今日も朝から出撃!!

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1名無しさん@お腹いっぱい。
お前ら何打つの?
俺は鉄板で北斗だ
2名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/01(金) 09:54:10.47 ID:lWtccWfb
俺は鉄板で焼き肉だ
3あ ◆J/ZoJAt3T2 :2013/11/01(金) 09:57:12.55 ID:HYDl9S4P
うわー
4名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/01(金) 10:13:37.70 ID:sF+yeIM4
ミウたんの脇腹に刃渡り15センチ位の鋭利な刃物を突き立てたい
おっぱいが大きかったら俺を弾いて助かったかもねって耳元で囁きたい
そして血の海の中でのたうち苦しむミウたんの口ににモスの金平ライスバーガーをねじ込みたい!
ライスバーガーなら海鮮かき揚げでしょ…って薄れ行く意識の中のミウたんに突っ込んで欲しい
これが本当の長押しチャンスになるの?
5名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/01(金) 10:29:36.95 ID:KzfG8RAo
チンコとかなんとか
6名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/01(金) 10:44:01.66 ID:sF+yeIM4
まず左(第一?)リールを止める
そして寝ているミウたんのキャミソールをめくりあげ藤色のパンティには目もくれず、
露出した臍穴に電気ケトルのコンセントを力いっぱい突き刺したい
牛蛙が破裂したような絶叫を上げて跳ね起きるミウたんの顔面を出合い頭に全力パンチ
したい! その後、失神したミウたんの手にまるまつのレシートを握らせ、
更に耳元でリオパラのparadiseを静に歌ってあげたい!
7 【大凶】 :2013/11/01(金) 10:58:08.82 ID:I0sAP/au
大吉なら出撃
8名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/01(金) 11:27:00.80 ID:sF+yeIM4
何処までも透き通った青空と、その下遥か彼方に広がる茜色の山嶺
それをキャンパスに秋風と踊る枯葉達… そんな窓の外の晩秋の景色を頬杖をついて見つめる
ミウたん… 何を思うのか、誰を思うのか、物憂げな表情とその白い肌は穏やかな秋の陽射しに照らされて
ほんのり色付いていた…
そんなミウたんのほっぺに背後から真っ赤に熱したフライパンを押し付けたい!
ちょうどポップコーンの様に弾け飛ぶミウたん
熱傷で破裂した頬を押さえ、目を見開き、ブルブル震えるミウたんに
ガクブルは設定変更の証だね って言ってあげたい!
9 【凶】 :2013/11/01(金) 11:50:54.38 ID:UpVvugAr
今日もsugeki
10名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/01(金) 12:02:43.12 ID:+COz9ocN
あー早く打ちたいよ。
あと少し。クソババァさっさと約束の8万振込めや!!

はよ化物語打ちたいねん

仕事探せってうるさいけど打ったら探しにいくわ
11名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/01(金) 12:05:46.03 ID:sF+yeIM4
近所のヨーカドーで買い物を終えたミウたん 抱える大きな紙袋からはグレープフルーツがのぞいていた
最近のミウたんのお気に入り、キンキンに冷やしたグレープフルーツを二つに切って、ひとつまみの砂糖を
振りかけるだけのお手製お手軽スイーツを作るのだ
温めの湯船に浸かった後に頂くそれは、自分へのささやかなご褒美だ
小さく舌を出してお楽しみの時間に思いを馳せるミウたん…
そんなミウたんを時速140キロのランクルで撥ね飛ばしたい!
ゴム人形の様に吹っ飛び、銀杏の木に激突し真っ赤な血糊を樹表にぶちまけるミウたん!
俺は急いで車を降りてミウたんの側に転がるグレープフルーツを手に、監視カメラに叫びたい!
ベルなのれふ〜!
12名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/01(金) 12:32:41.48 ID:SfZAEXud
すごいのがいるな
13名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/01(金) 12:47:15.52 ID:sF+yeIM4
ミウたんはああ見えて和食党 今日の朝は七分粥にいりこ出汁の味噌汁と鯵の開き、野沢菜のお漬物だ
勿論全部お手製、料理の基本さしすせそ、愛情たっぷり味の素 いつか愛する誰かと囲む食卓を夢見て
今日は一人、漆塗りのお膳の前にちょこんと正座するミウたん
いただきます! 両手を合わせてお膳の向こうに浮かぶ農家や漁師の方々に感謝を込めて頭を下げるミウたん
そんなミウたんの白いうなじに備前長船を叩き下ろしたい!
漫画みたいな血飛沫をあげ、お膳の上にゴロンと転がるミウたんの生首…
これぞ正しい武士道だね! そう言ってミウたんの霊を慰めたい!
14名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/01(金) 13:52:05.30 ID:2if0tZYq
朝から行くつもりが寝ちまってたわ
さて用意して行くか
15名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/01(金) 22:49:38.18 ID:QqZi8lKs
明日は朝から5スロでバジリスクにつっぱするわ
16名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/02(土) 00:50:03.31 ID:TcE3sHLV
あっぱれ!!まるでダイナマイト並みの大爆発!カイジで万枚突破!

驚くなかれ!18000枚の大勝利★

投資22000円からの〜 ウヒョォォォギモヂィィィィィ

プラス338000円!

大好きなパチスロで大好きな機種を打ち、遊んで楽しんでお金が貰える、まるでハッピーピープル!
今日は豪遊だぜー!!
酒飲んで女抱いて大盤振る舞い!

これがギャンブルの醍醐味だよな?

はぁ?今なんて?醍醐の花見?何言うてんねん君?それ落武者や、あんたの事や、なんつってww

お前ら!メンタルで負けんな!
粘り一番!頑張り一番!スロット一番!

ん?いつものアレお願いしますやて?

…ったく…しゃあないな…

全力で声出せよ!いくぞー!1人はみんなの為に!みんなは1人の為に!気合い入れていけー!

うおおおおおお

1、2、3!ハイッ!
「スロット最高!!」
もういっちょ!!1、2、3、ハイッ!!
「スロット ラブユーオンリー!!」

http://i.imgur.com/PyyaYpG.jpg
http://i.imgur.com/iDWcQFK.jpg
http://i.imgur.com/eQo3Zqu.jpg
http://i.imgur.com/6dbCldK.jpg
17名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/02(土) 01:25:25.01 ID:kMqDXyc/
こんにちは 今日も来たのね・・・
大分冷え込んできたなぁ嬢ちゃん・・・
すっかり顔馴染みになった司書のお姉さん、警備のおじさんと挨拶を交わし、ミウたんは
今日も定位置に腰掛ける ここは市立図書館ーーー
ミウたんは此処が大好きだ 家庭の事情で高校にへは進学出来なかった だが、彼女には大きな
夢がある その夢に実現に向けミウたんはファーストフード店のアルバイトの傍ら、
足しげく此処に通い独学で勉強を続けていた
同年代の少年少女が学生服に身を包み、友達と楽しそうにしている様を、ほんのちょっぴり
羨ましく思いながらも、その瞳には希望の光に満ち溢れていた
18名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/02(土) 01:57:14.70 ID:kMqDXyc/
もしや成功の裏技!? 永らく探していたお目当ての古書を見つけ、脚立によじ登るミウたん
その隙を逃さず、彼女の椅子に特製ブーブークッションを仕掛けたい
何も知らぬミウたんが大事そうに本を抱え、それでいてワクワクを隠し切れない笑顔を覗かせて
全く無防備に椅子に腰を降ろすーーー
ブバッ!ブヒヒィィイー!ブシャャャァ!!
濁った水溶性の粘着質な爆音が静かな図書館に響き渡る! 周囲の目がミウたんに注がれる!
何が起きたかわからないミウたん その隣で俺は叫びたい!
うわぁ! 臭ぇぞ、この女!
だが、それは紛れもない事実だ クッションには豚の糞と発酵した生ゴミのエキスが仕込まれていたのだ
辺りに立ち込める猛烈な刺激臭! ようやく自分の身に起きた惨劇を理解したミウたん
あまりの恥ずかしさと何者かの悪意に対する怒り、動揺が1つになって真っ赤に染まった顔を
両手で隠しその場にうずくまるミウたん… ただもう大好きなこの場所には二度と来れないだろうという事実に
熱い何が頬を伝うのをただじっと堪えるしかなかった…
そんな可哀想なミウたんの後頭部をパイプ椅子が変形する程しばき倒したい!
そして、悲しみと苦しみからミウたんの魂を解き放してやりたい!
19名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/02(土) 21:27:49.26 ID:kMqDXyc/
中卒のミウたんはファーストフード店のアルバイトでなんとか生計を立てている
持ち前の明るい性格と天使の様な笑顔 自然とミウたんの受け持つカウンターに客は列をなす
同僚もそんなミウたんを僻むでもなく献身的にサポートする
まさにミウたんはお店のアイドルなのだ
そんなミウたんのワンダフルワーキンライフをぶち壊したい!
客としてミウたんに無理難題をぶっかけたい レタスアレルギーだと言ってバーガーのレタスを
抜いてもらいたい コーヒーが濃すぎると言って水で薄めてもらいたい
そしてその様子を盗撮し、TwitterとFacebookに投稿したい!
ミウたんの偽アカウントのそれに
"バイトタルいんで馬鹿客からかいました〜"
のキャブと共に客のバーガーからレタスを抜き、ドリンクを水で薄める笑顔の
ミウたんの写真をアップしたい ! 後日、2chに
"またまたバイトテロ、ファーストフード店閉店へ 損害賠償数千万を女アルバイトに請求"
という記事を見つけて、絶望に打ちひしがれるミウたんを想像しつつ極楽湯に向かいたい!
20名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/02(土) 22:38:45.32 ID:kMqDXyc/
ミウたんは毎月1日を"自分の日"と決めている
最近いろいろと辛い事が多い毎日、仕事とお金に追われ家に帰れば疲れてただ寝るだけ
休みの日は更に泥の様に寝るだけ… そんな毎日に少しでもアクセントをつけたい、
そうして生まれたのが"自分の日"だ その日は一ヶ月頑張った自分へのご褒美として
可能な限りの贅沢をすると決めている 今月のその日、ミウたんは町一番のレストランへとやって来た
いらっしゃいませ… 俺はそんなミウたんに最高のお・も・て・な・しをしてあげたい!
こちらが本日のメインディッシュです… カートの上のクロッシュをおもむろにミウたんの前に差し出す
期待に溢れるミウたんの両視が銀色のそれに注がれているのを確認し、勢い良くクロッシュを開け放ちたい!
"………くぁwせdrftgyふじこーーー!!!"
言葉にならない叫び声を上げ椅子ごとひっくり返るミウたん
無理もない、そのクロッシュの中には幼い女の子の頭部…ミウたんがよく知るラムネとか言う
糞ガキの生首……の丸焼きがあった またその表情が壮絶だった
女の子がこんな形相になるのか… その苦悶に満ち満ちた表情は彼女が死の間際、凄まじき
拷問虐待を受けた事を物語っていた…
"倒したら直ぐに刺す!"
そしてカーネル宜しく仰向けにひっくり返えり泡を吹くミウたんの秘所にバールの様な物を深々と突き立ててあげたい!
21名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/03(日) 18:37:20.62 ID:KRPy+yXb
しょせんザコですよね〜 秋の天皇賞を外し紙くずと化した馬券の束を風に散らしながら
悔し紛れに悪態をつくエマ まず、そんな彼女のケツを蹴り上げ、驚き振り向いた
その整った顔を金属バットで力一杯フルスイングする 血飛沫と割れたレンズ片と共に吹き飛んだ彼女の眼鏡を
拾い上げハンカチで包む
次に東急ハンズで目深にニット帽をかぶり大きなマスクとサングラスで変装したつもりの
ミウたんが、電気アンマをこそこそ買って帰るところを待ち伏せる
足早に店を離れて家路を急ぐミウたんが公園の池の側を通った瞬間、後ろからハンズの
紙袋をひったくり池に投げ捨てる!
呆然と立ち尽くし池の水面に広がる波紋を見つめるミウたん
そこで俺は彼女に問いかけたい!
"貴女が落としたオナニーグッズはこのエマの眼鏡ですか?"
"それともこのラムネの頭の丸焼きですか?"
目を見開き口をパクパク開閉させて後退るミウたんに
"貴女は正直者ですね!褒美にこれを与えましょう!"
と言ってアイスピックをミウたんの下腹部に根元まで突き沈めたい!
22名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/04(月) 10:19:35.15 ID:4KBc/2TT
"……ミウ……ミウ…………"
"………お母さん?………お母さん!?"
"…ミウ……こちらにいらっしゃい……"
"待って!…待ってお母さん!"
ジリリリリリリリィ……
耳障りな金属音がミウたんの鼓膜を刺激する 直ぐに其が目覚まし時計のアラームだと
気付き、無意識に枕の先のそれに白く細い手を伸ばす
"夢か……" 今日もまた嫌な夢を見た 最近良く見るこの夢……
ミウたんがまだ幼い頃死別した母親 朧気な記憶の中にしか存在しないはずの母が
その夢の中ではとても生々しい姿で現れ、自分の名を呼び手招きする
ミウたんも必死に母の元へ向かおうとするがあと少しのところでいつも夢は覚める
覚めた後はぐっしょりと汗をかき胸の鼓動は高鳴っている
いったい私はどうしたのだろう…… 私の心の中の隙間が声なき声をあげているのだろうか……
悲しい……寂しい……辛い……あの頃に戻りたい…… そんな無意識の心の悲鳴が
こんな夢を見せているのだろうか……
私…泣いてる…? ミウたんは自分の頬を伝う滴に気付いた やだ、泣きたくなんかない!
ミウたんは自分を奮い起たせる様にベッドを飛び起き、洗面所へと向かった
そんなミウたんが洗面所のドアを開けた瞬間、中に潜んだ俺が彼女の下腹部を
ショットガンの零距離射撃でぶち抜いてやりたい!
内臓や生殖器をぶちまけ、辺り一面を血の海にし、その中で機械的に
痙攣するミウたんの半開きのお口にショットガンの銃口を差し込み
無事、天国のお母さんの元へ逝ける様に祈りを込めて引き金を引きたい!
23名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/04(月) 20:29:15.77 ID:Ew48KPQS
遅刻!遅刻〜!
ミウたんの朝は騒々しい ゆとりを持って15分前に仕掛けた目覚ましに
きちんとおっきしたミウたんだが、朝のバスタイムでまさかの二度寝 更に卵おじやの朝食
をレンゲでかき混ぜてる最中に奇跡の三度寝 完全にタイムスケジュールを30分オーバー
し、今慌て愛車のピンクミウたん号の待つガレージへと降りて来た
今月で何度目か… 毎日の様な気もする、この光景…
ミウたんは小さくため息をつきながら颯爽と階段の最後の手摺を跨ぎ飛び、ドラム缶の
上のキーホルダーを拐って愛車のドアに手をかけたーーーー
そこで初めて言い知れぬ違和感に襲われた… "あれ!?" ミウたんはドアの取手を離して
二歩後ずさった…
"!!!?"
ミウたんは自分の目を疑った ピンクミウたん号のドアにはミウたん自ら描いたミウたんの
ディホルメ自画像が描いてある 本来そこには大きな打痕があった いや、中古で三万円で
買ったこの車には至るところに打痕や傷があった バンパーには何故か人の髪の毛が
絡まっていたし、フロントガラスには洗っても消えない手形もあった
それでもミウたんはこの車を気に入っていた だからこそ少しでも可愛く綺麗に見える様に
一生懸命ペイントし、自分のイラストまで書き入れていた…
そのドアに描かれている筈のプリティミウたんが……
何故か、魔女のコスをした赤毛の巨乳少女に書き替えてあった!
"なんなの…これ!?"
24名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/04(月) 20:33:20.44 ID:zVaKcxXR
>>22
障害者認定か介護認定とってない人間は生活保 護打ち切り!

精神病は病じゃない!弱虫にくれてやる金はも う無い。
25名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/04(月) 20:44:59.68 ID:Ew48KPQS
目の前の光景を信じられず、口を押さえて呆然と立ち尽くすミウたん
誰がこんなことを… 誰かがここに…!? 様々な何故を思い巡らしドアの前にヘナヘナと
膝まずくミウたん… 無意識に指で魔女っ娘のイラストをなぞる…
その瞬間、運転席に潜んだ俺が両足をバネにしてドアを跳ね開けたい!
強かに顔面をドアに打ち付け、砕けた白い前歯共に吹き飛ぶミウたん
鼻から大量出血し白目を剥いて前歯を失った間抜けな口内を開帳して完全に
伸びたミウたん そんなミウたんの臍穴にバールの様な物を突き立てたい!
そして所々に白いウジが湧きはじめたラムネの焼き頭をその隣にそっとお供えしたい!
26名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/04(月) 22:08:07.88 ID:YKgbQPJH
マジキチ
27名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/05(火) 07:48:24.64 ID:deAuMvvF
しょせんザコですよね〜 本日8回目の登場の風のヒューイがやはり火を灯せず、今日も
三万負けたエマが、腹いせに噛んでいたガムを隣の化け物語の島に放りながら店を出てくる
所をローダウンした黒のワゴンRで勢いよく跳ね跳ばす
10メートル程ぶっ飛び左の眼球と脳ミソが飛び出た彼女を助手席に乗せ一路、
楽天優勝セールに沸くAEONモールへと向かう
この日、ミウたんは全財産4千円を握りしめ、2週間分の食料の調達に来ていた
う〜ん お米が欲しいけど…ここは小麦粉でガマンか…
同年代の少女達が数千円、数万円を散財してショッピングを楽しむ中、ミウたんは必死に
明日を生き抜く為の闘いを強いられていた
そんな可哀想なミウたんにサプライズイベントを仕掛けたい!
ミウたんが遂にガマン出来ず、惣菜売場からこっそり持ち出した5個入りカキフライを
スカートの中に隠すべくトイレの個室に入ったところを襲撃したい!
カキフライのパックをなんとかパンティの中に挟んでスカートで膨らみを誤魔化そう
と悪戦苦闘するミウたんの個室の上から血みどろのエマを放り投げたい!
"くぁwせdrftgyふじこーーー!!!"
そして絶叫するミウたんの元へ
"どうされました!お客様!"
と言って斧で個室のドアをぶち壊しながら乱入したい! そしてそのままミウたんの
頭頂部を斧で滅多打ちにしてあげたい! その後AEONのお客様センターに万引き犯
ミウたんと彼女の盗品としてエマとカキフライとラムネの焼き頭を一緒に届けたい!
28名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/05(火) 08:39:46.11 ID:DIytk8cz
>>24
お前わかってねーな、こういうのがただの無職で健常者ってのが怖いのに
29名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/05(火) 09:45:26.26 ID:auWlfAjw
火曜日から憂鬱な仕事なのに朝7時からエウレカ打つために並んでる連中みてブルー
職場でのゆういつの憩いの便所から2ちゃんみてるから実況してくれよ
30名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/05(火) 20:02:53.96 ID:0b2gP7SG
はぁ〜…… ミウたんは深いため息をついた
どうして休みの日はあっという間に過ぎ去るの? ファーストフード店のアルバイトは
決して嫌いでは無いのだけど…それでも休み明けの出勤は憂鬱になる ブルーと言うの?
朝の7時、既に街は活動を始めている 人の波、車の群 何かに追われる様な無機質の
うねり… そんなモノクロライクな景色をロッカールームの窓越しに眺めながら
ミウたんは制服に身を包む ロッカーの鏡に映るミウたんはもういつもの明るい
ミウたんだ "いらっしゃいませ〜!"元気よくロッカールームを出て行くミウたん

はぁ〜…… 休憩時間、ミウたんはまた大きなため息をついた
職場でゆういつの憩いの場所、トイレの個室にこもりぼんやりと虚空を眺める…
最近何か変だ… 私、どうしたんだろ…ゆういつってなんだろ… 疲れてるのかな…
ミウたんは自分の肩を両手でぐっと掴んだ 温もりが欲しい… 誰かに抱きしめて欲しい…
ミウたんは突如、トイレットペーパーを猛烈な速度で巻き取り出した
2ロールを空にするとその紙を手で丸めて個室を出る そのまま洗面台に向かうと
手にした紙の塊を制服の上着の中に潜り込ませた
"巨乳になれば……愛されるの……?"
不自然なまでに盛り上がった両乳房を手で整えると、何かを決意した顔で
トイレを後にした…
"いらっしゃいまブゲラッ!!?"
俺はそんな心を病んだミウたんの接客を渾身のカイザーナックル顔パンでフリーズ
させたい!お前の魅力はその貧乳だろ! そんな俺の心が伝わるまでミウたんの顔面を
マウント殴打し続けたい! 顔面が腫れ上がりカリクイの池沼みたいな人相になった
ミウたんの顔をFacebookにアップして、俺の嫁のすっぴん寝顔wとかコメントして
会社の同僚の反応を知りたい!
31名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/06(水) 17:41:51.32 ID:0Cfo2K7T
"出来ないな〜……" 愛車ピンクミウたん号が鎮座するガレージの片隅を工具棚で仕切った
だけの一角、通称製作ステージ その大半を占める大きな作業テーブルの上に肘をつき
独りごちるミウたん…
ここは本来ミウたんが趣味でライフワークのこけし作りの為に設けたスペースだ
だが今ミウたんが製作に没頭しているのはそのこけしではない ミウたんの生活は貧しい
極貧と言って良い 年頃の娘にもかかわらず外出着は一張羅 水とトイレットペーパー
節約の為、基本的に自宅では大便はしない 1週間に1回は墓地で外食する
そんなあまりに惨めな自分を慰める為に作った"自分の日"も最近は まるまつの
白身魚フライ定食が限界になりつつある
そんな現状を打破する為、ミウたんはアルバイトの他に内職を始めたのだった
今日、初めて渡された仕事が某三流パチスロメーカーの促販グッズである蛙の箸置き
である こけし作りで手先の器用さには自信があったミウたんだが、見本の蛙の造形の
余りの苛立たしさについぞ集中出来ず辟易としていたのだった…
こんな物を貰って誰か喜ぶのだろうか……
疲れとイライラが溜まったミウたんは無意識に見本の蛙の人形にゆっくりと
錐を突き刺していった…
そんなミウたんに人生大逆転のチャンスを与えたい!
ちょっと不気味な笑みを浮かべて蛙の人形に錐を刺すミウたんの脾臓の辺りを
背中から蜻蛉切でひと突きしたい! 逆くの字に身体を折って絶叫をあげるミウたんに
"人生選抜チャレンジ! 今のひと突きが脾臓を外れていれば残り人生上乗せのチャンス!"
と激しく煽ってあげたい! 真っ黒な血ヘドを吐いて虚空を掴もうと手を伸ばす
ミウたん 俺はそんな彼女の耳元で叫びたい!
"人生上乗せチャンスは本当にチャンスなんだから!"
32名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/06(水) 18:01:37.20 ID:9fJvgTeA
普段明るい隣人もこういう空想で精子びゅっびゅしてんのかな
33名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/07(木) 21:39:49.85 ID:WXcBjwDD
"ふわぁ〜〜ぁ"
まるでアニメキャラの様な大きな欠伸をしながら玄関を開けるミウたん
既に太陽は地平線を遥かに越えて朝と言うには幾分遅すぎる時間 爽やかな快晴の空の下
少しひんやりとした秋のそよ風を胸一杯に吸い込みながらミウたんは大きく伸びをした
今日はアルバイトが休みの日 月に3日しかない休日の1日 思う存分寝坊して
日頃の寝不足の仇をとったミウたん 軽く上半身を屈伸しながら玄関先のポストを
覗きこむ 木の棒を地面に垂直に挿してミカンの缶詰の空缶を付けただけの手作りポスト
何気にミウたんはこの瞬間が好きだ 新たな出会い、運命の出逢い いつの日か
このポストに届けられる筈の愛の告白を想い、できればそれが今日であれと祈る
そして……公共料金の督促状が3通と宗教団体の不気味な絵葉書、女の子の
マル秘高額バイトの勧誘DMが4通… いつもと大して変わらぬ味気ない
リアル迷惑メールの束をいつもと同じように
片手に握って玄関を潜るミウたんだった… その時、彼女の足下に1通の封書がひらりと
落ちた "手紙…?" 今日は少しだけいつもと違った 封書を拾いあげると裏の差出人を
確認するミウたん… "私立マカロン学園 ココノ 御依願スナイパイ様"
ミウたんは小首を傾げながらガレージの隅の製作ステージに向かい、
そこで封書の中から1枚の便箋を取り出した そこには近所で名の知れた
有名お嬢様学校で繰り広げられる様々なセクハラ行為とその首謀者の悪劣教師の存在、
そしてその悪劣教師をどうにか懲らしめ改心させて欲しいという、切実な想いが溢れた
ある少女の願いが記されていた
なんという事だろう! ミウたんは余りの怒りに自分の血が熱くたぎるのを感じた!
だが次の瞬間、封書に同封された現金三万円を見て嬉しさに思わず喚声をあげてしまう
"どなたか知りませんがありがとうございます!…どうか貴女にも幸があります様に…! "
現ナマ三万と少女の声無き悲鳴の綴られた便箋を前に手を結び祈りを捧げるミウたん
そんな余りに天然過ぎるミウたんに強烈な突っ込みを食らわせたい!
三枚しかない諭吉を笑顔で何度も数えるミウたんの頭頂部をダイアモンド鶴嘴で
粉々に粉砕したい! "テメェが助けるのだろうが!" そう叫びながら彼女の口とアナルに
高圧電線を突き刺したい! プスプス煙りの沸きだすミウたんのスカート丈を測りたい!
ついでに上着をたくしあげ胸囲も測定してあげたい!
"バスト76ってなんだよ! 72はどっからきたんだよ!" そう叫びながら彼女の乳首に
液体サロンパスを塗りたくりたい!
34名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/07(木) 21:45:06.55 ID:eQEVXQjb
この中にお医者様はいませんか!?
ドクター・キリコというお医者様は!
35名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/08(金) 17:02:24.92 ID:JN8BfyLv
鬱蒼と樹木の生い茂るジャングルに人知れず咲く一輪の白百合…
あるいは荒涼とした砂漠の夜の天空にひっそりと瞬く青星…
もしくは遠き深海の更に奥、光も届かぬ漆黒の海底で淡く煌めく一粒の花珠真珠…
古の詩人が彼女を表現するのなら、そんな言葉を並べたかもしれぬ…
ミウたん……それは、人の心を失った生きる屍がごとき現代人が都市を拔扈し、
全てが機械化され、合理化され、ひたすら欲望と享楽だけを追い求め、無意味な争いを
続けるこの末世の中において、たった一人、俗世に穢れる事なく風説に流される事なく、
ただ正直に何処までも真っ直ぐに生きる美しき少女の名である!
彼女に出会った者は誰であろうとその魅了の前にひれ伏さずにはいられない
薔薇の花を持つ者があれば其れを彼女に捧げ求愛し、十字架を持つ者があれば祈りを
捧げ救いを求め、バタフライナイフを持つ者があれば彼女の柔らかき所を心ゆくまで
メッタ刺しにするであろう またダイアモンド鶴嘴を持つ者があれば……
要するに極めて俗っぽく砕けて言えば "かわいいミウたんprpr" なのである
36名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/08(金) 17:55:42.65 ID:JN8BfyLv
だが、そんなミウたんの笑顔に僅かな影がある事を見抜ける者は少ない…
彼女には誰にも知られる訳にはいかない、もうひとつの裏の顔がある…
闇に生き、悲しき運命を背負う裏家業の仕事人としての顔……

そう、ミウたんは……アマチュアこけし職人なのだ!
魑魅魍魎が拔扈するこけしアート界で今、一際異才を放つ注目株、
それがミウたんだ 普段の明るい彼女からは想像もできない当に裏稼業
ガレージの隅に誂えたこけし製作専用の舞台 "製作ステージ"から次々と
産み出される王道かつ斬新なアーティスティクこけしの数々はニューエイジ
こけし世代の代表作と評されているのだ
今日も一人製作ステージの作業テーブルに向かいノミを振るうミウたん
そんな彼女の輝く未来に祝福を与えたい! 月刊こけし世界を眺めながら
新作の構想を練るミウたんの後頭部を電動ドリルで研削したい!
"にょほほほほほほぉぉぉ〜〜〜!!!" 怪電波の様な悲鳴をあげて激しく
失禁、脱糞するミウたん! そんなミウたんを作業テーブルに縛り付けベトベト
の汚パンツを脱がせ、彼女がベッドの下に秘蔵していた自作の電動こけしで
下腹部を原形を留めぬ位蹂躙してあげたい!
37名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/09(土) 18:19:33.36 ID:w5BIF2FM
ミウたんの住むあばら屋から少し山沿いにある小さな神社、そこは毎月15日に縁日が立つ
広くはない境内だが、その日は何軒もの出店がたち、わざわざ遠方から訪れる人もいて
結構な賑わいだ そんな境内の片隅に蓙を敷き、きちんと正座をするミウたんがいた
彼女の前には数本のこけしが無造作に並ぶ 勿論そのこけしはミウたんの作、
渾身の自信作である 毎月一度、縁日が立つこの日にミウたんは自作のこけしの
展示即売会を行うのだ こけし界においては新世代こけし表現者の一人として注目を
浴びるミウたんだが、そこはやはりアートの世界… 他の芸術界の多分に漏れず
若手が容易く糊口を凌げる程甘い世界ではない…
かの有名な室町時代のこけしの名匠"カルロス田中衛門"でさえ作品が金銭的価値を
生み出したのは江戸時代中期、元禄年間の頃である
事実、ミウたんは未だこの即売会でこけしが売れた事は一度もない
それでもミウたんはこの縁日に通い続ける これは彼女にとって芸術家としての
一種の修業なのだ この縁日で自分のこけしが完売した時、それが彼女が真のこけし
アーティストになる時なのだ "修業舞台(ステージ)"彼女はこの場所をそう表現する
38名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/09(土) 22:42:12.76 ID:w5BIF2FM
麗らかな日射しが降り注ぐ境内を行き交う人々… 楽しげな喧騒が辺りを包む中、
ミウたんの座る一角だけがまるでモノクロ写真の様に暗く静な異空間を作りだしていた
まるでこけしの様に生気のない瞳で縁日の風景を見つめるミウたん…
今日、この蓙の前で立ち止まったのはたった一人… ガタイの良い中年の外国人
だけだ 観光客風のその男は如何にもジャパニーズなミウたんのこけしに興味を示し、
ミウたんも脈有りと見て一生懸命こけしの魅力をアピールした
だが、その男は一通りこけしを弄り倒した後、"HAHAHA! HEY! MUTANT! "
と彼女のこけしを化け物扱いした揚げ句、唾を吐きかけ笑いながら去って行った
これには流石のミウたんもショックを受けてお昼の五目いなりも喉を通らなかった
"どうして誰も解ってくれないの……"
小さなお胸のミウたんの大きな瞳から透明な雫が一粒溢れた…
そんな哀れな子羊ミウたんに真実の愛を伝えたい!
五目いなりが喉を通らなかったミウたんが、はす向かいの焼きぞば屋台からは
目を離せず、財布の中の小銭を人差し指で何度も数えている所を強襲したい!
正座しているミウたんの背中をガスバーナーの炎で舐め尽くしたい!
悲鳴をあげ転げ回るミウたんに "大丈夫か?しっかりしろ!" と励ましながら苛性ソーダ
のコンク溶液をバケツで浴びせたい! 獣の様な唸り声をあげドロドロに溶けた皮膚を
振りかざしてのたうち回るミウたん そんな彼女のご多幸を神社に玉串を捧げて
祈願したい!
39名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/10(日) 19:11:55.14 ID:9BlVe2ab
"所詮ザコですよね〜"
ベストアメニティスタジアムに響く終戦のホイッスルに力なく崩れ落ちる前田遼一の
姿を写すパブリックビューモニターを眺めながら、独りほくそ笑む清水サポのエマが
勝ちロコを鼻歌で奏でながら通りに出てきた所を時速90キロのごんバスで跳ね飛ばす
何だかよく分からない黒色の液体を全身の穴から垂れ流すエマを膝の上に抱っこし
一路ミウたんが待つ某寺院に向かう 毎週日曜日の夜、ミウたんはその寺院で夕食をとる
のが恒例になっている 夕食をとると言っても住職のもてなしを受ける訳ではない…
晩秋の夕陽が吸われる様に西の山並に消えて夜の戸張が落ちる頃、ミウたんはその
お寺の門を潜る… そのまま本殿を素通りした彼女は一旦立ち止まって辺りを見回すと
墓地へと続く階段を登って行く… 人っ子一人いない真っ暗な墓地、
不気味な雰囲気を漂わせるその空間にうら若き乙女が一人…… ミウたんは慣れた手つき
でポケットから蝋燭を取り出すとライターで火を着けた 暗闇に ぼうっ と白い
ミウたんのお顔が浮かぶ… もし何も知らぬ者がこの光景を目の当たりにすれば
恐らく悲鳴をあげ腰を抜かすであろう だが、今からこの墓地で繰り広げられるのは
スプラッターショーでもなければホラーショーでもない
ミウたんは蝋燭の灯りを頼りに要り組んだ墓地の合間をすり抜けて行く
そして……ある墓石の前で遂にお目当ての物を見つけた
"いただきま〜す"
ミウたんは御供物のおはぎを手にすると、大きな口を開けて一口に頬張った
毎週日曜日の夜にこの墓地で繰り広げられるのはミウたんのディナーショー
貧しい彼女が手軽に無料でお腹一杯になれる夢のフードパーク、それが此処なのだ!
40名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/10(日) 20:11:44.65 ID:9BlVe2ab
どうせ後は腐って処分されるか動物のエサになるだけだ ならば自分が美味しく頂いて
あげよう そしてその方がお墓で寝んこしている方々も喜ぶだろう! いつの間にか
夜空に輝く三日月を壁紙にミウたんは次々と墓石を回り夕食を進めて行くーーー
そんな仏敵ミウたんに戒めを与えたい! ミウたんが墓地の中央部を構成する如何にも
富裕層のような大規模墓標の一つに飛び付き柿と葡萄にむしゃぶりついている
その背中に体液と血に全身がまみれたエマを背負わせたい!
"ぎょわぁぁぁぁぁーーーーっっっ!!"
墓地に響き渡るミウたんの悲鳴 噴水の様に失禁し泡を吹いて倒れた彼女をエマと一緒に
縛りあげ、本堂でお経をあげていた住職が駆けつけるのを待ってその背中に負わせたい!
"ぐあせぇぇぇぇぇーーーーーーっっっ!"
そのまま絶叫をあげ卒倒する住職を尻目に
"結局ホラーショーになったね小梅ちゃん!"とモバマスツアーに参戦したい!
41名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/11(月) 20:05:31.77 ID:inCGy9xa
野生のラムネ(和名:らむね)は日本では主に平野に生息しており沖縄の一部を除き
ほぼ全国で見られる雑食性の幼女である
捕獲は容易で好物のお菓子を置けば直ぐにたかる この時、お菓子を持ち去れない様に
ガラスケースや鉄網などで覆うとよい お菓子を食べれないラムネは
"大きくなったらお菓子になる〜" などと鳴くのですかさず
"それじゃ 今なりなよ!" と言って鈍器で弱点の頭部を痛打して仕留めましょう
ラムネの調理法ですが、今回はポピュラーな頭部の丸焼きを作ります
まず、まだ息のあるラムネの着衣を剥いで全裸にし、身体の隅々を舐め回します
次に命拾いする彼女の腹部を中華包丁で裂き三葉のクローバーなどの雑草を詰めます
最後に首を鉈で叩き切り頭部をオーブンで焼いて完成です(180℃二時間、要予熱)
そうして出来上がったラムネの頭部の丸焼きを持って、ミウたんのあばら家に侵入する
ミウたんがバスルームでシャワーオナしているのを目視で確認した後、
キッチンに移動し冷蔵庫にラムネの焼き頭を収納する シャワー上がりのミウたんが
バスタオルを細い身体に巻き付け、色んな意味で火照った身体を冷まそうと冷蔵庫の
ワンカップを取り出そうとしてラムネの焼き頭を撫でる
"ん〜〜!?"
あり得ない違和感に冷蔵庫を覗きこむミウたん…… ラムネの焼き頭と目があって
30秒のロングフリーズが始まる
"ぐあせぇぇぇぇぇ! ふじこぉぉぉぉっ!! "
絶叫をとともに華麗なバグ転を決めてそのまま食卓の角に後頭部を強打するミウたん!
白眼を剥いて失神し小刻みに痙攣するミウたんのバスタオルを剥いで
"何が72pの大きな脅威だ!? それなら俺の6p砲は平成のセパストポリか!? "
と言って彼女の頬っぺを短身砲で蹂躙してあげたい!
42名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/12(火) 18:59:27.55 ID:VHL0xjvL
アイツだ! またアイツがいた! ミウたんの機嫌が急に悪くなる
ここは近所のしまむら 今朝のチラシに度肝を抜かれたミウたんは、最近毎朝欠かさない
近くの公園に住み着いた野良ラムネへの餌やりをキャンセルして愛車のピンクミウたん号
をアクセルベタ踏みでぶっ飛ばし、触れ合いショッピングセンターの一角、このしまむらの
開店シャッター待ちの列にに滑り込んだのだ
三枚で何と500円! 女性用下着の特売は半年に一度のプレミアイベントだ
基本ミウたんは二枚のパンティをローテーションし、一番かわいい一枚を勝負着として
保管する通称ツーバック&スィーパーと(ミウたんが)呼ぶフォーメーションを
維持していたが先月、ツーバックの一角が不慮の事故から現役を退きスィーパーを
ツーバックに上げる苦肉の策を強いられていたのだ ヘビーローテーション故、選手の
現役は短い… 今回のこのトライアウトで選手層の強化を謀るのが目的だ
だが、開店と同時にお目当てのワゴンに向かうミウたんの脇を猛烈なスピードで
オーバーラップする影… 青い長髪とマフラーを颯爽と靡かせミウたんの視界の先を
行くこの女 宿敵…という言葉があるなら、当に彼女こそそうであろう
ミウたんの狩場であるこのしまむらに度々現れては、お目当ての選手を悉く拐っていく
凄腕スカウター 一度だけレジで彼女の名前を聞いた事がある
たしか……マ…ア… そう、アミバだ
この女が現れてからミウたんのチーム編成はガタガタだ!
今日という今日は負けられない! 絶対に負けられない闘いが此処にあるのだ!
43名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/12(火) 19:32:34.58 ID:VHL0xjvL
"あ〜た〜し〜の〜〜!"
"返しなさいよ〜!"
店の中央に位置するワゴンセールの台車を挟み三枚一組純白パンティを奪い合う
ミウたんとマ…アミバ 辺りには二人意外人影はない 静かな朝のしまむら 店員だけが
忙しそうにあちこちを回る そもそも朝のシャッター待ちをしていたのはミウたんと
いつも朝から晩までしまむらに入り浸り、他人が手を伸ばした品物を一瞬速く掠め取る、
通称エナババアと呼ばれるお婆さんだけだった
人気の無いワゴンの上で繰り広げられる不毛な闘い… 同じ商品はまだ沢山その下に…
だがこれは品物の奪い合いではない プライドとプライドを懸けた女の闘いなのだ!
当に神拳勝舞! そんな厨二的妄想でお店に迷惑を掛けるミウたんを土下座させたい!
"ミウたん、暴力はいいぞ〜" そう叫びながらミウたんのお尻の割れ目の中の秘孔を
渾身の力で突いてあげたい!
"たわばぁっっっ!" 空を飛ぶんじゃねーかと思わせる勢いで飛び上がるミウたん
着地して振り向いた所に "残悔積歩拳" と叫びながらその額に鉞を叩き突けたい!
そして青ざめた顔でブルブル震えるア…マミアに俺好みのピンクのフリルパンツを
そっと手渡ししたい!
44名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/12(火) 19:47:26.55 ID:RMoLZbjL
スレタイ…
45名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/13(水) 17:46:48.70 ID:so4gabJf
キュィィィィィィッ!!
激しいタイヤのスリップ音を響かせながらピンクミウたん号がミッドナイトの
駅前通りを疾走する
"あっぶな〜い!"
そのピンクミウたん号に肉薄する1台の青い痛車 今、この2台は激しいカーチェイス
を繰り広げている 寝静まった駅前触れ合い商店街にこだまする2台の爆音ーーーー
事の始まりはミウたんの元に届いた1通の手紙である…
人類がその誕生と共に築き始めた文明 科学、医学、建築学、天文学から農業、産業、軍事
に至るまで様々な物は日々進化し発達してきた
だが人の知性は時として人類に一見無意味で無価値と思える事象にまで狂おしい情熱を
要求する 其が芸術である 芸術は常に人の側にあり人と共に歩んできた
ある者は言う、人生とは人が造うる最高の芸術作品そのものであるとーーーー
そんな芸術界に於て、今最も熱き才能が集う場所の一つ……其がこけしアートの世界だ
新進気鋭のこけし職人として(こけし業界で)一躍脚光を浴びるミウたん
当然その存在は(こけしマニアの)衆目の的となり嫌がおうにも敵を作る事になる
46名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/13(水) 18:25:35.66 ID:so4gabJf
"ビッグ・バースト"
その頭文字を取り、そう呼ばれる組織がある 正式名称 "鳴子観光こけし業組合連絡会"
組合員数250人、こけし国内販売シェアの実に12%を占める巨大組織である
其処から届いた1通の手紙 其処にはミウたんのこけし代表作である
"花笠ぼんぼり側位付け富士の段 〜初夏の能登半島産真桑瓜を添えて〜"が
当組合員の作品を明らかに模倣したものであり、これに対する説明を求め場合によっては
告訴も辞さないとする極めて傲慢な内容が記されていた
感性鋭いミウたんは其れが自分に対するスカウトであると直ぐに見抜く
しかしミウたんは自分のこけし製作に制約を設けるつもりはない 確かに組合に入れば
メリットは大きいだろう だが組織の中で行う製作は既にアートではない、
少なくともミウたんはそう思う ミウたんはビッグ・バーストの誘いを黙殺した
その結果がこのカーチェイスである 鳴子峡とこけしの描かれた痛車で
ミウたんを執拗に追いかけ、黙殺の事情の説明を求める悪烈組織ビッグ・バースト
だがミウたんは決して負けはしない!明日に向かい必ず魔の手から逃げ切って見せる!
そんな糖質気味なミウたんに物理的お薬を処方したい!
歩道橋の上から走るピンクミウたん号のフロントガラスめがけてボーリング玉を
投げつけたい! 粉々になったフロントガラス越しにミウたんの顔面が血塗れに
なったのを確認したい! そのまま正面のブロック塀に衝突し大破したピンクミウたん号
からミウたんを引きずり出しキムチとニンニクを含んだ口で人工呼吸したい!
最後に"今夜が山だ!"と言ってミウたんの臍穴にダイアモンド鶴嘴を叩き込みたい!
47名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/14(木) 19:07:20.27 ID:mHwoL2sO
キキーーーッ! ドン!
"アブナイデゴザ〜ル!" 公園通りに響いた急ブレーキと衝撃音 停車した1台の
アメ車から茶髪の女が降りてくる 車の前には1人の少女が横たわっていた…
"ミネウチデゴザ〜ル!" 少女の側で暫く様子をみていた女は安堵した表情を見せると
そのまま運転席に乗り込み少女を避ける様にその場を走り去って行った
間もなくその少女と言うには余りに幼い女の子は静に息を引き取る…
冬の足音が聞こえだす頃、街では野良ラムネの交通事故が急増する 寒さに弱いが
冬眠はしないラムネ達は寒さが厳しくなると暖を求めて街中に集まりだす
その結果、事故や事件に巻き込まれるラムネも増えてくるのだ…
ラムネ(らむね)ーーー 霊長類ネット科ミント目に属する小型の幼女の総称 緑色の頭髪と
クリーム色の着衣が特徴である 性格は奔放でお菓子を好む 近目種に栗色の頭髪を持つ
雛菊やツインテールのプリシラ、存在感のないティナ等がいる
"ダメみた〜い" 今また1人公園を歩くラムネがスモークを貼ったワンボックスに
引きずり込まれた……
そんな厳しい自然の前に絶命の危機に晒される哀れな小動物を救いたい!
吉野家で今月の "自分の日" のご馳走、ロース豚丼十勝仕立てを注文し、
(あれ? まてよ…これ本当に十勝仕立てなのかな…) と最近流行りの勘繰りを入れ、
(上手くやればタダになるかも…?) と呼び出しボタンに手を伸ばしたミウたんの
喉笛を後ろからリッパーナイフで真横に裂きたい! 噴水の様に鮮血を吹き出した
首を両手で押さえなが文字通り喉笛をヒィヒィ鳴らすミウたん
そんな彼女のロース豚丼をお持ち帰りにして貰い、公園のトイレの脇で虚ろな瞳で
踞るラムネの顔の前に差し出したい! 向日葵の様な笑顔になって豚丼に飛び着こう
とするラムネの顔面を蹴飛ばし、側を通った野良プリシラに豚丼を食べさせてあげたい!
48名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/15(金) 18:27:39.01 ID:2TKFOIib
″右! 左! 中! …よぉしっ!″
信号のない交差点で左右の安全を確認しアクセルを全開にするミウたん…
直後、助手席に座る教官が罵声を浴びせ急ブレーキを踏み停車させる
ここは県の交通安全センター スピード超過×2、信号無視×3、酒気帯び×1 の道交法違反
コンボを決めたミウたんは見事に免停となり、今30日の潜伏を経て再交付へ向けての
チャンスゾーンに突入したのだ だが悩んだりウジウジする事が元来嫌いなミウたんは
ついついハンドルを握ると爆走にチャレンジしたくなるのだ
結果、教官から ″今歩行者が飛び出したら死なせてせた!″ ″何でアクセルをベタ踏む!?″
″舐めてんのか!?″ 等と散々詰られ再交付は次回に延期の旨を伝えられた
ミウたんは思う 完全にDQNな教官に当たってしまったと… このままでは無免許で
ピンクミウたん号を運転しなければならなくなる 流石に社会人の端くれ、そんな無責任
な事は出来ない ならどうするか? 返してくれない物は奪えば良い!
49名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/15(金) 19:11:09.18 ID:2TKFOIib
深夜1時、人気のない運転免許センターの駐車場に月明かりを浴び伸びる一筋の影…
″CATS EYE ミウの華麗なる潜入舞台(ステージ)″ ミウたんはそう自分に言い聞かせると
意味のない側転を繰り返しながら免許センターの雨樋によじ登り見事2階のベランダに
侵入した 鍵の掛かってない窓から内部へ、更に階段を降りて事務局へ…
途中エレベーターの扉のボタンでパスワード入力ごっこをするあたり、ミウたんの
微笑ましい幼児性が見てとれる 事務局の机を片っ端から開け奪われた自分の免許を
探すミウたん
″!!″
その時彼女の目にある物が止まる 小さな緑色の手提げ金庫…
″これは…… ひょっとして…… 神様からの贈り物?″
常に純真で正直で真っ直ぐに生きる少女ミウたん 彼女はいつも思っていた
どんなに貧しくとも、清く正しく生きていれば必ず神様が助けてくれると!
そして今その救いが目の前に! 夜空に輝く満月に向かって手を結び静に祈りを
捧げるミウたん… その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた…
そんな手癖の悪いコソ泥ミウたんに神の裁きを与えたい!
免許の事などすっかり忘れ明日を臨時の ″自分の日″ にしようとほくそ笑むミウたんの
背中を鬼神斬破刀で袈裟斬りにしてやりたい! 絶叫をあげ血飛沫をあげながら
闇夜に踊るミウたん お目々とお口を全開にして何かを訴えるミウたんの胸元に
″三途の川の渡し珍だ… 取っておきな…″ と言って春日井の黒アメを6個程滑り込まして
やりたい!そして手提げ金庫をお持ち帰りしたい!
50名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/16(土) 10:15:13.02 ID:IuWuCfx5
″それでは志望の動機をお聞かせください…″
張り詰めた空気が漂うオフィスビルの一室、パイプ椅子に腰掛けたミウたんは緊張を
隠せぬ面持ちで慎重に言葉を紡ぐ
″あ…あ…あ……あの…そ…せ、先輩のさせ…紹介でその、はい…おん、御社に…えっ…と…はい……″

ミウたん御年18歳、中学卒業後漠然と趣味のこけしアートで食べていきたいとの思いから
宛もなく上京し3年、アルバイトや内職をしながらこけしアーティストの夢を追って
きたが孤独と貧困に喘ぐ日々 流石に人生設計の建て直しを迫られていた
決して夢を諦めた訳ではない ただそのアプローチの仕方を変えるのだ
きちんとした会社に就職し経済的にゆとりを得る方が結果的に夢への近道である事に
気付いたのだ
そうして今、ミウたんは生まれて初めての面接試験に挑んでいた
株式会社平和ーーーーー
ミウたんが選んだ就職志望先は大手遊技機器製作会社だ 実はミウたんの先輩にあたる
人がこの会社に派遣として働いているのだ 今回その先輩の紹介もあり中卒としては異例
の一次面接まで漕ぎ着けたのだった
51名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/16(土) 10:16:21.05 ID:NEw4vGDO
マジ怖い
52名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/16(土) 10:28:11.39 ID:Y79lTmOL
全部政治が悪いんだ
53名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/16(土) 11:20:30.32 ID:1ev+jtUJ
これ>>8で止めときゃ流行ったのに
54名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/16(土) 13:10:44.62 ID:tjKf2+wn
このスレはもうおしまいや…!
55名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/16(土) 13:15:01.35 ID:Iwm/jvhz
まあ元々大したスレじゃないから良いだろ
56名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/16(土) 14:56:14.53 ID:IuWuCfx5
かつて経験のない極度の緊張の中ミウたんの声は上ずる 額に玉の様な汗を浮かべ
視線は落ち着きなくさ迷う 普段の天真爛漫なミウたんの姿はそこにはない
″貴女…18歳だよね? 学校出てから何やってたの? 今のアルバイトじゃ駄目なの?″
圧迫面接… 敢えて高圧的態度でプレッシャーを与える事により、面接者の本質や
マニュアル外の対応力を見定める昨今の面接の流行型…
中学卒業後、こけしと食べる事とエロ妄想以外にまともに興味を示さなかったミウたんに
はそんなプレッシャーをはね除けるのは到底不可能だった
″ぎゅるるるるるぅぅぅ……″
ミウたんの下腹部が悲鳴をあげ始めた
(お腹が……!)
ミウたんの中を熱い何が下って行く
″大体面接だって言うのに貴女のその格好は何? そもそも求人票ちゃんと読んだ?
ウチはね巨乳が欲しいんだよ ウチ場合基本面接は水着が普通だからね?″
″ピ〜〜〜 プスプス……ゴロゴロ……″
″貴女の先輩も相当な巨乳だけど、何で貴女を推薦したのかな? 顔が多少かわいいって
言ったってウチは社員は相当レベル高いよ? ひょっとして貴女パンツ見せれる系?″
″ビッ…ビチビチ……プス…ブバッ……″
″どうしたの? 何で黙ってるの? 顔色良くないね? 大丈夫? ……ん? 何か臭い…?″
パイプ椅子に座ったまま項垂れるミウたん… 微かな嗚咽をあげ小さく震えている
膝に置いた白いお手々にピタピタと透明な滴が垂れていた……
慌て窓を開ける面接官達… タオルケットを与えられトイレの場所へ案内されるミウたん
歩く度にその股間から悪臭を放つ茶色いの滴が漏れ落ちる…
漸く女子トイレにたどり着き這うように個室に逃げ込んだミウたん…
そんな絶望に打ちひしがれる彼女に闘魂を注入してやりたい! 泣きながらベトベトの
汚パンツをトイレットペーパーで必死に拭うミウたんが籠る個室のドアを
″ミウたん好きだ〜!″ と叫びながらバシバシ連打して破壊したい! 悲鳴をあげ下腹部を
タオルケットで隠すミウたんのガードの甘くなった頭頂部を虎柄サーフボードで強かに
殴打してあげたい! 汚パンツと共にトイレの床に伸びるミウたん 頭から流れ出る鮮血
の中に電球をそっと沈めて "うわぁ 本物のパトランランみたい〜!" と褒めてあげたい!
最後にヤママユの死骸を食わえさせて "バタフライが飛んだら天国行き確定よ!"
とさんざん期待を抱かせてラストゲームできっちり地獄に送ってあげたい!
57名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/17(日) 16:09:24.21 ID:u3Kcyzgu
機械を見ると壊したくなるんですよね……"
自らの左腕に刺さるチューブを引っ張り、その先に繋がる人工透析機の一部を
倒そうとするエマ 気付いた看護婦にが慌て抑えこみ事なきを得るが、その後の看護婦の
激しい叱責にも反省する素振りも見せず顔を背けて憎まれ口を叩く
"やっぱり私はゴミですね……ゴミは自分で処分します……"
パシッ 看護婦の平手がエマの頬を捉えた
"貧乳がぶつのですね…" そう呟く彼女の目には溢れんばかりの涙が貯まっていた
看護婦はそんなエマの顔ををそっと抱き締める 次の瞬間看護婦の胸に抱かれたエマの
号泣が治療室に響いた……
まず、そんなエマの透析機のチューブにサンポールを注射する
"ぐあせぇぇぇぇ!" 絶叫をあげ苦しみだすエマ 慌てて看護婦が担当医を呼びに出た
隙にもがくエマを担いで治療室の窓から脱出する
次に病院の前に呼んだハイヤーに痙攣するエマと乗り込み一路海辺の協会へと向かう
そこで意識を失い泡を噴く彼女を全裸にし全身を舐め回した後、純白の
ウェディングドレスに着替えさせる そして夕日が水平線に沈む頃、花嫁姿のエマの
金髪を掴んで引き摺り、岬に突き出たチャペルに向かう
チャペルには既に立会人として、AEONの試食コーナーで夕食を済ませて帰宅途中だった
所を後ろから4トンで撥ね飛ばして更にバックして牽いてあんまり動かなくなった
ミウたんが眠る様に待っているので、彼女の前で誓いのキス代わりにエマの首を
鉈でチョンパして、引き出物としてミウたんのお膝の上にそっと乗せたい!
そして用意したウェディングケーキをガタガタ震えて失禁しているもう一人の立会人、
野良プリシラの口にギュウギュウ詰め込んでいきたい! 最後に四人で記念写真を撮って
マミアのスマホに百通位送信したい!
58名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/18(月) 11:34:30.24 ID:8OtOG8Ai
ミウたんの日課の1つに近所のお散歩がある バイトのシフトの関係等もあり
時間帯はまちまちだが、雨降りの日以外ならミウたんは出来る限り毎日お散歩に出掛ける。
コースは特に決まってはいない 大体30分の散歩道 勿論お散歩は健康維持の目的も
あるが、煮詰まったこけし製作の気分転換にもなるし、季節の移ろいを肌で感じれる
所も気に入っている そして何よりかなりの確率で臨時収入を得られるのが最大の
魅力なのだ
今日も快晴の空の下、水筒を襷に掛けて、手にはスーパーのレジ袋を持ち元気よく手足を
振ってお散歩に出たミウたん… 本日は住宅街を抜け民家と畑が点在する山沿いの
郊外までやって来た "おやおやミウさん、寄り道ですか〜" 某順平風なナレーションを
独りごちり、ミウたんは突如何の迷いもなく道沿いのビニールハウスに入って行く…
"ははぁ〜 ミウさんどうやら此方で苺をご馳走になるようです" ボソボソ独り言を
言いながらビニールハウス内にたわわに実る苺を馴れた手つきでビニール袋に
詰め込んで行く…
そう、お散歩で得られる臨時収入とは、実はこういった近所の人々の善意の施しなのだ
TC、ターゲットチャンス ミウたんはこの臨時収入獲得の機会をそう呼ぶ
右! 左! 中! 継続!中! 左! 右! 継続! 周りの苺を次々とgetするミウたん
"コラァー! また来たな、このアマー!"
だが必ずしも近所の人々が善意に溢れるとは限らない 事実、今日訪問した此方のお宅は
いつもミウたんに対して敵対的だ 可憐な美少女ミウたんに対して心無い罵声と
石礫を浴びせる悪鬼のごとき農夫!
"まだ大丈夫よ!" 石礫の直撃を何個か受けながらも何とか農夫を振り切ったミウたん
"苺+38 ぴぃひょろろろろぉ〜〜!"
そんな高らかと本日の成果を誇る無邪気なミウたんに粛々と正義の鉄槌を下したい!
"だぁ〜て〜おにゃ〜の子だも〜ん〜あいむ〜すな〜ぱ〜!"
ご機嫌で鼻歌を奏でるミウたんかが十字路を曲がって来る瞬間、物陰から飛び出し
充電式サンダーで彼女の右脇腹をざっくりと切り開いてやりたい!
"ほげぇぇぇらぁぁっ!" 苺色の鮮血を吹き出し傷口を押さえて踞るミウたんに馬乗り
になり、その傷口に手を突っ込み肝臓をグーパンしてやりたい!
"肝臓パンパンタイ〜〜〜ム!" そう言ってパンチの度にビクビク海老反るミウたん
の上でコスプレロデオをしてあげたい!
59名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/19(火) 11:20:48.53 ID:xh9C2lRl
ミウたんは激怒した 必ず、かの邪智暴虐の農夫を除かねばならぬと決意した!
昨日の事、ミウたんがビニールハウスに自生していた栃乙女をTCでgetした際、
ある農夫の襲撃を受けた 石礫の直撃を受けたミウたんのおでこには一晩たっても
消える事のない赤班がくっきりと浮かんでいた ミウたんは決して自惚れ屋ではない
それでも中学の時は少なくとも学区で3番目にはかわいいという自負があった
そんなかわいいお顔の一部に傷を付けるなど、人の心を持つ者がやれる事ではない
ミウたんは農夫への復讐を決意する 豆絞りを鼻掛けにかぶり完璧に変装すると
日没と共に行動を開始する
初冬の日の入りは早い…… 西の空が墨で茜をぼかす頃には家々に明かりが灯り、
それが一層辺りを闇へと誘う…
今日の作業を終えた農夫は軒先で長靴の泥を拭うと、収穫したばかりの栃乙女が
整然と並ぶプラスチックトレイを大事そうに抱えて玄関に向かう
農夫には二人の孫がいる 苺はそんな遠方で暮らす孫達のクリスマスケーキ用にと
農夫が畑の一角で栽培していたのだ 孫達の喜ぶ顔を想像し重いトレイを慎重に運ぶ農夫
そんな事情を知るよしもないミウたんは、ぱちんこを取りだし農夫の手元に狙いを定める
"悪の楽しみを奪え! イチゴスナイプ!"
そう呟き自らに気合いを入れると、ぱちんこのゴムを引き絞るーーーー
そんなとんだ下衆女郎、ミウたんに闇の仕置きを与えたい!
ミウたんがぱちんこに仕込んだビー玉から正に指を離そうとした瞬間、彼女の頸に
三味線の糸を巻き付けたい!
"えっ!?"
違和感に気付いたミウたんが喉を押さえるより早く、三味線の糸を近くの桜の木の枝に
架けて渾身の力で引っ張りたい!
"ぐぇ…えぇ……えぇ!?"
真紅の筋を描きながらミウたんの頸に吸い込まれて行く三味線の糸 それを必死に掴もう
とするが既に糸は頸の奥深く… やがて筋だった物から鮮血が溢れ出る
そこで止めとばかりに体重を乗せて引き下げたい!
"ブツン…"
鈍い音がして胴と離れるミウたんの頭部
"あ、あれ〜〜〜?"
想像していた物と違う光景に戸惑う俺はミウたんの元に駆け寄り罵倒したい!
"スロキャラなのにぱちんこって何だよ! そんなに先輩リスペクトかよ!"
60名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/20(水) 07:50:10.53 ID:XyCvRxJa
野良ラムネの朝は早い…
東の空がうっすらと白む頃、初冬の冷たい空気が透明なガラス板の様に張り詰める
公園の生垣から緑色の頭髪が特徴的なラムネが1人、のそのそと這い出て来た
しばらく両肩を抱いて踞り、冷えきった体を少しでも温めようとする
"ふぁ〜〜……"
小さな欠伸をして立ち上がると水飲み場で洗顔し朝食の確保に向かう
彼女が這い出た生垣をよく見ると、不幸にも朝を迎える事が出来なかった痩せ細った
個体が1人、小さな亡骸を晒していた…
運良く凍死を免れた先程のラムネは公園に隣接する住宅街にやって来た
早朝、人気の無い住宅街を行くラムネのお目当ては……ゴミの集積場 当然まだ誰も
ゴミを出してはいない為、そこには何も無い だが誰よりも早くここに来て縄張りを
主張しなければ朝食にはありつけないのだ そう、彼女の本日の朝食はここに捨てられる
生ゴミなのだ
程無くして人の足音が聞こえるとラムネは一旦、塀の陰に身を潜める ゴミを捨てにきた
住人に見つかれば面倒な事になるのは彼女でも理解できる この住宅街の住人からすれば
野良ラムネはゴミ捨て場を荒らす害幼女だ
出勤前なのかスーツ姿の男性が両手に持ったゴミ袋をゴミ捨て場に無造作に放り投げ
忙しそうに足早に去って行った
"お菓子食べる〜…"
男性が去ったのを確認するとラムネは塀の陰から身を現しゴミ袋に飛び付く
"これ〜…"
ラムネがゴミ袋を漁り、中から烏賊の軟骨を見つけて口に運んでいると不意に側で
声がした 振り向けばもう1つのゴミ袋に見知らぬラムネがたかっている
自分の縄張りを荒らす侵入者にラムネは臨戦体制を取る
61名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/20(水) 08:35:00.81 ID:XyCvRxJa
無防備に背中を向けてゴミ袋を漁る侵入ラムネに対しワンピースのポケットから
車の玩具を取り出す場主ラムネ 大胆不適な侵入者の真後ろで、その車の玩具を手で動かし
地面を走らせる! ビクッ となって侵入ラムネは始めて場主ラムネに対峙する
侵入者とて生きる為に必死である 彼女もポケットから車の玩具を取り出すと同じ様に
地面を走らせ始めた
"プップ〜" 時に効果音を交えながら必死に玩具のカーチェイスを展開する二人…
端から見れば微笑ましい玩具遊びに見えるかもしれない だが、これはラムネ種にとって
生存を掛けた最大限に激しい命がけのバトルなのである! 負けた者は大人しくこの場を
離れる それは今日の朝食を得られぬ事を意味し、またそれはあの生垣の中で凍えて
死んだ惨めな敗北者になる事を意味するのだ
早朝のゴミ捨て場で続く激しいカーチェイス だが、不意に場主ラムネは猛烈な勢いで
その場を離れ近くの民家の垣根に身を潜り混ませた
勝舞あり! 残された侵入ラムネは自分の勝利を確信し満面の笑顔を見せた
次の瞬間、その笑顔が激しく歪む! 鈍い音が響き侵入ラムネは顔面から地面に倒れる
"また来やがったかこのガキ!"
そこには鈍器の様な物を持った作業着の男……市の清掃局員がいた 男の持つ鈍器から
赤黒い滴がヒタヒタと垂れる 男は慣れた手つきで倒れた侵入ラムネの首根っこを掴むと
そのまま清掃車の投入口に放り投げる メキメキと音がしてゴミ袋と共に侵入ラムネが
飲み込まれて行く… 場主ラムネには小さな悲鳴が聞こえた気がした…
静けさが戻ったゴミ捨て場に1人戻るラムネ 足下に主を失った車の玩具がポツンと
横たわる…
"…………普通だよ………………"
誰に言うでもなく彼女は呟いた そしてそのまま何処かにゆっくりと歩いて行った…

ちょうどその頃、公園では首をロープで絞められたミウたんの遺体が発見された
62名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/20(水) 11:44:30.87 ID:k1qtXG6P
吉村と村田は無事だったか
63名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/20(水) 11:45:08.00 ID:ampXw4CR
うんち打ちます
64名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/21(木) 09:23:30.49 ID:awVGquWm
ピンポーン "こんにちは〜 須内さ〜ん NHKで〜す" ピンポーン

ピンポーン "水道局で〜す こんにちは〜 "

ピンポーン ピンポーン "こんにちは 東京電力です 須内さ〜ん"

ドンドン! "こぉら須内! 出てこんかい! 居るのは分かっとんぞぉ!" ドンドンドン!

昼間だというのにカーテンを閉めきった薄暗い部屋で、布団を頭から被りじっと息を
潜めるミウたん
"本名を呼ぶのはヤメテ……"
太陽が燦々と降り注ぐ真夏でも、全てを白い絨毯が覆う真冬でも
月末はやって来る そして今月も支払いと返済に追われる月末がやって来た
あと2日… あと2日凌げば状況は改善する 2日後にはバイトのお給金が支給されるのだ
それまでは何とか居留守でやり過ごす ミウたんにとっては月末恒例行事
慣れたもので、電気、水道、ガスのライフラインが切断されるのを見越し、空のペットボトル
に給水し、バスタブには満面と水を張られ、マッチ、ローソク、携帯ラジオまでさながら
大規模災害に備えるが如き対策が練られている
ただ危険なのは外出時だ 籠城を決め込んでもどうしても外出しなければならない
時もある お給金の受け取りもそうだしAmazonに注目したBLコミックの受け取り先は
当然自宅には出来ないのでバイト先のファーストフード店にして貰っている
それらの為の外出時が月末最大の危機なのだ 徴収人との遭遇する機会が嫌がおうにも
増える
65名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/21(木) 10:19:32.22 ID:awVGquWm
公共料金の徴収人ならまだよい お給金の受け取りならその日のうちに支払う旨を
伝えれば良いし、それ以外の用事の時はかわいいミウたんが真珠の様な涙を浮かべ
チラリと太ももを見せつければ約1/3の確率でその日は見逃してくれる
厄介なのはやはりヤミ金の取り立てだ ミウたんの愛車、ピンクミウたん号の購入の際、
ミウたんはやむにやまれずヤミ金から五万円を借りた… それから毎月一万五千円の
返済を半年続けている 利息がトサンなのでなかなか元金が減らない
この取り立てが強烈だ 1日でも期日が遅れれば直ぐに家まで押し掛けて来る
余りの理不尽さに一度抗議した事もあったが、逆に危うく風俗に売り飛ばされそうに
なる始末… 可能な限りこの取り立て人のチンピラには出会したくない
さっさと返済を済ませて関わらないのが一番だ
今日もベッドの上で息を殺し、お手玉をしながら集金人達が居なくなるのをまつミウたん
だが、今日はいつもとは展開が違った
"ガシャン!"
突如寝室の窓ガラスが音を立てて砕け散る
"おらぁ 須内〜 金返さんかい〜!"
その割れた窓から黒いスーツにパンチパーマ厳ついの男が入り込んで来る!
(そ、そんなまさか…! ここまでやるの!? )
ミウたんの目論みは脆くも崩れ去った 利息さえ払っていれば満足する筈… そんな思い
込みは結局ミウたんの願望でしかなかった…
"金が無いなら身体で返さんかいワレ〜!"
厳つい男はベッドの上で身動ぎ一つせず固まったままのミウたんの細い手首をひね上げる
"取り敢えず、今すぐ手間賃だけでも払うてもらおか〜w "
男はそのままミウたんをベッドの上に押し倒す そこで漸く男の目的に気付いた
ミウたんが悲鳴をあげる
"へっへっ 誰も助けにきぃへんで〜 "
下卑た笑い声をあげながら男はミウたんのスカートの中に手を伸ばす
"ダ、ダメーー! イヤッ!お母さーーん !"

