補完よろしくです
―2011年某月
博之「えー…、この度は対談企画ということで」
トシ「久しぶりやなぁ博之」
博之「トシくんに来てもらいました!」
トシ「何なん?(笑)」
博之「本が出るんよ。『永井浩二を見つめて』」
トシ「ほーか…もう3年になるんやな」
博之「何にも知らん人もおるんよ…。あの配信が終わった経緯とか…」
トシ「ええやん、とりあえずジーコんとこ行こうや」
―夏の暑い日差しの中、永井博之は兄の三回忌を迎えた。
広島から駆けつけた友人のトシと共に、故人が埋葬されている松山の某霊園へと向かう―
―霊園に向かう途中、アサヒスーパードライとセブンスターを買う二人。
故人の生前の好物だという―
トシ「ジーコ…来たで」
博之「…」
トシ「…何で自殺なんかしたんよ…ジーコ…」
博之「追い詰められとったんよ…。
でも…俺は住民を恨んでないよ。たぶんジーコも…」
トシ「何でなん?あいつらのせいやん。
俺もブタとかデブとか言われとったけどな、ジーコに対してはもっと酷かったで」
博之「それでもよ…。配信してる時のジーコは輝いとったからな…」
―思い出すようにそう呟きながら、ビールを開けて墓前にそなえる博之。
重い沈黙が辺りを支配する中、兄想いの弟がそっと兄の墓にコインを投入した。
起動を報せる電子音。軽くレバーを叩くと、華々しい効果音と共に異国の少年が現れた。
トシ「…何で墓がスロットなん?」
博之「タツよ。金ないけん、墓買えんって…」
トシ「そっか…おばちゃんもジーコがビールぎり飲むけん、ノイローゼになってしまいよったもんな…」
博之「アンチが突撃してやすまろもクビよ…。タツが大黒柱やけん、文句言えんのよ」
トシ「まぁでも、案外ジーコも本望かもなぁ。」
博之「…」
―順押しでゆっくりと…永井浩二のリールが止まる。
第三リールが停止すると同時に、少年は絨毯から転げ落ちた。
あの日から設定はずっと1だ。大好きなメダルを沢山抱えて、彼は天国で幸せだろうか…。
博之「この墓に線香はないけんな、皆2,3回回していくんよ。」
トシ「俺にもジーコ打たしてや」
―トシと交代する時、博之はお墓の横のお供え物にふと目を留めて、少し悲しそうな顔をした。
博之「また伊勢海老…こっちは歯ブラシよ」
トシ「どっからココが知れたんやろうな。未だに嫌がらせしよるんか」
博之「ええんよ…それだけ皆に覚えていて貰ってるってことやけん…」
トシ「…いかん、またガセや…、…しかしツかんのー、ジーコの台は(笑)」
博之「天邪鬼やけんな、アイツは(笑)」
―うだるような暑さの中、墓前に座り込む二人。
いつしか持参したビールは1本、2本と開けられ、二人の間には思い出話の花が咲いていた。
博之「おいっしいのう!」
????「ひろくん…」
博之「おう、お前も来たんか!」
W「うん…浩を伯父さんに会わせてあげようと思って」
浩「ダァー」
トシ「おー、おっきくなったやん、浩くん!」
博之「もう2歳よ」
W「それと…お義母さんも」
博之「えっ?…わーーーーーー!」
KC「浩二…あんた…死んでまでスロットけ…」
―次男が亡くなってから初めて訪れるお墓。
泣き崩れる母親の姿に、博之はどうすることもできなかった。
KC「でも浩二が…幸せやったんなら…」
―慣れない手つきでレバーを叩く。
突如、全リールが消灯。液晶に現れたのは、もう見ることのなかった筈の…
トシ「お…おい!こんな演出あったか…?」
博之「……ジーコ………」
―その場にいる全員が目を疑った。
ドット絵になってもわかるその佇まい。
KC「浩二……浩二………」
―溢れ出す涙を拭うことすらせず、震える手でボタンを押す母親。
そして第三リール停止時に聞こえた懐かしい声。
「なあああああああああんぞこれええええええええええええええええええ!!!!!」
―その声を皮切りに、霊園中に鳴り響く聞きなれたテーマ。
啓子ごめんよ、啓子ごめんよ、永井啓子さんごめんなさい…―
浩「うー?じー…こ?…ダァー」
博之「そうや、浩…ジーコ、ジーコだ…お前の伯父さんだ…」
―その場にいた誰もが泣いていた。三年遅れで届いたメッセージ。
涙のようにコインを吐き出すジーコ。三年分の…いや、三十年分の想い。
みるみる内に地面はコインで覆われた。
―そして現在。前作『永井兄弟の活字配信0001 君のマンコに乾杯隔離』のミリオンセラーを受けて、
永井浩二の名は全国に知れ渡った。そして同時にその死も…。
あの日を契機に母親の啓子さんは以前の元気を取り戻した。
Wさんも二人目の子供を授かったということだ。
彼の友人達も各々の人生を歩みだしている。
止まっていた時間は動き出したのだ。
さて、ジーコが果たして何枚のコインを吐き出したのか。
正確に数えることはできない。なぜなら今も彼はコインを放出し続けているからだ。
せっかくなのでこの本の巻末に収録させて頂いた。
永井ファンとして是非手にとって頂ければ、故人も喜ぶだろう。
尚、近日生前のジーコの配信模様をBD全13巻でお届けできることが決定した。
こちらもファンならコンプリートは必須のアイテムだ。
(てんタマ書房 元公式管理人著『永井浩二を見つめて』 より一部抜粋)
R-25、永井浩二ロングインタビューより
―突然の転機
「僕自身まさかあんな事になるなんて、ホント思っても見なかったですよ」
そういうと今年30を迎える青年は力なく微笑んだ・・・
「さっきまでファンです。なんて言ってた人が次の瞬間には悪質なストーカーに変わったり」
彼の口から飛び出す言葉はどれもセンセーショナルな響きを含ませていた。続けて彼は言う。
「本当はね、今でもみんなの事好きですよ。ずっと配信を聞いてくれていたんだから」
悲しそうな目をして語りかける青年。パッと見は普通、いたって平凡な容姿をしている
が、彼はインターネット社会において絶大な知名度とカリスマ性を誇る有名人なのだ。
そんな彼のインターネット配信は最近、心無き人たちにより休止に追い込まれたのだ。
彼の名は永井浩二、通称は永井先生。彼のアーティスティックな一面から先生と呼ぶ人が
増えたのだという。その意味はすぐに理解する事が出来た。
「最初は先生って?って思いましたよ。でもね、やっぱ僕のそういう、芸術的な部分に
共感してくれてる人たちがいるんだって思えたら、それ(永井先生)も受け入れられるかなって」
そんな彼に転機が訪れたのは今年の6月ごろの事、自宅にいた永井さんは異常な気配を感じ取った。
「信じられませんでした、僕が家にいると突然大声で『永井死ね』だの『伊勢海老野郎』って怒鳴り声が聞こえて」
当時を振り返る永井さんの目は怯えきっていた、無理も無い永井さんは何も悪くないのだから
「一番ショックだったのはネットへの書き込みですね、やれ無職だの金の亡者だの、インターネット社会の
闇の部分に僕の心は蝕まれてしまいました。本当に人間不信になりましたよ(苦笑)」
話が進むつれ永井さんの顔が強張る。彼は一番信頼していたリスナーに裏切られたのだ。
彼は悲惨な過去を振り返り、事の発端を話してくれた。
―苦難の軌跡
「僕が事実無根の誹謗中傷され始めたのは、そうですね、型枠大工の仕事についてからですね。
あれが一番大きかったかなあ。とにかくネットには人の成功を妬む人たちがいっぱいいるんですよ。
僕のネットでのアーティスト活動が活発化するにつれアンチの人の数も増えているなってのは
感じてましたね。それが僕の就職で一気に増えたんでしょう」
冷静に分析する永井さんだが心の中は怒りで震えている
「何でこんな事をするんだろうって、僕はただ面白い配信をみんなに届けたいだけ・・・(絶句)」
永井さんの頬に一筋の涙が伝う。しかし永井さんは話すのを辞めない。自分を誹謗中傷する
人たちに対して語りかけるように、彼はパンドラの箱を開いた。
「僕の容姿を笑いものにしたり、家族を脅迫したり、ホントに許せない。挙句の果てには
家の前まで来て暴言を吐いたりストーカーをされたり、最近では盗聴器が取り付けられて
家の中の会話が全部記録されてるんですよ・・・」
疲れきった表情を見せる永井さん。彼は心無いネット社会に翻弄された一人の善良な市民なのだ。
人気ネット配信者生活から一転、この事件を気に永井さんの生活は大きく変わった。
「今では外を出歩くのにサングラスとマスクは必須ですね、アンチの連中はすぐに僕の顔を盗撮する」
もはや犯罪である。プライバシーの侵害を堂々と行うネット社会から飛び出してきた心無き悪魔達。
集団リンチのごとく永井さんを追い詰める。
―誰かの願いが叶う頃
「でもね、僕はあきらめませんよ、僕を待ってくれてる人たちもいるんです」
永井さんの目に光が宿る。
「そういう人たちのためにもね、僕は配信を、いつかね絶対に・・・負けませんよ僕は」
そう言うと永井さんは目の前のビールを一気に飲み干した。
「でも、アンチの人の事も理解できないわけではないんですよ。僕がね配信中に言った言葉で
『誰かの願いが叶う頃あの子が泣いてるよ』っていうのがあって。まさに今この状況で
僕が成功してしまったが為に涙を飲んでいる人もいるんだろうなって、そういう人たちの
鬱憤が僕のところに巡って来ているんじゃないかって、それならば僕はそれを受け入れようかなって」
―釈迦・・・私の心に浮かんだ言葉。永井さんは釈迦の心を持っている。そう思ったのは
私だけではないだろう。
「今こうしている時にもストーカーはどこかに隠れてますからね」
身震いがした、永井さんは自分の身の危険を知りながら今回の取材を受けてくれたのだ。
そして私はネットの世界にこんな偉大な人がいることを知らなかった事を恥じた。
不当な弾圧に耐えながら自己の表現を続けたいという永井さん。今の日本に欠けているのは
この耐え忍ぶ精神ではなかろうか。今こそ日本人よ、永井さんから学べ。
最後に永井さんはこんな言葉を呟いた。
「いつか世界中の人々が手をつなぎ差別や戦争の無い世の中を作りたいな」
そういうと永井さんは大好物だという伊勢海老のお吸い物を手に取り、そっと微笑んだ。
(R-25 10月号より)
「あっ・・・」
背後からの声に振り向くとそこには一人の青年がいた。続けて彼はこう言った。
「永井、博之さんですよね?」
一瞬背筋が凍ったが、今までも何回かあったことなので冷静に対処しようとした。
「はい、そうですけど」
目を伏せていた青年の目の色が変わった、そして満面の笑みを浮かべていた。
永井博之という名が小規模ながら世間に広まってしまったのはいつごろだろう?
数年前、兄がネット配信というインターネットを利用してのエンターテイメントを始めてから
というもの兄の知名度は瞬く間にネット中を駆け巡った。私もまた、言い方は変かもしれないが
その恩恵にあやかり一緒に配信することによっていつの間にかその名が知られるようになった。
しかし、そんな生活も長くは続かなかった、ある事情により配信は休止。一世を風靡した
兄もネット界から足を洗い平凡な生活を送っていた。私も普通の生活に戻りアルバイトに
精を出す毎日、全てが元通りに修復されて行った。そして、みんな私達の名前など忘れている
だろう、そう思っていた。
「ぼッ僕、博之さんの大ファンでして・・・」
青年は話を続けた、その目は輝くというよりぎらぎらと生々しく、こちらをじっと見つめていた。
まずいな・・・、正直面倒くさいと思った。もうネットからは完全に離れていたから、こんな人がまだ
いるとは意外だった。私はどう対処していいものか考えた。
「握手してもらってもいいですか?」
「え?ああ。いいですけど」
握手したらさっさと切り上げて帰ろう、これで何気ない日常の一幕は終わるはずだった・・・
「冷たっ」
思わず声に出してしまった、相手に不快な思いをさせてはならないと慌ててフォローを入れた
「いや、最近寒いですからね、観光ですか?道後温泉にでも行って体を温めてください」
思っても無い事を次々に口走ってしまった、慣れない事をするからだ・・・しかしとっさの
フォローとしては上出来だろう。
「あっ、ありがとうございます!」
独特の上ずった声を上げ青年は深々と頭を垂れた。
「ああ、いえいえ、そんな・・・それじゃあこれで」
いい感じに切り上げられた、さっさと帰ろう。
「あ、はい、さようなら」
はい、どうも・・・一声掛け車に戻った。
行きつけのスロット屋の駐車場、車に戻りロック解除、もう何万回繰り返したいつもの光景。
しかし今日はいつもと何かが違っていた、後部座席に何か・・・
「うわあ!」
思わず声を上げてしまった。誰かがいる、解除したロックを慌ててロックし直す。
車上荒らしか?いや動く気配もなく横たわっている、窓との距離をとり恐る恐る覗く。
何だ、兄だ。寝ている・・・気が抜けたと同時に怒りも沸く、乱暴にドアを開け運転席の乗り込む
「お前何しとんぞ!」
声を出したと同時に気づいた。キーは俺しか持っていない、兄は今日仕事のはず・・・
頭をフル回転させこの状況を理解しようとするも全く追いつかない、とりあえず兄を起こそうと
後部座席に体を向けた時、時が止まった。兄の頭から大量の血が流れ出ていた。
もう声も出なかった、大量の脂汗と激しい動悸、頭は真っ白、全てが理解できずにいた。
バン!という物音に我に帰る、助手席のドアから何かが入ってきた。しかし動けない
恐怖で動けなかった。そんな俺に侵入者は声を掛けた。
「やっと会えたねひろくん」
酷く興奮しているのがわかる、荒い鼻息、そして上ずった感じの声。
・・・まさか!?振り返ろうとすると同時に後ろから腕で首を絞められた。
「ずっと会いたかった、お願いだから抵抗しないで下さい」
間違いない!さっきの青年、あいつだ!もう何が何だかわからない自分の身に何が起こっている
のか、まずはこの腕を解かなくては、私は必至に抵抗を試みたがその腕は頑丈な鎖のように
私の首に絡み付いている。
「お願いだからそんなに抵抗しないで・・・食べたくなっちゃう・・・」
何を言っているんだこいつは?完全にいかれている、そんな事言われて抵抗しない奴はいない。
するとさらにきつく私の首に腕が食い込んだ、もう声も出ない。薄れいく意識の中、彼は私の
耳元に顔を近づけこう言い放った。
「ひろくん、僕の事知らないかな?聞いた事無いかな?」
何を言っているんだ?体の力も抜けてきた、ここで私が気を失う前に最後に聞いた言葉
「ひろくん、僕だよ、内臓です」
(民明書房刊 永井博之著『実録!愛媛のミザリー 上巻』より一部抜粋)
不況だかなんだかで人員削減が進む中だったが
まだ俺の首はなんとか繋がっていた。
といっても研修明けて間もない新入りに大した仕事などなく、
少し早い正月休みをもらって帰省した、いや、させられたのだった。
愛媛の山奥を出て、目まぐるしく動く生活に追われてる最中も、
いつも地元の事が気がかりだった。
シュボッ
ほんの数ヶ月ぶりだというのに、この星空、空気、虫の鳴き声、
全てが遠い昔のことのように懐かしく思えてくる。
それでも、どこも、何も変わっていない。変わっているはずがない。
タバコを堂々と吸えることに安堵を覚えつつ、わざとらしくガチャンと音を立てて門を開く。
あいつと電話することはあったが、俺を労うようなことばかり言ってすぐに話を切り上げ、
いつも何かを隠している風だった。
兄貴は、電話に出ない。
ネットのくだらん風説が脳裏をよぎる。
車の汚さは相変わらずだが、埃がかぶっている。
三郎の部屋は暗かったが、ジーロの部屋には明かりがある。
かつて俺たちが青春を過ごした古ぼけた小さな家は、不気味な静寂に包まれていた。
キイと扉を開けた瞬間、廊下に妙な臭いが立ち込めているのに気付く。
激臭というほど強烈なものでもないが、ネギ畑のような、
生理的に嫌悪を覚えるすえた臭いを若干に感じる。
元々汚い家だったが、こんなものだったろうか。
それとも単に離れている間に忘れていただけだろうか。
漏れ出す光をあてに、ジーロの部屋へ辿り着く。
暗くてよくわからないが、対面の三郎の部屋のドアは閉まっている。
出かけているらしい。
半開きの扉を開けると、そこにはモニターに向かう小さな背中があった。
「よう、ジーロ。」
声をかけるや、背中は大きくビクンッと反応し、
ボサボサの頭がゆっくりとこちらへ回る。
「お、おう、なんだ、トツか・・・驚かせんなや。」
褐色の頬はこけ、油でギトギトの髪には白髪が混じり、
虚ろな目にはどこか、怯えのような色がある。
この時すでに、俺は、この日ここに訪れた事を強く後悔していた。
30分ほどだろうか。持参したビールに吸いつきながら、
俺の事を激賛したかと思えば昔の話を持ち出して口汚く罵るといったように、
変わり果てた姿とは裏腹にジーロはよく喋った。
ひとつ物を尋ねれば10の言葉が返ってくるというぐらい、
ジーロの舌は恐ろしい速さで回転し、ろれつが回らず何を言っているのかわからない部分もあった。
この変わりよう、「何があった」とは言えない。
連絡が途絶えていた数ヶ月、ジーロの身に何が起こっていたかなど、
問うまでもなくその姿が生々しく物語っていた。
「ところで」
話が途切れたところを見計らって、
「三郎はどうしたん」
やっと、一番気になっていた事を聞けた。
ジーロは黙り込み、モニターに向かった。
「バイトけ?」
「キシッ・・・ああ・・・そろそろ・・・帰ってくるんちゃうか・・キシッ」
その言葉に、心底救われた心地がする。
もしあいつが今日帰ってこないとなれば、たまらず逃げ出していたかもしれない。
沈黙に包まれた部屋の中で俺は、時折マウスをカチカチやっている後姿に目をやりながら
実機のレバーを弄び、うまくもない酒をすすっていた。
こんなこと考えたくもないが――ジーロは多分、精神を病んでいる。
昔から何も変わっちゃいない。
ガキの頃から強情で、強欲で、自己中心的で、
取り返しがつかなくなるまで墓穴に墓穴を掘るような奴だった。
それでも、いつもくだらないことを必死に考えて俺達を笑わせて、一緒に笑って、
気がつくと歳だとか境遇だの関係なしに、周りに人が集まっている。そんな美点があった。
だけどもいつしか集まっていたガキ共は歳をとっていって、
就職したり、結婚したりと、どんどん離れていって、
変わらぬジーロは、いつの間にか一人になっていった。
配信で有名になっていると知った時、俺は何も驚きはしなかった。
やっぱり何も変わっていない。ラジオだアイティーだなんだといっても、やってる事は何も変わらない。
ようやく世間がその美点に気付いた、それだけだと思っていた。
そして、このまま遠いところへ行ってしまうんだ。
そんな事を考え、何だか寂しいとも嬉しいとも言えない気分になったものだ。
ところがなんだ、このざまは。結局、いつもこうなっちまうってのか。
何も学んじゃいねえ。救えねえ馬鹿・・・!
―会話の無くなった空間で、痛々しい程小さく、丸くなった背中を見ながら、俺は涙していた。
それでも、それでもよ。
あんまりじゃあ、ないんかい。
ここまでなるような事を、ジーロはしたってのかい。
5本目のビールが空いたのに気付き、頬をぴしゃりと叩く。
帰省ラッシュによる疲れのせいか、酔いが早い。
「ジーロ、ちょっと便所行ってくるわ」
返事が無い。
ぴくりとも動かずモニターを凝視しているジーロを尻目に、
俺はそれ以上は何も言わず、セーターの袖で顔を拭いながら、立ち上がり、
ゴミの山を爪先立ちで避けながらドアへ向かった。
扉を開くと、廊下にこぼれ出した光が対面の三郎の部屋のドアを照らしだす。
無数の引っかいたような傷とこぶし大の裂け目――
よく見ようと一歩進んだ瞬間、腰のあたりにドンッ!と衝撃が走った。
「どいつも・・・」
熱さを感じる所に手を当ててみると、べとりとした感触がある。
――血?
「こいつも・・・キシッ」
戦慄し、すぐに後ろを振り向く。
「さぶろう・・・さぶろう・・ さぶろうさぶろうぉおおおおオオオオ!!!!」
絶叫するジーロの顔は笑ったような歪み方をし、
その目は充血し、狂気に赤く染まっている。
右手には、血のついた鎌。
事態を把握した俺は悲鳴とも言えぬ声をあげながら、
反射的に、あるいは本能的に、ジーロの腹のあたりを蹴飛ばし、逃げようとする。
しかし、膝が落ち、力が入らない。
ジーロが起き上がった――玄関口は・・・だめだ、間に合わない!
咄嗟に目の前の扉を開き、中に体を滑り込ませ、鍵を閉めた。
パニックに陥った俺は腰を抜かし、
ジーロが赤ん坊の泣き声のような雄叫びをあげながらガンガンとドアを打ちつけるたびに
みっともなく頭をかかえて悲鳴をあげていた。
だがそれも長くは続かず、拵えの古い頑丈なドアの破壊は無理だと悟ったのか、やがて外は静かになった。
フーッフーッと二回深呼吸し、なんとか落ち着きを取り戻すと
腰の傷が燃えるような痛みを発し始めた。幸いにして傷は浅く、なんとか立てるようだ。
しかし、すぐに絶望的な事実の認識に至る。
警察を呼ぼうにも、携帯電話が、無い。上着ごとジーロの部屋に置いたままだ。
月明かりが差し込む窓は腹立たしい程に小さく、子供がなんとか通れる程度の幅しかない。
何か、身を守るものは・・・
手探りで壁のスイッチを押し、部屋の電気を点ける。
コココンという蛍光灯の点灯音と共に照らされた三郎の部屋は、
滅茶苦茶に荒らされ、床には雑誌や漫画本の類、ゲームなどが散乱し足の踏み場が無い。
「・・・ぉ・・・・」
一番奥のベッドの上に、布団や毛布が山積みにされている。
「ォォお・・・いぃぃィィ・・・イイ!!」
その下から、呻き声がする。
――三郎!
