1 :
氏名黙秘:
僕は真こつに電話をかけ、択一にどうしても合格したいんだ。
話すことがいっぱいある。話さなくちゃいけないことがいっぱいある。
世界中に択一以外に求めるものは何もない。択一に通って論文を受けたい。
何もかもを択一から最初からはじめたい、と言った。
マコツは長い間電話の向こうで黙っていた。
まるで世界中の細かい雨が世界中の芝生に振っているようなそんな沈黙が続いた。
僕はその間ガラス窓にずっと額を押し付けて目を閉じていた。
それからやがて魔こつが口を開いた。『君、今どこにいるんだ?』と彼は静かな声で言った。
僕は今どこにいるのだ?
僕は受話器を持ったまま顔を上げ、電話ボックスの周りをぐるりと見まわしてみた。
僕は今どこにいるのだ?でもそこがどこなのか僕にはわからなかった。見当もつかなかった。
いったいここはどこなんだ?僕の目に映るのはいずこへともなく歩きすぎていく無数の人々の姿だけだった。
僕はどこでもない場所のまん中から魔こつを呼びつづけていた。
2 :
氏名黙秘:03/10/16 17:21 ID:???
スレ立て依頼所であれだけスルーされてたのに・・・
ついに立ったか。
乙
3 :
氏名黙秘:03/10/16 17:35 ID:???
春樹スレは春のけだるい暖かさの中、択一を前に現実逃避するスレなんだがな。
まあ、いいか・・・。
4 :
氏名黙秘:03/10/16 17:56 ID:???
/:::::::::::::::::::/ \::::::::::::::::::::
/::::::::::::::::::/ ,,,,-―''`\::::::::::::::::::
|:::::::::::::::::/,,,,,, '' _ ヽ:::::::::::::::::
. |::::::::::::::::/ ヽ ∠'-' ` \:::::::::::::
|:::::::::::::::/ ,-、-、 l ヽ |::::::::::::::: てるみがあっさり4ゲットよ〜w
. |::::::::::::::| `´ | |::::::::::::::::
ヽ,-―_| | __,- ) |:::::::::::_/
// ̄ヽ /⌒ リ \ |:::::::/ ̄\
>>2紅イモチップスでも食ってろデブw
/ /:::糸工::\ _ _ ) /::::::/ /
>>3紅イモチップスでも食ってろデブw
>'つ:::::::イ::::::::ヽ ヽ/,ー―-ヽ /::::/ /
>>5紅イモチップスでも食ってろデブw
( < \:::モ::/~~\(::::::::::_/ / ̄ /
>>6紅イモチップスでも食ってろデブw
5 :
氏名黙秘:03/10/17 15:00 ID:???
いきなり沈んでるね
6 :
氏名黙秘:03/10/18 23:28 ID:WxPOu3wi
7 :
氏名黙秘:03/10/20 12:37 ID:???
☆ ★ ☆
藤木英雄先生の著書「刑法講義総論」(弘文堂)、
出版社は倒産していませんが、著者逝去後多年を経て
事実上入手不可能になってしまいました。
この本をぜひ復刊してもらいたいと思っております。
「復刊ドットコム」というHPで、復刊希望の投票が集まると、
復刊が実現される可能性があります。
http://www.fukkan.com/vote.php3?no=11123 心ある方、ぜひともご投票にご協力お願い致します。
★ ☆ ★
8 :
氏名黙秘:03/10/20 23:53 ID:CBMfV60a
☆ ★ ☆
藤木英雄先生の著書「刑法講義総論」(弘文堂)、
出版社は倒産していませんが、著者逝去後多年を経て
事実上入手不可能になってしまいました。
この本をぜひ復刊してもらいたいと思っております。
「復刊ドットコム」というHPで、復刊希望の投票が集まると、
復刊が実現される可能性があります。
http://www.fukkan.com/vote.php3?no=11123 心ある方、ぜひともご投票にご協力お願い致します。
★ ☆ ★
9 :
氏名黙秘:03/10/21 17:07 ID:???
「いろんな可能性があった」と五反田君はグラスを顔の上にあげて天井のライトにすかせて見ながら言った。
「なろうと思えば医者にだってなれた。大学の時は教職課程だって取った。一流の会社につとめることもできた。
でも結局こうなった。こういう生活、変なものだ。目の前に過去問がずらっと並んでた。どれを取ることもできた。
どれをとっても上手くいくだろうと思っていた。自信はあった。だからかえって選べなかった」
10 :
氏名黙秘:03/10/22 22:40 ID:???
名スレage
11 :
氏名黙秘:03/10/23 10:50 ID:m8UoUppX
こんなもの論証じゃない。論証的ファストフードだ。
12 :
氏名黙秘:03/10/23 10:55 ID:???
春樹の文章はなんか暗いよねー
でも時々出題されるからといって、商法総則・商行為のことを重荷としては感じない
で下さい。私は受験生の重荷にだけはなりたくないのです。とはいっても毎年のように
改正されて六法は買い替えなければならないし、教科書代もバカにならないことはよく
わかっています。その上、口述試験もなくなって予想論点もつかみにくくなってしまい
ました。手形法を時間をかけて勉強したのに出題されなかったときのショックもよくわ
かります。もし受験生にとって、商法の何かが迷惑に感じられたとしたら謝ります。
許して下さい。前にも書いたように、私は受験生が思っているよりは不完全な受験科目
なのです。
15 :
氏名黙秘:03/10/25 20:46 ID:eDmws6in
来年も手形でなそうだな。
16 :
初投稿:03/10/25 21:25 ID:???
「僕は司法試験を愛してきたし、今でも同じように愛しています。
しかし、僕と法科大学院のあいだに存在するものは何かしら決定的なものなのです。
そして僕はその力に抗しがたいものを感じるし、このままどんどん先の方まで押し流されていってしまいそうな気がするのです。
僕が司法試験に対して感じるのはおそろしく静かで優しくて澄んだ愛情ですが、法科大学院に対して僕はまったく違った種類の感情を感じるのです。
それは立って歩き、呼吸し、鼓動しているのです。
そしてそれは僕を揺り動かすのです。
僕はどうしていいかわからなくてとても混乱しています。
決して言いわけをするつもりではありませんが、僕は僕なりに誠実に勉強してきたつもりだし、試験委員に対しても嘘はつきませんでした。
答案構成を傷つけたりしないようにずっと注意してきました。
それなのにどうしてこんな迷宮のようなところに放りこまれてしまったのか、僕にはさっぱりわけがわからないのです。
僕はいったいどうすればいいのでしょう?
僕には魔骨さんしか相談できる相手がいないのです。」
僕は速達切手を貼って、その夜のうちに願書をポストに入れた。
17 :
氏名黙秘:03/10/27 12:53 ID:???
sage
18 :
氏名黙秘:03/10/28 12:38 ID:???
迷ったり傷ついたりしない人間がどこにいるって言うのよ?
19 :
氏名黙秘:03/10/29 00:48 ID:???
「私はあなたが駄目になっていくところを見たくないし、
これ以上だらだら汗をかきたくないの。
だから私はもう少しマトモな世界に戻ろうと思うのよ。
でもね、もし司法浪人さんにここで会わなかったら、
この塾の前で会わなかったら、たぶんこんな風にはならなかったと思うんだ。
LECに戻ろうなんてことはまず考えなかったわね。
きっとあまりマトモじゃないところでまだぐずぐずしていたと思う。
そういう意味では、まあ司法浪人さんのおかげっていうわけね」
と彼女は言った。
「司法浪人さんもぜんぜん役に立たないっていうわけじゃないのよ」
僕はうなずいた。誰かに褒められたのはほんとうに久しぶりだった。
「さよなら、司法浪人さん」
と彼女は言った。
「どうしてロースクールに行かなかったの? どうしてここから逃げださなかったの?」
「僕には賭ける側を選べないからだよ」
笠原メイは手を離して、物凄く珍しいものでも見るようにしばらくじっと僕の顔を見ていた。
「さよなら、司法浪人さん。またいつかね」
20 :
氏名黙秘:03/10/29 01:05 ID:???
21 :
氏名黙秘:03/10/29 01:24 ID:???
// ( __ ヽヾ ヾヽ \
/ , _」 , | 川‖ヽミ \
────丶 / / /ヽ / ̄ ⌒ヽ、| || | | \∀ヘ \
/ \ / ////フ ̄ヽ | || | | | |∀ ヘヽヽ/ ̄ ̄ ̄ ̄ヘ
│ | / //A ( ( \_/ │ | | | | |く | |
│ 気 司 そ │ │/ /川 ヽ-| ソ | 川 | フ┌ 闘ゃ 100 \
│ 概 法 れ │ | / | 川 ヽ __ > │ │友 | る % |
│ っ 浪 が │ | ‖‖ ヽノ_ェェェェェq丶 │_ | |
│ て 人 | ‖ | ‖ /ロト十土州 / │爾│ !! 合 │
│ も の > | | |∧ くレトレ" ̄  ̄ | 川 | 格 |
│ ん | | | |ヾヽ  ̄ ─ | | ‖ > る |
│ さ 」 | 川 V | / .A√| 気 |
\ / | ヽ川| |レヘ∨ ‖ \ で /
丶 / ヽ ヾヾ| 巛レ/// /| | A /
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /M y | / ‖| レ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
22 :
氏名黙秘:03/10/30 00:43 ID:???
アンダーグラウンドみたいに、受験生にインタビューしてくれないだろうか。
高い壁に囲まれ、外界との接触がまるでない自習室で、
そこに住むヴェテたちの頭骨から論点ブロックを呼んで暮らす〈僕〉の物語、〔司法試験の終り〕。
佐藤幸二により制度の核に或る選考回路を組み込まれた〈私〉が、
その回路に隠された秘密を巡って活躍する〔ハードボイルド・ロースクール〕。
静寂な勉強世界と波瀾万丈の改革活劇の二つの物語が同時進行して織りなす、
伊藤真の不思議の国。
定価525円(本体500円)
〈私〉の意識の核に制度改革を組み込んだ佐藤幸二と再会した〈私〉は、
制度の秘密を聞いて愕然とする。
私の知らない内にロースクールは始まり、
知らない内に司法試験は終わろうとしているのだ。
残された時間はわずか。
〈私〉の行く先は合格か、それとも社会的な死か?
そして又、〔司法試験の終わり〕の自習室から〈僕〉は脱出できるのか?
同時進行する二つの制度を結ぶ、意外な結末。
伊藤真からの手紙が、君に届くか!?
定価500円(本体477円)
25 :
氏名黙秘:03/10/30 11:05 ID:Pugjzjz3
保全age
27 :
氏名黙秘:03/10/31 01:40 ID:???
>>23-24 最高ですね。
今までのパロにない、推薦文?っていうの??のパロ。
目の付け所がすごい。
新作期待でつ。
29 :
氏名黙秘:03/11/01 02:56 ID:???
推薦文を作ったからには
本編も書けよ。
30 :
氏名黙秘:03/11/01 02:57 ID:???
31 :
氏名黙秘:03/11/01 03:01 ID:???
32 :
氏名黙秘:03/11/01 03:06 ID:???
過去問はなぜ今も輝きつづけるのか
ベテたちはなぜ解きつづけるのか
彼らは知らないのだろうか
司法試験がもう終わってしまったことを
“THE END OF THE WORLD”
私の実力はきわめて緩慢な速度で上昇をつづけていた。おそらく実力は上昇していたのだろ
うと私は思う。しかし正確なところはわからない。あまりにも速度が遅いせいで、方向の感覚
というものが消滅してしまったのだ。あるいはそれは下降していたのかもしれないし、あるい
はそれは何もしていなかったのかもしれない。ただ前後の状況を考えあわせてみて、実力は
上昇しているはずだと私が便宜的に決めただけの話である。ただの推測だ。根拠というほどの
ものはひとかけらもない。十二回択一を受けて三回落ち、地球を一周して戻ってこれるだけの
時間を受験勉強に費やしただけかもしれない。それはわからない。
34 :
氏名黙秘:03/11/02 12:45 ID:???
,l. , i l l」L」_
,. '゙ l..、-l‐一ト!-:|、! l、|!
, '' |,ィ´|:.:.:.:|:|:.:.:.:|:.|:|:|`ヽ |!ヽ
」⊥!_! | ,ィ'1:.!:.:l:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.|l、゙、
,r'゙´ | | | 「'|ヽ ,.-‐、/:.|:.|:.|:.:.:,/´`ヽ:.:.:.:.:.:.:.:.|:.||゙; ',
/ /`! | | | | l ヽ/ !:.:.:.:.:_/ ,,,_゚ `丶、:.:.:.:.:.:!:l ;
,.' / ! 'J l ! ! '⌒! レ''''´ !.! l ヽ‐-)ノ `ー、-;/、
, ./ J r〜' l.:.゙! (´ 、、l」レlT'' ノ //ヽ」l/', ゙、
,' /゙|!:.:. | ノ |.:.l、_,. u `<ニ゚二>l| ,/。ニ.,)ノ,イ | ゙、
,.' /| l l :.:. ! / ゙、:./ ::;;_ u ミ| l l l l / ト┬i/ !| !
;' /! ! ! :. ! | / lj V u`/ r‐' u /、l「l/
,' ,' l レ゙l 'J ! u /_,.,ゝ、 __)/゙!
,' ! l :. | l⌒! \,.ど__ ``!「二ニン! |
, ' l lノ l | lJ し | | l'ヽ、l 「 ̄_|j,. -'「| | !
' ,イl !|| ! J ,' / '' 'J ̄ | l | ! ゙、
.; ' / |.l! ll ', r' ,' lj / ,. 'ヽ、 J ゙、 '
' .,' { l /;,;,_::: ' U / ',. ゙、J ヽ ',
' /ヽ、 u ,'` 、. l l ヽ::::::...,.-'´ ,. ', ゙、 :.. ゙、 ,
/ ヽ、丶、l ! ! ! | l´ ,. ' ', ゙、 :. ゙、 '
./ ヽ、l |丶、|:.. 'J | J u / , ' ゙、 ゙、 ',
35 :
氏名黙秘:03/11/02 22:56 ID:???
十月十一日
ヴェテラン、この前書いたあの幸福な不合格答案、
あれは少数派の前田のところにいた学説だったんだ。
前田説に恋して、それを隠していたが、ついに打ち明け、
そのために不合格になり、それで気がふれてしまったんだ。
こんなにも味も素っ気もない報告だが、
それでも僕がどんなにはげしくこの学説に感動したか、わかってくれ。
幸二が平然とした調子で話してくれたんだが、
君もまったく同じように平然として読むことだろうがね。
36 :
氏名黙秘:03/11/02 23:14 ID:???
十一月一二日
やりきれないんだ。
――君、もうだめだ、ぼくは。
これ以上はだめだ。
今日、魔骨の横にいた――座っていた、魔骨は学説を挙げた、
いろいろの論証表、それからありとあらゆる判例を、
ありとあらゆるだよ――全部だ――どう思う、君は。
ぼくは涙が出てきた。
うつむくと魔骨の弁護士バッジが眼にはいった――ぼくは泣いた――すると突然、
おなじみの甘い論証に移った、突然なんだ。
ぼくは慰めの感情に包まれた。
すると同じに昔のこと、ぼくがこの論証をきいたころのこと、
不愉快な陰鬱な受験期のこと、
遂げられなかった数々の希望のことなどが思い出され、
それから――ぼくは自習室の中を往ったり来たりした。
何かこみ上げてきて、息が詰まりそうになる。
――「頼むから」はげしい感情の爆発とともにぼくは魔骨のそばへかけ寄った。
「頼むからやめてください」――魔骨はやめて、ぼくのかおをじっと見つめていた。
――「ヴェテラン」ぼくの魂を突き刺すような微笑を浮かべているんだ、
「ヴェテラン、あなた。とてもお加減がお悪いのね。
あんなに大好きな論証がおいやだなんて。お帰りになったら。
お願いです、気を落ち着けてくださいね」――
ぼくはさっと身をそむけて帰ってきた。
そして――幸二よ、あなたは私の悲惨をご覧になっておられる。
だからこの始末をつけてくださるでしょう。
37 :
氏名黙秘:03/11/02 23:25 ID:???
十二月二十四日
魔骨の幻がつきまとっていて離れない。
夢にもうつつにもそれが心を占領している。
眼を閉じるとこの眼の中に、内面の視力が集まり合うこの額の中に、あの黒い髪の毛が現れてくる。
ここだよ、うまくいえない。
眼をつむると魔骨の姿が出てくる。
海のように深淵のように、あの髪の毛はぼくの前、
ぼくの中にやすらっていて、ぼくの頭頂部の感覚をみたすのだ。
実質的合格者だなんぞといわれている、枠無しA落ち人間がなんだ。
合格証書を一番必要とする時、まさにその合格証書の持ち合せがないじゃないか。
それからまた、よろこびに小おどりし、あるいは悲しみに打ち沈んで、そのどちらの場合にも、
豊かな合格者のうちにとけ入ろうとするまさにその瞬間に引きとめられて、
鈍い冷たい自習室に引きもどされるじゃないか。
38 :
氏名黙秘:03/11/03 02:44 ID:???
実質的合格者<ワラ
もちろん僕の受験勉強はそのあいだも休むことなくつづけられた。僕は六時に図書館の
扉を押し、彼女と一緒に夕食をとり、それから古い過去問を解いた。
僕は一晩のあいだに五つか六つの過去問を解き、その合間に一度か二度彼女とセックス
をするようになっていた。僕の頭脳は入りくんだ事案の筋を要領よく辿り、そのイメージ
や論点をより明確に感じとることができるようになっていた。そうして問題を解いている
とむしょうにセックスしたくなるのはなぜなのかその意味はまだ理解できなかったが、僕
の性技が満足のいくものであることは彼女の反応から見てとれた。一度精を放ってしまえ
ば僕のペニスはもう過去問を解いても勃起することはなく、疲れ方もずっと楽になった。
40 :
氏名黙秘:03/11/03 21:37 ID:???
age
41 :
氏名黙秘:03/11/08 01:43 ID:???
”何かが間違っている。”
でも何が間違っているのか、私にはわからない。
私の頭の中には、濃密な論点ブロックが詰まっている。
それはもう私をどこにも連れて行かない。
手がガクガクブルブルと震えつづけている。
私は二重線を引いて、もう一度書き始めてみようとする。
指が震えて、ペンを答案用紙につけることができない。
もう一度書き始めようとしたとき、ペンが床に落ちる。
私は身を屈めてそれを拾おうとする。
でも拾えない。
机が大きく揺さぶられているからだ。
今は民法ニ問目のいちばん重要な時刻で、
そして男たちは私のまわりで揺れ続けているのだ。
彼らは私の合格を遠のかそうとしているのだ。
42 :
氏名黙秘:03/11/08 03:13 ID:???
才能の浪費をしてるな。
ここの住人は。
43 :
氏名黙秘:03/11/08 10:43 ID:???
あげ
「ねじまき鳥さん、何か言ってよ」メイは言った。
「カンコー」
45 :
氏名黙秘:03/11/09 05:09 ID:???
よくできた資格試験には、ちゃんと、ベンチで模試を待つバカップルとか、
重そうに荷物を運んでいる赤帽のヴェテとかがいて、
そいつらのほうが合格者や弁護士よりも私の興味をひく。
マコト・イトウは、LEC鰍フ役員で、
司法試験予備校のどこかにいそうな雰囲気を持っている。
たぶん、その、身体の一部に彩色をほどこした人間は、
入門講座のパンフレットを持って、受験生を待っているはずだ。
パンフレットの中身は、小さすぎてよくわからない。
合格率がどのくらいで、何人の人が挫折するのかも、
このパンフレットの中では曖昧にされている。
私の想像では、彼はこの予備校全体の見回りに行くつもりなのだが、
彼本人は「やればできる」としか答えない。
「この講座、君がつくったんじゃないの」
「そんな気もするくらい、僕の趣味に近いんだ」
「司法浪人になったら、いつ帰ってくるのなわからなくなりそうだね」
「乗せてしまえば後戻りできないからね」
彼はひとつの巨大な予備校の役員に飽きると、いつの間にか、
別の予備校の入口に立っていて、受験生を待っている。
「また、つくったな」
「いや、認可されなかったから、引越したんだ」
静かに、手紙を渡した。
46 :
氏名黙秘:03/11/09 12:37 ID:KUQW3Ow/
>>45 >「乗せてしまえば後戻りできないからね」
>「いや、認可されなかったから、引越したんだ」
age
47 :
氏名黙秘:03/11/11 20:03 ID:EhIKnRzt
過去スレのへのリンクは?
48 :
氏名黙秘:03/11/12 19:50 ID:6SWLnph6
そのままずっと掌を下に進めると、やがて平坦なお腹は終り、林が始まった。草原の中に
ぽつりとクリトリスが姿を見せはじめ、やがて僕の愛撫に反応してそれがはっきりと突起し
てきた。
細い割れ目を辿っていくと、肉襞はだんだん密になり、僕の指はとろりとした液体に覆わ
れるようになった。そして指は割れ目の奥深くに吸い込まれ、指の姿を追いつづけることが
できなくなっていった。それと同時に、彼女の深い吐息が聞こえた。
49 :
氏名黙秘:03/11/13 13:05 ID:???