そんな悲痛な叫びをあげるミウたんにサプライズイベントを仕掛けたい!
まずミウたんの上に馬乗りになり彼女の着衣を剥ぎ取ろうと手に力を込める男の頭頂部を
ミウたんの家のトイレの天井に潜んでいた俺が得意のダイアモンド鶴嘴でスイカの様に
粉砕する! 脳味噌と鮮血をぶちまけてミウたんの上に倒れる男
"ヒィィィィィィィィィッッッッ!!!"
次にそれを全身に浴びて絶叫するミウたんの臍穴に金鑢を渾身の力で突き立てたい!
"グゥェッ!!?"
白眼を剥きながら覆い被さる男を跳ね除け飛び起きるミウたん!
そんな彼女とチンピラのスナップ写真をツルハドラッグからビオレUを買って出てきた
ア…マミヤにそっと手渡ししたい!
66!omikuji:2013/11/21(木) 16:23:25.78 ID:Rcig+qO7
ちょっくら行ってくる
67名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/21(木) 19:30:33.07 ID:7HPHYzfu
続き!はよ!
68名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/23(土) 14:20:56.22 ID:+fpwiuYU
木枯らしが吹き抜ける銀杏並木の坂道を行く1人の女性
白いコートを纏い、長い髪と青いマフラーを風に靡かせ颯爽と歩むその姿は当に
キャリアウーマンそのもの 彼女の名前はア…マミヤ 現役バリバリのNHK受信料徴収人だ
彼女の手にかかれば例えどんなアナーキストであっても受信料の徴収を逃れる事は
できない ネットの知識で幾ら理論武装しようとも頭脳明晰百戦錬磨な彼女の前では
赤子同然 その受信料徴収率は実に22.4%にも登り、この数字は地区事務所に属する
13人の同輩の中で11番目に当たる圧倒的実績である 本来、休日である今日も
事務所長のたっての要望により臨時で滞納者への訪問活動を実施しているのだ
コンコン…… "こんにちは〜○△さん…" コンコン……… "相手にならないわ〜"
不在者通知をポストにねじ込むと直ぐさま次なる標的に狙いを定める
類い稀なフットワークで次々と狙った獲物に襲いかかる様を同輩はこう表現する
「残念な女豹」と… そんな彼女に狙われた次なる不幸な犠牲者は住宅街から少し離れた
丘の上に立つ一軒のあばら家の住人… 初めマ…アミマはそのあばら家を道路工事の
資材置場か何かと勘違いし、その前を三度往復して最後はスマホのナビでそこが目的の
人家だと気付いた 無理もない、徴収人歴半年のベテランである彼女ですら初めて見る
程の圧倒的ボロ屋… スレート葺きの屋根に下品なピンクのモルタル壁、それらを包む様に
伸びる蔦が絡み、荒れ放題の庭の風景と相まって打ち捨てられた廃墟の趣を醸し出す
一階部分はガレージなのだろうか、錆びてくたびれたシャッターが殺伐とした風景に
拍車をかける 庭先に立てられた棒の先に空缶を付けた物に至っては最後までそれが
何なのか理解出来なかった こんな所に本当に人が住んでいるのだろうか…
得体の知れない恐怖を感じながらも、これも仕事とゴクリと唾を飲んで彼女は一歩を
その魔境に踏み出した
"ヒィ〜〜〜何て言わないわよ……"
69名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/23(土) 15:22:22.18 ID:+fpwiuYU
腰のたかさまで伸びた雑草を掻き分け玄関にたどり着くア…マミヤ
トントン……"す、須内さん……こんにちは……"
このあばら家に暮らす住人とは一体どんな人物なのだろうか? 気になる半面、出てきて
欲しくはない…という思いもある 少なくともまともな人間の筈はないのだ 正直怖い…
その数秒はとても長く感じた
"お留守の様ね……"
基本的解釈も含めてそう断言すると踵を返すマ…アミヤ だがその時、彼女の目に意外な
物が飛び込んで来た 正確には振り向き様、玄関の隙間から見えたピンク色のある物…
"女性物の靴だ!"
彼女は再びボロい玄関に近づくと、その隙間を覗き込む 間違いない、ピンクのスニーカー
が1足土間に並んでいる まさか…こんなボロ屋に……? それも若い女性……
ア…マミヤは仕事の事を忘れ、この奇妙な住人の存在がどうして気になり出した
一体どんな女性がこんな廃墟に住んでいるのか? 何故? 気が付くとア…マミヤは
玄関脇のガレージを回り家の正面が見える裏庭に来ていた 玄関先とは対照的に裏庭は
ある程度手入れがなされていた よく見ると一階の部屋の一つの窓が完全に割れている
マミ…ヤは恐る恐るその窓に近づいた
"須内さん……?"
返事はない そのまま窓を開け中の様子を窺う 暗くてよく分からない …が、何か異様な
悪臭が鼻をついた 恐怖と好奇心の狭間でマミア…?の心臓が激しく鼓動する
やがて部屋の暗さに目が馴れて来ると、そこがどうやら寝室である事が分かった
部屋の中央に位置するシングルベッド 全身鏡やクローゼットも見える 部屋の造りは
やはり女性的だ " !? " マ…アミバはその時、自分が覗く窓際の床に何かが転がっている
事に気付く シーツらしき布に覆われた不自然な膨らみ マミ…アはとてつもなく嫌な
予感を感じた それでも最早引き返す訳にはいかない 勇気を振り絞り窓の桟によじ登る
とシーツに手を伸ばし……一気に引き剥がした!
"ヒィィィィィィィィィィィッ!!"
アミヤの悲鳴が木霊する! シーツの下から現れた物… それは大量のBL同人誌の山で
あった…

一方、その頃ミウたんは帰宅途中の路上で六匹のドーベルマンに襲われズタズタの
ミンチになっていた……
70名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/26(火) 17:31:21.77 ID:g3BiQsib
"あれ?なんだろ〜コレ"
空缶ポストから垂れた細い糸を無意識に引っ張るミウたん
辺りは光に包まれた……



雄大な日本海に沈む紅の太陽 さざ波と鰯雲を鮮やかに染めて、時は今サンセットモード
真っ直ぐに続く砂浜の上で、ミウたんは目の前に描かれた光のパノラマに心を奪われる
"帰るぞ、ミウ!"
背中の向こうからの不意の呼び掛けに我に帰るミウたん
"待って、お父さん!"
防波堤の上で自転車を押す父の元へ、ポニーテールを揺らし白いワンピース姿の
ミウたんが駆けて行く 寄り添う二つの影が夕暮れの浜道に伸びる
幼い頃母を亡くしたミウたんを男手一つで育てる父 ミウたんの大好きなお父さん
様々なデータからお馬さん競争の順位を予想するというとっても難しく大変なお仕事
をしていながらも、お父さんは暇を見つけてはミウたんと仲良く遊んでくれた
ミウたんのお家は友達と比べれば決して裕福ではなかった いや、きっとずっと貧しかった
ミウたんのお洋服は全部ご近所さんから頂いたお古だったし、遠足のお弁当は梅干しの
おにぎりが二つだけ… 当然おやつも買えなかったから、遠足の時はいつも一人ぼっち…
ちょっぴり寂しい思い出… でもミウたんは一度として父を恨んだ事は無かった
貧しくとも沢山の愛情を注いでくれた父 ある日、ミウたんが転んで膝を擦りむいた時は
四時間にも渡り血の滲んむ膝頭をペロペロ舐めて治してくれた
一緒にお風呂に入ればいつもゴツゴツした大きな手でミウたんの身体を隅々まで丹念に
洗ってくれた ミウたんはいつも途中で気持ち良くなり頭の中が真っ白になって寝んこ
してしまった ちょっぴり恥ずかしい思い出…
何時までもお父さんと一緒に紡いで行くはずだった幸せの日々はだがある日突然終演を
迎える まだ肌寒い早春の1日、中学校の入学式の日、お父さんは忽然と姿を消した…
71名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/26(火) 17:56:44.05 ID:g3BiQsib
それからのミウたんの人生は苦難の連続だった 退魔師を務める親戚の家へ養女として
預けられたミウたんは、そこで小生意気な義理の妹と一緒に退魔師として悪霊と
闘ったり闘わなかったり、イケメンの許嫁が出来たり出来なかったり、最後は自分が
悪霊となって警視庁を潰したり潰さなかったり……
過酷で悲惨な毎日… そんなミウたんを支えたのは、もう一度大好きな父に会いたいと
いう思いと、父がクリスマスのプレゼントとしてミウたんに買ってくれた「マルハン」
という変わった名前の付いたこけしだった
ミウたんの瞼に微かに浮かぶ優しい母の面影… このこけしの顔はなんとなくそんな
母に似ているような気がして、ミウたんはとても気に入っていた
ある時からミウたんは夢を持った こけし職人になりたい… 自分と母の姿を合わせた
こけしを作り世に出せば、いつか父の目に止まるかもしれない そして自分の事を
思い出してくれるかもしれない! ミウたんは南京袋に彫刻刀セットと宝物のこけしを
しまうと東京行きの各駅停車に飛び乗ったのだった……



閃光と煙が収まった後、プラスチック爆弾で肉と脂肪の破片となったミウたんだった
物を金バケツに回収したい! そしてそのバケツを頭からかぶりたい! 最後に血味泥の
その姿で幼女に対する強制猥褻で逮捕され懲役25年を食らって服役中のミウたんの
父親に面会を申し入れたい!
72名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/27(水) 22:28:45.78 ID:Xa0LprJ7
はよ!
73名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/27(水) 22:49:50.41 ID:NTakbVeP
無駄な文章構成力
74名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/27(水) 23:53:55.14 ID:r08CKOJ0
>>72
> はよ!

お前他スレにこのくだらない作文書いてるやん。

あまりにも反応ないから自演してるのか。
75名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/29(金) 17:15:21.91 ID:JgpXpmZm
食材サンプルが並ぶショーウインドーにへばりつき満面の笑みを浮かべる幼女
街に住む野良ラムネだ 一般にミント目に属する同幼女種の外見上の区別は着きにくい
ただ日頃かこの種の幼女と戯れ、拉致り、注意深くprprする事を心がけている者なら
このラムネがあのゴミ捨て場の主だった個体だと判断出来るだろう
あの時、何とか僅かな朝食にありついたラムネだったが、当然それだけで飢えを凌げる
筈はない 野良ラムネにとっては睡眠時以外は常にエサ探しと言ってよい
このラムネもランチを得る為、繁華街へとやって来たのだ 通りを行き交う人々は
まるで汚い物でも見るような眼差しで彼女を避ける
"!!"
遠くで鳴ったクラクションに反応しショーウインドーから離れ、細い路地裏に駆け込む
ラムネ あの時の清掃車がトラウマなのだろうか、彼女は不安そうな顔で一度振り向くと
小さな身体を物陰へ滑り混ませた
76名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/29(金) 22:32:11.55 ID:JgpXpmZm
"…………?"
"…ちょっといいみたぁい……"
人気の無い路地裏の突き当たり、煉瓦作りの廃倉庫の中からラムネの鳴き声が聞こえる
ラムネ種の生態に幾らか精通した者なら、その倉庫内の光景に驚愕したかもしれない
埃を被った木箱が無造作に並ぶ広い構内の隅、薄汚れたタオルの様な布切れを纏い
一人のラムネが横たわる 枕のつもりか、頭の下には土嚢袋 その様子は傍目にも
病を患っているのが見て取れる 驚くべきはその隣だ 病身のラムネを心配そうに
覗き込むもう一人のラムネの姿がそこにある
ミント目に属する幼女達は基本的に群れや家族を築く事は無い 激しい生存競争の中、
自分以外の全てはライバルであり、それは例え同じ親から産まれたとしても例外ではない
生涯を孤独に過ごし、他人と交わるのは変質者に拉致され種付けされる生殖時のみと
される とりわけラムネ種は食欲旺盛で独占欲が強いとされる
だがどうだ、今、目の前では元気な方のラムネ……そう、あのゴミ捨て場の主だった彼女が
病身のラムネの口許に、ポケットから取り出したソフトクリームのコーンの欠片を
あてがっている! おそらくは其が彼女が今日手にしたランチフードの全てなのであろう
なんという事だろう…… 彼女は自分の飢えを我慢し弱った仲間を助けるという
人間ですら忘れた自己犠牲の精神を持っているのだ!

その光景に心打たれた俺は彼女達に細やかな送り物をする事にした!
まずトイレに起きたミウたんの後頭部を鉄パイプで強かに殴り意識不明にして、
寝起きで新鮮な彼女の腎臓を二つ素手で抉り出す それを塩胡椒で下味を付け、
油で両面が狐色になるまで炒める 最後にバジルとオリーブオイルを加えて
内臓特有の臭みを消した物を、パナップの空容器に詰めてラムネ達が潜む廃倉庫に
投げ入れたい!
ついでに大量の爆竹を投げ入れて辛気くさい空気を吹き飛ばしてやりたい!
77名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/29(金) 23:35:43.57 ID:yGPXM4ky
今日はID変えて自演プッシュしないのか?(笑)
78名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/30(土) 18:22:50.01 ID:wxykYCvB
"これってもしかして!"
ミウたんは思わず色めき立つ 平日夜8時を過ぎる頃、ミウたんはしばしば近くの
AEONモールへ出向く 目的は謂わずもがな、お宝惣菜見切り品の獲得の為である
若くして悲惨な程倹約に勤しむなミウたんは、今日も百円玉二枚を握り締め、客足も
疎らとなった惣菜コーナーに向かった そしてそこで大好物であるカキフライ五個入り
490円が、なんと190に値引きされているのを発見したのだった いつもその存在に
気付いていながら、所詮ブルジョアのおまんまと自虐的に目もくれなかった其が、
今日に限って見切り品の黄色いラベルが貼られていたのだ
最後にカキフライを食べたのはいつだろう… ミウたんは口の端から溢れる唾液を
アニメキャラの様に袖口で拭うと、セルフレジへスキップをかまして行った

その夜の事ーーーーー

寝苦しそうにベッドの上で何度も寝返りを打つミウたん 心なしか呼吸も荒い
深夜2時を回った頃、遂にミウたんは喩え様の無い悪心を覚えて目を覚ました
起き抜けにゲップが頻繁する 胃がムカムカする… なんか…お腹が…痛い様な気がする…
いや、痛い… 相当痛い! ヤバい…何か変だ 食べ過ぎ? いや、そんな生易し痛みじゃない!
ト、トイレに… おトイレに……! 今まで経験した事の無い痛みに冷や汗を滲ませながら
ミウたんはお腹を押さえ小走りで廁に向かう
ミウたん如き小娘には知る由もあるまい 今日、ミウたんがAEONで手に入れた
カキフライは、俺が去年暮れの特売で買った物を常温保存して1週間前に弱火で
サッと揚げた物なのだ 今からノロウィルスロストバージンのミウたんに大人の女性と
なった喜びを味わって貰いたい!
79名無しさん@お腹いっぱい。:2013/11/30(土) 18:55:21.46 ID:wxykYCvB
ミウたんが青い顔をしながらトイレのノブに手を掛ける だが、既に細工は施されている
"ど、どうして開かないの〜!"
何度ノブを捻っても空回りするばかり 引いても揺すってもびくともしない
絶望がミウたんの青い頬を赤く染めて行く
"ぎゅるるるるるぅ!!"
今まで聞いた事も無い異音がミウたんの下腹部から響いた 熱い物がミウたんの体内を
駆け下りてくる 未だかつてないパワーと質量を持って…
"わ、私 どうしたゃたの〜"
腹痛と悪心、そして開かないトイレのドア ロストバージン仕立てのミウたんがパニック
になるのは当然だろう
"そうだ… お風呂場で…"
緊急事態だ ミウたんは下腹部で暴れ廻る禍々しい何かから逃れる様に浴室へとむかう
既に駆けて行く余裕はなく、今にもパンティをぶち破って溢れる出しそうな何かを
必死に内股で押さえ、そろそろと壁に寄りかかりながら進んで行く
この頃、ミウたんは猛烈な吐き気にも襲われていた 体温も39℃に急上昇し、ミウたんの
体力を容赦なく奪って行く
やっとの事で浴室にたどり着くミウたん 最早形振り構っていられない
熱から来る悪寒と悪心で震える手でパンティを探り、ネグリジェの裾を捲り上げる
その瞬間を浴槽に潜んで待っていた俺は、此方にまん丸なお尻を向けて屈み込んだ
ミウたんの、そのお尻の穴めがけて南斗聖拳を叩き込みたい!
腰を下ろすと同時に腹の中の悪魔を勢いよく解き放とうとしたミウたんの肛門は
俺の南斗聖拳を受けて閉塞する
"ひぎぇぇぇぃぃぃぃ!!?"
そのまま走り幅跳びの着地の様に吹き飛ぶミウたん! 拘束を解かれた悪魔はその瞬間、
凄まじい爆音と共に浴室内に飛び散った 俺はそのミウたんの愛の結晶を全身に浴び、
そのままの格好で近所のコンビニに向かい、ノロに効果があると言うヤクルトを
買い占めし、そして警察に通報されたい……
80名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/03(火) 18:03:58.98 ID:fc+phBHq
12月、街はイルミネーションに彩られていく
東京には本当の空が無い… 日本の裏の方の何とか山脈の影の高速を降りた辺りの
自然豊かな糞田舎で生まれ育ったミウたんにとって、大都会東京の荘厳な街並みは
どことなく冷たくて見栄っ張りで、それでいて寂しさを滲ませているように見えて
決して好きにはなれなかった
だが、この季節だけは違う 普段は無機質なコンクリートの街並みが、電飾で飾られた
街路樹に照らされて、まるでお伽噺の国の様な風景に変わる 行き交う人々心なしか笑顔
に溢れ、いつもの喧騒さえジングルの音の如く響く
そんな光景を歩道橋の上からうっとりと眺めるミウたん 齢18、ミウたんもまた乙女
なのである…
だが、彼女の背後を通り過ぎて行く一組のカップルの楽しそうな話し声を聞くと
ミウたんは急に顔を曇らせる ミウたんにとって、年末のビッグイベント、クリスマスは
決して楽しみ物ではない ミウたんは東京に出てきて3年、いつも独りぼっちだ
独りぼっちを寂しいと思った事はない ミウたんはいつも自分にそう言い聞かせる
でも… クリスマスの日に独りで食べるSEIYUのカップマドレーヌ程、味気ない物が
無い事はミウたん自身が良く知っているのだ
どうして私には彼氏が出来ないのだろう… お顔だって十分かわいい筈…
おっぱいが無いから? ガス代節約でお風呂に週一しか入らないから? お洋服が
継ぎ接ぎだらけのヴィンテージだから? パンの耳が入ったビニール袋を持って
いるから? ペットボトルを再利用したオリジナルお手製水筒を下げているから?
駄目なの? 普段の私では…… 普段の私では誰も愛してくれないの……?
ミウたんの瞳の中の何かが、青いLEDの電飾に照らされて淡い光を放った

タタタタン……タタタタタンタン……タララ〜ラ〜ラ〜ラ〜〜〜ラ〜〜〜
最近大流行の「冬のソナタ」のテーマ曲に乗せて全裸にマフラー姿の俺は歩道橋の上で
うちひしがれるミウたんの肩をそっと抱いてあげたい! 耳をつんざく悲鳴を上げて
逃げようとするミウたんを背中から抱きしめ、そのままバックドロップで歩道橋の欄干に
叩き突けたい! 最後はおパンツ全開のミウたんを肩に乗せ、渋滞で混雑する中央通り
目掛けてキン肉ドライバーを喰らわせたい! そして三越から出てきたア…マミアに
1カラットのピンクダイヤを捧げたい!
81名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/04(水) 18:13:52.50 ID:3eIWwnxh
"…………サーチします………………"
ノートPCのディスプレイを虚ろな瞳で眺めるエマ 飴細工の様な細く精気の無い
右手の指先で静かにマウスを操る
筋萎縮性側索硬化症…… その文字が綴られたページをゆっくりとスクロールさせていく
昼下がりの市立図書館 不気味な程の静寂が包む閲覧室の一角 彼女の座る周りには
更に幽気とも言うべき澱んだ空気が包み込んでいた
やがて小さく俯くと、左手で体を支える様に立ち上がるエマ
"……………………駄目でした…………"
消え入りそうなその小さな声を耳にした者は誰も居なかっただろう
左足を不自然に引き摺りながらゆっくりと閲覧室を後にする

大きな窓から夕陽の差し込む電車の車中では、学校帰りの学生達が若さと生きる喜び
を囀ずる様に、たわいもない話に花を咲かせている
手摺に寄りかかる様にシートの端に座るエマには、そんな光景はまるでTVモニターに
映る別世界の様に現実味の無いものだった 今の彼女の目にはあらゆる物が色褪せて
見えていた それは決して揶揄的な物ではなく、彼女の感覚は急速に厚い岩の壁に
塗り込まれる様に感度を失っているのだ
"こんな……ザコに…………"
エマはもう大分自由を失いつつある自身の左足の太股に右手の拳をぐいと押し付ける
彼女には自分の身体を蝕む病魔がそこに見えていたのかも知れない……
まだまだやりたい事は沢山……沢山あるのに…… 言葉にならない無念を訴える如く
強く握られたその拳の上に、ひたりと透明な滴が垂れた……

そんな悲劇のヒロインを気取るエマに現実社会の厳しさを味あわせたい!
石の様に強ばる自分の身体を否定するかの様に、歯を食い縛り、力一杯歩みを進めて
電車を降りようとするエマ そんな彼女が扉を出た瞬間、頭上に釘バットを
振り下ろしたい! 咄嗟の事に重い身体が対処出来ず、ただ目を瞑って激痛に備える
エマの頭上を霞め、釘バットはその後ろで乗り降りのどさくさに紛れエマのケツを
まさぐろうとした痴漢野郎の顔面に吸い込まれる! 悲鳴と血飛沫が舞い上がり
人々がパニックを起こして逃げ惑う中、独り全てを諦めた表情で俺を見つめるエマを
抱き寄せたい!
"えっ!?"
戸惑うエマの前にアメリカ行きの航空券を差し出しこう言いたい!
"お前の病気は俺が治してやる! お前の病気を治せる医者を必ず探してやる!
だから諦めるな! 一緒に………一緒に病気と闘おう!"
そして力一杯エマを抱きしめてやりたい!



一方、その頃家賃滞納で大家が踏み込んだあるアパートの一室で、腐乱したミウたんの
全裸遺体が発見された
82名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/05(木) 18:24:08.58 ID:1vKtG+6B
ガス代節約の為、1週間に1度と決めているお風呂ちゃぷちゃぷタイム
肩まで浸る久しぶりの湯船の快感に思わずオッサン臭い呻き声を上げるミウたん
だが、その吐息は決して湯船の心地よさだけから来るものではなかった
バスタブの中に伸びる白くスレンダーなミウたんの肢体 仰け反る様に浴室の照明を
見つめながらミウたんは呟いた
"おパンツを見せて……10万円………"

ミウたんの元にその手紙が届いたのは昨日の事 差出人はミウたんの中学校の先輩に
あたる1人の女性 学生時代は殆ど面識 がなかったが、上京後ふとしたきっかけで再会し、
以後何かとミウたんの事を気遣ってくれる、数少ない相談相手なのだ
先日もミウたんの就職先の斡旋に自分の派遣勤務先を紹介してくれたばかり 残念ながら
面接でのアクシデントからお祈りされてしまったが、今回、再びその会社での短期バイト
の募集があり、生活苦に喘ぐミウたんに声を掛けてくれたのだ
手紙に綴られた内容からするに、今回動いているプロジェクトは何でも、その先輩が
中心となって企画されたものらしい 仕事の内容は至って簡単、ある舞台で演じられる
寸劇に合わせて、尻餅をつき、パンツを見せるだけ… パンツは白の他に、赤、虎柄等がある
顔は殆ど映らない 望むなら全く映らなくしても良い
83名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/05(木) 19:04:01.55 ID:1vKtG+6B
10万円… 今のミウたんにとってはとてつもない大金である だがしかし……
ミウたんも女として、人としてのプライドがある パンツを見せて金を取る こんな事を
していいのだろうか? 顔が映らないとはいえ、こんな仕事をしている事を知ったら
大好きなお父さんを悲しませる事にならないだろうか? 天国のお母さんはどう思う
だろうか?
ミウたんは思う、このお仕事でお金を手にしたらもう二度と、あの砂浜で夕陽を眺めて
感動していた自分には戻れないだろう…
バスタブの中に顔を沈めるミウたん 程なくして何かを決心した様に立ち上がる
神々しい迄に艶やかな若いミウたんの濡れた白肌が、浴室の照明を浴びて輝く
この仕事は断ろう… 例え明日も何とか水産から流れて来る鯖味噌定食の匂いで塩むすび
を頬張る惨めな昼食を取る事になっても、自分はいつもの大好きな自分でいよう…
ミウたんはバスタオルをその細い身体に巻き付けると、お風呂上がりの楽しみである
お手製牛乳寒天〜中国産きな粉とベトナム産黒大豆を添えて〜 を放張る為にスキップ
しながら台所へと跳ねて行った

そんな幼いあの日の姿を見失わなかった何処までも透明なミウたんを俺色に染め
あげたい! ミウたんが冷蔵庫から寒天の入ったプラケースを取り出して、いつかの
内職の時にもらった汚ねぇ蛙柄のお皿に移そうと無防備な背中を向けた瞬間、彼女の
バスタオルを勢いよく引き落としてやりたい! 予想以上にかわいい悲鳴をあげて
踞るミウたんのおつむのつむじに先割れスプーンを渾身の力で突き立てたい!
"ひべぇぇっっ!!?"
鮮血を吹き出しながら、柄の部分までズッポリと頭に埋もれた先割れスプーンを何とか
引き抜こうとするミウたん そんな彼女の耳元で囁いてあげたい!
"来年も早々からお前の先輩のせいでお給料空っぽになりそうだよ"
84名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/08(日) 08:34:09.33 ID:YbrNr95p
今日も朝一からジャグいっくで〜。
85名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/10(火) 09:46:27.91 ID:E6UoZ1SK
前世の記憶……… 唐突だが、ミウたんは時に其を強烈に意識する瞬間がある
良識ある大人なら一笑に付すだろう 博識な者なら理論的に否定するかもしれない
だが、ミウたんにとって其はオカルトでも妄想でもない、生々しいリアリズムを持って
彼女に時空の彼方のもう1人の自分の存在を意識させるのだ
例えば町内を流れる小川の岸壁、舗装された石組の川縁を見るとミウたんはたちまち
強い既視感に襲われる
"この雰囲気は……!"

濃い霧が立ち込める中をゆっくりと進んで行く一群 漆の地にに金銀の細工が施された
絢爛な造りの駕籠を中心に50名ばかり列を成す 皆、重厚な鎧兜に身を包み、手にした
長槍や旗差し物を高く掲げ、厳かな空気で辺りを制する
やがて隊列の前に、丘陵の上に築かれた荘厳な館が姿を表す
"姫、もう間もなく城ですぞ"
駕籠の脇に付き添う老将が声をかけた 駕籠の小窓が僅かに開く そこには打掛け姿の
もう1人のミウたんがいた 駕籠は今、堀にかかる大手橋を渡って行く ミウたんは
その小窓の隙間から苔むす城の石垣を眺めていたーーーーー

そう、自分の前世は戦国時代の姫君だったのだ ミウたんは確信している 子供の時から
ミウたんは自分が他の子達とは何かが違うと感じていた その頃は自分の前世は
ディズニーのプリンセスだと思っていた もう少し大きくなると自分は変身魔法少女の
生まれ変わりだと信じた だが、様々なデジャブや明晰夢を体感し大人になった今、
最終結論として自分は室町末期、川中島を領した戦国大名須内家の姫当主であるという
答えに達したのだ
86名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/10(火) 10:30:19.13 ID:E6UoZ1SK
"美鵜姫、今日こそ答えを聞かせて頂こう! いざ我が妻となりて、共にこの戦国の世を
平定せん!"
"そうはいきません信玄殿… 美鵜姫の心は既にこの謙信の物… 邪魔立て致すのなら
毘沙門天の裁きを喰らわせるまで……!"
"やめて二人とも! どうして… どうして争うの? 昔はあんなに仲良しだったじゃない?
……私のせいなの? 私のせいなのね! 私が居なければ二人は昔の様に愛し合えるのね!"
""美鵜!!""
天守閣から身を投げ出そうとするミウたんを間一髪で抱き止める信玄と謙信
"すまなかった… 俺達がお前をそんなに苦しめていたとは……"
"もう戦は終わりです… 此れからは三人で仲良く暮らしましょう…"
夕陽に照らされた天守閣の中で、三人はいつまでも抱き合っていた……



自由空間の一室で、BL漫画を枕に下卑たニヤケ顔を晒し涎を垂らして爆睡するミウたん
を襲撃したい 隣室から響く謎の摩擦音に、夢の世界から引きもどされかかるミウたんの
背中を童子切りで軽く袈裟斬りにしてやりたい!
"うべぁやぁぁぁぁっっっ!!"
絶叫をあげ飛び上がるミウたん 訳も分からずテーブルによじ登り隣室へ逃げ込もう
とする彼女の足を掴んで引きずり下ろし
"ミウたん討ち取ったり〜!"
と叫びながら彼女の白い太ももに切り込みを入れていきたい!
釣り上げられた鯖みたいに暴れるミウたんの頭部を刀の峰で滅多打ちにしながら
"まぁ ある意味 前世は糞土竜姫だったかもね!"
と罵ってあげたい! 最後はぐったりしたミウたんに童子切りを握らせて、見事真一文字
に腹をかっ捌いて内臓を取り出してあげたい!
87名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/11(水) 08:09:44.51 ID:Pi8gMfKw
炊きたての白いご飯をタッパーに詰め、ペットボトル水筒に麦茶を入れると、
ミウたんのランチの準備は完了する
お外でお昼御飯を食べるのが最近のミウたんのマイブームだ 勿論、お外と言っても
無駄に外食をする余裕はミウたんには無い ミウたんの目的はあくまで開放的な空間で、
安いだけが取り柄の水晶米を、少しでも気分よく堪能する事なのだ
しかし、如何に魚の様に純真で昆虫の様に直感的なミウたんでも、白米をただ麦茶で
流し込むだけのランチでは流石に満足はできない
南京袋を改造したオリジナルマイショルダーバックにタッパーを入れ、水筒を提げると、
ミウたんは "おかず" を得るため、駅前通りの商店街へと18歳にしてさケンケンパーを
かまして行くのだった

可愛いのに…… まだ若いのに…… すれ違う人々の憐れそうな視線など気にも止めず、
ミウたんは商店街の一角へとやって来た ミウたんは楽しい事があると、其を体現しないと
気の済まないたちなのだ
(人にどう思われ様が構わない 自分は自分なのだ!)
……そう言い聞かさねば、とても今からやる事を自分で納得させる事は出来ない
88名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/11(水) 08:59:48.33 ID:Pi8gMfKw
商店街の一角に店を構える何とか水産 そこはリーズナブルな居酒屋兼、定食屋として
主に社会の底辺層の方々に人気のあるお店だ(注、原文ママ)
その軒先の植え込みの隅に新聞紙を引いてお座りするミウたん タッパーを開け、
お箸を持つと "すぅ〜〜〜" と深呼吸する ミウたんの鼻腔に芳しい鯖味噌の薫りが
充満する 間髪入れずミウたんはタッパーの水晶米を掻き込む
"し、幸せ〜〜〜"
蕩けそうな笑顔でバーチャル鯖味噌定食にがっつくミウたん そう、彼女のマイブーム
とは、この日本昔ばなしからヒントを得た、匂いのお返しランチスタイルなのだ
時は昼時、所は駅前 大勢の人々が行き交う通りの端で白米を美味しそうに頬張るミウたん
彼女の瞳から一粒の滴が垂れた それはバーチャル鯖味噌定食のあまりの旨さに
因るものか、はたまた他の何かが原因か… 彼女の心の内を知る者はいない……

例え心の内を知らぬとも、ミウたんに対する俺の気持ちは揺るがない!
植え込みの端で一心不乱に水晶米を掻き込むミウたんを、丁度店内から出てきた
白いコートと青いマフラーのア…マミアが憫燐の眼差しでじっと見つめる
"な、何よ!……そんなに巨乳が偉いの!"
それがしまむらのアイツだと気付いて思わず食ってかかるミウたんの頭上に
渾身の力でコンクリートブロックを降り下ろしたい!
"グベェェェェ!!?"
牛蛙が車に曳き潰されたかの様な叫び声をあげ、タッパーの上に鮮血と脳味噌を
ぶち撒けるミウたん!
衝撃で飛び出た2つの眼球をダラリと提げて、小さく痙攣するミウたんに
"ミウたん見える!? ミウたんの脳味噌定食だよ!"
と言って血味泥のタッパーをミウたんの顔面に押し付けたい!
最後に腰を抜かし、震える手で携帯から110番通報しようとしているマ…アメマに
"良かったらメールアドレス教えてくれませんか?"
と三万円を差し出して、クールでニヒルな俺の一命を見せつけたい!
89名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/13(金) 10:19:52.04 ID:WBloEYf3
"ゴメンなさ〜い… ゴメンなさ〜い…"
全く誠意のない様に聞こえる謝罪を繰り返すラムネの顔面に、鍛え上げられた鳶オヤジの
鉄塊の様な拳がめり込む
"ぶひぇぁ!!"
独楽の様にくるくる舞いながら5メートル吹き飛んだラムネの顔面は鮮血に染まる
"何度言ったら解るんだ!? 俺は「70って書かれた箱」を持って来いと言ったんだ!
「ビー玉を8個」じゃねぇ!"
"ぐぁぁぁっ……!!"
必死に起き上がろうとするラムネの脇腹に、容赦のないケンカキックが炸裂する
"…ったく、働かしてくれって言ったのはテメーだろ? そんなんじゃ給料はやれねぇよ!
とっとと失せろ!"
泥まみれでうめき声をあげるラムネを置いて、鳶オヤジは休憩所のプレハブ小屋に
歩いて行った
しばらくして、漸く痛みの引いたラムネがヨロヨロと立ち上がる 左の頬は赤黒く
腫れ上がり、口角と鼻穴からは未だ、ぽたぽたと鮮血が垂れる 蹴られた脇腹を庇いながら
ふらふらと頼りない足どりで、その就労先であった建設現場を後にする
現場の出入口の鉄柵の一つに、自分が被っていた黄色い安全メットをそっと懸けると、
作業員達が休憩するプレハブ小屋に向かって小さくお辞儀をし、夕闇の街へと
消えて行った 彼女は決して不真面目な訳ではなかった だが所詮、ミント目の中でも
知性の低いラムネには、到底人間の仕事をこなせる筈など無かったのだ

すっかり陽が落ち、刺す様な寒風が通りすぎる街角 道行く人々が足早に家路を急ぐ中、
一人ラムネは、痛む身体を引き摺ってさ迷い歩く 彼女にはこのまま帰る訳には
いかない理由がある 本当なら…今日のお仕事のお給料で手に入れる筈だったディナーを、
今は自力で獲得しなければならないのだ

"いらっしゃいませ〜!"
能天気で加虐心を擽る女店員の声が響くファーストフード店の裏で、ラムネは凍える
両手に息を吹き掛けてじっとその時を待つ 彼女は知っているのだ もう間もなく、
産廃となったファーストフードだった物が、この裏口から捨てられるのを…
"君はいぇ〜す! 愛をいぇ〜す! た〜ららら〜……"
バイト上がりでご機嫌な女店員が鼻唄を交えながら、生ゴミの入ったごみ袋を無造作に
集積所に放り投げて、ケンケンパーをかまして去って行く
その姿が見えなくなったのを確認してから、ラムネはごみ袋に飛び付く すっかり冷たく
なり、油と飲み残しの飲料でぐちゃぐちゃになったフライドポテトだった物を、
二掴みしてポケットにねじ込むと、ラムネは痛みを忘れたかの様に一目散に闇の中へと
駆けて行った
90名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/13(金) 10:58:05.87 ID:WBloEYf3
街外れの路地裏の突きあたり、人も立ち寄らぬ、今は荒れた煉瓦造りの廃倉庫、
ここが今のラムネの寝床だ 殺風景な空間が広がるその隅に横たわる一つの影…
ラムネは息を切らせて、その影に駆け寄る
"……!?"
それに気付いた影が起き上がる そう…それは病を得たもう1人のラムネ…
彼女はまだ息が落ち着かぬ元気ラムネの顔が、アザと血にまみれてる事に気付き、
手を差し伸べる
"普通だよ!"
努めて明るく振る舞っているのが傍目にも分かる
"…これ〜〜……"
元気ラムネはポケットとまさぐると、先程ゲットした残飯を病ラムネの前に差し出す
"……ゴメンなさ〜い………"
その顔には、こんな物しか得られなかった事に対する自責の念が満ち満ちていた
"…………たぁ〜い好きだよ〜!"
病ラムネは元気ラムネの身に起きた全てを察したのだろうか、
満面の笑みで彼女を優しく抱きしめるのだった……


俺は、小さなタオルケットの中で抱き合い、微かな寝息を聞かせて束の間の安息を得る
ラムネ達の枕元に、一足早いクリスマスプレゼント、略してクリスマス本前兆として、
動物ビスケットを二つ、そっと置いた後、頭頂部から致死量の大量出血をしている
バイト帰りのミウたんを背負って、満天の星空の下を清々し気持ちで歩んで行った
91名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/14(土) 21:47:53.40 ID:om1sQbaQ
このスレとヨシテル様が負けるスレが大好きなんだけど俺おかしいのかな
92名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/14(土) 23:56:56.28 ID:ygWnohNp
全部一人で書いてるの?
凄い才能
93名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/15(日) 08:31:21.77 ID:+l4Qdw2P
雪解け水が軽やかなせせらぎを奏でて、里に春の訪れを告げる頃、稲作農家の一年は
始まる 育苗、田おこし、土作り… 何百年、何千年と受け継がれた人と自然の神聖な儀式が
今年も幕を開ける
5月 代かきを終えた水田に満面と湛えられた水を、春の麗らかなす日差しが柔らかく
解す頃、漸く北のこの地で田植えが始まる その日は農家の子供なら学校も公休となる
家族総出、近隣農家で力を合わせて命のシンフォニーを織り成して行く
6月 長い寒い梅雨は稲作最大の敵だ 苗の病気に気を配りながら、水田の水位を細めに
調整していく根気の要る作業が続く 蛙の鳴き声が何時までも響く
7月 初夏、自然のエナジーが満ち溢れるこの季節に苗は稲へと成長を遂げて行く
同時に雑草も急速に繁殖してくる 水田内は勿論の事、畦道の除草も欠かせない
畦道の雑草は害虫の呼び代となるのだ 日の沈む頃、蛍が光の幻想を映し出す
8月 束の間の休息 夏祭り、盆踊り、花火大会… 日本の元風景がそこにある
赤蜻蛉が大空を舞い、一足早く秋の訪れを告げる
9月 水田から水が抜かれ、いよいよ収穫の時は近い 亀虫等の害虫の発生に気を揉み
ながらも、垂れる稲穂に向けられる眼差しは我が子を見るそれに等しい 雀も今年の米の
出来映えが気になるようだ
10月 時は来た、只それだけだ… 黄金色の絨毯の中、収穫の喜びを噛み締める農家の
人々 一年の苦労はこの日によって報われる だが作業は終わりではない 稲干し、脱穀、
精米 自分達の作ったお米を美味しそうに食べる人々を想像して、農家の作業は夜遅く
まで続くのだった



俺がミウたんに教えたかったのは、そんな農家の方々の苦労なのだ
今はもう何もない枯れた田んぼの畦道道で、後ろ手に縛ったミウたんを膝まずさせる
"……………………"
ミウたんのお顔は赤黒く腫れ上がり、乾いた鼻血の跡がそこに間抜けな線を描いている
彼女なりのせめてもの反抗か、それとも後ろめたさの表れか、無言でその無様なお顔を
彼方へ叛けている
94名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/15(日) 19:39:39.54 ID:kkaeMq68
文才あるよなぁ
すげぇ
天才っておるんやな
95名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/16(月) 16:40:48.76 ID:1Kq6a6CX
どちらにせよミウたんを許すつもりは毛頭ない 事の始まりは昼に遡る
今日も今日とて、ミウたんに真実の愛を伝えようとクローゼットの中、
家伝のダイアモンド鶴嘴を手に息を殺す俺
程なくしてミウたんが両手で、本日のランチメニューとおぼしきオムライスを乗せた
白い皿を抱え、リビングへとやって来た
"お昼よ〜〜!"
不意にお昼御飯宣言をするミウたん 俺は一瞬、まさか来客が居たかと肝を冷したが、
どうやらクローゼットの中に居る俺に対する遠回しの、yes、no枕のyes的意味合い
だったらしい 何事も無いように独りオムライスをパクつくミウたん
とんだアバズレ女だ お望み通り頭蓋骨を粉砕してやろうと、クローゼットの隙間から
彼女を見遣り……俺は衝撃を受けた!
さっきまでオムライスと思っていたランチメニュー、だがそれはオムライスと言うには
余りに煩雑過ぎた代物…
ケチャップライスに炒り卵を掛けただけのそれは、明らかにオムライスを知らない、
食べた事の無い人間の創作…
俺は全身の血が熱くたぎるのを感じた! この女、可愛い顔して食い物で遊んでやがる!
次の瞬間、俺はクローゼットを飛び出す そのまま突然の乱入者に悲鳴をあげるミウたん
の顔面を強かに殴打し、縛り上げ、パンティを脱がし、腋の臭いを嗅いで、
ミウたんの愛車ピンクミウたん号で此処まで拉致って来たのだ

二人の間を流れる沈黙… 未だ俯いて何も喋らないミウたん いや、よく口元を見ると
何やらぶつぶつとツィートしている
"……お母さん…神様……たしゅけて……助けて……助けて……"
どうやらミウたんは自分が何故此処に連れて来られたか、全く理解出来ていないらしい
俺はそんなミウたんの前にしゃがんでしっかりと言い聞かせたい
"俺のお嫁さんになるなら料理は上手に出来なくちゃダメだよ"
突然の告白に顔を上げ、じっと俺を見つめるミウたん その瞬間を確実に逃さず、
サバイバルナイフでミウたんの細い頚を
真横に切り裂きたい!
"ひゅゅゅゅゅゅっ!!"
鮮血を俺に顔射しながら苦しむミウたんの股関から溢れる失禁汁 俺はそれを、
お神酒の様に田んぼに振り撒いて、来年の豊作を祈願したい!



30年後、この日ミウたんが作った炒り卵掛けケチャップライスは大ブレークし、
ミウたんライスと名付けられるが、それは又、別の物語である
96名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/18(水) 18:56:35.91 ID:Ydv9Lm5J
猟奇的グロ・エロ?要素がない、あなたのミウたん作品を読んでみたい。

それさえなければ、本当に面白いと思うのだが。。
97名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/18(水) 19:05:42.96 ID:G8PB39lY
エロゲーのライターになれそう
98名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/18(水) 22:52:11.70 ID:R+3S9osP
量子力学に於いて代表的な実験に、二重スリットの実験という物がある
二本の細い隙間のある板に電子を発射し、その背後に描かれる紋様から、電子には、
粒子と波の特性がある事を指摘する有名な実験である
この実験で不可思議なのは、実験の観測者の存在が実験の結果を左右する(様に見える)
事である 観測者が居れば電子は粒子の特性を示し、居なければ波の特性を示す
恰も、電子に意志があるが如く… だが、当然、電子には意志は無い
この実験が暗示するもの… それは、我々の宇宙とは、その観測者の事情に相対し如何様
にも姿を変えるのではないか… という問いなのである…

小学生の時から神童と呼ばれ、特に理数系の科目では常に、5段階評価で3以上だった
ア…マミア 頭脳明晰な彼女とて、宇宙の真理を理解出来るとは豪語しない
ただ、常に物事の道理を相対的に検証する事の大事さは理解しているつもりだ
宇宙の万物は相対的なのだ

"豊橋いきね…!"
冬の日没は早い 午後3時を過ぎる頃、プラットホームに独り立つア…マミヤに
長い影を付けて、太陽は遥か西に聳える山嶺に腰を掛ける
マ…アミヤは相対的にこれまでの出来事を検証する
凄腕NHK受信料徴収人としてその名を轟かすア…マミアはこの日、地区事務所長
の命により、臨時特別再教育を受ける為、名古屋を訪れていた
デキる女、キャリアウーマンとしてのステップアップ マミア…?が選ばれるのは
当然だった
問題は新幹線で名古屋に着いてからだった 名古屋市中区にある某研修センターへ向け、
地下鉄に乗った彼女 だが三時間たっても目的の栄駅には着かず、何故か遂に電車は
山奥の小さな終点にたどり着く 乗り過ごしたかと思い、ひと駅戻るがそこは更に小さな
無人駅… ここにきて、流石のア…マミアも目的地とルートの再確認に迫られた
99名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/18(水) 23:02:44.28 ID:R+3S9osP
"天竜峡……いきね…!?"
ホームのくたびれた時刻表を睨むマミ…ヤ ? だが、何処にも目的の栄駅の名は無い
例えば、これが普通の小娘なら、間違いなくこの状況にパニックになっていただろう
だが、ア…マミヤの思考は相対的だ 状況は観測者の事情により変化するのだ
彼女は考える… そもそも栄駅など存在したのだろうか? 観測者である私の存在が栄駅
という虚像を見せているのではないか? でも… ならばここは何処だろう?
この無人駅の存在は量子力学的に説明出来るのだろうか…?
"……ナマいきね!!"
マ…アミバはこの自分を取り巻く状況を考察し一笑に付した 全ては観測者の事情如何
なのだ!

(多分………乗る電車を間違えた………)
相対的思考の彼女が導き出した結論がそれだ
(とりあえず……豊橋に戻ろう………)
アミヤ?はホームの片隅の自販機でホットココアを買うと、日没の残光が微かに
山嶺の頂きを染める西の空を眺めため息をつくのだった

彼女はまだ知らなかった 彼女が電車を待つ飯田線は痛ましい脱線事故の為、終日運休
となり、代替バスの運行に切り替わっていたのを…
彼女はこの後、寒風吹き荒む野晒しのホームで氷点下の中、始発までの12時間を
ホット缶コーヒー45本で凌ぐ事になる



深夜にまで及んだ脱線事故の現場検証により、事故の原因は、レールに縛り付けられた
全裸の女性を列車が跳ねた為と判明した この事故で列車に跳ねられた女性一人が死亡し、
列車の乗客三人が軽い怪我をおった
三日後、虫歯の治療跡から死亡したのは東京都のこけし職人、ミウたんと判明し、
警察は自殺とみて、被疑者死亡のまま、ミウたんを検察に送検した
100名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/19(木) 17:39:36.45 ID:4etY6ZrD
このくらいがいい^^

ありがとう。
あ、でもやっぱ少しエッチなのは欲しいかもw
101名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/19(木) 18:03:31.02 ID:TI9sVMjp
12月も半ばを過ぎて、遥かグリーンランドでサンタクロースがプレゼントの用意に
忙殺されている頃、 ここ日本の首都、東京でも越冬の準備に追われる美少女が一人…
越冬…その言葉を大袈裟と捉える者は、自らがブルジョア階級に生まれた事を神に
感謝すべきである
何とか水産のワンコイン定食で糊口を凌ぐレベルの下層民にとって、冬を乗り切り
春を迎えるのは決して容易な事ではない(注、原文ママ)
ましてや、その香りで飢えを凌ぐレベルのミウたんなら、その困難は尚更である
ミウたんが生まれ育った日本の裏側の何とか半島の付け根辺りに比べれば、確かに
東京の冬は暖かい だが、ヘビー級ボクサーに瞬殺されるパンピーが、ライト級ボクサー
になら勝てるかと問われれば、そうでは無かろう
冬は何処であれ誰であれ寒いの物だ 寧ろ、寒い土地で育ったミウたんだからこそ、
冬の準備に抜かりはないのだ

ミウたんの冬支度は立て付けの悪いドアと窓の隙間を埋める事から始まる
ここで用いられるのは…新聞紙 田舎を旅する都会のトレンディなヤングは、しばしば
北の寂しい漁村の家々が、窓に新聞紙を貼っているのを見て、思わずその貧しき様に
落涙するという だがそれは、所詮もやしっ子の偏見である 北の漁民の所得は意外と高い
彼らは何世代にも渡り長い冬を生き抜く中で、新聞紙程、保温効果と防湿効果に
優れた物は無い事を学んでいるのだ
時に害虫駆除の必殺兵器に、時に放射能汚染水の漏洩防止に、時に究極の保温材に…
万能の応用力を持つのが新聞紙なのである ミウたんの場合、此を使うにも一工夫する
新聞紙を隙間に詰める際、石鹸水を吹き掛けるのだ 新聞紙を湿らすのは密着性を
高める常套手段だが、そこに石鹸を混ぜる事により、僅かな隙間風が常に室内に
ソープのアロマを充満させる仕組みなのだ
手際よく歪んだ窓の隙間に新聞紙を詰めていくミウたん
"………よし!"
満足そうに頷くと次は暖房の準備に取り掛かる
102名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/19(木) 18:10:19.72 ID:TI9sVMjp
ミウたんのお家にもエアコンはあるが、使えばブレーカーが落ちてしまう
電気代節約の為、ミウたん家の契約アンペアは5アンペアなのだ
暖房としてはストーブも捨てがたいが、やはり対費用効果の観点から、
ミウたんは火鉢を使う
"火鉢wwwwワロスwww"
ナウなヤングなら火鉢という単語を聞いただけで、思わず煽りたくなる衝動に駆られる
だろう だがそれは所詮、ゆとりの浅はかさたる由縁だ
火鉢… それは日本人が古より慣れ親しんだ由緒正しき暖房具 餅焼き、湯沸かし、証拠隠滅、
どれをとってもストーブ如きの比ではない
一度でも火鉢で焼きあげられた餅を食べた者なら、ストーブ餅など決して喉を通らない
ただ、ミウたんはお餅は買えないので、小麦粉を溶いて割りばしに着けた物を、
火鉢で炙り味噌を着けて食する
それでもそれは、ミウたんにとって欠かせない冬の風物詩なのだ 更に火鉢は燃料に
幅広い応用性を持つ 炭だろうが枯木だろうが請求書だろうが、何でも燃料になるのだ
ここがミウたんのお気に入りでもある

隙間風も収まって、爽やかなソープの香りの中、この冬初めて火鉢に火を灯すミウたん
チロチロと燃える新聞紙の余りに手をかざし、優しい笑顔で炎を見つめる
そんなかわいいミウたんが少しでも暖かくなるように、新聞紙を詰め忘れた家中の
換気扇を板で密閉してあげたい! 作業の疲れが火鉢の暖かさで癒され、思わず
うとうとしだすミウたん その床下で大量の練炭を燻して遠赤外線で優しくミウたんを
包んであげたい!



3日後、室内で倒れているミウたんを、NHKの受信料請求人が窓越しに発見し通報、
病院に緊急搬送されたが、死亡が確認された 死因は一酸化炭素中毒
警察は自殺と見て、被疑者死亡のまま検察に送検した
103名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/20(金) 16:42:06.44 ID:4xsbpT8m
なんかいい感じになってきたな
104名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/21(土) 00:56:54.68 ID:8CHMhU1Z
"ラテアートを描くのも結構大変なんですよね…"
マグカップのエスプレッソに注がれたミルクの上に、爪楊枝とチョコクリームで
かわいい熊を描くエマ
"うわ〜〜! 凄いです〜〜!"
ベッドの隅に腰を掛け、それを覗き込んでいた少女が感嘆の声をあげる
お人形の様な少女の飴色の長い髪が、差し込む午後の優しい日差しを浴びて艶やかに輝く
お人形の様…… それは決して揶揄ではない エマは努めてその髪から視線を反らす
"マロンちゃん、そろそろ戻らないと回診の時間よ"
包交車を押してエマの病室に入って来た看護婦が少女に声を掛ける
"は〜い… エマお姉ちゃん、またです〜"
ベッドから飛び降りると、看護婦と入れ替わる様に病室を出て行く少女 振り向き様に
エマに手を振り、元気に駆けて行く
その様だけを見れば、とても彼女が小児癌を患い、日々辛い抗癌剤治療を受けているとは
想像もできまい
"まるで本当の姉妹みたいね〜"
検温と新しい点滴の準備をしながら看護婦はエマに話掛ける エマは適当に相槌を打つと、
窓の外、小児科がある隣の病棟との渡り廊下を見遣る
ちょうどマロン…と呼ばれた少女が差し掛かり、此方に一際大きく手を振る
エマもマロンに手を振り返す それが二人のお休みの合図… 此をしなければ
明日マロンに叱られるのだ

拡張性心筋症の診断を受け、心臓移植以外生存の可能性が無いと診断された時、
エマは躊躇なく自然治療という名の安楽死の道を選んだ
幼い時から病弱で見寄も居ないエマは、誰も知らない病室で独り死と向き合う
闘病生活を送る気は毛頭無かった 人はいずれ死ぬ 違いは遅いか早いかだけ…
どうせ死ぬなら大好きな桜の樹の下で死にたい
買い物途中の路上で不整脈で倒れ、この病院に担ぎ込まれた時も、
エマは頑なに入院を拒んだ だが、既にエマの身体は自分の意思の範疇には無かった
石の様に重い身体をベッドに沈める日々…
恐れていた悪夢の現実に自暴自棄となり、医師や看護婦とも衝突してしまう
それが更なる自己嫌悪に結び付く
ただ早く、己の魂がこの身体から解き放たれるのを待つ暗澹たる毎日…
マロンに出会ったのは、そんな絶望の狭間、一時の微かな癒しを求めた中庭のテラスだった
白いベンチに腰掛け、熊のぬいぐるみを抱き、いつまでも俯く少女に声を掛けたのは
ただの気紛れの筈だった いや、その少女の痛々しい姿に自分を重ねたのかもしれない
涙で充血した瞳をエマに向ける少女 どれ程悲しみを与えれば、この幼い少女に
これ程の表情をさせるのか…?
その少女の肩に静かに手を置いた時、エマの心の中で何かが変わり始めた
105名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/21(土) 01:06:37.99 ID:8CHMhU1Z
少女に深い悲しみを与えたのは、彼女の親友だった 小児病棟の院内学級で知り合った
同い年の女の子 幼い頃から病院暮らしのマロンにとって、生まれて初めて出来たお友達
その日、マロンの夢だったお友達を招いてのお誕生日会 複雑な家庭事情により両親が
面会に訪れないマロンは、親代わりの小児科婦長にお願いして、ビスケットとココアを
用意して貰い、親友の訪問を待った
……結果的に親友は訪れなかった……
マロンの誕生日のその日、大好きなお友達は天国に旅立ったのだ……

マロンの瞳から大粒の涙が零れた… エマはその日からマロンの新しいお友達となる
事に決めた
お喋り、お絵かき、ラテアート… 身体の重いエマにやれる事は少なかった
それでも一生懸命、彼女は友達を励ます為に頑張った 病に冒されてから、
常に死ぬ事だけを願い、考えていたエマ… だが、マロンの顔に少しずつ笑顔が戻る度、
エマの心にも暖かな灯が揺らめいていくのだった
ちょうど厳しい冬を乗り越えた桜の蕾が花開く様に…
救われたのは……自分の方かもしれない……

心臓移植のドナーが見つかったという知らせを聞いた時のマロンの感涙を、
エマは今でも忘れられない 自分が重い病に冒されながらも、エマの病気が治ると知り、
顔をくちゃくちゃにして泣き叫んだ
"神様…ありがとうです〜……!"
エマはその夜、顔をくちゃくちゃにしながら滂沱し、神を…仏を罵った!
何故…なぜ自分なのか…? 何故、彼女を救わないのか…!

手術の日、マロンはエマはにラテアートを見せに来ると約束した エマが元気になって、
マロンも病気が治ったら、二人でラテアートの有名なカフェを始めよう
二人でずっとずっと一緒に暮らそう そう約束し、指切りをして別れると、
マロンはまた渡り廊下の向こうからお休みなさいのバイバイをした
106名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/21(土) 01:12:51.76 ID:8CHMhU1Z
……結果的に、その日マロンは来なかった………
手術の用の検査着に着替え、医師から手順やリスクについて説明される 何枚かの同意書
にサインし、いよいよ手術室に運ばれる時になってもマロンは来なかった
エマは自分の手術の成否より、マロンの身を案じた
ストレッチャーに乗せられ長い廊下を行くエマ ある所で、不意にあの渡り廊下の先が
視線の向こう現れた
"!!"
エマは見てしまった 病室から勢いよく飛び出してきた子供用のストレッチャーと、
それを取り巻き、慌て走って行く医師と看護婦達……
あの角は…… あの部屋は……

12時間にも及ぶ大手術は成功し、 2日後には流動食を口にする 1週間後には
掴まり立ちが出来るまでに回復し、1ヶ月のリハビリを経て、エマは退院した
エマはその間、マロンの事を看護婦に聞く事は一度も無かった 看護婦もまた、
何も言おうとしなかった

冷たい北風が吹き抜ける目抜通りに面したオープンカフェで、エマは今日も独り、
ラテアートの制作に励む 熊、フェレット、土竜、お馬さん… レパートリーも十分増えた
アルバイトも複数こなし、少しずつ貯金も増えてきた
二人の夢は少しずつ、少しずつ現実になりつつある 後は…………
"!?"
不意に誰かに呼ばれた気がしてエマは振り向いた だが、そこには誰も居ない…
冬の透明な青空が何処までも何処まで続くだけ…
一羽の白鷺が高く遠く舞って行くだけだった…





"絶対、絶対、可愛く撮って欲しいです〜!"
ベッドの上で熊のぬいぐるみを抱き、ピースサインをする糞ガキ…
"チッ……チッ……チッ……!"
俺はデジカメの調子が悪い様に見せかけて何度も舌打ちをする 新台まどマギが
打ちたいが為に、半年ぶりに求職した俺に突き付けられた厳し過ぎる現実…
ジジババのウンコ取りか、さもなくば旗降りか…
俺は遠縁の親戚を頼り、その親戚が理事を努めるNPO法人に何とか潜り込んだ
ジジババのウンコ取りよりはマシだろう… その考えは甘かった
仕事は見寄の無い年寄りや病人の介護と言う胡散臭いもので、今日も今日とて、
ビデオレターを撮りたいという糞ガキの余計な一言でタダ残業…
もし理事のBBAが見てなければ、往復ビンタを喰らわし、どうせ5年もすればあちこちの
チ○コくわえてアへ顔ダブピーすんだろ糞ビッチw
と言わんばかりにイマラチオを決めてやりたい所だが、穢レガーを叫ぶ為に
今は歯を食い縛り自分を押さえる
"絶対、今日中に送って欲しいです〜!"
"チッ……チッ……チッ……!"
パソコンの調子が悪い様に見せかけて何度も舌打ちをするが、糞ガキはお構い無しに
ひょこひょこパソコンを覗き込んでくる
"エマお姉ちゃん もうすぐ会いに行きます〜"
"お疲れ〜した…"
糞ガキと糞BBAを残し、俺は明日の狙いまどかを定める為、一路マルハンへと
ケンケンパーをかまして行くのだった

この夜、エマは俺の誤送信した
「絞殺ミウたん屍姦ハメ撮り 〜アナルファック編〜」
を見て心臓発作で倒れるが、それはまた別の物語である
107名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/21(土) 18:30:50.67 ID:TzHv9lon
puronohito?
108名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/24(火) 09:42:39.10 ID:aiG+371J
田中衛門助郷(1531〜1604)は室町時代末期から安土桃山、江戸時代初期にかけて活躍した
武将、武術家、こけし匠である 田中家は代々、足利将軍家に仕え、御所の門衛を務める
家系だったという 助郷は幼少の頃から武術に秀でており、とりわけ操棹術(詳細不明)
において天下無双の評があり、二十歳の時、時の将軍、足利ヨシテルに見込まれその
警護役に抜擢される
当時、将軍家は三好、松永ら逆臣の暴虐に晒されており、ヨシテル自身も幾度となく
京を追われ、流浪を余儀なくされていた
助郷はその都度、細川藤孝、松井康之らと共にヨシテルと添い寝し、御所の奪還に
尽力したという
1562年(永禄5年)、その活躍に対しヨシテルから偏諱を受け、カルロス田中衛門と改名する
だが、1565年(永禄8年)、所謂、永禄の変によりヨシテルが三好、松永らの肉便器になると
浪人し、武者修行の旅に立つ 途中、その操棹術に惚れ込んだ毛利モトナリや
徳川イエヤスから破格の禄で出仕を求められるも此を辞退、1580年頃には高野山の一角に
庵を結び、以降こけし制作に没頭していったという
我が国こけしアートの創始と謂われるカルロス田中衛門の作品は、江戸元禄年間に
大ブレークし、そのこけし様式はメゾ・プロレタリア風と呼ばれ、こけし界のみならず、
文化や音楽の偉人達にも強い影響を与えていく事になる
激動の時代を駆け抜けたカルロス田中衛門には様々な逸話や伝承も多い
有名な逸話の1つに、達磨落としの逸話がある カルロスは晩年、将軍イエヤスが京で
催した達磨落としの会に招かれた 当時の知識層のたしなみであった達磨落とし
カルロスも二段胴田貫などの荒業を繰り出すなどし、会は大いに盛り上った
そしていよいよイエヤスの番、衆目の中、事件は起きた イエヤスが達磨に槌で
渾身の一撃を加えんとした時、側に仕える小姓が粗相をし、達磨を崩してしまう
イエヤスは激怒し、小姓を手討ちにせんと帯刀を抜くが、カルロスが咄嗟に短歌を詠んで
それを制する
「達磨さん、五つに割れし達磨さん、とがをばわれに負ひしけらしな」
(訳:あんまり細かい事気にすんな)
これにイエヤスも勘気を収め、小姓は命拾いしたという カルロスの機知の深さを
伝える逸話である



こけしアーティストを志すミウたんにとって、カルロス田中衛門は当然、尊敬する
歴史上の人物第一位である 歴史の事はちんぷんかんぷんだが、いずれ自分も
カルロス田中衛門の様に歴史に名を残す名工に成りたい…
だが、今のところ、ミウたんの名は世間では全く知られていない 今月の縁日でも
結局こけしは一本も売れなかった ミウたんのこけしアーティストとしての評価は、
「月刊こけし世界」に於ける「次世代のこけしアートの旗手たち」という新人賞で得た
佳作が最高である
確かに、かのカルロス田中衛門でさえ作品の商的評価はその死後ではあるが、彼の場合、
少なくとも生前からこけしアーティストとしての地位は衆目の知る処であった
カルロス田中衛門にあって、自分には無いもの……
ミウたんはぼんやりと虚空の一点を眺めていた…
109名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/24(火) 09:52:40.10 ID:aiG+371J
住宅街の一角、ぺんぺん草の生えた荒れた空き地と、錆びた遊具が幾つか佇む小さな
公園を敷地に持つ、草臥れた平屋造りの建物 住宅としては幾分大きめな建坪と
広い敷地が相まって寂寥感がマジぱない

"イチゴ先生… まだ……?"
"昨日…食べたばかりでしょ……"
空の器を虚ろな瞳で見詰める少女 食べ盛りの少女の胃に、昨日の昼に食べた芋粥など
残っている筈がない 少女の後ろには、やはりまだ年端もいかぬ少女達が、窶れた表情で
力無くたむろする
先生…と呼ばれた彼女でさえ、少女達とほぼ歳は違わない
身寄りの無い子供達が集まり暮らす養護施設 そこのパパ先生とママ先生が失踪したのは
1ヶ月前… 施設の暮らしに異変が始まったのは、その前からだった 電気は3ヶ月前に
点かなくなり、ガスも1日15分だけしか使えなくなる 水道は井戸を掘って凌ぐ様に
なり、食事の量と回数は徐々に減っていった
最年長のイチゴと呼ばれた少女が新しいママ先生になり、年少者の面倒を見る様に
なったが、施設の運営を子供がこなせる訳はない 僅かな支援金では10人近い
施設の子供たちを養う術がない
世間ではもうすぐクリスマスらしい…
家々ではご馳走が準備され、プレゼントが用意され、心身共に暖かい空気の中で
幸せの時を噛み締めるのだろう
だが施設で暮らす少女達には関係の無い話だ
今夜食べる芋粥を得る為の近所へのどさ回りがまた始まる…

差し込む寒さに耐える様に一つの部屋にかたまり、丸くなって微かな寝息を立てる少女達
"マ、ママ先生止めてー!!"
突如あがった悲鳴に僅かな安らぎの時は打ち壊される
"い、いったい何の騒ぎですか〜!?"
飛び起きた今夜もブラを付け忘れた褐色の少女の目に映ったもの…
それはポリタンクから刺激臭のある液体を寝室に撒き散らしているイチゴ先生の姿!
直ぐにそれがガソリンと分かった 周りの少女達が必死にイチゴ先生を押さえる
"みんなで天国に行こう! 永遠の天国モードに移行しよう! …覚悟はい〜い!?"
イチゴ先生の目は狂気に血走る
"ポリタンクを取るのじゃ〜!"
その声に褐色の少女が立ち上がり、イチゴ先生の手からタンクを取り上げる
"う…うぅ……ありえ…ない………"
漸く押さえられ、落ち着きを取り戻したイチゴ先生の瞳から涙が零れる
イチゴ先生だけではない みんな泣いていた…
誰一人イチゴ先生を責める者は居なかった… 誰が責められようか…
"ピンポ〜ン ピンポ〜ン"
玄関のチャイムが鳴る 騒ぎで近所の住民が起きたのだろう イチゴ先生の
補佐的役目を務める黒い長髪の少女が涙を拭いながら玄関に向かう
こんな時位、自分がしっかりしてイチゴ先生の代わりを務めなければ…

"み、みんな! 早く来て!"
玄関からの叫び声に一同はガソリンの臭いの充満する部屋を飛び出して行く
玄関にやって来た少女達は目を疑った 開け放たれた玄関の先には一台の雪車
その上には綺麗にラッピングされた大小様々なプレゼント箱の山…
年の幼い少女組は歓声をあげて駆け寄る イチゴ先生と長髪の少女は、
プレゼント箱の間に挟まれた便箋を見つけ広げた
「伊達直人より心優しき少女達へ」



"………バレバレね……"
世界感動実話集の再現ドラマを見がらミウたん号泣していた 感性鋭いミウたんには
分かる この伊達直人は偽名で、本当はタイガーマスクなのだろう…
世の中には、まだまだいいプロレスラーが居るものだ… ぐじょぐじょに溢れる鼻水を
ティッシュで豪快にチンしたミウたんの脳天に、白熱電球が点灯したのはその時だった
"こ・れ・だ!!"
110名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/24(火) 10:00:36.47 ID:aiG+371J
その夜、制作ステージの明かりが消える事はなかった 作業台に向かい、
何かに取り憑かれた様に鑿を振るうミウたん
見えた……! タイガーマスクが養護施設にプレゼントを送った話を聞いた時、
カルロス田中衛門にあって自分に無いもの、その答えが漸く見えてきた
自分の作品には……エピソードが無い! それがミウたんの見つけた答えだ
こけし、それは所詮工芸品だ その工芸品に魂を吹き込むもの、それは作者の力量と、
其れを手にした者に感慨を与えるエピソードなのだ
冬の遅い夜明けに東の空が漸く白む頃、遂にミウたんの手が筆を放す 完璧だ…
作業台に並ぶこけし群を満足そうに見渡すミウたん そのままピンクミウたん号を
暖気すると、最後の仕上げに取りかかった



"ママ先生…玄関に…あの……"
珍しく動揺したメンヘラ少女に連れられて玄関にやって来たママ先生イチゴは
目の前の光景に沈黙する…
"フフフッ……ターゲット確認〜"
そんな玄関先でのやり取りを、施設の門柱に隠れて覗き見るミウたん
ミウたんが徹夜で制作した物、それはクリスマス仕様のサンタクロースこけしだった
本来、木目の温もりを生かすこけしの王道に逆らい、真っ赤にペイントしたボディに
白いアクセントを付けて、更に緑のもみの木の葉をワンポイントを加えた
ミウたん渾身の自身作
其れを施設の人数分拵え、早朝の施設の玄関に並べチャイムを押したのだ
今、そのこけし達を見つけて感動に打ち震えているであろう子供たち
ミウたんは門柱に寄りかかり、胸に手をあて目を瞑った クリスマスの朝、
不幸な養護施設の子供たちの元に届けられた、心のこもった贈り物
こけしに添えられた手紙にはミウたんの名と住所が綴られている 明日には感動に
咽ぶマスコミが大挙して押し寄せるだろう
良い事をした…これは伝説になる…伝説のこけし匠ミウたんの誕生だ…
ミウたんの瞼から透明な雫が零れた…
"お早うございますぅ〜"
″ニーハオアル!″
不意の挨拶に度肝を抜かれ、ミウたんは目を見開く そんなミウたんを気にするでもなく、
二人の少女は透明なゴミ袋を、門の先のゴミ捨て場に重そうに運んで行く
ミウたんは見た… ゴミ袋の中で窮屈そうに絡まり合う…真っ赤なこけし達を……

施設から流れる芳しい味噌汁の香りと、子供たちの談笑
ミウたんはゴミ捨て場に放置された角材を手にすると、施設に向けゆっくりと、
だが力強く歩を進める…
そんな殺気溢れるミウたんを、雲水姿の俺が手にした杖で制し歌を詠む
「糞こけし、塵と捨てられ塵こけし、とがをばわれに負ひしけらしな」
大好きなカルロス田中衛門の短歌の捩りに、ミウたんは我に返る
静かに目を瞑り、暫く俯いたミウたん…
しかし再び顔をげた時、そこには鬼の形相のミウたんがいた… そして大股で施設に
乱入して行くのだった
少女達の悲鳴と絶叫が木霊し、ガラスの割れる音が響く施設の前を、携帯で110番通報
しながら通りすぎる俺
裏庭に無用心に干してあるイチゴ先生のパンティを小袖に捩じ込むと、粉雪の舞散る中、
一路マルハンへと向かうのだった
今年はホワイトクリスマスになりそうだ……
111名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/25(水) 17:14:37.75 ID:ewvkal0W
″nana(ママ)……! nana(ママ)……!″
炎に包まれた家々、肌を焦がす熱風が四方から襲い来る
馴れ親しんだ故郷の村が、地獄の様相を呈する中、少女は必死に我が家を目指す
(シュッ!!)
耳元を一際熱い何かが掠める 次の瞬間、少女の身体は宙を舞う 一瞬置いて、
(ドゥゥゥゥゥン!!)
凄まじい衝撃音が響き渡る 強かに地面に叩きつけられた少女 全身を襲う激痛
霞む少女の視界に、巨大な金属うねりが近づく 直ぐに其れが戦車のキャタピラだと
気付くが、痛む身体は動かない 衝撃音で聴力を失ったのか、辺りを異様なまでの静寂が
包み込む 少女は自分を曳き殺さんと近づく戦車を キッ と睨み付ける
せめて、せめてコイツらに意地の一欠片を見せつけたい! 目の前に迫る金属の轍
少女が死を覚悟した瞬間、それは突然小さく震え動きを止める
直後、車内から火だるまの搭乗員が飛び出して来る 何も聴こえないが、凄まじい叫びを
あげているのが分かる
何が起きたか解らず、呆然とする少女 そこで力が抜ける様に彼女の意識は途絶えた…



″お客さん、起きて下さいよ! 閉店です″
誰かが肩を揺すっている
″!?″
カウンターに伏せっていたミラは起き上がり辺りを見回す
″オ、ミ、セ、オ、ワ、リ……OK?″
″かたじけない…″
外見から日本語が不自由なのかと思い込み、若干馬鹿にしたようなイントネーションで
話かけたバーテンは、彼女の古風で流暢な返しに面喰らう
会計を済ませ、店を出る 既に時刻は深夜2時を回っている 酔った身体に冷たい空気が
心地良い ちょっぴり覚束ない足下 酒には逃げたくは無い、そう思いながらも、
最近飲み過ぎる事が増えた
″!?″
行く手の路上で若い男達が何やら騒いでいる 男達の足元には踞る幼い少女…
穏やかではない雰囲気に、ミラは顔をしかめながら近づいて行く
″このヤロ〜 タダで済むと思ってんのか!″
″最近、店のゴミ漁ってんのテメ〜だなぁ?″
″……ごめんなさ〜い……ごめんなさ〜い″
香水の匂いをプンプンさせる茶髪の男… ホスト… という連中だろうか?
足元に踞る緑色の髪の幼女を足蹴にする
緑色の髪…… それがラムネでなければ、ミラは当然とっくに男達を伸して幼女を
救い出しただろう
ラムネ……主に日本に生息する野生の幼女 日本に来て間もない頃、飛び出して来た
ラムネをミラは車で跳ねた事がある 初めは子供を曳いたと思い動揺したものだ
まさか日本にも野生の幼女が居ようとは…
ミラの故郷、チェチェンではピンク色の頭髪の種族、日本で言う所のティナが主流だった
ラムネより一回り大きいが、存在感が無いのが特徴といえば特徴
チェチェンでは春になると、畑に巣くうティナを駆除する為、野焼きを行う
炎に追われて泣き叫ぶティナの声はチェチェンに春を告げる風物詩だ
112名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/25(水) 17:19:00.50 ID:ewvkal0W
何処の国でも野良幼女は害獣なのだろう ミラは男達の脇をすり抜ける
途中、男の一人がミラを見て、下品な口笛を吹いたが、ミラからすれば頭一つ分も
背の低い東洋の猿など、相手にする気も無かった その男がその言葉を発しなければ……
″ ヘ〜イ! 綺麗だね〜 何処から来たの? 肌白いね〜……ロシアかなぁ?″
″!!″
ミラはその言葉に立ち止まる
″正解? ロシアの女の子、綺麗だもんね〜 ロシア大好きよ〜 あいらぶロシア〜グェッ!?″
男は最後まで喋れなかった ミラの右手が男の首を締めていた 既に男の足は宙を
泳いでいる
″な、何しやがんだテメー!″
仲間の異変に気付いた男達がミラに詰め寄る ミラは右手に握る男を、
その連中に向け突き放つ
″うわっ!″
それを受け止め、よろけた先頭の男の側頭部に白くしなやかな鞭が吸い込まれる
鞭… ミラの長く美しい御御足は、男達の目には実際そう見えた
三メートルを吹き飛び、路側の垣根に頭から突っ込む男
″畜生!″
別の男がミラに掴みかかる が、ミラはその腕を掠める取るとガードレールに向け、
豪快な一本背負いを叩き込む
″ぐえっ……″
息一つあげず、ネオンの灯りを受けて踊る様に体術を繰り出すミラ
さすがに男達も、目の前の女が只者で無い事に気付いた
″お、覚えてろよ!″
伸びた仲間を抱えると、ザコ風味全開の捨て台詞を残し、男達は夜の街に消えて行った
″フゥ………″
ミラは大きくため息をついた 最近の自分はどうかしている 今、彼らに振るった暴力は
必要なものだったろうか? 彼らに悪意があった訳では無いはずだ…
自己嫌悪と酒の悪い回りで気分が悪くなったミラは、足早にその場を離れようとする
″………だぁ〜い好きだよ……″
不意に誰かに声をかけられた
″……だぁ〜い好きだよ!″
見れば、先程まで、男達に足蹴にされていたラムネだった 鼻血を出しながら、
満面の笑みでミラを見つめる どうやらミラが自分を助けてくれたと勘違いしている様だ
″これにて御免…″
ミラはそんなラムネに背を向け、夜の闇に消えて行った
113名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/25(水) 17:24:51.95 ID:ewvkal0W
駐日ロシア大使館付き武官として、シーニースベリヤノフが来日するとの情報が
ミラの元に届いたのは翌日の事だった
その日の深夜、指定された港の外れの駐車場に止まったワンボックスの中で、
ミラは作戦の実行計画書を渡される
ついに来た… ミラは今までの辛く悲しい日々を思い出す
シーニースベリヤノフ…… 元ロシア軍チェチェン侵攻部隊隊長 ミラの故郷を焼き、
家族を、友人を惨殺し、ミラの幸せを奪った張本人 ミラはこの男を待ち伏せる為に
日本にやって来たのだ シーニーが軍服を脱ぎ、クレムリンの奥に引き籠ったと聞いた時、
ミラは復讐を果たせぬ無念に咽び泣いた そして、軍服を脱いだのが外交武官として
満たされた余生を送る為だと知り、その希望勤務地が日本と聞いた時、ミラは迷わず
日本行きを志願した

作戦のあらましはこうだ 空港から大使館に向か途中のシーニーを襲撃する
まず車列の前方で仲間が自爆テロを敢行する 更に別の仲間が前方から車列に襲いかかる
警護が前方に集中した時、ミラが手薄なシーニーの車を襲撃し、シーニーを討ち取る
というものだ 計画は楽ではない 仲間はミラを混ぜて5人 一人は自爆テロで
命を落とすが、ミラを含め、残りも生存は出来まい
更に、ミラの強い要望により、ターゲットのシーニー以外には危害を加えない計画なのだ
陽動役の三人はエアガンと発煙筒で可能な限り護衛を引き寄せる ミラは、この日の為に
会得したポン刀でシーニーを狙うのだ
日本酒で祖国への殉死のを誓い、盃を酌み交わすと、計画実行のその日まで、
それぞれの準備を整えるべく市井に紛れて行った

事件が起きたのは、それから間もなくだった 仲間の一人が裏切り、日本とロシアの
捜査当局に襲撃計画を暴露したのだ
アジトは摘発され、仲間は次々と捕縛される ミラの住むマンションも遂に公安警察に
包囲される 間一髪、ミラは類い希な運動神経でマンションの屋根を伝いに包囲を脱する
しかし、最早計画の実行は不可能 ミラ自身 も身の隠し場を無くし、今日も廃倉庫の
片隅で疲れた身体を休めていた
同じ境遇を生き延び、祖国に忠誠を誓った筈の仲間の裏切り… 復讐計画の頓挫…
肉体的にも精神的にも憔悴仕切っていた
襲撃用のポン刀と共に持ち出した数少ない荷物の一つ、スコッチの最後の一口を
飲み干して、空き瓶を放り投げた お金はあるが、この国ではたたでさえ目立つ風貌
店に手配書が回っていれば、直ぐに足がついてしまう
″最早、これまでか……″
ミラは切腹を決意したサムライの様に力無く頭を垂れると、溶ける様に壁に寄りかかった
″!!″
その時、廃倉庫に微かな物音が響く ミラはポン刀を両手に握ると、壁を背にしたまま、
ゆっくりと音のした方向を見遣る 遂に追手が…!?
114名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/26(木) 16:23:16.60 ID:J1amPlli
保守
115名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/26(木) 18:30:21.27 ID:MpyteNin
″お菓子…食べる〜?″
″……だぁい好きだよ……″
ミラは豊満な胸を撫で下ろした 視線の先に見えたのは野良幼女ラムネだった
どうやら、この廃倉庫の先住民だったようだ ミラは先日の事を思い出す
日本に来てから何かとラムネに縁がある 二人のラムネは何処から拾って来たのか、
スナック菓子の袋からカスをまさぐり口に運ぶ ミラには、それがゴミにたかる
ゴキブリの様に見えて、思わず身震いした どうしても、この野良幼女という生き物は
好きになれない
こんなものにうろうろされると何かと面倒だ ミラはポン刀を静かに抜くと、
気付かれない様に、ラムネ達の背後に廻る
その時、片方のラムネの顔に、一筋の鼻血跡を見つけた
″!?″
野良幼女の外見の違いは、常人には区別出来ない だが、この鼻血の垂れ具合、蹴られた頬
の腫れ具合は、間違い無く、あの日のラムネだろう
ミラの脳裏にに、あの日、何度もお礼を言って微笑むラムネの顔が浮かんだ
それと同時に、一筋の光明が射し込んできた
(これは…使えるかも知れない……!)

