<lesson 3 >つづき
「そう」
再び、落ち着いた声になった。するとY先生は、レッスン前に岡島さんがしたように、私の身体を舐めるように観察した。
観察を一通り終えると、Y先生はいくつか質問をし始めた。
「あなた、名前は?」
「さ、三枝みきです…」
「バレエを始めてどれ位?」
「10年です」
「中等クラスの担当の先生は?」
「U先生です」
緊張し通しだったが、なんとか回答できている。あまりに淡々としていて、質問と言うか、「尋問」に近かった。
しかし安心するにはまだ早かった。
「今日(稽古場への)入りは何時ごろ?」
「4時半くらいです。」
その答えに、Y先生の表情が一変した。
尽かさず、私の背中や、太ももに手を当ながら告げた。
「ずいぶん余裕なのね。こんな冷たい身体と、硬い筋肉でレッスンしようなんて。このクラスを甘くみないで頂戴。なぜ遅かったのか知らないけど、少なくとも時間が無かったなんてのは「ここ」では理由にならないからそのつもりで」
怒られるのは必然だ。準備不足はケガにつながりかねない。私が甘かった。
前に立っている3人の背中に目をやる。
まだ乾ききっていない幾つかの汗の粒が、窓からの漏れた光に反射して輝いているのが見えた。