「現行試験で合格できなかったベテさんはどうなるのですか?」
「焼くんだよ。門番がね」と老人はかさかさした大きな手をコーヒー・カップで暖めながら
そう答えた。「これからしばらくは、それが門番の仕事の中心になる。まず落ちたベテの
プライドを剥ぎとり、苦労して集めたタレントの画像データをウィルスを踏ませて破壊し
絶望感を与える。これで彼はその復旧のために一日中パソコンに向かわざるを得ないから、
その隙に彼が愛用していたマコツの論証やシヴァちゃんの論証を積みかさねてなたね油を
かけ、火をつけて焼いてしまうんだ」
「そして論証をなくしたベテさんの空っぽの頭の中に古い夢を入れて、司法試験考古学
博物館の陳列ケースに並べられていくわけですね?」
「どうしてそんなに問題を解くの?」と娘が訊いた。
「たぶん怖いからだな」と私は言った。
「私も怖いけど過去問しか解かないわよ」
「君の怖さと僕の怖さとでは怖さの種類が違うんだ」
「よくわからないわ」と彼女が言った。
「年をとるととりかえしのつかないものの数が増えてくるんだ」と私は言った。
「疲れてくるし?」
「そう」と私は言った。「疲れてくるし」
彼女は私の方を向いて手をのばし、私のペニスに触った。
51 :
氏名黙秘:03/11/15 00:08 ID:???
「全軍、出撃」
30歳を超えていた。それはわかっていた。しかし、受験生なのだ。
ベテ男が進んでいくと、若手は怯えたように退った。ページをめくった。憲法第一問
を読む。ラインマーカーを振った。なにもかもが、老眼のためすべてぼやけて見えた。
53 :
氏名黙秘:03/11/17 21:10 ID:???
法科大学院の時代、ローに移民した受験生が、その刻に十分なじんだころ……。
そんな時代になっても、受験生は司法試験でくりかえしたと同じように、抗争の歴史をくりかえしていた。
なぜなのだろう?
学生のもともとの習性から、ひとつの資格試験を設定すれば、
そこにうまれるエリート意識が、他者を排斥する衝動をもつ、
という説明で納得するのは簡単なことだ。
しかし、学歴を獲得したと自負し、法的技術を行使することを自明の理とした受験生は、
学生としての本性をすてることができないという内的矛盾を解決しないままに、
新司法試験という時代をむかえてしまったことに、不幸の源があったのだろう。
だから、抗争はなくならないのである。
しかし、法科大学院時代の抗争は、歴史のくりかえしではなく、
受験生が、次の受験生に成長するための陣痛であると信じたい。
司法試験からロースクールという異なる環境に出ていかざるをえなくなった受験生は、
次の資格試験には希望をみいだしたいと願っているのだ。
みずからの合格が、確実であると信じられなければ、
今日という勉強は、あまりにも寂しいものだろう。
次にあるべき受験生の姿?
それは、ローそのものを生息の天地とすることを可能にした学生たちであろう。
その学生たちを生みだすためには、どうしようもなく矛盾するものを持った自らを矯正しなければならないのだ。
そのために、自己変質するための抗争をつづけていかなければならないと、
われわれの本性と理性が知っているのだと信じたい。
だから、学生と若手の物語のなかに、ひとつの希望をみようとするのは、
ヴェテたちの無残さをみることではあっても、未来の絶望をみることではない。
54 :
氏名黙秘:03/11/18 10:19 ID:???
:
>緑ちゃん
久しぶり!
しばらくいなくなっていてごめんなさい。
論文落ちて心の旅に出ていました。
ごめんね・・・・。
56 :
氏名黙秘:03/11/20 22:12 ID:???
DAT落ち阻止AGE
57 :
氏名黙秘:03/11/20 23:10 ID:???
13と49が好き
正真正銘まだ立ち直れないベテの漏れ
自虐が一番心地よい
58 :
氏名黙秘:03/11/20 23:20 ID:???
鼠の今年は、いつもと違った。
去年までは、
年明けからは死に物狂いの苦しい勉強をしても
8月から年内はそれなりに遊べた。
しかし、今年は敵勢だ奇襲だと、
ずっと机に向かうことを余儀なくされている。
ゲンコウだけに賭けられるほど
勝ちいくさはしてないさ。
鼠は寂しく笑った
60 :
氏名黙秘:03/11/24 18:21 ID:???
鬱にも負けず 躁にも負けず
択一にも夏の論文にも負けず
丈夫な身体を持ち
欲はなく決して瞋(いか)らず
いつも静かに笑っている
一日に過去問四問と基本書と少しの判例を読み
あらゆる論点を他説を勘定に入れずに
よく見聞(みき)きし分かり そして忘れず
自習室の蔭(かげ)の
小さな机にいて
東に心の病の若手あれば
行って看病(かんびょう)してやり
西に心配性の母あれば
行って来年は大丈夫と言い
南に社会的に死にそうなヴェテあれば
行って怖(こわ)がらなくてもいいと言い
北に憲法訴訟(けんぽうそしょう)があれば
判例変更は頼むから止めてくれと言い
論文発表のときは涙を流し
択一のときはおろおろ歩き
皆にクソヴェテと呼ばれ
ほめられもせず 苦にはされ
そういうヴェテに 私はなりたい
61 :
氏名黙秘:03/11/24 18:38 ID:???
62 :
氏名黙秘:03/11/24 22:09 ID:???
ときをかえせ
かねをかえせ
としをかえせ
しょうらいをかえせ
わたしをかえせ わたしにつながる
しほうしけんをかえせ
ヴェテランの ヴェテランのよのあるかぎり
くずれぬしけんを
しけんをかえせ
63 :
a:03/11/24 22:39 ID:???
二〇〇三年十一月、この受験生活はそこから始まる。それが入り口だ。出口があ
ればいいと思う。もしなければ、試験を受ける意味なんて何もない。
=
「・・・あなたが基本書の前で孤独な消耗をつづけているあいだに、あるものは
プルーストを読みつづけているかもしれない。またあるものはドライヴ・イン・シ
アターでガールフレンドと「勇気ある追跡」を眺めながらヘビー・ペッティングに
励んでいるかもしれない。そして彼らは時代を洞察する作家となり、あるいは幸せ
な夫婦となるかもしれない。
しかし、基本書はあなたを何処にも連れて行きはしない。・・・
=
良き論文成績を祈る。」
64 :
氏名黙秘:03/11/24 22:55 ID:???
あー。前スレかなんかで俺もよく書いてたなー。
また立ったのね。
ところで前スレ張ってくれると嬉しい。
65 :
氏名黙秘:03/11/25 00:32 ID:???
>>45 >「いや、認可されなかったから、引越したんだ」
現実になったな。
神に問う。司法試験は罪なりや。
「ママ!僕を叱って下さい!」
「どうゆう具合に?」
「ベテラン!って」
「そう?ベテラン。・・・・・もう、いいでしょう?」
ママには無類のよさがある。ママを思うと、泣きたくなる。ママへおわびのためにも合格するんだ。
ベテモ人ノ子。生キテイル。
そんなら自分は、一生涯こんな試験と戦い、そうして死んで行くということに成るんだな、と思えばおのが身がいじらしくもあった。法務省の掲示板が一時にぽっと霞んだ。泣いたのだ。
ベテランの兄はこう言った。「論文試験を、くだらないとは思わぬ。おれには、
ただ少しまだるっこいだけである。たった一行の価値判断を言いたいばかりに
四頁の雰囲気をこしらえている」私は言い憎そうに、考え考えしながら答えた。
「ほんとうに、答案は短いほどよい。それだけで、信じさせることができるならば」
私は合格答案のみを、血まなこで、追いかけました。私は、いま合格答案に
追いつきました。私は追い越しました。そうして、私はまだ走っています。
合格答案は、いま、私の後ろを走っているようです。笑い話にもなりません。
ヴェテですみません。
73 :
氏名黙秘:03/11/25 15:29 ID:???
太宰か…、
前にパロのネタにしようと思って、
久しぶりに本棚から取って軽く読んで見たが、
速攻鬱入ったよ…。
結論:受験生は太宰読んじゃダメ
よく小学校の木造校舎の夢を見る。
夢の中で僕はそこに含まれている。つまり、ある種の継続的状況として僕はそこに
含まれている。その木造校舎は僕が五年生のときに取り壊され、今は鉄筋コンクリー
ト四階建ての校舎が聳えている。夢の中の木造校舎の季節は決まって冬だ。裏庭の
イチョウの落葉が地面に敷きつめられている。吐く息は白く風は冷たいのだけれども、
イチョウの葉っぱの上を歩いているときの気分はよかった。そこでは誰かが涙を流している。
僕の為に涙を流しているのだ。
鉄筋コンクリートの新しい校舎は僕に何の感傷も起こさせない。田舎都市の景観を醜悪
なものにした屑のような建物だ。木造校舎に対する喪失感だけがある。校舎そのもの
が僕を含んでいる。僕はその鼓動や温もりをはっきりと感じることができる。僕は、
夢の中では、そのホテルの一部である。
そういう夢だ。
・・・村上春樹は、冬の寒い夜、ストーブで部屋を暖めて読むのがいちばんだと思いま
せんか?
75 :
氏名黙秘:03/11/25 19:14 ID:???
「やれやれ」と僕は力なく言った。「刑訴の充電は終った?」
「あと五分で終るわ」
「急いだ方がいいな」と僕は言った。「もし僕の推察が正しければ、やみくろたちは
マコツに僕たちが辰巳に来たことを通報しているはずだし、そうすると奴らはすぐに
でもここに引き返してくるからね」
娘は雨合羽と長靴を脱いで、僕の持ってきた「やればできる」ジャケットに着替え
た。
「それは間違っているわよ」と娘は言った。「受験生は誰でも合格者になれる素質
があるの。それをうまく引き出すことができないだけの話。引き出し方のわからない
人間が寄ってたかってそれをつぶしてしまうから、多くの受験生は合格者になれない
のよ。そしてそのまま磨り減ってしまうの」
77 :
氏名黙秘:03/11/25 19:26 ID:???
「僕のようにね」
「あなたは違うわ。あなたは何か特別なものがるような気がするの。あなたの場合は
擦り減らす部分が違うから、その中でいろんなものが無傷のまま残っているのよ」
「擦り減らす部分?」
「ええ、そうよ」と娘は言った。「だから今からでも遅くないの。ねえ、これが終った
ら私と一緒に伊藤塾へ行きましょうよ?」
78 :
氏名黙秘:03/11/30 23:17 ID:+Z6Eryp2
おそらく我々は70年代に受験生であるべきだったのかもしれない。
僕が早大生で、君が中大生で、二人で、日比谷図書館で勉強したり、新報会の答練を
受けたり、芦辺の講義にもぐったり、あさま山荘事件について語り合ったり、
市ヶ谷の釣り堀で中央線を見ながらビールを飲んだりするんだ。そして、90年代には
「砂糖工事の乱」に巻き込まれて受験生を止め、そして死ぬんだ。こういうのって
素敵だと思わないか?僕だって70年代に受験生だったら、もっと立派な答案を
書けたと思うんだ。伊藤真とまではいかなくても、きっとそこそこの合格答案を書いたよ。
君はどうしていただろうね。君はずっとただの中大生だったかもしれない。
ただの中大生というのも悪くないな。なんとなく70年代的だもんな。
でもまあ、もう止そう。2000年代に戻ろう。
79 :
ロード・オブ・ザ・リングより:03/12/05 13:46 ID:eyoKEKOQ
僕にはできないよ
ええ、ひどすぎます。こんな試験をやってること自体間違いです。
・・・でもこの試験をやってる。
まるでベテランの受験日記の中にでも迷い込んだ気分です。
択一落ちや論文落ちが一杯につまっていて、その結末を知りたいとは思いません。
合格で終わる確信がないから。
こんなひどいことばかり起きた後でどうやって人生を元通りに戻せるんでしょう。
でも夜の後に必ず朝が来るように、どんな受験も永遠に続くことはないのです。
新しい日がやってくるでしょう。太陽は前にも増して明るく輝きます。
それが人の心に残るベテランの日記です。
若手の時読んで理由が分からなくても、今ならなぜ心に残ったのかよくわかります。
ベテランは重荷を捨て引き返す機会があったのに帰らなかった。
信念を持って道を歩き続けたんです。
その信念ってなんだい?
この世には命を懸けて闘うに足る素晴らしい試験があるんです。
80 :
氏名黙秘:03/12/05 13:47 ID:???
暇なやしらだな・・・
81 :
氏名黙秘:03/12/05 13:56 ID:???
ローには何か、決定的な何かが足りないのです。
82 :
氏名黙秘:03/12/05 15:16 ID:???
78いいねー
83 :
氏名黙秘:03/12/05 16:59 ID:???
84 :
氏名黙秘:03/12/08 03:07 ID:???
age
「ねえ」と僕は言った。「この前も言ったと思うけれど、僕と司法試験のあいだには、
ささやかではあるにせよ何かしら相通じるところがあるような気がする」
「そう?」彼女は無感動な声で言った。そして三十秒くらいそのまま黙っていた。
「たとえば?」と三十秒あとで彼女は言った。
「たとえば――」と僕は言った。でも頭の回転は完全にストップしていた。何も思い
つかなかった。何の言葉も浮かんではこなかった。僕はただふとそんな気がしただけ
のことなのだ。司法試験と僕のあいだにはささやかなものかもしれないにせよ、何か
しら相通じるものがある、というふうに思ったのだ。悲惨な成績通知が教える自分の
実力とかじゃなしに、ただそういう気がしたというだけ。
それで僕は無駄というものは、高度資本主義社会における最大の美徳なのだと自分
に言い聞かせた。受験生が本屋から高い問題集を買ってきて、下手な答案を書いて無
駄に答案用紙を消費することによって、日本の経済がそのぶん余計に回転し、その回
転によって僕の長い受験生活を支える経済的基盤が支えられていくのだ。もし受験生
が無駄というものを一切生み出さなくなったら、大恐慌が起こって日本の経済は無茶
苦茶になってしまうだろう。無駄、そうその存在じたいが無駄な受験生は矛盾を引き
起こす燃料であり、受験生が経済を活性化し、活性化がまた無駄な受験生を作りだす
のだ、と。
僕はコーヒーを飲みながらぼんやりとそんなことを考えていた。妄想だ。
でも僕が司法ベテであること――これは真実だった。僕は合格とは結びついていな
い。それが僕の問題なのだ。僕は僕を取り戻しつつある。でも僕は合格と結びついて
いない。
この前答案を真剣に書いたのはいつのことだったろう?
ずっと昔だ。いつかの氷河期といつかの氷河期との間。とにかくずっと昔だ。歴史
的過去。ジュラ紀とか、そういう種類の過去だ。そしてみんな消えてしまった。民法
案内もうんこスレも真法会答練も赤い表紙の択一受験講座も。宮下公園に打ち込まれ
たガス弾も。そして高度司法試験社会が訪れたのだ。そういう社会に僕はひとりぼっ
ちで取り残されていた。
僕は勘定を払って外に出た。そして何も考えずに伊藤塾までまっすぐ歩いた。
伊藤塾の場所を僕ははっきりとは覚えていなかったので、それがすぐにみつかるか
どうかいささか心配だったのだけれど、心配する必要なんて何もなかった。伊藤塾は
すぐにみつかった。それは二十六階建ての巨大なビルディングに変貌を遂げていた。
バウハウス風のモダンな曲線、光り輝く大型ガラスとステンレス・スティール・・・・・・
そんなものを誰が見落すだろう?入り口の大理石の柱にはマコツのレリーフがうめ
こまれ、その下にはこう書かれていた。
「ドラゴン・ホテル」と。
89 :
氏名黙秘:03/12/08 16:28 ID:???
90 :
氏名黙秘:03/12/08 16:30 ID:???
91 :
ゆずぽん:03/12/08 18:07 ID:???
僕は最初にマコツと顔を合わせたときから、この人について行きたいと思った。も
っと正確に言うなら、僕はマコツについて行かなきゃいけないと思ったのだ。そし
てマコツだって僕から受講料を取りたがっていると本能的に感じた。僕はマコツを前
にして文字通り体がぶるぶると震えた。
92 :
鼠:03/12/08 18:08 ID:???
新しい受験生が一発合格して予備校を去り、また新しい受験生がもうひとつのドア
からやってくる。僕は慌ててドアを開け、おい、ちょっと待ってくれ、ひとつだけ言
い忘れたことがあるんだ、と叫ぶ。でもそこにはもう誰もいない。ドアを閉める。教
室の中には既にもうひとりの新しい受験生が椅子に腰を下ろし、補強法則について僕
よりも上手な答案を書いている。もし言い忘れたことがあるのなら、と彼は言う、俺
が聞いといてやろう、たぶんあんたより先に研修所へ行くことになるだろうから。
いやいいんだ、と僕は言う、たいしたことじゃないんだ。風の音だけがあたりを被
う。たいしたことじゃない。また一年が過ぎただけだ。
93 :
直子:03/12/08 18:09 ID:???
「うまく書くことができないの」と直子は言った。「ここのところずっとそういうの
がつづいているのよ。答案構成どおり書こうとしても、いつも見当ちがいな理由づけ
しか浮かんでこないの。見当ちがいだったり、あるいは全く逆だったりね。それでそ
れを訂正しようとすると、もっと余計に混乱して見当ちがいになっちゃうし、そうす
ると最初に自分が何を書こうとしていたのかがわからなくなっちゃうの。まるで自分
の体がふたつに分かれていてね、追いかけっこをしているみたいなそんな感じなの。
まん中にすごく太い柱が立っていてね、そこのまわりをぐるぐるとまわりながら追い
かけっこしているのよ。ちゃんとした答案っていうのはいつももう一人の私が抱えて
いて、こっちの私は絶対にそれに追いつけないの」
直子は顔を上げて僕の目を見つめた。
「そういうのってわかる?」
「多かれ少なかれそういう感じって誰にでもあるものだよ」と僕は言った。「みんな
日頃の勉強の成果を十二分に表現しようとして、でも正確に表現できなくてそれでイ
ライラするんだ」
94 :
氏名黙秘:03/12/08 18:09 ID:s6IMksRN
「僕はここから出ない論点を読みとるわけなんだね?」
「それが司法ベテの仕事なの」と彼女は言った。
「読みとったものをどうすればいいんだい?」
「どうもしないのよ。ベテはただそれを読みとるだけでいいの」
「どうもよくわからないな」と僕は言った。「僕がここから出ない論点を読みとると
いうのはわかったよ。しかしそれ以上何もしなくていいというのがよくわからないん
だ。それじゃ勉強の意味が何もないような気がする。勉強には何かしらその目的とい
ったものがあるはずだ。たとえば本当に必要な論点を絞り込むためとかね」
彼女は首を振った。「その意味がどこにあるのかは私にもうまく説明することはで
きないわ。出ない論点を読みつづけていれば、あなたにもその意味が自然にわかって
くるんじゃないかしら。でもいずれにせよその意味というのはあなたの合格そのもの
にはあまり関係がないのよ」
一言で言えば、僕は成功した受験生だった。
きちんと資本を投下し、きちんとそれを回収した受験生なのだ。こういう受験生が
どのようにして作られるのか、君たちに教えてあげよう。僕は一度ある予備校のPR
誌の仕事をしたことがあるのだ。成功する受験生を作るにあたって、僕は前もって何
から何まで全部きちんと計算した。コンピューターを使って、二年間の受験生活に要
する全コストを打ち込み、徹底的に計算する。二年間に使用するトイレット・ペーパ
ーの小売価格とその使用量まで試算するのだ。受験中の性欲を処理するためのナンパ
に要する費用とその成功率を細かく分析し、ナンパが成功しやすい通りと時間帯まで
特定したのだ。とにかく何から何まで調べる。そして不合格のリスクをどんどん減ら
していく。僕は長い時間をかけて綿密な計画を練り、プロジェクト・チームを作り、
芦部憲法の一頁から読み始めた。金で解決することなら――そしてその金がいつか戻
ってくるという確信がれば――僕は予備校にいくらでも金を注ぎ込む。司法試験とは、
そういう種類のビッグ・ビジネスなのだ。
そういうビッグ・ビジネスを扱えるのは、神の恩恵として地上に下された天才にの
み許されるものなのだ。何故ならどれだけリスクを削っていっても、そこには計算の
出来ない潜在的リスクが残るし、そういうリスクを回避できるのは、最終的には神の
恩恵としか言いようがないからだ。
最近の受験生は正直なところ、僕の好みの受験生とは言えなかった。少なくとも、
僕が彼らの親であれば金を出して司法試験なんかを受験させない。トイレット・ペー
パーは無駄に使うし、そもそもうんこに対する畏敬の念を有していない。そう、はっ
きり言わしてもらうと、君たちの合格を妨げているのは、うんこに対する畏敬の念の
欠如なのだ。
97 :
鼠:03/12/09 18:11 ID:???
マコツにかつらの話を切り出すのは辛かった。何故だかわからないがひどく辛かった。
店に三日続けて通い、三日ともうまく切り出せなかった。話そうと試みるたびに喉がカラ
カラに乾き、それでビールを飲んだ。そしてそのまま飲みつづけ、たまらないほどの無力
感に支配されていった。どんなにあがいてみたところでもう一本も生えやしないんだ、と
思う。
98 :
氏名黙秘:03/12/10 11:16 ID:???
台所でスパゲティーをゆででいるときに、電話がかかってきた。僕はFM放送にあわせて
ロッシーニの「泥棒かささぎ」の序曲を口笛で吹いていた。それはスパゲティーをゆでるには
まずうってつけの音楽だった。
「あたし今度選挙に出るから、応援してほしいの」、唐突に女が言った。
「選挙?・・・悪いけど署名はできても、票集めはできないよ。それで何の選挙?」
「参議院」
99 :
氏名黙秘:03/12/10 14:30 ID:???
「君を見ていると、ときどき遠い星を見ているような気がすることがある」と僕は言
った。「それはとても明るく見える。でもその光は受験を始めた頃に送りだされた光
なんだ。それはもう今では存在しない天体の光かもしれないんだ。でも、それはある
ときには、どんなものよりリアルに見える」
合格君は黙っていた。
「君はそこにいる」と僕は言った。「そこにいるように見える。でも君はそこにいな
いかもしれない。そこにいるのは合格の影のようなものに過ぎないかもしれない。本
当の君はどこか余所にいるのかもしれない。あるいはもうずっと昔に消えてなくなっ
ているのかもしれない。僕にはそれがだんだんわからなくなってくるんだ。僕が手を
伸ばしてたしかめようとしても、いつも君は『F』とか『G』というような評価です
っと体を隠してしまうんだ。ねえ、いつまでこういうのが続くんだろう」
100 :
鼠:03/12/10 14:30 ID:???
