら支持を集めて、
社会保障をぶっ潰し、新自由主義の格差社会というウンコを投げつけようとする様を見ると

橋下ってのは政官財癒着体制の一変化形態みたいだね

みんなの党、維新の会、とマスコミで「第三極」と宣伝されているものは、
無党派層や庶民にウンコを投げつける新自由主義者という逆説
  
332 ◆JeacknUANQ :2012/04/03(火) 21:05:40.08 ID:beuB3nXa

/// 従順な中産階級 60 //////////////

 サラリーマンの大半は都市消費者で、かなり高額の貯金がある。その貯金が投資資金として
"系列"大企業グループに注ぎ込まれてきたのであるから、彼らこそ経済的"奇跡"を維持するうえで
重要な役割を果たしてきたといえる。安い輸入品を買うチャンスを徹底的に奪われた結果、
ほとんどの日常生活必需品を買うのに、西欧の諸工業国よりはるかに高い代価を払わされ、
なおかつ一九九〇年代後半に日本の輸出産業を助けていたのは、彼らなのである。

///////////// K.V.ウォルフレン著 ///

333 ◆JeacknUANQ :2012/04/05(木) 22:33:20.60 ID:GafezHk1

/// 従順な中産階級 61 ///////////////

 たいていの国では、中産階級の台頭とともに政治的関係が逆転し、基本的な変化が生じた。
日本では、このように体制にゆさぶりをかける影響力が最小限に抑えられてきた。<システム>の
存続にとってどれほどサラリーマンの存在が重要であっても、彼らの利益を代表してくれる者は
嘆かわしいほど少ない。たとえば、なぜ住宅政策がなおざりにされたままかというと、その問題が
自民党にとって選挙でのメリットがないからである。サラリーマンの妻たちが始めた消費者運動が
体系的に抱き込まれ、無力化させられた状況は、3章で見た。4章では、法外な高利をむさぼる
不正な商売のひとつ、サラ金について消費者の利益のためではなく、大手のサラ金会社、そして
大蔵省と政治家の利益を考えて、政府が再編成の援助をした過程も見た。

////// 「日本権力構造の謎」<上> ///


334 ◆JeacknUANQ :2012/04/06(金) 23:44:35.37 ID:Cof/B0hx

/// 従順な中産階級 62 ////////////////

 サラリーマン党も含め、サラリーマンの政治的な潜在力を組織化しようという努力は
すべて失敗に帰した。サラリーマンの全人格が会社に握られているから、政治的な勢力に
なるための時間もエネルギーも考えもない。サラリーマンは日本の新中産階級といわれてきた。
しかしこのホワイトカラーは、伝統的な日本の政治総体を脅かせるほどの中産市民階級に
まで成長していない。

////////////////// 原書1989年刊 ///

335名無しさんの主張:2012/04/08(日) 11:13:39.64 ID:???
>>317
稀に見る駄レス
336 ◆JeacknUANQ :2012/04/08(日) 22:44:31.97 ID:3jxuLSSf

/// 早川書房 //////////////////////

 カレル・ヴァン・ウォルフレン(Karel Van Wolferen) (著)、篠原 勝 (翻訳)、
 原著1989年発行、邦訳 早川書房1990年発行
 「日本/権力構造の謎」 The Enigma of Japanese Power  日本 権力構造の謎〈上〉

ハヤカワ文庫NF、945円(税込) ISBN-10: 4150501777  ISBN-13: 978-4150501778
 http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4150501777.html
 http://www.7andy.jp/books/detail?accd=18988933
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 http://www.bk1.jp/product/01055138
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 http://www.junkudo.co.jp/detail.jsp?ISBN=9784150501778
 http://www.7netshopping.jp/books/detail/-/accd/1101172635/subno/1

//////////////// 絶賛発売中!///

337 ◆JeacknUANQ :2012/04/09(月) 22:55:55.82 ID:oXshNlVY

/// 従順な中産階級 63 //////////////

  サラリーマン文化の演出者

 日本人が"生活の糧"と同時ににぎやかで楽しいひと時を持てるよう責任をもって取り計らうのは、
あるマンモス産業である。日本の大衆文化は、秩序立ったサラリーマンの世界を維持するために
特別誂えで作られている。これには政治的な想像力を駆り立てる内容はすべて抜いてあるのが、
際立った特徴である。社会的および政治的な問題について探究する、まじめな取り組みの映画が
あったのは、もうずっと昔のことである。一九六〇年以来、それ自体<システム>内で重要な位置を
占める日本の映画会社が次々と送り出す作品は、同じメニューがいつもでてくる固定したごく少数の
定食コースにしたがって作られ、内容が完全に予想できるものばかりである。

///////////////// 早川書房 ///

338 ◆JeacknUANQ :2012/04/10(火) 21:51:49.18 ID:4VFQyQbJ

/// 従順な中産階級 64 /////////////

東映は、長年、暴力団山口組と緊密な関係にあり、伝統的なヤクザの義理人情"道徳"を讃える
映画や、国家主義的偏向のある戦中戦後の歴史映画を、何百となく作ってきた。年に二、三本、
より独立心のある監督が品質の高い作品を作ることがあるが、このような現代社会の様相を
風刺する映画でも、その社会的様相の根源まで掘り下げて分析するということはしていない。
日本の前衛劇団が時として"政治的主張"と称する舞台を作るのだが、彼らの訴えるメッセージは
抽象的でよくわからない。

//////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

339 ◆JeacknUANQ :2012/04/12(木) 21:07:18.85 ID:At7gaGrZ

/// 従順な中産階級 65 ////////////////

    大衆文化の組織化

 日本の大衆文化の性格に決定的な要素は、商業性である。一匹狼的な制作者の生き延びる
余地はない。よい例は、映画監督・大島渚のケースである。彼は、一九五〇年代および六〇年代の
学生運動や在日韓国人の苦境など、社会・政治的な問題と真剣に取り組んだ数少ない芸術家の
一人である。ところが、最終的には日本の映画産業の片隅に追いやられ、自分の作品をつくるのに
外国資金を導入しなければならなくなった。まじめな芸術の世界も高度に組織化されていて、
ランクづけによって収入がきまる。日本の画家、版画家、音楽家、舞台芸術家は、欧米諸国の
場合よりヒエラルキー的で権威主義的、融通性のない業界の産業体系に縛りつけられている。

/////////////////// 945円(税込) ///

340名無しさんの主張:2012/04/13(金) 16:44:11.25 ID:???
コピペやめろよ
341 ◆JeacknUANQ :2012/04/13(金) 21:17:02.75 ID:E0cm//Pa

/// 従順な中産階級 66 /////////////

 日本の大衆文化の統制は、あからさまな、あるいは直接的な政府からの規制なしに容易に
おこなえる。日本人は、才能のあるなしにかかわらず、芸能界のヒエラルキーに組み込まれている
会社に雇われるか、なんらかの理由でその種の会社の幹部と人脈的なつながりをもたないかぎり、
まず大衆文化に貢献することはできない。教育制度と同じくこの産業でも、社会・政治的な
期待に反するような創造力は忌み嫌われる。警察が動くのは、陰毛の見える写真や映画のシーンが
ある時だけである。その他の大衆文化に関わることすべては、それらを作り出す "民間"機関が
非公式に多くのエリート集団と結びついているために、容易に統制される。これには、映画製作会社も
テレビ局も巨大な新聞社や出版社も含まれる。だが、おそらくいちばんの例としてあげるべきは、
広告業界、とくに世界最大の"広告代理店"電通であろう。

////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

342 ◆JeacknUANQ :2012/04/14(土) 18:29:34.34 ID:0a/9Tjcb

/// 従順な中産階級 67 //////////////

   影のメディア・ボス

 電通ほど一手に、直接、あるいは多数の下請けを使って大衆文化を作り出している企業体は
世界中どこを探しても、ほかにない。万国博やローマ法王訪日時の準備など、主要イベントも
この会社が総合企画・演出の陣頭指揮に立つ。電通はまた、政治的に活発な動きを見せる。
これについては、すぐ後で詳細に考えよう。

////// 「日本権力構造の謎」 <上> ///

343 ◆JeacknUANQ :2012/04/15(日) 19:34:19.38 ID:I/Zu3Sqa

/// 従順な中産階級 68 ///////////////

 電通は、日本の全テレビ・コマーシャルの三分の一の直接責任者であり、ゴールデンタイムの
スポンサーの割り振りに関して実質的に独占的決定権をもつ。多数の子会社や下請け会社を
通して行使する統制力については、いうまでもないだろう。約一二○の映像プロダクション、
四〇〇以上のグラフィック・アートースタジオがその傘下にある。午後七時〜一一時の時間帯の
番組にコマーシャルを出したい広告主は、電通を通すしかない。スポンサーの選定と放送番組の
内容の大部分を電通が握っているからだ。

////////////////// 原書1989年刊 ///

344 ◆JeacknUANQ :2012/04/16(月) 22:05:09.64 ID:8PMyFU6u

/// 従順な中産階級 69 ////////////////

 番組制作者たちは、冗談めかして、電通のことを"築地編成局”と呼ぶ(電通の巨大な本社は
東京の築地にある)。日本では、扱い高が即、政治力になるので、電通はこうした役割を
演じられるのである。このような状況下では、電通に気をかけて扱ってもらえることが
一種の特権となり、立場が逆転して広告主が電通の指示に従うことになる。商業テレビ局に
とっても事情は同じで、電通に極度に依存する形になっている。

///////////////////// 早川書房 ///

345 ◆JeacknUANQ :2012/04/17(火) 22:49:19.69 ID:0CWCXZj1

/// 従順な中産階級 70 ////////////////

 その結果、電通の影響力は日本のテレビ文化の内容まで左右し、世界中どこにも類例がみられない
ほど、強力なマスメディアを通しての社会統制力になる。そして、このことには重大な政治的意味がある。
テレビという麻薬が日本ほど見事に利用されているところは他にない。また、その中毒症状がこれほど
強く蔓延しているところも他にない。レストラン、各種の店、観光、、ハスの中、タクシーの中にまで
テレビが備えつけられている。テレビ番組の総体的な質の高さを誇れる国は、あったとしても、
きわめて少ない。だが、テレビが全世界的に文化を砂漠化しているとしても、その悲惨さの程度は
かなりの差がある。皮肉なことに、NHKが、官界ともっとも直接的につながる局でありながら、
リポーターが社会的な問題について掛け値なしの疑問を投げかける、まじめな番組を放映することがある。
それ以外は、NHK定食番組にみられるように疑似学術的で無害の、論争を注意深く避けた番組を
はじめとし、風刺漫画に近い日本人好みの社会風俗を描くホームドラマがあり、そして頭がまったく
空っぽのショー番組までどの局にも揃っている。

//////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

346 ◆JeacknUANQ :2012/04/19(木) 21:15:56.78 ID:EUw6AaaD

/// 従順な中産階級 71 ////////////////

 クイズ番組や素人のど自慢は外国のもの真似番組であるが、日本ではこの種の番組は愚神礼讃の
域に達している。人気"スター"は大量生産され、その"キャリア"はめったに二年以上もたない。
彼らは、単に有名であるがゆえに有名だという欧米諸国の芸能人現象の拙劣な戯画といえる。
 このような現象を国際的に評価する一般的な基準はない。しかし、欧米諸国のたいていの
テレビ番組が平均精神年齢一一、二歳の視聴者に合わせているとすれば、日本のテレビ番組は
平均精神年齢八、九歳に合わせている。日本で日々の娯楽の質を決定するうえで主要な役割を
果たしているのは電通であり、電通はほとんどすべてのものを最低レベルまで下げるのに成功
している。頭の働きを鈍化させる芸能娯楽を作り出す機関は他国にも存在するが、今ここで
われわれが検討しているのは、ほぼ完全に他者を締め出して、大衆文化の質の向上を抑制したり
拘束できるだけの力を持つ組織のことである。

///////////////// 945円(税込) ///

347 ◆JeacknUANQ :2012/04/20(金) 22:51:30.77 ID:yW+Ap7OE

/// 従順な中産階級 72 ////////////////

   電通パワーの排他的ネットワーク

 電通の広告扱い高は、日本の総広告費の約四分の一に当たる。大手新聞の広告の五分の一強、
主要雑誌の広告のおよそ三分の一が電通扱いである。残りの四分の三を約三〇〇〇社の中小広告
代理店が分け合っている。このうち、トップ八社の売上荷を合計すると、ほぼ電通一社の
売上高に相当する。ちなみに、アメリカ最大の広告代理店ヤング&ルビカムの米国内における
マーケット・シェアはわずか三.四六パーセント(一九八六年)である。電通は他の中小
広告代理店より手数料が高く、支払い条件も思いどおりに設定できる。新しい雑誌は、電通が
一人前の広告媒体として認めるまでテスト期間を設けられ、その間は無料で広告を掲載するよう
いわれる。もし電通の要請に応じなければ、逆に足をひっぱられ広告主が落ちてしまう。
それほどの力が電通にはある。

////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

348 ◆JeacknUANQ :2012/04/22(日) 20:53:30.98 ID:qv+SWUHh

/// 従順な中産階級 73 ////////////////

 電通が、これほど無敵の存在になれたのはその人脈のおかげである。同社の社員採用方針で
つねに目指してきたのは、テレビ界や出版界のトップ・クラスの管理者や幹部役員、および
特別な広告主、プロの黒幕などの息子たちや近親者からなる人材プールを維持拡充すること
であった。社員のランクづけの体系を見ても、このような人脈人事がクライアントや政府機関、
放送会社や出版社との非公式のつながりを強化するのに、いかに有益だと会社が考えている
かが判る。彼らを指して、大きなスポンサーと良好な関係を保つための「人質」だとは、
電通のある役員がたとえ話に言ったことばである。

////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

349 ◆JeacknUANQ :2012/04/25(水) 21:40:49.12 ID:RSv6YSge

/// 従順な中産階級 74 ///////////////

 また逆に、電通は、自社の子会社のみならず大手新聞社、全国・地方テレビ局、その他
マスメディア関連会社に社長やトップ・クラスの役員として人材を供給する。電通出身者の
落ち着き先の一つは、テレビ番組の人気度を評価する視聴率調査会社、ビデオ・リサーチ社である。
アメリカの会社ニールセンが、テレビ番組の視聴率調査網を日本(世界第二のテレビ市場)に
紹介してから二年後の一九六二年に電通が設立したのがこのビデオ・リサーチ社で、管理者たちに
不評なテレビ番組を排除するのにも活用される。論争の的になる時事問題(たとえば、部落問題、
文部省による教科書検定、税制など)を扱った『判決』という番組は、低視聴率という口実を
もって、放送が打ち切られた。

///////////////// 原書1989年刊 ///

350 ◆JeacknUANQ :2012/04/27(金) 21:26:24.68 ID:STCSz5m4

/// 従順な中産階級 75 ////////////////

 他の国では広告代理店は仲介業者である。日本では、広告主がどのような広告をどこに
出すべきかまで電通が決めることが多い。商業テレビが主要産業になっているもう一つの国、
アメリカでは、番組がどのていど商業的に成功しているかを評価するのは、独立した視聴率
調査会社である。日本では、この機関も電通の手に握られているのである。
 電通は、企業の不祥事を世に知らせたりその後でもみ消したりする手が使えるので、大企業を
脅かすことができる立場にある。また、電通は仕事のうえで知った不正行為を当局に通告する
という噂があるので、企業は代理店を変えることもできない。

//////////////////// 早川書房 ///

351 ◆JeacknUANQ :2012/05/03(木) 20:35:35.62 ID:MlLjIR7H

/// 従順な中産階級 76 ///////////////

 電通は、消費者の追求から大企業を庇ったりもする。電通のある幹部は、アメリカの消費者
運動活動家ラルフ・ネーダーを日本に招いた読売新聞が、電通の警告に応じて、同紙の予定
していたネーダーについての二面抜きの特集記事を小さな記事に分割し、しかも調子を落としたと、
スピーチで誇らしげに語った。また同じ頃、毎日新聞がこれも電通の指示のもとに、消費者運動
についての記事を。"穏当な"ものに変えた。電通は報道媒体に強大な圧力をかけ、電通の
クライアントの名声に傷がつくような出来事は、報道させないか、報道に手心を加えさせることも
できる。

//////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///


352 ◆JeacknUANQ :2012/05/04(金) 15:24:19.51 ID:0bwU5ekW

/// 従順な中産階級 77 ////////////////

一九五五年、森永乳業の砒素入りミルクについてのニュースを電通が統制したケースは有名である。
また、一九六四〜五年には、大正製薬が製造した風邪薬を飲んでショック死した人びとについての
ニュースを、電通が検閲し内容を変えさせた。共同通信社の記者は当時を回想してこう述べている。
「風邪薬を飲んでショック死したというニュースが入ると、電通などから記事をボツにするように、
あるいは大正製薬の名前を出さぬようにと圧力がかかってきた。電話がかかってきたり、重役の
一人が飛んできたりというわけである」

/////////////////// 945円(税込) ///

353 ◆JeacknUANQ :2012/05/05(土) 22:54:15.03 ID:eZ8iiIEY

/// 従順な中産階級 78 //////////////

 週刊誌は、電通の大きな顧客に悪影響を及ぼす可能性のある記事は載せないよう、ある程度
自主規制する。通常、次号の内容は電通に知れているから、発売以前に圧力をかけられることもある。
電通は雑誌広告のスペースを大きくまとめて買い切るから、雑誌社から見れば定期収入の保証になり、
独自に広告主を探す苦労が省ける。このことから電通はさらに支配力を握ることになる。
電通が報道機関を巧みに検閲できるのは、財政的な力に起因するだけではない。一九三六年から
四五年まで独占的な政府の宣伝機関だった同盟通信社と一体だったこと、また、どちらも戦時中の
同盟通信社の末裔である共同通信社と時事通信社という、日本の二大通信社とひじょうに緊密な
関係にあることにも起因する。このつながりは株式の相互持ち合いによって強化されている。
共同が扱うニュースについては、つねに電通に情報が入る。とくに地方紙については、クライアントに
かわって直ちに介入できるのだ。

//////////// K.V.ウォルフレン著 ///


354 ◆JeacknUANQ :2012/05/06(日) 17:03:01.36 ID:qBlc9EIl

/// 従順な中産階級 79 ////////////////

     アドミニストレーターの声の中継役

 電通のもう一つの機能は、官僚および自民党のPR活動をしたり、"世論調査"を通して
国民の"伝統的な価値"を支えることである。電通は、総理府および自民党が必要な情報を
収集し、偏った意見調査を通して"世論"を作り上げる手伝いをする。自民党の選挙キャンペーン
というもっと手のこんだ部門は、電通が引き受けている。原子力発電所の安全性の宣伝や、
さまざまな省庁の企画に関する宣伝なども扱っている。一九七〇年代後半に、一連の
野党系市長や知事を退陣させる政治的策動をとりまとめ、政治的に重大な地方消費者運動や
反公害運動に対抗する反キャンペーンを展開したのも、電通である。

////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

355 ◆JeacknUANQ :2012/05/08(火) 23:09:11.76 ID:CaEkQ3ly

/// 従順な中産階級 80 ////////////////

 このような官庁および自民党のための仕事は、主に電通の"第九連絡局"でおこなわれ
、ここには、建設省、運輸省、農水省、郵政省、文部省、大蔵省、総理府の各省を担当する
別々の課がある。公式には民営化されたが実際には以前とほとんど変わっていないNTTや
JRなどの公共企業も、この局が扱っている。この第九連終局は、総理府の広報予算の三分の一以上、
他の省庁の同四〇パーセントを吸収する。また、自民党の広報宣伝予算についても、電通が
独占に近い形で自由に使っている。

////////////////// 原書1989年刊 ///

356 ◆JeacknUANQ :2012/05/09(水) 22:34:19.20 ID:S8dTBiCQ

/// 従順な中産階級 81 ////////////////

 自民党と電通とがこのような親密な関係を保てる理由の一つは、電通は寡占によって実業界の
顧客からひじょうに高い手数料をとれる、したがって、いつも"政治資金"の足りない自民党は、
安くしてもらったり、支払いを急がなくてもよいからである。電通の第九連絡局は、一九七二年、
田中角栄内閣発足直後に作られた。その一年後に、電通は注目すべき『自民党の広報についての
一考察』という報告書を刊行し、その中で、自民党はすでに記者クラブ制度を通して大手新聞、
テレビ、ラジオの記者とはかなり有利な関係を保っていたが、新聞社発行以外の主要週刊誌との
関係は、まだ十分に"決められたルール"にもとづくものではなかったと、よく引用される主張を
している。

////////////////////// 早川書房 ///


357 ◆JeacknUANQ :2012/05/10(木) 22:57:48.21 ID:/4qKETSV

/// 従順な中産階級 82 ////////////////////

    <システム>の宣伝係

 電通のおよそ四〇パーセントに当たる売上高をもつ、日本で二番目に大きい広告代理店博報堂
もまた、管理者、とくに財政金融界の管理者たちの間に安住している。この会社の社長が二代
続いて、またほかにも数名の取締役が大蔵省からの天下りであるから、当然ともいえる。
 だが、もう少し小規模な会社で、官僚のために宣伝活動を展開して、最も興味をひくのは、
ひじょうに積極的な東急エージェンシーである。電通は、通常、官僚を通して仕事の注文を
受けるのだが、中昔根康弘が首相在任中は、彼自身が直接東急エージェンシーに電話をかけて
指示した。このような緊密なつながりがあるのは、東急グループの総帥で、一九八七年まで
日本商工会議所の会頭だった五島昇(一九八九年死去)が、東大の同期生・中曽根を、彼の
人脈の頂点においていたからである。

/////////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

358名無しさんの主張:2012/05/12(土) 15:28:13.50 ID:???
>官僚独裁主義を打破する改革者として小沢一郎を高く評価し
>官僚独裁主義を打破する改革者として小沢一郎を高く評価し
>官僚独裁主義を打破する改革者として小沢一郎を高く評価し
>官僚独裁主義を打破する改革者として小沢一郎を高く評価し
359 ◆JeacknUANQ :2012/05/13(日) 17:38:12.72 ID:IW3CUb9b

/// 従順な中産階級 83 //////////////////

 東急エージェンシーが担当した最大の仕事は、中曽根が戦後のタブーを排除する計画の
一部として遂行し論争の的となった、建国記念の日に関連する祝賀イベントである。対象範囲が
さらに広いものとしては、中曾根の行政改革案に関連し全国で展開された宣伝キャンペーンがある。
このキャンペーンでは、主婦組織などから参加者を募って圧力団体を作り、市中行進や国会前での
デモを組織した。一九八三年三月には、一万五〇〇〇人もの"デモ隊"の動員に成功している。
このような大きな仕事を担当して金銭的には損失があったが、人脈のつながりがいっそう
強固なものになったおかげで東急エージェンシーは急成長する広告代理店になった。

/////////////////// 945円(税込) ///

360 ◆JeacknUANQ :2012/05/16(水) 21:23:27.94 ID:ulMicGZI

/// 従順な中産階級 84 //////////////

 <システム>に仕える機関としての主要広告代理店の役割を見ると、日本では公と私の領域に
境界線を引くのは不可能だということが、見事に判る。自民党政府が次々と出す"政策要綱"は、
たいてい広告コピーのように聞こえるのだが、それは具体的な政治理念のかわりに出てくる
スローガンが前記の代理業者のどれかで作られたものだからである。
 経済界と政府の間になれ合いがあるかどうかについての質問がよく出るが、それを電通や
博報堂や東急エージェンシーの場合にあてはめれば、そういうことを問うこと自体がいかに
的外れかということが判る。彼らが依存する<システム>に政治的に戦いを挑む集団が現われ、
土台から転覆させようとするようなことがあれば、彼らが手をこまぬいて傍観するとは
とても考えられない。

・・・・

////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

361 ◆JeacknUANQ :2012/05/17(木) 21:43:46.45 ID:/LSQgYJu

/// 早川書房 //////////////////////

 カレル・ヴァン・ウォルフレン(Karel Van Wolferen) (著)、篠原 勝 (翻訳)、
 原著1989年発行、邦訳 早川書房1990年発行
 「日本/権力構造の謎」 The Enigma of Japanese Power  日本 権力構造の謎〈上〉

ハヤカワ文庫NF、945円(税込) ISBN-10: 4150501777  ISBN-13: 978-4150501778
 http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4150501777.html
 http://www.7andy.jp/books/detail?accd=18988933
 http://www.amazon.co.jp/dp/4150501777/
 http://www.bk1.jp/product/01055138
 http://books.rakuten.co.jp/rb/item/650744/
 http://www.junkudo.co.jp/detail.jsp?ISBN=9784150501778
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/////////////// 絶賛発売中!///

362 ◆JeacknUANQ :2012/05/19(土) 22:11:46.24 ID:KQCi97QR

/// 国民の監護者 1 //////////////////

 カレル・ヴァン・ウォルフレン(Karel Van Wolferen)著
 原著1989年、邦訳 早川書房/篠原 勝 (翻訳)1990年発行
 「日本/権力構造の謎」 The Enigma of Japanese Powerより

・・・・
 7章 国民の監護者

 その"闘争心"や、むりやり集団化させられること、会社の上下意識、また特に、会社が従業員を
"家族"の一員として専有物さながらに扱い、独立した個人としての成長を阻むことなどから、
"サラリーマン生活"は、明らかに軍隊の伝統を彷彿させる。実際、日本人の生活はたいていが
高度に規律を要求する組織によって統制されている。憲法によって交戦権を否認している世界で
唯一の国であり、その公式スポークスマンが、平和を愛するよう世界に訴えることができる国だと
言ってはばからず、いつ、どこで、だれに戦争をしかけられても武力の行使を放棄しているという
国が、軍隊組織を想起させるのは皮肉である。

//// 「日本権力構造の謎」<上> ///

363 ◆JeacknUANQ :2012/05/20(日) 20:45:33.07 ID:/8Nt11H1

/// 国民の監護者 2 /////////////////

この国の中・高校生が、二〇世紀初頭のプロシアの軍服のようなデザインの黒い制服を着ている
ことなど表面的なことにすぎない。集団体操の重視をはじめ、技能の限界を越えた訓練のための
訓練、"ガンバリズム" (あきらめず、理不尽なほど執拗に頑張り続けること)に対する社会的是認、
若者のいちずな努力の"純粋さ"への感傷的な絶賛、柔道、空手、剣道、合気道などにおけるスパルタ式の
鍛練、これらすべてが軍隊式の手法による社会秩序の維持につながる。日本人にとってもっとも大切
だと教えられる自己規制と忍耐は、忠誠とともに実は兵隊が涵養すべきいちばん重要な徳目である。

/////////////// 原書1989年刊 ///

364 ◆JeacknUANQ :2012/05/21(月) 21:53:47.48 ID:WGeVa+KO

/// 国民の監護者 3 //////////////////

 日本が軍人によって長い期間統治されてきた過去を考えれば、これも驚くべきことではない。
何世紀もの間、武人が正しいおこないの模範とされていた。徳川幕府は、戒厳令に似た
体制を敷く武家政権だった。やがてそれは、スターリン後のソ連に並ぶほどの、イデオロギーも
特権支配階級もそろった官僚的な政府へと発達していった。しかし、社会的規律の理想は、
あいかわらず兵営と戦場のそれであった。

