状況証拠の積み重ねによる裁判

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199指定暴力団最高幹部にかかる、銃刀法疑惑
2004年2月24日判決宣告  裁判所書記官 I

平成13年(う)566号

    被告人 tことS
        (62年)

被告人に対する 銃砲刀剣類所持等取締法 違反 被告事件につき、
平成13年3月14日、大阪 地方裁判所 が言い渡した 無 罪 判 決 に
検 察 官 か ら ,控訴の申し立てがあつたから
当裁判所は 次のとうり判決する

             主 文
原判決を破棄する。
被告人を 懲役6年 に処する。
原審での 未決勾留 日数中、240日を 本刑に 算入 する。
訴訟費用は、原審・当審を通じて すべて、被告人の負担とする。

          理 由( 要 旨 )

序論
 本件控訴の趣意は、大阪高等検察庁検察官Px作成の 控訴趣意書に、
 これに対する答弁は、弁護人 浦功,石松竹雄,松本和英ら 連名作成の 答弁書に
 記載されているから、これらを援用することで 説明に代える。
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第1.検察官の控訴趣意

 検察官の論旨は、要するに、
 「指定暴力団山口組 本部 若頭補佐である被告人が

  1)自己の所属する 弘道会の会長秘書K男と共謀の上、
   ヒルトン.ホテル大阪支店 1階玄関 南側路上において
   拳銃を、これに適合する実砲6発と共に 携帯して、これを所持した
  2)自己の所属する 同会構成員 Mと共謀の上、
   拳銃を、これに適合する実砲5発と共に 携帯して 、これを所持した

 これらの各公訴事実について、被 告 人 を 無 罪 とした 原判決には、
 判決に影響を及ぼすべき事実誤認がある」 というのである。

 第2.検討

 1)総論

 そこで、記録を調査し、当裁判所での事実調べの結果をも 併せて検討するに
 検察官主張の 公訴事実 は、関係証拠により 優に認定することができるのであり、
 原判決は、証拠の評価を誤り、ひいては事実を誤認したものである。
 そこで、以下、所論にかんがみ、補足して 説示 する。
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2)各論
 
 §1.本件の 争点

 まず、前記K男およびMとの共謀について検討する。
 原 審 で 検 察 官 は 、「部下による 拳銃所持について、
 親分である被告人は、これを暗黙のうちに認識・認容さえしていれば、
 銃砲刀剣類所持等取締法における 共謀 は成立する」と主張し、

 原審弁護人は、「K男の地位などに鑑み、これらの拳銃所持は、
 被告人の預かり知らぬ処で 勝 手 に 実行されたものに過ぎない」
 と主張した。

 ところで、当審において、検察官からは 事件関係人Nの検察官調書が
 証拠として提出された。(刑事訴訟法382条の2 http://www.houko.com/00/01/S23/131B.HTM#382
 ところで、この検察官調書につき、当裁判所は、刑事訴訟法321条1項二号 前段
 により 証拠採用はしたのであるが http://www.houko.com/00/01/S23/131A.HTM#321

 この調書は、@その作成経緯に不審な点が多く
       Aその 内 容 も、たやすくは信用できないから

 この調書を、反 対 尋 問 な し に 事実認定に供するのは、少なからぬためらい
 を感じるものである。

 そこで、以下は、種々の 間 接 事 実 の検討により、被告人の認識につき検討を進める。
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§2.原判決の判断の 当否
 
 (1)所論は、弘道会の内部には、「十仁会」「親衛隊」という組織があり、
    会長たる被告人の警護を担当してきた、と主張する。
    これに対して 原 判 決 は、
    「十仁会」は、必ずしも、被告人の警護を担当してきたか、明確でない
     などと説示している。
    し か し 、拳銃による 攻撃部隊の実態について、原判決が掘り下げた検討を
    していないのは 不当である。

 (2)本件に際しての K男の地位

  これについても、原 判 決 は、弘道会関係者の供述をたやすく信用しているが
  これは、証拠の評価を誤り、ひいては事実を誤認したものである。

 (3)Mについて
  なお、実行犯のMについても、本件ホテル前で 以前から「見張り番」などをしていたのだから
  被告人と Mとの間には、互いに拳銃「所持」につき、
  意思を相通じ合う関係にあったと 認められる。

