(芙美江)「あのぉ....」(安羅木)「ん?何か?」(芙美江)「相談したいことがあるんです。人に聞かれたくないことなんです。」
顔は青ざめ、やつれている芙美江。悩みごとがあるんだろう。(安羅木)「分かりました。
まだ精算が終わっていない子が他にいるからね。土手通り沿にファミレスのデリーズがあります。場所知ってますか?」
(芙美江)「はい。」(安羅木)「そこでお話を聞きましょうか。申し訳ないけど、先に行っててくれますか。」・・・
(安羅木)「待たせてごめん。それで、相談とは?」(芙美江)「私をいつも指名している客の佐山。」
(安羅木)「ええ佐山さん。常連様ですね。」(芙美江)「あいつは私の敵(かたき)悪魔なんです。」(安羅木)「・・・・」
(芙美江)「佐山は私の母を殺した加害者です。まさか、あの顔をまた見ることになるなんて。
それも、吉原で接客することになるなんて!もう死にたい。地獄です!」
芙美江はその場で号泣した。・・・(安羅木)「ねえ刑事さん。私は2名の命を奪った殺人鬼です。偉そうなことはいえません。
でもね、この際はっきりと言わせてもらいます。佐山を社会から隔離せずに、社会で野放しにしてきたのは国家であり、警察。
つまりあんた達だ。そうアンタらの責任なんだ!佐山をずっと刑務所に入れとけば、彼の害悪に泣く人も、
迷惑をこうむる人も出なかった。私はそれが許せなかった。佐山は、ああなって当然の人間なんですよ!
芙美江さんの敵を討ったこと。これについて反省はしていない。正直な話ね!」大崎刑事は、腕を組み、じっと安羅木を無言のまま睨みつける。
確かに、佐山治の前科記録には「殺人罪」とあった。もちろん、他にも罪を犯し処罰されてきた男である。
佐山治が岡野芙美江の母を殺害した?・・・これも後で記録を調べてみよう。佐山治が犯した殺人事件とは何か?話は27年前に遡る。・・・(続きは次回)
【小説】「愛の蹉跌」=第21回= 地元の三重県で女児に対する強制わいせつ、準強姦未遂で逮捕された佐山治。
当時17歳であった。昭和59年(1984年)のことである。彼は、それ以前から窃盗、恐喝、器物損壊などで度々補導されてきた。
上記の事件で、三重県の津家庭裁判所は、彼を三重県伊勢市の‘宮元医療少年院’に送致処分とする。
「情緒的未成熟が伺われるので、当医療少年院にて矯正教育が必要である。」と
の家裁の審判官(裁判官)の判断であった。翌年、彼は、医療少年院を出所。そして、こつ然と姿を消した。
・・・昭和60年(1985年)3月。18歳になった佐山治は、東京にいた。家出をし、金が底をつきそうである。
引ったくりをやるか、食品の万引きをやるか。それとも強盗でもやるか。JR京浜東北線・桜木町駅行の電車内で、
その後の犯罪計画について思いをめぐらす佐山治。
そう、医療少年院での矯正教育など、彼の矯正には何の役にもたっていなかったのだ。
そうしたところ、JR大森駅で1人の女性が乗り込んできた。30代半ばであろうか。
服装と所持しているバッグから、いいところの「奥様」に見受けられる。佐山治は、じっとその女性をみつめていた。
女性は、JR鶴見駅で下車。彼もあわてて下車し、女性のあとをつける。「ウヒヒ(笑)・・・」
不気味な笑みを浮かべる佐山治。・・女性は、鶴見駅前でバスに乗った。そして、15分ほどで‘下末吉’という停留所に到着し下車する。
険しい坂道を登っていくと、洒落た分譲マンションがあった。女性はそこの住民だろうか、マンションに入り、
入り口左側の郵便ポストから郵便物を取り出す。そして、エレベーターに乗り込んだそのとき、
若い男が飛び込んできた。女性のわき腹にナイフを突きつける。「おらッ!声だすんじゃね!声だしたらころすで!
はよーボタンおさんかい!」佐山治である。
(女性)「なんなのあなた!離しなさい!」 (佐山治)「ええから、あんたの部屋まで案内しな!金や、金くれたらそれでええねん!
おとなしゅう金だしたら、わいすぐに帰るでんな!」 桜開花直前の平日昼間のことであった。それから数時間後、
ランドセルを背負った少女が帰宅した。『あれ?鍵が開いてる。』『ただいま〜おかあちゃん?帰ったよ!』
少女は、室内に入る。そして、・・・ リビングルームの中央にメッタ刺しにされた母の遺体、リビングからキッチンにけけて血の海が広がっていた。
そう、この少女こそ岡野芙美江であった。芙美江はすぐに110番通報をし、職場の父に連絡を入れた。
鶴見北警察署の捜査員がマンションに到着。そく周囲の聞き込みを行うとともに、現場周辺を捜索。結果、
近くの三池公園で血のついたナイフが発見される。警察は、緊急配備を敷く。
そして、その日の夜11時頃、「鶴見医科歯科大学の敷地内に不審な男がいる」との通報があり、
警察官が急行。その不審者は佐山治であった。発見時、佐山治が警察官に吐いた言葉。それは、
「わいなぁ腹減っとんねん。飯食わせてや〜」「わいは未成年やで!少年法や!わいは少年法で守られとんねん!」
であった。佐山治は、強盗殺人罪で逮捕。横浜家庭裁判所は、未成年とはいえ18歳になったこと。さらに事件の凶悪さと、
彼が医療少年院出所後まもなくに起こした事件であることから、横浜地方検察庁(地検)に逆送致処分とした。
こうして、佐山治の事件は、成人と同じく公開法廷で審理を受けることが決定し、横浜地検は、
佐山治を強盗殺人罪で横浜地方裁判所に起訴した。・・・・・(続きは次回)
【小説】「愛の蹉跌」=第22回= 横浜地方裁判所に起訴された佐山治。未成年でありながら、
成人と同じく公開法廷で公判審理が進められた。裁判官は3名(合議体)であり、
裁判長は白髪混じりの眼鏡をかけた、50代半ばであろうか。いかにもインテリという感じの女性裁判官であった。
佐山治の弁護人は、死刑制度反対運動で全国的に有名な亀田静歌弁護士である。
これまたマスコミによく登場する死刑反対論者の安本好彦弁護士の盟友である。
この2名の弁護士は、刑事被告人や犯罪者の人権擁護、犯罪者の『更生』『社会復帰』を声だかに叫び信奉する一方、
犯罪被害者やその遺族に対する冷淡な弁護活動が度々見受けられ、問題視されてきた人物である。
他方、佐山治は、「はよう裁判終わらしてくれへん?刑務所でもどこでもワイをぶちこめや!それでええやんか!」
「毎回裁判に出て来なきゃあらへんの?面倒臭いんやけど!?」と反抗的な言動を法廷でとるわ、
審理中も居眠りをするわ、で幾度となく裁判長に叱責されていた。
本人は、自分がした凶悪犯罪をまったく反省などしていないのである。・・・・そんなある日のこと、第○回公判期日。
(廷吏)「起立!」......(裁判長)「はい。それでは開廷します。」......そして、
間髪をいれずに女性裁判長が検察官に対し言葉を発する。(裁判長)「検察官」(検事)『はい裁判長!』
(裁判長)「(苦渋の表情で)これまで審理をある程度重ねてきました。ん〜どうでしょう、
起訴状の内容ですねー。あのーぉ別の構成は考えられないものでしょうか?」
これを聞いた検察官は落胆ぶりが顔に顕れている。対して、亀田弁護人は笑みを満面に浮かべている。・・・
佐山治は、強盗殺人罪で起訴された。強盗殺人罪とは、被害者の殺害前に財物(金、貴重品)
奪取の意思が生じていたことが必要なのだ。財物奪取の意思→被害者を殺害→財物奪取。この流れである。
これを検察は立証しなければならない。他方、仮にだが、犯人が被害者を殺害して初めて財物を盗もうと考えたとする。
この場合は、強盗殺人罪は成立しない。成立するのは、殺人罪及び窃盗罪である
(但し、窃盗罪については条件を満たした場合のみ。)。
今回の事件では、どうであったか?神奈川県警並びに鶴見北警察の捜査報告によると、
岡野宅から佐山治により現金・貴重品類が持ち去られた形跡が無かったのである。
遺体発見場所の室内を荒らされたわけでもない。さらに、岡野宅から逃亡した後に、
佐山治が、別の場所で窃盗などを犯したわけでもない。犯行後、鶴見医科歯科大学敷地内で確保されるまでの足取り。
これが不明であったのである。つまり、犯行状況からは、佐山治を強盗殺人罪で処罰するには不十分。
そういわざるを得ない。検察は、佐山の犯行当時の所持金が1000円に満たなかったことから、
金に困り被害者を殺害したのだ。つまり、殺害「前に」財物奪取の意思が存在した。
これを立証しようと努めてきた。対して、佐山治側は、もちろん財物奪取の意思など無かったと言う。
盗み目的ではなく、被害女性に対するわいせつ目的であったと猛烈な反論に打って出たのである。
強盗殺人罪の法定刑は、死刑か無期懲役(刑法240条)。いずれかしかない。大変な重罪である。
