【ガンダム】新人職人がSSを書いてみる 23P目【クロス】
ども。遅ればせながら
>>1さん、スレ建て乙です。
そしてレヴィさん、第2話乙です。今回も面白かったですよ。
いやはや、自分も投稿したいのは山々なんですが、しばらくは卒論だったり
なんだったりでこっちでの投稿はもうしばらく先になりそうですたい。
申し訳ないです。
そして
>>28さん、ここは元より新人さん歓迎の場。
迷わず、ご投稿お願いします。投稿なされた暁には、心より歓迎させて頂きます。
では、今回はこれにて。3rd PHASEは今しばらくお待ちを。
ここって、ガンダム系じゃないとダメなんですか?
僕も投下したいと思ってるんですが自分のレベルが低い&ガンダム系じゃないので・・・。
まあ元新シャアのスレだし、ガンダムクロスが望ましいね。ちょっとまえに荒らしが二次萌え?の文字の羅列を書いて荒らしてたからやるなら風当たりは覚悟しとけ
自由機衣(フリーダム)
正義機衣(ジャスティス)
口紅機衣(ルージュ)
衝撃機衣(インパルス)
天帝機衣(プロヴィデンス)
伝説機衣(レジェンド)
決闘機衣(デュエル)
砲撃機衣(バスター)
弾丸機衣(ブリッツ)
災厄機衣(カラミティ)
禁忌機衣(フォビドゥン)
襲撃機衣(レイダー)
混沌機衣(カオス)
深淵機衣(アビス)
大地機衣(ガイア)
暁機衣(アカツキ)
大天使機衣(アークエンジェル)
永遠機衣(エターナル)
蛙機衣(アッシュ)
殺戮機衣(ドムトルーパ)
運命機衣(デスティニー)
敵となるラクシズ陣営はこんな感じになると思います
本編の方はもう少し煮詰め直したいので暫しお待ちください
>>31 シベリアだし、新シャアじゃないし、個人的にはOKだけど?
カモ〜ン
書くとか言いながら……なかなか思うように書けない
てすと
36 :
ペルデス ◆rvCk.7NUZ2 :2012/02/25(土) 22:11:58.52 発信元:114.189.47.247
ども、AGE-2ダブルバレットが対大軍用扱いになってるのが何だか解せないペルデスです。
対大軍名乗るからには、こうライガーゼロパンツァーくらいの武装が欲しいなーと。
ま、それはさておき。
この度、どうにか3rd PHASEが書き上がりましたので、投稿させて頂きたく思います。
ですが、その前にまたも修正点が見つかりましたので、申し訳ありませんがスレage序に
ご確認を。
前スレ
>>226 ×:燦々と輝く太陽と、所々から色鮮やかなパラソルが開いて立っている周囲の景色。
○:燦々と輝く太陽と、所々に丸テーブルとイスが点在する周囲の景色。
前スレ
>>256 ×:その後、彼が寝かされていた長椅子から、彼らに奇異な目を向ける人々の間や立ち並ぶ露天、
パラソルや丸テーブルを縫って、その先にあった階段を連れられるままシンは降りた。
○:その後、彼が寝かされていた長椅子から、彼らに奇異な目を向ける人々の間や立ち並ぶ露天
や丸テーブルを縫って、その先にあった階段を連れられるままシンは降りた。
どうも記憶違いでパラソルがあるものと思っていたようです。申し訳ない。
さて、問題が無ければ22:20分頃よりPERSONA DESTINY 3rd PHASE、始めさせて
頂きたく思います。宜しいでしょうか?
月周辺宙域でのアスランとの一騎打ちに臨んでいた。
かと思えば、何の因果か既に慰霊碑へと変えられた筈のオーブの港に似た場所で、
自分や、自分が駆っていたMS“デスティニー”の姿を模した“シャドウ”なる化け物に襲われ。
その最中で“ペルソナ”という、神や悪魔の姿を模ったもう一人の自分を操る力に目覚めて。
更には、偶然助けられた三人の少年少女と一体?の着ぐるみから、例のオーブの港のような場所が
“テレビの中の世界”だということを教えられ。
その過程で自分が異世界に来てしまったのではないかという可能性に気付き。
その後、何があって自分が今パイロットスーツでは無く、見覚えの無い服を着ているのか。
そもそも、どういう過程でまたそんな事になってしまったのかも、いずれも不明なまま、
「――どこだ、ココ?」
自分が寝かされていたその見知らぬ部屋を見渡して、最初に“テレビの中の世界”で呟いたのと同じ言葉を
シン・アスカは呟くのであった。
PERSONA DESTINY
3rd PHASE Watching“The Midnight Channel”.
あの後、何があったのだろうか。
寝起きでボンヤリする頭で、シンは思い出そうとする。
“ペルソナ”に目覚めてすぐの頃よりは遥かにマシとはいえ、碌に回らない脳から
必要な記憶をサルベージするのは難儀なものだった。だが、暫くすると、
おぼろげながらもそれらが浮かび上がって来る
確か、あの時は急激に体調が悪化していたのだ。その場に居合わせた少年少女の一人、
鳴上 悠によれば、“ペルソナ”に目覚めて間も無い内は体調を崩す上に、
あの“テレビの中の世界”を漂う霧は人の体に良くない物、だとのことだ。
それに加えて、あの時盛大に頭に血が昇っていたのも理由の一つだろう。
そしてその後、シンの行為を非難するために緑ジャージの少女――里中 千枝が
放った言葉にたまたま含まれていた“違う世界から来た”というフレーズと、
事前に見た夢の中で出会った鼻の長い奇妙な老人――イゴールの言葉が組み合わさり、
それまで積み上がっていた数多の疑問や矛盾を解決する可能性として、
“自分が異世界に来た”という結論に至った。
その後、延々と自身を責める気分の悪さに朦朧とし出すシンの前で、
悠の指示を受けた奇妙な青と赤の着ぐるみ?――クマが、その場で床を2,3回爪先で軽く叩いて……。
そこで意識が途切れたのだろうか、引き出せた記憶はそこまでだった。
仕方なく、もう一度シンは部屋の中を見回した。
誰かの個室なのだろうか。
縦3メートル程、横4メートル程の部屋の部屋で、シンが寝かされていた布団の左隣には
この部屋の主のものと思わしきベッドが、その先にある窓から入る日光に照らされ、
右隣にはライトスタンドが据え付けられた机が置かれている。
更にその机の左の壁にはクローゼットらしき両開きの大きな扉があり、
その右側からシンの頭側の壁までには、壁に寄り添うように立っている巨大な本棚と
DVDデッキらしき機械が入れられた棚の上に置かれたテレビが並んでいる。
また、その本棚やテレビが置かれている棚の中は並んだ漫画本や音楽CDのケースが埋めており、
シンの周りにも少し散らばっているそれらに部屋の主の趣味・思考が良く表れていた。
一方で、シンの足先の延長線上には出入り口らしき漆塗りのドアがあり、その右側の壁には、
丸印やら細かな字やらで予定が書き込まれたカレンダーが掛けてある。また、その左側には
赤み掛かった茶髪を左右で結わえた、所謂ツーサイドトップの、水着姿の少女のポスターが貼られていた。
アイドルか何かだろうか?