鼠はもう答練に行くのをやめた。過去問を解くのもやめた。基本書を読むことすら
やめた。まるで蝋燭を吹き消したあとに立ちのぼる一筋の白い煙のように、彼の心の
中の何かが闇をしばらくただよいそして消えた。それから暗い沈黙がやってきた。沈
黙。一年一年と不合格を積み重ねたあとでいったい何が残るのか、鼠にもわからない。
誇りを失った元エリート?・・・・・・彼はベッドの上で何度も自分の両手を眺める。恐ら
く誇りなしに人は生きてはいけないだろう。しかし鼠には400本を超えるAVのコレ
クションがある。でもそれだけでは暗すぎる。あまりにも暗すぎる。
101 :
かえる:03/12/10 15:20 ID:???
片桐がアパートの部屋に戻ると、巨大なペニスが待っていた。二個の玉を脚のよう
にして立ち上がった背丈は2メートル以上ある。青筋も立っている。身長1メートル
60センチしかないやせっぽちの片桐は、その堂々とした外観に圧倒されてしまった。
「ぼくのことはちんこくんと呼んで下さい」とちんこは白い泡を吹きながら言った。
片桐は言葉を失って、ぽかんと口を開けたまま玄関口に突っ立っていた。
「そんなに驚かないでください。べつに男性に危害をくわえたりはしません。中に入
ってドアを閉めて下さい」とちんこくんは言った。
質が下がってるな
85ぐらいのだとイイ!!
103 :
かえで:03/12/11 18:22 ID:???
駄目になったロースクールの裏手にはきれいな小川が流れていた。とても綺麗な川
で、魚なんかもいっぱい住んでいる。藻もはえていて、魚たちはそれを食べて暮らし
ている。魚たちはローが駄目になろうがどうしようが関係ないと考えている。そりゃ
そうだ。魚にとってはローだろうが現行だろうが、そんなもの何の関係もないのだ。
法律なんてないし、税金だって納めない。
「そんなの俺たち関係ないもんね」と彼らは考えている。
僕は小川で足を洗った。小川の水は冷たくて、ちょっと足をつけていると赤くなっ
た。小川からは駄目になったロースクールの五重塔と舎利殿が見えた。舎利殿の前で
は二人の僧侶が般若経を詠んでいた。川辺りを通る人々はみんなその僧侶を見た。そ
してこう言った。
「ほらごらん。あれが駄目になったローの坊主だよ」と。
104 :
幸恵:03/12/12 11:29 ID:???
「でもね、聞こえるのよ。合格の足音が。こつ・・・こつ・・・こつ・・・とそれは近づいて
くるの。ゆっくりと、でも確実に。こつ・・・こつ・・・こつ・・・と。法務省を出て、廊下
を歩いて、私の方にやってくるの。怖かったわ。いや、怖いなんて感じちゃう私が変
なのかしら。でも、きゅっと胃がせりあがってきてね、喉のすぐ近くまで来ているの
よ。そして体じゅうから汗が吹き出すの。嫌な臭いのする冷たい汗。おかしいでしょ
う?もうすぐ合格できるかっていうのに・・・。合格すればAVに出て学費稼がなくて
もすむっていうのに・・・」
彼女は一息ついて、ブラディー・マリーをまた一口すすった。そして指輪をくるく
ると回した。
みんなうまいなぁ
頭が少し混乱している。
アタマガスコシコンランシテイル。
僕の思考が過剰な情報の中で軽くこだまする。思考がこだまするのだ。
僕はもう一度深呼吸して、頭から無意味な情報を放逐する。いつまでもこんなこと
を続けているわけにはいかない。行動に移らなければならない。そうだろう?僕は司
法試験を受けるんだろう?
「君はどう?」
「僕がロースクールのことをどう思うかってこと?」と僕は訊いた。
「そう」
「わからない」と僕は正直に言った。「僕は現行試験を続けて欲しかった。でも現行
はもうすぐ終わる。それは起こってしまったことだし、もう既成事実なんだ。そして
僕は時間をかけてその事実に馴れようとしてきたんだ。それに馴れるという以外のこ
とは何も考えないようにしてきた。だからわからない」
「うん」と彼は言った。「ねえ、こういう話は君にとって苦痛かな?」
「そんなことはない」と僕は言った。「これは事実なんだよ。事実を避けるわけには
いかない。だから苦痛というんじゃないね。引力が変化しちゃったような感覚。苦痛
ですらない」
マコツのペニスについて誰かに説明しようとするたびに、僕はいつも絶望的な無力感に
襲われることになる。僕はもともと物事の説明がうまい方ではないけれど、そういうのを
勘定に入れても、なおかつマコツのペニスについて説明するのは特殊な作業であり、至難
の業である。そしてそれを試みるたびに僕は深い深い深い深い絶望感に襲われるのである。
マコツは僕と同い年で、僕の570倍くらいハンサムである。性格もよい。決して司法
板の中傷に腹を立てたりしない。自慢もしない。ローが不認可になって自分に迷惑がかかっ
たとしても、「仕方ないよ、ま、お互いさまだものね」と彼は言う。
もちろん女の子にももてる――もてないわけがない。しかしかといって「手あたり次第」
というのはよくない。
109 :
謙三:03/12/17 19:34 ID:???
「あまりロースレが好きじゃないの?」
僕は首を振った。「駄目だね。好きになんかなれない、とても。ロースレなんかに
は何の意味もないよ。締切が近づくと上にあげてみんなに紹介する。ここに行きなさ
い。こういう書類を用意しなさい。でもどうしてわざわざそんなことしなくちゃいけ
ないんだろう?みんな勝手に自分の好きな学校へ行けばいいじゃないか?そうだろ
う?どうして他人に足切り点のことまでいちいち教えてもらわなくちゃならないん
だろう?どうして書類の揃え方まで教えてもらわなくちゃならないんだろう?そし
てね、そういうところで紹介されるローって、下位になるに従って無意味なサービス
がどんどん増えていくんだ。十中八、九はね。需要と供給のバランスが崩れるからだ
よ」
「でも上げるのね?」
「仕事だから」と僕は言った。
「李逵は、司法試験に命をかけています。夜も寝ないで問題を解きつづけるのを、俺が
止めていたのです。それがもう止められないほどに溢れてきたということです。俺には
もう止めようがありません。李逵が間違っていると先生は思われますか」
「間違ってなどいるものか。この男の答案はいつも拙劣だ。しかし間違ったことを書いた
ことなど一度もない」
「李逵は、正しい勉強方法をとっているということですね。ただものを知らないだけなの
です」
「ものを知らないことがなんだ。そんなことで、人の価値が決まるものか。私が知る中で、
最も立派な受験生だ」
87 :氏名黙秘 :03/05/05 14:15 ID:???
僕が三番目に寝た女の子は、僕のペニスのことを「あなたの身分なき故意ある道具」
と呼んだ。
僕は以前、身分なき故意ある道具についての一行問題を想定して短い答案を
書こうとしたことがある。結局答案は完成しなかったのだけれど、その間じゅう
僕は身分なき故意ある道具について考え続け、おかけで奇妙な性癖にとりつかれる
ことになった。全ての物事を数値に置き換えずにはいられないという癖である。
僕は講義に出るとまず明白にベテランと思われる受講生の数をかぞえ、
択一過去問で「君はそういうけれど、それについては(イ)という批判があるよ。
僕は(ロ)と考えるんだ〜」という形式の問の数を全てかぞえ、暇さえあれば今まで
論文の答案に書いた「思うに」「そもそも」の語の数をかぞえた。
当時の記録によれば、僕は2651問の択一過去問を解き、254回「判例同旨」という語を使い、
31回セミナーの無料ガイダンスに出席したことになる。
その時期、僕は全てを数値に置き換えることによって他人に何かを伝えられるかもしれない、
そして他人に伝える何かがある限り僕は真性身分犯の身分を取得できると真剣に思っていた。
しかし、当然のことながら、僕が択一の答練で合推を超えた数やセミナーA館に貼ってある
真知子のポスターの数やNo.52でさりげなく3を選んでしまった人の数に対して誰一人として
興味など持ちはしない。そして、僕は身分者としての反対動機の形成ができず
あいかわらず正犯の単なる道具にすぎなかった。
そんなわけで、択一不合格を知らされた時、僕はこっそりはがした23枚目の真知子のポスターを
丁寧に折りただんでかばんにしまい込むところだった。
「つまり出題者の頭の中には人跡未踏の巨大な過去問の墓場のごときものが埋まって
おるわけですな。大宇宙をべつにすればこれは人類最後の未知の大地と呼ぶべきでしょう。
いや、過去問の墓場という表現はよくないですな。何故なら司法試験の墓場という
糞スレを連想させますからな。正確には過去問工場と呼んだ方が近いかもしれません。
そこでは、無数の記憶や認識の断片が選り分けられ、選り分けられた断片が複雑に
組み合わされて肢を作り、その肢がまた複雑に組み合わされて問題を作り、その問題
がシステムを作り上げておるからです」
「そしてその過去問工場から発せられる指令によって受験生の行動様式が決定されて
いるというわけですね」
「そのとおりです」と永山は言った。
113 :
氏名黙秘:04/01/03 16:28 ID:eh5/cTRc
ageとくか。
結果無価値の出てくるシーンはそこだけではなかった。彼女は次の日曜日の朝に答
練を受ける。いったい「被害者の承諾」は何説で書けばいいんだろう。いかに結果無
価値を無視していないことを強調するためとはいえ、反対説をまるごとパクるのはい
ただけなかった。
「だって、あなた偶然防衛は否定するんでしょう?防衛の意思は必要なのよね?なの
に偶然に被害者が承諾していたときは、たとえ行為者が認識していなくても、違法性
がないっていっていいのかしら?」
実の台詞はたったひとことだけ。「それがどうしたっていうんだよ?」と言うだけ。
行為無価値の女の子がショックを受けて走って行ってしまったあとで、実がそう言うのだ。
ひどい台詞だった。でもそれが実の語る唯一の言葉だった。
「それがどうしたっていうんだよ?」
みんな上手いなぁ
漏れも春樹よく読むけど
こんなのは書けんな
116 :
謙三:04/01/08 16:32 ID:???
「どうして新版出したばかりなのに改訂稿書いてるの?」と彼女は訊いた。
「新版」と実は繰り返した。実にもどうしてかはうまく説明できなかった。「どうし
てかな?」と実は自分に向かって問いかけてみた。
「どの論点を改説してるの、いったい?」
実は考えてみた。考えようと努力してみた。でも何も考えられなかった。
「いいわよ、考えなくても」と彼女はあきらめたように言った。そしてソファに腰を
下ろし、眼鏡の縁にちょっと手をやって実の顔をまじまじと見た。「あなた、でも誤
想防衛を事実の錯誤説に変えたり、中止犯を責任減少説に変えるのはやめてね」
「でうして?そこまで改説しちゃうと、シケタイが不要になって売れなくなってしま
うから?」と実は言った。
「・・・・・・」
「前者は形式的故意概念にかかわるし、後者は違法二元論にかかわる。いずれも僕の
犯罪論体系の中核をなすものだから、変えたりはしないよ」
「
http://school.2ch.net/test/read.cgi/shihou/1073216065/l50」
117 :
緑:04/01/08 17:05 ID:???
「過去問を解いて」とメイが言った。僕は机に向かって問題集を開いた。素敵な問題
集だった。懐かしい問題集。それから僕はわからないところを「スピ六」で調べた。
スピ六、また下らない愛称。どうしてスピ六なんて名前をつけるんだろう?でも僕が
それについて考えているうちに、彼女は僕の腕の中ですやすやと眠ってしまった。僕
の腕の中で眠っているときのメイはもう優秀な合格者には見えなかった。彼女は鼻の
穴で風船を膨らませていた。おそ松くんみたい、と僕は思った。時計はもう四時を回
っていた。あたりはしんと静まりかえっていた。合格者のメイとベテのプー。ただの
イメージ。経費で落とせる予備校の講座。スピ六。またまた勉強をさぼった一日。繋
がりそうで繋がらない。糸を辿るような心細さで合格に至ろうとすると、やがてぷつ
んと切れる。過去問を解いた。刑法パズル問題にある種の好意さえ抱くようになった。
合格者のメイと知り合った。彼女と寝た。素敵だった。僕はベテのプーになった。
官能的雪かき。でも何処にもたどりつかない。
118 :
緑:04/01/09 11:44 ID:???
今度は彼女が実の目をじっと見た。「私のこと、変な風に思わないでくださいね。
予備校本のまねして答案書くの初めてなんです。基本書のとおり書かないっていうの
は。でも本当にそうしないわけにいかないんです。その理由はあなたが一番わかると
思うけど」
「変な風に思ったりしないよ。僕だってそのくらいのことは知っている。ある年の過
去問を僕の教科書どおり書いてしまうと、次のメインの論点に行けないんだろう?知
ってるよ。だから心配しなくていい」と実は言った。「僕は悪い人間じゃない。あま
り2ちゃんでは良く書かれないけど、君たちが予備校で教えられているとおりに書い
たからって、決して変な点数はつけなかったと思うよ」
ノブキには何もやることがなかった。やるべきこともなければ、やりたいこともな
かった。ノブキがやるべきことは、カズノがやってしまったのだ。カズノは自己の執
筆部分に記号を付していたが、そんなことをする必要などなかったのだとノブキは思
った。誰が読んでもノブキが執筆した部分との違いは明瞭だった。
ノブキの対抗馬と目されていた京都の人の本は、改訂を重ねるたびに解かりづらい
文章になった。もっとも彼の功績は、憲法の学習に暗号解読の楽しさを導入したこと
であり、そのことはノブキも評価していた。大衆化された大学においては、憲法の学
習に何らかの楽しみが必要であることは、つとに指摘されていたところだったのだ。
ノブキは何も思いつかなかった。
仕方なくロビーのソファに座ってしばらくぼんやりとあたりを眺めていた。フロン
トにはシケタイ憲法を読んでいる眼鏡をかけた女の子の姿が見えた。ノブキと目が合
うと、彼女はちょっと緊張したみたいに見えた。何故だろう?僕がこの世に存在して
いるということが彼女の中の何かを刺激するのだろうか?わからない。ノブキは彼女
に近づいて訊ねてみた。
「シケタイ憲法は、面白いかい?」
彼女は少し赤くなった。「ごめんなさい。家に帰れば岩波の『憲法 第三版』があ
るんです」
ノブキはにっこりした。
「でも、岩波の『憲法』って地方自治と参政権のところが少し手薄な気がするんです。
それに国家賠償請求権と刑事補償請求権は、ほとんど何も書いていないに等しい
し・・・。あっ、ごめんなさい、名著であることは皆な認めてはいるんですけれど」
確かに、刑事補償請求権は何も書いていないに等しかった。でもそのおかげで、条
文さえ覚えておけば正解できる択一問題しか法務省は出題できないだろう、と言いか
けてノブキは口を閉ざした。あんなマイナーな条文について大ノブキがごちゃごちゃ
と細かい判例を紹介するまでもなかろうと思っていたのだ。ところが、そのことが原
因で、干拓と成川が売上げを伸ばすことになろうとは、さすがの大ノブキにも予想が
できなかった。
ノブキは伊藤真の偽名を使ってオープンとハイレベルを受講することにした。民法
と刑法はちょっと自信がなかったが、それでも常に16点以上は叩きだしていた。し
かし、去年のハイレベルの3回目の憲法で13点しか取れなかったときはショックだ
った。
憲法の解説が芦部説ベースで書かれているのを見てホッとするのが受講の目的で
あったが、いまだに京都の人の学説ベースで書かれている解説を時折見かけるとゾッ
とした。
「この席、空いていますか?」
20代前半の可愛らしい女の子が話しかけてきた。ノブキのゼミにはこんな可愛い
女の子はいなかった。
オモちロイ
誰かカフカも書いてほしいな是非是非
漏れには書けんが
近所の本屋へ行ったところ、カフカは1冊もなかった。
カミュの「異邦人」もなかった。
きょうマコツが死んだ ・・・という冒頭の文章はできていたのに、残念。
「あなたはロー入試は受けてるの?」
「先週D大を受けてきた、来週はK大、その次はK大、あともう一つくらい受けるかもしれない」
「大変ね」
「そうでもないさ、ただメニュー一覧の中から自分の学力で行ける所を選ぶだけだからね、
D大は受かっても行くかどうか分からないし、そもそも現行とローで迷ってもいるから、
今年のロー入試は適当に受けてるだけだよ」
「あなたってすごいのね」
「どうして?」
「それだけ選べるメニューがあって…、私には何もない」
「……」
「あなたはさっきまるでレストランみたいにメニューから選ぶだけだと言ったけど、
私のメニューにはなにも書かれてないわ」
「糞ヴェテの私には現行以外選択肢なんてないのよ、貴方にはそれがわかるの?」
「……」
そのとき病室にマコツが帰ってきた
「どうした?」
「彼に大学生活の事を話してもらっていたのよ」
自習室からの帰り道マコツはしばらく黙っていた。
―――
「何を話していたんだ?」
「別に、普通の事だよ」
「…択一が近づいて気が立っているんだ、気にしないでやってくれ」
「別になんでもないよ」
「なあ」
「何?」
「お前は将来弁護士になるんだったな?」
「なれればね」
「お前が弁護士になっても、あいつの事忘れないでいてくれないか?」
「?」
「俺はお前と違って頭が悪い、女癖も悪い。
俺はいつかあいつの事を忘れるだろう。
でも俺はあいつの事を覚えておきたいんだ、
あいつの事を知っている人間がいなくなるのが嫌なんだ。」
「……」
「だからお前が俺の代りに忘れないでいてやってくれ」
「…忘れないよ」
「そうか、じゃあ約束だ、俺とお前は塾生だからこの約束はマコツ同盟だ」
きょう、不合格の通知が届いた。もしかすると、これで五校全部落ちたのかもしれ
ないが、私にはわからない。ローから電報をもらった。「キデンノユウヤクヲイノル、
ハルウララ」これでは何もわからない。恐らく落ちたのだろう。
私は主人に二日間の休暇を願い出た。こんな事情があったのでは、休暇をことわる
わけにはゆかないが、彼は不満な様子だった。「私のせいではないんです」といって
やったが、彼は返事をしなかった。そこで、こんなことは、口にすべきではなかった、
と思った。とにかく、言いわけなどしないでもよかった。むしろ彼の方が私に向かっ
て「現行で頑張ればいいじゃないか」とかなんとかいわなければならないはずだ。
が、彼が実際悔みをいうのはもちろん明後日、喪服姿の私の家族に出会ったときにな
ろう。
彼等は受からない人々ではない ただ受かっていないのにすぎない
彼等はなんの職も持たず なんの世界もない
極度の社会的不適合者の烙印を押され
すかっり誇りをむしり取られ 歪められている
都会のあらゆる塵埃が彼等へ押しよせ
あらゆる汚物が彼等にぶら下がっている
彼等は疱瘡の床のように忌み嫌われ
破片のように 骸骨のように
過ぎてしまった年の暦のように投げすてられてている――
ある朝、マコツがなにか気がかりな夢から目をさますと、自分が寝床の中で一匹の
巨大な虫に変わっているのを発見した。彼は鎧のように堅い背を下にして、あおむけ
に横たわっていた。頭をすこし持ちあげると、アーチのようにふくらんだ褐色の腹が
見える。腹の上には横に幾本かの筋がついていて、筋の部分はくぼんでいる。彼を驚
かせたのは、腹の下にあるべき自慢のペニスが消滅していたことであった。たくさん
の足が彼の目の前に頼りなげにぴくぴく動いていた。以前存在したはずのペニスの太
さにくらべて、足はひどくか細かった。
「これはいったいどうしたことだ」と彼は思った。夢ではない。見まわす周囲は、小
さすぎるとはいえ、とにかく人間が住む普通の部屋、自分のいつもの部屋である。四
方の壁も見なれたいつもの壁である。テーブルの上には、書きかけのシケタイの原稿
が雑然と散らばっている。――彼は受験界のカリスマ講師であった。――テーブルの
上方の壁にはお正月の書初めがかかっている。ついこのあいだ、新年を迎え気持ちを
新たにして書いた「やればできる」だ。
それからマコツは窓の外を見た。陰気な天気は気持ちをひどくめいらせた。――窓
の下のブリキ板を打つ雨の音が聞こえる。――もう少々眠って、この悪夢をすべて忘
れてしまったらどうだろうかとも考えてみたが、しかしそれは実行不可能だった。
なぜかというと、マコツは右を下にして寝る習慣があったが、現在のような体の状態
では、それはできない相談であった。どんなに一所懸命になって右を下にしようとし
ても、そのたびにぐらりぐらりと体が揺れて、結局もとのあおむけの姿勢に戻ってし
まう。百回もそうしようと試みただろうか。その間も目はつぶったままであった。目
を開けていると、もぞもぞ動いているたくさんの足がいやでも見えてしまうからだ。
しかしそのうちに脇腹あたりに、これまでに経験したことのないような鈍痛を感じは
じめた。そこで仕方なく右を下にして寝ようという努力を中止した。
Kafkaキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!