では、殺人罪は?現在の刑法199条は、「死刑又は無期もしくは5年以上の懲役」である。
強盗殺人罪と、単なる殺人罪では法定刑の重さがまるで違うのだ。なので、検察は強盗殺人が成立する!と主張するが、
弁護人は、軽い殺人罪にとどまる!と反論することとなる。そして、検察が、強盗殺人罪で起訴したと。で、
結局、裁判所が「いや、ただの殺人罪にとどまる。強盗殺人罪ではない。」と判断したらどうなるのか?これは、
「無罪」判決が言い渡されることとなる。『えっ!そんな馬鹿な!』『 たとえ強盗殺人罪の立証を検察が出来なかったとしても、
被告人が殺人事件を起こしたのは事実だろう。なのに無罪?それはないだろう!』
もっともな国民感情である。ただ、裁判所は、検察が主張した起訴内容が事実かどうかを判断するだけ。これが建て前なのだ。
検察が強盗殺人罪で被告人を処罰せよと主張した。
だが、その立証が出来ない。となると、強盗殺人罪は無かったことになるから、→無罪となってしまう。
さらに、仮に、強盗殺人がダメで確定してしまうと、再度、殺人罪で被告人を起訴し直すというのは不可能なのである。
やり直しはきかない。これを「一事不再理」といい、憲法39条で保障されている。しかし、それにしても、
人を殺しておいて無罪。これはいかにも不都合であろう。これが通用するなら、日本国民は、
司法や裁判所など信用しなくなるに違いない。このような不都合を回避するために、法は、裁判の途中で、
検察官が起訴内容を変更することを認めている。今回の例でいうと、強盗殺人罪から殺人罪に変更するのである。
これを、専門的な用語であるが、「訴因変更」という(刑事訴訟法312条)。さて、女性裁判長は、
冒頭で、『別の構成は考えられないものでしょうか?』と検察官に言った。
これは、『裁判所としては、検察が主張する強盗殺人で佐山治を裁くことは出来ません。
なので、殺人罪に訴因変更しなさい。』というサインなのである。訴因変更は、検察の権限である。
裁判所が勝手に変更することは出来ないのだ。だから、検察にサインを送ったのである。
さすがは、刑事裁判にめっぽう強い亀田弁護士だ。佐山治の事件で検察の劣勢は明らかであった。
しかも、被害者遺族の岡野芙美江並びに芙美江の父は、公判の進捗状況について、
裁判所からも検察からも何も知らされていなかった。「何かあったら連絡します」と横浜地検の事務官から電話があり、
それっきりだ。佐山治が犯した殺人事件。昭和60年(1985年)当時の日本の刑事裁判では、
犯罪被害者及びその遺族の人権など無いに等しく、彼らは蚊帳の外に置かれていた。
そして、被害者とその遺族は、地域社会から奇異の目でみられ、マスコミの好奇心による過剰報道被害にあい、
孤立していく。家族を殺害された挙句の果てにである。これを二次被害という。そう、ただただ理不尽に泣き、
ひたすら涙を流すだけであった。この許しがたい理不尽。国会議員や法務省官僚、
さらに社会の理不尽と闘い、人権擁護が職責であるはずの弁護士ですら皆知らんぷりであった。
なぜか?それは、犯罪被害者支援活動が、彼らの「利権」や「天下り先」獲得、「収入増」に直結しないからである。・・・(次回に続く)
【小説】「愛の蹉跌」=第23回= 佐山治の公判に関しては、さらにもう1つの問題があった。
それは、公判開始後に明らかになった事であるが、佐山治が逮捕された鶴見医科歯科大学敷地内に設置された公衆電話から
彼は自ら110番通報をしていたのだ。「不審者が敷地内」にいると通報があったのが犯行当日の午後11時頃。
実は、そのわずか10分ほど前に神奈川県警・通信指令センターに「人を殺した」と連絡が入っていた。
連絡をしたのは佐山治であったことが判明したのだ。これは、「被疑者が誰であるか未だ明らかになっていない段階で」、
「犯罪事実を申告する」こと。つまり、刑法42条1項に規定がある‘自首’にあたる。
当然、弁護側は、佐山治は自首をしたのであるから、刑は減軽されるべきと主張する。
強盗殺人罪で起訴されたにもかかわらず、検察による立証が困難であったため、殺人罪に訴因変更される。
その上、自首が認められるとなると、さらに刑が軽くなるのだ。検察側の敗北に等しい結果となりかねない。
検察側は、刑法42条1項には、『罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、
その刑を減軽することができる。』とある。「減軽することができる」であって、「減軽しなければならない」
とは規定されていない。この趣旨は、被告人の犯行態様、罪質の悪質さ、被告人に改悛の情があるか否か、
被害の程度などを裁判所が総合的に判断し、裁判所に被告人の刑を減軽するか否かを決める裁量を与えたものだ。
本件では、佐山治は、事件を起こした反省がまったく見られず、
しかも医療少年院を出所した直後の犯行であり、非常に悪質である。さらに、何の罪もない被害者を殺害され、
遺族の被害感情は実に厳しいものがあること。また、佐山治の再犯の可能性が高いと思われること。
佐山治本人はいうまでもなく、彼の両親や親族から遺族への被害賠償はまったく行われていないし、
賠償をする意思すらないと見受けられること。
以上の点を考慮すれば、佐山治に自首を認めるべきではないと検察は反論した。・・・
そして、佐山治の刑事裁判がいよいよ大詰めとなったある日の公判期日。検察側の証人として、被害者の夫、
つまりは岡野芙美江の父が法廷に立った。この日、芙美江も法廷の傍聴席にいた。
芙美江は、この日、初めて佐山治を目にしたのだ。芙美江の父は、妻を殺害された悲しみと、被告人への怨念が日に日に強まっていること。
娘も大変な心的ショックを受けており、学校を休みがちになってしまったこと。
同じような思いをする遺族が将来二度と出ぬよう、佐山治に厳刑を科して欲しいこと。以上の点を女性裁判長の面前で申述した。
そして、岡野芙美江と父が退廷した直後のことである。佐山治は顔を真っ赤にし、
いきなり女性裁判長に大声で噛みついた。(佐山治)「ちぇ!なに言いとんねん!あのオッサン!
てめえの女房が殺されたは、運が悪かったんや!(笑)
ただそれだけのことやろ?なあ、裁判長はん。そう思うやろ?」(裁判長)『被告人!黙りなさい!』
(佐山治)「なんじゃい!このクソばばあ!黙れとはなんやねん!ワイは未成年やで!少年法で保護されとるんや!
ワイは自首したんや!ワイには人権ちゅうものがあるんや!」(裁判長)『ひとまず休廷しましょう。被告人を退廷処分とします!』・・・
佐山治のような犯罪者は、実は珍しいケースではない。法廷で裁判官に盾突くのはさすがに少ないかも知れないが、
自らが犯した犯罪を真摯に反省する犯罪者など少ないものだ。多少古い統計データであるが、平成15年(2003年)
における刑法犯のうち、再犯者が占める割合は、なんと49.6%にのぼる。半数弱は再犯者による犯罪なのだ。
殺人、強盗、強姦、放火の凶悪犯についてみると以下の通りである。殺人→41.1%、強盗→37.6%、強姦→33.3%、放火→46.9%。
そして、法務省の矯正予算(刑務所、拘置所、鑑別所などを維持管理するための予算。
受刑者に対する社会復帰支援事業なども含む)は、なんと2282億円にものぼる(2011年度)。
前述の受刑者の出所後の再犯率を見る限りにおいて、わが国の犯罪者矯正政策がうまくいっているとは思えないであろう。
うまくいかないものに、年間2282億円もの‘血税’がジャブジャブとつぎ込まれているのである。
毎年である。犯罪者の矯正、つまり刑事政策は社会に必要である。犯罪者にも人権がある、その通り。
犯罪者の社会復帰を支援する、これも必要。その通り。
だが、これだけの膨大な予算をつぎ込む以上は、日本の矯正政策が効果的なのかどうか?絶えず検証する姿勢。
これもまた重要であるのは論を待たない。しかし、当の法務省は当然のこと、日本では国会議員や、
刑事法が専門の学者達もこのような問題意識がゼロなのである。財政難が叫ばれ、
消費税をはじめとした租税アップが次々に行われる昨今である。
仮に、現行の犯罪者矯正政策が誤りであり、効果がないのであれば、早急に見直す必要がある。効果がないものに、
膨大な税金を支出するほど今の日本には余裕は残っていないであろう。だいたい、犯罪者の「矯正」「社会復帰」
という言葉じたいが、刑罰を教育刑と捉える立場である。そう、日本の矯正政策は、
基本的に刑罰を教育と捉える思想に立脚している。犯罪者を「教育」し、社会に復帰させ、
二度と犯罪に手を染めないように国家が支援するというもの。だが、上記の統計データを見る限り、教育刑の限界は明らかではなかろうか?
