827 :
リラックマ:
そんな感じの事いいながら警察に行った女がいたな。
借金踏み倒すためにどうしたら良いか考えた末、
「相手は気が小さいから警察に電話してもらえばビビって諦めるだろう」という
極めて安易な考えで、まるで交番に道尋ねる気分で警察署に行ったのだ。
女はしたたかだった。
あくまで自分からは「ストーカー」という言葉を出さず、
警察がミスリードをするような証拠、すなわち契約に関する証拠は一切伏せ、
誤解を招きやすい請求に関わる証拠のみを出し、一言「これどうですかねぇ?」
たまたま担当となった警官はまだ未熟で女性経験の少ない醜男だった為、
信じ込ませるのには時間がかからなかった。
「これはストーカーだね。」
警官は自信に満ちた顔でこう言った。
「大丈夫、今からこいつに電話かけてあげるから。安心していいよ」と。
まるで大船に乗ったつもりでいろと言わんばかりに。
女はうつむいた。勿論でっちあげなのだ、恐怖など無い。では演技の為?否。
女は「にやけ」が止まらなかったのだ。
すべては自分の思い通り。うつむいてほくそ笑む女。
「勝った!」と。
しかし想定外の事態が起きた。
828 :
リラックマ:2009/11/29(日) 12:42:21 ID:jRuIR/a4
続き
警察から一枚の紙を渡された。
それは警告申請用紙だった。
相手の住所指名年齢電話番号は勿論、自分の個人情報も同じようにすべて書くよう求められたのだ。
「ただ電話だけかけてもらう」、それだけのはずだったのに。
女はかつて学生時代に不良グループの車に傷を付けた容疑で追われていたことがあった。
捕まればリンチか輪姦、あるいは援交してでも吹っかけられた多額の弁償をさせられるところだった
しかし、そのとき助かった方法は、周囲から恐れられている自分の先輩に電話をかけてもらい、
それによって自分は九死をえたのだ。
女にはその時の記憶が強く残っていた。
「電話さえしてもらえば…」
しかし渡された用紙を見て女は真っ青になる。
これを書いたらもう後には引き返せない、
しかし、ここで書かなければ自分が疑われる。
女は細心の注意をして言葉を選んだ。
男の住む都市は俗にいう「平成の大合併」と呼ばれた地域再編成で名称が変わっていたので
あえて以前の呼称を書き、番地まではわからないと答えた。
電話番号も、男は2台携帯を持っており、解約するといっていた方の番号を書いた。
写真の提出も求められたがこちらはプリクラ写りが詐欺的なまでに実物とは似ても似つかない姿だったのでそれを出した。
女は祈った。男が電話を解約していることを。
電話が繋がらなければ、「じゃあいいです。警察に行ったことを直接相手に伝えますので。では…」
と言って立ち去ることが、女がふと描いた最善のシナリオだったのだ。
しかしもう狂い出した歯車を止めるすべはなかった…
829 :
リラックマ:2009/11/29(日) 13:05:57 ID:jRuIR/a4
電話は繋がってしまった。
加えて、警察官は若い女の前ということで良いところを見せたかったらしく
無駄に張り切っていた。
女は「接触禁止だけ言ってさっさと切れ」と思いながら
警官が電話をかけながら自分にときどきチラッ、チラッと視線を送られることに嫌悪感に近い感情を持っていた。
警官は民事不介入といいながら、個人、一般の意見として民事判断まで下して男を叱責しているのが聞こえてくる。
話の内容は大方予想できたが、男は当然冤罪を主張し、警官はそれに対し罵倒でねじふせていた。
30分、いつ終わるとも知れない人の電話を聞いている時間はとても長く感じた。
受話器を置いた警官の第一言は、「やっぱちょっとおかしい人だね」だった。
それはそうだろう。ストーカーという先入観、偏見を持って接し、冤罪を主張し続ける姿は
まるで見苦しい言い訳をする未練がましいストーカーそのものだったのだ。
「警官はもしなにかあったらまたすぐ来てね。いつでも相談に乗るから」
とやたら親身に接してくる。
おそらく男だったらこうはならないだろう。
まるで見返りを求めているような気持ちの悪い警官の態度には吐き気さえする