//////////////////// 早川書房 ///


365 ◆JeacknUANQ :2012/05/22(火) 22:38:53.31 ID:+cEAuC1e

/// 国民の監護者 4 //////////////////

    恩恵の力

 徳川時代の日本では、農村に住む庶民の生活には楽しみらしきものがほとんどなかったし、
封建領主の藩法の大部分が抑圧的だった。一部の大名は過酷な統治をおこない、自領民の
行動をすべて監視し、他藩の人びととの接触を禁じて、外部者にも厳しい敵意を抱いていた。
それにもかかわらず、儒教的慈悲が、上に立つ者にとってふさわしい理想として存在した。
義務規定ではなかったが、大名や武士に事情が許すかぎり下の者に対して寛大な態度をとらせた。
慈悲深い権力者として広く称賛された歴史上の人物が、その手本であった。また、慈悲深い
支配者は、政治制度の経済的基盤である百姓の生産力を大切にしていたともいわれていた。

//////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

366 ◆JeacknUANQ :2012/05/25(金) 23:16:02.74 ID:C0WveoUb

/// 国民の監護者 5 //////////////////

 明治維新後のそのような寛大な姿勢には、あきらかに政治的な目的があった。明治の
寡頭政治をおこなった主要人物の大半が、時おりは一般民衆の願いをかなえる必要があると
考えたのだ。山県有朋は誕生まもない諸政党の前に立ちはだかる主要な敵対者だったが、
官僚制と軍組織を作り上げるのに多大の功績があった。代わりのものを用意しないで政党の
機能を骨抜きにするだけでは、「人びとをひきつける魅惑的な魔女の声を発する諸分子を根絶」
できないことを知っていた。文部省を使っても社会を統制できるだろうが、藩が地方自治体
として改組されるまではそれを待ったほうがよい、と山県は計算した。柔軟な政策と実利を
旨とするこの明治の支配的エリートは、「家父長主義的な権威主義」の「父親的な」面を
見せる好機とみれば巧妙に抑圧の手を緩めた。

////////////////// 945円(税込) ///
367 ◆JeacknUANQ :2012/05/26(土) 18:23:54.65 ID:A6c+V4R2

/// 国民の監護者 6 ////////////////

 この戦略は功を奏した。もっとも手ごわい反政府キャンペーンとして天皇が約束した議会を招集し
「広く公議に決すべし」の実現を訴えていた自由民権運動はこうして衰え、後の世の無力な政治的
反対運動のよりどころになったにすぎない。明治の寡頭政府も、後続の政府も直接的な抑圧のかわりに
でぎるかぎり宣伝の力を借りたほうが良いのを知っていた。官僚たちは、政治的な挑戦に、あるいは
そうなりうる組織に、正面きって攻撃するのを避けた。そのかわりに"指導"や公費援助を通して、
それらの組織を骨抜きにしたのである。二〇世紀初期には、不満をかかえた労働者やそのほか明らかに
不利な立場におかれた者の生活向上を目ざす団体が、矢継ぎ早に組織された。一九二〇年代には、
労働政策担当の内務省官僚が、工場法を制定したり、労働者の健康保険制度作りをすすめて、企業の
労働者搾取をいくぶん軽減した。いうまでもなく、この"恩恵"と抱き合わせで"危険思想"の弾圧があった。
以下に見るように、ここでも寛大さが大いに示された。

//////////// K.V.ウォルフレン著 ///

368 ◆JeacknUANQ :2012/05/27(日) 21:16:53.25 ID:z1zer4Jw

/// 国民の監護者 7 /////////////////

 今日なら国家の名のもとにむき出しの力を行使することもあろう警察官や検察官も(両者は税務署と
ならんで国家らしきものの存在を如実に思い出させる)、寛大さが第二の天性のように振る舞った。
ただし、条件つきである。寛大に扱ってもらった者は、お返しに体制化された社会的秩序の善意を
認めなければならないのだ。これに対し政治的異端者は当局の厳しい対応に直面するのである。

    監護人、監視人、布教師

 日本の警察は、一八七〇年代に作られた当初から、刀を振り回す侍のように、怖がらせるだけでは
民衆を屈伏させられないことを知っていた。東京警視庁の初代総監で、近代日本の警察制度を設計した
川路利良は「政府ハ父母ナリ人民ハ子ナリ警察ハ其保傅ナリ」と簡潔に要約して言った。

////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

369 ◆JeacknUANQ :2012/05/28(月) 22:59:17.35 ID:RBSFY/wQ

/// 国民の監護者 8 ////////////////////

 こうした考えはそれはどうがった物の見方でもなかった。川路は、数多い明治の訪欧研究使節団の
一員として、一八七二年にヨーロッパにいった際、パリ市警察の活動ぶりを見てきた。そこで彼は
フランスの手本に忠実に習い、それをさらに拡大したのである。当時、国際的にもっとも名声の
高かったパリ市警察は、保護衛生条例の取締りから、売春の営業許可証の発行、広範にわたる
商業活動の監視まで、雑多で付随的な仕事を遂行していた。明治の民衆管理上いかに警察が重要な
役割を担っていたかは、一八八○年の公務員統計に見える。東京郡市圈の府・市の役人の総数が
わずか九一二人だったのに、警視庁には四四〇〇人もの人員がいたのである。一九一〇年代に入って
やっと、両者の数字が釣合うようになった。日本の警察は保健法に目を配り、多種多様な商業の
許認可も出した。警察はまた、出版界、演劇界、政治的集会も監視した。

////////////////// 原書1989年刊 ///

370 ◆JeacknUANQ :2012/05/30(水) 22:15:24.71 ID:LZMKELkP

/// 国民の監護者 9 //////////////////

 川路の主要な進言のひとつに、社会を広範に監視する役目を負う警察官は、彼ら独自の省のもとに
おかれるべぎだというのがあった。一八七三年に設立された内務省は最強の管理者組織として存在
したが、戦後、厚生省、労働省、建設省、地方公共団体を監督する自治省と警察庁に分割された。
今日でも、これらの省庁は、強力だった前身・内務省の役割をそれぞれ受け継いでいると自負している。
 二〇世紀初頭から、警察のいちばん重要な機能のひとつは、初期企業家と工場や建築現場で働く
労働者との暴発の危険をはらんだ労使関係を監視することだった。田舎の職住兼用の警察官駐在所は
工場敷地内に設けられることが多く、建設費用は経営者によって支払われた。時には、これらの
警察官の給料まで彼らが支払うことすらあり、こうして実質的には警察は工場の警備員になり、
労働紛争を防止したのである。

//////////////////// 早川書房 ///

371 ◆JeacknUANQ :2012/05/31(木) 21:51:05.89 ID:wNyeUUXq

/// 国民の監護者 10 ////////////////////

 いうまでもなく、一九四五年まで日本の警察は政治的な異端に対する抑圧の役割も担っていた。
民間にはりめぐらされたスパイ網による素晴らしく精巧な情報収集網を持っていたおかげで
それも容易であった。個別訪問という形で、定期的に全日本人の照合確認が実施された。
名家や地主の家には年に一回、無産家は二回、無職者や不審な市民については三回の割で、
警察官が訪問した。警察は、既成秩序をくつがえす恐れのあるものは厳しく取り締ったが、
社会を平穏に保つ最善の道は可能なかぎり寛大に民衆の意をかなえてやることだということを
知っていた。

//////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

372 ◆JeacknUANQ :2012/06/02(土) 20:25:33.41 ID:YhkWzcwd

/// 国民の監護者 11 /////////////////

後に"思想警察"として恐れられた特高は、一九二五年の治安維持法を通じて強力になった
後でも、"まちがった思想"を持った人々も悔悛の情さえ示せば過酷に扱わなかった。
自分の信念を撤回すれば、起訴を取り下げ、スムーズに社会復帰できるよう職探しまで役所が
手伝ってくれることも多かった。法務省が積極的に奨励したいわゆる"転向"というこの確立された
過程は、容疑者が"改宗"して天皇制下での"家族国家"の恩恵を信じるよう"変節"することを
意味した。

////////////////// 945円(税込) ///


373 ◆JeacknUANQ :2012/06/12(火) 21:50:36.56 ID:HHhy+G0u

/// 国民の監護者 12 /////////////////

    "やさしい"お巡りのいる警察国家

 第二次大戦後、占領軍当局によって内務省が解体されると、警察の行動は大きく変わった。今日では
(一般大衆にメガホンや拡声器で勧告する場合を別にして)警察が個人に対し横柄にふるまうことは
めったにない。一般にパトロール地域にとけ込んで、親切で役に立つ警官であろうと努めている。
 都市部はどの地区にも交番があり、田舎では、県警の警官が家族ぐるみで住む駐在所が点在している。
交番は、一八八八年にベルリン市警のある警部の助言にもとづき導入されたものだ。交番は、住所探しから、
病気になったペットの治療まで、いろいろなことについての情報源である。今でも、全所帯が原則として
年に二回交番駐在のお巡りさんの訪問を受けることになっている。警官はこの機会に近所の噂を収集し、
なにか"不審な行動"はないかとたずねる。東京在住の外国人の多くはこの巡回訪問から除外されているが、
筆者は、本書を書くために田舎に暮らしはじめて1カ月たたないうちに、近くの村の駐在所の警官の
訪問を受けた。

////////////// K.V.ウォルフレン著 ///


374 ◆JeacknUANQ :2012/06/13(水) 21:47:11.67 ID:xjqqnb1O

/// 国民の監護者 13 /////////////////

 日本人の場合は住民登録や戸籍によって、外国人の場合には外国人登録によって、たいていの
人びとの動きを的確に追えるし、せんさく好きな近所の人びとの観察もそれを肋ける。こうして
微妙な社会的統制が容易におこなえるのである。日本人がめったに転職しないことも、社会を調査
していくことに大いに役立つ。住宅地では、素性がさだかでない新参者は、警察の手先として信頼
される住民によって精査される。どこかの家庭で厄介が持ち土がっているようだと、警官が年二回の
定期巡回より早く訪れることもある。近所の人が冷蔵車、テレビ、自動車などが次々と配達されるのを
見て警官に知らせたのがきっかけで発覚した横領事件は、数多い。

////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

375 ◆JeacknUANQ :2012/06/15(金) 21:53:31.96 ID:NqW4IPFa

/// 国民の監護者 14 //////////////////

 警察はまた、小さな違反、とりわけ、地域社会にあまりとけ込まない人たちの記録をとくべつに
収集する。これによって、必要ならいつでも人びとを警察に呼び出して尋問できるからだ。筆者の
奇妙な個人的体験によって、この点がよくわかるだろう。思い当たるふしがなかったのに、私は
ある目、警察に出頭させられたのだ。警察で見せられたのは、四年前に書いた始末書の写しであった。
それは日本への再入国届けを居住地の区役所に出すのが一日遅れた時のものであった。届け出期限の
日が祭日だったし、このような場合に必要とされる悔恨の情をこめた説明文と謝罪文を書いたから、
まさか呼び出されるとは思ってもいなかった。親切な警官が両手指全部の指紋と両掌印を取り、
関係のなさそうな質問をいくつもするうちに、まったく違う事由で筆者を呼び出したことが明らかに
なった。私の知人に関わることだった。しかしその件は私が署に着く前にすでに解決ずみだった。

////////////////// 原書1989年刊 ///

376 ◆JeacknUANQ :2012/06/16(土) 10:42:35.99 ID:2rprqMhJ

/// 国民の監護者 15 //////////////////

 警察官を高く評価するかどうかは人によって必ずしも一様ではない。警官はまだある程度恐れられて
いる。だが、とくに田舎では、人びとが警官に贈り物をしたり、食事を出したり、酒宴に招いたりする。
都市部では、警察は多種の熱心な情報提供者を頼りにできる。小さなたばこ屋のガラス窓から街の
動きを観察するたばこ屋のおじさんやおばさん、地域の名士で、時には仮釈放者保護司を兼ねることも
ある医者や歯医者など。さらに、地域自治会組織や職域集団を基盤にした民間のボランティア防犯団体
があり、これらがすべて連盟組織によってつながっているのである。

////////////////////// 早川書房 ///

377 ◆JeacknUANQ :2012/06/18(月) 20:29:23.04 ID:L5jNupTm

/// 国民の監護者 16 /////////////////

 ある土曜の午後、中年主婦の小グループが東京の大繁華街をパトロールするのに筆者も同行した
ことがある。訓練を積んだ彼女たちの目には、郊外から出てきたティーンエイジャーはすぐに
見分けがつく。その子たちに近づき、質問しはじめる。たいていの場合、話は、都会にはうぶな
若者を待ちうける誘惑やワナがあるから、次の電車で家に帰りなさい、という言葉で終わる。
欧米諸国でこのような説諭をしたら、若者の口から少なくとも罵声が発せられるであろうが、
日本の若者たちは防犯係の婦人たちに頭を下げ、助言へ低い声で礼を言うだけだった。

//////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

378 ◆JeacknUANQ :2012/06/19(火) 23:25:00.74 ID:gQ74WLTo

/// 国民の監護者 17 ///////////////////

 全市民の子守役としての役割は、現代の警察でもなお重視されている。アメリカの研究者によると
日本では――

   警察が、実際に、社会福祉係や僧侶の役割を果たすようである。容疑者の経歴を調べ、
  なぜ悪事を働いたのかを見定めようとする。そして、本来善人であるのに間違いを犯した
  だけだと、容疑者に説諭する。尋問中に係官が悪鳴りつけても、それは容疑者が憎いから
  ではなく、間違いを犯しただけの善人であるのに、それを認めようとしないからである。

 犯罪者でなくても、このような警察の保護者ぶりが経験できる。交番やパトカーの拡声器から
突然発せられる指示の説論調からもそれがわかる。小都市によってはアパート群のある地区で、
警察が午前七時に広報用のスピーカー網を通して朝の挨拶をし、美容体操の音楽を流したり、
元気づけのおしゃべりやさまざまな注意事項を放送して、住民に地域社会の連帯感を感じさせ
たりもする。

/////////////////// 945円(税込) ///

379 ◆JeacknUANQ :2012/06/20(水) 21:30:28.50 ID:na9ZyXPe

/// 国民の監護者 18 /////////////////

   口うるさく、差出がましい保護者

 人びとの側では、警察が不必要に高圧的な指示をしてもとかく従ってしまう。歩行者は、一歩か
二歩で渡れるような狭い道でも、交通遮断で車が通れない道路でも、赤信号が青になるまで
おとなしく待つのが普通である。
 警察の介入を人びとが認容する好例は、花見時に東京の上野公開にいけば見られる。公園には、
会社員をはじめ多勢の人が集まり、桜の下に敷物を広げピクニック気分で飲んだり歌ったり、手拍子を
うったり、会社のパーティの慣例どおり花見の宴が開かれる。ところが、一方で警察も大きな区画を
数ヵ所確保して、思いのままにメガホンを通して勧告や警告を発する。この状態が夜の八時半頃まで
続き酒宴も最高潮というところで、警察がみんな家に帰りなさいとどなりはじめる。驚くべきことに、
三〇分もしないうちに上野公園にはほとんど人がいなくなるのだ。警察側の独断的な規定であっても、
ほとんど全員がそれに従うのである。実際にはこの公園は一日二四時間開いているのに。

///////////// K.V.ウォルフレン著 ///


380あぼーん:あぼーん
あぼーん
381 ◆JeacknUANQ :2012/06/21(木) 21:15:55.57 ID:d5/34O74

/// 国民の監護者 19 ////////////////

 警察のお節介と一般の人びとの盲従に近い従順さの組合わせの例は、混雑した雪解けの主要道路で
定期的に見られる。道路脇の照明注意板や巡回パトカーからの警告で、ドライバーはスノー・チェーンを
付けるよう指示される。それに従って何百人もの人々が車を止め、多くの場合暗がりのなか手さぐりで
チェーンを装着するのである。チェーンはだめになり、道路はもとよりタイヤも痛むというわけだ。
 とくに都市部の日本人は、つねに市民というより臣民であると感じさせられるようになっている。
彼らは、おだてと訓戒の環境に暮らしている。彼らは始終、危険について警告され、ものごとの適切な
やり方を改めて注意され、やさしく叱られる。川路が生んだ人民の養護役が、永遠の指導役として
残ったのである。巡回するパトカーや大きな交番に備えつけられた拡声器は、心配症の母親を想い出させる。
それはいつも、アブナイ、危険だと警告する。その不満げな声の調子まで、ますます、日本の母親に
似てくる。そして歩行者は、手に負えない子供扱いをされていると感じさせられるのである。

////// 「日本権力構造の謎」<上> ///


382 ◆JeacknUANQ :2012/06/22(金) 22:29:30.57 ID:FzpQl0do

/// 国民の監護者 20 ////////////////////

 通勤サラリーマンが毎日通る駅構内で、絶え間なくスピーカーから流れる余計な指示は彼らが
通路やプラットフォームをふさぎはせぬかと駆り立てる音響のムチと化すのである。のべつ
聞かされる警察の訓戒や右のような事態は、職場外に権威が存在することを日常的に感じさせる。
耳から侵入してくるだけで、襟をわしづかみにされるわけでも顔を懐中電灯で照らされるわけ
でもない。しかし人びとは、権威の存在をやさしく想起させられるのである。
 ドライバー用には特別の警告法がある。一部の県の道路脇に立つほぼ実物大のコンクリートや
プラスチック製の警官がそれである。雨風で痛んでいようとも、完全な制服を着ている。場所に
よっては、ビニールに大きく印刷された警官の絵にかえたり、ヘッドライトが当たると交通係の
警官の反射ベルトと赤い夜警用の警杖とが光る凝った造りにかえた所もある。

////////////////// 原書1989年刊 ///

383 ◆JeacknUANQ :2012/06/23(土) 18:03:01.62 ID:tKTHrkAz

/// 国民の監護者 21 ////////////////////

    容疑者と悔恨

 警察の取締り方法を比較文化的に研究した専門家が、日本では社会自体が自警社会として
その秩序維持にあたるから警官にとっては天国だという結論を出した。さらにいえば、日本の
社会は警察につかまった者にとっても、他との比較では天国である。逮捕されても実際に
罰せられるのはごく少数だからだ。犯罪者の取扱い方にも、明らかに警察の保護機能が発揮
される。見せしめのために時たま厳しくすることはあるが、一般的には、軽い罪を犯した者が
充分に謝り、悔悛の情を示せば、お座なりの説教だけで放免されることが多い。

////////////////////// 早川書房 ///


384 ◆JeacknUANQ :2012/06/24(日) 12:04:29.72 ID:0g4eFdDZ

/// 国民の監護者 22 /////////////////

 もっと重い犯罪を警察が追及する場合でも、検察官には犯罪者を放免できる、ほぼ無限の
権限がある。刑法の規定によれば、容疑者の性格、年齢、状況、または、犯行後の事情を
考慮して不起訴にできるのである。したがって、検察官が「一般公衆の道義の解釈者として、
だれを見せしめにするか、だれを放免し再起の機会を与えるか、公益がもっとも要求しているのは
何かなどを裁量決定する」のである。ここ数十年、重大な事件の容疑者の半数近くが、証拠
不十分とは別の理由で不起訴になっている。老齢者や初犯者は、きわめて寛大に扱われる。
これはもちろん他の国でも珍しいことではないが、日本の検察官は、欧米諸国の同僚よりも
かなり大きな自由裁量権を特つ。

/////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///


385 ◆JeacknUANQ :2012/06/25(月) 21:36:57.91 ID:Z/cbM6NX

/// 国民の監護者 23 ////////////////////

 容疑者が起訴され有罪判決を受けても、実刑を科せられないことが多い。一九八六年には、
交通法違反者も含め、起訴されたケースのうちわずか三.二パーセントが実刑で、五七.四
パーセントが執行猶予つきであった。強姦犯が執行猶予つきの二、三年の懲役ということも
かなり普通である。その結果、人ロ一億二〇〇〇万のこの国で、刑務所に入っているのはわずか
五万人程度である。ひとつには、法務省というところが大蔵省を相手にすると名うての折衝下手で、
刑務施設拡充のための予算が少ないからである。理由はほかにもある。日本の法執行官憲には
多大の自治的自由裁量権があるため、重点を軽犯罪や犯罪の刑罰でなく、犯罪者を"改心"させて
社会の側につけることに置くのである。ほとんどの場合、検察官が処置を選ぶ上でいちばん
重要なのは、容疑者がどれほど悔恨の情を表わしているかである。警察と検察は謝罪が大好き
である。しかし通り一ぺんの謝罪では不充分である。

/////////////////// 945円(税込) ///


386 ◆JeacknUANQ :2012/06/26(火) 21:21:13.93 ID:R+a9vrnJ

/// 国民の監護者 24 ////////////////

もっとも日本では社交上でも軽いレ謝罪はありえないことだが。容疑者に求められるのは、
ただひたすら謝りつづけることであり、謝り方の熱意とたてつづけの謝罪の言葉に"誠実さ"が
表われていなければならないのである。事実、容疑者によっては土下座さえもする。このように、
日本の司法制度では、犯罪にあてはまる刑罰を科すのではなく、どちらかといえば犯行後の
犯罪者の態度にふさわしい刑罰を科すのである。しかし、これを"情け深さ"ととってはならない。
日本の官僚組織にそのような性向はない。容疑者の処分決定で犬切なのは、彼らがまだ社会に
適合しうるかどうかを決める象徴的な品定めである。その際のもっとも重要な規準は、容疑者が、
必要とされる贖罪の儀式を充分に理解し、その儀式をおこなう心構えができているかどうかである。
この背後にあ言外の理論的根拠は、金をかけて刑務所に収容しても、服役させればもっと
悪質の犯罪者になりかねないので、放免して協力的な市民にするほうがよいということである。

//////////// K.V.ウォルフレン著 ///

387 ◆JeacknUANQ :2012/06/27(水) 21:10:52.36 ID:nA1qjPuJ

/// 国民の監護者 25 /////////////////

    吐け(自白せよ)!

 日本人は、なんでも謝ってしまうところがある。時として、単に自分が居るだけで他者の
迷惑になると考えているのではないかという印象さえ与える。一般化された謝罪のことばが
"誠実さ"を表明する。だが、市民の監護者が要求する本当の謝罪は、過失や犯罪に直接かかわる
ものでなければならない。そこで、容疑者に自白させることが警察の主要な仕事になる。
こういった状況のもとでは法律で保証された個人の権利を主張しても通らない。警察も検察も、
なんぴとも自己に不利益な供述は強要されないという憲法の保証を無視して、犯罪を認めさせる
ことに多大な重点をおく。自白は、今なお、正常な社会復帰に必要な第一歩と考えられて
いるのである。

////// 「日本権力構造の謎」<上> ///


388 ◆JeacknUANQ :2012/06/28(木) 21:38:19.36 ID:gCFqFrgw

/// 国民の監護者 26 ////////////////////

 強硬に自白を求める日本の捜査当局は度を越していると見て、一九八三年には、まじめな月刊誌
数誌がこの問題を取り上げた。一方、東京の三つの弁護士会合同の代用監獄調査委員会が、自白強要と
冤罪のパターンを明るみに出した。その年の五月に開かれた冤罪の被害者との会合と、法律専門家の
私的な聴きとり調査報告でそのことが裏づけられたのである。当局が公式に認めた冤罪例三〇件
について調査がなされたのであるが、そこで明らかになったのは、容疑者の権利を無視して自白を
迫るのはザラで、時には、事実上の拷問が警察の留置場でおこなわれているということだった。
その後もくり返し不法がおこなわれている可能性が確認された。すなわち、一九八三年七月には、
死刑に処せられるべく三一年間刑務所に入れられていた既決囚、免田栄が、再審の結果無罪と判明し、
これに続いてもう二人、殺人犯とされていた既決囚が無罪として釈放されたのである。

////////////////// 原書1989年刊 ///


389 ◆JeacknUANQ :2012/06/29(金) 21:39:48.00 ID:VxxVASNk

/// 国民の監護者 27 //////////////////

 警察は、あからさまに圧力をかけなくとも、容疑者から自白を引き出せる有利な立場にある。
実際に勾留されるのは一部の容疑者だけであるが、警察が望めば逮捕・勾留の令状発行の一回
ごとに最高二三日間、被疑者を拘禁しておくことができる。令状はつづけて発行でき、それを
制限する法律はない。(日本では起訴前には保釈する制度も、公費で弁護士をつける制度もなく、
もしついても弁護士と被疑者は、捜査官の「指定」に従わなければ面会できない。)この結果、
ほとんどの被疑者が、弁護士と相談することもできず、長い間、警察に拘禁されて取り調べを
受ける。このような処置を可能にするため、占領時代に立法化された法律はなおざりにされている。

//////////////////// 早川書房 ///


390 ◆JeacknUANQ :2012/06/30(土) 19:45:20.87 ID:g/4g++nZ

/// 国民の監護者 28 /////////////////

 警察にとってもうひとつの強みは、日本人以外の者にはまったく必要がないと思えるような
謝罪を、日本の社会は本気で是認するという事実である。日本人は身に覚えがなくても人から
よくないと思われたら、単に"誠実さ"を示すためについ許しを乞うてしまう。いずれにせよ、
警察に逮捕されるのは恥すべきことであるから、その耐えがたい恥辱感を罪の告白に転化すれば
楽になる。というのは、罪のほうが対処しやすいからである。罪は、恥とはちがい、つぐなえる
からだ。取調べ官以外のすべての人との連絡を断たれ、勾留中の身でも権利があることを知らされぬ
まま、容疑者は心理的に警察に従うようになり、犯してもいない罪を自白してしまう者が多い。
それも、自白すれば不起訴にするが、取調べに協力しなければさらに重い罪で刑務所送りになると
言われれば、なおさらである。

//////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

391 ◆JeacknUANQ :2012/07/01(日) 13:04:45.77 ID:13lrPKum

/// 国民の監護者 29 //////////////////

 もし容疑者が取調べに協力せず、警察がどうしても自白が必要だと判断すると、微妙な脅しの
手が使われるかもしれない。容疑者にとって家族が関わりになるという脅しは非常に効果がある。
単純で世事にうとい容疑者が、自白しなければ父母も逮捕されると脅かされた実例も相当数、
記録に残されている。単に警察の取調べを受けていると家族に知らされること自体が、当人を
恐れさせる効果があることを考えれば、この脅しの威力も想像できるであろう。ばくぜんとでは
あるが、罪はその属する集団に責任があるという考えが、何世紀かにわたる武家政権時代からの
名残りとして今もある。したがって今日でも、犯罪容疑者の家族は地域社会から排斥される
ことがある。

/////////////////// 945円(税込) ///

392 ◆JeacknUANQ :2012/07/03(火) 21:27:23.31 ID:gQk38Tu9

/// 国民の監護者 30 ////////////////////

 自白を拒否する容疑者に対しては、連日、早朝から真夜中まで取調べが続く。これは戦後の
法制の意図するところに全面的に違反するのであるが、起訴前の容疑者の一〇人に九人が現在
一二五六ある留置場に入れられている。一九○八年に制定された監獄法では、法務省下の
拘置所に余裕がない場合には、臨時に警察の留置場を使用してもよいとされている。現在、
同省の拘置所の数は一五四しかなく、司法官僚はこの便法を全面的に認めるよう立法化を
迫っているところである。検察官から見て、それ以上捜査は必要ないとみなされた容疑者は、
法務省の拘置所に直接送られる。したがって、この"代用監獄"を使用するのは主に自白を
引き出すためであることがわかる。

////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

393 ◆JeacknUANQ :2012/07/04(水) 22:04:33.69 ID:Zy9aVP/4

/// 早川書房 ///////////////////

 カレル・ヴァン・ウォルフレン(Karel Van Wolferen) (著)、篠原 勝 (翻訳)、
 原著1989年発行、邦訳 早川書房1990年発行
 「日本/権力構造の謎」 The Enigma of Japanese Power  上巻