となると、刑罰を応報刑、つまり、目には目を。歯には歯をといった厳罰化を推進していく。これが、これからのあるべき姿ではなかろうか?
同じことは、少年法にもいえる。少年法の分野だと、たとえば少年院送致処分は刑罰ではない。
つまり、前科にならないのである。
これも、国家が非行少年を教育していくという教育刑思想そのものである。だが、少年院送致処分を受けた未成年者が、
成人になって犯罪者となり、刑務所の受刑者になるケース。これも言うまでもないが非常に多いのだ。
となると、少年院での教育(?)。これも見直すべき時期に来ているように思えてならない。・・・(次回に続く)
【小説】「愛の蹉跌」=第24回= それから2ヶ月後のこと。・・・佐山治に対する判決公判が横浜地方裁判所の法廷で開かれた。
(裁判長)『では開廷します。被告人、前へ。』 手錠を外された佐山治は裁判長の正面に立つ。
(裁判長)『佐山治に対する殺人被告事件について判決を言い渡す。主文、被告人を懲役5年から7年に処する。以上です。』
少年事件の場合、○年から○年と幅をもたせた刑が言い渡される。これを不定期刑という。
刑務所で問題を起こさずに、ちゃんと懲役に励めば5年で出てこれるであろう。いくら少年とはいえ、18歳である。
普通は、すでに判断力や理性を十分持ち合わせている年齢であろう。なのに、未成年というだけで、
人を殺しても、たった5年から7年の刑である。いくらなんでも軽過ぎはしないか?・・・
佐山治は思わずガッツポーズを見せる。弁護人の亀田静歌も満足な表情で頷く。
判決内容を知った岡野芙美江の父は、横浜地検に東京高等裁判所への控訴を強く懇願した。
しかし、地裁での審理経過を鑑みると、高裁での逆転はまず不可能と判断。控訴を断念する旨、
検察官から岡野芙美江の父に伝えられた。さらに、芙美江の父は、佐山治の両親に対し、
民事で損害賠償請求訴訟を起こしたいと横浜市内の法律事務所を訪れ弁護士に相談をした。
佐山治本人のみならず、彼の両親も、被害者遺族に対する謝罪は無ければ、被害賠償もまったく無い。
弁護士は、『佐山治の両親の、治に対する親権者としての監督義務違反を理由に勝訴する可能性はある。』
『しかし、佐山家が三重県で経営する零細企業は、現在、経営難である。治の父名義の不動産には、
銀行の抵当権が目いっぱいついている。』『なので、仮に勝訴したとしても、治の両親から賠償金を取ることはほぼ不可能だ。』
『したがって、悔しい気持ちはよくわかるが、民事訴訟の提起を断念するのが妥当だと思う。』
と芙美江の父にアドバイスした。
結局、犯罪者は少年法で厚く保護され、被害者への賠償などしなくても何もぺナルティーを科されずじまい。
こんな理不尽な話があるだろうか?それが通用してしまう先進国(?)日本である。
犯罪被害者とその遺族を取り巻く冷徹な現実、「悲劇」がそこにあった。その後、
岡野芙美江の父は、最愛の妻を失った悲しみから、酒に溺れるようになっていく。
そして、会社を辞め、自宅で引きこもりがちに。事件現場となった鶴見のマンションは、
ローン返済の目処が立たなくなったことから売却した。岡野芙美江も、引きこもりで精神を病んだ父と家計を支えるため仕事についた。
そう、経済苦から高校進学を断念せざるを得なかったのだ。まだ15歳、16歳の芙美江であったが、
世間は情け容赦はしない。芙美江は、その後、厳しい社会の荒波に翻弄されていくこととなる。
そして、芙美江の父は、それからしばらくして肝臓を患い死去。
そう、犯罪者・佐山治の手により、岡野家は崩壊したのだ。一方、佐山治は、23歳で刑務所を出所。
それからも定職につかず、新宿歌舞伎町のテキヤ系暴力団‘極西会’の準構成員(チンピラ)となる。
そして、恐喝、覚せい剤取締法違反(所持)、詐欺、売春防止法違反などで度々警察に逮捕され、
文字通り、刑務所を出たり入ったりの人生となっていった。もはやコメントは不要であろう。
三重県の少年院や18歳で服役した刑務所の矯正「教育」などという甘っちょろい小手先の手法で、
佐山治の犯罪性向を変えることなど所詮は無理な相談だったのである。・・・
「警部!会議の時間ですが?」品川湾岸警察署4階の資料室で、
佐山治が27年前に犯した殺人事件記録を読みふけっていた大崎刑事。その大崎に若い部下が声をかけた。
(大崎)『あ、ああ、そうだ。今日は全体会議だったね。』
(若手刑事)「ええ。署長が既に着席していますよ。」
(大崎)『おお、それはまずい。早くいかないと。今すぐ行くよ!』
会議の後は?...安羅木(やすらぎ)の取調べだな。それが終わったあとでまた記録の続きを読もう。
大崎刑事は、安羅木が稼働していた吉原エンペラーから押収した書類一式の上に分厚い記録簿を置いた。・・・(次回に続く)
sage
127 :
名無しさん@入浴中:2012/10/16(火) 01:49:42.70 ID:c8IvCN9x0
続きはどうなった?
128 :
作者:2012/10/17(水) 01:48:00.59 ID:YlqZg1cZO
>>127 ありがとうございます。予定としましては、今週末の更新になります。
よろしくお願いします。
【小説】「愛の蹉跌」=第25回= 大崎刑事は、品川湾岸警察署5階の大会議室に入った。
なんと署長の真向かいの席である。大崎は、思わず溜め息がもれる。大崎より年下の署長は、
いつも「警察のメンツ」ばかり。自己保身と出世しか考えない男だ。
本人は、時代劇で有名な俳優‘高橋○樹’似のイケメン男を気取るが、「は?どこがだよ!」
と大崎も他の部下達もみんな署長を毛嫌いしていた。しかし、警視正である署長は人事評価権者だ。
彼に嫌われると、出世は絶たれる。
それどころか、どこの署に飛ばされるか分かったもんではない。東京といっても広いのだ。
それこそ奥多摩やら、伊豆諸島にでも飛ばされたらえらいことになる。だから、みんな署長のイエスマンを
(表面的に)演じざるをえないのだ。・・
(署長)「ええっと。例の死体遺棄事件。平和島の。被疑者の取調べは?もう終わったんだろうね?大崎君。」
(大崎)「いえ。まだです。」(署長)「なに?物証はあるし、被疑者の取調べなんて少しだけやればいいんだよ。
それで、さっさと君が作文にして、被疑者の供述調書にする。それで終わりじゃないか!
