蒲田周辺74

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935智仁 ◆rN4U95e5qM
>>931 の続き 
透は風呂場の床で全身を震わせながらぐったりとした態で横たわっていた。
隆行は自分の仕事ぶりに満足を覚えつつも、一方で若干の不安を感じなくもなかった。
「透に頼まれるまま、俺は透を抱いたが、本当にそれで良かったのだろうか?透はまだ思春期に入ったばかりだ。単に性的なことに対し色々と怖さ半分の興味があっただけかもしれない。
 なのに俺は兄貴としての立場も忘れて、軽率にも弟を同性愛の対象として抱いてしまった。もし透が今後女子の方に興味が向いたら、いったい今日のことをどう思うだろうか?
 なんだかんだ言っても同性愛は周りには言いにくいことだ。もし透が女子を好きになったとき、俺との事が相手のコにバレたら、そのコは透をどう見るだろうか?
 相手にそのことをののしられて、透がくじけたりしないだろうか?もしそうなったら、俺はどう責任を取ればいいんだ?
 透が今日のことをきっかけに辛い目にあったとしても、俺は透を守ってやれない。軽率だった‥」
隆行が透に背を向けながら激しい後悔の念にかられていたその時、後ろから声がした。
「兄ちゃん、どうしたの?」透が隆行の様子がおかしいのを見てとって言葉をかけたのだった。
「え、いや、その、今日お前としたけど、本当にそれで良かったのかな、って‥」
背中を向けたままそう返事をした隆行に対し、透が言った。「なあ、兄ちゃん、俺、兄ちゃんにも同じことしたいんだけど、いい?」隆行は一瞬耳を疑った。
あわてて透のほうへ向き直ると、隆行は再考を促すような口調で透に言った。「透、本気で言ってるのか?」
「兄ちゃん、本気だよ」透の眼差しは思いのほか真剣だった。「俺、本当に兄ちゃんが好きなんだ。だから、しよ!」
隆行は動揺の色を隠せなかった。まさか、俺は引いてはいけない引き金を引いたんじゃ?とりあえず、ここは透に自重するようにと説得しよう。そう思って隆行は口を開いた。
「なあ透、確かに俺は今お前を抱いた。でも、それは興味半分のイタズラみたいなものだ。これ以上やっちゃいけないんだ。分かるか?
 俺たち兄弟なんだぞ。それがホモだなんて。遊び気分でやることじゃないんだ。だから、な、これっきりで‥」兄の言葉を遮るように透は言った。
「兄ちゃん、遊びなんかじゃないよ。本気なんだ。去年の2月のこと、覚えてる?俺が風邪ひいて寝込んだだろ?あの時、兄ちゃん、受験で大変だったのに、一生懸命看病してくれたよな。
 あの時思ったんだ。兄ちゃんのこと、大好き、って。風邪で顔真っ赤にしてたから分からなかったかもしれないけど、あの時、俺、兄ちゃんを見てドキドキしてたんだ。
 ほら、今だって、兄ちゃんを見て、こんなにドキドキしてる」そう言って透は隆行の右手をつかんで自分の心臓の上に押し当てた。手のひらから隆行は透の心臓の鼓動を感じた。 (続く)