ハヤカワ文庫NF、945円(税込) ISBN-10: 4150501777  ISBN-13: 978-4150501778
 http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4150501777.html
 http://www.7andy.jp/books/detail?accd=18988933
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///////////// 絶賛発売中!///

394 ◆JeacknUANQ :2012/07/05(木) 21:18:23.35 ID:2nJcm28R

/// 国民の監護者 31 ////////////////

 先に述べた一九八三年の東京の弁護士グループによる調査で明らかになったのは、代用監獄
として使用される留置場で、容疑者は、直接またはモニター・テレビを通して二四時間監視
されているということである。彼らは、まぶしい蛍光灯の下で眠らされ、顔を毛布でおおう
ことも許されない。このような状況にショックを受けて、多くの容疑者は身体の機能を冒され、
眠るのも食べるのも非常に困難になってしまう。出される食事は最低限の量で質的にもひどい。
取調べ官はよく「自白すればどんぶりが食えるぞ」というそうだ。自白の褒美にどんぶりものを
注文してやる(料金は容疑者に払わせる)というわけだ。コンクリートの床に同じ姿勢で一日中、
座りつづけるよう強制され、動くことも立ち上がることも、壁にもたれかかることも許されない
容疑者も何人かいた。

////// 「日本権力構造の謎」<上> ///


395 ◆JeacknUANQ :2012/07/06(金) 21:33:29.94 ID:PqCqONrg

/// 国民の監護者 32 ////////////////

 調査の対象になった三〇人の容疑者のうち二一人が病気になったと回答している。何人かは
階段も昇れないほど弱った。ここまでくると、取調べ官は強力な武器をもつことになる。
自白しなければ生きて家に帰れないのではないかと容疑者が恐れはじめるからである。また、
意識にも混乱が生じはじめ、時計も窓もないから時間の感覚もなくなる。小さな取調べ室では、
机が容疑者の胸に強く押しつけられる拷問の道具として便われることがある。三〇人のうち
二五人が大勢の警官に続けざまに怒鳴りつけられたと答え、二〇人が、肉体的暴力を加えられた
と述べている。疲れ切って半分眠った状態で、尋問に答えつづけるよう強制された者が二三人いる。
彼らのうちの一人は、三二七日間、尋問されたという。また二三人が、延々と続く取調べから
解放されたい一心で"自白"したと述べている。取調べ中は、食事の時間も無視され水も与えられない。
用便が許されるのも、自白すると言った場合のみだったという。

/////////////// 原書1989年刊 ///

396 ◆JeacknUANQ :2012/07/07(土) 18:04:30.84 ID:Y2GuvwZ/

/// 国民の監護者 33 /////////////////

 このような極端なゆきすぎが例外的なのかどうかを確認するたしかな方法はない。当局にも、
正式に調査する気がない。犠牲になった容疑者の話から明らかになったのは、弁護士の立場や
態度に非常な不備や欠陥が目立つ点である。弁護士がこの間に法的に介入しても、実質的に
なんの助けにもならないことが多いのだ。むりに笑って我慢しなさいと、弁護士から実際に
助言された者もいる。刑事弁護士たちがいつも訴える苦情は、容疑者に許された権利である
弁護士との面会を警察が一貫してじゃまするということである。一九八一年に日弁連の人権擁護
委員会が日本の全弁護士に送った質問書に対する回答によると、一般の常識に反し、誤った
自白にもとづく誤審は、戦争直後の混乱期だけの現象ではなく、むしろ増えつづけているという。
彼ら弁護士の推定では、誤審の六〇パーセントが強要された自白にもとづいていた。

/////////////////// 早川書房 ///


397 ◆JeacknUANQ :2012/07/09(月) 22:12:12.25 ID:gZgIbnCT

/// 国民の監護者 34 //////////////////

 ここで明らかに二つのことがいえる。まず第一に、調査報告にあるようなゆきすぎの再発を防ぐ
制度的な保障がないこと。第二に、容疑者の自白はその引き出し方はどうであれ憲法に違反
しているのに、今なお警察と検察の取調べの、最重要ではなくてもかなりの重要性をもった
目標だということである。
 これでは国民の監護者が実は残酷な人びとの集団だとの印象を与えてはいけないので、歩兵
とも言うべき地元の交番のお巡りさんの態度は概してりっぱなものだと強調しておこう。彼らは、
なにかにつけ助けになるし、近隣の住民のぐちもこころよく聞いてくれるし、親切にもケンカの
仲裁に入ってくれる。交番勤務が一八〜二〇時間と長いことを考えれば、なおさら賞賛に値する。
キャリアの警察官僚と普通の警官との間には、日本でも例外的なほど大きな階級差がある。
上からの圧力は勤務評定を通して伝えられ、この制度によって警官は、全国のあちこちで軽犯罪や
交通違反などを検挙し、一定のノルマを果たすよう期待されている。

//////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///


398 ◆JeacknUANQ :2012/07/10(火) 21:30:03.94 ID:ymVlKHlb

/// 国民の監護者 35 ////////////////

    放逐

 警察と容疑者の標準的な関係では、自白の後ひたすら謝りつづけると、<システム>の慈悲の堰が
切って落とされることになる。容疑者もいったん"味方に引き入れられる"と、親切に扱われる。
手錠をはめられたり腰に繩をまかれた協力的な容疑者が、警察官とくったくなく親しげに話し合う
情景に、外国の研究者は驚いている。
 極刑の判決を受けた者にだけは、社会の慈悲も手びかえられる。死刑は大いに秘密につつまれて
いるのに、それが、西欧で見られるような討論を引きおこすことはない。一九八一年には、
二〇〇人の知識人、芸術家、芸能人が会合して、全国的な死刑反対運動を始めようとしたが、
失敗に帰した。いまは一群の市民グループと法律家だけが仲間うちで死刑があまりに自由裁量
によって適用されていると論じている。

///////////////// 945円(税込) ///

399 ◆JeacknUANQ :2012/07/11(水) 21:59:16.67 ID:rkNOfq8/

/// 国民の監護者 36 //////////////////

法務省は、なんとかして死刑に関する記事が何も新聞に載らないようにと気を遣っている。
アムネスティ・インターナショナルの調査団も、訪日した前年における死刑執行の有無を
確かめることさえできなかった。戦後の処刑者数を知っている日本人はほとんどいない。
大概の人が数十人だろうと推測するのだが、実際には一九九七年現在で五七〇人である。
たいていの場合、死刑囚の家族は死刑執行の後に知らされるだけである。いつ絞首台にかけられるかを
囚人に告げるか告げないかは、刑務所長に一任されている。したがって、上訴中でない死刑囚の
多くが、夜が明ければそれが最後の日になるのではないかと恐れながらの毎日を送っている。
死刑囚の食事は粗末で、喫煙はゆるされない。彼らの身の上を親身になって案じてくれる者が
いるとすれば、それはキリスト教の宣教師だけだろう。事実、死刑囚監房は、宣教師が日本社会で
本ものの改宗者を得た数少ない場所の一つである。

///////////////// K.V.ウォルフレン著 ///


400 ◆JeacknUANQ :2012/07/12(木) 21:43:41.94 ID:pcaqnbXX

/// 国民の監護者 37 ////////////////

    何世紀にもわたる恩恵

 警察の慈悲の論理は、少なくとも一八七〇年代以来、日本の権力者がたゆみなく推進した
権力観と軌を一にしている。今日、個人のレベルでは、あなたの上位者がいちばん良いよう
計らうから、それを信じなさいと言われる。地域集団のレベルでは、自民党と官僚が、同様の
心がまえで恩恵を施すことになっている。従属者から上位者への変わらぬ感謝は、無条件の
忠誠についで、日本の社会・政治上の主要な統制力であった。そして、これは、現行の政治的
秩序が究極的な恩恵と美徳であるという当局推進の信念と結びついているのである。

////// 「日本権力構造の謎」<上> ///

401 ◆JeacknUANQ :2012/07/14(土) 21:04:25.35 ID:DBBCMApl

/// 国民の監護者 38 /////////////////

 伝統的に、中国では恩恵が統治の一条件とみなされていたのに対し、日本ではそれは条件
ではなく統治者の恩情から人びとに施される例外的なものと考えられてきた。上位者から
特権や物品を分け与えられるのは、その上位者が人間味のある人物だからであって、従属者の
当然の権利ではなかったのである。中国の皇帝は、"天命"に従い恩恵を施し正義を守ると
されたが、天照大神の直系の子孫として日本の天皇はそうした天の裏付けは必要とせず、
永遠の慈悲の持主とされたのである。この完全に利他的な慈悲というものが、広く信じられた
という確かな証しはない。

//////////////// 原書1989年刊 ///


402 ◆JeacknUANQ :2012/07/15(日) 19:33:29.64 ID:MlrIToN4

/// 国民の監護者 39 /////////////////

 日本は一九世紀なかばに国際社会に復帰したが、この思想はそこなわれなかった。明治憲法と
もっとも関わりの深い寡頭政治家伊藤博文は、後年はっきりとこう述べている――「他国のように、
人民が憲法上の特権を王から力づくで奪ったのではなく、新政権は自発的な贈り物として人民の
上に授けられた」。天皇の計り知れない慈悲は、主として二〇世紀直前から一九四五年まで続いた
"家族国家"および"国体の本義"の思想(10章を参照)に具体化された。西欧に向けての日本の
解説者の草分けの一人、新渡戸稲造は、日本には、「西洋の歴史に見られる独裁君主}がいなかった
と書いた。さらに、少なくとも一人の天皇が殺害され、暗殺未遂が多々あったことは忘れて、
日本の年代記には「チャールズ一世やルイ一六世の死のような汚点はひとつもない」と主張した。
他国の臣民とは異なり、日本人は当然のこととして歴代の天皇を敬愛してきたと断言している。

////////////////////// 早川書房 ///

403 ◆JeacknUANQ :2012/07/16(月) 22:30:09.40 ID:X8YHhGV1

/// 国民の監護者 40 ////////////////

一九一〇年に、日本の政治的発展について論文を書き、ロンドン・スクール・オブ・エコノミックスで
博士号を授与された植原(ジョージ)悦次郎は、日本人の天皇崇拝の気持ちをこう説明した。

   思慮のある日本人にとっては、母国へのもっとも快い思いに結びつくもの、彼の父祖が享受し、
  そして今彼自身が享受している平和、静穏、幸福、繁栄に結びつくもの、かつ、彼がはっきりと
  自覚している国の安定、威厳、調和、国力の基盤を、非難することは至難のわざである。

 日本の仏教の教えは、恩恵の返礼に主君への義務があるという、日本土着と、移入した儒教の概念を、
形而上学に高めて支持した。もう一人の初期の日本文化の解説者、里見岸雄は、ヨーロッパの聴衆に
こう説明した。

////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///



404 ◆JeacknUANQ :2012/07/17(火) 21:33:32.83 ID:00n3juNQ

/// 国民の監護者 41 ////////////////

   宇宙そのものが厚情、すなわち恵み、すなわち恩恵の顕示である。太陽が輝く。雨が畑を肥やす。
  花が咲く。すべてが恩恵の顕示である。われわれ人類は、宇宙の偉大な恵みを受けている。
  われわれは親から生まれ、大地に住んでいる。われわれは、さまざまな聖人賢者によって明らかに
  された教えによって教養を身につける。アメリカ人は日本で作られた絹の服を若る。英国で発明
  された汽車が、今や世界中で使用されている。われわれは、大工が建てた家に住む。生産者や
  商人の労働のおかけで、われわれは特別の労働をせずともなんでも買える。さすれば、この世の
  ものはすべて、まさしく恩恵の現われではなかろうか?

 それ自体は賞賛すべきこの倫理的な心情が、政治的な目的のために簡単に歪められた。

//////////////// 945円(税込) ///


405 ◆JeacknUANQ :2012/07/18(水) 21:41:39.14 ID:I9EtTr9T

/// 国民の監護者 42 ///////////////

 日本人の基本的な行動様式を研究した人類学者、ルース・ベネディクトは今や古典となった代表作
『菊と刀』で、日本人を「年月と世間に恩義を負う人びと」だと表現している。一九四五年まで、
日本の子供たちは、先祖、先生など上位者がこの世を人の住めるものにしてくれた、だから恩を
忘れるなと教えられた。今もすべての日本人が、ある程度この負い目をひきずっているし、かつては
それが最大限の自己犠牲を正当化した。恩は、完全には返すことのできないという点で、ありふれた
社会的義務である義理とは違う。権力関係においては、恩は"恩恵"を受けた者が慈悲深い上位者に
永遠に従属することを正当化する。

////////////// K.V.ウォルフレン著 ///


406 ◆JeacknUANQ :2012/07/19(木) 22:05:09.23 ID:22JFFMaB

/// 国民の監護者 43 ////////////////

 <システム>は戦前の天皇を家長とする"家族国家"ほど、すべての恵みの源であるとはされない
ものの、今でも暗黙のうちに日本人は<システム>は当然に恩恵を与えるものであると考えることを
期待されている。実際の揚でぱ、上にいる者が施す恩恵とされるものについて、人びとはかなり
冷笑的である。選挙民が国会に送った議員は、約束どおり橋や道路その他の利益を選挙区に
もってこられるかどうかで評価される。村の人たちは、何世紀もの間できるかぎり自活して
きたから、生活を快適にするものを要求する権利については、確たる感覚を持っている。また、
酒をくみ交わすサラリーマンの会話を盗み聞きすると、上役の不平をならべたてるのが、
彼らの楽しみのひとつであるとわかる。しかし、このような皮肉な態度も、ひたすら謝ったり、
恩恵を施すとされる者に対し感謝を示す習癖を変えるまでにはいたっていない。そして、
官界と大企業が慈悲を旨とするのは当然と、これらの組織の指導者は考えている。

////// 「日本権力構造の謎」<上> ///


407 ◆JeacknUANQ :2012/07/20(金) 21:54:57.61 ID:UScyK4in

/// 国民の監護者 44 ////////////////////

    安全な社会

 工業化と都市化と人口過密にもかかわらず、国民の養護者と自己監視する国民によって、
ほぼ過去のどの時代、現代のどの国よりも安全な社会が作り出された。東京のせまい路地でも、
ひったくりの心配はないし、殺人など論外である。夜でも、たいていの道を恐がらずに歩ける。
貿易の成功についで、日本の犯罪率の低さが世界の羨望の的になっている。一九八四年の
殺人者は、一〇万人当たりわずか一.四七人で、これに比べ、アメリカ七.九二人、英国
三.二四人、西ドイツ四.五一人であった。夜盗やこそ泥は普通だが、強盗となると、
欧米諸国に比べてさらに少ない。日本は一〇万人当たり一.八二件、アメリカ二○五.三八件、
英国五〇.〇二件、西ドイツは四五.七七件たった。

////////////////// 原書1989年刊 ///

408 ◆JeacknUANQ :2012/07/21(土) 19:46:08.06 ID:ycgrRa9P

/// 国民の監護者 45 /////////////////

 このような大差の理由は、警察への情報提供者や一般市民の防犯ネットワークに加え、
日本の警察と犯罪組織が共生関係にあるためであろう。一般人は拳銃を入手できないし、
拳銃の日本国内への持ち込みチェックが厳重にされているほか、犯罪を生む麻薬問題がない
ことも大きな理由である。ヘロイン中毒はめずらしく、ヘロインの売買および使用に対しては
容赦ない処置が取られる。中毒者の苦しみには同情が示されないし、代替薬物を利用した
"乳離れ"もない。麻薬中毒者が捕まれば、禁断症状の苦しみを味わうしかない。主婦や
会社員やティーンエイジャーがメタアンフェタミン(通称スピード)などの覚醒剤を使う
問題はある。だが病的な窃盗狂が横行するにはいたっていない。マリファナは危険な習慣性の
ある麻薬として扱われており、使用容疑者――主に西欧の若者文化に浸った人びとであり、
とくに芸能界に多い――は、夜明け前の手入れを覚悟したほうがよい。捕まれば刑務所行きで、
外国人は国外追放に処されることもある。

////////////////////// 早川書房 ///

409 ◆JeacknUANQ :2012/07/22(日) 18:57:11.33 ID:n8gI94cN

/// 国民の監護者 46 ////////////////

    保護されない人びと

 <システム>は、社会のトップから底辺ちかくまで、広範にわたる社会階層を保護し、
いろいろなニーズに応えている。明らかに、<システム>は、ナチズムやレーニン主義に
もとづいて二〇世紀が生みだした全体主義的社会制度よりはるかに優れている。
 問題が残るのは、大半の人にとってよい仕組みであってもそれが少数者(マイノリティ)を
適正に保護しているかどうかという点である。<システム>は恩恵を与えるのに選択的だと
いわざるをえない。

////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///


410名無しさんの主張:2012/07/22(日) 19:39:31.20 ID:???
最近、橋本知事が浮気でスキャンダルになってるけど
これもウォルフレンさん的には非公式権力の陰謀ですか?
411 ◆JeacknUANQ :2012/07/23(月) 21:43:53.91 ID:1I749Pll

/// 国民の監護者 47 ////////////////////

すでに見たように、犯罪容疑者は充分に保護されない。在日韓国人などの少数者やかつての
被差別部落出身者のような社会的な少数者も保護されていない。これらの少数者は、教育や
就職の面で体系的に一貫した差別に直面する。警察や公立の学校など、本来模範とされる
べき機関も差別をしなくはない。戸籍および興信所の調査をもとに、雇用主や親が
就職希望者や結婚相手として、少数グループの人びとを考慮の対象から外すこともできる。
警察もまた、彼らにはあまり慈悲を示さず、問題の多い別の集団として扱っている。

/////////////////// 945円(税込) ///


412 ◆JeacknUANQ :2012/07/24(火) 23:04:01.43 ID:dh8h1GWG

/// 国民の監護者 48 //////////////////

    自らの意志によらない非順応者

 精神病者の扱い方をよく見ると、日本社会は、意識的ではないが慣習に順応しない人々に
対しても頑固な態度をとるのが判る。もちろん、どこの国でも、社会が精神病者とみなす
者が最悪の場合、本人の意思に反して閉じ込められることはよくある。しかし、立憲主義の
政治制度下では、危険かどうかを判断する規準と、施設に収容された者の安全と個人の威厳を
守る保証という、二つの保障があってしかるべきだとされている。

////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

413 ◆JeacknUANQ :2012/07/25(水) 21:30:58.60 ID:8ZMWncES

/// 国民の監護者 49 //////////////////

 一九八五年七月、国際法曹委員会(ICJ)が、日本の精神病患者の扱い方を、日本の
憲法にも、日本が批准した市民的および政治的自由に関する国際規約にも違反するとして
厳しく批判した。同委員会は、監禁されている患者の死亡率が異常に高いことを発見した
のである。施設内容はひどく、収容定員を上まわっており、不必要な暴力がふるわれ、食事は
粗末で、みじめな状況の下におかれた患者が食いものにされていると断定した。また、適正な
理由なしに監禁されている患者が多いとも結論した。その前年には、ニューヨークに本部を
おく国際人権連盟が、日本では精神障害者も異常にたくさん監禁されていると主張した。
同連盟はまた、通常の日本の精神病者の扱い方は人権無視だとも述べた。

////// 「日本権力構造の謎」<上> ///


414 ◆JeacknUANQ :2012/07/26(木) 21:33:19.57 ID:VfTXk8Oq

/// 国民の監護者 50 //////////////////

 日本では約三四万人が精神病院に入院している。その施設の八七パーセントは私営である。
収容者の五分の四が本人の同意なしに監禁されたもので、英国の場合にはこの数字がわずか
二〇分の一である。患者の三分の二が鍵つきの部屋に閉じ込められており、大半が外の世界との
連絡を断たれている。推定二〇万人が正当な期間よりはるかに長く収容されている。日本の
法律では、精神病とみなされる者の保護義務者が、その人を精神病院に入れるかどうかを
最終的に決定できる。そして、精神病院が入院期間を決定できるのである。

////////////////// 原書1989年刊 ///


415 ◆JeacknUANQ :2012/07/29(日) 21:38:12.34 ID:2KxhgAon

/// 国民の監護者 51 //////////////////

 身体的あるいは精神的ハンディのある日本人は、親族によって慣習的に社会から隠されてきた。
多くの人が、ハンディは恥ずべきこととみなすからである。最近は、自宅の奥の部屋に留めおかれずに、
施設に送られる精神障害者の数が増えてきた。各種の精神病院に勤める医療関係者で、調査に
協力的な人々が語ったところによると、もし差別がなければ、患者のおよそ七〇パーセントが
在宅療養ですむ。医学上の精神病患者や精神薄弱者のほかに、年老いた親が、ボケ症状とよくある
嫁とのもめごととが重なって精神病施設に送られるケースも非常に多い。時には手に負えない
若者への対策として、施設への監禁が利用される。

//////////////////// 早川書房 ///

416 ◆JeacknUANQ :2012/07/30(月) 22:13:09.78 ID:Tc3nKRZ5

/// 国民の監護者 52 //////////////////

 詰め込み主義の私立の精神病院は大きな利益をあげることができる。国民健康保険制度には
悪用の余地が多く、平均して患者六八人に対し医者はわずか一人だけ(普通の病院だと患者
一四.三人に対し医者一人)だから経費も少なくてすむ。
 一九八四年に、ある精神病院で不審な死亡者が一九人出た事件があり、日本の報道界もこの
問題に注意を向けた。マスコミの調査で日本のさまざまの地域でも強制監禁、虐待、死亡の
ケースが多いことが判明した。だが、精神医療人権基金事務局長、戸塚悦朗弁護士は、官僚が
実効ある措置を取る望みはあまりないとしている。一九八七年現在おこなわれようとしている
精神衛生法の改正も、単に表面をつくろうだけとみられている。国際法曹委員会(在ジュネーブ)や
国際人権連盟(在ニューヨーク)の非難に対する厚生省の反応は、日本には欧米諸国とは異なる
独自の文化がある、よって日本は独自の方法で精神障害者を扱う権利があるというものだった。

//////////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

417 ◆JeacknUANQ :2012/08/01(水) 22:40:49.81 ID:Pf4olRBv

/// 国民の監護者 53 //////////////////

    <システム>の敵

 日本の<システム>が一貫して苛烈に攻撃してきた非順応者は、左翼主義者である。マルクス
主義に感化された日教組と文部省との闘いの足跡や、強硬作戦に負けた戦後の労働運動の組識者に
ついては、すでにくわしく見てきた。もうひとつ明白なのは、警察と検察が、思想的な動機を
持つと考えられる紛争の関係者をかなり激しく差別することである。「収入ではなく、思想が、
権威の誤用を引き起こす」。警察は一般の激しい喧嘩はふつう気軽に扱い、やがて忘れてしまう。
ところが、職場での工場労働者の闘争は、厳しく追及され原則的に起訴される。最高裁も検察も
警察もこの偏向を支持しており、たいていの場合、下級審の判決を覆してでも労働側に不利な
判決を下す。

/////////////////// 945円(税込) ///

418 ◆JeacknUANQ :2012/08/02(木) 21:11:22.63 ID:MOIphGxt

/// 国民の監護者 54 //////////////////

 <システム>のやり方に反対し、不満を政治的行動に移す日本人は、体制破壊者で、爆弾を
投げる可能性のある人物とみなされる。警察と検察は過激派の学生を、他の検挙者に比べて、
かなり苛酷に扱う。左翼に対する警察の反感は「ほとんど本能的」である。あるアメリカの
学者が要約したように、「警察は、共産主義者や左翼的な労働組合についての話になると、
電気が通じたように気色ばむ。彼らは、そういう人びとは日本社会と警察体制に対する脅威と
考えていると、幾度となく私に語った」。警察官志望で左翼的傾向をつい見せてしまう者は、
この仕事には不向きだとみなされ、選から除外される。兵庫県警に一〇年動めた後、本を書いた
松本均は、警察のやり方や優先事項に疑問を出せば、外部の者でも警察内部の者でも、警察の
上司は自動的に「アカ(共産主義者)!」と言い返すと述べている。

////////////// K.V.ウォルフレン著 ///

419 ◆JeacknUANQ :2012/08/03(金) 22:14:57.71 ID:f3AL9zK4

/// 国民の監護者 55 ////////////////

 警察は活動的左翼団体をたゆまず抑えつけるが、右翼活動家に対しては野放しで自由に
振る舞わせるのも、日本の現実の一部である。世界でもっとも人出の多い場所のひとつである
東京の銀座で毎日、旗やのぼりをはためかせ拡声器をつけたトラックが戦略的な地点に陣取る。
有名な戦前の極右の国粋主義者で、自分のことを「日本のヒットラー」と称したこともある
赤尾敏のトラックである。筆者が一九六二年に初めてそこを通った時にも、彼はいつもの
場所で声を嗄らして叫んでいた。一九九〇年二月に亡くなるまで彼は、言論の自由の名の下に、
群衆の耳をつんざかんばかりに音量をあげて、左翼と世界共産主義の恐ろしさについて訓戒した。
銀座の買い物客はこの老衰気味の右翼古老を無視したが、警察が何年も続けて通行者に演説する
これと同等な機会を、左翼の活動家にも与えるとは、とても考えられない。

////// 「日本権力構造の謎」<上> ///


420 ◆JeacknUANQ :2012/08/04(土) 20:08:14.98 ID:xvmznRON

/// 国民の監護者 56 /////////////////

 右翼には大いに自由が与えられていて、拡声器から騒音をまきちらしながらトラックで公道を
巡回し、はたまた混雑した路上で耳をつんざくような演説をする。実際、右翼は、警察が見て
見ないふりをするので、社会党主催の会合の邪魔をしたり妨害するのも許されている。また、
すでに見たように、右翼の威嚇は、日教組の大会会場さがしを困難にさせている。
 左翼の活動家が信念を撤回しないと、警察と検察官の怒りが増す。警察にとって、彼らの犯罪
そのものはその"誤った態度"ほど重要ではない。彼らが謝ろうとしないのは、警察から見れば、
"日本人にもとる"態度となる。単に予謀、犯罪行為の準備あるいは共同謀議の嫌疑で投獄された
過激派は、犯罪が立証され有罪と決まった一般囚人よりはるかに苛酷に扱われる。待遇を改善
してもらうには、戦前のマルクス主義者や知識人が"間違った思想"を放棄して帝国主義秩序の
良さを認めた転向のように、誓って思想上の信念を否定しなくてはならない。今日では、
証明ずみの過激派活動家だけがこのような圧力を受けるが、人の信条を強引に変えさせるのは
憲法違反であることに変わりはない。

////////////////// 原書1989年刊 ///

421 ◆JeacknUANQ :2012/08/05(日) 21:47:41.90 ID:4PZVqVKy

/// 国民の監護者 57 ////////////////

 警察および法務当局の寛大さへ恩義を感じる容疑者や有罪者が日本に数多いことは想像がつく。
一方、政治活動をする若者が差別的な扱いを体験し、社会の改善は暴力革命によってのみ可能
だという"証拠"をつかんだといって、苦もなく過激化する過程を想像するのも難しくない。
活動家の学生に残されている道は基本的に二つしかない。政治的なことに関わるのをやめるか、
過激派に加わって非合法手段に訴えるかである。したがって、権力者が、日本の過激派を
生み出すのに直接手を貨してきているのである。

