地裁と高裁、どっちがリベラル?

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93特報:京都アジ化ナトリウム事件
〇主たる、判示事項

(一)自白調書と実況見分調書について 証拠申請を却下した1審裁判所の措置が、
   訴訟手続きの法令違反に当たる、とされた事例
(二)被告人の 犯人性を 否定 して 無罪とした1審判決が破棄され、
   有罪方向で、 第1審裁判所へ 差し戻す 旨の 控訴審判決。

事件番号:平成15年(う)第856号 (http://courtdomino2.courts.go.jp/kshanrei.nsf/$help
2004年8月05日判決宣告
裁判所書記官 〇〇〇〇

被告人:不拘束(原審段階で、保釈)

被告人に対する 浄水毒物混入,傷害 被告事件につき、
京都地方裁判所が、平成15年2月28日に言い渡した判決http://courtdomino2.courts.go.jp/kshanrei.nsf/webview/CDFF19554250E60849256D02001BB3BA/?OpenDocument
に対して、 検 察 官 か ら 控訴の申し立て があつたから,

当裁判所は、次のとおり 判決する。
           主   文
原判決を破棄する。
本件 を 京都地方裁判所に差し戻す
     (http://courtdomino2.courts.go.jp/K_home.nsf/CoverView/HP_C_Kyoto?OpenDocument

          理 由(要 旨)

序論.
  本件 控訴の趣意は、京都地方検察庁 検察官Pk作成の 控訴趣意書に、
  これに対する答弁は、村井豊明弁護人(主任)ら3名 共同作成の 答弁書に
それぞれ 記載されているから,これらを 援用して, 説明に代える。
94特報:京都アジ化ナトリウム事件:04/08/06 14:39 ID:MdmYQdnb
第1.検察官の控訴趣意
           論旨は、要するに、
「原判決は、検察官請求番号”甲”202号証,203号証の 各自白調書と、
実況見分調書などを 平成13年11月8日に【証拠排除】する 決定をしたが,
これらは、取調官のT巡査部長の 脅迫行為 が あつたとされる時点より 前
に作成されているから、これらについて 証拠排除 の決定をした 原判決には、
訴訟手続きの法令違反(http://www.houko.com/00/01/S23/131B.HTM#379)があり,
なおかつ,その他の 自白調書類などについても 任意性があるのに,
任意性を認めなかった 原審の措置には、
判決に影響を及ぼすことの明らかな,訴訟手続きの法令違反がある」__訴訟手続きの法令違反の主張
95特報:京都アジ化ナトリウム事件:04/08/06 14:40 ID:MdmYQdnb
「被告人が、【犯人】であることは、関係証拠上 明らかであるのに、
これらを看過して 被告人 を【無罪】とした 1審判決には、
判決に影響を及ぼすべき、事実誤認(刑事訴訟法382条)がある」___事実誤認の主張
と、いうのである。
           第2.当裁判所の判断
〈1.総論〉
     そこで、記録を調査して、当審における事実取り調べの結果をも 併せて検討するに、
【要旨第1】
      被告人の 原審公判における供述は たやすくは信用できず、かえって、
@取調官のT巡査部長の原審証言,A取り調べ検察官のK検事の原審証言 は信頼できる
のであって、

これらの自白調書・実況見分調書の 任意性 は充分に認められる。

そこで、以下、所論および 答弁にかんがみて、
説示する。
96特報:京都アジ化ナトリウム事件:04/08/09 17:42 ID:vAn1cRwH
=2. 各論=
◇(1)供述状況 と本件の経緯

 @平成11年10月28日、国立療養所U施設2階医局のポットに、何者かによつて、
  アジ化ナトリウム(http://www.tokyo-eiken.go.jp/topics/echudoku/sazide.html)が混入され、7名が中毒症状になった。
           
 A捜査に着手した京都府警察(http://www.pref.kyoto.jp/fukei/koumoku.html
では、同U施設の医師から提出を受けた 人尿 のうち、
  本件 被告人の尿から「のみ」、高濃度のアジ化ナトリウムが検出された(その 分量は、217ppm)
ことから、被告人に対する 嫌疑 を深めていつた。
 Bそして、被告人は、平成11年11月28日から事情聴取を受けたが、翌年3月07日、
  令状裁判官の発付した逮捕状により、通常逮捕
http://www.houko.com/00/01/S23/131A.HTM#199)されるに至った。

C逮捕された被告人は、当初は、犯行を全面的に否認していたが、3月19日になって、「自分も,アジ化ナトリウムの
入った珈琲を飲んだと、虚偽の事実を述べていました。」と供 述し、

