Streptococcus suis による豚のレンサ球菌症は世界中の主要な養豚国で発生しており、我が国でも毎年その発生が認められている。
本菌は臨床的に健康な成豚の口蓋扁桃や上部気道などから分離されることがある。これらの保菌豚から他の豚へ菌が伝達される。
本菌には莢膜多糖体抗原の違いにより35種類の血清型が報告されており、1、2、7、9、14型などがよく病豚から分離されるが,
血清型および株の間で毒力に違いがある。感染豚は、敗血症や髄膜炎、心内膜炎、肺炎、関節炎など様々な病態を示し、若齢豚は感受性が高い。
発症要因として、豚の抵抗力の低下に伴い本菌が増殖して日和見感染症を起こす場合や強毒株が感染する場合などが考えられる。
時に流行病的に発生して大きな経済的被害をもたらす。日本国内ではワクチンは使用されていない。
2.人のStreptococcus suis 感染症
S. suis は豚および豚肉と職業上接触する機会の多い人にも疾病を起こすことがある。養豚業従事者や獣医師、食肉処理従事者などは感染のリスクが高く
、感染した豚(またはその生肉)に接触した際に、皮膚の外傷を介して感染すると考えられている。潜伏期は数時間から3日間に及ぶ。
人の感染症では化膿性髄膜炎が多く、聴覚障害や運動失調を伴う。まれに敗血症により多臓器不全を起こす。血清型2型菌の感染報告が多いが、他の血清型による症例もある。
人のS. suis 感染症はヨーロッパやアジア諸国で報告があり、大半は職業上豚と接触する機会の多い人の症例で、イノシシを解体したハンターでの例もある
。いずれも単発的な発生で、2005年の中国四川省のように多くの感染者が出た例はない。日本国内では養豚業者の化膿性髄膜炎(感染症学雑誌77(5):340-342,2003年)をはじめ、
数例の報告がある。病原学的診断は、脳脊髄液や血液、関節液からの細菌分離およびPCRによってなされる。
S. suis による人の疾病を防除するためには、養豚場における本菌のコントロールが重要となるため、本菌の病原性の解析と診断・予防法の開発を進める必要がある。
また、一般的な注意点として、(1)手指などに外傷のある人は、生の豚肉を扱う際に手袋を着用する;(2)豚肉を調理した後に、手洗いと器具の洗浄を徹底する;
(3)豚肉は表面のみならず内部まで火を通した上で食べる;などに留意する必要がある。