「ねえ岡田さん、合格した後で飲むビールのよく冷えた一本というのは、まったく
こたえられませんね。世の中には不合格のあとで飲むビールもビールであることに
変りはないっていう人もいますけど、いえいえわたしはそうは思いませんね。
不合格のあとのビールっていうのは、味がよくわからないくらい不味いですよ」
牛河ネタを議員板でやった椰子いるのかな?ちょっとシャレにならんね、
あそこでやると。
僕の予感は間違ってはいなかった。家に帰ったとき、猫が僕を出迎えた。僕は
パソコンのスイッチを入れ、法務省のHPにアクセスした。合格。僕は買い物の
紙袋を置き、猫を抱あげた。合格証はおばあちゃんの記名捺印か・・・。百合子タン
の方が萌えるけど・・・。まあいいや、もしかして孫は陽子かもしれないし。
「でもいいですよ岡田さん、うちの先生にはそうはっきり返事しておきましょう。
ただですね岡田さん、今年であなたの受験は終らないですね。たとえ岡田さん
の方がすっぱりと終わらせたいと思ったとしてもそう簡単には行きません。という
わけで、わたしはたぶん十月になるとあなたにパンフレットをお送りすることに
なると思います。だからちんちくりんで見苦しいパンフレットで申し訳ないです
が、どうかうちのパンフレットの大量送付に少しでも馴れるようにしてください
な。わたしは個人的には岡田さんに対して含むところは何ひとつありゃしませんよ」
僕にはわかっている。僕はなんとか合格できる場所に辿り着きたいと思っている。
でもそこに行くための方法も、そこでいったい何が僕を待っているのかも、残念
ながら今の僕にはまだはっきりとはわからない。司法試験の受験を始めて以来長い
あいだ、僕は真っ暗闇の中に放り込まれたみたいな気持ちでずっと暮してきた。
でも僕は、少しずつではあるけれど合格の核心に近づいている。その場所に近づいて
いると思う。僕はそのことをどうしても君に伝えたかったんだ。僕はそこに近づいて
いるし、もっと近づくつもりだ。
「ねえ、ワタナベ君。武蔵野に風が吹いて桶屋が儲かったら、武蔵野の風は
起訴されるの?何罪?」
「もののたとえさ」
「殺人犯を産んだ母親の出産行為は、殺人の実行行為なの?」
「もののたとえさ」
「でも、こんなこと誰が言ったの?」
「一休さんだろう?」
僕のちんこは再び君の肉体の中の僕であり、深い井戸の底に突き刺さっている。
壁にもたれ、手には乳房を握り締めている。君が次第に昂奮してゆくにつれ、君
の肌の火照りの感触が手のひらに伝わってくる。ちんこがまん汁で微かに湿って
いることがわかる。喉の奥で心臓が激しく音を立てている。耳には君の熱い吐息
の響きがまだ鮮やかに残っている。それから闇の中で体位がゆっくりと変えられる
音が聞こえる。僕は静かに腰を動かし始めた。でもその一瞬、すべてのイメージ
は消滅する。井戸は再び強固な壁になり、僕は井戸の外側にはじき返される。
「たしか君は司法試験を受験していたな」と男は訊ねた。「ベテについてどの程度
のことを知っている?」
「何も知らないのと同じですよ」
「知っていることだけを話してくれ」
「愚鈍目。雑食、群居性。たしかバブル期には推定三万人のベテが棲息していた
はずです。やればできると誤解した。そんなところですね」
「いや、いささか喋り過ぎました。悪いけどわたしのぶんのコーヒー代、
払っておいてくださいね。なにしろわたしは失業者ですからね・・・・・・、
といっても司法浪人もやはり失業者みたいなものですね。まあお互い
うまくやりましょうや。幸運を祈りますよ。十月八日。岡田さんももし
気が向いたら牛河の幸運を祈ってください」
牛河は立ち上がり、くるりと背中を向けて喫茶店を出ていた。
息をひそめて意識をひとつに集中すると、その部屋の中にあるものを目にする
ことができる。彼女はそこにはいない。でも僕はそれを眺めている。それはマン
ションの部屋だ。208号室。分厚い窓のカーテンはぴたりと引かれ、部屋はひどく
暗い。花瓶の中にはたっぷりとした花があり、その暗示的な香りが部屋に重く
漂っている。入口のわきには大きなフロア・スタンドがある。でもその電球は
朝の月みたいに白く死んでしまっている。でもじっと目をこらしているとそのうち
に、どこかからこぼれてくるらしいほんのわずかな光のおかげで、そこにあるもの
の形をなんとか認めることができるようになる。映画館の暗闇に目が馴れてくるの
と同じだ。部屋の奥のベッドにはひとりの女が横になっている。着衣はつけていない。
彼女が寝返りをうつと、かたちのよい乳房と太腿のつけ根の花弁が現れた。僕は
身を震わせた。淡い闇は彼女の花弁の輪郭を仄かに映しだす。開かれた花弁は闇の