その日から、ミラと二人のラムネの奇妙な共同生活が始まる事になる
初め、突然現れた侵入者に警戒するラムネ達だったが、鼻血の方はミラの姿を見て
満面の笑みになる ミラの予想通り、あの日のラムネだったようだ 人なつっこく
ミラに近づき、歓迎の意思を示している様だ ミラもコートのポケットに運良く
入っていたキャンディを2つ、彼女達に差し出す
人に優しくされるのは初めてなのか、二人ははち切れんばかりの笑顔で合唱する
″″だぁい好きだよ〜!″″

野良幼女にも貨幣経済を理解出来る者は存在する 問題は店側の対応だ
心の広い店主、店員ならばお金を持つ以上、客として扱うだろう だが、大抵の店では
ラムネの存在はゴキブリ、溝ネズミ並み…
入店するなり殴る蹴るは当たり前、金は巻き上げられ、酷い場合はダイアモンド鶴嘴も
登場する 鼻血ラムネもそれが分かっているのだろう、先程から商店の入り口
をうろうろしながら、中の様子を伺う そして不安げに建物の陰に身を潜めるミラの方を
何度も振り返る ミラはその度、ラムネを安心させる様に、微笑んで頷く
頼む… 頑張るでござる…… ミラは心の中で呟く その声が聞こえたかの様に、
ラムネは意を決して、店内に飛び込むその数分は無限に感じられた 祈る思いで
商店の入り口を見つめるミラ 両手に白いレジ袋を抱えた笑顔のラムネが現れた時、
ミラは生まれて初めて神に感謝した

″これ食べる〜!″
廃倉庫の片隅で細やかな夕食会が開かれた ミラの注文した、酒と新聞はなかったが、
ジュースに菓子パンと駄菓子、とりあえず飢えは凌げそうだ
いつもの残飯とは違う、ご馳走に目を輝かせがっつくラムネ達
改めて彼女達を観察するミラ どうやら鼻血じゃない方のラムネは身体が弱い様だ
日がな一日ベッド代わりの段ボールに横たわる 鼻血の方は献身的にそれを労る
ミラの知る常識では、野生の幼女は群れを成さない筈だった 少なくとも、チェチェンに
居たティナ達は成さない だか遥か日本で出会った目の前の野良幼女は中睦まじい
姉妹のような振る舞いを見せる
″これ〜〜!″
いつまでも手を出さないミラが、遠慮でもしていると思ったのか、クリームパンの欠片を
差し出す鼻血 野良幼女にまで同情されるとは、焼が回ったな… ミラは思わず自嘲した

段ボールの上で、薄いタオルケットを被り横になる三人 ミラを挟むラムネ達は既に
寝息を立てている ミラは遠い昔を思い出していた 一つのベッドに兄弟姉妹で潜りこみ、
夜遅くまでお喋りしていたあの頃… 幸せだった懐かしい日々… ……皆の仇は…必ず……
予想より暖かいラムネ達の体温に、ミラもいつしか夢の中へと誘われた
懐かしい夢の中へと……
116名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/26(木) 18:39:09.83 ID:MpyteNin
明くる日から、ミラの監督の下、ラムネの謎の訓練が始まった
土嚢袋で作ったリュックを背負い、地面に書かれたバツ印まで走る そこでリュックから
伸びた糸を引く それが出来るとミラはラムネの頭を撫でてお小遣いやお菓子ををあげる
ラムネは遊んでるつもりなのか、ニコニコ笑顔を絶やさず、この単純な運動を繰り返す
半日も過ぎると、随分動作も機敏になった 額に汗を滲ませ、大きく息をつくラムネ
予想以上の出来だ ミラはラムネにお小遣いで買い物に行かせると、1枚の地図を広げる
海浜公園の隅にある彫刻のオブジェの側、大きな銀杏の木の下に、それは有る筈…
あの時、当局に追われる仲間が必死に持ち出し隠した物 その在処を記した地図を
ミラは託されていた 仲間は既にロシア当局に引き渡されているだろう
言語を絶する拷問で、計画の全容を聞き出しているに違いない
計画書そのものも或いは奴等の手に… だとすれば、そこに隠された襲撃用の爆薬は既に
発見されている筈だ
可能性は低い だが、今はそれに賭けるしかない

その夜、ラムネ達が深い眠りについた頃、ミラは廃倉庫を抜け出し、闇に紛れ海浜公園に
やって来た 目印のオブジェは直ぐに見つかる ミラは注意深く辺りを探ると、
銀杏の木の下に立つ 掘り返された形跡はない祈る様気持ちで地図に印された走り書きを
頼りに、その北側を掘っていく 程無くして、小さな木箱の蓋が顔を覗かせた
(あったでござる……)
ミラは思わずその場に倒れ込む それは疲労や緊張によるものではない
この木箱の存在 それは、捕らえ激しい拷問にかけられても尚、計画の全容を暴露しない
仲間達の存在を表しているのだ
微かな希望… 逃げ延びたミラが必ずや計画を実行に移すと信じて…
この思いを無にする訳にはいかない!
そうとも…やり遂げてみせるとも… ミラは天頂に瞬く青星に誓うのだった

東の空が白む頃、廃倉庫に戻ったミラは奇妙な光景を目の当たりにする
鼻血ラムネが病弱ラムネの上に寝そべり、頬を刷り寄せている
初めそれを見た時、ラムネ種の生殖行為かと思い、激しい嫌悪感に思わず切り捨てる
所だった だが、どうも様子が変だ 鼻血は抱き締める様に病弱を抱え、微動だにしない
ミラが近づくと、気付いた鼻血が不安そうに顔を向けてきた
状況が飲めてきたミラは病弱ラムネの様子を見る 青い顔でぶるぶる震え、譫言の様な
微かな鳴き声をあげている 病弱の額に手をあてる ラムネの基礎体温は知らないが、
人間の基準で言えばかなりの高熱だ 無理もあるまい、だだっ広い廃倉庫はこの季節、
夜ともなれば気温は氷点下まで下がる 外気と大差は無い
そこに薄布1枚で寝ていれば、ただでさえ身体の弱い個体は体調を崩すだろう
鼻血はミラの表情から、何かを読み取ったのか、更に病弱の身体を抱き締め、
頬を押し付ける 鼻血なりに彼女を温めているつもりなのだろう
″無駄でござる″
ミラはそう言うと羽織っていた真紅のコートを二人に被せる そして、倉庫に散らばる
麻袋を何枚か集め、彼女達の側でライターで火を着けた
本来ならこれはやりたくなかった 廃墟とは言え市街地の一角、火と煙とその臭いは、
付近の住人に廃墟内の異常を知らせてしまう可能性がある
別にやらなくとも良かった筈 計画に関係の無いラムネが1人死のうが生きようが…
何故自分がそうしたのか、ミラ自身も分からない 小さな炎が立ち登り、
僅かに周囲の空気を暖めていく それを見た鼻血が驚いた様に顔をあげミラを見つめる
117名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/26(木) 18:46:26.83 ID:MpyteNin
ミラはそれを無視すると、二人に背を向けて段ボールに横たわった
ミラは子供の頃を思い出す チェチェンの春の風物詩、 野焼き 長い冬の終わりを告げる
その日は、ちょとしたお祭りで、村の広場に屋台が出たり、近所の人々が集まって
大皿料理を作ったりする ミラもそんな雰囲気が大好きで、よく友人や兄弟達と
大人達に混ざり野焼きを手伝った物だ
野焼きの目的は、枯れ草の除去と冬の間にそこに巣くう野良幼女の駆除だ
ティナと呼ばれるピンク色の頭髪をした野良幼女 チェチェンでは冬になると何処からか
人里に集まり田畑に簡単な住居を築き越冬する 枯草に着けられた炎は瞬く間に一面を
舐め廻していく 方々からあがるティナ達の悲鳴 高台から炎に追われるティナ達が
右往左往する様を、屋台で買ったパンケーキを頬張りながら眺めたものだ
ミラはこの生き物が嫌いだった 近くで接した事は無いが、炎が枯草を焼き尽くした後に
晒される彼女達の黒焦げの死に様に、いつも嫌悪感を抱いていた
幾重にも折り重なり、自分だけが少しでも上へ上へと、中へ中へと仲間を押し合い
へし合いして果てたその姿を心底侮蔑していた
野良幼女はそういう生き物だと教えられてきたし、ミラ自身もそう思っていた
だが… 日本で出会った野良幼女はミラの想像していた生き物とは少し違った
彼女は仲間を思いやる心を持っていた 国も違えば野良幼女の質も違うのだろう…
″!?″
不意に背後で気配がして、ミラの頬に柔らかい物が当たった
ラムネの頬だった 彼女はミラに覆い被さると、先程病弱ラムネにしていた様にミラを
抱き締めてきた ミラを… 温めているつもりなのか…?
コートを脱いで、独り横たわるミラが凍えると思っているのだろうか…?
ミラはじっとしたまま、ラムネの好きにさせた 意思の疎通が面倒だったし、
何よりその行為がミラの心の奥に、得体の知れない蟠りが広げて行き、それへの整理に
意識を奪われていたからだ
もしも…… もしも、このラムネが… ありふれた野良幼女の標準的な個体なら……
野良幼女にも仲間や家族を思いやる感情があるという事なのだろうか……
ミラが忌み嫌ったティナ達にも、中間や家族があったのだろうか…… もし… もしそんな
感情がティナ達にあったのなら… あの折り重なり倒れた黒焦げのティナ達は……
ミラは故郷がロシア軍に攻撃されたあの日を思い出す
炎に巻かれ、方々からあがる悲鳴 家族をを呼び会う悲痛な叫び 親が子を、
兄姉が弟妹を庇い撃たれ焼かれ殺されていったあの光景……
ミラの心を喩え様の無い黒い霧が覆っていく 考えたくは無い ティナ達は野良幼女だ
感情等ある筈が無い ミラは尚も頬を押し付けるラムネの油ぎった頭を撫でると、
その身体を押し退け目を瞑った

ミラには微かな勝算があった 連中はミラの組織が壊滅したと思っているに違いない
そこに隙が生じる筈 警戒は増すだろうが、それが更なる傲りも生む筈だ
ミラは敢えて当初の計画通り、大使館に向かうシーニーの車を狙う事にした
118名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/26(木) 19:00:17.70 ID:MpyteNin
空港に着いたシーニーは渋滞を避ける為、早朝5時にはこの通りを通過する
その車がこの川に架かる橋に差し掛かった時が襲撃のチャンスだ
橋の上は逃げ場が無い ムせネが自爆し前を塞げばシーニーは身動きが取れない

橋の袂に身を潜めるミラと鼻血ラムネ 早朝の刺す様な寒気の中、ラムネは呑気に
お菓子を頬張る
″これ〜食べる〜?″
ラムネはミラとピクニックでもしているつもりなのだろう、ミラの前にポップコーンを
摘まんで差し出す 背中には爆薬が詰まった土嚢袋 目の前の道路の真ん中にはバツ印
ミラの合図でラムネは飛び出し、訓練通り袋の紐を引くだろう
なんの苦しみも無い筈だ 当然、恐怖も感じていまい お前も私と出逢わなければな…
ミラはラムネの頭を軽く撫でる 病弱ラムネはあれから大分良くなった ミラは彼女に
所持金を全て預けてきた どうせミラにはもう不要だし、彼女の大事なパートナーを
道ずれにするのだから、せめてもの慰謝料だ 鼻血とのやり取りで、お金の使い方位は
分かるだろう ミラは彼女達に謝るつもりはない
ロシア軍への、シーニーへの復讐を決意した時、自分が死後、地獄の業火に焼かれる事も
覚悟した 今更偽善等しない

人通りの無い早朝の通りに仰々しい車列が現れたのはその時だ
″……時は来た、只それだけでござる……″
ミラは小さく呟くと、ラムネの肩に手を乗せる ラムネはいつもの訓練の様に身を屈めて
ダッシュの体勢を取る 車列が橋に差し掛かる…… 今だ!
ミラはラムネの肩を叩く 其を合図にラムネが駆け出す… と、直ぐに立ち止まる
ミラは焦った 何をしている!? 訓練通りやれ!!
ラムネは踵を返すと、ミラに深々と頭を下げた…
″……だぁい好きだよ!″
″!?″
今まで見せた事の無い穏やかな笑みでミラを見つめるラムネ
そして再び道路に記されたバツ印に向かって駆けて行く

……その手をミラは掴んでいた 驚き振り返るラムネの頬にミラの渾身の張り手が炸裂する
″……大キライだよ!!″
ミラはラムネの背中から土嚢袋を剥ぎ取ると、橋の上から投げ捨てた
呆気にとられるラムネの脇腹をミラの強烈な蹴りが薙ぐ
″ぶぇぇぇっ…″
その衝撃で吹き飛ぶラムネはそのまま袂の土手を転がり落ちて行く
ミラはポン刀を抜く 白金の刃身が朝日を受けて鈍く輝く
車列の前を行く警備車両がその姿に気付いた時、ミラは既にその脇をすり抜けていた
″シーニー覚悟でござる!″
ミラの跳躍から繰り出される渾身の一突きが、シーニーの乗る黒塗りのフロントガラスを
突き抜け、後部座席に陣取るシーニーの心臓を貫く…… 事はなかった
ミラの魂の一突きは無情にもフロントガラスに微かな切り傷を残しただけだった
防弾ガラス… 襲撃を予知した当局の当然の対応だった そのままボンネットを駆け登り、
車体の屋根からポン刀を突き立てんとするミラ
パン! パン! パン! 乾いた炸裂音が響く
″!?″
ミラの意思とは無関係に彼女の膝から力が抜け、車の屋根にへたり込む
それでも掲げたポン刀の狙いを定める
パン! パン! パン! パン!
今度は明確な激痛と灼熱がミラの身体を突き抜ける
ドサッ 音を立てて屋根から転げ落ちるミラ シーニーの黒塗りはそのまま全速力で
走り去る 冷たいアスファルトの上でそれを見つめるミラ 声にならない何かを鮮血に
濡れた唇が呟く 黒い大きな革靴が彼女の白磁の様な顔を踏みつける
パン! パン! その音にミラの身体は小さく弾んで、彼女の瞳から光が消えた
119名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/26(木) 19:02:50.42 ID:MpyteNin
廃倉庫の中、ラムネの訓練は今日も続く それを傍らで赤いコートを纏ったもう一人の
ラムネが見守る 額に玉の様な汗を滲ませながら、ラムネはじっと空を見上げる
野良幼女が何を思うのか、人間には分からない 彼女達は人間の様な感情は持たないと
される 人に似て、人の様に振る舞い、人の様に喋る、人ではない生き物
時として人は彼女達の言動に人と同じ知性や感情を見る事がある だがそれは、
人の都合の良い解釈や思い込みであるという
暫く空を眺めていたラムネは、急に傍らのラムネに何事か話かける 赤いコートを着た
ラムネは慌てそのラムネの脇に立つ
天を覆う雲一つ無い冬の突き抜ける青空 何故か二人はそれをいつまでも見上げていた……



″あれ? なんだろ〜コレ?″
せめてもの食料の足にと河口でカラス貝を削っていたミウたんは、目の前を流れて行く土嚢袋を手に取り、そこから垂れる糸を無意識に引っ張る
辺りは光に包まれた……

雄大な日本海に沈む紅の太陽 さざ波と鰯雲を鮮やかに染めて、
時は今、サンセットモード……
120名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/30(月) 14:29:33.86 ID:e/M9xcMF
グロ無しでリクエストした者ですが、毎回すっごく楽しませて頂いています。
ありがとうございます^^

もし可能なら、シンブレや乙女の少しHありの?日常みたいのも読みたいです^^

プロの方じゃないんですよね?
すっごいわ。。。
121名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/31(火) 13:17:28.61 ID:6Jrv5id3
″らな楽た赤―さ沢さ奈…?″
″えっ…!?″
″差焼てな2イ勢ぐパンさ!?″
″えぇっ…!?″

怖くなったミウたんは走り出した 訳が分からない… 店を飛び出し駐車場の
隅の植え込み、子供の背丈程あるコニファーの陰に身を隠したミウたんは頭を抱えて踞る
一体私はどうしたの? 頭がおかしくなってしまったの?
確かについ30分前、猛烈な吐き気と頭痛に襲われてからミウたんは、まるで異世界に
放り込まれた様な異常な状態に陥っていた

この日、小生意気にも人並みの正月が送りたいと思いたったミウたんは、バイト先から
ボーナス代わりに貰った、バーガー無料引換券30枚を金券ショップに持ち込み、
三千円を獲得する 手持ちの自由資金二千円と合わせ、五千円にも登る大金を手に、
近所のイトーヨーカ堂に正月飯の買い出しにやって来た時、それは起こった
突然の目眩、立ち眩み、急激な吐き気がミウたんを襲う 初めは慣れない伊達巻の品定めに、
伊達巻の渦で目が回ったかと思ったが、次いで締め付けられる様な激しい頭痛が
襲ってきた 思わず口を押さえてトイレに駆け込むミウたん
軽い悪心位なら得意のウォシュレットオナニーで紛らわせるミウたんが、
この時ばかりは青い顔で便座に座り込む 慢性便秘のミウたんだが、悪心の為か
この時は珍しくバナナ二本分ばかりを排便、数分後、幾分気持ちも落ち着いて
ペーパータオルで脂汗を拭いながらトイレから出てきた時、最初の違和感に気付いた
「錆夜ポ薇、200鳴キ」
板蒲鉾が陳列するケースに掲げられた一枚の張り紙 初めミウたんは、珍しい銘柄の
蒲鉾だと思い特に気にも止めなかったが、隣接する数の子売り場にも
「はぽ漠根ーわラサ俛」
と書かれた張り紙が… 更に向かいの焼豚コーナーにも
「8家景ガヶ全にヌ」
の張り紙… なんだコレ? 誤植ってやつかしら? 何気なく辺りを見回すミウたん
″!!″
そんなミウたんの目に飛び込んで来たのは、店内を埋める意味不明な文字の羅列の数々
陳列棚の張り紙だけではない 食品のラッピングに打たれた品名、値札、案内標示、
店員のエプロン柄に至るまで、解読不能な文字が並んでいる
な、なんなの!? 一体何が起きたの!? まるで一瞬で外国に来たかの様な異郷感
だが、そこは紛れもない見馴れたヨーカ堂の生鮮食品売り場 ミウたんは軽いパニックに
陥っていた そんなミウたんが考えついた可能性は、ドッキリカメラだ
かわいい自分はもしかして、素人ドッキリカメラのターゲットに選ばれたの?
だとしたら、今までのキョトリ振りはちょっと恥ずかしい 引きつった作り笑いで
辺りを見回し、隠しカメラを探すミウたん すると天井の一角にカメラを発見
ミウたんは鬼の首を取ったかの様にカメラに向かってVサインをし、プラカードを
持った仕掛け人の登場を待つ だがそれから10分たっても誰もやって来ない
更に天井のカメラも、そういえば何時も有る店内監視用の物じゃないかと気付く
″………………″
何だか怖くなって来たミウたん 遂にギブアップして鮮魚コーナーで試食のカニ蒲を
配ってるおば様にすがりついた
″あの… もう… ギブアップです… ″
そして冒頭のやり取りに至るのだ
122名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/31(火) 13:23:20.80 ID:6Jrv5id3
文字処か言葉まで意味不明 日本語に似ているが全く意味が分からない
ミウたんはここに至り、遂に自分の置かれた状況の深刻さを理解した
先程の吐き気と頭痛は、何らかの脳の異常か? どうすれば良い?
病院に行くにも意思の疎通が……
その時、背後から複数の足音が響いて来た 無意識にコニファーの向こうを覗くミウたん
そこで三人の警官と二人の店員と目が合った どう考えても自分を追って来た雰囲気…
だが何故? 警察のお世話になる様な事はまだしていない
もしかして自分の病状を察し、保護しに来てくれたのか? でもならば何故警官…?
上手く表現出来ない何がミウたんの頭の中に警鐘を鳴らす
″……こわ…がら…ないで……あなた…ほご……します…″
先頭の警官の言葉、片言ながら理解が出来る! つい30分前まで当たり前だった筈の
状況に、ミウたんはヘナヘナと力と緊張が抜けて行くのを感じた
だが次の瞬間、後ろの警官がミウたんの背後に目配せしたのを見逃さなかった
振り向くミウたんの視線の先に、完全武装の機動隊員が数人静かに近づいて
来るのが見えた
″いやぁっっ!!″
ミウたんは全速力で走り出した 何故かは分からないが、少なくともこの人達が自分に
友好的でない事だけは分かった
″へ市加5ボ!!″
背後で意味の分からない怒号と男達の足音が響く!
嫌っ! 怖い! 助けて! 何故私を追うの? 私が何をしたの? 私に何が起こったの?
ミウたん如き小娘の足が、鍛え上げられた権力の犬達の健脚を振り切れる筈などない
たちまち間が詰まり、今にも捕らえられんとした時、ミウたんが走る歩道の脇に1台の
赤いスポーツカーが急停車する
″乗れ!″
その言葉は明確に聞き取れた 考える余裕は無い 助手席に飛び乗ると車は急発進し、
そのGにシートに押し付けられた ミウたんは突然の展開に混乱しながらも、
このドライバーにお礼を言わねばと、運転手を見遣る
″!!″
ミウたんは息を飲んだ 赤い髪に艶やかな白い肌、彫像を思わせるその横顔だけでも
かなりのイケメンと分かる ミウたんも乙女である 思わず頬を赤らめながら語りかける
″あ、ありがとうございます″
″とりあえず僕の家に向かう″
ミウたんは胸の鼓動が高鳴るのを感じた
(い、いきなりお持ち帰りされるのぉ!?)
呑気極まる妄想を膨らませるミウたんだったが、車窓の流れる外の景色に
再び現実に引き戻される 正確に言えば、見馴れた何時ものマイタウンに浮かぶ
意味不明な文字の羅列…
道路標識、ビルの看板、コンビニやファミレスの幟… あの店内と変わらない…
やっぱり自分はおかしくなってしまったのだ…
再びもたげる不安に項垂れるミウたん そんな彼女の心を見透かした様に男は
ハンドルを握ったまま語りかける
″君は「こちら側」に紛れ込んでしまった… 今から「あちら側」に送り届ける″
″……えぇっ!?″
″理解しろとは言わない、ただ余り時間が無い…僕を信用してくれ″
ミウたんは呆然と男の顔を見詰め、そして大きくため息をついた
(こんなイケメンなのに……絵に描いた様な厨二病だなんて………残念過ぎる………)
123名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/31(火) 13:28:27.86 ID:6Jrv5id3
もっと他に思う事があるだろうに、この期に及んで尚、盛りのついた牝猫の様に
男の品定めを優先するミウたん
″どうして僕が君の言葉を理解出来たかって?″
″え…あ、うん…はい″
曖昧な反応しか見せないミウたんに気を使っているのか、男が切り出した
″僕も君と同じ「あちら側」の人間なんだ″

男の車が郊外のマンションに着くまで、ミウたんは自分の身に起きた異変のあらましと
疑問を男に説明し、それに対する回答を得ていた
曰く、この世界とミウたんの住む世界は平行世界という、重なりあいながらも互いに
干渉出来ない別次元の世界であり、ミウたんは何らかの弾みで次元の狭間に迷い込み、
こちらの世界に迷い込んでしまった事、
ミウたんの世界とこちらの世界は文字や言葉以外は殆ど同じ構成である事、
ミウたんの世界ではこちら側の存在は知られていないが、こちら側からはミウたんの
世界の存在を理解している事、
時折、ミウたんの様にこちら側に迷い込んで来る者がいる事、
そしてその者達は研究材料として捕らえられ、永遠に施設に監禁される事、
自分はその施設を脱し、ミウたんの様な迷い人があちら側に帰る手助けをしている事……
にわかには信じられない話だが、ミウたんが今日体験した不思議は彼の説明で
全て納得出来る ミウたんも遂に彼の言葉を信じ、自分が異世界に迷い込んでしまった
事実を受け入れるのだった
″さぁ 急いで! 直ぐにこの場所は見つかる″
男の声に促され、その古いコンクリート造りのマンションの階段を登って行く
四階の突き当たり、男は周囲を確認するとミウたんをドアの奥へと誘った
(初対面の男の人の部屋に入るなんて私…ダ・イ・タ・ン!)
異世界に迷い込んだ事は認めても未だ盛る事はやめない牝豚ミウたん
そこは簡易ベッドと段ボールが数個転がるだけの殺風景な部屋だった
(あのベッドの上で…抱かれるのね…!)
元の世界に戻る願望より卑猥な妄想を膨らませる事に必死の色情魔ミウたん
″君がこの世界に来る直前の行動を説明してくれ、そこに必ずヒントがある″
″……………えっ…?………は、はい!″
鼻の穴を広げて上の空のミウたんはその言葉に我に帰る
そうだ、私は元の世界に戻る為に此処に来たのだ 何はともあれ、まずは自分の居るべき
場所に戻るのだ ミウたんはあの違和感に襲われた時をを思い出す
″えっと… お買い物してたら気分が悪くなって… おトイレに行って… 戻って来たら……″
″それだ!″
黙って聞いていた男が呟いた
″この世界に迷い込む者達は何れも、日常の中の非日常が切っ掛けとなっている
君もそのトイレで何時もと違う何かを経験した筈だ!″
″い、何時もと違う経験って言われても……″
″元の世界に戻るには、それを再体験する必要がある! 再体験出来れば必ず帰れる!″
ミウたんは思考を巡らせた あの時体験した何時もと違う事…… そんな事言われても、
何も思いつかない… 何も………
″あっ!?″
″思い出した?″
まさか… いや、でもそれしか… ミウたんの脳裏に浮かんだ一つの答え…
124名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/31(火) 13:32:35.56 ID:6Jrv5id3
″何があった? 教えてくれ?″
″………………″
言えない… 言える訳がない! こんなイケメンに……… 珍しくウンチが二本も…
バナナ大のが二本も出たなんて…! ミウたんは赤面して俯いてしまう
"…………ゴホンッ"
そんなミウたんの様子に、流石に男も自分のデリカシーの無さを恥じた トイレの中での
非日常、いくら非常事態といえ、うら若き乙女に聞くべき質問ではなかった
男は黙ってトイレを指差した
"………ここで、再現出来るかい?"
"!!…………こ、ここで………再現!?"
二人の間を気まずい沈黙が流れる… その時だった
ドン! ドン! ドン!
何者かが激しくマンションのドアを叩く
"!!"
男が玄関に駆けよりドアスコープを覗く
"奴らが来た! 時間が無い! 直ぐに再現するんだ!"
そう叫ぶと、リビングの簡易ベッドを玄関に運びバリケードを作る
"急いで! 奴らは出来るだけ食い止める!"
立ち尽くすミウたんに男が叫ぶ!
"そ…そんな! 貴方は…貴方はどうなるの!?"
"僕の事は心配するな! それより急いで! 君に頼みがある!"
ドーン! ドーン! ドーン!
ドアに何かが激しくぶつかる その度に金属が軋み歪む音が響く
"急いで!"
男はドアに立て掛けた簡易ベッドを押さえ込む
最早時間が無い事を理解したミウたんは遂に意を決してトイレに飛び込む
(………再現………出来るの?)
便座の蓋を上げるとパンティを下げ腰を下ろす 追ってが迫るイケメンの部屋のトイレ…
極度の緊張の複合に加え、数時間前に縮便を排泄した現実…
ミウたんは下腹部に力を込めるが、プス… プス… と情けなく放屁するばかり…
"もし… 元の世界に戻れたら… 君に頼みたい事がある…"
トイレのドアの向こうから激しい打撃音と共に男の声が聞こえる
"僕には… 妹が一人居る… 君が戻れたら… 妹に… 僕は世界を放浪する旅をしてると
伝えて欲しい… そして… いつか必ず帰ると伝えてくれ!"
ミウたんは更に力む 顔は真っ赤に染まり、額には玉の様な汗が浮かぶ
"ふふ… 実は… 自分がこの世界に迷い込んだ切っ掛けが分からないんだ… 滑稽だろ……
でも、必ず見つけ出す…… 僕の名は… 聖夜… 妹の名は……"
ドドン!
何かが崩れる音がして、またあの意味不明な怒号が響く! 何人もの足音が部屋の中に
なだれ込んで来る!
(神様……!!)
ミウたんは渾身の力で踏ん張る! トイレのドアノブがクルクル回り、次いで凄まじい
衝撃でドア全体が揺さぶられる! トイレのドアが激しい悲鳴をあげる!
"嫌ァァァーーー!!"
迫る恐怖にミウたんが悲鳴をあげる
125名無しさん@お腹いっぱい。:2013/12/31(火) 13:37:02.84 ID:6Jrv5id3
ブリ…ブリ… ビリッ……ブッ…ブバッ!!
ミウたんのアナルから爆音が響いたのはその時だった……

"お客様! お客様!"
ドアの外で誰かが叫んでいる! 怖い! 助けて! 神様! お母さん!
"お客様! 大丈夫ですか!? お客様!"
"………お客様!?………大丈夫!?"
その声にミウたんは我に帰った あれ… ちゃんと聞こえる… 私をお客様って…
心配してる…? この雰囲気は!
"お客様… ドアを開けさせて頂きます!"
"ま、待って!"
ミウたんは慌て立ち上がると、便器の中を覗き込んだ 中にはバナナ大の便が二本…
帰って来たんだ…! ミウたんは胸に手を当てて大きなため息をついた

トイレを流し、恐る恐るトイレのドアを開けると、外には店員と救急隊員が
心配そうな顔で立っていた そのエプロンの文字も、名札の名前も、ヘルメットの署名も
しっかり読めた ミウたんは安堵の唸り声をあげてその場にしゃがみ込むのだった
パンティをあげるのを忘れたまま…



「ゴ〜〜ン」
テレビモニターの中では除夜の鐘が響く ミウたんは毛布にくるまりながら、ぼんやりと
それを眺めていた
夢だったのだろうか… 今日体験した不思議な世界…
トイレで気を失った様ですね 搬送された病院での診断はそれだった 風邪を惹いていて、
疲れも溜まったのが原因との事で、点滴をしただけで返された
(異世界なんて、有るわけないよね…)
ミウたんは新年を迎えた事を確認すると、ミカンの最後の一房を口に放り込んでベッドに
潜り込んだ
"…………聖夜………"
そう呟くと、ミウたんの右手はパンティの中に滑りみ、左手は小さな乳首をまさぐる
(あ〜〜ぁ どうせ夢ならあの簡易ベッドで………)
新年早々、初独り姫事に耽るミウたん
あの世界での頼まれ事など快楽の彼方に沈んでいた……
126名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/02(木) 02:18:33.37 ID:LbeJzGxo
外食産業に赤字は許されない 収支は勿論、それを維持する為、カレンダーにも
赤字など無い 多くの人々が新しき一年の訪れを祝い、華やいだ雰囲気に街中が浮かれる
正月と言えども例外ではない
"いらっしゃいませ〜! ……お待たせしました〜!"
日本の外食産業をその最先端でマネージメントするイケてるキャリアウーマンミウたん
は、この三ヶ日もフルシフトである 世間的には不味い、高い、遅い、豚の餌、
あんなの食う奴ド底辺、と散々な評価のミウたんの勤めるファーストフード店も流石に
この時期は大盛況で、シフト上がりの夜11時にはミウたんの傷んだヘアーも、
揚げ油の飛沫で一本一本補修&密閉で内側からLUXスーパーリッチな輝きを放っていた
"お疲れ様でした〜"
そんな冷めた骨無しチキンの様な曇った残り香をロッカールームに漂わせ、ミウたんは
夜の街を疾走する ミウたんが毎月こけしの展示即売会を開く神社の大鳥居を潜ったのは
11時50分だった
"なんとか間に合った……"
正月も三日目の夜ともなれば、境内の人影も殆どない 白い息を弾ませ幣殿に向かう
ミウたんは何とか三が日の内に初詣を済ませたかった 一昨日、昨日はバイトが早朝から
深夜に及び、体力的余裕が無かった 普段、社会の食べ滓を舐め取って生きてる様な
ミウたんだからこそ、この様なげん担ぎや縁起行事は大切にするのだ
身の程も知らず念入りに願掛けしたミウたんは、次いで毎年恒例の御神籤を引く
生まれてこの方、小吉以上を引いた事がないミウたんは、今年こそ幸多からん事を祈り
百円玉を放って籖を引く
(………末吉)
正直、小吉と末吉のどちらが良いのか分からないミウたんは、神妙な表情で籖の内容を
読み漁って行く…

金運……望み無し
健康……可もなく不可もなく
恋愛……身の程を知れ
仕事・学業……底辺ワロス
人間関係……宿命の輪が閉じる

"はぁ………"
ため息をつくミウたん 中卒ミウたんでも内容が散々な事位は分かる
ミウたんは籖を丸めて参道に叩きつけるという暴挙に出ると、そのままブツブツ悪態を
つきながら神社を後にした

自分の宿命の輪が閉じるようとしている事にも気付かずに……
127名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/02(木) 02:23:05.14 ID:LbeJzGxo
次の日、遅ればせながら正月休みを頂いたミウたんは電車に揺られていた
ミウたんが贔屓にしているこけしアート用品専門店の初売り兼、新年イベントに参じる
為である 基本的に移動は徒歩かピンクミウたん号のミウたんであるが、残念ながら
この専門店は都心に位置する 一応、運転初心者の意識があるミウたんは、流石に都心の
ど真ん中を走る自信が無い 駐車場も基本有料になる事を考えると、ミウたんは都心に
向かう場合、鉄道を使うのだ
だが、ミウたんはこの電車という乗り物が好きではない 正確に言えば「駅の改札」が
苦手なのだ
自動改札…… ミウたんの田舎の何とか半島の根元にも、其が無い訳ではない
ただ、この大都会において自動改札程、全体主義と己の凡庸性を求められる物は無いと
ミウたんは思う ミウたんは初めてこの都会で、自動改札を通過しようとした時の事を
忘れられない 氾流の様な人の波の中、ところてんの様に自動改札に流されたミウたんは、
田舎での二回だけの経験に基づき、緊張を隠し、極めて何食わぬ顔でクールに切符を
投入口に流した けたたましい警告音と共に、下腹部を金属の板に強かに打たれ踞ったのは
その直後だった ミウたんはその物理的痛みより、心の痛みの方が辛かった
背後から聞こえた大きな舌打ち お腹を押さえながら照れ隠しにはにかむミウたんに、
誰独り目もくれずそそくさと流れて行く人波…
ミウたんは叫びたかった 自分は決して自動改札も知らぬ田舎者ではない
ただ、余裕が… 切符の向きや料金を確認する時間的余裕が無かっただけなのだと…!
都会の人達だって、初めからクールに自動改札出来た訳ではない筈なのに…
以降、自動改札はミウたんのトラウマとなる 今でこそ、自動改札の一発通過率は8割を
越えるが、出来うる事なら近寄りたくない存在なのである
そんな恥辱の過去を反芻する間に電車は目的の駅に到着する 都内有数の巨大駅
氾流の様な人の波 今は幾らかその波を掻き分けられる様になったミウたんが中央改札
に差し掛かった時だった

"……銀色の扉です………"
ミウたんの目の前に、大きなリュックサックが立ち塞がる 見れば、ミウたんより幾らか
年下に見える少女が、自動改札を前に仁王立ちしているではないか…
128名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/02(木) 02:28:49.54 ID:LbeJzGxo
濁流の中州に取り残された様に立ち尽くす少女 誰の目にも典型的なお上りさんと映る
慣れない都会の人と物の洪水に身の置き所も無いのだろう 数年前、自分がそうだった
ミウたんには分かる
"……自動改札に何て負けません!"
背中でそう語る少女の視線は、激しい開閉を繰り返す自動改札に注がれている
その姿があの日の自分に重なる ミウたんが彼女の肩に優しく手を掛けたのは必然で
あろう ミウたんは彼女の手を引くと、彼女が見える様に自分の切符を自動改札に
飲み込ませる ミウたんの優しい笑顔と手解きのお陰か、少女も難無く自動改札を
突破した 喧騒の中、互いの声は殆ど聞こえないが、少女は笑顔で何度も何度もミウたんに
頭を下げ、人混みの中に消えて行った ミウたんもその姿が見えなくなるまで、
手を振っていた
あの時、自分がして欲しかった事を、今日、あの子にしてあげる事が出来た…
真冬の寒空の下でもミウたんの心はぽかぽか暖かかった…



こけし相撲……
我が国に於いて、こけし文化の中心地と言えば、やはり東北地方といえるだろう
知識の無い者は、こけしそのものを東北の伝統工芸とまで誤認する
その東北地方に於いて、正月の代表的伝統行事がこけし相撲である(原文ママ)
円形の台座の上に置かれた二体のこけしを、それぞれのマスターが台座を叩く振動で
コントロールし、相手を倒すか、台座の外に押し出せば勝利となる、正にこけしによる
相撲である その昔、稲作の吉凶を占った事に始まると言われるこけし相撲
今日それは、こけしアーティスト達が己のこけしの可能性を追求し、互いの技量を
琢磨し合う絶好の舞台として、こけし界三大イベントの一つとなっている
そのこけし相撲の東日本大会が今日、件のこけしアート用品店で開かれるのだ
ミウたんが来店した最大の目的も勿論、この新春恒例こけし相撲での腕試しなのである
129名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/02(木) 02:31:43.10 ID:7bdVC3u9
>>128
正月早々頑張ってるみたいだが、
多分誰も読んでないぞ
130名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/02(木) 02:34:22.02 ID:LbeJzGxo
こけしの実売から鑿や彫刻刀は勿論、絵筆、鑢、ダイアモンド鶴嘴、その他諸々、
こけしに関わる物なら何でも揃うこの店は、こけしアーティストや愛好家達にとって
正に聖地とも呼べる所である
ミウたんも店内で、めぼしい物を物色しつつ他のこけしアーティストと挨拶や
情報交換等を行う ミウたんにとって残念なのは、こけしアーティストには若い世代が、
それも女性は殆ど居ない事である こけし界で次世代のホープとは一般に40歳迄を指す
それ程、ミウたんは飛び抜けて若い 同じ趣味を持つ友達や… ややもすれば彼氏が
出来れば… そんなミウたんの希望はなかなか実現しない

開店から二時間… 時計の針がが11時を指す頃、こけしファイティングマスター
となったアーティスト達が、続々と裏庭の特設ステージに集まり出す
今年も、新春こけし大相撲大会が幕をあげる
今年は開幕カードから、前年度優勝者と、ミウたんとの縁浅からぬ鳴子の巨大こけし組織
ビッグバースト主将の対決という、好カードが組まれ、大会はいきなり白熱する
ミウたんも自身のこけし力士、「ディア・サンタクロース〜もみの葉側位付け」の
調整をしながらも優勝候補同士の熱い闘いに視線を奪われる
そして、 白熱の初戦の興奮冷めやらぬ中、第二試合にミウたんが登場する
生意気にも、こけし界に於いてはちょっとしたアイドル、ミウたんは大きな歓声を受けて
舞台に上がる
"ディア・サンタクロース、頼んだわよ!"
アニメの登場人物の様な、厨二臭い台詞を吐いて謎のポーズをとるキモいミウたん
対面に彼女の対戦相手が姿を表す…
"……お、お姉さま………!?"
"え、えぇっ!?"
ミウたんのお目目が見開いた そこには、朝方、駅で出会ったあのお上り少女の姿が…!
ま、まさか彼女もこけしファイターだったとは! 彼女はこの大会に出る為に上京して
来たのか!?
何と言う運命の悪戯か… 自分が姿を重ねたあの娘が、自分と同じこけしファイターとして、
自分の前に立ち塞がるとは!
ミウたんは意外なライバルの出現に動揺しながらも、待ち焦がれた同年代の
こけしファイターの出現に嬉しさが込み上げていた だが、試合は試合だ 嬉しいからこそ、
先輩としての威厳を見せつけなければ!
"お、お姉さま… 朝はありがとうございます!"
"お姉さまって言うな! ディア・サンタクロース、やっちゃって!"
ミウたんは機先を制して攻撃を仕掛ける
131名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/02(木) 21:39:32.75 ID:BbVQy/Jo
いや、よんどるで
132名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/03(金) 07:32:45.53 ID:bmC4Ak0u
少女のこけしはピンクを基調とした極めてオーソドックスな伝統こけしであった
そこにミウたんの真っ赤なディア・サンタクロースが襲いかかる!
こけし相撲歴3年の巧みなこけしコントロール 一気に勝負を決めるか、と思われた瞬間、
少女のこけしはひらりとサンタクロースをかわす
"やりますよ!"
掛け声と共に少女が反撃に出る ミウたんの先入観とは裏腹に、少女はかなりの
手練れだった
"いただくのです!"
少女のピンクこけしが華麗なステップを刻みサンタクロースに体当たる
体重が乗った鋭い一撃がサンタクロースの下半身を直撃し、大きくバランスを崩す
"やりますよ!"
とどめとばかりに一気に詰め寄るピンクこけし だがミウたんはこの瞬間を待っていた
"くたばりやがれ!"
前のめりになったピンクこけしの側頭部に、サンタクロースのニーハイが炸裂した
そのまま場外に吹き飛ぶピンクこけし 勝負はあっさりと決まった

午前の部が終了して昼食タイム、ミウたんは少女を誘い近くのファミレスへやって来た
当初は駅の立ち蕎麦280円で済ませる予定だったが、初めて出来た、可愛いこけし
フレンドに先輩面する為に急遽、紙鑢予算900円を崩してご馳走する事にしたのだった
こけし相撲のでの互いの健闘を称え、改めて自己紹介し合う
少女の名は麗羅、ミウたんより一つ年下の17歳、東北の裏の方からやって来たらしい
芳しい肉汁の香りを靡かせて、ハンバーグステーキが麗羅の前に運ばれて来た
"お姉さまは食べないのですか?"
"う、うん… 水が…大好きなんだ……"
唸りをあげる空きっ腹を押さえて、努めて笑顔を作る
まさかファミレスのまんまがこんなに高いだなんて…
麗羅が1100円のハンバーグステーキを注文した時、ミウたんのお昼は氷水になった
"……所で、麗羅ちゃんのご家族は? もしかしてご両親はこけし関係のお仕事でも?"
ステーキプレートの上で踊る肉汁に理性を失いながら、何とか会話を紡ぐミウたん
"………………"
だがその質問を聞いた麗羅の表情は急に曇り、ハンバーグを刻む手が止まる
(し、しまった…)
ついハンバーグに気を取られ、迂闊な質問を…
133名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/03(金) 07:42:12.21 ID:bmC4Ak0u
ミウたんはすかさず自分の身の上話に切り替えた 母を幼くして失い、父は失踪して
天涯孤独な自分をさらけ出せば麗羅も許してくれるだろう…
ミウたんの予想通り、麗羅の顔に少し笑顔が戻った
"実は、麗羅も本当の両親は居ないのです…"
だが、そんな麗羅の口から語られた身の上話に、ミウたんは驚愕する
麗羅も小さい時に母を亡くし、父は失踪したそうだ そうだ、と言うのは、麗羅には
両親の記憶が無いからだ 麗羅は父親の交際相手だった女性の元に残され、
その女性の手によって育てられた 育てられた、と言っても、実際は愛情など無く、
飯使いか奴隷の様にこき使われ、毎日の様に謂れのない暴力や中傷に晒されていた
女性には四人の娘が居り、彼女達からは言語を絶する性的虐待を受けていた
そんな麗羅の悲惨な毎日を支えていたのは、麗羅のたった一つの宝物、父が麗羅に
残していったという、一体のこけしだった
「マルハン」という変わった名前が刻まれたこけし 麗羅は辛い時、悲しい時、寂しい時、
このこけしに語り掛けた 麗羅にはこけしから優しい父の声が聞こえる気がしたのだ
麗羅はある時、夢を持った こけし職人になりたいと… 自分と父親を繋ぐただ一つの接点、
こけし… こけし道を歩めば、いつの日か、父と再会できるかもしれない…
それが麗羅の夢であり希望なのだ
何と言う事だろう… まるで自分と同じではないか… こけしに翻弄され巡り会った
二人の少女 まるで妹の様… ミウたんは目の前の少女を他人とは思えなかった
それは麗羅も同じだった

その日の夕方、ミウたんは麗羅は駅のホームで熱い抱擁をして別れを惜しんだ
結局こけし相撲は、麗羅との会話が長引き不戦敗となったが、そんな事はどうでもよかった
ミウたんは麗羅にこのまま一緒に東京で暮らそうと誘ったが、麗羅は首を振った
如何に酷い扱いをされても、育ての親から黙って逃げる事はしたくないと…
それでもいつか必ず、こけし職人になるため上京し、ミウたんに会いに来ると誓ってくれた
ホームを離れ、東北の裏の方へ向かう特急にいつまでも手を振るミウたん
その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた…

ミウたんはこの後、自動改札に挟まれ意識不明の重体となるが、
それはまた、別の物語である…
134名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/05(日) 17:43:52.80 ID:EU0HZG9J
まぁ、とりあえず明けましておめでとう。
いい年にしようぜ!

お互い頑張ろう。しかし文才はすごな。。
135名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/07(火) 00:17:44.87 ID:oLfIrGzC
ミウたんは独り上手である いつも独りで居る事が多かったからだ
幼い頃から友達と呼べる存在は居なかった 理由はいろいろあろう
可愛すぎる容姿が妬まれたのかもしれないし、遠足や運動会の時に同級生達が
ビニールシートの上で楽しそうにお弁当を食べている様を、涙を浮かべながら眺めている
姿が侮蔑されていたのかもしれない
物心ついた時から家族は父親だけ その父親も週末はお仕事で不在の事が多かった
必然的にミウたんは独りの時間の過ごし方に長けていった
ミウたん自身、独りを寂しいとも辛いとも思わなかった 無理もない
幸せを知らない物が自身の不幸に気付く事は無いのだ

一足遅れのお正月を過ごすミウたん 独りであってもお正月の雰囲気は味わいたい
御節のつもりか、蒲鉾と伊達巻が数切れ入ったスカスカの重箱と、雑煮をイメージした
ワンタンスープをテーブルに並べて、ミウたんの独り宴会が幕を上げる
途中、自分が自分に送った独り年賀状披露と、自分で自分に送る独りお年玉授与式を経て、
宴会はクライマックスイベントを迎える
独り双六… ミウたんの独りお正月の定番行事 これをやらねば正月気分が得られない
独りで双六など出来るか! 愛の溢れる環境に生まれ育った者にはそう叫ぶだろう
だがミウたんにとって双六とは独りでやる物なのである ミウたんの双六は世間の
スタンダードとはやや異なる 独りでプレイするそれは当然、あがりまでのスピードを
競う物ではない ミウたんの双六は、一マス一マス進んで行き、そのマスに記された
ミッションをこなしていく物なのである
勿論、そのミッションはミウたんが考えた物ではあるが、双六のマップは大量に用意され、
その都度ガチ抽選で選択されるのだ その為、ミウたんも常に新鮮な雰囲気で楽しめるのだ
ミウたんはこの双六の事を、凄い双六、略して「すごスゴ」と呼んでいる
136名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/07(火) 00:24:15.38 ID:oLfIrGzC
厳冬の外気とさして変わらぬ、刺すような冷気が支配するリビングで、今年もすごスゴは
開幕した 白い息を吐きながら、段ボール箱からマップをガチ抽選するミウたん
選ばれた汚く小さな文字が綴られた一本道のマップを、ミウたんの分身ペットボトル
キャップが進んで行く…
最初のイベントマス『職安』… このすごスゴの楽しみ方の一つに職業の概念がある
自分の職業によって、その後のマップ箱が変わりイベントも変化していくのだ
"う〜〜ん…"
こけし職人、みかん農家、造船業、的屋… バラエティー溢れる職業の中からミウたんが
選んだ職業はやはりこけし職人だった やはり最初は本業から攻めよう
改めてこけし職人となったミウたんは次のイベントマスに進む
『商売』… 一時間以内にこけしを三本売れれば50G
すごスゴの大きな特徴に、そのイベントが現実社会にリンクするという点がある
独りでプレイするすごスゴは、全てを脳内で補完しては簡単に終わってしまう
イベントの指示を実際に行う事で「私、今、凄い楽しい事をやってる!」感がなんとか
出て来るのだ 早速、自信作のこけしを数本、風呂敷に包んで大通りに向かうミウたん
既に正月気分も抜け、日常の落ち着きを取り戻しつつある市井の人々
ミウたんはそんな人々に片っ端から声を掛け、こけしセールスをしていく
だが、これまでの縁日ですら一本も売れた事のないミウたんのこけしは、結局今日も
一本も売れなかった
イベント失敗… 0G、ミウたんはチラシの裏に収支を記すと、次のイベントマスに
キャップを進めていく
『バトル』… 憎いアイツを打ち負かしたら300G
その文字は震えていた 記憶は無いが、この字を記した時の自分は激しい怒りに震えて
いたのだろう 自分をそこまで怒らせる人間は奴しかいない!
ミウたんはピンクミウたん号に飛び乗ると、初売りセールに賑わうしまむらにやって来た
"な、なによ! 生意気ね!"
突如目の前に立ち塞がったミウたんに、アミヤ?は不快そうな声をあげる
彼女の手には初売りセールで格安250円のキャミソールが握られていた
"あ〜た〜し〜の〜"
突如、ミウたんはそのキャミソールを渾身の力で引っ張る
ビリビリッ 瞬く間に安物のキャミソールはボロボロの化学繊維の切れ端に姿を変えた
"大勝利!"
茫然と立ち尽くすマミヤ?を残し、どこかにVサインをしながらミウたんはしまむらを
後にした 300Gゲット ミウたんは次のマップをガチ抽選する
137名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/07(火) 00:28:07.41 ID:oLfIrGzC
(今度は違う職業も楽しんでみようかな?) 再び訪れた『職安』マス
こけし職人、鷹匠、踊り娘、蟹… ミウたんが次に選んだ職業は踊り娘
ミウたんとて女の子 せっかく可愛く生まれたならば、自分の魅力で殿方を楽しませたい
若干、踊り娘を誤解しているミウたんは踊り娘ルートを進む
『舞台』… ゲリラライブで口笛を吹かれたら100G
大きなレースを頭から被り、それをヘアバンドで止める 次にマスクをしてネグリジェに
着替える それがミウたんがイメージするベリーダンスのコスプレだ
ミウたんは舞台として選んだAEONモールの駐車場で、自分なりにイメージした
セクシーベリーダンスを披露する 程無くしてミウたんの回りには人だかりができあがる
"駄目でしょ、勝手に抜け出して来たら!"
口笛を待って一生懸命踊っていたミウたんに声を掛けたのは、黄色い衣装の
救急隊員だった
"さぁ みんなの迷惑だから帰るよ ったく、何処から抜け出したの?"
そう言って、背後の黄色い救急車にミウたんを引っ張って行く
"い、嫌っ! 待って! キ〇ガイじゃない! キチ〇イって言うな〜!"
救急隊員のてを振りほどき逃げ出すミウたん ミッション失敗、0G… 駄目だ、転職しよう
踊り娘、鮪漁師、勇者、リラックマ… ミウたんが選んだ次の職業は……勇者だ
職業勇者… これはこのすごスゴに於いて、クライマックスステージに差し掛かった事を
意味する 他のマップより丁寧で重厚な造りの勇者マップの上を進むミウたん
『魔王バトル』… 魔王を倒して平和を取り戻せ!
既に太陽は西の山嶺に姿を隠しつつある 時間はない あの太陽が完全に隠れる迄に
魔王を倒すのだ
駅前通りに面した中華料理店『楊楊』 この店の名物、激辛大盛野菜湯麺「魔王麺」
これを攻略するのがミウたんの正月を締める恒例行事にして、すごスゴ最後のイベント
なのだ この期間だけ、特別価格で通常950円が 500円で提供されるのだ
一年に一度の本物の湯麺… ミウたんはゴクリと息を飲むと、目の前に供された
「魔王麺」の山に食らいついた
138名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/07(火) 00:31:05.15 ID:oLfIrGzC
魔王との闘いは熾烈を極めた 灼熱の炎を思わせる激辛スープがミウたんの体内を
焼き尽くし、そのスープを吸って膨れた麺と野菜の山が容赦なくミウたんのボディに
重い一撃を食らわせる 滝の様な汗と鼻水を流しながら、それでもミウたんは最後の止め、
チンゲン菜を口に運ぶ ……勝った 今年も魔王に完勝した
大きく臭いげっぷをがましながらミウたんは勝利を宣言する
"だって私、勇者ですから!"

満腹のお腹を擦りながら玄関を潜ったミウたんはすごスゴの前に座り、
自身の分身ボトルキャップを『あがり』のコマに進める
"ふぅ〜…………"
大きな溜め息をつくミウたん 今年も正月は滞りなく終わった
明日からまた忙しく毎日が始まる それは去年同様、辛く厳しい物になるだろ
だが、ミウたんは負けない だってミウたんは勇者なのだから…!



"…………つまらない………………"
ボソリと呟いたミウたんのお目目から大粒の涙が溢れた
独りでやる双六…… こんなのが面白い筈がない
ミウたんだって本当は知っている 双六は家族や友人と一緒にやるから楽しいのだ
私はこの独り双六を来年も来年も、ずっと続けていくのだろうか……
さながら、暗闇で踊るピエロの様に……
ミウたんはテーブルのお重もそのままに、ベッドに潜り込んだ
そしてパンティを下ろし、上着を捲り上げて、露出した白いボディを自らまさぐっていく
"……あっ………あん……ああっ………"
ミウたんは独り上手ある とりわけ、独りエッチに関しては円熟の域に達していた

後日、ミウたんはしまむらの一件で器物破損によりしょぴかれるが
それはまた、別の物語である
139名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/07(火) 07:27:17.86 ID:4jhkKA7b
今回もすごく面白かったです。

・・・さて、私はシャワーして仮の職場のパチ屋にでも出かけます。。。
140名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/08(水) 01:55:45.75 ID:DVEbU7QB
我が国を代表する伝統工芸、こけし… その発祥には諸説ある
一般的に広く知られている説では、源平合戦の折、源義経が寡兵を欺く為に陣中に並べた
木彫りの人形に始まるとされている 今日、こけし工芸の中心地と言えば東北地方であるが、
これも、義経の奥州行の際に伝えられ、広まったとされる
(民明書房刊 「日本こけし大全」〜その謎と伝承〜 より)

"はぁ〜 はぁ〜"
麗羅は悴む指先に息を吹き掛けながら、軒先の洗濯物を一枚一枚取り込んでいく
麗羅の住む、東北の裏側はこの時期、最高気温が10℃を上回る事はない
散々な嫌味と悪態をつかれながらも決行した東京への日帰り旅
普段は大人しく言いなりの彼女が必死に懇願し、許されたその代償は予想通り
厳しい物だった 普段から麗羅の仕事である炊事洗濯に加え、雪かき、買い物、
町内会の清掃まで、全てを麗羅が担当する事になった
正に寝る間も無い程の忙しさである だが麗羅に後悔はなかった 東京で出会った
あの人の存在が、今の麗羅には何よりの励ましになっていたのだ
"…ねぇ 麗羅、今月号のClEL買って来てくれた?"
"すみません、お姉さま まだなのです… 洗濯が終わったら、麗羅、直ぐ行きます…"
"ハァ〜!? アンタ、朝からずっと洗濯してんのにまだ終わらないの?
ほんとノロマだね!"
"…麗羅、反省です……"
ボブショートのいかにも勝ち気そうな姉からの容赦ない叱責に俯く麗羅
"真理亜、麗羅を責めては可哀想でしょ… 朝からろくに休んでないのよ…"
そんな麗羅に助け船を出す存在が現れる
"宛子姉さん… だってコイツ…!"
宛子と呼ばれたロングヘアーにオーバル眼鏡の女性は、何も言わず真理亜を見つめる
"………うぅ……"
その無言のオーラに圧倒されたのか、真理亜は背中を向けて足早に立ち去った
"ゴメンね、麗羅ちゃん… 本当は私が変わってあげたいけど… お母様に知れたら…"
そう言うと宛子は麗羅の頬を撫でた
端から見れば、麗羅に同情を寄せる心優しき姉… だが、そんな姉に頬を撫でられた麗羅は、
その場に凍り付いた様に動かない 側に居れば気付いたかもしれない
その時麗羅が鯖の様に震え、奥歯をカチカチ鳴らして居たのを……
141名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/08(水) 02:02:20.82 ID:DVEbU7QB
東北の裏側、冬は全てが雪に閉ざされる山間のこの地で、麗羅は母と四人の姉と
暮らしている 彼女らは地元では知らぬ者のいない美人一家として有名な存在である
母は少し離れた田舎町の場末のスナクでママを務めながら、五人の娘達を育て
上げてきた 麗羅はそんな母に感謝していた 血が繋がらない自分にも生きて行ける
だけの食べ物と最低限の教育を授けてくれた そんな自分が、義理の姉達に尽くすのは
当然だと麗羅は思う
だが、麗羅には夢があるのだ こけし… 幼い時に失踪した麗羅の父親が彼女に残した
唯一の物… 麗羅はこけし職人に成りたいのだ こけし職人の道を極めれば、いつかきっと
父に出逢える… 保証は無いが麗羅は確信していた 近い内にこの家を出よう そして、
その為にも今、精一杯恩返ししよう 麗羅は今夜も氷の様な冷たい水で米を研ぐ
ドタッ… ドタッ… ドタッ… 階段をかけ降りる音がして、台所の引き戸が開いた
ツインテールの少女が冷蔵庫を開けて、麦茶を冷水筒から直接かぶ飲みする
"………なによっ!"
麗羅の視線に気付いた少女は鋭く、それでいて深い悲しみを湛えた瞳を麗羅に向ける
麗羅は直ぐに向き直して、再び釜の白米を研ぎ始める
少女ははたけたブラウスのボタンを閉め直しながら、台所を出て行った
程無くして、再び引き戸が静かに開く… 麗羅は敢えて反応せず、味噌汁具材を刻んで行く
"あら? 今夜は茄子の御味御汁?"
そんな麗羅の肩越しに宛子が顔を覗かせた コクリ… 麗羅は無言で頷く
"危ないわよ、麗羅ちゃん 包丁はもっと立てて使わないと…"
宛子の長い手が、まな板の上で包丁を握る麗羅の右手を包む
"お、お姉さま… お魚が焦げてしまいます…"
背中に覆い被さる宛子から逃れる様に魚焼き器に飛び付く麗羅
"ふふっ かわいいわね…"
炊飯器から立ち上る湯気で眼鏡を曇らせながら宛子はうっすらと微笑む
"疲れてるでしょ? 今夜、久々にマッサージしてあげるわね 今日は一番にお風呂に
入りなさい"
"つ、疲れてなんかいません! それに、麗羅、お風呂は最後で…!"
"私を待たせるの? 後片付けは真理亜にやらせるから、先に入りなさい…"
麗羅はそれ以上何も言えなかった 曇った眼鏡越しにも分かる鋭い宛子の眼光
(あぁ……ぁ……)
麗羅は膝頭が震えて、今にも崩れ落ちそうだった
142名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/08(水) 02:10:26.13 ID:DVEbU7QB
自分が家族と血が繋がっていないと知ったのは小学四年の冬だった
真理亜姉さんが、学校の回転遊具から転落し大怪我をした事があった
頭を切り、大量の出血で、輸血が必要となった その時、初めて血液型のロジックを知った
A型の自分とB型の家族 自分が赤ちゃんの頃に亡くなった聞かされた父がB型だったと
知った時の絶望は言葉では言い表せ無かった
恐る恐る、母にその事を訊ねた 予想に反して母はあっさり、自分がかつて交際していた
男が預けていった赤の他人だと認めた
その時、自分の心の中に鬱積していた蟠りがほどけた 姉妹の中で常に感じていた
不平等感 謂れの無い暴力や心無い罵声 それが自分に向けられる理由が漸く
理解できのだ
母を、姉達を恨み、憎んだ事もあった だが、自分の本当の父が残していったという
こけしを見た時、その優しい微笑みに諭された気がした
赤の他人の自分を家族として受け入れてくれた皆を恨んではならないと…

不意に麗羅の寝室に光が射し込んだ
"待たせてゴメンなさいね 真理亜が聞き分けないから、お説教をしていたの"
ベッドの上で背中を向け、身動ぎ一つせず固まる麗羅 真理亜姉さんの悲鳴と嗚咽は
一時間も前から聞こえていた 麗羅の頬に柔らかい感触が伝わる
ベッドに入ってきた宛子の頬の感触だ その手は麗羅の頭を撫で、頭髪を弄ぶ
"疲れたでしょ? 麗羅はいつも頑張ってるものね…"
空いた左手が麗羅の腰の辺りを優しく揉み解す
宛子の唇が麗羅の頬の上を滑った 髪を弄っていた右手が肩越しに麗羅のパジャマの
中に滑り込んでくる
どうと言う事は無い… 何時もと同じだ… ほんの一時間も時が過ぎれば、
後はゆっくり眠れるのだ…

普段は知的でクールな姿しか見せない宛子の荒い鼻息が闇の中に響く
暗闇の中でもうっすらと浮かび上がる二人の白い肌
肉と肉が擦れ合い奏でる卑猥な旋律
"可愛いわよ… 麗羅…"
宛子の舌が麗羅の咥内に乱入する 麗羅はただ目を瞑り、時が経つのを待つ
心を無にする それが麗羅が出来る唯一の抵抗手段なのだ
143名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/08(水) 02:15:58.42 ID:DVEbU7QB
だがそんな麗羅の儚い抵抗など、宛子にとっては赤子の手を捻るも同然
尻肉をまさぐっていた宛子の指が、突如、蛇の様に股の間に滑り込み、
麗羅の秘所の敏感な 一点を刺激する
"あうっ…!"
思わず声をあげてしまう麗羅 その羞恥心が彼女の無の心を書き乱す
"ふふっ やっぱりここがいいのね…"
獲物を捕らえた蛇は、無慈悲に麗羅の秘所を蹂躙していく
麗羅は腹の底に熱い何かが湧き上がるのを感じた
(駄目… 駄目です…!)
その熱い氾流から逃れようと身体を捩るが、完全に宛子に組敷かれ微動だに出来ない
宛子の長い髪が、さながら触手の様に麗羅の身体に絡み付く
絶望的状況の中で、沸き上がる熱い氾流が遂に麗羅の全身を呑み込んでいく
"うっ…うわっ…うわぁぁっ……お姉さまっ……!"
白い閃光に満たされる麗羅の脳裏に浮かんだのは、宛子ではない
あの日… あの時… 見知らぬ都会で、自分を優しくエスコートしてくれた女性…
駅のホームで別れを惜しみ、熱い抱擁をくれた女性…
自分を妹の様だと言い、一緒に暮らそうと誘ってくれた女性…
生まれて初めて、自分を本当に愛してくれた女性…
(……ミウお姉さま…………)
麗羅の瞼から一筋の涙が溢れた

涙と体液に濡れたシーツの上に横たわる麗羅 寝室を包む闇より暗い闇が
彼女の心を染めていた
ミウお姉さま… こんな私でも… 妹と呼んでくれますか…
どうして私は… 貴女の妹に生まれなかったの…… どうして……
疲れ切った麗羅の意識はそこで途切れた



"はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…"
ベッドの上でこれまでに無い、荒い吐息をあげるミウたん
パンティの中で激しくのたうっていた右手が、漸くその動きを止めた
(はぁ〜 たまには義理姉妹GLもいいものね〜)
ミウたんには百合趣味は無いが、あの日、麗羅が語った一言がミウたんの脳裏に
焼き付いていた
(姉から性的虐待を受けている……)
その抽象的な言葉から無限に広がるイマジネーションが、ミウたんのエロ妄想を
完全に暴走させていた この半年でも最高の独りエッチ…
よく分からない寸評を付けるミウたんの肌は、何時もにまして艶やかに潤っていた



"お、お姉さま… 何故? 何故麗羅の下着は これなのですか? お姉さま!? お姉さま!"
その頃、本物の麗羅は、何故かふんどしを手に姉達に激しく詰めよっていた
"お姉さま、これは虐待です! 性的虐待です!"
144名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/10(金) 05:24:58.71 ID:2GdZ+EZr
新展開開始?!