 (4)警護体制について
  
  これらの点につき、原 判 決 は
  ○ 大阪府警察官6名の 法廷証言の「信用性」を「否定」した。
  し か し な が ら、警察官6名の 原審証言は、いずれも
  ○迫真的であり、具体的かつ詳細で

  Mの公判供述との整合性もあるから、十分、これを信用できる。

  
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(一方、K男の法廷供述は、上記 警察官証言を否定するが
  到底、その法廷供述を信用することはできない。)

  したがって、原判決は、証拠の評価の誤りがあり、ひいては事実を誤認した
  ものである。

 (5)小括
  したがって、原判決の説示は いずれも首肯しがたいのであり、
  弘 道 会 関 係 者 の 虚 偽 供 述 を 排 斥 し て
  関係証拠を検討すると、犯罪事実を 優に認定することができる。

 §2-2 間接事実の検討

 なお、以下の 間接事実を検討すれば 犯罪事実が認定できる。

 @K男やMは、拳銃所持について 組織からの「処分」はされておらず、
  かえって、功労者として 表彰されていること

 Aかつて、被告人自身、拳銃を使用した「抗争事件」で、組織のために服役した
  前科を有していたこと
 BMは、いわゆる「親衛隊」の一員であること
 C1997年8月23日の 宅見若頭事件 以後の 弘道会をとりまく状況は、
  さきほど、補足説明の三の3項で述べたとうりであること
 D弘道会は、もともと、24時間体制で 会長たる被告人の警備が実施されていたが
  宅見若頭事件 以来、警戒体制の強化が為されていて
 ●これについて、 「解除」する指示は、なんら、被告人から為されていないこと

 E東海道新幹線名古屋駅のプラットフォームには、6名の配下組員がいたこと
 
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E東海道新幹線名古屋駅のプラットフォームには、6名の配下組員がいたこと
 F東海道新幹線のグリーン車内では、他1名の若頭補佐 と隣合わせであり、
  なおかつ、「同じ車内」には 配下11名がおり、容易には「襲撃」できない
  客観的情況であったこと
 Gホテルヒルトンでは、ルームサービスによる朝食を、配下のK組員が受け取り、
  被告人自身は、ルームサービスのワゴンと、直接の接触をしていないこと
 HK男およびMは、拳銃を、いつでも発射可能な状態で 所持していたこと 

§3.事実認定についての まとめ

 すなわち、これらを考慮すれば、部下による拳銃の所持につき、被告人は
 「部下による、自 発 的 な ,拳銃所持」を 当然のこととして
 認識・認容していたと認められる。
 しかも、K男やMに対して、被告人は 日ごろから、指揮監督する権限を有していた
 のであるから

 これらの事情にも照らすと、被告人には 本件 共謀共同正犯が成立することは明らか
 であると言わなくてはならない。(最高裁判所2003年5月01日決定、参照)

 検察官の論旨は、理由がある。
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第三.破棄自判

 そこで、刑事訴訟法397条1項により 原判決を破棄した上、

 (なお、会長秘書であるK男を 取り調べている事実経過に照らし、
  当裁判所において みずから 判決するのが相当である)

 刑事訴訟法400条但し書きに従い、さらに判決する。

 検察官主張の公訴事実を、下記証拠により認定し、
 相当法条適用のうえ、主文のとうり 刑を量定した次第であるが
 量刑の理由について 述べる。

 @本件においては、拳銃はいつでも発射可能な状態にあったこと
 A東海道新幹線など、「公共の場」を舞台にした犯行であること
 B無実を主張し、反省の気配がないこと
 C対立団体からの 襲撃についても、もともと、反社会的集団に身をおいた
  自業自得というべき結果に過ぎないこと

 などから、すると、

 (1)前科は、きわめて古いものであること
 (2)被告人自身は、部下の拳銃所持につき、暗 黙 の 了 解 程度の「共謀」しか
    しておらず、「積極的な,関与」はしていないこと

など、被告人のために 酌むべき事情を考慮してみても、
主文程度の刑は免れない。

2004年2月24日 大阪高等裁判所 第四刑事部
裁判長 白井万久
裁判官 的場純男
裁判官 磯貝祐一