マコツは思った。「やれやれ俺はなんという辛気くさい商売を選んでしまったんだ
ろう。年がら年じゅう、憲法の精神だ。会社勤めだっていろいろ面倒なことはあるの
だが、受験生相手の商売につきまとう苦労はまた格別なのだ。そのうえロー開校とい
うやっかいな問題があって、不認可ばかりは俺の力でもどうにもならない。それに、
人づきあいだってそうだ。二年三年で諦めてくれればいいものを、長くいる受験生は
俺のかつらの秘密まで2ちゃんに書きたてるしまつで、本当に親しくなるようなこと
なんか絶対にありはしない。何といういまいましいことだ」腹の上がなんだか少々痒
い。頭をもっと高くもたげられるように、あおむけになったまま少しづつ体を上の方
へ、寝台の前枠の方へずらせてみると、そのむず痒い場所が見えた。そこにはただも
う小さな白い点々がいっぱいくっついていた。それが何であるかはわからなかった。
一本の足を使ってその場所に触ってみようとしたが、すぐまたその足を引っ込めた。
ちょっと触ってみたら、ぞうっと寒気がしたからである。
彼はあおむけのまま、また体をずらせて元の位置に戻った。彼は思った、「この、
早起き特訓というやつは受験生をうすら馬鹿にしてしまう。受験生はたっぷりと眠ら
なければいけないのだ。ほかの受験生たちはハーレムに女を集めてよろしくやってい
るではないか。はやい話しが早起きして勉強している受験生が午前中に自宅に戻り、
かき集めたレジュメを整理してパンチ穴を空けようという頃になって(そう、うちの
レジュメは自分でパンチ穴を空ける必要がある)、ほかの受験生はやっと朝食という
段取りだ。この俺がそんなことでもしようものなら、たちまち2ちゃんで晒されてし
まうだろう。
この俺だってそんなふうにのんびりとやってみたいのは山々なのだ。ハーレムに女
を集めて、一日中2ちゃんで講師の悪口を書いていたいよ。両親というものがあれば
こそこうやって我慢もしているんだが、親がいなかったならば、もうとっくの昔に講
師なんかやめて、さんざん俺の悪口を書きたてた受験生の前につかつかと進み、思っ
ているとおりのことをずけずけと言ってやる。そうしたらやつらは仰天して一生試験
に受からないだろう。いずれにしろ氏名黙秘で、俺の悪口をさんざん書き込むという
のは奇妙な流儀さ。そのうえまだ司法試験に受かれないときているんだから、よっぽ
ど頭が悪いんだろうな。いや、全然希望をもてないというわけのものじゃない。将来
銀行への返済の目処がついたら――まだ五、六年先のことになるだろうが――そうし
たら俺は断然やってやるぞ。それが俺の人生の一大転換期になるだろう。それはそれ
として、さあ、今はもう起きなければならない、講義が始まるのは六時なのだから」
高校のときの家庭教師の先生が
カフカって面白いよって言ってました。
本当に面白いですね。
文庫本買って読んでみます。
そういったことを思いめぐらせて、しかも寝床を離れようという決心がつきかねて
いたときに――そのとき、時計がちょうど六時四十五分を打った――寝台の頭のとこ
ろのドアをそっとノックする音がする。「マコツや」という声がする――母親であっ
た。――「六時四十五分ですよ。お仕事のほうはどうするの?」やさしい声である。
マコツはそれに答える自分の声を聞いてぎょっとした。むろんまぎれもないこれまで
の自分の声には違いなかったが、その昨日までの自分の声の中に、言ってみれば下の
方から、どうしようもない、偽善的な「大丈夫」というだみ声が混じってくるのだ。
この「大丈夫」というだみ声はただ最初の瞬間だけは確かに受験生を勇気づける言葉
の明瞭さを妨げずにいるが、一回二回と択一を落ちるにしたがって、不安を掻きたて
る言葉へと変質してくるのであった。
自分の体の変化について一切を説明しようと思ったが、そういう次第なので「大丈
夫」と言うにとどめた。ドアは木製であったから、マコツの声の変化は、ドアの外側
にいる者にはおそらくわからなかったのであろう。母親は息子の返事に安心して、足
を引き摺り引き摺り遠のいていった。だがこの小さな問答は、ほかの家人に意外にも
マコツがまだ出かけずにいることをわからせてしまった。果たせるかな、もうひとつ
の側のドアを父親が軽く、しかし拳でノックした。「マコツ、マコツ。どうしたんだ、
いったい」それから少し間を置き、いっそう声を低めて「マコツ、おい」と注意した。
すると向い合わせの別のドアの外では、妹が小声で心配そうに「お兄さん、気分がわ
るいの?また2ちゃんで誰かにいじめられたの?」という。
マコツはその両方に向かって「大丈夫」とだみ声で答えたが、言葉を慎重に発音し、
言葉と言葉のあいだに長く間をとって、自分の声の、妙に響くようなだみ声をすべて
除き去ろうと苦心した。父親はふたたび朝食のテーブルに戻っていったが、しかし妹
はまだドアのところにいて「お兄さん、ここをお開けなさいよ、ねえ、お願いだから」
と囁いた。だが彼はドアを開けようなどとは思ってもみなかった。童貞時代の習慣が
大人になっても抜けきれず、エロビデオを見るときはドアというドアの錠を下ろして
おくという自分の用心ぶかさに感謝したほどであった。
最初、彼は、悠々と人に邪魔されずに起き上がり、服を着て、なにはともあれ朝飯
を食べよう、それが終わってからその先のことを考えることにしようと思った。寝床
の中でくよくよ思いわずらっていたって分別のある結論に到達することはあるまい
と推量したからである。思い出してみると、寝床の中で幾度か軽い痛みを感じたよう
でも、ところが起きてみると、そういう苦痛というのがまったくの錯覚だったことが
よくあった。だから自分の今日の有り様も実は寝起きの錯覚だったことがわかるかも
しれないと彼は緊張した。声が変わってしまったのも、昨日の講義で雑談をやりすぎ
たからにほかならないのではあるまいか。彼は頭からそう思い込んで疑わなかった。
布団をはね除けることは、しごく造作なくやれた。手で持ち上げる必要はなく、た
だほんのちょっと腹をふくらましさえすればよかった。布団は自然と下へ落ちた。と
ころがそれから先が厄介なことになってきた。ことにそれはマコツの体がひどく大き
かったからである。起き上がるには腕や手の助けを借りなければならないのに、その
腕や手の代わりに現在あるのは、絶えずてんでんばらばらに動くたくさんの小さな足
しかなく、またその足さえも彼の思い通りにはならなかった。たとえば一本の足を折
り曲げようとすると、その足はまずグッと伸びる。それでもどうにかこうにかその一
本の足を使って自分のしようと思ったことをなしとげても、その間じゅう他の足ども
は、まるでやっと解き放たれたとでもいうように、痛々しく大騒ぎをやっていた。
「やればできる」とマコツは独り言を言った。
もっと!
僕はもう永く試験を受けていた
鼠がビールを飲みながら ジェイズバーの床にピーナッツの皮を
まきちらしていたときから。
風の歌はもう少しも聞こえなかった
願書に生年月日を書く手が重かった
私はその欄をまるで
瞑想にくもる顔のように覗きこんでいた
私の受験勉強の周りには時が堰かれて溜っていた――
すると突然 願書のうえに明りがさした
そしてものおじた筆跡のもつれの代りに
ズウズウ弁では「若者」はバカモノと読む
・・・・・・と願書の到所に書かれているのだった
私はまだ試験委員の顔を知らない けれども私のペンが
ちぎれちぎれに 言葉は
脈絡の糸をたたれて 思い思いの方角へ転がってゆく・・・・・・
誰に向かってお前は嘆こうとするのか ベテよ?
ますます見捨てられて
お前の道は 不可解な人々の間をぬって
もがきながら 進んでゆく
だがしかし それもおそらくは空しいのだ
なぜなら お前の道は 方向を
未来への方向を 保っているからだ
失われた未来への
予め失われている 受験生よ
いちども合格したことのない人よ
私は知らないのだ どんな勉強方法がお前に相応しいかを
未来の波が高まっても もはや私はお前を
そこに乗せてあげることはできない
嗚呼 お前は ベテ
嗚呼 どんなにか期待をもって
私はお前を眺めたか
開かれた窓――するとそこに思いに沈んだお前が
高収入に目がくらんで
私に高いお布施を喜捨したお前
嗚呼 しかし 誰が知ろう?
同じ一羽の鳥の鳴き声が
昨日の夕方 別々に 私たちの内部を貫いてゆかなかったことを
お前たち
ローがそっと 顔をそむけてしまった者たちよ
ひとりの たぶんローへ行く者が唱えるだろう
ローの自由な世界で
夜 おもむろに ひとつの祈りを
お前たちから「現行」が消えてなくなるようにと
なぜならお前たちは「現行」を待っているからだ
もし いまお前たちに想い出が浮かんだら
出願してみるがいい
すべては失われてしまったのだ
昔あったものはみな。
あまりにも久しく抑えられていた性欲が
既にブリーフの中いっぱいに噴きだして
ズボンにまで沁みている
背伸びをした巨根の夏は 既に感じている
若いお前の壺の中で その青春の衝動を
軽やかな花はやがて散ってしまった
北方謙三 テレビ出演 2月2日(月)スタート
NHK人間講座 『三国志の英傑たち』全9回 講師
教育テレビ 月曜日 午後10:25〜10:50
再放送 翌週月曜日 午後2:00〜2:25
再々放送 翌月土曜日 午前1:00〜1:25
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ミ 彡
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<<-┘ \\ 非 \\ └->> / /
\\ 非 \\ / /
\\ \\ _/ /
\\ \\/ 7  ̄
<<-┘ └ =
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/_/
アラビア人の男は私を見つけると、少しからだを起こし、シャツの下に手を入れた。
もちろん男は、シャツのなかで、私の乳房を握りしめた。それから、彼は私の乳房を
握りしめたまま、私のジーンズのボタンを外しファスナーを下げて、空いているほう
の手をパンティの中に突っ込んだ。私はすでに濡れていた。彼の半ば閉じた瞼の間か
ら、時々ちらりと視線のもれるのがわかった。でも、ひっきりなしに、彼の姿が私の
目の前に踊り、燃えあがる大気のなかに踊った。波音は正午よりももっと物憂げで、
もっと穏かだった。ここに広がる同じ砂の上に、同じ太陽、同じ光が注いでいた。も
う二時間も前から、陽は進むのをやめ、沸き立つ金属みたいな海の中に、錨を投げて
いたのだ。水平線に、小さな蒸気船が通った。それを視線のはじに黒いしみができた
ように感じたのは、私がすっとアラビア人から眼をはなさずにいたからだった。
自分が男を拒めば、それで事は終わると、私は考えたが、太陽の光に打ち震えてい
る砂浜が、私の後ろにせまっていた。アラビア人は手早く私の衣服を脱がせると、そ
の貪欲な凸を私の凹に挿入したが、アラビア人はそのまま動かなかった。それでも、
私は膣の肉襞で男のペニスに浮き出た動脈の血の流れを感じることができた。おそら
く、その顔をおおう影のせいだったろうが、彼は笑っている風に見えた。私は待った。
陽の光で、頬が焼けるようだった。眉毛に汗の滴がたまるのを感じた。それはママン
を埋葬した日と同じ太陽だった。あのときのように、特に膣の上部に痛みを感じ、あ
りとあらゆる血管が、皮膚の下でいちどきに脈打っていた。
焼けつくような光に耐えかねて、私は顔を横に向けた。私はそれが馬鹿げたことだ
と知っていたし、両腕をアラビア人に押さえられて、太陽から逃れられないことも分
かっていた。男はゆっくりと動きはじめた。アラビア人は、私の腕を押さえていた両
手を私の腰にあてがった。それから激しく腰を前後させ始めた。その瞬間、眉毛にた
まった汗が一度に瞼に流れ、なまぬるく厚いヴェールで瞼をつつんだ。涙と汗のとば
りで、私の目は見えなくなった。額に鳴る太陽のシンバルと、男のペニスの先から迸
る液体を凹で感じるほかには、何ひとつ感じられなくなった。
そのときすべてがゆらゆらした。海は重苦しく、激しい息吹を運んできた。空は端
から端まで裂けて、火を降らすかと思われた。男のうめき声と同時に、私の全体がこ
わばった。私はアラビア人の上着のポケットに手を入れて、彼のピストルを抜き取っ
た。引き金はしなやかだった。私は銃尾のすべっこい腹にさわった。乾いた、それで
いて耳を聾する轟音とともに、すべてが始まったのはこのときだった。私は汗と太陽
とを振り払った。昼間の均衡と、私がそこに幸福を感じていた浜辺の異常な沈黙とを、
打ち壊したことを悟った。そこで、私はアラビア人の身動きしない体に、なお四たび
弾丸を撃ち込んだ。弾丸は男のからだに深くくい入ったが、そうとも見えなかった。
それは、私が不幸の扉を叩いた四つの短い音にも似ていた。
最初、私は予審判事の言うことを真に受けてはいなかった。私だって三振する前は
司法試験の受験生だったのだ。正当防衛と過剰防衛の区別くらいはわかる。彼はカー
テンを下ろした部屋で私を迎えた。その机にはたった一つだけランプが載っていて、
私の座らせられた肘掛椅子を照らしていた。一方、彼はずっと闇の中に座っていたの
だ。以前こうした描写を書物の中で読んだことがあったが、すべてゲームのように見
えた。彼は「魚心あれば水心と言うではないか」と言って、私の上着の襟元から手を
差し入れ、乳房を握りしめた。ところで、じっと眺めると、この予審判事が細おもて
で青い眼は落ち窪み、丈が高く、灰色の口ひげを長く伸ばし、半白の髪をあふれるよ
うに波打たしているのに気づいた。彼はものわかりも良く、また、耳フェチという変
な癖はあったけれども、とにかく、退屈させないセックスをするように思えた。私は
彼に「結婚してくれるわね」とさえ言おうとしたが、丁度その時、自分が人殺しをし
たことを思い出した。
私は肘掛椅子に座ったままの姿勢でいた。予審判事は巧妙な手つきで私の乳首を刺
激し続けた。彼の指先が乳首に触れるたびに、私の凹が反応するのがわかった。尋問
が始まった。まず判事は、私が人から口数が少なく、内に閉じこもりがちな性格だと
見られていると言い、そのことをどう考えているか、と尋ねた。「言うべきことがあ
まりないので、・・・アッ・・・、それで黙っている・・・フーゥ・・・だけです」と私は答えた。
判事は最初のときのように微笑して、それはもっともな理由だとこれを認め、「それ
に、これは大したことではない」と付け加えながら、親指と中指で乳首をはさみ、コ
リコリとつまんだ。彼は黙りこんで、私のブラウスのボタンを一つ一つ丁寧に外しな
がら、「あなたという人は、面白い人だ」と早口に言うと、ブラジャーの肩紐を下ろ
し、私の乳房を露わにするやいなや、赤ん坊のように私の乳首を口に咥えた。
彼の言うところの意味がよく判らなかったので、私は何も答えずにいた。次第に予
審判事が興奮を昂ぶらせてゆくのが、彼の鼻息から理解できた。彼は、つけ加えて、
「あなたの行動には、私には分かりかねる点が多々あるが、あなたが私を助けて、そ
れを判らせてくれることを確信しています」と言いながら、スカートの中に手を入れ
てきた。彼は、私に両脚を開くように催促した。私は腿の筋肉を緩め、膝と膝が10cm
離れるくらいに股を開いた。彼の指が私の凹の上を這いずり回った。私も次第に興奮
してきた。そんなことをしつつも、彼は、事件当日のことを陳述するよう、私を促し
た。私は、既に彼に向かって話したことを、もう一度申述べた。レエモン、浜、海水
浴、アラビア人によるレイプ、争い、太陽、そしてピストルを五発撃ち込んだこと。
ひとこと話すたびに、私は「アア・・・、ouf」といい、彼も大きく息をした。横たわっ
た死体のところまで話しが進むと、彼は「もうよろしい」と言って、私の上半身を机
の上に乗せ、それから荒々しくスカートとパンティをずり下ろすと、後ろから私を貫
いた。私といえば、こんな風に、同じ話しを繰り返すことに疲れきっていた。今はた
だ彼の腰の動きが醸し出す快楽に、身を委ねていたかった。
合格を待ちくたびれ 欝陶しい物事にみちて
自室での永い不安や時が流れてゆく
おお ひとりぽっち
おお 重苦しく時をすごすことよ・・・・・・
そしてそれから自室を出ると 往来はきらめき鳴っている
公園には噴水が迸り 公園では半乳見せながら若妻が子供の手を引く――
おお 奇妙な時よ
おお 時を浪費することよ
おお ひとりぽっち
そして あらゆるものを 遠くから覗きこむ
男たちや 女たちや いろいろな人たち
それから 自分とは違って 派手な服装をしている若者たちを
おお 意味のない悲しみよ
おお 夢 おお 恐れ
おお 底なしの深淵よ
そして 黄昏れてゆく公園をあとにする
そして 鬼ごっこをしているような素早さで
めくら滅法に 粗あらしく ペニスに触ってみたりする
おお だんだん遠のいてゆく 択一知識よ
おお 不安
おお のしかかる重荷よ
または幾時間も 分厚い択一問題集を解き
そして すぐにそれを忘れる
そして 沈みながら AVビデオをデッキに差し込むと
小さな青白い顔に 灰色の微笑が浮かぶ
おお 司法試験
おお 崩れ去ってゆくイメージよ
合格は どこへ どこへ 行ったのか?
合 格 は 浪 人 の 対 極 と し て で は な く 、
そ の 一 部 と し て 存 在 す る 。
しばらくの沈黙の後に、彼は身なりを整えて、私はあなたを助けたいと思う、あな
たは面白い人だし、神の加護により、あなたのために何かしてあげられよう、と私に
言った。でも、その前に、彼はもう一度、別な場所であなたとセックスをしたいと言
った。
その後、何度も予審判事に会って、私と彼はセックスをした。肌を重ねるごとに、
私の凹と彼の凸とは馴染んでゆくようだった。とにかく、少しずつセックスの有りよ
うが変わった。判事はもはや私の惹き起こした殺人事件には関心を持っていないよう
だったし、いわば私の事件はもはや整理ずみになってしまったかに見えた。彼はもう
セックスに必要な言語以外は何も語らなかったし、また最初の尋問の日のような恐い
顔を見ることもなかった。その結果、われわれの逢瀬は、だんだん打ち解けたものに
なった。
それから数日後、私の身柄は監獄吏の手に渡された。
断じて語りたくなかった事柄もある。刑務所に入って数日たつと、私は自分の生活
のある部分を語りたくないということがわかった。
しばらくすると、こうした嫌悪の念に、私はもう大した意味を認めなかった。実際
において、最初のうちは、現実に刑務所にいたとは言えなかった。わたしは高級ホテ
ルのスイートルームのような豪華な部屋に軟禁された。
すべてが始まったのは、脂ぎった顔の所長の訪問を受けてからだった。
「どうかね?ここの暮らしは?」と高い声で所長が言った。
「ええ、刑務所にいるとは思えないわ。部屋は大きくて綺麗だし、美味しい食事はい
ただけるし。娑婆にいたころよりずっと幸せよ」
所長は微笑していた。それから私に近づくとセーターの下から太い腕を突っ込んで
きた。彼はもちろん私の乳房を握りしめた。
彼のやり方は、それまでセックスをしてきた他のどんな男たちよりも直截で大胆だ
った。彼は私の両腕を縄で縛り上げ、ちょうど背伸びをするような恰好に私を吊るし
上げた。それからニタニタと卑猥な笑顔を見せながら、私の着衣を一枚一枚剥がして
いった。それから私の豊満な体を掌や舌で弄んだ後で、馬のペニスのような巨大なイ
チモツを無理やり挿入してきた。時には部屋に他の数人の男性を入れ、彼らの見てい
る前で私を陵辱した。そういう日は夜明けまで私の体は休ませてもらえなかった。数
人の男が入れ替わり立ち代り怒張を挿入してくる。口にも怒張を押し込まれた。二本
同時に咥えさせられたこともあった。前と後ろから強い力で押されて、私は呼吸する
ことさえ困難を感じた。
主よ 秋です 夏は偉大でした
希望を私たちにもたらしました
今 家のない者は もはや家を建てることはありません
今 独りでいる者は 永く孤独に留まるでしょう
夜も眠らず 基本書を読み 見飽きた答案を書くでしょう
そして 並木道を あちらこちら
落ち着きもなく 彷徨っているでしょう
落ち葉が 舞い散るときに
ヴァカ手が 落ちる 落ちる あたり前のように
大空の園生が 枯れたように
ヴァカ手は ヒラヒラと 落ちる 落ちる
われわれは みんな 落ちる 落ちる
周りを見渡してごらん みんな 落ちる 落ちる
けれども ただひとり この落下を
限りなく優しく その両手に支えている者がある
しかし その優しい者も 落ちる 落ちる
彼は横たわっていた 彼のそこに置かれた顔は
うず高く重ねたれた予備校のテキストの間で
蒼白く ものを拒んでいた
それ以来 合格は また合格についてのその認識は
彼の感覚から 引き剥がされ
冷ややかな歳月に また戻っていったのだった
合格した彼を見た者はいなかった
どんなに彼が 合格のために これらのテキストと一体となっていたか
シケタイ デバイス C-Book LIVE過去問
これらの本は 彼の顔であったのだから
嗚呼 彼の顔は これらの全体の広い世界だった
それらは今なお彼の処を欲し 彼を求めている
そして 今脅えつつ死んでゆく彼のマスクは
柔らかで 開いているのだ
まるで大気に触れて朽ちる 果実のように
おお 何と合格は遠く もうとっくに過ぎ去っていることだろう
私は思う 私はその輝きをすでに通り過ぎてしまったのだ
星は何千年も前に消えてしまったのだと
私は思う 漕ぎ去って行った ボートの中で
何か不安な言葉が囁かれるのを聞いたと
教室の中で試験開始のベルが鳴った・・・・・・
それはどこの教室だったのだろう?