僕は今日は病院の日だ。
145名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/11(土) 01:02:55.40 ID:qpCXJFxR
"当たらないわよ…"
炬燵の上に無造作に散らばるスクラッチくじの残骸と銀色の屑
アミヤは最後の一枚を削り終えると、それと百円玉を傍らに放り、大の字に寝そべった

"当たらないわよ…"
人も疎らなマイジャグの島 レバーを叩く手に思わず力が籠る
その端正な顔を紅潮させるアミヤの頭上のデータカウンターは四桁を刻んでいた

"当たらないわよ…"
最近ハマったソーシャルゲーム『萌えスロコレクション』
SR「晴れ着で初詣〜八九寺真宵」狙いで課金ガチャを回すが、三万円を賭けて
出てきたのは「鬱病末期〜ローズマリー」と「整形失敗〜満月姫」だけだった

当たらない… 思い起こせばアミヤはいつも不遇だった
子供の頃からくじ運がなかった 掃除当番をくじで決めれば、アミヤは誰もが嫌がる
鶏小屋になる お祭り屋台のスピードくじで光るブレスレット欲しさにお小遣いを
全ツすれば、着色料満点の風船ガム30個に化ける
大人になっても「引き」は弱かった コンビニで700円以上お買い上げで当たる物と言えば、
七味唐辛子が関の山 今だかつて使い切った事など一度もない
2chにスレ立てしようとすればタイミングがどーたらこーたら…
会社を出れば雨が降り、家に着くと雨があがる 電車に乗ればガラガラの車列で、
何故か自分の車両だけ搭乗率300%…
車を運転すれば、信号待ちの最前列はおかしな位、常に自分…

1/30は当然引けず、1/10に滑り込む事など無く、1/2も当てられない
だけど、不運の1/100は恐ろしい程自分に吸い込まれる
アミヤは思う 人間には「運力」があるのだと
「握力」や「視力」の様なそれは、今の科学では証明出来ないだけで
確実に存在し、人間の運命を左右しているのだと
より運力を持つ者がより幸せを勝ち取る…
"……!!"
炬燵で大の字になっていたアミヤは何かを閃いた様に飛び起きる
運力が「力」の一種なら、それは筋力の様に鍛える事が出来るのではないか!?
根拠は無いが、試してみる価値はあるかも… 明くる日から、アミヤの特訓は始まった
146名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/11(土) 01:06:37.62 ID:qpCXJFxR
アミヤは大福餅を3つ用意する 1つを手に取りチューブワサビをぶっ刺す
ワサビ大福の完成だ 目を瞑ってそれをシャッフルする
"2/3… 継続率66%、ミドルタイプ… 当たらないわよ!"
右端の大福を手に取り、勝利への気合いとばかりに大口を開けて食らいつく
"………ぶべらっ!"
ジオングを彷彿とさせる壮大な大福粒子砲をかますアミヤ
側に転がっていたノンアルビールのタブを慌て抜いて口内に流し込む
"はぁ……ひぃ……ふぅ………"
いつものアミヤならこの時点で不貞腐れ、投げ出すところだろう
だが、今日のアミヤは違う 明晰な彼女の頭脳が冷静に状況を分析する
今のは全般に中途半端だった もっと厳しく、スリリングに自分を追い込めば何かが
見えてくる筈… アミヤは本気だった
今度は大福の数を5つに増やす その代わり、当たり(外れ?)の1つには更にペナルティを
加える 大福の餡を抜きワサビチューブまるごと一本、そこにコンビニで貰った七味と
消費期限切れのフリスクをブレンドした
"4/5… 継続率80%MAXタイプ… 絶対に当たらないわよ!"
祈りにも似た気合いを入れて、アミヤは真ん中の大福を手に取った
一瞬の間をおいてから、それを一気に口の中に押し込んでいく
"…………ん?…………セーフ? …よし初戦突ベベベベベベっぐぁっ…………!!"
猛烈な衝撃はやや遅れてきた もんどりを打ってのたうち回るアミヤ
幸運の8割は引けないのに、不幸の2割は外れない… 運って何なの…
薄れ行く意識の中で、アミヤはこの宇宙を創造した神に語りかけていた

それからもアミヤの運修行は続いた ある日の夕食ではサイコロを用いた
ご飯、味噌汁、漬物、佃煮、海老フライ、サラダ… メニューの書かれたサイコロの出目が、
アミヤの箸の行方になる
結局、白米を茶碗三杯とサラダ一口で吐き気を催し夕食は終了した
手付かずの車海老フライをコンポストに廃棄するアミヤの目には悔し涙が溢れた
買い物帰りのある日はトランプを用いた スーパーを出て家までの帰り道、
歩道に敷かれたブロックをマスに見立て、引いたトランプの数字だけ進むのだ
ただし進めるのは絵札だけで数札は後戻りする
結局、二日後40メートル後ずさった所で意識を失い倒れ、救急車で搬送された
1メートルも前に進めなかったのも悔しかったが、気づいた所が精神病院という事も、
アミヤを深く傷つけた
147名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/11(土) 01:10:28.62 ID:qpCXJFxR
それでも徐々にではあるが、アミヤは自分の運力が鍛えられていくのを実感していた
ゴミ捨ての際に近所の住民に出合う確率は確実に減少したし、
駅のトイレの個室が綺麗なまま空いている確率も、以前より明らかに増えた
遂には『萌えスロコレクション』で念願のSR「江戸のちょい悪岡っ引〜水無月遥」
を二万の投資でGETしたのだ
事ここに至り、いよいよ自分の運力の上昇を確信したアミヤは
腕試しとばかりに、久々に仮の職場の1つ、「ヘルシティ」への出社を決めたのだった
凄腕NHK受信料徴収人としての肩書きを持つアミヤだが、基本、徴収人としての業務は
月10日程度しかない 出来るキャリアウーマンとしては、無知なご近所からあらぬ
勘繰りをされたくはない その為、月に10日は仮の職場に空出勤して、
世間の目を誤魔化すのだ
その1つ「ヘルシティ 」には先日のマイジャク1400ハマり以来出社していない
延滞している給料を受け取る時は来た アミヤはシャワーを浴びて身を清めると、
白いコートに青いマフラーを纏い、颯爽と地獄の門を潜るのだった

普段はハナジャグ等、告知系しかやらないアミヤ だが、せっかくの運試し、
ここは1つ爆裂AT機にでも… メイン通路に面した新台、看板機種コーナーを練り歩く
吉宗、獣王、北斗… アミヤも聞いた事のある人気機種達だが、いまいち気が乗らない
まず、打ってる人達がいかにも玄人っぽい あの間で目押しも覚束ない自分が打つのは
気が引ける それに何だか皆イライラしていて人相も怖い あんな島に若くて美人な
自分が入って行ったら、あの狂った獣供に昇天するまで大盤振る舞いされて
しまうかもしれない… 身勝手で卑猥な妄想に身震いしながらアミヤは
バラエティーコーナーにやって来た
こっちのが人が少なくて良いわね… 先程の島とは大分客層が違うバラエティーコーナー
ある台の前でアミヤの足がピタリと止まった
「麻雀物語2」
"こ、これは……!?"
148名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/11(土) 01:14:00.95 ID:qpCXJFxR
アミヤはスマホを立ち上げ『萌えコレ』にアクセスする
キャンペーンページのリンクを踏むと、それは現れた
"間違いないわね! これね!"
SR「不妊治療〜風上あやか」 『萌えコレ』マニア垂涎の的、実機で万枚を出さなければ
手に入らない激レアカードの1つ
普段のアミヤなら意識もしないそれが、今日の自分なら手が届きそうな気がする
アミヤは躊躇なく麻雀物語に腰を下ろすと、コインサンドに万札を突っ込んだ

その日のアミヤはやはり何時もとは違った いきなり投資2Kから集中ステージを経て
AT突入、それは単発で終わるが、天国128Gで引き戻す そこでボーナスとラッシュが
絡み220乗せ 消化中、直乗せ3連発が来た時は思わず軽く失禁した
終わったかと思っても裏乗せ裏乗せで終わる気配無し
止めはロングパトランチャンスで300乗せ アミヤ震える手でドル箱にコインを詰めて
行く 時間はまだ昼を過ぎたばかりだ これは… 本当に… イッちゃうのか…!





……からの−80K
"ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!"
夜7時を回る頃、錯乱状態のアミヤがバラエティーコーナーからふらつきながら出てきた
訳の分からない譫言を呟きながら、仮面ライダーの小冊子を破いて口に詰めて行く
店員に抱えられ、到着した黄色い救急車で何処かへ運ばれるアミヤ
その後、彼女の姿を見た者はいない…



"へへっ…… へへへっ…… 大勝利だよ……"
虚ろな瞳でスマホを眺めるミウたん 念願のSR「ネガティブアルピニスト〜由利鎌之助」
を獲得する事に成功したが、投資70Kはミウたんの生命活動に致命的であった
この後、ミウたんはコンビニの廃棄弁当を啄み、見事胃腸に大当りするが、
それはまた別の物語である…
149名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/11(土) 08:00:55.61 ID:Exy56X6G
なんか近親感が・・・。

さて、シャワーして仮の職場に出勤しますか T-T
150名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/11(土) 18:18:36.91 ID:+s4ZsjZ0
"当たらないわよ…"
炬燵の上に無造作に散らばるスクラッチくじの残骸と銀色の屑
アミヤは最後の一枚を削り終えると、それと百円玉を傍らに放り、大の字に寝そべった

"当たらないわよ…"
人も疎らなマイジャグの島 レバーを叩く手に思わず力が籠る
その端正な顔を紅潮させるアミヤの頭上のデータカウンターは四桁を刻んでいた

"当たらないわよ…"
最近ハマったソーシャルゲーム『萌えスロコレクション』
SR「晴れ着で初詣〜八九寺真宵」狙いで課金ガチャを回すが、三万円を賭けて
出てきたのは「鬱病末期〜ローズマリー」と「整形失敗〜満月姫」だけだった

当たらない… 思い起こせばアミヤはいつも不遇だった
子供の頃からくじ運がなかった 掃除当番をくじで決めれば、アミヤは誰もが嫌がる
鶏小屋になる お祭り屋台のスピードくじで光るブレスレット欲しさにお小遣いを
全ツすれば、着色料満点の風船ガム30個に化ける
大人になっても「引き」は弱かった コンビニで700円以上お買い上げで当たる物と言えば、
七味唐辛子が関の山 今だかつて使い切った事など一度もない
2chにスレ立てしようとすればタイミングがどーたらこーたら…
会社を出れば雨が降り、家に着くと雨があがる 電車に乗ればガラガラの車列で、
何故か自分の車両だけ搭乗率300%…
車を運転すれば、信号待ちの最前列はおかしな位、常に自分…

1/30は当然引けず、1/10に滑り込む事など無く、1/2も当てられない
だけど、不運の1/100は恐ろしい程自分に吸い込まれる
アミヤは思う 人間には「運力」があるのだと
「握力」や「視力」の様なそれは、今の科学では証明出来ないだけで
確実に存在し、人間の運命を左右しているのだと
より運力を持つ者がより幸せを勝ち取る…
"……!!"
炬燵で大の字になっていたアミヤは何かを閃いた様に飛び起きる
運力が「力」の一種なら、それは筋力の様に鍛える事が出来るのではないか!?
根拠は無いが、試してみる価値はあるかも… 明くる日から、アミヤの特訓は始まった
151名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/13(月) 14:56:28.43 ID:itbe/Lji
>>150

木下=朴
マルチコピペ、負ける呪いのアニメ好き馬鹿チョン


31: 木下 [] 2014/01/11(土) 22:27:27.68 ID:+s4ZsjZ0

アニメガ、アッタヨー

34: 木下 [] 2014/01/11(土) 22:30:52.29 ID:+s4ZsjZ0

彼女の家に
ノロイノビデオガ、アタヨー

38: 名無しさん@お腹いっぱい。 [sage] 2014/01/11(土) 21:41:19.61 ID:+s4ZsjZ0

うるせぇ!

39: 呪い [sage] 2014/01/11(土) 21:41:57.24 ID:+s4ZsjZ0

負けろ‥負けろ‥負けろ‥お前らは全員負けろ‥

40: 呪い [sage] 2014/01/11(土) 21:42:44.06 ID:+s4ZsjZ0

10万近く負けろ‥必ず負けろ‥

653: 名無しさん@お腹いっぱい。 [sage] 2014/01/11(土) 19:18:31.72 ID:+s4ZsjZ0

うるせぇ!

6: 名無しさん@お腹いっぱい。 [sage] 2014/01/11(土) 22:26:11.47 ID:+s4ZsjZ0

凪のあすからのが面白いよ
21: 名無しさん@お腹いっぱい。 [] 2014/01/11(土) 08:20:45.86 ID:+s4ZsjZ0
いやハゲてないから
152名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/14(火) 17:43:26.66 ID:cljV9moy
初めは微かな亀裂だった ビルの解体工事から響く振動が、地下の老朽化した水道管に
少しずつプレッシャーを掛けていた
亀裂から染みでた水は、徐々にではあるが辺りの土を湿らし、静かに液状化させていく
やがて、その僅かな圧力ランスのズレが一掴みの土塊を崩す それが合図となった
小さな崩壊が別の小さな崩壊を生み、その崩壊の連鎖が、より大きな土塊の崩壊を呼ぶ
誰も気付かぬ地下の世界で、破壊と破滅の序曲が奏でられていた…

その日、ミウたんは返書の為、図書館を訪れていた
「日本妖怪全集」… 児童書コーナーのそのタイトルに魅入られたミウたんは、
こけし制作の参考の為と自分に言い聞かせ、司書の冷たい視線に耐えながら
貸し出しの手続きを済ませたのだ
目眩く妖怪世界… 自然科学の粋を集めた造形と設定… 郷土の信仰と伝承の融合…
思わず高鳴る胸の鼓動… 納得の内容に心奪われたミウたんは時が経つのも忘れて、
気がつけば貫徹していた
眠い目を擦りなが図書館を後にしたミウたんは、バイト先に向かう為、
地下鉄に乗るべく構内へ向かう階段を降りて行った
平日の昼間は地下鉄も空いている ミウたんは暖房の効いた車内に潜り込むと、
その暖かさに、たちまち睡魔に夢の国へと誘われて行った
地下鉄の運転手が前方を塞ぐ白い影に気付いたのは、その数分後だった
「ギ、ギィィィィィィッ!!」
凄まじい金属の絶叫を響かせながら地下鉄は急ブレーキをかけた
突然襲い懸かるのGに、車内では悲鳴が木霊する 溶けた泥田坊の様に
シートに凭れ、飢えた狐者異の如く涎を垂らしながら爆睡するミウたんは、
その加重移動に対応出来ず、ゴム人間のように吹き飛び、手摺の支柱に激突する
"んびぎゃっ!"
気持ち悪い悲鳴を上げて、鼻血を垂らしたミウたんが目を覚ました時、再び強い衝撃が
車両を襲った 地震の様な激しい揺れと衝撃音 再び車内に響く悲鳴と叫び
ミウたんも硬い何かに必死に捕まり体を押さえる
一体何が起きたのか? 数秒だった様な気がするし、もっと長かった気もする
揺れと轟音が収まり、ミウたんが目を開けた時、車内の電灯は消え暗闇に包まれていた
153名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/14(火) 17:47:02.55 ID:cljV9moy
床が傾き、低知能のミウたんでも車両が脱線したのが解る
乗客達が動揺と困惑の声をあげている 漸く落ち着きを取り戻したミウたんは、
鼻血を拭いながら辺りを見回し、状況を観察した
窓の外は僅かに遠くのトンネル照明の光が流れて、うっすらと外壁を浮かび
上がらせている 誰かの声が外から聞こえる 非常コックでドアを開けた人々が、
車両から降りている様だ ミウたんの車両でも、それに反応して非常コックでドアを
開けようと幾つかの影が動いていた ミウたんは手摺を伝って立ち上がる
主に顔面が痛い… それ以外はとりあえずかすり傷の様だ
10人程の車両の乗客達も、さほど重症者はいない様だ 漸くドアが開いた
"大丈夫かい? 立てる?"
不意に声を掛けられた 大分暗闇に慣れてきた目で、それがサラリーマン風の中年男性
だと分かった 多分、向こうもミウたんを可憐な美少女と認識したのだろう
感性鋭いミウたんは直ぐに男の下衆な下心を読みとる
(この男、暗闇に託つけて私を犯るつもりね…!)
自意識過剰で統合失調症の疑いがあるミウたんは無愛想な返事を返すと、
開いたドアから勢いよく飛び降りた
「ビシャッ!」
ミウたんの両足が水を跳ねた
(水!?)
踝まで浸かる量の水が暗い地面を覆っている その時、車両の前方から聞こえる
滝の様な水音に気付いた その暗い前方に目を凝らすと、遥か先に天井から落ちて来る
白い影と、その下に盛り上がる黒い塊 そしてその塊に突っ込んで傾いた地下鉄の
先頭車両の姿が見えた
どうやらあれが脱線の原因の様だ 様だと言っても、あれが何なのかミウたんには
よく分からない
"怪我をされた方は居ませんか? ここは危険です 車両後方へお進み下さい!"
運転手だろうか、制服姿の男性が大声を上げて乗客達を誘導している
暗い地下トンネルでの脱線事故… 「危険」というキーワードは乗客達に大きな緊張感
を与えた ぞろぞろと黒い群れが車両の後方に歩き出す
ミウたんもその群れに紛れて歩み出した 大変な事に巻き込まれた
バイトは遅刻だし、怪我もしてしまった よく分からないが、これは損害賠償が請求
出来るかも…? 地上に出たら、マスコミのインタビューを受けたりして…!?
ひょっとして、そこからアイドルデビューとか…!
馬鹿としか言い様のない糞呑気な妄想を膨らませるミウたん
154名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/14(火) 17:50:31.86 ID:cljV9moy
下卑た金勘定も頭を過り、無意識にスカートのポケットに入っている蝦蟇口に手を伸ばす
"!!"
そこで初めてそれが無くなっている事に気付いた ミウたんの当座の全財産、
4700円が入った大事な蝦蟇口 どう考えても先程の転倒の際に落としたのだ
損害賠償はともかく、あのお金は無くせない
ミウたんは踵を返し、自分が乗っていた車両に小走りで戻って行く
"危ない! 戻って!"
運転手の制止を振り切り、傾いた車両のドアによじ登るミウたん
暗い車内 ミウたんはスマホの明かりで床を照らす
"……ターゲット確認!"
車両前方のシートの下にミウたんの蝦蟇口はあった
まるで標的を捉えたスナイパーの様な堂々たる表情で蝦蟇口を拾い上げるミウたん
その時だった 再び地震の様な振動が伝わってきた 直ぐにそれは激しくなり、
轟音が響き渡る 咄嗟に頭を押さえて踞るミウたん 再び静けさが戻り、恐る恐る
ドアから外を覗く 何も見えない… 先程まで、微かにトンネル内を照らしていた
照明の光が見えない 急に怖くなったミウたんは皆の後を追うべく慌てドアから
飛び降りた
「ガボンッ!」
"!!"
ミウたんの膝から下が水に飲まれる
(あ、あれ? 水位が… 増えてる…)
さっきまで踝だった水位が膝下まで来ている 流石に危機感が沸いてきたミウたんは
ガボガボ水を掻き分けながら、皆の後を追い、車両後方へと向かう
だが、直ぐにそれは阻まれた ミウたんの目の前に土砂の壁が築かれていたのだ
(そ、そんな… もしかしてさっきの振動は……)
ミウたんの予測は無残にも的中していた ミウたんが蝦蟇口を拾い上げ調子に
乗っている間に、車両後方で新な落盤が発生していたのだ
間一髪、運転手と乗客達は難を逃れ、最寄りの駅へと待避に向かう だが、命より小銭を
惜しんだミウたんは完全に地下の密室に幽閉されてしまったのだった
ミウたんがその事実を認識するのに30分はかからなかった
指し渡り50メートル程の空間で前後を塞がれ、人の通れる隙間は無い
天井から勢いよく降り注いで来る膨大な量の水 刻々と増す水位…
それから逃れる様に車両のドアに腰を掛けたミウたんは、両手でその身分不相応の
可愛いお顔を覆っていた
155名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/14(火) 17:55:14.53 ID:cljV9moy
"私… 死んじゃうんだ……"
塵虫が鳴く様な小さな声で呟くミウたん さしもの彼女も自分の置かれた状況の
絶望加減を理解した
何故私は運転手の制止を振り切りったのだろう… 何故私は命よりお金を選んだのだろう…
何故私は今日地下鉄に乗ったのだろう… 何故私は妖怪全集なんて借りたのだろう…
様々な後悔と何故がミウたんの心で木霊する
まだエッチもした事無いのに… 松阪牛も食べた事無いのに…
飛行機も乗った事無いのに… CDデビューもして無いのに…
様々な無念と未練がミウたんの脳裏で交錯する
水位は更に上がり、ドアから車内に侵入してくる
"やだ…… 死にたくない… 神様……どうして…!"
ミウたんはシートの上に移動し悪あがきを続ける こんなに可愛い自分がどうして
死ななくちゃいけないの!? ミウたんは運命を弄ぶ神という存在を憎悪した
"どうして……神様の馬鹿! 人で無し! 人殺し! 変態! どスケベ!"
涙を流しながら想像上の存在を有らん限り罵倒するミウたん
"神なんて存在しませんよ……"
"ぎゃぁぁぁぁぁっ!!"
突如闇の中からミウたんの叫びに答える声 この空間に自分しか居ないと思い込んでいた
ミウたんが悲鳴を上げるのも無理はなかった
"だ、誰!?"
驚いた反面、自分以外の誰かがそこに居た事実にミウたんの心は励まされた
"静かにして貰えませんか…"
だが、ミウたんのパニック寸前の精神状態とは対象的に、声の主は冷静だった
まるでこの状況に恐怖を感じていない様だ 声のする方向を凝視するが、暗闇の中で
輪郭すら捉えられない 声色からすれば若い女性の様だが、余りにも冷静なそれは、
人間離れした異様な存在にも思えた
"!?"
ミウたんの脳裏にある想像が閃いた
"もしかして… 妖怪さんですか…?"
感性が鋭過ぎるミウたんは、この僅かなやり取りでピンときていた
この緊迫した状況で、まるで他人事の様に清ましてパニクる人間を邪険に扱う存在
それは妖怪しかいない ミウたんは昨夜徹夜で読み漁った妖怪全集を思い出していた
そして、ミウたんの予想通り、ミウたんの問に答えない闇の中の存在
それはミウたんの推測が的中している事を物語っているのだ
156名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/14(火) 17:58:35.47 ID:cljV9moy
絶体絶命の美少女の元に訪れた人ならざる存在…
漫画の世界ならそれは紛う事無き救世主であろう
そういう物に人一倍感化され易いミウたんが、声の主が自分を助けに来てくれた
正義の妖怪と信じるのも無理は無かった
"お、お願いします! 助けて下さい! もし助けて貰えたら、これから毎日、胡瓜三本
お供えします!"
ミウたんの中では全ての妖怪は胡瓜が好物らしい
"落ち着くべきですね… どうせ人は何れ死ぬんです… 暴れれば苦しみが増すだけです…"
だが、それに対する返答はミウたんの予想とはかけ離れた物だった
"ど、どうしてそんな事言うの!? それでも正義の妖怪さんなの!?"
"妖怪……? 私はただの塵ですよ……"
噛み合わぬ会話 その間にも水嵩はどんどんあがってくる
"やだやだ! 死にたくない! 助けて、助けて下さい!"
半狂乱になり泣き喚くミウたん
"ふぅ………"
そんな醜い彼女の姿に辟易したかの様に闇から漏れるため息
"落ち着いて下さいね… 水が流れ込んでも耳が痛くならないのは、空気の逃げ道が
あるからなんですよね… 地下鉄のトンネルの上には排気口があるんですよ…
今のうちに適当に水に浮かぶ物でも繋げて、浮き輪代わりに捕まってれば、
そのうち上まで運ばれますよね…"
"!!"
絶望に打ち拉がれるミウたんの視界を閃光が走った
これぞまさしく人智を越えた妖かしの啓示 やっぱりこの妖怪は自分を助けるために
訪れた正義の妖怪なのだ
"ありがとう妖怪さん!"
生への希望が沸き上がったミウたん だが、時間は余り無いミウたんは辺りを見回す
そして荷物ラックに残されたバッグに刺さったペットボトルを見つける
(これだ!)
更に、流されて来たのか、シートのクッション部まで迫った水面を漂う二本の
空ペットボトルをGETする
それらを上着の中、ブラとバストの間にねじ込む
念願の巨乳になったミウたん 元来、泳ぎは得意な方だ この浮力があれば必ず
地上まで達する事が出来るだろう
"本当にありがとう妖怪さん! 来週から周一で胡瓜三本お供えします!"
助かったと分かるや然り気無く供物を値切る、浅ましいミウたんの再度のお礼に
機嫌を損ねたか、闇の声は応えない
だがミウたんは気にする様子も無く、迫りくる氾流に意を決して飛び込むのだった
157名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/14(火) 18:02:30.22 ID:cljV9moy
"づべだいーーー!"
当然であろう 真冬の水道水プールが冷たくない訳が無い
氷の中に埋め込まれた様な衝撃に、ミウたんの奥歯がガチガチ音を立てる
何か、イメージしていたのと違う…! 軽くパニック状態のミウたんに更なる追い討ち
"な、な、な、がちゃれ…てる…?"
ただ満ちて行くだけに思われた水 だが、それに身を任せれば、ミウたんはどんどん
車両の後方に流されて行く
(うえに…ひへない……)
この時点でミウたんは冷たい水流で急激に体温を奪われ身体の自由が失われつつあった
"ひんじゃう… ひんじゃう… はむい…ふめたい… ようはいはん… はなひがひがうー!"
水流に揉まれながら不明瞭な叫びを上げるミウたん
その動きは徐々に速度を増し、遂に崩れた土砂の壁に激突した
実は土砂の壁には至る所に隙間があり、そこから後方へ水が流されていたのだ
その脆い土砂の壁は、ミウたんの体当たりを受けて、遂に崩壊した 濁流に呑まれ、
一気にトンネル内を滑って行くミウたん 200メートル先の排水口付近でレ
スキュー隊員によって発見された時は、既に心肺停止の状態であった…



2日後、ミウたんは病院のベッドで目を覚ました
冷水による、急激な体温低下が効を奏し、ミウたんの脳には多分、重篤な障害が
残らなかった ミウたんはベッドの上で目を瞑り、あの時の事を思い出す
自らを「塵」と名乗ったあの妖怪… あれは塵塚怪王と言う悪の妖怪だったのだ
あの時、気付くべきだった 打ち捨てられた塵屑に魂が宿り、人間に悪さをする妖怪…
恐らく、あの暗い地下鉄のトンネルに吹き寄せられた物言わぬ塵達の、寂しさや憎しみが、
妖かしを産み出したのであろう
(神なんて存在しませんよ…)
ミウたんの心の中に、あの妖怪が発したその台詞がいつまでも木霊していた…



後日、ミウたんは車両に取り残され、瀕死の状態で発見されたエマに対する
保護責任者遺棄で検察に起訴されるが、それは又、別の物語である…
158名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/14(火) 18:23:05.53 ID:uMzvbdBg
>>1

   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ミ
  /   ,――――-ミ
 /  /  /   \ |
 |  /   ,(・) (・) |
  (6       つ  |
  |      ___  |   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  |      /__/ /  < お昼には帰還!
/|         /\   \__________


       /\___/ヽ  
      /:::::::       \ 
     .|:::.   ''''''   ''''''  |  
      |::::.,(●),   、(●)| 
     .|::::::: ノ ,,ノ(、_, )ヽ、,, | 
      \:::::.ヽ`-=ニ=- ' /
     /   `一`ニニ´-,ー´  
     /  | |   / | 
    /   | |  / | |  
    /   l | /  | |  
__/    | ⊥_ーー | ⊥_ ________
   |  `ーヽl_l_l.} ヽl_l_l.}              \   
  (、`ーー、ィ   } ̄`   ノ               \      
    `ー、、___/`"''−‐"       @        \
                     I D         \
159名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/16(木) 15:22:16.72 ID:Og6kIbeO
荒らすなよ。。

僕の楽しみの一つなんだから T-T
160名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/16(木) 20:14:42.42 ID:OfScKNLP
僕はふあんです
続きを楽しみにしてます
161名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/17(金) 18:08:56.87 ID:wv1SyaDL
荒らすなよ。。。
162名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/17(金) 23:05:08.21 ID:xSZIdvCP
赤い蝋燭を小さな炎が溶かしていく 部屋に満ちる石榴の香り…
″解体しますね……″
その淡い光を反射して鈍く光る鋏が、エマの数少ない想い出を静かに裂いていく
暗いフローリング散らばる写真だった物…
蝋燭の明かりは良い 今のエマには、ノートPCのバックライトですら眩し過ぎるのだ…

″えっ!?……け、警戒体制を取ります……″
突然の告白に頬を染めて俯くエマ 生まれてこの方、男性とまともに会話した事すら
無い免疫不足の彼女は、淑女の様に喜びを表す素直さも、小悪魔の様にはぐらかす余裕も
無かった 悲しいかな、自分に愛を打ち明ける目の前の男に無意識に警戒してしまう
大きな胸と白い肌、通った鼻筋に切れ長な瞳、細い身体と小さな頭…
特に取り柄の無い冴えない自分に、一体何の目的が有って近付くのか?
″お、お金なら…ありませんよ…!″
そんな予防線を張って男の様子を伺うエマ 男は心底可笑しそうに腹を抱えて笑った
男はエマを可愛いと言う エマの事をもっと知りたいと言う
長い沈黙の後、エマは男とまずはお友達になる事を了承した

目張りをした車内を照らす青い蝋燭 ネモフィラの甘い香りをたゆとわせ、
今、一際眩しい最期の灯火をたぎらす その姿に自分を重ねるエマは、
床の練炭に火を灯すと大量の睡眠薬を掌に乗せる
″ちょっとすみません… ここは駐車禁止なんですよ″
蛍光色の外套に身を包んだ翁が車の窓を叩く エマは小さく舌打ちをすると、
アクセルを踏んでその場を立ち去った

ガラスケースの中で白い蝋燭の炎が揺れる 鈴蘭の香りが支配する寝室のベッドの中で、
エマは男と一つになった
エマは幼い頃を思い出していた 鈴蘭の咲く庭先で、父と母に白いブランコを押して
貰った懐かしい想い出…
いつか自分もあの日の母の様に、我が子の乗るブランコを… あの日の父の様な
大きな男の手に髪を撫でられて、エマはそのまま夢の世界へと旅立った…
163名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/17(金) 23:07:29.84 ID:xSZIdvCP
緑の蝋燭はミントの香り この香りに包まれてのバスタイムがエマのお気に入りだった
今、そのバスタブに突き出した白い手首にカミソリの刃を当てる
赤い一筋が小さな滴を産み落とし、バスタブの底に虚ろな花を咲かせる
「ピピピピピピピ、ピピピピピピピ」
″!!″
不意に鳴り響く携帯の着信音 無視しようとするが意識を削がれる
今生の別れとばかりに、何年か振りの同級生と会話を楽しんだ…

"えっ 私? 房総の出身ですよ"
その答えを聞いた時の男の表情に、エマは小首を傾げた
二人の間を檸檬の香りが流れる いつもとは明らかに違う男の態度
今までエマに見せた事の無い苛つきや落ち着きの無さ
エマは何か気分を損なわしたかと男に謝罪した
だが、男は逆にエマに謝罪した エマに罪は無いと… 悪いのは埼玉出身の自分だと…
黄色い蝋燭の炎が一瞬、瞬いた

紫色の蝋燭が足元を照らす ラベンダーの香りは屋上を吹く風に散らされる
エマは柵を乗り越え下界を見下ろす 空を飛べる様な錯覚がエマの背中を押す
ふと向かいのビルの屋上に動く影… 一瞬エマと目のあったのは中年の男
彼は微かに微笑んだかと思うと、そのまま中空に身を投げ出した
男は空を飛ぶ事なく、気味の悪い衝撃音を響かせて血肉の塊になった
機先を制され、タイミングを逸したエマはため息を残して建屋の中に消えて行った

なんとか両親は説得して見せる… 台詞とは裏腹に、携帯の向こうの男の声は弱々しかった
私が千葉人で貴方が埼玉人… それの一体何が問題なのか?
エマはどうしても理解出来なかった どうして君は千葉人なんだ…
ただ、その男の呟きが全ての終わりを告げている事だけはエマにも理解出来たのだった
橙色の蝋燭が放つ金木犀の香りも、今のエマの心には届かなかった…
164名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/17(金) 23:12:48.11 ID:xSZIdvCP
最後に一本残った桃色の蝋燭 エマの大好きな桜の香り 今はただ、冬の寒さにじっと
幹を閉ざして来るべき春を待つ その太い枝の一つにロープをかけて首を通す
願わくば満開の桜の下で… 儚い夢想が頭を過るが、直ぐに自嘲した
美しい桜の花の下に垂れ下がる塵の様な自分の亡骸…
不粋だ 桜の花は若さと命の象徴だ 桜の花の下には愛と未来を語らう若人が相応しい…
脚立代わりのプラバケツを足蹴にして、エマは宙に舞う
直後、バキリッと乾いた音が響いて、エマは仰向けに地面に叩き突けられた
折れた桜の枝越しに今にも粉雪が舞いそうな、暗い曇り空が見えた…

地下鉄の窓、漆黒の闇を背景に浮かび上がる自分の顔をエマはじっと見詰める
惨めで滑稽な道化師… ただ流れる旋律に乗せて、誰の目にも留まらぬダンスを踊り
続ける… 眼鏡の奥の瞳が哀れみの視線を向けてくる
唐突に訪れた衝撃 全てが暗転して、気が付くと一人、闇の中に居た
足元を浸す冷たい水の感触 それが徐々に登りくるのを感じた時、エマは自身に課せられた
運命の真意を理解した 愚かな道化師は、自らの終演の時すら思いのままには成らないのだ
だが、それでいい… エマはもう何も考え無かった
突如、静寂を切り裂く喚き声 神に救いを求め、次いで罵倒する
"神なんて存在しませんよ…"
エマは静かに諌めるが、声の主は訳の分からぬ譫言を繰り返す 今一度、一人になりたい
エマは適当に受け答えをすると、再び訪れた静寂の中に意識を溶かして行った……

本当に欲しかったのは、スワロフスキーの首飾り… だけど、どうしても
それに指を伸ばせない… もし伸ばせば… 彼の好きなエマではなくなってしまうかも…
エマはちょっぴり不思議で、いつも自然で、自分の世界を持った女の子…
それが彼の好きな女の子… 誕生日のプレゼントのリクエスト
エマの指先は、その後ろのアロマキャンドルを指差した…

確かに桜の花の香りがしたと思う だが、目を覚ました病室は未だに長い冬の帳の中…
春になったらもう一度、桜を見に行こう… エマは窓の外に広がる、灰色の空を見詰めていた

その日の午後、同じ病棟に入院していたミウたんは、夕食のきりたんぽを喉に詰まらせ、
その短い人生に終止符を打った
享年18歳 遺骨は町内会長の意思により、南シナ海に散骨された
165名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/18(土) 06:43:53.22 ID:j9l5Tkso
ま、まさかの最終回っすか? TT
166名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/18(土) 07:21:17.78 ID:4Po0gp1u
駄文に付き合ってくれたかた有難うございましたいよいよ次回で最終回です
途中何度も辞めようと思いましたが、ファンの方の為に頑張りました
最後は最高の出来になるので楽しみにしててください
167名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/19(日) 17:20:33.73 ID:GaheUNXk
保守
168名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/20(月) 16:19:27.42 ID:rqKesp8o
次回で終わりなんかい?
かなり面白く読めるから、出来れば続けておくれよ

ネタはスナイパイに拘らなくていいからさ
169名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/20(月) 19:50:47.87 ID:xxUYvADO
珍満祭… 東北の裏の方の一角で旧正月に行われる伝統祭事 五穀豊穣と子孫繁栄を祈願し、
白装束に身を包んだ男女が、神社の境内で夜通し押し競饅頭をするという日本七大奇祭の
一つである
そもそもは、奥州藤原氏の時代、領民が普請に対する褒美として
与えられた白餅を奪いあった事に由来するという…
(民明書房刊「みちのくの祭と因習〜神話世界のスキャンダル〜」より)

"ネ、ネズミさん……"
薄暗い納屋の中、麗羅は布団叩きの柄を握り直すと、ゆっくりと段ボール箱が重なる
奥の一角に歩を進ませた
麗羅の家に不法侵入者の痕跡が発見されたのは3日前… 朝起きると台所の床に泥の足跡
茶箪笥の引戸に隙間が有り、更に冷蔵庫の取っ手にも泥の手形を発見する
幸いこの時は食物が保管されていなかった為、実害は無かった
ただ、不衛生な何者かに台所を漁られた不快感は麗羅と義理の母姉達を戦慄させるに
十分だった 次の日には被害が二階にまで及ぶ 音模姉さんの部屋に侵入した何者かは、
タンスやクローゼットを蹂躙する 泥まみれの床一面に散らばる洋服や熊のヌイグルミ…
食べ掛けだったのじゃがりこの空容器… 帰宅した音模姉さんの耳を劈く悲鳴
そして麗羅は不法侵入者の発見、駆除を命じられたのだ
雪に埋もれた庭に家族以外の足跡が無い事から犯人が屋内に潜伏していると確信した麗羅
家族と顔を合わせず潜伏出来る場所は、台所に隣接する納屋しかない
状況から見て、犯人はかなり大きなネズミだ 反撃を受けるかも知れない
麗羅は緊張から思わず内股になる両足を何とか引き摺って、段ボール箱を布団叩きで
突っついていく…
「ガタッ」
一番奥の一箱を突っついた時、遂に何者かが反応した
"ひゃあ! お化け!?"
自分で突いた事も忘れて、思わず飛び退る麗羅 放り投げた布団叩きを拾い上げ、
構え直すと、今一度納屋の最深部に目を凝らす 二つの瞳と目が会った
"麗羅、やるのです!"
渾身の跳躍から繰り出される布団叩きの一撃が、段ボール箱を薙ぐ
"ごめんにゃにゃい……"
"!?"
弾かれた段ボール箱の陰から姿を表したのは薄汚れ、痩せこけた野良プリシラだった
170名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/20(月) 19:54:35.73 ID:xxUYvADO
"麗羅ちゃん… ネズミは見つかったのかしら…?"
麗羅が手渡すお茶碗を受け取りながら宛子が尋ねる
"はい、お姉さま… ネズミさんにはお引き取り頂いたのです…"
"何で殺さないのよ! ホント使え無いわね〜!"
真理亜は箸でロールキャベツ突き刺しながら悪態をつく
"やめてよ… ネズミの血が飛び散ったりしたら気持ち悪いじゃない…
べ、別にネズミを庇ってる訳じゃないんだからね! 勘違いしないでよね!"
長女の李里江は独り善りに頬を染めて、味噌汁を掻き込んだ
"失礼しちゃうわよね……"
最大の被害者である音模はボソリと呟くと、苦手なほうれん草を真理亜の皿に
こっそり移した

慌ただしい夕食の片付けも麗羅の仕事である 姉達はリビングで思い思いに寛ぐ
その様を横目で確認した麗羅は、鍋の底に残して置いたロールキャベツをタッパーに
詰める 塵を出す振りをして納屋に入った麗羅は段ボール箱の陰に声を掛ける
"野良プリシラさん、遅くなってごめんなさい… 麗羅自慢のロールキャベツを
召し上がれ…"
その声に反応して、段ボール箱の陰から野良プリシラが姿を見せた
"ぴぴるれにゃん… ぴぴるれにゃん…"
お礼を言う様に二度鳴くと野良プリシラはロールキャベツを貪った
余程お腹が空いていたのだろう 瞬く間にタッパーは空になり、汁の一滴も
残らないまで舐め回した

野良プリシラ… 日本に生息する四大野良幼女の一種
生息数はラムネ種に次ぎ、比較的目に付きやすい
性格は臆病で用心深い また他の野良幼女と比べると知能レベルは高く、
個体によっては人間との簡単な意思の疎通も可能である
魔女帽子とそこから伸びるおさげ髪が特徴 にゃんにゃんと猫に似た鳴き声を上げる

麗羅はその特徴的な魔女帽子越しに野良プリシラの頭を撫でると
昼間の内に用意していた毛布をその背中に掛けてあげた
"……あ…ありがとーにゃん……"
どうやら知能の高い個体の様だ 空腹も満たされ、麗羅に心を開いたのか、
辿々しいながらも明瞭な声で改めて麗羅に感謝の意を示した
171名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/20(月) 19:58:26.66 ID:xxUYvADO
麗羅は納屋の隅で、飢えと寒さに震え、恐怖と絶望の視線を向ける彼女を厳冬の
外界に追い立てる事が出来なかった
そして姉達は決して彼女の存在を受け入れない事も理解していた
その日から麗羅はこの新しい家族を納屋に匿う事にしたのだ 毎日少し多目に作るご飯を
納屋に運び、少しでも快適に暮らせる様にと、毛布やこけしを与えた
そして姉達が外出して留守な時は、彼女を部屋に上げて、お風呂に入れたり、
着衣を洗濯したり、一緒に遊んであげるのだった
"プリシラさん、今日は麗羅とトランプしましょう"
"ぴぴるれにゃん!"
いつしか麗羅はこのプリシラとの秘密の生活が何よりも楽しみになっていた

"やっぱり李里江姉さんが一番似合うわね…"
"や、やめてよ宛子〜 別にこの日の為に隣町までジム通いしてた訳じゃないんだからね!
勘違いしないでよね!"
白装束に身を包んだ姉達は朝からご機嫌だった
珍満祭… 麗羅の住むこの地で古くから伝わる伝統行事 普段は厚い雪と迫る山嶺に
押し潰されたかの様に閉鎖的で息苦しい田舎町が、旧正月のその日は日頃の鬱憤を
晴らすかの様に活気付く
若い男女が白装束で夜通し押しくら饅頭をするという日本七大奇祭の一つ
この祭は田舎の純朴な男女に出会いの場を与えるという側面もあるのだ
年頃の姉達が色めき立つのも無理はない
だが、そんな田舎町の一大イベントも麗羅には関係の無い事だ 何時もと同じ様に
家事をこなしていく 麗羅は祭りに参加する事は許されないのだ
楽しそうに声を弾ませながら家を後にする姉達
何時もはちょっぴり目頭が熱くなるその瞬間だが、今年は違う
今日は姉達も帰って来ない プリシラと二人でずっと居られるのだ
一緒にご飯を食べて、一緒にお風呂に入って、一緒にデザートを食べながらゲームをして
そして眠くなったら一緒にベッドに入って眠んこしよう
麗羅は何時にも増して手際よく家事を済ませると、
納屋で首を長くして待っていたプリシラを招き入れた
172名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/20(月) 20:02:46.36 ID:xxUYvADO
"ストックタイムです! 右です! 左です! 中です!"
"ぴぴるれにゃん! フルハウスにゃん!"
"麗羅の負けです〜"
暖かいリビングでトランプに興じる麗羅とプリシラ
「グゥ〜〜」
"にゃにゃん…?"
プリシラのお腹の虫が鳴く
"そろそろ晩御飯にしましょう! 今夜はプロヴァンス風お芋の煮っ転がしですよ!"
何時にも増して腕を振るってご馳走で、プリシラをもてなす麗羅 鼻歌を奏でながら
上機嫌でお皿に盛付ける その背中をプリシラは物憂げな表情で見詰める
"……麗羅にゃんは……お祭り…行かないにゃん……?"
湯気が立つ煮っ転がしのお皿をお盆に乗せて麗羅がやってくる
"麗羅、お祭り何て興味ありません… プリシラさんと一緒のが楽しいのです"
納屋に潜んで居れば、家族の会話も聞こえるのだろう
賢いこのプリシラはお祭りを理解出来るのかも知れない
"麗羅の自信作ですよ! さぁ召し上がれ!"
こんな美味しいご飯は、東京でミウお姉さまにご馳走して頂いたハンバーグステーキ
以来だ 麗羅の頬が思わず綻ぶ 麗羅は姉達が決して嫌いな訳ではない
少なくとも自分にはそう言い聞かせている
だが、プリシラと囲む夕食は普段食べるどんなご馳走より美味しかった

"実は麗羅、プリシラさんにプレゼントがあります!"
夕食後のリラックスタイム 麗羅は自分の部屋から小さな包みを持ってきた
"気に入って貰えたら、麗羅感激です!"
包みを解くと中からカボチャのアップリケが姿を現した
麗羅は其を安全ピンでプリシラの魔女帽子にくっ付ける
"麗羅の手作りです! 二人の友情の証ですよ!"
"ぴ… ぴ… ぴ… ぴぴるれにゃん!"
どうやらプリシラはとても気に入ってくれた様だ
アップリケを何度も手で撫でながらクルクルその場で踊っている
"実は… プリシラも麗羅にゃんに… プレゼントがあるにゃん…"
そう言うと納屋に駆け込むプリシラ
程無く胸元に何かを抱えたプリシラが帰ってくる
"プリシラ… よく分からないにゃん… でも頑張って… 作ったにゃん…"
"!!"
麗羅は思わず両手で口を覆った 麗羅が与えたタオルケットや毛布を裂いて、
不器用に組みあげれた其れは、不恰好ではあるが紛う事なき……
"白…装…束……!"
"麗羅にゃん! 珍満祭に行くのにゃん!
173名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/20(月) 20:05:52.52 ID:xxUYvADO
"どんな時も〜 貴方が側にいて〜 信じてるの〜 ガボチャの馬車で〜"
麗羅は暗い雪道疾走していた 遥か先に篝火で浮かび上がる神社
麗羅の大好きな歌 辛い時、悲しい時、何時も心で口ずさみ自分を励ましていたその歌を、
今は嬉しい気持ちを堪え切れず大声で歌いながら…
麗羅はプリシラを抱き締めてお礼を言うと、珍満祭に参ずる為、家を後にした
別に祭りに参加したかった訳ではない ただ嬉しかったのだ
友達の心が… プリシラが苦労して作った白装束をどうして無碍に出来ようか…

麗羅が珍満祭の会場である神社の境内にたどり着いた時、祭りは最高潮に達していた
篝火に照らされ、掛け声と共に数百人の男女が押しくら饅頭に興ずる
激しいスキンシップに劣情した者達は物陰でプライベート押しくらに走る
麗羅は初めて見る珍満祭の熱気に気を呑まれていた
"!?"
そんな麗羅の手を何者かが引く 見れば年の頃、麗羅に近い少年
はにかみながら麗羅に語り掛けた
"き、君もこの祭り初めて? 僕もなんだ… 良かったら一緒に参加しない…?"
真面目そうだが中々のイケメン 麗羅は頬を染めながら小さく頷いた

初々しい二人の初珍満祭は極めて道徳的にお行儀良く進行した
それでも麗羅は束の間の幻想に辛い日常を忘れ、心の底から祭を楽しんだ
"もう、行かないといけません…"
東の空が白む頃、名残惜しそうに少年に別れを告げる麗羅
"待って… 僕、君の事が…!"
少年は麗羅の抱き寄せる
"駄目です! 麗羅の事は忘れて下さい!"
麗羅は少年の手を解くと山門の先の階段を下りて行った
これでいいのだ 今日からまた何時もの麗羅だ 灰被りに色恋沙汰など不要なのだ
一夜限りのアバンチュールに終止符を打ち、階段をかけ下りる麗羅の目から雫が流れた

お姉さま達に気付かれないうちにベッドに潜り込まなくては…
息急き切って玄関に滑り込む麗羅 途中、台所から納屋に向かって小声で語り掛けた
"プリシラさん、今日はとっても楽しかったです プリシラさんのお陰です ありがとう"
既に寝入っているのかせ返事はない だが、麗羅は納屋に向かって今一度、
深いお辞儀をしてから自分の寝室に姿を消した
174名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/20(月) 20:09:09.63 ID:xxUYvADO
"嫌ぁ〜 みんな起きて〜!"
真理亜姉さんの絶叫に寝入ったばかりの麗羅は叩き起こされた 他の姉達も声のする
リビングに下りて行くのが分かる 麗羅も眠い目を擦りながら階段を下りて行った
"……やられたわね……"
"ちょっと麗羅〜 アンタ何にも気付かなかったの!?"
麗羅は目を見開いたまま固まっていた 一家の憩いの場リビング 昨日まで其処に
あった筈のテレビ、パソコン、DVDレコーダー…
その他、諸々、綺麗さっぱり無くなっているではないか!
"……泥棒ね……"
ガランとした空間に立ち尽くす四人の姉 その視線が麗羅に注がれる
"!?"
その時になって漸く麗羅の脳裏におぞましい想像が過った
(プ、プリシラさん、まさか泥棒さんと鉢合わせして…!)
可能性は限り無く高い 冷静に考えれば幼女一人で留守番など危険極まりない
"ちょっと、何処行くのよ!"
麗羅は台所の先の納屋に飛び込んだ どうか寝ていて!
だが、麗羅の願いも空しく、納屋はもぬけの空だった
"あぁ……"
その場にへたり込む麗羅 自分のせいだ やはり自分は祭りに行くべきではなかったのだ
自分の刹那の楽しみの為に、友達を危険な目に…
「ピンポ〜ン ピンポ〜ン」
その時、玄関の呼鈴が鳴った 宛子姉さんが返事をして玄関に向かう
"早くからすみません、警察です"

事件は急転直下解決した 早朝、珍満祭の警備上がりの警官が
リアカーに家電を積んで路肩を進む怪しい人影を発見
職務質問しようとした所、逃走を図った為、公務執行妨害で逮捕
尋問からリアカーの家電を麗羅の家から盗んだ事を自白
犯人はガボチャのアップリケの付いた魔女帽子のプリシラだった……

"このプリシラに面識はありませんか?"
手錠を嵌められたプリシラを前に、警官が面通しをする
互いに首を振り合う姉達の目が、自ずとに麗羅に集中する
"…………れ、麗羅知りません! 泥棒のプリシラさんなんて知りません!"
麗羅は裏切られた怒りから、プイと顔を背ける
そんな麗羅をプリシラは手錠の嵌まった手で指差す
"麗羅……マイ……フレンド……"
"!!!!!"
凍りつく空気……
"麗羅……マイ……フレンド……"
姉達の怒りに震える視線が麗羅の細い身体を滅多刺しにしていた……
175名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/21(火) 15:27:42.04 ID:bgQrkRbW
お、継続してくれる?! 楽しみが消えなかった!!^^

ありがとう。
176名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/22(水) 00:44:07.87 ID:rzyD+80u
ミウたんはその夜、不思議な夢を見た ミウたんは何故か宇宙飛行士で、
人類初の月面探索のミッションに挑んでいた 静寂で神秘的な月面を行くミウたん
ふと、パウダーサンドが積もる視線の先に、二本の轍が現れた
誰も居ない筈の月面に… ミウたんは地球の基地の承諾得て、
轍の先を追う 程無くして轍は小さなクレーターの縁で途絶えた
ミウたんはクレーターの中を覗き込む 擂り鉢型のクレーターの底に、
ミウたんが乗って来たのと同じ探索車が停まっている
ミウたんはクレーターの縁を慎重に降りて行く
探索車に近づくと、中からミウたんと同じ宇宙服を着た何者かが降りて来た
改めて基地に接触の許可を取ると、ミウたんは恐る恐る彼の元に近づく…
"我々は… 君達が… 此処に来るのを… もうずっと… 何千年も… 何万年も…
待っていたのだよ…"
突如、ミウたんの頭の中に声が響いた… そこで目が覚めた

"暇だなぁ〜"
カウンターで堂々と、賄い代わりのフライドポテトを頬張りながら
ミウたんは独り言ちる ミウたんのバイト先のファーストフード店は、
お世辞にも人気の有る店とは言えない 基本、お昼と夕方以外は客も疎ら
雇われの身、暇に越した事は無いとは言え、時間を潰すのも楽ではない
ミウたんは今朝見た夢を思い出した
(宇宙飛行士かぁ…)
自分の前世はもしかして宇宙飛行士だったのかも…
空想の世界に想いを馳せるミウたん 低知能のミウたんにとって、
自分の生まれる前の出来事は全て前世の対象なのである
"い、いらっしゃいませ〜!"
二時間ぶりの来客に、慌てポテトを飲み込むミウた オーダーされた金平鮪バーガー
30個の調理に忙殺され、夢の事など、直ぐに記憶の中から消えていったのだった

そんなミウたんの元に先輩から新年の挨拶を兼ねた儲け話が舞い込んだのは、
丁度バイトのシフトも休みになった水曜日の事だった
同じ中学校の出身で、東京での唯一と言って良い知り合い
大手遊技機器メーカーで颯爽と巨大プロジェクトを熟す先輩は、
ミウたんにとって憧れの存在でもある
177名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/22(水) 00:48:01.57 ID:rzyD+80u
一度、先輩の紹介で同じ遊技機器メーカーの面接を受けた縁もあり、
貧困のミウたんに、ちょくちょく実入りの良いバイトを紹介してくれるのだ
今回は先輩が企画した某アトラクション用PV撮影の話だった
実は前回も同じ企画の話を頂いていたが、パンツを見せるという内容に抵抗を感じて
断っていた 今回はパンツを見せる必要は無く、バイクで疾走する主人公役の
先輩に見つかって、やられるだけの簡単なお仕事だった
たったそれだけで日当三万円 断る理由は無かった

"ここかな〜?"
手紙に同封された地図に指定された撮影場所 そこは郊外に
ひっそりと寂れた姿を晒す、閉鎖された小さな遊園地の跡地だった
(こんな所に遊園地があったんだ…)
ミウたんは錆付いた柵門の片側をゆっくりと押し開く
掠れた金属音が静寂の中に響く 園内は外見以上に荒廃が進んでいた
コーヒーカップの色は褪せ、メリーゴーランドの白馬は錆の涙を流す
今は動かぬ観覧車が長い影を落とすカートコースでは、至る所で生い茂る雑草が
枯れた亡骸を晒していた 曾ては喧騒に包まれていたであろう面影が、より一層寂寥感を
醸し出していた 外気の寒さが一段と身に染みる気がして、ミウたんは思わず身震いした
それでもアトラクションのPV撮影なら適した場所なのかも知れない
ミウたんは気合いを入れ直すとスタッフを探して奥へと進んで行った
ジェットコースターのレールに群れるカラスの一団がミウたんの気配を察して、
一斉に飛び立った
(誰も居ない……)
先程から全く人の気配がしない それは廃園なのだから当然だ
ただ、最近人が立ち入った痕跡すら無いのだ 不安になったミウたんは
連絡を取るべく、スマホを起こすが生憎圏外だった
(一度電波の拾える所まで戻ろう…)
踵を返し、目印の観覧車目掛けて小走りに駆けて行く
"須内さん…? 須内ミウさんですか…? "
"!!"
空中ブランコの脇を過ぎた時、不意に背後から声を掛けられた
178名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/22(水) 00:51:01.65 ID:rzyD+80u
見ればミウたんより幾らか年上に見える綺麗な女性が立っていた
"お待ちしておりました… さぁ どうぞ此方へ… 皆さんもお待ちかねですよ…"
そう言うと、背後に聳える洋館に手の先を向けた
"お化け…屋敷…?"
最早案内も無いが、恐らくはそんな施設だったのであろう
"申し遅れました… 私、相沢アカネと申します…"
笑顔で語り掛けるアカネ だが、ミウたんは何故か彼女の表情に暗い影が
あるのを感じた アカネの案内に従い洋館の扉を潜る
"さぁ 此方へ 細やかながら一席設けさせて頂きました"
"!?… 一席? いや、あの… 私、PVの撮影に呼ばれた…"
"存じて居りますよ… でも、お疲れでしょう… 先ずはお寛ぎに…"
状況が飲み込めず目をしば叩かせるミウたん
幾ら先輩の紹介とは言え、何でこんなVIP待遇なのか?
これはひょっとして… 土壇場でパンツ見せろ的な…!?
ミウたんの嫌な予感は、案内されたパーティールームで確信へと変わる
「パン! パン! パパン!」
鳴り響くクラッカー 瀟酒な部屋の中央に鎮座する巨大なテーブルには
テレビでしか見た事が無い様な豪華料理が、所狭しと並べられている
""ミウさん、ようこそ燦憊館へ!!""
そのテーブルを囲む十数人の男女が、凛とした声でミウたんを歓迎する
PVの出演者だろうか、皆、きちんと正装した美男美女ばかり
これはパンツ所の騒ぎじゃないな… 下手したら全裸だな…
周りのハイテンションとは対照的に、額に黒線を走らすミウたん
流石に三万で全裸は… パンツまでなら五万でもいいけど…
どの様な状況下でも、下衆い算盤勘定は忘れないミウたんに
アカネは真紅の漣を湛えるワイングラスを進める
"ウェルカム・ドリンクです… 一杯位良いでしょ…?"
そう言うと、お茶目にウインクして見せる
"あ、あの… 私… おっぱいは見せられません… ごめんなさい!"
こういう事はキッパリと断った方が良い 安い女に見られてたまるか!
ミウたんは言うべき時は言う女なのだ!
静まり返る室内… 此で悪態をつかれるなら直ぐに帰ろう
だが、室内に木霊したのは悪態ではなく、爆笑の渦だった
"ふふ… ミウさんって面白いのね…"
アカネにワイングラスを渡されたミウたんの顔が紅潮する
勘違いなのか…? このもて成しに裏が無いと言うのか…?
"それでは、ミウさんの燦憊会への入会を祝して…… 乾杯!"
""カンパ〜イ!""
179名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/22(水) 00:55:05.61 ID:rzyD+80u
"な〜〜んだぁ しょ〜なら はやくゆっ…てくららいよ〜"
茹で蛸の様に真っ赤に顔を染めたミウたんがアカネに絡む
次々に酒を注がれ、既に呂律は回らない エンターテイナーを目指す若者達の集い
「燦憊会」 今回、PVながら映像作品初出演のミウたんは、そんな若者達の
仲間に認められ、純粋な歓迎を受けたのだった
"でもいきなり、おっぱいは見せられませんって…面白過ぎますわ…"
"んも〜う わしゅれてくららいよ〜 アカネしゃんの〜おぱい…みちゃうよ〜!"
ベロベロのミウたんはアカネを胸元に顔を埋める
"はれ〜 しょ〜いえば… ぴーぶいの…しゃつえい… まだかな〜?"
"ふふ… まだまだですよ… さぁ もっと飲みましょう…"
"じぇも〜 おしょとくりゃいよ〜 ヒック わしゅれてるのきゃな〜 ヒック ちょと…
きぃちぇきゅるね〜 ヒック"
吃逆を繰り返し、酩酊状態のミウたんは立ち上がる
"まだまだ… まだまだ… 先ですよ… ずっと… ずっと… 楽しく語らいましょう"
アカネはそんなミウたんの手を引くと、再びソファーに座らせようとする
"ん〜 じぇも… ちょと… おちっこ〜"
"ふふ… 扉を出て… 左の突き当たりですよ… ミウさん… 真っ直ぐ帰ってらっしゃってね…
決して寄り道してはなりませんよ…"
"ふぁ〜〜い アカネしぇんしぇ〜〜!"
千鳥足で部屋を出て行くミウたんは、その時、アカネの表情に笑みが消えた事も、
扉を閉める直前に酒盛りの喧騒が掻き消えた事にも、気付く事はなかった

水の流れる音がして、個室からミウたんが出てきた
"あ〜ちみのきょとが〜しゅき〜じゃよ〜"
何時になくご機嫌なミウたんは、調子外れなアカペラを歌いながら
手を洗うと、スカートの裾で拭き拭きしてトイレを後にする
"ありぇ〜 どっちから〜きたんだけ?"
泥酔状態のミウたんはお約束通り迷子になる
"りゃぶん… こちかにゃ?"
そして、当然見当違いの方向へ進んで行く
仄暗い間接照明が赤い絨毯をぼんやり照らす通路をとぼとぼ進む
"ん〜 こんにゃに〜 ありゅいたかにゃ〜?"
少しだけ不安になったミウたんの視線の先に、人影が浮かび上がったのはその時だった
"あにょ〜 しゅいましぇん… アカネしゃんは… にゃんとかかいは…"
迷子の予感のミウたんは、通りかかった人影に語り掛けた
"早く帰りなよ… ここはまだ… お姉ちゃんの来る所じゃないよ…"
180名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/22(水) 00:59:21.16 ID:rzyD+80u
"ふぇ?"
予想を覆す無愛想な返答にちょっぴり正気に戻ったミウたん
頭を振って目を凝らせば、其処には年の頃12、3歳位の少年が立っていた
"はは〜 しょうねん… しゃては… あたちのおぱいが… みちゃいのかな〜"
酔っ払いの思考は常人の及ばざる所ではあるが、少年は特に反応もせず壁を指差す
"ここから帰れるよ… もう、手遅れかもしれないけど…"
釣られる様にその指先を視線で追うと、何時の間にか其処には扉が現れていた
"ふふ〜ん しょうねん… いいこでちゅね〜 ごほうびに〜 いいもにょを〜"
何をする気か、パンツをずり下げながら振り返った時、既に少年は消えていた
"ありゃ… じゅんしゅいでちゅね〜"
よく分からない解釈で満足気なミウたんは扉を開け中に入る
"おまちゃちぇ〜……… ありゃりゃ? おもちぇに… でちゃちゃ…?"
其処は何故か屋外だった てっきりパーティー会場に戻れると思ったミウたんは困惑する
無意識に振り向くと其処には扉も、出てきた筈の洋館も無い 昼間散策した遊園地の一角
今は真っ暗な其処にミウたんは立っていた
"???"
状況が飲めないミウたんは暫く硬直した後、周囲を見渡しながら歩き出した
(飲み過ぎた……かな……)
外気の冷たさと、不可思議な状況に徐々にミウたんの酔いが覚める
"!?"
ふと、行く手の傍らに踞る人影… 近付いて見れば髪の長い少女だった
"ど、どうしたの? もしかして…迷子かな〜 実はあたしもなんだ…"
ミウたんは縋る思いで話し掛けた とりあえず洋館に戻らねば…
"……私… まだ… 働ける…… きっと… また… 遊んでくれる……"
"えっ!? なぁに? 具合悪い…の?"
その声に反応して向けられた少女の顔は赤錆にまみれていた
"きゃぁぁぁぁぁぁっ!!"
まるで美少女の様な悲鳴を上げミウたんは駆け出した
"はぁ…はぁ…はぁ…" (何なの今のは… 人間じゃない…)
息を切らせてへたり込む 酔いは完全に覚めていた
ふと、視線の隅に動く陰… 見れば作業着に身を包んだ中年男性
"あ、あのすみません… 助けて下さい! 洋館に… 燦憊館に行きたいんです!"
"ラビッシュカテゴリー……ノットシリアル……"
181名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/22(水) 01:05:01.73 ID:rzyD+80u
人工音声の様な無機質で抑揚の無い声にミウたんは無意識に恐怖を感じ飛び退る
次の瞬間、男の手に握られたチェーンソーが、つい一秒前までミウたんが屈んでいた
芝生を蹂躙する
"きゃっ!"
男の目が赤く光り、ミウたんを睨む 男の手に握られていると思ったチェーンソー
それは男の右腕そのものだった
"いゃぁぁぁぁぁぁっ!!"
再び全力で疾走するミウたん 前方に見覚えのある空中ブランコが見えてきた
(そうだ、確かあの影に…!)
空中ブランコから洋館の見えた左手を見渡す だが、其処には暗い森が広がるだけだった
(い、一体…… 何が起こったの……?)
ミウたんは混乱する頭と、憔悴しきった心で必死に答えを探した
"!!"
不意に、ミウたんの肩を誰かが優しく叩く 振り向くとアカネが立っていた
"どうされました… さぁ… 宴の続きを致しましょう…"
そう言うアカネの笑顔がボロボロと泥人形の様に崩れていく
"いゃぁっ!! いゃぁぁぁっ!!"
"愚かなお方… あれ程寄り道はいけないと…"
涙を尿を垂れ流し、発狂寸前のミウたんの腰は完全に抜けていた
"でも… 怖がる事は… 無いのですよ… 皆が必ず通る場所… なのですから…"
"!?"
ボロボロに崩れたアカネの顔の下から、またアカネの美しい顔が現れた
女神の様に優しい微笑みが、ミウたんの痙攣を止める
"貴女は… まだ… 早すぎる様ですね…"
アカネはゆっくりと振り返る
"ここは… 役目を終えた… 遊具の墓場なのです… 人に魂を与えられ… 人に喜ばれ…
人と共に生き… そして人に魂を奪われる… 人成らざる物達の墓場…"
"!!"
ミウたんは目を見張った アカネの見詰めるその先には、ガラクタだった筈の遊具達が
光り輝き、楽しげに乱舞する姿があった
"お行きなさい… 貴女にはまだ必要としてくれる人がいるようです…"
アカネは入場口の方を指差す すると七色の電飾で鮮やかに飾り付けられた
玩具の草花が音も無く、魔法の様に生えてきた
恰も、ミウたんを誘う様に… 恰も、在りし日のセレモニーの様に…
182名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/22(水) 01:09:56.65 ID:rzyD+80u
ミウたんはゆっくり立ち上がると、涙と鼻水を袖で拭い、光の絨毯の上を駆けて出す
少し進んだ所で、ミウたんはアカネを振り向いた アカネは何も言わず黙って
ミウたんを見詰めている
"初めて来たけど… この遊園地…… 楽しかったよ……"
そう言うと、再びミウたんは駆け出した ジェットコースターのレールを潜り、
カートコースの脇を抜け、メリーゴーランドに差し掛かった時、
その白馬に独り股がり、光りと輪舞するあの少年と目があった
"良かったね… 間に合いそうだ…"
"貴方は… お馬さんだったのね…"
少年はもうミウたんの声など聞こえないように、楽しそうにいつまでも白馬に
揺られていた…
再び、掠れた金属音を響かせてミウたんは柵門から飛び出した
途端に、背後の喧騒が掻き消える 振り向くと其処はもう漆黒の世界
"!!"
ミウたんは柵門の上に懸かる看板を見て息を飲んだ
「山之中産廃処分場」
昼間には無かったその看板 柵門の向こうの闇に目を凝らせば、何時の間にか、
其処はガラクタの山が幾つも連なる廃材置場になっていた
ミウたんは先日見た、夢のラストシーンを思い出していた
"いつか…… また… 来るね……"
そう呟くと帰宅の途に着いた





"ハイ、カァーーーーーット"
突然の怒号と共にスポットライトの光りがミウたんを包む
"いや〜〜〜 いい演技だったよ〜〜〜"
セーターの袖を結び、マントの様に羽織るチョビ髭の男がメガホンを叩きながら
近付いて来る
"まさか、デモテープでこの出来とは〜 君のお陰できっと明日の本番は、
君の先輩がもっと可愛くセクシーに演じてくれる筈だよ! ハイ、謝礼ね!
少し弾んといたよ! じゃあ! お疲れ! 撤収!"
マシンガンの様に一方的に話しを進めると、唖然とするミウたんを独り残し、
撮影隊は闇の中へ消えて行った…

この直後、ミウたんは不良グループに襲われ、心がガラクタになってしまうが、
それはまた、別の物語である
183名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/22(水) 16:57:29.50 ID:Nx5tBkll
読ましますね〜!
またお手隙の時、新作お願い致します。
184名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/23(木) 15:40:08.85 ID:bOCz9haA
本日は、まどマギにて1500枚負け。
面白いがお店は設定入れてくれない T T

それはさておき都知事選。持ち株にどう反映するのか。。不安だ。。
185名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/24(金) 22:56:04.98 ID:rSRd3Hhs
現代社会は資格社会とも言える あらゆる職業には資格があり、資格を持たざる
者は職を求める事も許されない 経験は有資格者にのみ積み上げる事が許され、
その差がスキルの差ととなり、人間としての評価の差になる
現代社会では、ただ人間として生きるのにも資格が求められるのである…

ミウたんは、空缶ポストにねじ込まれた一枚のチラシを食い入る様に見詰めていた
ユーキャンの通信講座… 今日、我が国で最もポピュラーな資格取得のへの近道、
それが通信講座だ こけしアーティストとしての夢を驀進するミウたんだが、
最近その創作に行き詰まりと頭打ちを感じていた 1つは資金的な限界…
底辺アルバイターとして、常に付きまとう貧困 もう1つは閉ざされた自分の
生活環境による表現のマンネリ化だ 僅かな金銭に右往左往し、日々の糊口を凌ぐ為に
バイトとミウたんハウスを往復する日々では、新しい表現方法を見出だす事は困難だ
安定と刺激が欲しい…
一見、相反するその両方を一度に満たすのが、正規雇用での就職である
ミウたんは一度、先輩の紹介で某一流企業の面接を受けた事がある
その時実感した事は、資格を持たざるは人に有らず、という厳しい世間の実態だった
齢18、新たなステップアップの為、ミウたんは資格を取る事を決意したのだった

『宅建取引主任者』…意味がわからない…
『社会保険労務士』…難しそう…
『中小企業診断士』…中小はちょっと…
"はぁ〜〜"
ミウたんは溜め息をついた 自分がスキルとして求めたい要素は、そんな小難しい
漢字の羅列では無く、もっと可愛い筈の自分の魅力を全面に押し出した、
ファッショナブルでサイケデリックでパッションでエロティカな…
こう… 何と言うか… 譫言の様に、何かをブツブツ呟きながら、チラシを捲るミウたん
"ん!?"
その手がふと止まった
"袋……とじ……?"
その視線の先、チラシの一角は、まさに袋状にミシン目で閉じられていた
「超上級者向け〜初心者の方は開かないで下さい〜」
そんな注意書きは、人一倍探求心の強いミウたんには寧ろ安易な挑発にしか映らない
これまでどれ程の袋とじを開いて来たのだろうか?
円熟の域とも呼べる手際さで、ミウたんはその封印を解いていった
186名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/24(金) 22:59:07.07 ID:rSRd3Hhs
「年収大幅アップ! 未来を見据えた、極秘最新特殊資格集!」
待ってましたとばかりに極彩色で彩られた見開きには幾つかの聞き慣れない
資格が紹介されていた

『魔法少女実務者』… 今や組織の運営に欠かせない存在、魔法少女
本資格は魔法少女としての客観的実力を国家資格として認定する物です
資格取得後、企業や公官庁と契約して魔法少女になります
人気度 ★★★★☆
難易度 ★★★★★

『退魔師管理責任者』… 昨今急増する悪霊犯罪に、需要が急増する退魔業界
その管理責任者にも高い需要が集まっています 各退魔師の武器の製造から
給料の管理まで、この資格で対応出来ます
人気度 ★★★☆☆
難易度 ★★★★☆

『カジノディーラー2級』… お台場カジノ、解禁待った無し!
今、最も注目の集まる新産業 その花形職業に必要なのがこの資格です
ディーラーとしての基礎知識は勿論、スロットマシーンやルーレットの
メンテナンスも行えます
人気度 ★★★★☆
難易度 ★★☆☆☆

『スナイパー・狙撃手国家認定』… 複雑化する人間関係、行き詰まるリストラ…
そんな諸問題解決のスペシャリストが本資格です 国家認定により銃刀法に
抵触せずに任務を遂行出来ます
人気度 ★★☆☆☆
難易度 ★★★★★

今までその存在が謎に包まれていた裏稼業 実はそれらにも普通に資格が
必要だったのだ その事実はミウたんの学習意欲に油を注ぐ事になった
自分も必要とされる1人に成りたい! 代わりの効かない人物に成りたい!
ミウたんは決して安くはない受講料を投じて、特殊資格の獲得を目指す事にした
ミウたんが選んだ資格、それは勿論『カジノディーラー』だった
何と言ってもセクシーで可愛いイメージは自分にピッタリだと思うし、
難易度の低さも魅力的だ 魔法少女も心を引かれたが、年齢制限17歳はギリギリ
アウトだった
187名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/24(金) 23:03:32.61 ID:rSRd3Hhs
「ピンポ〜ン」
"は〜〜い!"
届いたカジノディーラー2級講座のテキストは、参考書一冊とトランプ一組、
女性用ディーラー服という質素なものだった 受講料三万五千円を考えれば
妥当な物だろう その日から、カジノディーラーを目指すミウたんの挑戦が始まった

step 1 トラブルシューティング〜不良客への毅然とした対応

いきなり危機管理から入る辺り、流石は上級者向け資格 ミウたんは緊張の面持ち
で参考書を読み進める…
先ずは壁に的を設置する(ダーツの的が相応しい) 次にトランプのガードを指で
挟んで的に投げつける ガードがささるまで上達すれば不良客への対応は完了
ミウたんは参考書の通り、壁に貼ったチラ裏の的にトランプを投げるかが、
一向に刺さる事は無かった
"ダーツの的じゃなきゃ駄目なのかも…"
ミウたんはとりあえず次のステップにすすむ事にした

step 2 エンターテイメントの基本〜ショースキルのアップ

つまる所、客を喜ばせる為の一芸を身に付けろという事らしい 参考書のお薦めは
スイーツ早食いだった 山盛りのフルーツパフェをいち早く掻き込むのは本場
ラスベガスや、世界最大のカジノタウン、マカオではポピュラーなショーらしい
流石に山盛りフルーツパフェを買う金銭的余裕は無くなったミウたんは、
アイス饅頭の早食いに挑戦する 5本目の挑戦で、完食まで1分を切るまで
スピードは上がったが、それが早いのか遅いのかは分からなかった…

step 3 大人の社交場〜正しいセックスアピール

本場ラスベガスでは女カジノディーラーは娼婦の隠語で、アバズレや痴女と
いったスラングとしても使われるらしい 日本ではそういったイメージは無いが、
健康的なお色気を振る舞うのは、大人の社交場として必須になるらしい
参考書によれば、健全なセックスアピールとして、ウインク、投げキッス、手ブラ、
諸肌脱ぎ等を推奨しているとの事だ
とりあえず、諸肌脱ぎは恥ずかしいので、手頃な手ブラでカットインと
呼ばれるチラ見せ技を習得する為、上半身裸にコート姿で、ゲリラ実習を敢行する
ミウたんだった
188名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/24(金) 23:07:39.85 ID:rSRd3Hhs
step 4 goddess of victory〜勝負の力学

講座は最終段階へと入った カジノディーラーとして最も要求される能力
それはやはり、勝負をコントロールする力、場を支配する能力なのだ
参考書によれば、マカオにおいてこの能力を開花させる最も効率の良い方法として
行われているのがロシアンルーレットだという 基本は二人一組で行い、
生き残った方がディーラーとなる仕来たりらしい 流石に日本では犯罪になるので、
一人で拳銃を入手し、一人で行う事が推奨されていた
生まれつき鈍臭く、知能の低いミウたんだが、事此処に至り、漸くこの講座の
胡散臭さに気付き出していた 果たしてこの講座がカジノディーラーを目指すに
あたり、どんな意味があるのか… カジノディーラーとは一体何なのか…