何気無くそう思ってしまったせいで、脳裏に“あの歌姫”の姿が連想されてしまい、反射的にシンの眉が寄る。
そのせいで“ムリ、キライ、シンドスギ”とかなんとか煽り文句が書かれたそのポスターを
半ば睨むように眺めていると、
「グッモーニン!」
そんな快活な声と共に開け放たれたドアから、例の少年少女の一人――花村 陽介が現れた。
「おお、起きたか」
イキナリ現れた陽介に意表を突かれ、何が何だか分からないまま彼に引っ張られて
木造の階段を下りた先で、そうシンに呼び掛ける声が聞こえた。
声のした方を向くと、一面に料理の置かれたテーブルを前に座って新聞を読む、
恰幅の良い男性がにこやかな笑みを浮かべていた。
その男性から少し視線をずらすと、白いシステムキッチン越しに同じように
シンに優しげな微笑みを向ける茶髪の女性もいる。
親しげな雰囲気を放つも、記憶に無いその二人への対応に迷うシンに、
「俺の親父とお袋。お前の事は、んまぁ、話してあっから」
と陽介が耳打ちする。
ちなみに、今の彼は会った時に着ていた学生服――と思われる――姿ではなく、
オレンジ色のラインが入ったシャツとボア付きの白いジャケットにジーパンのラフな格好をしている。
また、シンも同様に、パイロットスーツではなく、見覚えの無い鈍色のシャツと水色のパーカー、
シャツと同色のツータックを身に纏っている。
「ああ、そうなんだ。――ん?」
それを聞いて一瞬納得しかけたシンだったが、すぐにそこにある違和感に気づき陽介の方を振り向いた。
「ちょっと待て。何でお前の親が居るんだよ?」
それは再三の見知らぬ場所に立った彼としては当然の疑問だった。
しかし、同時に陽介にとってはこれ以上ない愚問だったようだ。
「そりゃいるだろ、“俺ん家”なんだから」
平然と返ってきたその答えに、は、という声がシンの口から洩れた。
「お前の家? 何で?」
“テレビの中の世界”に連れて行かれたかと思えば、気づけば偶々出会った少年の家である。
さっぱり経緯の見えない自らの移動に目を瞬かせるシン。その様に、何か気づいたように
陽介が手を打ち合わせる。
「そっか。お前気絶してたんだっけ。ああ、あの後な――」
陽介がそこまで言い掛けたところで、どこからか、ゴホン、というワザとらしい咳払いが聞こえてきた。
咳払いの聞こえた方をシンと陽介が揃って振り向くと、そこには新聞を畳んで眉を顰める陽介の父の姿があった。
「あー、うん。二人とも、まずは座りなさい。話はそれからでも出来るだろ」
そう静かに告げる陽介の父に、どう対応すればいいか分からず戸惑うシンの横から、
「悪ぃ、親いるし後でな」
適当に相槌を打つ傍らそう小さく告げて、さっさとその向かいの椅子に陽介が座る。
続いて、纏っていたエプロンを脱ぎながら陽介の母が、陽介の父の隣の席に腰を落とす。
それでもまだ、どうすればいいか分からずその場に立ち尽くすシンだったが、
「どうした? 遠慮せずに座りなさい」
陽介の父が、陽介の隣の席を手を向けて指示しながらそう促したので、
その言葉に従いようやく陽介の隣の椅子に座った。
それを確認して満足そうに微笑んだ後、
「さて。一応君の事は陽介から聞いてはいるが、改めて君の口から名乗ってもらいたい。何、まずは自己紹介というは万国共通さ」
そうだろう、と昨日息子の方も言っていたことを口にしてから、陽介の父が名乗った。
「私は花村 陽一(ハナムラ ヨウイチ)。そこにいる陽介の父親で、JUNES(ジュネス)八十稲羽店の店長をさせてもらっているよ。
そして、こっちが家内の陽子だ」
「花村 陽子(ハナムラ ヨウコ)です。宜しくね」
「あ――シン・アスカです」
どうも、小さく会釈するシンに、そんなに固くならなくていい、と陽一が宥める。
「それにしても昨日は驚いたわ。お友達と遊びに行ってた陽介が、帰って来るなり死にそうな顔のあなたを連れ込むんですもの」
「はは、本当にな。町の外の人間というだけでも珍しいのに、まさか外国人とは。いやはや、度肝を抜かれた」
そう語り合うや、突然豪放な声を上げて笑い合う陽介の両親。その二人に呆気にとられるシンの隣で、
頬杖を突いて呆れたように陽介が溜息を吐く。
「おーい、バカ夫婦。朝からバカ笑いしてんなー、客が困ってんぞ」
遂に見兼ねてトーンを落とした声でそう陽介が呼び掛けたところで、ようやく二人は笑い合うのを止めて
シン達の方に顔を向けた。
頭を掻いて陽一が謝る。
「おっとっと、こりゃ済まない。さて、母さんの料理がまだ温かい内に食べるとしようか」
そう切り上げて合掌し、いただきます、と手前の皿にスクランブルエッグと共に盛られたバタートーストを陽一が手に取る。
それに続けて、同じように陽子と陽介が合掌してから、各々がテーブルの上の料理に手を付けていく。
食べていいものか、と一瞬だけ逡巡したシンだったが、その鼻腔を擽る匂いが、彼の食欲と、何故か郷愁の念を引っ張り寄せる。
考えてみれば、出撃前に“メサイア”の食堂で栄養価だけは完璧な食事を摂ったのが最後で、それから今の今まで何も口にしていない。
それどころか、こんな豪勢な朝食はディオキアで泊まったホテルのレストラン以来だろうか。
目の前には、まだ溶け切っていないバターがジワジワと染み込んでいる最中の、狐色のトーストが白い湯気を立ち昇らせ、
その傍には焼けてからまだ時間の経って無さそうなスクランブルエッグが、宝石のように光を反射している。更にトーストの置かれた皿の隣では、
こんがりと焼かれたベーコンが二枚、薄らと焦げた部分から肉汁を流している。
ゴクリと、唾を飲み込んだシンの喉が音を立てる。
――遠慮しなくて、いいんだよな?