地獄に仏とはこの事だ。
嬉々として毛布の山からその下にいる人物を"掘り出す"。
しかし現れたのは、俺の記憶とはあまりにも違う姿をした者だった。
「ト、トツか・・・」
ベッドの上は吐しゃ物にまみれ、
三郎の手足はLANケーブルで縛られ、紫色に変色している。
力無くこちらを見上げる顔は醜く腫れ上がり、
頭の毛は無残にも毟り取られ、禿げ上がっていた。
「おまっ・・・だ、大丈夫か!?」
俺は血相を変えてすぐに何重にも固く巻きつけられたケーブルを解きにかかる。
血の通わなくなった手足の冷たさは、
どんな希望的観測をもってしてもすぐには使い物にならない事を示唆していた。
動く事ままならない三郎の肩を掴み、ベッドの縁にもたれかけさせる。
「オトンも・・・オカンも・・・あいつに・・・っ!」
うつむく三郎の声は震えている。
その先の言葉を言わせないため、俺は強く三郎を抱きしめた。
「わかった。絶対に・・・絶対にここから逃げ出すぞ!」
キシッ
ドアの裂け目から、大きく見開かれた赤い目が、こちらを凝視していた。
"目"は時折こちらの様子を伺い、
突然、何か俺達を恫喝するような事を言いながらドアを滅多殴りにしたかと思えば
めそめそと泣き言を言ったりしていた。
こちらも黙ってはおらず、何度か説得を試みはしたものの、
最早俺の言葉はジーロには届いていないようだった。
この扉は、俺達を閉じ込めると同時に守ってもくれている。
俺達は裂け目から見える姿が消える度に、少しずつ話し合った。
これまでの事、これからどうやってこの状況を打開するか、ということを。
配信休止以来ジーロは塞ぎこんで独り言をいうようになり、
はじめこそ三郎が離れている時にボソッとつぶやく程度だったが、
数週間を経て目の前でも平然とやるようになったという。
まだその頃は話しかけても普通に応答したが、
仕事に行かなくなって以降愛犬が行方不明になり、そのことについて聞いてみると
「モニターのちらつきが意識を奪う」だの、
「日の当たったカーテンの模様が人の顔に見え、迫ってくる」だのと
わけのわからない事を口走りながら泣き出したそうだ。
それで異常に気付いた三郎は、すぐに兄を病院に連れて行こうとしたが、
いざその時となると自分は正常だと言ってはばからず、
よく見ても確かにそのようにも見えるため、しばらく様子を見ることにした。
ジーロはずっと、あのスレを監視していた。
でたらめな時間に起き上がると、ブツブツ言いながらモニターにかじりつき、
疲れたら寝るか外へ散歩にでも行く。毎日その繰返しだった。
そして凡そ10日前のこと、部屋で騒々しく物音を立てているので何かと思い覗くと、
ジーロはオタオタと血相を変えて倉庫にあるだけの農具を持ちこんでいた。
仰天した三郎が何をしているかと尋ねると、
アンチが自分を殺しに家に来るかもしれないので、撃退する準備をしているのだという。
お前も気をつけろと言いながら、脱穀用のナタを手渡してきたが、
三郎はそれを払いのけ、そんな馬鹿な事はやめろと訴えた。
すると物凄い剣幕で「お前もか」と連呼し、襲い掛かってきた。
最近まで力仕事をしていたジーロの膂力は見た目以上のもので、
もみ合いの末ついに組み伏せられ、この部屋へ監禁されてしまったのだった。
三郎が大声をあげて助けを求めると
ジーロはそのナタがひしゃげるまでドアを撃ち続け、あの裂け目が出来た。
しかし脅しても三郎は叫び続け、それを止めようとするジーロの暴力は、
やがて虐待と言える程に苛烈になっていった。
そんな状態で数日を過ごしたが、轡(くつわ)をかけられながらも
外で物音がする度に叫んでいると、ついに声が届いたのか、父親が家に押し入ってきた。
二人は外で何か口論をしていたが、やがて父親の怒鳴り声は悲痛な色を帯び、
三郎の名前を叫んだのを最後に、聞こえなくなった。
そしてそのすぐ後に、母親の悲鳴が聞こえてきたのだった。
ここまで話すと、疲れたのか、三郎はため息をついて肩を落とした。
「トツ・・・タバコ、持っとらんか・・・」
幸運にもタバコはズボンのポケットに残っており、
取り出して手の動かない三郎の口に一本くわえさせ、火をつけた。
「そのジッポ、まだ持っとったんか。」
1セント硬貨のついた金のライター。
何年か前、一緒にスロットを打ちに行った時、
三郎は大きく勝ち、俺の方は散々な状態だったので
憐れんで余分なメダルを交換し、くれたものだ。
適当に選んだんだろうが、三郎にしては趣味がいいと褒めると、
えらく上機嫌になっていたのを覚えている。
「・・・ああ、これ、前の職場の同僚がな、縁起がええと言うとったわ。」
フッと三郎は笑い、天井を仰ぎ見た。
「俺は、あかん、手足が動かん。お前だけでも、なんとかして・・・」
仲の良かった兄弟の負の共依存は、悪夢をもって断たれた。
しかしジーロは三郎を生かしている。一日に一度は食物を与えてもいた。
ジーロがまだ三郎を必要としている限り、殺す事は無いだろう。
微かにだが、光明が見え始めていた。
常夜灯のオレンジ色に照らされた薄暗い部屋で、クリック音だけがせわしなく響く。
時折静かになったかと思うと、「チッ」という舌打ちとともにまたカチカチと始まる。
男は病んでいた。
何年もの間、俺はお前らを楽しませる事だけを考えてきたのに。
モニターを睨み付けるその目は血走り、マウスを握る手は細かく震えていた。
俺の他愛の無い一挙一動でお前らが笑ってくれる、それが嬉しかったのに。
「・・・俺が守ってやるけんのぉ」
今この瞬間も、あいつらは俺達を監視している。
一瞬、モニターが歪み、黒い靄のようなものが見えた気がする。
三郎とトツと三人で、酒を飲んで、ゲームをして、笑いが絶えることはなかった日々。
"アンチ"は俺から一つずつ奪っていった。
命を狙われ、怯えきった三郎の顔が脳裏をよぎる。
「守ってやるけんのぉ・・・」
トツが、三郎が、俺のそばから一人ずつ奪われていった。
窓の外ではあいつらが、怯える俺達の顔をみて大笑いしている。
「三郎も・・・トツも・・・」
何も映っていないモニターに向かって、繰り返しつぶやいていた。
カーテンの閉めきられた薄暗い部屋で、薄く薄く、靄は煙のように広がってゆく。
「・・・俺が守ってやるけんのぉ・・・」
鎌を握る右手はもう震えていなかった。
途中で飽きたが墓がスロットにはワロタ
いいな面白い
「・・・てるか・・・トツ・・・」
三郎の、弱々しく呻くような問いかけで、しばらく意識が飛んでいた事に気がついた。
「・・おぉぃ・・・生きてるか・・?・・」
「すまんすまん、どうした?」
三郎を不安にさせまいと、できるだけ明るい声で返事をしたつもりだった。
しかし今のこの状況を考えると、そんな俺の様子はかえって不自然だったかもしれない。
「腹が減ったのぉ、トツ・・」
三郎がそう言うのも当然だろう。俺達はもう丸三日も何も口にしていなかった。
その部屋には食べ物はおろか、飲み水の一滴すら見当たらず、食料といえば
ジーロから与えられるものを期待するしかなかった。
しかし、この部屋にジーロを招き入れれば、再びベッドに縛り付けられて
自由を奪われる事は火を見るより明らかだろう。
また、二人掛かりで抵抗される事を懸念してか、ジーロの方から部屋に入ろうとすることも無くなっていた。
結局二人は空腹と戦いながら、この数日間を過ごすほかなかったのである。
「ここから逃げ出せたら・・・逃げ出して一緒にうまいもん食いにいこうな!」
少しでも三郎を元気付けたかった。
およそ十日もの間、血液が十分にめぐることのなかった三郎の両手両足は、
ここ三日間で紫色から暗青色に変色しており、ボロボロと皮膚が剥がれ始めている。
もう三郎の手足は戻らないかもしれない・・・あえて口にはしなかったが、俺はそう感じていた。
"逃げ出せたら"
トツはこの表現を使ったものの、ここから逃げ出すのは最早不可能だと分かっていた。
この狂った家に足を踏み入れてしまった日から数えて2日目の朝、
トツはあの"狂気の瞳"から逃げようと、部屋にあった棚で扉に空いた覗き穴を遮蔽した。
これにより部屋の中の様子が分からなくなったジーロは、不安に駆られ
扉の前に実機や棚を積み上げることでバリケードを構築し、扉の開閉を不可能にした。
三郎の手足の不自由もあり、ただでさえ脱出は困難なものであったわけだが、
このバリケードにより完全に可能性を絶たれることとなった。
また、体調が万全で無いのは三郎だけでなくトツも同様であった。
腰の傷は思ったより浅く、出血は既に止まっていたが、不衛生・栄養不足もあってか
傷口は化膿しており、断続的な発熱と焼けるような痛みがトツを襲っていた。
空腹も相まって、先ほどのように意識が遠のくことも多々有り、例え一人で逃げるとしても
(もちろん三郎を見捨てる気などさらさら無かったが)
もともとジーロを振り切れる自信などなかったのである。
両手足の自由と引き換えに食料を懇願するか、このまま死ぬか・・・
三郎の腐りかけた指先を見ながら、トツはこの絶望的な二択を迫られていた。
「・・・どうした?三郎?」
静寂に不安になった俺は三郎の顔を見上げていた。
「シッ・・・!」
ボロボロの右手人差し指を口元に近づけて三郎が囁いた。
「トツ、お前だけでも逃げてくれんか?」
「な・・何をいいよんぞ!」
思わず大声が出てしまった。
「シーッ!ジーロが聞いてるかもしれないから!」
「あ、あぁ、すまん・・・」
「お前一人ならにげられるんちゃうか?」
そう囁く三郎の目には光があった。
「お前、何とか逃げ出して警察に連絡してくれんか?俺はこの足だから逃げるのはまず無理だ。
お前が外から助けに来てくれるのを待つ方が、よっぽど可能性あると思うんだけど。」
「・・・確かに。でも・・」
「俺は大丈夫だから。ジーロは俺を殺す気は無いと思うし・・・
飯でも食わせてもらいながら、お前の助けをのんびり待ってるよ。果報は寝て待てって言うしな!」
俺を心配させないためか、わざと明るく振舞う三郎の姿は逆に痛々しかった。
確かに、薄情には見えるが俺一人で逃げるのが最善だろう。
・・・・いや、最善"だった"だろう。少なくともバリケードが出来るまでは。
でもな、もう遅いんだよ三郎、ごめん・・・
続きがすげー気になるw
「実はな、三郎・・・」
俺は扉の外のバリケードのことを打ち明けた。
「俺が、本棚でドアの穴を隠したやろ?」
「・・・ああ、やってたな・・」
「多分それのせいだと思うんだけどな・・・ジーロ、ドアの外に実機とか本棚積み上げてるみたいでな・・・」
「・・・開かんの?」
俺のせいだ。いや、実際にはバリケードを作ったのはジーロだから厳密に言えばジーロのせいだけど
俺の行動がきっかけになってる可能性が高いんだから、やっぱり俺のせいでもあるよな。
罪悪感というか申し訳なさというか、俺は三郎の目を見ないまま頷いた。
「もう一回見てみたら?」
あっけらかんと、そう言った三郎は冗談っぽく笑いながらさらに続けた。
「もしかしたら開くかもよ?」
もともと俺は、三郎のこのプラス思考というか考えなしというか、最近の言葉で言う"KY"なところが好きじゃなかった。
正直に言うとイラつかされたこともしばしばあった。
だけど今のこの状況では逆に、三郎のポジティブシンキングが嬉しかった。
そうだよな、こんな絶望的な中だからこそ、前向きに考えていくべきだよな。
大体、ジーロがバリケードを作った理由だってよく分からないんだし、
今のジーロの精神状態なら、気が変わって急にバリケードを撤去したとしても不思議じゃない。
「・・そ・・やな。開いたらいいな!」
俺もつられて冗談ぽく笑った。
「おぅ!もし開いたら速攻で警察呼んで来いよ!」
三郎も笑顔でそう返した。昨日までより元気そうだった。
"三郎のため"
酷い眩暈と頭痛のなか、体に鞭打ち立ち上がる。三郎のため。三郎と、俺のため。
俺が頑張れば三郎が救える、そう思うことでいつもより頑張れる気がした。
この極限状態の中で親友と二人、トツは言葉では言い表せない情を感じていた。
それが安っぽいヒロイズムだとしても、トツにとっては大きな勇気を与えてくれる大切な、
今の二人の未来にとっても大切な何かであることは間違いない。
扉に近づき、そっと鍵を外してみたものの、やはり扉は開かなかった。
「やっぱだめか・・・」
とても重い何か、おそらく実機か棚か、が支えていて扉は開かない。
体当たりでもして無理矢理開くとしても、ジーロに気付かれずには済まないだろうな。
「だめっぽいか?」「全然だめやなー。」「そっか、ドンマイドンマイ!ちゃんと鍵かけとけよ!」
事態は一向に好転してはいないのだが、二人には奇妙な希望があった。
さっきまでのトツであれば、扉が開かなかったことで、今頃はまた落ち込んでいるのだろう。
しかしトツは今、すでに次の手段に考えをめぐらせていた。
なにこのスレ・・・
まだ永井の事引きずってんの?
この続きってどこにあるの?
すげー読みたいんだけど
>>26までが本来の流れで、
>>27以降は別の作者による"アナザーストーリー"でした。
ここで
>>26まで時間を戻し、本来の作者によるレスを投下します。
裂け目から目が覗く頻度が少なくなってきたかわりに、
部屋の外でガタガタと何かの作業音が聞こえるようになった。
壁にかかった時計を見ると、ここに閉じ込められてから二時間が経とうとしていた。
はっきりしているのは、この部屋にジーロの鎌を相手に出来そうな武器はなく、
三郎の電話は取り上げられ、その手足を縛っていたケーブルは
当然ルーターに繋がっておらず、ネットも使えないこと。
さらに、この時節に来訪者は見込めず、窓から外来の者に助けを求める事が
出来るようになるまで、三郎はもちそうにもないということだ。
頭がクラクラし、目の前が暗くなってきた。
血を流しすぎたのか、どうやら俺の方も、長くはなさそうだ。
「三郎。」
ジーロに聞こえないように、俺は三郎の耳元で、小声で話した。
「色々考えたが、これぐらいしか思いつかん。
俺はドアの横に隠れるけん、あの穴からあいつの目が見えたら、合図をくれ。
こいつを、食らわせてやろうや。」
握った手を広げ、ボールペンを見せた。三郎の喉元から、生唾を飲む音が聞こえた。
「それで、ひるんだらドアを開けるんで、
お前は、なんとかしがみついて動きをとめてくれ。
その隙に俺は、あの鎌を取り上げる。」
「俺は、やられるかもな。」
発言の内容に反して、三郎の声は少し明るかった。
「大丈夫。こっぴどく痛めつけられるだろうが、
恐らくジーロは、お前を殺さない。殺せないんだ。」
三郎は暫く黙り、何かを考えていたようだったが、
くわえていたタバコをペッと吐き出し、肘で俺の胸を小突いた。
「・・・トツの言うことは、大概おうとるけんの・・・
ただ、失敗したら、俺を置いて逃げて、警察に駆け込んでくれ。」
俺は黙って深く頷き、扉の横の、裂け目の死角となる位置に立ち、
あまりにも貧弱な、プラスティックの小さな棒切れを握りしめ、構え、
電気を消し、息を潜め、じっと待った。
裂け目から漏れ出す微かな光が、震えながら穴を睨み付け続ける三郎を照らしている。
・・・
「キシッ・・・」
三郎がこちらを向き、腕を上げた。
すかさず俺は、もてる限りの力をもって握った拳を振り下ろし、裂け目に突き立てた。
「ッギャァアアアアァァアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
確かな手応えがあった!
ドアの鍵を外し、勢い良く扉を開く。
ジーロはペンが突き刺さった右目を抑え、
絶叫しながら廊下でのたうちまわっている。
そこへ三郎が必死に這いつくばって躍り出て、
暴れまわるジーロの足に抱きついた。
今だ!
――!?
ブシュウッ!という、時代劇の殺陣で鳴らされるような
馬鹿馬鹿しい程に派手な音と共に、眼前が真紅に染まり上がる。
ああ、あああ・・・
ジーロの鎌が、三郎の首に食い込み、鮮血が噴水のように吹き上がっている!
だ、だめだ。逃げないと・・・
玄関口に目をやると、扉の取っ手がヒモのようなものでがんじがらめにされている。
ジーロは立ち上がり、再び鎌を、大きく開いた三郎の傷口へ撃ち下ろした。
足に絡みついた三郎が、ゲゴゲゴと、呻きを発しながら崩れ落ちる――
叫びながら三度、四度と三郎を撃ちつけるジーロを後に、
俺は激しく狼狽しながら、壁づたいに裏口へと向かう。
足が、足が思うように動かない。
ッ!
背中が、何かで、殴られ、バランスを、失った。
痛い!床に頭を打ち付けた。
呼吸が、出来ない。
喉の奥から、ヒーッヒーッと笛のような音が出る。
情けなく芋虫のように這って逃げ惑い、
廊下の突き当たりの部屋の、半開きになっていたドアに寄りかかった。
扉が開き、その中に、仰向けに倒れこんだ。
かつて「開かずの間」と言われた空き部屋の闇が、光を吸い込んでいく。
部屋に満ちたこの臭いは――腐臭だ!
俺の直感が、背中に当たる冷たい、柔らかいものが何であるかを教えている。
ただ、今は、俺の目は、足元にそびえる異形に釘付けにされていた。
「キシッ・・・なぁん・・・・ゾぉこ・・レ・・・」
ジーロは、いや、"ジーロだったもの”は、
手に持った黒い塊――も、もげた、さ、三郎の頭を一瞥すると、
無様に横たわる俺を見据え、嗤いだした。
「・・・うぉ、うぉレは・・・かか、かワッタぁ・・・」
赤い目が、また・・・!
ドッ!
鎌の刃が、俺の腹に、腹に!
ああっ、そんな、柄を強く握って・・・
うわぁっ!引き抜いた!ブチィと、鈍い音がした!
お、抑えなきゃ!俺の腹の中が、中身が、こぼれてしまう!
「ィ・・イ・・グ、ゾォウ・・・」
おお・・・!
おっ、お、お前のその姿、愛する弟の返り血に、真っ赤に染まり、鎌を振り上げるその姿――
お前が憎む、あの掃き溜めの連中が揶揄していたもの、そのままじゃないか!
まるで、
まるで、い・・・・
「オ、マエ・・・ラァッ!!!!!!」
・・・・・・・び・・・っ!
――――@p*:;]~/.\+/^-.p@o=#"!")_}<*!!?!?
〜エピローグ〜
深く傾けられない、しかもひどく揺れる夜行バスの椅子に苛まれ、
結局一睡も出来ずに夜を明かした僕は、
到着後すぐに手配した宿で少々の仮眠をとった後、
愛媛らしいオレンジ色の軽自動車を手配し、松山近辺の名所を巡っていた。
温泉や、活気溢れる銀天街、モダンな風情のあるチンチン電車、
時計台も悪くなかったが、配信で登場した一六タルトなどの名産品を食べると、
彼らも同じものを食べて育ったのだ、という感慨に充たされ、
なんとも言えない満足を感じることができた。
それだけで十分で、この旅は充実したものになる、はずだった。
もちろん、何の期待もしてなかったわけじゃないが、
こんな時期にそんなチャンスが巡ってくるわけもない事は重々承知していた。
だけど、もし出会えたら、それは運命。何かの導きのはずだ。
そしてもし、もし友達になることが出来たら――
大丈夫。それ以上望んだりしない。
いいや、それすらもいらない、
ただの一言、「配信再開、待ってます。」そう伝え、
さぶくんの姿をこの目に焼きつけることが出来れば、
至福を感じながら帰路に着くことができる。
ああ、僕は今、さぶくんと同じ空気を吸っているんだ。
そんな事を考えながら、観光は早々に切り上げ、
二日ほどだろうか、目ぼしいパチンコ屋を巡って回ったが、
予想通り、何か収穫があるわけでもなかった。
しかし滞在四日目の朝、ブログでも更新しようかと
宿に備え付けてあるパソコンを触っている折に、あのスレで見た奇妙な文章・・・
趣向こそ違えど、いつしか僕が書いた小説を真似たような・・・
なかなか読ませるので一気に最後まで読んでしまったが、
読後に、それとは関わりが無いものの、一つの危惧が芽生えていた。
――もし、もし以前の僕のような輩が、どこか他に居たら?
本当に、僕一人だけなのか?
僕はなんとかこの怪物を抑え付ける事が出来たが、
それが敵わぬ者が、存在したとしたら・・・?
なんの根拠も無い、くだらない妄想だ。
それはわかっていても、胸騒ぎは激しくなってゆき、
結局僕は、絶対に敷居を跨ぐ事は無いと決めていたあの家に向かっていた。
そして、焦燥する僕を迎えたのは、怒りに震える罵声でもなく、
夢にまで見た暖かい言葉でもなく、言語を絶する光景だった。
一体、何があったんだ・・・
僕が望んだのは、こ、こんな事じゃない!
もう少し、もう少し早く来てさえいれば・・・!
僕は冷たくなった、白い白いさぶくんの体を抱きかかえ、
傍の部屋に落ちていた毛布で、丁寧に包み込んだ。
「怖かったろう、痛かったろう。」
天井についた血飛沫の跡が、惨劇の凄まじさを物語っていた。
おびただしい血痕の跡を伝い廊下の奥へ進み、突き当たりの部屋に入ると、
悪臭を放つ肉塊の上に、さぶくんの首は乗っていた。
その下に倒れた小太りの男性の遺体の手から、何か鈍く光るものが転がり落ち、血の海に沈んだ。
僕は毛布の中の、あるべき場所へその首を仕舞い、
慎重に、傷つけないように、開け放された裏口から家の外へ運び、車の後部座席に寝かした。
君には、こんなとこ、似合わないよ。
どこか、綺麗な場所へ・・・そう、花の見える丘へ・・・埋めてあげるよ。
「・・・・・ァァ・・・」
――?
運転席のドアに手をかけると、ふと、遠くの方から、
動物の咆哮のようなものが、聞こえだした。
夕日に照らされ、燃えるように紅い、山の中腹あたりから・・・
愛媛の山には、猿でもいるのだろうか。
END
乙!こうゆうの誰が考えるんだよwwwおもしれーけどさw
以降、《アナザーストーリー》に戻って
>>35からの展開をちびりちびりと投下していきます。
最初、青白色の靄が立ち込めていた。
靄は次第に色を強め、正方形を模りながら膨張と収縮を繰り返していた。
それは"世界"だった。
どこから現れたのか、気がつくと一人の男が存在していた。
彼は"世界"の重心と思われる位置で手を高々と上げると、不安そうに周囲を見回した。
"世界"はゆっくりと回転しながら、静かに、しかし確実にその境界を広げてゆく。
その成長速度は加速度的に上昇し、見渡す限りが青白色で覆われていった。
もはや"世界"の形など誰も分からなくなっていた。
重心の男には、いくつもの鼓動音が聞こえていた。
それらの音は、時に申し合わせたかのように足並みを揃え、かと思うとてんでバラバラに脈を打ち始める。
男はただ突っ立っているわけではなく、暇を持て余すかのように、何度も辺りを見回している。
その姿は、何かを待っているように見えた。
よく見ると彼の足元には太い網のような何かが、まるで蜘蛛の巣のように張り巡らされていた。
最初、毛細血管のように細かった網はところどころ千切れている箇所も有り、またその密度も疎らであったが
"世界"の膨張に伴い、網は太く、長く、彼の足元を中心として敷き詰められていった。
一本一本の太い網は、それぞれが大動脈のように力強く脈打ち、
それに呼応するかのように網の交差部が黄色く輝いていた。
その光はアミダくじのように血管を伝いながら、どれもこれも彼の元へと収束してゆく。
数千数万とも数え切れぬ光が、彼の足元を眩く染めていた。
一つ一つを聞き取れないほどに音が増えた頃、
鼓動音だと思っていたものが実は人間の声であったことに気がついた。
男はもう一度だけあたりを見回すと、目をつぶって満足そうに頷いた。
「そろそろ、やな。」
そう呟きながら、彼はマウスに手を伸ばした。
「・・・チッ!またか・・・」
ようやく始めようと上半身を起こしたところで、アレに気がつき
無意識のうちに俺は舌打ちをしていた。
"世界"はその境界を黒い靄によって区切られている。
最初は特に気にもかけていなかったが、その黒い靄が少しずつ溶け出すように
青白色を暗く覆っていくのに気がついたのはここ最近のことだ。
別に気にしなければいいだけだ。
そう思ってはいるが、気がつけばいつも視界の隅を薄い雲のように曖昧にぼかしていた。
「せっかく人が楽しくやろうとしている時に・・・」そう思った。
声が聞こえるのだ。あの靄が現れると、いつも耳の奥で大勢の嘲笑が耳鳴りのように響く。
「チッ・・・」
うんざりした気持ちを抑えようともせず、今度は意識して舌打ちをした。
また"世界"を掃除しなければならない。先ほどまでのご機嫌がまるで嘘のようだった。
"世界"を、俺は"スレ"と呼んでいる。
"スレ"はいつも綺麗な青白色でなければならないのだ。
この世界において黒い靄は存在してはならないのだ。
真っ赤に充血した目の奥で、糸のような何かがプチプチと千切れる音が聞こえていた。
「・・・タバコ、まだあったっけ?」
ずっと考え事をしていた俺は、この三郎の声で意識を現実に引き戻された。
「ないよ。今朝お前が吸ってたのが最後の一本やったやん。」
「・・そうやったな、すまんすまん。」
しばらく考え込んではいたものの、今のこの状況を打開する良案など全く浮かんでこなかった。
・・・今、ちょっとイライラしてるのかもな。黙り込んだまま俺はそう思った。
しかし、気分転換に一服したいね。こんな事ならもう一箱持ってくれば良かったな。
そう思ったところで、ニヤリと頬が歪んでいた。
いや、持ってくるならタバコより食い物だろ。そういえば最後に食ったのなんだったっけ・・・
「・・トツ?・・・お前何笑いよんぞ・・・?」
怪訝そうな三郎の声が聞こえた。
「え?・・あ、ああ・・ただの思い出し笑いよ」
即興でごまかしはしたが、薄暗い部屋でニヤニヤと笑う俺の姿は随分と気持ち悪かっただろうな。
もしかしたら気が狂ったかと勘違いされたかもしれない。三郎の目は、まだ不安そうに俺を見つめていた
「そ、そういえばお前、俺のジッポどこやったんぞ?」
かなり急ではあったが、話を変えようと俺は口を開いた。
「今朝使って、まだ返してなかろうが。」
「あれ、返さんかったっけ?・・・・あ、ほんとだ」
漫画やゲームが散乱した床から俺のライターを見つけ出した三郎は、
器用に手首を使って、カーリングのように俺の元へと滑らせた。
俺の尻に当たって止まったそれを手に取り、一通り撫でてみた。
「俺な、このジッポ気にいっとるんよ。」ボソッと呟いた。
「当たり前やろ。俺が選んだんやけんな。」
そう言う三郎の表情は、どことなく嬉しそうに見えた。
三郎からもらった、最初で最後のプレゼント。
ぼんやりと一緒にスロットに行ったあの日を思い出しながら、気がつくと俺はライターを点火していた。
シュボッ
その青い光は、消えゆく命のように幽かに見え、今の二人の目にはこの上なく美しいものとして映った。
薄暗い部屋の中で小さな明りが灯され、乱雑に散らばる漫画が照らし出される。
「・・・漫画だらけだな。」俺は苦笑いしながらそう呟いた。
「お前、こち亀好きなんけ?」積み上げられたこち亀の山に目をやりながら、そう聞いた。
「んー、まあ、普通かな。こち亀は、飯を食いながら読む用だな。うん。」
なんだそりゃ。うまく言葉に出来ないが、三郎はどこか人とずれているな、俺はそう再認識した。
・・・そうか。
カチッと音を立てて俺はライターの火を消した。
「・・・漫画だらけだな。」俺はもう一度そう呟いたが、三郎には聞こえていなかったようだ。
・・・何とかなるかもしれない。声には出さなかったが、俺はそう思った。
煙のような何か、はっきりとは分からないけど、頭の中の何かが形を成してゆくのを感じていた。
一番の問題は、この家が山の中に隔離されているという事だ。
トツはそう考えていた。
現状を打開する手をいくつか考えては見たものの、いつもそこで壁に突き当たる。
外部に助けを求めるとしても、携帯もネットも使えない以上大声で叫ぶしかない。
しかしこの部屋の小さな窓から精一杯叫んだとして、せいぜいそこの庭まで、
俺たちの声は、下の本家にすら届かないだろう。
もう一つ、俺達の叫び声を聞いてジーロが何をするか、それも心配であった。
間違いなく、ジーロは狂人であり凶人であった。俺達を殺す気は無い、そんな確証などすでに消えている。
"赤い目"が見えなくなってからのアイツの部屋は不気味なほど静かで、
何をしているのか全く見当は付かないものの、その不思議な存在感はいまだ家中に残っていた。
・・・ジーロは今も生きている。ホッとした感情が全く無いとは断言できなかった。
命を狙われたにもかかわらず、ジーロの安否を気遣う自分にわずかな苛立ちを感じていた。
おいちゃんとおばちゃんが殺されてからもう二週間か・・・
その間誰も不審に思わなかったのだろうか?近所の人が訪ねてくることはなかったのだろうか?