なーにをモタモタしとるんだ君は。ダメじゃないか!」(大崎)「は。分かりました。早急に終わらせます。
大変申し訳ございません。」(署長)「君は、捜査手腕には優れているようだが、仕事の効率性と事務処理能力。
これが劣っているようだね?(笑)早く処理したまえ!」(大崎)「・・・は。大変申し訳ございません。」
・・・署長は、次の人事異動で本庁の課長か次長ポスト。あるいは、序列上位の赤坂溜池警察署や銀座警察署の
署長ポストを狙っているとの噂だ。さっさと面倒くさい事件を処理し、自分の部下統率力と指導力を
警視庁幹部連中に大いにアピールしたいのだろう。嫌なやつだ。
が、大崎は煮えくりかえる怒りをグッとこらえ我慢する。今年で警察人生38年目。若い頃から辛抱の連続であった。
ただ、それでも長年の刑事経験で磨いてきた捜査の実力。これは誰にも負けない自信がある。これが彼の誇りである。
・・・・・・・会議が終わり、大崎は、3階の取調室へと向かう。
が、待てよ。署長の指示に反するが、被疑者である安羅木(やすらぎ)一郎の取調べに長く時間をとりたい。
その後は?ああ、佐山治の公判記録だ。あれも一応最後まで読むと。
う〜ん先に昼飯を食おう。そうするわ。大崎は、食堂へと足を向けたのであった。
タヌキうどんとカレーライスのセット。これが大崎の昼飯だ。私服の刑事のみならず、
制服警官、白バイ交通警官がわんさかと食堂に入ってくる。和気あいあいとした雰囲気だ。
ちょうど、食堂の大型テレビに目をやる。昼のワイドショー番組である。・・・
すると、女性に大人気のタレント‘小田輝義’が画面に映る。高橋克典似の細身の長身。
新宿歌舞伎町の元売れっ子ホストである。彼の売上記録はいまだ全国歴代1位の座に君臨する。
伝説のカリスマホストである。5年前にホストを電撃引退。その後、
みずからホストクラブ「レヨン」をプロデュース。歌舞伎町にオープンしたのだが、
これが空前の大ヒット。瞬く間に2号店、3号店...と次々とホストクラブを開店していった。
現在は、レヨングループのオーナー社長をつとめ、女性専用エステサロン、ネイルサロン、
さらに水商売関係の広告代理店業にも進出。のみならず、
タレントとして、マスコミTVにも積極的に出演し、現在、4本のレギュラー番組を獲得している。
『女が抱かれてみたい男ナンバーワンみたいですよ。』
大崎の隣に交通課に席をおく白バイ警官が着席する。30代前半の巡査部長で大崎と話が合う仲良しだ。
(大崎)「へえ〜抱かれてみたい男ねえ。ま、たしかに小田輝義はイイ男だわな。
俺みたいなチンチクリンの禿げジジイからしたら羨ましいわい(笑)。」
(白バイ警官)『羨ましいですよね〜女に不自由しないなんて。経営者としても超やり手みたいですし。
怖いもの無しですよね。』(大崎)「あれ?隣にいるのは?」テレビ画面を指差す大崎。(白バイ警官)
『ああ、あれは...小田輝義の彼女じゃないですか?ごく最近ですよ、彼女がテレビに出始めたの。
小田輝義の専属秘書を名乗ってね。
綺麗な女性ですよね。いずれ2人は結婚するんじゃないですか?』
(大崎)「ふ〜ん。いいねまったく!こっちは馬鹿野郎の署長にムカついているってのによ!」
(白バイ警官)『ははは(笑)!!!』 昼休みの品川湾岸警察署の平和なひと時であった。・・・・・・・・(続きは次回)
134 :
名無しさん@入浴中:2012/10/20(土) 15:54:54.00 ID:+RCFaeONO
【小説】「愛の蹉跌」=第26回= その後、大崎刑事は、3階の取調室に入る。昼休み時とは別人の険しい人相だ。
さっそく安羅木(やすらぎ)一郎の取調べを開始する。(大崎)「27年前に佐山治が、
岡野芙美江の母を殺害した件だがね。公判記録に途中まで目を通したよ。要は、
吉原エンペラーの嬢だった岡野芙美江にお前は同情したと?そういうことだな。」
(安羅木)『はい。』(大崎)「それでどうなった?」(安羅木)『佐山は、それからも度々芙美江さんを指名し、
店に来店しました。と同時に、芙美江さんの悩みはさらに深刻になり、私が相談にのる回数が増えていきました。』
(大崎)「店外で会う機会が増え、そんで男女の仲になったと?」(安羅木)『はい。』
(大崎)「岡野芙美江はいま富山県にいると。お前そう言ったよな?会いに行かなかったのか?」
(安羅木)『なにぶん休みが取れない仕事なもんでして。それに、しばらくそっとしておいてあげたほうがいいと思ったのです。
だから彼女とは電話でのやり取りだけでした。』(大崎)「なるほど。じゃあ、佐山治殺害までの状況を詳しく話せ。
あれか?お前に殺害を教唆したのは女じゃないのか?」(安羅木)『違います!それは違う。
殺害を決意し、計画を練り、実行したのは私です。芙美江さんはなにもしていません!』
『佐山治が週2、3回も来店するようになって、.......・・・・』(大崎)「ん?
どうした安羅木?おい!いまさら黙秘しようっていうのか!お前は!」(安羅木)『いえ違います。』
安羅木は、この時、あることを偶然に思い出したのである。
しかし、大崎にそれを敢えて伝えなかったのだ。(安羅木)『佐山治の殺害を決意したのは、
2009年の9月頃です。佐山を接客して感じたのは、彼は結構用心深い男だなということでした。
なので、まずは佐山に私への疑念を払拭してもらうこと。そして、彼の自宅を突き止めること。
この2つを目標にしたんです。』・・・2009年9月のある日・・・(安羅木)『これはこれは佐山様。
本日もご来店頂き誠に有難うございました。』(佐山治)「ええんやて!土下座してワシに礼いうほどのことじゃあらへんやろ!
ほな、ワイだけ個室の上がり部屋かいな?初めて入ったわこの部屋。豪華やなあ!」
(安羅木)『大変申し訳ございません。申し遅れました。
ここはVIP客専用の待合室(兼)上がり部屋なのです。当店は、有名芸能人や歌手、
さらに大物政治家といったVIP客様にも御利用頂いています。他客様と顔をあわせることがないよう、
こちらにご案内させて頂いております。』(佐山治)「オホホ!(笑)
んじゃワイはVIP客の1人やと?そりゃ嬉しいわ!ほんまオマエは気が利く男やな!礼をいうで!」
(安羅木)『とんでもございません。恐縮です。今後は佐山様をこちらにご案内させて頂きます。
いつもご贔屓頂き本当に有難うございます。』・・・そして、2009年の暮れ。・・・
(佐山治)「んにゃんにゃ」(安羅木)『どうしましたか?佐山様』(佐山治)「オマエと話しとると酒が美味いんや。
すっかり酔うてしもうたわい(笑)。んじゃそろそろ帰るかいな。」
137 :
名無しさん@入浴中:2012/10/20(土) 16:08:10.84 ID:+RCFaeONO
(安羅木)『それはいけません佐山様。年末ですからね、
飲酒運転の取り締まりをあちこちでやってるでしょう。』
(佐山治)「なんやて?んじゃどうしたらええんや?」(安羅木)『私めが代わりにお車を運転し、
佐山様の御自宅まで送らせて頂きます。』(佐山治)「ほんまに?ええんか?」
(安羅木)『ええ。いつも御利用頂いている超太客の佐山様へのささやかなお礼です。』
(佐山治)「オホホ!(笑)ほんまオマエはええやっちゃな!ますます気に入ったわい!」・・・
安羅木は、佐山のBMWのハンドルを握り、渋谷へと向かう。バックミラーで時折り佐山を見つめる安羅木。
佐山治は、すっかり安羅木を信用し、大いびきをかいて寝こんでいる。
よし。これで奴の自宅を突き止められる。あとは、殺害計画を煮つめて実行するだけだ。・・(続きは次回)
2chやHLに書くなよ
【小説】「愛の蹉跌」=第27回= そして年明けの2010年2月のこと。
(安羅木)『ああこんばんは。佐山様。御来店有難うございます。先ほどの御案内時、
私は休憩に出ておりまして。御挨拶が遅くなり大変申し訳ございません。』
(佐山治)「オオ!安羅木くん!会いたかったぞ!最近な、ワイは弥生(岡野芙美江のエンペラーでの源氏名)
よりオマエさんと会うのが楽しみで遊びにきとんねん!」(安羅木)『それはそれは(笑)
有難うございます。恐縮です。お飲み物は何を?』(佐山治)「せやな!じゃウィスキーくれや!」