中でその姿を濃密なものに変えてゆく。僕はウィスキーのグラスに口をつけ、その
液体を喉の奥に少しだけ流し込み、自分の股間のものの状態を確かめた。勃っている。
「現行受験生には未来はありませんからね」と僕は言って、牛河を無視して基本書に
目を走らせた。
牛河は笑った。「たしかにそのとおりだ。うまいことを言いますね。現行受験生には
たしかに未来はありません。名言です。あたしも手帳に書いておきたいくらいだ。
でもね岡田さん、なかなかそう物事がすんなりと進むわけじゃないんですね。たとえば
あなたは今年合格してしまえば現行試験とおさらばだと考えていらっしゃる。しかし
法務省というところはそんなに気がきいていません。彼らは実力ある受験生からしか
合格者をとれないんです」
しばらく留守にしていたら、ずいぶん伸びているわ。
牛河ネタ面白い。エロもずいぶんよくなったみたい。
翌日の朝、同じように電車に乗って高田馬場にでかけた。そして同じベンチに
座って基本書を読んだ。昼になるとコーヒーを買って飲み、ドーナツをひとつ
食べた。夕方のラッシュアワーになる前に電車に乗って帰宅した。その次の日も
まったく同じことの繰り返しだった。やはり何も分からなかった。何の発見も
なかった。謎は相変らず謎のままであり、疑問は疑問のままだった。でもほんの
少しずつ自分が不合格に近づいているという漠然とした感覚があった。僕は公表
された模範答案を見て、その近づきを目で確かめることができた。
彼女はそんな僕のとなりに腰を下ろし、黙って脚をくみ、バッグの口金を開けて
ヴァージニア・スリムの箱を取り出した。そして前と同じように僕の股間に手のひら
を置くと、ゆっくりとそこを撫で回した。前と同じくらいの速さで僕のものは勃起した。
彼女は僕のペニスを口にくわえ、それを細長い消しゴムくらいの大きさにまで成長
させた。それからサングラスを外してジャケットを脱ぐと、僕の右手を彼女の胸に
あてがった。僕は相手の目をみた。それは不思議な目だった。そこには奥行きがあって
表情がなかった。
「ここが目的地なの?」と彼女が訊ねた。
「いや、違うよ。ここでもうひとつ列車を乗り換えるんだ。我々の目的地はこれより
ずっと小さいロースクールさ」
次スレ「村上春樹的司法試験5」では、Afterdark解禁でつか?
↓
僕は再び太りつつある。
↓
「それからね岡田さん、あるいは余計なお節介かもしれませんが、世の中には
一生受からないでいた方はいいというベテだってやっぱりいます。しかしそういう
ベテにかぎって熱心に受かりたがる。不思議なものです。あくまで一般論です
がね・・・・・・。またいずれお会いすることになるでしょう。そのときに状況が良い方
に変っているとわたしとしても嬉しいんですがね。それではおやすみなさい」
951 :
氏名黙秘:04/10/02 10:55:15 ID:tyY2s0fR
あげんとな
「そうそう、現行試験の話の続きだったですね」と牛河は思いだしたように言った。
「ここでひとつ正直に告白しますとね、わたしはこれまで一度も択一試験に合格し
たことがないんです。論文を受験する栄誉を賜ったことがないんです。答練で答案
書くだけなんです。法務省はですね、岡田さん、わたしだけじゃなくて一切のマーチ
に冷たいんです。わたしはそれを法務省のお掃除のおばちゃんから直接に聞いたんです」
953 :
氏名黙秘:04/10/02 15:32:05 ID:D9RnEYwE
壁に取り付けた鉄の梯子をつたって真っ暗な井戸の底に降りると、
僕はいつものように手探りで、壁に立てかけておいたイチローの
バットを探し求める。イチローが年間最多安打を放ったときの記念
すべきバットだ。井戸の底の暗闇でその傷だらけのバットを手に
すると、不思議なくらい気持が安らいだ。それはまた僕の意識の
集中を助けてくれもした。
「でも三年やっただけじゃ合格できなかった。そこに岡田さん、放下大学院のことが
突然からんできたんですね。しかしいやいや驚きましたね。まことに失礼な言い方だ
とは思いますけれど、海老で鯛を釣るというのはこのことですね。多くのベテを釣り
あげることができました。あとは岡田さん、あなたひとりだけなんです」
「僕は現行試験のことを愛している。それはたしかだ。僕が現行試験に対して抱いて
いる感情は、他のなにものをもってしても代えられないものなんだ」と僕は言った。
「それは特別なものであり、もう二度と落ちるわけにはいかないものなんだ。僕は
これまで何度も試験に落ちてきた。でもそれはやってはいけないことだった。間違った