////////////////// 早川書房 ///


422 ◆JeacknUANQ :2012/08/07(火) 21:11:02.54 ID:u5jql0pi

/// 国民の監護者 58 //////////////

   <システム>の最強メンバー

 転向の強要に代表されるような権力の濫用を防ぐために、米占領当局は内務省を解体し
警察権力の中央集権を改めて、各都道府県の公安委員会の管轄下にそれをおいた。だが、
まもなく、この改正措置(地方自治体警察制度)は先の見込みのないことが明らかになった。
一九五〇年代には、解体された内務省出身の有力な官僚が、社会統制に関わる政官界の
重要な地位におさまり始めたのである。左翼の脅威が労働運動に表われているという
脅威論が彼らの権力拡大を助けた。

///////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

423 ◆JeacknUANQ :2012/08/08(水) 23:17:48.45 ID:EoRUrZaQ

/// 国民の監護者 59 //////////////////

「彼らは政治家として、左翼の脅威から現存する秩序を守ることにかけては旧内務省の
官僚のように振る舞いつづけた。一九五〇年代前半、国の警察組織の再中央集権化ほど
元官僚たちが重要視した問題はない。」この動きは成功した。先頭に立ったのは、元内務官僚で、
後に日教組のもっとも手強い敵となった(3章に登場)灘尾弘吉であった。国家公安委員会、
警察庁、および自治、労働、厚生、文部省のいずれの最高ポストにも"中立公平派"あるいは
"穏健派"は長く留まれず、左翼の野党反対勢力が社会政策の調整に影響を与える機会はなかった。

/////////////////// 945円(税込) ///

424 ◆JeacknUANQ :2012/08/11(土) 11:44:26.22 ID:N6B1hpXU

/// 国民の監護者 60 ///////////////

 一九五四年の警察法改正では、知識人や左翼が大騒ぎした。左翼はこの法律を(不適切に)
一九二五年制定の治安維持法に相当するものだとした。かつて、この治安維持法の名の下に、
内務省は"危険思想"を抱く多数の日本人を投獄したのである。一九五四年の法律は、官僚が
望んでいたほどの社会統制はできなかったが、彼らが"やり過ぎ"だと考えた占領軍の改革の多くを
旧に復すには充分だった。同法の前には、すでに公安条例が存在していた。まず福井市で
一九四八年の地震の後、デモを抑制・規制する条例が制定され、続いて神戸、大阪、東京が、
それに倣った。最高裁は、三つの別個の訴訟で、これら条例は憲法違反にはあたらないとの
判断を示し、一九六〇年には、デモは本質的に"暴動"であると宣言した。公共秩序の維持は
最高裁の最優先事項であり、このことは秩序を乱す恐れのありそうな者に対して厳しい裁決を
下すことに反映される。東京高裁が公安条例違反の容疑で告発された被告に無罪判決を出した
上告審で、最高裁は同じケースを二度までもさし戻して再々審理を求めた。

///////// K.V.ウォルフレン著 ///


425 ◆JeacknUANQ :2012/08/12(日) 19:49:45.46 ID:0ILYNY02

/// 早川書房 //////////////////////

 カレル・ヴァン・ウォルフレン(Karel Van Wolferen) (著)、篠原 勝 (翻訳)、
 原著1989年発行、邦訳 早川書房1990年発行
 「日本/権力構造の謎」 The Enigma of Japanese Power  日本 権力構造の謎〈上〉

単行本: ¥ 2,447(税込) ISBN-10: 4152034475 ISBN-13: 978-4152034472
 http://www.amazon.co.jp/dp/4152034475/
 http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4152034475.html
 http://www.bk1.jp/product/00690461
 http://books.rakuten.co.jp/rb/item/432945/
 http://www.junkudo.co.jp/detail.jsp?ISBN=9784152034472
 http://www.7netshopping.jp/books/detail/-/accd/1100923648/subno/1

////////////////// 絶賛発売中!///

426 ◆JeacknUANQ :2012/08/13(月) 20:30:11.26 ID:TGIsppMT

/// 国民の監護者 61 /////////////////

 岸首相の日米安保条約延長の取扱いに反対して多くの左翼グループが連帯した一九六〇年の
大"安保闘争"で、日本の反体制運動は最高潮に達したことは、当局が警察権力を拡大させる
立派な口実になった。とくに目立つようになったのは機動隊の力の誇示である。国の安全を
守るという使命感において、これらの徹底的に鍛えられた機動隊は、帝国陸軍のエリート部隊の
いちばん近い後継者である。概して警官は特殊な集団意識が強いが、隊長と隊員間の使命感が
機動隊の場合とくに強くなりがちである。
 組織の面で機動隊と同じ類型に入るのは公安警察で、左翼の組合運動家や共産党員を合む、
問題を起こす可能性があると当局がみなす人びとの情報を収集する。公安警察は、憲法が
禁じる盗聴装置を使用しないと主張するが、問題に詳しい人びとは逆だと信じている。

////// 「日本権力構造の謎」<上> ///


427 ◆JeacknUANQ :2012/08/14(火) 22:48:59.26 ID:jhhs0XBW

/// 国民の監護者 62 /////////////

このような疑いが現実だと証明されたのは、一九八六年一一月に、日本奄々公社(当時)の
職員が、共産党の緒方靖夫国際部長宅の電話が盗聴用の線につながれているのを発見した
というニュースが出た時であった。盗聴用回線は、ある警官の息子が借りているアパートに
引き込まれ、アパートの契約書には公安部の元警官が保証人として連署していた。それは
前にも、共産党幹部の電話が盗聴されたケースが多々あったが、同党は一度も検察官を満足
させるに充分な証拠を集められなかった。このケースも、警察当局が(検察に)遺憾の意を表し、
検察は、警官が上役の命令に従って盗聴しただけだとして不起訴にした。というわけで、
盗聴は憲法に違反することだが、警察幹部は盗聴しても罰を逃れられるということである。

//////////// 原書1989年刊 ///


428 ◆JeacknUANQ :2012/08/16(木) 22:13:16.96 ID:kBh3+y96

/// 国民の監護者 63 ////////

 一九七〇年代から八〇年代にかけては、米国大統領、英国女王、韓国大統領の訪日、さらに
二回の西側先進国首脳会議と、日本の国際的な評判をかけた行事があり、一般市民や報道機関の
反対なしに機動隊と公安警察がその通常の権力を拡大できた。またさらに、日本人の過激派による
海外でのテロ行為や、犯人未逮捕の、過激派が未熟な手製ロケット弾を東京で発射した事件が、
警察力強化を容認する雰囲気をつくる一助になった。機動隊は、戦街上の制約に関しては
お手のもので、犠牲者を出しては世論が自分たちに敵対するので、そのようなことがないよう
特に注意する。

//////////// 早川書房 ///

429 ◆JeacknUANQ :2012/08/17(金) 21:12:22.70 ID:oypSUIfI

/// 国民の監護者 64 //////////////

 あいつぐ国賓の訪日や首脳会談を機に、警察は記録を破るほど装備に金をかけ、一般市民の
生活にいっそう立ち入るようになった。一九八四年の韓国の全斗煥大統領来日に際しては、
訪日の一カ月前に東京の高速道路で警察が車を止めて"予行演習"をおこない、外務省を訪れる
外国の外交官は警備員に止められ質問された。このような保安措置も、一九八六年に東京で
先進国首脳会議が開かれた時の警備に比べれば、大したことはなかった。五万余りのビルと
小さなアパートの検査と立入り捜査がおこなわれた。左翼活動家およそ九〇〇人が明確な理由
なしに逮捕された。一方毎日、下水溝が検査され封印された。サミット中には、会場と首脳の
宿泊施設から半径一.五〜ニキロ以内の東京の中心部の大部分が特別警備隊によって封鎖され、
通行が許されたのはごく少数の会議関係者の車と特別許可証を持つ人物だけであった。首脳たちの
護衛には三万人の警官が動員され、都内全域で車が止められ検査されたのである。機動隊は、
四〇〇〇万ドル相当の新装備を使用できたが、それを除いて、保安措置にかかった費用は、
推定一七〇〇万ドルにも達した。

/////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

430 ◆JeacknUANQ :2012/08/18(土) 19:43:01.47 ID:K5+nRc10

/// 国民の監護者 65 //////////////////

 国民の監護者についてのもっとも重要な一側面は、彼らを制御しているのは彼ら自身だけだ
ということである。したがって、彼らは<システム>を構成するものの中でも異例の位置にある。
理論上は今なお地方公安委員会が統制力を行使する。だが、これら委員会の構成員が右よりの
経歴のある昔風の保守派だという事実はさておいても、警察は極度に中央集権化されている。
二五万人の警官とその仕事を助ける事務官が、わずか四五〇人のキャリア官僚によって統制
されている。<システム>の主流の構成員と同様、警察の最高幹部は、一八八〇年代以来ずっと
東大法学部出が占めている。これらの管理者は必要な時には、自分たちの独立性をはっきりと示す。
たとえば、一九八四年に警察がからむ汚職事件後、自治大臣で国家公安委員長だった田川誠一が、
関西地域の警官に正式に訓話したいと希望したが、警察庁は、関係官僚の慣行にそぐわないとの
言い訳で要望を言下に拒絶したことがある。

/////////////////// 945円(税込) ///

431 ◆JeacknUANQ :2012/08/19(日) 20:18:30.87 ID:+t3uR0gL

/// 国民の監護者 66 //////////

 最重要ポストである警察庁長官と警視総監の任命は、退任していく警察庁長官がおこなう。
警視総監の任命には首相の正式承認が必要だが、警察庁は、「公的には、他のすべての
政府官庁や行政の部門から完全に独立している」。
 報道に反映されると言われる世論以外には、警察を抑制するものがない。その世論も、
近年の警察権力の増大を抑制するほどの効力に欠けてきている。警察は、県警本部や主要署に
付随する記者クラブを通して、報道機関と円滑な関係を保っている。記者たちは手厚く扱われ、
報道関係施設の一部費用を警察が負担するところもある。そして通常、報道担当の専門警察
係官が解説し発表したニュースがそのまま流れることになる。

/////// K.V.ウォルフレン著 ///

432 ◆JeacknUANQ :2012/08/20(月) 21:25:21.71 ID:l19Jmb1u

/// 国民の監護者 67 ////////////////

 朝日新聞のような新聞は通常、権威主義的な行為に眉をしかめるのだが(たとえば"予行演習"で
車を検問するなど)、警察が職務に熱心すぎるとは非難できない。いわゆる過激派による国民への
脅威を前に警備の過剰を非難しては無責任のそしりをうけかねないからだ。
 戦前の警察には、同じ内務省内部にあった他の局や、強大な陸軍や海軍という対抗勢力があった。
今日では、<システム>の誰とも張り合わなくてよい。自衛隊と婉曲に名づけられた今の日本の
軍隊は、現状では競争相手でない。事実、省と同格の地位にある防衛庁の"文官"の多くが、
警察官僚出身である。

////// 「日本権力構造の謎」<上> ///


433 ◆JeacknUANQ :2012/08/22(水) 20:44:33.29 ID:GgbZeEPJ

/// 国民の監護者 68 ////////////////////

 緊急事態への対処力からいえば、警察は、日本の<システム>の中の最強部門である。もし
野心を抱く一派が警察を支配すれば、彼らは、クーデターさえ成功させられるだけの力を
もっている。ある面では彼らの有能さは頼りになるが、また別の綿では、民主的な原理と
法律の概念に対するあいまいな態度が心配になる。平時において警察は安全な<システム>を
保証するが、それは必ずしも法にのっとった<システム>ではないのである。

・・・・

////////////////// 原書1989年刊 ///

434 ◆JeacknUANQ :2012/08/23(木) 22:10:41.30 ID:Gr9O6h5T

/// 早川書房 //////////////////////

 カレル・ヴァン・ウォルフレン(Karel Van Wolferen) (著)、篠原 勝 (翻訳)、
 原著1989年発行、邦訳 早川書房1990年発行
 「日本/権力構造の謎」 The Enigma of Japanese Power  日本 権力構造の謎〈上〉

ハヤカワ文庫NF、945円(税込) ISBN-10: 4150501777  ISBN-13: 978-4150501778
 http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4150501777.html
 http://www.7andy.jp/books/detail?accd=18988933
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////////////////// 絶賛発売中!///

435 ◆JeacknUANQ :2012/08/31(金) 22:46:50.33 ID:MxPI/mqh

/// 法を支配下におく 1 ///////////

 カレル・ヴァン・ウォルフレン(Karel Van Wolferen)著
 原著1989年、邦訳 早川書房/篠原 勝 (翻訳)1990年発行
 「日本/権力構造の謎」 The Enigma of Japanese Powerより

・・・・
 8章 法を支配下におく

 <システム>は"ビッグ・ブラザー"ではないだろう。だが、日本人は、社会的な服従に甘んずる
ことのみかえりに、<システム>からの愛を受け入れるように要請される。これはつまり、日本人は
政治制度について――少なくとも持続的で組織的には――疑問を抱いてはいけないということを
意味する。彼らは自分たちのことを権利をもった市民と考えるのではなく、管理者が寛大な心を
持っていると信じるよう求められているのである。

/// 「日本権力構造の謎」<上> ///

436 ◆JeacknUANQ :2012/09/01(土) 19:27:17.36 ID:eRjA9Oh3

/// 法を支配下におく 2 /////////////

分かりやすくいえば、西欧の権力は原理という幻想の仮面をかぶっているが、日本の権力は恩恵
という幻想の仮面をかぶっている。西欧の伝統においては、社会・政治的な状況を知的に審査解明
することが許されているし、場合によっては、奨励されることもある。ところが日本の伝統に
おいては、心情的な信頼を要請される。

/////////////// 原書1989年刊 ///

437 ◆JeacknUANQ :2012/09/02(日) 20:44:21.46 ID:9KOx4hVm

/// 法を支配下におく 3 /////////////

 日本人は、社会的に上位にある者との不平等な結びつかをあたりまえのこととして受け入れる
よう条件づけられており、そのような結びつきを心理的に必要とするものも多い。このことは、
儒教から派生した理論によって全面的に正当化される。しかし中国では、哲学の伝統によって、
この不平等さを理論的に正当化する努力が払われた。中国の儒教は、(歴史的経験から引き出された
ものとしての)階級的社会の必要性と、このように不平等な社会秩序につきものの不公平さを
緩和する必要性との間の、基本的な対立を解決しようと試みた。インドでも、権力の行使と権カヘの
服従との関係についての知的課題が呈示され、宗教による権力の是認によってそれが解決された。
日本では、この不平等な関係に関しては宗教にも依らず、その他の合理的な政治権力理論に訴える
こともなく、ただ固有の恩恵があるという一方的主張によって認めさせてきた。

/////////////////// 早川書房 ///

438 ◆JeacknUANQ :2012/09/03(月) 23:12:16.21 ID:r9024kJH

/// 法を支配下におく 4 ///////////

 きわだって対照的なのは、不平等と、服従の必要性という現実に対処する際の、日本と西欧との
知的伝統の達いである。この決定的な違いをよりよく理解するには、日本の社会・政治的な世界の
知的支柱を解明する必要がある。それにはまず、基本的な宗教思想と法思想から検討しはじめるのが
いちばんよい。宗教と法律は、どちらも究極の信念に関わるものだから、発達の初期には、ほぼ
例外なく互いに密接に結びついていた。宗教と法律について、人間文明という全体像の中で見た場合、
日本と西欧諸国とは両極端というほど達う。したがって、この両者の伝統を対比させて考察するのが、
有益だろう。これから見ていくように、西欧では、権力者はみずからの支配がおよばない法典に
次第に縛られるようになり、日本では、すくなくとも江戸時代の終わりまでは、権力者は真理と徳の
究極の具現者として描かれてきた。

/////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

439 ◆JeacknUANQ :2012/09/05(水) 20:53:31.23 ID:he73M4u4

/// 法を支配下におく 5 /////////////

   権力者の上と下の法

 ヨーロッパでは、個人と政治的支配者との間には緊張関係が生じて当然とする考え方は、
すくなくとも、ソクラテスの時代まで遡ることができる。ソクラテスは、社会のそれよりも
個々の人間の理性のほうが重要だと強く主張したため、アテネの若者を"堕落させる"として
毒薬を飲まされた。
 ソクラテスのもっとも高名な弟子だったプラトンは、権力を求める人間の衝動が諸悪の
根源であることを知っていた。彼の考えでは、都市国家が果たすべきもっとも崇高な務めは、
むき出しのままの権力に正義のだがをはめることだった。この考え方は、ローマ帝国崩壊後も
生きつづけたが、当時のヨーロッパの政治状況は、中世日本とあまり変わらないほど、混沌と
邪悪にあふれた内乱が相ついでいる状態だった。

//////////// 945円(税込) ///


440 ◆JeacknUANQ :2012/09/06(木) 22:16:15.25 ID:+Pr1xaCx

/// 法を支配下におく 6 /////////////

 カール大帝(七六八〜八一四)以前の時代は、野蛮な成り上がり者や強奪者が人命をあまり
尊重せず、支配をほしいままにしていた。そのころでも、各地の大諸侯のあくなき権力欲と
気まぐれを越えたところに、漠然とではあるが、少なくともひとつの現実があるという認識が
生きつづけていた。中世初期のヨーロッパの僧院が、政治的枠組みに対立するものがありうる
とする地中海の哲学思想を死に絶えないように守り、超越的な信念の存在をかすかに思い出させる
役目を果たしたのである。ローマ帝国――その後のどの帝国よりも長くヨーロッパの秩序維持を
果たした――の法律は、その残された記録のひとつだった。

/////////// K.V.ウォルフレン著 ///

441 ◆JeacknUANQ :2012/09/07(金) 21:25:08.51 ID:50hqkDrM

/// 法を支配下におく 7 /////////////

 古代日本の場合は、世界の他の地域でもよく見られた基本的なパターンだが、大和の族長たちが、
祖霊および自然霊という神道の神霊の神託をうけたとして、権力を権利に変え、同様に服従を
義務に変じさせた。"王国"と呼べるほどに領土を拡大支配した四世紀には、彼らは血族的および
擬制親族的つながりの網を通して権力を拡大し、王家の祖霊を祀る神社を建立し、彼統治者
みんなが崇めるようにした。こうして、天皇は「天下を統一するよう聖なる神託を得た者」
という称号を持つこととなった。

/// 「日本権力構造の謎」<上> ///

442 ◆JeacknUANQ :2012/09/08(土) 16:53:57.78 ID:wYF54JTj

/// 法を支配下におく 8 /////////////

重要な点は、悪事その他神に隠しておきたいことは儀式による清めが必要とされたことだ。
このようにして、日本の法律も他の数多くの文化と同様土着宗教の儀式と全面的にからみ合った
一体をなしていたのである。五世紀以降は、神道の伝統に初期儒教の要素が付加されていった。
厳格な階層・階級的社会秩序を肯定する儒教の教理が、土着の慣習と混ぜ合わされて政治制度を
正当化するものとして用いられたのである。朝鮮を経て伝来した儒教の世俗的な道徳規範に
日本が慣れ親しむにつれて、独自の簡単な刑法も作り出されていく。

///////////// 原書1989年刊 ///

443 ◆JeacknUANQ :2012/09/09(日) 11:01:00.45 ID:L2XFXc0D

/// 法を支配下におく 9 /////////////

 六世紀なかばに朝鮮から仏教が伝来すると、日本の支配貴族は民衆をさらに服従させるための
手段便法としてその教義にとびついた。日本最初の"立法者"聖徳太子は、その"憲法"の中で
この新しい宗教に高い地位を与えた。中国を手本にして作られたこの文書は、今なお日本の
小学校では歴史上の重要な出来事として強調されており、統治者と披統治者間の好ましい関係に
ついての理想的文句を集めて構成されている。しかし、この"憲法"では、統治者の行為に法的な
規制が設けられていない。儒教も仏教も、日本の権力者が権力を行使するにあたって、なんら
抑制する規定をもたらしはしなかったのである。

/////////////////// 早川書房 ///

444名無しさんの主張:2012/09/09(日) 15:49:04.11 ID:???
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445 ◆JeacknUANQ :2012/09/10(月) 21:25:33.73 ID:U37pjlS9

/// 法を支配下におく 10 /////////////

 西欧古代の哲学訓話は、道徳や行動の正当性を述べるに際し、その論拠を現実の社会的状況を
超越する至高の原理に依っていた。中世の僧侶やルネッサンスの思想家が採用した抽象概念は、
俗世界の利害を超越するものであるがゆえに、真理であると考えられたのであった。このように
いつの時代にも、世俗の権力には限界があるという概念が、確固として存在していたのである。
日本の儒学者や仏教の僧侶は、これとは対照的に、現実を抽象化する場合でさえ、時の世俗統治者の
権威に全面的に依存していた。武士も平民も、当時の政治的要請に合致するかぎりにおいてのみ、
儒教や仏教の教えに従うよう命じられた。西欧の王侯貴族とは違い、日本の権力者は自分の行為に
対し、道徳的な責任を果たす義務はなかった。彼らは、みずからつくりあげた規範以外のいかなる
規範によっても、とやかく言われることはなかったのである。

///////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

446 ◆JeacknUANQ :2012/09/11(火) 21:07:15.82 ID:B2xd1yM6

/// 法を支配下におく 11 /////////////

 仏教の普及が公に推進された結果、個人がその教義の命ずるままに従うと、外からの指導に
ではなく、内心の光明によって導かれる悟りの道に頼りたがる危険性が生じた。しかしこの
個人主義的な傾向も、同時に諦めの精神を説くことによって薄められてしまう。仏教研究家・
森岡清美が言うように、日本の仏教はひとつの独立した倫理体系を発展させず、「人びとを社会の
圧力や伝統から解き放つという仏教のもっとも重要な力はほとんど完全に失われてしまった」。
 聖徳太子にしても、彼の後継者にしても、神道、儒教、仏教の併存には教義が根本的に相容れない
ところがあっても、それらの教義が自分たちの政治目的に役立つかぎり、いっこうに気にしなかった。
この点は、仏教が伝来してから約一五〇年後に催された宗教的な祭儀にもよく表わされている。

//////////////// 945円(税込) ///

447 ◆JeacknUANQ :2012/09/12(水) 21:57:15.12 ID:HASyLu8e

/// 法を支配下におく 12 ///////////

七四九年、宮廷内の新神殿に宇佐八幡宮を遷宮したのを祝って、五〇〇〇人の仏教僧が読経した
という。神仏習合は、明らかに、これら二つの宗教によって世俗支配の強化をめざす国家の政策
だったのだ。この後に続く数世紀の大部分を通じて、神道と仏教とは仲良く並存しつづけた。
一部の仏教寺院の近くに神が祀られて神道による寺の守護神となり、ギリシャの神々がローマ神話に
突然、名を変えて再登場したかのように、神道の神々がいとも容易に菩薩の姿をして現われた。
 被統治者の活動を制御・抑制するための法律とはっきり区別した形で、統治者の権力を抑制する
ための法律を発達させるのに不可欠な条件は、反対意見の存在を合法的で正当なこととして認める
概念である。だが、統治者に対する抵抗をよしとする概念は、日本の伝統にはたえてなかった。

//////// K.V.ウォルフレン著 ///

448 ◆JeacknUANQ :2012/09/13(木) 22:27:32.32 ID:2owZZs8T

/// 法を支配下におく 13 /////////////

 上位者の下位者に対する取扱い方は、日本最初の法典である二つの律令制度によって、ある程度は
整えられた。つまり七〇一年制定の大宝律令と、その一七年後に改訂された養老律令がそれである。
どちらの律令も、唐の法律文書を模して作られた。律とは罪人の刑罰を定めたもので、罰(笞刑、
杖刑、徒刑=強制労働、流刑=追放、死刑の五等級)をやや軽くした点以外は、法文は実質的に
唐のものと同じだった。令は行政法の体系で、日本に合うよう修正されたり、新しい規定条項が
加えられて拡充された。慣例が令に違反する場合にはいつでも、"慣行法"という名目のもとに慣例が
維持された。部分的にだけ外国の制度を取り入れ、不都合な部分は婉曲に覆い隠してしまうという、
長く続いてきた日本の習慣の、初期の一例である。現代日本でも、この種の例は数多くあるが、
そのひとつが独占禁止法である。独禁法は一九四五年以降の"自由市場"制の一環として制定された
ものだが、実はあらゆる形態のカルテルとまるで双子の兄弟のように仲良く調和を保っている。

/// 「日本権力構造の謎」<上> ///


449 ◆JeacknUANQ :2012/09/25(火) 22:14:00.89 ID:kj7t9yfp

/// 法を支配下におく 14 /////////////

 日本の政治的権力が完全に武士階級――後に鎌倉時代(一一八五〜一三三三年)として知られる
時代までには、武士か確固とした権力を掌握していた――の手に渡った頃には、日本には少なくとも
三つの法体系が存在していた。一つは皇室に適用されるもの、二つめは日太め初期封建制度を構成
していた土地所有者荘園主に適用されるもの、そして三つめは、正式の武家政権である幕府に
適用するものだった。ただし、ここでいう法とは、時の統治者の気の向くままに発令した布告を
すべて含んでいた。このような布告は概して自由裁量で発令されたものであり、総合的な法の
正義の概念とはまったく関係がなかった。一五世紀末に、日本の後期封建制の立役者・大名が
台頭する頃には、どの行為が合法でどの行為が違法かは場所によってさまざまに異なり、正式な
法典がまるで存在しない領地も多かった。

/////////////// 原書1989年刊 ///

450 ◆JeacknUANQ :2012/09/26(水) 21:29:15.62 ID:jpmd3CAy

/// 法を支配下におく 15 /////////////

    ヨーロッパの政教分離

 権力の座にある者が、気を配るべき上位者とか共存勢力があることを認識していれば、自分たちも
法に従わなければならないという考えを受け入れやすい。この考えは、擬人化された神の形で
表わされることもあるし、司法という抽象的な概念、あるいは国家・政府という形をとることも
あるだろう。
 ヨーロッパの法思想の初期段階で主要な要素として考えられたのは、宗教と国家の分離であった。
五世紀末に、ローマ法王ゲラシウス一世が、旧来のさまざまな考え方を再定義し、人間の営みは
二つの秩序体系に分けられるとした。宗教界の権威によって統制される秩序と、世俗の統治者による
秩序である。ヨーロッパには、ローマ帝国のかすかな記憶の一部として、政治は封建的な権威の
自由裁量を超越する正義を維持しうるという考えが生き残っていた。その後は、修道僧に大学の
学者が加わって究極的な意味で有効で、いつ、いかなる状況の下でも、すべての人間に適用できる
理論や道徳規範を体系化する知的伝統を支持・推進した。このような理論や道徳規範は、法の概念と
複雑で不可分にからみ合っていた。

/////////////////// 早川書房 ///

451 ◆JeacknUANQ :2012/09/27(木) 21:19:06.78 ID:69oP5tV8

/// 法を支配下におく 16 /////////////

 日本で(鎌倉)幕府政治体制が成立する約三〇年前、ヨーロッパでは一一五九年に、ローマ時代
以降最初の重要な政治理論に関する研究書が、王も法(=正義)に、そして究極的には神に従わ
なければならないと明確に述べている。ジョン・オブ・ソールズベリーは著書『ポリクラチクス
(政治家の書)』の中で、「すべからく下位者は上位者に堅く結ばれるべし、四肢五体すべて
順に従ふべし。ただし、何時といへど、信仰を侵すべからざること必須なり」と論じた。