久しぶりの味気の有りそうな料理と、限界ギリギリまで煽られた食欲の前には、食べる事が趣味でも無ければ、
むしろ小食気味な方の彼でさえ理性を保ってはいられない。
「いただきます」
音が立つほどに強く掌を合わせて声を張り上げた後、すぐさま合唱を解いた手でシンは
スプーン一掬い分のスクランブルエッグとベーコン一枚をトーストに挟み、口元へ運んだ。
芳ばしい香りを放つそれに、迷うことなく齧り付く。
美味い。
噛み千切ったトーストやベーコンの一部、少量のスクランブルエッグが口の中を芳醇な香りで満たし、
一噛み毎に溶けたバターが舌の上に染み出る。
こんなに美味い朝食は久々だ。
「そうそう。陽介、この前のテストはどうだったの?」
「うわっ……朝っぱらから聞くなよそんな事」
「何だ? 随分とうろたえるな。もしかして、あまり出来なかったか?」
「まぁ! だったら、来月からお小遣いを減らさないと」
「ジュネスのバイト代も減らさないとな」
「ちょちょ、ちょっと待って! 止めて! マジ止めて!」
冗談気に笑い合う両親に、慌てて身体を伸ばした陽介が必死に懇願する。
そういえば、こうやって誰かとテーブルを囲んで食事をするのも久しぶりだ。
プラントに渡ってからはずっと一人でジャンクフードで済ませていたし、アカデミーや“ミネルバ”でも
大概一人で食事を摂っていた。たまにちょっかい掛けるついでに隣に座ったヨウランなんかと談笑したりした事もあったが、
どの道料理は栄養優先の質素でたいして美味くないものばかりだったのに変わりは無い。
こんなふうに、美味で温かな朝食を、誰かと一緒に談笑しながら食べたのは、いつ以来だったろうか?
そう思って、シンの頭に浮かんだのはまだオーブに住んでいた時の情景。
新聞を片手にチーズをとろけさせたトーストを齧る父。
その行儀の悪さを注意する妹。
そんな二人に笑顔を向けながら、空になった食器を机から運んでいく母。
そして、そんなの妹の背伸びするような微笑ましい様を眺めていたのも束の間。何気なく視界に入った
テレビの隅の時刻表示からジュニアハイスクールの登校時間が差し迫っている事を知り、慌ててバタートーストを牛乳で
流し込もうとして噎せるシン自身。
まだ戦争などというモノとは無縁だと思っていた頃の、これからも毎日続くと信じていた平和な朝食時。
もう戻って来ないあの幸せな思い出が、目の前で展開される花村一家の朝の一場面と酷く重なって見えた。
「つか、今回は割と出来良い方だって――どうした?」
変わらずムキになって弁明していた陽介が、不意に不思議そうな顔をシンに向けた。
え、と返すシンに、自分の目を指差して陽介が何かを伝えようとする。その指示に従って目元を触ってみたところ、
少量の液体に触れるような感触が指先から伝わって来る。
それが、自分の目から零れ落ちた涙だという事は、すぐに分かった。
どうやら、懐かしさのあまり自分でも気付かない内に泣いていたらしい。
気付けば、花村一家の面々の心配するような視線が全て自分に向いていた。
「――あ、いや、目にゴミが入っちゃって」
咄嗟に思い付いた良くある誤魔化し文句を口にし、どうにか彼らの目を自分から外そうと、
ワザとらしくシンは目を擦る素振りを見せつける。
それが効き、何だよ、驚かせやがって、と呆れたような素振りを見せる陽介に続いて、
陽一と陽子の表情も安心したものに変わる。
「ハッハッハ、そうかそうか。てっきり母さんの料理の美味さに、泣くほど感動したのかと思ったよ」
「まぁ、あなたったら」
「ねーっつーの。いい歳して惚気んな。キモイから」
つーか、料理っていわねーしコレ、と毒づきついでにツッこむ陽介を、さして意に介したような様子もなく
陽一が朗らかに笑い、陽子が恥じらうように赤らめた頬に手を当てる。
そんな一家のやり取りに微笑ましさと一抹の寂しさを覚えながら、牛乳の入ったコップをシンは手に取り、
口を付けた。
「つーか、どこから出て来るんだよ、飯が美味過ぎて泣くとか。昔の漫画じゃあるまいし」
「いやいや。“シン君が生きて来た環境”を省みれば、まんざら有り得ない話じゃないんじゃないか?」
その陽一の言葉に違和感を覚え、牛乳を口に流し込む手を止めずにシンはそちらに目をやった。
俺が生きて来た環境?
確かにこういう朝食は久々であり、それが原因で泣いたのも事実だが。
そのシンの視線に気づき、彼の方にも目を配りながら陽一がその続きを語る。
「母さんの料理を食べて、故郷のご家族の事を思い出してホームシックになったって、
不思議じゃないだろ。何せ、彼は“中東のクルジスタン共和国から、遠路遥々仕事を求めて”
この稲羽市にやって来たんだから」
その言葉に耳に入って、反射的に口内に溜まっていた牛乳をシンが噴き出すのは、だろ、シン君、
と陽一が声を掛けるよりほんの少し先だった。
「いや、お前の事聞かれてどう答えようかって時にさ、偶々ニュースで出てたんだよ。そのクルジスタンって国が」
何で知らない内に中東出身になってんだよ俺!?
怒鳴りながらそう訊いてくるシンに、頬をポリポリと掻きながら陽介が答えたのが上述した台詞である。
確か、アスノだかイスマイールだかというその国の要人が、コーナーだかゴールデンだかスペリオルだとかという
アメリカの国連大使と会合したとか何とかという内容のニュースだった気がする。
「何で態々捏造するんだ! 俺の事は昨日話しただろ!」
「言えるワケねーだろ。“違う世界から来たかもしんない、宇宙にあるプラントとかって国で兵隊やってた品種改良人間
拾って来た”なんて。常識的に考えて」
それに、プラントやオーブなどと聞いた事も無い国の名前を挙げるよりは、実際にテレビにその名前が出ていた
中東の途上国から職を求めてやって来た、というふうにした方が現実味があるし、“後のシンの処遇を省みた上でも”
都合が良かったのだ。
まぁ、自分の家に連れ込んだ事も含めて、勝手に話を進められた当人として面白くは無いだろうが。
「品種改良って言うな! 俺は野菜じゃないぞ!」
「俺が知るかっつの、そんな事」
とはいえ、こうもギャンギャンと躾の成っていない犬のように吠えられて、それを甘んじて耐えていられるかと
いえば、話は別である。
「つか、似たようなモンだろ?」
「全然違う!」
あー、ウゼェ。つか、昨日からキレすぎだろ。
どこぞの着ぐるみとは別のベクトルで鬱陶しいシンに、ぜってーカルシウム足りて無ぇなコイツ、
と内心で呟きながら陽介は家を出た時の事を思い出した。
あの時は危なかった。何気なく放たれた父の言葉に、真横に座っていたシンが口にしていた牛乳を
盛大に噴き出した時は、驚きのあまり寿命が縮まるかと思った。
そのまま、いや、とか、あの、とか、余計なことを言い出しそうだった彼の口を押え、
――あー、そうね、そうね。確かにそーいうのあるかもね。あ、やべっ、時間だ。んじゃ、
ダチがジュネスで待ってるから俺らこの辺で!