ミウたんはユーキャンのお問い合わせセンターに抗議の電凸をする
だが、返って来たのは弊社は関係有りませんという、極めて無責任な返答だった
そして代わりに紹介されたのが、資格認可元の大阪市中央区島之内にある
某人材派遣会社だった 怒り心頭のミウたんは当然、この派遣会社にも抗議の
電凸をする そして、それが彼女の運命を大きく変える事になる…
"実は、あのテキストは入門編で… 適正のある方にのみ、本編をお送りしているのです…"

話の内容はこうだ 実はお台場に開設されるカジノにディーラーを派遣すべく
人材を集めてはいるが、職業柄、誰でもという訳には行かず、先ずは入門編で
カジノディーラーに興味のある人材を募集していたらしい
そしてミウたんは、若く、美人で、天性の才能を持ち合わせた理想の
カジノディーラー候補に選ばれたらしい 本来は98万8千円する本編の
受講料を、特別定価48万8千円にて提供してくれるとの事だった
常に自分が何かの天才だと夢想していたミウたんが運命を感じたのも無理はなかった
ミウたんは消費者金融から限度額一杯の融資を受け、真にカジノディーラーを目指すべく、
本編講座の申し込みにサインするのだった

東京オリンピックの開催と供に誕生するお台場カジノ…
そこに伝説の女ディーラーが登場し世間の耳目を集める事になるのは、
もう少し先の出来事である…
天性の引きの弱さと鈍臭さから、全ての客にカモにされ「勝利の女神」と渾名され、
次々とカジノホールを倒産に追い込む、伝説の女ディーラーが現れるのは…
189名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/27(月) 18:16:14.40 ID:94W6K64w
ミウたん恐るべきw
190名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/28(火) 03:36:09.76 ID:iLFeVXjy
真っ赤な苺の冠を載せたショートケーキをラムネは目で追っていた
ゴクリと生唾を飲み込むが、ショートケーキはラムネに愛想を振る舞う事も無く、
奧のテーブルへと運ばれて行った
"お待たせしました… それでご希望の物件は…"
その声の主は、筆を束ねた様な長い白髪眉毛の下の老眼鏡越しに、穏やかながらも貫禄を
蓄えた瞳をラムネに向ける
"……これ〜………"
"2DK… 駅、徒歩5分… コンビニ直近… 築6年… 家賃七万五千円…"
ラムネの指差すカタログのデータを読み上げる初老の男 下町の老舗不動産屋の主である
"これだよ〜!"
鼻の穴を大きくして、ドヤ顔気味のラムネは、その主の目の前に両手に広げた
万札の束を見せつける その数、十枚 主は小さなため息をつくと、
老眼鏡の位置を指で整え、ラムネに噛んで含める様に語り掛けた…

赤いコートの裾を引き摺って、公園の一角で鳩と戯れていたラムネは、
視界の隅に相方の姿を見つけると、弾む様に駆け寄って行く
嘗ての病弱な姿はもう其処には無かった
"ちょっと… いいみたい…?"
"ダメみた〜い……"
頭を掻きながら、渋い表情を見せる不動産屋帰りのラムネ 廃倉庫の片隅で
半野良生活を送っていた二人が、人間の様に住まいを求めたのは、
今は居ない彼女達の友人の影響かもしれない
事実、ラムネが不動産屋に突き付けた万札の束は、その友人が二人に残した物であり、
彼女達にその価値を教えたのもその人であった
公園の隅の生垣の隙間に、段ボールを引き寄り添う二人… 先日の事、彼女達が
住み慣れた廃倉庫が、近所の不良の溜まり場となった 初めは新しい友人の登場と、
先住人として歓迎の意思を示したラムネ達だったが、不良達は彼女達を汚ない
溝鼠程度にしか認識していなかった 突如振るわれる謂れのない暴力
大事な思い出の詰まった居住スペースが破壊されていく… 面白半分で
性的辱しめを受けるコートラムネを、渾身の体当りで救出し、逃げる様にこの公園に
たどり着いたのは2日前の事だった
新しい安住の地を求めたが叶わず、今は嘗ての野良生活に戻った二人…
だが、二人で寄り添えば、どんな寒さや辛さにもめげる事は無かった…

"こんな所に居やがったのか〜"
突如、生垣の上から覗み込む男 生来、低知能で天真爛漫な性質のラムネが、
不動産屋から出てきた自分の後をつける者の存在など、気付く筈も無かった
"ちょっとひたぎちゃんをprprしたくてねぇ… さっきの金、恵んでくんねぇ〜? "
そんなラムネでも、目の前に現れた男が友好的な存在でない事は理解できた
数少ない宝物の入った麻袋をぎゅっと握りしめた
191名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/28(火) 03:39:44.26 ID:iLFeVXjy
だが所詮、野生の幼女の力で抗う事など叶う筈もなかった
1分後には顔面痣だらけのラムネが大の字に伸びていた
"手こずらせやがって…!"
"ぐべらっ!!"
捨て台詞と供に放たれた男の蹴りがライムの脇腹に吸い込まれる コートラムネ
が倒れたラムネの上に覆い被さり、無言で慈悲を求める 男は落ちていた麻袋から
万札の束を鷲掴みすると、そんな彼女に唾を吐きかけ、繁華街へと消えて行った

"…だ、ダメみたい!?"
"ふ… 普通だよ…"
鼻血を拭いながら、強がるラムネ だがその目は虚ろで力は無かった
住まいを追われ、暴力を振るわれ、そして今、友人が残した大事なお金は奪わた
何時の間にか夜の戸張が降りて、遠く繁華街のネオンが憔悴する二人を仄かに
照らしていた 夕食の獲得に出る元気も無いのか、何時までも寄り添う二人…
"!?"
不意に、そんな彼女達の肩を叩く者が現れた 暴力の記憶が甦る二人は飛び退き
身構える だが、その目に映ったのは… 栗色のおかっぱ頭と背中の大きなリボンが
特徴の野生幼女、雛菊だった 通常、自然界で野良幼女が異種間でコミュニケーションを
取る事は無い 同種間でさえ生存の為、敵対するのが普通である
人間では無いとは言え、突然現れた異種族に警戒するのは自然の成り行きだった
だが、そんな二人は直ぐに自分達を取り巻く影に気付く
敵は目の前だけでは無かった 二人を取り囲む幼女の群れ…
雛菊にティナ、プリシラに同じラムネまで… 常識ではあり得ない光景に、
恐怖と戦慄が二人の身体を走る
"お〜か〜ね〜"
だが、目の前の雛菊が次に取った行動は意外な物だった 彼女の手には万札の束…
其をラムネ達に差し出す 顔を見合わせる二人 其が先程奪われたお金だと理解
するのに幾らも掛からなかった 理由と方法は分からない、だが、目の前の雛菊達は
二人の為に、お金を取り戻してくれたらしい
"だ… 大好きだよ…"
ラムネは雛菊に礼を述べた 雛菊はそれに笑顔で応えると、二人に目配せをした
何処かへ誘っている様だ 大事なお金を取り戻してくれた事実と、敵対的では
無いとは言え、大勢に取り囲まれている現状から、二人はそれに大人しく従った
公園を後にする野生幼女の集団 最後尾を行くプリシラの1人が、血の付いた
角材を茂みに放り投げた事を、ラムネ達は気付く事は無かった
192名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/28(火) 03:43:53.25 ID:iLFeVXjy
高い湿気とカビの匂いが支配する闇の空間 その一面に浮かび上がる幾つもの
ディスプレイ バックライトの淡い光の中、何体もの小さな影がキーボードを
叩く音だけが木霊する さその部屋の中央で、後ろ手を組み直立する魔女帽子
その視線がディスプレイの1つに注がれた

"誰!?"
"お〜は〜な〜"
其が合言葉なのだろうか、先頭を行く雛菊がその冷蔵庫からの問いかけに返事をすると、
冷蔵庫の扉が開き、中から別の雛菊が顔を覗かせた
公園から少し離れた街外れの一角、赤茶げたスチール板に囲まれた産廃処分場
一見、只の粗大ゴミに見える冷蔵庫から、その雛菊が這い出ると、その背後に
ぽっかりと闇の入り口が現れた 先頭の雛菊が目配せする どうやら中に入れと
言う意味らしい ラムネ達は不安そうに顔を見合わせるが、後続に背中を押される
様に冷蔵庫の中へ潜り込んで行った 中は狭く急な階段だった 闇の中を転げる
様に進んで行く 暫く進むと開けた空間へと辿り着いた 小さな白熱灯が1つ、
ぼんやりと辺りを照らしていた 剥き出しの土壁と、其処を縦横に走る木の梁
ラムネ達はそんな異空間をキョロキョロと眺める
"ここで… 待っていて…"
後ろから来た、桃色の髪が特徴のティナが二人に話掛けてきた 彼女は其だけを言うと、
後続のメンバーと供に奥の細い通路に消えて行った
程無くして、先導役者の雛菊が降りて来た 二人を見て頷くと、ティナ達とは
反対側の奥へと二人を誘った
"此れから〜 総統に会う〜 言葉解る〜?"
細い通路を進みながら先導する雛菊が語り掛けてきた 黄色い大きなリボンが
背中で揺れている
"ちょっと…いいみたい…"
その答えに振り向かずに頷くと、右手に現れた空間に指を向ける
"お〜菓〜子〜"
ラムネ達はその部屋を見遣る 中では何体かの幼女種がテーブルに向かい、
黙々と作業をしている 壁一面に設えた棚には、所狭しと様々な物品が並ぶ
""チャンスみた〜い!""
ラムネ達は其がお菓子の山だと直ぐに気付いた 今まで貴重なお金と交換しなければ
手に入らなかったお菓子の数々が、同じ幼女種の手によって次々と産み出される光景に、
二人は思わず驚嘆の声を上げた
溢れ出る涎を堪えながら、羨望の眼差しを向けるラムネ達 先導の雛菊が何時の間にか
先を進んでいるに気付いて、慌てその後を追った
193名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/28(火) 03:49:15.76 ID:iLFeVXjy
"修業〜"
今度は左手を指刺した 先程のお菓子工房より広く、奥行きのある部屋の中では
数十体の幼女達が激しく身体をぶつけ合っていた
"か〜く〜ご〜!"
"ぴぴるれにゃん!"
木の棒が弾き合う乾いた音と、幼女達の力強い足音が響く ラムネ達は人間に
振るわれた暴力を思い出したのか、首を竦めて雛菊の背中に張り付いた
更に暫く歩くと、目の前に大きなドアが現れる 雛菊は立ち止まると、
ラムネ達を振り返った
"指令室〜 粗相の無いように〜"
そう言うとドアをノックする

"ようこそにゃん! 歓迎するにゃん!"
世話しなく点滅を繰り返す光の壁を背景に、1体のプリシラが右手を差し出してきた
"だ…大好きだよ…"
ラムネ達はプリシラと握手を交わす 仄暗い闇の中に浮かび上がるプリシラの顔を見て、
ラムネ達は思わず息を飲んだ
"これにゃん? …人間達にやられたにゃん…"
ラムネ達の視線に気付いたのか、プリシラは浅黒く変色して開かない
潰れた左目の跡を撫でた
"プリシラ達はいつも虐げられていたにゃん…"
隻眼のプリシラは、手を後ろに組み直すと広くはない部屋の中を歩き始めた
"プリシラはずっと見てきたにゃん…"

隻眼のプリシラは語り始めた 産まれ育ったのは郊外の廃工場の敷地だった
其処は様々な野良幼女が肩を寄せ合って暮らす、貧しいながらも平和なコロニーだった
他の個体より幾分賢かった彼女は、薬草を煮詰めて薬を作ったり、他の個体の生産や
狩猟を陰ながら支えたりと、コミュニティの中で欠かせない存分であった
そんなプリシラは夜になると塔の上に登って、遠くに広がる光の海に想いを
馳せたものだった あの光の国に人間がいる いつか自分はあの国に行って、
人間達と友達になりたい 人間と人間世界に対する淡い憧れ…
其れは彼女の高い知性の故なのかも知れない…
だがそんな彼女の憧れは、無惨に打ち壊される ある日、突如作業着姿の人間達が
プリシラのコロニーに乱入してきた 挨拶をして友好の意思を示す幼女達
だが、それに対する人間達の答えはダイアモンド鶴嘴だった
"ぶひゃっ!"
先頭に立って人間達を出迎えたティナの頭が粉砕される 沸き上がる悲鳴
其を合図に人間達による殺戮が開始された
人間達は工場の再稼働の為、敷地に住み着いた害獣の駆除に訪れたのだった
194名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/28(火) 03:53:42.69 ID:iLFeVXjy
逃げ惑う幼女達を人間達が追い回す スイカの様に頭を割られた骸
内臓の飛び出た腹部を押さえてのた打つ個体 塀の隅に追い詰められた一団を
火炎放射器が舐め回す
薬草の調達から帰ったプリシラは目の前の光景に絶叫を上げた
痣だらけで倒れた雛菊 今まさに其に木刀を降り下ろさんとする1人の人間の前に
プリシラは飛び出していた
何でこんな事するにゃん…! 仲良くしなくちゃダメにゃん…!
何かを必死に叫ぶプリシラの左目を人間が持つ木刀の先が貫いた
経験した事の無い激痛が走り、プリシラは意識を失った
気が付いた時、プリシラはトラックの荷台で揺られていた 彼女の下には
もう動かない仲間達の血まみれの姿があった 赤信号でトラックが止まった隙に、
プリシラは荷台から這い降りた
皮肉にも、その時から憧れの人間界での暮らしが始まった 野良幼女として暮らす
人間界は、プリシラの想像とは一片も重なる所は無かった
其処で見た物は、人間達に迫害され、虐待され、殺されていく仲間達の姿だった
何時しかプリシラの人間への憧れは、激しい憎しみへと姿を変えた
プリシラは近郊の野良幼女達を束ね、文字通り地下組織を作り上げた
卓逸した彼女の知性は、非力な野良幼女達に武装と団結を持って人間へ対抗する術を
授けたのだった

"…と言う訳にゃん… 蜂起の時は近いにゃん… 二人も力を貸して欲しいにゃん…"
概ね話の9割が理解出来なかったラムネ達だったが、力を貸してくれと言う
ニュアンスだけは感じ取った 恩返しとばかりに大きく頷く そんな二人を満足気
に見詰めるプリシラは、案内役の雛菊に二人の面倒を見る様に指示を出すと、
再び犇めくディスプレイを見遣る 市内の防犯カメラをハッキングした其には、
何も知らぬ平和な人間達の日常が写し出されていた

"こ〜こ〜"
細く暗い迷路の様な通路に面した小さな一室 其処が二人に与えられた
居住スペースだった 同じ様な個室が幾つも並び、それぞれに幼女達が居住していた
恐らく此がここを根城とする彼女達の標準的住居なのだろう
地下の世界は暗いが寒くは無く快適だった だが何より、同じ仲間か大勢で暮らす環境に
二人のテンションは上がっていた 近所の住人と簡単な挨拶を交わすと、
夕食として与えられたシュークリームを頬張り、二人はたちまち夢の中へと落ちていった…
195名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/28(火) 03:57:08.80 ID:iLFeVXjy
明くる日からラムネ達の秘密地下組織での活動が始まった
"倒したら直ぐに刺すにゃん!"
午前中は道場で戦闘員としての訓練 鬼教官のプリシラから戦闘の極意を叩き込まれる
"捌いたら直ぐ干します…"
午後は生産活動 鯵の開き工房に配属された二人は熟練工ティナの指導の下、
貴重な資金源の製造に忙殺された
瞬く間に数日が過ぎ、漸く此処での暮らしに馴れた頃、遂にその時はやってきた

まだ夜も明けきらぬ早朝 産廃場の一角、搬入搬出の車が出入りする広い空き地に
夥しい数の幼女達が集まっていた その数、実に数百体 白い息が、恰も狼煙の
様に立ち登る…
其処には、あのラムネ達の姿もあった 皆、奥の一点を見詰め、主役の登場を
今や遅しと待ちわびる
何処かでざわめきが起こり、其が漣の様に全体に伝播した
空き地にの奥、堆く積まれたガラクタの上に隻眼のプリシラが姿を表したのは
その時だった 幼女達はそれぞれが手にした武器を高く掲げ、歓声を上げる
プリシラは右手を上げて其を制した ピタリと静まり帰る幼女達
プリシラのカリスマと統率力は絶頂の域に達していた プリシラは周囲を見回すと、
静かな口調で語り始めた
"諸君…… 先ずは諸君に感謝の言葉を送りたいにゃん… よくぞこのプリシラを
信じて此処までついて来てくれたにゃん… 夜明け供に、戦いは始まるにゃん…
消して楽な戦いではないにゃん… 恐らく、此処にいる勇士達の多くは、
明日の朝日は拝めないにゃん… 逸れでも、この戦いは決して無意味な物ではないにゃん!
今日の夜明けは、我々野良幼女の夜明けにゃん! 今日流す血は
明日と言う日の呼び水にゃん! プリシラは皆と供に戦える事を誇りに思うにゃん!
プリシラはこの命を、野良幼女の明日に捧げるにゃん!"
その時、プリシラの背後から光が射し込み、辺りを照らし出した 恰も後光の如く…
万雷の拍手と歓声が辺りを包む 近所の住民達は異変に気付いたかも知れない
だが最早恐れる事はない 戦いは始まったのだ!
"諸君! プリシラは今此処に、野良幼女の独立をブゲラッ!!"
""!!!!!""
その言葉を言い終える事なく、プリシラの身体は宙に舞った
「キュィィィィィィ!!」
と同時にガラクタの山の頂きから、ピンクミウたん号が飛び込んできた
196名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/28(火) 04:03:36.83 ID:iLFeVXjy
耳をつんざく悲鳴と絶叫 人形の様に撥ね飛ばされる幼女達
空き地を縦横無尽に蹂躙し、動く物が無くなった頃、漸くピンクミウたん号は
搬出口から姿を消して行った

ポツリと立ち尽くす二つの影 運良く難を逃れたラムネ達だった
ラムネ達は震える足取りで、隻眼プリシラ の元へ向かった 既にプリシラは虫の息だった
逸れでもラムネ達はプリシラを抱き抱え、必死に身体を擦る
プリシラはうっすらと目を開けて、小さく呟いた
"……これで……これで……良かったんだ……にゃん………"
そう言うとガックリと頭を落とし、それっきり動かなくなった
ラムネ達はその日から3日を掛けて、仲間達の亡骸を丁重に葬っていったのだった…



警視庁は28日、飲酒運転と轢き逃げの容疑で東京都の自称こけし職人
須内ミウ容疑者(18)を逮捕した 須内容疑者は逮捕前日、19時頃から居酒屋や
自販機などでビールやカクテル等を飲み、酩酊状態で車を運転
横断歩道を横断中の会社員男性を跳ね、そのまま逃走
途中、緊急配備のパトカーとカーチェイスを繰り広げ、民家のブロック塀や電柱、
産廃処分場の柵等を破壊して逃走 現場から約3キロ離れた側溝に転落した所を
取り押さえられた
跳ねられた男性が収用先の病院で死亡が確認された事から、警察は容疑を
危険運転致死罪に切り替えて、厳しく追及していく方針
尚、須内容疑者は無保険で車検も切れていたとの事

自己中心的な発想で、取り返しのつかない事件を引き起こした2年後、
最高裁で懲役25年が確定し、ミウたんの贖罪の人生が幕を開けるが
それは又、別の物語である…
197名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/28(火) 16:22:33.31 ID:ssYWYO49
光クラブ的得意分野ですな〜w  いや、違うか^^;

僕は今日、保持してた株を売っぱらって乗り換えしました。
もう何事も待つのは疲れました。

吉とでるか凶とでるかわかりませんが、待つのはもうしんどいんです。
スロットも、もう疲れました。明日バジ絆かまどマギを打って
貯メダルがなくなれば引退しようかと。

思えば昨年九月からの収支はたったの60万。稼動時間がかなり少ない為、
単価は高いですがもう疲れた。。今のスロで生計立ててる人はすごいわ。。
198名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/29(水) 13:58:36.97 ID:ENCcZ2UI
貯メダル消えた〜w

さて、どうするかな。。
199名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/30(木) 12:40:11.81 ID:WtZgK8fV
後世のミウたん研究家の学説によれば、ミウたんが自分が可愛いと盲信する理由は、
大きく分けて3つあるという
1つは父親の過剰愛護 ミウたんの父にとっては愛する妻の忘れ形見である1人娘
どうしてもフォトショ並の補正が掛かり、溺愛する傾向が強まる
その様な歪んだ父娘関係の中で、自分に対する勘違いが生じたというもの
二つ目は露店商の存在 ミウたんが小学三年生の夏祭りに露店商から
掛けられたという言葉 「そこの可愛いお嬢ちゃん、寄ってきな…」
不特定多数に向けられたその言葉を真に受け、歪んだ人格を形成したというもの
3つ目は中途半端な料理趣味 ミウたんが幼少の頃、よく母親代わりを努めて
くれた近所の老婆が、ミウたんに頻繁に聞かせたという格言
「料理上手は愛情上手、賄い上手は床上手」
これを玉串として育ったミウたんは、中途半端に料理にのめり込み、中途半端に
料理の腕を上げ、止まる事を知らない自己陶酔の世界に浸ったというもの
取り分け、この3つ目の要素はミウたんの人生観にも多大な影響を与え、
女の価値は筑前煮の味付けで決まると宣うまで、価値観を歪ませる原因と
なったという…

そんなミウたんはこの日も台所に立ち、独り善がりに食材を弄んでいた
はんぺんをコンロで炙り、其を烏賊ゲソと茹で卵と供に醤油と味醂で煮詰める
ミウたんにとって、鍋と醤油を使う料理は全て筑前煮である ミウたんの言う
「可愛い」の程が其処に垣間見える 鍋が煮立つまでの間、ミウたんはテレビで
料理番組を観賞する 世間では美人と評価される女子アナやアイドルが助手として
辿々しい手つきを見せる 其がミウたんにこの上ない優越感を与えるのだ
ミウたんは妄想の世界に浸る… 美人女子アナとの料理バトル… ありきたりで
ありふれた何の変哲も無いハンバーグを無造作に皿に盛る女子アナ…
仕込まれた歓声が客席から上がる 一方、ミウたんは無骨ながら誰も見たことの無い
オリジナル筑前煮を手際よく丼に盛っていく… アクセントとして最後に乗せた
ハイビスカスがインパクトを与える 女子アナの時とは対象的にスタジオは
静まり帰る 審査員のイケメン俳優は二人の料理を試食する…
そして女子アナの作ったハンバーグに唾を吐くと、ミウたんに婚姻届を差し出す
のだった 翌日のスポーツ紙に踊るクッキングビューティーミウたんの文字…
恍惚の表情のミウたんは、吹き零れた鍋の音で我に帰り、慌てパンツから右手を引き抜く
今日の筑前煮も良い出来だ… ミウたんは満足気に菜箸を踊らせていた
200名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/30(木) 12:44:16.12 ID:WtZgK8fV
"いらっしゃいませ〜 ご注文をどうぞ〜"
寂れた肉パン屋で今日も健気に声を弾ませるミウたん 夜も11時を回り
そろそろ店仕舞い… その一家が現れたのはそんな時だった
自動ドアの向こうに映った影は店内を覗き見る 既に客足は途切れ、
照明に照らされたテーブルだけが寂しげに鎮座する 恰も其を確認したかの様に
自動ドアは開き、髪の長い女性と、その背後からまだ幼い子供が3人が入って来た
"いらっしゃいませ〜"
こんな時間に子供連れなんて…
軽い違和感を感じながらもメニュー表を提示するミウたん
"ご注文をどうぞ〜"
"……あの……ハンバーガーを………1つ………"
"ご一緒にポテトかドリンクは如何ですか? 只今キャンペーンでホタテの串焼きも
お勧めしてます"
"………お忙しい所……申し訳ありません………ハンバーガーを1つだけ………"
"ワンバーガー、オーダー入りました〜"
気まずそうに注文を終えると、子供を誘い静かに席に着く女性 皆、俯き加減で会話も無い
"………………"
ミウたんはカウンターの上を無意味に片付け、敢えて平然を装った
一家四人でハンバーガー1つ… この店で最も安い其を、何食わぬ笑顔でテーブルに届ける
"お待たせ致しました〜"
母親であろうその女性はハンバーガーの包みを開けると、其を3等分し子供達に与えた
何かを言葉を交わしたのかも知れない 子供達は一斉にハンバーガーに食らい付くと、
たちまち平らげてしまう 物足りなそうにソースに濡れた指をしゃぶる男の子
女の子はハンバーガーの包みからパン屑を摘まみ口に運んでいる
ミウたんは視界に入るその光景を、遂に堪える事が出来なくなった
レジ裏の物陰に飛び込んで両手で顔を覆う ミウたんには分かる
いや、ミウたんだからこそ分かるのだ 貧しさに喘ぐ人々の苦しみが…
ミウたんは清貧である バイトの収入は去年の9月から通算で60万余り
本業のこけし匠の都合から、シフトは余り入れられず、作業単価は安くないかも
知れない だが、5ヶ月を60万でやり抜くのは極限の工夫と節約が求められた
それでも… そんなミウたんでも… ジャンクフードですらまともに食せない程
お金に困る事は無かった…
静かに椅子を引く音と足音が耳に入り、ミウたんは物陰から飛び出した
"ありがとうございました〜……"
嗚咽を必死に堪えて、いつも以上に明るく挨拶するミウたん
自動ドアから一家が出て行くのと同時に、ミウたんの目鼻から汁が溢れた
"……ナイス接客………"
厨房の奥から調理担当の店長が姿を表し、ミウたんの肩を優しく叩いた
店長もこの光景を奥から見ていたのだろう ミウたんはその声に小さく頷くと、
涙を流しながら、賄いのDXメンチカツバーガーを口に運ぶのだった…
201名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/30(木) 12:47:17.02 ID:WtZgK8fV
その日から、あの一家の事がミウたんの脳裏を離れる事は無かった
自動ドアが開く度に、無意識にあの一家の姿を探してしまう
それが、彼らの幸せを意味する訳でもないのに……

"いらっしゃいませ〜 お客…様!"
自動ドアから実際にあの一家が姿を現したのは、それから数日が経過した、
やはり閉店間際の事だっだった
"ご注文をどうぞ〜"
ミウたんはその言葉に祈りを込めた どうかDXメンチカツバーガーセットを
注文してくれと… ホタテの串焼きを注文してくれと…
あの日の、あの光景は幻だった事にしてくれと…
"………すいません……ハンバーガーを1つ……"
ミウたんの祈りは通じなかった
"ワンバーガーオーダー入りました…"
ミウたんは今回も努めて冷静に明るく普段通りにオーダーを復唱する
この前と同じテーブルに着き、同じ様に俯く一家四人…
厨房から上がったハンバーガーをトレイに乗せ、テーブルへと運ぶ
"お待たせ致しまし…た!?"
ミウたんは思わず声を上擦らせた 一家に提供する段になって、トレイの上のそれが、
普通のハンバーガーではなく、メガサイズになっている事に気付いたのだ
未だ嘗てオーダーを違えた事の無い店長が… 思わず厨房に視線を送るミウたん
其処には腕組みをして、小さく頷く店長の姿があった ミウたんは全てを悟り、
何事も無かった様にトレイをテーブルに置く
"今週はメガサイズがサービスでスタンダードになっております"
よく分からない横文字の羅列は、ミウたんなりの気遣いだった 人にはプライドがある
善意の心遣いが相手を傷つける事もある
ミウたんは店長の意を汲み、咄嗟に機転を働かせたのだ
子供達の喜ぶ声を背中に浴びてカウンターに戻るミウたん
店長は何事も無い様に、揚げ油の廃棄作業を行っていた

ミウたんの機転の一言が彼らの心を動かしたのか、次の日からあの一家は
閉店間際に来店するようになった オーダーはいつものハンバーガー1つ
店長は其を無言でメガサイズに代える ミウたんも笑顔で接客する
"ありがとうございました〜"
今日も一家を見送るミウたん 彼女は思い浮かんだあるアイデアを実践する為に、
ゴミ袋をダストボックスに叩き込むと、足早に帰宅の途に着いた
202名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/30(木) 12:54:51.71 ID:WtZgK8fV
蒟蒻、ゴボウ、蓮根を油で炒め、お湯を入れて沸騰させる 灰汁を取ったら、
ざく切りしたブロッコリーとウインナーを入れて、更に一煮出ちさせれば
ミウたん流筑前煮〜東欧ver〜の完成である お玉に掬っただし汁を指に付け口に運ぶ
『よしっ』満足気に頷くとミウたんは出勤準備に取り掛かかった

その日も11時を過ぎる頃、あの一家はやって来た この所、幾分明るさを
見せ始めたのは、すっかり顔馴染みになったミウたんの存在が要因か、
はたまた、メガサイズバーガーの魅力が引き金か…
この日もいつも通りハンバーガーを1つだけ注文する一家
"お待たせ致しました〜"
そして、これまた普段通りナイス接客を見せるミウたん ただ普段と1つだけ違うのは、
そのメガサイズバーガーに筑前煮が添えられていた事だけだった
シチュー皿に山盛られた其れに、一家の目が集中する
"此方は新商品の筑前煮です 只今、お客様にモニタリングのご協力をお願いして
います 宜しければご感想などお聞かせ下さい"
極めて然り気無く、恰も真実の様に新商品の紹介をするミウたん
決して恵んでやってるのではない 貴女方は運が良い、只それだけだ
そう言うシチュエーションにしたかったのだ
ミウたんの十八番である筑前煮への一家の反応は気になる所ではあったが、
其処は努めてクールにカウンターでの無意味な凡作業で時間を潰す
やがて椅子を引く音がして、家族の立ち去る気配がする 見送りの挨拶を大声で
向けよう漸く家族を見遣る だが、一家は自動ドアには向かわず、ミウたんの待つ
カウンターへとやって来た
"何かご注文ですか?"
"いえ…… あの…… 御煮物… 美味しかったですよ… "
"!!"
微かに微笑みを浮かべ、本当に感想を述べる女性、その目は充血し涙で潤っていた
"あ、ありがとうございました!"
ミウたんは嬉しかった 手料理を誉められた事よりも、女性のその涙目に、
自分や店長の善意が確かに伝わっていたのを感じたからだった
自動ドアから出て行く一家を見送るミウたん ナイス接客とその肩を叩く店長
それぞれの目から流れる滴が頬を伝い、証明の光に輝いていた

次の日から、ミウたんの筑前煮は更なるグレードアップを遂げていく事になる
203名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/30(木) 12:59:09.82 ID:WtZgK8fV
その日は、鰤の切身に大根と焼豆腐 プチトマトが鮮やかな彩りを添える『鰤照りver』
次の日は、豚足に薩摩芋とマンゴーが意外なマッチングを見せる『南国ver』
食材の出費はミウたんの私生活にとって甚大なダメージだったが、それでもあの家族が
最後に言ってくれる「美味しかった」は、他の何より替えがたい物だった

そんな場末の肉パン屋で繰り広げられてきた細やかな人間ドラマにも終演の時は訪れる
その日も閉店間際にやって来た一家
"いらっしゃいませ〜!"
いつもと変わらぬ笑顔で迎えるミウたん
"ご注文をどうぞ〜!"
例え注文は分かっていても、その台詞は決して欠かさない
"DXメンチカツバーガーセットを……4つ……"
"で、DXメンチカツバーガーセット、4つです…ね!?"
冷静を装うミウたんだったが、予想外の注文に声が上擦る ミウたんの復唱に厨房の
店長も明らかに動きを止めたのが分かる
ミウたんは心の底から沸き上がる喜びに、その薄っぺらな胸を締め付けられた
何が起きたのかは分からない 只、この一家がもう安いハンバーガー1つで飢えを
凌ぐ事が無い何が起きた事だけは確かだった
まさか一家心中を決意して今生の別れにと… チラリとそんな不安も過ったが、
数日前からの一家の間に流れる其処はかと無い明るさは、今思えば吉兆の裏付け
だったのだろう ミウたんは筑前煮を乗せたシチュー皿をテーブルに運ぼうとしたが
止めた もう、この家族には必要ないだろう ちょっぴり寂しいが、これで良いのだ…

いつもと同じテーブルで、いつもより賑やかで幸せそうな食事を終え、家族は席を立つ
"ありがとうございました〜"
いつもと同じ様に挨拶をするミウたん いや、その声はいつもより弾んでいたはずだ
だが、一家は自動ドアには向かわず、今日もミウたんの立つカウンターへと
やって来た 今日は筑前煮を出して無いのに… ミウたんが少しだけ怪訝な表情で迎える
"何かご注文がお在りでしょうか〜"
"あの…… 今まで美味しいご馳走…ありがとうございました… 仕事の都合で…
暫く、こちらには伺えません…… でも、いつかまた… 必ず…… 食べに来ますね……"
そう言うと、女性は深々と頭を下げた 釣られる様に、背後の子供達も頭を下げる
"あ、ありゅがとう… ごりゃいま… した… またのご来店を… お待ち… お待ち…
ひておりゅます……!"
ミウたんは溢れる涙を堪える事が出来なかった 嗚咽混じりの挨拶を絞り出すと、
ミウたんも一家に深々と頭を下げた 自動ドアを出て行く一家の背中が涙で滲む
そんなミウたんのポンと肩を叩く店長 その頬も滂沱が濡らしていた
204名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/30(木) 13:03:01.04 ID:WtZgK8fV
次の日から、あの家族は姿を見せなかった 寂しさもあるが、あの家族には、
もっと美味しい物を食べて欲しい ミウたんは気持ちを切り替えてバイトに励んだ
いや、励めなかった… あの日から… あの家族が消えてから… ミウたんの肉パン屋
はぴたりと客足が途絶えたのだ もともと人気のある店ではないが、
終日の来客数が一桁というのは流石に異常事態だった 頭を抱える店長…
このままでは貴重なミウたんの就労先が消滅してしまう
重い不安がミウたんの心にのし掛かる…
"い、いらっしゃいませ〜"
この日初めての客が来た
"へ〜 ここがあの噂の肉パン屋か〜"
三人の若者が何やらキョロキョロしながら入店してきた
"ご注文をどうぞ〜"
"うわっ マジでメンチカツバーガーあるw どうする? いってみる?"
"………メンチカツバーガーで宜しいですか?"
"いやっ 止めとくべw! …お姉さん、あれある? なんだっけ? 筑前…煮? "
"!! "
ミウたんは驚き目を見開く 何故彼らは筑前煮の事を知ってるのか?
"お、お客様… 筑前煮の事を何処で……?"
"何処でってw 今、結構有名っしょ?"
若者の一人がスマホをミウたんの眼前に突き出した
"……シングルマザー美沙理の……マイ食べログ………?"

『美沙理〜マジピピリンゲなんだけど〜 この店チョーウケるw
普通のバーガー頼んでんのに〜チョーデケーの来たしよ〜w 頼んでねーつーのw
オニブスの店員マジ頭ワリィし〜w 面白れーから毎日頼んだら毎日間違えるしw
ヤバいヤバいw この店チョーヤバいwww
んでマジヤバなのが〜 煮物出てくんのこの店〜w あり得なくね〜煮物ってw
バーガー屋じゃねーのかよw マジピピリンゲw んでんでオニブス店員が
筑前煮のご意見お聞かせ下さいって、ヤバいに決まってんじゃんwww
筑前煮ですらねーよw マジ全てがキモ過ぎる〜w
美沙理的食べログ☆1つ〜 マジネタだかんね〜!』



最高裁判所第二小法廷で開かれた上告審で、東京都の自称こけし職人、
須内ミウ被告に懲役17年が言い渡され結審した 須内被告は昨年4月、
飲食店内で以前面識のあった女性を木刀で殴打し、全治2ヶ月の重症を負わせ、
逮捕、起訴されていた
須内被告は裁判に於いても反省の色は見せず、出所すればまたやる、
今度は必ず殺してやる、等の言論を繰り返し、再犯の恐れがあると、
無期懲役を求刑されていた
205名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/31(金) 08:34:32.31 ID:4csFP+0D
朝8時にならんで初の整理券1番取ったわ!

当然打つのはアイムジャグラー
206名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/31(金) 08:47:58.01 ID:bgp/JYkG
207名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/31(金) 19:19:08.19 ID:Z/BAufhb
一人暮らし、酒・タバコ・病院有りで五ヶ月60万はかなりしびれるよ。

貯金減った減った。。

株で回してる分はまだ手をつけなくてすんだけど。
手をつけるのは春先頃かな。。 それまでに増やさないと。。 
どーすんだよ、おれ^^;
208名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/01(土) 14:23:26.14 ID:3OkkVBrN
つか、僕の私生活も織り込んでの作品かw

(ぼくはいまばじりすくきずなをはつうちしてあまりのつまらなさに
おさけのんでるよ。)
209名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/04(火) 07:29:20.85 ID:QMejY345
今のところ星5のカグヤでスイスイいけるから課金の予定はない
210名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/06(木) 01:30:18.77 ID:q9Fgj/3O
湯気の立つ、熱々の卵とじカツ丼を頬張る男性 つまみ上げたカツの一切れを
口内に捩じ込むそのタイミングに合わせて、ウィンドウの向こうのミウたんは
冷たい塩むすびにかぶり付く
昼間は幾分寒気も衰えたかに見える今日この頃 だが、陽もとっぷりと落ちた今は、
凍てつく外気がミウたんの絶対領域を撫でる…
その怪しげな女に声を掛けられたのは、そんな「かつや」でのエア夕食を終え、
凍える身体を抱き締めながら足早に帰宅の途を行く道中だった
"お嬢さん… 随分と珍しい星をお持ちの様だ… 如何かな? 一つ占いでも…"
小さな雑居ビルの谷間 街灯の光も届かない闇の中からミウたんを呼び止める声
"!?"
その闇の中に目を凝らすミウたん 浮かび上がってきたのは紫色の布を掛けた
テーブルの向こうに腰掛けた、緑色の魔女帽子を被る女性だった 真冬にも関わず、
豪快に上半身ビキニで、その上にマントを羽織るその姿を見た時、さしものミウたんも
得体の知れない恐怖に身震いした 面倒な奴に絡まれた…
無視を決め込み通り過ぎようとした時だった
"……木偶の母なる存在……争乱の真相を握る宿命の子……"
テーブルの上のタロットカードを捲った女はそのカードをミウたんに向ける
無意識にカードを見詰めたミウたんの意識はそこで途切れた



炎が薪を割る香ばしい音と、芋の煮える甘い香り 次にミウたんが意識を取り戻したのは、
そんな何処か懐かしい空気のする藁葺き屋根の下だった
布団に寝かされている事に気付き、上半身を起こす そこは板張りの壁と床で
できた簡素な作りの部屋だった 部屋の中央には囲炉裏があり、掛けられた鍋から
甘い香りの湯気が上がっている
"おぉ 気がついたか 具合はどうじゃ…?"
背後の物音にミウたんが振り向くと同時に、土間から姿を現した老婆が話し掛けてきた
"まだ起きちゃならん ゆっくり休むのじゃ"
板の間に上がった老婆はそう言うと、ミウたんの肩に手を掛けて、再び布団の上に
横たわらせる ミウたんは老婆の顔を見詰めると、何故か自然にその言葉が口を衝いて出た

"婆様、美鵜はもう大丈夫です…"
211名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/06(木) 01:34:20.25 ID:q9Fgj/3O
引き戸がゆっくりと開き、美鵜が姿を現した まだ残雪の残る庭先には白梅の蕾が綻び、
待ちかねた春の訪れを告げていた 美鵜は裏山から涌き出る水を貯めた蹲に向かい、
その冷たい水で顔を洗う
不思議な夢を見た 見知らぬ土地で可笑しな格好をした自分が、眩しい光の中で
見たこともない食べ物を頬張る男性を見詰めていた 何故か自分はその食べ物の味を
知っていて、其が口に入らぬ悲しみや嫉妬に心が張り裂けそうだった
不思議だが、何故か懐かしい気がする夢… これも全ては幻術の成せる技なのか…
桜色の小袖から手拭いを出して顔を拭う美鵜 その背後から元気な声がした
"美鵜姉ちゃん、元気になったんだ!"
近所に住む子供達が庭の向こうから覗き込んできた 独りっ子の美鵜にとっては
本当の弟妹同然の存在 美鵜は彼らの頭を撫でてたわい無い会話を交わす
"早く俺にも闘い方を教えてくれよな!
もう美鵜姉ちゃんだけに辛い思いはさせたくないぜ!"
年長の少年の言葉に美鵜の表情が曇った 何時までも幼いと思っていたこの子達…
だが、彼らもこの里に生まれた宿命を自然と感じ取っていたのだろう
美鵜は子供達をぎゆっと抱き締めた 出来ればこの子達を争いに巻き込ませたくは無い
自分の味わった辛さを経験させたくは無い…
そう… 自分がもっと強くなって、この子達を守らねばならないのだ…

囲炉裏を挟み向かい合う美鵜と婆 芋粥を装った器を美鵜に差し出しながら
婆は語り掛けた
"此度、命を拾ったのは奇跡と言うて良い… お前も身をもって知ったじゃろう…
最早、この闘いは多くの血を見ずには終わらぬ…"
美鵜は受け取った器に視線を落とす
"私にもっと力があれば……"
"自分を責めるでない… 今の世が… この時代を作った婆達の責めじゃ…"
婆の気遣いが逆に美鵜の心を締め付ける 不甲斐ない自分の存在が許せなかった
婆や里の子達に気苦労を掛けてしまう情けない自分が…
"さぁ 冷めぬうちに食え 今は鋭気を養うのじゃ…"
老婆の言葉に美鵜は頷き芋粥を啜る 何もなくとも、婆と囲む夕げが美鵜に
とっては至福の時だった 幼い頃に両親を無くした美鵜にとって文字通り
母親代わりの存在 何時までもこの幸せが続く事、それが美鵜の願いだった
"美鵜… 無事で何よりじゃった…"
そう呟きながら老婆も芋粥の器を口に運ぶ その思いは老婆とて同じだった
212名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/06(木) 01:37:50.41 ID:q9Fgj/3O
満月が照らす大岩の上に小さな影が現れた それに反応するかの様にもう1つ
の影が対面に浮かび上がる… 里から遠く離れた渓谷 周囲を見下ろすその頂で
相対する二つの影…
"孫娘は大事無い様じゃな…"
先に現れた影が口を開いた
"あぁ… じゃが… いずれ死人が出るじゃろう… 最早、血を見ずには収まらぬ…"
その声に応えたのはあの老婆だった 年を思わせぬ飄々とした動きで間合いを詰める
"こうなったのも我らの責めじゃろ… これ以上、若い者を巻き込めん…"
老婆のその問いに、月明かりに姿を浮かび上がらせた翁が頷く
"儂らで決着を着けん 生き伸びた者が争いを治めるのじゃ"
そう言うと翁は構えを取る
"この様な形で主とまみえるとはな…"
老婆のその声は深い悲しみを纏っていた…



格子窓から差し込む朝日に美鵜が目覚めた時、そこに婆の姿は無かった
きちんと畳まれた布団とその上に置かれた1通の封書 美鵜は胸騒ぎを感じながら
その封書を開いた
"………………お婆様!"
美鵜は裸足で庭に飛び出していた それがどうなる訳でも無いが、じっとして
居られなかったのだ 遥か彼方、白みかけた東の空を見詰め、そのまま力無く踞る
封書の中には、死を覚悟した婆の決意と美鵜に後事を託す旨が認められていた
自分に代わり里を纏め、平和に導いて欲しい 無益な闘いの事など忘れ、一人の女
として幸せになって欲しい、そんな切なる願いが込められていた

里の中央を流れる川に婆の骸が流れ着いたのは昼過ぎの事だった
戸板に乗せられ運ばれてきた、その変わり果てた姿に美鵜は縋り付き号泣した
その光景を目の当たりにした里の者達は、口々に復讐を誓うのだった
慰める様に美鵜の背中に抱き付く子供達を優しく振り解き、美鵜は立ち上がった
婆が自分に託した思いを無下には出来ない
"良いですか皆の者… 只今より、里長の務めはこの美鵜引き引き継ぎます…"
美鵜の瞳にもう涙は無かった 凛として佇むその姿は新しき里長としての威厳
すら漂わせていた 里長として初めに出した命、それはこの不毛な闘いを
終わりにする事だった 当然の様に周囲から不満の声が上がる
先長の仇は取らんのか… 怖じ気付いたのか…
美鵜はそんな声に1つ1つ答えていく 婆が命を掛けて決闘に挑んだ理由…
美鵜に託した願い… 闘いの虚しさ… やがて里の者達も、その美鵜の熱意に心を
折られ、怒りと憎しみを捨てていく
そうして再び月が夜空に輝く頃、先長の葬儀がしめやかに行われた
213名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/06(木) 01:43:16.21 ID:q9Fgj/3O
だが、そんな美鵜と先長の願いは無情にも踏みにじられる 和平の使者として
敵地に赴いた里の代表は瀕死の重症を負って送り返された
美鵜同様、あの決闘で命を落とした翁の跡を継いだ新たな里長は、互いの存亡を
掛けた一大決戦の果たし状を叩き突けてきたのだ 争いに決着を着けんとした
二人の里長の思いは、皮肉にも破滅的最終対決の引き金となったのだ
今は独り美鵜が住まう館に里の者達が集まって来る 最早、和平の道は閉ざされた
遅かれ早かれ此が運命だったのだ そんな表情で闘いの準備を進める面々
時此処に及べば、誰も美鵜を臆病と詰る者は居なかった ただ誰しもが美鵜の為、
里の為、命を投げ出す覚悟を決めていた
そんな殺気溢れる陣所と化した館 その奥の間で婆の仏前に手を合わせる美鵜
その傍らでは、あの子供達が心配そうに美鵜を見詰める まだ闘いには参加は
出来ない彼らは、大将である美鵜の身の回りの世話を誰に命じられた訳でもなく
自発的に行っていた 彼らも彼らなりに里の為に尽くしているのだ
そんな健気な子供達を抱き締め、美鵜は小声で頼み事をする 其れを聞いた彼らは
雁首を振って激しく拒絶する
だが、美鵜は今度は彼らの前にひれ伏し、頭を下げて懇願した お前達にしか頼めぬと…
どうか聞き分けてくれと… 美鵜の瞳から大粒の涙が溢れた
里長であり、大好きな美鵜の涙を見せられれば、幼い彼らとてその願いを無下にする事は
出来なかった



老婆と翁の里の境界だったブナの原生林と、それを包む深い霧が昇る朝日に浮かび上がる
その霧の中を武装した黒塗りの一団が列を成して進んで来る その数三百、誰もが無口で
殺気を孕み、素人目にも百戦錬磨の強者の集団と映る 動員可能な戦闘員数と
その錬度なら彼らは美鵜達を常に圧倒していた 美鵜達が彼らと対等に渡り合えたのは、
防衛に徹した戦術と類い稀な里長の戦闘力の故である 少なくとも美鵜はそう思っていた
だが、最早その里長はいない…
騎乗で一団の戦闘を行く彼らの里長が何かに気付き、進軍を制した
"貴様独りだと…… 死に損ないに我らも舐められた物だな!"
その男の視線の先、ナズナの群生の中に独り佇む美鵜の姿があった
美鵜は無言のまま男の前に歩みを進めると、その場に膝間付いた
"…………何の真似だ?"
男は怪訝な表情で美鵜を見詰める
"私の命で貴方の憎しみが晴れるのなら……どうぞ殺しなさい……"
"!?"
214名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/06(木) 01:45:51.77 ID:q9Fgj/3O
男の眉尻が一瞬跳ね上がった だが、次の瞬間には含み笑いを浮かべていた
"臆したか美鵜! 逸れでも天童衆の頭目か!"
"笑いたければ笑いなさい… 私はただ無意味な争いをしたくは無いのです!"
"ふざけるな!!"
男は美鵜を怒鳴りつけると鞍から飛び降りた
"無意味だと!? 我ら鳴子衆と貴様ら天童衆、200年の確執を忘れたか!"
"滑稽ね… 最早、争う理由も覚えてはいないのに……"
美鵜は怯む事なく男を睨み付ける
"黙れ! 貴様ら天童衆を滅ぼしてこそ、我ら鳴子衆がこけし界の覇者となるのだ!
闘え! 闘わぬのなら天童衆1人残らず皆殺しだ!"
"ふぅ………"
美鵜は小さなため息をつくと立ち上がった
"やむを得ません…… 此を…… 最後の闘いに……!"
美鵜は飛び退り間合いを取る
"手出し無用!"
男は今にも美鵜に飛び掛からんとする手勢を制する
"殺すには些か惜しい女子と思うて前回は手心を加えたが、最早情けは無用!"
男は懐か漆黒の鳴子こけしを取り出す
"前回は不覚を取りましたが、その幻術はもう通用しません!"
美鵜は小袖から真紅の天童こけしを取り出した
一陣の風が二人の間をすり抜け、一片の梅の花弁が舞い落ちて、それが合図となった



"ええぃ 里長は何をやっておる!? 最早敵は直ぐ其処まで迫っておるぞ!"
"里長! 里長! " 早く下知を!"
その頃、天童の里では決戦を前に何時までも姿を現さぬ美鵜に、詰めかけた者々が
憤りを表していた 世話役の童供は曖昧な返事で美鵜に取り次ごうとしない
やはり臆したか! 業を煮やした者達は遂に童達を押し退け、美鵜が籠る奥座に
乗り込んだ 其処には布団を頭から被り、小さく丸まる情けない里長の姿があった
"なんたる様だ! やはり和平など臆病風に吹かれてか!"
1人の男が美鵜から布団を剥ぎ取る
"!!"
だが其処に居たのは美鵜ではなく里の童女だった
215名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/06(木) 01:49:34.96 ID:q9Fgj/3O
"喰らえ! 回転時差式背撃演舞!"
"早春柳節 蝶の舞第二幕!"
回転しながら相手の背後に強烈な一撃を食らわせる大技を、蝶の様な躍動で
ひらりとかわす ナズナの花畑の中に組み立てられた台座の上で、2体のこけしが
凌ぎを削る
"どうした? 守るだけでは勝てんぞ!"
"……くっ!"
漆黒の鳴子こけしの怒涛の責めに、美鵜の天童こけしは防戦一方
質の違う激しい攻防が繰り広げられるこけし相撲に、ギャラリーの鳴子衆も
ただ息を飲むばかり…
"そろそろ止めだ、死ね! 幻影こけし無双!"
"!!"
美鵜は息を飲んだ この技だ、この技の前に美鵜は敗れ、生死の狭間をさ迷ったのだ
巧みな台座捌きで操られたこけしは不思議な動きで舞い踊る 美鵜の目には
漆黒の鳴子こけしが無数に分裂して行く様に見えた 美鵜は目を閉じ台座の
上のこけしに意識を集中する 惑わされてはいけない… 本体はただ1つだ
"死ねぇぇぇぇぇぇっ!"
掛け声と共に鳴子こけしとその凄まじい闘気が、美鵜の天童こけしに襲い掛かる!
"……其処!!"
美鵜は目を見開き、台座の縁を連打する!
『カコンッ!』
乾いた音が周囲に響き渡った 宙を舞う黒い影… 衆目の注がれる中、
漆黒の鳴子こけしが、どすんと地面に落ちた 台座の上にはバランスを崩しながらも
堪えた天童こけしが鎮座する 勝負あり!
"う…うぉぉぉぉぉっっっ……!!"
雄叫びを上げ突っ伏す男 背後の鳴子衆が力なく膝を折って行く
美鵜は小刻みに震え、譫言を呟く男の前に立ち手を伸ばした
"もう…… これで終わりにしましょう…… こけしが泣いている……"
"ほざけぇぇぇぇぇぇっ!"
男は絶叫と共に美鵜に飛び掛かった その手には小刀が握りしめられていた
"鳴子衆に敗北など無いのだぁぁぁっ!"
咄嗟の出来事に身動きの取れない美鵜 霧の合間から射し込む朝日に小刀の刃が
鈍い輝きを見せる 美鵜の脳裏に婆の顔が… あの子供達の顔が… 懐かしい里山の景色が
浮かんだ 死を覚悟し、次の瞬間に訪れるであろう激痛に心を備える
"ぐはっ!"
だが、次の瞬間に訪れたのは激痛ではなく男の叫び声と、黒い影に弾かれ弧を描き
飛んで行く小刀の姿だった
"其処までだ……"
""!?""
216名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/06(木) 01:56:15.50 ID:q9Fgj/3O
美鵜と男がその声の方を見遣る
"うぅ…………あ…………貴女は……何処かで……"
緑色の奇抜な被り物と胸だけを覆う小さな布切れ、不気味な絵が書かれ厚紙を持つ
不思議な格好の女性 その姿を見た時、美鵜の頭が割れそうに痛んだ
"そろそろ帰ろうか…… 自分の星を理解出来た事だろう……"
"!!…………貴女は……あの時の……!!"
美鵜は全てを思い出した 私の名前は……ミウ こけしアーティストの…ミウ……

次の瞬間、辺りは光に包まれ、その中をミウたんとその女は登っていった
"どうして…… どうして私にあんな夢を見せたの……?"
"………夢じゃないさ……あれはお嬢さんの生まれ持った星の物語さ……"
答えにならない答えにミウたんは困惑する ふと足下を見ると、あの里の姿が
微かに透けて見えた
"婆様…… みんな……"
こけしと自分を結ぶ深い因果 あの里での体験は、自分の中を流れる先祖の血が
見せた幻か… それとも…
薄れて行く里の姿に何かを呟こうとした所で、ミウたんの意識は再び途切れた…



真冬並みの寒波が通り過ぎた早朝 「かつや」の駐車場でミウたんの遺体が
発見された 死因は凍死 側にはカチカチに凍った塩むすびが転がっていたという
217名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/07(金) 04:20:02.58 ID:f7v+Dlo3
新作ありがとう^^
今回も最高です!
218名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/11(火) 08:22:40.47 ID:hGoIBoo2
今日も朝から整理券もらってジャグラー
219名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/11(火) 08:57:51.59 ID:4yOE8gqP
並んでいるが寒くて
手がとても冷たいぜ
ぶんまわし系(ジャグ、ハナ)はきつい
220名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/11(火) 10:10:12.83 ID:wjp557rU
お、おら、金なくなって一旦撤退中。。

再開は半年後予定 T T
221名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/12(水) 18:38:11.48 ID:ziHcbioo
ベルトコンベアーを流れて来るどら焼きを5つずつ紙箱に詰める 詰め終わった
箱の封を閉じ、後ろのローラーレーンに流す それを8時間で1480回繰りし、
終業3分前に操業日報を纏めると、終業のチャイムと共に作業室を後にする
其処から徒歩13分の所にあるデイリーヤマザキでズワイガニクリコロを2つ買い、
其から6分後に自宅アパートの玄関を潜る 7分間で着替えと洗顔を済ませ、
ズワイガニクリコロとサトウのご飯で本日の消費カロリーを補うと、
22時15分にベッドに横たわり、スリープモードに突入する
毎日毎日、私は決められたプログラムをなぞり、其に基づいた行動のロジックで
日々の技を繰り返す 明日も何の変化もない無味乾燥なタイムスケジュールを
厳密に刻んで行くのだろう
嘗ては私にも感情というものがあった気がする だが、自己保存と環境適応に
追われる日常の中で、何時しか私のその感情は生存に不合理な物と判断され、
プログラムから消去された様だ そもそも私のオリジナルからして感情の起伏は
乏しかった 心が死んでいた…というべきかもしれない
今日は珍しく昔の事など回想して、スリープのタイミングが5分ずれた
そんなイレギュラーな事も稀にあるのだ 若干体勢を傾けると、布団の中に顔を埋めて
意識をシャットダウンした

稀に発生するイレギュラーの原因は外的要因も存在する その日起こった其れは、
正にそんなものだった 出勤直後の緊急集会 私のメモリーの中では過去、
そんなタイミングでの緊急集会は記録されていない 緊張に強ばる管理職員達の
表情は明らかなエマージェンシーの発生を告げていた
壇上に上がった工場の長はマイクを握りしめ、落ち着きない様子で口を開いた
往々にして責任にある立場の人間の会話は無意味な領域が占める割合が多い
私のプログラムは自動的にそんな言葉の羅列を要約し、簡潔に結論を纏める
どうやらこの工場から出荷から出荷されたどら焼きで健康被害が発生しているらしい
原因は不明だが、どら焼きから農薬の成分が検出され、工場では意図的に
混入されたと見て、警察に相談しているとの事だった
工場の当面の操業停止への理解と、捜査への協力要請がなされ、最後に全従業員による
被害者への謝罪行脚の実施が業務命令として出された
今日も変わらぬ筈の変哲のない日常は、望まぬ形で打ち壊された
最適な業務の遂行に向けて、私はプログラムを再構築すると、その日の担当被害者宅
へと時速6キロメートルで歩み始めた
222名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/12(水) 18:41:54.91 ID:ziHcbioo
街外れの丘の上に立つ人造建造物 私にインストールされている情報に基づけば、
其処は凡そ人間の住める住環境にはなかった 往来の妨げになる程、草蒸す敷地
物理的対応年数を越えた古い建屋は、明らかに均衡を失いつつあり、その為、
窓やドアは本来の位置に定まらず、その本来の役目を果たしていない
外壁は毒々しい桃色で染められており、色褪せた其れは、見る者の精神状況を
不安定にせずには置かない 庭の隅に突き立てられた木の棒と空缶の不気味な
オブジェは、正にそんな住人の精神状態を表している様に感じられた
私の自己保存プログラムが警戒レベルを引き上げ、知覚センサーの感度は
MAXになる 不測の事態を想定しながら、選定したルートを進行する
『ピンポ〜ン』
玄関と思しき1枚板の脇のボタンを押す 推測通り呼鈴だった様だ
"は〜〜い!"
だが、次の推測は外れた 環境と状況から事前に予想された物とは異なり、
返って来たのは明るい女性の声だった
"この度は大変ご迷惑をお掛けしました…"
完璧なタイミングとイントネーションで繰り出しされた初対面での謝罪
女性は私を室内へと誘った…

外観から比べれば、その内装は一応一般常識の範囲内だった 質素ではあるが
随所に一定の気が配られた室内は、やはり女性の住まう趣があった
"改めてまして、この度は当社の製品で大変なご迷惑をお掛け致しました事、
慎んでお詫び致します…"
"そ〜なんですよ〜 も〜ウンチもビチャビチャで〜 ゲロもゲ〜しちゃて〜
バイトも休んじゃって〜 大変だったんですよ〜!"
年の頃は二十歳前といった所か、ショートヘアーにくりっとした瞳、見た目は悪くはない
だが、その口から出てくる台詞には知性の欠片も感じられなかった
持て成しのつもりか、ティッシュの上に落花生を3粒乗せて私に差し出した
一瞬、迷惑を掛けられた企業人に対する意趣返しかとも思ったが、和やかな笑顔で
ご遠慮なく、と進めてくる姿に邪心は感じられない どうやら本心からの心使いの様だ
だが、おかしいだろう… お茶も出さずにお茶請けなのか?
それもティッシュって…? 落花生3つって…?
勿論、自分の立場を考えれば不平を言える物ではない だが、彼女に対して
沸き上がるある種の疑念を、私は抑えられなくなっていた
223名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/12(水) 18:46:29.03 ID:ziHcbioo
"現在、社内で原因を調査をしておりまして… 少しご協力をお願い出来ますでしょうか?
当社の製品をお買い上げ頂いた経緯と、品名、日時等お教え頂きたいのですが…"
"えっ… 経緯? え〜と… どら焼きを食べたらお腹が痛くなって〜
おトイレに行ったらウンチがビチャビチャで〜 その後、お風呂に入ってたら〜
またお腹が痛くなって〜 それでまたビチャウンが出て〜…"
"あの… 大変なご迷惑をお掛けした事は申し訳ありません… 出来ればお買い上げ
の経緯と、品名等を…"
"……あの…えっと〜 その後、ゲ〜もしちゃて… お腹も痛くて… 朝方また
ビチャウンしちゃて〜……"
私は自分の立場を忘れ、目の前の彼女を張り倒したい衝動に駈られていた
下らなく退屈な日常の連鎖から、望まぬ形とは言え解き放たれたかと思えば、
今やっている事は何だ? 噛み合わない言葉の往訪、この白痴な女に何が悲しくて
頭を下げているのか? 無くしていた筈の感情が何時の間にか甦り、
プログラムではない何かが私の行動を制御しようとしていた

ミウたんは困惑していた ネットで得た情報と違う… ミウたんがどら焼きを食べ、
お腹を壊した時、初めは食べ慣れない甘物によるショックかと思った
だが、ニュースでどら焼きへの農薬混入事件を知ると、即座にお客様相談窓口に
問い合わせを入れた ミウたんは知っているのだ 食品テロの被害者が多額の賠償を
せしめる事が出来る事を… 日頃、ネットでお金の匂いのする情報や知識を漁っていたのは
無駄ではなかった 神が…天が…薄幸の美少女である自分に遂に差し伸べた救いの手…
ミウたんの予想では、今日謝罪に訪れるお菓子会社の人間は、お詫びの品として
大量のどら焼きと、休業保証と慰謝料として現ナマ、ウン十万を持参してくる筈だった
だが現実はどうだ? やって来た女性は手ぶらで、謝罪はすれど一向に賠償の話はしない
それどころか、頻りにお腹を壊した時のエピソードを聞きたがる 変態趣味の人だろうか…
ミウたんは、さして自分と歳の違わぬ女性の顔を繁々と眺めながら、
思い切って本題を切り出す事にした
"あ、あの… それで… 言いづらいんですケド… バイトとか休んだんで……"

"…………"
私の中で微かなシグナルを発していたプログラムが、その言葉に反応し、
メインアラートを展開した やはりそうか… この手の人種だったのか…
224名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/12(水) 18:51:16.18 ID:ziHcbioo
モンスタークレーマー… 企業等の隙や死角を常に伺い、一度付け入る機会を見つければ、
吸い尽くせるだけ甘い汁を吸い尽くす、企業にとっては正に毒虫の如き存在
業務命令により謝罪行脚に出される時に渡されたマニュアルにもその記述はあったが、
謝罪執行人モードに移行した私のプログラムには既に、この手の存在が出現する可能性を
高確率で示唆していた そして、この家の外見を視認た時、その確率は実に
80%に達していたのだ 私のプログラムは何らエラーを起こす事なく、
次のステップへと展開していった
"賠償に関しましては、当社製品との因果関係が確定した時点で、改めてまして
ご相談致したいと思います… つきましては、該当商品の品名と購入日時を…"
"……えっと〜… 商品名?…は「どら焼き」で〜 買った日?…は……去年…かな?"
"お客様、申し訳ありませんが、もう少し具体的にお願い致します… 当社に「どら焼き」
という名の製品は御座いません… 包装やレシート等、お持ちではありませんか?
お買い上げの店舗は…?"
"えっと〜… えっと〜… 「どら焼き3個パック」……だったかなぁ?… えっと〜…
レシートは無いし… 買ったのは… えっと〜… 多分… 去年のクリスマス… の後かな……?"
女の言動が明らかに不信さを増して行く 具体的事案を追及され、しどろもどろに
不可解な説明を繰り返す その説明の節々に今回の事件との矛盾が散見される
確定の様だ… では、反撃を開始する…
私はプログラムをクレーマー対応モードに切り替える
"お客様… 只今のお客様のご説明では、今回の体調不良と、当社製品との因果関係
を立証出来ません 今回の賠償は見送らせて頂きます"

ミウたんは激怒した 純然たる被害者である自分の前に手ぶらで来る時点で
既に内心プチオコであるのに、賠償出来ないとはどういう事なのか!?
あれ程、ビチャウンに苦しみ、バイトも休みに追い込まれた事態に対する保証は
出来ないというのか!? ミウたんはテーブルに掌を叩き付けて声を荒げた
"ちょっと、どういう事!? 私は被害者なのよ! 大きいのがそんなに偉いの!?"
最後の一文はミウたんの個人的コンプレックスから出てきた物だった
大きな胸をひけらかし、人を小馬鹿にしたこの女の態度が、始めから気に入らなかった
"どうかご冷静に… 納得なさるまで説明させて頂きます…"
225名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/12(水) 18:54:49.14 ID:ziHcbioo
顔を紅潮させ興奮する女を前に、私は淡々と矛盾を指摘していく
"まずお客様の仰る商品名ですが、現在、当社には存在しない物です…
更に、お買い上げの日時が昨年末という事ですが… 当工場で農薬が混入されましたのは…
今年1月6日製造分からなのです…"
"!!"
私の説明に女は固まった 口をパクパクさせて、何とか反論を試みるが意味を
成す言葉は出て来なかった
"お客様の体調不良と今回の件は、因果関係は無い物と思われます…"
"ちょ… ちょっと待って! だって、あんなにお腹ピーピーで… ゲロゲロで…
ウンチビチャビチャで…!"
"失礼致します…"
立ち上がる私に女はすがり付いてきた
"ま、待ってよ! もう、注文しちゃったんだよ! ロボット掃除機ルンバと
マキタの充電式草刈機! お金払ってよ! ウンチビチャビチャだったんだよ!"
とうとう正体を現したこの醜い生き物を、私は最大に侮蔑した表情で睨み付けた
"所詮、ザコですよね…"
心の底から湧き出た嘲りの言葉を言い終わると同時に、強烈な衝撃が私の顔面を襲った
眼鏡が吹き飛び、バランスを崩した私の身体と共に、スローモーションの様に
床に叩き付けられた 一瞬遅れて激痛が私の身体を駆け抜けた
"くっそぉぉぉぉぉぉっ! 殺してやるぅぅぅ!!"
般若の如き形相の女は、何処から取り出したのか、赤子の体躯程あるこけし人形を
倒れた私の顔面に降り下ろして来た
"!!"
咄嗟に庇った右腕に重い衝撃が走る 明らかに右腕の骨が砕けた感触がした
"逝っけぇぇぇぇぇぇっ!!"
役を為さなくなった右腕がだらりと落ちて、ガラ空きとなった頭部目掛け、
次の一撃が降り下ろされる 私は次の瞬間に襲い来るであろう激痛を想像し、
思わず身を強ばらせた 誰かの名を呟いた様な気もする
"其処までだ!!"
野太い声が響き、突如現れた黒い影が、こけしを振りかざす女を跳ね飛ばした
一瞬の出来事だった 正に間一髪、女はこけしを両手に握り締めたまま、
がたいの良い若い男性によって、フローリングの床の上に抱き伏せられていた
何かを喚く女の声が、私の鼓膜を刺激する
"大丈夫ですか? 怪我は有りませんか?"
部屋の奥からもう1人、生え際に白髪の目立つ中年の男性が現れた
"何とか間に合った様ですな… 警察です… 会社から貴女が此処に向かったと
聞きまして… いゃぁ 危ない所だった…"
226名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/12(水) 19:03:20.53 ID:ziHcbioo
何故私はあの時、右腕を出したのだろう… あの時私は、誰に助けを求めたのだのだろう…
私はあの時、解体されるべきだった 私は、この下らない輪廻が終わるその時だけを
待って居たのではなかったのか…
病院のベッドの中、ギブスで固定された右腕と、ガーゼを充てられた左頬を晒し、
答えの出ない自問を繰り返す
"どうして… あんな事をしたんだい…"
ベッドの脇に座る男が声を掛けた あの時、私に声を掛けた刑事だ
どうして、と言われても答えなど無い 終わらせたかった…せめてそれが理由か…
ただ、自分だけが苦しみ、消えて行くのが許せなかったのだ
自分より愚かで、醜く、悪徳な出来損ない共が人生を謳歌し、幸せを掴むのが
許せなかった… あの時確かに、私は自分を殺した…
奥手で声は小さいが、打ち解けると意外と剽軽で、友達思いで、器用で、
機械弄りとずんだアラモードが大好きな、エンジニア志望のエマという女を殺したのだ
あの時から、エマの造り出したアンドロイドは自立し始めた 亡き主に代わり、
この腐った世の中に復讐を決行する為に… エマを受け入れず、愛さず、夢を弄び、
ただ来る日も来る日もどら焼き作りを強いるこのイカれた世界に…
"院長先生の許可は貰ってある… 少し、署で話を聞かせて貰おうか…
車椅子が必要かな…?"
刑事の声に首を振ると、二人の警官に肩を抱かれる様に病室を後にした
エレベーターを待つ、踊り場の先の窓から、沈む夕陽が見えた
"解体しますね…"
そう呟くと、私は警官の一瞬の隙を付いて、その窓に全身を打ち突けた
刑事の叫び声も、窓の割れる音も、耳には入らなかった ただ夕焼け空の中を
私は飛んでいた エンジニアとして自分の造った飛行機で、沢山の友達と世界中を
冒険したい… そんなエマの夢を、ほんの少しだけ叶えられた気がした
でも何故だろう… アンドロイドの筈の私は… 沢山の血を……



最高裁判所第二小法廷で開かれた上告審で、東京都の自称こけし職人、
須内ミウ被告に対し、懲役11年が言い渡され、結審した
須内被告は昨年2月、農薬混入事件の被害者と偽り、メーカーから慰謝料を
騙し取ろうと企画、面会に訪れたメーカー従業員が慰謝料の支払いに
応じなかった事に激昂し、こけしの様な物で殺害しようとしたして、
殺人未遂等の罪で起訴されていた
須内被告は法廷で「ウンチがビチャビチャ」「大きかったら隙間を通れない」
「事故って万枚」「ピンクは淫乱」等の不規則発言を繰り返し、
弁護側が重度の精神障害の疑いを主張していたが、それを退ける形の判決となった
227名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/14(金) 16:01:58.46 ID:0MMId3/S
今回も堪能いたしました^^
大変楽しかったです。ありがとうございます!

