112 :
違法収集証拠.裁判例集(覚せい剤事犯):
いわゆる、覚せい剤「自己使用」の案件につき、
職務質問の実施において 令状主義 を没却するような重大な違法があり、
違法捜査抑制の見地からも 「尿」「尿.鑑定書」の 証拠排除が妥当
であるとした 第1審判決が
控訴審でも維持された事例
判示事項:(0)いわゆる、話し言葉での 控訴審判決の宣告
(1)いわゆる、「違法収集証拠の排除」について
(2)当該 職務質問.および その後に実施された 身体捜索行為の 適法性
(3)これらの過程において 「強制採取」された「尿」および、「尿 鑑定書」
の 証拠能力 (→いずれも、証拠排除)
2004年8月25日判決宣告
事件番号:平成16年(う)第338号
事件名:覚せい剤取締法違反 (自己使用)
被告人:刑事訴訟法345条による,釈放
主 文
本件 控訴 を 棄却 する。
裁判長:それでは、理由の要旨を告げることにします。
まず、検 察 官 の 控訴趣意は、次のとおりであります。すなわち、
「1審判決は、@警察官職務執行法(
http://www.houko.com/00/01/S23/136.HTM)の解釈適用を誤ったうえに、
A日本国憲法.第33条(
http://www.houko.com/00/01/S21/000.HTM#033)
B日本国憲法.第35条(
http://www.houko.com/00/01/S21/000.HTM#035) についての
解釈適用を誤ったものである。
当該 覚せい剤、尿、および それらの鑑定書について 証拠能力を 否定した1審判決には、
判決に影響を及ぼすべき、法令適用の誤りが存在する」__というのであります。
113 :
違法収集証拠.裁判例集(覚せい剤事犯):04/08/30 11:50 ID:F9PqcOsd
裁判長:そこで、以下、当裁判所の検討の結果でありますが、その前に、「前提となる 事実関係」を
整理しておきます。
すなわち、本件においては、以下のような事実関係があつたことが 関係証拠から明らかであります。
・平成15年4月13日,タクシー運転手Nは、被告人と その知人女性の2名を、タクシーに乗車させ、
・被告人は、10分もしないうちに、車内で熟睡してしまったうえ、
・知人女性も、タクシーを降車したまま、戻ってはこなかった。
・そこで、N運転手は、このままでは、料金支払いを きちんとしてもらえるのかと不安になり、
同日15時40分ころ、警邏中の 大阪府警察官らに 救助 をもとめた。
・そこで、大阪府警のS警部補らは、当該タクシー 後部座席を確認したところ、
被告人が その場で熟睡しているのを認めた。
114 :
違法収集証拠.裁判例集(覚せい剤事犯):04/08/31 18:02 ID:hRukz3Tg
お、警察官らが 被告人を確認した際には、被告人は 眠ってはいたものの
・呼吸は正常であり
・苦しむ様子も、なんら、存しなかった__ことが 関係証拠から認められるのであります。
そして、 s警部補ら 大阪府.警察官らは、警察官職務執行法3条1項二号(
http://www.houko.com/00/01/S23/136.HTM#003)
にいうところの 保護行為 に着手した。
そして、被告人に何ら告げることなく、S警部補は、被告人の近くにあったバッグを手に取り、
・チャックを開けて、「注射器」1本を「発見」し、
・ペンケースも開けて、さらに、別の注射器1本を 新たに発見した。
(この際には、被告人の身元を確認できるものは、何ら、このバックには存在しなかった。)
さらに、被告人が眠ったままの状態で s警部補は、被告人の 着衣 の捜索を実施したところ、
・着衣のポケットから、茶封筒を発見したものの、
s警部補は、令状の発付を受けてから(
http://www.houko.com/00/01/S23/131A.HTM#218),これを<押収>しようと考えた。
そして、S警部補は、N運転手に指示をして、同日16時3分過ぎ、
このタクシー自体を発車させ、大阪府警察.南警察署(
http://www.police.pref.osaka.jp/sodan/ps/minami_ps.html)へと移動させた。