と、食い掛けのトーストと呼び止める両親を置いてさっさとシンを外に連れ出したのは、
本当に咄嗟の判断だった。
おかげで腹八分で出ることになったのはもとより、朝から全速力で走る羽目になったのに加えてしつこい品種改良人間と、
せっかくの日曜と晴れた気分だったのが一気に最悪になったのだが。
そういうわけで、更に声を張り上げて噛み付く品種改良人間から逃れようと、首に掛けていたヘッドホンを耳の蓋にして、
あー、聞こえない、聞こえない、と陽介は頭を振る。
それから50歩程歩いたところで、ようやくシンが諦めたように口を閉じたので、陽介もヘッドホンを元通り首元に掛け直した。
「――にしても、本当に日本の田舎なんだなココ」
暫く周囲をキョロキョロと見回していたかと思っていたところで、ふと、先程までとは違う感慨深げな声でシンが言った。
今彼らが歩いているのは、花村家から100メートル程先にある下り坂だ。幅6メートル程の狭い
アスファルトの道路の左右に建ち並ぶ日本家屋は大概が古びて汚れた木造で、
そこが流行や最先端といったモノとは無縁な田舎町であると嫌でも思い知らされるだろう。
実際、陽介自身も一年前に父の転勤に合わせてこちらに来たばかりの頃は、都会から一変した
周囲の環境に今のシンのように物珍しげな視線を向けたり、今後の生活に不安を覚えたりしたものだった。
その時の事を少し思い出して、まーな、とほんの少し懐かしい気分に浸りながら陽介は返答した。
「……本当に、違う世界に来ちゃったのかな、俺」
「さーな」
そう気の無い声を返すものの、異世界から来たというシンの結論は恐らく正しいだろうと、陽介は睨んでいる。
日本が東アジア共和国だとかの属領になったとか、“ブレイク・ザ・ワールド”がどうのなどという話は
全く聞いた事が無いし、NASAがスペースシャトルを飛ばすのにも四苦八苦しているようなこのご時勢に宇宙旅行やコロニーなど、
ナンセンスが過ぎる。
かといって、シンの“影”がその姿を模したモビルスーツや、彼が来ていた奇妙な赤い服――パイロットスーツ等、彼の話が
妄想の類では無いという証拠が幾つもある。それに、自分達は既に“テレビの中の世界”という異世界の存在を知っているのだ。
ならば、それ以外にも異世界があったとて、何ら不思議は無い。
それに、あの時クマがいつもと違い、シンの存在を察知した時“現れた”と表現していた。当人はそれがどういうことなのか
分かっていなかったようだが、今思えば、それこそがシンが異世界より直接“テレビの中の世界”に訪れたという最大の証明だったのだろう。
無論、何故宇宙で戦闘中だったらしいシンが“テレビの中の世界”に現れたかまでは未だ不明だが。
とはいえ、シン次第ではそれもいつかは判明するかもしれない。何せ、今稲羽市で起きている“事件”も、
その根幹は彼が異世界に来た事と同じ、オカルト極まりない超常現象なのだから。
「それはそうと、そもそも何で俺はお前の家にいたんだ?」
そういえば、まだその辺りの事を話していない。起こして早々例の事態に発展して一目散に家を出て来たため、
言う機会が無かったのだ
シンを家に連れ込んだ理由は、そのまま彼の今後の稲羽市での生活に大きく関わって来る。どうせ教えない訳にも
いかないので、その辺りの経緯をジュネスへの道すがら陽介は伝える事にした。
「昨日、“テレビの中の世界”に連れてった後、お前気ぃ失ったんだわ。その後――」
“ペルソナ”に目覚めて間もなかったせいでシンが気を失った後、そのまま置いておいても更に体調が悪化するだけだったので
“テレビの中の世界”から陽介達はシンを連れ出した。
しかし、最初に助けた時もそうだが、その独特な作りのパイロットスーツのままで、おまけに気を失った外国人を運ぶというのは
酷く目立つ。おまけに、唐突に発生していた濃霧のお蔭でどうにか人目を避ける事が出来た昼過ぎとは違い、最初に彼を運んだジュネス屋上の
フードコートは、いつの間にか雨が降り出したせいで今度は運べる状態に無い。
そこで、店長の息子で自身もジュネスのアルバイターを務めている陽介の身分を利用し、そこにいたスタッフ達に
口を噤んでもらうよう頼んだうえで、近くのスタッフ控室に一旦シンを連れ込み、そこで作戦を練ることにしたのだ。
まず問題になったのは服だった。いつまでも控室を借りている訳にいかなかったが、かといって、
あまりに目立つパイロットスーツのまま外に運び出しても人の目を引くのは必至である。そのため、代えの服を
シンに着せる事になったのだが、ここで一つめの問題が立ち塞がった。
「――で、誰がその服用意したと思う?」
一旦振り返り、これ、と現在進行形で身に着けているその服を摘まみ上げるシンを陽介は睨み付ける。
――ああ畜生、泣けて来る。
鈍色のTシャツも、その上から羽織る水色のパーカーも、下のシャツと同色のツータックと白いスニーカーも。
彼が身に着けるそれらを見ているとついつい熱くなってしまう目頭を誤魔化すために、その怒りを向けるのが
理不尽だと分かっていながらも、恨みがましさを隠さない口調で陽介は返答せざるを得なかった。
「俺だよコンチクショー!」
「え、お前が? この服を?」
何で、と訊き返すシンに、俺が訊きてーよ、と涙目で陽介は怒鳴り返した。
そもそも、最初の時点では彼の服の代金は割り勘だった筈なのだ。それが、急に強烈な尿意を催して
ほんの少しその場から席を外したばっかりに、
――済まない。俺の財布は奈々子のための財布なんだ。
――いやー、実はアタシの財布もアタシの肉のための財布なのよねー。ゴメンネー。
とかなんとか適当な理由の下、シンの服の代金は陽介のツケによって賄われたのだった。
一応、出費を抑えるために、それらの衣服や靴は全て可能な限り安いモノを選んだ。だが、
いざ陽介の前に示された総額の前にはそんな思惑などのれんに腕押しもいいところで、
結局バイクを買うために溜めていた金を、何が悲しくて野郎のためなんかに、と泣く泣く
彼は吐き出さざるを得なかったのであった。
ちなみに、脱がせたパイロットスーツは気付いたらどこかに消えていた。
「――それは、なんというか……ご愁傷様」
自らが陽介に降り掛かった災厄のそもそもの原因だと知って頭を下げるシンを、いーよ、
と恨みがましさが完全に消えていない声では陽介は押し留める。
今ここで彼に謝ってもらったところで、消えた金と遠退いたバイクという結果が覆る訳ではない。
だが、その代わり――。
「いーか、絶対にその服傷つけんなよ? あと、服のツケも、絶対に耳揃えて払ってもらうかんな!」
こうなったからには、失った金を体で返してもらわねば気が済まない。意図してそうした訳ではないとはいえ、
せっかく知りもしない中東の国の求職者という“都合の良い設定”で家に招き入れたのだ。何が何でもツケの分を払って貰わねば。
そんな思惑を胸中で煮え滾らせて釘を刺す陽介に、ややたじろぎながらシンが頷く。
「わ、分かった。分かったよ。大切にするよ、この服」