答えは自分には分からなかったが、もし誰かに聞かれたとしてもいくらでも言い訳などできるだろう。
「旅行に行ってる」「ちょっと外出してるみたい」「風邪で寝込んでいる」・・・
それでも帰らないようなら・・・ジーロは・・・
「はぁ・・・」
ため息をついた俺は、小さな窓から庭先に敷き詰められた砂利を見ていた。
真夜中ではあったが、雲間から覗く月のおかげでうっすらと外の様子が分かった。
このときの二人にとって、(近所の老婆、もしくは警察官、その選択の権利はなかったが)
誰かしらを庭先まで、窓のすぐ外にまで連れてくることは、実は不可能ではなかった。
しかしそれは、その人物にとって身の危険と等しく、また、チャンスは一度きり
失敗は許されない事を考えると、トツはどうしても行動に移す気になれなかったのである。
・・・どちらにしろ夜のうちは無理だけどな。そう考えてたときだった。
「・・・のう、トツ。今日が何日か分かるか?」
思いついたように三郎が聞いた。
一週間以上もの間ベッドに繋がれていた彼は、日にちの感覚が麻痺しかけていた。
「俺が来たのが、26日の夜で・・・」
確か26だったよな・・・間違いじゃないよな・・・
「今日は29日の深夜、かな。日付上はもう30日になってるかもしれないけど・・・」
「そうか・・・30か・・・」三郎はそう呟くと、しばらくしてからまた口を開いた。
「・・・やっぱお雑煮かな。・・・なあトツ、正月は一緒にお雑煮食いたいな!」
小さく囁くような声だったが、その声色は明るかった。
「・・・?」
急な発言に若干の戸惑いを覚えつつも、部屋の奥、三郎の方を振り向いた。
三郎は俺を見つめており、その目には力強さが垣間見えた。
「な?」
そう言った三郎は、今度ははっきりと笑顔を見せた。
すぐに、三郎の余裕の根拠に思い当たった。
「・・・あ・・今年は・・・!?」
そう言いかけて、一瞬「今年より来年と言ったほうが良かったかな」と思ったが
そんなのは正直どっちでもいいことであった。
「こっちに帰ってくるんけ!?」思わず声が大きくなる。
「ほうよ!やけどお前、ちょっと声大きいけん。」三郎は力強く頷きながらそう言った。
「あ、ごめん・・・」そっと後ろを、扉のほうを振り返る。
ジーロの部屋は相変わらず静かで、根拠はなかったが何も聞かれてなかったと直感した。
ホッと安心し、ひねった首を元へと戻す。
去年は奥さんの実家のほうに、そのまえは確か仕事の関係で、結局会えずじまいだったため
今年も帰ってこないだろうと、勝手に俺は思い込んでいたんだろう。
たっしゃんが帰ってくる。
タシ兄。数年前の結婚と同時に他県へと引っ越していった、三兄弟の長男。
俺は今の今まで、彼の事を完全に忘れていた。
「何か今年はタシ、一人で帰ってくるみたいなんよ。奥さんは奥さんの実家に帰るらしくって・・・」
三郎はさらに続けた。
「30日の夕方に帰るって話やったと思うんやけど・・・」
「それ、たっしゃんに聞いたん?」
「いや、でもおとんとおかんが・・」ここまで言って三郎は口を紡いだが、すぐに続けた。
「二人が話してるのを聞いただけよ。だから多分ジーロは知らんはず・・・」
長男の帰省をジーロが知らない。いや、そう断言できるわけではなかったが、おそらく
おそらくジーロが知らないであろう、という点は非常に嬉しかった。
まず、ジーロに見つかることなく庭と室内で、窓をはさんでコンタクトを取れる可能性が出てきた。
それはそのまま、二人が救助される可能性の高さも表していたが、それだけではなく
タシ兄を、ジーロの凶刃に晒さずに済むという事も意味していた。
「三郎、一緒に雑煮食えるかもな・・・」
夕方、という点も嬉しかった。おそらく、もちろん確証など無いが
ジーロが仮眠を取るとすれば昼から夕方の時間帯であろう、俺はそう目星を付けていた。
ふと、右手にライターを握ったままであったことに気付く。
「結局、出番はなさそうだな・・・」そう呟いて、ポケットの奥に無造作に突っ込んだ。
「・・・あいつらのせいよ・・・」
おとんもおかんも"アンチ"に殺されてしまった。
いまでもあの日の光景を鮮明に思い出せる。
怯えた顔・・真っ赤な血飛沫・・・
視界の右上から左下へ振り下ろされた"アンチ"の腕・・・赤く染まる鎌とそれを握る手先・・
血を落とそうと、何度も何度も俺はあいつらの腕を洗ったんだ。
あいつらは吉宗を、俺達兄弟の愛犬をも嬲り殺しにしたんだ。
じゃれつく吉宗の首、腹、そして性器を・・・細かく細かく刻んでいたあいつらの腕。
俺は泣きながら吉宗の遺体を山に埋めてあげたんだ。
あいつらは狂っている。鏡に映った顔を思い出す。返り血に染まったその顔は醜く笑っていた。
「・・アンチは狂っとる・・・」
三郎を、トツを、あいつらは必ず殺しに来る。
俺の目の前で大切な人を切り刻み、振り向き、俺の顔を見てとても嬉しそうに笑う。
ふと、電源の入っていないモニターの"黒"が縁を越えて広がり始めた。
「またアンチが来たど・・」
その"黒"は、まるで空気に溶けてゆくかのように、薄く薄く部屋を覆ってゆく。
しばらく眠っていたようだ。俺はゆっくりと体を起こす。
テーブルの上にあるモニターの強い光が、寝ぼけ眼の俺の顔を煌々と照らす。
俺は思わず顔をしかめて、しばらく目を閉じていた。
「今何時だろうか・・・」夕べは遅くまで三郎と話すことがあり、あの後もしばらく寝付けなかった。
まさか、寝過ごした?いや、せいぜい昼下がりって所か・・・窓の外を見れば大体の時間は分かるだろう。
そろそろいいか、と思い俺は目蓋を恐る恐る開いた。目の前のモニターは真っ暗で、何も映っていない。
あ、そうか、電源入ってないしな・・・そう思い、大きなあくびを一つしたあと、体を反って軽く伸びをした。
「・・・三郎・・?」俺はあたりを見回した。
三郎がいない。というより、ここは三郎の部屋ではない。どことなくジーロの部屋に似てはいるが
その部屋には扉も窓も存在せず、また照明器具も一切存在しないようだ。
明りもないのに、なぜここまで視界がはっきりしているのだろうか。
「闇が照らしてるんよ。」姿は見えなかったがジーロの声が聞こえた。
「ジーロ、詩人やなぁ!」そう言いながら俺は、どこか懐かしさを感じていた。
ノスタルジック、そんな言葉がぴったりだと思った。
俺は目を閉じ、優しく、だけどどこか寂しげな感情に身をゆだねた。
「ジーロ、もう大丈夫なん?」
目を開くと、半分冗談とも受け取れるような、軽々とした口調で俺は聞いた。
「何言いよんぞ、お前らのほうが大丈夫なんか?
お前も三郎も、アンチに殺されそうになって、頭おかしくなっとったんぞ?」
そんなジーロの声を聞いて、そうだな、俺達は精神的に参ってたのかもしれない、
と俺はそう思った。心配かけてすまんかったなぁ、ジーロ。
ジジ・・・という何かが焦げ付くような音とともにモニターの電源が入る。
気がつくと、俺はマウスを握っていた。と、その時自分の右腕を見て少し驚いた。
「あら?ジーロ、何か俺の手、血がこびりついてるんだけど」
俺は笑いながらジーコに話しかけたが、何が面白いのかはよく分からなかった。
「ああ、それ、アンチの腕やきん、気にせんでいいんよ」
そうか、アンチの腕なら良かった。安心した俺は改めてマウスを握り、モニターに視点を移した。
「何か変なモニターやのぉ、ジーロ・・・」
そのモニターは銀色のような、白なのか黒なのか明るいのか暗いのか、
俺にはちょっと判断できない色、その一色を全面に映し出していた。
「それ、鏡のモニターやけんのぉ、トツ・・」「モニターなのに鏡なんけ?」
「ほうよ、すごいやろ、リスナーがくれたんよ」
そうか、こんなすごいモンが送られてくるなんて、やっぱジーロはすごいのぉ・・・
俺は体を乗り出し、モニターに自分の顔が映るか試してみた。
モニターの画面は、揺れる水銀のように小さく波打っっていたようであったが、
次第にその表面は静かな湖のように平に平に、ぼんやりと何かを映し出していった。
水銀の水面には、ジーロのきょとんとした顔が映っていた。
「ジーロ、俺の顔、お前にそっくりやん」俺は思わず吹き出した。
「ほんとや、トツ、俺と同じ顔やん!残念!」ジーロがおどけてそう言った。
「でもジーロ、何か鼻が真っ赤になっとるよ?」「ほんとや、ピエロみたいやな。」
「いや、これ血やん」「ああ、多分それアンチのせいよ」
あ、なんかどんどん赤い部分が広がっていきよるよ。うわぁ、気持ち悪いな、何か。
顔中が真っ赤になっていきよるな。リンゴみたいやな。ほんとや、俺の顔、リンゴにそっくりやな。
今話しているのがジーロなのか、もしくは自分なのか、分からなくなっていることに気がついた。
ジーロ、顔だけじゃなくて声まで一緒やん。俺はそう思うと、また笑いがこみ上げてきた。
ふと、モニターの色が反転したかのような錯覚を覚えた。気がつくと、酷く怯えた三郎の顔が映っていた。
いや、これは俺の顔かもしれないし、ジーロの顔かもしれない。
しかし、これは間違いなく三郎の顔である。何の根拠も無いのに、俺にはその確信があった。
「三郎、お前何びびっとるんぞ!」とうとう俺は爆笑してしまった。ジーロも吹き出すと思った。
「・・・アンチが悪いんよ・・」
ジーロの声はこれまでとは明らかに変わり、低く低く、そして静かに響いた。
「・・・全部アンチのせいなんよ」静かに、しかしジーロの声には怒りの色が感じられた。
そうだ。確かに全部アンチが悪い。俺はもう笑っていなかった。
モニターの顔はもはや怯えた表情ではなく、怒りを我慢しているような、そんな表情だった。
先ほどまでと全く同じ顔だった、しかし俺は、これはジーロの顔だな、と何故かそう理解した。
「アンチのせいなんよ・・」その目の白目の部分に血管が浮きあがる。
悪いのは全部アンチなのだ。顔を見つめていた俺の目の焦点が少しずつ近くなってきている気がした。
「・・・アンチが俺達を殺しに来るんよ」さらに焦点は近づいてくる。今俺はすごく寄り目になっているだろうな。
どんな間抜けな顔になってるか見てみたいけど、また笑ってしまうかも・・・そんな事を考えていた。
ますます目は血走り、その血管はまるで赤い稲妻のようにも見えた。
アンチは俺達を殺しに来るんだ。「三郎もお前も、俺が守ってやるきんの・・・」アンチを殺そう。
焦点はさらに近づき続ける。眉間の前数センチのところまで来ているのではないだろうか。
いたたたた・・眼球が飛び出そう。「・・・アンチを殺さんといかんのよ」俺達はジーロに守ってもらわないと。
いまや目は真っ赤に染まり、もう血管の筋は判別できなくなっていた。
焦点が鼻の付け根へとにじり寄って来る。
「鏡のモニターって事は、映ってるのは俺の顔なんじゃないか」
そう気が付くと完全に同時の出来事であった。
コッ・・・
刹那、焦点と皮膚が触れる。
俺の上半身は、糸の切れた操り人形のように崩れ落ち、顔面を机に打ち付けた。
「・・・痛ぇ!」腫れあがるかも・・霧散していく存在の中で、それが最後の意識であった。
チチッ・・・
モニターの電源がショートした。
ゴッ・・
頬骨の音と鈍い痛みで目が覚める。
次第にはっきりしてゆく意識とともに、左頬の痛みが徐々に鮮明さを増してきた。
「・・・お前、寝相結構わるいのぉ」
声のする方に目をやる。三郎が呆れたように笑っていた。少し疲れたような笑顔だった。
・・やつれてるな。眠れなかったのか?・・そう思いながら上半身全体を起こす。
俺は頬を押さえながら周囲を見回した。窓からの日差しで部屋の中の様子がよく分かる。
今何時だろうか、そんなことを思いながら痛みの原因がPCエンジンであることに気がついた。
漫画やゲームやで足の踏み場も無いほど散らかっていた部屋だが、今はそれらを壁際に押しのけて
部屋の中心にスペースを強引に確保し、そこで俺は毛布に包まって眠っていたのだ。
・・・三郎と二人で寝るには、ベッドは狭すぎるしな。
眠っているうちに漫画やゲームの山が崩れ、頂上にあったゲーム機が落下してきたようだ。
「・・・いっでぇ・・・」目が覚めてからの第一声はそれだった。
「・・・お前、なんか夕べは寝言言いよったのぉ。覚えとんか?」三郎に聞かれたが全く覚えていなかった。
「俺、何ていいよったん?」「何か、アンチが悪いとか、アンチのせいとか言いよったんぞ。」
痛みのせいもあってか、意識は大分はっきりとしてきていた。しかし目覚めてすぐ、ということもあってか
何か夢を見ていた事は、すぐに思い出した。いや、内容に関しては半分も思い出せはしなかったのだが、
夢の感情、そう表現するしかないが、あのときの感情ははっきりと覚えている。
「何か俺、ちょっと怖かったわ。お前、どんな夢みよったんぞ?」
ちょっと引き気味の三郎が、そう聞いた。
「・・・あぁ・・よく覚えてないけど、変な夢やったわ。」話すの、めんどくさいな。あんまり覚えてないし。
そう思った俺は適当に返事をした。・・まあ、変な夢だったのは確かだが。
「・・・今何時やろ?」俺はずっと気になっていた事を聞いてみた。
「分からん。でも多分昼か、昼過ぎってところやないかな。日の高さから察するに。」
窓から外を覗く。昨日は曇りだったけど、今日は晴か。
あまり正確な時刻など分からなかったが、今日は太陽が出ている、それだけで何故か少し嬉しかった。
俺は窓際に立ったまま、改めて部屋の中を見回してみた。明りをつけていない部屋の中を浮遊する
いくつもの埃と、それらを照らして、絹の帯のように部屋へと差し込む日差し。
まるで映画のワンシーンのように美しい光景であった。
FFのオープニングでこういうの、あったな。ふと、そう思った。確か・・・6・・だったかな・・?
雲の割れ目から差す日差しと、ゆっくりと厚みを増してゆくチャーチオルガンの音色を思い出す。
「三郎、夕べは眠れんかったんけ?」三郎は、先ほどから静かに俺の挙動を見ていた。
「いや、寝たよ。でも、すぐに目が覚めてしまうんよ。
まあ、お前を起こす約束もあったし、ちょうど良かったけどなぁ。
そうだったな。俺が寝過ごしそうだったら、叩き起こしてな。夕べ、そう頼んだ記憶がある。
「トツは、あの後はすぐ眠れたんけ?」
「いや、俺もあの後しばらく考え事しててなかなか寝付けんかったんよ。」
そう答えながら大きなあくびが出た。大きく、静かに、一度だけ深呼吸をして、目をつぶる。
やっぱり、一本でいいからタバコが吸いたいな。そう思いながら俺は夕べの事を思い出していた。
まずトツ。そして三郎、最後に俺・・・
外側からじわりじわりと狭めてくるつもりだ。
ジーロは考えていた。
「ジーロが仮眠を取るなら昼から夕方」トツのその予想は半分当たっていた。
少なくとも日没後は、ジーロが仮眠を取る事など一切無い。
モニターの前に陣取り、夜通しマウスを触っている。
しかし不幸にも、というべきか、昼間ですらジーロは深い眠りにつく事は無かった。
ふと電池が切れたかのように目をつぶり、三分とたたないうちに目を開く。
一日数十回と繰り返すそれが、ジーロにとっての休眠である。
もちろん、それで体が休まるはずも無く、疲労は蓄積する一方である。
しかし、それでも構わない、ジーロはそう考えていた。
「アンチが殺しに来るけんな・・・」
いつアンチが襲ってくるかわからない。俺はトツを、三郎を守ってやらなければならない。
いつでも撃退できるように、常に神経を張り巡らせておく必要がある。
あまり言いたくは無いが・・・トツも三郎も精神を病んでいることは間違いなかった。
今のあいつらには俺が必要なのだ。守りきって・・・守り抜いて・・・
「また三人で配信が出来れば。」それを強く望んでいた。
あの笑いの絶えなかった日々を今でも忘れてなどいない。
あいつらに俺が必要なのと同じように、俺にもあいつらが必要なのだ。
恥ずかしくて本人の前ではとても口には出来なかったが、ジーロはいつもそう思っていた。
「・・・守っちゃんけんの・・・」
ふと、どこからかヒソヒソと囁くような声が聞こえる。「またアンチか・・・」そう思った。
アンチが、疲れ果てた俺を見て嘲笑っているのだろうか。
もしかしたら俺達を殺す作戦を立てているのかもしれない。
今のジーロの耳は非常に敏感で、どんな些細な音にもすぐに反応する。
しかし、どんなに神経を集中してもその声は、笑っているのか話しているのか
判断が付かず、ヒソヒソ・・・ヒソヒソ・・・といつもでも続いていた。
どっちでも関係ないか・・・どっちにしても俺があいつらを守る。
「糞アンチが・・・」俺たちが何をしたって言うんだ?
頭の奥でまた、神経の逆なでするような耳鳴りが響き始めた。
「・・・お前らは絶対・・俺が守っちゃんけんの・・・」
自分に言い聞かせるかのように、ジーロは何度も同じ事を呟いていた。
「これは最後の、そして最大のチャンスだ。」
その考えは、最初から最後まで一貫しており、また三郎も全面的に同意であった。
人は水も食料も無い状況で、何日間生存していられるのだろうか?
どこかでそんな話を聞いた気はするが、俺は正確には思い出せなかった。
おそらく一週間から十日間程度か・・・どちらにしろそう長くはないはずだ。
それに・・・
俺は目を開き、三郎のやせ細った体をスッと一瞥すると、また目を閉じる。
・・・三郎はもう、何日ももたない。
ベッドに緊縛されていた凡そ十日の間、三郎は一応食料を与えられてはいたものの
ジーロの暴力による全身の痛み、狂った兄に引きずられながら落ちてゆく絶望感、
肉体的にも精神的にも、すでに限界を迎えようとしていたのだった。
だからこそ、トツの顔を目にしたとき、喜びで涙が溢れそうだった。
絶望から絶望へ。依然、絶望的状況。はたから見れば状況は変わっておらず、
むしろ冷静に考えれば、食料は絶え、終わりは確実に近くなって来ている。
しかし、そばにいるのがジーロからトツに変わった、ただそれだけで、全身に力が湧いてくる。
三郎は希望を見ていた。
もう限界近く、明らかにトツより疲弊した心身で、それでも死を恐れる気持ちは微塵もなかった。
終わりこそが希望であると、無意識のうちに理解したのだ。
・・・今日ミスれば、俺達は死ぬ。
俺にはその確信があった。
もう一度、夕べ三郎と話し合った事を整理してみよう。
たっしゃんが来る。おそらくまずは本家に、そこに誰もいないのを確認たら
次に、この家まで上がってくるはずだ。吉宗にも会いたいだろうし、な。
三兄弟のなかで一番吉宗を可愛がっていたのはタシ兄であった。
そこで、庭に来たたっしゃんにどうにかして現状を伝える。
小さな窓に俺達の顔を見て、たっしゃんは間違いなく声を発するだろう。
また、俺達がたっしゃんに何を伝えるにも、声を出す必要がある。
きっと・・・そうでなければ嬉しいが・・きっとジーロにも聞こえる。
結局、夕べ俺達が一番時間をかけたのは、「何を叫ぶか」についてだった。
それは短く、かつ分かりやすく、それでいて一切冗談だと感じさせず、
何も知らずに歩いてくるたっしゃんに、瞬時にこの緊迫した状況を伝える、
そんな一言である必要がある。
「逃げろ!ジーロは俺達を殺す気ぞ!」
腹の底から叫ぼう、喉ちんこが千切れるくらい・・・俺はそう決意した。
その一言で伝わるはずだ。あとは、たっしゃんの呼んだ警察を待っていればいい。
ただ、それだけ、簡単なことだ・・・
「ン!・・ゥ・・ウン!」
一つ咳払いをし、二度ほど深呼吸をした。声は、出る。大丈夫だ。
強い意志がこみ上げてきているのか、何か熱いものが全身を満たしていくのを感じていた。
強い意志・・熱い感情・・・
ふと俺は何かを思い出す、いや思い出しそうになる。・・・あれ、これってなんだっけ・・?
強い意志、決意・・・それは夢の中で感じた、あの感情であった。
義務、脅迫、正義、焦燥、恐怖・・・どれも当てはまらない静かな、しかしどす黒い感情であった。
それらは大きく、ゆっくりと渦巻きはじめ、そのうち小さな衝突がそこらここらで起き始める。
その速度は一定となり回転は安定し、中心に黒く艶やかな球体が生まれた。
気がつくと渦まいていたものは、霧のように白く白く蒸発し、いくつかの光だけが残った。
それは宇宙だった。
その宇宙はとてつもなく大きく、広く、酷い眩暈と足場の無い浮遊感に酔いながら
「・・・シャブやってる奴の視界って、こんな感じなんかな。」
俺はそんなことを考えていた。
・・・ガバッ!
上半身を壁にもたれていた三郎が、急に体を起こした。
驚き、三郎の座っているベッドのほうを見やる。「どうした?」と聞こうとする俺に対し
三郎は左手の人差し指を口に近づけ、右手で窓の方角を指した。
数秒ほどそのままの姿勢で、両目は俺の方を見ていたが、意識は完全に両耳に、
いや、意識は窓の外へ向けられていた。
俺は開きかけの口を閉じ、中腰のまま窓の近くへ静かに歩いていった。
昼下がりの日差しは優しく、其処此処に陽だまりを作っていた。
・・・車の音が聞こえる気がする。
三郎を振り返る。緊張した面持ちで俺を見ている。俺は、中腰のままで三郎の元へと移動した。
三郎は何も言わず、ただただ神経を両耳に集中させている。俺も、何も言わずに耳を澄ましている。
"夕方"・・・三郎はそう聞いたらしい。
まだ昼下がりという言葉がふさわしい時間だと思ったが、予定がずれる可能性なんていくらでもある。
それに、夕方の時間帯定義なんて人それぞれだろう。
だが、これまで何度も、ついさっきも車の音は聞こえ、そのたびに俺達は耳を澄ませては
音が近づき、遠ざかっていったのを確認してはまた黙り込む。そんなことを繰り返していた。
ここまで三郎が、緊張した面持ちで音を聞いてるのは初めてだ。
たっしゃんか・・?・・・何か・・・たっしゃんだという予感でもあるのだろうか?
俺は何も言わず、三郎の顔を見ている。寝不足のせいか、少し充血しているようだった。
赤い目・・・血走った狂気の瞳・・・頭の中で一瞬あの赤が浮かび、そして消えた・・・
ふと、扉のほうを見る。扉の穴は棚で隠れてはいるが、
扉から覗く歪んだ瞳、この部屋に逃げ込んだあの日の事を思い出した。
充血したジーロの目・・・いや、違う・・・さっき俺の脳裏をよぎったものは、もっと別の・・・
何を考えているんだ俺は!今、まさに正念場が来ようかとしているのに!
「どうか?たっしゃんか?」余計な考えを振り切るように、俺は口を開いた。
「・・・分からんけど・・そんな気がする・・・・ただの勘やけど」
車は近づいているのか、遠ざかっているのか、さっきまではそのどちらか分からなかったが、
どうやら近づいているようだと、今分かった。
勘か・・・本当に勘で、そしてこれが本当にたっしゃんの車なら嬉しい、そう思う。
例えば車の音で何となく分かる、とか・・・血の繋がったものにだけ分かる予感のような、
さすがにちょっと非科学的すぎるかもしれないが、そんな根拠によるものであれば・・・
三男に予感できるなら・・・おそらく次男にも・・・
ゆっくりと、だが、音は確実に近づく。止まるか!?たっしゃんか!?
そういえば、たっしゃんは車をどっちに止めるだろう。下か、上か・・・
急に穏やかな風が吹き始める。
ザァァ・・という風の音。
車の音がかき消されて、よく聞こえない。しばらくすると、風はすぐに止んだ。
両手を耳の後ろに当て、耳を澄ませる。三郎が息を止めているのが分かる。
すぐに、俺も息を止めていたのに気がついた。
風の音が完全に止んだ頃、車の音は消えていた。
「・・・止まった」
三郎がボソッと言った。
「・・・タシや」
呟くような声ではあったが、その口調は強く、もはや、多分・おそらくではなく
長男の到着を完全に断言していた。
理由はきかなかったが、間違いないだろう、俺もそう感じていた。
「ゴキュル・・」俺は唾を飲み込む。
蛇が蛙を丸呑みするときのような、そんな音が咽喉で鳴った。
ふと、ジーロの様子が気になった。ススス・・・と忍び足で扉に近づく。
廊下の外は静寂だけが存在し、相変わらずジーロの様子は分からない。
ジーロが熟睡していますように。そう強く願った。それが一番嬉しいことは言うまでも無いだろう。
もし、ジーロが起きているとして・・・部屋で座椅子に座っているジーロが、外の声に気付き
飛び起きて庭に出る姿を、何度も何度も繰り返しシミュレートしてみた。
四秒
四秒
リアルに考えて、最速でもそれだけの時間は確保できる、俺はそう思った。
十分だった。
ジーロは決して足が速いほうではない、(もちろんタシ兄も速くは無いかもしれないが)
タバコや酒でスタミナもほとんど失い、全力疾走できてせいぜい三十秒というところだろうか。
・・・四秒のハンデがあれば十分逃げ切れる。どうせあいつ、素足かサンダル履きだろうし・・・
楽観的過ぎるだろうと思われるかもしれないが、俺は冷静かつ客観的な考えで、この結論に達したつもりだ。
あとは、たっしゃんがどれだけ早くこの現状を認識してくれるか・・・・
俺の声を聞いて、すぐに走り出してくれますように。そう願った。
振り返り、三郎と目が合う。
「頼んだぞ・・・!」ささやくように、しかし力強く三郎は言った。
「・・・おぉ、まかせろ!」緊張を悟られないように無理矢理作った笑顔で、そう返した。
ふと、トツの視界の隅に、窓が、窓の外がチラリと映る。
一瞬、思考が停止、次に気がついた時、トツは窓際にいた。
トツは、無表情で外を静かに眺めていた。風は、完全に止まっていた。
三郎は、「トツ、緊張してるんだろうな・・・」と思いながら親友の横顔を眺めていた。
「・・・頼んだぞ!」もう一度、念を押すように囁いた。トツの口は閉ざされたままだった。
・・・トツ、生きてここから出ような・・・!
実は今、三郎はそれほど緊張していなかった。
・・・俺は今何を見ているのだろうか。
トツの脳がそれを認識できるまで、数秒の時間を要した。
足が、いや足だけでなく全身が金縛りにあったかのように固まって、動かす事が出来ない。
声が、出なかった。三郎が何か言っているような気がしたが、聞き取れなかった。
フッ・・・と一瞬全ての音が消滅し、視界がセピア色になる。
耳の奥で無音だけが響き、キンキン・・とわずかな耳鳴りが聞こえ始めたころ、色が戻ってきた。
トツの瞳には、ジーロの後姿が映っていた。
普通にのんびりと歩いているだけなのに、庭先の砂利の音は、全く聞こえてこなかった。
いや、部屋を出る、廊下を歩く、玄関を出る、その全ての音からまず聞こえていなかった。
砂山に水がしみこむように、ジーロは静寂とともに、庭の先の下り坂に差し掛かっていた。
紺色のトレーナー、七分丈のデニムパンツ、サンダル履き、ぼさぼさ頭・・・
トツは後ろ姿を見つめている。後ろから表情など分かるはずは無いのに、
いや、今のこの距離なら正面からでも把握は困難だったかもしれないが、
ジーロは笑っている、
口の筋肉を片側だけいびつに歪めて笑っている、トツにはそれが分かった。
両手をポケットに突っ込んでいるようだ。鎌は・・・持っていないようだ。
いや、絶対にとは言い切れないが、鎌は持っていないはずだ、
それは希望的色合いのほうが強かったかもしれないが、トツにはそう見えた。
どうする!叫ぶ?届く?足が動かない!三郎!声が出ない!
逃げる?どうやって?扉は開くだろうか?体当たりすればジーロは戻ってくる?
ライターがある!発炎筒、やるか?ここで?なぜジーロは知っている?
