新☆基本書スレッド 2008 第28版 【第146刷】

このエントリーをはてなブックマークに追加
661氏名黙秘
福島弘『日本国憲法の理論』(中央大学出版部)を座り読みしてきたのでレポ。

著者は西洋憲法の理念モデルをそのまま日本に直輸入してくるのはおかしいと言う。
日本はキリスト教国家でもなく社会契約論も成り立たないという。しかしその結論を
導いた西洋の参考文献は訳書のみ。しかも岩波文庫レベルの古典のみ。
また明治憲法との連続性を強調して、治安維持法は私有財産制(資本主義)の破壊行為
のみを違法としていたにすぎない、軍部が暴走したのは憲法に誤りがあったからではな
いとのたまう。日本の戦後憲法学からは何も得るところがなかったと言いたいのだろ
うか?
人権について、違憲審査基準論は机上の空論だという。二重の基準論は傍論であってこれ
を裁判所が述べる必要に乏しいという。アメリカの判例を直輸入するのはおかしいという
趣旨ならばそのとおりだが、人権の普遍性からいうと諸外国の人権判例はなお参照に値い
するのではないだろうか?

統治論について、主に憲法裁判との関連から論旨が展開されているが、基本思想は行政
訴訟の訟務検事の発想そのもの。国側にとり有利な(権力よりな)判例には賛成。そうで
ないものには反対というのが基本的立場。違憲審査権は民主主義に反するものという著者
の基本的認識がある。判例の立場を再確認するには使えるかもしれない。
ただし、理由付けは場当たり的で「印象批評」の域を出ないように思える。
訟務検事の準備書面を本にしたもの。今後、国側の主張を裏付ける文献として書証として
提出されないことを強く望む。