「あったり前だこのヤロー。――で、それから何でお前が俺の家にいたかだけど――」
それから、目的地に着くまでの間に、何故自分が陽介の家にいたのかをシンは聞くこととなった。
曰く、服の問題は予期していなかった陽介の出費によりどうにか解決し、次の問題として上がったのが
シンの移送先と移住先だった。
仮にシンが異世界の人間だとするなら、当然衣食住の伝手などこの世界には無い。そうでなくとも、
いつまでもあのJUNES八十稲羽店――稲羽市の人々からは縮めて“ジュネス”で呼ばれているらしい――とかいう
デパートに置いておくわけにもいくまい。そこで、彼を運ぶ場所について相談した結果、彼らの内の誰かの家に運ぶ事に決まったそうだ。
その談になって、まず千枝の家がその候補から除外された。昨日のメンバーの中で唯一の女性である彼女が、
何処の馬の骨ともしれない男を連れて行くというのは常識的に考えてマズイ。それについてはシンも容易く想像が着いたため、
特に疑問は無かった。
となれば、残るは悠と陽介の男二人。そこから、何故悠の家が選ばれなかったかといえば、
「鳴上は、アイツがもう居候みたいなモンなんだよ」
ということだそうだ。
何でも、悠は両親の仕事の都合で、今年の4月から八十稲羽の親戚の家で世話になっているらしい。
そういう身の上とあれば、シンを運ぶ事は親戚一家に迷惑を掛けるとして断っても仕方ないだろう。
そして、悠や千枝のような問題が無く、ジュネスの店長一家という関係上三人の中で最も裕福な陽介の家が、
最終的にシンの移送先、更には今後の生活の場として選ばれたわけであった。
「ウチの親、見た通りのバカでお人好しだからよ。“やる事やってりゃ”中東だろうが宇宙だろうが異世界だろうが、
どこから来たかなんて全く気にしねーから」
だからこそ、その方面の顔立ちをしている訳でもないシンが中東から来たという出任せも、スンナリと通ったのだそうだ。
そう付け加えられる陽介の言葉に、あり難いと思う反面、それでいいのかとシンは内心苦言を呈さざるを得なかったが。
そんな感じで大体の情報交換が済んだ後、暫く八十稲羽の町並を眺めながらC.E.やMSについて、一応機密に触れない範囲の
簡単な世間話を交えつつ二人は歩を進めていた。
そして気が付けば、初めて稲羽市で訪れた場所であるジュネスの屋上に、シンと陽介は辿りついていた。
「なんつーか、マジでSFの世界なんだな、お前んトコ。つーか、15で成人ってマジなの? 酒もタバコもオッケーってこと?」
「プラントはな。“コーディネイター”は皆“ナチュラル”より能力高いから、そうなってんだって聞いたことがある。
あと、一応タバコも酒も認められてる」
俺はやったことないけど、とシンは付け加える。
陽介曰く、ジュネスの屋上は広大なフードコートになっており、閑散とした雰囲気から地元の高校(ハイスクール)で
彼も通っている八十神(やそがみ)高等学校の生徒達のちょっとした人気スポットとなっているそうだ。
「それよりさ。何でまたココに来たんだ?」
周囲を見渡してから、シンはそう尋ねた。
そこら中にプラスティック製の白い丸テーブルと椅子が点在し、右側にはタコ焼きやらフライドポテトやらと、各店で扱っている物を
表わす幟を立てた露店がズラリと隙間無く並んでいる。視界を覆うような霧が無い事を除けば、昨日目覚めた時そのまま情景が広がっていた。
恐らく、彼が寝かされていた長椅子もこの先にあるだろう。
「ん、言って無かったっけ? “ジュネスでダチ待たせてる”って」
「いや、聞いたけど」
てっきり両親から逃げる口実として、適当に陽介の口から出た出任せだと先程まで考えていたのだが、
実際に来てしまった以上それは恐らく本当の事なのだろう。
ならば、自分がこれ以上ついて行っても陽介の友達付合いの邪魔になるのではないのか、とシンは危惧したのだ。
そこで、その旨を陽介に伝えたところ、
「あー、いーのいーの。ダチってのは鳴上と里中と、あと天城の事だから。それに、今日の、へへ、“捜査会議”は
お前の事も含めてやるからよ」
お前がいねーと始まんねーの、と悪戯気な笑いと共に返って来た答えに含まれた聞き慣れない言葉が、シンの耳に引っ掛かった。
捜査会議? アマギ?
「何だよ、捜査会議って? あと、誰だよアマギって」
「天城か? ウチのクラスメートで――と」
そこまで言い掛けたところで、ふと陽介が立ち止った。
何事かと、陽介の横からシンはその先を覗きこんだ。
見れば、彼らの進行方向にある木製の机を、三人の男女が囲んでいる。その内二人は、昨日陽介と共にいた悠と千枝だ。
その一方で、悠の対面に座るもう一人の少女は見覚えが無い顔だ。あの少女がアマギなのだろうか。
そう考えていると、
「ま、あとは本人に聞けよ」
とだけ告げて、一足先に陽介が彼らに歩み寄って挨拶を交わした。
「あ、ちょっと待てよ」
その跡を慌ててシンは追い掛けた。
それにより自分達のすぐ傍に来たシンに対し、三人の少年少女は三者三様の格好と挨拶で答えた。
「やぁ」
昨日の制服姿ではなく、ピンと襟を立てた白いシャツを着た悠が、軽く上げた手と共に一言だけ挨拶を送る。
「オッス。もう元気?」
一方、昨日着ていた物と同じ緑色のジャージの下に白いワンピースを着た千枝が、元気良く腕を突き出す。
そして最後に、
「初めまして、天城 雪子(アマギ ユキコ)です。えっと、シン・アスカ君で良いんだよね?」
肩甲骨の辺りまである長い黒髪に着けた赤いカチューシャが似合う、首にスカーフを巻いた大和撫子然とした少女
――天城 雪子が、やや戸惑うようにしながら小さな会釈と共に名乗った。
釣られて、初めまして、と小さくシンは礼を返す。
そこに千枝が身を乗り出して、
「先言っとくけど、昨日みたいにキレて暴れるのは絶対止めてよね。特に、雪子に絶対に手ぇ出さない事」
やったら顔面靴跡の刑にすっから、と目をきつく吊り上げて釘を刺してくる。特に、と雪子に対して特別
念を押す辺り、彼女と雪子は相当に仲の良い間柄のようだ。
それに対し、おずおずとシンが頷き返すと、よろしい、と満足したようにその顔が微笑む。
そして、そのタイミングを見極めたかのように、
「えー、それでは“稲羽市連続誘拐殺人事件”特別捜査会議を始めます」
と、陽介が宣言した。
「最初の議題だけど、まー、まずはシンの身の上と今後について、だな?」
稲羽市連続誘拐殺人事件 特別捜査会議。
何とも長いその名称を千枝に突っ込まれた後、陽介の視線がシン、悠の順に向けられる。それが確認の意を込めた
アイコンタクトだと察するのは容易だった。
その視線に、相槌で悠は返した。
なお、現在の席位置は男子と女子が机越しに向かい合うように、それぞれ長椅子の上に座っている状態で、
露店に近い側から女子は雪子、千枝、男子は悠、陽介、そしてシンの順で並んでいる。
そして、男子の露店から最も遠い側、つまりシンが、待ってくれ、と声を上げたのは、悠の相槌を打ってすぐの事だった。
「さっきから捜査会議がどうとか言ってるけど、一体何の集まりなんだコレは?」
何?