本件タクシーが、南警察署へと到着すると、
・運転席には、T巡査部長が、
・後部座席には、Y巡査部長が乗り込み、 被告人が「外」に出られないような態勢が取られた。
そして、S警部補は、南警察署所属のO係長に事情を説明し、「捜索差し押さえ.令状」を
裁判所に請求することにした。(同日16時20分.疎明資料の作成を完了。)
そして、Y巡査部長は、I巡査部長と 役割を交代し、後部座席には I巡査部長が乗り込んだ。
かくして、引継ぎを受けたO警部補が 16時45分に 被告人の太ももをつねると、
被告人は、目を覚ました。
・ここで被告人は、バッグを返してほしい、と I巡査部長に申し出たが、
・I巡査部長は、これから、この車内で、職務質問を実施すると告げた。
115 :
違法収集証拠.裁判例集(覚せい剤事犯):04/08/31 18:02 ID:hRukz3Tg
これに対して、被告人は 生年月日<略>と氏名を回答し、照会の結果、犯歴のないことが確認された。
引き続き実施された 職務質問の中で、被告人は、
・ 「なぜ、眠ったまま、目を覚まさなかったのか。」の問に対して、
・「睡眠薬を飲んだから。」などと答え、
携帯電話で、@弁護士と、A知人男性に連絡をした。
裁判長:なお、知人男性の目撃によると、以下の事実が明らかなのであります。
すなわち、
(1)T巡査部長は、知人男性じしんを取調室へ案内し、知人男性から 強く抗議されたこと。
(2)駐車場のシャッターは その後、閉じられてしまい、被告人が 駐車場から 脱出することは不可能だったこと
(3)被告人はこのとき、「助けてくれ!」などと叫んでおり、
(4)I巡査部長を乗り越えて脱出しようとしていたこと___が それぞれ認められます。
そして、S警部補は、駐車場にいた被告人に対して、同日18時41分、裁判官が発付した【令状】を呈示し、
・茶封筒の内容物を 簡易鑑定 したところ、覚せい剤反応があり、
・18時46分、被告人は 現行犯逮捕されたのであります。(
http://www.houko.com/00/01/S23/131A.HTM#212)
また、注射器などについては、この「現行犯逮捕に伴う,差し押さえ」(
http://www.houko.com/00/01/S23/131A.HTM#220)がされ、
同日21時過ぎ、写真撮影報告書が作成されました。(刑事訴訟法220条による、無令状差し押さえ)
一方、被告人は、 尿の 任意提出については、強く抵抗したため、
捜査当局は、翌14日、裁判官から 強制採尿令状(cf.
http://courtdomino2.courts.go.jp/schanrei.nsf/VM2/BB837F983E3FFE9249256A850030AA73?OPENDOCUMENT)
の発付を受けて、 (引用者注:最高裁判所1980年10月23日.決定)
・15時46分から、大阪.警察病院で 尿の「強制採取」を実施し、
・17時21分、上記場所で、「尿」の「差し押さえ」が実施された。
___以上が、本件についての 事実関係であります。
116 :
違法収集証拠.裁判例集(覚せい剤事犯):04/08/31 18:03 ID:hRukz3Tg
裁判長:そこで、以下が 裁判所の判断であります。
検察官は、控訴趣意書の中で、「本件行為は、第1に、警察官職務執行法3条1項一号にいう、
http://www.houko.com/00/01/S23/136.HTM#003 『精神錯乱又はでい酔のため、自己又は他人の生命、身体又は財産に危害を及ぼす虞のある者』
または、二号に いうところの
『応急の救護を要すると認められる者』 に当てはまる」__と主張されるのであります。
裁判長:そこで、検討をするに、被告人は、白昼に2時間、タクシーに乗車していたのですが、
@飲酒をした事実も、そのような「言動」もなく、
A呼吸は正常であり、
B足をつねられて、目を覚ました後は、意識はハッキリとしており
Cその後の言動も、きわめて正常だった__ことは 明白です。
検察官は、「警察官らが臨場した当時、被告人は意識障害の状態であった」と主張されます。
