そろそろ俺が佐々木希をつけまわした時の話をしようか
1 :
いやあ名無しってほんとにいいもんですね:
そろそろ語ろしてもらおうか
2 :
いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/10/05(火) 21:29:32 発信元:219.186.127.183
あれは今年の五月の12時ごろだった
京王井の頭線「西永福」駅から徒歩約5分ほどにあるスーパーマーケットの「サミット」の前で俺は紛れもない佐々木希を見た
朝から続いていた雨が上がり、
爽やかな陽がさしはじめてきたところに、
前方からショートパンツとジャケットという割とリラックスした格好に、
サングラスをかけた抜群にスタイルの良い女が軽やかに歩いてきたので、
思わず俺は見とれてしまったのだ
3 :
いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/10/05(火) 21:33:01 発信元:219.186.127.183
パッと見たときには、モデルか何かかな、と思ったのだが、すれ違う際間近で顔を見たとき、俺は自分が見入ってしまったことに納得ができた
トンボの様な大きなサングラスをかけていたので、瞬間にはわからなかったが、168cmという日本人離れした長身、スラリと伸びるカモシカのような足、手の平におさまるぐらいしかない顔
それは文句の付けようがない完全な佐々木希だったのだ
4 :
いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/10/05(火) 21:37:55 発信元:202.229.176.163
6 :
いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/10/05(火) 21:58:02 発信元:219.186.127.183
俺はまず自分の指の本数を数え十本あることを2回確認し
(一回目に数えた時には9本しかなかった)、
手の平を太陽にさらし血が通っていることを確認した
そしてその手で頬をつねり、ここが現実の世界であることを確認した
7 :
いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/10/05(火) 22:01:20 発信元:219.186.127.183
俺は呆然とその場に立ち尽くした
それでもなんとか目だけを動かし、
奴の後ろ姿を追っていると、西永福の駅に向かって歩いていくことがわかった
そしてもちろん俺もその後を追うことになった
8 :
いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/10/05(火) 22:03:51 発信元:219.186.127.183
やはり電車のホームでも、佐々木希は一際目を引く
しかし平日の昼時ということもあってか、西永福の駅には、せわしなく手帳をめくるサラリーマンや、半世紀も前に性欲を捨てた年配のババアやジジイばかりで、周りの人達はまったく気づいていない
そんな中俺はしっかりと10mほどの距離を保ち、携帯に夢中になっているふりをしながら、様子を窺っていた
9 :
いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/10/05(火) 22:16:59 発信元:219.186.127.183
そして電車がホームに到着し、俺は奴と同じ車両に乗りこんだ
奴はドアの前で、身長測定のようにしっかりと背筋を伸ばし、窓の外の奴とは対照的な平凡な街並みを眺めていた
大体その時点で俺は、20分ほど佐々木希を見ていたことになる
そして僕はふっ、と自分がストーカーのような行為をしていることに気づいた
横目でチラチラと見て、戦略的に距離をとって歩き、足から頭の先まで身体のスミズミまで眺めている
「なぜ俺はこんなことをしているんだろう。これは佐々木にとったら気持ちわるいことなのではないか」と俺の中ではいろいろな気持ちが生まれていた
ささきき
11 :
いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/10/05(火) 23:01:39 発信元:219.186.127.183
しかし俺の好奇心はそんな気持ちよりもずっと強いものだった
佐々木希がどこで何をするのか、何処に向かっているのか、そしてもっと眺めていたいという気持ちが俺の心、頭、身体をも支配していたのだ
もう俺は開き直り、「こうなったらとことん、ついていってやろう」と、心を決め、緩んでいたスニーカーの靴紐を締め直した
そして佐々木希は、渋谷駅で降りた
もちろん渋谷駅は、西永福駅とは違い、ものすごい人の山だ
「やれやれ、これじゃ見失ってしまうかもしれないな」と俺は不安になりながらも、これでこのストーカー行為を止められるかもしれない、とどこかでホッとしている部分もあった
しかしどんなに人ごみがあろうと、俺が佐々木さんを見失うことなかった
12 :
いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/10/05(火) 23:05:14 発信元:219.186.127.183
それは佐々木希の姿はどんなに人ごみの中にいても、すぐに見極めることができてしまうのだ
その長身もそうだが、なにより、その輝きがそうさせるのだ
背筋を伸ばし、1点だけを見つめながら歩くその姿には、芸術的な要素さえ含まれているかのよう
自分の進む道を迷うことなく最短距離で進む
その一歩一歩には次の一歩の為の準備があり、そして対策がある
傾向と対策
彼女の歩き方には、人生の哲学のようなものすら感じられるのだ
そして俺はその佐々木希の一切の乱れのない行進が放つ、淫靡な光に魅せられ足を止めることができなくなっていったのだ
13 :
いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/10/05(火) 23:06:27 発信元:219.186.127.183
佐々木希はそのカモシカのような足で小気味良いステップを踏みながら渋谷駅から246号線をまたぐ歩道橋を渡り、
人並みをかき分け、どこかに向かい一直線で歩いていく
その歩きは目的をしっかりもった人だけができる歩きかただ
そして5分ほど歩いた頃、目の前には渋谷を代表する高級ホテル、セルリアンタワーがそびえたっていた
14 :
いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/10/05(火) 23:09:04 発信元:219.186.127.183
俺は愕然とした
その威圧感をたずさえながらそびえたつセルリアンタワーの姿は、
俺に巨大なギロチン台を連想させた
「終止符」
まさに未来も希望もなく、全てをそこで終わらせるあまりに無慈悲な建物
俺は途方にくれた
「さすがの俺でも、この中にはついていくことはできない」
俺のこの旅もここで終わり
追加も続編も一切ない
これまで彼女の後を歩いてきた、
約30分が走馬灯のように脳裏に浮かんできた
15 :
いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/10/05(火) 23:10:07 発信元:219.186.127.183
スーパーマーケットの前での出会い
桃源郷のような電車内
世界を少しだけ幸せにするようなウォーキング
その光景は俺を内側から溶かしていく
しかしそれと同時に現実の世界の味気なさをまざまざと俺に感じさせた
希望のあるところには失望がある
16 :
いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/10/05(火) 23:12:38 発信元:219.186.127.183
俺がそんな思いにふけっている間に佐々木希はもうセルリアンタワーのエスカレーターのふもとに差し掛かっていた
その時だった、俺の身体は俺のあきらめよう、
という思いとは別の動きを見せ始めたのだ
足が回転数を上げ、人ごみをかき分け、佐々木希との距離を一気に詰めていく
そして気づいたとき俺はそのエレベーターで佐々木希の真後ろにつけ、
奴の肩に向け、手を伸ばしていたのだった
17 :
いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/10/05(火) 23:30:16 発信元:222.5.63.46
18 :
いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/10/11(月) 02:24:51 発信元:121.107.209.134
つづく
19 :
いやあ名無しってほんとにいいもんですね:
つづくのかよ!