扉は開くのか?三郎!動け!叫べ!たっしゃん!逃げろ!どうする!・・・
指一本動かせない。舌が痙攣したかのように、声を出す事を拒否する。
ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!・・・
トツの頭の中でいつまでも、ドラムロールのような鼓動音がこだましていた。
家には誰もいなかった。
「あらー?せっかく久しぶりに帰ってきたっていうんに・・・
おとんもおかんも、どこいっとるんかなぁ・・・」
ひとまず、嫁に渡された土産を、台所のテーブルの上においたあと、
靴をはき、また玄関から外へと出た。
今朝電話したときも誰も出らんかったしのぉ・・・
タシノリは、コキ、コキ、と首を左右に一度ずつ傾けたあと、大きく体をのばした。
何時間も車を運転しっぱなしで、関節が縮んでいるような、そんな窮屈な感覚が残っていた。
「しかし今日の愛媛は、天気が良くて日差しが気持ちいいな・・・昨日は少し雨が降って寒かったし。」
吉宗に会うのも久しぶりだな・・・それにあいつらと会うのも。
しばらく帰ってないと、兄弟と会うだけでもちょっと緊張するな。
生まれ育った土を踏みしめるかのように、のんびりと坂を登りながら、タシノリはそう思った。
すぐに、ジーロが坂を下ってきているのが見えた。どこにいきよるんやろ。
坂の中腹よりやや上、といった地点でジーロは立ち止まり、こっちを見ている。
ちょうど逆光で表情は見えなかったが、笑ってるように見えた。
迎えに出てくれたんかもな、そう思いながら近づいた。
「おぉ、ジーロ、久しいのぉ!おとんとおかん、どこ行っとん?」
「・・・んー?・・あぁ、買い物でもいっとるんちゃうか?」
近づいてみると、ジーロは酷く臭かった。顔も痩せこけ、髪もぼさぼさで
ジーロ、急に老けたなぁ・・・タシノリは、そう思った。
「お前、ちゃんと飯くいよるか?風呂も三日に一回くらいは入らんといかんぞ?」
「大丈夫よ、最近はちゃんと毎日入りよるきん」
二人で坂を登りながら、ジーロのその返答を聞き、嘘付け!と思った。
明らかに一週間以上風呂に入ってない、そう言い切れるほどの異臭だった。
しかし久しぶりに弟に会っていきなり、臭い臭い言うのもどうかと思い、
この話はここで打ち切って、話を変えることにした。
「ヨシは元気しとるんけ?」「あぁ・・・アイツも元気よ・・」
ジーロは、ポケットに両手を突っ込んだまま歩きながら、そう答えた。
「・・・今ちょうど・・サブが散歩に連れて行ってやっとんけん・・」
そう言って、顔を歪めて笑った。こう言っちゃなんだが、キモい笑い方をするようになったな・・・
家族に対してそういうのも無いとは思ったが、それが正直な感想だった。
「ほうか。サブ、偉いやん。」兄弟の家が、屋根から順番に姿を現す。
・・・サブも元気してるみたいだな。
そう思いながらジーロのほうに目をやる。ジーロはまだ薄笑っていた。
いや、顔の下半分は笑っているようではあったが、目はまるで泣き出しそうに、悲しそうに見えた。
ジーロ、本当にお前、元気してるのか?あえて口にはしなかったが、そう聞きたかった。
坂を登りきり、砂利の敷かれた庭に差し掛かる。
相変わらず、オンボロだなぁ、この家は。ま、築百二十年だもんな。そう思った。
・・・吉宗は散歩か。早く帰ってこないかな。
「本家もだけど、こっちも全然変わって無いなぁ。
大きい地震でも来たら、一発でペチャンコになりそうやけどな。」
懐かしさを覚えながら、ふと、三郎の部屋の窓に人影が見えた。
トツだった。
トツは無表情でこちらを見ていた。
「あ、トツも来とるやん!久しぶりやなあ!」ジーロの返答はなかった。
トツは相変わらずの無表情であった。もうちょっと嬉しそうな顔しろよ
そう思いながら右手を上げた。
「おーい!トツー!お前、来とったんかぁ!」
トツは無表情だった。微動だにしなかった。「・・・あいつ、何しよん・・・?」
そう思った時、ガッ!とトツを右に押しのけるような形で、左から三郎が現れた。
「・・・あれ?サブ、散歩にいっとんじゃなかったん?」
振り向かずに、そうジーロに聞いた。
三郎は何かに驚いたような顔で、こちらを見ている。
しかしその視点は、自分からは少しずれている様に感じていた。
続きが気になるwww
ジッ・・・と、三郎はベッドの上に座って息を潜めていた。
トツは窓際に立ち、タシ兄が上って来るのを待っている。
そのまま二人とも、口を開くことなく、ただその時を待っていた。
「トツ、頼むぞ・・・」
助かるかもしれない、その可能性を意識すると、なんだかお腹が減ってしまう。
お雑煮よりも先に、まずは年越しそばだったかな・・・。お腹がなりそうだ。
このタイミングでの「グゥゥー・・」という間抜けな音は、さすがに恥ずかしいわ。
三郎は、そんなことを考えていた。
ふと、窓の外から誰かの話し声が聞こえた気がした。
トツは口を閉じたまま、外を眺めている。
「・・・?」窓の先に視野を移したが、この位置からは庭は全く見えない。
小さな声で、トツに様子を聞こうかと思ったが、それはやめておいた。
出来るだけ音を立てないように、ベッドから降り、両膝を床につける。
・・・ゴッ・・コッ・・・・聞こえるか聞こえないか、そんな小さな音がした。
もう一度トツの横顔を見る。ボーっとした表情で、緊張の色は見えなかった。
「トツ・・助かったら俺、何でも好きな食べもんおごっちゃるけん・・」
トツを見上げたまま、三郎はそう思った。
「おーい!トツー!」
急に、庭先からタシ兄の声が響いた。
「えっ?」
タシはまだ本家あたりかな・・・そう思っていた矢先のことだ。
驚いた三郎はトツの顔を見上げる。口は閉じられたままだった。
「お前、来とったんかぁ!」
「トツ・・?」
呼んでみたが反応は無い。
「おい、トツ!?どしたんぞ!」ゴッゴッ、と膝だけで器用に歩きながら、
いやその速度は、走るそれの方に近かったが、三郎は窓辺に駆け寄る。
トツは、壊れている。いや、電池が切れたおもちゃのように、その全活動を停止している。
三郎はそう直感し、トツを肘で突き飛ばして、庭先を覗き込む。
タシ兄が、不思議そうな顔でこちらを見ていたのが見えた。
いや、それは事実であったのだが、今の三郎の意識にはタシ兄は映ってはいなかった。
・・・ジーロ・・な・・んで・・?・・・
ジーロは顔をくしゃくしゃにして、泣いているのか笑っているのか、三郎には分からなかった。
その目は二日目の月のように細く歪み、見えてないんじゃないか?と思うほどであった。
三郎と目を合わせたまま、ジーロは静かに右手を上げる。
柄の部分は赤、というか茶色一色に染まっていたが、刃の部分は鈍い暗銀色であった。
ジーロの右手には、鎌が握られていた。
「タシ!後ろ後ろぉおおお!!」
声にならない叫び声を上げる。タシ兄は、きょとんとした顔でこちらを見ている。
「やめぇえええぇぇぁぁあああぁぁあああああ!!!!」三郎の叫び声と同時に、右手は下ろされた。
これ、俺の声か・・?・・・俺の声ってこんなに高かったのか・・・
眼前の光景をよそに、三郎は頭のどこかでそんなことを考えていた。
先ほどまでと全く同じ表情で、タシ兄は両膝をついた。
パクパク、と釣り上げられた魚のように二度三度口を開いたあとも、三郎を見つめていた。
勢いよく吹き出る血液が庭を染める。人間の体にはこんなに大量の液体が流れているのか・・・・
ジーロの握る鎌、その先はタシ兄の首に深く喰い込んでいた。
その鎌を離すと同時に、タシ兄の体はゆっくりと後ろに傾き始め、弧を描くように
赤い液体を撒き散らしながら、空を見上げるように倒れていった。
両膝が、在り得ない角度へと曲がっている。
斜め下方向から見ると、タシ兄の顔は笑っているように見えた。
「タッシャアアァァアアアア!!!!!!!!!!
誰かの叫び声が左耳を劈くと同時に、三郎は肩部に衝撃と痛みを覚えた。
結局、長男は最後まで何が起きたのか認識する事は無かった。
最初、体に、体のどこかに衝撃があった。それがどこなのかは分からなかったし
痛みも、音も、臭いも、何も無かったが、視界の隅から吹き出る赤い噴水を見て、
「これはわしの血液やな」そう言い切れる自信があった。
奇妙な感覚であった。
体から力が抜け、意識が頭頂部から細い糸のように昇っていく感覚を覚えた。
視界にはずっと三郎が入ってはいたものの、情報として脳まで届いていなかった。
「し・・・っ・・・こ・・・・・」
パクパクと口は開閉するが、言葉となって発せられる事は無かった。
さっき本家でしとけばよかったな。そういえば運転中も我慢してたし・・・
庭の砂利を染める赤に意識をやりながら、そんなことを考えていた。
しっこしたい・・・
・・・このままだと漏らしてしまうんじゃないか・・
そう思うと同時に視界が縦方向に回り始めた。
ジーロの顔が見える。空が見える。
「ジーロ・・どこ見よんぞ・・・」
まるで自分の存在など気付いていないような、そんな次男の態度が腹立たしかった。
・・・救急車呼んで・・・わし・・・何か体調がおかしいみたいなんよ。
「ジーロ・・」全身は内側からポカポカと温かく、眠くなってきた。
「・・・コタツは [切] にするだけじゃいかんのよ」
ふと、母親の声が聞こえる。
「コンセントを抜かんと、火事の元やきんね」
わかっとん、わかっとんよおかん・・・・
「わかっとんって、あんたはこのまえも・・・・」
口調は厳しかったが、タシ兄は、その声をいつもより優しく感じていた。
・・・動く・・・!・・・・体が・・・動く・・!
痛みを感じるより先に、俺はそう思った。
三郎に突き飛ばされ、俺は左肩から床に倒れ込む。
すぐに体を起こそうとし、手も足も、自分の思うままに動く事に気がついた。
たっしゃん・・・たっしゃんは!?・・・叫ぶんだ・・叫ばなければ・・!・・
上体を起こし、振り返る。
ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!・・・
三郎がだらしなく口を半開きにしたまま、上半身全体で激しく呼吸をしている。
どうした?三郎、どうした!?そう思いながら、気がつくと俺も同じリズムで
浅く、荒く、息を吸い、そして吐いていた。
ハッ!ハッ!・・・・
二人の呼吸音はユニゾンし、次第に、コッ!コッ!コッ!という乾いた音に変わってゆく。
叫ばなければ!・・あれだけ反芻した言葉を、完全に忘れていた俺は、
・・・叫ぶって何を?頭のどこかでそう思いながらも、何かを叫ばなければならない、
その使命感・義務感だけを強く感じていた。
急に、三郎が縦に大きく、口を開く。
「キイィエエエエェエェェエエェェェェェ!!!」そんな奇声の様な叫び声が部屋中に響いた。
「・・・エエェェェエエエエ!!・・・ケッ!・・・」急に奇声が止まる。「・・・ヘッ・・・ケヘッ・・・・・」
大きく開いた三郎の口の奥から、乾いた咳のような音が微かに発せられる。
と、窓の外からも異様な音が聞こえてきた。シシシィィィシシィイ・・・という細い音とともに、
ピシピシピシピピシッ・・という、極めて少量の液体が連続的に滴るような、そんな音がする。
「何が起きている?」「どうした三郎!?」「早く叫ばなければ!」その三つの考えだけが、
頭の中で、グルグルとルーレットのように高速で回転していた。
外から聞こえる音は、まるで、回転盤と回転軸が擦れるような、
ルーレットの発する摩擦音のようでもあった。
瞬間、俺の両の膝に力が入る。
「たっしゃあああああんん!!!!!!!!!!」
俺は叫び声をあげながら窓際へ駆け出していた。
いや、表現としては飛び込んでいた、のほうが正確かもしれなかった。
二歩目を踏み出す瞬間、俺の足に漲っていたエネルギーは蜃気楼のように消え失せた。
「・・・・・・ゃゃぁぁああんんんんんんおおおぉぁぁぁあぁ・・・!!!」
後半はなんとも間抜けな、素っ頓狂な奇声となり、
俺は、バランスを崩しながら三郎の左肩に突っ込んでいった。
もし誰か、第三者が外から様子を見ていたと仮定する。
小さな窓から、最初、一人の男が外を見ていた。
急に、その男を乱暴に突き飛ばして、二人目の男が顔を覗かせる。
数秒ほど経って、まるで仕返しをするかのように、一人目が二人目にタックルし、
そして窓枠に囲まれた長方形から、二人が消える。
「喧嘩か?・・・二人は仲が悪いのか・・?・・」間違いなくそんな感想を持つであろう。
ここで、ふと、窓枠に左腕が掛かっているのに気付く。
細い方・・・二人目の方は今頃床に転がっているだろうが、一人目は窓のすぐそばにいるようだ。
事実、二人目は部屋の奥、ベッドに頭を向ける形で仰向けに倒れていた。
一方、一人目は左手を窓にかけ、右手を杖のように伸ばして床に着き、上体を支えていた。
と、スッ・・・と上体を起こし、一人目の男がこちらに顔を向ける。
まるで、慣性の法則を完全に無視するかのように、ルーレットは音も立てずピタリと止まった。
トツは、大きく見開いて、その光景を瞳に映していた。
「・・・・コーッ・・・コーッ・・・」誰のものとも分からない、どこから発せられているのかもわからない
そんな呼吸音が、今、二人のいるこの部屋の中を完全に支配していた。
「・・・良かった、間に合った。」
モニターのスピーカー部分、黒いポツポツから聞こえる先生の声を確認して、
俺はそう言った。いや、もちろん開始には完全に間に合っていないのだが、
日付が変わる前に間に合ってよかった、そう思った。
「復活配信が来る。しかもあの三人による配信。」
画面には、しばらくお待ちください、と二人の少女の顔がキラキラと映っている。
先生は何かを朗読しているようだったが、今来た俺には何を喋っているのかわからない。
スレの様子から察するに、何か面白い流れになっているのだろう。
まるでお祭り騒ぎのように、いや祭りになるのも当然ではあったが、住民は大盛り上がりあった。
相変わらず、ボリュームが小さいな。そう思いながらプレイヤーの音量を上げる。
いや、今夜の先生は呂律が回ってなく、聞き取りづらいせいもあるか・・・
時折ビールで喉を潤し、タバコをふかし、先生は上機嫌であった。
と、音量を上げても、他の二人の声が聞こえないことに気付く。
二人とも黙って先生の話を聞いているのだろうか?久しぶりに、声が聞きたいな。
「くそきゅん、声きかせてー」そう書き込もうかと思ったとき、映像と音声が止まった。
チッ・・・
上流、リレー管理さぼんなよ・・・
そう思いながら、俺はテーブルの上のマウスに右手をかけた。
・・・お前・・泣いてるのか・・?
空を見上げて血飛沫を上げ続ける長男のそばで、まるで枯れ木のようにジーロは立っていた。
足元の惨状に全く気がついていないかのように、ただただ俺のほうを、俺を静かに見つめている。
涙は流れていなかったが、彼の表情を見て、そう思った。
くしゃくしゃと皺だらけのその顔は、どんな感情を映しているのかなんて全く分からなかった。
しかし、次男は泣いているのだ。俺はそう思った。
鎌は、持っていないと思ったが・・・しかし今それは、タシ兄の首、右側から枝のように生えていた。
お前、たっしゃんを殺したのか・・・・そう思ったとき、ふとジーロの真っ赤な右腕が目に入る。
いや、もはやジーロは長兄の血を浴び、全身を真っ赤に染めていたのだが、
俺の目にはなぜか、右腕だけが赤く見えた。
「それ、アンチの腕やきん、気にせんでいいんよ」
次男は口を閉じたままだったが、そんな彼の声が聞こえてくる。
・・・あぁ・・?・・
「・・・アンチが悪いんよ」
ふざけんな・・・!・・・たっしゃんも・・・おいちゃんもおばちゃんも・・・!・・・
みんなお前が殺したんだろうが・・!!!
「・・・全部アンチのせいなんよ」
「お前のせいだろうが!!!!!」
気がつくと俺はそう叫んでいた。
同時に沸々と怒りが湧き上がり、何故か涙が溢れている。
と、ジーロの様子が変わる。目をやや細めている以外は、完全な無表情となる。
顔中にあった皺は消え、マネキンのように、ただただ無機質に俺のほうを見ている。
「・・ハッ!・・ハッ!・・・・ハッ!・・・」急に息苦しくなる。
まばたきもせずジーロの顔を直視したまま、気がつけば、俺は目を逸らすことが出来なくなっていた。
シシシィィィィ・・・という噴水の音だけが耳の奥に残っていた。
「・・・お前の・・せい・・だろうが・・」
息を止めて腹筋に力を入れ、ヒュウヒュウと乾いた小さな空気音とともに、もう一度そう絞り出した。
それが合図であったかのように
ジーロはゆっくりと体ごと後ろを振り向き
ゆっくりと、上半身だけをかがめ、
ゆっくりと、音も立てず、凶器を、引き抜き、
上体を、ゆっくりと、起こした。
振り向かず、そのまま、後姿を、見せていた。
ドッ!ドッ!ドッ!・・・
動悸とともに、大きく、早く、鼓動音が加速し、トツの全身から嫌な汗が噴出す。
もう何日も水分を取らず、小便さえもほとんど出なくなっていたトツの体、
その毛穴の一つ一つから、プップッ・・・とビーズのような汗の粒が一斉に湧き出す。
やばい!逃げろ!やばい!!やばい!!逃げろ!!
俺は、肩で浅い呼吸をしながら、サイレンのような甲高い音が鳴り響くのを聞いていた。
三郎は突き飛ばされたときのままの姿勢で、口の端から涎を垂れ流しながら、
過呼吸のように苦しそうに喘いでいた。
彼の目からもまた、染み出るように涙が溢れていた。
俺は振り向きはしなかったが、三郎の様子がはっきりと手に取るように分かった。
「三郎!逃げるぞ!」
しっかりしてくれ、三郎、そんな気持ちを込めて大声を出す。
・・・逃げる?・・どこに・・?・・・叫んでから、俺はそう気付いた。
ジーロがゆっくりと、振り向く。
ゆっくりと、と言ってもそれはスローモーションのようにではなく、
コマ送りのように、パッ、パッ、と不連続で向きが変わるかのように感じた。
見ちゃだめだ!そんな声が頭の中で響くのを聞きながら、正面を向いたジーロと目が合った。
トツの背中から、ブワッと冷たい汗が噴出す。
両足は金属のように硬く、動く事を拒否する。
ジーロの両目は、まるで大きな満月のように、真円形にまでカッと見開かれ、
その真円の中心で、黒目が異様なほどギューっと小さく収縮している。
口裂け女のように、口が高く高く吊上がり、その両端は明らかに耳・鼻の最下部を超えている。
誰が見ても分かる。
ジーロは笑っている。
爆音で警告を叫び続ける脳と対照的に、トツの体は静かに、無表情にジーロを見つめている。
鳴り響いていた鼓動と、三郎の喘ぎ声が消え、息苦しさはもう感じなかった。
この距離だが、ジーロの顔がはっきりと、俺には、産毛の一本まで明確に見えていた。
満月の丸縁から、中心に向かって赤い稲妻が伸びる。俺は額に何かが収束してくるのを感じた。
ビキビキ、と稲妻は太く濃く、ジーロの白目を赤く赤く埋めて尽くしてゆく。
急に、窓枠に囲まれた長方形の中心が、ギュリュュュゥ・・・と歪み始め、細く尖りながら捻れ、
まるでティッシュの"こより"のように、周囲を少しずつ巻き込みながら俺に近づき始めた。
その先端は、正確に、俺の眉間を目指している。
俺はそれを知っていた。
両目の焦点は、ジワリジワリとにじり来る"こより"の先端に完全に合致しており、
それが接近するほどに、眉間には熱いエネルギーのようなものが蓄積されてゆく。
・・・・プチ・・・プチ・・・と何かが千切れてゆく音が聞こえてくる。
ジーロの眼球は赤みを増し、それに連動して尖った先端は迫ってくる。
ふと、夢の感覚だ、と俺は思い出した。両目の痛み、眉間の熱・・・
今自分の目が寄り目になっているのかどうかは分からなかったが、間違いなくあの時の感覚であった。
「ジーロの目が血走っていって・・・」
俺は思い出していた。
焦点が近づいてきて・・・音が聞こえて・・・
――神経だ
焦点の接近とともに全身の神経が眉間に集中してゆく。
そのうちの何本かは、絡み合って千切れる。
眼球が赤味を増してゆく。
・・・焦点・・神経・・赤・・・・
白部が完全に赤一色に染まる。同時に全身の、生き残っている神経全てが眉間に集まる。
刹那、触れる焦点・一斉に切れる全神経
・・・それは神経の切断音だ。
俺は唐突にそう理解した。
焦点は、手を伸ばせば届く距離に、ジーロの目は、もう今にも一色に染まりそうであった。
いでででで!!・・・やっぱ俺、寄り目になってるみたいだ。
飛び出るんじゃないか?、と思うほど眼が痛い。
プチプチ音は、大きく、乱暴に、ブチブチブチ!!・・・に変わっていた。
白が、赤で、完全に覆われる。
寄り目になってピントが合っていないはずなのに、俺にはそれがはっきりと見えた。
やばい・・・落ちる・・・
そう思ったが、それ以上に痛みのほうがマジでやばい。
夢でみた時は、ここまで痛かったっけ・・・・・?・・・
ふと、今まで全く動かなくなっていた体、力が入ることに気がつく。
瞬間、無意識のうちに口が開いていた。
――――!!!!!!!!!!!!!!――−――− − − −
それは言葉にならない叫び声であった。
自分の意思で叫んだのか、激しい痛みがそうさせたのか、俺には分からなかったが
気がつけば、視界にゆがみなど無く、痛みも熱も消えていた。
意識は、はっきりと保たれていた。
・・・幻覚だったのだろうか?
窓の外には赤い砂利と、血溜まりと、仰向けのタシ兄だけが存在していた。
ジーロの姿は、消えていた。
・・・ジーロは何処へ行った?
消えたのだろうか・・・もし、この世界から消滅したなら・・・
ジーロとは、もう二十年以上の友情がある、いや、あった。
しかし今、いなくなってくれれば嬉しい、俺は心からそう思っていった。
当然ながら、ジーロは消滅などしていない。
あの異様な存在感が、玄関を入り、近づいてきているのが感じられた。
出てゆく音は聞こえなかったのに、入ってくる音は、廊下を歩く音は聞こえていた。
「・・・来る」
俺は呟いていた。
「入ってくる・・・」
その音は、大きくも小さくも無く、キシ、キシとゆったりと跳ねるようなリズムで、
「お、今日は機嫌がいいみたいだな」そんな風に感じさせる音であった。
しかし俺には、それが逆に、間違いなくジーロはこの部屋に入ってくる、
その根拠となっていた。
「三郎!」
呼びかけながら俺は振り向く。
三郎は怯えた顔で、俺を見ていたが、意識ははっきりしているようだった。
「・・・三郎、ジーロが入ってくる。」そう強く断言した。
「・・・ハッ!・・・ハッ!・・・」三郎は完全に怯えていた。
逆に、そんな三郎を見て、自分の精神が静かに研ぎ澄まされてゆくのに気がついた。
ここ数分間で俺の精神状態は、右・左に、ON・OFFに、スイッチを激しく
カチカチと操作するように切り替わっていったのを自覚している。
「もう大丈夫だ・・・」
俺は決意表明のように呟く。全身に力が満ち溢れる。
「俺は今、冷静だ。」そう思ったし、それは間違いない事だと信じていた。
ゴガガガガガ!!!!
急に、扉のすぐ外で、粗大ゴミの山が崩れ落ちるような轟音が鳴る。
「ヒ・・ヒヒィィィ・・・」怯えた三郎は、体を捻って四つん這いになり
両肘と両膝で"ハイハイ"するように部屋の奥、ベッドの隅へと逃げ込んだ。
「三郎は、正気を失っている。」
それは誰が見ても明らかだった。
少なくとも、現状を打開できるような何かを、三郎に期待することは不可能だ。
俺はそう思った。「・・・・俺が・・・やる!」
今、三郎の未来は、俺が握っている。
俺がしっかりしなければ三郎は、もちろん俺自身もだが、助からない。
それは事実であり、俺の背中に重くのしかかってきていた。
しかし今の俺には、プレッシャーと言うより、使命感としてプラスの方向に作用していた。
「・・・何とかする・・・俺が・・・何とかするけん・・・・」
ガガ!・・ガタ!!・・・廊下では騒がしい物音が聞こえていた。
「・・・守っちゃんけん・・・・」
扉のほうを睨みながら、トツはそう呟いたが、
今自分が何をつぶやいたのか、彼には自覚がなかった。
ふと、音が止んだ。
「・・・来る・・」
トツの瞳孔が、キュウウ・・・と急速に収縮する。
「・・俺が・・・守っちゃんけんのぉ・・・・」
無意識の呟きを繰り返すトツの目に、うっすらと血管が浮かび上がっていた。
「あ、ライター・・・」
昨日、壁際に綺麗に整理して重ねておいたパチスロ雑誌をみて、
俺は、ズボンのポケットに、ライターを入れっぱなしにしていた事に気がついた。
一番上にある雑誌を左手で取り上げる。
「パチスロ必勝ガイド」
何年も前に、ジーロが買って来たものだった。
その隣には、大量にあったこち亀やジョジョ、漫画の中から特に古い巻を選んで、
こちらは乱雑にだったが、簡単にまとめて置いていたのだった。
「これ、ナイスアイディアじゃね!?」
後々考えると穴だらけにも思えたが、最初に思いついたときは、俺はそう思った。
・・・もっと早くやるべきやったか・・・?
「ドォン!!!」
急に音がする。そして、チッ!という舌打ちの音が聞こえたあと、また
「ドゴォン!!」と大きな音が鳴った。
ジーロが扉に体当たりをしているのだった。
「・・・んー、こっちからも何かで押さえつけたほうがいいかなぁ」
何故俺はこんなに、余裕でいられるのだろうか・・・
俺の思考は理路整然と、恐ろしいほどに落ち着いていた。
扉の前の本棚は、移動させやすいように中のものを全て取り出していたため、
たいした重量ではなく、扉が開くのを防ぐ効果などほとんどない。
今から急いで漫画を詰めても、意味あるかな・・?・・・
それよりももっと他のもので・・・・ベッドのほうがいいか・・・
でも俺一人で持ち上げられる自信がないな・・・・
「ドォン!・・・・ドォン!・・・・」と繰り返し響く音の中で、うるせえなぁ・・・と思いながら
どうしようかな、とまるで滑稽なほど、のんびりと思考を練っていた。
「今のこの状況、結構シュールじゃね?」ふと、そう思った。
三郎が協力してくれれば・・・いや、気が確かでも、あの手足じゃ無理か。
そう考えると同時に、「ドォン!!」、この何度目かの体当たりの音で気がついた。
「あ、何やってんだろ俺。」
なんだか恥ずかしくなって、軽い口調でそう言いながら、俺は思わず笑ってしまった。
ふと、三郎を一瞥する。涙と涎に加え、鼻水まで出ており、
ベシャベシャの顔を見て、「きたねぇな・・・」と思った。
ひとまずジーロは放っておこうか。
繰り返される大きな音の中で、俺はそう思った。
体当たりのペースが、少し落ちてきたな、そう感じていた。
この扉は、開かないのだ。
先ほどから何度も何度もジーロは体当たりを繰り返している。
廊下の反対側の壁から助走をつけて、もっとも距離的に考えて、大して加速なんて
出来やしないだろうが、ジーロは扉に全身をぶつけている。
「・・・逆やけん、ジーロ。」
頭に血が上ると、こんなことも忘れてしまうんだな。
フフッと笑いながら、頭の中でそう言った。
それは、しごく簡単な理由であった。
廊下のバリケードのせいで、開閉が出来なくなっていた事からも分かるように、
この扉は、室内から廊下側に向けて扉を開くタイプである。
こっちから押さえつけなくても、例え今、鍵をそっと外したとしても、
外から体当たりしているうちは、扉が開く事などないのである。
突き破られる・・?