私は祈りたい
すべての星のうちの一つは
まだ本当に存在するに違いない
私は思う たぶん私は知っているのだと
どの星が孤りで 生きつづけてきたかを――
どの星が発光した白い都市のように
大空の光の果てに立っているかを・・・・・・
170 :
カミュ:04/01/29 13:09 ID:???
「痛みに耐えて、よく頑張った。すまなかった。賠償については枢機卿と話し合って
くれないか?」総領事は謝罪した。
「所長が和田大学出身者だとは担当部局のほうでも気づかなかったんですね。スーフ
リ出身であることを隠蔽してましてね」枢機卿が付け加えた。
「それって学歴詐称になるんじゃありませんか?」と私は尋ねた。
「まあ、出身サークルをごまかしただけですからね、学歴詐称には当たらないと思い
ますけど?あなたどこの社の方?」
このとき、このときだけ、いわば私はその権利を持っていたのだが、第二の仮定に
近づくことを自分に許した。私の赦免のことだ。
たまらないのは、ばかげた喜悦で私の凹をチクチク刺激する、あの所長のもたらし
た血と肉の衝動を、静めなければならなかったことだ。この内なる叫びを押しつぶし、
この叫びを説得することに骨を折らなければならなかった。
171 :
カミュ:04/01/29 13:10 ID:???
教誨師である御用司祭が私を訪ねてきたのは、こうしたときだった。彼の姿を目に
すると、私はちょっと身震いした。司祭はそれに気づいて「恐れないように」と言っ
た。「いつもは違う時間に来るのに」と私が言った。司祭は「これはあなたの特赦請
願とは何の関係もない、まったく友人としての面会であり、特赦請願については何も
知らない」と答えた。私の粗末なベッドに腰を掛けて、彼は自分のそばに来て座るよ
うに勧めた。私は言われるままにした。
前腕を膝に置き、うなだれて、彼はしばらくそこに腰を掛けたなり、自分の手を見
つめていた。その手はほっそりと筋張っていて、敏捷な二匹の獣を思わせた。そのう
ちの一匹が私の囚人服のボタンの間から侵入してきた。もちろん彼は、私の乳房を握
りしめた。
172 :
カミュ:04/01/29 13:12 ID:???
突然司祭は頭を上げて、私を真正面から眺め、「なぜ乳房を握りしめられるのを拒
絶しないのですか?」と言った。「神を信じていないのだ」と私は答えた。彼は私の
乳房を揉みしだきながら、「その点、確信があるのか?」と尋ねたので、私は、「十三
歳の頃からいつもこうだった。どの男もみんな私を見ると私の乳房を握りしめた。そ
んなことはつまらぬ問題だと思う」と言った。すると彼は私のズボンを脱がせて、私
の腿に手を置き、「すべすべした美しい肌をしているね」と言いながら腿をさすった。
それから彼は「自分では確信があるような気がしていても、実際にはそうでないこと
があるものだ」と呟きながら、パンティの中に手を入れて、私の凹を弄んだ。私は何
も言わずにいた。司祭は私の顔のすぐ近くにまで顔を寄せ、「どう思いますか?」と
尋ねた。私は「そうかも知れない」と答えて、私の唇の間に押し込まれてきた彼の舌
に、自分の舌をからめた。とにかく、私は何に興味があるかという点については確信
がなかったが、進行しつつある肉の官能を拒むことができないという点については、
十分に確信があったのだ。そして、彼が法衣の間から露出させて挿入してきた男根を、
拒絶しなかった。
173 :
カミュ:04/01/29 13:46 ID:???
彼は私に犬のような恰好をさせると、私から目をそむけたままで、抽送を繰り返し
た。そして「絶望のあまり、あなたはセックスをするのか?」と尋ねた。「私は絶望
しているわけではない」と説明した。私はただ気持ちのいいことが好きなだけだった
が、輪姦は嫌いなのだとも答えた。「それなら、神様があなたを助けて下さるでしょ
う。私の知る限り、あなたのような場合には、どんな人でも、神の方へ向かって行き
ました」と司祭は言いながら、さらに激しく腰を前後させた。それは、その人たちの
権利だということを、私は認めた。しかし、私は誰にも助けてもらいたくなかったし、
また自分に興味のないことに興味を持つというような時間はなかった。
174 :
カミュ:04/01/29 13:46 ID:???
このとき、彼の華奢な体が私の背中に覆い被さってきた。そして床に向かって垂れ
下がっている私の乳房を両手ですくい上げるようにして揉んだ。いっそう彼の動きは
早くなり、五分ほど後に果てた。
彼は体を起こして、その法衣の皺を直した。やり終えると、彼は私を「友よ」と呼
んで、話しかけてきた。彼は「私がこのように話しかけるのは、あなたが死刑囚だか
らではない。我々はすべて死刑囚なのだ」と彼は言った。しかし、私は彼の言葉をさ
えぎって、「それは同じことではない。のみならず、それはどんな場合にも慰めとは
なりえない」と言った。「確かにそうです」と彼は同意した。「しかし、あなたはじき
に死なないとしても、遠い将来には死ななければならない。そのときには、同じ問題
がやって来るでしょう?この恐ろしい試練を、それまでいかにして耐えるつもりなん
です?」と言った。私は法衣の中にしまわれた彼の男根を、法衣の上からさすった。
しだいに彼の男根は活力を回復してきた。「現に、私が死に近づいているように、正
確にそれに近づいていけるだろう」と私は答えながら、彼の勃起したペニスを口に咥
えた。
175 :
カミュ:04/01/29 13:47 ID:???
この言葉を聞くと、司祭は立ち上がって、私の眼の中をまっすぐに見た。そして、
「それではあなたは何の希望も持たず、完全に死んでゆくと考えながら、司法試験を
受け続け、ひまがあれば2ちゃんのエロ小説を読んでいるのですか?」と彼は尋ねた
が、その声はちんこの気持ちよさが影響して震えていた。「そうです」と私は答えた。
すると司祭はうなだれて、また腰を下ろした。「あなたを気の毒に思う」と彼は言
った。そのように生きることは人間には堪え難い、と彼は思っていたのだ。そんな彼
のちんこがさっきからガマン汁を発し続けていることに、私はうんざりした。
176 :
カミュ:04/01/29 13:47 ID:???
司祭は、あなたの特赦請願は受理されるだろうが、しかし、あなたは下ろさねばな
らぬ罪の重荷を背負っている、という彼の信念を語った。人間の裁きは何でもない、
神の裁きがすべてだ、と彼は言った。「私に死刑を与えたのは、人間の裁きだ」と私
が言うと、「それはそれだけのものであって、あなたがいま行っている私との行為の
罪を洗い清めることはない」と彼は答えた。「罪というものは何だか私には分からな
い」と私は言った。「ただ私が罪人だということを人から告げられただけだ。私は罪
人であり、私は償いのためにあなたにこうしてフェラチオのサービスをしている。誰
もこれ以上私に要求することはできないのだ」
このとき司祭は、また立ち上がった。この狭い独房では、採りうる体位が限られて
しまうから、他の場所でセックスしようと司祭は言うに違いない、と私は考えた。
「これから私の部屋に来ないか?」と司祭は言った。
そうだ 私たちも存在するのだ
けれども 私たちにとって日々が速やかに
幻とともに過ぎ去ってゆくのは
ほとんど 羊の群にとってと変わりがない
私たちもまた 試験が終わるたびごとに
予備校を去ってゆくことを望んでいるのに
誰も私たちを 研修所へ追い込んでくれる者がいない
私たちは 昼も夜も いつまでもここに留まっている
論文答練は私たちに快く 択一答練はさらけだした誤植で笑わせる
私たちは起ち上がったり 身を横たえたり
いくらか勇気をもったり 臆病になったりしている
ただ時折 私たちが このように苦しんで悩んで 問題演習に倦み
それで ほとんど 死に果てようとすると そんなとき
私たちが理解できないもののなかから
ひとつの顔が生まれ それが輝かしく
私たちを 見つめている
ごらん ベテとヴァカ手が同じ基本書を
別々に身につけ べつべつに理解するのを
それは まるで異なった時間が
ふたつの同じ部屋を 横切ってゆくかのようだ
お互いに 相手を 罵りあいながら
ふたりは 相手を 凌いでいると思っている
けれども 血で血を洗う罵りあいも
お互いに 何の役にも立たないのだ
昔のように 優しくふれあい
ふたりが 並木道に沿って
手を取りながら 取られながら 行こうとしても
嗚呼 ふたりの歩みは もう同じではない
お前にも秀才と呼ばれた時があったことを
この神々に忠実な 名状し難いひとときがあったことを
運命によって打ち消されてはならない
ああ しかし だからと言って
お前が合格するというのではない
お前の才能に 金をかけて 時間をかけて
それを小綺麗に飾り立てる謬見は
ただ束の間 人を欺いたにすぎない
ロースクールが現行よりも安全でもなく
労わられているのでも 決してないのだ
いかなる神も お前の受験時代を償いはしない
受験生は 守られていないのだ
ちょうど寒さに震える小動物のように
冬の肉食獣から 守られていないのだ
いや それ以上に お前たちは守られていないのだ
なぜなら お前たちは 隠れ場を知らないから
まるでお前たちの人格そのものを脅かすように
守られていないのだ
魔王のいないカンちゃんのように
扉を閉め切った家の中を徘徊する者のように
なぜなら 誰が知らないであろう
お前たちを 庇い守ると断言した者たちが
偽りであることを?――それは自分自身 危険にさらされているのだ
では いったい誰にできよう お前を庇うことが?
僕は縁側で「ちんこ」を撫でながら柱にもたれて一日中庭を眺めていた。まるで
体中の力が抜けてしまったような気がした。午後が深まり、薄暮がやってきて、
やがてほんのりと青い夜の闇が庭を包んだ。「ちんこ」は一時間ばかり前に萎えて
しまっていたが、僕はまだ桜の花を眺めていた。春の闇の中の桜の花は、まるで
皮膚を裂いてはじけ出てきた爛れた肉のように僕には見えた。庭はそんな多くの
肉の甘く重い腐臭に充ちていた。
春樹以外はよそでやってくれよ
183 :
あげ屋さん ◆P1AWcg9OTs :04/02/08 19:51 ID:fVQqaoO7
(・∀・)age!
過去ログのURLだけ教えてください
正確に言えば、僕は司法試験を愛してはいなかった。司法試験ももちろん僕のこと
を愛してはいなかった。しかし司法試験を愛しているとかいないとかいうのは、その
ときの僕にとっては大事な問題ではなかった。大事だったのは、自分が今、何かに
激しく巻き込まれていて、その何かの中には僕にとって重要なものが含まれている
はずだ、ということだった。それが何であるのかを僕は知りたかった。とても知りた
かった。できることなら試験委員の脳みその中に手を突っ込んで、その何かに直接
触れたいとさえ思った。
僕は答案を書くことが好きだった。でも僕の答案はこのような理不尽な力を僕に一度も
味わわせてはくれなかった。それに比べて僕は合格答案のことを何ひとつ知らなかった。
愛情を感じているわけでもなかった。でも僕の答案は僕を震わせ、激しく引き寄せた。
僕が真剣に他人の合格答案を検討しなかったのは、結局のところ真剣に検討する必要を
感じなかったからだ。真剣に検討するようなエネルギーがあれば、僕はそれを使って行き
ずりのセックスをした。
188 :
氏名黙秘:04/02/16 01:26 ID:aQK5UsDN
(≧∇≦)b
僕と合格答案とはたぶんそのような関係を何年か息つく暇もなく夢中になって続けたあとで、
どちらからともなく遠ざかっていっただろうと思う。何故ならそのとき僕らがやっていたのは
疑問をさしはさむ余地もない、きわめて自然で当然な行為であり、必要な行為だったからだ。
Law Schoolや罪悪感や未来といったようなものがそこに入り込む可能性は最初から閉ざされて
いたのだ。
ロースクール時代には、僕はどこにでもいる普通の二十代の青年になっていた。それが
僕の人生の第二段階だった――普通の人間になること。それは僕にとって進化の一過程だった。
僕は特殊であることをやめて、普通の人間になった。もちろん科学的人間が事後的客観的
に観察すれば、僕がそれなりのトラブルを抱えた青年であることは容易に見てとれたはず
だった。でも結局のところ、それなりのトラブルを抱えていない二十代の青年がどこの世界
に存在するだろう?そういう意味では、僕が合格に近づいたのと同時に、合格も僕に近づい
たのだ。
「誰にも教わらずにこれだけ書けるってたいしたもんだと思うよ、たしかに」
「そりゃ大変だったわよ」と緑がため息をつきながら言った。「なにしろ司法試験なんてもの
にまるで理解も関心もない一家でしょ。きちんとした基本書とか予備校のカセットとか買いた
いって言ってもお金なんて出してくれないのよ。シケタイで十分だっていうの。冗談じゃない
わよ。あんなペラペラのシケタイで本試験問題なんか解けるもんですか。でもそう言うとね、
本試験問題なんか解けなくていいって言われるの。一生受験生やってろって。だから仕方ない
わよ。せっせとおこづかいためて芦部憲法とか内田民法とか大谷刑法とか買ったの。ねえ信じ
られる。無職の女の子が一所懸命爪に火をともすようにお金ためて芦部憲法とか内田民法とか
大谷刑法買ってるなんて。まわりの友だちはたっぷりおこづかいもらって短答演習やら論文講座
やら行ってるっていうのによ。可哀そうだと思うでしょ?」
僕はじゅんさいの吸物をすすりながら肯いた。
「こういう知識が重要だとはとても思えないんですがね」と僕は言った。「正直言って瑣末な
ことのように思える」
「しかし瑣末なことが本番になって結構役に立つんです。瑣末な知識で問題が解決した例は幾
つもあります。逆に瑣末なことをおろそかにして後悔した受験生も何人もいます。なにしろこ
れは司法試験ですからね。君の一生がかかってるんです。我々だって真剣なんです。悪いけど
我慢して覚えてください。正直言いましてね、あんたをローへ押し込んでも三年後にいい結果
を出すとはとても思えないんです。そうでしょう?いっぱい書類がいる。融通もきかなくなる。
だいいちあんた陰毛にまで白髪がまじってくるような年齢なんでしょう?」
でも考えてみればマコツは司法試験に合格する前から実にそういうタイプの男だった。
感じはいい、でも実体がよくわからないのだ。僕は受験時代二年間彼と同じ予備校で勉強
していた。民法の論文過去問演習では同じゼミに属していた。だから時々二人でキャバク
ラにも行った。昔からポスターそのままにおそろしく感じのいい男だった。キャバクラの
女の子はその当時から彼に失神しそうなくらい憧れていた。彼が女の子に話しかけると、
みんなうっとりした目をした。彼が余興として優雅な手付きでライターを自分の肛門に近
づけオナラに火をつけるとみんなオリンピックの開会式でも見るみたいな目付きで彼を見
ていた。
ON
やあ、みんな今晩は、元気かい?僕は最高にご機嫌に元気だよ。みんなにも半分わけてやりたいくらいだ。
こちらはおなじみ「伊藤コマツの司法試験塾・択一過去問復習講座」の時間だよ。僕がこの講座を担当する
塾長のコマツ、よろしく。これから9時までの素晴らしい土曜の夜の3時間、イカした択一過去問をガンガン
解いていく。なつかしい問題、想い出の問題、楽しい問題、踊り出したくなる問題、うんざりする問題、吐き気
のする問題、何んでもいいぜ、どんどんリクエストしてくれ。メールアドレスはみんな知ってるね。いいかい
間違えないように送信してくれ。出して損、受けて迷惑、間違いメール、少し字余り、なんてね。よーし、みんな
今年の択一はダメだったわけだけど、そんなことはゴキゲンな過去問を解いて忘れよう。いいかい。素晴らしい
過去問ってのはそういうためにあるんだぜ。可愛い女の子と同じだ。オーケー、一問目。これをただ黙って解いて
くれ。本当に良い問題だ。劣等感なんて忘れちまう。昭和56年度第90問「刑法上の暴行概念について」。
3分30秒後に会おう。
OFF
…ふう…なんて難問だい、まったく…
…ねえ、リクエストもっとないの? …悪問だよ、こりゃ…おい、よしてくれよ、俺はね、一発合格だから
択一プロパーの勉強なんてまともにやってるヒマなかったんだよ…
…そう、こんなもんだ…
…ねえ、喉が乾いちゃったよ、誰かよく冷えたコーラ持ってきてくれない?
…大丈夫さ小便なんて出やしないよ。俺の膀胱はね、特別に頑丈に…そう、ボーコー…
…ありがとう、ミッちゃん、素敵だよ…うむ、よく冷えてる…
…ねえ、栓抜きがないよ…
…馬鹿言え、歯で開くわきゃないだろ? …おい、解答時間が終わるよ。時間がないんだ、悪ふざけはよせよ
…ねえ、栓抜き!
…畜生…
僕とイズミはそれから三年以上受験を続けた。僕らは週に一度の答練を受けた。
その帰りに映画に行ったり、図書館に行って一緒に勉強をしたり、あるいは何を
するともなくあちこちを歩き回ったりした。しかし僕と彼女とは、司法試験の
関係においては最後の段階まで行かなかった。ときどき彼女がもうこの試験終わり
にしようかとか言ってへこんでいるときには、僕は彼女を家に呼んで鋤焼き
パーティーをした。そして僕らは国産牛肉と銘打ったオーストラリア牛の入った
鋤焼きを食べた。月に二回くらいはそういうことがあったと思う。
「ねえ、もしあなたが好きになった女の子が論文6連敗であることがわかったら、
あなたはどうする?」とメイは話の続きを始めた。
「サーカスに売るね」と僕は言った。
「本当に?」
「冗談だよ」と僕はびっくりして言った。「たぶん気にしないと思うね」
「子供に遺伝する可能性があるとしても?」
僕は少しそれについて考えてみた。
「気にしないと思うね。論文6連敗だったって、たいした支障はない」
「択一6連敗だったとしたら?」
僕はそれについてもしばらく考えてみた。
「サーカスに売るね」と僕は言った。
「教えて」とユキは言った。
「本当にいいんだね」と僕は言った。「最初は少し痛いかもしれないよ。誰でもそう
だよ。初受験でも、甲子園での初打席も、最初から上手くいくなんてことはない。セ
ックスだってそうだ。いい気持ちになるのは一時間腰を動かしていてもほんの数秒に
すぎない。あとは大量生産の屑みたいなもんだ。でも昔はそんなこと真剣に考えなか
った。誰と寝てもけっこう楽しかった。若かったし、時間は幾らでもあったし、それ
に恋をしていた。つまらないものにも、些細なことにも心の震えのようなものを託す
ることができた。僕の言っていることわかるかな?」
「何となく。でもあたしとのことは恋じゃないの?」とユキは言った。
「ズコバコ(俺はお前とセックスしたい)」と『ろ』は言った。
フランク・ザッパの『娘17、売春盛り』がかかったので、僕はしばらくそれを一
緒に合唱した。「痛くない?」と僕は聞いてみた。
「ううん。悪くない」と彼女は言った。
「悪くない」と僕も言った。
「今は恋をしないの?」とユキが訊いた。
僕はユキの中でペニスを動かしながら少し真剣に考えた。「むずかしい質問だ」と
僕は言った。「君は好きな男の子はいるの?」
「いない」と彼女は言った。「セックスしたがる奴はいっぱいいるけど」
「気持ちはわかる」と僕は言った。
「お金もらってセックスしている方が楽しい」
「その気持ちもわかる」
「本当にわかる?」とユキは言って、疑わしそうな目を細めて僕を見た。
「本当にわかる」と僕は言った。「みんなはそれを売春と呼ぶ。でも別にそれはそれ
でいいんだ。僕の人生は僕のものだし、君の人生は君のものだ。何を求めるかさえは
っきりしていれば、君は君の好きなように生きればいいんだ。人が何と言おうと知っ
たことじゃない。そんな奴らは青少年保護条例最判でも読んでいればいいんだ。僕は
昔、君くらいの歳の時にそう考えていた。今でもやはりそう考えている。それはある
いは僕が人間的に成長していないからかもしれない。あるいは僕が恒久的に正しいの
かもしれない。まだよくわからない。なかなか解答が出てこないし、論文試験にはも
う出ないのかもしれない」
「ねえ」とユキが言った。「あなた、ちょっと変わってるみたい。みんなにそう言わ
れない?」
「ふふん」と僕は否定的に言った。
「総合Aとったことある?」
「一度とった」
「翌年は?」
「総合E」
「どうして?」
「試験委員に逃げられたんだ」
「本当、それ?」
「本当だよ。試験委員が大量に入れ替わって勘が狂ってしまったんだ」
「可哀そう」と彼女は言った。
「ありがとう」と僕は言った。
僕は彼女が食器を洗うのを手伝った。僕は緑のとなりに立って、彼女の洗う食器を
タオルで拭いて、調理台の上に積んでいった。
「ところで一緒に勉強していたベテさんたちはみんな何処に行っちゃったの?」と僕
は訊いてみた。
「甲さんはお墓の中よ。二年前死んだの、首吊って」
「それ、さっき聞いた」
「乙さんは婚約者とデートしてるの。どこかドライブに行ったんじゃないかしら。乙
さんの彼はね消費者金融につとめてるの。返済が滞って彼が債権回収に来たときに、
できちゃたんじゃないかしら。私ってあんまり消費者金融好きじゃないんだけど」
緑はそれから黙って皿を洗い、僕も黙ってそれを拭いた。
「あとは丙さんね」と少しあとで緑は言った。
「そう」
「丙さんは去年の七月に論文受けに行ったまま戻ってこないの」
それは特別なセックスだ。そして僕にはその特別なセックスのような答案をはっきり
と感じ取る能力があった。それが自分のための宿命的な合格答案であるということ
が僕にはわかった。ずっと遠くからでもはっきりと嗅ぎ分けることができた。そんな
とき、僕はその答案を書いた受験生のそばに行って、こう言いたかった。ねえ、僕に
はそれがわかるんだよ、と。他の誰にもわからないかもしれない、でも僕にはわかる
んだよ、と。
∩゚∀゚∩age
できれば蛇ピアスとか、話題の作品でおながいしまつ。
206 :
氏名黙秘:04/03/10 16:39 ID:G4jQoQU6
うまい!