3月20日には、「わたしが やつたと認めれば、家族に迷惑がかかるので、事件の
ことは認める気にはならなかった」
        「私はU施設のY理事長に尿を提出する前、その自分の尿の中に、
アジ化ナトリウムを混ぜたのです」
などと、不利益な事実を承認することとなつた。
97特報:京都アジ化ナトリウム事件:04/08/10 12:53 ID:tJhWl+sI
Dそして、平成12年5月10日に京都地方裁判所で行われた 原審.第1回公判で
 被告人は、本件 公訴事実 を 否認 し、
E現在にいたつている。
          ◇(2)原審裁判所の判断
原審裁判所は、
平成13年11月08日付け 証拠決定(引用者注:判例時報に掲載済),
平成15年2月28日宣告の 原審判決(http://courtdomino2.courts.go.jp/K_home.nsf/CoverView/HP_C_Kyoto?OpenDocument
において、それぞれ、

 @警察官調書については、T巡査部長が、あたかも暴力団関係者の力を誇示して、
被告人の家族に脅迫を加えるかのような 違法な取調べをした と【認定】し、

 A検察官の調書についても、K検事がT巡査部長による 違法な取り調べを遮断する措置を取らず、
自白すれば執行猶予がつく可能性や、医師免許の取り消しについてなどの事由を、被告人に質問するなど、
およそ、被告人の心理状態に配慮をしていないとして、
それらの検察官調書の 証拠能力を排斥した。

 Bまた、実況見分調書についても、その実質は、自白と同様の趣旨に過ぎないし、
T巡査部長やK検事による 不適切な取調べの影響を受けているなどとして
証拠能力を否定した。
98特報:京都アジ化ナトリウム事件:04/08/11 12:05 ID:SQ0fArTk
        ◇(3)当裁判所による検討(総論)

ところで、原審裁判所の判断は、上記 調書の証拠能力を否定する主たる理由として、
T巡査部長による脅迫行為を<認定>している。
すると、仮に、これが<否定>されれば、これらの調書については 任意性 が肯定され、
証拠能力を有する、といわなくてはならない。
          ◇(4)弁護人の見解(総論)

なお、弁護人は、答弁書の中において、本件では、捜査段階で
・利益誘導や
・約束による自白 により、被告人の自由な意思決定を害して
これらの調書が作成された___と主張している。
 
          ◇(5)自白調書の任意性判断の概論

しかしながら、@本件では、仮に、T巡査部長による,不当な取り調べがあつたとしても
そのことと、自白との間に 「因果関係」 を肯定することは困難であるし、
A本件においては、長時間にわたる取り調べがあつたとしても、
 それだけをもって、任意性を否定することはできない。
(cf. http://courtdomino2.courts.go.jp/schanrei.nsf/VM2/363C882294D8C43549256A850030A997?OPENDOCUMENT

本件においては、
・(1)M弁護士が 弁護人として選任され
・(2)被告人の逮捕後も、連日、M弁護士や 逮捕後に選任されたO弁護士が、
   京都府警察太秦警察署において、毎日30分から60分の接見をしていたこと
の経過が 関係証拠 により明らかである。

これらの事情をあわせて考慮すると、さきの<原判決の,説示>は、多分に性急な説示であつて、
当裁判所としては 賛同しがたいところである。

99特報:京都アジ化ナトリウム事件:04/08/12 14:19 ID:AMMzUB+k
◇(6)原審公判での、被告人発言の要旨

なお、原審の京都地方裁判所.刑事法廷(cf http://courtdomino2.courts.go.jp/K_access.nsf/3e7559fdc45c994e49256b13000483a3/0dd69260fe2448de49256b5e00124639?OpenDocument)にて,
被告人は,およそ 次のように 述べる。

「わたしは、通常逮捕された,平成12年3月07日以降,ずっと【否認】していたが,
勾留理由開示公判(http://www.houko.com/00/01/S23/131.HTM#083)の終了後、T巡査部長から、
『お前は、本当の ヤクザのおそろしさ を知らない』
『お前の自宅近くに事務所がある 指定暴力団B組(http://www.1101.com/torigoe/archive/2000-10-04.html)は、
若頭が凄い奴や。いわゆる【ベラミ事件】の実行犯だ。http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/085/1080/08510191080002c.html

『お前の家には、 小学生の子ども がおるやろ。』

『自分は、ボウタイ(暴力団対策の部署)とセイアン(生活安全の部署)にも,顔が利く。
しかも、京都府警3万人の組織に お前がかなうわけがない。お前は言わば、
 ダンプカーに,自転車で体当りするような モン やで。』

『弁護士なんて、おれら警察には関係 あれへん。
たとえば、坂本堤弁護士(http://www.nichibenren.or.jp/jp/katsudo/sytyou/kaityou/90/1992_18.html)は、
ふだん、警察にさんざん、文句ばかり、ゆうとった。
せやから、ワシらに楯突くんやったら、弁 護 士 か て ,助からへんのや』
などと言われた。
 そこで、家族を守るためならば、止むを得ないと考えて わたしは 自白した。」__というのである。

