俺より先に泣いてはイケない 2

このエントリーをはてなブックマークに追加
282氷上の名無しさん
朝、リンクでストロークを一蹴り、すっと滑ってしーちゃんが、
「あ」
 と幽かな叫び声をお挙げになった。
「髪の毛?」
 リンクに何か、イヤなものでも落ちていたのかしら、と思った。
「いいえ」
 しーちゃんは、何事も無かったように、またすーっと一蹴り、
リンクを優雅に滑り込み、すましてお顔を横に向け、
リンクサイドのニコライに視線を送り、そうしてお顔を横に向けたまま、
またすーっと三蹴りで、リンクの長辺を滑りきった。すーっ、という形容は、
しーちゃんの場合、決して誇張では無い。
世選最終滑走グループなどに出てくる選手のスケーティングなどとも、
てんでまるで、レベルが違っていらっしゃる。
世界王者のジュベールがいつか、クワドを跳びながら、
世界女王の私に向ってこう言った事がある。
「五輪メダルがあるから、名スケーターだというわけにはいかないんだぜ。
五輪メダルが無くても、カート・ブラウニングというような立派なスケーターもいるし、
おれたちのように世界タイトルだけは持っていても、大物どころか、
まだ新人扱いなのもいる。
ランビエールなんてのは(とジュベールのライバルの元世界王者のお名前を挙げて)
あんなのは、まったく、いっこ上の俺よりも、もっと大物扱いされてる感じじゃねえか。
こないだも、プルシェンコ
(と、やはり彼のライバルで、トリノ金メダリストのかたのお名前を挙げて)
はトリノフリーのSSに、あんちきしょう、8.46なんかもらって、
なんだってまた、8.46なんかもらえるんだ、それはまあいいとして、
テーブルスピーチの時に、あの野郎、次ノ五輪モ連覇スル!
という滅茶苦茶な宣言をしたのには、げっとなった。

……おれたちの世代では、ほんもののスケーターは、まあ、荒川さんくらいのものだろう。
あれは、ほんものだよ。かなわねえところがある」