908 :
†劇場†:
【〜朝、練習室〜】
「ごめんね、超狼…」
スタスタ…霞は彼の前を横切り、室外へ出ようとした。
ガシッ! …その細い足首が、不意に掴まれる。
「…っ!」
はっと息を呑む霞。すかさず足元を見ると、首を項垂れたまま、銀髪の男が彼女の足首を掴んでいた。
「ねぇ、超狼。…お願いだから、離して…?」
「だ、…ダメです。」
彼の透き通る様な低い声は、今は掠れている。
「でも、サクラ、行っちゃったし…」
淡い期待と、罰の悪そうな反省の入り混じった、複雑な笑みを浮かべて立ち去ろうとする霞。
「では、…私達だけでも、練習を…」
絞り出した超狼の小声は、微かに掠れていた…。
909 :
†劇場†:2006/04/18(火) 15:55:25 ID:WCektpM+
【〜順平登場】
カランカラン… その時、ベルの音色とともに玄関の扉が開いた。
「きゃっ! じゅ、順平さん!」
サクラの小さな悲鳴が続く。
(あ…いけない)
「超狼…早く立って!」
「は、はい…」
霞が超狼を立ち上がらせると、二人で急いで玄関に向かった。
すっかり酔っ払った風体の順平が、玄関付近のソファにどっかりと横たわっていた。
彼を慌てて介抱するサクラ。 心なしか、サクラの口ぶりが温かい。
「もう、夜通し、一体何をしてたんですか、順平さん!」
「あー、るっせぇなー。頭がガンガン痛ぇんだよー…」
茶髪はベロベロに酔っ払っている。口臭の強さに、うっと顔をしかめるサクラ。
「大丈夫ですか? 飲みすぎですよ! ほら、早く起きて、…今、お風呂の支度しますから…」
「けっ!ざけんなよサクラー…。んな朝っぱらから風呂なんて入ってられっかよおー…」
サクラの介抱も虚しく、順平はそのままソファでグーグーと眠り込んでしまった。
910 :
†劇場†:2006/04/18(火) 15:59:51 ID:WCektpM+
超狼と霞が駆け付けてきた。
「どうしたの、サクラ、順平は?」
霞の問いに、サクラは昨夜の諸事情を簡単に説明した。
「そうですか、…で、その剣士とやらは、どこに行かれたのでしょうか。」
サクラの隣で、超狼が黙り込む。と、…黒髪が、その横をサッとなびいて通り過ぎた。
「順平、起きて! ほら、う…臭っ…。」
一瞬、顔を背けると、すぐに向き直ってペシペシと茶髪の頬を叩く霞。薄らと茶髪の目が開く。
911 :
†劇場†:2006/04/18(火) 16:02:21 ID:WCektpM+
「はは、…あれ…ここ、どこだぁ?」
「帝劇じゃないの! 何寝ぼけてんのよ順平? ほら、早く起きて!」
ぐいぐいと茶髪の腕を引っ掴む霞。サクラと超狼は固唾を呑んで2人の様子を見守っている。
「…霞…なに、やってんだよ、…お前ぇこそ…」
茶髪は力無くハッと笑った。その血走った真っ赤な目は、どんよりと腐っている。
「お前ぇな…自分の、…使命ってやつ…忘れちまったのかよ……」
「使命? 忘れてなんかないよ? 魔王を倒すんでしょ? ほら、早く起きて!」
霞は必死に茶髪を抱き起こそうとする。が、彼はガクガクと揺さぶられるままだ。
「バカっ! 朝っぱらから飲んだくれて寝てちゃ、呆れて文句も出ないわよ!」
「るッせぇなぁ…こんな腐った劇場…これ以上…居られっかよ…」
912 :
†劇場†:2006/04/18(火) 16:03:49 ID:WCektpM+
【〜黒い剣士登場〜】
カランカラン… 再びベルの音。はっと見ると、黒い甲冑に身を包んだ大柄な剣士が立っていた。