(安羅木)『かしこまりました。』・・・(安羅木)『ところで佐山様。次回の御来店時は特別に時間無制限でお遊び頂いて結構ですよ。』
(佐山治)「は?なんやて?どーいう意味や?」(安羅木)『・ ・・山様には本当にいつも御世話になっております。
社長の黒澤から、先般、私に指示がありましてね(嘘)。通常の120分コースだと物足りないだろう。
是非とも佐山様にはお好きな時間だけ弥生とお遊びになってもらってはどうかと。延長料金無で。特別にです。
佐山様だけ特・別・に・です。』
(佐山治)「ほっ!んじゃ3時間4時間...ずっと弥生と過ごせると?そういうことかいや?」
(安羅木)『そうです。』(佐山治)「うひょひょ!そりゃええわ!スペシャルサービスちゅうわけやな!」
(安羅木)『さようでございます。但し、他の指名客様との兼ね合いがありますので、
次回は夜22時の御案内とさせてください。それから何時間でも店内に残って頂いて結構ですよ。』
(佐山治)「なんなら、夜10時からずっと貸切にしたいもんや。弥生とどっか出かけるちゅうのはどうや?」
(安羅木)『佐山様。あいにく弥生は最近ですね外出はNGになりまして(嘘)。店内接客のみとさせていただいております。』
(佐山治)「えっ!そっかそりゃ残念やな。」(安羅木)『こうしてはいかがでしょう?夜10時からお遊び頂くと・ ・・
その後、ここで寿司の出前でも食べながら、佐山様、私、そして弥生の3人でゆっくり語りあうとか。』
(佐山治)「それやっ!それおもろい!よっしゃ!それでいこっ!」 へへ(笑)馬鹿な奴だ。
安羅木は、内心ほくそ笑む。
(安羅木)『かしこまりました。それでは、次回の予約を早速お取り致しますね。またの御来店、心よりお待ち申し上げます。』
・・・数日後、佐山治は22時少し前に吉原エンペラーに来店し、いつも通り芙美江を指名した。
そして、これまたいつも通り、VIP客用の待合室(兼)上がり部屋に入った。日付変わり午前0時10分頃のことである。
そして、佐山治は、焼酎を飲みながら安羅木を待っていた。ところがである。なかなか来ない。どうしたんだろう。
0時40分過ぎになってようやく安羅木がVIP室に入る。(佐山治)「おら!オマエ遅いやん。どないしたんや?」
(安羅木)『お待たせして大変申し訳ございません佐山様。本日も御来店頂き誠に有難うございました。実はですね、
弥生から佐山様にプレゼントがあるそうです(笑)。お手数ですが、いまいちど2階の個室まで来ていただけないでしょうか?』
(佐山治)「へ?おお!ワイにプレゼントかいや!ほな嬉しいわ。待て。いますぐ行くで!」
佐山はVIP室を出る。そして、階段で2階へと上っていく。165cmで100キロの巨体。
142 :
名無しさん@入浴中:2012/10/20(土) 18:54:40.81 ID:+RCFaeONO
酒に酔い始めてきたのか、肥満体の動きがさらに緩慢になってきている。安羅木は、佐山の後に続く。
(安羅木)『つきあたりを左に。一番奥の部屋になります。』・・・(佐山治)「ん?ドア開けるで?」
(安羅木)『どうぞごゆっくり。私は下でお待ち致します。あとで弥生と一緒に降りてきて下さいませ。』
(佐山治)「お!了解!」 佐山治は個室のドアを開ける。しかし... 誰もいないではないか?怪訝な表情の佐山治。
すると、‘ガツン!’佐山治は、両目玉が飛び出んばかりの衝撃を覚える。後ろには、バールを手にした安羅木の姿があった。
(佐山治)「な、なにするんや!なんや貴様!」 安羅木は、よろめく佐山の左こめかみ部分をさらにバールで殴打する。
(佐山治)「うぉ〜!」安羅木は、佐山治の上着を掴み、個室端の浴槽まで引っ張っていく。
143 :
名無しさん@入浴中:2012/10/20(土) 18:55:41.72 ID:+RCFaeONO
そして、次に佐山治の髪をわし掴みにし、彼の顔面を浴槽にためた湯に押しこんだ。
「あぶぶ、ぶ、あぶぶぶ!あぶぶぶ!」「あぶぶ...あぶ..あぶぶぶ!」
必死に抵抗する佐山治。対して、安羅木は終始無言のまま表情を変えず。全身の力を振り絞り、
佐山の顔面を湯中に押しこむ 、押しこむ。バールで殴打された頭部から血が漏出している。
そして、浴槽の湯は徐々にピンク色に染まっていった。「あぶ...ぶ...」
しばらくの後、佐山治はぐったりする。絶命したのだ。・・・(続きは次回)
第1回の存在意義がよくわからん展開やな
【小説】「愛の蹉跌」=第28回= 安羅木(やすらぎ)一郎は、吉原エンペラー2階の個室で、
煙草を吸いながら、遺体遺棄場である秩父までの走行ルートを地図で再度確認する。
『もし、ガソリンが不足していたら、近所の日本堤のスタンドで補給しておこう。』
浴槽に目を移す。湯をはった浴槽に上半身を突っこんだままの佐山治。馬鹿が。ざまあみろ。
芙美江を苦しめてきた当然の報いだ。出かける前に湯を抜き、
血が飛び散っている床ともども綺麗にふき取らなければならない。ボーイの下積みが長かった安羅木。
そんなの10分もかからず終わらせるわ。そうだなあ、いま午前1時か。出発は30分後にしよう。
・・・安羅木は、あらかじめ用意しておいた大袋に、裸にした佐山治の遺体を入れる。チャックを閉める。
佐山治の衣類と凶器のバールは自分の寮に持ち帰り後日処分する。よし!安羅木は、外に出る。
2月の深夜、冷気が身を激しく突く。石鹸の匂いが残存する深夜の吉原ソープ街。真っ暗で不気味な静けさだ。
江戸遊郭から350年超の歴史をもつ吉原。
数百年前の遊女達の地縛霊が出てきてもおかしくない。安羅木は、大袋を背負う。重い。
遠くにリネン業者のトラックが1台止まっているだけだ。自分を見ているのは誰もいない。
よし今だ!安羅木は、駐車場に向かい、佐山治のBMWトランクに大袋を放り込む。
そして、一路秩父へ向け車を走らせた。・・・・(大崎刑事)「それで?途中、清瀬のファミレスに立ち寄り、
そこでお前が殺害した西田美幸が偶然居合わせたと?そういうことか?」(安羅木)『はい。』
(大崎)「秩父のマンホールに佐山の死体を遺棄し。その後、お前は渋谷にある佐山治のマンションに向かった。だな?」
(安羅木)『その通りです。車と部屋の鍵は奴のマンション室内に置いてきましたよ。オートロック式ドアでした。
私は渋谷から電車を使い吉原に戻りました。』安羅木に罪の意識などまるでない。
淡々と佐山治殺害の状況を終始落ち着いて供述してきた。(大崎)「おい」(安羅木)『はい?』
(大崎)「お前、本当に自分がしたことを悪いと思わないのか?」
(安羅木)『ええ。悪いことをしたという意識はないと。先日も申し上げましたよね?
奴はああなって当然の人間なんだと。私は、彼の被害に遭ってきた人達の代わりに奴を成敗しただけ。
そう思ってます。』(大崎)「じゃ聞くがね、お前が平和島で遺棄した西田美幸はどうなんだ?」
(安羅木)『・・・・』(大崎)「お前の犯行に気付き、お前をゆすった西田美幸は確かに悪い。
だが、あの子は故郷の九州で独り暮らしの母親に毎月仕送りしていたそうだ。」(安羅木)『・・・・』
(大崎)「母親は、わざわざ昨日上京し、ここに来たんだ。犯人、つまりお前を絶対に許せないと。
厳罰に処してほしい。そう言ってたぞ。お前がやったことは、佐山治と変わらないじゃないか?!
というか佐山と同じだ!!」 大崎に大声で叱責されると、安羅木は両手で顔を覆う。
そして号泣し始めた。・・・それから1時間ほど後のことである。取調べが終了し、
安羅木は留置場で横になっていた。そのとき......先ほど取調べ最中に思い出した「ある事」について考えていた。
なぜ今まで気がつかなかったのであろう?佐山治が岡野芙美江を指名し始め、以後、
週2〜3回も来店するようになった。実は、その前にこんなことがあった。・・・
(安羅木)「本日も有難うございました佐山様。」 安羅木は、上がり部屋で佐山に冷茶を差し出した。が、
佐山は、無反応で姫アルバムを手に芙美江の写真をじっと見つめている。真剣な面持ちであった。
(安羅木)「ああ、当店不動のナンバー1弥生ですよ。佐山様は、巨乳グラマー体型の子がお好みですよね?
