172 :
快楽拷問人:
私が手に取るとX子の番号だった。回るのに少し手間取ったが、
Y子が口枷をしていなかったので携帯を耳に押し当ててやる。
アグラ縛りでも十分しゃべれるが、こういう場合のY子はそう
なってしまうが、不自然に甲高い声になる。携帯からは、ママ、
今どこ、というレイの声。普段でもそういう言い方はするらしい
けど、本当に探りを入れていると感じることがある。
後になって、そうではなかったかと思うのは、枷や鎖である。
こちらは、X子に数回経験させているので、部屋に置いて
おいても、不思議に思わないだろうし、もっと慣れさせてやろう
と、目に付くところにおいて置いた。けれど、よく考えると、
X子からすると、自分はそんなに鎖や縄を経験していないので、
誰に使うのか、ということで、想像が働くことになるだろう。
実際、もう少し後になると、X子をまた緊縛し始めることに
なるのだけど、その緊縛をホテルで再開した時のことだった。
麻縄でぎちぎちに縛り上げてから、鏡の前に立たせて、キレイ
だろうというと、うなずいてから、先生、どこでこんな縛り方
覚えたの、といった。いろいろ研究したのさ、と言うと、
それ以上は聞かない。けれど、質問の意味は、いつもママを
こんな風にしているんでしょう、ということだったと思う。
つまり、部屋の鎖や道具を見れば、鉄の枷や首輪をはめられ、
鎖で繋がれた母親の姿が浮かんでいたのではないかということ
だ。けれど、この当時には、こちらは、そのことを考えていない。
もうひとつ、香水のことだ。確かに、Y子が帰ってから窓を
全開にして換気した。それに、同じ日にX子がくるという設定は
避けていた。けれど、香水の香りというものは、家具やカーテン
などの隙間にわだかまってしみこんでしまうのかもしれない。
こちらにはわからなくなっている匂いが、何日かしてやってきたX子
には、感じ取れたのかもしれない。とりわけ、緊縛したY子を床の
じゅうたんに転がして、汗と混じった香水の成分がしみこんでいたはずだ。
むしろ、X子がその良く知った香を感じ取らない方が不思議だったのかも
知れない。