女は警察署を出て車にのり真っ先に感じた感情は「罪悪感」だった。
しかし、相手は気の弱い優男、もうこれですべて終わったと
後味の悪さを感じながらも、終わったという達成感のようなものを感じていた。
しかし、これは終わりではなくはじまりだった。
830 :
リラックマ:2009/11/29(日) 13:37:57 ID:jRuIR/a4
続き
翌日の夜、男から物凄い長文のメールが送られてくる。
内容は「誤解」というもので文章は警察を意識してか、すべて敬語だった。
メールが届いたことは別に驚くことでは無い。
なぜなら実際は被害など受けていなかったのだから受信拒否などする必要がなかったからだ。
むしろ、あの気の弱い男が警察の警告を無視してメールをしてきたこと事態に驚いていたのだ。
勿論、「誤解」などない。女がそう仕組んだのだから。
しかし、その男のメールには目を疑う一文が書かれていた。
「契約時の証拠のメールはすべて残っている」
女は血の気が引いた。ありえない。半年も前のメールが残っている事など。
もしそれが事実なら自分の人生は終わる。
しかし、女は警察官を味方に付けたことで不安より自信が上回っていた。
警察官は「契約書を書かなければ契約ではない」、といっていた。
それに男が臆病者であるということはメールの文面から伝わってくる。
男が警察から警告を受け狼狽している旨が切実に書かれていたからだ。
「まだ20代の臆病な男がいきなり裁判など出来るわけない。」
女はそう、たかを括っていた。
女はこのメールが送られてきたことを警察には伏せた。
理由は勿論、この男の隠し玉の「証拠」が事実なら自分が危ない。
それに、男はしたたかだった。メールの節々に女がこれまでおこなって来た不法行為が書かれていたのだ。
こんなものを警察に見せられるはずがなかった。
女は考えることを止めた。
「自分でしたことだし、なるようにしかならない。」
女は考えることからも逃げた。
831 :
リラックマ:2009/11/29(日) 14:15:20 ID:jRuIR/a4
続き
それから2ヶ月がたった。
男は結局、裁判など出来なかったのだ。
そう安心していたその日の夕方。いつもと違う仰々しい封筒を郵便配達員から直接渡された。
封筒には「裁判所」とかかれていた。
男は諦めてなどいなかったのだ。
金銭がどうこうというよりも、信じていたものに裏切られ、陥れられたことが男のプライドに火を付けたのだろう。
中には裁判の手引きのような用紙と訴状、そして何枚かの写真が入っていた。
訴状には契約不履行に関する少額訴訟の内容、
写真には契約時のメールが映し出されていた。
10ヶ月も前の記憶が見る見る蘇る。
「見覚えがある。間違いなく自分のメールだ…」
女は初めての事に不安で暫く心臓がバクバクだった。
その日の夜はほとんど眠ることが出来なかったが
翌日、藁にも縋る思いで弁護士会に電話をかけた。
そこで紹介された弁護士は、白髪頭で60過ぎの初老のベテラン弁護士だった。
訴状を見てしばらく黙りこみ、出てきた一言目は
「結論からいうと…払わないとダメだね」。
納得のいかない女は、警察の件、自分に払う意志がない件を伝えた。
そこで弁護士があることに気付いた。
「この人、弁護士入れないで自分でやってるね」
裁判には弁護士を雇わなければいけないと思っていた女は驚くと同時に、
無謀な事をしていると素人でも感じた。
弁護士はこう切り出した。「相手は初心者、素人一人。通常裁判に切り替えて弁護士が出ていけば
怖じけづいて訴えを取下げるはず。」
女はこの瞬間、張り詰めていた不安から解放され、どっと安心感から笑顔がこぼれた。
この選択で勝ちが大きく遠ざかったことをこのときはまだ知るよしもなかった
832 :
リラックマ:2009/11/29(日) 14:45:03 ID:jRuIR/a4
裁判当日、女の弁護士は裁判所にそれらしい男がいないことに気付く。
開廷直前、書記官が一人の青年を連れてきた。
弁護士は目を疑った。
証言台を挟んで自分と相対している男の姿は、