プロの人じゃないんですよね? もしそうなら
公募とかにオリジナル作品応募してみてもいいかも?
228名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/14(金) 19:37:58.50 ID:qQTdjIt3
朝から出禁に見えた
229名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/16(日) 10:25:06.50 ID:xAb/IpoS
風潮
230名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/16(日) 11:54:30.29 ID:/CMEA+JI
>>229
んん?? ^^?
231名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/17(月) 17:53:06.59 ID:bDeMVQKb
>>229

乞食チョンのレス稼ぎ(笑)


115: 名無しさん@お腹いっぱい。 [] 2014/02/16(日) 10:33:59.47 ID:xAb/IpoS

シャリッシャリッ

229: 名無しさん@お腹いっぱい。 [] 2014/02/16(日) 10:25:06.50 ID:xAb/IpoS

風潮

706: 名無しさん@お腹いっぱい。 [] 2014/02/16(日) 10:08:55.36 ID:xAb/IpoS

やばすぎる


http://hissi.org/read.php/slotk/20140216/eEFiL0lwb1M.html?name=all&thread=all
板:スロット機種@2ch掲示板
日付:2014/02/16
ID:xAb/IpoS
名前の数:1
スレッド数:3
合計レス数:3
232名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/18(火) 10:38:49.51 ID:kXsvUUCe
"うわ〜! 凄いです〜!"
窓の外に広がる銀世界に少女は歓声を上げた 一際冷え込んだ昨夜の入りから
ちらつき始めた粉雪は、夜半には勢いを増し、普段は其れとは無縁のこの地を、
さながら真冬の北国の様相に変えていた 厚い雲が覆う暗い空からは、
尚もばら蒔いた様に激しく雪が降り頻り、既に庭のブランコの腰掛けに迫る雪嵩を、
特化ゾーンの如く更に上乗せしていた 少女の歓声に起こされた義姉妹達が、
眠そうな仕草で三々五々窓辺に集り、その光景にやはり感動の言葉を紡ぐ…

『………からの冷たい空気が入り込み、太平洋沿岸では…』
吹き上がる鍋の蒸気が、食欲を擽る香しい空気を充満させる台所
まな板の菜類を小気味よく刻み、鍋の火加減を調整しながら、手際よく器を
テーブルに並べていくその姿は、ラジオをBGM代わりに舞う踊り子の様だ
"おはよう、ママ先生… 凄い雪ね…"
長い黒髪を束ねながら、エプロン姿の少女が台所に入って来た
ママ先生と呼ばれた彼女だが、歳は呼んだ少女と幾らも変わらない
彼女達が身を寄り添うこの場所は、様々な事情で保護者を失った子供達が集まる、
所謂、養護施設である 謝罪の書き置きと僅かな現金を残し、その施設長夫妻が
失踪したのは数ヶ月前 詳しい理由は分からないが、施設の資金繰りに
行き詰まっていたらしい 無責任にも思えるが、彼女達は誰も夫妻を…
パパ先生とママ先生を責めなかった 少なくとも二人は彼女達の面倒を一生懸命
見てくれたし、何より先に本当の親に捨てられているのだ 養父母である先生達が
自分達を捨てる事を、どうして責められようか…
その日から、最年長だった彼女が新しいママ先生となった 名前はイチゴ
1月5日にこの施設の玄関先に捨てられていたので、この名を着けたらしい
"ザクロ、お味噌汁をよそって"
先程台所にやって来た少女に指示を出す 彼女はこの施設で、イチゴの次の年長者である
ちょっとクールで、ぱっと見、取っ付きにくいが、面倒見と責任感が強く、
よくイチゴの補佐を務めてくれた 石榴柄の毛布に包まって捨てられていたのが、
名前の由来らしい
"イチゴ先生、まだ〜?"
美味しそうな匂いに誘われたかの様に、新たなお客が顔を見せた
ショコラの段ボールに入れられていた、ちょっと食いしん坊な彼女
"はいはい、出来たわよ 皆を呼んで来て"
慌ただしくも、賑やかな朝の風景 イチゴはこの朝の雰囲気が好きだ
例え眠くとも、寒くとも、皆に美味しい朝御飯を食べさせるのが至上の喜びなのだ
だって私はママ先生なのだから…
233名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/18(火) 10:41:24.19 ID:kXsvUUCe
""いっただきま〜〜す!!""
施設の食事風景は戦場である さながら東部戦線のカチューシャの如くテーブル
の上に降り注ぐ箸の集中砲火 器の中の惣菜が瞬く間に跡形もなく消し飛んでいく
そんな様子を満足気に見詰めながらも、イチゴの意識は窓の外の豪雪に向かう
彼女はママ先生であっても女神ではない 歴とした人の子であり、本来なら
まだ甘えたい年頃でもある この大雪の中に其をしに行くのは流石に気が重い
それでも行かねばならない事は分かっているが、こんな天気の日は望みも薄いのだ
それでなくても既に十分疎まれているのだから…

"私もお外に行きたいです〜!"
"ママ先生1人だけズルいのじゃ〜!"
"ママ先生は大事なお仕事があるのよ、遊ぶのは雪が止んでからね"
まだ幼い義妹達の目には、膝まで埋まる大雪の中、庭を行くイチゴの姿は楽しげに
映るのだろう 一緒について行きたいとごねる彼女達をザクロが宥める
例え雪が無くとも同行は許されない ママ先生のあんな姿を見せる訳にはいかない
ザクロは、然もすれば熱くなりそうな目頭から意識を反らし、義妹達に教科書の
準備をさせる 彼女達の勉強を見てあげるのはザクロの役目なのだ

「ピンポ〜ン… ピンポ〜ン」
時折吹く北風が大きな雪粒をイチゴの細い身体に叩き付ける 身を切る寒さに
強ばりながら、震える指先で玄関のチャイムを鳴らす 窓の向こうには赤々と灯る
ストーブの炎 そしてその前で動く人影 其処の住人は、チャイムを押す者の
正体を知っていて応え様としない それが返事だ イチゴは玄関に小さく頭を下げると、
その隣家に歩を進める 普段なら数十秒の道程が、今は数歩で同じ時を奪われる
深い雪を掻き分けてたどり着いた隣家は、窓越しにイチゴの姿を認めると
手の甲を降って、退去を促した
"はぁ〜 はぁ〜"
白い息を悴んだ掌にかける イチゴの長い髪に白い雪のブーケが被さる
降りしきる大雪を除けば、こんなやり取りは日常である 最近は目的を果たすのに
随分な距離と人家を訪問しなければならなくなった 今日は特に沸き上がる
何の為に自分は…という魔の呟きを瞬時に噛み砕いて、次の人家を訪ねる
比較的期待の持てる宅である 祈りの言葉を心に唱えながら、チャイムを鳴らす
"は〜い…"
本来なら当たり前のその反応に、何故か零れそうになる涙を必死に堪え、イチゴは
可能な限りの笑顔を作り、ドアが開くのを待つ
234名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/18(火) 10:44:56.11 ID:wG7EbdGs
初潮ナウ
235名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/18(火) 10:44:59.29 ID:kXsvUUCe
"………………はい?"
開かれたドアの向こうに現れた中年の婦人は、イチゴの姿を見て白地に表情を変えた
イチゴは気付かない振りをして口を開いた
"……あの、いつもすみません…… 余ったお野菜とかありましたら……"
"……あのね この前も言ったけど、お役所に相談なさい ご近所の方々も
あなた達の事を心配してるわよ"
イチゴの脳裏に、今日そのご近所の見せた、心配している、という反応が甦る
"…………はい でも…………"
俯いたイチゴの涙腺の奥に氾流が押し寄せる 歯を食い縛って其を押さえた
駄目だ… ここで泣けば最低の人間だ… 涙と不幸を絶対に武器にはしたくない
"……はぁ この雪で家もお買い物には行ってないから…… これで何か買いなさい…"
溜め息と共に婦人は一万円札を突き出した
"ありがとうございます… でも、お金は頂けません… 失礼しました…"
そう言うとイチゴは踵を返し、渾身の力で雪を掻き分けて、その家の庭を出て行った
一刻も早く立ち去りたかったのだ 自分の背中に注がれているであろう、哀れみの
視線から逃れたかったのだ
イチゴ達の暮らしと、今のやり取りを見た者がもし居れば、生意気で愚か者だと
イチゴを詰るかもしれない 確かにそうであろう だが、イチゴは心に決めてあるのだ
助けて貰っても、恵んで貰う事はすまい 笑われても、哀れまれる事はすまい
例えそれが独り善りの思い込みでも、絶対に譲れない物はあるのだ…
施設長の夫妻が失踪した時、イチゴは真っ先に役所に相談に行った
そこで福祉の担当が提案したのが、君達を他の施設に転入させるという物だった
だが、何処の施設も定員に余裕は無く、全国の自治体に協力を仰ぐとの事だった
"私達……バラバラになるの……?"
その問いに、役人は当然と首を立てに振った
その夜の『家族』会議は大荒だった 皆、離ればなれになる事に猛反対だった
私達は血が繋がっていなくても家族だ! 親に捨てられ、養父母に捨てられ、
今度はまた家族と引き離さされるのか! と…
皆泣いていた 其までどんな事があっても笑顔を絶やさぬ彼女達が皆泣いていた…
朝まで続いた会議の結果、イチゴ達は自立の道を選んだ それがどれ程辛い選択に
なろうとも決して後悔はしないと…
其から『家族』は各々の役割を決めて、施設を運営していく事になる
役所との関わりを絶った施設の運営資金は僅かな寄付金だけになった
当然、其れでは食うにも事欠き、ママ先生のイチゴは、食料を得る為の近所への
ドサ回りが日課となった
頂だき物で義妹達の腹は満たしても、施された物で義妹達の飢えは凌ぐまい…
其れが彼女の、絶対に譲れないプライドなのだった…
236名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/18(火) 10:47:47.81 ID:kXsvUUCe
"ママ先生が帰って来ましたね〜"
未だ衰える事を知らない雪空の下、パイプレンチを肩に担いだ少女が声を上げる
雪を掻き分けるイチゴの姿に気付いたのは、黒人の血を引く浅黒い肌の少女
通称アマ子 勿論、義姉妹達に肌の色等気にする者は居ない 機械弄りが大好きで、
施設の設備のメンテナンスを担当する その彼女の声に回りの義姉妹達も反応する
"ママ先生、お帰りなさ〜い!"
"お帰りなさいです〜!"
"お帰りなのじゃ〜!"
その声に気付いたイチゴは手を振って応える だが、その顔に笑顔はない
ドサ回りの収穫が得られなかった事もあるが、設備担当のアマ子がこの雪の中、
屋外に居る事は、何らかの設備の不具合の発生を意味しているからだ
幼い義妹達は無邪気に初めて見る大雪に戯れている 漸くその側に近づいた
イチゴにアマ子が声を掛けた
"水が出ませんね〜 凍ってポンプ回りがやられたかも?"
施設の水は井戸からポンプで汲み上げている 嘗ては水道を利用していたが、
ある日、パパ先生が井戸を堀り、ポンプを設置したのだ 思えば、その頃から
運営資金に行き詰まっていたのかもしれない
"アマ子、寒い所悪いけど、もう少し頑張ってみて… ショコラ、雪の綺麗な所を
浴槽に運んで… さぁ、あなた達も手伝ってあげて…"
"了解ですよ〜"
""は〜〜い!""
てきぱきと指示を出すイチゴ 嘗ては少し内向的でおっとりした性格だった
彼女だが、数ヶ月のママ先生としての実務が彼女を逞しく変えていた
パイレンでパイプを叩くアマ子 そのサポートをしていたショコラは年少組
二人とバケツに雪を詰めていく
"お帰りなさい…"
玄関先で雪を払うイチゴにザクロがタオルを差し出した 手ぶらで帰って来た
イチゴに何も聞かず、井戸の不具合や留守中の様子を報告する
"この雪、当面止まないみたい… あちこちで観測記録だって… 大変な事に
なってるみたい…"
賢いザクロの言わんとする所が、当座の糊口を凌ぐ術である事をイチゴは理解する
実質的に施設の運営の中心にある二人は、多くを語らなくとも、互いの心の中を
読み取れるのだ
"また幾らか余裕はある筈よ こんな時の為にと思って小麦粉も蓄えてあるし…
其より手の空いてる人で雪を浴槽に運んでね"
ポンプの復活は望み薄いだろうが、 幸い、生活に必要な水は回りに埋もれる
程あるのだ イチゴは降り頻る外の雪に、長期の籠城を覚悟していた
237名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/19(水) 12:16:02.11 ID:cRCtqBeE
フライパンに油をひいて、溶いた小麦粉に卵と隠し味の麺つゆを加えた物を薄焼き
にする ざく切りキャベツと天かす、お肉代わりの白玉餅を乗せて二つに折れば、
イチゴ流特製お好み焼きの完成だ 手際よいフライパン捌きで、たちまちテーブル
の上の皿を埋めていく
"やったアル〜! 今夜は人形館焼きアル〜!"
三つ編みを揺らして、中国生まれの少女は歓声を上げた
"お茶も出来ました…"
台所の隅でヤカンを操る、何となく影の薄い彼女は、夕方から飲料用水の製造に
当たっていた 昼過ぎに井戸の修理を断念し、外の雪の清浄な部分を煮沸、
木炭とガーゼで濾過して、其をお茶にして飲用とした 非常事態の水分補給としてやむを
得ない手段だった 根気のいる作業だったが、寡黙で真面目な彼女は、その任には
最適だった 最後の1枚を皿に乗せる頃には『家族』の皆は食堂に終結していた
イチゴ達の暮らす養護施設には人形館という冠名がある 彼女達は屡々、
この施設オリジナルの料理や流儀を人形館風と呼ぶ 幼いなりに自分達の暮らしと
世間との解離を理解しているのだろう、其処には若干の自虐や皮肉の意味も
込められる だが、このお好み焼きに限れば、きっと此より美味しいお好み焼き
は世の中には無い、という自慢と期待の意味が込められていた 彼女達の住む
世界は、例えこの大雪が無くとも、狭く閉ざされた物でしかないのだ

""いっただきま〜〜す!""
楽しげな合唱を合図に少女達が人形館焼きにがっつく イチゴは彼女達の幸せ
そうな笑顔に目を細める だが、テーブルの一角に主を持たない椅子と皿が
寂しげに佇んでいるのを見つけると、静かに立ち上がった 気付いたザクロに
小さく頷き、その主を待つ皿とコップをお盆に乗せて、1人食堂を後にした
暗い廊下の突き当たり、その横にあるドアの前に立つと静かにノックをした
"シャルご飯だよ… 入るわよ…"
部屋の中は闇だった 窓にもカーテンは掛けられず、その向こうの雪明かりに
壁に背を凭れる少女のシルエットが朧気に浮かび上がる
"明かり位つけなさいよ…"
ドアの側のスイッチを押すと、蛍光灯が瞬き、折り畳まれた布団と小さな手提げ
鞄だけが畳の上に鎮座する、殺風景な6畳間を浮かび上がらせた 少女は壁に
凭れたまま微動だにしない ただ、雪の降り頻る窓の外を眺めている
"今日は人形館の人気メニューよ 気に入って貰えたら嬉しいな"
そう言うとイチゴは、少女の前に湯気の立つお盆を置いた
238名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/19(水) 12:18:51.92 ID:cRCtqBeE
彼女の名前はシャルロット この人形館に数ヶ月前にやって来た新参である
新参と言っても、その他がほぼ生まれて間もなくこの施設に入所した事を考えれば、
施設始まって以来の新入りと言ってよかった 勿論、イチゴ達は彼女を歓迎したが、
彼女はけっして打ち解けようとしなかった 彼女は空港で保護された
父は日本人らしいが、彼女もその顔は知らない 北の国の出身である母と共に、
その日、母の祖国に帰る筈だった だが、ここで待っていて、と言う台詞と
額のキスを最後に母は姿を消した… 彼女は今でも母を待 っているのだろう
まだ余りに幼い彼女は、此れから待ち受けるであろう、過酷な己の運命を
素直に受け入れる事が出来ないのだ 私はただの迷子で、此処にいる子達とは違う…
そんな思いが彼女の頑なな態度に結びついていた
そして、その思いだけが、押し潰されそうな彼女の心を支えていたのだった
"おかわりが欲しかったら言ってね こっそり作ってあげる…"
イチゴはシャルの頭を優しく撫でると、イタズラっ子の様に舌を出してウインク
して見せた 今の彼女に心を開く事を無理強いしても、逆効果である事はイチゴも
ザクロも理解していた こんな時にパパ先生やママ先生ならどうしたのだろう…
シャルが来て間もなく2人は失踪した 甘えられる大人が、突如消えた事も
彼女の心を閉ざした原因なのだろうか… イチゴは自分の非力を責めるのだった
窓の外を眺めたまま、反応を見せないシャル イチゴは静かにドアを閉め、
食堂へと戻る 今のママ先生は自分だ シャルだけに気を割く事は出来ないのだ

昼間の内に運んで置いた雪塊を溶かして沸かしたお風呂は、ガス代の節約も
かねて、芋洗い形式になる 浴槽は家庭用に比べれば多少大きいが、それでも
皆が一度に入るには狭すぎる 代わる代わるに身体を洗い、熱目の湯船に順番に
浸かれば、後は寝室に雪崩込んで、就寝までの余暇タイムだ 1日の中で最も
リラックス出来るこの時は、『家族』にとってこの上ない触れ合いの時間でも
ある 施設の中で一番大きなその部屋で、時にはカードゲームに興じたり、
或いは枕投げで対戦したり、又はたわいもない雑談に花を咲かせたり…
『家族』が『家族』である幸せを体感出来る至高の一時 イチゴもこの時間が
大好きだ 既に窓のすぐ下まで迫る雪嵩と、宵の口から強くなってきた風のせいか、
一際冷え込む今夜は、皆の布団を部屋の中央に集め、其処に潜り込んでの
かまくらごっこだ 各自が秘蔵の駄菓子を 持ち込んで、まん中で顔を合わせ、
お喋りしながら何時の間にか眠りに就いて行く…
其は、イチゴが正月に民生員から頂いた南部煎餅の包みに手を掛け、
布団の山に潜り込もうとした時だった
239名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/19(水) 12:21:41.35 ID:cRCtqBeE
一際強い風が唸りを上げ人形館を撫でた瞬間、恰も、プツン、と音がしかの様に
蛍光灯の明かりが掻き消えた
"あ……停電………"
そのイチゴの声に、布団の中からぞろぞろと義姉妹達が顔を出す
"断水の次は停電…? 雪と風のせいね… この天候だと暫くは……"
他の義姉妹達が突然の停電をサプライズイベントの様に燥ぐ中、ザクロが視線を
向けてくる事は暗闇の中でも分かった
"きっと明日には直るわよ… さぁ 丁度良かった かまくらの中でお喋りしましょう"
その声で再び布団のかまくらに潜り込んで行く少女達 大雪に停電…
何時もと違う非日常の中、普段より若干興奮気味のお喋りは大いに盛り上がる
それでも、夜半を過ぎる頃には1人、また1人と睡魔によって夢の世界に
引き摺り込まれて行った イチゴもまた、皆の寝息に誘われて、微睡む意識を
ゆっくりと溶かして行った その次の瞬間…
「ババババババンッ!!」
""きゃぁっ!!""
"何ですかー!"
"何なのじゃあ!?"
突如、謎の轟音が響き渡り、少女達は微睡みの世界から叩き出された
"風よ! 大丈夫! 安心して!"
イチゴは皆を安心させようと反射的に声を上げた 事実、その言葉を言い終わると同時に、
新たな風の一陣が人形館を叩き突け、その振動が窓を大きく鳴らした
"お家、飛ばされないかな〜"
"怖いです〜"
何時の間にか台風を思わせる程、勢いを増した風とその音に不安を覚えながらも、
隣にある温もりに癒されて、再び眠りにつこうとする少女達 誰かの微かな寝息が
聞こえ出した時、また轟音が響いた
「ドドドドドドドドッ!!」
""きゃぁぁぁっ!!""
壁を殴りつける様な風の音に少女達は跳ね起き、側の誰かと抱き合う
"……だ、大丈夫だからね……"
そう言って皆を励ますイチゴも、沸き上がる恐怖を押さえるのに必死だった
暗闇の中、吹き荒れる風と軋む人形館の音だけが響く こんな時に頼れる大人が
居てくれたら… ふと浮かんだそんな思いをイチゴは頭を振って払った
この中で一番の大人は自分だ 自分が皆の頼りにならなければ…!
その時、寝室の前の廊下に足音がして、襖が静かに開いた
""きゃぁぁぁっ!?""
すっかり怖じ気付いている少女達は悲鳴を上げる だが、イチゴは直ぐに
その音の正体に気付いた
"こっちにおいで! 皆で居た方が安心でしょ?"
240名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/19(水) 12:23:49.87 ID:cRCtqBeE
暗闇の中、ぼんやりと浮かび上がるシルエットが、その声に反応して、
イチゴの胸に飛び込んできた イチゴは嬉しかった これまで、頑なに心を閉ざしていた
彼女が、初めて自分を頼りにしてくれた事が… 朝からずっとこの悪天に悩まされ
てきたが、この瞬間だけはそれに感謝した
"皆で一瞬なら怖くないです〜"
義妹達もきっと同じ気持ちなのだろう これまで心の中でずっと気になっていた
彼女が、文字通り『家族』の輪に飛び込んで来てくれたのだから…
暴風は脈動する様に、その勢力を一時弱めてはまた盛り返す 再びやって来た
風の一団が轟音を鳴らし、人形館を激しく揺さぶる イチゴの腕の中でシャルが
ガタガタ震えている 今まで感情を一切表す事がなかった彼女の、初めての
哀れな感情表現 イチゴはシャルを一際強く抱きしめる
"大丈夫だからね! みんなで居れば安心だからね!"
"………怖い ……怖い ……が…来る……"
ガチガチと歯を鳴らし、まるでイチゴ自体に潜り込まんとする程、その小さな
身体を押し付けて来るシャル…
"………来る? ………きっと、朝には嵐も去って行くよ… さぁ ここに潜って…"
そんなシャルを抱いたまま、布団の山裾を捲り上げ、中に潜り込む
"この建物はコンクリート製ですから、風位で壊れませんよ〜!"
中央で顔を付き合わせたアマ子が、きっとシャルを安心させる為だろう、声を上げた
"あたしはマロンです〜 宜しくです〜"
"わらわはアプ様なのじゃ!"
年の近い幼年組は、新しい友達に改めて自己紹介をする だが、シャルはそんな
少女達の挨拶には反応せず、小さな声を譫言の様に絞り出した
"………ママが言ってた…… 見たこともない大雪の降った夜に…… 風がアレを
連れ来るって…… みんな…… 殺されるって……"
""!!""
布団の中の少女達が息を飲んだのが、暗闇の中でも分かった 普段なら他愛もない
お伽噺として、幼年組以外は鼻で笑ったかもしれない だが、既に異常事態と言って
よい天候とそれに伴う障害が、少女達の心を普段より数段ナーバスにし、
更につい先刻まで、まともに口も聞かなかったシャルの怯え切った口調が、
そのお伽噺に凄まじいリアリズムを与えていたのだ
疑心、暗鬼を生ず… 古の諺が示す様に、早速、少女達の耳には、風の唸りが得体の
知れない怪物のそれに聞こえてくる
"ア、アレって…ナニアル…?"
誰しもが心に浮かんだ疑問を、中国娘が代表するかの様に尋ねた
241名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/19(水) 15:41:32.95 ID:0jsH4r4N
いつもお疲れ様です^^

スロに行けなくなった僕の娯楽の一つが続いてくれて
いてなによりです。

スロット?にあったのかな? 元ネタがわかりませんが
いつも通り楽しんでます^^

続きが気になります。
お手隙の時に、是非お願い致します!
242名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/20(木) 09:15:37.61 ID:qOUfACBa
"………風が止んだ…… 怖い! 来る! みんな殺される!"
その問にも答えず、シャルは震える声で叫んだ その声に意識を外に向ければ、
確かに、つい先刻まであれ程吹き荒れていた暴風がピタリと収まり、不気味な程の
静けさが人形館を覆っていた
待ち望んでいた嵐の終演だが、誰1人声を上げる者は居ない ただ、息を殺して
やって来ると言う何者かの気配を闇の中に探す…
「ドサッ!」
""ひぃっ!?""
突如、何かが雪を潰す音が静寂を破った
"何なの!?"
"こ、怖い!"
"みんな落ち着いて! 屋根の雪が落ちただけよ!"
そう叫んで皆を落ち着かせるイチゴも、言い知れぬ緊張に喉が渇ききっていた
誰もが感じていたその緊張は、別の生理現象も加速させる
"マロン、おトイレに行きたいです…"
"わらわも行きたいのじゃ…"
"アマ子も行きたいですね…"
続々上がるその声に、ザクロは人形館でただ1台、彼女が預かる型遅れの
携帯電話を開く 淡い光が彼女の白い顔を浮かび上がらせる
"おトイレに行きたい人は着いて来て…"
"ごめん、ついでにお茶が残ってたら飲みたいな… 喉、乾いちゃった…"
イチゴの声に夕方までお茶作りをしていた少女が答える その手伝いも兼ね、
結局、イチゴとシャルだけが寝室に残された
"怖がらなくても大丈夫だよ… シャルのママが言っていたのはね…
言うことを聞かない悪い子達の所にだけやって来る怪物なのよ… 私達はな〜んにも
悪い事してないんだから、怖がらなくても平気でしょ…?"
そう言ってシャルの肩を叩くイチゴ その言葉には、彼女の信念も込められていた
例え本当に得体の知れない何かがやって来たとしても、自分達が危害を加え
られる謂われは無い だって私達は、もう十分不幸な星の元に生まれたではないか…
誰にも迷惑を掛けず、清貧にただ毎日を生きるだけの私達を、
一体誰が傷つけようと言うのか…
"……でも私……悪い子だから………"
"えっ?"
"私……悪い子だから…… 皆と一緒にご飯食べないし…… お話も出来ないし……
私が悪い子だから…… だから…… ママも…… 私の事……"
シャルが顔を埋めるイチゴの胸に、温かい感触が広がっていった
"そんな事ない! 本当に悪い子は、自分を悪い子だなんて言わないものよ!
シャルのママは、きっと迎えに来るよ! だって………!"
シャルの肩を強く抱くイチゴは声を詰まらせた 自分にも居る筈の母の存在を…
忘れていたつもりのその存在を… シャルの温かさが思い起こさせたからだった…
243名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/20(木) 09:19:06.31 ID:qOUfACBa
""いやぁぁぁぁぁっ!!""
凄まじい悲鳴が静寂の人形館に響き渡った 無数のけたたましい足音が廊下を駆け抜け、
イチゴの待つ寝室へと飛び込んできた
"何かいる! 表に…! 何かいる…!"
普段は冷静沈着で、ちょっとの事では顔色1つ変えないザクロの聞いた事も無い
上擦った声に、然しものイチゴも恐慌に近い感情が沸き上がるのを感じた
彼女とてまだ年端もいかぬ少女である 責任感だけで全てを切り抜けられる程、
強靭ではない
"お、落ち着いて… 落ち着いくのよ…"
叫びたい衝動を必死に押さえて紡いだその台詞は掠れていたかもしれない
"怖いです〜! お化けです〜!"
"何か居たアル! 音がしたアル!"
ザクロと共に転がり込んで来た少女達も銘々に体験した恐怖を口にする
「ザクンッ」
""ひぃっ!?""
窓の外で、また雪を潰す音がした
""い、いやぁぁぁっ!!""
既に少女達の精神状態は極限である
"お、落ち着いて! 雪よ…屋根の雪が…!"
「ザクンッ」
""!!""
「ザクンッ」
"そんな………嘘よ……"
最早イチゴにも、皆を励ます余裕は無かった 彼女の脳裏にも、雪を踏み締め、
人形館の周りを回る得体の知れない何かの姿が浮かび上がっていた
その足音は人間程度の軽い物ではない もっと巨大な質量を持った何か…
「ザクンッ」
"………ンゴロポポス……"
イチゴの腕の中でシャルが呟いた
"えっ!?"
"ンゴロポポスが来た…… ママ…… 助けて……!"
「ウオォォォォォォォォォッ!!!」
""きゃぁぁぁぁぁっ!!""
それは獣の咆哮とも、人間の断末魔とも思わせる、得体の知れない何かの叫び声だった
既に少女達は悲鳴以外の意味のある言葉を発する事が出来なかった
バリバリッ、ガチャン! と音がして、窓ガラスが粉々に砕けた 其まで止んでいた
筈の風が、操られているかの様に、割れた窓から猛烈な勢いで雪崩込んで来る
手で風を遮りながら、割れた窓の奥を見遣る 其処でそれと目が合った
"!!"
『目』と言っても、其れは窓の半面を埋める程もある巨大な光の玉であった
人知を越えた得体の知れない巨大な何かが、今すぐ其処にいる…
吹き込む猛烈な風と、理解を越えた恐怖に、少女達は身動ぎ1つ出来なかった
244名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/20(木) 09:24:33.97 ID:qOUfACBa
次の瞬間、窓から大きな白い雪の塊が、静かに侵入して来た 其れが5本の指を持つ、
巨大な何者かの右手だと認識するのに時間は掛からなかった
見る間に大きく広げられた其れは、獲物を物色するかの様に寝室の宙空をさ迷う
"……いやぁ………"
悲鳴を上げる気力も少女達には残っていなかった
目の前の光景と極限の状況に、脳が感情の処理を仕切れないのかも知れない
"!?"
突如、イチゴに抱かれたシャルが起き上がり、その白い巨手の前に立ち塞がる
"シャル駄目! 危ない!"
イチゴの悲痛な叫びが木霊する
"ンゴロポポス… 悪い子はシャルだけなの… だからシャルだけを連れて行って…
皆は…とってもいい子だよ… 悪いシャルを… 悪いママの所に連れて行って……!"
恰もその言葉に反応したかの様に、白い巨手はシャルの前で動きを止めた
そして、獲物を見つけたかの様に彼女の小さな身体を包み込もうと一段と掌を広げる
"待ちなさい! ンゴロポポスだかジーサマーだか知らないけど、
あんたに私達を傷つける権利があるの!?"
シャルの前にイチゴが立ち塞がった 何故かは分からないが、さっきまであんなに
震えていた膝は元に戻り、恐怖で鳴っていた奥歯は強く噛み締められていた
イチゴの心の中に熱い物が溢れていた 其れはママ先生としての責任感に
由来する物では無い もっと何か直感的な、本能に由来する怒りに似た感情だった
"殺すなら私を殺しなさいよ! 普段からママ先生だ何だって威張っているのに、
満足に食事も与えられない私を! 皆のひもじさより、自分のプライドを
優先させる下衆な私を! 一番悪い私を!"
イチゴは自ら、その巨手の中に身を進めた 何も怖く無かった 其所か、この巨大な
化物に打ち勝つ自信さえあった 自分が…私達が…これからの人生で立ち向かう
であろう敵は、きっとこんな怪物よりもっと醜悪で、悪意に満ちた物の筈なのだから…
こんな怪物に怯んでいる場合ではない…!
"ママ先生が… イチゴが下衆なら、私は悪魔よ…"
イチゴの傍らにザクロが立つ
"いっつも皆がイチゴの事ばかり慕うのが気に入らなくて… イチゴを困らせたくて…
井戸のポンプを壊したのは私なの… だから、私を殺して! 一番悪い私を殺して!"
"其を言うならアマ子だって悪党ですよ〜 ホントはポンプなんて直ぐ直せたんです〜
ただ冷たい水に手を入れるのが嫌で〜 だからアマ子も同罪です〜
アマ子も殺って下さい〜!"
245名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/20(木) 09:29:26.59 ID:qOUfACBa
"だったらショコラも悪人だよ〜 いつも一番おかずを食べちゃうから〜"
"アタシも悪党アル〜! 実は中国のスパイアル〜! 本当に本当アル〜!"
"こんな間抜けはスパイなど、存在しないのじゃ〜! 口の悪いアプ様が最悪なのじゃ〜!"
"マロンも悪人になるです〜!"
"………私も………"
次々と立ち上がる少女達が、イチゴと共にシャルの前に立ち塞がる
"みんな…!"
イチゴは天才では無いが、人並みの知性は持ち合わせているつもりだ
皆の言葉が真実か否か程度は読み取れる自信はある
イチゴは嬉しかった この子達と『家族』で居られた事が…
「ウオォォォォォォォォォッ!!」
再び怪物の唸り声が響き渡った …と同時に、一段と強烈な風が吹き込み、
その圧倒的質量に少女達は吹き飛ばされる
""きゃぁっ!""
白い光が室内に充満し、イチゴは思わず目を閉じた 数瞬の後、ゆっくりと瞼を上げると、
其処にはもう怪物の姿は無く、ただ静寂の闇が広がっていた
割れた窓の向こうに白い大地と、微かに白け始めた東の空が見えた
"み、みんな大丈夫? 怪我は無い?"
"ガラスがあるわね… 気を付けて…"
"怪物は何処ですかね〜… ンゴ何とかは〜…"
"消えたみたいです……"
"わらわの偉大さに恐れをなしたのじゃな!"
徐々に明るさが増して行く空 其処にはもう厚い雲は欠片も無く、
澄みきった瓶覗色だけが広がっていた
何故、怪物は消えたのだろうか? 夢を見ていた様な気もする…
イチゴは手櫛で乱れた髪を整えると、目の前に座り込むシャルの背中を優しく抱き締た…



"できたです〜!"
"完成ですね〜!"
"コレより此処をアプ城と名付けるのじゃ〜!"
"じゃあ… 今夜からここで寝てね… ご飯は運んであげる…"
"そ、其れはないのじゃ! やっぱりザクロが一番の悪党なのじゃ〜!"
人形館の玄関先に築かれた本物の巨大なカマクラ その前で少女達の明るい笑い声が響く
"みんなおやつよ〜!"
イチゴとシャルがトレイに乗せた手作りクッキーを運んで来た
少女達が歓声と雪煙りを上げて、二人の元に駆け寄って行く
明るい太陽の光に照らされて、人形館は白銀色に輝いていた…
246名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/20(木) 09:33:57.06 ID:qOUfACBa
記録的豪雪に耐えきれず、ミウたんハウスが倒壊したのは夜半過ぎと推測された
重機が投入され、夕方には大半の瓦礫が取り除かれる
ガレージの僅かな隙間からミウたんが無惨な姿で発見されるのは、其から少し後だった
遺体は崩れた屋根と、ボロ車との間に出来た小さな空間で発見されたが、
何故か激しく損傷していた 首と腰が真逆に捻曲がり、腹部は強烈な圧力で完全に
潰されていた
ガレージの奥からは、昨夜近くのホームセンターから盗まれた、数十本に登る
プラスチックスコップが発見され、警察はミウたんが除雪需要で
一山当てようとホームセンターからくすねたと見て、被疑者死亡のまま検察に送致した
更にガレージの床に血糊で「ムリポ」とダイイングメッセージが刻まれているのが
発見されたが、お前も大概ムリポだろ、と警察は一蹴して事件性は無いと判断した

文明が栄え、人は屡々、自然を自らの支配下に置いたかの様に錯覚する
そして、そんな人間の思い上がりに自然は時として牙を剥く
その時、人の運命を左右するのは自然と通ずる人間の精神性なのかも知れない
包帯で覆われたミウたんの無惨な亡骸は、そんな自然の神秘と恐ろしさを
物語っているかの様だった…





…という後味の悪い夢を見て、雪国の麗羅は5時に目が覚めた………
247名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/21(金) 06:30:50.96 ID:SGzQET9z
お疲れ様です^^

今回も大変楽しく読ませて頂きました。
本当にありがとう。もっと長編読みたいから
作家デビュー挑戦して欲しい。
248名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/24(月) 11:38:03.14 ID:JNQS22rb
hosyu
249名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/24(月) 19:27:54.73 ID:RKssOZH7
agg
250名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/25(火) 00:07:33.46 ID:0jSQ/49e
メル さんのコメント
2013年7月18日 6:24 PM
自分も試してみたことあります

夕方から第2天井入って、閉店間際にシャルルから大量ストックしてしまいパンクさせて朝一狙ってみたのですがアウトでしたorz

ART持ち越しできるならリセットも甘いと思うので月100万も夢ではないかと…いやはやうらやましい限りです

なにより、朝一から打てないとギアスは実力を発揮できませんしね


あ…天井狙いで徹夜したガッカリな話がorz
秘宝の第一後、伝説に入った1510があって当時かなり強力なエナバルが居たため徹夜したことあります(笑)
やはりリセットでした○| ̄|_

第一天井抜けを据え置きしたことが多々あったんでかなり自信はあったんですけどね…やはり、俺の地域じゃ当日を狙うしかないです


う〜ん…また愚痴になってしまい申し訳ありませんorz
しかし、高収支を叩き出してるだてめがねさんの地域ですらリセットを見ますし、辛いのがリアルなのではと最近思ってます

http://chosksysi.xsrv.jp/wordpress/archives/21498
251名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/28(金) 03:33:13.37 ID:F59peeoW
こんな時間に目が覚めてしまった・・・。
252名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/28(金) 17:00:53.22 ID:ClfvZ9cO
私も… オリンピック選手になりたい!
感動の内に幕を閉じたソチ五輪 鍛え抜かれた才能溢れるアスリート達による
美と躍動の祭典に、多くの純真な子供達が魅せられ、憧れた事であろう
そんな子供達と幾らも精神年齢が変わらないミウたんも、当然の事ながら
オリンピック選手になった自分を夢想する 夢想するなら誰でもする事だろう
ただ、然もすれば知能に質的欠損が疑われるミウたんにとっては、空想と現実に
明確な境界線は無い なりたいと思ったらなれるのだ 流石にアクロバティックで
ハイエンドな花形種目の選手に直ぐになれるとは思わないが、あの氷の上で行う、
漬物石の様な物を使ったおはじき競技なら簡単に出来る気がする
…見る者全てが漫然と胸に抱くきつつも、本気で口には出さないその思いを、
子供の頃からおはじきが得意で、その遠距離からの驚異が狙撃術から
「何時も同じ服を着た、なんか臭い貧乏な家の虐められっ子」という異名で恐れ
られたミウたんは堂々と公言し、尚且つ本気でそれの選手になる事を決意する
オリンピック選手に魅せられながらも、それに対するリスペクトの欠片も感じ
させない思い上がった勘違い娘ミウたん だか、彼女にそんな勘違いを生じさせた原因は、
その手に握られた1枚のチラシにも存在した 奇しくも今朝、空缶ポストに捩じ込まれた
そのチラシ…
「貴女もオリンピックに出ませんか? 次代のクリスタルジャパン候補大募集!
リゾートホテルで寛ぎながら、旅行気分で隠れた才能を開花させましょう!
〜日本カーリング協会奥多摩支部〜」
ミウたんもミウたんなら、協会も協会である こうしてミウたんはウエストポーチに
着替えの下着とおやつのミカンを詰め込むと、どことなく寂しげなこけし達に見送られて、
選考会場である奥多摩行きのバスに飛び乗ったのだった

記録的豪雪の影響が未だに残る奥多摩の山間を縫って、バスがその湖畔の町に
到着したのは夕方の事だった バスの折戸が開くと同時に真っ青な顔のミウたんが
飛び降り、人目も憚らずバス停の真ん前で豪快に嘔吐した
慣れないバスの旅にミウたんの三半規管は悲鳴を上げていたのだ
極度の苦しみからバス停の時刻表に掴まり、大きく肩で息をするミウたん
"大丈夫ですか…?"
そんなミウたんの背中を擦る者がいた
"や、やめ…ンゲロロロッ…!"
それに反応して胃の中の残りをぶちまけるミウたん
"ご、ごめんなさい!"
そのお陰か幾らかすっきりして楽になったミウたんは、その声の主に向けて顔を上げた
253名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/28(金) 17:08:05.34 ID:ClfvZ9cO
"大丈夫…ですか?"
目があったミウたんに白いハンカチを差し出したのは、短いツインテールの
可愛らしい女学生だった ちょっと頬骨が張った野球のホームベースの様な顔形だか、
逸れでも自分の足元には及ぶ位の美少女であると、上から目線で
ミウたんは認めた 何処からかバスに乗り込んで来たのは気付いていたが、
その時はもう襲い来る吐き気と格闘しており、詳しく観察している余裕は無かった
"あ、ありがとう… もう大丈夫だよ…"
流石のミウたんも、ゲロまみれの己の口を彼女のハンカチで拭うのは抵抗があった
バス停のベンチに腰掛け、ウエストポーチから取り出したパンティで口を拭う
そんな格好いい年上女性の行動に感動したのか、女学生は無言で会釈すると
バス停の脇の道を静静と降りて行った
ミウたんはポケットから朝のチラシを取り出す その片隅に描かれた小さな地図
と、バス停から見える光景とを照らし合わせた 里見スリーセブンタウンズホテル…
"……あれか〜!"
湖の畔に広がる黒い森の中、違和感を湛えて聳え立つ白亜の高層建築物
カーリング選手の選考会場と記されたその建物 想像していた山奥の寂れた
宿泊施設と全く違う、本当にリゾートチックで豪華なその建物にミウたんの
テンションはMAXになり、バス酔いの悪心も吹き飛ぶのだった

バス停から見れば手の届きそうな距離に見えたホテルだが、実際に歩いて行くには
かなりの時間を要した 慣れない土地と
残雪道が更に悪条件となり、ライトアップ
されたその瀟酒な玄関口に辿り着く頃には、すっかり陽が落ちていた
"す、凄〜〜い…!"
ミウたんは息を飲んだ ライトに照らし上げられて、夜空に高々とその姿を晒す
白壁の高層ホテル 近くで見上げるそれは、遠くからの姿より一段と偉容に
満ちていた 門構えから客室の飾り窓、敷地の植え込みに至るまで、気品溢れる
高級感で統一され、そのハイソな雰囲気にミウたんは圧倒された
こんな山奥にこんなホテルがあるなんて… 驚きと共にミウたんの心に大きな不安
の霧が広がっていった いくら何でも豪華過ぎるだろう… こんなホテルに本当に
タダで泊まれるのだろうか… 朝のチラシの一文には、選考会参加者は期間中の
宿泊、食事代を協会が負担するとあった 実はミウたんがこの選考会に
心引かれたのは、この部分も大きなウェイトを占めていたのだ
あくまでカーリング選手としてオリンピックに出るのが目的だが、
ついでに旅行気分を満喫出来るなら一石二鳥ではないか ただ、それも無料ならば、
という話である…
254名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/28(金) 17:18:20.54 ID:ClfvZ9cO
今一度、チラシに書かれた会場名とホテルの名を確認するミウたん 間違いはない
更にホテルの玄関脇をよく見れば、カーリング選手選考会場の文字が…
ミウたんがそれでも尚、半信半疑な思いを抱きながら、不安の一歩をロビーに向け
踏み出した時だった
"あの、すみません… カーリング選手選考会の会場は… 里見タウンズホテルは…
此方でしょうか?"
不意に背中の向こうから呼び掛ける声 ミウたんが振り向くと、そこには大きな
リュックを背負った幼い少女の姿があった 長い黒髪をお下げに結わえ、
くりっとした大きな瞳をミウたんに向けてくる
"そうみたいね 貴女も選考会に参加に来たの?"
ミウたんは少女の存在と質問に安堵した どうやらミウたんの疑念は
杞憂だった様だ と、同時に目の前に現れたライバルに闘争心を駆り立てられる
まだこんなに小さいのにオリンピックを目指すなんて… いや、四年後を見据えれば
この位の年から始めねばならないのか…
"はい おはじきは得意なので… 私、八十寺真宵です 宜しくお願いします"
"私は須内ミウ ミウたんって呼んでね 私もおはじきが得意なの…"

ホテルのロビーは外見以上に豪勢な造りだった 吹き抜けの遥か天井から、
それ自体が小さな建物程もある巨大なシャンデリアが光のシャワーを降らす
その床には、きっと此がペルシャ絨毯という物なのだろう ふかふかで歩きずらさ
すら感じる、細かな紋様の施された広い絨毯が敷かれている
完全に雰囲気に飲まれたミウたんだが、年下の真宵の出前、無様な姿を
見せる訳にはいかず、感情を圧し殺て努めて冷静を装い受付に向かう
"あ、あの… 大人一人、子供一人… カーリング選手選考会に… 応募で…"
それでも生まれて初めてのエントリー&チェックインは白地にぎこちなさが滲み出る
"エントリーありがとうございます 此方にお名前を… 選考会は明日より
実施されます 本日は当ホテルでごゆっくりお寛ぎください… お部屋はツインで
よろしいでしょうか?"
ミウたんと真宵は互いの顔を見合う 姉妹とでも思われたのだろうか
まぁ それも良かろう これも何かの縁だ 一人より二人の方が楽しに決まっている
ミウたんと真宵はルームキーを受け取ると、未来都市を彷彿とさせる光輝く
ガラスチューブの中を行くエレベーターに乗って、17階のデラックスツイン
へ向かうのだった
255名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/28(金) 17:22:59.67 ID:Vt2zQ2B1
なまぽぅさんは、今日もらったなまぽぅをもってはりきってパチンコ屋に行ってきました
なまぽぅさんは、あたまを地面に付きそうなぐらいに落ち込んで帰ってきました
なまぽぅさんになにがあったのでしょう…
256名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/28(金) 17:23:04.13 ID:ClfvZ9cO
"うわぁぁぁ………っ!"
"こ、これは………!"
その重厚な装飾扉の向こうの空間は二人の期待を裏切らなかった 場違いなまでに
贅を尽くした調度の数々… 王公貴族の物語に登場する様な天蓋付きのベッドは
あまりに広大で、寧ろ安眠を期待出来ない
そのシーツの折り目から、筆記机に
刺さる羽ペンの角度、ソファーに並べられた大小のクッションの配置まで、
至る所に洗練された美的センスが醸し出され、その圧倒的ブルジョア感に
平民として宿泊する事の激しい罪悪感さえ抱くのだった
"湖が見えるよ!"
興奮を抑えられず、フルハイトガラスから望む暗い夜の下界を指差すミウたん
その姿は真宵と同じ子供の様である そして真宵もそんなミウたんに親近感を
抱いている様だった
『プルルルルルルル…』
唐突にベッドの脇に備えつけられた電話が鳴る 大袈裟にベッドにダイブした
真宵が受話器を取る
"はいはい… 分かりました… ありがとうございます…"
大人の様なませた応答をして受話器を置いた真宵がミウたんに振り向く
"ミウたんさん、地下のレストランでディナーだそうです"
"ご、ごはん! ごはんキター! ご馳走キター!"
正直、このホテルを見るまでは、饗されるであろう食膳に過度な期待は
抱かなかった 所詮はタダ飯、普段の貧しい孤食よりまともな物に
ありつければよい それだけでもミウたんにとっては十分な天恵であった
だが来てみればどうだ… 山奥の寂れた旅館程度の物を想像してミウたんの
予想を余りに裏切る3つ星クオリティー
弥が上にも期待値は跳ね上がる 夕方の嘔吐で胃の中も空っぽだ
もう全てが夢見心地のミウたんは真宵の手を引くと、再び光の管の中を地下の
レストランに向かい降りて行った



"ふっふっふっ… 中々の粒よりが集まりましたねぇ…"
何十もの監視カメラの映像が壁面を埋める暗い部屋 ディスプレイの青い光に
浮かび上がるスキンヘッドの男は満足気な笑みを浮かべる
"まぁ 傷物も有りますがね…"
その視線の先のディスプレイには、垂れる涎を舌で救いながらレストランの
扉を開ける、端ないミウたんの姿が撮されていた
257名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/01(土) 16:05:44.91 ID:pok/O+SV
"すげぇぇぇぇぇっ!! マジぱねぇぇぇぇぇっ!!"
ディナー会場であるレストランは数百人が一度に会せる程の広さがあった
中央には和洋中、多種多様で色彩鮮やかな豪華料理の数々を所狭しと乗せた
テーブルが幾つも並ぶ 食欲を誘う芳しい香りが、既に料理に舌鼓を打つ多くの
先客達が放つ人熱れと共に、その扉を開けたミウたんの脇をすり抜ける
飢えた子豚の様な鳴き声を上げ、小走りでテーブルに駆け寄るミウたん
"ターゲット確認!"
名前も知らぬ名品珍品料理の中からミウたんが最初に目を付けたのは、
如何にも貧しい家の子らしく、スペアリブの肉塊であった 受け皿をノールックで
掠め取ると、手にしたトングを一際大きい狙いの肉片に伸ばす
"どっか〜〜ん!"
だが、そのミウたんの垂涎の一品は謎の擬音と共に視界から消えた
"へへっ 大きなお肉さん、アリスのお口にジャックインしてね〜"
"!!"
ミウたんから至高の喜びを奪ったのはお馬鹿口調の赤毛の女だった
ご機嫌な鼻歌を奏でながらスペアリブの大きな一辺をトングで自分の皿に乗せる
ハーフなのか、そのメリハリのある顔立ちと豊満なボディは日本人離れしていた
とりわけミウたんの目についたのは、胸元に浮遊する赤色巨星の連星だった
主の僅かな挙動に敏感に反応し、わざとらしいまでに躍動するその連星が、
ミウたんの目には最大レベルの挑発に映った
"な、何よ! 大きいのがそんなに偉いの!? 私のお肉、返しなさいよ!"
ミウたんのコンプレックスも絡んだその警告 だが赤毛の女はまるでミウたんなど
眼中に無いかの様に軽く会釈すると、
踵を返して人混みの中に消えて行った
"小波アリス… 去年のおはじき日本チャンピオンです あの人も来ていたのですね…"
呆然と立ち尽くすミウたんの背後から、パスタを啄む真宵が呟いた
"!!"
その声にミウたんはハッとなる
そうだ、ここにいる女性達は皆、次代のクリスタルジャパン候補 ミウたんの
ライバルなのだ 改めて周囲を見回すミウたん それまで背景のモブキャラに
過ぎなかった彼女達が、皆一様に闘気を秘めた強敵に見えてくる
負けられない! ミウたんは右手に握った手羽先にかぶり付きながら闘志をたぎらす
オリンピックで金メダルを取り、CMデビューで大枚を手にするのは自分なのだ
未だにカーリングをおはじきの一種としか捉えない、浅はか女達の様々な思惑が
肉料理の油飛沫と共に渦巻き、レストランの中空を漂うのだった
258名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/01(土) 16:08:23.94 ID:pok/O+SV
備え付けのスピーカーからマイクのハウリング音がレストランに響いた
"おっほん… 次世代クリスタルジャパンとの対面をあと何日… あと何日…
と指折り数えて居りました… 長い長い日々でした… 昼過ぎに出社して皆さんと
対面した今この時の感動は、この先決して忘れる事は無いでしょう…"
不意にレストラン最奥部のカーテンが左右に開き現れるステージ
その上に細身のスキンヘッドの男が立っていた 大きな黒いサングラスを掛け、
アロハシャツを纏うその姿は、何となく胡散臭さが漂う
"ようこそ、里見スリーセブンズタウンホテルへ!
そしてクリスタルジャパン選考会へ!
私は当ホテルの創業者にして支配人、そして日本カーリング協会奥多摩支部長、
瀬賀里見之助衛門でございます! 皆様のご来訪を心より歓迎致します!
本日は細やかでは有りますが、粗酒粗餐をご用意致しました 皆様、心行くまで
お楽しみ下さい! さぁ 酔いしれろ!! "
その言葉を合図の様に、レストランに軽快なメロディが流れ、開かれた入口の扉から
カラフルなドリンクを乗せたカートを押して、ホスト風のイケメン達がやって来る
""キャア〜〜〜!""
黄色い悲鳴が方々で上がる オリンピックを目指すとは言え、そこは皆、若い女性達
である 旅先の開放感も相まって興奮状態になった彼女達の饗宴が幕を開けた

"いやぁ〜 ひゃっぱり〜 あかちゃんは〜 しゃいてい〜 じゅうにんは〜
って、にぁにお〜 ゆわしゅの〜 えっち〜〜!"
既に泥酔状態でホストの一人に文字通り絡み付くミウたんを傍目に、
腹も満たした真宵はレストランの扉をすり抜ける 流石にこの雰囲気を
楽しむには彼女はまだ若すぎた 旅の疲れも出て、独り寝室に戻るべく、
再びエレベーターの乗り口に向かう
"!?"
すっかり人気も無くなったエントランスの隅、並ぶソファーのその1つで
ポツンと俯き腰掛ける人影に真宵は気付いた 体調でも悪いのだろうか?
無視も出来ず、その影に近付く
"!?"
その影も近付く真宵に気付いたのか、顔を上げて視線を向けてくる
"……どうして泣いてるのですか? 何処か痛いのですか?"
短いツインテールに学制服を纏ったその女性はハンカチで目頭を拭っていた
"……貴女…… まさか……クリスタルジャパンの……?"
真宵の問いに、その女性は質問で返してきた
"え……? はい、おはじきが得意なので…"
"そんな……駄目! 逃げて! まだ子供じゃない!"
"!? 逃げる……? スポーツに年齢は関係ありませんよ"
"!!"
その時、エントランスの向こうに人の気配がした 女性は慌て立ち上がると
真宵に、逃げて、と囁き何処かに姿を消した
259名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/01(土) 16:13:47.80 ID:pok/O+SV
"ミウたんさん、起きて下さいよ! 朝ですよ! 寝坊ですよ!"
"う、う〜〜ん……!?"
真宵の声が頭の中に響き、ミウたんの意識は無理矢理覚醒された
途端に激しい頭痛と悪心が襲う 完全に二日酔いだ 芋焼酎6本を開けた辺りから
昨夜の記憶が無い
どうやって部屋にたどり着いたのか… 何故お地蔵様を抱いて寝ているのか…
"もうすぐ、ホテルに隣接した室内リンクで選考会が始まるそうです"
"!?"
そうだ、金メダルだ、大枚を得るのだ ミウたんは割れそうに痛む頭を擦り、
真宵の差し出す冷水を飲み干すと、臭い息を吐きながらゆっくりと起き上がった

ミウたんと真宵がその会場にやって来た時には、既に多くの参加者が
あちこちで思い思いにウォーミングアップをしていた 体育館4つ程の広大な
スペースに、リンクと数百席のスタンド 成る程、選考会を実施するのに十分な
施設だ 恐らくこのホテルは、このリンクを使ったイベントやショーが売り
なのだろう そう言えば… 中央のリンクを見下ろすミウたんの脳裏に不安が
過った 日本の背中側の雪深い田舎の出身とはいえ、アイススケートなるものを
経験した事は無い カーリングをおはじきの亜種程度に捉えていたが、
あれは氷上の競技、果たして上手く滑れるものか…
そんなミウたんの心配を他所に、真宵はベンチに腰掛け、リュックから取り出した
黒いシューズに履き替えていた
"ミウたんさんはマイシューズを持って来なかったみたいですね? フロントで
貸してくれる見たいですよ"
仁王立ちで不思議そうに自分を見詰めるミウたんに真宵は声を掛けた
シューズ…? そう言われて回りを見回すと、ライバル達も真宵同様、シューズに
履き替えている そこで漸く、カーリングがスケート靴を使わない事実に気付いた
"あ……あぁ 私はオランダ流だから… スニーカーでいいんだ…… ハハッ"
咄嗟に意味不明な強がりを吐いて誤魔化すミウたんだが、その内心は忸怩たる
思いに満たされていた おはじきが得意だからカーリングを目指す、そんな理由で
オリンピックに出られると考えている自分が急に情けなくなった
少なくとも此処にいるライバル達は、おはじきの腕も踏まえて、尚且つ、
カーリングの基礎知識もわきまえているのだ
果たして、こんな人達を相手に自分は勝ち残れるのだろうか?
ミウたんの強弁を聞いてか聞かずか、一足早くリンクに向かった真宵が叫んだ
"あれ? 氷が張って無いです!?"
260名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/01(土) 16:16:49.84 ID:pok/O+SV
その声にミウたんもリンクに降りて行く
"ホントだ…"
氷に覆われたリンクをイメージしていたが、そこはただの白く塗られた剥き出しの
コンクリートだった
"それはそうですよ… ここで今から行われるのカーリングは… 選考会は…
石鹸を使うのですから…"
"あ、貴女はあの時の!?"
不意に背後から掛けられた声に振り向けば、そこには昨日バス停でミウたんを
介抱してくれた女学生が立っていた
"どう言う事ですか? 石鹸を使ったカーリングって?"
真宵の質問に女学生は悲しそうな声で答えた
"どうして逃げなかったの? 魔魅られたの…?"
そんなミウたん達のやり取りに釣られる様に、他のライバル達も次々とリンクに
降りて来る そしてやはり、異様なリンクに驚きの声を上げる
どよめきと困惑の問い掛けがそのリンクに木霊し始め立っていた時、唐突に
天井の水銀灯が消えた
""!!?""
数秒後、仄暗い空間の一角にスポットライトが当り、聞き覚えのある声が響いた
"ほっほっほっ リンクに集う美女達を眺めながらのマイクパフォーマンスと
いう贅沢な事をしているがお許しあれ!
ご機嫌は如何かな?"
スポットライトの中に人影が浮かび上がる それは昨夜、レストランで挨拶した
ホテルの創設者兼、支配人という男だった
突然の展開に状況が飲み込めない
ミウたん達は目をしば叩かせる
"おおっと失礼、興奮し過ぎてトランス状態だったわ、お許しあれ…
確か… カーリング選考会… でしたかな? はい、あれは全員合格です
おめでとうございます! それでは全員採用という事で、さっそく実地研修に
入りましょう!"
""??""
ミウたん達の頭上にクエスチョンマークが浮かぶ 合格と言われても、
まだ何もしていないし… 採用? 研修? 何の事なのだろう…?
互いに顔を見回し、不安と不信の感情を高める女性達 そんな中、独り佇む
あの女学生が声を上げた
"みんな… どういう事? 何も知らないの? もしかして… みんなは……
騙されてきたの……?"
""えっ!!""
"だ、騙される!? 誰が? 誰に?"
女学生の言葉に驚く女性達を代表する様にミウたんは叫んだ
261名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/02(日) 06:41:56.58 ID:AB67l2+0
新作お疲れ様です!
今回も楽しんでおります^^

今回はいつもの時事ネタ絡み有り
さらに豪華キャストw
しかも長編!

続き本当に楽しみにしております^^

あ、ちなみに僕の方は今まだスロにいけませんT T
フルボッコヒーローズ・・・成功しないかな・・・。
262名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/03(月) 15:54:48.37 ID:MZgo8IF5
"私の名前は馬目まどか… 私は父に300万円で売られました…"
女学生は静かに俯きながら言葉を紡いだ
"父の借金の支払いの為… 幼い弟に白いご飯を食べさせる為… 今日からこの…
日本最高峰のラブホテルで… ソープ嬢になるのです…"
""はぁぁぁ!!?""
あんぐりと口を開けてフリーズする女性達… 何なのそれ…? 訳がわからないよ…!
"私… てっきり皆さんも似たような事情かと……"
てっきりもこっきりも何でカーリング選手選考会に応募しただけで、ソープ嬢にならねば
ならないのだ? 余りのふざけた展開に、全身の血が瞬間湯沸し器に掛けた様に一瞬で
沸騰し、怒りで髪が天を突かんばかりのミウたんが支配人を睨みつけ叫んだ
"ちょっと! ふざけないでよ! 私が身体で泡立てる人は多分、この世でたった
1人の筈よ! それに大枚が欲しいって言ったって、それはオリンピックを経ての
アイドル路線であって、フーゾク関係はアイドルに致命傷なのよ!"
幾分、周囲とピントのずれた自己主張を展開するミウたん
ピントはずれていても大意は皆同じであろう だが、怒りをぶつけられた支配人は
嘲笑いながらマイクを口に当てた
"宜しい… それでは昨夜の当ホテルの宿泊代と夕食代、締めて108万円、
この場で耳を揃えてお払い頂きましょうか…"
""!!""
またしても、女性達は度肝を抜かれる 話が違う! 選考会中のそれらは無料の
約束ではないか! ミウたん頼りなし、と見たのか、真宵がませた理論を展開する
"それは法的に無効な請求ですね! 広告には宿代、食事代は無料とありますよ!"
"ほっほっほっ 当ホテルがその該当に当たるとは一言もありませんよ…
さぁ 払いなさい…! 払えなければ働くのです!"
途中から支配人の語調が明らかに変わった 支配人が右手を上げると
消えていた照明が再び灯り、広い施設が明るさを取り戻す
""ヒャッハ〜〜!!""
それを待っていたかの様に突如響き渡る奇声 次の瞬間、周囲の観客席の奥から
棘付き肩パットを装着したモヒカン軍団が乱入してきた
""キャァァァァ!!""
突然の世紀末軍団の来訪に悲鳴を上げる女性達は、シャチに追われる鰯の群れ
の如くリンクの中央に追い詰められる
263名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/03(月) 16:00:46.36 ID:MZgo8IF5
"テレビで見て簡単そうだから私にも出来そう… ふふん… 如何にも御頭が弱そうな
雌豚の発想ですね〜… 良いでしょう カーリング選手にお成りなさい
但し、滑るのはストーンではなく貴女達ですよ! それも氷の上ではなく、
殿方の身体の上をね!"
支配人はゆっくりとリンクの中央に固まる女性達の元に近付く
"月額1000円で好きなソープ嬢と遊び放題… 本番行為も忠実に再現…
里見スリーセブンタウンズホテル専属ソープ嬢ユニット、
クリスタルジャパンとして別の意味で金メダルを目指すのです!
皆様を最高の風俗嬢に致します事… お許しあれ (;^_^A "
""いゃあぁぁ……""
最早、力無く呻き声を上げるだけの女性達 支配人は己の顎を撫でながら、
舐める様な眼差しで怯える彼女達を見回す
"なぁに、心配は入りません この私が今から直々に手取り足取り、
宵越しサバチャンを仕込んで差し上げますよ… ご堪能あれ!"
その下卑た微笑みに、追い詰められた女性達が遂に反抗する
"支配人さん! こんなやり方は卑怯です! 私、警察に行きます! 全てを話して
終わりにします! お金なら返します!"
"馬目まどか……様 残念ながら、貴女との契約は終了しております
我々と契約して風俗少女になった以上、貴女も我々の仲間です
お姉さんがソープ嬢と知ったら弟さんはどんな気持ちでしょうね〜 お許しあれ (;^_^A "
"こっちに来ないで下さい! 私は貴方の事が嫌いです!"
"八十寺真宵……様 世のロリコン程、金に糸目をつけぬ生き物は居りませぬ…
たっぷり可愛がって貰うと良いですよ〜 お許しあれ (;^_^A "
"パイが無いから素無いパイ… でも素無いパイって言うな〜!
小さくても感度は最高なのよ!"
"須内ミウ……様 ロリでも無いのに貧乳とは… お車とお土産を用意させます…
お代は結構ですので、どうかお引き取り下さい…"
"あう〜〜 ピンチだよ〜〜 もうヤダ〜〜 お家に帰りた〜〜い!"
"小波アリス……様 貴女はクリスタルジャパンのエース候補ですぞ
殿方のパンプキンをどっかんさせて、粗利No.1の実力を発揮下さい!
期待して居ります、お許しあれ (;^_^A "

彼女達の悲痛な抗議は軽く聞き流される 方々で絶望の悲鳴と嗚咽が上がる
そんな喧騒の中、耳の穴を人差し指で掻くミウたん 何故だか急激な聴力の
減退を感じていた
264名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/03(月) 16:04:42.10 ID:MZgo8IF5
"取り敢えず前菜はこの辺りから……"
舌舐め擦りしながら品定めする支配人 見詰められた女性達が再度悲壮な抵抗を見せる
"さ、下がれ! 無礼であろう! 下賤の分際でわらわに触るな!"
"芦利ヨシテル……様 貴女様がお〇んぽに弱いのは、最早周知の事実… お許しあれ (;^_^A "
"いや〜! 触らないで〜! セレモーションが〜!"
"鷹岡至……様 貴女は変身なさる時、履いていないそうですね…
純粋そうな顔をしてとんだ変態ですね お許しあれ (;^_^A "
"え〜〜♪ 私が叩かれるの〜〜♪ やだ〜〜♪ 結構、激しくてもいいのよ〜〜♪"
"須内ミウ……様 まだお帰りではなかったのですか? 外で車が待っております
今直ぐお立ち退き下さい…"
"ちょっと! いい加減にしないと酷い目に合わせるわよ!"
"伊勢崎綾……様 勝ち気な女性をデレさせるのも一興 プラトニックラブで
お許しあれ (;^_^A"

"さぁ 萌えスロのヒロインの如き美女の方々を私のブラウザ(私室)にお連れしろ!"
""ヒャッハ〜〜!""
""キャァァァァッ!""
支配人の合図でモヒカン軍団に連行される女性達
たった独り… ミウたんだけが、その一団から取り残された…
ミウたんは天井の水銀灯の1つを眺めていた
(あの夏の日の太陽みたい……)
ミウたんは遠い昔を思い出していた 油蝉の鳴き声と草いきれ
一陣の涼風が縁側を吹き抜け、待ち焦がれた日没の訪れを告げる
その風に乗って微かな祭囃子が聞こえた それに誘われる様に、幼い日のミウたんは
玄関を飛び出す 手にはこの日の為に、3ヶ月貯めた200円 …
父が母の形見の着物から仕立て直したという、白地に大きな赤いMの字が描かれた
浴衣を纏い、夏祭りの会場である
神社を目指した 境内に至る道の両側には様々な出店屋台が軒を並べ、
行き交う人々と共に、普段とは違う活気を醸し出していた
"そこの可愛いお嬢ちゃん、寄ってきな!"
不意に誰かが声を上げた 反射的にその声の主を見遣る それは型抜き屋台の主だった
その主と目が合う ミウたんは周囲を見回すが、近くに自分の他は居ない
ミウたんは自分の鼻先を右手で指差し、小首を傾げる
"そうだよ、そこのマルハン浴衣を着た可愛いお嬢ちゃん! 遊んで行きなよ!"
265名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/03(月) 16:08:45.30 ID:MZgo8IF5
ミウたんは自分の頭と心の中に、色鮮やかな花畑が広がって行くのを感じた
(可愛い…? 私、可愛いんだ… 可愛いかったんだ!)
ミウたんがチョコバナナ欲しさに3ヶ月貯めた200円は、オニムカデと
ハリセンボンというあり得ない無料ゲーの前に1分で溶けたが、
ミウたんは少しも後悔は無かった 私は可愛い… その日からその思いがミウたんの
思考を支配し、全ての行動原理となったのだった…

"ウォォォォォォォッ!!!"
ミウたんの怒りの咆哮がリンクに木霊した
"な、何ですか!?"
振り返る支配人の目に、深紅の闘気を纏ったミウたんが疾走して来る様が映る
"何ですかあれは! お前達、止めるのです!"
"ヒャッハ〜! ここは通さないぜ〜!"
モヒカン軍団がミウたんの前に立ち塞がる だが、弾丸の如き速度で疾走する
ミウたんは一瞬でその間をすり抜ける
"あべしっ!!"
"たわばっ!!"
何が起きたのか、短い断末魔を残してモヒカン達は倒れる
"な、な、な、何なのです!? やめ…お止めなさい…!"
青ざめた支配人が両手を突き出しながら後退りする
"貴様に〜 明日を生きる〜 資格はねぇ〜!!"
ミウたんを包む闘気が一際勢いを増し、ブラウスのボタンを弾き飛ばす
"お許しあれ! お許しあれ! お許しあれ〜!!"
"あぁぁぁぁたたたたたたたたたたたっ!!"
ミウたんが繰り出す無数の拳が支配人の全身にめり込んでいく
"あべっ! びしっ! おえっ! にゃも! ぐはっ!"
"おわぁぁぁたっ! 北斗残悔拳! …貴様には地獄すら生温い!!"
止めの一撃を脳天に叩き込み、クルリと背中を向けて決め台詞を吐き捨てる
ミウたん ドサリッと音を立てて支配人はコンクリートの上に崩れ落ちた
"ミウたんさん、凄いです!"
"チャンスだよ〜! 今のうちに逃げ出そ〜!"
ミウたんの活躍に、解放された女性陣から歓声が上がる
"死にたい奴から前に出ろ…!"
""!?""
"ミウより可愛い萌え娘など存在しねぇ!! 貴様らにも… 明日を生きる資格はねぇ!!"
""嫌ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!""
266名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/03(月) 16:12:46.32 ID:MZgo8IF5
最高裁判所第二小法廷で開かれた上告審で、東京都の自称カーリング選手、
須内ミウ被告に対し無期懲役の判決が言い渡され結審した
須内被告は昨年2月、スマートフォンで偶然にアクセスに成功したネット貨幣取引所の
パソコンのデータを不正に操作し、ネット貨幣「ビットコイン」を大量に
騙し取った疑いで指名手配され、更に逃亡潜伏先の奥多摩地方の某ホテルで
従業員や宿泊客に暴行を働き、18人に重軽傷を負わせ、詐欺や障害、強制猥褻等、
23の罪で逮捕、起訴されていた
須内被告は法廷に於いて「自分は北斗神拳の継承者」「愛など要らぬ」
「悲しみを背負う事が出来た」「ミウより優れた萌え娘など存在しねぇ」
「ウンチがビチャビチャ」等、不規則発言を繰り返し、
弁護側は重度の精神障害の疑いを主張していたが、其を退ける形の判決となった

四年後… 平昌冬季五輪で真宵を中心としたネオ・クリスタルジャパンは
見事金メダルを獲得し、その映像を雑居房で見たミウたんを発狂させ
精神病棟送りにするが、それは又、別の化物語である…
267名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/04(火) 17:56:26.91 ID:U4o0Nj+T
今回もお疲れ様でした^^
堪能致しました〜!

またお手隙の時宜しくお願い致します!!