   ◇(7)検察官証拠請求番号「甲」202号,203号の 証拠能力について

ところで、原審裁判所の 前記決定(>>97 参照)および 原審判決(http://courtdomino2.courts.go.jp/kshanrei.nsf/webview/CDFF19554250E60849256D02001BB3BA/?OpenDocument
を見ても、
検察官証拠請求番号「原審.甲202号」同じく「203号」が 証拠排除された理由は
明らかではない。
100特報:京都アジ化ナトリウム事件:04/08/12 14:32 ID:AMMzUB+k
さらに、当裁判所として,くわしく検討するに、http://courtdomino2.courts.go.jp/K_hotei.nsf/CoverView/HP_K_Osaka?OpenDocument&Start=1&Count=1000&Expand=1

・検察官が、量刑について、取調べ中に述べていたとしても、それ自体が、特に任意性を
 失わせるようなものとはいえないし、(>>97

・先に述べたように、連日、30分から60分ずつ、毎日のように弁護士と接見していた状況(cf http://school4.2ch.net/test/read.cgi/shikaku/1048764259/175

・そして、原審法廷における、取り調べ検事のK検察官(京都地方検察庁.所属)によれば、
 「取り調べ状況は、ほぼ、弁護人に筒抜けでした」と述べているが、

・これは、前記の 客観的な状況とも符合しており, 信用性は 高い。

そうすると、これらの2通の 検察官面前調書については、任意性を否定するような事情は乏しい。
101特報:京都アジ化ナトリウム事件:04/08/15 14:03 ID:IhJVPx16
また、弁護人は、この点に関して、(>>98 で触れたような)
被告人の自由な意思決定を妨げる
取調べが、検察官による聴取でも為されていたと述べるけれども、
この主張は、前提を欠いていると、当裁判所は確信するので、
弁護人の主張は 採用の限りではない。

また、被告人本人は、「あらかじめ、ワープロ打ちされた調書が用意されていて、
それに署名指印させられたに過ぎない。」と述べる。
 し か し な が ら,検察官の原審証言によれば,
@それらの調書類は、前日や前々日の取調べ結果を まとめたものに過ぎないし
A被告人の申し立てに従い、「調書の訂正」
http://www.houko.com/00/01/S23/131A.HTM#198)の措置も実施している
というのである。
(そして、検察官の原審証言が信用できることについては >>95 でも触れた。)

         ◇(8)供述調書の任意性をめぐる 小括

結局、検察官の所論は、概ね、これを首肯することができるのであつて、これらの調
書類
について、当裁判所は、
http://courtdomino2.courts.go.jp/K_hotei.nsf/CoverView/HP_K_Osaka?OpenDocument&Start=1&Count=1000&Expand=1

刑事訴訟法322条(http://www.houko.com/00/01/S23/131A.HTM#322)により、
証拠能力を肯定することとした
102特報:京都アジ化ナトリウム事件:04/08/15 14:05 ID:IhJVPx16
◇(9)T巡査部長による脅迫行為の「有」「無」について

この点について、検察官は、控訴趣意書の中で、

「 (1)ポン中.極道や ハトを飛ばすという言葉が、仮に、T巡査部長の口から発
せられていても、
   それは、何ら、供述調書の任意性には 影響を及ぼさない。
 (2)だいいち、ベラミ事件の実行犯は、B組若頭のMではない。
 (3)そして、京都府警察の警察官の人数は、3万人などでは、ありえない。
 __ようは、(1)(2)(3)について、被告人の発言こそ、虚偽である。」

「(4)たしかに、B組若頭のMは、平成12年、京都府警察太秦警察署
http://www.pref.kyoto.jp/fukei/shozaichi.html#sho)に
  逮捕されているが、T巡査部長は、なんら、Mとは面識はない。
 
 (5)じっさいの取り調べ時間と、被告人の原審法廷での発言には、 矛盾がある」
 などとして、
 「これらに照らすと、被告人は、<何らかの方法で>B組のMに関する情報を得
て、
話を創作したのだ」___と述べる。

          
103特報:京都アジ化ナトリウム事件:04/08/15 14:05 ID:IhJVPx16
そこで、当裁判所として 検討する。 http://courtdomino2.courts.go.jp/K_hotei.nsf/CoverView/HP_K_Osaka?OpenDocument&Start=1&Count=1000&Expand=1

まず、括弧1.についてであるけれども、T巡査部長は、原審法廷で、
「被告人とは、60回近くの事情聴取の際、雑談をふくめて、いろいろと話をした。

その中で、覚せい剤中毒者である暴力団構成員(←ポン中極道)のことや、
暴力団組織についても 話はしている」 と述べており、
この法廷証言は、具体的.かつ詳細で、たやすくは 排斥しがたい。