>>205 登場人物のなかに
おもしろい名前の人がいるね。
択一間近アゲ
age
今日某店で俺がトイレに入ったとき聞いた話だ。
個室で用をたしていた俺の隣に誰かが入ってきた。
普通個室ごしに話しかけたりなんて絶対ないんだがいきなり
「おぅ、こんちは」
と来た。正直俺は「は?」と思ったがしょうがないので
「こんちはっす」
と答えたさ。そしたら
「最近どう?」
とたわいのない話してきやがった。しょうがないので
「まぁ普通だよ。忙しいのかい?」
と適当にお茶を濁した。そしたら急に相手は声色が低くなり小さな声で
「ちょっとかけなおすよ、何かとなりにいちいち返事する変なのがいる」
・・・
age
213 :
氏名黙秘:04/04/05 13:51 ID:r06713gn
「ねえ、あそこの受験回数二十回のおじさん、問題解きながら、私の脚をさっき
からちらちら見てるのよ」と緑は楽しそうに言った。
「そりゃ見るさ。そんなスカートはいてりゃみんな見るさ」
「でもいいじゃない。どうせ出来てないみたいだし、たまには若い女の子の脚見
るのもいいものよ。興奮して点数よくなるんじゃないかしら」
「鑑賞に耐えられる脚ならね」と僕は言った。
緑はしばらくまっすぐ立ちのぼる煙草の煙を眺めていた。
ときどきこんな風に思います。もし私と司法試験がごく当り前の状況で出会っ
て、お互いに好意を抱きあっていたとしたら、いまの私はどうなっていたんだろ
うと。私がまともで、司法試験もまともで(始めからまともですね)、ロースクー
ルなんか作られていなかったとしたらどうなっていただろう、と。でもこの
「もし」はあまりにも大きすぎます。
「ローに入るつもりなの?」と僕は訊いてみた。
「ううん、そうじゃないのよ」と直子は言った。「ただ私、ちょっと考えてたのよ。
浪人じゃなくなるのってどんなだろうって。そしてそれはつまり・・・・・・」、直子は
唇を噛みながら適当な言葉なり表現を探していたが、結局それはみつからなかっ
たようだった。彼女はため息をついて目を伏せた。「よくわからないわ、いいのよ」
「卒一のときに私どうしてもシケタイ民訴が欲しかったの。それで私、新しいブ
ラジャーを買うためのお金使ってそれ買っちゃったの。おかげでもう大変だった
わ。だって私三ヶ月くらいたった一枚のブラジャーで暮らしたのよ。信じられる?
夜に洗ってね、一所懸命乾かして、朝にそれをつけて予備校に行くの。乾かなか
ったら悲劇よね、これ。世の中で何が哀しいって生乾きのブラジャーつけて刑法
の答案書くくらい哀しいことないわよ。もう涙がこぼれちゃうわよ。とくにそれ
がマコツのシケタイのためだなんて思うとね」
217 :
氏名黙秘:04/04/05 19:24 ID:YpN9i+Vm
534 :心得をよく読みましょう :04/04/05 14:36 ID:PF/ymJ90
【依頼に関してのコメントなど】「おとっつあん。原稿できたら、代行するよ」
「いつも、すまないねえ」
---------------------------------------------------------------------------
【板名*】司法試験
【スレ名*】村上春樹的司法試験
【スレのURL*】
http://school2.2ch.net/test/read.cgi/shihou/1066292016/ 【名前欄】
【メール欄】sage
【本文】
ときどきこんな風に思います。もし私と司法試験がごく当り前の状況で出会っ
て、お互いに好意を抱きあっていたとしたら、いまの私はどうなっていたんだろ
うと。私がまともで、司法試験もまともで(始めからまともですね)、ロースクー
ルなんか作られていなかったとしたらどうなっていただろう、と。でもこの
「もし」はあまりにも大きすぎます。
218 :
氏名黙秘:04/04/06 12:15 ID:DfN/rFtS
店はすっかりシャッターをおろし、シャッターには「週刊文春・真紀子の長女号
まだあります」と書いてあった。十二時にはまだ十五分ほど間があったが、分厚い
シケタイを四冊もかかえて時間をつぶすのもあまり気が進まなかったので、僕は
シャッターのわきにあるベルを押し、二、三歩うしろにさがって返事を待った。
十五秒くらい待ったが返事はなかった。もう一度ベルを押したものかどうか迷って
いると、上の方でガラガラと窓の開く音がした。見上げると真紀子が窓から首を出し
てシッシッと手を振っていた。
「あたしが買い占めたから、もうないわよ」と彼女はどなった。
「本当は私あのロースクールに行きたくなかったの」と緑は言って小さく首を
振った。「私はごく普通の受験期間で現行試験に合格して研修所へ入りたかったの。
ごく普通の人が合格する標準的な期間で。そして楽しくのんびりと青春を過ごし
たかったの。でも親の見栄であそこに入れられちゃったのよ。ほら適齢期を過ぎ
た娘が両親の家でごろごろしてるとそういうことあるでしょう?この娘は目的を
もって勉強しているから、結婚しないんだ、ってね。で、入れられちゃったわけ。
六年通ったけどどうしても好きになれなかったわ。一日も早くここを出ていきた
い、一日も早くここを出ていきたいって、そればかり考えて学校に通ってたの」
六月に二度、僕はマコツと一緒に近くの公園でゲートボールをした。マコツは、
「ここのコースはフックするからね」としたり顔で言っていたが、空振りを二回した
後でやっとボールを打つことができた。
「ねえ、私にもそういう生活できると思う?」
「自習室で勉強すること?」
「そう」と直子は言った。
「どうかな、そういうのって考え方次第だからね。煩わしいことは結構あるとい
えばある。女の子と話していると恨めしそうに睨まれるし、いつまでも受からな
いヴェテが威張ってるし、首にタオル巻いて勉強してる変な椰子が三時半になる
とラジオ体操を始めるしね」
サングラスを外すと、緑はこの前見たときよりいくぶん眠そうな目をしていた。
「眠いの?」と僕は言った。
「ちょっとね。寝不足なのよ。でも普通そうじゃない。もう四月だし」と彼女は
言った。「この前ごめんなさいね。どうしても債権総論だけは読み終えておきた
かったの。あなたには悪いと思ったんだけど、ずいぶん待った?」
「べつにかまわないよ。僕は時間のあり余ってる人間だから」
「そんなに余ってるの?ローは全敗だし、答練の成績からすると現行だって今年
は無理じゃない?」
「そっ、それでも、僕の時間を少しあげて、その中で君を眠らせてあげたい
くらいのものだよ」
緑は頬杖をついてにっこり笑い、僕の顔を見た。「そんなに無理してまで、
あなたって親切なのね、って言ってほしいの?」
223 :
氏名黙秘:04/04/06 18:09 ID:AxO5n6dZ
>>222 去年の緑に比べて、今年の緑は性格きつくない?
もう、職人さんたちは現実逃避ですか…。
僕は故郷の町での昔の話が出るたびに、イズミがその豊橋の小さな
マンションでひとりで六法を相手に暮らしている情景を思い浮かべる
ことになった。彼女はもう可愛くはないよ、と彼は言った。子供たちは
彼女のことを怖がるんだ、と彼は言った。そのふたつの台詞は、僕の頭
の中にいつまでも鳴り響いていた。そしてイズミは今でも六法を繰り
ながら、過去問解説を読んでいるのだ。
227 :
氏名黙秘:04/04/06 20:17 ID:vg9purPl
631 :心得をよく読みましょう :04/04/06 14:45 ID:NxYciPmT
【依頼に関してのコメントなど】コーヒーおごるからね(^^。
---------------------------------------------------------------------------
【板名*】司法試験
【スレ名*】村上春樹的司法試験
【スレのURL*】
http://school2.2ch.net/test/read.cgi/shihou/1066292016/ 【名前欄】
【メール欄】sage
【本文*】↓
「本当は私あのロースクールに行きたくなかったの」と緑は言って小さく首を
振った。「私はごく普通の受験期間で現行試験に合格して研修所へ入りたかったの。
ごく普通の人が合格する標準的な期間で。そして楽しくのんびりと青春を過ごし
たかったの。でも親の見栄であそこに入れられちゃったのよ。ほら適齢期を過ぎ
た娘が両親の家でごろごろしてるとそういうことあるでしょう?この娘は目的を
もって勉強しているから、結婚しないんだ、ってね。で、入れられちゃったわけ。
六年通ったけどどうしても好きになれなかったわ。一日も早くここを出ていきた
い、一日も早くここを出ていきたいって、そればかり考えて学校に通ってたの」
「ざっと簡単に教えるよ。まず第一に、この問題はもう決して試験には
出ない。蓋をされて、紐でしばられて、金庫の中に入ってる。誰ももう
ほじくりかえしたりしない。終わったんだよ。覚える価値は存在しない。
って、講師が言ったときの受験生のうれしそうな顔が、想像できるかい?」
「あまり仕事が好きじゃないの?」
僕は首を振った。「駄目だね。好きになんかなれない、とても。何の意
味もないことだよ。司法試験に合格したい人を集める。このテキストを
使えと紹介する。合格までに○○時間勉強しなけりゃだめだ。答案はこ
ういう風に書きなさい。
でもどうしてわざわざそんなことをしなくちゃいけないんだろう?
みんな勝手に自分の好きな本を読んでいればいいじゃないか?
そうだろう?どうして他人にテキストの選び方までいちいち教えてもら
わなくちゃならないんだ?そしてね、そうゆうところで紹介される
テキストって、一度売れたら図に乗って、在庫切れに合わせて第二版が
出るんだよ。十中、八九。
女が浴室のドアを閉める。それからシャワーの音が聞こえた。
マコツはシーツの上に起き上がり、うまく気持の収拾のつかぬまま
煙草を口にくわえ、ライターで火を点けた。それから、ポケットの中
から昨日のゲートボール大会のスコアを取り出して、ひとり微笑した。
マコツが本当にゲートボールの呪術の世界に入りこんだのは1984年の
冬のことだった。その半年ばかりをマコツはボールがゲートの下をうまく通
ることだけを考えて過ごしたような気がする。もともと棒と玉を使う遊
戯は嫌いなほうではなかった。公園にクラブの人たちと10個のコース
を作り、そこにすっぽりと身を埋め、そして全ての音に耳を塞いだ。何
ひとつマコツの興味をひきはしなかった。そして日曜になると同じクラブの
平吉さんとカメさんと一緒に公園へ行き、その片隅で時を送った。
マコツは静かな喫茶店に入り、そのダイヤルを回してみた。五度ばか
りベルが鳴ってから男が出た。静かな声だった。背後では七時のNHK
ニュースと赤ん坊の声が聞こえる。
「ゲートボールの歴史についてお話をうかがいたいのですが」マコツは
名前を名乗ってからそう切り出した。
「よく知っています」と彼はマコツの話を遮った。そして咳払いをした。
まるで大学院を出たての講師のようなしゃべり方だった。
「お年寄りのためのスポーツというイメージが強いゲートボールですが、
実は子供のためにつくられたということ、北海道から生まれたというこ
とは、ほとんど知られていません」と彼は突然語り始めた。
「ゲートボールは第二次世界大戦の直後、北海道芽室町でパン工場を経
営していた鈴木和伸氏の考案で生まれたゲームです。当時は、極端なモ
ノ不足の時代、北海道各地をパンの営業で移動する中、遊び道具もなく
外で遊べない子供たちの姿を見て心をいためた鈴木和伸氏が、進駐軍が
行っていた『クロッケー』というゲームを参考にして考案したものです」
234 :
YahooBB219019204085.bbtec.net:04/04/08 01:03 ID:3g+W1OmV
age
「ねえ、ワタナベ君。あなたほんとうに信じているの?」
「マコツが神だってこと?」
「そう。一日三時間の睡眠時間で受験勉強をして、ゲートボールをすれ
ばまだ誰にも負けたことがなくて、ワタ飴作らせたらプロ級の腕前だっ
ていってるけど、ほんとうなのかしら?」
マコツの熱い夏がやってきた。一年生のときから連続三年、マコツは
甲子園の土を踏んだ。
マコツは一塁側のベンチで休んでいた。ふと三塁側に目をやると、
あの男が今年もやって来ていた。二人のするどい視線がぶつかった。
「賀吐進・・・。」
昨年の決勝は豪雨の中で競い合った永遠のライバル。マコツの闘争心
に火がついた。マコツは立ちあがり、ユニフォームの袖をまくりあげた。
そして一塁側アルプススタンドの観客に向かって大きな声で呼びかけた。
「カチワリいいがっすか〜。100え〜ん」
そのようにして僕は二十九から三十になった。日が上り日が沈み、
二月になると区役所へ住民票抄本を取りに行った。そして日曜日が来る
と答練へ行く。いったい自分が今何をしているのか、これから何をしよ
うとしているのかさっぱりわからなかった。予備校の講義で情報シート
を読まされ、家に帰ってシケタイを読み、シケタイの序章と同じやんけ
と思いつつ入門シリーズを読んだが、それらの本はゲートボールが与え
る興奮ほどには僕に訴えかけてこなかった。
僕は予備校のクラスでは一人も友だちを作らなかったし、2ちゃんの
アクセスさえ禁止された。
もちろん過去問と今年の問題との違いを見分ける方法は幾つもあるの
だろうが、残念なことに僕はただのひとつも知らなかった。形式も肢の
内容も、何もかも同じなのに、ホクロとあざだけついているとなれば
全くのお手上げだった。不完全なコピーだ。
ヴェテであるという状況がどのようなものであるのかは僕の想像力を
遥かに越えた問題である。しかしもし僕に双子の兄弟がいて、彼が
ヴェテであったとすれば、きっと僕は恐ろしい混乱に陥ったと思う。
恐らく僕自身にも何かしらの欠陥があるのかもしれないと疑うことに
なるに違いない。
司法試験が僕の生活に入りこんでからどれほどの時が流れたのか、
僕にはわからない。受験勉強を始めてから、僕の中の時間に対する感覚
は目に見えて後退していった。それはちょうど、細胞分裂によって増殖
する生物が時間に対して抱く感情と同じようなものではなかったか
という気がする。
242 :
氏名黙秘:04/04/08 19:00 ID:qXnIdD7g
「君たちの行くローは?」と僕は二人に訊ねてみた。二日酔いのおかげ
で頭は割れそうだった。
「名乗るほどのローじゃないわ」と右側に座った方が言った。
「実際、たいしたローじゃないの」と左が言った。「わかるでしょ?」
「わかるよ」と僕は言った。
入口があって出口がある。大抵のものはそんな風にできている。郵便
ポスト、電気掃除機、動物園、ソースさし。
もちろん入口と出口が同じというものもある。例えば鼠捕り、
君の彼女の○○○○。
しかし入口があって出口のないものもある。 ・・・今の君。
どれほどの時が流れたのだろう、と僕は思う。果てしなく続く沈黙の
中を僕は歩んだ。講義が終わるとアパートに帰り、小倉優子のビデオを
デッキに入れながら、「大谷刑法講義」を何度も読み返した。
時折、昨年の刑法第一問が一昨年の刑法第一問のように思えた。ひど
い時には答練の第一問が去年の本試験問題のように思えたりもした。
二〇〇四年一月号の「受験新報」に載っている女性の新合格者の写真
を切り抜いて、筆箱のフタの裏側に貼り付けた。
何ヶ月も何年も、僕はただ一人深いプールの底に座りつづけていた。
温かい水と柔らかな光、そして沈黙。そして、沈黙・・・・・・。
245 :
氏名黙秘:04/04/08 19:17 ID:4IdKib2w
「四つの対立する考え方があって、学生A・B・C・Dはそのいずれかの
学説を取っているわけね?」と208。
「そうだ。でもね。四人の学生のうち、誰がいちばんハンサムなのだろ
うか、とかは考えちゃいけないんだ。もちろん、その中の誰かに友情を
感じてもいけない」
「ほとんど誰とも友だちになんかなれないってこと?」と209。
「多分ね」と僕。「ほとんど誰とも友だちになんかなれない」
それが僕の択一におけるライフ・スタイルであった。
ドストエフスキーが予言し、僕が固めた。
248 :
氏名黙秘:04/04/09 12:45 ID:JfC9IScp
「それでも司法試験は変りつづける。変ることにどんな意味があるのか
俺にはずっとわからなかった」鼠は唇を噛み、テーブルを眺めながら
考え込んだ。「そしてこう思った。どんな変化もどんな新制度も、結局は
崩壊の過程に過ぎないじゃないかってね。違うかい?」
「違わないだろう」
「だから俺はそんな風にして嬉々として無に向かおうとする連中に
ひとかけらの愛情も好意も持てなかった。・・・・・・このローにもね」
このスレがあがると、択一が来たって感じがしますね。
250 :
緑:04/04/09 12:49 ID:???
「どんな工事をするんですか?」
「簡単なもんですよ。ヴェテの配電盤を取り出す、線を切る、新しいの
につなぐ、それだけ。十分もあれば新制度に慣れちゃいます」
僕は少し考えてから、やはり首を横に振った。
「現行で不自由ないんだ」
「今のは旧式なんです」
「旧式で構わないよ」
「ねえ、いいですか」と男は言ってしばらく考えた。「そういった問題
じゃないんですよ。みんながとても困るんだ」
「どんな風に?」
「いずれ無くなるのに存在する。発展の見込みがないのに切れない。
つまり縮小していかざるを得ないのにコストを要求する。これはとても
困るんだ。わかりますか?」
251 :
氏名黙秘:04/04/09 17:59 ID:Y0sofnW5
一人の人間が司法試験を受けるようになるには様々な理由がある。
理由は様々だが、結果は二つしかない。合格と不合格。
一九九三年には僕の共同経営者は楽しい受験生だった。一九九六年に
は彼はほんの少し気むずかしい受験生になり、一九九八年の夏にはキモ
ヴェテに通ずるドアの把手に不器用に手をかけていた。
多くのヴェテがそうであるように、答練で答案を書かせると鋭敏とは
言えないまでにしても、まともで感じの良い答案を書いた。だから彼は
受験を続けた。
もちろん数年のうちはそれがうまくいった。しかし時が経ち受験回数
が増えるにつれて、そこに微妙な誤差が生じ、微妙な誤差はやがて深い
溝となった。彼の答案のまともさと感じの良さがあまりにも先に進みす
ぎて、彼自身にさえ追いつけなくなってしまったのだ。よくあるケース
だ。しかし大抵のヴェテは自分自身をよくあるケースだと考えたりはし
ない。鋭敏ではない人間ならなおさらだ。彼は見失ったものと再会する
ために、より深い受験生活の霧の中を彷徨いはじめた。そして状況は
一層悪くなった。
254 :
氏名黙秘:04/04/09 19:27 ID:sl4G5mks
「どうだい、ローに行くようになって自由な時間がなくなっちまって
落ち着かないだろう?」
「そんなことはないよ」と僕は言った。「混沌がその形を変えただけの
ことさ。マーチとクマーが帽子をかえっこしたんだ」
「あいかわらずだね」とジェイは言って笑った。
「時代が変ったんだよ」と僕は言った。「時代が変れば、いろんなことも
変る。去年までは出身大学の名前を胸を張って言えたのに、今はローへ
行っているとしか言えない。でも結局はそれでいいんだよ。みんな入れ
替わっていくんだ。文句は言えない」
「勉学を重ねているというが、こんなものか、あいつらの成績は」
「適性だろうな、やはり。めぼしい既習者を見つけておく必要はあるぞ、
李富。さもないと認可取消ということにもなりかねん」
「とにかく、あいつらは緩み切っている。この一、二年でいくらか
ましになったとはいえ、こんなものだ。一回落ちてみれば、あいつらの
危機感も強くなるだろう」
「そして、わがローの評判も落ちるぞ、李富」
>>257 お前、一般図書板へ帰れよ。
あんまり、荒らすなよ。
北方的をやるんなら、大昔のハードボイルド風のをキボン。
はっきり言って中国ものはつまらんから。
ある日、何かが僕たちの心を捉える。なんでもいい、些細なことだ。
前の席にすわった女の子の髪の毛が君の机の上に落ちる、焼肉屋から
塩タン150円値引きのDMが届く、飼い犬の勃起したちんこの方が自分
のものより長いことに気づく・・・・・・、もはやどこにも行き場所のない
ささやかなものたちの羅列だ。二日か三日ばかり、その何かは僕たちの
心を彷徨い、そしてもとの場所に戻っていく。・・・・・・暗闇。残すところ一ヵ月。
261 :
氏名黙秘:04/04/11 18:25 ID:QgeruWMy
「あなたの出たビデオ・テープを観たわよ」と僕の連れが言った。
僕たちは前と同じ池の縁に腰を降ろしていた。彼女に会うのは開放
されてから三ヶ月ぶり、今はもう秋の始めだ。
「少し疲れていたみたいだったけど、恐怖感が感じられなかったのよ。
犯人は前から知っていた人たちなんでしょう?」
「・・・・・・」
「官房長官もあきれた顔してたし・・・」
「・・・・・・」
「真相が明らかにならないと、私も小説書けなくて困っちゃうのよ」
彼女はくすくす笑った。僕も笑った。でもタネをあかせばとても簡単
なことなのだ。アマチュアのテロリストの中には、字を書けない者も
いて、被害者に声明文の代筆を依頼することもあるのだ。僕は昔
アマチュアのテロリストの女の子とつきあっていたから、その程度の
ことはわかる。
「ねえ、ワタナベ君。拘束された日本人を救出するために、イラクに
いる自衛隊は何もできないの?」
「出動目的が限定されているからだめだろうね」
「邦人の生命・身体が危険にさらされても?」
「関東軍じゃないからね。人道復興支援が目的なんだよ」
「あなたも復興支援の目的で、現行試験を受けているの?」
「復興しないけどね」
「ねえ、ワタナベ君。政府はイラクにいる民間人を事前に強制退去させ
ることはできなかったのかしら?」
「非戦闘地域に自衛隊を派遣するという名目だったから、強制退去は
無理だったんだろうね。根拠法令もないんじゃない?よく知らないけど」
「でも実際にイラクでは戦闘が行われて、アメリカ兵もイラク人も毎日
死んでるじゃない。民間人についても法令の手当てが必要だったのじゃ
ないかしら」
「だから今も言ったように非戦闘地域があるんだってば・・・」
265 :
氏名黙秘:04/04/12 14:06 ID:KzYSux8e
解放まだ〜。マチクタビレタ。
運が良ければ高輪口のエスカレーターで短いスカートをはいた女子高
生に出会うことができた。
彼は料金を払って構内に入り、湿気の多い日はすぐに曇ってしまう
手鏡に息を吹きかけ上着の袖で表面を磨いた。それから、女子高生の
スカートの中を一人一人丹念に見てまわった。
女子高生たちはエスカレーターに乗るとぼんやりした目でポスターを
眺めていたり、意味もなく興奮してはねまわったり、急激な気圧の変化
に怯えたり、腹を立てたりしていた。
彼はここでしばしば見かけるベンガル虎のような女子高生に今日も
出会うことができた。半魚人のような格好で手鏡の角度を合わせる彼
の姿を、そのベンガル虎はいつも気の毒そうな顔つきで眺めていた。
「テレビに出るために持ち歩いている手鏡を使った。迷惑をかけて申し
訳ない」
それはまあ、もっともな理屈だった。いったい誰が女子高生の腐れ
パンツを眺めるためにわざわざ手鏡を持ち歩くというのだろう?