あまりにか弱く、華奢で、大人しそうな真面目そうな男だったのだ。
女から聞いていた恐ろしい若者、いわばチーマー的な姿を想像していた弁護士は拍子抜けだった。
被告である女と同系統の人種を想定していたが、目をの前にいた男は、
いうなればその女の方がたくましく見える、そんな感じだった。
弁護士が期待していたのは外見とは別の面である。
街で遊んでいるような若者であれば法律など知るよしもない、
プロの弁護士からすれば赤子の手を捻るようなもの、
しかし、とんでもないことが起きた。
提出された男の準備書面の質は専門家が作成したものと相違なかったのだ。
否、違う。男は真似をしたのだ。弁護士である自分が作った書面をそっくりそのまま
テンプレート化し、自分用に書き替えていたのだ。
形勢は大きく変わった。
女の言い分を鵜呑みにして男を過大なまでに恐ろしいと強調したことが、
とてもそうは見えない本人を前にして著しく心証を害したのだ。
そしてやはり男はしたたかだった。
まだ証拠があると主張してきたのだ。
弁護士はとっさに「元は少額訴訟なのだから証拠が全て出てないのはおかしい」と抗弁をするも、
男は「初めてなのでよくわかりませんでした」と流す。
したたかというよりも食えない奴である。
弁護士はこんなはずじゃない、と困惑を隠せなかった。
第一回期日はこうして幕を閉じた。
833 :
リラックマ:2009/11/29(日) 15:08:09 ID:jRuIR/a4
第2回期日前
被告側の方針はぎりぎりまで決まらなかった。
錯誤無効で行くか、強迫取消で行くかで決めかねていたのだ。
勿論、女が真に被害者であるなら話は早い。
しかし弁護士も明らかに事情がおかしいことに気付きはじめていた。
ただ、一度引き受けてしまった以上、途中で投げ出すことはベテランの意地が許さなかったのだ。
弁護士は強迫を前提として、どちらでも行けるよう応用の効く書面を作成した。
熟練の弁護士、抜かりはなかった。
それでも弁護士は別に危機を感じていたわけではない。
原告側の主張には大きな欠陥があったのだ。
契約を構成する法律要件がほとんど欠落していたからである。
決定的な知識不足、証拠不足が浮き彫りとなり
ここでプロと素人の詰めの甘さが露呈したのだ。
弁護士はこれらをひとつひとつ指摘していき、
勝利を確信して準備書面を投函した。
弁護士をなめるな、そう聞こえてくるほどの絶対的な余裕を見せ、
弁護士は笑いながらまるでコーヒー牛乳のようにクリープをたっぷり入れた甘そうなコーヒーを飲んでいた。
834 :
リラックマ:2009/11/29(日) 15:37:33 ID:jRuIR/a4
第2回期日前日夜、
裁判所からFAXが送られてきた。しかも大量に。
それを見た弁護士はいそいで女に電話をかけた。
「話が違う!」
送られてきた書面には、弁護士がひとつひとつ指摘した法律要件を、
まるで答案用紙をみるかのごとく、
ひとつひとつ立証されていたのだ。しかも証拠の甲号証付きで。
隠し玉がまだあったのだ。
弁護士は女に「これはもう厳しいから、どうなるかわらないよ」と告げ、
女が事実を話していなかったから悪いという形に持っていこうとしていた
しかしよく考えてほしい。勝利を確信して男に法律要件について準備書面上で説明のような真似をしたのはこの弁護士であり、
男はそれを見て法律要件を学び、全て揃えて立証してしまったのだ。
完全に男をナメていたのだ。
男は初心者ということを隠れみのに証拠の出し惜しみをし、女の矛盾を虎視眈々と狙っていた。
この時にはもう準備書面の作成能力もどちらが弁護士の作ったものなのか
印鑑で見分けるほかないほど肉薄していた。
弁護士はあまりに甘すぎたのである。
835 :
リラックマ:2009/11/29(日) 15:50:41 ID:jRuIR/a4
期日当日、法廷内で被告側がアウェーの空気を感じていた。
裁判官すら、初心者であるにも関わらず一人で真剣にプロの弁護士に立ち向かう姿に感化されたかのように感じてしまうほどだ。
裁判官が被告側に反証の証拠をあるなら出せと提出を強く求める。