(しかし2回目のウンチビチャビチャ・・・その趣味がおありですか?w)
268名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/06(木) 18:36:19.81 ID:NEZtHhoo
ミウたんもやはり女の子、雛祭りは幾つになっても心が踊る
自分の前世が花の妖精であると信じて疑わないミウたんにとっては、殊更、
この桃の節句は大事な年中行事の1つなのである
無論、貧しいミウたんの家には雛人形などと言う小洒落た物は無い
無い物は自分で造る… ビール会社のCMを地で行く須内家の家訓
ミウたんは幼い日の記憶を辿りながら、手にした茹で卵に細切れの海苔片を
貼り付けて行く…



"今度の日曜日に、梨々香のお家で雛祭りパーティーをやるですの!
みんなにも来て欲しいですの!"
"雛祭りパーティー? 楽しそ〜!"
"わ〜! 私も行っていい?"
"勿論ですの! みんなで楽しむのれふ〜!"
楽しげなクラスメイトの談笑 それが聞こえない振りをして、ランドセル代わりの
風呂敷で教材を包むミウたん だが、その心は雛祭りパーティーと言う単語に
過敏な迄に反応を示していた
(雛祭りパーティーか… 楽しそうだな…)
小さな溜め息をつくと、風呂敷を抱え、音も立てずに教室を後にする
雛祭りが女の子のお祭りで、綺麗な雛人形を飾ったり、御粧しをして、
甘酒やご馳走でお祝いする物と知ったのは、何時の頃だったか…
知らない方が良かった… ミウたんのまだ
僅かな人生の中で、既に幾度となく
噛み締められたその思い… 道端の石ころを爪先で蹴飛ばす アスファルトを弾く
乾いた音が夕暮れの田舎道に響いた
"ミウちゃ〜〜ん!"
不意に背後から誰かが呼び止める
"!!………みこしちゃん!"
"ハァハァ… 途中まで一緒に帰ろ〜"
"うん! でも今日はスポ少いいの?"
"うん、先生風邪でお休みなんや〜"
神乃みこし… あり得ない程貧乏で、存在自体がコメディとクラスメイトに
揶揄され、いつも独りぼっちなミウたんがクラスで只1人心を許せる存在
関西から転校して来た彼女も、初めは友達も居なく独りぼっちだった
そんな爪弾き同士が仲良くなるのに時間は掛からなかった だが、元々社交的な
性格の彼女は程無く皆と打ち解け、彼女にとってのミウたんの存在は、沢山いる
友達の1人となっていた 更に彼女がにらめっこスポ少に加入すると、
二人の関係は疎遠になりつつあった それでも、こうしてミウたんに声を掛けて
くれる存在は彼女しか居ないのだ
269名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/06(木) 18:38:21.06 ID:NEZtHhoo
"今週のフルボッコヒーローズ見たった〜?"
"うん! まさかあそこで天井まで引っ張られるとはね〜"
"やっぱ、宵越しエナは怖いなぁ〜"
他愛ない会話に花を咲かせ弾む二人の笑い声は、まるで春の訪れを告げる小鳥の
囀りの様に辺りの田畑に響いた
"…ところでミウちゃん、梨々香ちゃん所の雛祭りパーティーに一緒に行かへん?"
"……えっ…… あたしは……"
"?…… ミウちゃん行かへんの? 何でや〜?"
"……うん……ちょっと用事が……"
街外れの森の中にひっそりと佇む小さな神社 それがみこしの住まいだった
ある事情で先代が去り、新しい神主としてみこしの祖父が迎えられたのだった
"ほな、また遊んでや〜"
みこしと別れ、再びとぼとぼと帰宅の途を行くミウたん… ミウたんとて
雛祭りパーティーに行きたいのは山々である だが…行ってどうするのだ…
ミウたんには持参するお土産も用意出来ない お礼にパーティーを開く事も
出来ない それで無くとも、貧乏で友達のお家にお呼ばれしては、夕食を食わせる
まで帰らない、何時も貴重品が無くなる等の出鱈目な噂を立てられているのだ
それに見たく無い物も見えてしまう 知らなければ自分の不幸に気付かないで済む
ミウたんが1年に1度しか食べられないイチゴショートケーキを、友達が毎日
食べていると知った時の衝撃を今でも忘れられない…
行っても辛い思いをするだけ… ミウたんは込み上げて来る何かを紛らわす様に、
勢いよく玄関の引き戸を開けた
"ただいま……"
その声に反応すべき存在は今は1人しか居ない 時間に縛られない類いの生業を
しているミウたんの父は、時としてその声に応答するが、本日はその存在を示す
玄関の直足袋は無かった
風呂敷包みを自室の四畳半に無造作に放ると、腕捲りをして台所に立つミウたん
父が居ない時はミウたんが料理当番である 特に決めた訳ではないが、
何時の頃からかそれが習慣となった 米櫃の底の米粒を掻き集め、炊飯器の釜に
掬って行く ご飯が炊き上がる間に糠床から胡瓜を一本取り出し、ご近所から
頂いた味噌と一緒に小皿に盛れば、須内家の夕食は完成である
年代物のブラウン管テレビに映し出される情景をぼんやり見詰めミウたん
"ただいま〜…"
玄関からそんな野太い声が聞こえた頃にはすっかり陽も落ち、辺りは宵の闇に
包まれていた
"お帰りなさい…!"
ミウたんは唯一の家族の帰宅を玄関で迎える
270名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/06(木) 18:40:21.38 ID:NEZtHhoo
"畜生…… あの店長…… 殺したろか……!"
だが、その唯一の家族である父は、ミウたんの出迎えに一瞥もくれず、ぶつぶつと
何かを呟きながら台所に向かい、戸棚の奥から一升瓶を取り出す
"……………"
駄目だ… 今日は機嫌の悪い父だ… ミウたんはそっと居間に姿を隠す
ミウたんは父が大好きだ 忙しいお仕事で疲れている時でも、時間があれば
よくミウたんと花札やチンチロで遊んでくれた たまにお土産としてスルメや
キャラメルも持って来てくれる ミウたんが大好きな優しいお父さん…
だが、ミウたんが嫌いな父も居る それが今日の様な父だ 父は仕事が上手く
行かない時に機嫌が悪くなる この時の父は最悪で、ミウたんはなるべく近付かず、
嵐の収まるのを待つのだ
"おい、ミウ! 何で糠漬け一本出したんだ!?"
父が一升瓶を片手に居間に入って来る
"お、お父さんが…お腹空いてると思っ…ブベッ!!"
父の強烈な右フックがミウたんの顔面を捉えた 居間の畳の上を勢いよく
転がるミウたん
"何時も糠漬けは半分にしろって言ってるだろ! てめぇが食いてぇ癖に
親をダシにするな! 殺すぞ!!"
父の右足が倒れたミウたんの脇腹を蹴り上げる
"ゲボッ!! ………ウゥ……痛い…… ごめんなさい……"
"ったく… どいつもこいつも馬鹿にしやがって…!"
そう吐き捨てると、手にした一升瓶を煽り始めた 痛みが引くのを待つ事もなく、
ミウたんは立ち上がり夕食の準備をする ほんの少しでも立ち上がるのが遅れれば、
追撃が来る事を体験上理解しているのだ
暗い白熱灯の下、更に暗い空気の中で、
父娘の侘しい食事はあっさりと終わる 本当は… 父が何時もの大好きな父ならば…
ミウたんは父に相談したい事があった だが、今日の父では到底無理な話である
痛む左目と脇腹を庇いながら、無言のまま空器を重ねるのだった

"……ったく…… 何であれが外れんだぁ〜?"
顔を真っ赤にしてすっかり酩酊状態の父 洗い物と、本来は父の当番だった洗濯を
済ませ、ミウたんは慌てパジャマに着替える
"おい…… 早くしろ… 寝るぞ!"
"う、うん… 今行く……"
苛立つ父の声にミウたんは襖を開け、飛び込む様に布団に潜り込む
少しの間を置いて、父も同じ布団に入って来る 酒臭い父の息がミウたんの
頬を撫でる 次の瞬間、父のゴツゴツした手がミウたんのパンツの中に入り
込んで来た
271名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/06(木) 18:42:44.52 ID:NEZtHhoo
ミウたんは身を目を瞑り強張らせる 父のもう一方の手が上着の中に滑り込み、
ミウたんの桃の蕾の様な乳首を弄ぶ それと同調する様にパンツの中の手も
ミウたんの敏感な狭間に侵入し、不快な律動を刻み出す ミウたんは頃合いを
計って声を出す
"……あっ……あっ……あっ……"
それは決して快感から漏れる吐息ではない これをタイミング良く発せねば、
顔面に父の拳を食らう事になるのだ ミウたんは心を殺して、ただ時間が過ぎるのを待つ
もうすぐ酔った父は眠りに落ちる そして明日の朝には優しい何時もの
父が隣に眠っているのだ 父の手がミウたんの乳首を強くつねる 反応が疎かに
なっているという警告だ ミウたんは慌て快楽に咽ぶ演技を始めるのだった



"どうしたんや〜! その痣!"
休憩の教室でみこしがミウたんの顔を覗き込んで叫んだ ミウたんは気まず
そうに左目を撫でる そこにはパンダの様な鮮やかな黒班が浮かんでいた
"ちょっと… ぶつけて…"
父に殴られたと言える筈がない
"そっか〜… 気を付けんとな〜…"
怪訝そうに答えるみこし 30人からなる教室でミウたんの痣に気付いたのは
彼女だけである 彼女以外のクラスメイトにとって、ミウたんの存在とは
その程度の物なのである
"みこしちゃ〜ん 明日の雛祭りパーティー何だけど……"
そんなミウたんと対照的に、みこしはクラスの人気者である 彼女が去れば、
また独りで教室の隅で、窓の外と黒板だけを見詰めるだけの時間がやって来る
放課後、ミウたんは校庭でみこしのにらめっこスポ少上がりを待ったが、
沢山の友達に囲まれてやって来るその姿を見て、何も言わず足早にその場を
去った ミウたんはどうしても、その輪に入る勇気を持てなかった

日曜日、ミウたんは朝から近くの公園に来ていた 父はすっかり何時もの優しい
お父さんに戻っていたが、結局ミウたんは何も言えず仕舞いだった
その父は今日も朝からお仕事に出掛けた 独りで家に居てもつまらない
公園でも独りではあるが、そこに溢れる喧騒はミウたんにそれを忘れさせてくれる
ミウたんは独り、公園の隅で輪転がしに耽る 金属の輪が芝生や土塊の上を
カタカタ走り抜ける様は、ミウたんの頭の中を空っぽにしてくれる 嫌な事を
全て忘れさせてくれるのだ
272名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/06(木) 23:44:31.06 ID:bAP+rSmt
273名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/07(金) 18:07:56.59 ID:Fbg9QXzT
"ミウちゃ〜〜ん!"
"!?"
聞き覚えのある声がミウたんの名を呼ぶ
"ミウちゃん、今日は用事あるんちゃうんか?"
その声の方を見遣れば、みこしとクラスメイトが二人、両手に荷物を抱えて立っていた
(はっ… しまった…)
ミウたんは今日が雛祭りパーティーである事を失念していた
"用事無くなったなら、うちらと梨々香ちゃん家行かへん?"
ミウたんは困惑した 用事が無いとバレた以上、明確に誘いを拒む理由が無い
拒めば要するにその主催者が嫌いというニュアンスに受け取られかねねない
クラスメイトを誘ってパーティーを催そうと考える程の人気者を敵に回すのは、
ミウたんのスクールライフに致命的ダメージを与えるに違い無い
かといって参加して惨めな空気を味わうのも…
"なっ! 一緒に行こ!"
みこしは屈託の無い笑顔をミウたんに向けてくる
(みこしちゃんと一緒なら… 楽しいかもしれない… )
彼女のその笑顔は屈折したミウたんの心を春の日差しの様に温めた
本当は、雛祭りパーティーという単語を聞いた時から、ミウたんの中では無限の
イマジネーションが広がっていたのだ ミウたんが憧れる、普通である筈の
女の子の日常… 頭では拒否していても、心の何処かでは誘いの言葉を待っていた
のかも知れない…
ミウたんがぎこちない造り笑顔でみこしの誘いに乗ろうとした時、その雰囲気を
察したみこしの背後の二人が、彼女の洋服の袖を引く
"…………何で? 何でなん?"
(……………………)
ミウたんには聞こえない三人の会話だが、その内容は容易に想像出来た
自分に来て欲しくないのだろう… 人一倍ご馳走を食べて、金目の物をくすねる
と噂の自分に… 何時も同じ服を着て臭そうな自分に… 顔に大痣を晒す無様な
自分に…
"……あっ! ミウちゃん!"
ミウたんは走り出していた 別に悲しくも辛くも無かった これで良いのだ
来て欲しく無いのだから、行かなくとも問題は無いだろう
ミウたんは田んぼの畦道を架けて行く 目的地等無い とにかく誰も居ない所に
行きたかった 寒色の田舎道を、ただひたすら駆けて行くミウたんの前方に、
一本杉の丘陵が見えて来た
(あそこに行こう… )
街の景色を一望でき、沈む夕陽もちょっとだけ長居する其処は、ミウたんの秘密の
リラクゼーションスポットの1つであった 民家も道路も近くには無い
独りになりたい今には持ってこいの場所だ
274名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/07(金) 18:10:47.32 ID:Fbg9QXzT
"ハァ… ハァ… "
急勾配を一気に駆け上がり、大きく肩で息をするミウたん 丘の中央にある一本杉の
根元に寄り掛かる 頬を撫でる未だ冷たい風が、火照った身体に心地よい
透明な青空を流れる雲をミウたんは眺めていた ここに初めて来たのは
幼稚園の遠足だったろうか… そう言えば、みこしと初めて遊んだ場所もここだった
転校してきたばかりの彼女は、たまたまミウたんの隣の席になり、
担任の指示でまだ彼女に届かぬ副教材を共有したのが縁であった
明るく朗らかな彼女とミウたんは直ぐに仲良くなり、彼女はミウたんの生まれて初めての
友達となった 誰にも知られたく無い秘密のスポット だが、みこしにだけは例外だった
ここはミウたんのパーティールームなのだ 貧乏なあばら家の代わりに
大事なお友達を招待する、お花と青空と絶景を揃えた女の子のお部屋なのだ
ミウたんは枯草の茎を束ねて冠を造り始めた 未だ白詰草は花を咲かせない
あの日、みこしがミウたんの頭に被せてくれた白花の冠 ミウたんには野に咲く
小さな花が冠になるのが驚きだった ミウたんには花冠の造り形を教えてくれる
母も姉妹も友達も居なかったのだ

どの位時間がたったのだろう… 陽は既に落ち、夜の闇が天空を覆い、一番星が
其処に瞬いていた ミウたんの回りには何十もの枯草の冠が転がっていた
昼間よりずっと気温が下がり、ミウたんの吐く息が白く濁る
悴む手元にその息を吹きかけながら、それでもミウたんは一心不乱に冠を造り
続ける 遠い街の明かりが、そんなミウたんの姿を微かに浮かび上がらせていた
"ミウちゃん!! ……やっぱり此処に居ったんや!"
"!!"
息を切らせながらみこしがミウたんの元に駆け寄って来た
"どないしたん? みんな… ミウちゃんのお父さんも心配しとるで!"
"…………"
ミウたんは何も答えず、再び枯草を編み込んでいく
"………ミウちゃん…………… "
みこしは一言呟くと、ミウたんをじっと見詰める 沈黙が二人の間を夜風と共に流れる
"……ミウちゃん! 此処に来る途中、いいもん見つけたんや! …こっちに来てや!"
そう言うと、みこしは今来た坂道を下り始める
"こっちや! 早う!"
ミウたんは躊躇したが、これ以上みこしを無視する訳にもいかず、ゆっくりと
その後を追った 文字通り丘を巻く坂道の中腹でみこしが手招きをする
"これや!"
275名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/07(金) 18:12:52.80 ID:Fbg9QXzT
みこしの指差し先には、彼女と同じ位の高さの小木があった
"…………!?"
"なっ 可愛ええやろ〜"
それは小さな小さな一輪の桃の花だった 微かな星と街の明かりの中、淡い桃色
の花弁が浮かんで見える
"雛祭りの事、桃の節句てゆうやろ? でも、咲くのは本当はもうちょい後なんや
この時期に咲くのは珍しいんやで〜"
"……へぇ……"
この道は昼間にミウたんも通った だが、その時は目に入らなかった
本当につい今しがた咲いたのかも知れない
"まるで、うちらをお祝いしてくれてる見たいやな〜!
どんなお雛様より、これのが可愛ええで〜!"
"……うん!"
みこしのその言葉は決して大袈裟に聞こえなかった 闇に浮かぶ一輪の桃花は
今までミウたんが見たどんな花より綺麗だった
"……ミウちゃん、ちょっと元気になったな〜 やっぱ元気なミウちゃんが一番や!"
その言葉にミウたんは恥ずかしそうに俯く 一体自分は何をしていたのだろうか?
何に苛ついていたのだろうか? わざわざここまで自分を探しに来ててくれた友達
落ち込む自分を必死に励ましてくれる友達 自分にはこんな素晴らしい友達が
居るではないか… 二人を照らす明かりがもう少し強ければ、赤面し、
涙を浮かべたミウたんの姿が浮かんだかも知れない
"うちな〜 ミウちゃんって実は妖精さんちゃうかと思っとったんや〜"
"……えっ?"
"だって、ミウちゃん優しいやろ 其にこんな素敵な所も知っとるし〜
なんや… こう… 上手く言えへんけど… 自分の世界を持ってるもんな〜!
きっと妖精さんの生まれ代わりなんやで〜!"
"……えへっ…… えへへっ……"
"あっ そうや! はよ帰らんと! ミウちゃんのお父さん、心配しとったで〜!"
"うん!"
"ほな、街まで競争やで〜! 負けた方がお尻ペンペンやで〜! よ〜〜い…"
"あの、みこしちゃん……!"
"なんや? ハンディは無しやで!"
"………ありがとう……"
"………よ〜〜い、ドンや!"
276名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/07(金) 18:14:28.21 ID:Fbg9QXzT
"ただいま……"
ミウたんはゆっくりと玄関の引き戸を開けた きっと父は怒っているだろう
もし、今日のお仕事が上手くいってなかったら、きっと明日には痣だらけの顔を
みこしちゃんに見せねばならなくなるだろう…
"遅かったじゃないか! ご飯冷めるぞ〜 早く手を洗って来なさい"
"……うん"
ミウたんは胸を撫で下ろした どうやら仕事は上手く行ったようだ
だが、それにしても機嫌が良すぎる… 炊事洗濯の当番をさぼったのに…
ミウたんは狐に摘ままれた面持ちで、濡れた手をタオルで拭うと居間の襖を開けた
"!!………お父さん……これ……!?"
ミウたんは目の前の光景に絶句した
"あぁ 見た目はいまいちだが、父さん頑張って作ったんだぞ "
そう恥ずかしそうに照れ笑いする父の前、卓袱台の上に鎮座するそれは、
ミウたんが父にねだりたくて、でもとうとう言い出せなかったら雛飾りの…
お内裏様とお雛様… に似た何かだった
お世辞にも上手とは言えないその造形 ミウたんが近付いて見れば、
それは、折り紙と新聞紙でできた束帯と十二単に、茹で卵に海苔とケチャップで
描かれた、雪ダルマの如きお顔を割り箸で
突き立てただけの、簡易極まる
手工芸品であった
"……来年は、きっと本物の雛人形を買ってやるぞ "
ポリポリ頭を掻きながら、独り言の様に呟く父 ミウたんの大きな瞳から滴が
溢れた それは、みすぼらしい雛人形を与えられた悲しみに由来する物ではない
本当に本心からの喜びから来る物だった 今まで、ずっと自分の生い立ちを呪い、
父や周囲に対して言葉にならない苛立ちを向けていた自分が恥ずかしかった
自分にはこんなにも愛してくれる父や友が居るではないか…
自分は決して不幸では無い、自分は世界一の幸せ者なのだと…
"……ありがとう、お父さん!"
ミウたんが父に向けたその笑顔は、その日のどんなお雛様よりも輝いていた
277名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/07(金) 18:16:43.14 ID:Fbg9QXzT
結局その後、父の仕事は5号機時代とやらになり更に立ち行かなくなり、
そして遂に雛人形を買って貰う事なく、父の突然の失踪に繋がって行くのであるが、
今でも雛祭りの季節になると、ミウたんの心に、少女だったあの日の微笑ましい
記憶が甦るのだった
出来上がった茹で卵の澄まし顔を、あの日と同じ新聞紙の十二単に刺すミウたん
"………そろそろ、いいかな"
傍らの男性が静かにそのミウたんに声を掛けた
それに黙って頷き、両手を差し出すミウたん
"3月3日、午後3時33分… 強盗殺人、死体遺棄の容疑で逮捕……"
その手首に男性は手錠を掛けた ミウたんハウスの玄関を抜け、その先に待つ
パトカーに連行されるミウたん 何かに気付いたミウたんはふと立ち止まり、
腰縄を引く男性に語り掛けた
"……刑事さん! ほら、桃の花! 今の季節に咲くのは珍しいんですよ……!"





最高裁判所第2小法廷で開かれた上告審で、東京都の自称こけし職人、
須内ミウ被告に対し、求刑通り死刑が言い渡され結審した
須内被告は一昨年2月、幼馴染みの神乃みこしさんを金銭と猥褻目的で
誘拐し、奥多摩の山中で殺害、遺体を遺棄した容疑で逮捕、起訴されていた
須内被告は法廷で、「とんでもない事をした、死んで被害者にお詫びしたい」
「龍玉詐欺をされ、かっとなった」「生まれて来るんじゃなかった」
「うんちがビチャビチャ」等、一定の反省も示しだが、当初の想定通り
極めて厳しい判決となった
278名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/08(土) 09:34:40.13 ID:hPyCim5m
いつもありがとうございます^^
今回も大変楽しませて頂きました!

なんか、少し自分の子供時代を思い出した〜。
親父に蹴られて部屋の端から端まで飛んだ事もあったし・・・。
スリッパが家にあるのが、あまり珍しくない事を知ったあの日。
家のリビングにすらカーテンが無い事に疑問を持たなかった日常。

今、実家は豊かになったけど。。 僕の毎日はグチャグチャだよ。。。
朝起きて株見て酒飲んで薬飲んで寝る。後何ヶ月それを繰り返せるだろう?
来月の家賃払えるかな?w

フルボッコヒーローズアニメ化w してくれ〜w てか、その前に
何故もっと早く運営体質改善しなかったんだ。。まぁドリコムだから
仕方ないか・・・。あ、ちなみにゲーム自体は無課金でも暇つぶしに
なるくらい楽しめますので良かったらしてみてください。

またお手隙の時に宜しくお願いします^^
楽しみに待ってます。
279名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/11(火) 15:50:00.71 ID:khYd4RWC
ぎぇ〜@@:
280名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/12(水) 00:15:23.75 ID:v5u/3Db7
グロとか鬱系が多いけど普通に面白いです。

ラムネとミラの話、不覚にも感動してしまったし・・・。

野良ラムネかわゆす
281名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/12(水) 18:15:49.01 ID:MLwhq2kt
>>280
面白いよね!^^
僕は毎回楽しみでしょうがないw

ラムネとミラの話は普通にじわっとくるよんね。
個人的には人形館の話が好き。。。

うつ系は多いけどグロはかなり減っていい感じ。

スロット打つなら小説で稼げって言いたいくらい好き。
282名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/14(金) 08:55:54.25 ID:3scoflIp
"この人が全聾の作曲家か〜 スゲ〜!"
フラッシュ瞬く謝罪会見の映像を眺めながら頬杖をつくミウたん
何の為の謝罪会見なのか、という意識はミウたんの中には存在しなかった
自分もいつかスターダムにのし上がってフラッシュの光を浴びたい
(!!)
ミウたんは何かを閃いた様に瞳を見開くと、ゆっくり立ち上がり天を見上げた
(全盲のこけし職人… 須内ミウ… )



"確かに… 自分の作品を自分で見れないのは… 不幸ではありますね… "
新聞記者の男の前でサングラス姿のミウたんは答える
"……御一人で暮らされてる様ですが、不便は無いのですか?"
"えぇ… 何処に何が有るのか直ぐに分かる様に、整理整頓に心掛けていますから…"
記者の男は部屋の中を繁々と見回す 確かに日用雑貨や小物が整然と陳列されてはいる
「大事な書類」と書かれたクリアケース… 色分けされたマグカップとコースター…
カレンダーには謎の赤丸印…
"はぁ… こちらのお茶も上手に煎れられましたね…"
"あっ… どうぞお代わりを…"
ミウたんは、気が回らずにすみません、と言わんばかりの苦笑いで
記者の湯呑みに急須のお茶を注ぐ
"………いえ、お構い無く…… 最後にミウさんの将来の夢をお聞かせ下さい…"
"そうですね〜 出来ればこけし職人で食べていきたいですね〜
ファーストフードのバイトは結構キツイ割りに御給金が安いんですよ〜 "

玄関先で新聞記者を見送るミウたん 記者の会釈に会釈で返す その姿が見えなく
なった所でガッツポーズを決める 「盲目の美少女こけしアーティスト」という
タイトルで新聞社に投書したのが3日前 予想通り食らい付いてきたマスメディア
を手玉に取り、今此処に己のサクセスストーリーが幕を上げた喜びを体現せず
には居られなかった 遂に自分も時代の寵児に…! ミウたんは小躍りしながら
もうすぐお別れであろう、ミウたんハウスの玄関を潜った

"むにゃむにゃ… もうダメ…… もう身体が持たない…… 壊れる…… へへっ……
らめぇ…… そこはらめぇ…… へへっ…… むにゃむにゃ… "
その夜、下卑た寝言を呟くミウたんの枕元に、ぼうっと白い影が浮かんだ
その影は徐々に輪郭を顕にし、髪の長い女性の姿となる
"…………ミウ………"
その影はか細い声でそう呟くと、悲しげな表情をミウたんに向けるのだった
283名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/14(金) 08:59:28.90 ID:3scoflIp
「ジリリリリリリリッ……」
けたたましい金属音を響かせて、目覚まし時計が定刻を知らせる 夢現で覚醒しない
意識の中、ミウたんはその音源に手を伸ばす
"ふぁ〜〜〜〜……"
上半身を起こしたミウたんは、大きな欠伸をして身体を伸ばす 今日も1日が始まる
だが、今日の1日は今までの1日とは違う 今日から私は奇跡の全盲アーティスト
ミウたんなのだ その瞳には既に精気が満ち、頬は心なしか赤らんでいた
"…………あれっ?"
次の瞬間、ミウたんは激しい違和感に襲われた
"…………ここは………何処だ?"
そこは見知らぬ空間だった いや、もっと具体的に言えば………お花畑だった
色取り取りで大小様々な可愛らしい花弁が、穏やかな風に揺られて、遥か地平の
彼方まで悠久の漣を織り成す 暑くもなく寒くもなくただ静かで、済みきった
青空が何処までも続く、途方もなく美しい世界…
"…………あれ? ………あれ? ………やだよ……そんな………!"
ミウたんはふらふらと立ち上がる 足元には寝ていた筈の煎餅布団は無い
確かに触れた筈の目覚まし時計も無い ミウたんの素足の周りには、ラベンダーを
思わせる薄紫の可憐な小花が群生しているだけだった
"……そんなの嘘だよ…… まだエッチもして無いんだよ… 本物の伊勢海老も食べて
無いんだよ… まだ… まだ…!"
ミウたんの背後から優しい風の一陣が吹き抜けた ミウたんの短い髪を撫で、
眼前に広がる大花原の上を泳いで行く
"どうして私死んでるのーーー!!?"
その絶叫は木霊する事無く、只々美しいだけの世界に吸い込まれていく
ミウたんとて人としての最低限の知識や了見は持ち合わせている いま目の前に
広がる光景の意味を理解出来ない訳ではなかった ミウたんはその場に
へたり込み、両手で顔を覆った これは夢だ! 悪い夢だ! 次に目を開けたら
何時もの煎餅布団の中で涎を垂らして目を覚ますのだ! ミウたんは恐る恐る
瞼を開け、指の隙間からゆっくりと外の景色を眺める…
"あぁ…… 駄目だ…… 死んだよ…… 本当に死んじゃった…… こんなに可愛いのに……"
ミウたんはやはりお花畑の中に居た 花の絨毯が幾重にも風の漣を刻む
呆然とへたるミウたん どの位時間がたったのだろうか、そんなミウたんの眼前に
虹色に光輝く羽をひらつかせ、一匹の蝶が舞って来た
"………………"
ミウたんは放心状態でその美しい円舞に見とれていた 暫くすると、その蝶は
花畑の上を何処かへ向かってゆっくりと飛んで行った 時々滞空しては舞踊る
恰もミウたんを誘う様に… 宛も無いミウたんは無意識にその蝶の後を追って行った
284名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/14(金) 09:03:18.51 ID:3scoflIp
どの位の距離を歩いただろうか ほんの数分の距離の様な気もするし、何日も旅を
した様な気もする この世界に来てから全ての感覚が虚ろになりつつある
これが『死』という物だろうか? そう言えば、どれだけ歩いても疲れを感じない
身体は軽く、まるで滑る様に動く 静寂の世界で不意に聞こえたせせらぎの音
次の瞬間、唐突に目の前に大きな川が現れた
(これが……… )
ミウたんはキラキラと輝く川の流れをじっと眺めていた ミウたんを導いた
虹色の蝶だけが何事もなくその川を渡り、そして対岸で光の塊となった
(!?)
その光の塊はゆっくりと人の形となった 徐々に現れる何者かの輪郭
黒い長髪と白い着物、細い体躯と長い脚 何時の間にか其処には一人の美しい女性が立っていた
"………ミウ…… 漸く会えましたね…… "
女性は優しい微笑みをミウたんに向ける
"……辛かったでしょう…… 寂しかったですでしょう…… さぁ 此方にいらっしゃい……"
そい言うと小さな手招きをゆっくりと繰り返す
"………ん〜 もしかして…… 長野の叔母さん?"
"……違いますよ……"
"分かった…… 幼稚園の紀子先生だ!"
"違いますよ…… 無理もありませんね…… 私は理佐…… 貴女の母ですよ……"
"……私の……お母……さん?"
その言葉に女性は静かに頷いた
"お母さん……!? お母さん……!! 会いたかったよ! お母さーーん!"
ミウたんは駆け出していた 水飛沫を上げ川の中を走る その行為の意味する所を
漫然と理解していた だが、最早どうでも良かった 漸く… 漸く母に会えたのだ
生まれつき身体の弱かった母は、ミウたんを産んで直ぐこの世を去った
ミウたんの出産が、自分の身体に致命的ダメージを与える事を理解した上での
出産だった 父が時折自分に振るう暴力の原因が其処にある事を、ミウたん自身
理解していた 正に自分に命を譲ってくれた母 言いたくとも果たせなかった
様々な言葉と思いがミウたんの胸に溢れ返る
"お母さん!!"
だが、その母の胸元に飛び込んだミウたんは何も言葉を発せなかった
只々、涙と嗚咽だけが止めどなく溢れてきた 母はそんなミウたんを、これまで出会った
さ誰よりも優しく抱きしめる ミウたんの思いは、その涙によって十分
母に伝わっていたのだった
285名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/14(金) 09:07:37.04 ID:3scoflIp
"それでね! それでね! ウンチがビチャビチャだったの!"
まるで幼子が感情を爆発させたかの様に母にすがり付くミウたん
取り留めの無い生前の与太話を、唾を飛ばして捲し立てる 母は只、笑顔を湛え、
そんなミウたんの手を強く握り静かに歩を進めた 気が付くと何時の間にか
あの美しい花畑は消え、辺りは寂しげな裸樹の林に囲まれていた
寒々とした曇天の下、白い霧がうっすらと樹木の間を流れる
"うぅ……? 何ここ…? 怖いよ、お母さん……"
ミウたんは母の腕にしがみつく
"ミウ… 貴女はこれから裁きを受けるのです……"
"……裁き?"
"貴女も知っているでしょう… 人は皆、死後、生前の行いを裁かれるのです……"
母の言わんとする事がミウたんにも理解出来た お伽噺に聞いた、あの閻魔様…
本当に存在していたのか… 自らが死者となった今では驚く程の事では無かった
"ミウ… 貴女の魂は善良な人のそれでありましたか……?"
母は物憂げな表情をミウたんに向けた
"勿論よ、お母さん! あたしはパイは無くても愛は大きかったのよ!"
上手い事を言ってやったとばかりに鼻の穴を広げるミウたんを、再び優しい
笑顔で見詰める母
"彼処が冥府の主、死者の業を裁く冥王の住まう館…
ミウ… 母は貴女を愛していますよ…"
母が向けた視線の先に、石組の荘厳な建物が浮かび上がった 西洋の城郭を彷彿と
させるが、それは余りに巨大であり、その尖塔群の頂きは遥か雲の中に姿を
消していた 圧倒的威圧感に息を飲むミウたん 母はそんなミウたんの手を引き、
その巨大な門を潜るのだった 内部はやはり西洋の城郭の趣で統一されていたが、
一つ一つの備品のスケールが人間の感性を超越した巨大さがあり、其処が
人ならざる存在の住まう所である事を改めて実感させた 手を繋ぎ、長い通路を
静静と歩む母娘 ミウたんは口を半開きさせ、辺りの景色に見入っていた
不意に母の足が止まる
"この先が裁きの間です… 全てを正直に答えるのですよ…"
目の前に、これまた巨大な扉が鎮座していた 到底人の力では開くとは思えないが、
母が手で押すと、何故か扉は大きな軋みを上げて静かに開いていった
其処は真紅の絨毯が敷き詰められた大広間だった そしてその奥にその姿が見えた
巨大な黄金色の玉座に腰を掛ける
黒い影… 重厚な甲冑に身を包む異形の存在… 玉座の傍らには三つの頭を持つ
巨大な獣の怪物が控えていた 口から炎を吹き出し、その低い唸りだけが広間に
木霊していた
286名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/14(金) 10:51:59.76 ID:3scoflIp
"それでね! それでね! ウンチがビチャビチャだったの!"
まるで幼子が感情を爆発させたかの様に母にすがり付くミウたん
取り留めの無い生前の与太話を、唾を飛ばして捲し立てる 母は只、笑顔を湛え、
そんなミウたんの手を強く握り静かに歩を進めた 気が付くと何時の間にか
あの美しい花畑は消え、辺りは寂しげな裸樹の林に囲まれていた
寒々とした曇天の下、白い霧がうっすらと樹木の間を流れる
"うぅ……? 何ここ…? 怖いよ、お母さん……"
ミウたんは母の腕にしがみつく
"ミウ… 貴女はこれから裁きを受けるのです……"
"……裁き?"
"貴女も知っているでしょう… 人は皆、死後、生前の行いを裁かれるのです……"
母の言わんとする事がミウたんにも理解出来た お伽噺に聞いた、あの閻魔様…
本当に存在していたのか… 自らが死者となった今では驚く程の事では無かった
"ミウ… 貴女の魂は善良な人のそれでありましたか……?"
母は物憂げな表情をミウたんに向けた
"勿論よ、お母さん! あたしはパイは無くても愛は大きかったのよ!"
上手い事を言ってやったとばかりに鼻の穴を広げるミウたんを、再び優しい
笑顔で見詰める母
"彼処が冥府の主、死者の業を裁く冥王の住まう館…
ミウ… 母は貴女を愛していますよ…"
母が向けた視線の先に、石組の荘厳な建物が浮かび上がった 西洋の城郭を彷彿と
させるが、それは余りに巨大であり、その尖塔群の頂きは遥か雲の中に姿を
消していた 圧倒的威圧感に息を飲むミウたん 母はそんなミウたんの手を引き、
その巨大な門を潜るのだった 内部はやはり西洋の城郭の趣で統一されていたが、
一つ一つの備品のスケールが人間の感性を超越した巨大さがあり、其処が
人ならざる存在の住まう所である事を改めて実感させた 手を繋ぎ、長い通路を
静静と歩む母娘 ミウたんは口を半開きさせ、辺りの景色に見入っていた
不意に母の足が止まる
"この先が裁きの間です… 全てを正直に答えるのですよ…"
目の前に、これまた巨大な扉が鎮座していた 到底人の力では開くとは思えないが、
母が手で押すと、何故か扉は大きな軋みを上げて静かに開いていった
其処は真紅の絨毯が敷き詰められた大広間だった そしてその奥にその姿が見えた
巨大な黄金色の玉座に腰を掛ける
黒い影… 重厚な甲冑に身を包む異形の存在… 玉座の傍らには三つの頭を持つ
巨大な獣の怪物が控えていた 口から炎を吹き出し、その低い唸りだけが広間に
木霊していた
287名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/15(土) 01:10:29.71 ID:atho8fPG
ゆっくりとその異形の前に進み出る母娘 母は深々とそれに一礼すると
ミウたんに向き返った
"………此方が"
"知ってる! 北斗の拳に出てた人でしょ!?"
"違います! 口を慎みなさい!"
生まれ初めて母に叱られたミウたん
"冥府の主、冥王ハーデス様であられます……"
母の強い語気に気を呑まれて、ミウたんも改めて冥王に一礼をした
"………汝の名を述べよ………"
腹に響く様な重低音が広間に響いた チラリと母を見遣ったミウたんは、
その頷きに促され、慎重に言葉を紡いだ
"あたし… わ、私の名前は… ミウです 須内ミウ… 渾名はミウたん… 18才…
こけし職人で処女です… 好きな食べ物はカキフライで、好きなサッカーチームは
カタタマーレ…"
"聞かれた事だけ答えなさい!"
再び母の怒気を孕んだ声が飛ぶ
"………汝の罪を答えよ……"
冥王の仮面の中の暗い光が少しだけ揺らいで見えた
"あたし… わたしは何も罪はありません! ただ毎日を真面目に清く正しく美しく
生きていました!"
ミウたんはまな板の様な胸を張った 自分に罪などあろう筈が無い
自信のドヤ顔を冥王に向ける
"………汝の罪を答よ……"
だが、再び冥王は同じ質問を繰り返す
"………罪はありません! 無罪です! お母さんと天国に行きます! 行かせて下さい! "
若干イラッときたミウたんは語気を強めて冥王を睨み付けた 自分に何の罪が
あると言うのだ? 可愛く正直に、常に慈愛で心を満たして生きてきた自分に!
そもそも何で自分が死ななければならなかったのか? こんなに可愛い自分が
処女で死んで良いものか? ハッ……もしかしたら、それが罪!?
独り善がりな妄想に耽るミウたんに冥王は語り掛けた
"……天国へ行きたいと申すか…… よかろう… その代わり、汝の罪は母に償わせん!"
"えっ!?"
ミウたんが驚きの声を上げると同時に、母の姿は煙の様にその場から掻き消えた
"お、お母さん!? お母さん、何処!? イヤ! ちょっと、お母さんを返して!"
ミウたんは母に何かをしたのであろう冥王に食い掛かる 冥王はそれに答えず、
巨大なその右腕をゆっくりと掲げた
"!?"
その手の先の空間が歪み、何処かの景色が浮かび上がった
288名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/15(土) 01:14:27.93 ID:atho8fPG
其処に母の姿があった
"お母さん! お母さーん!!"
ミウたんは声を張り上げるが、母は聞こえないのか何も答えない
"!!"
次の瞬間、母の姿は沸き上がる業火に包まれた 苦悶の絶叫を上げて炎の中を躍る母
"イャァァァァァッ! お母さーーん!!"
ミウたんの悲鳴が広間に木霊する
"………大熱地獄…… 己の罪が灰になるまで業火に焼かれる…… "
"ど、どうして!? お母さんは何も悪い事してないよ! お母さんを返せ!"
"汝の母は、汝に代わりて咎を負っておる…… 母を救いたくば汝の罪を認めよ!"
"……わたしの罪!? わたし何もしてないよ! ホントだよ!!"
ミウたんは声を張り上げ抗議する
"………お前は…… 盲目を偽り… 他人を騙し… 富と名誉を得ようとした……
忘れたとは言わせぬぞ!!"
冥王の怒号が辺りの空気を振動させた
"!!"
ミウたんは思わず両手で口を押さえた 言わせぬと言われても、実際に忘れていた
いや、罪の意識が無かったという方が正確かも知れない その嘘が誰かを傷付ける
訳でも無いし、人々を感動させられるなら寧ろ善行ではないかとさえ思っていた
だが… 確かにそれは、誰かを騙すという事であった 偽りで富と名誉を得ようとする
行為であった
"それが…… わたしの罪……"
ミウたんはその場に崩れ落ちた 母が此処に来る途中に語った言葉と、
見せた表情が脳裏を過った 私の魂は… ちっとも善良じゃなかった…
私はお母さんの期待を裏切り、そしてお母さんは私の代わりに罰を受けている
ミウたんの瞳から透明な滴が垂れた
"お母さん、ごめんなさい! ミウは悪い娘です! 新聞記者さんを騙して、
有名になろうとしました! お母さん、ごめんなさい! ごめんなさい!"
"分かりましたか……"
"!?"
突如聞こえた優しい声 母に似てはいるが母ではない ミウたんは顔を上げた
"!!"
其処には、あの厳つい冥王は居なかった 代わりに立っていたのは、
母に似た長い髪の美しい女性だった
"……あ、貴女は……?"
"私の名は、ペルセポネ…… 冥府に慈悲をもたらす者…… ミウよ……
お前が此処に来たのは…… 他ならぬお前の母の頼みだったのです……"
"? ……お母さんの頼み?"
"お前の母は憂いていました…… お前の不真面目で強欲で不誠実な生様を……
お前がこのまま罪を重ね、業を積んでいく事を……"
ミウたんは歪んだ空間で未だ焼かれる母の姿に視線を向けた
"お母さん…… イヤ! お母さんを助けて!"
"お前の母は私に願いました…… お前を改心させる為に、芝居を打ってくれと……
だが、あれは芝居ではありません…… 今のお前の業を背負っているのです……"
"やだ! 助けて! お母さんを助けて!"
289名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/15(土) 01:17:55.97 ID:atho8fPG
"救いたくば懺悔するのです…… お前が今まで犯した罪を悔い改めるのです……
あの母の姿は幻ではありません…… お前の罪を償っているのです……
救いたくば、大声で罪を懺悔するのです!"
"ごめんなさい! 新聞記者さんを騙してごめんなさい!"
その声に反応して、母を包む炎がほんの少し勢いを無くした
"まだまだ足りません…… 全て懺悔するのです……!"
"ごめんなさい! 買う気も無いのに、いっぱい試食してごめんなさい!"
その声に反応して、若干、火勢は衰えた
"ごめんなさい! スーパーのトマトを指で潰してごめんなさい!"
再び、ほんの僅かに炎が弱まる
"お前の罪はその程度では収まらない様です…… 炎を消したければ、全てを正直に
懺悔するのです…… "
"うぅ…… ごめんなさい! 浦和レッズの横断幕にJapanese onlyと落書きして
ごめんなさい!"
炎はこれまでに無い程、勢力を落とした
"あれはお前の仕業ですか…… 続けなさい……"
"うぅ…… ごめんなさい! ムシャクシャしてアンネの日記を破いてごめんなさい!"
今度も炎は大きく勢力を落とした
"あれもお前ですか……!? いい加減にしなさい! まだありますね?"
"うぅ…… ごめんなさい! チャットで知り合った小保方さんを唆して
嘘をつかせてごめんなさい!"
いよいよ炎は勢いを無くし、母の姿が顕になってくる
"お前は恐ろしい女ですね…… もう、何もかも白状しなさい!"
"ごめんなさい! ごめんなさい!ごめんなさい! ごめんなさーい!!"
ミウたんは両手を胸の前で合わせ、必死に謝罪の言葉を紡ぐ
ミウたんが謝罪の言葉を発する度、母を包む炎は鎮まり、そして遂にそれは
母の側から消え去った

"……お母さん!"
ミウたんが目を開けた時、玉座の傍らに倒れ込む母の姿が見えた
"ふぅ…… どうやら母を救えた様ですね…… 行っておやりなさい……"
ペルセポネの言葉が言い終わる前にミウたんは母の元に駆け出していた
"お母さん! ごめんなさい! あたしの為に……!"
ミウたんは倒れた母にすがり付き、初めて会った時より更に痩せた様に見える、
その華奢な身体を抱き抱えた
"…………ミウ…………"
母はうっすらと瞼を開けてミウたんを見詰めた
"………お母さん…………"
ミウたんの瞳からは大粒の涙が溢れた
290名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/15(土) 01:25:00.56 ID:atho8fPG
"ぐべぇぇぇぇっ!?"
次の瞬間、母の細い両手がミウたんの頚を目一杯絞め上げた
"貴女という者は……!! まさか、これ程の悪業を……! 最早、世間様に顔向け
出来ません! 製造者責任です! この母が貴女を殺して一緒に死にます!!"
"く、苦ちぃぃぃっ! 死んじゃう……! お母たん……! ミウちんじゃう!"
突然の不意討ちに目を白黒させるミウたん
"お前がこうなったのも母の責任! 一緒に死んであげます!"
ミウたんの頚を絞める力が一層強くなる
"お母たん…… もう…… 死んでる……でちょお……!"
突然の骨肉の争いに慌てたのはペルセポネだった
"理佐? お母さん!? 落ち着いて! 業ですよ! 子殺しは業ですよ!!"
必死に母を背中から抱き締め、ミウたんから引き離す
"……ミウよ! あれに見える鐘を鳴らすのです! その音色がお前を現世に
連れ戻すでしょう! さぁ 早く!"
"うひぃぃぃぃっ!!"
漸く母の絞首刑から逃れたミウたんは、言われるがままに何もかもが巨大な広間の
隅に鎮座する、ただ1つそれだけが小さい鐘台の中の金色を拳で突くのだった
"お母さん、ごめんなさ〜〜い!!"





「ジリリリリリリリッ……」
耳をつん裂く金属音 ミウたんは条件反射に飛び起き、目覚まし時計に手を伸ばす
"ふぇ? ………………夢?"
そこは何時もの寝室だった 薄い煎餅布団の中、気だるい起き抜けの意識が
徐々に鮮明になる
"ふぅ…………"
ミウたんは大きく深呼吸すると立ち上がり、トイレに向かった
嫌な夢だった 何であんな夢を見たのだろう… 自分の中の良心が、盲目を偽る
罪悪感を感じているのだろうか…?
(ゴボゴボゴボッ………)
霞みがかかった様な重い頭を撫でながら、トイレを済まして洗面台に立つ
"ヒィッ!?"
ミウたんは目を見開いた 鏡に写る自分の頚元には、鮮明な人の手形が赤々と
浮かんでいたからだった
"……夢だったけど ……夢じゃ無かった!"
何処かで聞いたそんな台詞を呟くミウたん 慌てて寝室に戻ると、枕元の
携帯電話で先日の新聞記者に電話を入れた
"………はい ………すみません、そう言う事です…… 騙してごめんなさい……
分かってた? ……そうですか………
あの…… それで実は…… 私…… 盲目じゃ無くて…… 本当は聾唖なんです! てへっ!!"
果たしてミウたんに母の想いが伝わる日が来るのか、それは誰にも分からない……
291名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/15(土) 03:18:11.34 ID:erLeBC+2
この板は、スロット機種の話題を扱う板です。 スロットメーカーの話題も含みます。

■関連する板への案内

・スロットサロン板 http://namidame.2ch.net/slot/・スロット店情報板 http://namidame.2ch.net/slotj/

■スロット機種板利用案内

・スロットと直接関係の無いスレッドは禁止です。
・単発質問スレッドは禁止です。
・スレッドを立てる前に同じ様なスレッドが無いかどうか、検索して重複を防ぎましょう。
・機種と関係の無い、スロネタ・スロ雑談等のスレッドは「スロットサロン板」へどうぞ。
・地域別スレッド、また店舗に関係するスレッドは「スロット店情報板」へどうぞ。
292名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/15(土) 17:36:06.30 ID:p+5/9dNK
>>291 
他にもそれに当てはまらないスレ沢山あるけど・・・。
何もここだけ・・・。
293名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/15(土) 17:36:42.19 ID:p+5/9dNK
ちなみに、この短編の書き手さんは他で作品紹介してるとかありますか?
294名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/16(日) 20:58:47.90 ID:fyF4HCax
新作ありがとうございます^^
今回も大変楽しませて頂きましたw
いつもよりコミカルな展開に一人モニターの前で笑っちゃったよw

「うんちがびちゃびちゃ」マイブームだ(///)

あ〜、かーちゃんかぁ。うちのおかんは・・・。まぁいいか(笑

明日は病院行ってきます〜。

またお手隙な時に宜しくお願い致します^^
295名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/18(火) 15:56:25.07 ID:qomZtIal
株もむずかしいねぇ。。。

でも今のスロより手堅いつうか負けないかも?
296名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/20(木) 22:49:20.78 ID:R7Jw3+QG
"うぅ… あぁぁぁ……あぁ………"
"こっちに来るな! 化け物め!"
少年は息を切らせながら必死に棒切れを振り回す 背後は金網のフェンス
完全に追い詰められた 2体のその『化け物』は唸りを上げながら、
少年との間合いを詰めていく
"くっそ……!"
少年は至近の一体の太股目掛け、渾身の一撃を繰り出す
"!?"
だが、その化け物はこれ迄に見せなかった素早さで、その一撃を受け止める
更にその棒切れを引き、少年を手繰り寄せた
"うわっ! は、放せ!"
そのまま一瞬のうちに化け物達に組み伏せられる少年 化け物は捕らえた獲物を
補食せんと大口を広げる 少年は絶望と覚悟を噛み締め目をギュッと瞑った
「パンッ! パンッ!」
2つの乾いた音が闇に響いた 一瞬の間を置いて、2体の化け物はドサリと少年の
上に倒れた
"うわっ… うわっ!"
襲い来る激痛を覚悟していた少年は、気色の悪い化け物の粘着質な肌と体液を
全身に浴びて、慌ててその肉塊の下から這い出た コツン… コツン… と足音を
響かせて白いコートを纏った人影がその少年の元に近付く
"うわっ 待って! 大丈夫! 噛まれて無い!"
少年は自分に向けられた銃口に気付き、大袈裟なアクションで無傷をアピールする
"ふぅん… 運が良かったわね…"
それだけ言うと、その白いコートの……長髪の女性はその髪を巻いて振り向き、
立ち去って行く
"ちょ、ちょっと待ってよ! 運なんて良くないよ!"
少年は立ち上がり、女性の後を追って行く
"生きてる人を見るのは5日ぶりだよ… 婦警さんは1人なの?"
"そこに転がってる段ボールを1つ持ちな"
女性は少年の問には答えず、自らも重そうな段ボールを1つ抱える
"重っ…… 缶詰めだ! もうずっと碌な物食べてないんだ! 手伝ったら分けてよ!"
"無事にたどり着けたらな… 彼処のパチンコ屋の地下駐車場に向かう"
"……! 婦警さんの他にも生きてる人が居るの?"
この危険の中、これだけの荷物を運ぶのには訳がある筈だ
"名前は?"
またしても女性は少年の問に答えない
"僕、ジャック… 婦警さんは?"
"お前、日本人だろ? ホント、最近のガキはキラキラネームだな…
それと、あたしは婦警じゃない"
女性は段ボールの箱の傾きを膝で整え、初めて少年に顔を向けた
"あたしはアミヤ… NHKの受信料徴収人よ!"
"……お姉さんも十分、キラキラネームだよ……"
297名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/20(木) 22:52:39.63 ID:R7Jw3+QG
僅か2週間前には束の間の享楽を楽しむ人々が行き来していたであろう繁華街の一角、
今は照明も消え、魔界への入り口にさえ見えるその地下駐車場のゲートは
車と雑物で拵えた急造のバリケードによって塞がれていた 辺りには先程の
化け物の亡骸が何体も転がり、その防衛ラインが一定の効果を上げている事を
物語っていた アミヤは段ボール箱を置くと手にした懐中電灯をバリケードに
向け点滅させる するとバリケードの隙間から同じ様な光の点滅が帰ってきた
それが合図なのだろう、アミヤは再び段ボール箱を抱えるとバリケードの一角を
占めるワゴン車のスライドドアに手を掛けた
"掘り出し物でも手に入ったか〜"
運転席に陣取る男が声掛けた バンドマンの様なロン毛に派手なジャケット、
如何にもこの繁華街を根城にしていた様なチンピラ 煙草を燻らすその両手には
ライフル銃が握られていた アミヤは返事かわりに段ボール箱の中の缶詰めを
2つばかり男に放ると、そのまま後部座席を抜けて行った
"……僕、ジャックです よろしくです……"
"さっさとロックしろ"
男はバリケードの向こうの闇に目を凝らしたまま、無愛想に吐き捨てた
ジャックはスライドドアをロックするとアミヤの後を追う
"後で来い… ここが俺とお前の持ち場だ"
ジャックは男の背中に無言で頷き、
重い段ボール箱を抱え直すと小走りで駆けて行った
照明の消えた地下駐車場は闇に閉ざされていた 夜目に浮かび上がる車の影
所々に乱雑に乗り捨てられたその姿が、あの時の混乱ぶりを象徴していた
ふと、コンクリートの柱の陰に淡い光源が現れた 恐らくは駐車場の管理事務所
だった所だろう アルミ扉の脇に掲げられた赤いLEDライトの玩具に照らされて、
アミヤがその中に入って行くのが見えた
重く湿った空気を掻き分けて、ジャックもその中に飛び込む
"クイーン、天気予報位始まった?"
"駄目だね… 何も聞こえない… !? お客さんかい?"
そこは小さなランタンに照らされた、20畳程の空間だった 長テーブルの上の
ラジオと携帯を弄っていたショートヘアの女がジャックに向き返える
"ジャックです… 宜しく"
"あら、かわいい坊やね〜 ヨロシク〜 "
そのアミヤとはまた違った派手さは、ジャックの子供心にも夜の世界に
生きる女の気配を感じさせた
"お帰りなさい… "
奥の闇からまた1人姿を現した
298名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/20(木) 22:56:09.42 ID:R7Jw3+QG
"これお願い… ちょっと休むわ、何かあったら起こして…"
アミヤは抱えた段ボール箱をその人影… セミロングの線の細い少女に乱暴に手渡すと、
奥のソファーにダイブした 少女は手渡された段ボール箱を長テーブルに置くと、
ジャックに微笑み掛けた
"あたしはイチゴ、宜しくね"
そう言うと箱の中の缶詰めを取りだしジャックに差し出した
"よ、宜しく!"
ジャックは漸く自分に優しさを向けてくれる少女の登場に安堵した
"これ、不味いのよね〜"
クイーンと呼ばれた女は受け取った缶詰めの銘柄を見てぼやいた
イチゴは再び箱から缶詰めを取り出すと、アミヤが寝そべるソファーとは反対の
隅に向かう そこにもう1人が居る事にジャックは初めて気付いた
"………どうせみんな死ぬんです…… こんな事して何になるんです……?"
イチゴの差し出した缶詰めに顔を背けたその女の眼鏡が、ランタンの光を受けて
一瞬輝いた
"放っときなよ! 死にたい奴は死なせてやりな!"
クイーンは鰯の一片を長い指で口に運びながら毒ついた イチゴは缶詰めを
彼女の目の前に置くと、側の別の段ボール箱から、ペットボトルの水を取りだし
配っていく
"ジャック君、これキングさんにお願い出来る?"
イチゴの言うキングさんが、あのバリケードの男だと直ぐに解った
"う、うん 任せて!"
ジャックの頬は若干紅潮していた 優しく歳も近く、そして何より可愛いイチゴに、
ジャック少年の心は完全に魅了されていた

"バカやろう! ノック位しろ!"
助手席のドアを開けたジャックをキングは怒鳴り付ける
"ご、ごめんなさい!"
確かに、この緊張状態なら背後の物音にも敏感になるだろう 例えノックしたと
しても怒鳴られたに違いない ジャックは渡されたペットボトルを差し出す
"お前は何処から来た?"
ペットボトルのキャップを捻りながらキングは尋ねた
"北海道だよ…"
"ブフッ…!"
口に含んだ水を勢いよく吹き出すキング
"コラァガキ! 大人をからかうんじゃねぇ!"
"別に嘘なんてついてないよ… "
ジャックはキングの睨みから目を反らし、助手席の上で俯いた
"僕達はサーカスの一座だったんだ… "
299名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/20(木) 23:02:33.44 ID:R7Jw3+QG
何処から来たかと問われれば、北海道と言うしかない 何年か前、北海道の片田舎
を訪れた時、座長である父からここが自分の生まれ故郷だと知らされた
土地から土地へ、季節の移ろいと共に渡り鳥の如く各地を放浪する生活 生まれてこの方、
この暮らしを続けるジャックには、それが人とは違う珍しい暮らしという
思いは無かった ジャックは一座の花形だった パペット人形を操りコミカルに
曲芸を披露すれば、満場の拍手とお捻りが乱れ飛んだ 束の間の出会いと別れ、
友達と時の思い出に恵まれない事を除けば、特に不幸を感じる事は無かった
三年振りの東京に来たのは2ヶ月前… 2週間前のあの出来事が無ければ、
今頃は静岡に天幕を張っていた筈だった
"そういう事か… で、親はどうした? 家族は?"
"………………"
キングの問いにジャックは答えない
"……ケホッ…… 俺様は文字通り、この街を仕切る王様よ…… 2週間前まではな……"
気まずい質問だったのを自覚してか、咳払いをして自分の話を始めるキング
やれ、子分を百人引き連れてただの、一晩で数百万の金で豪遊しただのと武勇伝を宣う
子供のジャックの目にも安いチンピラにしか映らないが、ジャックは敢えて
聞き惚れる芝居でやり過ごす 幼い 頃から癖のある大人達に囲まれて育った
ジャックなりの処世術だった それでも久々の人との会話はジャックの心の緊張を解す
効果もあった 溜まった疲れも出てきて、微睡みがジャックの意識を奪う
キングの与太話にいい加減な頷きを二、三度返した時だった
"おいでなすったぜ!"
突如、緊張を走らすキングの声にジャックは眠気を吹き飛ばす
"うぅ…… あぁぁあ…… あぁぁ…… "
次いで気味の悪い連中の呻き声が聞こえ出した 嘗ては『人』であったその成れの果て…
今は理性と知能を失い、ただ人肉を求め食らうだけの魂の脱け殻…
"……5…10…15… もっといる! 団体様の御越しだ! 若女将を呼んで来い! 急げ!"
その声にジャックは雷に打たれた様に助手席を飛び出して行く
「ドンッ! ドンッ!」
ジャックの背後でライフル銃の発砲音が木霊する まるで自分が狙われているかの如く、
発砲音の度にジャックの歩幅が大きくなっていく ジャックが事務所の
アルミ扉に手を伸ばした瞬間、それは向こうから開き、中からアミヤとクイーンが
飛び出して来た 二人はジャックの両脇を駆け抜けるとバリケード目掛け突進して行く
ジャックは慌て踵を返すと二人の後を追った
300名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/21(金) 03:48:12.97 ID:ERfSTtjg
301名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/21(金) 16:12:58.55 ID:Tr/QadY2
>>300
それもう過去ログ倉庫やんか? ひっそりやってるこのスレ来るなよ。。
302名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/24(月) 17:26:05.07 ID:dEAFD2Nc
age
303名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/24(月) 20:11:49.73 ID:kAN7OXo2
ライフルの発砲音と共にワゴン車の車内が閃光に照らされる 急造バリケード
に所々穿つ隙間から芋虫の様にのたうつ何かが見える クイーンが自動拳銃を
腰のホルスターから引き抜き構える ジャックにも漸く芋虫の正体が、バリケードを
潜り抜けんと身を捩る化け物達であるとが分かった
"クイーン、キングを支援してやって!"
"了解!"
バリケードの中央に位置し、門代わりになっているワゴン車を抜かれれば、
最早防衛ラインの陥落は免れない クイーンは上半身を突き出した格好の化け物達には
目もくれず、ワゴン車の後部シートに潜り込んだ
"ふぅ…… この2丁拳銃で…… "
そう呟くとアミヤは腕を交差させ、コートの裏から2丁のリボルバーを引き抜く
トリガーフレームに指を掛け、鮮やかに回転させると、その銃口は今まさに
バリケードの突破に成功して立ち上がらんとする2体の化け物のに向けられた
「パンッ! パンッ! パパンッ!」
乾いた発砲音と硝煙の匂いを漂わせ、アミヤの銃撃は化け物達の眉間を捉える
そしてその化け物が崩れ落ちるより早く繰り出される第2撃が、バリケードから
上半身を突き出す化け物達を次々と屠っていく まさに一瞬の出来事 ジャックはその早業に思わず息を飲んだ
"お姉さん、本当にNHKの人なの!?"
"NHKじゃないわ… 外郭団体の業務請け負いよ…
ジャック、あんたは事務所に戻ってな!"
ジャックは黙って頷いた 到底自分の出る幕ではないのは理解できたし、
何より化け物の襲来に怯えているであろうイチゴの側に行きたかった
アミヤはジャックに目もくれず、バリケードに出来た隙間に向かって突進する
掃討戦に移るのだろう ジャックはその後ろ姿を見送りながら2、3歩後退りを
すると、踵を返して走り出した

"ヒィッ!?"
事務所のアルミ扉を開けると小さな悲鳴が聞こえた
"僕だよ!"
箒を両手に握りしめたイチゴは、安堵のため息を漏らしてへたり込む
"あっちはもう大丈夫だよ! お姉さん達が凄いんだ!"
案の定、怯え切ったいたイチゴを安心させる為、まるで自分の武勇伝の様に今しがた
目にした戦闘の様子を自慢気に語るジャック だが、イチゴは俯いたまま反応を見せない
"ううぅ…… うう……"
程無くして彼女の小さなすすり泣きが、ジャックをの耳に聞こえてきた
304名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/24(月) 20:13:32.78 ID:kAN7OXo2
"もう大丈夫だよ… みんなが今頃、化け物をやっつけてるよ!"
ジャックはイチゴの側に寄り添い、彼女を必死に励ます イチゴの優しい笑顔を
期待したジャックは、彼女の予期せぬ反応に戸惑い、非力な己の存在が歯痒かった
"何が大丈夫な物ですか…… 生き残った者が、それだけ長く苦しむのですよ……"
部屋の隅のシートに腰掛けた、眼鏡の女がボソリと呟いた
"どうしてそんな事言うの? みんな必死に闘ってるんだよ!"
ジャックはその言葉がイチゴに向けられた気がして、思わず語気を強めて反発した
眼鏡の女はプイと顔を背ける
"……帰りたい…… みんなの所に…… みんな…… 会いたいよ…… "
嗚咽混じりの絞り出す様な声でイチゴは呟いた
"きっと会えるよ! その… みんなだっては、絶対イチゴに会いたがってるよ!"
そのジャックの言葉にイチゴは漸く反応し、大きく頷いた
"……どうせ食い殺されるなら、身内がいいですよね…… 意外ともうそこまで会いに
に来てるかも…… 唸り声をあげて……"
"いい加減にしろ!!"
自分でも驚く様な大声でジャックは眼鏡女を怒鳴り付けた
"行こう、ジャック君……"
イチゴの柔らかくて温かい手が、ジャックのまだ小さい手を引く アルミ扉を
開けて駐車場の縁石の1つに2人は腰掛けた もう銃声は聞こえ無い
戦闘は終わった様だ
"気にする事ないよ 絶対みんな無事だよ!"
何の根拠も無いが、ジャックはとにかくイチゴを励ましたかった
"……エマさんを… さっきの人を許してあげてね…… 誰だって、目の前で愛する
人をあんな風に失ったら……"
重すぎる言葉を最後まで紡がず口を噤んだイチゴ ジャックはほんの少し、
眼鏡女を怒鳴り付けた事を後悔した
"あたしの家族はね… みんな血が繋がってないの… でも、とっても仲良しなのよ…
食いしん坊や、機械マニアや、外国生まれの子もいて… そうそう、自分の事を
何処かのお姫様だって言い張る子もいて… それでこの前、かまくらを作ったら、
自分のお城とか言い出して… みんな大笑いして…… みんな…… みんな……
ううぅ…… ううぅ…… うう…… "
イチゴは抱えた膝頭に突っ伏し号泣した
"………… "
イチゴの悲嘆極まる嗚咽は、ジャックの心の奥にも漸く抑え込んだ熱い何かを
再び込み上げさせてきた 10日前に水溜まりが出来る程、泣き明かして
いなければ、きっと今頃イチゴの隣で泣きじゃくっていたに違いなかった
305名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/24(月) 20:16:54.01 ID:kAN7OXo2
"こっちは後7発… "
"あたいの方はマガジン2つね… "
翌朝、事務所の長テーブルを囲み銃器の残弾数を確認する3人の姿があった
"あたしのも、もう余裕が無い… "
この地下駐車場に籠り、化け物の襲撃を退ける事7日… 危険を犯した外征で
水と食糧は確保して来たが、反社会的組織と元警察官から確保した武器弾薬の
補充は、つい先日まで平和だったこの国では至極困難なミッションであった
化け物達は襲撃の度に数を増し、遂に昨夜の闘いでは不落のバリケードも
突破された 口には出さないものの、誰の胸にもいよいよ迫り来る終末の光景が
リアリズムを持って広がっていた 取りえる手段は2つ… 来るかさえ分からない
救援を待ち、有らん限りの抵抗で籠城し時間を稼ぐか、若しくは少しでも余力の
あるうちに、存在するかも不明な安全地帯を目指すか… どちらが正しい選択かなど
分からない 正解が無いのが正解… 恐らく其が最も真実に近い答え…
生き残った者がより長く苦しむ… 眼鏡女が… エマがいつか放ったその台詞が
アミヤの頭の奥で、何度も反復していた

キングの吹かすヤニの匂いが染み着いた運転席で、ジャックはじっと窓の外を
睨んでいた キングがアミヤ達との相談をしている間、ジャックが最前線の守りを
任されていた 守りと言っても銃器は扱えない 化け物達の襲来を察知すれば、
オモチャのホイッスルと爆竹でアミヤ達に通報するのが任務である それでも
1人の男として持ち場を与えられた責任感から、ジャックは緊張の面持ちで
廃墟の中に目を凝らす
"ジャック君… "
助手席の向こうから聞こえた声に振り返る イチゴがドア越しに小さく手を
振っている その手には小さい菓子袋が握られていた 助手席のドアを開け、
イチゴが細い身体を滑り込ませて来る
"ご苦労様… これ、差し入れ… みんなにはナイショね…"
一晩たってイチゴも大分落ち着きを取り戻し、初めて会った時のあの優しい
イチゴに戻りつつあった 閉ざされた空間で意中の彼女と二人っきりでお菓子を
啄む… ジャックはほんの一瞬、自分の置かれている状況を忘れ去った
まだ短いジャックの人生ではあるが、自分と歳の近い存在とこれ程迄に仲良くなったのは
初めてだった 根なし草の様な流浪の生活… さようならを言う為だけに誰かと
仲良くなる皮肉を、無意識に避けていたのかもしれない
"ねぇ、イチゴ… もし… ううん… 絶対、平和になったら、イチゴに僕のパペットショーを
見せてあげるよ!"
ジャックの頬は幾らか染まっていたかも知れない
306名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/24(月) 20:21:04.44 ID:keQrjbzm
この板は、スロット機種の話題を扱う板です。 スロットメーカーの話題も含みます。

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307名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/24(月) 20:23:01.88 ID:kAN7OXo2
"ねぇ、今何か聞こえなかった?"
イチゴの突拍子もない返事に肩を透かされたジャックだが、その問いに自分の
任務を思い出し緊張が走る 奴等が来たか? 窓の外を見遣るが動く影は無い
"!?"
"ほら、また…!"
今のは確かにジャックの耳にも聞こえた 乾いた発泡音 そう遠くない所で戦闘が
起きている 自分達以外の生存者が、恐らくあの化け物達と闘っている
ジャックはイチゴを振り返る 彼女は大きく頷いて助手席を飛び出して行った

"本当に聞こえたのね "
駐車場の入り口に立つアミヤがリボルバーの弾倉を確認して、それをコートの裏に挿す
"おい、本当に行くのか!? もし救援隊なら向こうから来るのを待っていた方がいい!
もし違ったらどうする? 無駄弾を使ってる余裕はねーぞ!"
"間違いないよ! イチゴと一緒に聞いたんだ!"
キングの反対意見にジャックは反論する
"向こうが救援を待ってる可能性もあるわ… "
"だったら尚の事…!"
"ここでこうしていても、埒は明かない 味方は1人でも多い方がいいわ
それに弾薬と…… 間に合えば情報も欲しい… キングとクイーンはここをお願い "
"OK〜 気をつけてね〜 "
アミヤの強い意志にキングだけは舌打ちして手を仰ぐ
"僕も連れて行って! きっと役に立つよ!"
ジャックはワゴン車の中から心配そうに此方を見詰めるイチゴに一瞬視線を向ける
外は怖いが、此処等でイチゴに良い所を見せたい 無双のアミヤが居れば何とかなるだろう
"駄目、足手まといだわ… "
"そんな事無いよ! 何かあったら連絡役も必要でしょ? それに… 弾倉の有る所に
心当たりがあるんだ!"
最後の台詞は完全に出任せだった こうでも言わねばアミヤは同行を許さまい
"ふぅ…… 覚悟は決めときな…… "
アミヤは渋い顔をジャックから背け、駐車場の前の道を、大通りの方向に歩み始めた
"あっちの方から聞こえたんだ!"
アミヤの前に出て指を指すジャック 一瞬イチゴを振り返り小さく手を振る
イチゴは手を振り返す代わりに、不安そうな顔でジャックを見送った

"………………"
エマは暗闇が好きだ ランタンを消すと、昼間とはいえ地下駐車場の更に奥の
事務所は暗い闇に覆われる エマはそんな暗闇の中で身動ぎもせず、
虚ろな瞳で只、闇の世界を見詰めていた エマはもう生きる意欲を無くしていた
魂が死んだと言うべきかも知れない
"…………カルロス……"
微かな呟きと共に、その瞳から流れた滴に気付く者は誰も居なかった
308名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/25(火) 18:14:45.13 ID:0pjizSDT
いつもありがとうございます^^

今回は方向性がいつもと違いますね! スロットを題材
なのに伏線つうか話の繋がりがキチンとあるのに、いつもと違う雰囲気の
作品。正直尊敬します^^

あなたの文章はスッと入るし、読めるので大好きなんだな!
今回はこれで完結?でしょうか?

キラキラネームか〜、僕の妹が後半年くらいで出産なんだな。
なんて名前つけるか^^; 旦那さんが堅実なのでキラキラだけは
無いと思ってますが。。 ああ〜長男の僕だけまだ結婚してないw
彼女はいるんだけど、無職じゃ・・・。一人暮らしだからお金も無いし。
もう今年中にはケジメをつけないとな。。。
元部下だし、元上司の僕として元上司らしくキッチリしないと。。

話は変わり、NHKと言えば昔ラノベやアニメで「NHKにようこそ」って
ありましたよね^^ もしご存知無かったらそれなりにオススメです。
後はオススメの小説アニメ、、なんだろ。「空中ブランコ」とかかな?
あ、「獣の奏者」シリーズの作者が本日アンデルセン賞で表彰されましたね。
アニメしか見てないですが昔のハウス世界名作劇場みたくて好きですわw

とりあえずこっちは夏の時期には医療年金と医療費免除が決まって
もう少し生きれそうです。

再就職しないとな。。でも、もう働くの怖いわ〜w 
株はまだ勝てる域に達してないし。
パチンコパチスロはもうそれ自体が終わりだし。
なんかグダグダ言ってすみません。


また、お手隙な時に作品読ませてください^^ 

それでは、また〜!
309名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/26(水) 21:05:25.77 ID:Zqx5VUmx
あの化け物達は音や臭い、光などの外部刺激に反応する この2週間に渡る
サバイバルで得た知識だ 連中は晴れた昼間はその行動力が減退する 日光の刺激
が連中の感覚器を惑わすのかも知れない それでも慎重に辺りを警戒しながら
2人はゴーストタウンの中を進んで行く 交差点の角の大きなファッションビル
お気に入りの店があるアミヤはよく此処を訪れていた そう… あの日もそうだった
突然、階下から巻き起こる悲鳴 パニックになるビル内 何が起きたか分からず、
人波に呑まれて非常階段に流された 下界はまるで戦場だった 逃げ惑う人々、
木霊する悲鳴… そして、人間が人間を食い殺すという信じがたい光景…
何処をどう走ったのか、気付けばあの地下駐車場に居た 初めはもっと生存者が
居た ある者は家に、家族の元に戻ると制止を振り切り、混乱冷めやらぬ街に
消えて行った またある者は食料と情報を求めに出掛け、そして戻らなかった
"ビル群の反響を考慮しても、せいぜいこの辺りまでだな… "
その交差点の中央で、あれ以来、初めて増えた仲間であるジャックにアミヤは
語り掛けた 銃器の種類にも由るが、銃声の届く範囲はせいぜい500メートル
といった所であろう 後は脇道を回り、痕跡を探して行くしかない
"あの… 確かあの辺りに交番が… "
ジャックは取り敢えず、嘘を誤魔化しておく事にした 交番があるのは事実だが、
弾薬がある保証など無い 自分はまだ子供だし、単純な思い込みで許されるだろう
"あの娘が気になるのか?"
的外れなアミヤの答えは、しかし的確に別な的は得ていた
"えっ…… "
心を見透かされ、焦るジャックは赤面して視線を泳がす
"精一杯、守ってあげな… "
トリガーフレームに掛けた指でリボルバーを回すアミヤは何処かを眺めた
まま呟いた 漸くジャックも自分の出任せが見破られていた事を理解した
"……うん"
アミヤの言葉の重い意味をまだ理解出来ないジャックは、素直に頷きながら
アミヤの袖を引き、通りの彼方を指差した そこにはあの化け物が数体、まるで
所在無げに彷徨っていた 今度はアミヤが頷くと、ジャックと2人、足音を忍ばせて
脇道の1つに消えて行った

"はぁ… はぁ… "
荒い息使いが薄暗い室内に木霊する 遠退く意識 左腕の止血は自分1人では
不完全であり、滴る血の雫が恰も命の砂時計の様に彼女の寿命を刻んでいた
310名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/26(水) 21:08:12.42 ID:Zqx5VUmx
"無念でござる……"
アーケード商店街の一角、レトロな小物雑貨を扱っていた店の奥に身を隠す様に
凭れかかる ミッションは失敗だった あの化け物達の数と攻撃性を見誤った
のが第一の原因 そして突如途絶えた指令部との連絡、孤立無援の中、予期せぬ
本格戦闘を強いられたのが第二の原因 弾は尽き、次々と仲間は化け物達の餌食と
なる 現状ではとても回収地点までたどり着く事は出来まい
"!!"
店の外、商店街の通りに足音が聞こえた 女は脇に立て掛けた剥き出しの
日本刀を、残された右腕で手繰り寄せる あの化け物達に貪られる位なら、
潔く自害すべし 憧れた侍の最期は斯くあるべき 女は白い喉元に日本刀の刃を
近付ける
"……こっちに続いてるよ!"
"!?"
予期せぬ人間の声 まさかこの災禍の心に生存者が… それも子供が…?

