Y:「私にとって素晴らしい特撮映画を作ることが目的なんですから。しかし映画はそれを見る観客がいてこそ存在価値があります。
「だから私が作ったフィルムを誰が見るかということは、私にとって無関係なことではありません。」
C:「了解しました。ただし、これはアメリカ政府筋でも、ごく小数の人たちしか知らない極秘事項なので、口外されては困ります。
「それを念頭に置いて聞いてください。
「嘘を本当と信じさせるより、本当のことを本当と信じさせるほうが難しい、とは思いませんか?
「人類が初めて月に着陸する場面は、テレビ中継されることになっています。もちろん月からの実況は、
「NASAのスタッフと同時に世界中の人々の目に触れるわけです。
「その場合宇宙飛行士にある程度の演技力が要求されることは当然でしょう。
「簡単に言えばアポロ計画はアメリカが主催する世紀のショーです。そのショーを成功させる為には、
「ただ事実をそのまま人々の前に放り出すだけでは効果的でないことはおわかりになると思います。
「もちろん宇宙飛行士が月に着陸するシーンをカメラが捉えるだけで、視聴者は同時体験に感動するかもしれません。
「だが、繰り返すようですが、アポロ計画にはアメリカの威信が賭けられているのです。
「したがって同じ事実を中継するにしろ、最大の効果を期待したいのです。
「そのためには妙な言い方かも知れませんが、事実にさらに現実感を持たせることが必要になるのです。
「たとえば月に人類としての第一歩を印す瞬間、飛行士がどういう反応を示すかによって、視聴者の感動の質も違ってきます。
「そこでただ立ちつくしているシーンと、その感動を全身で表すシーンと、そのどちらがストレートに視聴者の心に感動を与えるかが問題になってくるわけです。」