困惑したような素振りを見せるシンを、悠を始めとした一同が一瞬驚いたように目を丸くする。だが、一様に疑うような光を帯びた
それらの視線が、すぐさま陽介へと殺到した。
「ちょっと花村、どういう事?」
「もしかして、まだ“事件”や私達の事、話して無いの?」
問い詰める千枝と雪子の言葉に、ぎくっ、という露骨な悲鳴を洩らす陽介。
「いやー、なんつーかさ。メシ食い損ねたり服の話してたりで色々話しこんでたら、もうこっちに着いちゃっててさ」
「アンタね〜」
「――それが、さっき言ってた“稲羽市連続誘拐殺人事件”とかって奴か。で、お前らはその事件を自分達で追うために、
その、特別捜査隊とかってのを結成して、実際に調べてると?」
「特別捜査隊っていうのは、今決まった話だけどな」
シンの問いに、悠を始めとした特別捜査隊の面々が首を縦に振って肯定する。すると、どこか不愉快そうな表情を
浮かべながら更にシンが尋ねてきた。
「あのさ、こっちの世界にも警察はあるよな? ちゃんとその事件の捜査はしてるんだよな?」
その問い掛けに頷きで返すや、真紅の双眸を鋭く細められる。
「だったら悪い事は言わない。そんな事に首を突っ込むのは止めろ」
真剣さに満ちた重々しい声で告げられたその言葉に、千枝と雪子もシンの方に顔を向けた。
この話を切り出した時に返ってくるかも知れないと、悠が陽介と共に現れるまでに彼女らと予測し合っていた答えが、
まさに今の彼の言葉そのままだったからだ。
「お前らのスクールの先輩が殺されたから、犯人を捕まえてやるって気持ちは分かるよ。だけど、お前ら唯の民間人の学生だろ?
何か訓練してる訳でも、そうしなきゃいけない義務があるわけでも無いんだろ? 相手は二人も殺した殺人犯なんだろ?」
シンは、自分の事を軍人だと言っていた。
軍人は自らの国と国民を守る事が生業だ。そのための訓練を積み、そのための分別と誇りを持っている。そういった点では、
警察とさほど変わりは無い。
だからこそ、軍人や警察は民間人が自らの領分に首を突っ込む事を嫌う。守るべき相手が、自分から災厄の渦中に身を晒しては
自分達の面目が立たないし、何より守る側も守り切れないからだ。
そして、恐らくはシンも少なからずそういった思考を持っている。そのため、こういう返答を返すだろう事を想像するのは
容易いことだった。
ペルデスさん、お待ちしておりました
すみません、またバイバイさるさんに引っかかってしまいました。
「素人が遊び半分で首突っ込んで良い話じゃない。警察に全部任せるんだ」
悠達の顔を見回して、キッパリとシンがそう言い終えた。
だが、だからといって、はいそうですかと首を引っ込める訳にはいかない。
自分達の安否を心配する気持ちが少なからず含まれたシンのその言葉に対し、悠は首を左右に振る。
「警察には無理だ。この事件は、“俺達”じゃなきゃ解決できない」
「この事件は“俺達”じゃなきゃ解決できない」
冗談を一切含んでいないという真剣な面持ちで、冗談としか受け取れないような
その言葉を平然と悠が言い放った。
その言葉が、“ミネルバ”でC.Eの地球に降下してしばらく経った頃の記憶を呼び起させ、
シンの神経を逆なでた。
「フザけんな!」
キレるな、と事前に念を押されてはいた。というよりは予防線を張られていたのかもしれないが、
そんな事は急激に湧き上がった分からず屋共への怒りによって一瞬の内に追い流された。
机を叩き、勢い良く立ち上がってシンは吠えた。
「お前ら、自分が何やってんのか分かってんのか!? 素人が勝手なマネして! “ヒーローごっこ”じゃ済まないんだぞ!」
以前、建設途中の連合軍の基地を身勝手な正義感で攻撃した事を咎める意味でアスランに言われたのと同じ言葉を、
無意識の内にシンは吐いていた。
警察にせよ、軍人にせよ、一般人には所持し得ない強力な権限と武力が認められているのは、その職務が往々にして
危険性を孕んでいるからだ。それ故に、そういった職に就く人間には自らの責務が持つ危険性を理解し、自分のみの
テリトリーだと自覚する事が必要になる。特別な訓練を積んでいる訳でも無い、固い覚悟があるわけでも無い、
“守られている側”であるべき唯の民間人が遊び半分でそのテリトリーに首を突っ込んでは、火傷どころでは済まないのだ。
自らも私情故の勝手な行動が多かったシンだが、それでも、その領分程度は弁えているというつもりだし、
元より誰かを守る力を身に着けるために軍に入った身だ。その彼が、少年少女達の軽率ともいえる行動に待ったを掛けない訳が無い。
支援
「……ハハ、“ヒーローごっこ”か」
シンの怒声にしんと静まり返った場から、暫くして苦笑混じりの声が上がった。
陽介だった。
「実際、小西先輩が被害にあって“事件”の事調べようって言い出した時は、ツマンネー田舎暮らしに
良い刺激が出来るかも、これで俺もちょっとした“ヒーロー”だって。少なくとも俺はそう思ってたもんな」
耳が痛ーや、とバツの悪そうにそっぽを向いて頭を掻く陽介。
だが、不意に真剣な表情に変わったその顔がシンに向けられる。
「分かってるさ。オレらみてーな高校生が、遊び半分じゃなかろーがこんな事に首突っ込むべきじゃねぇって。
だけど、この事件はオレらじゃねーと解決できねぇ。警察にゃ無理なんだよ」
「さっきも言ってたな。警察には解決出来ない、お前らだけが出来るって。何でそう言い切れるんだよ、答えろ!」
専門家を差し置いて、素人の自分達だけが事件を解決できると執拗に答える以上、彼らにはその根拠がある筈だ。
それがしょうもない理由だったら頬の一つでも殴ってやろうと、机の影に握った拳を隠しながらシンは返答を待った。
そこに返って来た言葉は予想の斜め上をいくものだった。
「犯人の手口だよ」
「手口? どうやって殺したかってことか?」
「小西先輩の時にもしかしたらって思ったんだ。で、やっぱりそうだった。――放り込まれたんだよ、
先輩も、山野アナも。“テレビの中の世界”に」
「!?」
“テレビの中の世界”に、放り込まれただと!?