大通りから更に一本入った脇道のアーケード商店街、その入り口に数体の
化け物の亡骸を見つけたのはジャックだった 亡骸の損傷から間違い無く此処で
戦闘が、それもかなり最近行われた事は明らかだった アミヤが解せ無かったのは、
化け物の一体が完全武装の外国人だった事だった その亡骸だけ銃器では無い、
鋭利な武器で両断されていた
"こっちに血の跡があるよ!"
滴る血痕が商店街の奥に続いていた ジャックは気付かなかったが、アミヤは
その血痕の始まりにドス黒い人間の腕だった物が落ちているのに気付いた
血痕を辿る2人 手負いの生存者がこの先にいるかも知れない
"……こっちに続いているよ!"
其処は雑貨屋だった まだ乾かぬ血糊、明らかに身を隠す為の行動 万が一に備え
ジャックを制止し、リボルバーを構えたアミヤが店内に進入する
そこで床に腰掛ける赤いコートの女と目が合った
"……自分で切ったのね……"
アミヤの予測通り、袖を捲り上げた女の左腕は肘から先が無かった 止血出来ず、
今も滴る血がフローリングに染みを作る 後を追って来たジャックが女の惨状に
口を押さえて立ち尽くす
"ジャック、何か布切れを… "
その声に弾かれた様に、ジャックは店内に理想の商品を物色する
アミヤは取り敢えず傷口に巻かれた布を強く締め直す
"うっ…… かたじけない…… "
あの外国人は仲間か… 赤髪碧眼の女を見てアミヤは心の中で呟いた
311名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/26(水) 21:11:04.64 ID:Zqx5VUmx
"お姉さん、これでいい?"
ジャックが手にした巾着袋を数枚差し出す アミヤは無言で受け取ると、
それで女の傷口に被せた
"連れて行く… 肩に掴まれ… "
何処からか突如現れた化け物達… 連中は爆発的に数を増やした 正確に言えば
仲間を増やした 連中は少なくとも2週間前までは人間だった 何故人間が化け物
になるのかは分からない ウイルスなのか、毒素に因る物か… ただ奴等は人肉を
求めて人を襲い、そして襲われた人間は新しい化け物となって人間を襲う側になる
加速度的に人間は追い立てられ、化け物達の天下となった この女は化け物達との
戦闘で左腕をやられたのだろう 躊躇無く切り落とす以外、助かる術は無かった筈である
ただ、並大抵の者には其れが簡単に出来る物では無い… 並大抵の者には…
アミヤは女の右腕を肩に回し立ち上がらせる だが、女は壁に掛けた日本刀に
手を伸ばそうとする
"そんな物、置いていけ! "
"刀は武士の魂でござる…"
"くっ…… ジャック!"
ジャックは頷くと唾を飲み、その血塗られた禍物を手にした しっとりと掌に
馴染み、恰も精気を吸い取るが如きその手触りに、ジャックは思わず身震いした
自分より上背のある女に肩を貸し、重くなった足取りでアーケード街を進む
アミヤ 後を追うジャック
"あたしはアミヤ、あんたは…… "
女は苦悶の表情を浮かべたまま答えない
"日本語は分かるんだろ? ……答えられない理由がある分けね? "
"………ミラでござる…… "
至極簡単な自己紹介の後、2人はもう言葉を交わさなかった ジャックは彼女達の
後ろ姿を眺め、沸き上がる疑念の答えを自分なりに探した 一体、ミラと名乗る
この外国人の女性は何者なのか… 手にした日本刀を見遣る 重く、血塗られた
これは、とても外国人向けのふざけた土産品には見えない これであの化け物達と
渡り合い、噛まれた自分の腕を切り落とし、そして素性を伏せたがる…
アミヤは何かを察している様だったが、ジャックには其れが何なのか分からなかった
"……ジャック…… "
不意にアミヤは立ち止まり、緊張の声をジャックに向ける その声に思案の世界
から引き戻された
"!!"
アミヤの肩越しに、アーケードの出口に待ち構える化け物達の姿が見えた
"ウゥゥゥ…… アァァァ… "
既に此方を認識して、明確な敵意の元、ゆっくりと間合いを詰めて来る
数はおそよ20体 出会さず済むかと思ったが甘かった
312名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/26(水) 21:14:17.96 ID:Zqx5VUmx
"囮になって時間を稼いで… "
"…………えっ!? "
予想だにしなかったアミヤの指示に、ジャックは彼女の後頭部を穴が空く程見詰めた
"怪我人を背負っては逃げ切れない お前ならすばしっこく奴等を翻弄出来るだろ "
"えっ!? ぼ、僕が1人で? "
"あいつらを片付けるだけの弾が無い 役に立てて良かったな…
あの娘に聞かせる、いい武勇伝になるぞ… "
そう言うと数歩後退り、建屋の細い隙間にミラを引き摺る様に入って行く
"えっ…… ええっ!? "
その背中を追った視線を前方に戻す 其処で化け物達と目が合い… 其れが合図となった
""うぅぅ…… あぁ…… ""
"わぁぁぁぁ!!"
一斉にジャックに襲い掛かる化け物達 予想以上に早い動きに、ジャックは弾かれる
様に今来たアーケード街を逆走して行く ジャックは昨夜の出来事を思い出した
化け物達に追い詰められ、後数瞬で肉塊にされる所だった事を… お姉さんは
忘れたのだろうか? 確かに役に立ちたいとは言ったが、こういう事をさせるか
普通、子供に!? 自問自答を繰り返す間に大通りに飛び出すジャック
何とか背後の化け物達との距離は離したが、それを確認し視線を前に向けると、
今度は大通りを闊歩する化け物の群れと遭遇する
"いゃぁぁぁぁぁっ!!"
思わず上げた絶叫に化け物達が反応し、新たな追走劇が幕を上げた

"無事か!? 小僧は?"
"多分、ちょっと遅れて来る… "
"……お、遅れて?"
アミヤを心配してか、ライフルを抱えて大通りの入り口まで出張ってきたキングと
共にバリケードのワゴン車を潜る
"どうやら救助隊じゃ、無さそうだな… "
蒼白なミラの横顔を眺めながらキングは呟く そんなキングにバリケードの守り
を託して、アミヤはミラを事務所に運び入れた
"イチゴ、救急箱を持って来て! クイーン、止血出来る?"
"分からない… 止血は出来ても… きちんと治療をしなくちゃ… "
自称、元看護師で繁華街の闇医者の元でも働いていたというクイーンは顔を曇らせた
此処できちんとした治療などが不可能である事は言うまでも無かった
"あ、あのジャック君は……"
救急箱を持ってきたイチゴは心配そうに問いかけた アミヤはそれに答えず、
何事か思案気な表情で中空を眺めていた
313名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/27(木) 20:09:49.87 ID:Z614/wWR
・・・ゴクリッ。
314名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/28(金) 21:06:05.64 ID:Uzu9+WV+
眩しい光がミウたんの意識を呼び戻す
"ここは……… ウッ!?"
ぼんやりとする意識で記憶を手繰ろうとすると、激しい頭痛と吐き気が襲ってきた
どうやら自分がベッドの様な物に寝かされているのに気付いた 眩しい光は天井
からミウたんを照らす照明だった 身体を動かそうとするが、何故かただでさえ
石の様に思い身体は、更に何かによって拘束されていた
"だ、誰か……! 助けて……!"
何が起きているのか分からないミウたんは、居るかも分からない誰かに救いを
求めた だが、その声は反響も無く空間に飲まれ再び静寂が辺りを包む
"被検体が目を覚ました… ……を注入しろ…… "
突如、彼方から遠い男の声が聞こえた 次の瞬間、自分の中に冷たい何かが入って
来るのを感じて、そしてそのままミウたん再び意識を失った…



"はぁ…… はぁ……"
繁華街に面したテナントビルの間に、その小さな身体を隠すジャック 肩で大きく
息をして唾を飲み込んだ 繁華街の大通りを舞台とした命賭けの鬼ゴッコは、
最終的に百体にも及ぶ大群を引き連れる形となった 広い舞台と敏捷性、多大な
運の加護もあり、何とか化け物達を撒いた ジャックは、今漸く束の間の休息を取る
事が出来た 自分の背丈程もある日本刀… 途中何度も捨てようかと考えだが、
大怪我をしても尚、自分の魂だと手を伸ばす女の人の姿がジャックの脳裏に焼き付き、
最後まで其れをさせなかった 改めててその抜き身の禍物を見遣る
宝石の様な光沢を放つ其れは、よく見れば所々刃こぼれしており、あの女の人が
激しい闘いを潜り抜けて来た事を物語っていた ジャックの日本刀の柄を掴み掲げた
その質量は重い金属の塊そのもの… ジャックの先程のアミヤの言葉を思い出していた
『僕が守るんだ……』
みんな闘っている… お姉さんやさっきの女の人だって… 僕も闘う!
イチゴは僕が守る! 日本刀の刃に浮かぶ自分の顔を睨み付けるジャック
"うぅぅ…… あぁぁ……"
"!!"
至近距離で化け物の呻き声が聞こえた 声のする方を見遣れば、大通りから化け物
が此方に近づいて来る ジャックは一瞬、日本刀を構える素振りを見せたが、
次の瞬間には全力でビルの間を逃走していた これは逃げるんじゃない!
騒ぎを大きくしない為の戦略的撤退なんだ!
ジャックは自分の心に何度も言い聞かせていた
315名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/28(金) 21:10:56.01 ID:Uzu9+WV+
"そろそろ話して貰おうか… あんた一体何者なんだ… "
ソファーの上で横たわるミラの白い横顔がランタンに照らされ浮かび上がる
"彼処に倒れていた男は仲間なんだろ あれは兵士だ… そしてあんたも… "
アミヤはアーケード街の入り口で倒れていた完全武装の外国人の亡骸を
思い浮かべていた そして、この目の前の女との接点を想像していた
アミヤの質問にミラは目を瞑ったまま答えない 血の気を失った彼女の顔は、
一際人間離れした透明感を醸し出していた
"このままではあんたは死ぬ… あたし達もな… あんたにとっては其れも使命と
言う事かもしれんが… "
反応を示さない女 アミヤはそれ以上の追及を諦めた 愛想の良い相手だとは
端から思ってもいない 淀んだ空気の中、其より重い沈黙が事務所を支配していた

"うわっ "
疲労で縺れた足 倒れたジャックに化け物が襲い懸かる
「ドンッ!」
至近距離で響いた発砲音 ジャックに覆い被さろうとした化け物の頭は砕け散った
"キ… キングさん… "
尻餅を着いたまま、その音源に顔を向けたジャックの口から安堵混じりの声が洩れる
一応はジャックの事も心配していたキングが再び大通りまで出張っいなければ、
ジャックは化け物の餌食になっていただろう 2日連続の命拾いに、
ジャックも立ち上がる気力と体力を失っていた
"何処ほっつき歩いてんだ! あの娘が心配してだぞ!"
その声は疲労困憊の筈のジャックに再び活力を漲らせた
"助けてくれてありがとう、キングさん!"
日本刀を拾い上げると、お礼もそこそこに通りを折れ、バリケードに向かって
駆けて行くジャック ワゴン車を潜り抜けると、駐車場の縁石に腰を掛けて踞る
イチゴと目が合った
"ジャック君!"
駆け寄るジャックを、赤く目を腫らしたイチゴが抱き締めてきた イチゴの大きな
胸が息も出来ない程顔面に当り、ジャックはただ硬直してしまう
"お楽しみの所悪いが、若女将にも顔を見せてやりな… あれでも一応心配
してるんだぜ… "
ワゴン車の定位置に着いたキングのその声に、2人は赤面して我に帰る
"……お、お姉さんの所に行って来るよ! ちょっと、文句も言わないと!"
まだ子供のジャックには渡りに船の言葉だったかも知れない 頷くイチゴに背を向けて、
ジャックは事務所に駆けて行った
316名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/28(金) 21:17:43.44 ID:Uzu9+WV+
静かにアルミ扉を開けるジャック 怪我をした女性の具合を気にしつつも、
労いの言葉を期待せずにはいられない 寧ろ、一方的に囮にされた事に対する抗議
すら辞さない覚悟だった だが、室内はジャックの想像より深刻な雰囲気を漂わせていた
アミヤはジャックを一瞥する再び横たわるミラに視線を移す
"た、ただいま… "
抗議どころか、張り詰める緊張感に飲まれ、間抜けな挨拶をしてしまうジャック
"お帰り〜 お姉さん、心配したわよ〜 "
アミヤの代わりに、カセットコンロで何かを煮詰める作業をするクイーンが
返事をしてくれた
"これ…… "
ジャックは漸く手放す事が出来る禍物を、持ち主である彼女が横たわる
ソファーの隅に立て掛ける
"!!"
それまで、既に生への関心を放棄したかの様に無反応だったミラが、
其に初めて人間味のある反応を見せた 上半身を起こし、ジャックの置いた日本刀を
手繰り寄せ、大事そうに胸に抱く
"……カタジケナイ………"
蚊の鳴くような声でそう呟いた
"……あたしの作戦は上手くいったろ…… "
漸くアミヤが何時もの様なウイットをジャックに向けてきた だがその表情に、
自分以上に蓄積された疲労と悲壮感を感じたジャックは、苦笑いを浮かべ黙って頷き、
イチゴという名の癒しを求めるべく、事務所のアルミ扉に手を掛けた
"……拙者は国連の特務機関に雇われた傭兵でござる………"
突如、我が子の様に刀を抱くミラが、可笑しな侍口調で口を開いた
"……依頼は1週間前の事でござった……"
"東京の様子を偵察にって事ね… 正確にはボディーガード役……の1人ってとこ?"
ある程度予想の範囲だったのか、アミヤは己の推理を展開する
ミラは小さく頷くと言葉を続けた
"……でも… ミッションは失敗で御座った… 雇い主の機関員と同僚の多くは…
橋頭堡を築く間もなく…… まさか… あんな…… "
悲痛な面持ちで言葉を詰まらすミラの姿だけでも、その言葉の先の惨劇は
目に浮かぶ様に想像出来た 何故なら自分達も同じ経験をしていたから…
"ねぇ、教えて 一体何が起きたの? 東京は… 日本は今、どうなっているの?"
アミヤがその場にいる全ての者が一番聞きたい問いを代表した
"……ミッション以外の情報は余り知らされていないでござる……
只…… この国…… いや、東アジアを中心に、このパンデミックは爆発的早さで
広がっているでござる…… "
"そんな……!"
煮沸を終えた白いタオルを鍋から上げた格好のまま、クイーンは絶叫した
其処にいる者全てが、心の中で同じ声を上げたであろう
317名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/28(金) 21:20:49.09 ID:Uzu9+WV+
"それで国連は? 救助隊はいつ!?"
アミヤが珍しく声を荒げる
"それは分からないでござる… 我々のミッションは病原サンプルの確保でござった…
まさか… 生存者がいるとは… "
ミラのその言葉が、恐らくは国連の見解なのであろう いるかどうかも分からない
生存者の存在を探すより、この異常事態の解明が優先されるのは致し方あるまい
つまり、それ程事態は深刻で絶望的なものなのであろう
"そ、そんな! あたし達はどうなるの!"
だが、沈着なアミヤ以外、それを素直に受け入れる事など出来る筈もない
いつかやって来る筈の救助隊… それだけが一縷の望みだったのだ
ミラは黙って俯く 彼女にはどうしようもあるまい それが分かっていても、
クイーンは食って掛らずにはいられなかった
"ところであんた達はサンプルの確保の後、どうやって脱出する気だったの?"
アミヤだけは常に冷静にミラの目を見て質問を続ける
"……指定される回収ポイントに向かう手筈でござった… ただ… 本部からの連絡も
3日前から途絶えたでござる……"
"ふぅ……… "
アミヤは大きくため息をついた ジャックはドアのノブに手を掛けたまま固まって
いた いつかきっと助けが来る… また平和な時が来る… それはジャックにとっても
心を支えてきた希望であった それが目の前で崩れて行く…
"………スマナイ……… "
事務所を覆う沈痛な空気の責任を感じたミラが謝罪の言葉を絞り出した
"あんたのせいじゃないわ… で、本部との連絡が不能になったあんた達は、一体
何処に向かおうとしていたの…?"
"………ミッションには不測の事態に備えたマニュアルがあったでござる……
部隊の回収が不可能になった場合… オクタマを目指す段取りになっていたでござる……"
"奥多摩?"
"………人工衛星のデータでは其処に極小さな熱源が…… この国で唯一、
汚染されていない地域がある可能性が…… "
"ちょっと! 生存者が居るんじゃないさ! 何で助けに来ないのよ!"
クイーンが口を挟む
"可能性だけでござる…… 交信に応答は皆無…… それに……"
"パンデミックの原因が分かるまで、この国の住民は国外には出せないって事よ"
ミラに代わってアミヤが、その言いづらい言葉をを代弁した
"スマナイ……"
その気遣いに対してなのか、それとも、一応は国連側の人間としての立場から
なのか、ミラは再び謝罪した
"気にしなくていいわよ 請負業の辛さは分かってるつもり……
さぁ、それより… 出発の準備よ!"
318名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/29(土) 13:54:00.03 ID:l9ndWyks
.
319名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/29(土) 14:10:38.81 ID:qZT5CEOm
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320名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/29(土) 14:35:02.42 ID:h3DWYphb
全然かつるイメージがわかん
つか4店まわって2箱使ってるのがモンハンとハデスのみ
321名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/30(日) 22:12:03.39 ID:wfklaVSi
勝て勝て勝て明日やぞ
322名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/02(水) 17:26:10.09 ID:2uVPW2kw
あげげ
323名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/02(水) 17:59:32.62 ID:Y7fxAM8y
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324名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/03(木) 00:05:10.49 ID:ej+AN+pz
ミラの朧気な記憶から、おおよその目的地はここから西に50キロ… 移動には
車が必要だった 駐車場にも街角にも、それは大量に乗り捨てられていたが、
鍵が無ければ只の鉄屑に等しい 唯一、鍵が付けられたままで稼働が可能だったのが、
地下駐車場にあったパチンコ屋の社用車… 今、バリケードの中央に鎮座する
ワゴン車であった インフラは壊滅したが、幸いにも駐車場に放置された車から
燃料を確保する事が出来る
翌朝、其処にはガソリンタンクの蛇腹を外してガソリンを抜いていくキングの
姿があった
「この車を使って地獄から抜け出す… 」
籠城当初から主張された強行脱出論の支持者の1人がキングだった
だが、情報が遮断され、安全な目的地もルートも選定出来ないというアミヤ達の
意見に押され、脱出計画は頓挫した それに不満を抱いた者達は、1人、また1人と
バリケードの外へ去って行った 彼らがどうなったかはキングには分からない
ただ、今となっては、あの時のアミヤの意見が正かった事だけは認めざるおえない

"取り敢えず、これで我慢ね… "
クイーンがミラの傷口を消毒してタオルで巻き上げる そしてアミヤが肩を貸して
立ち上がらせる
"よし、クイーンはキングと一緒に車を… イチゴとジャックは荷物を… "
アミヤの的確に指示が飛ぶ 各々がその指示に従い動き出す
"………… "
そんな部屋の隅で置物の様に微動だにしない影が、慌ただ しく部屋を出て行く
アミヤ達を黙って見送っていた それに気付いたイチゴが立ち止まり視線を送る
"一緒に行くなら早くしな!"
イチゴの動作を無視出来なかったアミヤの凛とした声が事務所の中に響く
"………こんな事をして……一体、何の意味が…… "
それでも尚、ブツブツとネガティブな台詞を独りごちるエマ そんな彼女を見限り
アミヤとクイーンはミラを支えて事務所を出て行く 此処に独り残る事は、
即ち死を意味する 本人が死を望んでいたとしても、そのまま捨て置く事が
イチゴには出来なかった だが、イチゴが力ずくでもエマを連れ出そうと決意し、
その一歩を踏み出すより早く、ジャックはエマの元に駆け寄っていた
"は、放して下さい! 行きたい人だけで行けばいいのですよ!"
ジャックはエマの手を引っぱる ジャックの行動はエマの身を案じて、というよりは
イチゴの心の中を察しての事だった 今のジャックの行動の原理には、全てイチゴ
の存在があった
325名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/03(木) 00:08:03.46 ID:LVh2cq0k
"は、放して……! 嫌よ!"
嫌がるエマをイチゴと共に引っ張り駐車場に出る 其処には崩された
バリケードと、その中央で化け物達の進行を阻んでいたワゴン車が3人を
待っていた エマを挟み、最後部席に乗り込むジャック達
"よし、行くわよ… "
アミヤの緊張を帯びた声が出発の合図となった あの日以来、初めてこの街を出る
この街の外がどんな状況なのか、知る由もない 安全地帯に着くまでに何らかの
アクシデントで停車すれば、其処がアミヤ達の墓場となるだろう そもそも安全地帯
など存在するのか… 今は只、一縷の望みを其処に託すしか無かった…



"……………お姉さま………"
分厚いガラス板の向こうに寝そべるその姿を眺めながら少女は呟いた
かつて一度だけ少女はその「お姉さま」と会った事がある その時発した
「お姉さま」という言葉は、尊敬と信頼からきた物だった ただ、今はその言葉の
意味が違う まさか、「お姉さま」と自分が本当に血縁関係にあるとは…
なんという運命の皮肉か、この災禍が2人を再び巡り合わせ、そして姉妹である事を
解き明かした ただその姉は、今は隔離され、ベッドの上に拘束され、言葉を交わす
事さえ出来ない…
"また此処に居たのか…"
少女の背後の扉が開き、白衣の男が現れた
"大丈夫、お姉さんは治してみせる…"
男は少女の肩に手を掛けた
"さぁ、行こうか麗羅… "
麗羅と呼ばれた少女は黙って頷き、男と共に扉の奥へ消えて行った

"くっそ ! こっちも駄目か!?"
"後ろも塞がれてるよ!"
"あの脇道に入って!"
西へ向かう幹線道路は予想以上に通行困難であった 至る所で乗り捨てられた
車の大行列 ある所ではトラックが路肩に乗り上げ、そこに何台もの乗用車が
突っ込んでいる またある所では、バス電柱を薙ぎ倒す あの時の混乱と恐慌の
記憶がそのまま焼き付いているかの様だった 行き場を失い停車すれば、たちどころに
化け物達に囲まれる 1体、2体なら跳ね飛ばせばても、集団ともなればそれ自体が
巨大な障害物となる 道が塞がれる度に新たなルートの選択を迫られる
躊躇している余裕は無い 再びキングはバンドルを切ると、アミヤの指差す細い脇道へと
アクセルを踏み込む 化け物を跳ね上げる軽い衝撃が伝わる度に、
最後列の3人は目を閉じるのだった
326名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/03(木) 00:11:08.17 ID:LVh2cq0k
"No.9の車両、間もなく正面ゲートに到着します… 最終的に同行者が5名…
ゲートで処分させますか?"
"……いや、取り敢えずゲストとして扱え…… こういう状況では妙な連帯感が
生まれるものだ…… 手懐けるにも使える…… "
ディスプレイに写し出される光点を眺めながらオペレーターの質問に答える男
先程、麗羅に掛けた声色とは似つかぬ冷酷な声で続けた
"但し、持て成しは必要ない……"

常時なら二時間もあれば着く道程 アミヤ達のワゴン車が街を抜け、奥多摩の山裾に
たどり着いた時には、裕にその倍の時間が流れていた 都心を離れるにつれ
道路の障害物は減り、車速は上がった 漸く車内の緊張も解れていく
だが、車窓にの外には、やはり人気の無い荒涼とした死の世界が広がっていた
"あ… あの僕… おトイレに行きたい… "
緊張の解れが生理現象を引き起こす
"駄目よ 止まったら危険だわ そこでしなさい"
アミヤが冷たい声で正論を述べる
"で、でも……!"
ジャックはイチゴの顔を覗いた いや、ジャックは出発してからずっとイチゴの
表情を覗いていた 恐怖と緊張におののく彼女が気になったし、何より無意識に
彼女の方を向いてしまう イチゴの顔を眺めている時だけは、ジャックは恐怖も
絶望も感じ無かった そして、それ故に彼女の表情の変化にも気付いたのだ
言いづらいであろう彼女に変わって、ジャックはトイレ休憩を求めたのだった
"……仕方ないわね "
アミヤも車内に広がる疲労感を察していた 取り敢えず山場は越えただろう
休憩出来る時に休憩するべきかも知れない
"彼処に公園があるわね… "
助手席のクイーンが指差す方向に小さな公園があった 辺りも開けて見通しも良い
"それじゃ、彼処で一息入れましょう "
ワゴン車は滑る様に公園の駐車場に停車する
"ま、待て 俺様が先に安全を確認してくる!"
恐らくは本人も我慢の限界だったキングが、ライフルを手に駐車場の隅のトイレに向かう
"じゃあ、僕も!"
"あたしも行っとくか…"
ジャックとクイーンが後を追い、それに釣られる様にイチゴとエマもワゴン車を出て行く
"気分はどう……?"
"ダイジョウブでござる……"
到底大丈夫とは思えない苦悶の表情でアミヤの問に答えるミラ
327名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/03(木) 00:14:35.06 ID:LVh2cq0k
車内に残された2人 アミヤはどうしても皆の前では聞けなかった質問をミラにぶつけた
"ねぇ あんたの言ってた「サンプル」って一体何なの? "
顔をしかめて痛みに堪えるミラは、虚ろな視線をアミヤに向けた
"感染した素体なら、いくらでも転がっていたじゃない? 一体、何を探していたの?"
"……そこまでは分からないでござる……… ただ……… "
"……ただ?"
"某らの任務は… サンプルを回収地点まで無事に護衛する事……
出来るだけ無傷で… 生きたまま…… "
アミヤは一瞬、何かを思案し泳いだ視線を再びミラに向ける
"それでもし…… 回収に失敗したら…… アンタの雇い主は…… 国連は…… "
"……………… "
ミラはその問には答えなかった 程無くしてトイレを済ませた一団の足音が
聞こえてきた アミヤは視線を前に戻す
"はぁ〜 スッキリしたぜ! 女将はいいのか? ……じゃ 行くぜ!"
ワゴン車は再び走り出す 既に日は傾き、奥多摩の高い山嶺にその姿を隠しつつあった

"そんで、具体的に何処ら辺に向かうわけだ!?"
曲がりくねった山道に合わせバンドルを切るキングが尋ねた
"………… "
車窓から外の景色を眺めるアミヤはその答えのヒントを必死に探していた
奥多摩…と言ってもそれは広大で、ミラの情報だけでは具体的な目的地は判別出来ない
もしそこに安全な土地があるなら、何かしらの痕跡がある筈だ
アミヤのみならず、横たわるミラ以外の全ての目が、夜の戸張が落ち始めた山々の
間を探っていた
"!?…… あそこ! 今、あそこに光が見えたわ!"
突然クイーンが一方を指差し叫んだ
""!!""
衆目が注がれたその先には、確かに微かな光源があった いや、その光源は立所に
明確になり、光源と言うには余りに強烈な光の塊となって周囲を制し始めた
"なんだ、ありゃ………!?"
そのキングの呟きは、車内に居る者全ての感想だった インフラが停止して二週間以上…
久々に見る電力の明かりは、まるで今までの災禍が全て幻であったかの様な
錯覚さえさせた 車内で顔を見合わせる一同… アミヤが黙って頷くと、
キングはその光の塊に向けてアクセルを踏み込んだ
328名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/04(金) 17:32:48.53 ID:CK20pQ0s
超大作ですやん^^ 続きはまたお手隙な時にお願いします。

こちらは株で今月出してた利益吹っ飛んだ。。
危ない銘柄は触らない方がいいですね。。
329名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/08(火) 15:21:23.16 ID:bZWA76wo
///
330名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/08(火) 17:57:49.86 ID:SpBD98PA
黒い森の中をうねる細い山道を登りきった先の山頂は大きく開けていた
突如、前方に広がるアスファルトとコンクリートで整然と舗装された広大な敷地…
恐らくは此が彼方から見えた光源であろう、所々に突き立つ水銀灯が放つ強烈な
白光に照らされながら、ワゴン車はその中をゆっくり進んで行く 周囲の風景との
余りに激しい違和感に車中の緊張は否が応うにも高まる 明らかに民家やその類い
とはスケールが違う かといって企業や公共施設を連想させる文物は一切無い
だだっ広いスペースにアミヤ達の乗るワゴン車がただ一台… 沈黙の中、12の瞳が
周囲を探る…
"……おい……!"
やがて前方を見遣るキングの視線の先 光の陰から一軒の巨大な建屋が
浮かび上がってきた それは白いコンクリートが打たれただけの無粋な三階建の建物
だった 等間隔に簡素な窓が並び、それらには1つ残らず鉄格子が嵌めれていた
その姿はまるで精神病院の隔離病棟… これがミラの言っていた熱源…
安全地帯という所なのか… 建屋と敷地を隔てる高く白い壁、その中で正面玄関と
おぼしき扉に面した一角を占める格子門が、ワゴン車の接近と共に音も無く開く
どうやら建屋の住人は訪問者の存在に気付いている様だ
"………入れと言う事ね………"
最悪、攻撃される可能性も考慮したアミヤは取り敢えず胸を撫で下ろす
そのままワゴン車は門を抜け、建屋の玄関前に停車する 背後で再び格子門の閉まる
音がした 辺りを見回すが、誰も姿を表さない
"彼処から入ってみましょう……"
クイーンは助手席のドアを開けて車外へ出る 確かに此処で待っていても
出迎えは無さそうだ
"ジャックとイチゴはミラを見てて… "
そう言い残すとアミヤとキングもクイーンの後を追って行く 3人の姿は、
そのまま玄関らしき大きなチークドアの中に消えた
"………………"
その後ろ姿を黙って見送るジャック達 3人の姿が消えると、途端に不安が
こみ上げてくる
"だ、誰が住んでるんだろうね… 広くて掃除も大変だね… はは…… "
余裕のある所をイチゴに見せようと、ジャックはキングを真似て精一杯の
ウィットを飛ばす だが、前のシートに横たわるミラの汗を拭うイチゴは聞こえないのか
反応しなかった
"馬鹿な子ですね… 私達と同じ死に損ないが立て込もって居るんですよ… "
隣に座るエマだけが、ジャックの言葉を真に受けて憐憫の眼差しを向けてきた
331名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/08(火) 18:01:30.82 ID:SpBD98PA
ドアには鍵は掛かっていなかった クイーンがノブを引く 陽も落ち、大分気温の
下がった中でも感じる、ひんやりとした建屋の空気がその隙間から流れてきた
無意識に顔を見合わせる3人 アミヤの頷きに意を決して、先ずはクイーンが
その隙間に身を滑り込ませ、2人が続いた そこはまるで時間が止まったかの様な、
古ぼけた内装とデザインの不思議な空間だった 白で塗り上げられた板壁…
振り子の止まった大きな壁掛け時計… 吹き抜けの二階から垂れる白熱電球の
ランプの明かりが、それらを一層色褪せて見せた 奥の壁に拵えられた小窓の
存在が、正に病院の受付を彷彿とさせた
"寒い………"
そう呟くアミヤの息が白く濁る 明らかに室温は空調によって異常なまでの
低温に維持されていた
"おい! 誰かいるんだろ!? 出て来いよ!"
キングの上げた声が、静まり返る屋内に微かに木霊した クイーンはその広間の
奥から左右に伸びる通路を見渡し、その左側に歩を進める そして直近の部屋の
ドアを開けて中に進入して行く アミヤは反対の通路を進み、やはり一番出前の
ドアを開ける カビ臭い淀んだ空気がアミヤの鼻腔を突く 壁を手で探り、明かりの
元を探すが見当たらない 二、三歩進み出て暫く待つと、幾分暗闇に目が慣れてくる
そこは嘗ては病室か診察室だったのだろうか、今は何もない殺風景な小部屋だった
窓に嵌められた鉄格子だけが外灯の明かりを鈍く反射していた 何故、ここの住人
は姿を表さないのか… 明らかにアミヤ達を招き入れた筈なのに…
頭脳明晰な彼女でも、己を取り巻く状況を理解する事が出来なかった
「バタン…」
"!!"
その時、アミヤの背後で突然ドアが閉じた 光源が閉ざされ、辺りは暗闇に包まれる
咄嗟にアミヤはドアに近づきノブを回す
"!?"
だが、何故かノブは空回りする そのまま力を入れてドアを押すが、
鍵が掛かったかの様にびくともしない
"キング? クイーン? ちょっと… 誰か…!?"
初めはイタズラかとも思ったが、今はとてもそんな雰囲気では無い
何が起きたか分からないアミヤはドアの外に助けを求める
"ねぇ… 誰かヒッ……!!?"
アミヤは最後まで声を出す事が出来なかった 暗闇の中、背後からアミヤの頚を
強烈な圧力が絞めあげる
"ンンッ!!?"
アミヤの両足は宙を泳いでいた 何者かの大きな手がアミヤの頚を絞め付けている
アミヤも両手で其れを必死に振りほどこうとするが、全く歯が立たない
332名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/08(火) 18:05:02.62 ID:SpBD98PA
コートの裏のリボルバーを抜く余裕も無い 一瞬アミヤの意識が遠退き、
次の瞬間からは断続的に意識が白濁していく
(あたし… 死ぬんだ… )
意識と共に力が抜けていく ドアの向こうで怒号が響いた気がする…
(そうだ… 2人に… みんなに危機を知らせなきゃ… )
其れを最後にアミヤの意識は途絶えた

"ハァ…… ハァ…… "
苦しそうなミラの息遣いだけが車中に流れる その額を健気に拭うイチゴ
3人の消えたチークドアをじっと眺めていたジャックは、そんなイチゴを気遣う
様に声を掛けた
"き… きっとこれだけ大きな建物なら、生き残った人も沢山いるよ…!
その中にはきっとお医者さんだって…!"
その言葉にイチゴは黙って頷く 今日も根拠の無い励まししか出来ない自分が、
ジャックは情けなかった
"確かに沢山いらっしゃるみたいですね… お医者様が居るかどうかは
分かりませんげど… "
突然奇妙な相槌を入れるエマ ジャックが視線を向けると、彼女は窓の外を眺めて
いた そのエマの後頭部越しに、ワゴン車に迫り来る沢山の黒い影が見えた
"うわっ!?"
ジャックの驚声にイチゴもその存在に気付く
"きゃっ!?"
驚くのも無理は無かった それは迷彩服と鉄兜を身に付け、ガスマスクで顔を覆った
完全武装の集団だった 手にしたサブマシンガンを向けながら、たちまちワゴン車を
取り囲む その数は十数人 凡そ友好的なスタンスには思え無かった
"こ、怖い……!"
イチゴがか細い悲鳴をあげる
"あの化け物じゃ無くて良かったですね… あぁ… こっちが化け物扱い
されてるんですかね… "
突然の出来事にイチゴを励ます余裕も無かったジャックは、それでもエマの
軽快なウィットにはほんのちょぴり嫉妬した 自分もそんなアメリカ映画の様な
ジョークでイチゴに大人な余裕を見せたいと… そして、自分はこんな時に何を
考えているのかと猛烈に自省した
迷彩服の1人が懐中電灯を車中に向ける その閃光に炙られ車中の面々は顔を
しかめる 懐中電灯を収めた迷彩服が人差し指を折ってジャック達にサインを
出している
"降りろって言ってるみたいですよ… "
それはジャックにも分かった ジャックはイチゴを振り返る 怯えたイチゴの顔が
より一層白く輝いて見えた
綺麗だ… ジャックはそんな彼女の顔に改めて魅せられ、そして再び、
こんな時に一体何を考えているのかと猛省した
333名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/08(火) 18:07:50.17 ID:SpBD98PA
ジャックはドアのロックを外した
"ジャック君!?"
イチゴが不安気な声をあげる
"仕方ないよ… "
実際どうしようも無かった 武器を構えた連中に囲まれては、意思の自由は無い
勢い良くスライドドアが開けられて、ジャックが乱暴に摘まみ出される
"いっ 痛いよ!"
"は、放して下さい! 触らないで! 失礼ブフッ!?"
次いで引き摺り出されるエマの抵抗に、迷彩服の1人が躊躇無い拳を彼女の顔面に
叩き込む
"酷い! 止めて!"
イチゴが抗議の声をあげる ジャックは自分の身体が熱くなっていくのを感じた
自分が乱暴に扱われた為では無い この連中が容赦なく女性の顔面を殴った事…
正直、第一印象から好きになれないエマだったが、それでも男として、
彼女に対する卑劣な行動に我慢出来なかった
そして何より、最愛のイチゴが次の標的になる事を看過出来なかった
"やめろぉぉぉっ!!"
雄叫びと同時にジャックの身体はゴム毬の様に地面を跳ね上がった
ジャックを引き摺る迷彩服の手を振り切り、今まさに車中のイチゴに手を伸ばす
もう1人の迷彩服の脇腹に渾身の体当りを食らわせた 今まで敵から逃げる
事しか出来なかったジャックの、初めてとも言える攻撃 組織化され、高度な訓練
の様を窺わせるさしもの迷彩服も、ジャックの怒りの一撃を受けてバランスを崩す
ジャックはそこで一瞬、イチゴと目が合った 言葉にならない感情のこみ上げを、
強いて言葉にしようと口をあげる だが、それより先にイチゴが叫んだ
"ジャック君!!"
次の瞬間、強烈な衝撃がジャックの脳天を襲い、目の前を閃光が飛んだ
そのままガクンと膝をつくジャック 視野の片隅で悲痛な叫びを上げるイチゴの
顔が映った だが彼女の悲鳴は聞こえ無かった 近づく地面と対称的にジャックの
意識は遠退いていった



"本当にこれでお姉さまは… 世界は助かるのですね… "
スポット照明が照らす机の上に置かれた一本の小瓶 其れを目の前にして、
麗羅の声が緊張に上擦る
"私だって皆を救いたいんだ… 勿論、君のお姉さんも… "
麗羅の背後から白衣の男が現れる
"さぁ… もう、余り時間が無い… "
男の声に急かされる様に、麗羅はその小瓶に手を伸ばした
334名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/09(水) 15:59:59.90 ID:LmV1zqYZ
///
335名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/09(水) 16:18:07.84 ID:h2X+Jp9r
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336名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/14(月) 06:16:04.90 ID:GT5Sr4Nw
:
337名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/14(月) 21:24:34.16 ID:RCpN9Mfz
麗羅の桜色の唇に小瓶の縁が近付く… 鼻を突く刺激臭に思わず顔をしかめる
それでも覚悟を決めた麗羅は、一気にその小瓶の中身を飲み干した
今まで味わった事の無い、例え様の無い刺激が舌と咽を走り抜ける
"ぐぁぁぁぁ……… "
麗羅の蝋人形の様な白い手から小瓶がずり落ち、床の上で砕けた
口と腹を押さえて屈み込む麗羅
"良くやったぞ、それで良い! さぁ、横になって少し休みたまえ…
そうだ麗羅… 目が覚めたら君にご褒美をあげよう… おやすみ… 麗羅… "
薬の作用か、疲労と解けた緊張感も加わり、その声が麗羅の意識を微睡みの中に沈めた
自動扉が左右に開き男が出てくる そこは机や大型コンピューターが並ぶ監視ルーム
その中央、四方をガラスに囲まれた小部屋の簡易ベッドに麗羅が横たわる
今、男が出てきた部屋だ 不思議な事にその部屋は中からは外は窺えないが、
外からはただのガラス張りの一室だった そしてそのガラスも男の一拍で透明度を失い、
黒い壁に変わった そこで漸く、ガラス越しに麗羅の様子を眺めていた女が男に振り返る
"計画の進捗は芳しくない様ですね… "
女の言葉を背に受けながら、男は白衣を椅子の一脚に無造作に放り、テーブルの
上のカップに珈琲を注ぐ
"あぁ… 私は乱暴な真似が嫌いでね… あくまで自主的に実験への参加を求めているのだ… "
湯気の立つ珈琲をすすりながら男は女に向き直る
"それでも君の連れて来てくれた三体目のお陰で、実験は大いに捗りそうだ…
想定外の因子もあったがな… "
"例の工作員ですか… 正直、連中がこの拠点の存在に気付いていたのが驚きでして…
何か聞き出せるかと… 如何します? 力ずくで尋問しますか? それとも…… "
"フン… 私は乱暴な真似が嫌いと言っただろ… 遅かれ早かれ気付かれるのは
想定の内だ… まぁ とりあえずは三体目の反応次第だ… それまでは生かしておけ…
使う事になるかもしれん… 麗羅の様にな… "
男はもう何も見えない壁の一辺を見詰めた
"とにかくご苦労だった… 新たな指示があるまで休んでいろクイーン… "
その言葉を受けて、女は一礼をすると部屋を後にした
338名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/14(月) 21:28:59.68 ID:RCpN9Mfz
"……続きましては〜 当サーカス団最年少にして一番人気のパペット使い〜
ジャック少年のメルヘンアクロバティック玉乗りでございます〜
どうぞ皆様、盛大な拍手を〜 "
割れんばかりの満場の拍手を受けてジャックは舞台袖から勢い良く飛び出す
両手に嵌めた正体不明なパペット人形… ジャックの祖母が古着を再利用して手縫いした、
お世辞にもかわいいとは言えないそのフォルムが、幼さの残るジャックとミスマッチして
主に女性の観客には好評だった そんな人形と共に客席に愛想を振り撒くと、
玉乗りの曲芸を始める ジャックにとってはどうと言う事の無い朝飯前の軽業だが、
それだけで客席からは黄色い歓声とお捻りが乱れ飛ぶ どんなに容易な雑技でも、
軽々とこなしてはエンターティナーとは言えない 敢えて身体のバランスを崩し、
見る者に緊張感を与える それがジャックに対する大きな声援を引き出し、
お捻りの激しい上乗せを導き出す事になるのだ 今回もギリギリ成功と言う体で、
かいてもいない汗を拭う素振りを見せれば、ジャックのパフォーマンスは終了する
感慨も充足感も無い、淡々としたジャックにとっての日常業務
後は総出でフィナーレの挨拶を済ませ、テントの片隅で漫画を読み、
ご飯を食べて1日が終わるのだ
頭を覆っていた謎の冷たい感触が抜けると同時に、ジャックの意識がそんな
テント小屋から離れて行く 次いで硬いマットレスの反発を背中に感じた
"……んん……?"
再び、冷たい感触が頭を覆う そこではっきりと意識が覚醒した
"気が付いたのね…? あんまり無理しない方がいいわよ… "
"……ここは……?"
混乱する記憶を辿る様に身体を捩るジャック その拍子に頭に乗せられていた
氷嚢がずれ落ちる そこ白い壁に囲まれた狭い空間だった 床には橙色の
カーペットが敷き詰められ、その上のマットレスにジャックは横たわっていた
天井に嵌め込まれた暖色の照明が、窓の無いその空間を照らしあげていた
"子供とは言え、男性と相部屋とは失礼しちゃうわね… "
頭の先からそんな声がした 顔を向ければ、其処には長いツインテールの
少女が床に腰掛けていた ジャックを子供呼ばわりする割には、本人もまだ幼さの
残る風貌だった ジャックは漸く状況が飲めてきた 傍らに落ちた氷嚢と鈍痛が
残る頭部 どうやら殴られ気を失った後、この部屋に運ばれた様だ
目の前の少女がジャックのたんこぶを冷やしてくれたのだろう 何者かは分からないが、
少なくともジャックに敵意は抱いていない様だ
"……あ、ありがとう……"
339名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/14(月) 21:31:34.14 ID:RCpN9Mfz
取り敢えず少女に礼を述べるジャック そして次の瞬間、大切な人の存在を思い出す
"はっ… イチゴ!!"
ジャックは立ち上がり、改めて辺りを見回す そして壁の一角に扉を見つけて
いてもたっても居られずに駆け寄った
"無駄よ…"
少女の声に冷静さを取り戻すジャック 未だ痛む頭で自分の置かれた状況を
思い起こした
"ここは何処なの? あいつらは? 君は誰なの? "
矢継ぎ早に質問を繰り出す ジャックはとにかくじっとして居られなかった
"それはこっちが知りたいわよ… "
床に座り込む少女がジャックに向き直った
"あたしは音模、人質なの… "
"人質!?"

廊下に響く乾いた足音が1つの扉の前で止む 扉に付いた小窓を引くと、
手にした酒瓶を差し入れる
"体調はどう…?
"………良いわけ無いでしょ……"
差し出されたそれを受け取らず、無愛想に答えるアミヤ
"せっかく貴重品を差し入れてあげたのに愛想無いわね〜 "
"アンタ…よくも!!"
怒りを顕にするアミヤ
"結果的に助かったんだから感謝して欲しいわね〜 最も、この先の事は保証
出来ないケド〜 "
そんなアミヤを挑発する様な口調でいなす、かつての仲間クイーン
"みんなはどうなったの!? まさか…!"
その問いには彼女は視線を反らし、何も答えなかった
"………1つだけ教えてよ…… アンタ達の目的は一体何なの? あたし達は
アンタが此処に来る為のボディーガードに利用されたって事なの?"
"まぁ 正確に言えば「あの娘」のボディーガードね〜 すんごく助かったわよ〜
貴女には感謝してる… で、話なんだけど… どう? あたし達の仲間にならない? "
クイーンはわざわざ惨めな虜囚の顔を見にきた訳では無かった
"貴女の戦闘能力は組織も評価してる… 仲間になるなら、あたし達の計画も… "
"……断ったら殺されるの? 残念だけどNHKとの契約はまだ終わって無いのよ"
アミヤには自分達を利用した組織と人間に屈する気は無かった
クイーンはそんなアミヤの態度を鼻で小さく笑うと、酒瓶を部屋の中に放り、
小窓を閉めて去って行った
"アミヤさん… 彼らを挑発するのは余り懸命ではありませんね… "
部屋の奥で壁に凭れ、2人のやり取りを眺めていた同居人が静かに語りかけた
340名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/14(月) 21:34:13.19 ID:RCpN9Mfz
アミヤが目を覚ました時、初めて視野に入ったのが、自分を心配そうに覗く
このロングヘアーとオーバル眼鏡の女性… この部屋の先住人だった
"ん…… 何時ものやり取りよ…… "
背中越しにそう呟くと、クイーンの差し入れた酒瓶を拾い上げ、彼女の隣に
寄り掛かる 酒瓶の1つを差し出すが彼女は首を振った
"宛子…… 何か知ってるんでしょ… 何でもいいから教えてよ… "
宛子と呼ばれたその同居人は多くを語ろうとはしなかった 沈痛な面持ちで
視線を落としている事が多かった
"このままじっとしてるつもりなの? 姉妹も捕まっているんでしょ?
心配じゃないの!?"
その言葉に宛子は顔を上げ、珍しく感情を顕にしてアミヤを睨み付けた
"知ったからどうなると言うの? ここからは抜け出せない !
どうしようもないじゃない! "
"……ごめん、酷い事言ったわね… あたしも仲間が… もし生きてれば…
捕まってる筈なの… 殺されてなければ…
じっとしてられなくて……"
アミヤも珍しく感情的に言葉を詰まらせ目を伏せた
"………多分、アミヤさんの仲間は大丈夫…… さっきの人の口振りなら……
きっと私達と同じ理由…… 人質ですわ
…… "
"人質? 貴女達姉妹が? 一体誰の!?"
アミヤは目を見開き、宛子の横顔を凝視した
"……私達姉妹には… 1人だけ血の繋がらない妹が居りますの…… "

薄紫色のマットレスに横たわるエマの右頬は赤黒く腫れていた 突如振るわれた
暴力は、ジャック達との触れ合いで幾等か緩み掛けていた心の扉を、再びきつく
閉め直させていた もし、傍らの女性がエマに献身的な優しさを見せて居なければ、
自ら命を絶っていたかも知れない
"べ、別にそんな妹の事なんか心配してないんだからね! 勘違いしないでよね!"
李里江と名乗ったその明朗な印象の女性は、エマの腫れた頬を氷嚢で冷やし
ながら、一方的に自分が此処に来たあらましや、人質となっている妹達の事、
そして此処の連中が血の繋がらない末妹に執着している事などを、身振り手振り
を交えながら講釈していた エマもエマで、そんな李里江の明るさを
塞ぐ心を紛らわす為に利用していた
"……その妹さんに言うことを聞かせる為に…… 幽閉されているのですね…… "
頗る興味は無かったが、李里江を饒舌にさせる為に適当に相槌を打っていた
341名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/15(火) 05:16:40.35 ID:rpmgt2Vo
///
342名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/18(金) 02:26:11.04 ID:fvt4upe3
……結果的に、その日マロンは来なかった………
手術の用の検査着に着替え、医師から手順やリスクについて説明される 何枚かの同意書
にサインし、いよいよ手術室に運ばれる時になってもマロンは来なかった
エマは自分の手術の成否より、マロンの身を案じた
ストレッチャーに乗せられ長い廊下を行くエマ ある所で、不意にあの渡り廊下の先が
視線の向こう現れた
"!!"
エマは見てしまった 病室から勢いよく飛び出してきた子供用のストレッチャーと、
それを取り巻き、慌て走って行く医師と看護婦達……
あの角は…… あの部屋は……

12時間にも及ぶ大手術は成功し、 2日後には流動食を口にする 1週間後には
掴まり立ちが出来るまでに回復し、1ヶ月のリハビリを経て、エマは退院した
エマはその間、マロンの事を看護婦に聞く事は一度も無かった 看護婦もまた、
何も言おうとしなかった

冷たい北風が吹き抜ける目抜通りに面したオープンカフェで、エマは今日も独り、
ラテアートの制作に励む 熊、フェレット、土竜、お馬さん… レパートリーも十分増えた
アルバイトも複数こなし、少しずつ貯金も増えてきた
二人の夢は少しずつ、少しずつ現実になりつつある 後は…………
"!?"
不意に誰かに呼ばれた気がしてエマは振り向いた だが、そこには誰も居ない…
冬の透明な青空が何処までも何処まで続くだけ…
一羽の白鷺が高く遠く舞って行くだけだった…





"絶対、絶対、可愛く撮って欲しいです〜!"
ベッドの上で熊のぬいぐるみを抱き、ピースサインをする糞ガキ…
"チッ……チッ……チッ……!"
俺はデジカメの調子が悪い様に見せかけて何度も舌打ちをする 新台まどマギが
打ちたいが為に、半年ぶりに求職した俺に突き付けられた厳し過ぎる現実…
ジジババのウンコ取りか、さもなくば旗降りか…
俺は遠縁の親戚を頼り、その親戚が理事を努めるNPO法人に何とか潜り込んだ
ジジババのウンコ取りよりはマシだろう… その考えは甘かった
仕事は見寄の無い年寄りや病人の介護と言う胡散臭いもので、今日も今日とて、
ビデオレターを撮りたいという糞ガキの余計な一言でタダ残業…
もし理事のBBAが見てなければ、往復ビンタを喰らわし、どうせ5年もすればあちこちの
チ○コくわえてアへ顔ダブピーすんだろ糞ビッチw
と言わんばかりにイマラチオを決めてやりたい所だが、穢レガーを叫ぶ為に
今は歯を食い縛り自分を押さえる
"絶対、今日中に送って欲しいです〜!"
"チッ……チッ……チッ……!"
パソコンの調子が悪い様に見せかけて何度も舌打ちをするが、糞ガキはお構い無しに
ひょこひょこパソコンを覗き込んでくる
"エマお姉ちゃん もうすぐ会いに行きます〜"
"お疲れ〜した…"
糞ガキと糞BBAを残し、俺は明日の狙いまどかを定める為、一路マルハンへと
ケンケンパーをかまして行くのだった

この夜、エマは俺の誤送信した
「絞殺ミウたん屍姦ハメ撮り 〜アナルファック編〜」
を見て心臓発作で倒れるが、それはまた別の物語である
343名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/18(金) 18:07:00.83 ID:t/DHNV1c
"そうなのよ〜 あの娘が持つ特異体質に世界を救う鍵があるらしいの〜
元々、変わった娘だとは思って居たけどね〜 べ、別に自慢している
訳じゃないからね!勘違いしないでよね!"
世界を救う為に戦う正義の結社が、ヒロインの家族を幽閉したり、
一般市民に暴力を振るったりするものですか… エマは心の中で毒ついた

"少しは落ち着いた様だね… 改めてまして… ようこそ、我楽園へ… "
"いったい、私をどうするつもり!? みんなは何処なの!?"
薄暗い部屋の中央で椅子に腰掛けるイチゴは目の前に現れた男に声を荒げた
彼女の手首と足首は金属の枷で椅子に拘束されていた
"心配する事は無い 皆元気だ "
イチゴの前に立ち彼女の顔を覗き込んだのはあの白衣の男だった
"この2週間、恐ろしい思いをしただろう… だが、此処に居れば安心だ… "
イチゴはその端正な顔を紅潮させ男を睨み付けた
"何をする気なの!? これを外して!"
"乱暴な真似はしたく無かったが、君が暴れるのでね… "
"当然でしょ!"
目の前でエマとジャックを殴り倒され車外に引き摺り出された時、イチゴは
これまでの人生で経験した事が無い程の怒りを炸裂させた 化け物では無い、
同じ人間の余りの所業が許せ無かった 当然、非力な自分が抗う事は叶う筈が無く、
次の瞬間には自分にもその暴力が振るわれる事を覚悟した上での行動だった
だが、迷彩服の男達はそれをしなかった ただ暴れるイチゴを押さえつけ、
そしてこの部屋に拘束されたのである
"ミラさんは!? 彼女は治療が必要なの!"
イチゴはあの時、車中に残されたミラが気になっていた 初対面の自分達に
これだけ好戦的な連中である 人道的な扱いをされているとは思えない
"あぁ… あの女か… そんなにあの女が心配かね… "
男はイチゴに背を向けた
"確かにあれは治療が必要だ… そして此処には、それが出来る設備と人員が居る…
だが、我らが助けてやる道理は無い… "
"酷い! それなら私達を捕また理由は何なの!?"
"実験に協力して貰う為さ!"
男は再びイチゴに向き直る
"実験……?"
"あぁ… 君も見て来ただろう… この世の地獄を… 私は世界を救いたいんだ… "
蛇の様な男の両眼に睨まれ、イチゴは思わず唾を飲み込んだ
344名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/18(金) 18:11:21.61 ID:t/DHNV1c
"そ、それが… 私達とどんな関係が…?"
"関係があるのは君だけだ… "
困惑するイチゴの脳裏に不安の雲が広がる 本能が警鐘を鳴らしている
"わ、私に何を……
"君はこの実験に参加する義務がある! 責任がある! 世界を救う責任が!"
突然、男は語気を荒げた
"責任!? 私が!? 私は何も…!"
イチゴは目を見開き、首を振る
"君に無くとも、君の姉にはある!"
"!!?"
男の言葉にイチゴは益々困惑していく 姉…? 自分に姉などいない……筈……
物事ついた時から養護施設暮らしの自分に姉など……
"彼女を救いたいんだろ…? "
男の声に反応する様に、部屋の一面が突如眩しく輝き、そこに現れたディスプレイに
診察台に横たわるミラの姿が写し出された
"取り引きしよう… 君が実験に協力するなら彼女を助けよう…
他の連中の安全も保証する… "
"………… "
イチゴはディスプレイに写る、生気の無いミラの表情を見詰めていた



"ふぁぁ〜 今日も疲れたな〜 "
その日も深夜まで薄給バイトに勤しんだミウたん 客足も疎らな
マイナーファーストフード店での仕事は同業者からすれば労働の内に入らないが、
そこは小生意気なミウたんの事、一丁前にさして重くもない足をわざとらしく
引き摺り、「頑張った私」という存在に独り悦に入っていた
街灯が遊具を寂しく照らす小さな公園 いつも通るその脇を、とぼとぼと
歩いていた時だった
『ガサッ』
数歩先、公園と歩道を隔てるツツジの垣根の一部が音を立てて大きく揺れた
"!?"
ミウたんは緊張に身を強ばらせた
(この雰囲気は… もしかして…!)
最悪の展開を想像して、咄嗟に今日自分が身に付けている下着の色柄を思い出す
どんな場合であっても常に可愛く思われたい、それがミウたんの生きる縁だ
息を殺して揺れた垣根に視線を向ける もしも其処から出て来るのが、絵に描いた
様な変態キモメンなら全力で逃げよう 可能性は低いが変態イケメンなら後は
展開次第 がっつり食い付いて来る様なら、更に暗い所に自ら低速で移動する
食い付きが悪い様なら残念ながら自分はそんな安い女では無い、
そのまま振り切らせて貰う
345名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/18(金) 18:15:21.75 ID:t/DHNV1c
完全に賢者モードになったミウたんは、サプライズイベントの終了を独り宣言し、
帰路に付く事にした
"……あぁ どうしようコレ……"
ミウたんは手にしたビジネスバックを見遣る 今から返しに行くのは勘違い
されて危険だし、かと言って捨てていくのも… 無意識にそれを振ると、中で何かが
揺れる音がした
"………… "
微かな好奇心から、ミウたんはバックの留め金を外し中をまさぐった
"……なんだこりゃ…?"
其処から出てきたのは小さな段ボールパッケージの箱だった
"………理研の増えるワカメ……?"
星空に照らして繁々とそれを眺めるミウたん エロ妄想6段を自認するミウたん
にも、其れを用いたプレイ内容は想像出来なかった まだまだ世の中には
知らない事があるものだ… ミウたんは感慨深げにため息をつくと、賞味期限を
確認し、明日の朝食をゲットしただけでも無駄では無かったかと自分を慰め、
再びとぼとぼと歩き始めた…



"サンプルの発生、確認出来ました!"
燐とした若い男の声が響く
"……純度と量は?"
自動ドアから姿を現した白衣の男は低い声で質問を返す
"純度は74%… 量は約200人分にあたります "
"よし、テストを開始する… 4号室の2人を検体に用いる… 準備しろ "
男の命令に一礼で返し、若い男は何処かに消えて行った

"おい! 此処から出しやがれ!"
大声を上げながら扉に体当たりを繰り返すキング だが、金属のその扉はびくり
ともしない
"も〜 うるさい! いい加減にしてよ! そんなんで空くなら苦労しないわよ!"
ボブショートの茶髪な女がそんなキングを詰る
"俺はこんな所で死ぬまでブスと2人きりだなんてゴメンだ!"
"それはこっちの台詞よ! なんだってこんな野蛮人と相部屋なのよ!"
ヒステリックな女の声を背に受け、再度渾身の体当たりを繰り出すキング
『ガチャン!』
その身体が扉に届く前に解錠音が室内に響く
"あ、開いた…… "
寸での所で踏みとどまったキングが間抜けな声を上げた
346名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/19(土) 15:42:44.07 ID:R+2TYs/Q
///
347名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/22(火) 10:55:36.04 ID:S4Cns+Rh
期待上げ
348名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/26(土) 20:43:51.01 ID:7xsV4v88
/
349名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/28(月) 19:00:28.09 ID:IZAisR1Y
"ほら… 見てごらん麗羅… "
白衣の男が麗羅の腰を優しく押して促す 暗い其処から見下ろす階下の光の中に、
椅子に腰掛けた少女の姿があった
"あの娘は君の妹だ… 探し出のに苦労したよ… "
"…い、妹!?"
麗羅は目を丸くしてその長髪の少女を見詰めた
"名前はイチゴ… 戸籍謄本からもDNAからも間違い無く、君と… ミウ君の妹だ… "
"………… "
初めて見る妹の姿と、こうして三姉妹を引き合わせる男の意図を計りかね、
麗羅は怪訝な表情を妹から男に移した
"あ、あの娘は… 妹は巻き込まないで下さい!"
"巻き込む? 違うよ… 自分から協力を申し出たんだ… 君と同じ様にね… "
麗羅の精一杯の抗議を軽くいなす男
"もう少ししたら素晴らしい物を見せてあげよう…"
そう言うと麗羅の頭を軽く撫でた

検査着に着替えベッドに横たわったイチゴの手足を、検査員の男達が拘束する
ベッドが動き出し大きな円筒形の装置に吸い込まれた 光の帯がイチゴの身体を撫でる
其れを拒絶するかの様に、イチゴは目を閉じた
"………… "
ほんの二時間の買い出しの筈だった 2ヶ月前から生活費の足しにと始めた
マンホール蓋回収のバイト 道路に放置された其れを専門業者に持ち込めば
一つ数千円で買い取ってくれた コツコツと臍繰りにも回し、漸く貯まった
三万円で今年小学校にあがる義妹の1人の為、ランドセルと文房具を買いに行く
途中だった 停車した地下鉄の駅は突如パニックになり、逃げ惑う人々に呑まれ、
訳も分からず走り回った 疲労と恐怖が極限となり意識が朦朧とする中、
気がつくとあの地下駐車場のバリケードの中に居た 何度となく義妹達の元に
戻ろうとしたが、その都度諭され、制止された 結果的にこうして生き残り、
そして今、存在すら知らなかった姉の責任とやらを取らされ様としている
この地獄を生み出したとされる姉の責任を… 今から何が始まるのか、イチゴには
想像も出来ない 一体自分がどんな責任を負えるのか… 何を協力させられるのか…
自分には何も… 何も出来ない…
"…………?"
悶々と思考を惑わすイチゴの脳裏に、ある時の出来事が浮かび上がってきた
自分の心の中に、小骨の様に微かな違和感を与えて引っ掛かるある出来事…
350名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/28(月) 19:03:36.34 ID:IZAisR1Y
それはあの地下駐車場に籠って幾日か過ぎた頃だった どれだけ待っても騒動は
収まらず、飢えと疲労が生き残った者達をゆっくりとだが着実に死へと誘っていた
予てからあの化け物達が増殖していく原因を予想している者は存在した
偵察と食料確保の為に外征し、襲われ怪我をした1人の発症と、それに伴う多大な
犠牲によってそれは断定され、1つのルールが制定された その夜、イチゴはその日
からリーダー役を引き継いだアミヤに、自らルールの適用を申請した イチゴの
左手首に出来た傷… それは此処に来るまでの途中でつけられた噛み跡… アミヤは何かを
語りかけてきた様な気がするが思い出せない 銃口はイチゴの額に向けられ、
引き金に指がかかった イチゴは漸く悪夢から解放され、目が覚めれば
再び訪れる筈の義妹達との穏やかな日々を心から待望していた
だが、その願いは叶わなかった アミヤを制止したのは、何時の間にか地下駐車場に
単身やって来て、その知識と経験から医療を担当していたクイーンだった
彼女はイチゴの傷を見て、何事かアミヤと討論していた 感染しているなら
とっくに発症している筈… そんな事を言っていた気がする その時イチゴを見る
彼女の瞳が輝いていた気がした 興奮している様にも見えた 助かるのかな…
嬉しくも有り、悲しくも有る複雑な感情… だが、その後経験した出来事は、
そんな感情を忘れさせる程、重い衝撃をイチゴの心に与えた それはその後暫く
して、自分と同じ位の歳の少女が奇跡的に駐車場に逃れ着いた時だった
全身に傷を負いながらも安堵の表情を見せる少女にクイーンはあっさり
ルールを適用した てっきり彼女が可能性のある限り人命を尊重する、
慈愛溢れる存在だと思い込んでいたイチゴは、その余りの躊躇の無さに
冷たい何かが背中を流れるのを感じた その時はアミヤがクイーンに抗議した
何故見立て無い? イチゴが助かったならあの娘も可能性は有っただろと…
それに強い口調でクイーンが反論した事までは記憶にある その後は心の中に
広がる蟠りを消化するのに懸命だった
(何故自分だけ… )
光の帯がすり抜け、再び動き出した装置がイチゴを吐き出す イチゴの心の中の
点と点が朧気な像を描き出そうとしていた

"は、放せ!"
"触らないでよ!"
屈強な迷彩服の男達に両腕を決められたキングとその同居人が処置室に引き
入れられる そのまま金属製の椅子に座らされると、付属する拘束具が手足の自由を
奪う
351名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/28(月) 19:05:51.04 ID:IZAisR1Y
白衣姿の若い男が見上げる姿勢の先、ガラス窓の向こうにはあの男と麗羅が並んで
立っていた 男が頷くと白衣の若い男は踵を返し、椅子に拘束された二人に向かう
"真理亜お姉さま!? 待って! お姉さまに酷い事はしない約束です!"
傍らの麗羅は椅子の上で身を捩る義姉の姿に悲鳴に近い声をあげた
"大して酷い事はしないよ… まぁ 見ていたまえ… "
男は視線も向ける事無く、階下の様子を眺めながら答えた そして、まるで其れを
合図とした様に処置室の人の動きが慌ただしくなる キングと真理亜を連れてきた
迷彩服が部屋を出て行く それと同時に反対側の扉が静かに開いて、新たに白衣を
着た2人の男が入ってきた 彼らの手には白い煙が立つ、茶色の小瓶が握られていた
"見たまえ、麗羅… あれが君の身体を媒体として生み出したワクチンだ… "
何時もよりほんの少し興奮し上擦った男の声 麗羅はただ義姉達に不安の視線を
送る その2人もただならぬ雰囲気を察したのか、更に激しく椅子の上で身を捩る
初めに居た若い男が右手を空中で不思議な動きをさせた すると2人を拘束する
椅子のヘッドレストから細い金属アームが伸び、暴れる2人の頭を鉢巻きの様に
そこに押さえ着けた 2人の身動きが完全に不可能になった事を確認すると、
若い男は白い煙が立つ瓶の1つを受け取りキングの傍らに立つ 手の空いた
白衣がキングの顎を掴み口を抉じ開ける
"やめ……! ン…… ンンン………!"
動けぬ身体でキングが必死に抵抗する
"だ… だめ! やめて! あれは駄目! お話が違います!"
男達の目的を理解した麗羅が今度は明確な悲鳴をあげ、隣の男に詰め寄った
己の身体を媒体に差し出した麗羅には、あの瓶の中身がどれ程危険な物か、本能的
に理解出来ていた
"最早後戻りは出来ない! 君は黙って見ていたまえ!"
鋭い怒号と一瞥が麗羅の抗議を退ける 再び階下に向けられた視線の先で、
広げられたキングの咥内に瓶の中身が注ぎ込まれた
"ぐぐぇぇぇぇっ……!"
凄まじい苦悶の形相でキングが注がれた異物を瓶吐き出そうとする
麗羅の予想通り、それは到底人間が許容する事の出来ない、強烈な破壊的刺激を
秘めていた まるで電気椅子の刑を執行された死刑囚の様に身を痙攣させるキング
白眼を剥き口角から泡を吹くが、男に顎を押さえつけられ、吐き出す事は叶わない
"い……嫌よぉぉ…… "
隣の惨劇の執行者が遂に自分に向き直った事に、真理亜は普段決して見せない
か弱い悲鳴を溢した
352名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/28(月) 19:08:29.92 ID:IZAisR1Y
"お姉さま……!"
血は繋がらないとは言え、人生の多くの時を過ごした家族の悲痛な姿に麗羅は
思わず目を反らす 自分がこの研究施設で彼らの要求に応じ、研究素体として自らの
身体を差し出したのは、一重にその家族を
守らんがする為であった あの日の
あの事件がテレビやネットで初めて報じられた時、遥か北国の麗羅達は、まるで
SF映画を見ている様な臨場感の無い、悪く言えば他人事の様な感覚であった
直ぐに警察や政府が動いて事態は解決するだろう… そんな気持ちでその日の
夕方も、何時も通り晩御飯の買い物をしていたものだった 騒ぎは一晩中報道され、
翌日の昼には東京からの放送が途絶えたと地元のローカル局がアナウンス
していた ほんの少し事態の深刻さに気がついた夕方、唐突に麗羅の町の住民に
避難命令が出された 避難命令と言っても 何処に行け等、具体的な指示は無く、
とにかく北に、遠くに逃げろ、という無責任にも思える命令だった それが遂に
住民達の恐怖心に火を付け、町はパニックとなった 今思えば、それだけ危機は切迫
していたのだろう 麗羅達家族も
取るものも取り敢えず、雪崩を打って逃げ惑う人々に混じって、宛も無く北を
目指した 道路は直ぐに渋滞でパンクし、公共交通の運営者も責務を放棄した 行く先々で自然に非難所となっていた体育館や公民館は何処も人で溢れ、
そこで交わされる出所不明な情報が更なる恐慌を巻き起こし、結果的に
更なる避難民の大群を作り上げて行った そうして3日が立ち、遂に体力の限界
から歩く事も出来なくなった麗羅達に本当の地獄がやってきた
蟻の行列の様な避難民の遥か後方で上がった悲鳴 たちまちそれは連鎖し、
そして奴等が姿を現した 正確には姿を変えたと言うべきかもしれない
逃げ惑う避難民が次々と餌食になり、今度はその被害者が新たな獲物を求めて
唸り声をあげる 常に逃げる者達より追う者達のスピードが速かった 初めは
多かった被捕食者がやがて少数派となる 幹線道路に面した文化会館の軒先で
麗羅家族は最後を悟った 麗羅はこれまで血の繋がらない自分を家族として
受け入れてくれた義姉達に感謝の言葉を述べた 泣いていたかも知れない
義姉達もある者はすすり泣き、ある者は取り乱し、ある者は麗羅に時間稼ぎの
犠牲を強いた 可笑しな話だが、麗羅は幸せだった こうして家族一緒に最後の
時を迎えられるのが嬉しかった 同じ時を生き、同じ時に死ねるなら、
本当の家族以上の家族になれる気がしたのだ 遂に化け物が雄叫びをあげ麗羅達に
殺到する 麗羅は姉達の前に立ち塞がり、せめてもの時間稼ぎでの恩返しを決意した
先頭の一体が目を瞑る麗羅に飛び掛かる 可能な限り苦痛が短い事を神に祈った瞬間、
五月雨の様な無数の銃声が麗羅達を包んだ
353名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/28(月) 21:48:11.64 ID:qIJdfQmi
///
354名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/01(木) 07:30:18.99 ID:9Lu0/lIx
久々にスロ打ったら、ハーデスで6000枚出た。。。
でも改めて「ああ、無理ゲーだな・・・」って思ったよ。

美味しいもの食べよう。。
355名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/02(金) 17:49:58.18 ID:SO8v94Hj
すき焼き食べたら気持ち悪い。。。

年寄りに脂っこいモノは毒だ。。。
356名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/02(金) 18:32:20.46 ID:MQf5Lqou
30日にグランドオープンした店に明日突撃するわ
何打てばいい?
357名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/03(土) 20:14:57.62 ID:DvtlLxd3
四月の30日だよね? なら北斗かな?

大概見せ玉使いたいときは今でも北斗。
高設定はわりかし素直だし、人気もあるしね。

個人的にはまどマギが秀逸だが。。。

まぁ北斗なら事故もあるしハーデスみたいな事にあまりならあないし
無難な線だろ?
358名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/03(土) 20:17:24.78 ID:DvtlLxd3
あ、後悔したくないなら打ちたい台を打つのがいい。

朝一から嫌いな台なんて専業以外やる必要ないしね。
359名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/03(土) 20:21:25.21 ID:OAkRFc9K
月初めになったとたんに元気になるよなー
生古事記群はw
360名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/03(土) 20:27:01.70 ID:DvtlLxd3
ん?ナマポ違うで??
361名無しさん@お腹いっぱい。
つか消費税上げ直後はオラの周りだと逆に美味しかった。。。。
今は知らんが。GWだし、推して知るべし。

ただもうパチ・スロで食べるのは無理なんだなって今年一月の終わりに
思ったけど。
2スロ5スロ打つなら株頑張るわ・・・。