パソコンの脇にアマチュア無線機を置いて、消防無線を傍受してる。
「…東京消防から各局、新宿区出火報…」
「…田端2から東京消防…」「…八雲化学機動中隊、硫化水素100ppmを検出…」
「…各局しばらく待て、神田指揮1用件どうぞ…」「…田端2から、東京消防…」
「…発信局音声断続しました…」「…田端2、から東京消防…」
相変わらず東京は災害が一杯で、途切れることなく通信が続いていたが深夜2時過ぎになると、
さすがに通信も少なくなり、無線機からは「さーーーーー」というノイズだけが流れてくる。
何気なくノイズに耳を澄ませてみたら、かすかに人の声っぽいものが混じっていることに気付いた。
「……区……町……○○……9……」
消防無線って、電波を送信する消防署や消防車が、家から遠いと、雑音混じりに聞こえるもんなんで、
最初は、ああ、またどこか遠くで送信してるな、と思ったんだが、同じ声で徐々に鮮明に聞こえてくる。
「……田区………田町……○…9階……」
「…千代田区…永田町……○…9階…」
おかしい。同じことを何度も繰り返すことなんて消防無線ではありえない。俺は、ただ、その声に聞き入っていた。
「…千代田区永田町○−○−○…ホテル……9階……」
この住所……、消防マニアなら誰でも知っている、30年前の大火災の現場だ…。俺の背中を冷たい汗が流れた。
「…千代田区永田町○−○−○…ホテル○○の9階にいる! 助けて!」
その瞬間、無線機から猛烈なハウリング音がして、家のブレーカーが落ちた。
ブレーカーを戻し、恐る恐るアマチュア無線機の電源を入れなおしたが、もう、あの声は聞こえなかった。