弥生はスリムです。ネットには顔出ししていません。綺麗な子です。」
(佐山治)「そんなことは、どーでもええんや。次回からこいつに入るわ!ずっとこいつを指名するわ。
ええな?」 佐山が芙美江を指名し始めたきっかけ。これが不自然だったのだ。
芙美江は佐山の顔を知っている。27年前の刑事裁判のおり、傍聴席から彼を見たからだ。
だが、逆に、佐山は芙美江を知らないであろう。仮に27年前に被告人席にいた佐山が芙美江を見たとしても、
27年前というと、芙美江は当時8歳である。今の芙美江に気付くはずはない。
なのに、佐山の「あの時」の目は、何かが違った。佐山治のキモく細い目。まるで何か獲物を見つけたような、
何かをたくらんでいるような真剣な眼差しであった。さらに、佐山治の腐乱白骨死体が見つかった後も、
警察が芙美江を捜査対象にした形跡がないのだ。これは一体なぜなのか?
そう、‘疑念’が安羅木の脳裏に再来した瞬間であった。なにより、自分が逮捕された当日、
彼女は電話に出なかったし、それからも自分に連絡してきもしない。なぜなのか?
今回再び襲来した‘疑念’は、容易に消えそうはない。マグマの如く沸々と安羅木の脳裏に浮かんでは消えた。
・・・その頃、大崎刑事は?・・・4階の資料室に入り、佐山治が起こした殺人事件の公判記録の続きを読んでいた。
27年も前の事件である。が、いつの時代・ ・・あっても、事件の悲惨さや遺族の悲しみに変わりはない。
大崎自身、これまで数多くの犯罪被害者や遺族達と会い、彼らの悲痛な叫びを何度も聞いてきた。
彼らの地獄の苦しみも嫌というほど見てきたのだ。
150 :
名無しさん@入浴中:2012/10/21(日) 10:21:20.16 ID:ApMeZIjRO
当時少女だった岡野芙美江。事件後、しばらくして父親も他界。可哀想だった。安羅木が惚れこみ、
心から愛した岡野芙美江。どんな女だろ?お、エンペラーから押収した書類があるな。
在籍姫達の身分証明書コピーを綴じてあるファイル...あ、あった。大崎は、そのファイルを開ける。
ファイルには姫の顔写真付き身分証明署コピーと、入店時に姫が提出した誓約書がセットとしてファイリングしてある。
おお、あった、あった。岡野芙美江。そして次の瞬間 「えっ!!」 大崎は驚愕から顔面が凍りつき、
目つきが見る見る険しくなっていく。「ま、まさか!」・・・・(続きは次回)
sage
sage
sage
154 :
名無しさん@入浴中:2012/10/25(木) 16:05:35.05 ID:JYtPJv/0O
【小説】「愛の蹉跌」=第29回= 品川湾岸警察署の4階資料室。佐山治の公判記録に目を通していた大崎刑事。
吉原エンペラーから押収した在籍姫のファイルを開き、呆然とする。岡野芙美江のエンペラーでの源氏名は、『弥生』であった。
しかし、彼女だけ身分証明書コピーならびに誓約書が見当たらないのだ。
そして、...何より決定的な「あるもの」がそこに綴じられていた。
・・・・・(その翌日のこと)・・・・午前6時。留置場に勾留されている安羅木(やすらぎ)一郎は、身を起こした。
『ああ、今日もきつい取り調べか。死刑を待つだけの身だ。しょうがない。』前科前歴がない安羅木にとって、
身柄を拘束されての警察取調べの日々は想像を絶する過酷さであった。
まさか、これほどきついとは思わなかった。仕事人間の大崎刑事は、毎日午前7時から7時半には登庁する。
それですぐに取り調べ開始なんて日もある。
それから夕方、夜までずっとだ。ずっと。だが?・・・今日は看守係が来ない。どうしたのであろう?
もう少し横になってよう。もう疲れた。いっそのこと、ここで首を吊って自害してもいい。
結局その日の午前中、取調べは行われなかった。安羅木は、ただ々目を閉じて、今までの自分の人生を静かにふりかえっていた。
安羅木(やすらぎ)一郎は、茨城県出身である。現在は、ベッドタウンとして都内通勤住民が多い取手市。
ここが彼の故郷だ。彼の父親(安羅木太郎)は、小さな町工場を経営。母も従業員として工場経営を支えていた。
彼には弟が1人いた。決して豊かではなかったが、幸せな少年時代だった。なぜなら、
その当時の嫌な思い出が彼には無いからだ。しかし、小学校4年生のある日、彼の運命は暗転する。
日曜日だった。彼が友達と遊んで帰宅したのだが、自宅に両親の姿は無かった。
安羅木は、しばらく家にいたが、不安になり、自宅敷地内の工場へと向かう。そして、作業場の大扉を開けたその時。
彼の両親と幼い弟の変わり果てた姿がそこにあった。そう、首吊り自さつである。実は、安羅木の実家の工場は、
オイルショック[昭和48年(1973年)] を境に受注が急減。経営危機に瀕していた。金策に走りまわる安羅木の父、太郎。
しかし、頼みの信用金庫から追加融資を冷たく断られる。そして、意気消沈し、
千葉県松戸市の繁華街を歩いていた時、ある広告看板が太郎の目に入った。....‘樺小企業支援センター’....
お得な手形割引あります!メインバンクに断られた経営者様!あきらめないで!道は必ずあります!
そんな貴方を我々は応援します!.....「ここに頼もうか。ん。資金繰りはもう限界だ。ここに頼もう。」
‘道は必ずあります’・・・これが安羅木太郎に対するコロシ文句となった。が、
実は、中小企業支援センターなる社名に反し、ここの実像は、いわゆる会社整理屋・暴利街金だったのである。
‘道’は、道でも、会社再生への道では断じてない。それは、会社‘倒産’への地獄道であった。
安羅木太郎と彼の町工場は、悪徳街金融の餌食となり、安羅木家は崩壊したのである。
それから、安羅木は、親戚をたらいまわしにされていく。両親と弟を失い、筆舌に尽くしがたい苦労を散々味わってきた。
成人してからも、社会の底辺で何とか踏ん張って生きてきた。そう、似ているであろう?誰と?
岡野芙美江とである。安羅木一郎は、自分の「過去」に、芙美江の『過去』を重ね合わせた。そして、彼女を心から愛した。
と同時に、芙美江を地獄の底に突き落とした佐山治。彼がヤミ金業者であったこと。
このことが、彼の実家を崩壊させた悪徳街金融と二重映しになったのだ。そして、安羅木の内心に深く眠っていた強烈な憎悪が、
殺意の炎として燃え上がり爆発した。「親父とお袋。あと弟がいるあの世に早く行きたいよ。それだけだ。」
158 :
名無しさん@入浴中:2012/10/25(木) 16:18:05.94 ID:WTyzinpp0
・・・・(その頃、大崎刑事は?)・・・・ (大崎)「話を聞かせてくれて有難う。礼を言います。」
大崎は、川崎堀の内のソープ街にいた。‘ムクムク倶楽部’という激安ソープ店をちょうど出るところであった。
オールバックで、四角い顔の店長が丁重に大崎に頭を下げる。『いえいえ刑事さん。とんでもない。こちらこそ。』
(大崎)「あ、すみません。貴方のお名前なんでしたっけ?ど忘れしちゃった。」
(ムクムク倶楽部店長)『はい。わたくし横尾といいます。』ん?横尾....