///////////// 篠原 勝 (翻訳) ///


452 ◆JeacknUANQ :2012/09/28(金) 21:19:10.79 ID:JSX2gGZP

/// 法を支配下におく 17 /////////////

 ソールズベリーは、法(=正義)をないがしろにする君主の態度があまりにもひどすぎる場合には、
殺害しても名分が立つとさえ主張した。ただ、これは理論上のことだった。実際には、殺害された
多くのヨーロッパの君主たちは、主として権力を奪おうとする敵の強欲の犠牲になったのである。
日本でも、殺害されかけた天皇が何人かいた。一三世紀に高僧・慈円が著した史論書『愚管抄』にも、
天皇殺害と暗殺未遂の例がいくつか載っている。通常、皇太子が両親の住む御所外で育てられたのは、
廷内で陰謀を企む者に命を奪われる危険性があったからである。しかし、日本の歴史を通して神々の
子孫を殺害することを理論的に正当化するなどということは、まったく想像もできないことだった。

//////////////// 945円(税込) ///

453 ◆JeacknUANQ :2012/09/29(土) 10:21:51.87 ID:ZOtjmpDh

/// 法を支配下におく 18 /////////////

 一三世紀のヨーロッパでは、中世の偉大な政治理論家の一人である聖トマス・アクィナスが、
国政は市民のためにあると明確に追べた。彼の著書は、「キリストの法」に従わなければならないと
国王たちに認識させる強力な警告の書のひとつになった。中世後期のヨーロッパの思想は、
法(=正義)を守ることが国政の第一の、しかももっとも重要な仕事だという考えを発展させた。
「法国家というプラトン流の考えが現実にも作用するとわかった。すなわち、それは人びとの思想に
影響を与えた偉大なエネルギーであるばかりか、人間に行動を起こさせる力強い衝動になった」。

/////////// K.V.ウォルフレン著 ///


454 ◆JeacknUANQ :2012/09/30(日) 11:41:14.38 ID:rthdF2pL

/// 法を支配下におく 19 /////////////

 世俗の統治者は宗門による後楯を欲したため、キリスト教の権威が支配者に正統性を与える
強い力になった。カール大帝も、神によって王位をさずかったと民衆に信じさせたかった。
その後、一一世紀から一四世紀にかけては、ローマの貴族も神聖ローマ帝国の皇帝も、他の
ヨーロッパの君主と同様、おそらく法王をたいして崇敬していなかっただろうし、政治目的を
遂行するため以外に法王の祝福を利用することはなかったが、彼らは教会の支持を必要として
いたので、異端の絡印を押されないよう極力気をつけなければならなかった。この間の政治的
文献を見ると、教会権力と世俗国家権力との相互関係について、あるいは両者間の緊張関係
について書いたものが多い。

///// 「日本権力構造の謎」<上> ///

455 ◆JeacknUANQ :2012/10/01(月) 22:02:46.31 ID:MRy4Tayq

/// 法を支配下におく 20 /////////////

 たしかに知的構築物である概念が、本来、それが反映しているはずの現実からかけ離れている
場合は多い。そして、歴史の見方には現実に対する思想の影響力を過小評価し、原理を幻想と
みなし、支配階層の既得の利権によって被統治者は冷やかに操られていたにすぎないとする
ものもある。しかし、このアプローチでは、日本の歴史との比較において注意を払わなければ
ならないヨーロッパの歴史の側面は、なにも見えてこない。西欧の理論はしばしば政治的現実の
上に強烈に反映されてきた。ハインリッヒ四世は、恭順の意を表すため、カノッサの教皇庁外の
雪道にひざまずいて破門の赦免を請うたが、この屈辱の見せしめはそれ以来、今日まで忘れられる
ことはなかったのである。フリードリヒニ世は、教皇権とも他国との戦争のように戦ったのだろうが、
そういう彼にしても法王の権威に公然と疑問を投げかけることはできなかったのである。

/////////////// 原書1989年刊 ///


456 ◆JeacknUANQ :2012/10/02(火) 23:37:08.43 ID:5HOppzDH

/// 法を支配下におく 21 /////////////

   普遍的な法の前での平等

 北ヨーロッパのゲルマン語族が採用していた一種の直接民主主義による民衆の政治参加は、
古い時代から政治的平等の概念を政治に持ち込んでいた例だが、それが法による統治権に関する
体系的な中世の理論と混じり合うこととなった。ローマ後期の哲学者キケロの著作を通して
中世ヨーロッパで知られるようになったストア学派の哲学者は、すべての人間は基本的に平等
であると論じている。彼らの影響を受けた中世の学者は、法律をでプラトンが示唆したものより
さらに普遍的な存在と見なしはじめた。

/////////////////// 早川書房 ///

457 ◆JeacknUANQ :2012/10/04(木) 22:00:33.64 ID:Vv1Mnm15

/// 法を支配下におく 22 /////////////

 ヨーロッパの"絶対"君主たちは、国家権力の構造をさらに進化・洗練させたにもかかわらず、
この伝統をつき崩すことはできなかった。彼らが主張した王権神授説に依る神聖な統治権はまた、
王は神に対して責任を負うという、束縛でしかなかった。宗教的・哲学的な伝統の重さの前には、
事実上、どのような政治権力も絶対的なものとは見なされなくなったのである。権力者たちは、
「法は神の摂理そのものであり、至高の立法者(神)の意思を表わすものであるから、不可避
かつ不可侵である」原理の権威の前に屈したのだった。

///////////// 篠原 勝 (翻訳) ///


458 ◆JeacknUANQ :2012/10/06(土) 00:20:03.71 ID:Vzy/vCeK

/// 法を支配下におく 23 /////////////

 権力は倫理的な目的に従うべきだというこの考えが、ヨーロッパの歴史においては、後に、
主権在民という概念に発展する。ルネッサンス期および宗教改革期までには政治的・宗教的な
衝突によって大学が分裂し、もはや人は神が支配する宇宙の中心に立たなくなった。普遍的な
法と、普遍的な善の倫理的概念を支持するために、もはやキリスト教の教義を必要としなくなった
ヨーロッパの思想家は、ストア哲学を解釈し直すことによってみずからの立場を強めた。
オランダの法学者で国際法の創始者であるユーゴ・グロティウスは、全能なる神の意思に
よっても、道徳の原理を変えることはできないし、自然法によって保証される基本的な権利を
廃することはできない、と主張した。

//////////////// 945円(税込) ///

459 ◆JeacknUANQ :2012/10/06(土) 19:44:46.73 ID:Vzy/vCeK

/// 法を支配下におく 24 /////////////

 法に対する現代の世界の考え方は、根源において、この論議にもとづいている。これが
社会契約説の概念を通して、国家に法的な基盤を与えたのである。ここから直接的に、自由主義の
合理的な論拠として"生取権"が存在すると断定したイマニュエル・カント、ジョン・ロック、
モンテスキュー、そしてスピノーザの倫理哲学が導き出され、それを経てさらに、現代の国際法や
人権の概念、そして一般的な"正義"の概念へと発展しているのだ。
 日本の歴史をたどって見て判るのは、これと対照的に、統治者を倫理の体現者として描き出す
思想が強化されつづけたということだけである。一七世紀後半から広まりはじめた新儒教派の
教義の本質は、武家独裁制には倫理的な完全さが本来的に備わっていると主張するための、手の
こんだ学問的弁明にすぎなかった。このことについては、11章でさらに詳しく見ることにする。

/////////// K.V.ウォルフレン著 ///

460 ◆JeacknUANQ :2012/10/10(水) 21:24:16.16 ID:DItdgHhJ

/// 法を支配下におく 25 /////////////

    明治の借りものの法制度

 一九世紀なかば、開港を強いられた頃の日本の法律は、基本的に、政府専断の社会的な行動や
身分関係についての厳格で細かい諸規定を実施するための手段であった。そのため、有罪判決に
必須とされる自白を引き出すために広く実行された拷問も含め、日本の法慣行が西洋人と衝突する
最初の主な原因になった。一八五八年の条約以降に、欧米諸国が、自国民に対して治外法権を
適用するよう主張したのも、このためである。

/// 「日本権力構造の謎」<上> ///


461名無しさんの主張:2012/10/11(木) 13:03:01.03 ID:sHihcq4l
ネット支持率調査結果

830件(76.6%) 国民の生活   (小沢一郎)

   V
   V
   V

159件(14.7%) 自民党      (安倍晋三)
13件(1.2%)  大阪維新の会  (橋下徹)
11件(1.0%)  減税日本・平安 (河村たかし)
5件(0.5%)   新党大地・真民主(鈴木宗男)
3件(0.3%)   民主党       (野田佳彦)

http://anago.2ch.net/test/read.cgi/asia/1349008911/5
462 ◆JeacknUANQ :2012/10/11(木) 22:26:56.38 ID:5NgAXAYC

/// 法を支配下におく 26 /////////////

 明治の寡頭政権が、西洋に追いつくための過重な近代化計画の中に、憲法と法典の整備を
入れた主な誘因は、条約港で外国人が日本の司法権に従うのを拒否したためだった。西洋人が
あからさまに日本の法慣行を侮蔑したことで、明治の指導層の劣等感とひけめは強められた。
そこで、明治の官僚は、近代的な法律を導入しつつあると西洋の列強に納得させることに
躍起になった。外務大臣・青木周蔵は、一八九〇年、治外法権廃止のための新条約を提案するに
当たって、西欧諸国に対し、日本政府はそれまで六年近くにわたって信頼できる裁判官の養成に
努めてぎたと述べ、さらに六年後に新条約が効力を発する頃には、外国人は不適格の裁判官に
よって裁かれるという心配はなくなるであろうと宣言した。

/////////////// 原書1989年刊 ///


463 ◆JeacknUANQ :2012/10/13(土) 19:01:11.70 ID:CoVqS2QK

/// 法を支配下におく 27 /////////////

 維新の指導者たちは、一一五〇年前に制定された年代ものの養老律令の考えをもとに、なんとか
急場しのぎの法律をでっちあげていた。養老律令は徳川幕府の時代になっても、正式には時の法律に
切りかえられぬままに放置されていたのだった。そこで、日本の法的慣行を近代化するため、まず
フランスの民法典全体とナポレオンー世時代の法規をすべて翻訳する必要があるということになった。
このとてつもない大仕事を、明治政権成立の一年後に任されたのは、精魂を打ち込んで西洋思想を
研究していた二三歳の役人・箕作麟祥だった。高名な法学者・野印良之は、箕作を、まずレンガ作り
から始めなければならなかった建築家になぞらえている。それというのも、彼は、辞書にも
法律注釈書や外国の法律家にも相談できぬまま、日本の思想とはまったく性質を異にする概念を
表現するための用語を、独自に作り出さなければならなかったからである。この献身的な役人は
五年のうちに仕事を完成した。

/////////////////// 早川書房 ///

464 ◆JeacknUANQ :2012/10/14(日) 23:27:41.44 ID:sNxLjwBe

/// 法を支配下におく 28 /////////////

 そしてフランス人の政府顧問、エミール・ボワソナード・ドゥ・フォンタラビーが日本最初の
近代刑法の草案を作り、一八八〇年に発布された。ボワソナード個人は拷問に強く反対した
ことからも、一刻もはやく仕事を完成したいと思っていたことは明らかである。同じ敷地内から
草案作成の仕事部屋まで悲鳴が聞こえてきたのは、相変わらず拷問がおこなわれている明白な
証拠だった。その後に、フランス法を採用すべきだと考える者と、イギリス法の方がよりふさわしい
と考える者との間で争いが生じた。しかし結局は、政権の足場固めを終えた政府が採用することに
決めたのは、フランス法でもイギリス法でもなく、プロシア法典とドイツの国家の原理だった。
ひとつには、ドイツ人の法律顧問だったヘルマン・レスラーの影響力がボワソナードの影響力を
上回っていたこともある。そして、一八九八年に日本初の完全な民法が発布される頃には、より
自由主義的なイギリス法やフランス法への当初の興味が、ドイツ法の影響の前に敗退したことは
明白となった。

///////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

465 ◆JeacknUANQ :2012/10/17(水) 21:43:54.16 ID:3kK/CsOn

/// 早川書房 //////////////////////

 カレル・ヴァン・ウォルフレン(Karel Van Wolferen) (著)、篠原 勝 (翻訳)、
 原著1989年発行、邦訳 早川書房1990年発行
 「日本/権力構造の謎」 The Enigma of Japanese Power  日本 権力構造の謎〈上〉

単行本: ¥ 2,447(税込) ISBN-10: 4152034475 ISBN-13: 978-4152034472
 http://www.amazon.co.jp/dp/4152034475/
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466 ◆JeacknUANQ :2012/10/18(木) 22:59:21.06 ID:oOr+Q08u

/// 法を支配下におく 29 /////////////

    法の庇護を受けない国民

 以上ですでに明らかなように、日本の歴史のどこを見ても、日本の一般市民に法律が自分たちを
護るためにあるという考え方はなかった。伝統的な日本の法律は、合理的で哲学的な正義の原理を
積み上げて法体系を作り上げたのではなく、民衆を盲従させるための命令を一覧表にしたとしか
いえないものであった。このような法律が実際にどのように適用されたかは、時代によって違いが
ある。平安時代にはかなり寛大だったようだ。だが室町時代(一三三三〜一五六八年)になると、
非常に残酷な処置が当たり前となり、日本が開国してからもそれは続いた。徳川支配下の二世紀半の
間は、法律が社会的地位に応じて適用された。つまり、武士は町人や農民がが無礼あるいは、身分を
わきまえないと思えば、その場で一刀のもとに切り捨ててもよかったのである。一説によれば、
新しい刀の試し切りをしても差し支えなかったという。

//////////////// 945円(税込) ///

467 ◆JeacknUANQ :2012/10/19(金) 22:05:33.06 ID:APNiP+1K

/// 法を支配下におく 30 /////////////

 明治の改革によって外国から移入した成文法典は、その精神の大部分が欠落してはいたものの、
徳川時代に比べれば大幅な救済と多くの自由をもたらした。一八八九年の明治憲法発布は、
打ち上げ花火と、祝賀パーティ、新聞の大賛辞に迎えられた。しかしこの"天皇の賜物"も、
西洋に範を求めたその他の法律も、専断的な権力から日本人を護ってくれるものという意識を
与えなかった。明治憲法制定に先立ち、一八八八年には、「臣民」の"権利"と"義務"について
意見が戦わされ、結局、日本人にもやっと権利と自由が与えられることになった。しかし、
それは決して社会の「安寧秩序を妨げず、臣民たるの義務に背かざる限りにおいて、(彼らの
権利と自由に制限を加える)法律の範囲内において」という条件のもとにおいてのみであった。

/////////// K.V.ウォルフレン著 ///


468名無しさんの主張:2012/10/20(土) 12:51:57.26 ID:X7UWMUZq
もうちょっと簡単に解りやすく説明したのはないかね。
469 ◆JeacknUANQ :2012/10/21(日) 10:06:27.39 ID:icPIRHzs

/// 法を支配下におく 31 /////////////

 日本の権力者は、みずからが西洋から法律を導入した必然的結果として発生した問題に直面
することになった。しかし、いちはやく大衆や知識人が"悪い思想"を抱かないよう措置を講じた。
山県有朋は、法律にあまり頼りすぎるといろいろ問題が生じるとして、法に頼ることを痛烈に
非難した。その一方で、山県自身は法律を"政治に対する防御物"として自在に活用することに
なんのためらいも感じなかった。ここで彼が言う"政治"とは、民主的な議会制の、反対党のある
政治という意味だった。法律は急速に管理者の有力な道具へと変質させられていったのである。

/// 「日本権力構造の謎」<上> ///

470名無しさんの主張:2012/10/21(日) 15:46:15.86 ID:hfkjOKRp
山県有朋ってwwwいつの時代の話やねんwwwww
471 ◆JeacknUANQ :2012/10/22(月) 21:53:08.27 ID:vdf7xy69

/// 法を支配下におく 32 /////////////

 このような状況全般を総括して、マルクス主義理論を日本に紹介した経済学者、河上肇は、
二〇世紀初頭に次のように書いた――

   個人を以て自存の価値あり自己目的性を有すと看做す能はず、独り自存の価値を有し
  自己目的性を有する者は只だ国家あるのみと為す。故に日本人には天賦人権の思想なくして
  天賦国権の思想あり。個人の権利は只だ国家の承認を経て始めて存在す。国家は只だ其の
  自存の目的を達するの手段として、個人に一定の権利を認む。個人の有する権利は、本来
  自己目的の為めに非ずして、只だ国家の道具として役立つが為めのもの也。故に西洋に
  在りては人権が天賦にして……人命を重んじ人格を尊ぶことが日本人の想像の外に在るが如く、
  日本に在っては国権を重んじ国家を尊ぶことが又た西洋人の想像の外に在り。

/////////////// 原書1989年刊 ///

472 ◆JeacknUANQ :2012/10/23(火) 22:42:13.62 ID:bpjN7Q5S

/// 法を支配下におく 33 /////////////

 だが、一部の日本人は頑強に西洋の法概念を収り入れようとした。一九三七年、日中戦争
勃発の直後、矢内原忠雄はこう主張した――

   正義は國家に基底を與へつつ國家を越えて存在する客観精神である。換言すれば正義は、
  國家の製造したる原理ではなく、反対にに正義が国家をして存在せしむる根本原理である。
  國家が正義を指定するのではなく、正義が国家を指導すべきである。

 この文の掲載された『中央公論』はたちまちにして発禁になった。

/////////////////// 早川書房 ///


473 ◆JeacknUANQ :2012/10/24(水) 21:49:32.77 ID:ZQvtuYTN

/// 法を支配下におく 35 /////////////

 今世紀前半の四五年間には、ほかにもいろいろなこと――忌わしい一九二五年の治安維持法と
一九二八年の改正治安維持法、"思想警察"、裁判官、警察、検察官の不公正さなど――があったが、
これらの経験が日本人に政治的権利という概念を身近に感じさせるにはいたらなかった。
このような考えに人びとがなじむようになるのは一九四五年の敗戦後、日本を"民主化"する
計画が実施されてからのことだった。当時なされたもっとも重要な努力は、一般国民に自分たちの
法的権利を認識させることであった。だが、一般に考えられているように、実際にこの時期が
日本の法の歴史上の大分水嶺だったのだろうか?

//////////////// 945円(税込) ///

474名無しさんの主張:2012/10/25(木) 19:42:30.62 ID:efaiDsc1
ウォルフレンよ、お前のいう事はだいたい当たっている。

その批判精神と分析力をもって支那朝鮮へ行け。

お前の謎を更に深めてもらえるぞ。


475 ◆JeacknUANQ :2012/10/27(土) 10:21:35.34 ID:fikd++1D

/// 法を支配下におく 35 /////////////

    かけ声だけの「分水嶺」

 アメリカ占領軍当局の介入によって、多くの変化がもたらされたことは疑う余地はない。
今日、自分の考えを述べるのに躊躇する日本人はほとんどいない。それに政府には最低限、
国民を親身にとり扱う義務があるという考え方も、かなり一般的になった。もはや恩恵は、
天皇が随意に国民に与えるものではなくなったのである。
 それにもかかわらず、総体的な法の見方は、一九四五年以前とあまり変わっていない。
概して日本人は、法律というものは政府がその意思に従うよう国民に強いるための強制手段だと
いまだに考えている。日本の役人は、多くの法律の中から随意に都合のよいものだけを選んで、
自分たちの目的に利用する。

//////////////// 945円(税込) ///


476名無しさんの主張:2012/10/28(日) 23:03:14.59 ID:???
★前時代的な刑事司法制度を根本から改めよ  1

 videonews.com ニュース・コメンタリー (2012年10月27日) 誤認逮捕の教訓:

 遠隔操作ウィルスによる犯行予告書き込み事件で4人が誤認逮捕された問題は、かねてから
指摘されてきた日本の刑事司法の問題点を、あますところなく露わにしている。これが今回の
本質であることに疑いの余地はない。しかし警察を始めマスメディアは、今回の誤認逮捕の原因が、
警察のサイバー犯罪の捜査能力にあるかのような言説を垂れ流し、問題の本質を歪めている。
そのために、議論はサイバー捜査強化のための人員や予算の拡大と、まさに焼け太りを許しかねない
方向に向かっている。
 確かに警察のサイバー犯罪対応能力は低かった。いや、実際にはある程度の捜査能力あるが、
今回の事件は無差別殺人の予告などが含まれていたためにいわゆる殺人事件や凶悪事件を担当する
「捜査一課」が出てきたことで、警察内のサイバー犯罪の担当部署が捜査の主流から排除された
ことが、誤認逮捕に至った一因との指摘もある。
 しかし、それらはいずれも副次的な問題だ。今回の事件では、理由が何であろうと、どのような
背景があろうと、実際には無実の人間が逮捕され、20日以上も勾留された上に、うち2人は犯行を
自白し、動機まで詳細に供述している。
 今回はたまたま4人目の被疑者のPCから遠隔操作ウィルスが発見されために、他の被疑者も
すべて誤認逮捕だったことが明らかになったが、それも警察の捜査の賜物というよりも、かなり
偶然の巡り合わせの結果だった。それがなければ誤認逮捕された人たちがそのまま裁判に掛けられ、
有罪になっていた可能性も十分にあるという、非常に恐ろしい事件だった。  やってもいない
犯罪を自白させ、動機まで語らせてしまう刑事捜査、ひいてはそれを許してしまう刑事司法とは
何なのか。今回はたまたま事件がサイバー犯罪だったために、警察のでっち上げとを否定する物証が
被疑者のPCから出てきた。しかし、これが他の種類の犯罪だったらどうなっていたか。警察は
東電OL殺人事件でもゴビンダ・プラサド・マイナリ氏を誤認逮捕し、結果的に無実の人間を15年間も
服役させたてしまったことが明らかになったばかりだった。その反省はどこへいったのか。
477名無しさんの主張:2012/10/28(日) 23:08:48.23 ID:???
★前時代的な刑事司法制度を根本から改めよ  2

 これは捜査関係者一人ひとりが反省してどうこうなる次元の問題ではない。現在の刑事司法制度
そのものが、いやがおうにも誤認逮捕や冤罪を産む構造になっていることが問題なのだ。
 裁判官による安易な逮捕令状や勾留令状の交付、その結果認められる22日間の勾留と、その間、
警察署内の代用監獄の劣悪な環境の下に留め置かれ、記録(可視化)されていない密室の取調室で
弁護士の立ち会いも許されず、毎日続けられる捜査官による苛酷な取り調べとその中で繰り返される
締め上げや誘導尋問など違法捜査の数々、被疑者段階でも一方的な捜査情報のリークを事実関係の
確認もなく報道してしまうマスメディア、長期勾留下で極度に精神的に追い詰められた上での
自白でも、自白調書に署名があればほとんど無条件で有罪判決を出してしまう裁判所等々。
問題点をあげはじめれば枚挙に暇がない、このような欠陥だらけの刑事司法制度の下では、
誤認逮捕や冤罪が起きない方がおかしいといって過言ではないだろう。それほど現在の日本の
刑事司法制度は、透明度という意味においても、人権という意味においても、先進国として
恥ずかしいレベルにある。
 もう一つの大きな問題は、捜査官からのリーク獲得合戦にうつつを抜かしているマスメディアが、
その欠陥刑事システムの一部となってしまっているために、このような本質的な問題をほとんど
報じようとしないことだ。彼らはいまだに、他社より少しでも早く警察の捜査情報を獲得して
スクープをすることを、最大の目標にしている。そのため警察を批判することで捜査情報が
入りにくくなることを極度に恐れる傾向にある。
 メディアが問題を報じなければ、社会に大きな問題意識が醸成されず、結果的に法律を作る
権限を持つ政治も、制度変更を主張するのが難しくなる。そうでなくとも警察は誰にとっても
いろいろな意味で恐い存在なのだ。どんなに力のある政治家でも、世論の後押しなくして、警察の
制度に手を突っ込むことなどできるはずもない。
478名無しさんの主張:2012/10/28(日) 23:11:10.29 ID:???
★前時代的な刑事司法制度を根本から改めよ  3

 厚労省の村木厚子氏の冤罪事件で検察による証拠のねつ造などが明らかになったことを受けて、
検察はかなり遅いスピードながら改革に着手した。一般社会の常識では考えられないほどゆっくり
としたスピードではあるが、有識者会議を設置し、その提言を受けて、取り調べの「部分」可視化や
記者会見の「部分」オープン化などが始まっている。無論、まったく十分とは言えない改革だったが、
それでも一つの冤罪事件をきっかけに改革へ半歩踏み出したことは評価に値する。
 今回の誤認逮捕をきっかけに警察は改革へ最初の半歩を踏み出すことができるのか、また改革の
対象を警察や検察などの「部分」に限定せず、裁判所も含めた刑事司法全体の問題として捉える
ことができるかは、今後のメディア報道と市民一人ひとりの問題意識にかかっている。
 そろそろ先進国として恥ずかしくないレベルの刑事司法制度を整えるべき時が、来ている
のではないだろうか。
 誤認逮捕事件と刑事司法制度の問題点を、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の
宮台真司が議論した。


 videonews.com ニュース・コメンタリー (2012年10月27日) 誤認逮捕の教訓:
http://www.videonews.com/news-commentary/0001_3/002570.php
479 ◆znwiARPvOs :2012/10/29(月) 21:45:15.99 ID:LPb0wwSY

/// 法を支配下におく 36 /////////////

このような便宜を容易にはかれるよう、多くの法律文が意図してあいまいな言葉で書かれている。
法学者・渡辺洋三は、国会で成立する多くの法律を、内容を十分に読みもしないで署名する
契約書にたとえているのだ。つまり「法律のことばの意味がほとんど国民に知らされないままで
成立している」。自民党の国会議員は自分たちの支持者に有利な利益誘導のための法律を作る
ことに一生懸命で、その法案が社会正義に貢献するものか否かを吟味しようともしない。
一九五八年には、教師の勤務評定に関係する法律に関して、文部大臣が「法解釈は誰がどう
考えようと勝手だが、この法律については文部大臣の見解を尊重してほしい」と発言した。
これが冗談ではないのである。

/////////// K.V.ウォルフレン著 ///


480 ◆znwiARPvOs :2012/10/30(火) 21:32:20.71 ID:R1KWU9t5

/// 法を支配下におく 37 /////////////

 最上位管理者の養成所である東大法学部の教授たちは、法律は基本的に政府行政の補助と
考えているようだ。彼らは、政府はおのずから国民の上にあるという何世紀も前の旧態依然たる
前提を盲目的に受け入れ、「国民は所詮政治など判るものではなく、政府のすることに批判を
するのはけしがらん」と確信しているのである。逆に、国民大衆が法律を受け入れているのは、
法律がこれまでつねにそうする権利を与えられてきた階層の人びとによって管理運用されている
からにすぎないのであって、法律が国民大衆の正義の感覚に従っているからではない。一般大衆に
適用される時、法律はいまだに「苦痛あるいは罰の同義語」なのである。
 いうまでもなく、日本も正式に国際的な法と正義の概念を受け入れてはいる。だが日本の
政治的な慣習に妨げられて、それが真の活力になっていないのである。人権、民主主義的自由、
新しい理念である"平和を求める権利"などについても、大いに論じられてきたが、理念としては
いずれも漠然としていて明確に定義されないままだ。

/// 「日本権力構造の謎」<上> ///


481 ◆znwiARPvOs :2012/10/31(水) 22:43:31.20 ID:NyWV8wCR

/// 法を支配下におく 38 /////////////

どの考えも、十分な確信を得ていないし、具体的な政策に折り込めるほど明確な理論を育成
しようとするだけの政治的意思も十分とは思えない。不利な立場におかれた集団の闘士たちが、
"権利"について激しい言葉で議論することはある。だが、これまでこのような運動を見てきて
筆者に判ったのは、彼らがなんらかの満足が得られたとしても、それは普遍的な法の正義の
概念によってではなく、威嚇や他の戦術的圧力の結果だということである。日本人の伝統的な
在り方が、現代の法律慣行によってさらに強化され、明確な"権利"の概念を確立する妨げに
なっている。この概念を表わす言葉として権利の用語が考案されたのであり、この語が持って
いる二つの意味のうちの一つは公平である。法学者・野田が言うように、「今日では、この
言葉が含蓄する公平の意味には注意を払うものはいない。平均的な日本人にとって、この言葉は
利己主義を想起させるものである」

/////////////// 原書1989年刊 ///

482名無しさんの主張:2012/11/01(木) 21:10:49.49 ID:???
■誤認逮捕の大学生、処分取り消し 父親「やりきれない」

 横浜市のホームページに小学校への襲撃予告を書き込んだとして男子大学生(19)が
誤認逮捕された事件で、静岡家裁は30日、保護観察処分の取り消しを決めた。大学生の父親は
30日、弁護士を通じて「息子の心情を思うとやりきれない」とコメントした。

 家裁は朝日新聞の取材に対し、保護観察処分を決めた当初の審判について「少年事件は
非公開なので答えられない」とした。

 決定を受けて大学生の父親が報道各社にコメントを寄せた。「息子は否認にもかかわらず、
警察・検察から不当な圧力を受け、理不尽な質問で繰り返し問い詰められ続けた」と捜査を批判。
「家族への配慮と自分の将来を考え、絶望の中で事実を曲げ『自分がやった』と自供した。
息子の心情を思うと、やりきれない」「最も悲しいのは、親が息子の無実を疑ってしまったこと」
と心情を吐露した。

http://www.asahi.com/national/update/1030/TKY201210300560.html
483 ◆znwiARPvOs :2012/11/02(金) 23:20:58.34 ID:x/Pp7Dwr

/// 法を支配下におく 39 /////////////

 "権利"の観念がないことから、さまざまな間題が生じる。そのひとつは、よく外国人を
嘆かせることだが、日本人には公民としての勇気が欠けているということ、もう一点は、
真の国際主義を確立するうえで明らかに障害になっているという事実である。日本の教育に
しても、また<システム>内の他のどの構成員も、なんらかの主義主張をあえて貫くのは良いこと
だと、少しも人びとに教えようとはしない。このような態度は、サラリーマン社会の服従の
倫理にも、はっきりと反映されている。後に10章で、それがいかに"日本らしさ"という強力な
思想によって、より強化されるかを見る。

/////////////////// 早川書房 ///

484名無しさんの主張:2012/11/03(土) 21:45:31.35 ID:???
★あれこれ   弁護士 飯島奈絵

次に、感じたのはアメリカ人、そして、ここに住む日本人の方々の参政意識の高さ。
日本では、多くの国民が「政治は政治家が密室で利権がらみであれこれ決める何だか
よくわからないおどろおどろしいもの。」といった意識を持ち、政治に関わろうとしない。
露悪的にいえば、政治に関心があるのは権力意識がよほど強いか、妙に純粋で理想論
ばかりを述べる「青い」人か、宗教関係で動員がかけられた人といった意識がある。なぜ
このように違うのか。単なる「国民性」ではすまないであろう。日本人も米国の政治は
面白いと思っているのだから。違いは大統領選か?二大政党制か?