もちろんその可能性も考えていた。
「・・・まさか、な。」
この扉は古いわりに分厚く、堅く、接続部分も呆れるほど強固であり
ジーロより重い俺が、(体調が万全だとして)部屋の奥、ベッドの上から
思いっきり助走をつけて何度も何度も体当たりしたとしても、
扉よりはるか先に、俺の体、全身の骨が砕けてしまう。
「・・・問題ないな」そう思った。
音が、鳴らなくなった。
「やっと部屋に戻ったか・・・?」
そう思ったとき、急に、
「廊下側から押して開くタイプでも良かったかも。」
そんな考えが浮かんだ。
勝手な予想だが、ジーロは体当たりしている時、鎌を持っていない、そんな気がする。
廊下のどこか、その辺に放り投げてたんじゃないかな。
扉のすぐそば、鍵があるほうで待ち伏せ、体当たりの音がなったら、
少し間をおいて鍵を静かに外し、ノブを回しておく。押せば開く状態だ。
・・・そんなにうまくいくかなぁ・・・ふと、そう思った。
でも、うまくいけば、もしうまくいけば、次の体当たりとともに
ジーロは勢いよく飛び込んできて、部屋の中へ倒れ込む。鎌は、部屋の外。
俺は、素手での勝負なら、ジーロに勝てる自信があった。
倒れているジーロの上に馬乗りになり、何度も何度も、殴りつける。
今のジーロはもはや、人外の存在のようでもあったが、そんなことは関係なかった。
動かなくなるまで、息が止まるまで、何度も何度も殴り続ければいいのだ。
・・・俺は、ジーロを殺す気なんだな。ふと、気がついた。
今まで一度も意識していなかったが、ジーロへの殺意が確かに存在していた。
あ、また忘れてた・・・
そう気がついて、俺の右手はライターを取り出した。
きっかけになったのは、夕べ、このライターの炎に照らされたこち亀であった。
もう何年も前に買ったであろうその漫画は、側面が黄色く変色していた。
藁みたいだ・・・乾いた藁のようだ・・・そう思った。
と、そこで俺は、漫画の山の一番下から覗くパチスロ雑誌を見つけたのだった。
そのうち、気がつけば、いつだったかの焚き火のことを思い返していた。
あれは、ちょうどこんな寒い季節の夜中のことであった。
いつもの三人で、ジーロの部屋で飲んでいて、全員いい感じに酔っ払っていた。
「寒くてたまらんから、焚き火でもしようか」誰だったか忘れたが、そんなことを言い出した。
出来るだけ厚着をして庭に出て、三人は庭の隅に散らばって、落ちている樹枝を拾い、
庭の真ん中に持ち寄って、火をつけたのだ。
・・・・確か俺が、このライターで火をつけたんだ。
結局最後には、上がってきた母親に三人とも怒られて、焚き火は消される事になるのだが、
火の回りであぐらをかいて座り、酒を飲みながら三人でくだらない事をいつまでも語り合った、
今考えると、あれは最高の夜だったな、そう、懐かしく思い返していたのだった。
持ち寄った樹の枝は、そんなに量はなく、二十分と待たずに尽きようとしていた。
「他に何か、燃やせるもんないかなぁ・・・」
ここで終わりにするのは、なんだかとても寂しかった。
すると、ジーロが思いついたように口を開く。
「ああ、あれ燃やそう!ちょっとまっとれ・・・」
そう言って部屋に入ってゆく。
しばらくすると、何冊かの漫画、写真集、エロ本、それと一冊のパチスロ雑誌を抱え、
それらを落とさないように、ゆっくりと家を出てくるジーロが見えた。
ジーロは、さっきまで自分が座ってた位置まで来ると、ドサッと地面に置いた。
「・・・これ、燃やすん?」「ああ、これ、もういらんけん」
ジーロはそう答えた。三郎が、冷ややかな目でジーロを見ていたのが印象的だった。
いらない漫画、というのも何か変な表現だな、そう思いながら一冊の漫画を拾い上げた。
こち亀だった。パラパラとめくってみると、パリパリに貼り付いているページが・・・
「ああ、はいはいはいはい!!!」
そう言いながら、ジーロはこち亀をすばやく取り上げ、焚き火の中に放り込む。
こいつ、まさか・・・
俺は三郎の冷ややかな視線の理由を理解しながら
「こち亀のどこで・・・」
そんな疑問と呆れの混じった感情のまま、散らばった漫画・写真集の山に目をやる。
パチスロ必勝ガイドが目に入った。
まるでリンゴの山に一つだけ混じった西瓜のように、その一冊だけは、
(いや、こち亀も十分すぎたが)パチスロ必勝ガイドだけは異質な存在であった。
なんでこれだけ・・・?そう思いながら手に取る。が、すぐにジーロに取り上げられて
それは焚き火へと投げられていった。え・・?・・・これも・・・!!?
「お前・・・ええ??・・・なんで・・・?」俺は笑いと呆れが半分ずつの表情で、そう聞いた。
「何がよ!・・・」少し怒った様なジーロの声。
「いや、お前・・・」そう言いながら三郎の顔を見る。目が合うと、すぐに三郎が口を開く。
「コイツ、マジありえんけん。」心底呆れているようだった。
まだ信じられずに、ジーロの方を振り向きながら「・・な・・なんで??・・」
写真集とかエロ本ならまだしも、なんで・・・?
「やけん、何がよ!」証拠は既に火の中だ。ジーロは強気だった。
こいつ・・・誤魔化しきる気だ・・・覚えたての男子中学生でもやらんぞ・・・
「マジ終わっとんな・・・・」そう思いながら、
俺はもう何も言わずに、ゆらゆらと踊りながら、黒く変色してゆくページを見つめていた。
目を覚ましたのは昼過ぎだった。
昨日は、持ち出した本の凡そ八割程度を火にくべた所で、母親にばれてしまい
バケツに汲んできた水道水をぶっかけて、焚き火は終了となったのだった。
「あんた、火事になったらどうするんよ!」「ならんわい!」
「こんな時間にあんた、庭で焚き火したりして・・・」「あー、もうわかったけん!」
「ご近所さんがみたら何て・・」「やけん、もう消すっていいよんやろうが!」
そんな親子のやりとりを何となく覚えていた。
・・・・いや、ジーロ、どうみても俺達の方が悪いけん。
そう思いながら、三郎の部屋を出て、ジーロの部屋に入る。
ジーロは横を向いて眠っていた。
起こさないように、自分のものを、ライターとタバコ、携帯をそっと手に取る。
(財布は、ポケットに入れたまま眠っていた。)
そのまま静かに部屋を出た。よし、帰るか。
昨日は酔っ払っていたのもあり、帰るのが面倒になり、結局三郎の部屋で寝た。
庭へ出る。風は全く無かったが、とても寒かった。
ジャケットのチャックを一番上まで上げながら、ふと、焚き火の跡が目に入る。
火が消えたのを確認して、残った本を(俺と三郎は触りたくなかったので、ジーロが)持って、
すぐ部屋に戻ったので、灰はまだ残っていた。
「まあ、ほっといていいやろ」
そう思いながらも、ページの形を残している灰を見つけ、何気なくつま先で踏んでみた。
シャヮ・・・小さく、そう聞こえ、ページは細かく分裂した。
その音を耳に心地よく感じた俺は、そのまま両足で足踏みをするように
残っている灰を片っ端から、やんわりと踏みつけていった。
シャリ、シャリ、シャリ・・・
そんな心地よい音と感触を感じながら、ふと、形の崩れない灰を見つけた。
足先で軽く蹴ってみる。灰ではない。燃え残っていたようだった。
よく見てみると、灰になっていないページは何十もあり、大きさからして
同じ本を構成するページであるようだ。
写真集かな・・・?そう思いながらしゃがんで、よく観察してみる。
表面は黒く焦げてはいたが、微かにいくつかの単語が読み取れた。
「攻略」「%」「小役」そこまで拾ったところで、必勝ガイドであることが分かった。
何でこれだけ灰になっていないんだろう・・・端っこの方に投げ入れられてたっけ・・?
そこで、漫画のザラザラした表面と対照的な、ツルツルした紙質を思い出していた。
熱が通りにくい材質なんかなぁ・・・・
そう思いながら、灰の中に必勝ガイドの表紙を見つけた。
他のページよりも一段と火の通りが悪いようで、踏んでみて、
型紙の触感がしっかりと残っているのを、靴の底に感じていた。
発炎筒を自作しよう。
結論から言うと、それが夕べの俺のアイディアだった。
こち亀から、乾いた藁を連想してすぐ、立ち上る灰色の煙のイメージが浮かぶ。
と同時に、山を崩さないように必勝ガイドを引き抜き、手に取る。
艶々の表面と、芯の感じられる表紙が、俺に手に頼もしく感じていた。
右手に金のライターの冷たさを感じながら、俺はそんな事を思い出していた。
廊下からは何も物音は聞こえない。
やはりジーロは部屋に戻っているのだろうか・・・?
ふと、左手に雑誌を持ったままであったことに気付く。
うまくいかないんじゃないか・・・何故かそんな嫌な予感がした。
立ち上る一本の煙を見て、その人は何を思うだろうか?
俺からのこの、SOSのメッセージの意味の何%を受け取ってくれるだろうか?
「ゴミでも燃やしてるのかな?」そんな風に思われたりしないだろうか?
もちろん俺は、発炎筒など自作したことはない。
即席のそれが、うまく機能するかどうかなんて、正直分からなかったが、
どちらかといえば、煙を立ち上げて、その後の事の方を心配していた。
ジーロに見つかったら・・・あいつはどうするだろう?
逆上して、さっきみたいに押し入ろうとするか・・・
いや、それならまだいい。
「窓を打ち付けられるかも」それが恐ろしかった。
何か、分厚い板のようなもので窓を塞ぐ。当然、もうSOSの信号は遅れない。
日光の差さない(そうなったら蛍光灯を点けるまでだが)、
完全に外部と遮断された密室を思い浮かべる。
文字通り、お先真っ暗だ、俺はそんな不安を感じていた。
「タララッタッタッタッタッ、タララッタッタッタッタッ、・・・・・・」
俺はそんな曲を口ずさみながら、左手の雑誌を丸めた。
それは傍から見れば、余裕綽々に見えたかもしれないが、
正直、先ほどのような冷静さは少しずつ影を潜めており、
代わりに、焦燥感と恐怖感が徐々に全身に広がってきていた。
俺はそんな心境を否定するかのように、無理をして余裕を演じていた。
「タララッタッタッ、タララッタッタッ、タララッタッタッタッタタタタタ・・・・」
「えー、今夜のメニューはですね、漫画と雑誌の発炎筒と・・・・」
誰に話すでもなく、三分クッキングのように、一人芝居をしていた。
「・・・・えー・・・・以上です。」
一品だけかよ!自分で自分にそんな突っ込みを入れながら、俺は淡々と続けてゆく。
「必勝ガイドを円錐形に、野球のメガホン、パーティ用の三角帽子・クラッカー、
そんな形に丸め、尖った方を握ります。」
そこで俺は、古漫画の山に目を向ける。
「そして、前もって用意していたコレを・・・」
漫画の4、5ページ程を破りとり、くしゃくしゃと、出切るだけ空気を含むように丸めたものだ。
「これらの紙球をメガホンの中に詰め、一番上の物にジッポで火をつけます。」
どの漫画にしようかな・・・そう思いながら、一番よく煙を出してくれそうなものを品定めしていた。
俺は、前もって用意などしていなかった。
「あとは、煙が出だしたら窓の外で大きく振りながら、助けてくれー!と大声で叫べば完成です。」
ふと、振るのはちょっとまずいな・・・そう思って言い直す。
「・・・天に向けてピーンとかざし、聖火ランナーのように誇らしげな顔で、救助を待ち続けましょう。」
庭は砂利敷きだ。火の粉が飛び散ったところで問題ないだろう。
そう思っていた。
これにしよう。
二人の青年と一匹の犬が表紙を飾っている。古い絵柄だった。
俺と三郎と吉宗、全くもって似ていなかったが、何故かそう思った。
ジョジョは、三郎に怒られそうだなぁ・・・
そう思いながら、ふと、「断熱素材として、ちゃんと機能するのか、これ・・・?」
心配になり、俺は丸めた雑誌を見ていた。
「・・ちょっとだけ、試してみるか。」
そう思い、俺は床においていたライターを拾う。
必勝ガイドは、発炎筒の外筒の役割を果たす。
熱を持つくらいは目をつぶるとして、引火するようでは困るのだ。
結構持つと思う・・・そう思ったが、やはり心配だった。
シュボッ・・・
丸めた雑誌、円錐の広がっている側の先端に、少しだけ、ライターの炎を近づける。
ジジ・・といいながら熱が伝わり、グニャ・・・と表面が歪んでいく。
「・・・え?・・あぁ!?」思わず声が出る。
火が、ついた。
「なんでぞ!?」
予想以上にあっけなく、ライターの炎は雑誌へと燃え移ってゆく。
"ナイスアイディア"は、あっさりと崩れ去り、焦った俺は、急いで火を消す。
火は簡単に消え、一筋の煙だけがゆっくりと立ち昇っていた。
・・・ダメじゃん。
まさかここまで簡単に引火するとは思わなかった。
もう、紙球を詰めたりせずに、これに直接火をつけて、発炎筒にするか・・?
ある程度火が降りてきて持てなくなったら、庭にブン投げとけばいいし。
誰かの目に留まるまで、何本くらい雑誌の筒を燃やす事になるだろうか。
夕べ調べたところ、雑誌は、ある程度の大きさをもつ書籍は、十冊も無かった。
うーん・・・漫画は、長さ的に考えて、丸めて火をつけたとしても
すぐ手で持っていられなくなりそうだった。
と、そこで、「あ・・・」と声が出た。
「・・・煙さえ出れば何でもいいんやん。」
今までずっと、発炎筒のように、窓から右手を突き上げて筒状のものを高くかざし
その先から一本の煙が出て、誰かが異変に気付く。そんなイメージだけを考えていた。
・・・が、筒状である必要はないし、高くかざし続けておく必要もなかったのだ。
手当たり次第、漫画にも雑誌にも火をつけて、片っ端から庭に放り投げとけば良くねぇか?
かなりいい加減な考えではあったが、そっちの方がいいかも・・・そう思った。
空へと立ち上る何本もの煙。
一本だけのそれと比べると、異変を感じてもらえる可能性ははるかに高そうだ。
しかも・・・・
ここで、俺は窓の外に目を移した。
庭中を染める赤と、異様な体勢で倒れているタシ兄。
そこらじゅうから立ち上る煙、燃え盛る大量の本。
そんな光景を見て、まだ「永井さん、何しよるんかなぁ?」なんて悠長に考える人がいるだろうか。
ジーロに見つかったら・・・
そんな考えが頭の中をよぎる。
が、すぐに、「やるなら今しかないやろ!!」俺はそう思った。
「三郎・・・」声を掛けながら振り向く。
三郎の様子は、先ほどのままであった。
息苦しさは、少しおさまっているようにも見えたが、返事はない。
「・・・俺が・・やるけんの・・」俺は呟く。
「一か八か」、まさにそんな状況だな。
そう思いながら、ライターを握る右手に力が入るのを感じていた。
ゴッ・・・ガコッ・・・
そんな音が廊下で小さく鳴る。
部屋に戻ったかと思ってたけど、まだそこにおったんか・・・
しばらく静かだったけど、ジーロは廊下で何をしていたんだろうか?
そう疑問に思いつつ、急に、
「・・・危なかった」
俺はそう気がついた。
廊下から音が消えてから、しばらく発炎筒の事だけを考えていた。命拾いしたのだ。
「扉を開く」その発想が入る余地が、頭の中に一切無かった事に感謝した。
待っていたのだ。
「部屋に戻ったのだろう。」
俺はそう勝手に判断していた。
もし本当にそうだったなら、俺が取るべき行動は「扉を開く」ことであった。
廊下のバリケードはもう、ほぼ間違いなく、もうなくなっている。
今の俺に、逃げ切れる・逃げ切れない、最早そんなことは関係無かった。
俺は、扉を開け、全力で逃げ出すべきだったのだ。
ジーロは、廊下で息を潜めて、それを待っていた。
「逃げる」という選択肢に気付かなくて、本当に良かった。
ふと、ジーロには、まだ意外と知性は残っているのかもな、そんな気がした。
・・・・でも逆に、それは恐ろしいことだ。俺はそう思った。
知性と理性を備えた上で、なお俺達を殺すことを欲している・・・
ガッ・・・
廊下から、また聞こえてきた。もう待つ気は無いようだ。
「急ごう。」そう思った。
この部屋に入られることはないだろう、そう思いつつも、
「次に、ジーロが何をするか予想がつかない」そんな不安が、俺を駆り立てていた。
左手に丸めていた雑誌に火をつけようとしたところで、俺の動きは止まった。
「あっ・・・・」
ゴゴッ・・・という音が聞こえ、すぐにギシィ・・・という廊下の軋む音が聞こえた。
「・・・・やばい」
音は消えた。
「四秒・・・」
外の様子は全く分からないのに、何故か俺は、
預言者のように、未来が見えていた。
「・・・一秒、・・・二秒、・・・」
先ほどと全く同じ姿勢のまま、俺は頭の中で数えていた。
気がつけば汗をかいていた様で、こめかみから頬へ、ツツツ・・と垂れていた。
四がやばい・・・なぜか確信があった。
「・・・・三秒、・・・・」
ジーロ、やめろ!!!!
そう思いながら、俺は扉の方から目が離せなくなっていた。
ベギギギギィィィ!!!!!!
四を数えるのと同時に、そんな轟音が部屋に響く。
と、扉の前の棚が、俺の方に向かって、「ズッ!」と十センチ程度スライドし
少し揺れてから、ゆっくりと傾きながら、大きな音を立てて倒れた。
「ゴコォン!・・・・」
俺の目に、扉が見えていた。
四面体形状の、何かツノのようなものが飛び出ていた。
それは実機の角であった。
投げつけたのか・・・抱えたまま体当たりしたのか・・・・
硬い実機の角は、扉を突き破っていた。
と、実機が引き抜かれ、ぽっかりと、直径三十センチ程度の穴が残る。
ゴッ・・・と重いものを乱暴に投げ捨てた音の後で、穴の中に、あの目が見えた。
ジーロは、かがんで、穴に目をつけて、部屋の中を覗いていた。
赤一色の中心にポツッと存在する小さな黒点が、ギョロッ、ギョロッ、と
俺と三郎を確認し、ニヤァッ・・・と笑った。
いや、穴からは口は見えなかったが、歪んでゆく口元がはっきりと分かっていた。
・・・やばい!やばい!!急げ!!
そう思いながら、俺は左手の筒の先に火をつける。
なかなか、引火しない。
「さっきはすぐに点いたじゃねえか!」
さっきも、そんなすぐには、火はつかなかったのだが、
焦っていた俺は、イラつきながらそう呟いていた。
「ジーロはもう、入ってくる。」それは間違いなかった。
「いまさらSOSの煙を立ち上げたところで、間に合わないだろ!」
そう気付いたところで、火が、ついた。
穴から覗く目が消え、すぐに右腕が部屋に入ってきた。
「・・・・来る」
俺は視界の端で、揺れる炎を感じていた。
カチャリ・・・その右腕は、静かに鍵を外し、また穴の外へと戻ってゆく。
ギギギギィ・・・・
そして、ゆっくりと、扉が開く。
ジーロは笑っていた。
窓の外で見たあの表情より、もっともっと嬉しそうに、部屋の入り口から
鎌を持ったまま、黙って俺をジッと見つめている。
・・・そんなに嬉しいんか?俺達を殺せることがそんなに嬉しいんか、ジーロ?
反射的に俺は、一歩後ずさり、左手を前方に、地面と水平に突き出す。
まるでジーロに見せ付けるかのように、二人を結ぶ直線上に、炎を持っていた。
森で出会った野獣の目前に、松明の炎をかざす。
野獣は怯み、ジリ・・ジリ・・・と後退する。
頭のどこかで、そんなイメージを浮かべていた。
「これは、勇気だ。」
赤く揺れる炎を見ながら、俺はそう思った。
「俺の心で熱く燃え上がる、灼熱の勇気だ。」
目前の炎で、恐怖心が浄化されてゆくように感じていた。
「・・・来いよ」
気がつけば、俺はそう呟いていた。
・・・ジーロ、来いよ。
俺の目が、ギリギリと血走ってゆく。
もちろんジーロは、森に住む野獣などではない。
トツのかざす炎など視界に入っていないかのように
一歩、二歩、と倒れた本棚の上を歩み寄ってくる。
ミシ・・ミシ・・と本棚の悲鳴が響く。その背板は、そう厚くも無かったが、
ジーロの体重に耐え切れないほどではなかったようだ。
もともと身長は俺のほうが若干高いのだが、
本棚の上を歩くジーロを見上げながら、見下ろされながら、嫌な威圧感を感じていた。
「・・・・やりづらいな」そう思って、もう二歩ほど俺は下がる。
・・三歩・・四歩・・五歩・・
ミシィ・・ミシィ・・ミシィ・・・
機械のように一定の速度を保ったまま、ジーロは無言で歩いてくる。
一歩ずつ踏み出すごとに、その顔の皺は深くなってゆく。
「来るな!」「来ないでくれ!」
本音を言えば、今すぐそう叫びたかった。
しかしそれは、自分が怯えていることの証明であるかのようで、
何か俺自身を不利に追いやってしまうかのような気がしていた。
・・・クソッ!
今、扉はガラ空きだ、
フェイントをかけつつすり抜けて、廊下へ脱出するか・・・?
いや、三郎を置いてはいけない。
「・・・俺が、今ここで、やるしかない。」
六歩目で、ジーロは本棚から降り、トン・・・と床に足を着ける。
そこで、ジーロの歩みは止まる。
距離にして、俺の目前、四、五メーター程度の位置で、
右手に鎌を握ったまま、満面の笑みで、俺を見つめていた。
・・・・何がそんなに嬉しいんぞ
爆発的に、怒りの感情が湧き上がる。
「何笑いよんぞ!!」
気がつけば俺は叫んでいた。
ボボボ・・!!・・・と俺の感情に呼応するかのように、
眼前の炎は大きく揺れていた。
「・・・違うんよ、トツ」
変わり果てた外見と裏腹に、その口調は至って平静であった。
「俺、泣きよんよ。」どこか可哀相な、悲哀を感じさせる気弱な声であった。
「・・・ほら、見て?」鎌を握ったまま、真っ赤な指先で自身の顔を指し示す。
俺は、顔ではなく、持ち上げられた鎌の切っ先を見ていた。
鎌は、手前に引きながら、刈り取るように用いる。
その金属部の側面、つまり刃の内側は、薄く、鋭利である必要があるが、
金属部の先端は、別に尖っている必要などない。
しかし目の前のそれは、まるでアイスピックのようにいや、全体の形状としては、
ピッケルと言った方が相応しいかも知れないが、先端は鋭く先細っている。
・・・死神の鎌
そんな表現が浮かんできた。
自分を指している切っ先を見ていて、ふと、眉間へ迫るティッシュの"こより"を思い出した。
僅かに、目が痛くなってきているような気がして、俺は鎌から視点を外す。
「・・・ほら、涙が出よる。な?」
そう言った後、ジーロはゆっくりと右手を下ろす。
いや、全然涙なんて出て無いから。ジーロの顔を見ながらそう思った。
急に、ジーロの両目の黒目部分が、赤の中心にある小さな黒点が、
まるで白目を剥くかのように、グ、グ、・・・と少しずつ上へ昇ってゆく。
「・・・やばい」俺は、そんな予感を感じながらも、目が逸らせない。
「・・・な?トツ」
そう言いながら、少しずつ少しずつ、二つの黒点は上がって行く。
「・・涙が出よんやろ?」
グ・・グ・・グ・・グ・・・・・
バクッ!バクッ!バクッ!・・・
「・・・・・・・・ハッ・・ハッ・・ハッ・・」
自分の呼吸が荒く、心臓が加速してゆくのを感じていた。
グ・・グ・・グゥゥ・・・
目が、離せない。
三郎も、今、兄の顔から目が離せなくなっている。何故かそれが分かった。
グゥゥゥ・・・・・
ジーロの両眼球はもう九十度に近いほど、黒点が消えかけるほどに上へ回転していた。
グリン!
「ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!・・・」
ジーロの眼球が、一気に回転した。
ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!・・・
頭蓋骨が割れるほどに、鼓動が強く響き、全身が脈打つ。
百八十度・・・いや、百二十度かもしれないし、百五十度かもしれなかったが、
ジーロの両瞳は完全に内側を、自身の頭の中心を向いていた。
食道から胃液が逆流し、強烈な吐き気が俺を襲ってくる。
ジーロの目は、濃紅色の真球、一色で綺麗に染まっており、ルビーのように美しくすら感じた。
もはや、人間ではないことは誰の目にも明らかだった。
「・・・落ち着け!落ち着け!」恐怖に負けないように、自分に言い聞かせるように
俺は何度も頭の中で呟く。
左手の先で、煌々と燃え続ける炎だけが、俺の理性を繋ぎ止めていた。
「・・・な、トツ、泣きよんやろ?」
そう言いながらニヤァ・・・と唇が醜く歪む。
「なんぞお前!!!!!」
荒々しい呼吸を抑えようともせず、俺はジーロを必死で睨んでいた。
このままだと、恐怖に押しつぶされる、そう思ったのだろうか、気がつくと叫んでいた。
「なんなんぞお前!!!!!」
クソがッ!!!
叫ぶことで、怒りを強引に燃え上がらせ、恐怖心を追い出す。
「キモいんよお前!!!」
・・・大丈夫だ、恐れてなど、いない。
俺は冷静だ。呼吸も、心拍も、すぐに収まる。
手足に力も入る。
・・・・・俺は、やる!
