女性にペニスがある社会part3.1

このエントリーをはてなブックマークに追加
23647 ◆dge4QXzOKA
>>229 続き

「それじゃあ、行ってくるわ」
「ああ、気をつけてな」
 香織は愛する夫を抱き寄せ、そっと唇を重ねた。新婚時代から変わらぬ『いってらっしゃい』のキス。ただ唇を重ねるだけの短いキスは、あのころとはする方・される方が逆転してしまっていた。
 瑞恵のもとで働くことになった香織は、スタイルのよい肢体をスーツに包み、以前よりはやや濃いめの化粧をして家を出てゆく。
 初めてのときは瑞恵について顔見せのためにあちこちを周り、挨拶をして回った。
 そして、テクニックはまだまだであるが若い彼女を気に入った何人かの客と契約を結んだ。瑞恵にしてみれば昔からの客をわけてやることになるのだが、これまで新人が入るたびにこうしているのであり、彼女は別段気にしてもいない。
 むしろその分新しい客を定着させられると微笑んで返し、恐縮する香織を安心させようと気遣っていた。
 瑞恵を相手にしていただけあってその客達の要求は高く、彼らの相手をすることで香織が得る物もまた多かった。中年層の客が多かったが、女性、男性を問わず経験を重ねることで香織はさらに磨かれてゆく。
 そして、やがては自分の手で新たな顧客を獲得できるようになっていった。
23747 ◆dge4QXzOKA :03/11/18 23:57
>>236 続き

 一方健夫は、毎朝仕事に出てゆく香織を背中を見送る日々を重ねていた。
 あの調教部屋から開放された翌日、勤め先に出勤した彼の居場所は無くなっていた。
 当然だろう。どんな事情があるにせよ、二週間近く無断欠勤した彼を許すほどの余裕は、彼らの会社には無かったのだった。
 増して、全ての事情を話すわけには行かない健夫の曖昧な説明は、上司の機嫌をさらに悪いものとした。失踪した妻を追っていたというのはわかる、しかしその間電話の一つも入れないとは何事か。上司の叱責に、健夫は何も言い返せなかった。
 そんな彼の態度に、何か事件に巻き込まれていたのではと仲裁しようとした同僚もいたが、それならそれで彼が警察に何も届けていないことが説明できない。
 いろいろと悶着があったが、健夫が辞表を提出したことで全てが片づいた。いや、彼が辞表を出さずとも、会社の方から解雇されていたであろう。
 晴れて無職の身となった健夫に同情どころか感謝する者もいた。
 その筆頭は香織の両親であった。どんな事情があるかは知らないが、親である自分たちにも相談の一つもせずに失踪した馬鹿娘の後を追って連れ返してくれたわけである。
 健夫の勤め先からの連絡で夫婦の不在を知った健夫の両親から連絡を受け、ただ心配するしかなかった彼らにしてみれば健夫は大の恩人ですらあった。
 彼らの紹介で新たな職に就いた健夫であったが、それが長続きすることはなかった。
23847 ◆dge4QXzOKA :03/11/18 23:57
>>237 続き

 健夫の仕事が長続きしなかった理由……それは、愛しい妻を思うが故の集中力の欠如であった。
 彼がこうしてデスクに着いている間に、香織はどこかの家庭を訪れ、顧客に注文された下着を売っているのだ。そして、下着の代金を大幅に上回るアドバイス料を受け取り、懇切丁寧なアドバイスをしている筈なのだ。
 無論、香織はたとえ健夫が相手であっても、個人のプライバシーに関わるようなことは話してはくれない。しかし、可能な限り婉曲に、健夫の嫉妬を煽るような土産話を聞かせてくれるのだ。
 夫に先立たれた未亡人を慰めるために、夫婦のようにベッドで愛し合うとか。
 単身赴任の中年男性は、自分の買った女性用下着を香織に着せて、それを着たままペニスをオナニーして射精させるのが趣味であるとか。
 とある夫婦は二人とも契約しており、必ず夫婦そろって香織を求めてくるとか。
 それらの淫らな情景が頭から離れず、健夫は仕事に集中できずにいた。
 彼にとって香織は単なる愛しい妻にとどまらず、隷属を誓った相手なのだ。彼女のことを考えずにはいられないのも無理はなかった。
 しかしそれ故に仕事が手に付かないのでは話にならない。体調不良を理由に休職し、そして退職することになった。
 香織の両親は、なおも彼に職を勧めてくれるが、これも体調が戻るまでと言い訳して辞退した。
 そして、いつしか彼は専業主夫という立場に甘んじてしまっていた。傍から見れはヒモのように見えたかもしれない。だが、恋しい妻を思い焦がれてその帰宅を待ち続ける姿は、女を働かせてその身銭を啜るヒモとはもっとも遠く離れたものであった。