そうだ、吉原エンペラーで店長をやっていた男。安羅木の元上司である。・・・・(続きは次回)
159 :
名無しさん@入浴中:2012/10/25(木) 17:58:50.52 ID:JYtPJv/0O
【小説】「愛の蹉跌」=第30回= その翌日の早朝。安羅木(やすらぎ)一郎は、
手錠をかけられ看守に引っ張られながら品川湾岸警察署3階の取調室に入った。いつもの席に座る。
大崎刑事と若い部下が1人。(大崎)「なあ安羅木。留置所生活はどうだ?きついだろ?」
(安羅木)『・・・・』(大崎)「ぜんぜん食事を摂ってないと聞いたが。大丈夫か?」 おや?いったいどういう風の吹き回しだろう。
普段の大崎は、それはもう怖い形相で、手厳しい質問を取り調べ開始時から矢継ぎ早にぶつけてくるというのに。
大崎は、財布から1000円取り出す。すると、それを部下の若い刑事に渡した。
(大崎)「向かいの‘マクドネル’で朝飯買ってきてやれ。」(若刑事)「はい!警部」・・・
それから10数分の後、若刑事は、マクドネルの朝メニューセットを安羅木の目の前においた。
ソーセージバーガー、フライドポテト。あとアップルパイだ。(大崎)「コーヒーでも飲もうか。
おい、テレビつけろ。例のやつ安羅木に見せるんだ。」
(若刑事)「はい!警部」・・・若刑事は、DVDをセットしているようだ。(大崎)「まあ、食えよ。安羅木。な。このコーヒー美味いぞ。」
安羅木は、ソーセージバーガーを口にほおばる。ここ数日間、ほとんど何も食べていなかった。美味い。
それにしても、今日の大崎は変だ。彼の温厚で優しい表情を初めてみた安羅木であった。
その後、しばらくの後、安羅木と大崎はテレビ画面に目を移す。〜「こんばんは。クローズアップ日本の時間です。」〜
なんだ、NHJが19時半から放映する番組を収録したDVDじゃないか。米ハーバード大学卒の肩書きをもつ女性キャスターが話し始める。
〜「今日は、犯罪被害者問題に焦点をあてます。平成16年の臨時国会で犯罪被害者等基本法が成立してから8年。
日本でも、ようやく犯罪被害者支援活動が社会で認知されてきた段階に差しかかりました。・・・・ではゲストを紹介いたします。
‘全日本犯罪被害者家族の会’専務理事で、事務局長をつとめておられる岡野芙美江さんにスタジオにお越し頂きました。」
〜安羅木は、モクモクと食べていたアップルパイを思わず机下に落としてしまった。思わず画面に食い入る。
〜「岡野さんは、27年前にお母様を殺害された被害者遺族です。現在は、犯罪被害者家族の会の活動の傍ら、
訪問介護のお仕事をされています。岡野さんこんばんは。ようこそおいで頂きました。」〜
な、な、なんだって?なんで芙美江が?!そして、テレビに登場した「岡野芙美江」なる女性は、
光浦似のメガネをかけた肥満女性で、吉原エンペラーに在籍していた弥生とは180度異なる別人であった。・・・・
呆然とした安羅木は、大崎に顔を向ける。が、大崎は落ち着き払い、無言のままコーヒーを飲んでいる。
いったいどういうことだ!(大崎)「おい!テレビ消せ!」
162 :
名無しさん@入浴中:2012/10/25(木) 18:06:35.91 ID:WTyzinpp0
(若手刑事)「はい!警部」...(安羅木)『あ、あ、あのぉ・・・』(大崎)「ん?どうした安羅木。」
(安羅木)『ふ、ふみ、芙美江わ、は』ショックのあまり言葉が出てこない。
(大崎)「なあ、安羅木。今日はお前さんにあえて辛いことを知らせなければならん。いいか?」・・・・(続きは次回)
sage
sage
sage
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【小説】「愛の蹉跌」=第31回= 取調室で見せられた
収録番組に登場した岡野芙美江は、安羅木(やすらぎ)
一郎が愛する岡野芙美江と全くの別人・・・
なんだこれは?!茫然自失の安羅木を目に大崎が静かに
語り始める。いつもの険しい人相と口調はいずこへ?彼
も、いつもの大崎刑事ではなく、別人に豹変していた。
安羅木に対して哀れみの情すら垣間みえる。(大崎)
「俺は37年この世界にいる。取調べ経験は35年ほどに
なるかな。聞き込みを含めて会ってきた人数は数千。
いや万に届くかも知れん。だから、なあ安羅木。お前が
逮捕されて今日まで取調べで嘘偽りなく事実を話して
くれたこと。それは俺は信じられるんだ。
理由なんてない。勘だよ勘。それだけ。」(安羅木)
『・・・・・・』(大崎)「お前は、岡野芙美江を名乗
り岡野芙美江を演じた女に騙され罠にハメられたんだ。
なりすましだな。」
(安羅木)『ハメられた?い、や、いやこれは何かの間違いですよ。
芙美江はそんな女じゃない。いま富山県にいるはずだ。
探してみてください!』
(大崎)「じゃあ教えてやろう。お前がよく知る女の名は、
本間恵美子。これが本名だ。」
(安羅木)『ほ、本間・・・さ、さん?』
(大崎)「そう。すでに確認済だ。しかも、本間恵美子が
富山県に現住しているなーんてのもデタラメだ。
奴はずっと東京にいる。お前を騙し嘘をついていたんだ。」
大崎は芙美江、いや本間恵美子を「奴」呼ばわりするが、
安羅木はなぜか怒りが湧いてこない。
いまだに狐に包まれたような信じがたい現実が
そこにあったからだ。
(大崎)「おい安羅木!聞いているのか?
お前、横尾って元店長知ってるよな?」
(安羅木)「は?はあ。2年前の年末で辞めた上司です。
知ってます。川崎に居ると風の便りに聞きました。』
(大崎)「俺は昨日、横尾がいま働いている川崎堀の内の
ソープ店に行き、彼から話を聞いてきたんだ。」
そして、大崎は分厚いファイルを安羅木の面前におく。
そう、吉原エンペラー在籍姫の身分証明書コピーが綴じ
られているファイルだ。身分証明書は写真付のもので
なければならない。
しかし、コピーすると黒色に変色し、見難くなることも
考えられる。そこで、所轄警察の保安係は、コピーとは
別途、本人の顔写真をもファイルに編綴するよう各店に
指導が行われていた。(大崎)「岡野芙美江こと、本間
恵美子は弥生という源氏名だった。が、ほら?みろ。奴
のだけ身分証明書コピー、住民票、誓約書など書類が無
いだろ?」
安羅木は、腰を上げ、前かがみの姿勢でファイルを見入
る。本当だ。源氏名・弥生のぶんだけスッポリと欠落し
ている。安羅木は、事実上の店舗責任者であった。
しかし、日々の業務に終われ、従前から在籍する姫達の
分まで書類をチェックすることはしていなかった。
(大崎)「おそらく本間恵美子は、お前を騙そうと決め
た後に、このファイルから自分の書類だけ抜いた。横尾
元店長の証言で、ファイルは店フロントの後ろのキャビ
ネットにあった。
こいつは、出勤日にフロントに誰も座っていないタイ
ミングを見計らい、ファイルを持ち出したに違いない。
なぜか?奴が岡野芙美江になりすまし、岡野芙美江を演
じるには本間恵美子の書類があっちゃまずい。ただそれ
だけのことだ。」
「昨日、横尾元店長と会った後、俺は本間恵美子に
あったんだよ?つまりはお前が愛した‘岡野芙美江’と
だ。」(安羅木)『え!そうなんですか?どうでしたか
?彼女は元気にしてましたか?』 未だに冷酷な現実を
受け入れられない安羅木であった。・・(続きは次回)
sage
181 :
名無しさん@入浴中:2012/11/04(日) 22:54:21.70 ID:BX1P+4PLO
つまんね
sage
sage
絶賛中断中! 中折断筆!?作家の新境地!
絶望的な文才で紡ぐ陳腐なストーリー!
そして小説風文章と脚本形式風文章の間で彷徨いつつ、温情ある読み手の如何なる読書欲をも、
中折れさせてしまう個性的な文体!ペンネーム挫折放棄のストーリは予後不良!
【小説】「愛の蹉跌」=第32回= 前日のことである。大崎刑事は、
部下の若刑事とともに、とあるマンションの一室にいた。
(若刑事)「それにしてもスゴいマンションですねぇ。」
(大崎)「ああ。渋谷区広尾の超高級マンションだ。おそらく月の家賃は
200万円はするだろうな。俺ら安月給公務員は、オンボロ官舎住まい。
縁がない世界だ。」
・・・コンコン・・・ドアをノックする音が聞こえる。
すると、家政婦とおぼしき老婆が大崎らに紅茶を差し出す。
(大崎)「これはどうも。どうぞお構いなく。」
(老婆)「奥様はもうすぐいらっしゃいます。しばしお待ちを。」
(大崎)「奥様?....本間恵美子さんはご結婚なさったのですか?」
(老婆)「ええ、先日入籍しましたのよ。」
(大崎)「そうですか。」・・・それから数分後・・・
30代半ばの女性が入室した。『はじめまして。本間恵美子です。
警察の方がいらしたと聞いて意外です。』
(大崎)「ほ?意外?それはこちらが言いたいセリフですな。』
大崎の煽りにも表情を変えない。これはしたたかな女だ。大崎の直感だ。
(大崎)「ところで本間さん。この男知ってるよね?」
大崎は、佐山治及び西田美幸の殺害と死体遺棄で逮捕勾留されている
安羅木(やすらぎ)一郎の写真を恵美子の面前に差し出す。
(本間)『はい。私が吉原にいた当時御世話になったマネージャーです。
凶悪犯罪を起こして捕まったってテレビ報道で知って。大変驚きました。』
(大崎)「あんた、吉原エンペラーで何と言う源氏名だった?」
(本間)『弥生(やよい)ですわ。〜ムッとした表情〜なんでそんな質問をするのですか?