陽介の告げた“事件”の手口に、驚愕のあまりシンは目を剥く。
何の変哲も無い、唯の猟奇的で凶悪な連続殺人事件とばかり思っていたのだ。それが、
まさかあんな常識を逸脱した世界が関わっていていようなどと、どうして予測できようか。
「ちょっと待てよ! あの世界には“シャドウ”って化け物がいるんだろ? そんなところに入れられたら――」
シンの頭に、再びあの“デスティニー”の化け物の姿が浮かび上がる。
あの時は、偶然“ペルソナ”が覚醒したために難を逃れることが出来たが、そうで無ければシンは確実に殺されていた。
もし、山野 真由美や小西 早紀がシンと同じように“ペルソナ”に覚醒しなかったなら――。
「そうだ。山野アナも先輩も、二人とも“シャドウ”に殺されたんだ」
「二人だけじゃないよ」
ふと、二人の会話に千枝が口を挟み、隣に座る雪子の方に顔を向けた。
見れば、何か嫌な記憶を思い出したように雪子は俯いている。その態度にまさかと思い
シンが尋ねると、雪子はゆっくりと首を縦に振った。
「うん。――千枝達が助けてくれなかったら、私も、“シャドウ”に殺されてたかもしれない」
つまり、彼女は三人目の“事件”の被害者にして、犠牲者になっていたかも知れない人物。そして、
“事件”の裏側を知る生き証人の一人ということになる。
凶器は“シャドウ”であり、よりマクロな範囲で見れば“テレビの中の世界”。
突き詰めれば、“テレビ”。
その“稲羽市連続誘拐殺人事件”とやらの手口を、真実を知る、その一人であると。
「……嘘だろ?」
「いや、全部ホント。けどよ、こんなの警察が、いや普通の人間が信じると思うか?」
あまりの事に驚愕するあまり、分かり切った陽介の問いにぎこちなく首を左右に振ってシンは答える。
実際に“テレビの中の世界”に下り立ち、実際に“シャドウ”に襲われたからこそ、彼らの話をシンは多少なりとも
理解することが出来るのだ。彼と同じ体験を経ていない者に同じ内容を話したところで、こんな常軌を逸した話など夢だ
妄想だと一笑に附されるのが関の山。ましてや、警察など門前払いも甚だしいところだ。
それに、仮に信じる者がいたとて、今度はどうやって被害者を助けるかという問題がある。
「それに、“シャドウ”に普通の人間は勝てない。戦えんのは“ペルソナ使い”――オレらだけだ」
“デスティニー”の化け物に襲われた時シンは武器を持っていなかったが、仮に持っていたとしても
無意味だっただろうことは容易に予測できた。
“シャドウ”は人の常識を超越した存在だ。アレにはどんな武器も恐らく意味を為さない。剣も、銃も、それこそMSでさえも。
対抗できるのは、同じように常識を逸脱した存在である“ペルソナ”と、それを操る“ペルソナ使い”のみ。
それを、実際に“シャドウ”と対峙し、“カグツイザナギ”を操って実績したことで、シンは身を持って知った。
詰まるところ、陽介達の言った通りなのだ。
“テレビの中の世界”を始めとした超常現象の存在や“事件”への関与を突きとめる事も
認める事も出来ず、また被害者を助ける手段も持たないといっていい警察に“事件”の解決は不可能。
それが出来るのは、それらの超常現象の存在と“事件”への関係性を知っていると共に、
“シャドウ”に対抗する術を持つ“ペルソナ使い”のみ。
「で、だ。ここまで長々話を聞いて色々知っちゃったお前に、オレらは一つ頼み事をしてーワケよ」
「頼み事?」
「ああ。“シャドウ”に対抗できるのは“ペルソナ使い”だけだっつーのはさっき言った通りだけど、
だからって勝てるかどうかっつーのはまた別の話だ。それに、“ペルソナ使い”は今んトコここにいる奴らしかオレらは知らない」
つまり、鳴上 悠、花村 陽介、里中 千枝、天城 雪子。そして――。
「だから、確実に被害者を助けるためにも、一人でも捜査に協力してくれる仲間が欲しい」
「つーワケでよ、シン。――オレらと一緒に“事件”を捜査してくれねーか?」
――シン・アスカ。
支援
「――で、結局昼間の答えまだ聞いてねーんだけど?」
開けっ放しの彼の部屋の出入り口を潜り抜けてそう尋ねながら、両手に持ったジュース入りの
コップの片方を陽介が差し出してくる。
それを、サンキュ、と礼を返しながら、シンは受け取った。
「今考えてる」
コップに口を付けながらの答えに、呆れたように陽介が溜め息を吐いた。
「まぁ、また“シャドウ”とやり合う事になるし、あんまりやり過ぎっと犯人だけじゃなくて、
警察からも目付けられるかもしんねーけどよ。“事件”解決出来んのはオレらだけだし。えーと、
こ、こず、子連れ……」
「コズミック・イラ」
「あーそれそれ。そのコズミック・イラとかっていうお前の世界に帰る方法だって、
もしかしたら見つかるかもしんねーしさ!」
半ば励ますように、語調を上げて陽介がそう言う。だが、その言葉が彼の迷いに
然したる光明も射す事は無く、
「――そういうことじゃない」
左右に振った首に再び溜息を吐く陽介を無視して、シンは思考を続けた。
支援
特別捜査隊に入れという申し出に対し、取り敢えずその返答をシンは保留する事にした。
陽介や他の特別捜査隊の面々はその理由を、警察を差し置いて“事件”を捜査する事への抵抗や、再び“シャドウ”と
合い見える事への恐れだと考えているようだが、実際はそうでない。
シンは戦争という理不尽から人々を守るために軍人になった。だから、アスランに“ヒーローごっこ”と揶揄された一件のように、
いざという時に規律や調和が邪魔となれば、平気でそれを踏み越えて自身の意志のままに人々を守ろうとする。少なくとも、
シン自身が認識する上では、彼はそういう人間なのだ。
確かに、ザフトのトップエースにまで登り詰めたとはいえ、MSパイロットでしかない彼は事件捜査という点では特別捜査隊の面々同様
素人であるし、“シャドウ”という全くの未知といってもいい化け物への恐怖が無いわけではない。だが、そんなもののために自身が
救い出す事が出来る人々を見捨てるのかといえば、それは絶対に有り得ない。だから、“事件”の捜査と被害者の救出については、彼はほとんど賛成の立場だった。
では何を悩んでいるのか。
ずばり、特別捜査隊の一員として、彼らに協力する事を、だ。
特別捜査隊の面々は、皆何の訓練も受けていない“ナチュラル”の高校生だ。それが、対抗する術こそ持ち合わせていなかったとはいえ“コーディネイター”の軍人である
シンさえ死の危機に瀕した化け物を相手取り、正体不明の凶悪殺人犯を追ってきたというのだ。それに協力するということは、彼らがその危険を冒し続ける事を容認することに繋がる。
いくら全員“ペルソナ使い”であるといっても、その捜査活動は唯の少年少女達が行うにはあまりに荷が重いように思え、シンは首を縦に振れなかった。