勤務先法律事務所で『民主主義』を感じたことがあった。クライアントの日本企業が
州法に抵触した。勤務先事務所は「州法の制定手続、規制方法に手続的瑕疵がある。
当該法の規制範囲は広範に過ぎる点でも問題がある。争おう。」という。しかし、
日本企業は煮え切らない。日本では訴訟を提起したということ自体、新聞沙汰になる。
人聞きが悪い。企業イメージが下がる。その上、監督官庁にたてついたら、どのような
不利益があるか。国にたてつくとの構図も企業イメージを下げる。日本企業のそんな
思考方法を説明したところ、米国人弁護士に呆れられた。「法律に瑕疵があれば、
その是正を求めることは、民主主義における市民の権利であり義務でないか。」と
言われた。やはり日本はムラ社会なのか、出る杭は打たれるのか。国は「お上」なのか。

http://www.wjwn.org/views/05summer/sakairijima.html#_ftn2
485 ◆znwiARPvOs :2012/11/04(日) 18:29:01.28 ID:gzFNbCqw

/// 法を支配下におく 40 /////////////

 ここまで著者が指摘してきた違いは、"西洋の個人主義"と、集団のためには個人の利益を
犠牲にするといわれるアジア人の態度に区別することによって、これまで簡単に説明されてきた。
しかし、このような見方だけでは、十分な全体図は得られない。法意識、政治的権利の観念や
公民としての勇気などに関して言えば、同じアジアでも韓国やフィリピンのようなアジア国民の
態度と日本人のそれとは、あまりにも大きく違う。一九七〇年代はじめのごく短期間、左翼系の
弁護士が被害者を代弁して提訴した四大公害裁判によって、革命的な変化が起こりそうだと
思わせたことがあった。裁判での勝利とそれに続いたはなばなしいマスコミ報道は、不満・
苦情をはっきりと提示するのに裁判所を使う手段があることを、一般日本人の多くにはじめて
気づかせた。<システム>内の有力な構成員と緊密なつながりをもたない団体や個人であっても、
利用できる公開の討論の場、すなわち裁判所があり、訴訟を通して重要な社会的決定に影響を
与えることができるということに、彼らは突然、気づいたのだった。

///////////// 篠原 勝 (翻訳) ///

486 ◆znwiARPvOs :2012/11/08(木) 21:38:51.04 ID:zEFeZFhT
/// 法を支配下におく 41 /////////////

 関係官僚の対応は早かった。管理者が社会の一領域で統制力を失いつつあると痛感し、
この傾向が他にも広がることを恐れた彼らは、この種の規模の訴訟を成功させるのは一回限りで
終わらせるべく決定的な措置を講じた。すなわち主導権を裁判官から官僚の手に戻すため、
各種の法律や行政指導をいちはやく導入したのである。公害の犠牲者は左翼の弁護士らによって
法廷に提訴するよう説得されたのであったから、左翼色の濃い弁護士と裁判官で構成される
法律家の組織(青法協=青年法律家協会)を攻撃するキャンペーンが激化した。そして、後で
詳しく見るが、裁判官には、間接的だが効果的な圧力がかけられ、公害の被害者の権利を
守るのにあまり熱心にならないようにとブレーキをかけられた。より小規模な訴訟が続いたが、
明らかに、勝利をおさめる途をきりひらく先例にはならなかった。

//////////////// 945円(税込) ///
487 ◆znwiARPvOs :2012/11/10(土) 19:30:04.16 ID:Y5nakjUr
/// 法を支配下におく 42 /////////////

   法的脅威に対する<システム>の対処

 もし西欧の民主主義社会で日本ほど法律が軽視されれば、たえまない動揺が起こり、最終的には
権威構造が崩壌してしまうにちがいない。逆に、日本で、西欧の民主主義社会でのように、また
日本国憲法に記されている通りに法律が運用されれぱ、今の日本の権威構造は崩壊してしまうだろう。
日本の憲法は占領時代の遺産だが、これ以上に民主主義的な憲法はないといえる。そこには欧米の
憲法よりも明確に、国民を保護するための歯止めが盛り込まれている。しかし、だからといって、
この憲法が日本の政治的優先事項を反映していることにはたらない。日本国憲法が司法を他の
政府権能から独立させ、法律と行政の間に一線を画しているのは、過去の日本の全歴史を貫く
慣行に反することなのである。権力者に対して法的に挑戦できるという認識があれば、少なくとも
一五世紀間も、被統治者が超越的な真理に訴えて、権力者に有効な対抗手段をもたないように
徹底的に強いられてきたことに終止符をうてただろう。だが、そんなことは起こり得べくもなかった。

/////////// K.V.ウォルフレン著 ///
488 ◆znwiARPvOs :2012/11/12(月) 22:38:09.49 ID:x5r5P+iz
/// 法を支配下におく 43 /////////

 戦後の正式の法規に定められた通り、真に独立し、政治に従属しない司法があり、人びとが
少しずつ訴訟になじんでくれぱ、戦後の<システム>が今日ある姿にまで強化されることは阻止
されていたはずである。独占禁止法が一貫して公平に適用されてきていれば、阻止できたはずだ。
公職選挙法を厳正に適用してもそうできただろうし、大企業と自民党との腐敗した関係、その他の
<システム>を存続させるさまざまな非公式の人間関係や慣例について司法の審査がおこなわれて
いれば、阻止できただろう。民衆が上手に訴訟戦術を展開すれば、今日、いろいろな活動を
制限しているあらゆる法制外の行政措置について、裁判所に訴えることができたにちがいない。
実際に企業家が官僚を裁判所に訴える可能性があれぱ、<システム>管理上の目的の多くが根底から
くつがえされていたはずである。さらに言えば、無数の人脈によって動かされている現在の
<システム>は、法的な手続きを一貫して適用することによって可能になる政治的な検分に耐えてまで、
存続することはできないだろう。

/// 「日本権力構造の謎」<上> ///
489 ◆znwiARPvOs :2012/11/16(金) 22:45:05.41 ID:d5wKSh3E
/// 法を支配下におく 44 /////////////

 これまでのところ、<システム>は以上のような困難な事態に直面しないですんでいる。
その理由の一端は、こうした状況を官憲が助長したとはいかないまでも、大目に見たため
であり、意図的で明確な彼らの設計図があったおかげである。もっと官憲権力主義的だった
時代から受け継がれた国民大衆の態度に加えて、今日の制度的枠組みは、日本人が法的な
手段に訴えるのにブレーキをかけるようにできている。実際、このようなさまざまな慣行を
詳しく調べれば、法律をできるかぎり<システム>内に侵入させまいと意図しているとの結論を
出さざるを得ない。

/////////////// 原書1989年刊 ///
490 ◆znwiARPvOs :2012/12/05(水) 00:02:04.12 ID:YR/SAdEr
/// 法を支配下におく 45 /////////////

    司法を最小限に抑えこむ

 弁護士や裁判官の数をごく少数にとどめることによって、もっとも効果的に<システム>内の
法律の役割が最小限に抑えられている。アメリカはいうまでもなく、ヨーロッパ諸国で普通に
おこなわれる訴訟のごく一部をもさばけないと思われるほど、日本の弁護士や裁判官の数は少ない。
したがって、権利を主張して裁判に訴えようと考えることは、決して日本人には勧められない
選択肢である。提訴された民事訴訟数を一人当たりで比べると、慣習法諸国の約二〇分の一から
一〇分の一である。実質的にすべての民事紛争提訴案件が、示談か、判決前におこなわれる調停に
よって決着がつけられる。この慣習は、すくなくとも、当局が和解によってことを決着するよう
民衆に強いた徳川時代にまでさかのぼる。今でも多くの日本人が示談で十分に満足するのだが、
より公平な裁決を裁判所から得るほうを望む者も、ほとんど示談・和解で済ますほかに選びようがない。

//////////////// 早川書房 ///
491名無しさんの主張:2012/12/10(月) 11:21:54.52 ID:???
幸福実現党、、、増税の流れを止めてくれ、、、、
492 ◆znwiARPvOs :2012/12/14(金) 21:22:36.25 ID:El/MARut
 
/// 法を支配下におく 46 /////////////

 なぜこの解決方式が根強いかの説明としてよく言われるのは、調和維持を第一とする古くから
深く根づいた精神風土に合っているという点である。勝者と敗者とが明らかになる訴訟は、
この理想に反するわけである。現代日本の司法に対して批判的な弁護士や判事でさえ、先進工業社会
としてはあまりにも特殊なこの現象を、このような文化的な解釈だけで納得してしまうところがある。
 しかし、このような文化的な説明は認めず、かわりに、現代の司法の実態を日本人が和解によって
ことをおさめるよう強いられた時代からの政治的遺物として見たほうが良い理由がいくつかある。
<システム>が和解のほうを好み、それが訴訟にかわる好ましいやり方として残るよう方策を講じて
きたのである。日本の集団間の関係は、集団のメンバー間の内部的関係とはあきらかに異なり、
調和とはほど遠いのが普通である。

/////////// 篠原 勝 (翻訳) ///
493 ◆znwiARPvOs :2012/12/15(土) 20:41:18.60 ID:Ea5vytVb
/// 法を支配下におく 47 //////////

だが、個人としては、同じ社交サークルの人でもなく、近所の人でもない別の個人との"調和"を
乱すとなぜいけないのか理解できない。鎌倉時代のように、人びとが代官の前で互いに問責し合う
機会が与えられていた時代には、躊躇なくそうしていたようだ。同様に、明治時代に近代的な
法体系が導入された後も、今日、訴訟を阻んでいるのは日本文化のせいだといわれているほどには、
当時の日本文化が裁判への障害になっていた様子もない。もうひとつ、<システム>が調停のほうを
好むことの政治的理由としては、日本の和解交渉では一般的によく知られていることだが、
ほとんどの場合、力の強い論争者が有利になるということである。こうして現状が維持される
のである。多数の訴訟が起こされ、もしそれらに対して論理的で公正な結論が出されれぱ、
<システム>はひとたまりもなく崩壊してしまうにちがいない。

///////////// 945円(税込) ///
494名無しさんの主張:2012/12/17(月) 21:07:36.28 ID:???
★裁判が機能せず、行政が国民の上に君臨する日本     上
 神戸大学大学院法学研究科教授 阿部泰隆氏

 諸外国に比べて、日本は行政訴訟が圧倒的に少ないという事実を、まず先に指摘しなければ
なりません。国民一人あたりの年間の行政訴訟の出訴数を比較すると、ドイツは日本の
250倍から500倍、韓国や台湾でも30倍から50倍です。日本では、なぜそれほど少ないのか。
その原因としてさまざまな障害物がありますが、行政指導や役所の事実上の優越力で
押さえ込まれていることや、裁判官の消極的な解釈のため、狭い訴訟要件が障害物となって、
本案になかなか入れず、入っても裁量と証拠の壁に遮られて、時間と費用がかかるのに、
勝訴率が低いので、「行政訴訟はやるだけムダ」と認識されて、悪循環に陥っていることが大
きな要因です。
 まず、費用について言えば、被告の行政側は親方日の丸で、強大な組織と国費を背景に
心おきなく最高裁まで徹底的に争うことができますが、一方、原告は金も組織もなく、まるで、
ネズミがライオンに挑むような覚悟をしなければなりません。
また、最高裁は原告の勝訴率を約10%としていますが、そこには一部勝訴が含まれており、
全面勝訴率となると、わずか数%でしかないと推測されます。
495名無しさんの主張:2012/12/17(月) 21:08:59.64 ID:???
★裁判が機能せず、行政が国民の上に君臨する日本     下

 1億円の課税処分の取消訴訟で、10万円分取り消されても一部勝訴ですが、それでは
弁護士費用や印紙代にすらなりません。その印紙代が極めて高額で、1億円の課税処分を
争えば、最高裁まで約188万円もかかります。今回、民事訴訟費用法が改正されましたが、
それでも約140万円です。全面勝訴すれば取り返せる建前ですが、現実性はありません。

 先日、土地収用され、6億円の補償金増額を求めて最高裁に上告された方が私のもとへ
相談に来られました。その方は、印紙代だけで400万円弱もかかるのに、上告するかどうかを
2週間以内に判断しなくてはならなかった(民訴法265条、313条)のです。
最高裁で判決を覆そうとすれば、憲法違反、重要な法律解釈の誤り、先例との不整合など
(民訴法312,318条)であることが厳しく求められるので、この短時間にこれだけの高額の
負担をする価値があるかどうかを判断するのはとても無理です。
しかも、上告理由は50日以内となっている(民訴規則194条)ので、大急ぎで書かなければ
なりません。
ところが、高裁から最高裁に書類が回るのに50日もかかっています。
496 ◆znwiARPvOs :2012/12/18(火) 21:12:58.30 ID:N9FpB7I1
 
/// 法を支配下におく 48 /////////////

 法曹界への参入を厳しく制限することによって、裁判官や弁護士の数が人為的にきわめて
少数におさえられている。法務省が司法研修所の実質上の門番をつとめ、判事や検事、弁護士に
なりたいと志す者全員が、ここを通過しなければならない。司法試験に合格した志望者はここで
二年間にわたってそれほど難儀でもない研修を受け、政治的に健全であるとみなされた者は
全員ほとんど自動的に卒業できる。ところが、この司法修習生になるための、毎年おこなわれる
司法試験は、極端に合格率の低い難関なのである。合格率は約ニパーセントで、たとえば
一九八五年には受験者数二万三八五五人に対して合格者は四八六人だった。

/////////// K.V.ウォルフレン著 ///
497 ◆znwiARPvOs :2012/12/19(水) 21:34:21.62 ID:ewZKE0TO
 
/// 法を支配下におく 49 /////////////

このような状況を正当化するなかば公式な説明は、司法に割り当てられる国家予算額が少ないから
だというものだ。日本人は法曹職に就きたがらないとの一般認識は、神話にすぎない。ある専門家が
指摘するように、一九七五年に司法試験を受けた日本人の数は、総人口比で見ると、司法試験を
受けたアメリカ人の数よりわずかながら多い。アメリカではその年の受験者の七四パーセントが
合格したのに対し、日本のほうの合格率が一.七パーセントだったから、実際には、法律家に
なりたい希望者は日本のほうがはるかに多いことになる。

/// 「日本権力構造の謎」<上> ///
498 ◆znwiARPvOs :2012/12/20(木) 21:56:52.95 ID:fKLLAhaX
 
/// 法を支配下におく 50 /////////////

 一八九〇年以来人口は三倍に増えたが、裁判官の数は二倍にもなっていない。法務に携わる者への
需要があるのは確かである。日本の裁判所はあまりにも多くの事件をかかえすぎているため、簡単な
訴訟でも地方裁判所で判決が出るまでに二、三年かかることが多い。控訴も含む大きな訴訟になると
一〇年はかかるだろう。原告や被告人が裁判官の前に初めて立った日から二五年後に最終判決が
出ることも、めずらしくない。
 弁護士を見つけるのも簡単なことではない。弁護士不足から、弁護料も高くなる。一九八六年現在、
弁護士会に所属している者の数はわずか一万三一六一人である。言いかえれば、日本の弁護士の数は
人口九二九四人に対し一人ということになる。アメリカでは三六〇人に対し弁護士一人、英国では
八七二人、西ドイツでは一四八六人である。

///////////// 原書1989年刊 ///
499 ◆znwiARPvOs :2012/12/21(金) 21:44:26.09 ID:8t2x7JmH
 
/// 法を支配下におく 51 //////

 訴訟手続きが開始されてからでも、原告は和解に切り換えるよう強い圧力をかけられる。
裁判官はほぼ例外なく、時間と費用の節約になるから、示談・和解にするようにと訴えつづける。
あえて、原告が法廷に明確な裁決を出すよう執拗に求めつづけると、裁判官に非協力的だから
不利な裁決を出されてもやむを得ないと思うように、と言われることにもなる。裁判に訴えて、
ことを解決しようとするのは、倫理的に劣る態度だとするところが、裁判官たち自身にもある。
このような状況だから、なぜ日本人が訴訟に持ち込まないか、裁決が出るまで頑張らないかを
理解するのは難しくない。いざ意を決して提訴しても、つのるのは裁判に対する不信感だけである。
日弁連の調査によれば、裁判を経験した人びとの大半が裁判官は「社会の実情を知らない」と
感じており、審理の過程で十分に訴訟事実を聞いてもらえたかったと述べている。

////////// 早川書房 ///
500 ◆znwiARPvOs :2012/12/22(土) 15:15:07.95 ID:/8ZRSAud
 
/// 法を支配下におく 52 /////////

 日本国民から訴訟という手段をほぼ完全に取り上げてしまうほどの、凄まじい力が<システム>に
あるとすれば、政府に反対して私人としての個人が行動を起こすなどということは、実質的に
不可能だと考えても別に驚くには当たらない。最高裁には、戦後の憲法の定めによって、民主主義を
護る手段として違憲審査権が与えられているが、最高裁はその行使を拒んでいる。この事実に
相まって、政府機関が広範な社会政策を遂行する際の広範囲に及ぶ公権力(=行政権)があるため、
官僚の活動はこれまで司法の違憲審査の対象からほとんど完全にはずされてきた。活動家が行政の
決定に対し訴訟に持ち込んで対抗しようとすると、官僚たちはそれを"過激"な行動であり、国の
政策決定を妨害しようとする暴力的な行動だとみなすのである。

///////////// 篠原 勝 (翻訳) ///
501 ◆znwiARPvOs :2012/12/23(日) 16:33:53.56 ID:JcQre1cQ
 
/// 法を支配下におく 53 /////////////

 官僚には、政府が運営する司法研修所入所試験、つまり司法試験と司法修習期間とを通して、
司法の人材を思うようにつくりあげる機会がたっぷりある。修習生は注意深く観察され、
検察官に向くとみなされた者は、弁護士や裁判官になる運命の仲間には知らされないで、
ひそかに特別教育を受けるのである。検察官候補生は幹部検察官の自宅に招かれ、自動的に
検察の特定の幹部人脈に組み込まれる。その結果のひとつとして、上から統制しやすい厳格な
検察のヒエラルキーができあがる。

///////////// 945円(税込) ///
502 ◆znwiARPvOs :2012/12/24(月) 16:08:07.85 ID:UhEvoi4z
 
/// 法を支配下におく 54 /////////////

 裁判官候補生も政治的な傾向を勘案しながら入念に適性が審査され、現代の自由主義的な
傾向に共感を示す修習生は選り除かれる。さて弁護士はといえば、司法研修所は、あまり自信に
あふれる弁護士を作り出さない。前述の野田は、こう述べている。

  日本の弁護士は、裁判官の前でその仕事にふさわしい独立の気概をまったく示さない。
 日本の弁護士のおかれている環境は、だれもが政府は善だと考え、率先して個人的行動を
 起こすのは侮蔑すべきことだと考える人びとの住むところである。このため、公判中、
 つねに彼は劣等感に悩まされる。一部の弁護士は、まるで自分の側に好意的な裁決を出して
 くれるよう嘆願するがごとく、裁判官に対して非常なる敬意を示し、法廷外では、司法に
 対し根拠薄弱な不信感を示す。

 実際には、いささか不信感を抱いても当然といえそうな根拠もあるようだ。

/////////// K.V.ウォルフレン著 ///
503名無しさんの主張:2012/12/25(火) 22:24:38.75 ID:???
●鳩山邦夫法相「日本は和の文明」と法の範囲外での当事者による交渉解決を示唆
 2008/09/05 11:54
 新司法試験の導入などで今後増え続けると予測される弁護士人口について、
鳩山邦夫法相は4日の閣議後会見で「将来、国民700人に弁護士が1人いる
ことになるが、それだけ弁護士が必要な訴訟国家になったら日本の文明は
破滅する」と述べ、弁護士の急激な増加は望ましくないとの見解を示した。
 日本弁護士連合会が行った弁護士人口の将来予測によると、平成19年の
弁護士人口は2万4840人で弁護士1人当たりの国民数は5142人だが、49年後の
68年には弁護士人口は12万3484人となり、弁護士1人当たりの国民数は
772人になるとしている。
 鳩山法相は「わが国の文明は世界に誇る和を成す文明で、何でも訴訟でやればいい
というのは敵を作る文明だ」と述べた。さらに「そんな文明のまねをすれば、
弁護士は多ければ多いほどいいという議論になるが、私はそれにくみさない」と明言した。
 鳩山法相は8月31日の記者会見でも、司法試験の合格者を年間3000人程度
とする政府目標について「多すぎる。質的低下を招く恐れがある」との持論を
述べており、一連の発言は今後論議を呼びそうだ。
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/trial/82533

●鳩山邦夫法相 "取り調べの録音・録画義務付け"に反対 「日本、犯罪天国の道に入る」
 2008年6月3日
・鳩山邦夫法相は3日午前の記者会見で、取り調べの録音・録画を全面的に義務付ける
 民主党提出の刑事訴訟法改正案を強く批判し、「取調官と容疑者の心の通う会話の
 中から真実が解明されてきた。全面可視化すれば、真実の解明が難しくなり犯罪が
 立証できず、日本が犯罪天国の道に入る」と述べた。
http://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp3-20080603-367701.html
504名無しさんの主張:2012/12/26(水) 04:40:15.39 ID:1S4h8was
裁判官は憎しみのたいしでしかない。
心証なんかで判決を変えるのは公平な裁判じゃない。
505 ◆znwiARPvOs :2012/12/26(水) 20:55:14.18 ID:FCy4LoHx
 
/// 法を支配下におく 55 /////////////

    従属する裁判官

 世の中を現状のままで受け入れることに徐々に慣らされてきたため、日本人は比較的、
司法当局のいいなりになりやすい。裁判官自身もほぼ同じように柔順で、みずからの権威が
侵されるままにしてきた。戦後の裁判官は、理論のうえでは、行政の統制から独立しており、
同僚の裁判官のみが彼らを裁けるとされている。ところが、米占領軍当局が慎重に引いた
司法と行政との間の境界線が、占領が終わったとたんに、注意深く取り除かれたのである。
それ以来、行政官僚が徐々に司法官を制御してきた。現在では、再任資格や昇進についての
官僚からの意見に対する恐れが、戦前と同じくらい重く裁判官にのしかかっている。

/// 「日本権力構造の謎」<上> ///
506 ◆znwiARPvOs :2012/12/27(木) 21:24:52.44 ID:/Nlum58g
 
/// 法を支配下におく 56 /////////////

 官僚統制の中心は、本来、まったく別の目的のために設置された最高裁事務総局である。
戦後の制度では、すべての裁判所は自治・自律を原則にしており、これを保証するため各裁判所の
運営全般は判事の手に委ねられ、この自治性を守るため、それぞれの裁判所に事務局が設けられた。
最高裁事務総局も本来は同じ目的で設置された。一方、司法行政の最高主体は、最高裁の
裁判官会議にある。ところが、後者の権限はしだいに形式上だけのものとなり、実権力は
事務総局に移ってしまった。

/////////////// 原書1989年刊 ///
507 ◆znwiARPvOs :2012/12/28(金) 21:06:47.59 ID:7Sz3YE7f
 
/// 法を支配下におく 57 /////////////

 一方、下級裁判所のレベルでは、裁判官が裁判実務に専念できるよう、司法行政の雑務は裁判所の
所長にまかせるよう奨励されてきた。一九五五年に、最高裁は全国の司法行政を一括統合するために、
下級裁判所事務処理規則を改正した。その結果、各裁判所行政の最終的な権限は、"所長"および
新しく考案された常置委員会に委ねられることになった。つまり、結局、これらは最高裁事務総局
によって制御されることになったのである。現在、最高裁事務総局の司法官僚群が日本の司法全体を
監督している。裁判実務に携わる裁判官ではないこうした官僚が、裁判官の任命、昇格人事、
給与の決定、解任を牛耳っているのである。最高裁事務総局は、下級裁判所に関するあらゆる情報や
資料を独占でき、規則制定権や裁判官人事政策などを通して、着実に司法への掌握を強めてきた。
事務総局はまた、司法研修所をも実質的に完全に掌握している。

////////////////// 早川書房 ///
508 ◆znwiARPvOs :2012/12/29(土) 21:03:01.72 ID:yjX//oFi
 
/// 法を支配下におく 58 /////////

 この重大な権力の移行は、それほどの困難もなく成し遂げられた。法の番人としては最高の
地位にある判事も、官僚にはかなわない。最高裁の判事一五人のうち三分の二が生え抜きの
裁判官ではなく、多くが各省庁の官僚0Bである。彼らは短期問しか判事職を務めない。
(最高裁判事の三分の二は裁判官の経験者を充てるという法の規定は、実際には実行されていない。
九〇年三月現在、最高裁判事一五人中、公式には"裁判官出身者"と称せられる六人のなかの
たった二人が実質的に裁判官の実務経験者である。ほかの人たちは、実際には"司法官僚"である)。
言いかえれば最高裁判事は、司法行政に関してかなり知識不足の人物か、あるいは司法官僚
そのもの、のいずれかである。旧憲法下で教育を受けたキャリアの裁判官が多数、戦後考えを
変えることなく、ふたたび判事席に戻った。また一方、占領終了後の早い時期に最高裁事務総局の
要職を占めた大半が(戦前の思想が)骨の髄までしみこんだ旧司法省の著名な官僚だった。

/////////// 篠原 勝 (翻訳) ///
509 ◆znwiARPvOs :2012/12/30(日) 16:02:56.18 ID:t+/xnXFv
 
/// 法を支配下におく 59 /////////////

これら旧官僚は、終戦に続く数年間、大規模な機構改革に頑強に抵抗したが、占領軍当局と、
戦前の大審院(最高裁に相当)出身の民主的裁判官との連携プレイによって制圧された。
その後何年か、改革派と伝統派の間に激しい衝突が続いたが、一九五〇年に、反左翼強硬派の
田中耕太郎が最高裁長官におさまった頃には、すでに戦後の司法は今日の様相を呈しはじめていた。
一九五四年には、戦前の"思想統制"措置や判決に強く共鳴し、長く思想検事を務めた池田克の
ような人物が、最高裁判事に任命されるところまでいっていた。池田はその後一〇年間在任した。
また、一九三〇年代末から四〇年代初頭に"思想犯"の告発に重要な役割を果たした戦前の
法律家・石田和外も、一九六九年に最高裁長官に就任している。

//////////////// 945円(税込) ///
510 ◆znwiARPvOs :2012/12/31(月) 21:30:29.22 ID:daovV4d5
 
/// 法を支配下におく 60 /////////////

 最高裁事務総局は、司法官僚のいわゆる"エリート・コース"である。典型的な司法官僚の
キャリアは、この事務総局七局のうち、いずれかの局付判事補からはじまる。ほとんどきまって
東大か京大の卒業生であり、在学中に司法試験に合格しているのが理想的である。学閥に加えて、
姻戚関係――たとえば事務総局あるいは検察庁の高級官僚の娘と結婚を通して形成される閨閥に
つながっていることが多い。このような有利な地歩にある事務総局のキャリア官僚は、日本の
司法界の頂点にまで昇れる特権に恵まれている。

/////////// K.V.ウォルフレン著 ///
511名無しさんの主張:2013/01/01(火) 05:26:10.47 ID:JByKbZ+j
国家非常事態が進行中! 1216不正選挙によって日本の政治機能がハイジャックされています!
クーデターを黙認し有権者を欺き国会に居座っている過半数の議員を政治犯として糾弾すべきです!