言葉に詰まる弁護士。
そこで原告が思いも寄らない一言を口にする。
「こちらもまだ証拠あります。」
おそらく、証拠がもう無いと言ってしまえば
そのあと隠し玉を出しても採用されなくなることを恐れたのだろう。
証拠を持たず手詰まりだった被告側はそれを見逃さなかった。
原告の証拠は言わば失われた契約当時の記録であり、
被告側にとっても証拠となりうるものである。
1フレーズでも強迫めいた言葉があれば形勢逆転のチャンスである。
裁判官は原告側の証拠はもういい、と制止するが
弁護士は食い下がり、結局原告の意志ということで
次回、原告が証拠を出すということで幕を閉じた。
男がどんな証拠を出してくるかで結末がかわる、
そんな一大局面だった
836 :
リラックマ:2009/11/29(日) 16:10:44 ID:jRuIR/a4
第2回期日後、
弁護士は帰って女にこう告げた。
「今とにかくこっちの心証が悪い。」
隠し玉を警戒し、どうにでも解釈できるようにしてある曖昧な主張、
再三に渡る原告側のこちらの不実の立証、
ましてや弁護士相手に真面目そうな若い男が生まれて初めての裁判で
真剣に取り組み、弁護士を打ち破っていく姿は旗から見ても爽快でありドラマ的、
自然と応援したい気持ちになってくる。
いつの世も立場が上の者を弱者が打ち倒すストーリーは好まれるものである。
こんな話を弁護士からされた女は、後にとんでもないことをしでかすことになるのであった。
一方、男から送られてくる書面はいつもギリギリである。
女の弁護士も他にいくつも案件を抱えているため、
常に先手を打つ形になっていたが、
今回は出さなかった。なぜなら証拠など始めから何もなかったからだ。
思えばろくな証拠調べも無しに独断と思い込みで行動した
未熟で愚かな警察官がいなければ、ここまで事態はこじれていなかったのである
「こんなはずじゃなかった」
女はそう思い始めていた。
そして弁護士も。
837 :
リラックマ:2009/11/29(日) 16:28:28 ID:jRuIR/a4
第三回期日当日
男が出す予定の「契約時の証拠」は女にも重要だった。
なぜなら例えどんなささいなメールであったとしても、
その当時の状況をしめすものであるからだ。
すなわち一歩間違えば男にとっても致命傷となりうる。
相手はプロ、男は素人なのだ。
しかし、どうしたことか当日になっても書類がこない。
弁護士が思わず「あの…証拠は?」
それに対し男は一言、
「初心者なんで勘違いしてました(テヘッ」
さすがにこれには皆「このガキぃ〜」と心の中で思ったろう。
男が途中で危険性に気付いたのか、
それとも弁護士を雇っていない故にできる時間稼ぎだったのかはわからないが、
いずれにせよ男にとって状況は有利にはたらいたのだ。
こうして、あての外れた弁護士が次の一手を練ろうとした瞬間、
誰もが思いもよらなかった人物が突如、法廷に乱入してきた。
838 :
リラックマ:2009/11/29(日) 16:46:44 ID:jRuIR/a4
乱入してきた者の正体は、女。
そう、このストーカー事件をでっちあげた張本人だった。
一同唖然。
弁護士も開口一番「…なんできたの?」
裁判官も同じく「今日は特に来ていただく日ではないんだけど…(苦笑」
原告の男は絶句していた。
それもそのはず、裁判は代理人である弁護士に任せ
書面上では外も歩けないほど精神的な苦痛で怯えて暮らしていた、
という設定だったはず女が単身、裁判所に乗り込んで来て原告にガンを飛ばし、
あろうことか契約時の姿とは見違えるほどの健全な姿(肥満体)を法廷で晒したのだ。
書面では飯も喉を通らないくらいの設定だったはずなのに…。
この結果、代理人がこれまでコツコツ作り上げてきた「か弱い女の子」像が一瞬で消し飛んだのである。
なぜ女がこんなことをしたかというと、弁護士から言われた
「初心者の若い人間が懸命に頑張ってる姿を見て
裁判官も若干向こうの肩を持っている」
という言葉を真に受け、
「なら自分も」と思い、考え無しで飛び込んできたのだ。
自爆である。