紆余曲折を経て開始された「仮面ライダー」であったが、当初は順風満帆とは行かなかった。
前例のない形式の番組の制作は試行錯誤の連続であったが、第9,10話の撮影中、
本郷猛役の藤岡弘がバイクで転倒し、全治3-6ヶ月の重傷で撮影に参加できなくなった。
番組開始早々の危機的状況で、更に第1話の視聴率は、
キー局のある関西地区では20.8%とまずまずであったが、
関東地区では8.1%にとどまるという厳しいものであった。
ここで番組は、本郷の登場シーンを既存の映像から流用した藤岡の姿と
声優の納谷六朗による吹き替えで制作し、変身後のライダーのシーンを増やし、
さらに新キャラクター・滝和也の活躍をつなぎ合わせるなどの措置で急場をしのぐことになる。
その間に、方向性の再検討と新たな主役について討議された。
現存する会議録によれば、原作漫画同様に本郷が戦死する案をはじめとして
様々な展開が検討されている。
その結果、「本郷猛は外国のショッカー支部との戦いに赴き、
その後を継ぐ新しい仮面ライダーが登場する」という形の新展開が決定し、
新主役・一文字隼人には佐々木剛が選ばれた。
佐々木はオファーを受けた当初、劇団NLTで同期であった藤岡の役を奪うことになると
難色を示していたが、「藤岡が復帰するまでの代役」という条件で引き受けたという。
また、主役交代を機にそれまでの反省点が一気に修正されることになる。
舞台をスナックからレーシングクラブに移し、レギュラーヒロインを増やすなど
ドラマの雰囲気を明るくした。
一文字隼人を、本郷猛よりもユーモラスで都会的なキャラクターに設定し、
ヒーロー性を強化した。
仮面ライダーのデザインをやや派手なものにして、キャラクター性を強化すると共に、
夜間撮影時の困難を避けるため暗闇にとけ込みにくい配色にした。
例としては「蝙蝠男」戦の夜間撮影での失敗でライダーの身体に
銀のラインを付けるなどの配慮が行われた。
仮面ライダーに変身ポーズを設定し、一文字の意思による能動的な変身を取り入れた。
このような経緯で仮面ライダー2号が登場し、番組の中に複数のヒーローが存在する展開になる。
また、主役交代に合わせて番組強化策を一気に実行したため、
番組強化にありがちな舞台の急変や主人公の性格変更に伴う違和感を払拭できたのは、
不幸中の幸いといえる。
その後9ヶ月間は2号が主人公となり、地方ロケによる舞台の拡大や、
大幹部の投入によるショッカー側の強化などの展開が順調に行われ、
番組の人気は急上昇していった。
特に、変身ポーズの発明は児童層への影響が絶大であり、
脚を開き、両腕を大きく動かしながら「変身!!」と掛け声を叫ぶ2号の変身ポーズは
たちまち子供達の間で流行してブームを盛り上げた。
やがて、1972年正月からは藤岡の治癒によって1号ライダーがゲスト出演する
「ダブルライダー編」がイベント的に挿入されるようになった。
東映側はダブルライダーの定着を考えていたが、佐々木剛が
「藤岡君がカムバックするまでという約束で引き受けたのだから、当然、藤岡君に返すべきだ。
自分がいたままでは彼が付録のようになってしまう」と頑として拒否。
新一号単独の路線でいくことになった。
こうして同年4月には一文字隼人がショッカーを追って南米へ向かったという設定の元、
スタイルを一新し変身ポーズも得た新1号ライダーが満を持して主役に返り咲いた。
ヒーローが2人いる(ダブルライダー)という展開は、物語世界の拡大をもたらし、
次作『仮面ライダーV3』やその後の仮面ライダーシリーズが長期にわたり人気を得る原因となった。
2号の登場がなければ、孤独な変身ヒーローを描いた単発作品で終わっていた可能性もある。