国家非常事態が進行中! 1216不正選挙によって日本の政治機能がハイジャックされています!
クーデターを黙認し有権者を欺き国会に居座っている過半数の議員を政治犯として糾弾すべきです!


国家非常事態が進行中! 1216不正選挙によって日本の政治機能がハイジャックされています!
クーデターを黙認し有権者を欺き国会に居座っている過半数の議員を政治犯として糾弾すべきです!
512 ◆znwiARPvOs :2013/01/01(火) 10:20:00.26 ID:NrMVnWKO
 
/// 法を支配下におく 61 /////////////

 戦前の司法省の役人にかわって、この種のエリートがしだいに地裁所長や高裁長官に任命
されている。最高裁の全判事の約三分の一がこれらの地位から上がったものである。このように、
日本の司法は、司法官僚の特権グループが裁判実務に携わる判事を支配するという、戦前の
体系にしだいに逆戻りしてきた。この特権グループは法廷実務の経験に欠けるという批判に
応えて、彼らが高い役職すべてを独占しないよう調整された。だが、最高裁判事の選任に
あたっては、いまだに事務局経験者のほうが裁判実務経験者よりはるかに多く任命されるのである。

/// 「日本権力構造の謎」<上> ///
513 ◆znwiARPvOs :2013/01/03(木) 10:40:29.06 ID:F6mTphJZ
 
/// 法を支配下におく 62 /////////

 最高裁は、下級裁判所が出した政府に不利な判決を覆すという定評がある。また、左翼の
デモを規制する警察力を規制した判決、国鉄職員や郵便局員など現業公務員のスト権を認めた
判決なども、最高裁が破棄した。最高裁が極秘裡にやったことで露呈してしまった例もある。
たとえば労働や医療分野の裁判で、時として最高裁が下級裁判所に望ましい判決を指示する
ことがある。一九八三年一二月には最高裁の事務総局が全国約四〇件の水害訴訟担当裁判官を
召集し、国の河川管理の手落ちに関する判断規準などについて詳細な「民事局見解」を内示
していたことが、一九八七年に明るみに出た。
 最高裁は、一般的な刑事事件では人権擁護の理想にそった配慮を示したりもするが、行政訴訟や
政治的論争問題となると、きわめて消極的だという定評がある。

///////// 原書1989年刊 ///
514 ◆znwiARPvOs :2013/01/05(土) 17:27:19.19 ID:8rf9DA++
 
/// 早川書房 ////////////////////

 カレル・ヴァン・ウォルフレン(Karel Van Wolferen) (著)、篠原 勝 (翻訳)、
 原著1989年発行、邦訳 早川書房1990年発行
 「日本/権力構造の謎」 The Enigma of Japanese Power  日本 権力構造の謎〈上〉

単行本: ¥ 2,447(税込) ISBN-10: 4152034475 ISBN-13: 978-4152034472
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515 ◆znwiARPvOs :2013/01/06(日) 18:32:59.03 ID:5IW6tMxz
 
/// 法を支配下におく 63 /////////

    青法協との戦い

 日本のトップにいる判事たちは、司法官僚が自由主義的な裁判官を地方へ左遷したり、昇進や
給料で差別しても、なんの手も打たなかった。最高裁事務総局は、このような差別をしている
ことは認めたものの、理由を明かすことはできないと主張した。その影響は、青法協をめぐる
一連の論争に明確に現れていた。青法協は、一九五四年に憲法改定が政治問題になった時、
現行憲法を守る目的で学者一〇七人と法律家一五七人その他六人、合計二七〇人によって設立
された。(憲法改定は、支配階級エリートの数派が熱望しているが、同様の熱心さで反対し、
この問題は高官のだれにもまかせられないとする人びとのグループがある)。

/////////// 早川書房 ///
516 ◆znwiARPvOs :2013/01/07(月) 21:13:39.45 ID:WPl4pWwP
 
/// 法を支配下におく 64 /////////////

 一時、青法協の会員には二三〇人の判事がおり、前に述べた重要な公害裁判への世間の関心を
喚起するうえでひとつの役割を果たした。一九六九年は、札幌地裁の所長が、自衛隊の合憲性を
問う訴訟の取扱いをめぐって、青法協の会員と目される同地裁の判事に書簡を送り、叱責する
といういわゆる平賀書簡事件が起こった。独立しているはずの司法に、行政官がこれほどあからさまに
介入したのははじめてで、青法協の会員はそれを警告と見た。二つめの警鐘は、ある地裁判事の
再任拒否という形で現われた。不祥事に関係のない裁判官に対しこのような処置が取られたのは、
はじめてのことだった。このような解任は憲法違反のはずだが、なんの説明もされなかった。
青法協の会員である他の裁判官へのみせしめだろうというのが、大方の見方だった。一九七一年には、
岸盛一最高裁事務総長が「裁判官は政治色をおびた団体への加入をつつしむべきだ」と述べ、
つづいてさらに警告が発せられた。しかし、いずれも骨法協を名指しすることは避けていた。

///////// 篠原 勝 (翻訳) ///
517 ◆znwiARPvOs :2013/01/10(木) 20:57:32.02 ID:B/H+LJQh
 
/// 法を支配下におく 65 ///////////

 一九六〇年代後半に、青法協の影響によるとされる"偏向判決”を多くの雑誌が批判したのだが、
どれも記事の趣旨は似かよっていたので、情報源は同じではないかと思われた。これらの記事は、
正規の法でない公安条例にもとづく、検察側の活動家学生に対する拘置請求が却下される割合に
抗議するものだっった。ことに雑誌『全貌』は青法協を「容共団体」――一部の会員については
たしかにそういえる――と呼び、「裁判所の共産党員」という特集を組んだ。最高裁はこの雑誌を
資料として各地の裁判所に配布したのである。このように商業誌の記事や保守的な法律家の
非公式見解は、青法協に「革命的」団体というレッテルを貼ることで一致していた。だが、それが
本当なら、青法協の会員の中に、当時の現職の東大総長をはじめ著名な東大の教授、司法試験
合格者の半数、そして国会議員数人もいるのに、どうして日本に革命が起こらないのか不思議だと、
ある専門家は述べている。

//////////////// 945円(税込) ///
518 ◆znwiARPvOs :2013/01/12(土) 20:01:54.15 ID:vyXh3bQf
 
/// 法を支配下におく 66 /////////

 一九六八年に、国家公安委員長が「裁判所は、警察にもっと力を貸してもらわねばやっていかれない」
と発言したのをきっかけに、閣僚も動きはじめた。一九六九年三月、西郷吉之助法相が閣議で
「あそこ(裁判所)には手が出せないが、もはやなんらかの歯止めが必要」と述べた。当時は急進的な
学生運動による、大学の建物占拠などが起こり、支配階級のエリートを激怒させていた。
 その後、事務総局で働いていた判事補(したがって"エリート・コース"にいる)は青法協から
脱退するよう勧告され、一〇人の判事補がそれに従った。同様の勧告が全国の地裁でもあった。
一九七〇年四月、岸盛一最高裁事務総長が、具体的に青法協の名称にはふれずに、同協会への加入に
反対する旨の警告を出した。右翼団体もこのキャンペーンに加わり、国会の裁判官訴追委員会に
青法協の会員裁判官を訴追するよう求めた。

/////////// K.V.ウォルフレン著 ///
519 ◆znwiARPvOs :2013/01/14(月) 15:33:50.94 ID:1NKXOesC
 
/// 法を支配下におく 67 /////////////////

 日本の裁判体系の管理者たちの企図を脅かすと目された団体に対して、ここで展開された
処置は、まことに典型的である。正規の審問はいっさいおこなわれなかった。大体において、
具体的な団体名は言及されず、会の加入に関しての明確な指示も出されなかった。言論の自由を
侵すことになるからである。だが、青法協会員が自分の行動を不穏当だと感じ、脱会せずには
おれないような"風潮"が一部の報道機関の協力を得て、作り出された。これとは別に、青法協の
会員であると、報酬額、昇給率、昇進の機会で差別される危険を背負うことになる。

/// 「日本権力構造の謎」<上> ///
520池田大作:2013/01/14(月) 16:16:56.49 ID:9Cm2jznh
創価諸君よ!
田浦本部横須賀桜山支部の偉大なる男子部
高橋裕之氏が1月31日の宝くじ
及びグリーンジャンボ宝くじで1等・前後賞が当たるように
また女子部と結婚成就と障害者年金1級受給と健康とご長寿と貯金残高20億円と刑事権力から護り抜く
祈りを毎日30分しっかりと高橋裕之氏に題目を送って行こうではありませんか!横須賀総県創価学会員は喜んで祈るに祈っていこうではありませんか!
また女子部は何が起きても疑うことなく高橋裕之氏について行きなさい
いいね!
創価学会名誉会長
池田大作
521 ◆znwiARPvOs :2013/01/17(木) 20:55:04.13 ID:o0CKtWNE
 
/// 法を支配下におく 68 /////////////

   脅える裁判官

 司法の独立性について、戦前の体制における最大の欠点は、たとえば、不従順な裁判官は
格下げして不本意な裁判所に左遷するなど、さまざまな方法で圧力をかける中央行政官の
支配下にあったことである。今でも、日本の司法界の状況に関心を持つ者が一致していることは、
三年ごとの審査で決まる昇進および配置転換をめぐる不安から、徐々に裁判官が公平さを
失いつつあるということだ。裁判官は、一九五〇年代に導入された非公開の評定制度によって
評価される。これには、一定期問内に処理した裁判件数が考慮の対象になり、件数には和解手続きに
切り換えられた公訴取下げの案件も含まれる。

//////////// 原書1989年刊 ///
522 ◆znwiARPvOs :2013/01/19(土) 19:37:45.13 ID:EmMyfx1A
 
/// 法を支配下におく 69 ///////////

 裁判官は、所属裁判所の所長が、未決の訴訟事件を処理するスピードによって彼らの成績を
評価するのを知っているから、和解を勧めても拒否するような気にくわない原告の訴えは
十分に聴こうとしない。また、彼ら自身の社会体験上、知らない分野の説明を聴くだけの
忍耐力も持たない。たとえば、暴力団の脅迫テクニックに関しては無知なことが多いし、
労働災害の訴訟では、原告は危険な場所だと知って就職したのだから、危険ははじめから
承知していたはずだとほのめかすのは周知のことである。現場検証はめったにおこなわれない。
実施すると、事務局官僚のひんしゅくを買うのが目に見えており、昇進のチャンスが遠ざかる
ことになるからである。

////////////////// 早川書房 ///
523 ◆znwiARPvOs :2013/01/22(火) 20:54:21.20 ID:mh0SAn54
 
/// 法を支配下におく 70 /////////////

 裁判所の雰囲気がこのような状態なので、行政官僚の気に入られたいと思うなら、とても
良心に従ってばかりはいられないと、環直彌・元大阪高等裁判所の判事は述べている。官僚の
評価基準は司法のすみずみにまで適用され、基準にかなう裁判官は、行政職に就くチャンスに恵まれ、
ヒエラルキーを昇ることができるのだ。おもに己の良心に従って裁判をおこなう判事は、昇進
しないのが普通である。
 このように、日本の法曹界は高度に政治化されている。日本の有権者には、望むならば、
衆院選の時に在任中の最高裁判事を否認できるという、異例の機会が与えられている。だが、
あらためて言うまでもないが、この投票で最高裁の裁判官が罷免されたことは一度もないし、
そもそも有権者の大半は、いったい何についての投票なのかさえ判っていない。この"直接民主主義"は
純粋に儀式的なそえ物なのだが、日本の<システム>の作用のしかたと司法の特性とについて
完全に間違った見方をさせてしまう、問題のある事象のひとつである。

///////// 篠原 勝 (翻訳) ///
524 ◆znwiARPvOs :2013/01/24(木) 20:51:11.62 ID:wrd1ncJj
 
/// 法を支配下におく 71 /////////////

  裁判官役を演じる検察

 刑事事件においても、裁判所は、本来差しのべるべき保護の手を出さない。7章で述べた
日本の法執行の際の牧歌的ともいえる寛大さには、左翼活動に対する時の単なる過酷さとは
ちがった、もっと陰湿な暗さが秘められている。ごくまれな場合を除き、日本の容疑者の運命は
裁きの場で決められるのではない。裁きの実質部分を構成するのは、検察での調査と容疑者の
品定めである。そして、7章で、悔恨の情を示すことが非常に重要視されるのを見たように、
<システム>の代表者に対する容疑者の態度が罪状そのものより重要視されることが多い。
 先に見た通り、検察官は、実質的になんの制約もなしに自由裁量で起訴するか否かを決定できる。
検察が有罪になるだけの証拠が十分にないと判断した場合には、起訴しないのはいうまでもない。
だが、どう決めるにせよ、手の内にある証拠や容疑者の罪状に対する個人としての心証に関係なく、
検察は自分たちのやり方、あるいは上役のそれにしたがって、自由に決めることができる。

//////////////// 945円(税込) ///
525 ◆znwiARPvOs :2013/01/25(金) 21:29:22.51 ID:lRGoZ47A
 
/// 法を支配下におく 72 /////////////

    絶対確実な<システム>の守護者

 できるかぎり人びとを刑務所に送らないで、しかも暴力犯罪の発生率を他の産業国より低く
抑えている国の司法体系を批判するのは、難しいことではある。たしかに、この称賛すべき
成果は認めなければなるまい。また、日本の検察官は、司法−官僚界で通用している公正さの
意味の範囲内で、あくまで慎重で公正であろうと努力している。彼らに自分たちの官職の
権威を保とうとする義務感があることには、疑う余地がない。
 日本の検察官の問題な点は、いったん起訴を決めると、誤りを指摘されても認めようと
しないことなのである。ある専門家が言うように「検察官は神になろうとする」のである。
日本の検察官は、欧米諸国の検察官と比べて、無罪をよしとしない気風がはるかに強い。
自分の権威にかかわることだし、ひいては官僚機構全体のそれにかかわることになるからだ。

/////////// K.V.ウォルフレン著 ///
526 ◆znwiARPvOs :2013/01/31(木) 21:38:47.68 ID:ckCeAx5Z
 
/// 法を支配下におく 73 /////////////

 だが、それほど心配することはない。彼らが起訴すれば、有罪判決率は九九・八パーセントである。
一九八六年に刑事訴訟の第一審で裁かれた者六万三二〇四人のうち、無罪になったのはわずか六七人
である。これではどこからみても検察官が事実上の裁判官であることを示している。しかしすでに
見たように、(周囲の事情に)目をつむって判断するというのは検察官には相容れない概念であり、
社会的配慮からいつでも公正さの秤に手心を加えることもする。慈悲心もあり、公平感もあるが、
検察官も人問だから間違いは犯す。また、<システム>に恩義があるので、意識的にしろそうでない
にしろ、思想的な動機を持つ者には偏見を持つにちがいない。信じられないほど高い有罪判決率に
ついては、警察や検察が職能をきわめて上手に遂行した結果であると、日本の司法当局は説明する。

/////// 「日本権力構造の謎」<上> ///
527 ◆znwiARPvOs :2013/02/05(火) 21:13:35.33 ID:ia+UV3eG
 
/// 法を支配下におく 74 ////////////

しかし、このことは、検察官が誤りを犯さないことを公式に保証していることになるだろう。彼らも
人間的な間違いを犯すことがあるということは、考慮されていない。検察官の誤りを認めるという
ことは、彼が代弁する恩恵的な社会秩序という虚構が覆されることになるからである。こうした現状は、
検事が法廷に送った容疑者にことごとく裁判官が有罪判決を出した戦前となんら変わらない。検察官が
公益の代表者として磯能する、という制度的な保証は存在しない。一般市民で構成される正規の
検察審査会は実質的には検察庁の支配下にあるので、(たとえば、政財界の要人にかかわるスキャンダルに
関して検察が不起訴にした事件の場合などは)審査会が起訴相当とした審査報告書が無視されることもある。
日本の検察権力の優位性は、一九二〇年代から受け継がれている。当時は、まるで裁判官が検察官の召使の
ように考えられるほど、検察が司法界を支配していた。法廷では検察官が裁判官とともに高座についた。

////////////// 原書1989年刊 ///
528 ◆znwiARPvOs :2013/02/07(木) 20:54:18.86 ID:XbNwb82X
 
/// 法を支配下におく 75 /////////////

一九三〇年代には、"国体の本義"の思想を推進し、政治家も含め、この思想を脅かす危険性があると
みなされた者との闘いに検察官職が主要な役割を果たした。彼らのうちの一人、平沼騏一郎は二〇世紀の
日本の社会統制の歴史において、山県有朋についで重要と目される人物である。彼は、"天皇の意思"を
遂行する官僚の道徳的優位性を狂信的に信じる、国家主義的な右翼の"大御所"として知られていた。
平沼は、マルクス主義、自由主義、民主主義など外国の異説に抗して戦い、彼の一派とともに終戦まで
司法省を牛耳っていた。彼は、前例のない九年間という長期間、検事総長を務めたのち、司法大臣、
枢密院議長、そして総理大臣(一九三九年の八カ月間)、その後、内務大臣を経てA級戦犯に指名された。
そして一九五二年に病気のため仮出所した後死亡している。戦後、新憲法に改められたにもかかわらず、
平沼の信奉者たちの影響力によって、法の番人としての司法のあり方を根本的に変えることが
できなかったのである。

////////////// 早川書房 ///
529 ◆znwiARPvOs :2013/02/10(日) 17:20:06.64 ID:EDFUVvKX
 
/// 法を支配下におく 76 ///////////

 平沼は、政治化した日本の検察官の典型であった。自分が軽蔑する政党を操作し、収賄事件に
関わった政治家には有罪判決を下して、強制的に議員を辞任させると同時に、自分の政治的キャリアの
追求に彼らを利用した。戦後、彼のやり方を真似たのは馬場義続である。馬場は、自民党の実力者・
河野一郎をやり玉にあげておいて、懇願されると調査をやめるなどして恩に着せ、河野の政治力を
利用して検事総長にまでなった。そして今日、ふたたび検察官が実質的に司法官界内の最強勢力
となった。理論的には、検察庁は法務省に付属するが、同省の課長職以上は検事と少数の判事が
独占しており、同省の実務上の長である次官職は、必ず検察官によって占められている。そして
彼らはいつもその上にいる検察界の上位序列者の何人かに従属しているのである。

/////////// 篠原 勝 (翻訳) ///
530 ◆znwiARPvOs :2013/02/12(火) 20:36:51.12 ID:cq8U2Yul
 
/// 法を支配下におく 77 //////////

 検察のほとんど無敵ともいえる地歩のために、誤審裁判はあとをたたないのではないかと考えられる。
日本では、公の場で論駁されると顔に泥を塗られることになりかねないからである。法学者・野田が
指摘するように、検察の活動は"疑わしきは罰せず"の原則に従っていない。彼らに面目を失わせる
ようなことは裁判官もしない、ということを検察は知っているのだ。法廷において、弁護士が、
検事ばかりでなく裁判官をも敵側とみなすこともよくある。さらに、裁判官の下した判決が控訴審で
覆されては株が下がるので、検察側の意向に沿うほうが得策だということもある。
 きわめてまれではあるが、無罪判決が出た場合には、日本の検察の寛大さはどこかに消え去り、
彼らは控訴しつづけ"検察職の権威"を保つため執拗に戦いつづける。法の権威という考えにはまったく
関係がないところで、"法務の権威"がよく口にされる。関係があるのは、"確定判決の権威"という
表現である。この名分をかざして検察局は再審を長いこと拒否しつづけてきた。

//////////////// 945円(税込) ///
531 ◆znwiARPvOs :2013/02/14(木) 20:42:52.83 ID:4tU0LYgg
 
/// 法を支配下におく 78 /////////////

 有罪判決を下す際に提出される情況証拠は、薄弱なものであることが多い。また、日本の検事の
勝訴度がどれぐらい自白に依存しているかは、すでに見た。非常に鋭い知覚で日本について
書いている政治学者、チャーマーズ・ジョンソンは言う。

   日本の警察、検事、裁判官は、自白を"証拠の王"と考える。自白は、あらゆる検事が起訴に
  先立って欲しがる決定的な証拠であり、それはまた、検事のそれまでの努力が法廷でどれだけ
  裁判官に認められるかを決める、唯一もっとも重要な要素である。内容の詳しい自白に比べれば、
  情況証拠は明らかに二の次である。このように検事と裁判官が自白をより重視することから、
  日本の警察が、"客観的"に事件を証拠だてするよりも、自白を得ることに力を注ぐことも
  それほど驚くことではない。

///////// K.V.ウォルフレン著 ///
532 ◆znwiARPvOs :2013/02/16(土) 09:58:12.04 ID:CHyHOBC9
 
/// 法を支配下におく 79 /////////////

 占領当局が日本の慣行を変えようと試みるまでは、自白――多くの場合、だましたり、時には
拷問によって引き出された――が、検事側が勝った事件のほとんどすべての根拠になっていた。
占領時代が終わってからは、自白が決め手の有罪判決がごく大ざっぱに見積もって全有罪判決の
六五〜七五パーセントを占めて、ふたたび幅をきかせるようになった。7章で見たように、これは
「自己に不利益な唯一の証拠が本人の自自である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない」
とする憲法(第三八条)の規定に違反する。さらにまた、被告が撤回している自白が後に証拠として
使われることも多い。この場合は、裁判官の姿勢がきわめて重要になる。検事側のこのやり口を
はばもうとする裁判官はほとんどいない。たとえば、一九八七年一二月一六日、東京地裁の反町宏
裁判長は住居侵入、強盗・婦女暴行未遂の罪に問われた被告に無罪を言い渡し、容赦なく自白を
引き出す検事のやり方を公然と批判した。筆者が判事や弁護士にインンタビューしてわかったのは、
一パーセントのさらに何分の一というごくわずかながら、検察側が負けたケースがあるのは、
自由主義的な裁判官が撤回された自白を証拠として認めなかったためだということだった。

/// 「日本権力構造の謎」<上> ///
533 ◆znwiARPvOs :2013/02/18(月) 20:46:49.68 ID:Lngv2vJt
 
/// 法を支配下におく 80 /////////////

    破れ鎧の高潔な騎士

 検事は、<システム>の倫理的極致を体現しなければならない。他の政府機関や省庁ではどこでも
汚職や不正事件があるのに、検察官は模範的な生活を送っているとよく言われる。このイメージが
保てるのは、すべての司法官僚が秘密主義に身を包んでいることも理由の一端だろう。この秘密主義の
ために、司法官僚や彼らが扱った名高い事件について調査しようとする学者は、ごく簡単なことでも
詳細を確かめることができない。裁判官と検事にとってなによりも重要なのは"司法の権威"を保つ
ことなので、彼らは互いの回顧録や事件記録を検閲し合う。彼らの鎧には一つだけ大きな裂け目があり、
彼らにも隠しおおせないことがある。それはスキャンダル事件に関わった政治家や官僚の扱い方である。

///////// 原書1989年刊 ///
534 ◆znwiARPvOs :2013/02/20(水) 20:34:07.45 ID:T4S8/JpF
 
/// 法を支配下におく 81 /////////////

 理論上は、個々の検事は自己裁量で職務を遂行することになっているが、実際には、有力な
政府高官や大臣、国会議員や地方自治体の首長などに手をつける場合には、捜査着手に先立って
予備報告書を書いて上部の同意を待たなければならない(「請訓」を求める相手は、高検検事長、
検事総長、法務大臣の三者)。この処分請訓という議論の多い検察庁内のいわば事務手続きに
よってチェックされた結果、捜査着手あるいは起訴の断念においこまれた政治汚職事件も多い。
起訴された場合でも、汚職に関わった政治家はたいてい無傷のまま出てくるし、官僚出身の
政治家は公的に体面が汚されることを心配しなくてもよい。

//////////////// 早川書房 ///
535 ◆znwiARPvOs :2013/02/22(金) 21:00:06.73 ID:4Y+Tg3nF
 
/// 法を支配下におく 82 ///////////

 ロッキード収賄事件以前の七年間、検察は、政治家の途方もない構造汚職についていっさい
なにもしなかった。その前の大きな事件、一九六八年の日通収賄事件で、検察庁の士気がかなり
大きくくじかれたのであろう。あの後、東京地検特捜部の検事の大半が地方にとばされたからである。
ロッキード事件も、当時の三木武夫首相が田中角栄をかばう手を打たないという意思表示をして
はじめて、本格的に捜査が開始されたのであった。
 同事件の詳細は最初に海外すなわち、米上院議員のフランク・チャーチが率いる(上院外交委
多国籍企業)小委員会の調査進行中に明るみに出たのだが、検察側は、日本の政治の渦に
巻きこまれて失った信望をロッキード事件によって少しは取り戻せるチャンスだと見てとった。
同時に、一部の検察官や自民党内の有力者のなかに、田中角栄は"日本の民主主義にとって危険な
"人物だとの考えを共有する者がいた。つまり、5章で見たように、ライバルたちが安閑として
いられないほど田中の力が強くなってきたのである。

/////////// 篠原 勝 (翻訳) ///
536名無しさんの主張:2013/02/24(日) 20:23:42.27 ID:???
★遠隔操作ウィルス事件続報 報道されない容疑者側の言い分から見えてくること

ビデオニュース・ドットコム NEWS(27分)
http://www.videonews.com/asx/news/news_619-1r.asx

 遠隔操作ウィルス事件で逮捕された片山祐輔容疑者を弁護人を務める佐藤博史弁護士が、2月21日、
片山氏との接見後に記者会見に応じた。片山氏と事件を結びつける決定的な証拠は何一つ示されていない
として誤認逮捕を主張する佐藤氏は、捜査手法の問題点や事件への疑問を語った。
 佐藤氏によると、警察は片山氏の自宅の鍵をあずかり、家に自由に出入りできる状態にあるという。
また、片山氏の母親から聞いた話として、自宅前にメディアが押しかけ自由に動けない氏の母親のために、
警察は日用品の買い出しなどの手助けをする一方で、母親に対して片山氏と親子の縁を切ると書かれた
調書への署名を求めてきたという。佐藤氏によると母親はこの要求を断ったという。
 4人が誤認逮捕され、うち2人に嘘の自白が強要された遠隔操作ウィルス事件では、警察が容疑者の
一人の父親に対して、親子の縁を切るとの調書に署名させるなどして、容疑者を嘘の自白に追い込んだ
ことが批判されている。
 また佐藤弁護士は、ウィルスのデータが保存されたメディアが埋め込まれた首輪を片山氏が猫に着けた
ことが疑われている点について、片山氏が江ノ島を去った1月3日の午後3:30以降にその猫が首輪をつけて
いない写真が見つかれば、片山氏無実の決定的な証明になるとして、写真の提供を呼びかけた。1月3日の
午後に片山氏が猫と接触した江ノ島の山頂付近では、大道芸が行われており、多くの観衆が写真撮影を
していたという。
 佐藤博史弁護士は、冤罪となった足利事件で菅谷利和さんの弁護人としてDNAの再鑑定を求め、
再審で無罪を勝ち取ったことで知られる。

http://www.videonews.com/news-commentary/0001_3/002676.php
537名無しさんの主張:2013/02/26(火) 21:06:11.76 ID:???
 