し か し、被告人の状態が意識障害でなかったことは明白ですから、
【要旨第1】 同法 一号には該当しませんし、二号と認める事情も存在しないのであります。
117 :
違法収集証拠.裁判例集(覚せい剤事犯):04/09/01 18:51 ID:zrIS58KM
裁判長:もつとも、 検察官は控訴趣意書の中で、 「被告人が熟睡していたから、バッグの開被等は、その財産保護など
のために必要な措置であった」__などとも、主張されるのであります。
しかしながら、 本件 においては、@タクシーに被告人が乗車したままの状態であり、
AN運転手も 被告人に付き添っていたわけであります。
さらに、同運転手には、 旅客運送契約.約款 に基づいて 被告人を 目的地まで送り届ける 法的義務 がまだ、
存在しているのでありますから、一緒にいた女性客(
>>113)の帰りが遅かったり、被告人が熟睡していても、
なお、誠実に「その,目的地」まで送り届けるべき 法的義務 が存在していたことも 明らかなのであります。
しかも、N運転手が、被告人を 遺棄 する可能性もなかったのでありますから、
救護を実施しなければ、財産保護が危ぶまれるような 状態ではなかつたことは、明白といわなくては、なりません。
【要旨第二】 すなわち、大阪府.警察官による 本件 「保護手続き」は 違法 なのでありまして、
S警部補による一連の行為(
>>114)は 違法であります。
そうすると、その後に行われた 一連の行為 も、また, 違法性を帯びると言わなくてはなりません。
【要旨第二の2】 しかも、 本件 においては、 「事実上の」逮捕すら、行われております(
>>115)。
裁判長:すなわち、本件では、
・タクシーの後部座席から、被告人が逃げ出す事は 困難であり、
・しかも、 I巡査部長は、 被告人から、 「これ、強制やないか!!」と抗議を受けても、
これに答えては おりません。
つまり、 任意捜査(
http://www.houko.com/00/01/S23/131A.HTM#197)に応じない意思を、被告人自ら、明らかにしていたにもかかわらず
強制捜査が、事実上、実施されていたのであります。
118 :
違法収集証拠.裁判例集(覚せい剤事犯):04/09/01 18:52 ID:zrIS58KM
(なお、大阪府警察官らは、原審法廷において、「保護処分は その後、解除した。解除してからは、職務質問に移行した。」
などと証言しています。しかし、この証言を 客観的に裏付ける証拠は 皆無 なのであります。)
しかも、警察官は1時間に2回、このような被告人に 実力行使 をしております。
・I巡査部長においては、被告人の腰に抱きつくなどしたほか
・A巡査も、足をつかむなどしており、
これらの行為により、被告人は、物理的な抵抗をすることじたい、できなかったのであります。
【要旨第三】 すなわち、本件「職務質問」開始後の 警察官らの行為には <重大な>違法があります。
検察官は、当審においても、「職務質問に抵抗した 被告人には、公務執行妨害罪が成立する。」
と主張しています。 しかし、 このような <違法な>公権力行使に対しては、もはや、公務執行妨害罪は
成立する余地が、ありません。
http://www.houko.com/00/01/M40/045.HTM#s2.5 裁判長:次いで、本件「鑑定書」の 証拠能力 について検討します。
本件における警察官らは、きわめて重大な違法行為を犯しているのでありまして、
【要旨第四】 ○ 令状主義の精神を 没却 するような 違法に当てはまり、
○ 違法捜査抑止 という見地からも、本件「鑑定書」については 証拠能力が【否定】される、
といわなくてはなりません。(cf 最高裁判所2002年2月14日 判決
http://courtdomino2.courts.go.jp/schanrei.nsf/VM2/5BE211BE5C6A602349256D7200269E36?OPENDOCUMENT)
したがって、これと同趣旨の 1審判決 には、誤りは,ありません。
119 :
違法収集証拠.裁判例集(覚せい剤事犯):04/09/01 18:53 ID:zrIS58KM