冷静でいなければ。冷静さを欠けば、全てが終わる。
俺は、今、死と隣り合わせにいる。
ジーロの表情が消えた。
両目は、目頭・目尻が裂けてしまうんじゃないか、と思うくらい大きく円く見開かれているが、
顔中に走っていた皺が消え、唇の歪みが消え、完全に無表情であった。
・・・・ゾッとした。
「・・・トツ・・・」
小さい声で呟く。
俺は黙って、ジーロを見ていた。
炎は、もう雑誌の半分を燃やそうとしていた。
「・・・三郎・・・ジーロ・・・」
ジーロは呟く。
「・・・まずトツ・・・で三郎・・・最後にジーロ・・・・」
何を言いよるんやろうか、こいつ・・・
そう思いながらも、俺はジーロから目を離さなかった。
ふと、左手に感じる熱が、徐々に強くなっていってるのを感じた。
少しずつ、しかし確実に火は下がってきていた。
そうだ・・・ジーロに火を点けられないだろうか・・・
ジーロの、毛玉だらけのトレーナーを見る。
良く燃えそうだった。
それは、ジーロを焼き殺そう、という意味ではなかった。
「・・・・・鎌を手放してくれ。正気に戻ってくれ。」
トレーナーに火が点く。ジーロはきっと急いで脱ぐ。
片手じゃなく、きっと鎌を投げ捨てて、あわてて両手で脱ぐはずだ。
俺はそう予想していた。
鎌をどうにかしたいだけなら・・・・
火をつけられる距離まで接近しているなら、直接組み付いて
右手を押さえつけた方が、手っ取り早いかもしれない。
しかし俺は・・、焦ってトレーナーを脱ぐ、一瞬隠れるジーロの顔、
そして脱ぎきって再び顔が現れる・・・・その映像を鮮明に思い浮かべていた。
正気に戻っている顔が見えた。白目の中に浮かぶ瞳。
ボケーっとした顔で、「・・・あれ・・トツ、なんしよん?」
そんな事を口にするジーロの顔が、声が、はっきりと聞こえるようであった。
もう、あの頃のジーロは戻ってこない。
俺は痛いほど、分かっているのに、心のどこかで
「戻ってきてくれ、ジーロ!」そう、すがる様に願い続けていたのだった。
ジーロから目を離さないまま、俺の意識は真っ赤な炎を見ていた。
これは俺の心の炎だ。決して消えることの無い勇気の証だ。
俺の瞳には、メラメラと燃える炎が映し出されていた。
熱を帯びてゆく全身と、逆に冷たく澄み渡ってゆく精神を感じる。
もう、呼吸も鼓動も、落ち着いている。
全身で、真っ赤なエネルギーが迸る。
溢れ出るアドレナリンが、俺の全てを支配する。
・・・いいぜ・・・いい感じだ。
燃えゆく雑誌は、もはや最初の三分の一程しか形を留めておらず、
左手に、焼けるような痛みと熱を感じている。
しかし俺はこの炎を手放す気は無かった。
俺の、俺達の未来を照らす光だった。
俺の全身が燃え尽きようとも、この左手を放しなどしない。
「あつッ!・・・」
俺は反射的に、勇気の証を放り投げていた。
駄目だ、熱いもんは熱い。
心の炎とか、そういう意思の問題とかやないけん。脊髄反射やけん、うん。
「あつつつッ・・・」そう言いながら、左手の手首から先をブンブン振る。
「わーーー!何しよんどトツ!!」三郎の突っ込みが響く。
「いや、ごめん、マジ熱かったんよぉ・・・」
間の抜けたような声で、呑気な言い訳が出てしまった。
「大丈夫やけん、大丈夫・・・」そう続けた俺は、
さっきまでの三郎の様子を思い出しながら、今の突っ込みの声に違和感を感じていた。
声の調子もだが、その位置も・・・・後方からではなく、直接頭の中で響いていたように感じた。
しかし、振り向くことはせずに、「大丈夫・・・」俺はそう言った。
勇気の炎を手放した、とかや無いけん。勇気ならちゃんと今も、心の中で燃えとるけん。
誰に言い訳するでもなく、「・・・大丈夫・・・」ただ、そう繰り返していた。
全然大丈夫じゃなかった。
放った方向が、最悪だった。
それが投げ捨てられた先には、漫画の山があった。
"よく燃えやすそうな漫画"
ご丁寧にも、夕べの俺は古いものを集めて、そこに詰んでいたのだった。
火は、徐々に燃え移っている。
「やっべぇ・・・・」
どうにかしなければ!そう思いながらも、動けない。
すぐ目の前には、狂人ジーロと右手の凶刃。下手に動けない、そう感じていた。
クソッ・・・
「ジーロ、火事ぞ!」
とっさに俺は叫んだ。
「早よ消さんと!」
「・・・・・」
ジーロの反応はない。
「おい!火事になるぞ!!」
もう一度大きな声で叫んだ。
「・・・・あぁ、ほうなん・・」
ああほうなん、って・・・・お前、分かってんのか?・・・
「自分ちやろうが!!」
苛立ちのような、怒りのような、そんな怒声が口をついた。
放火したのは自分だということは、完全に頭に無かった。
「・・・・・ああ、ほうなん。」
そう言って、二ィィと口を開く。
歯が、一本もない、俺はそう思った。
いや、良く見ればそうではなく、口の中が真っ赤に染まっていたせいで、
歯が歯茎と同化しているように見えたのだ。
赤い歯はボロボロと欠けており、不規則な牙のように、まるで凶器の様に見えた。
無意識のうちに、俺は、右手の鎌を見ていた。
刃の先端は扉の方向、つまりジーロの背後を向いており、俺からはよく見えなかった。
赤い腕。鎌を握る手の甲が、真っ赤に染まっている。柄も、赤。刃も、おそらく、赤。
どれも血の色一色に染まっている。まるで、右手の先から鎌が生えているかのように見えた。
「・・・・蟷螂みたいだな」
ふと、そんな風に思った。
急に、ゆっくり持ち上げられる右腕と鎌が見えた。
いや、目の前のジーロの腕は下がったままだ。
それを持ち上げるとすれば、その軌跡は、俺の視界の中で
左下から左上へと真っ直ぐに上がって行くはずだった。
しかし俺の脳裏に割り込んできた映像は、視界の右下から右上に、
自分の右肩の位置から生えている真っ赤な腕が、鎌を握ったままゆっくりと上がってゆく。
・・・幻覚・・か・・・?
既視感の様な、眠っていた記憶のような、どこかで見たことのある映像を俺は見ていた。
真っ赤な腕が、鎌を持ち上げている。
「アンチの腕やけん」どこからともなくジーロの声が聞こえる。
気がつけば、目の前には、おいちゃんがいた。
一瞬溜め、振り下ろされる右腕と赤い鎌。
それは正確に、おいちゃんの首左面(向かって右側)に深く刺さっている。
飛び散る血飛沫。
・・・・なんだ・・これ・・・?
まるで自分の記憶のように明確に、おいちゃんの最期が再生されていた。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す・・・・・」
「・・・殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
耳の奥で、くぐもった誰かの声が、低く鳴り続けているのに気がつく。
後頭部でガンガンと痛みが沸き起こる。どす黒い殺意が全身で蠢いている。
「あれ・・」いつの間にか、目の前にはおばちゃんがいた。
怯えた顔で俺の顔を見つめている。
赤い右腕が高く振り上げられてゆく。一瞬、溜める。
「やめろおおぉぉぉ!!!」そんな俺の叫びも届かず、振り下ろされる。
正確に頚動脈を切断。赤い噴水。崩れ落ちる体。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す・・・・」
止まる事のない殺意。
・・・・これは、ジーロの記憶だ。
俺はそう確信した。
「あ・・・・」
目の前に俺自身がいた。
何、ボケッとしてんだ、そう思いながらも、俺は全く動こうとしない。
「殺されるぞ!!逃げろ!!」
ゆっくりと振り上げられるアンチの腕。
振り上げられた鎌の切っ先は、正確に俺の首左側を狙っていた。
「・・・・・殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
一瞬溜めて、振り下ろされる。
首を守ろうとした左手の指先が二本、スパスパッと宙を舞い、死神の鎌は首に深々と突き刺さる。
・・・これは、幻覚なのか?・・・まさか、ジーロの見ている視界なのか?俺は死んでしまったのか?
勢い良く噴出する俺の血液。二つの指先がコロコロ・・・と地面に転がる。
急に、全映像が、ピタッと一時停止した。
と思ったら、ギュルルルゥゥ・・・と全てが巻き戻ってゆく。
全ての血液が、吸い込まれるように首の傷へと飛び込んでゆき、ふさがる傷跡。
コロコロ・・と転がった後、ピョンッと飛び上がり、左手の先に戻ってゆく。
あ・・?・・・何だこれ・・・?
首から引き抜かれた鎌は右上へと上がり、ゆっくり視界の右下へ消えてゆく。
と、またそこでピタッと映像が止まり、またさっきの映像が繰り返されてゆく。
持ち上がる鎌、一瞬溜めて、左斜めに振り下ろす。指先、首、血飛沫、そこでまた停止、巻き戻り。
何度も何度もそれは繰り返され、何度も何度も殺される俺自身。
振り上げる、溜める、下ろす、上げる、溜める、下ろす、一、二、三、一、二、三、・・・
何度も映し出されるその光景を、俺はまるで人事かのように、静かに眺めていた。
気がつくと、俺は首に手を当てて、呆然と立ち尽くしていた。
目の前には両手をだらりと下ろしているジーロの姿。
先ほどまでと何も変わっていなかった。
首に、傷は無い。ふと、自分の右腕を見てみる。
大丈夫だ、俺の腕だ。血に染まっていたアンチの腕ではなかった。
幻覚だったのだろうか・・・
いや、しかし、あの感覚は・・・・
頭で鳴り響く「殺す殺す殺す・・・」という殺意の声は聞こえていなかったが、
その余韻だけはまだ残り、どす黒い意思は残っていたように思えた。
いや、これは余韻が残っているせいだろうか・・・
漆黒の炎がメラメラと大きく燃え上がってゆく。
この炎は、俺自身によって生み出される感情なのではないだろうか・・・?
よくみると、ジーロの唇が微かに開閉している。
何かを呟いているようだ。
「・・・・殺す殺す殺す・・・」
「殺す殺す殺す・・・・・」
声は全く聞こえなかったが、唇の動きでそう分かってしまった。
ようやく、さっきの呟きの意味が理解できた。
「トツ・・・三郎・・・ジーロ・・・
まずトツ・・・で三郎・・・最後にジーロ・・・」
・・・・ほうか、ジーロ・・・
俺の内で、黒炎が爆発的に燃え広がってゆく。
ビキビキ・・・と真紅に血走ってゆく両の瞳。
ほうか、ジーロ、俺を殺すんか・・・・
俺の眼が、大きく見開かれてゆく。
「俺を殺すんかジーロ!!!!」
思わず怒声を上げていた。
全身が熱く滾り、殺意が急激に加速してゆく。
・・・やってみろよ・・・ジーロ・・・やってみろ・・・
「・・・殺す殺す殺す・・・」
無意識のうちに、俺の唇もそう動いていた。
「・・・・斬り殺してやるよ・・」
その右手の鎌を奪って、一閃、首筋を掻っ捌いて殺してやる。
俺は、湧き上がる黒い感情に、完全に身を委ねていた。
実をいうと俺は、素手で殺す方法も、知っている。
いつだったか、松山の大きい本屋で見つけた物騒な書籍。
「殺人術」「暗殺術」「必殺術」「秒殺術」、四冊の分厚い本。
こんなもん、売っていいんか・・?そう思いながら、パラパラ、とめくってみる。
うわ・・・本当にタイトルの通りの内容だ。
正直、こんな本を買うのもどうかと思ったが、どうしても気になった俺は、一冊だけ、
(結構値の張るものだったので)四冊のうち一冊だけ、「殺人術」を買って帰ったのだった。
家に戻って、一通り目を通してみる。
途中で気分が悪くなってきたので、後半は流し読みだったが、
素手で効率的に人を殺す方法が、いくつか紹介されていたのを覚えている。
一応断っておくが、俺は殺人願望があって買ったわけではない。
それに、載っていた手段に関しても、知識として頭に入ってはいるものの、
試したことは、いや、試そうとしたことすらない。
当然だ。
「鎌で斬り殺す」
俺がその殺し方を選んだのは、殺人に関して、俺が知識だけの超初心者であった事、
素手での殺しに自信が無かった(一般人ならあるはず無いが)事も理由の一つではあった。
しかし、一番の理由は、先ほどの映像だ。
おいちゃんの最期、おばちゃんに怯えた表情、あっけなく宙を舞う俺の指先・・・
そして、窓の外で血の池に沈んでいた、たっしゃんの姿。
俺の指先に、命が刈り取られてゆく感触が残っていた。
親しい人達が目の前で殺されてゆく。見ていることしか出来ない己への怒り。
「・・・お前が殺ったのと、全く同じやり方で、殺ってやる。」
ジーロに対する、強い復讐の決意が確かに存在していた。
ジーロを睨みつけたまま、大きく一つ深呼吸を入れる。
ジーロは微動だにしない。
「ほぉぉぉ・・・・・」とゆっくり息を吐きながら、俺は左足を前に踏み出し、半身の体勢を取った。
ジーロの動きに瞬時に対応できるように、手足に入っている無駄な力を抜く。
あえて両手は、だらんと下方に垂らしておく。
いや、もう少しだ。きっと俺の脳が認識している以上に、体は緊張している。あと、少しだけ・・・
もう少しだけ力を抜く。ちょっと抜きすぎか・・?・・・いや、これでちょうどいいはず・・・
体中で血液が滾っている、しかし、頭の中は不思議なほど静かであった。
うまくやれそうだ・・・いや・・やるんだ・・・絶対に・・・・
微かに、首を右へかしげ、ジーロの目前に首の左側面をさらけ出す。
・・・見えるか、ジーロ?・・・"ここ"をちゃんと狙うんだぞ?
その姿は、まるで挑発するかのようであった。
「・・・左下に見えているジーロの右手が、左上に上がって・・・・そして一瞬溜めが入る・・・」
俺は自分の死に様を思い返していた。
「・・そして一気に"ここ"に振り下ろしてくる・・・左上から右下に向かって斜めに・・・」
上げて、溜めて、下ろす・・・・一で上げて、二で溜めて、三で下ろす・・・
まるで予知夢のように、これからのジーロの動きが、はっきりと分かっていた。
・・・・一、二、三だ・・・・・一、二、三のタイミングだ。
ジーロの右手に神経を集中させる。
その一挙一動を見逃してはならない・・・
俺は、これから起こる事を思い描いてゆく。
一で、右足に体重を移し、筋肉を緊張させる。
二、瞬時に懐に飛び込みつつ左手を高々と挙げる。
三、左手でジーロの右手首を受け止め、腰を左に回転させながら、右手を伸ばして鎌の柄を掴む。
そのまま、飛び込んだ勢いと体の回転を使って、右肩後部でジーロを押し倒す。
と同時に右手は、ジーロの手から鎌を?ぎ取る。
・・・そう、それはまるでアクション映画の主人公のように・・・
そのまま重なり合ったまま、右半身でジーロを敷くように床に倒れこむ。
一瞬全体重をジーロに預けたあと、一気に体を右に回転させながら、
左手の平で床を打ち付けて、反動で上体を跳ね上げる。
と、同時に一閃・・・・
「・・・三郎、見てろよ・・・・」
・・・漢数字の「一」を書くように、右手の鎌でジーロの喉元を切り裂く。
ここまで、わずか二秒半。
勢いよく噴き上がるジーロの血が、俺の顔を赤く染めてゆく。
これだけの事を、わずか数秒でやってのける。
天性のアクションスターにすら、そんな所業は不可能であろう。
・・・いや、俺には出来る。
「・・・・・やってやる・・・殺ってやるよジーロ・・・」
溢れ出すアドレナリンが、俺に自信を与えてくれていた。
トツの放った火は、すでに漫画の山に完全に燃え移っていた。
あの日の焚き火よりも、もっともっと大きく、バチバチと火の粉を撒き散らしながら
トツとジーロの横顔を赤く染めている。
ジーロはまだ、動かない。
ビリビリと部屋中の空気が張り詰めてゆくのを、俺の皮膚が感じ取っていた。
俺の感覚が鋭く研ぎ澄まされてゆく。
飛び散る火の粉が、二人の間を漂う。
勝負は、一瞬だ。
失敗は、許されない。
一手間違えば、即詰んでしまう、そんな詰め将棋のようだった。
三郎は今、何を考えているのだろうか・・・
・・・見てるか三郎?・・・・見てるか?・・・・
真っ赤な炎が部屋中を照らす。
まるで色眼鏡をかけたかのように、視界が赤く染まってゆく。
俺が・・・殺ってやる・・・
・・・お前の目の前で・・・お前の兄貴を殺してやる・・・・・・
気がつけば、俺は微かに笑っていた。
一瞬、何かが脳裏をよぎって、すぐに消える。
何か分からなかったが、あの狂った瞳のような、何か球状の・・・
・・・またか・・・
何かを思い出せそうで、思い出せない、あの気持ちの悪さ。
今朝からか・・夕べからか・・・気がつけば頭の片隅で、いつもそれを感じていた。
しっかりしろ!!!
自分で自分に喝を入れる。
今、集中力を切らすわけにはいかない。
俺は、ジッと、ジーロの右腕から、意識を離さない。
「キュルルルルルルルル!!!!」
急に後方、三郎のいた辺りから、甲高く鳴り響く。
それは何か電子音のような、警報のような・・・・
・・・何の音だ・・?
三郎、どうした?何があった・・・?
出来るものなら、そう、聞きたかった。
が、俺は振り向かない。ジーロから目を離さない。口を開くこともしなかった。
少しでも動けば・・・少しでも隙を見せれば、次の瞬間、死神の鎌の餌食になっている
そんな予感があった。
・・・・キュルルルルルルルルルル!!!!!
異様な電子音は、なおも鳴り続ける。
とても耳障りな、神経に障る音であった。
俺は、指一本動かすことなくジーロを見ている。
ジーロも全く動く気配・・は・・・・・
・・・・・・え?・・・
ジーロの右腕が、握られた鎌が、頭上高く掲げられていた。
俺は一瞬たりとも、その右手から目を離しはしていない。
にも関わらず、いつ手が挙げられたのか、全く認識できていなかった。
しかも・・・
その姿は、俺の見ていた予知夢とは食い違っていた。
ジーロは右手を、真っ直ぐ持ち上げる。つまり、俺の視界の左下から左上へ・・・
そのはずだった。
今、鎌は、俺の視界の右上に存在していた。
顔の前で交差するように、ジーロは右手を斜め上に掲げている。
・・・あれ・・?・・・そっち・・?・・・
「痛ッ・・・!」
急に、顔のどこかで、鼻か口か頬か、はっきりと分からなかったが、鋭い痛みがあった。
と同時に、俺はジーロの手先に違和感を感じていた。
鎌の先端と、それを握る手の平が、俺の思っていた方向とは逆方向を向いている。
ジーロの手首は返っており、それらは、俺の方向ではなく天井方向に向けられていた。
持ち上げたんじゃない・・・・
俺の両唇と鼻先がパックリ割れ、ダラダラと血が垂れ始めていた。
鉄の臭いと、血の塩味が広がってゆく。そこで初めて気がついた。
・・・・斬り上げたんだ
「・・・・ふざけやがって」
痛みが鮮明さを増してゆく。その斬り傷はかなり深く、歯茎まで切り裂かれている様であった。
口の中を、溢れる鮮血が満たしてゆく。顔の下半分が血で染まる。
・・・話が全然違うじゃねぇか!!!
俺は完全に出鼻を挫かれていた。
が、斬り上げられたのが顔であったのは幸運だった。
傷は深いといっても、致命傷ではなかった。
俺には鎌の動きは一切見えていなかったのだ・・・
・・・首か胴体を狙われていたら・・・きっと終わっていた。
・・・どうする!?飛び込む!?退く!?
・・・右上から来るから・・・・右手で受けて・・
・・・なら踏み込みは右足になるのか・・?・・どうする・・?・・・・
何度も何度も、左上から斬り下ろされるイメージを繰り返し、
それに対する反射的な動きが、俺の脳にインプットされていた。
逆にそのせいで、今、予想外の出来事に、完全に対応が出来なくなっている。
クソッ・・・どうする・・?・・・・
俺は完全に混乱していた。
ふと、ジーロの手首が回転する。
真っ赤に染まった刃先が、俺を見下ろしている。
「来る!来る!!どうする?行く!?下がる!?」
アンチの腕が、いや、腕だけでない、なんと鎌の柄までもがギリリリリィィ・・・と鞭の様にしなり始め
そして一気に振り下ろされてくる。
「・・・・先に突っ込む!」
気がつけば俺は、ジーロの体目掛けて、一気に突進していた。
最早、自分が何をしようと考えていたのかなど、覚えていなかった。
俺の目には、ジーロの腕でも鎌でもなく、ただジーロの胴体だけが映っていた。
「キュルルルルルルルルルルルルルルル・・・・・・・・・」
「間に合う!!俺が先だ!!!!」
ドンッ・・・!!・・・という衝撃音が全身を貫く。
・・あ・・・あぁ・・?・・・・
ジーロの胸元まで約五十センチといった距離で、トツの突進は完全に停止していた。
トツの目に、ジーロの右肩から伸びる真っ赤な腕が見えていた。
・・・え?・・・・
・・真っ赤な腕・・真っ赤な柄・・・・そして真っ赤な刃が・・・・俺の・・・首・・・・に・・・?・・・
腕と鎌を介して、二人の体は繋がっていた。
トツの首右側に、深々と喰い込んでいる死神の刃。
・・・殺られたのか・・・?・・・俺は・・・・
足に、力が入らない。
俺の体が、まるでそれ以上の前進を拒むかのように、動こうとしない。
ブシャッ・・・!・・・
鎌が引き抜かれ、ゆっくりと右上へ戻ってゆく。
視界の右隅から、真っ赤な噴水が噴き出しているのが見える。
・・・・・・・シシシィィィシシイイィィィ
勢い良く噴き出す噴水の音が聞こえる。
おいちゃんの、おばちゃんの、たっしゃんの最期が頭に浮かぶ。
・・・まだだ・・まだ意識はある・・・
・・・まだやれる・・・・俺は・・・・
全く同じ軌跡を辿るように、二撃目が振り下ろされる。
ゆっくりとゆっくりと、スローモーションのように、動きがはっきりと分かった。
・・・避けんと・・・おい・・・!・・・・避けんと・・・!!!・・・・・
体が動かない。腕が上がらない。はっきりと見えている鎌の動きに、俺の体は全く反応しない。
ゆっくりとゆっくりと近づいてくる刃を、トツはただ、静かに見ているだけだった。
ドスッ!・・・・・
トツの首に開いていた傷跡に、まるで吸い込まれたかの様に正確に、
それは初撃よりも、もっともっと、深々と突き刺さっていた。
トツはまだ、完全に息絶えてはおらず
手足は動かせないものの、視覚神経ははっきりとしていた。
目の前に垂直に存在している床、その上で急速に広がってゆく血の池と
池に舞い落ちては消えてゆく火の粉・・・
視界の隅に、燃え盛る炎と、ジーロの足を見ていた。
その足元に、鎌の先から、俺の血液が一滴、一滴、と滴っている。
ジーロは今何を思っているのだろうか・・・
顔を見上げたかったが、首が動かない。
口中で、血液のしょっぱさが充満していた。
ふと、ジーロの足が一歩ずつ、視界から消えていった。
「トツ・・三郎・・ジーロ・・・」
ジーロ・・・お前・・・弟を殺すんけ・・・・
ジーロは一歩ずつベッドへ近づいてゆく。
「キュルルルルル・・・・・・」
比例して叫び声も大きさを増してゆく。
気がつくと、俺は天井付近から三郎を見下ろしていた。
三郎は、ベッドの上で顔を天井に向け、口先を大きく突き出し
「キュルルルルルル・・・」そんな高音を発していた。
どうした・・・三郎・・?・・・気が狂ってしまったんか・・・・?
この視点から、三郎の鼻の穴がよく見えた。
二筋の鼻水が、ナメクジの這った跡の様に、キラキラと輝いて見えた。
三郎は顎を上げ、まるで「ここを裂いてくれ」と言わんばかりに喉元を大きくさらけ出していた。
・・・そうか・・・三郎・・・怖かったんやな・・・・
キュルルルル・・・・それは危機を知らせる警報ではなく、「早く俺を殺してくれ」という嘆願の叫びであった。
天井を見つめている目から、涙が溢れ、耳の穴へと注がれていた。
ふと、燃え上がる炎、立ち尽くすジーロ、そしてジーロの足元で横たわる俺自身の肢体が見える。
壁も天井も、俺の血飛沫で真っ赤に染まっている。
・・・そうか・・・・俺は殺されてしまったのか・・・
あの、俺全身を支配していた憎悪、殺意、興奮、緊張、戦意、危機、それらは跡形も無く消えており、
春の日差しのような穏やかな気持ちで、血を噴き上げている自身の姿を見ていた。
炎は壁にまで燃え移っており、「もう完全に手遅れだな」そう思わせていた。
・・・ジーロ・・・俺達の青春の思い出が全部燃えてしまうんぞ?・・・いいんか?
そんな風に思いながら、どこか寂しさを覚えていた。
急に、この意識が、床に横たわる自分の体内に吸い寄せられていくのを感じた。
大丈夫ぞ・・・・三郎・・・・
ピシャ、ピシャ・・・
気がつけば俺は舌を必死で伸ばして
まるでミルクを飲む子犬のように、血の池を舐めていた。
ピチャリ、ピチャリ・・・
三郎、大丈夫やけんの・・・
ほら・・・ちゃんと舐めよるぞ・・・・
ジーロの足音が、止まる。
キュルルルルル・・・・
ピチャ・・ピチャ・・・
鈍い音とともに、三郎の声が停止する。
ピチャ、ピチャ・・・
・・・大丈夫ぞ・・・舐めよるぞ・・・
一心不乱に血液を掬い続ける舌先。
耳の奥で、血の音だけがいつまでも聞こえていた。
トマトジュースみたいやな。
トマトジュースに鉄分を混ぜたら、こんな味なんやろうか?
夢中で血の池を舐めながら、そんな事を考える。
しょっぱいなぁ・・・なんでこんなにしょっぱいんやろ・・・
ぺチャ・・ぺチャ・・
舌先で掬い取られた血液は、口の内壁にジワッ・・・と染み込んでいき、やがて全身に行き渡る。
少しずつ、少しずつ、一つ一つの細胞に赤い粒子が蓄積され、皮膚が赤味を帯びてゆく。
赤く赤く、トツの体は染まる。まるで人型をした血の結晶のようだった。
池の血液が尽きる頃、赤い人形は全身を震わせながら、
その心臓部に向かってギュギュギュ・・・・と徐々に収縮してゆく。
一箇所に密集してゆく全細胞。体積が小さくなってゆくのに反比例して、赤味は増してゆく。
それは小さく小さく縮んでゆき、やがてビー玉のような小さな球体になった。
トツの血液成分が全て詰まった小さなビー球。透き通る真紅の球体。
どんな宝石よりも美しく、それは輝いていた。
・・・なんだ・・・これだったのか・・・
頭のどこかでいつも感じていた、いくつかのあの気持ち悪さ。
その全てが一斉に、朝霧のように蒸発してゆくのを感じていた。
謎は、全て解けた。
あれは、神経の切断音ではなかった。
そもそも、千切れる音ですらなかったのだ。
「プチ、プチ・・・」それはよく聞けば「プチュ、プチュ・・・」と何かが潰れる音であった。
イクラだ。
イクラの潰れる音であったのだ。
ジーロの赤一色の眼球をみて、ルビーのようだと思った。
ルビーじゃない。
イクラだ!
脳裏をよぎる赤い球体!
それはジーロの狂気の瞳!?
違う!!
イクラだ!!
北海道の山奥を流れる川岸で、大きな熊が魚を獲っていた。
産卵期を迎え、丸々と太った鮭を狙っている。
豪腕と鋭い爪で、一気に掬い上げるように、水中から引きずり出す。
水中に落とさないように、爪を立てて、しっかりと掴む。
お腹からポロポロと零れ落ちる赤い宝石。
それは流れに身を任せ、どんぶらこ、どんぶらこ、と川を下ってゆく。
大自然の荒波にもまれながら、いつしかそれは、海へと辿り着いていた。
冷たい海の中で、塩分をその身にジワジワと染み込ませながら、ゆっくりと成熟してゆく宝石。
やがて、さざ波によって、導かれるように、浜辺に打ち上げられる。
真っ白に広がる砂浜。燦々と照りつける太陽の光。
海水は蒸発し、ダイヤモンドにも似た塩の結晶を
アクセサリーのように身に纏わせながら、白い砂の上で輝き続ける赤い宝玉。
それは、イクラだ!
全ての答えがイクラに収束してゆく。
イクラの放つ温かい光が、頭の中を覆う霧を晴らしてゆく。
これだけじゃない・・・そうだ・・・あれもだ・・・・
それは俺が最後に食べたものだった。
夕べは結局思い出す事が出来なかったが、今、ようやく謎が解けた。
イクラだ!イクラ丼だ!
プルプルと弾力のある舌触り!プチュリと舌の上で弾ける食感!
魚介類特有の臭みと、口中に広がってゆくしょっぱさ!
真っ赤に輝く山盛りのイクラ丼の味を、俺は生涯忘れない!
いや、実を言うと、トツはイクラ丼など食べてはいない。
イクラはイクラでも、トツが食べたのは、イクラおにぎりだった。
この家を訪れる数時間前、トツはコンビニで夕食を買った。
差し入れ用のビールを除くと、イクラおにぎり、海老マヨネーズおにぎり、ツナ玉子サンド、
それにペットボトルの烏龍茶、の四つを買ったのであった。
そのイクラおにぎりは、百七十九円という、おにぎり一個の価格としてはかなり高いものであったが、
普通のおにぎりの中に、申し訳程度に四、五粒のイクラが入っているだけの、
かなりぼったくりに近い商品であった。しかも、あまり美味しくなかった。
にも関わらず、トツは食べてもいないイクラ丼を、鮮明に思い出していた。
あの神々しいほどの姿が、はっきりと見えるようであった。
もう一度だけでいい・・・もう一度・・・イクラ丼を食べたい・・・・
そう願いながら、トツの意識は真っ白に途切れていった。
気がつけば、俺は真っ白な空間の中をフワフワと浮遊していた。
ここはどこだろうか?・・・
・・・いや、ここがどこかなんて関係ない・・・イクラはどこだ・・俺のイクラは・・・
カチッ・・・カチカチッ・・・
急に物音が聞こえる。
振り向くと、そこにはジーロがいた。
コタツの中で、モニターを見ながらマウスを操作している。
また、いつものインターネット配信でもしているのだろうか?