「すまねぇな…そいつはベロベロに酔っ払ちまってるぜ。」
「ギャラッツさん!」
サクラが素っ頓狂な声を上げた。彼女をすっと片手で制する超狼。
「あ、超狼さん、この方が先程おっしゃっていた方です。」
超狼は大柄な黒い剣士に一礼すると、すっと傍に歩み寄った。
「初めまして。この劇場の支配人です。あなたの事はサクラさんからお聞きしております。」
「あぁ、宜しく。俺の名はギャラッツ。そこのボサボサ髪の兄ちゃんは…」
「私のお客人です。」
大柄な剣士を見上げる超狼の眼光が厳しい。なにしろ、ギャラッツは背丈が185以上もある。
超狼は172しかない。10cm近くも背丈が違う。そして、体重。
超狼が60、それに対して、この男は90キロ以上はありそうだ。30キロもの体重の差。
鎧から垣間見える鍛え抜かれた肉体から、ギャラッツのパワーは容易に予測できた。
913 :
†劇場†:2006/04/18(火) 16:07:27 ID:WCektpM+
超狼は口にそっと人差し指を添え、目の前の大男を見つめた。
(只者じゃありませんね…)
一方、彼の姿を射抜くように睨みつけていた剣士は、野太い声で質問した。
「お前ぇ、…何者だ? ただの劇場の支配人じゃあねぇな…」
(どうも人間の匂いがしねぇ、こいつ…魔物の類か?)
ギャラッツが吟味していると、不意に超狼は笑顔になった。
チャキ…ギャラッツの右手がそっと大剣の柄にかかる。
「とりあえず、お茶をお出ししますので。そこのソファに腰掛けてくださいませ。」
ペコリと頭を下げる超狼の隙を狙い、ギャラッツが不意に剣を振りかぶった。
「きゃあ!何するんですか、ギャラッツさん!」
サクラの叫び声が響く。と、同時に、…ブォッ! 大剣が振り下ろされた!
【銀狼超変!】
項垂れたまま、ギンッ…超狼の目が銀色に光った。
914 :
†劇場†:2006/04/18(火) 16:08:14 ID:WCektpM+
【銀狼超変!】
項垂れたまま、ギンッ…超狼の目が銀色に光った。
ヴンッ… 大剣が空を斬った…。 ヴンッ! …次の瞬間、ギャラッツの背後に音もなく現れる超狼。
ギィン…ギィン… 眩しい銀の光が超狼を包んでいる。振り向いた剣士の口元に笑みが零れた。
「ほう…こいつぁ、…潰し甲斐がありそうだな…」
コォオ… 剣士が口からゆっくりと息を吐く。大剣を再び振りかざすと、ピタ…剣士の動きが止まった。
「辞めてくださいよ、2人とも!」
サクラの絶叫は…超狼の耳に届いた。 シュゥウ…彼の変身が解けていく。
915 :
†劇場†:2006/04/18(火) 16:09:35 ID:WCektpM+
「ご無礼、失礼致しました。しかし、不意打ちなどとは頂けませんね…尤も…」
「ハッ。こいつは面白れぇ。暫く様子を伺わせて貰うぜ。」
超狼の言葉を遮るギャラッツ。余りにふてぶてしい傲慢な態度に、超狼の口元がピクっと反応した。
「お客人は歓迎いたします。ですが…劇場内での不遜な態度は、出来るだけ謹んで頂きたい…」
「硬ぇこと言うなって!なっ!」
バンッ…思い切り肩を叩かれ、超狼の端正な顔立ちが微かに歪んだ。豪快に笑うギャラッツ。
(くっ…致し方…ないですね…)
ギッと唇を噛むと、ニコリともせずに超狼は踵を返して、サクラの元に歩み寄った。
「サクラさん、…お客人にお茶をお出しして下さいませんか…」
「あ…は、はいっ!」
支配人室に戻る超狼の後に、慌ててパタパタとサクラが続いた。玄関前には、茶髪と霞と剣士が残された。