/// 法を支配下におく 83 /////////////

 自民党の政治家は互いにいがみ合っていることが多く、検事は、手を変え品を変え、相矛盾する
圧力をかけられることも多い。過去に大きな政治スキャンダルにまきこまれた人物を委員長に、
自民党の政務調査会内に司法の公正さを調査する特別委員会が設けられたケースのように、
自民党の有力者がかなり公然と反撃することもある。この委員会が的をしぼって見守っていたのは、
ロッキード疑獄を司法がどう扱うかということだった。

///////////// 945円(税込) ///
538 ◆znwiARPvOs :2013/03/03(日) 12:01:18.30 ID:SXvPB5DS
 
/// 法を支配下におく 84 /////////////

 政治腐敗問題に対する検察の取り上げ方がきわめて少数選別的な理由を、その事件がどれだけ
マスメディアで騒がれるかによる、と検察官は釈明する。つまり、世論が田中の逮捕を望んだから、
検察官も"現体制を維持"し、自分たちの信望を保つ行動に出たということである。その一方で、
その後のダグラス、グラマン贈収賄事件では、新聞の反応がそれほど激しくなかったので、
事件に関わった政治家の訴追までいかなかった、というわけである。五大全国紙に代弁される
"世論"は、日本の検事にとってこれほどまでに重要なのである。逆に、自分たちが追及すると
決めた事件に政治的な妨害が入る懸念がある時には、捜査中だという事実とともに、差し迫った
汚職事件を新聞が第一面で報道するのに必要最小限の情報を漏らす。

/////////// K.V.ウォルフレン著 ///
539 ◆znwiARPvOs :2013/03/05(火) 21:08:17.73 ID:DmWIweFR
 
/// 法を支配下におく 85 ////////////////

 自分の判断に対して、つねに"世論"を代表するとされる報道メディアの反応を気にする裁判官も
多い。弁護士も同様で、世論は法廷での裁決に反映されるべき神聖な制裁力として受け入れる
傾向がある。このようにして、青法協はじめ、他の日本の司法制度の批判者までが、田中角栄を
とことん追及する検察の執拗さを賞賛することになる。彼らは、(田中は高裁でも最高裁でも
勝てないという岡原昌男・元最高裁長官の言説に明らかに示されたような)政治的な偏見を
見過ごしてしまう。そしてまた、<システム>への脅威という仮想のもとに田中を処理するのに
使われた方法が、同じ想定のもとに、たとえば消費者運動にも使われるということには、まったく
気づいていないようだ。事実、消費者運動の評判を落としめる意図がはっきり見える事件が、
一九七一年の一一月に起こっている。本田技研の自動車に欠陥があると主張した日本ユーザーユニオンの
幹部が、逆に、同社を恐喝しているとして告発されたのである。

/////// 「日本権力構造の謎」<上> ///
540 ◆znwiARPvOs :2013/03/07(木) 20:40:55.85 ID:SeAc6efi
 
/// 法を支配下におく 86 ////////////////

    法による保護に代わるもの

 日本の新聞が社会的制裁役を演じるのは、日本の法制度に実際面で欠点があるためという
見方で捉える必要がある。「他の国の司法制度にも、ある程度は日本の法律にあるような限界は
あるが、法規範の違反に対する有効な制裁あるいは救済対策をこれほど広範に欠いている状態は、
他に見られない」と、この問題に詳しいあるアメリカ人は書いている。権力者は、刑事事件で
人を投獄する以外、法をあまり強制しえない。日本の裁判所には法廷侮辱罪を科す権限がない。

/////////////// 原書1989年刊 ///
541 ◆znwiARPvOs :2013/03/09(土) 17:17:41.74 ID:Sq/vJfL3
 
/// 法を支配下におく 87 /////////////

(裁判所は法廷の秩序を維持する権能はあるが、拘束されていない者をその意思にさからって
法廷に出廷させることはできない)。財産差し押えがせいぜい行使できる最高の制裁だが、
その場合でも有罪になった者が回避できる方法がいろいろとある。正規の法規に違反した場合に
科せられる罰則規定も、違反者が企業や他の大きな主要組織であれば、実際にはほとんど
発動されない。すでに指摘したように、日本の組織やその長たる人物がそれほどひどい罪を
犯さないのは、運わるく"一罰百戒"の一人に選ばれた場合、自分たちの評判に傷がつくからである。

/////////////////// 早川書房 ///
542 ◆znwiARPvOs :2013/03/11(月) 20:54:05.08 ID:0Pptp0+7
 
/// 法を支配下におく 88 /////////////

 一九八六年末に最高裁は近い将来、五七五ある簡易裁判所のうちの一四九を統廃合すると発表した。
簡易裁判所は、一般市民が手軽に法律手続きを利用できるようにと、戦後導入されたものである。
(刑事事件は)主として罰金刑以下にあたる軽徴な犯罪が扱われ、交通法違反などの略式裁判が
大半である。窃盗や横領などでも懲役三年以下の刑を言いわたすことができる。そのほか、訴訟の
目的額が九〇万円以下の民事訴訟も扱う。
 役所の目からみれば、あまり利用されていないこれらの裁判所は廃止して当然だろう。だが
こうした裁判所の管轄にあった地域の村人は、暴力団のような"プロの調停役"がどっとやって来る
のではないかと心配している。法の保護が十分にないところでは、力のある友達が必要になる。

///////////// 篠原 勝 (翻訳) ///
543 ◆znwiARPvOs :2013/03/13(水) 21:23:52.51 ID:ySRxIn8f
 
/// 法を支配下におく 89 /////////////

そして、法によらない調整に大きく頼る<システム>を前にして、名もなく、力もない普通の人は
身を護る個人的な関係が必要である。こう考えれば、日本社会における地元の"ボス"や国会議員、
暴力団員その他の"始末屋"の役割の説明がつく。なによりも重要なのは人脈だ、ということの
説明もつく。人と人とのつながりが、成功だけでたく、安全のためにも決定的に重要なのである。
また、日本人が、個人主義的な態度をとって社会から疎外される危険を冒さないようにする
理由も、ここにある。

//////////////// 945円(税込) ///
544 ◆znwiARPvOs :2013/03/15(金) 21:20:46.56 ID:7MwcXW4O
 
/// 法を支配下におく 90 /////////////////

 日本人は、自分たちの社会を統制する者も裁く者も含め、同胞が間違いを犯すことは知っている。
7章で指摘したように、彼らは恩恵のおしつけに対して冷めているところがある。<システム>と
その法的プロセスの基底にたっているこの伝統的な考えを、外国人に説明する際、破らは、ごく
"典型的な"日本人はこれを現実的には善として受け入れていると説明する。つまり暗に自分自身は
そうではないと考えているのである。

/////////// K.V.ウォルフレン著 ///
545 ◆znwiARPvOs :2013/03/17(日) 11:40:32.68 ID:Mj2N8FIv
 
/// 法を支配下におく 91 /////////////

 三四年間を刑務所で――そのうちの三一年間は死刑囚監房で――過ごした免田栄は、再審裁判で
無罪判決を勝ちとった。その後、インタビューした筆者に彼は、日本に正義があると思うかと
聞いた。彼はそう思わないと言いたげであった。最終的には無罪になったその事実自体が、免田の
考えが間違っていた証だと論じる人がいるかもしれない。正義の適用が三四年間も延期されたのは
正義の否定に等しいという論はさておくとしても、彼の無罪判決が出るまでには、司法の外側で
支援者が息の長いキャンペーンをたゆまず続けて、はじめて無罪になった。一九八○年代後半の
現在、このようなケースを日本の司法に委ねてはおけないと気づいた人道主義の活動家が、
約二五件の同じような受刑者にかわって戦っている。

/////////////////// 早川書房 ///
546 ◆znwiARPvOs :2013/03/18(月) 20:53:19.42 ID:YZKjCa7x
 
/// 法を支配下におく 92 /////////////

一九八七年一〇月には、拷問によって自白させられ、三三年間死刑囚監房に入れられていた
赤堀政夫が、支援団体の強力な訴えによって、再審を認められた。再審手続きの開始は、
司法がすでに彼の無罪を決定したことを意味する。だが、彼が自由の身となった再審判決が
出るまでには、その後一年三カ月かかった。ユーゴの政治家ミロヴァン・ジラスは、その国の
不公平さをもっともよく知っている国がもっとも公平な国であると言った。この尺度からいえば、
日本の<システム>にはあまり高い評点はつけられない。

・・・・

///////////// 篠原 勝 (翻訳) ///
547 ◆znwiARPvOs :2013/03/20(水) 14:55:29.01 ID:0J3U4hvZ
 
/// 早川書房 ////////////////

 カレル・ヴァン・ウォルフレン(Karel Van Wolferen) (著)、篠原 勝 (翻訳)、
 原著1989年発行、邦訳 早川書房1990年発行
 「日本/権力構造の謎」(上巻)  The Enigma of Japanese Power

ハードカバー: ¥ 2,447(税込) ISBN-10: 4152034475 ISBN-13: 978-4152034472
 http://www.amazon.co.jp/dp/4152034475/
 http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4152034475.html
 http://www.bk1.jp/product/00690461
 http://books.rakuten.co.jp/rb/item/432945/
 http://www.junkudo.co.jp/detail.jsp?ISBN=9784152034472
 http://www.7netshopping.jp/books/detail/-/accd/1100923648/subno/1

ハヤカワ文庫NF、945円(税込) ISBN-10: 4150501777  ISBN-13: 978-4150501778
 http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4150501777.html
 http://www.7andy.jp/books/detail?accd=18988933
 http://www.amazon.co.jp/dp/4150501777/
 http://www.bk1.jp/product/01055138
 http://books.rakuten.co.jp/rb/item/650744/
 http://www.junkudo.co.jp/detail.jsp?ISBN=9784150501778
 http://www.7netshopping.jp/books/detail/-/accd/1101172635/subno/1

//////賛発売中!///
548名無しさんの主張:2013/03/22(金) 21:59:56.34 ID:???
★「ホリエモン」こと「堀江貴文」の真実〜ロングインタビュー後編〜    1
2009年03月06日
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20090306_horiemon02/

GIGAZINE(以下、Gと省略):ブログにも書いていたのでわざわざこんなことを訊くのも、
野暮といえば野暮なんですけど、日本では裁判員制度がもう始まっていますが、
どう思われますか?今の現状として。

ホリエモン(以下、Hと省略):どう思っているかというのは?
G:全体的に、うまくいく、うまくいかないだろう、というところも含めてです。
H:まあ、うまくいくもいかないも、始まっちゃったものはなー、なかなかやめらんないでしょうね。
G:やっぱりあれはもう止まらないものだと思いますか。
H:むしろその裁判員制度を導入すべき部分っていうのは……実は日本の裁判員制度って
すごい中途半端なんですよ。
G:中途半端というと?
H:要は、重大事件にしか適用されないんですよね。殺人とか、銃刀法違反とか凶悪事件
みたいなものにしか適用されないから、それはそれで意義はあることなんだと思うのですけど、
経済事件とかそういうのも実は重要なんですよ。けれども、そういう視点が入ってこない
っていうのは、すごく残念なことですよね。国民はバカだからわかんない、っていうふうに
思われているんだと思いますよ。バカにすんなー、って言うべきだと思いますね。
ふざけんな、って。何で言わねーのかな、みたいな。
G:確かにそれはありますね。
H:だってアメリカの陪審員制は全部、刑事事件で被告が無罪を主張したら選べることに
なってますからね、被告が。陪審員制か、裁判官の裁判、どっちを選ぶかってのは被告が
選べるようになっていますし、陪審員のセレクトにも参加できます。だから非常にフェアな
仕組みだと思いません?
549名無しさんの主張:2013/03/22(金) 22:01:49.91 ID:???
★「ホリエモン」こと「堀江貴文」の真実〜ロングインタビュー後編〜    2

G:あと個人的に思ったのは、取り調べの方法ってなんか、明らかに日本はおかしい
じゃないですか。まず取り調べを警察が録音する義務がないから被告が何を本当は
言ったのかわからない。警察が勝手に作文しても誰もわからない。任意だと弁護士も
立ち会わせることがないから、誰もちゃんと取り調べを正しく行ったかどうかが証明できない。
任意で取り調べを行い、逆らえば逮捕するぞとか言って脅迫するのはダメなのに、
身内同士でかばうから警察は罪に問われない。特に刑事事件なんかはそのあたりが
ぐちゃぐちゃなので、そのあたりの法律も一緒に整備してから裁判員制度を実行するのかな
と思ったら、全然そのあたりは整備せずに、要するにまあ刑事が一人で好き勝手に
作文できるような環境のまま進んでいるじゃないですか、現状としては。
G:あと個人的に思ったのは、取り調べの方法ってなんか、明らかに日本はおかしい
じゃないですか。まず取り調べを警察が録音する義務がないから被告が何を本当は
言ったのかわからない。警察が勝手に作文しても誰もわからない。任意だと弁護士も
立ち会わせることがないから、誰もちゃんと取り調べを正しく行ったかどうかが証明できない。
任意で取り調べを行い、逆らえば逮捕するぞとか言って脅迫するのはダメなのに、
身内同士でかばうから警察は罪に問われない。特に刑事事件なんかはそのあたりが
ぐちゃぐちゃなので、そのあたりの法律も一緒に整備してから裁判員制度を実行するのかな
と思ったら、全然そのあたりは整備せずに、要するにまあ刑事が一人で好き勝手に
作文できるような環境のまま進んでいるじゃないですか、現状としては。
550名無しさんの主張:2013/03/22(金) 22:03:55.29 ID:???
★「ホリエモン」こと「堀江貴文」の真実〜ロングインタビュー後編〜    2

G:あと個人的に思ったのは、取り調べの方法ってなんか、明らかに日本はおかしい
じゃないですか。まず取り調べを警察が録音する義務がないから被告が何を本当は
言ったのかわからない。警察が勝手に作文しても誰もわからない。任意だと弁護士も
立ち会わせることがないから、誰もちゃんと取り調べを正しく行ったかどうかが証明できない。
任意で取り調べを行い、逆らえば逮捕するぞとか言って脅迫するのはダメなのに、
身内同士でかばうから警察は罪に問われない。特に刑事事件なんかはそのあたりが
ぐちゃぐちゃなので、そのあたりの法律も一緒に整備してから裁判員制度を実行するのかな
と思ったら、全然そのあたりは整備せずに、要するにまあ刑事が一人で好き勝手に
作文できるような環境のまま進んでいるじゃないですか、現状としては。
H:まあ、その通りですよ。それもすごい問題だし……。
G:あのあたりのことについて、なぜ誰も「問題だ!」と指摘しないのでしょうか?
H:でもね、一番問題だと思うのは、やっぱり、それはあの拘留制度にあると思うのですよ。
G:拘留制度と言うと?
H:拘留制度っていうのは、まあ日本の場合は捜査機関っていうのが決められてて、
強制捜査権を持つ団体ってのが何団体かあるんですよ。一番有名なのが警察、
そして検察、公正取引委員会、証券等常時監視委員会あとは厚生局とか入国管理局とか、
あと何個かあるんですよ、防衛省の警備局とかね。つまり、独自の捜査権限を持って
強制捜査できる団体があるんですよ。そこが捜査をして、逮捕なりをするわけですよ。
G:なるほど。
551名無しさんの主張:2013/03/22(金) 22:06:20.37 ID:???
★「ホリエモン」こと「堀江貴文」の真実〜ロングインタビュー後編〜    3

H:で、逮捕状を請求して逮捕状を示して、令状逮捕するんですけど、そうすると
被疑者を身柄拘束できるわけです。牢屋に閉じこめることができるわけですね。
その取り調べができる期限が、48時間とかって決められてるんですよ。身柄拘束から
勾留に切り替えるには、裁判所の許可を貰わなきゃいけないんです、裁判所から。
だから48時間以内に被疑者は全員、裁判所へ護送されるんですよ。そこで勾留の
手続きをとらされるんですね。一応そのときに質問されるんですよ。質問されて一応、
その、裁判官が判決を出すわけです。で、もう99.9%勾留が決まるんですけど、そこから
また10日間勾留されて、さらに10日間延長できるから、最大で48時間+10日間+10日間
延長で合計「22日間」勾留できるんですよ。政治犯の場合更に5日間延長できるんですけど、
まぁ通常は22日間の勾留ができる、と。その後、送検されて起訴されるけど、起訴
されると、更に起訴後勾留(2ヶ月間)ってのが認められてるんですよ。起訴後勾留も
自動的に1ヶ月毎に自動延長されます。
G:なんか、全然出られませんね。こうなってくると。(詳細は「勾留期間」を参照のこと)
H:そうです。で、起訴後勾留も自動的に行われるんですよね、裁判所には行かないんですよ。
それから保釈請求をするんですけど、それは刑事訴訟法89条の第4号ってのが、実は
一番ひっかかってきて。その89条ってのは保釈の条件を決めた条文なんですけど、あの、
要件がいっぱいあるんですよ。保釈をしない条件みたいなのがあって、懲役三年以上が
もう確定してるような、確定っていうか、殺人罪とかね、そういう懲役三年以上な場合は
もう保釈できないとか。そういう凶悪犯系は三つぐらい要件があるんですよ。でも一番
問題なのはその第4号ってとこで、「罪証隠滅及び逃亡のおそれがある」ものっていう。
552名無しさんの主張:2013/03/22(金) 23:24:03.26 ID:???
★「ホリエモン」こと「堀江貴文」の真実〜ロングインタビュー後編〜    4

G:ああ、よく聞きますよね、それ。
H:そう。証拠隠滅をしたりとか、口裏合わせをしたりだとか、逃げたりするような人の
疑いがあるときは、勾留を延長できる、と。保釈請求されても拒否できる、却下される、と。
それも一応裁判所に行くわけですよ。
東京だと東京地裁の刑事第14部ってのがあって、その第14部で審議されるわけです
(なぜか東京地方裁判所のページではこの第14部については記載されておらず、公開
されていない)。保釈請求とか専門のとこなんですよ。勾留の手続きも全部そこで
やるんです。要はずーっと勾留関係の手続きをやってる専門の部署になっていて、そこが
判断するのですよ。で、それで異議申し立てをすると、さらに準抗告とかそういう
手続きがとれて、そのあとの特別抗告っていう、要は普通の三審制と同じような、
一応そういう仕組みが決められてるんですよ。だけども、基本は、もう裁判官の主観で、
バンバンバンってハンコ押されて終わり。
G:それだと制度が機能してないような感じですよね。
H:もう被告人ってのは基本的に悪人で、嘘をつくどうしようもない人たちだから、
保釈はできない、っていうのが前提にあるわけです。だけど、例えば僕の場合は
逃げも隠れもできないじゃないですか、どう考えたって。
G:ええ。ですよね。どう考えても無理ですよね。有名人だからマスコミがぴったり
はりついていましたし、顔もよく知られていますから。
553名無しさんの主張:2013/03/22(金) 23:27:01.23 ID:???
★「ホリエモン」こと「堀江貴文」の真実〜ロングインタビュー後編〜    5

H:それをわざわざ閉じこめておく意味はないわけじゃないですか。証拠隠滅及び
逃亡のおそれは無いわけですよ、実際は。保釈すればいいんですよ。
G:不思議ですね。不思議といえば、被疑者であって、殺人の現行犯のようなもうほぼ
罪が確定しているわけでもないのに、なぜマスコミは突然手のひらを返して、
悪人のように報道しているのか、というのもあったのですけれどもね。
H:通常のアメリカの裁判などであれば、僕なんかはもう一日か二日で必ず
保釈されるような案件なんですよ。
G:ですね。海外とかだったらこんなことでそんなに長期勾留したら逆に問題になります。
H:だからそれはなぜかって言うと、起訴するかしないかに関しても陪審員が参加
できるようになっているからですよ、アメリカは。
G:ああ、そうなんですか。
H:そう。陪審員が決めるんですよ。この人は逃げられるか逃げられないかっていうのを。
G:なるほど。
H:だって、僕は普通の人が見たら、「堀江さんは無理ですね」って思うじゃないですか。
G:ええ。思いますね。
※「アメリカの保釈に関してはちょっと誤解があったかも」とのことなので、より詳細な
内容は「陪審制 - Wikipedia」などを参考にしてください。
554名無しさんの主張:2013/03/23(土) 11:35:54.18 ID:???
★「ホリエモン」こと「堀江貴文」の真実〜ロングインタビュー後編〜    6

H:たぶん検察官はいろいろ言うと思うけど、でも弁護側も主張ができるわけじゃないですか、
そこで。すごい有名だし、どこ行ったってみんなすぐ気づくから、ってね。
G:逃亡もくそもないだろうと。
H:そう、逃亡もくそもないだろう、って思うじゃないですか。
G:誰でも思いますよ。
H:でも検察は「プライベートジェットなどを持っていて、飛行機で逃亡するかもしれない」とか、
そういうことを当然言ってくるわけです。
G:映画の見過ぎじゃないですかって話ですよね。日本の制度はそのあたりが
全然整備されていない、と。
H:いやそれはもう全然整備されていません。すべて全くの密室で決まってるじゃないですか。
G:誰も見てない所で勝手に決めてますからね。
H:そう。実は、重要なところっていうのはそこにあるんですよ。で、実際その例の事件の
裁判の部分も、経済事件だから裁判員は参加できないわけですよね、今後も。
そうするとやっぱり密室で決まっちゃうわけじゃないですか、事実上。
G:確かに。
555名無しさんの主張:2013/03/23(土) 11:41:53.69 ID:???
★「ホリエモン」こと「堀江貴文」の真実〜ロングインタビュー後編〜    7

H:職業裁判官が判決を出すことになるわけですから。職業裁判官で一番の問題点
というのは、やっぱりずっと彼らは極悪人を見てきているからバイアスが
かかっちゃうんですよ。
G:ああ、警察の人がずっと悪い人ばかり見てるから人をすぐ疑う、みたいなもんですよね。
H:裁判官も、刑事は刑事専門の裁判官がやるんですよ、ずーっと。キャリアがずっと
刑事事件ばっかりになっちゃう、ほとんど。例外ももちろんありますけど、ほとんどは
刑事部の中で出世をしていくんですよ。まあ世界で最も保守的な裁判所は
東京高等裁判所って言われてるんですけど。
G:そうなんですか。
H:高裁の裁判官のキャリアのなかで、裁判長ってのは、実は事実上最後の
キャリアなんです。スゴロクで言えば「あがり」のポストなんですよ。
官僚で言えば事務次官みたいなもんです。
G:かなり頂点ですね。
H:頂点なんですよ、そこが。そこから最高裁の判事になれる人ってのは、もう本当に
特別なんですよ。最高裁の判事っていうのは刑事裁判官からは一人か二人しか
選ばれないので。
556名無しさんの主張:2013/03/23(土) 11:47:24.62 ID:???
★「ホリエモン」こと「堀江貴文」の真実〜ロングインタビュー後編〜    8

G:少ないですね。
H:あの15人のうちの1人か2人なんですよ、刑事裁判官のキャリアでそこまで行ける人。
だからそれはもう名誉職みたいなもんなんですよ。特別な名誉職なんで、普通の人は
もうキャリアとして高裁の裁判長で終わりなんです。だからまあ、スーパー保守
なんですよ、大抵の場合は。
G:でしょうね。どう考えても。
H:スーパー保守か、めちゃくちゃ変わり者かどっちかなんですよ。
G:まあ普通の組織で考えますとそうなりますね。
H:ほとんどがスーパー保守で、たまにすごい変わった、正義感の非常に強い人がいる、
っていう図式です。
G:まあでもほとんど保守的な人でないとそんなとこまで出世できませんよね、
ああいう組織の中では。
H:そう。で、刑事裁判をずっと何十年もやってきて、検察官とべったりで、99.9%
有罪判決を書いてるわけです。有罪判決しか書けないんですよ、逆に言うと。
無罪を書くことっていうのは非常に特別なことで、非常に勇気のあることなんです。
しかも判検交流っていうのをやってますからね。
557名無しさんの主張
★「ホリエモン」こと「堀江貴文」の真実〜ロングインタビュー後編〜    9

G:判検交流というと?
H:判事の「判」と検事の「検」なんですけれども、検察官がたまに裁判官になるんですよ。
そんなことあんの?って思うでしょ、あるんですよ。普通に。
G:めちゃくちゃじゃないですか。
H:めちゃくちゃでしょ?
G:それはめちゃくちゃ過ぎませんか
H:いや、でもそういうもんですよ、そうなってんですよ。要は、裁判官の気持ちになって
研修をしなきゃいけない、みたいな建前で。癒着してるんですよ。
G:ああ、なんかみんなグルというわけですね。
H:検事出身の裁判官なんてね、もうそりゃ検察寄りの判決書きますよね。
G:当たり前ですよね、どう考えても。
H:普通に当たり前じゃないですか。でもそういう制度も残ってるし、でも誰も
そんなことの問題提起をしないでしょ?
G:まあ普通のマスコミはしませんねー、そういうの。私もそんなものは初めて聞いたので。
H:判検交流なんて知ってる人はほとんどいないでしょうね。