俺に気がついて、ジーロが振り向いた。
「おお、トツ、久しぶりやのぉ!」
ジーロの嬉しそうな声が耳に届く。
気がつけば、そこはジーロの部屋だった。
俺はジーロの斜め後ろに、ボーっと突っ立っていたようだ。
そうだ、言わないと・・・ジーロにちゃんと言わないと!・・・
「ジーロ、イクラよ!」
「・・・はぁ?」怪訝そうに俺を見つめるジーロ。
「やっと分かったんよ!俺、イクラを食べたいんよ!」
「何を言いよんぞお前」苦笑いしながらそう言う。
「久しぶりに会って、開口一番それけ。どんだけ食い意地張っとんよ。」
ジーロは呆れ顔だった。
駄目だ、全く伝わっていない。どう表現すれば、この情熱が伝わるだろうか?
「ただいまー」
入り口の方から声がする。
振り向くと、三郎が入って来た。
「おう、お疲れ」とジーロ。
「おお、バイトやったんけ?」俺がそう聞く。
「おお、お前来とったんか。ほうよ、さっきバイト終わったところよ。」
そう答えながら、三郎は実機のそばに腰掛ける。
三郎なら、三郎なら分かってくれるんじゃないか・・・・?
「三郎!俺な・・・」
「え?お、おぅ・・?・・」
「・・・イクラが好きなんよ!イクラ丼が食べたいんよ!」
「・・・・・・・・」
・・・やはり駄目か・・?・・
三郎は引いているように見えた。
「・・食えば・・・いいんじゃね・・?・・・」
駄目だ、伝わってない。
「さっきからトツ、そればっかなんよ」とジーロが言う。
この兄弟は本当に・・・何十年も一緒にいて、何故俺の熱意を汲んでくれないんだ?
今、俺の頭の中は、右もイクラ、左もイクラ、どこもかしこもイクラだらけで
寝ても覚めても、イクラの事しか考えられない出来ない程だった。
「お前、まだ夕飯喰ってないんけ?」
そう言いながら、おもむろに三郎は、傍の実機のレバーをぽん、と下げる。
次の瞬間、俺の口から、ドバーッとイクラが溢れ始めていた。
気道からか食道からか、どこから湧いてきているのか分からないが、
まるで俺の頭の中のイクラが、勢い良く溢れ出しているかのようであった。
滝のようにあふれ出すイクラを、驚愕した顔つきで二人は見ていた。
「すげ・・・お前、どんだけイクラを食べて来たんよ・・・」とジーロの声。
「うっおぉ、ICきたこれ!」三郎ははしゃいでいた。
俺の足元にイクラの山が築かれてゆく。その勢いは全く落ちる気配が無い。
俺の唾液にまみれたイクラが、キラキラと輝いていた。
「これが全部、玉やったらなぁ・・・」ふと、ジーロが呟く。
お前、まだパチンコやっとったんけ。卒業したって言いよったやん・・・
・・・あ、そうか。と気がついた三郎が、レバーを放す。
途端に、イクラの滝はピタッと停止する。
「あ、すまんすまん、これトツのレバーやったんか・・・」
イクラはもう湧き出ていなかったが、俺の頬肉と歯茎の間に、いくつかのイクラが挟まっていた。
貧血のように、足元が少しふらふらする。
少しイクラを流しすぎたか・・?そんな風に思っていた。
足元に積み上げられたイクラの山は、俺の唾液を誘うかのように
プルプルとその身を震わせながら、俺を見上げていた。
「可愛いやつめ・・・・」俺は欲情してしまう。
喰いたい・・・お前達を喰い尽してやりたい・・・・
「なあ、イクラ丼作らんか?イクラ祭りしよう!」と提案してみる。
「やだよ気持ちわりぃ、何でお前の吐いたイクラを食べんといかんのぞ。」速攻で断られる。
確かに俺も、一度自分の口から出てきたものを、もう一度口にするのはどうかと思った。
しかしここで引く気は無い。この大量のイクラを無駄にするのは、もったいなさ過ぎる。
「じゃあさ、ジーロ、これ一回洗ってきて、それでイクラ丼作らんか?」
「お前、どんだけイクラ喰いたいんよ」と呆れ顔で三郎が突っ込む。
「俺、イクラが好きなんよ。イクラ無しではもう生きていけないんよ。」
これで俺の気持ちが伝わっただろうか?・・・いや、もう一押しだ!
「俺な、イクラを愛してるんよ」
届け!俺の想い!
少々大げさだったかもしれないが、
この兄弟には、これくらい言ってやらないと分からないのだ。
「そんなに食いたいんかぁ・・・」
お、ジーロの心に届いたか・・?
「じゃあさ、トツ、じゃあもしここに、百万円の札束があって・・・」
うんうん。
「・・・で、こっちには一杯のイクラ丼があって、どっちか選べって言われたら、どっちを取る?」
「イクラ丼に決まっとんやん!」俺は即答してやった。
「じゃあさ、もしここにPみたいな超超可愛い女が裸でおって、トツ君来て・・・って言いながら
中指と人差し指で、こう、くぱぁって開いていたとして・・・」
「イクラ丼よ!」最後まで聞かなかった。
大体俺は別にPとか好きじゃないし。
「じゃあこれ最後、じゃあさ・・・」
・・・まだ続けるかジーロ
「・・・もし世界で一番美味しい料理が、フォアグラとトリュフのキャビア和え、みたいのが
ここにあって、で、こっちに普通のイクラ丼があったら、どっちを食べたい?」
ジーロはそう聞いて、俺をジッと見ていた。
三郎も黙って、俺の返事を待っている。
しつこいのぉジーロ・・・
考えるまでも無い。はっきりと言ってやる。俺の、心の叫びをとくと聞くがいい!
「ジーロ、俺、イクラ丼が食べたい!!!」
――――っていうわけなんよ。」
ここまで話すと、一息つき、わずかに残っていたビールを一気に喉に流し込んだ。
ふぅー・・疲れた・・・
一拍おき、吹き出す様に博之が突っ込みを入れる。
「いやいやいやいや、どんだけ長い前フリなんぞお前!黙って聞いてて損したわ!」
「いや、俺は面白かったよジーコ。
アドリブでこんだけの話が作れるってのは凄い事やと思うわ。」
お、トシには意外と好評だったようだ。
話し込んでいるうちに、四、五スレも消費してしまったようだ。
現行スレの最新書き込みに目を通す。
「中卒にしては上出来」「天才チンパンジー誕生ww」そんな書き込みが目に入った。
どうやら、住民にも意外と受けが良かったようだ。
「ジーロより、ヅーコのほうが良くねーか?」そんな書き込みもある。
そんなん、どっちでもいいやん・・・
「というわけなんで、えー・・北海道在住のリスナーの方、いらっしゃいましたら
是非、新鮮なイクラを、産地直送便でこちらの宛先まで・・・・・」
画面は、いつもの「しばらくおまちください」だ。もちろん、うちの住所など書いてはいないが、
どうせニコニコのうp主か字幕職人が、その辺の編集はうまくやってくれるだろう。
「・・・ね?お前らの大好きなトシが、ね?どうしてもイクラ丼が、どうしても北海道の
新鮮なイクラが食べたいってね、そう言って・・・・」
「何をいいよんぞお前、ただ自分が食いたいだけやろうが」と博之。
「ほんとよジーコ、何で俺、イクラキャラになっとんぞ・・・」とトシも笑う。
「・・・大体俺、別にイクラ、そんなに好きやないけん。」
シーッ!トシ、それは言うなや!・・・
「復活早々、乞食配信かよ!w」「イクラ乞食入りましたwwww」
そんなレスで、一気にスレが加速する。
ものすごい勢いで書き込みは重なっていき、もはや全てに目を通すのは不可能なほどであった。
「良かった・・・」俺はそう思った。
復活配信。俺たち三人による年越し配信。
色々と事情があって、もう長いこと俺も博之も配信を休止していたのだが、
本当は、「再開したいな」ずっとそう思っていたのだ。
もう今年もあと数日か・・・そういえば昔やった年越し配信は大盛り上がりだったなぁ・・・
今年もみんなと一緒に年を越せたら・・・
新年の到来とともに、これまでの事は全て水に流して、心機一転、また配信がんばりたい。
不安な事はいくつもあったけど、そう思った俺は復活配信を決意したのであった。
最初は、一人でやろうかと思っていた。だって、ここ数日の博之とトシは・・・
しかし、誰も見てくれなかったらどうしよう、もうみんな、俺の事なんて忘れてるかもしれない、
そんな大きな不安もあり、迷った末、結局三人でやることにしたのだった。
復活配信は大成功であった。
いまだかつて無いほどの大勢のリスナーが、俺の、博之の、トシの声が聞きたくて、
我先にと殺到していた。何万、何十万という人数が接続しているようであった。
愛媛発、永井ネットワークは、今や日本中を網羅していた。
「・・・迷ってたけど、やってよかったな。」
俺はそう思った。
「こうにくん、闇が照らしよるかの?」なんて書き込みが目に入る。
ちょ、やめーやそれ、自分で考えた台詞でも、人から言われるとすげー恥ずかしいわ。
ふと、一つ、妙に気になる書き込みが目に留まる。
「・・・んー?荒らしけ?・・・」
消えろ!と強く念じてみたが、そのレスは消えなかった。
まあ、別にいいや、俺は気にしないことにした。
ビールを飲もうと、俺はテーブルの上に手を伸ばし、アサヒスーパードライを手にする。
ビール缶は軽く、中は空っぽであった。
「・・・あら?もうビールないがー・・」缶を軽く振りながら、そう言う。
「何?ジーコ、イクラの次はビール乞食け?」トシが笑いながらそう言った。
いや、別に俺はそんなつもりで言ったわけじゃなかった。
さっき、残ってたビールを飲み干していたのを完全に忘れていたのだ。
結構酔いが回ってきてるんかもなぁ・・・そう思った。
「ひろいき、ビール取れ!」
一番後ろにいた博之にそう言った。博之は、素直にビールを取りにいってくれた。
と、すぐに、後方から博之の声が聞こえてきた。
「おい、もうビール切れとるぞ!」
あ、そっか、これが最後の一本やったっけ・・・
「えー?何ー?聞こえーん。もっと大きな声で言えやー!」
「やけん、もう、ビール切れとるぞって!!」
「いや、今完全に聞こえとったやん、何で二回言わせたん?」トシが笑いながら言う。
ちゃんとリスナーも聞こえたはずだ。これで年明けにビールが贈られてくることが決定した。
あ、そうだ、と思いついた俺は、ビールが切れたついでに、言ってみる事にした。
「トシ、トシ・・」
「ん?何ジーコ?」
「あら、もうイクラ切れたがー」
ブッとトシが吹き出す。
「『イクラ切れた』っておかしいやろジーコ」
スレに目を向けると「お前んち、イクラ常備してんのかよwwww」と、
リスナーはちゃんと、理想的な突っ込みを入れてくれていた。
「wwww」「wwwwwwwww」というレスが続く。
良かった、リスナーにも受けたようだ。
・・・まただ。
またいくつか、おかしなレスが書き込まれていた。
書き込みIDを見てみるが、同一のものではない。複数の人による書き込みのようであった。
せっかくの復活配信だというのに、やはり荒らしは存在していた。
しつこく何度も、伊勢海老AA(※実際にはザリガニAAです)を連投する荒らしもいれば
「田中レイナのエロ画像」とブラクラを貼り付ける奴もいる。
「歯ん歯ー、コア抜いてー」「糞チンパン死ね」「てんてー、ウンコ送っといたから」
俺の名前で「お前ら雑魚は金を渡してしね」と何度も書き込んでる馬鹿もいた。
(「金を渡してしね」が「金を渡してね」に見えて、あまり不快感は感じなかったが)
そんな、はっきりとした悪意のあるものから、何がしたいのかよく分からないものまで
様々な荒らし書き込みが点在していたが、
それらは全て、俺が「消えろ」と念じるだけで、スーッと蒸発するように消えていった。
俺のこの"世界"は、常に綺麗な青白色を保っている。
いや、誰の邪魔も受けないそれは、いまや純白に近かった。
荒らしが一切存在しないスレ。それはとても気持ちのいいものであった。
しかし何故か、この奇妙なレスは消えない。
「ひろ君の声聞かせろよ糞チンパン」「トシー、何かしゃべってー!」
・・・何を言いよるんぞこいつら・・・
悪意は感じられなかったが、どこか生理的な嫌悪感が存在していた。
荒らしやないんかな?・・・ま、いいや、気にせんとこ・・・
気がつけば、イクラ丼AAなるものまで作られ、スレに貼られ始めた。
AA職人仕事早ぇなぁ・・・
基本的にAA連投は許可しないのだが、今日だけは特別だ、このAAだけは許してやろう。
今夜の俺はすこぶる機嫌が良かった。
「ジーコ、イクラAA出来とるやん」トシが笑っていた。
と、戻ってきていた博之がここで口を挟む。
「てゆうかな、俺ずっと思ってたんやけどな、イクラ丼って何か、
シソの葉っぱみたいのが入ってるやん?俺、絶対的にあれはいらんと思うんよな。」
「何を言いよん博之、御飯の上にイクラだけって、何か見た目的に寂しいやん。」
と、トシが博之の相手を始める。
良かったなぁ・・・俺は話を続ける二人を見ていた。
実を言うとここ数日、二人は精神的にかなり弱っていたようだった。
飯もろくに食わずに、部屋に閉じこもったままで何をしているのか分からない博之。
たまに顔を見せたかと思えば、虚ろな目で、ブツブツと独り言を呟き始めるトシ。
正直、そんな彼らに、俺は恐怖感を感じていた。
だから、復活配信に参加させるのも、気が進まなかったのだった。
今、俺の目の前で、二人は笑っていた。
とても元気そうだ。
最近何があったのかは良く分からないが、「もう大丈夫」二人の姿はそんな風に見えた。
良かった・・・本当に良かった・・・
大切な人には、やはりいつも元気でいて欲しいものだ。
「・・・だけんな、海苔を入れれば良くね?って思うんよ。」
「いや、もう肉とか入れればいいやん。味が単調やと飽きてしまうんよ。」
「えー?イクラと肉って合うんか?絶対まずいと思うんやけど・・・」
あ、やばいやばい、完全に俺を取り残して、話は勝手に進んでいる。
博之もトシも議論し始めたら止まらなくなるし、住民もそんな展開を楽しく聞いてるし・・・
・・・あいつら、(俺ほどじゃないけど)博之とトシの事も大好きやけんな・・・
俺だけ、のけ者にされるは絶対的にいかん。寂しすぐる。
俺は口を挟むチャンスを窺い始めた。主役は俺ぞ!
「・・・ってゆうかな、俺、イクラ丼よりステーキ丼のほうが食べたいんよな」
「それ言ったらおしまいやん。もともとイクラ丼前提の話しやったやん・・・」
いまだ!
「てゆうかな、聞いて聞いて、ステーキって言えば前、リスナー様から
サーロインステーキが送られてきた事あったやん」
俺が口を挟む。
「おお、そういや、あったのぉ!」と博之。
「あれ、めちゃくちゃ美味くねかった?」と俺は続ける。
「おい、あれ焼いたの俺やけんの!俺のおかげぞ!」と博之が言う。
「マジで?いいなー、次貰ったら、俺にもお裾分けしてやジーコ」トシは羨ましそうだ。
よし、うまく流れを掴んだ。ここからはもう、俺のペースだ。
「やっぱ一番美味しい肉って言ったら松坂牛かなぁ?」
俺は、肉といったら松坂牛くらいしか知らない。
「ジーコ、次は松坂牛け、リスナー様に頼んでみたら?」とトシが煽る。
「えー、この中に松坂県在住のリスナー様がいらっしゃいましたら・・・」
「どこぞそれ!」思わず博之が突っ込む。
「え?何がぁ?」
スレでも「松坂県wwww」「日本人の発言とは思えんww」「三連乞食自重しろww」と笑われている。
松坂県ってなかったっけ?・・じゃあ松坂牛ってどこにおるんぞ?・・・
よく分からなかったが、博之も笑ってる。トシも笑ってる。住民もみんな笑ってる。
何だかそんな光景を見ていると、ま、どこでもいっか、そんな風に思えてきた。
楽しければ、なんでもいいや。
こんなに楽しい配信は、何ヶ月、何年ぶりだろうか?
博之とトシとパソコンで作られるトライアングル、その中心に俺はいた。
いや、俺のいる場所こそが中心となるのである。
無限に広がる真っ白い世界。
途切れる事の無い俺達の笑い声。
気がつけば、俺の足元から何本もの線が広がっていた。
それは毛細血管のように、枝分かれしながら伸びてゆき、
いまや世界を覆いつくしているようであった。
その一本一本の血管は、一人一人のリスナーに繋がっており、リスナーの声は光となって
血管の中を辿って、俺の元へと届いてくる。
俺の声もこの管を伝い、一斉に世界中へと広がってゆく。
世界と繋がるこの一体感。例えようの無い高揚感。
俺の胸が、そんな感覚で満たされてゆく。最高だった。
「ジーコ!さっきみたいなストーリーを、今度は松坂牛バージョンで作ってくれたら
三人分送ってやってもいいぞ、って書いとるが!」
スレを見ていたトシが、そう教えてくれた。『三人分』のせいか、とても嬉しそうだった。
マジか!じゃあ、作ってみるか!
ていうか、さっきの話をちょっといじって、イクラENDを松坂牛ENDにして、
最後に「俺、松坂牛が食べたい!」って言わせればいいだけやろ・・・
と、ここで博之が口を挟む。
「今度はトシじゃなくて俺を主人公にしてや!
死に方もろくに書かれんような脇役は、もう勘弁やけん。」
確かに、さっきの話の中で、三郎はろくに良い所無かったしな・・・
じゃあ、博之を主人公にして、最後に松坂牛を持ってくればいいわけね・・・
さっきの話って、どんな始まり方だったっけ・・・?・・
思い出しながら俺は口を開く。
「えー・・不況だかなんだかで人員削減が進む中だったが・・・」
あ、いかん、博之はフリーターやったか・・・
「・・・えー・・・客に頼まれた目押しを、五回連続で失敗してクビになった俺は・・・」
「五回連続とかひでぇ!博之、どんだけニワカなんぞ!」思わずトシは吹き出した。
「何ぞそれ!そんなんミスるか!それ、ただ入ってなかっただけちゃうんかと!」
笑いながら、博之も口を尖らせる。
スレに目を落とすと、博之のクビ展開に、住民も大喜びだった。
ああ、いいなあ、やっぱりこの三人が最強やな!
肩組んでみようかな・・?・・博之に怒られるかな?・・・・
・・・あ、またか・・・
せっかくの上機嫌をぶち壊しにするかのように、あのレスが目に留まる。
「他の二人はー?」「博之出せよコラ」「ジーコの声しか聞こえんのやけど」
はぁ?聞こえんわけないやろ・・・
博之もトシも、俺のすぐ傍に座っている。声も十分大きい。はっきりと聞こえているはずだった。
もしかしてマイクの接続が悪いのかな・・?
そう思いながら、パソコンを確認してみる。
マイクのピンはしっかりと接続されていた。
が・・・・・
・・・あ・・れ?・・・
パソコンのランプが点灯していない。電源が入っていないようだった。
「おかしいな・・」と思いながらスイッチを押してみたが、何も起こらない。
あら?・・・どういうことだ・・?・・と思いながら顔を上げる。
モニターが真っ暗だった。モニターにも電源が入っていなかった。
わけが分からず、壁のコンセントの方を見てみる。
コンセントはささっていたが、穴から黒い泥のような液体がドロドロと溢れていた。
「あちゃー・・・電源いかれちゃったか・・・?・・・・」
そう思ったが、「ま、いいや。」と気にしない事にした。
今も、住民の声は、俺の耳で響き続けている。
俺の声も、みんなの元へと届いている。
問題なく配信できとるみたいやし、別にいいいや・・・
とうとう、パソコンもモニターも使わずに、配信できる域にたどり着いてしまったかぁ・・・
「ま、そこらへんの奴とは歴が違うわな、歴が。」
もう何年配信やってると思っとるんぞ・・・俺は配信プロぞ・・・
「あ、もうそろそろやん!」
博之の声がした。
「ジーコ、カウントダウンしてーって言われてるぞ?」とトシ。
時計が無いので正確な時間は分からなかったが、最新書き込みの時間を見る限り、
まもなく零時を迎えようとしているようであった。
実は俺には、年越しカウントダウンに関して、数日前からやろうと思っていたことがあった。
みんなが笑ってくれるように、楽しんでくれるように、あるアイディアを温め続けていた。
やっぱり何にしても"初"は大事だよなぁ・・・
いや、タイミング的に、"初"であると同時に"最後の"にもなってしまうわけだが、
どちらにしても、やるならこのタイミングしかないな。
俺はそう思っていた。
もう、やっちゃうか?時間はよく分からないけど、もうそろそろ零時だし、
その辺は大体、でいいか・・・俺は、細かい事にはあまり拘らない性格だ。
どうせラグがあるし、な・・・・
「ジーコ、そろそろぞ。カウントダウンやってやれ。」
博之が急かす。
まあ、焦んな焦んな、こういうのは落ち着いてやらんといかんのぞ。
「ゥホン!・・・ゥン!・・・」俺は咳払いをしたあと、出来るだけカツゼツ良くアナウンスを始める。
「えー・・・それでは皆さん・・・愛媛の山奥から、永井浩二が新年をお知らせいたします。」
二人がクスクスと笑っている。
「・・・ピッ・・・」
出来るだけ機械的な声を出す。
「・・・ピッ・・・」
いかん、緊張してきた・・・
ちゃんと一定のリズムにしないと・・・
「・・・ピッ・・・」
言うぞ!言うぞ!笑ってくれるかな?言うぞ!!
俺はスーッと大きく息を吸い込んだ。
「なあぁぁぁんぞこれぇぇぇぇ!!!!!!!」
ドッ!!!!!
スレが沸き上がる。
一気に何百ものレスが書き込まれる。
「やっぱジーコ、お前最高やわ!」トシが爆笑している。
「なんぞこれキターwwwwww」「先生最高wwwww」
「てんてー、あけおめー!」「なんぞこれ噴いたwwwwww」
もう聞き取れないほど多く、何千もの声が一斉に俺の耳に届き始める。
俺にはもう、一つ一つが何を言っているのか分からず、押し寄せる轟音のように感じていた。
・・・良かった!面白かった?なあ、面白かったやろ?
俺は満足だった。気がつけば、満面の笑みで世界を眺めていた。
「えー、初なんぞこれ戴きましたー、ありがとうございます。
皆様、今年もよろしくお願いしまーす!」
そう言う博之もとても楽しそうだ。
「ひろくんもあけおめー!」「こちらこそヨロシクー!」
「ひろくん、ぴしゃーちゃって言ってー!」
俺達の元に、たくさんの笑い声が集まってくる。
いいなぁ・・・やっぱりいいわ!
この世界は最高だ!
お前ら、今年もよろしくな!
「いくぞお前らー!!!」
呼びかけに答えるように、世界中の声が俺達の元へ収束し、
グゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!という地響きのような音が轟く。
「うわー、すげぇ音!」耳を押さえながら博之は笑っていた。
「ジーコ、マジでカリスマやん」トシも笑っている。
「びびったぁ、鼓膜が破れるか思たわ!」そう言いながら俺も笑っている。
こんな深夜だというのに、俺達の耳には、
いつまでもいつまでも、鳴り止まない歓声が響いていた。
( テュンソフト『ながいたちの夜』より 分岐A:IKURAルート )
189 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/01/04(日) 11:10:34 ID:SQ6k5u8g0
こっちが先か
190 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/01/05(月) 21:36:06 ID:0kLLjh8w0
良スレ
191 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/01/12(月) 17:34:17 ID:xdL/7i200
永井浩二と主食の相性
お茶漬け ★★★ 手軽に作れ歯に負担の無い神食。茶碗でコンプレクスの歯を隠しながら食せるのもポイント高し
ラーメン ★☆ ズズズっと勢いよく行くと前歯がポロッと逝く可能性あり。スープで歯磨きも出来お得
うどん ★★☆ ラーメンよりも薄味なので歯磨きに最適。実質永井浩二唯一の歯磨きタイムか?
目玉焼き ★☆ 飯に乗せグジュグジュにかき混ぜ食す乞食飯は育ちの悪さか?何でもかき混ぜる猿一家に失笑
カレー ☆☆☆ 最強カレーも使い慣れないスプーンで歯を誤打する可能性が高く違った意味で汗をかく
焼肉 ☆☆ 歯への負担、噛み切れない、隙間に詰まる、と相性は最悪。食後ガムで一時的に人並みの口臭に化ける
寿司 ★ どこから盗んでくるかが最大の問題。また油断していると貝類、タコ、イカ辺りでポロッと逝っちゃう可能性あり
餃子 ★★ 一般的にお口が臭くなるという食べ物も永井にかかれば別。歯糞臭VSニンニクの戦いでどこまで相殺されるか?
おでん ☆ 前歯が剥き出しになるので熱々の固形物の危険度は最大級。特に熱々タマゴは最強の永井キラー
ポテチ ☆☆☆ この食べカスを放置した結果、歯糞王永井浩二が生まれたという。古参歯糞と新参歯糞のハーモニー
とうもろこし ☆ 一部ではガチャ歯の原因と噂される食べ物。当然相性は最悪。今後食することはありえない
りんご ☆☆ ミキサーで液体化させるなどひと工夫が必要。丸かじりなんてとんでもない!
バナナ ★★★ 猿だからバナナは相性良いと思う。信者はバナナ送っとけ
192 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/01/20(火) 04:43:57 ID:eykiykP/0
6/9
+____
/⌒ ⌒\ こんな俺の誕生日のために沢山のプレゼント送ってくれて本当にありがとうございました!
/( ⌒) (⌒)\ + 美味しく頂かせてもらいます♪そして大切に使わせてもらいますね♪
/::::::⌒(__人__)⌒::::: \ 本当に本当にありがとう!!
| |r┬-| |
\ `ー'´ / +
6/11
/  ̄  ̄ \
/ ::\:::/:: \ 俺としてはもう付き合い切れないレベルまで達っしてるんですけど
/ .<●>::::::<●> \ 俺はこの基準は変えるつもりないし
| (__人__) | それが気に食わなければ黙って去れとしかいいようがないな
\ ` ⌒´ / カスに向き合う気はさらさらないわ
/,,― -ー 、 , -‐ 、
( , -‐ '" )
`;ー" ` ー-ー -ー'
193 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/01/25(日) 07:59:52 ID:D30peouVO
てんてー人気者だね
194 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/01/30(金) 02:32:39 ID:RmBraO4Q0
なんぞこのスレ
195 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/01/30(金) 23:47:52 ID:RmBraO4Q0
冬ソナ最高ぞ!NO MONEY!
