事実が真実であっても、終始人を愚弄する侮辱的な言辞をこれに付加摘示した場合には、公益を図る目的に出たものということはできない。
真実性の証明の法的性質については、処罰阻却事由説と違法性阻却事由説との対立がある。処罰阻却事由説は、
名誉毀損行為が行われれば犯罪が成立することを前提に、ただ、事実の公共性、目的の公益性、
真実性の証明の三要件を満たした場合には、処罰がなされないだけであると解している。これに対し違法性阻却事由説は、
表現の自由の保障の観点からも、230条の2の要件を満たす場合には、行為自体が違法性を欠くと解しているが、
そもそも違法性の有無が訴訟法上の証明の巧拙によって左右されることは妥当でない
という批判がある。両説の対立は、真実性の証明に失敗した場合に鮮明になる。
すなわち、処罰阻却事由説からは、真実性の証明に失敗した
以上いかなる場合でも処罰要件が満たされると考えられるが、違法性阻却事由説からは、真実性の錯誤が相当な理由に基く場合、
犯罪が成立しない余地があると考えられる。判例は当初、被告人の摘示した事実につき真実であることの証明がない以上、被告人において
真実であると誤信していたとしても故意を阻却しないとしていたが、後に大法廷判決で判例を変更し、真実性を証明できなかった場合でも、
この趣旨から、確実な資料・根拠に基づいて事実を真実と誤信した場合には故意を欠くため処罰されないとした
(最大判昭和44年6月25日刑集23巻7号975頁)。すなわち、現在の判例は違法性阻却事由説であると解される。