状況証拠の積み重ねによる裁判

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149具体的事件より----
事件番号.平成15年(う)319号
事件名:大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例 違反被告事件
http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/oosakameiwakuyourei.htm
被告人:刑事訴訟法345条による,釈放

〇判示事項. (一)被告人を「犯人」と識別した被害者の供述に 高度の信用性が認められた事例
       (二)被告人を「犯人」と【認定】した 原判決が 控訴審でも維持された事例

控訴申立て人:被告人

{判旨}控訴棄却.(控訴審における、「費用」負担)

   理 由 の 要 旨

第1.当事者の主張

「被告人は無罪である。被告人の供述の信用性を排斥した 原判決には
 判決に影響を及ぼすべき、事実誤認がある。」

第2.控訴趣意に対する判断

1.本件の証拠構造

 被告人は捜査段階から一貫して 無罪を主張しており
 本件では、被害者自身による 犯人識別供述が重要な
 位置をしめている。
150具体的事件より----:03/12/18 17:44 ID:ngoNLEK+
2.識別供述の信用性

 そこで、記録を調査して、当裁判所における 事実取り調べ
 の結果をも併せて検討するに、
 【原判決】が、
 その,補足説明の項目 で説示するのは 相当であり
 当裁判所での 事実取り調べの結果を経ても
 この【認定】判断は 動かない。
 以下、所論に則して 説示 する。

 ……(中略)……なるほど、被害者自身の 当審証言には
 あいまいな部分も見受けられるものの、被害に遭った時点からは
 相当な日時が経過しているのであつて、……なおかつ、
 地下鉄での 位置 については ,当審に至るまで、一貫した供述
 をしている……所論が指摘するような 乗 客 心 理 なるもの
 は、経験則上、これを是認しうるかは疑問なのであつて、……
 被害者の供述には 疑問を入れる余地がまったくないわけではないが、
 ……被害者の「 犯人識別供述 」全体に 影響を及ぼすものではない。……(中略)
 ……(中略)……所論が指摘する 被害者の供述変遷についても、
 些細な点に過ぎないのであつて, 特に 「 犯人識別供述 」の信用性
 を否定する事情とまではいえない。……一件記録を見ても、
 被害者が 虚偽供述をするような情況はうかがえず、内容には合理性があり
 当審における 事実取り調べ によつても 充分に、その内容は信用することが
 できる。所論は、被告人は右利きなのであるから……(中略)……犯行は
 物理的に不可能であつて 被害者の証言には疑問があると主張する。……
 しかしながら、……(中略)……特に 「 犯人識別供述 」の信用性を左右
 するような事情とは認められず、所論は採用できない。
 
 *(3)識別供述じたいの信用性について
151具体的事件より----:03/12/18 17:45 ID:ngoNLEK+
被害者は、「……身体を右後ろに倒した……自分の真後ろには
 男性はいなかった」と述べている。
 とりわけ、天王寺駅で被告人の手を掴むまでの間、被害者は何度も後ろを振り向いて
 被告人を確認しているというのであるから、痴漢人物を被告人と認識したという
 被害者の供述には  高い信用性 が認められる。
 所論は、被害者の供述は、捜査段階の供述とは食い違うと主張するが
 小さな食い違いを捉えて論難するに過ぎず、「 犯人識別供述 」の信用性を左右
 するような事情とは認められない。
 …(中略)…所論は、天王寺駅構内でも被告人が痴漢行為を継続していたのは不自然
 であり、これは 別人 による犯行の証である、と主張する。
 …(中略)…しかし、これは、原判決の 当該説示部分 が妥当性を欠くのであり、
 結局、所論は 理由がないことになる。

 3.被告人の弁解のついての信用性

 被告人は、ずっと傘の柄を握っていたのであり
 自分は痴漢行為をしていないと述べている。
 原審、および当審での事実調べによっても、概ね一貫して、この弁解を維持している
 のであり、その「 供述そのもの 」には 一 定 の 合 理 性 が あ る 
 ことは否定できないものの、
 しかしながら、特徴的、かつ具体的な 被害者の識別供述と比べると
 被告人の弁解の信用性は 否定 せざるを得ない。
 また、車両の乗り換えの点についても、経験則上、にわかには首肯しがたい 弁解である
152具体的事件より----:03/12/18 17:48 ID:ngoNLEK+
4.小括
 
 そうすると、原審における被害者の識別供述は信用できるのであり、
 これに反する 被告人の弁解は信用できないから
 原判決には 所論指摘のような 事実誤認はない。
 論 旨 は、理 由 が 無 い。

 第3.結語
 
 よつて刑事訴訟法396条により 本件 控訴を棄却することとし、
 当審における 訴訟費用 については すべて被告人の負担と「する」
 ことにつき、刑事訴訟法181条1項「本文」を 適用して
 主文のとおり判決する。
 
 2003年12月18日
 大阪 高等裁判所 第5刑事部
 裁判長 裁判官 那須彰
     裁判官 白神文弘
     裁判官 浅見健次郎