196 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/02/05(木) 01:11:58 ID:AK+u8Wer0
_____________ ガチャ
|__/⌒i__________/|
| '`-イl;;;/ .,,,,,ヽ、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ |
| ヽ ノ ヽト;; ゙゙゙__`─、;;;;;;;;;;;;;;;l、 |
| ,| ┝!〉 ゙゙ ̄` ミ、;;;;;;;;;;l. |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
197 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/02/05(木) 01:12:04 ID:kgBDnwdl0
_____________ ガチャ
|__/⌒i__________/|
| '`-イl;;;/ .,,,,,ヽ、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ |
| ヽ ノ ヽト;; ゙゙゙__`─、;;;;;;;;;;;;;;;l、 |
| ,| ┝!〉 ゙゙ ̄` ミ、;;;;;;;;;;l. |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
198 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/02/08(日) 18:41:38 ID:Bj6GREkt0
永井先生 食べ物の相性と考察
◎お茶漬け・・・安価で作れ歯の負担も無い。茶碗で歯を隠せ素早くズズズッと食せるまさに神食。
○ラーメン・・・前歯に注意を払って食せばいたって普通か?スープの臭いは元からの口臭で相殺可能。
◎うどん・・・ラーメンよりも臭いが無く口内洗浄に最適。食事で歯が綺麗になるという摩訶不思議。
×焼肉・・・臓物は噛み切れずスジは歯に詰まる。食後ガムで一時的に人並みの口臭になるが肉カスは発酵し以後主力に。
△目玉焼き・・・育ちの悪さゆえもの凄い食べ方をするが本人はいたって普通。歯の黄色さ加減は更に加速する。
×カレー・・・様々なスパイス、香辛料は口臭で相殺できるレベルではなく着色物と合わせ相性最悪の食べ物と言えよう。
×焼き魚・・・魚の肉が面白いように歯に詰まる。指で骨を取る行為と指をシャツで拭く行為はいかがなものか?
○伊勢海老・・・新人が奢りの昼食で伊勢海老を喰らう。一般社会と絶縁していた弊害が早くも出始めたエピソード。
×おでん・・・熱々の固形物は前歯が剥き出しになるので超危険。永井家でおでんはタブー。
△ポテチ・・・配信の基本、詰まった歯カスをビールで洗い流す行為は人気を呼ぶが、一部では汚いとの暴言も聞かれる。
○りんご・・・さすがに自殺行為に等しい丸かじりなどするわけもなく刃物で小型に切り奥歯で食す。
○バナナ・・・普通に猿じゃねーかと煽られるが、モルボル、歯糞で叩かれるよりはチンパンの方が信者的にはだいぶ楽。
×トウモロコシ・・・一部信者の間でガチャ歯の原因と噂される食べ物。当然相性は最悪。今度二度と食べる事はない。
×裂きイカ・・・典型的な歯詰まり食。歯の形状が知れ渡った今、配信で食する勇気はあるのだろうか。
以上のことから
お茶漬けの元、うどんセット、りんごとバナナ詰め合わせの3点が
先生への貢ぎ物として適していると言えよう
199 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/02/19(木) 00:37:51 ID:r81zwgA50
(・Θ・))))))モサリモサリモサリ
201 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/02/25(水) 13:32:06 ID:iyr/FAeS0
頼む
202 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/03/01(日) 14:29:33 ID:MVT4enSo0
-─===─ヽ/へ
iiii彡≡≡≡|≡ヾ ヽ ______
彡≡≡≡≡|≡ミミヾ / \ _-=─=-
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ミiiiiiヽ \ _-=≡///:: ;; ''ヽ丶
\iiiiiiiゞ ─ | / '' ~ ヾヽ
\iiヽ ── | / | ヽ
━━━'/ ヽ━━━ ヽミヽ _,-=- _,-= ヽ| | ヽ| / ̄ ̄``──、
L(.:),.:: :: 〈:) ヽiiiii L(.:),ノ_ ヽ〈:) | ≡ , 、 | /::::人_;;;::::::::::::::::::::::\
::: |iiiii ヽ .|≡_≡=-、___, - -=≡=_ / |:::/ .,,,,,ヽ、:::::::::::::::::::ヽ
|iii| ( о ) | | , ◎ | | .|◎ i | ヽト;; ゙゙゙__`─、::::::::::::::l、
( ● ● ) .|iiii| /_,,,,;;iiiiiiii;;;,,_ヽ |ヽ二_,( )\_二/ ┝!〉 ゙゙ ̄` ミ、::::::::::|
》━━━━《 |iiiii|///;;;;───、ヾ. | /( )ヽ | / ゝ、 |::::::::::|
》 / ̄ ̄\ 《 |iiiiiiii|:::///\__/ヾヽ| / ⌒`´⌒ | / ' 、 、 /|:::::::/
《《 \ ̄ ̄/ 》》 |iiiiiiiiiii|::// ;; ; ;; 》::::::| / | (.,、_,ノ゙`ヽ_. l:::::〈
》》  ̄ ̄ 《《 》》》》》iiiii|::《 ;; ;; ;》 ;;》:( |_/ヽ_'\_/ | `_))____、` l 〉::::::l、
《《《《《《《《《》》》》》》》》》》》》》》iii|/ 》 ;;》 》 ;;ミ ヽ 、\_ ̄  ̄/ヽ ヽ `〉`'´/` l /:::::::::ヽ
巛巛巛巛》》》》》》》》》》》》》》IIII ヽヽ《 ;;; 》( \ |  ̄ ̄ _// (ニ-' .ノ, ノ
巛巛巛巛》》》》》》》》》》》》iiiiiii ``《人/ \__ ヽ____/ / `、_/
203 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/03/03(火) 06:57:13 ID:z07P+PE8O
歯糞やが
204 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/03/08(日) 04:27:09 ID:IwczTn0lO
てんてーカムバック!
205 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/03/14(土) 04:27:34 ID:oLF34B2/0
┏━━━━━━━━━━━━、
┃ // |.|/ -,ヽ
┃ / / ̄\ ~`く
┃ / ̄~\ ヽヽゝ
┃ / ̄~\ ヽ l .〈
┃ / ̄~\ ヽ | ./7
┃ / ̄~\ ヽ l ./ ノ
┃ / ̄~\ ヽ | / イ
┃ / ̄~\ ヽ l/ >
┃ _/ ̄~\ ヽ |/ `ヘ、
┃i''"" ̄/ ヽ _l/ `_
┃| / / / l ヽ ト、,_
┃l, / / | | ヽ、人,,r、__
┃ ヽ,,,x,,_ / ノ ヽ \_,
┃ \,, | ┃
┃ ~''-─-─-... ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
もう伊勢海老は味わえないだろ…トラウマ的に考えて…
206 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/03/20(金) 09:52:11 ID:iQWgRzr90
207 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/03/30(月) 02:33:49 ID:zviRn16t0
モルボル
208 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/04/06(月) 10:10:22 ID:CfO/HH4i0
歯
209 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/04/15(水) 00:41:32 ID:YuLIfqil0
歯糞
210 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/04/25(土) 11:45:54 ID:19NY5JGs0
モルボル王子
211 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/05/05(火) 12:14:32 ID:0MpNRMn90
モルボルの親方
212 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/05/17(日) 07:16:46 ID:Gdpch+sP0
/ ̄ ̄``──、
/::::人_;;;::::::::::::::::::::::\
|:::/ .,,,,,ヽ、:::::::::::::::::::ヽ
ヽト;; ゙゙゙__`─、:::::::::::::::l、
┏┓ ┏━━┓ ┝!〉 ゙゙ ̄` ミ、:::::::::/ ┏━┓
┏┛┗┓┃┏┓┃ i/ .`' |:::::::::::| ┃ ┃
┗┓┏┛┃┗┛┃ ┏━━━━━━(.,、,ノ゙ヽ_ l:::::::/━━━━┓┃ ┃
┏┛┗┓┃┏┓┃ ┃ _))____.`ヽ |::::l. ┃┃ ┃
┗┓┏┛┗┛┃┃ ┗━━━━━━〉`'´/` l /ミ_ , ‐' ━━━━┛┗━┛
┃┃ ┃┃ . (ニ-'` .ノ / : ┏━┓
┗┛ ┗┛ `、_/ ┗━┛
213 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/05/25(月) 23:20:21 ID:OwuqVrFM0
-─===─ヽ/へ
iiii彡≡≡≡|≡ヾ ヽ ______
彡≡≡≡≡|≡ミミヾ / \ _-=─=-
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ミiiiiiヽ \ _-=≡///:: ;; ''ヽ丶
\iiiiiiiゞ ─ | / '' ~ ヾヽ
\iiヽ ── | / | ヽ
━━━'/ ヽ━━━ ヽミヽ _,-=- _,-= ヽ| | ヽ| / ̄ ̄``──、
L(.:),.:: :: 〈:) ヽiiiii L(.:),ノ_ ヽ〈:) | ≡ , 、 | /::::人_;;;::::::::::::::::::::::\
::: |iiiii ヽ .|≡_≡=-、___, - -=≡=_ / |:::/ .,,,,,ヽ、:::::::::::::::::::ヽ
|iii| ( о ) | | , ◎ | | .|◎ i | ヽト;; ゙゙゙__`─、::::::::::::::l、
( ● ● ) .|iiii| /_,,,,;;iiiiiiii;;;,,_ヽ |ヽ二_,( )\_二/ ┝!〉 ゙゙ ̄` ミ、::::::::::|
》━━━━《 |iiiii|///;;;;───、ヾ. | /( )ヽ | / ゝ、 |::::::::::|
》 / ̄ ̄\ 《 |iiiiiiii|:::///\__/ヾヽ| / ⌒`´⌒ | / ' 、 、 /|:::::::/
《《 \ ̄ ̄/ 》》 |iiiiiiiiiii|::// ;; ; ;; 》::::::| / | (.,、_,ノ゙`ヽ_. l:::::〈
》》  ̄ ̄ 《《 》》》》》iiiii|::《 ;; ;; ;》 ;;》:( |_/ヽ_'\_/ | `_))____、` l 〉::::::l、
《《《《《《《《《》》》》》》》》》》》》》》iii|/ 》 ;;》 》 ;;ミ ヽ 、\_ ̄  ̄/ヽ ヽ `〉`'´/` l /:::::::::ヽ
巛巛巛巛》》》》》》》》》》》》》》IIII ヽヽ《 ;;; 》( \ |  ̄ ̄ _// (ニ-' .ノ, ノ
巛巛巛巛》》》》》》》》》》》》iiiiiii ``《人/ \__ ヽ____/ / `、_/
206 名前:( ´∀`)ノ7777さん:2007/07/14(土) 12:42:53 ID:qv76KhGT
「ちょ・・・ひろゆき・・ひろゆき・・」
私は小声で弟を探した。
「今何時ぞ・・・まだ6時にもなっとらんが・・」
弟は気怠そうに言ったが、もはや緊急事態である。用件を速やかに伝えようとした。
「ひろゆき・・何かが・・何かが来とるけ・・・!」
「何かって何ぞ?」
「わからんが」
外に何か気配を感じる・・・。家の外には愛犬が未だに未知の存在に対して吠えていた。
「ウー!ワンワンワンワン! ヒィッ・・!キャン!・・・・」
突如マサムネの声が途絶えた。マサムネに何か異変が起きた様だ。
数秒間の沈黙の後・・・
「ピンポーン」
無機的なインターフォンの嫌な音が子供ハウスにこだまする。
241 名前:( ´∀`)ノ7777さん:2007/07/14(土) 12:51:20 ID:qv76KhGT
私と弟はその音を微動だにせず聞き入っていた。
その悪意の音色は数秒間のインターバルを置き、正確なタイミングで押されている様だった。
そこにどことなく人間的では無い物を愛媛の山奥で私たち兄弟は感じていた。
「ピンポーン」
何度目だろうか?もはや数を数える事すら忘れてしまった。
またあのタイミングでインターフォンが鳴る事を予想していたが、次は驚くべき行動に出ていた!
「ガラガラ・・・ピシャッ」
ドクン
「ひろゆき・・入ってきたど・・・」
「兄ちゃん助けてくれぇ」
「馬鹿、何にも出来んと・・」
それは確かに近づいているようであった。
ドクン・・・ドクン・・・ヒタヒタ・・・ノッシ・・・ノッシ・・・ノッシ・・・
「ガララッ!!」
「うわぁ!!!」
「なんでポコばかり家に入れるのぉぉぉぉ!!!!!!!!私も入れてぇぇぇぇぇ!」
「ヒィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!」
オカマのどんくん おわり
175 名前:( ´∀`)ノ7777さん:2007/07/14(土) 12:35:30 ID:qv76KhGT
それは七月の暑い日が続く頃の薄暗い朝だった。
「ウーッ・・・!ワンワン!ワンワンワン!」
普段大人しいマサムネの鳴き声で私は目が覚めた。
「もうちょーーーっなんでぞマサムネーーうるさいがーー!」
付近に住民も居るはずの無い山奥であったが近所迷惑だぞとマサムネが吠える事を制止しようとした。
その時だった。
「ピンポーン」
ドクン
私は直感的に怪しげな冷気がこの場を覆っている事に気がついたのであった。
おわつたな
218 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/06/09(火) 00:19:06 ID:X098kGnD0
そりゃそりゃ〜〜永井祭りじゃ〜〜〜〜!!!大誕生日会じゃ〜〜〜〜!!!
(((( ゙、 ___ . /))))
〉〉〉(ヽ / / /)〈〈〈
i rヽ 〉 / / ̄ ̄``──、 . 〈 ' ヽ i
ヽ イ /::::人_;;;::::::::::::::::::::::\ 〉 ノ
ヽ ゙ヽ / |:::/ .,,,,,ヽ、:::::::::::::::::::ヽ / /
.ヽ ヽ / ヽト;; ゙゙゙__`─、::::::::::::::l、 / / ___
ヽ ヽ、 ┝!〉 ゙゙ ̄` ミ、::::::::::|. / / / /
ヽ /\ . `/ ゝ、 |::::::::::| /ヽヽ / /
〉' \ / ' 、 、 /|:::::::/ / ....:::! !
.//:::::..... \ (.,、_,ノ゙`ヽ_. l:::::〈 / ....::::::::::i i /
//::::::::::::::.... \ `_))____、` l 〉::::::l、. / ....::::::::::::::i i /
/'::::::::::::::::::::::.... ヽ `〉`'´/` l /:::::::::ヽ ....::::::::::::::::::::::::l.l
,'::::::::::::::::::::::::::::::/:::::::..../ l(ニ-' .ノ, ノ::彡;ミミヽ....::::::::::::::::::::::::::::}
i:::::::::::::::::::::::::::::/::::::::::::i::::lヾ'`、_/ /l::::i::..:::::::::ヽ:::::::::::::::::::::::::i
l:::::::::::::::::::::::::::/:::::::::::::i::::li ヽ,,, '' //l::::i::::::::::::::::i::::::::::::::::::::::::l
ヽ:::::::::::::::::::::::i::::::::::::::::i::::lヽ .\/ / l::::i:::::::::::::::::i:::::::::::::::::::::ノ
\:::::::::::::::::i::::::::::::::::i::::l ヽ / .l::::i:::::::::::::::::i:::::::::::::::/
219 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/06/25(木) 11:44:48 ID:70h+2lEj0
末期の歯糞配信
告知から最低1時間ほどアクセス稼ぎの時間
↓
始まると緑の「しばらくお待ちください」の画面
↓
「さあ今日は何が来るんでしょうか〜?」
↓
ゲームの場合「ROM欠損やが〜」
「燃えるぜその言葉」
スロの場合「これ確定やが」外れると「・・・・・・」
「俺のスロ歴なめんなよ」
「俺ビール一日3リットル飲みよるんぞ」
「今の3コマすべりな」
↓
「しばらくお待ちください」の画面
「じゃあそろそろ時間だから終わらないといけないから」ニートでしょ?もっとやれよ
そして機嫌が悪くなったりまずいこと聞かれるとなぜか高圧的になり関西弁に。
おだてるとくだらない人生観語りだす
220 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/07/14(火) 07:10:00 ID:MtMq/PEw0
歯んぞこれ
221 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/07/20(月) 04:25:27 ID:jrAwVIaTO
一理ある
222 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/07/31(金) 14:06:26 ID:GjP/jXHhO
書き込みました
223 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/08/07(金) 21:27:49 ID:534nM0+yO
伊勢海老喰ってクビ
224 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/08/10(月) 15:09:42 ID:HvW6PNdX0
歯糞
永井先生伝説
某学会に入会?
アコムに50万借金
ニコ厨を餓鬼認定。
MADが会う男
226 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/08/16(日) 16:31:22 ID:2OlavfIh0
/⌒ヽ⌒ヽ
/ Y ヽ
/ 八 ヽ
( __//. ヽ,,,, )
丶1 八. !/
ζ, 八. j
i 丿 、 j
| 八 |
| ! i 、 | この辱めをどうしてくれるんぞ〜!?
| i し " i '|
|ノ ( i i| 下半身の薬やが〜!
( '~ヽ ! ‖
│ i ‖
/;;;;人._;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;\ ポーポポポポーポポー♪
l;;;/ .,,,,,ヽ、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ
ヽト;; ゙゙゙__`─、;;;;;;;;;;;;;;l、
┝!〉 ゙゙ ̄` ミ、;;;;;;;;;;l.
`/ ゝ、 l;;;;;;;;;;l
/ ' 、 、 /l;;;;;;;/
(.,、_,ノ゙`ヽ_. l;;;;;〈
`_))____、` l 〉;;;;;;l、.
`〉`'´/` l /;;;;;;;;;ヽー-
(ニ-' .ノ, ノ
. `、_ )
227 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/08/22(土) 04:52:39 ID:z7sisT130
歯んぞこれー
化け物と称されたあの歯を解決できればアンチの5割は減る!選択肢はまだあるぞ!
インプラント手術・・・・・・・・・・コンプ克服だが莫大な金と時間がかかる
あの風貌で美容整形に行く勇気があるか?
1本単位のインプラントはほぼやっていない
つか虫歯治療からの移行だから完全治療前提
会員制、有料制・・・・・・・・・・メールで永井自身が招待すれば荒れなくなる
信者補正があるから1人500円ぐらいはとれそう
内部は平和だが外部での叩きは激増する
抜歯して治料後に差し歯・・・これが安価で一番楽だがその場しのぎ
どの位の期間歯磨きしなかったかも問題
黒歯になってるとこを見ると回りも相当キてる
でも保険証も歯医者に行く勇気も無い
グロ歯で突っ走る・・・・・・・・復帰後に口の中ドアップで歯配信をする
キャラを変えずにすむので永井次第では
アンチの暴走も収まるか?
顔もグロイからバランス取れていいかも
現状のまま配信・・・・・・・・・モルボル荒らしと歯ネタに脅えながら配信
余裕で2、3年は荒らされる
歯ん歯〜の前歯は〜 虫歯でガチャガチャ〜♪
歯ん歯〜の前歯 虫歯だからガチャガチャだよ〜♪
歯ん歯〜の前歯は〜 シンナ〜でガチャガチャ〜♪
歯ん歯〜の前歯 シンナ〜だからガチャガチャだよ〜♪
歯ん歯〜のハウスは〜 乞食でガチャガチャ〜♪
歯ん歯〜のハウス 乞食だからガチャガチャだよ〜♪
歯ん歯〜のサイトは〜 アフィリでガチャガチャ〜♪
歯ん歯〜のサイト アフィリだからガチャガチャだよ〜♪
コ〜ニョコニョコニョがちゃ歯の子
妖精の国からやぁ〜ってきた
コ〜ニョコニョコニョがちゃ歯の子
崖っぷちに立た〜された〜♪
グールグル、カウンター、アフィでウハウハ嬉しいよ
貢物、転売、こ〜れで暫らく安泰だ
公式踏まなぁ〜いと、生活困るよ〜
今更就職、出来るわきゃない、三十路のちゅ〜そつ〜♪
コ〜ニョコニョコニョがちゃ歯の子
いくぞ、おまえら!天国へ〜
コ〜ニョコニョコニョがちゃ歯の子
気付いた時には浮浪者だ〜♪
ポーニョ ポーニョ ポニョ 永井の歯
白い膿がぁやってきた
ポーニョ ポーニョ ポニョ 永井の歯
歯肉がブニュブニュふくらんだ
とほほなBAN民
・永井先生にBANされてとほほ
・永井先生に嫌われてとほほ
・大暴れしたら永井先生が居なくなってとほほ
・呼び込んだアンチに殴られ続けてとほほ
・内臓浄化が完全スルーされてとほほ
・「雑談スレが必要じゃね?」NEW
しかしあの酔った勢いかしらんが、顔見せてしまったのは問題だったな。
こんだけの人が見てんだし、中には変なやつもいる。
そいつらは揃って面白がってアップしたり醜いレスしたり・・・最低だな。
そんなことより、要は顔をさらけだしたことで、顔がリアルに知られてしま
ったのが痛い。 おちおち外も歩きづらいだろうな。 あの人、俺見てるん
じゃ・・・みたいな感覚で。 怖いわ・・・
俺でもへこむ。 まあ自業自得とはいえ、いずれやめてたわけだし、丁度いい
機会かもな。 今後の彼の活躍に期待しよう。
配信停止の原因は、
やっぱしあの『 歯 』が原因だと思う。
顔は映ってもどーって事ないけど、
あの『 歯 』は映っちゃまずかったと思う。
陰部を晒したようなものだもん。
浩二にとっては、
あの『 歯 』こそが恥部だったんだよ。
どうすれば配信をまた始められるのか。
それはみんながあの『 歯 』を馬鹿にしない事だと思う。
浩二は絶対にスレをみていて
みんなが『 歯 』の事を言ってないかチェックしてる。
だからみんな、もうあの『 歯 』の事を話題にしちゃ駄目だよ!
浩二の自業自得だけどね。
歯ん歯〜の前歯は虫歯でガチャガチャ〜♪
歯ん歯〜の前歯はシンナーでガチャガチャ〜♪
歯ん歯〜のハウスは乞食でガチャガチャ〜♪
歯ん歯〜のサイトはアフィリでガチャガチャ〜♪
233 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/08/25(火) 00:20:19 ID:oZKtZTU6O
ガチャガチャやが〜
234 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/08/30(日) 01:30:21 ID:5uKTjkkhO
不細工
235 :
名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 06:31:07 ID:OZzpWNe6O
お知らせ
永井先生が降臨するのはなさそうです
申し訳ございませんでした
236 :
名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 08:11:23 ID:b3bH+vwvO
歯っ取り歯んぞ「歯んぞこれ」
237 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/09/01(火) 17:22:13 ID:tn/JOoI4O
スロ板最後の良心永井スレ
238 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/09/04(金) 16:06:12 ID:+z9qrP4t0
永井先生とのプチ旅行。
永井先生は行きたいところはあるかな?
僕は永井先生が望むところならどこでもついていく。あ、イキたいところは永井先生の中だけだよ。
泊るところは狭いところがいいなぁ・・・狭すぎて二人がずっと触れ合っていられるところ。
永井先生の腕の中で眠るんだ。
僕が眠りにつくまで見守っててね、安心して眠れるから。
朝は僕の接吻で起こしてあげる。
寝起きは誰もが機嫌の悪いものだけど気持ちよく目覚めさせてあげる。
朝食はアーンするから食べさせてほしいな。
口移しで食べさせてくれるならすごく幸せ。
239 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/09/13(日) 22:42:18 ID:qeFUxsunO
スロ板最後の良心永井スレ
240 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/09/16(水) 00:58:04 ID:pYd0OhBt0
永井の自伝が見たい
特に公式管理人と出会って以降の
241 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/09/23(水) 00:54:33 ID:buxN3MEQ0
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242 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/09/25(金) 03:15:42 ID:RWOEqunU0
ジーコ「ひろゆき、滅茶苦茶書かれよる・・・」
ひろ君「やけん、見んなって。そうやって見よるけん涙目なろうが」
ジーコ「うっさいのぉ〜、見てしまうだろうが。ちょw俺頭からチンポ生えよるww」
ひろ君「なんどこれ。なんなんど歯糞、歯糞って。」
ジーコ「な?凄かろぉ?引退してもこの人気。」
ひろ君「人気なのはお前の歯やないんか?」
ジーコ「ひろゆきは何も書かれん。悔しかろ?」
ひろ君「おいぃぃっ、いつのまにかコイン1万枚ゲットやが」
ジーコ「なぁ、ひろゆき?お前は何も書かれん。悔しかろ?」
ひろ君「別に、浩二君頭にチンポ生えよるやん」
ジーコ「何でこの人俺が頭からチンポ生やせる事しっとるん?」
ひろ君「愛媛の現実逃避」
ジーコ「フゥ〜歯糞ムカつくんですけど!!」
ひろ君「なんやかんや言って気に入ってるな」
ジーコ「ちょwひろゆき?ラブプラス在庫なしってなってないから一目散でカートに入れたら、ニッサンラブプラス柔軟剤だった件についてw」
ひろ君「っはは、ざまぁ」
ジーコ「なんなんだよ!ニッサンラブプラス柔・・・ん?ちょww日本最大級の売リ場面積の広さを持つゲンキーwキタコレ」 ・・・つづく
243 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/09/28(月) 13:45:37 ID:tZ52IAar0
なんぞこれ
244 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/10/07(水) 14:55:13 ID:sPeTM0FZ0
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245 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/10/13(火) 01:44:50 ID:SUyt2m5j0
歯糞は本当に恥ずかしいな
246 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/10/19(月) 16:19:58 ID:8J7ODy4nO
てんてーやがー
247 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/10/29(木) 00:19:28 ID:Nc/0CAbJ0
永井先生とメル友になりたい。
毎日愛を語らう幸せな日々を送りたい。
俺の愛は無限大だよ、永井先生、ちゃんと受け止められるかな?
永井先生からのメールが届いただけで勃起する自信はある。
だって永井先生が僕だけのためにメールを送ってくれる、この事実だけで幸せさ。
永井先生も僕からのメールで勃起して、いや、自慰してほしいな。
そして出した液を写メで送ってほしい、もちろん僕のも送るから。
永井先生がよければ液を僕の所に郵送してほしい。
2日ほど経って成熟した液を飲み干したい、顔に塗りたくって肌をきれいにしたい。
お願いされれば僕のも送るから好きに使ってほしい。
永井先生は僕の生まれたままの姿見たいかな?
いや、僕は見てほしいんだけどね。
見られて、すごく恥ずかしくて、でも興奮して・・・
願わくは皮の被った僕の息子を永井先生にムキムキしてほしい。
痛いから優しくしてね、永井先生。
248 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/11/02(月) 23:46:27 ID:iVzR2/HnO
ガチホモには人気だな
249 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/11/15(日) 07:58:51 ID:nlepS8J8O
歯医者行け
250 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/11/27(金) 02:33:31 ID:PJvUdZkY0
歯糞
251 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/12/05(土) 23:11:12 ID:9JPxmna+O
歯糞
252 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/12/14(月) 13:23:50 ID:hH3q5h4t0
伝説の歯糞
253 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/12/21(月) 18:39:55 ID:FuyJhoWA0
254 :
( ´∀`)ノ7777さん:2009/12/25(金) 19:08:42 ID:NgTRBOsoO
うむ
255 :
( ´∀`)ノ7777さん:2010/01/15(金) 00:43:33 ID:5KTcRVlJ0
歯
256 :
( ´∀`)ノ7777さん:2010/02/02(火) 23:34:56 ID:FjNYGk5Y0
なんぞこのすれ
257 :
( ´∀`)ノ7777さん:2010/02/03(水) 06:42:28 ID:EOwfc/y+0
そりゃそりゃ〜〜永井祭りじゃ〜〜〜〜!!!大誕生日会じゃ〜〜〜〜!!!
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ヽ イ /::::人_;;;::::::::::::::::::::::\ 〉 ノ
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ヽ ヽ、 ┝!〉 ゙゙ ̄` ミ、::::::::::|. / / / /
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258 :
( ´∀`)ノ7777さん:2010/02/25(木) 02:06:49 ID:qkuJPeU50
歯糞物語
259 :
( ´∀`)ノ7777さん:2010/03/13(土) 22:46:25 ID:OcPWGPbU0
なんでぞ
260 :
( ´∀`)ノ7777さん:
伊勢海老