刑事さん』
(大崎)「あんた、佐山治を知ってるね?」
(本間)『はい。私の常連指名客で、しつこい客でした。安羅木さんに相談して、
出禁にしてもらったお客様です。それが何か?』
(大崎)「あんたさ、岡野芙美江という別人の実在女性を名乗り、安羅木に近付いた。
そして、安羅木を教唆し、佐山を殺害させたんじゃないのか?岡野芙美江さんは、
佐山治に27年前に母親を殺害された被害者遺族。あんた、佐山の過去を調べたんだろ?
そして、岡野芙美江になりすまし、安羅木に接近した。違うか?」
(本間)『はぁ?何の話ですか?私にはさっぱり分かりませんね。推測でものを言わないで下さい!
私は本間恵美子。
岡野芙美江なんて女性は知りません!』 大崎は、例の
吉原エンペラー在籍姫ファイルをカバンから取り出し、
机上に置いた。(大崎)「ねえ、本間さん。あなた、
つまり弥生姫のぶんだけ身分証明書や本名署名入りの
誓約書コピーが無い。あるのは、あなたの水着姿の写真
だけだ。なぜこれだけファイリングされていたのか。
俺は知らんけど。なぜ身分証明署などのコピーがあんた
のだけ無いのか?それは、あんたがこのファイルから
抜き取ったからだろ?」(本間)『そんなこと知りま
せん!だいいち、そのファイルはお店の店長とか責任者
が管理しているものですよね?私は姫として働いていた
だけなんです。私が抜いたとか。わけわからないこと
言わないで下さい!
何か証拠でもあるというのですか?』・・・大崎が言ったとおり、
ファイルには弥生の水着姿写真が綴じてあるだけであった。
これは、店のアルバム用に撮影した写真であろう。誰がその写真を
ファイルに綴じたのか?それは謎である。安羅木ではない。彼は、
ファイルの存在じたい忘れていたのだから。だから、本間恵美子の
‘なりすまし’罠にまんまとハマってしまったのだ。が、大崎は、この写真を見て、
事件の‘闇’に気付くことになる。(大崎)「ならいい。あんた、入籍したんだってね?
旦那さんは、元ホストでタレントの小田輝義。だろ?」 (本間)『そうですが?それが何か?』
...大崎は、品川湾岸警察署の食堂で昼休みに小田輝義をテレビで見た。
そう、白バイ警官が隣に居たときのこと。そして、その時、小田輝義の隣にいた女性。
白バイ警官は、小田の専属秘書だと言っていたが、大崎は、その女性の顔を覚えていた。
そして、その日の午後にファイルの水着写真を見たのである。・・・(大崎)「ねえ本間さん。
安羅木はね、あんたを岡野芙美江だと信じた。岡野芙美江の27年前の事件の敵をとるため
佐山治を殺害した。岡野芙美江を愛し、いずれ、あんたと結婚することになっていた。
しかも、あんたは富山県に帰郷しているとも。なぜ彼はそんなことを言うのか?
それは、あんたが岡野芙美江になりすまし、安羅木を騙していたから。そうとしか考えられないがね。」
(本間)『もう、いい加減にしてください!それは安羅木さんの妄想でしょ!私は、
姫としてエンペラーに在籍していただけです!安羅木さんとは挨拶程度。話なんてしたことないし。
殺人犯の言うことを信じて、私のような善良な市民を疑うとは何事ですか?!もう帰ってください!
人権侵害で訴えますよ!』(大崎)「・・・・・」本間恵美子は、小田輝義が社長を勤める‘潟潟ンエンタープライズ’
の副社長になっている。なぜ、本間恵美子は、別人になりすましてまで、安羅木を騙したのか?
それは、カリスマホストで実業家の小田輝義。彼が、佐山治に脅されていたからだろう。
本間恵美子は、小田輝義を守り救ったのだ。
192 :
名無しさん@入浴中:2012/11/11(日) 14:26:11.41 ID:34e6gQzP0
だから、2人は結婚し、本間恵美子は今の豪華な生活を享受できる。
佐山治の腐乱白骨死体が発見された秩父のマンホール。捜査にあたった秩父東警察署の高原が言っていた。
佐山は、何か大きな金吊るを掴んでいたらしいと。それこそが小田輝義だったに違いない。
しかし、佐山治はあの世に行ってしまい、小田輝義も本間恵美子もそんな話を認めるわけがない。
安羅木は、岡野芙美江になりすました本間恵美子に男がいたことすら気付かなかった。
小田輝義と佐山治の間にいったい何があったのか?・・・真相はすべて闇に消えたのだ。・・・(次回に続く)
193 :
名無しさん@入浴中:2012/11/11(日) 21:12:24.30 ID:xylBGjcdO
>>184は金玉置浩二こと佐藤歩ですね(笑)。
/ ̄ ̄ ̄ ̄\
( 人___ )
|ミ/ ー◎-◎-)
(6 :(_ _):)
ノ|/∴ノ 3 :ノ、
/ \____.ノヽ
sage
sage
196 :
作者:2012/11/22(木) 01:09:43.50 ID:+oWgaVoyO
近日中に更新予定です。しばらくお待ちを。よろしくお願い申し上げます。
【小説】「愛の蹉跌」=第33回= 品川湾岸警察署の取調室。安羅木(やすらぎ)一郎は、自分が信じ、
愛した女が別人になりすましていた現実を直視できずにいた。安羅木は、「岡野芙美江」
になりすました本間恵美子にまんまと騙され利用されたのである。
しかも、彼自身会ったことも無い「岡野芙美江」のために敵をとった。そう、わざわざ佐山治さらには西田美幸と
2人の命を奪う連続殺人を犯してしまったのだ。
大崎刑事は、再び部下の若刑事に命じテレビのスィッチを入れさせ、先ほど安羅木に見せた
NHJ‘クローズアップ日本’の収録番組を再生する。光浦似の眼鏡をかけた肥満女性である
‘本物の’岡野芙美江が熱心に犯罪被害者の人権擁護の必要性を主張している。
(大崎)「なあ安羅木。岡野芙美江さん生き生きとしてるだろ。27年前にお母さんを佐山治に殺害され、幾多の悲しみと試練を乗り越えてきた。
そして、今は、犯罪被害者支援活動をライフワークに活動なさっておられる。
彼女は生きる道を見つけたんだ。お前が敵をとる必要なんて、そもそも無かったんだよ。
岡野芙美江さんは強くたくましい女性に成長したのだからね。」(安羅木)『・・・・・』
安羅木は、無言のままテレビ画面を見つめる。お世辞にも美人とは言えない岡野芙美江であったが、
とても魅力的な女性に感じられてくる。対して、彼を陥れた本間恵美子(ニセ岡野芙美江)は、悪魔ではないのか?
本間恵美子は、なりすましだったから、道理で埼玉県警・秩父東警察署の捜査線上に佐山治殺害の重要参考人
として浮上しなかったのだ。安羅木の脳裏に当初から蠢いていた疑念。それが一挙に氷解していく。
そして、本間恵美子に対する怨念が沸々とマグマのごとく煮えくりかえっていった。
(安羅木)『刑事さん。』(大崎)「あ?」(安羅木)『私は、自分がしたことの罪を償います。
死刑判決が出ようとも控訴せずにそれを受け入れる覚悟です。で、でも、
私を罠にハメた本間恵美子は何も罪に問われないのでしょうか?そ、それが、納得いきません!』
安羅木は悔し涙から声がかすれていた。(大崎)「残念ながら、それは無理だね。」
200 :
名無しさん@入浴中:2012/11/24(土) 16:39:16.97 ID:1NQnkyCe0
(安羅木)『な、なぜですか!?』(大崎)「可能性があるとしたら、安羅木。お前を教唆して2人を殺害させた、
つまり殺人の教唆犯だろう。でも、その証拠が無い。あの女は、お前とは店で挨拶程度しかしなかったし、
だいいち岡野芙美江なんて知らないと。あいつはなりすまし疑惑じたい絶対に認めない。お前だって、取調べの始めの頃、
全てはお前が単独でやったこと。あの女は関係ないと。そう言っていたじゃないか?」
(安羅木)『そ、そ、それは!あの女が別人になりすまし、私を騙していたなんて夢にも思わなかったから・・・・』
(大崎)「とにかく証拠がないんだよ。証拠が。証拠が無い以上は、本間恵美子を逮捕起訴するこは出来ん。
その意味では、本間恵美子は倫理的、道徳的に責められることがあっても、犯罪者として処罰されることはないんだ。
本間恵美子は何も悪いことをしていないのだよ。」・・・・・(次回に続く)