ことだったんだ。僕は司法試験の姿を見失うべきではなかった。この何ヶ月かのあいだ
に、僕にはそれがよくわかったんだ。僕は本当に司法試験を愛しているし、現行試験の
ない浪人生活にはきっと耐えることができない。もうどこにも行ってほしくない」
僕は黙って牛河の頭を眺めていた。そこには光の角度によって幾つかの奇妙な
くぼみが生じていた。
「大丈夫、岡田さんは受かりやしません」と牛河は笑って言った。「もし受かった
としても、口述の迷路をくぐり抜けているあいだに、どこかで何かにぶつかっちゃ
います。がつんってね。大きなたんこぶができます。試験委員だってね、これは
真剣にやっているんだから、岡田さんなんか合格させたくないです。同じ合格者
を取るなら、岡田さんのような糞ベテよりは若いところからすんなりと取るほうが
合格者平均年齢が下がっていいじゃないですか。どこから取ろうがたいして成績は
変わらないんだから」
957 :
氏名黙秘:04/10/03 07:54:51 ID:xRJmSOvz
>>957 京香さんの記事、写真つきじゃなかったぽ_| ̄|○
牛河ねた、続ききぼん。
牛河ねたも少し飽きてきちゃったわ。
Afterdarkの発売にあわせて、旧作もハードカバーで復刊しているらしいわよ(^ー°)ゞ
ヴァージニア・スリムで1000を目指せ!
やれやれ
964 :
氏名黙秘:04/10/05 12:51:00 ID:nmxXxOgA
職人さんは、今日もお休みでつか?
「君はもう死んでいるんだろう?」 ベテが答えるまでにおそろしいほど長い時間がかかった。
「そうだよ」とベテは静かに言った。「俺は死んだよ」
「まだ受からないの?」と僕は訊ねてきた。
「まだ受からないよ」とベテは答えた。
「受験番号を探してたんだよ」と僕は息をついてから言った。
「知ってるよ」と羊男は言った。「探しているところが見えたもの」
「じゃあ、どうして声をかけてくれなかったんだ?」
「あんたが自分で見つけ出したいのかと思ったんだよ。で、黙ってたんだ」
それで見つかったの?
「できれば君の方から質問してくれないか?君にももうだいたいのところはわかっているんだろう?」
羊男は黙っていた。「合格者の順序がばらばらになるけどかまわないか?」
「かまわないよ」と僕は答えた。
「君はもう死んでいるんだろう?」
>>965へ永遠のループ
それはひとつの顕れです。〈不合格になった〉というのは、もっと長い時間のこと
です。それは前もってどこかの真っ暗な部屋の中で、私とはかかわりなく誰かの手
によって決定されたことです。しかしあなたと知り合って受講したとき、そこには
新しい別の可能性があるように見えたのです。このままどこかの出口にうまくすっ
と抜けられるのではないかと私は思いました。でもそれはやはりただの幻影にすぎ
なかったようです。
ねじまき鳥さん、正直に正直に正直に言っちゃうと、私はときどきものすごく
こわくなります。うまくいえないんだけど、最近になってバイクの事故で死んだ
男の子のことをちょっと考えたりします。正直にいってこれまでそんなに思いだ
さなかった。不合格のショックで、私の記憶みたいなのが、ぐにゅっと変な風に
ゆがんでしまったのでしょうか?
できたらあなたにこういう風に考えてほしいのです。つまり私はゆっくりと
不合格に向かって、身体や顔かたちが崩れていくような種類の治る見込みの
ない病にかかっているのだと。
ベテがようやく気を取り直したように、一匹また一匹と泣き始めた。やがて
それに混じって糞ベテの泣き声も聞こえた。糞ベテはまるでねじを巻くような
奇妙な特徴のある声で鳴いた。ギイイイイイイ、ギイイイイイイと。彼は二十
歳のときに北海道の山村から司法試験の合格を目指して上京し、一年前に平安
がなくなるまで、農耕の手伝いをしながら受験勉強をした。しかし、不思議な
ことに三十歳になる今日まで、合格することはなかった。
「でもね、不合格と言われて『へい、そうですか。わかりました』って簡単に
引き下がるわけにはいきません。そんなことしたらこの牛河が先生にえらいこと
どやされます。相手が司法試験だろうが、土塀だろうが、そこにちょいと合格点
をつけてみる・・・・・・それがわたしたちのやってる仕事なんです。合格点ですね。
冷蔵庫を売ってもらえなかったら氷を買って帰る、この精神です」
979 :
氏名黙秘:04/10/06 22:39:21 ID:nwenC6hb
ロー内部ネタキボンヌ
>>979 俺はHarvardしか知らないけど、いいの?
春樹さんの小説にバリー・ハリスのレコードは登場してたかしら?(^ー°)ゞ