彼は気持ちよくあきらめて警察官に身柄を委ね、少し生ぬるくなった
缶ビールを飲んでからパトカーに乗った。
>>1へ
この手紙をもって僕の吉野家通としての最後の仕事とする。
まず、吉野家の混雑を解明するために、親子連れに特盛注文をお願いしたい。
以下に、吉野家についての愚見を述べる。
吉野家での通の頼み方を考える際、第一選択はあくまで大盛りねぎだくギョクであるという考えは今も変わらない。
しかしながら、現実には僕自身の場合がそうであるように、
注文した時点で店員にマークされるという事例がしばしば見受けられる。
その場合には、牛鮭定食を含む他のメニューの注文が必要となるが、残念ながら未だ満足のいく成果には至っていない。
これからの吉野家の飛躍は、150円引き以外の客引きの発展にかかっている。
僕は、君がその一翼を担える数少ない素人であると信じている。
Uの字テーブルの向かいに座った者には、いつ喧嘩が始まってもおかしくない、
刺すか刺されるか、そんな雰囲気を殺伐と行使する責務がある。
君には大盛つゆだくでぶち切れてもらいたい。
遠くない未来に、BSEによって牛丼が吉野家からなくなることを信じている。
ひいては、吉野家通の間での最新流行解明の後、君の吉野家研究の一石として小1時間問い詰めて欲しい。
大盛りねぎだくギョクは諸刃の剣なり。
なお、自ら吉野家通の第一線にある者が大盛りねぎだくギョクを注文できず、
人がめちゃくちゃいっぱいで座れないことを心より恥じる。もうね、アホかと。馬鹿かと。
僕は今度はソファーに寝転んで顔の上に問題集をかざし、正解の数を
もう一度数えなおしてみた。三十三問。
三十三問?
僕は目を閉じて首を振り、頭の中を空っぽにした。まあいいさ、と僕
は思う。たとえ何点であったにせよ、まだ何も起こってないんだ。そし
て何かが起こったとすれば、それはもう起こってしまったことなのだ。
彼女は受付の女の子が忠告してくれたとおり、たしかにあまりぱっとし
ない点数しか取ったことがなかった。服装も顔つきも平凡で、二流の
女子大のコーラス部員みたいに見えた。しかしもちろん、僕にとっては
そんなことはどうでもいい。僕ががっかりしたのは、彼女がマコツの
講義とマコツの本しか知らないことだった。
「君の言うとおりかもしれない。僕の人生が悲惨なんじゃなくて、僕が
悲惨な人生を求めてるのかもしれない。でも結果は同じさ。どちらに
しても僕は既に司法浪人を始めてしまったんだ。みんなは浪人暮らし
から逃げ出そうとしているけれど、僕は浪人暮らしに入り込もうとして
いる。まるで高速道路を逆方向に行くみたいにさ。だから僕の人生が
悲惨になったからって文句なんて言わない。女房が逃げだす程度のものさ」
「僕は司法試験受験生です」と僕は言った。
底なし井戸に小石を投げ込んだような沈黙がしばらく続いた。石が底
につくまで三十秒かかった。
「まあいいだろう」と男は言った。「それは君の問題だ。私は君の経歴を
かなり細かく調べてみた。本試験や模試の成績までね。それなりになか
なか面白かった。人間を大まかに二つに分けると現実的に凡庸なグループ
と非現実的に凡庸なグループにわかれるが、君は明らかに後者に属する。
これは覚えておくといいよ。君の辿る運命は非現実的な凡庸さが辿る
運命でもある」
「試験には受かったのかい?」
「四年前にやめたよ。あんたが結婚したちょっとあとかな。腸を悪くし
てさ・・・・・・、でも本当は限界だったんだよ。なにしろ十二年も受けたん
だもんね。女房といたより長かったよ。十二年受ければちょっとした
もんだろう?」
「君はどうも奇妙な男だな」と男は言った。「私にはやろうと思えば、
現行試験を来年でシャット・アウトすることもできるんだよ。そうすれ
ば君はもう司法浪人とも言えなくなる。もっとも今君がやっている
下らない勉強が受験勉強であると仮定すればの話だけれどね」
僕はもう一度夕飯のことを考えてみた。どうして夕飯を朝に食べちゃ
ならないんだろう?
隣りに座った二十代半ばのヴァカ手は殆んど身動きひとつせずに干拓
を読み耽っていた。しわひとつない紺のサマー・スーツと黒い靴。
クリーニングから戻ったばかりの白いシャツ。
僕は彼に背を向けると買ったばかりのアサヒ芸能を開いて杉本彩の
NGヌードを眺めながら煙草をふかした。そして暇つぶしに司法板に
晒されたマコツのAAを片端から思い出していった。それは七十三で
ストップして、そのまま前には進まなかった。マコツはいったい幾つ
まで覚えているんだろう。
「もう終ったんだね?」
「ある意味ではね」とジェイは言った。
「司法試験は終った。しかしメロディーはまだ鳴り響いている」
「自信を持てよ」と僕は言った。「我々は我々だけの力でここまでやって
きたんじゃないか。誰にも貸しも借りもない。補助金があったり肩書き
がついたりするだけでふんぞりかえってる○○の連中とはわけが違うんだ」
「我々は昔司法浪人だったな」と相棒が言った。
「そうだ。そして今でも司法浪人をしているあいつがこれを書いている」
五月九日、午後一時三十分。
僕はデジタル時計の四つの数字を確かめてから目を閉じ、そして眠った。
司法試験にとって、僕は既に失われた人間だった。たとえ僕がまだ
いくらか勉強していたとしても、それはまた別の問題だった。僕はベテ
ラン受験生という役割にあまりにも慣れすぎていたのだ。僕が答案用紙
に与えることができるものはもう何もなかった。僕にはそれが本能的に
わかっていたし、予備校の講師には経験的にわかっていた。どちらに
しても救いはなかった。
281 :
氏名黙秘:04/04/20 18:23 ID:rnVnE9og
「同じだよ。我々が書いたテキストを読んでも読まなくても、結局は
同じことなんだ。地味な翻訳仕事やインチキなマーガリンの広告コピー
と根本は同じさ。たしかに実体のないことばを我々はまきちらしている。
しかし実体のあることばがどこにある?いいかい、誠実なテキストなん
てどこにもないんだ。誠実な削除人や誠実なうんこがどこにもないようにさ」
困ったものだ。
いったい何を話していたんだっけ?
共謀共同正犯のことだったな。
論点一つ一つには綺麗な引出しがついていて、その中にはあまり意味
のないがらくたがいっぱいつまってる。それがベテの頭の構造と考えて
間違いはない。僕はそういうのがとても好きだ。僕はそんながらくたの
ひとつひとつを引っぱりだしてほこりを払い、それなりの意味を探し出
してやることができる。教育の本質とは要するにそういうことだと思う。
百パーセント理解しているとはいえないにしても(七十パーセントも
あやしいとは思うけれど)、少なくとも僕にとって使用者責任は苦手な
論点じゃなかったし、そんな論点を書いている僕がまともな答案を書け
なくなっているのを見ることは僕にはつらいことだった。しかし結局の
ところ、年を取るというのはそういうことなのだ。
我々は何かの目的があってここに来たわけではなかった。むろん純一
郎を困らせてやろうとか、家族に六十六万円の費用を支払わせようとか
という意図があるはずもない。僕と直子はイラク人ゲリラに取り囲まれ
てここに連れてこられ偶然出会った。彼女はストリート・チルドレンの
面倒でも見ようかと思って出てきたところで、僕はまだ一枚も撮ってい
ない写真を撮るところだった。それがたまたまフルージャだったという
だけのことなのだ。
直子と会ったのは殆んど半年ぶりだった。一週間のあいだに直子は見
違えるほど太っていた。直子には子供のころから人前はばからずアメを
モグモグする癖があったが、おそらく向こうにいるあいだもアメをモグモグ
していたに違いない。特徴的だった反抗的な態度もすっかり失せ、上空
を飛ぶヘリのエンジン音にも怯えるようになっていたが、相変わらず袋
の中からアメを取り出しては口に放り込みモグモグしていた。
「ねえ、もしよかったら――もしあなたにとって迷惑じゃなかったらと
いうことなんだけど――私たちまたイラクヘ行ってもいいかしら?もち
ろんこんなこと言える筋合じゃないことはよくわかっているんだけど」
「筋合?」と純一郎はびっくりして言った。「筋合じゃないってどういう
こと?」
「うまくしゃべることができないの」と直子は言った。「ここのところ
ずっとそういうのがつづいているのよ。何か言おうとしても、いつも
見当ちがいな言葉しか浮かんでこないの。見当ちがいだったり、あるい
は全く逆だったりね。そんなときアメをモグモグしてなけりゃどうしよう
もないのよ、私。わかる?」
>ここまで読んだ。
彼の若さは、十朱幸代にすら反応してしまった。以前、緒方拳さんの
サイン会で握手をしたとき、この手が「魚群の群れ」で十朱さんの
おっぱいに触れたのかと思っただけで、反応してしまったのだ。
司法試験に何があったのか、今ではもう忘れてしまった。しかしそこ
にはたしか何かがあったのだ。僕の心を揺らせ、僕の心を通して自習室
に通わせる何かがあったのだ。結局のところ全ては失われてしまった。
失われるべくして失われたのだ。それ以外に、全てを手放す以外に、
僕にどんなやりようがあっただろう?
少なくとも僕は生き残った。良いインディアンがローに行けなかった
インディアンだけだとしても、僕はやはり生き延びねばならなかったのだ。
何のために?
伝説を司法板に向って語り伝えるために?
まさか。
「僕の先生と同じです」
「何が?」
「二度結婚して、二度離婚したんです」
雨はまったく同じ強さで降りつづいていた。自習室の窓からは隣りの
ビルのネオン・サインが見えた。その緑の人工的な光の中を無数の雨の
線が地表に向けて走っていた。窓際に立って下を見下ろすと、雨の線は
地表の一点に向けて降り注いでいるように見えた。
僕は喫煙室に行き煙草を二本吸ってから、自習室に戻り過去問集を
閉じてバッグにしまった。明日の試験までに僕がするべきことはもう
何も残っていなかった。
雨だけが真夜中まで降りつづいていた。
「我々には大抵のことはわかる」と男は言った。
「今年の出題以外はね」と僕は言った。
「そういうことだ」と男は言った。「とにかく、勉強しろ、君は時間を
無駄に使いすぎる。自分の置かれた立場をよく考えてみた方がいい。
そういう立場に君を追い込んだのは君自身でもあるんだからな」
たしかにそのとおりだった。僕はふたたび机に向かい、答練で間違え
た問題のチェックを始めた。地上ではあいかわらずまともな人々が
逆立ちして歩いていたが、そんな光景を目にしても特に奇妙な印象は
受けなかった。
択一試験に落ちてしまうと気持はすっきりした。僕は少しずつシンプル
になりつつある。僕は街を失くし、二十代を失くし、友だちを失くし、
恋人を失くし、あと数年で司法試験すら失くそうとしていた。三十に
なった時僕はいったいどうなっているんだろう、としばらく考えてみた。
考えるだけ無駄だった。正答率90%の過去問すら間違えてしまうのだ。
298 :
緑:04/04/21 16:49 ID:???
彼女が消えてしまったのは、ある意味では仕方のない出来事である
ような気がした。既に起こってしまったことは起こってしまったこと
なのだ。
299 :
緑:04/04/21 16:49 ID:???
それと同じように、彼女が僕の友人のロー生と長いあいだ定期的に
寝ていて、ある日彼のところに転がり込んでしまったとしても、それも
やはりたいした問題ではなかった。そういうことは十分起こり得ること
であり、そしてしばしば現実に起ることであって、彼女がそうなって
しまったとしても、何かしら特別なことが起ったという風には僕には
どうしても思えなかった。結局のところ僕は四年連続で司法試験に
落ちているのだ。
子供の頃、家から歩いて十分ほどのところにある畑の脇に、
肥溜めがあった。
はまったことがある。
301 :
直子:04/04/21 16:51 ID:???
「本当のことを言えば、司法試験を受けつづけたいわ」としばらくあと
で彼女は言った。
「じゃあ受ければいいさ」と僕は言った。
「でも、司法試験を受けつづけても、もうどこにも行けないのよ」
302 :
直子:04/04/21 16:51 ID:???
彼女はそれ以上何も言わなかったけれど、彼女の言いたいことは
わかるような気がした。彼女はあと何ヶ月かのうちに二十六になろうと
していた。そしてその先にやってくるべきものの大きさに比べれば、
彼女のこれまでに築いてきたものなど本当に微少なものでしかなかった。
言われるままに買わされた予備校のテキストと返却された答案。彼女は
まるで貯金を食いつぶすようにその四年間を生きてきたのだ。
DUGに着いたとき、緑は既にカウンターのいちばん端に座って酒を
飲んでいた。彼女は男もののくしゃっとした白いステン・カラー・コート
の下に黄色い薄いセーターを着て、ブルージーンズをはいていた。そして
手首にはブレスレットを二本つけていた。
「何飲んでるの?」と僕は訊いた。
「生きてるドジョウ」と緑は言った。
「あなたっていつも分別くさいこと言って人を落ちこませるのね。司法
試験に落ちたからってそれがどうしたっていうの。落ちたって木登り
くらいできるわよ。ふん。高い高い木の上に登っててっぺんから蝉
みたいにおしっこして合格者にひっかけてやるの」
「ひょっとして君、トイレに行きたいの?」
「そう」
「あなたってよく見るとけっこう面白い顔してるのね。何きょろきょろ
してんの?あなたよ、いまこれ読んでる あ・な・た」と緑は言った。
元気か、と彼が訊いた。
元気だ、と僕は言った。
今春樹スレにいると言うと、寒いだろうと彼は訊いた。
寒いと僕は答えた。
たぶん僕の方に問題があったんだろうと思う。たぶん僕の中の何かが
司法試験の合格にとってはあまり健全ではない影響を及ぼしていたの
だと思う。だから司法試験を断念したとたん、買った株は全部あがるし、
スロットでは負け知らずだし、馬券を買うとあのハルウララでさえ
勝ってしまったんだろう。
喪前ら、直前だからって、逃避しすぎ。
「なんというか、絶妙のタイミングだな」
「実際この人物は出題の落としどころを捉えるのが実にうまいんだ。
攻めどきと引きどきを心得ている。それから目のつけどころが良い。
法務省も、ヴェテが今年も来やがったか、という顔は見せても、
願書を突きかえすことはできなかったんだ」
「どこの予備校にも弱みのひとつくらいはあるってわけだな」
「どこの予備校だって司法板で爆弾発言はされたくないからね。
言うことは大抵聞いてくれる。つまり荒らしはネットとお布施と
暇な時間という三位一体の上に鎮座ましましているわけさ」
「それに、君のような人間を合格させる方法がないわけではない」
「たぶんそうでしょう」と僕は言った。「しかしそれには時間がかかるし、
それまでは僕は受からない」
「君と話すのは面白いよ」と男は言った。「君の非現実性はどことなく
パセティックな趣がある。まあ、いい。たこ焼きが冷めるから、食べたまえ」
「あなたは直前に迫った本試験に対して恐怖を感じるということはない
んですか?」と僕は訊いてみた。
「あのね、俺はそれほど馬鹿じゃないよ」と永沢さんは言った。「もちろ
ん不合格になることに対して恐怖を感じることはある。そんなの当り前
じゃないか。ただ俺はそういうのを前提条件としては認めない。自分の
力を百パーセント発揮してやれるところまでやる。欲しいものはとるし、
欲しくないものはとらない。そうやって合格する。駄目だったら駄目に
なったところでまた考える。不公平な社会というのは逆に考えれば能力
を発揮できる社会でもある」
「ねえ、あなたはマコツを飼ったことある?」と彼女が訊いた。
僕はちょっとびっくりして彼女の顔に目をやった。それからもう一度
プールに視線を戻した。
「いや、ないですね」
「一度も?」
「ええ、一度もないです」
「嫌いなの?」
「面倒なんですよ。講義を聴いてやったり、一緒に遊んでやったり、
そんなことがね。べつに嫌いってわけじゃない。面倒なだけです」
彼女は黙って何かを考えているみたいだった。僕も黙っていた。プールの水面を
けやきの葉が風に吹かれてゆっくりと移動していた。
「昔、マコツを飼ってたの」と彼女は言った。「子供の頃よ。父親に頼んで買って
もらったの。私は一人っ子だったし、無口で友だちもいなかったから、遊び相手が
ほしかったのよ」
マコツを見るたびに、いったいマコツであるというのはどんな気持が
するんだろうと、いつも不思議に思います。彼はいったい何のために、
司法試験予備校なんていう気の利かない場所をはねまわっているんでしょう?
既に三十歳を越えた一人の男としてもう一度司法試験に全速力でぶつ
かり、もう一度予備校の発表する合推線上をさまよいながら翌朝目を覚
ましたとしたら、僕は今度は何と叫ぶのだろう?わからない。いや、あ
るいはこう叫ぶかもしれない。おい、ここは僕のいる場所じゃない、と。
「倉田まり子?たしか三年前のネタだね?」と僕は思い切って訊いてみた。
「そう」と羊男は言った。そして肩を大きく揺らせて息をした。「石川
ひとみよりも少し遅れてデビューした。顔もスタイルも石川ひとみより
は良かったんだけれども、曲に恵まれなかった。でもシングル
『恋はライライライ』の写真は可愛いよ」
「僕には理解できない。それで君はその『恋はライライライ』の写真を
見ながらマスターベーションをしたっていうんだね?」
「牛乳瓶一本分くらいね。ちょうど早乙女愛と田丸美寿々のつなぎの
時期にあたるんだよ、彼女は・・・。アッ、ごめん。その間に『米版プレイ
ボーイ』が入るんだけどね」と羊男は照れくさそうに言った。
温度は急激に低下していた。この寒さには覚えがある、と僕は身震い
しながらふと思った。
「雨の日にはベテいったい何をしているのかしら?」と緑が質問した。
「知らない」と僕は言った。机の掃除とか基本書の整理なんかやってるんじゃないかな。
ベテってよく働くからさ」
「そんなによく働くのにどうしてベテは合格しないで昔からベテのままなの?」
「知らないな。でも頭の構造が合格に向いてないんじゃないかな。つまり猿なんかに
くらべてさ」
322 :
氏名黙秘:04/05/03 15:20 ID:zEusl/Xe
「君は受かる」と男は僕を見据えたまま静かに言った。まるで僕の心の
動きを完全に把握していたようなしゃべり方だった。「誰だっていつかは
受かるんだ」
それだけ言ってしまうと、男は再び重苦しい沈黙の中に沈み込んだ。
具体的な話をしよう。
試験直前はさっきも言ったようにおそろしく静かだ。他に何もするこ
とがないから毎日基本書を開いては2ちゃんをのぞいたり、カスタード
クリームが三倍くらい詰め込まれたシュークリームを食べたりしている。
残り一週間はオナニーを我慢するのが辛いくらいのことで、何もしなく
ても試験日はやってくる。時間というのはどうしようもなくつながって
いるものなんだね。
この板最高だよ。大好き!!!
マニアックだから荒らしようがないしw
みんな、もっと才能を垂れ流してね。
そして、研修所で春樹を語ろう。
サイコー!!春樹の作品よく読む漏れには楽しすぎる
「司法研修所。でも行かないわよ、前にも言ったでしょ?あの人たち、もう私とは
関りあわない方がいいのよ。あの人たちにはあの人たちの新しい生活があるし、
私は会えば会ったで辛くなるし。会わないのがいちばんよ」
「あなた、今どこにいるの?」と彼女は静かな声で言った。
僕は今どこにいるのだ?