次いで、括弧2.括弧3.については、いずれも、暴力団カンケイや警察問題につい
て ある程度
「通じて」いる人物であるならば、このような情報は、すぐに判別できること

さらに、ハトを飛ばす、というコトバについても、T巡査部長の原審法廷証言
「被告人に危害を加える、という意味ではないし,第一,被告人のいうような
趣旨の取り調べをするのであれば、”ヒットマンを送り込む”と述べたほうが
効果は高い」___というのは、それなりに首肯できるし、

【要旨第一の2】
 本件の取調べの経過などを参照して 判断すれば、T巡査部長が このようなこと
を実行する
 というのはあまりにも 空想的 なのであつて、
 被告人の原審法廷での発言は、なんら、信用できない。
104特報:京都アジ化ナトリウム事件:04/08/16 17:36 ID:CpL0Gf03
また、検察官「当審」証拠請求番号2号の 留置場記録に照らせば,取り調べに際して、
その当時、弁護人らから 警察へ、改善の申し入れがされた形跡がなかつたことも,また,明らかである。

しかも、被告人の原審公判における発言には、多々、あいまいな点が存することなどに照らせば、
検察官の所論には、理由があるものと言わなくてはならない。
            さらに検討を重ねると、

・珈琲をつくって自分で飲んだ点について、供述変更をしなければならない 利益が、
捜査当局には なかつたこと(cf >>96)も認められる。

          ◇(10).脅迫の経緯についての 詳論

なお、所論は、「脅迫行為があつたとすれば、@実際には、被告人が 家族の安全確保の措置を取らなかったこと
        A起訴後4ヶ月も経過してから、弁護人らに そのこと を打ち明けたことは、いずれも不自然」
などという。 そこで検討するに、
 ・被告人が、冷静に 利害得失 を計算していたことは、すでに 述べた 「供述経過」(>>96)などから
  明らかであるし、(取調べに際して、弁護人からの抗議が なかつたという事実は、T巡査部長や
K検事の 原審法廷での証言の信頼性を 高める ものである。)

 ・原審における 被告人の法廷発言を検討しても、結局、脅迫されたという事実さえ漏らさない限り、
たとえ 原審法廷で 犯行を否認 しても、なんら問題はない__ということになる。
105特報:京都アジ化ナトリウム事件:04/08/16 17:36 ID:CpL0Gf03
         ◇(11)原審裁判所の措置に対する、小括
【要旨第2】
そうすると結局、当裁判所としては、
・(@)T巡査部長による 「脅迫行為」については、被告人による 創作 のおそれを否定できず、
・(A)自白調書等の 「供述 記載」 に照らし、T巡査部長とK検事の 原審証言は信頼性が高いものであり
・(B)自白に至った 経緯 についても 首肯できる
___という 結論に至った。
 
結局、これらの 自白調書については 刑事訴訟法322条1項により 証拠能力を認めるのが相当
である。          ◇(12)実況見分調書について

【要旨第3】    なお、これらの 実況見分調書については、
・T巡査部長は、その作成には 関与していないし、
・じっさいに、これらの 実況見分調書 を作成した 警察官らは、原審公判にて証言をしている

そうすると、これらの実況見分調書については、刑事訴訟法321条3項(http://www.houko.com/00/01/S23/131A.HTM#321)により、
証拠能力を認めるのが相当である。
             なお、弁護人は、その「答弁書」において、
「これらの実況見分調書は、
自白調書の延長に過ぎない。」と述べる。し か し な が ら、

【要旨第3の2】  署名押印が「不」要な,この種の調書については、
          刑事訴訟法321条3項に掲げる要件「さえ」満たしていれば、
証拠能力を認めるのが相当であり、弁護人の主張は、採用できない。
106特報:京都アジ化ナトリウム事件:04/08/16 17:37 ID:CpL0Gf03
              第三.結語(破棄差し戻し)
結局、これらの調書を
証拠排除 した 第1審裁判所の措置には、訴訟手続きの法令違反(刑事訴訟法379条)があり、
これら調書の 内容 に照らして、この違法が 判決に影響する ことは明らかである。

したがって、その余の 事実誤認などの点 を検討するまでもなく、原判決は破棄を免れない。
 そこで、刑事訴訟法397条(http://www.houko.com/00/01/S23/131B.HTM#397)により 原判決を破棄し、
 同法400条 「本文」 に従い、本件を 原審裁判所である、京都地方裁判所へ差し戻すこととして

主文のとおり 判決する。
                             2004年8月05日
                        大阪高等裁判所 第4刑事部.「3」係

                               裁判長 裁判官 :白井万久
                                裁 判 官 :的場純男
                               裁 判 官 :畑山 靖