では、自分の一人で捜査をすべきかと考えて、しかしそちらも彼は躊躇した。
前述したように、シンは捜査隊の面々と違い、訓練も受けていれば、彼らが一生遭遇することも無いような修羅場を幾多も潜り抜けてきた経験もある。だが、
それはあくまで対人や対MSでの話で、それらが“シャドウ”相手にどれだけ有利に働いてくれるかはこれまた全くの未知だ。
それに、“ペルソナ”での戦闘は今のところたった一度だけ、それも半ば茫洋とした意識下で行ったものだったため、
その感覚がどういったものなのか未だ掴めていない。もしそれが対人・対MS戦の感覚から大きく懸け離れたものだったとしたら、
今までの訓練や経験はほとんど役に立たない。最悪、それが足枷になることとて考えられる。そんな有様では、被害者の救出どころか、
今度こそ自分の命を失うハメになるかもしれない。
それを考慮すれば、自分よりも速く覚醒し、既に“ペルソナ”での戦いを経験している特別捜査隊の面々と協力した方が、
より確実に被害者の救出や“事件”の捜査を行えるのではないか。
それに私欲的な話だが、“事件”の裏側が裏側なだけに、“テレビの中の世界”も必然的に調べることになる。もしかしたら、
陽介の言うとおりその過程でC.Eに帰る手段が見つかるかもしれない。そのため、そういう面でもより“テレビの中の世界”について知る
彼らと協力した方が、元の世界に帰られる確率が高いといえる。
つまり、特別捜査隊の一員として陽介達と協力した方が旨味はあるが、そのために民間人の彼らを危険に晒すことを嫌い、シンは迷っているのだ。
「ま、好きなだけ悩んでくれよ、っと」
再三の溜息を吐いた後、陽介が視線を入口上側に掛けられた丸時計の方に向けた。
「――そろそろ0時だな」
時計盤を読み取ったのだろう彼の呟きに、一旦思考を中断してシンも丸時計に目を遣った。
丸時計は、長身と短針が共に12時付近を指し、秒針が丁度3時を通り過ぎた所だった。
続いて、ベッド奥の窓まで身を乗り出し、カーテンを少しだけ開いて陽介が外の様子を覗く。
「予報通り、雨は降ってるっと」
今日も見れそうだな、という陽介が呟く傍ら、電源の入っていないテレビの画面を見つめながら、
特別捜査隊加入の問いの後の事をシンは思い出していた。
件の問いに保留の返答を返した後、一旦その話題は打ち切られ、代わりにこれまでの捜査経緯を彼らが話し合うのを、
シンは横から聞く事になった。
彼らの話は何も分からないシンも同席している事を考慮したらしく、態々触れなくて良いような事まで触れた、
極々分かりやすいものだった。だが、その中に妙な点がある事にシンは気付いた。
特別捜査隊の面々が言うには、これまでの“事件”の被害者は全て女性。それも、最初の被害者 山野 真由美に
何らかの関わりを持った女性との事だ。例えば、二人目の被害者 小西 早紀は山野の遺体の第一発見者であり、
雪子ならば山野が失踪する直前に取った宿の娘という具合にだ。どういった思惑で犯人が彼女らを毒牙に掛けようと
したのかは不明だが、ともかく今までの被害者にはある種の共通点があったという事であり、それを基に犯人像を
推理する事もできたのだ。
ところが、明らかになったと思ったその被害者の法則に綻びが生じたらしい。何でも、次の被害者は“男性”だということが
判明したのだそうだ。
これまで特定の女性ばかりを狙っていたのが、急に心変わりしたように男性を狙うというのは解せないところだ。
確かに首を捻らざるを得ないだろう。だが、シンはそれとは別の疑問に首を捻っていた。
何故、“次に攫われるのが男性”だと、彼らは知っているのか?
さも何らかの情報源が裏にあるような口ぶりで話合いを進める特別捜査隊にその事を問い詰めたところ、
またもシンは常軌を逸した事実を知ることとなった。
「“マヨナカテレビ”、ねぇ……」
“雨の日の午前0時に、電源の消えたテレビの画面を一人で見ると、画面に自分の運命の相手が映る。”
そんな内容で現在、稲羽市に広まっている都市伝説。それが“マヨナカテレビ”だそうだ。
ヴィーノとかがこういう話聞いたら、絶対やるだろうな。
茶髪に赤いメッシュを入れた数少ない友人の一人である同期のミネルバの整備士の顔を思い浮かべて、
シンは薄笑いを浮かべた。
だが残念な事に、“マヨナカテレビ”とやらが実際に映しているのは運命の相手などという浮ついたモノでは無いらしい。
「ホントに映んのかよ? “次に攫われる人間”なんて」
共に“テレビが関係している”という以外に繋がりが存在するのかは未だ不明だ。
だが、どういうわけか“マヨナカテレビ”には“事件”の被害者となる、あるいはなっている人物の姿が映るのだそうだ。
「何だよ、信じてねーのかよオレらの話?」
正直なところ、何とも眉唾な話だとシンは思っていた。
この二日で様々な超常現象に触れる事となったシンだが、だからといってそういったものを
スンナリ受け入れられるようになったかといえば、そんなことは全くない。むしろ、今回は
今までのものよりも規模が小さくなっただけ、逆により疑わしいとさえ感じていた。
そんな根も葉も無さそうなオカルト話の類までもが“事件”に関わっているというのも、
その疑念に拍車を掛けている。
そういうわけで頷き返すシンに、やれやれと陽介が頭を掻いた。
「あーもう、どうせもうちょいだ。」
映ったら呼んでくれ、とだけ告げて、陽介が部屋から出る。それにより、シンのみが
陽介の部屋にいる状態となる。
つまり、一人で見るという“マヨナカテレビ”の条件の一つがクリアされた事になる。
再度、入口上の丸時計にシンは目を遣った。
午前0時まで後10秒を切った事を確認し、視線を灰色の液晶に戻した。
未だ半信半疑ながらも、心中でカウントを取りながらシンはその時を待った。
4……3……2……1……0。
「――ッ!」
カウントを終了させるや、反射的にシンは仰け反った。
低いノイズ音を伴って、電源の点いていない筈のテレビに、“光が点った”。
聞き及んでいた話通りではあったが、それでもそう呟かざるを得なかった。
「ホントに……映った……」
目を瞬かせるシンの眼前で、ザーザーと画面上を五月蠅く走る砂嵐越しに
“マヨナカテレビ”が男性のものらしき人影を映していた。
というわけで、PERSONA DESTINY 3rd PHASE終了させて頂きます。
読んで下さった方々、誠にありがとうございました。いやはや、前回の投稿から
大分時間が掛かってしまいました。恐らく次の投稿も長い期間を置くことになると
思うので、先に謝らせて頂きます。申し訳ない。
それでは、お目汚し失礼致しました。
糞の巻き添えでアク禁くらっちまってる早く他板に書き込みたい