僕は携帯電話を持ったまま顔を上げ、教室の中をぐるりと見まわしてみた。
僕は今どこにいるのだ?でもそこが択一の会場なのか僕にはわからなかった。
見当もつかなかった。いったいここはどこなんだ。僕の目にうつるのは
一生懸命お父さんの絵を描いている無数の幼稚園児の姿だけだった。
僕は択一会場ではない教室のまん中から緑を呼びつづけていた。
択一試験の翌日、島本さんはまた以前のクールで魅力的な笑顔を取り
戻していた。昨日の刑法の後半に見せたような感情の激しい揺れ動きは、
もう目にすることはできなかった。試験終了直後に僕らのあいだに生じ
た温かい自然な親しみも、もう戻ってこなかった。とくに申し合わせた
わけではないのだが、昨日の結果については、もう我々の口にのぼるこ
とは一度もなかった。
憲法の問題について考え始めると、何が正しくて何が間違っているの
かよくわからなくなった。僕は自分がもう一度あの無力で途方に暮れた
三時間三十分に戻ってしまったような気がした。持ち帰った問題集を前
にすると、自分が三時間半何をしたのか、自分が何を考えて答えを出し
たのか、判断することができなくなってしまうのだ。
それでも何度か会っているうちに僕は少しずつ、刑法や民法の間違え
た問題の話をするようになった。その二科目のことは現在の僕が置かれ
ている状況とは直接的な関係を持たないので、話してもべつにさしつか
えないと思ったからだった。そして僕は憲法の答え合わせをして以来、
自分がどれくらい孤独な日々を送っていたかを彼女に話した。
331 :
緑:04/05/08 18:18 ID:???
「正直に告白すると、私は生まれてこのかた一度も働いたことがないの
よ」と彼女は言った。
「一度も?」
「ただの一度も。アルバイトしたこともないし、就職もしなかった。卒
業と同時に司法浪人を始めたから、労働と名のつくものを経験したこと
がないの。だから私は今あなたが話したような職場での話を聞いている
と、とてもうらやましいのよ」
332 :
緑:04/05/08 18:19 ID:???
「私はそういったものの考え方をしたことが一度もないの。私はいつも
ずっと一人でシケタイを読んでいただけ。そして私が考えるのは、どち
らかといえばお金を使うことだけ」
「お金の使い方だけを考えている方が、あるいはまともなのかもしれな
いよ」と僕は言った。「お金の儲け方を考えているとね、いろんなものが
だんだん磨耗していくんだ。少しずつ、知らないうちに磨り減っていく
んだ」
333 :
緑:04/05/08 18:20 ID:???
「でもあなたにはわかっていないのよ。勉強ばかりして何も生み出さな
いというのが、どんなに空しいものかということが」
「僕はそうは思わないね。司法浪人だっていろんなものを生み出してい
るような気がするな」
「たとえばどんなものを?」
「たとえばかたちにならないものを」と僕は言った。
334 :
緑:04/05/08 18:21 ID:XU7fpXEd
明日はみんな頑張ってね!
朗報を待ってるわ (^ー°)ゞ
>>緑サン
今日はお疲れ様でした。
いつもこのスレは楽しませてもらってます。
またカキコしてくださいね!
そして研修所でぼくと震える恋をしましょう。
「ねえ、ワタナベ君。No48、何分かかった?」
「10分かかったよ。もっとも5分くらいは笑いをこらえてたんだけど」
「まさか法務省が本試験で笑いとりにくるとは予想しなかったものね」
「片栗粉で人殺せるんだったら、オナニーしても妊娠するよね」
「カラスだってバサロで15m泳ぐわよ」
「亀だってクロールで世界新出しそうだね」
僕はゆっくりと時間をかけて、言葉を探した。「僕はこれまでの人生で、
いつもなんとか別な人間になろうとしていたような気がする。僕はいつ
もどこか新しい予備校に行って、新しい講義を聴いて、そこで合格でき
る実力を身に付けようとしていたように思う。僕は今までに何度もそれ
を繰り返してきた。それはある意味では成長だったし、ある意味ではペ
ルソナの交換のようなものだった」
「でもいずれにせよ、僕は違う自分になることによって、それまでの自
分が抱えていた誤謬から解放されたいと思っていたんだ。僕は本当に、
真剣に、それを求めていたし、努力さえすればそれはいつか可能になる
はずだと信じていた。だから、岩崎を聴き、カトシンを聴き、マコツを
聴き、柴田を聴き、小塚を聴いた。でも結局のところ、僕はどこにもた
どり着けなかったんだと思う。僕はどこまでいっても僕でしかなかった」
「僕が抱えていた欠落は、どこまでいってもあいかわらず同じ欠落でし
かなかった。どれだけ出題傾向が変化しても、どれだけ試験制度が変化
しても、僕はひとりの不完全な人間にしか過ぎなかった。僕の中にはど
こまでも同じ致命的な欠落があって、その欠落は僕に七回の不合格をも
たらしたんだ。僕はずっとその不合格に苛まれてきたし、おそらくこれ
からも同じように苛まれていくだろうと思う。ある意味においては、そ
の欠落そのものが僕自身だからだよ。僕にはそれがわかるんだ」
「僕は今、ローへ行ってできれば新しい自分になりたいと思っているよ。
そしてたぶん僕にはそれができるだろう。簡単なことではないにしても、
僕は努力して、なんとか新しい自分を獲得することができるだろう。で
も正直に言って、今年の択一に通ってしまったら、僕はまたもう一度同
じようなことをするかもしれない。僕はまた同じように自分を傷つける
ことになるかもしれない。だって三振はあっても、四球はないんだからね」
341 :
キズキ:04/05/10 13:59 ID:d+9WqXZb
うん、さっきからずっとみんなの受験の体験談を聞いてるとさ、そういっ
たタイプの話にはいくつかのパターンがあるんじゃないかって気がするんだ
よ。まずひとつはこちらに生の世界があって、あちらに死の世界があって、
それに向って突き進んでいるとしか思えないタイプの話だね。六月二日まで
ずっと択一の話をするとか、そういうの。
それからもうひとつは三次元的な常識を超えたマコツ的現象や能力が存在
するってことだね。つまりはお好み焼きを十枚焼けば、十問ヤマがあたると
いったタイプ。大きくわけるとそのふたつに分類できると思うんだ。
で、そういったのを綜合してみるとさ、みんなどちらか一方の分野だけを
集中して経験しているような気がするんだな。
それから、もちろんどちらの分野にも適さない人もいる。例えば僕がそう
だね。僕はもう十年受験しているけど、論文試験に遅刻しなかったことがな
い。いつも試験開始時刻ぎりぎりに会場に着いて、監督員を拝み倒して入室
を許可されるのさ。嘘じゃないよ。
もちろん、試験終了後のピンサロは毎年欠かしたことがないよ。
とにかくそうなんだ。幽霊は見ないし、超能力はない。なんというか、実
に散文的な人生、というわけさ。
345 :
緑 ◆3iq.SpwfFA :04/05/12 19:10 ID:mPQBmgQt
そろそろ直前答練始まるからね。
勉強しろよな、もまいら! (^ー°)ゞ
test 全角1コマ # 半角
かといってまさかベテを殺してしまうわけにもいかない。クモザルやコウモリならともかく、ベ
テを一頭殺すのは人目につきすぎるし、もし真相が露見すれば大問題になってしまう。そこで三
者があつまって協議し、年老いたベテの処置についての協定が結ばれることになった。
(1)ベテは町が町有財産として無料でひきとる。
(2)ベテを収容する施設は宅地業者が無償で提供する。
(3)飼育係の給与は予備校側が負担する。
これが其の三者間に結ばれた協定の内容である。ちょうど一年前の話だ。
キキは択一憲法をどんな風に解いたんだろうと僕は想像してみた。彼
女もやはり、メイと同じように陰陽五行説を使ったのだろうか?そうい
う解法はあの予備校に属する女の子みんなが受験上の基本技術として心
得ているノウハウなんだろうか、それともあれはあくまでメイの個人的
なものなのだろうか?僕にはわからない。
基本書と受験参考書の見えない部屋の中はひどくがらんとして息苦し
かった。空気の中には何かざらざらとした粒子のようなものが混じって
いて、息を吸い込むとそれが喉に引っかかるように感じられた。それか
ら僕はマコツのことを思い出した。マコツが僕にくれたキヨスクの「お
手ふき」。車内販売の弁当に付いているあれだ。でもどれだけ探してみて
もそのお手ふきは見当たらなかった。本を処分したときに業者がそれを
一緒に持っていってしまったようだった。
司法試験はまた僕の前から消えてしまった。今度はたぶんもしばらく
もなく。
349 :
緑 ◆3iq.SpwfFA :04/05/13 19:21 ID:oPlsY2Up
今日は一日じゅう雨でした。
緑は少しだけ、お腹が痛かったのでつ J( 'ー`)し
トリップ・テスト。ご免あそばせ (゜∇^*)
名前 半角 #
今年論文を書くことなく終わった一束の択一落ちについて考えることは悲しい。
彼らに何もかも教えてやるべきだったのかもしれない、と今では後悔している。どうせ
択一試験なんてたいした試験じゃなかったのだから。
彼らはどうしているのだろう?
合推と疑義問の影に呑み込まれてしまったのだろうか?
ジリツ・ゴショクナ。
法務省の平野に育った黄金色の問題冊子。
2004年に自分たちが出題していたものが「自立」だったと知ったら、彼らはおそら
く仰天したことだろう。
353 :
緑 ◆3iq.SpwfFA :04/05/15 18:28 ID:cQGlP+8f
論文対策。みなさん、はかどってますか?
緑は昨日あたりから、やっとエンジンかかってきました(^ー°)ゞ
354 :
鼠 ◆j3LooohTIA :04/05/16 19:26 ID:QisWsGpY
引退の潮時かもしれない、と鼠は思う。この自習室で初めて民法のテキストを読
んだのは十八の歳だ。何百枚の答案、何千問の択一の問題。何もかもが、まるでは
しけに打ち寄せる波のようにやって来ては去っていった。俺はもう既に充分なだけ
試験を受けたじゃないか。もちろん三十になろうが四十になろうが幾らだって試験
は受けられる。でも、と彼は思う、今年の受験だけは別なんだ。・・・・・・二十五歳、
引退するには悪くない歳だ。気の利いた人間なら大学を出て銀行の貸付け係でもや
っている歳だ。
355 :
ワタナベ ◇tkzo:04/05/16 20:31 ID:Wb4oRSqe
「どうしてロー生には名前があって、ヴェテには名前がないんだろう?」と僕は運転手に訊ねた。
「きっとロー生に比べて数が多すぎるんですよ。マス・プロダクトだし」
356 :
ワタナベ:04/05/16 20:40 ID:Wb4oRSqe
「他の男と寝るときは耳を出さないの?」と僕はある時彼女に質問してみた。
「もちろんよ」と彼女は言った。「みんな私に耳があることすらしらないんじゃないかしら」
「耳を出さないときのセックスってどんなものなの?」
「とても義務的なものよ。まるで情報シートをかじってるみたいに何も感じないの。でもいいのよ。
義務を果たすのって、それはそれで悪くないから」
金持ちなんて糞食らえさ
「きっとすごくお金持ちなんだね」と僕は一度彼女に訊ねてみた。
「そうね」と彼女はあまり興味なさそうに言った。「きっとそうなんでしょ
うね」
「法律の勉強ってそんなにもうかるのかな?」
「法律の勉強?」
「彼がそう言ってたよ。法律の勉強をしてるんだってさ」
「じゃあ、そうなんでしょ。でも……よくわかんないのよ。だってべつに勉
強しているようにも見えないんだもの。よく机を整理したり基本書読んだり
はしてるみたいだけど、とくに必死になっているって風でもないし」
「まるでローの新入生だね」
「なあに、それ?」
「なんでもないよ」と僕は言った。
359 :
謙三 ◆awUtfH6PYA :04/05/17 13:29 ID:oDg7ilvl
>>354 ピンボールだね。悪くない。
>>356 羊だね。いいよ。
>>358 前作もよかったけれど、これも(*^◇^*)イイ。
今日は17日だよね。何か意味のある日だよね。まぁ、別にいいけど・・・
>>359 「どうもありがとう」と僕は言った。別にそれ以上でもそれ以下でもかった。
ただ、そうすることが今の僕にとってもっとも適切なことなんじゃないかと
思えたからだ。
事実、ベテたちの十人中九人までは退屈な代物である。しかしもちろん、彼らは
そんなことに気づいてはいない。自分たちは若く、優秀で、そして魅力的だと思っ
ている。退屈さなんて自分たちとは無縁の存在だと彼らは考えている。
やれやれ。
僕はなにもベテを責めているわけではないし、また嫌っているわけでもない。そ
れどころか、僕はベテが好きだ。ベテは僕に、僕が退屈な青年であった頃のことを
思い出させてくれる。これはなんというか、とても素晴らしいことである。
すばる六月号のリードに注意せよ!
Bが死んだように読める。
364 :
らっきょ ◆kAcZqygfUg :04/05/17 18:08 ID:lOFl49fr
アパートは最高裁判例で有名な小売市場があったあたりに建っている。彼の部屋
は二階にあり、風の強い日には細かい砂がバラバラと窓ガラスに当たった。小奇麗
な南向きのアパートだったが、そこには何処となく陰気な空気が漂っていた。むか
し小売市場に魚屋があったんで、そのせいだよ、と彼は言った。
烏賊の匂い、散らかったティッシュ・ペーパー、埃をかむったビデオ・テープ、
その脇には開いたままの六法・・・。
烏賊の匂いなんてしやしないさ、と彼は言った。
するのよ、と彼女は言う。そしてひし形に歪んだ窓をぱたんと開けた。
敵方の内部で、意外な動きが・・・。
六月号の犠牲者1名。
>>362 「僕はね、ロ、ロ、ロースクールにも入れたら入りたいよ。て、適性の願書
も出したんだ」と最初に会ったとき、彼は僕にそう言った。
「法律が好きなの?」と僕は訊いてみた。
「うん、司法試験に受かったら弁護士になってさ、こ、こ、困ってる人の相
談にのったりするんだ」
なるほど世の中にはいろんな希望があり人生の目的があるんだなと僕は
あらためて感心した。
「み、緑 ◆3iq.SpwfFA君はどうするの?現行一本でいくの?」
彼は訊ねた。
突撃隊は緑 ◆3iq.SpwfFAの話を聞きたがっていたので、僕はよくその話をした。
緑には二歳年上の兄がいて、高校生の頃キューティーハニーをおかずにしてマスタ
ーベーションをしようとしたんだけど、その頃緑の家にはテレビは一台しかなく、
また放送時間は茶の間に家族が集まる時間帯だったので、とてもがっかりした様子
だったと緑は言っていた。
>>366 突撃隊さん、緑も適性は受けようと思っていまつ。
あれ受けていないと、2ちゃんのネタがわからないんでつ(〃゚_゚〃 )
「もし君がヴェテだとする」と僕は言った。「そして牧野刑法を読むのがすごく
気持ちよくて好きだとする。でも、いろんな事情でたまにしか読むことができな
い。そうだな、シケタイ読んだり、論証覚えたり、答練を受けてたりして、読め
たり読めなかったりするんだ。でも読めない日が続くと力も余るし、苛苛してく
る。自分が不当に貶められているような気がしてくる。どうして読めないんだと
腹も立ってくる。こういう感じわかる?」
「わかる」と彼女は言った。「いつもそんな風に感じてる」
「じゃあ、話が早い。それが司法試験なんだ」
魔コツは魔コツのぬいぐるみを着ていた。ぬいぐるみといってもちっちゃな布製のも
のではなくて、ちゃんとした本物の魔コツだ。尻尾はついていないけど頭髪はちゃんと
ついてる。
いったい何の必要があって魔コツがこんな格好をしているのか、僕にはよくわからな
かった。もうすぐ夏がやってくるから、こんな格好をしていれば相当汗をかくはずだ。
それに表を歩いていれば子供にからかわれたりすることだってあるだろう。よくわから
ない。
みなさんお疲れ様。ここだけが僕の癒しの場ですw
>>謙三サン
すごいね、よくわかるなあ。
17日・・・どうしたの?
>>緑サン
ロー通ってるよ。殻をなくした蝸牛のような毎日を送っています。
ところでコテハンってどうやってやるんでつか?
肌寒い感じがしませんか?
緑は、GWにしまったセーターを出して着ています(^ー°)ゞ
>>369 ワタナベ君、とても(^▽^)イイ。明日もよろしく!
「ベテを刈りに来ました」と僕は言った。それからサングラスをはずした。
「ベテ?」と彼女は首をひねった。「ベテを刈るんだね?」
「ええ。繁殖しすぎたんですね。もうすぐ現行も終わるというのに」
「うん。ああそうだね、ベテだ。今日は何日だっけ?」
「六月二日です」
不思議なものですね。
同じ程度の知能レベルなのに、合格する人はさっさと受かっちゃうし、受からない人
はいつまでも受からない。不思議じゃないですか?それで僕は考えてみたのだけれど、
その差というのはどうも生まれつきのものじゃないかっていう気がするんです。つまり
ほら、ちんこの先っぽが人よりちょっと余分に曲がっているとか、そんな感じです。
ある新聞記者がインタヴューの中でハートフィールドにこう訊ねた。
「あなたの本の主人公ウォルドは口述で二度落ち、論文で一度落ちた。これ
は矛盾じゃないですか?」
ハートフィールドはこう言った。
「君は司法試験空間で時がどんな風に流れるのか知っているのかい?」
「いや、」と記者は答えた。「でも、そんなことは誰にもわかりゃしません
よ。」
「誰もが知っていることを合格体験記に書いて、いったい何の意味がある?」
>>378 かなり良い出来栄えだ。ハートフィールド久しぶり。
>>376 いつものらっきょ作品の水準からすると、いまいち。
>>375 今度トリップ入れてやってみたら。楽しいよ。
>>373 多作の緑ちゃん、最近、作品のうp減ったよ。がんがれ。
>>372 ワタナベ君。春樹スレは2ちゃんじゃ珍しいアットホームなスレなんだ。
また、作品のうp頼んだよ。
論文試験のための二ヶ月はちょうど半分が過ぎ去ろうとしていた。六月の第二週、
都会がいちばん都会らしく見える季節だ。何もなければおそらく僕は今ごろどこか
のバーでオムレツでも食べながらウィスキーを飲んでいるに違いない。
そんなことをぼんやりと考えているうちに、この世界にもう一人の僕が存在して
いて、今頃どこかのバーで気持ちよくウィスキーを飲んでいるような気がしはじめ
た。そして考えれば考えるほど、そちらの僕の方が現実の僕のように思えた。どこ
かでポイントがずれて、シケタイを読んでいる僕は現実の僕ではなくなってしまっ
たのだ。
僕は頭を振って、そんな幻想を払いのけた。
外では夜の鳥が低く鳴きつづけていた。
しかしそれ以来一週間、彼女からは何の連絡もなかった。予備校の自習室
でも会わなかったし、答錬にも出てこなかった。携帯を見るたびに僕への着
信がないかと気にして見ていたのだが、僕への電話はただの一本もかかって
こなかった。僕はある夜、約束を果たすためにマコツのことを考えながら
マスターベーションをしてみたのだったがどうもうまくいかなかった。仕方
なく途中で成川に切りかえてみたのだが、成川のイメージもあまり助けにな
らなかった。それでなんとなく馬鹿馬鹿しくなってやめてしまった。そして
ウイスキーを飲んで、歯を磨いて寝た。
誤字発見…ウトゥ
僕は煙草の灰を落とすのも忘れ、鼠はビールを飲むのも忘れ、二人はいつも唖然として
その華麗なテクニックを眺めたものだ。
「夢みたいだ。」と鼠は言った。「あれだけのテクニックがあれば55点は軽いね。いや、58点は
行くかもしれない。」
「プロだもの仕方ないさ。」と僕は鼠を慰めた。それでもエース・パイロットの誇りは戻って
こなかった。
「あれに比べれば、俺なんてまだ女の小指の先を握ったくらいの者さ。」鼠はそういうと、
黙り込んだ。そして成績通知表の数字が55点を越えていくあてもない夢をいつまでも
見つづけていた。
「あれが仕事なんだぜ。」と僕は説得を続けた。「始めのうちはそりゃ楽しかったかもしれない。
でもね、朝から晩まであればかりやってみなよ、誰だってうんざりするさ。」
「いや、」と鼠は首を振った。「俺はしないね」
「何故あなたはそんなに答案例を欲しがるの?」と彼女が訊ねた。「答案例を手にしたところで、
あなたは永遠に司法試験を出ることはできないのよ」
そして、彼女は膝に落ちたマコツからの手紙を払い、インフォス・タワーの方に目をやった。
「あなたは司法試験を出たいの?」
僕は黙って首を振る。それがノオを意味するのか、あるいは自分の心を決めかねているしるしなの
か、僕にもわからない。僕にはそれさえもわからないのだ。
「わからない」と僕は言う。「僕はただ司法試験のことを知りたいだけなんだ。司法試験がどのよ
うな形をしていて、どのように成り立っていて、どんなヴェテの生活があるのか、僕はそれが知り
んだ。何がヴェテを規定し、何がヴェテを揺り動かしているのかを知りたいんだ。その先に何があ
るのかは僕にもわからないのさ」
彼女はゆっくりと首を左右に振り、そして僕の目をのぞきこんだ。
「先はないのよ」と彼女は言う。「あなたにはわからないの?ここは正真正銘の現行の終わりなのよ。
私たちは永遠にここにとどまるしかないのよ」
僕は仰向けに寝転んで空を見上げる。僕が見上げることができる空は、いつも曇った暗い空だ。朝の雨
に濡れた地面はひやりと湿っていたが、それでも大地の心地良い香りが僕の体のまわりを覆っていた。
「私はもっと……なんていうか、圧倒的なことが好きなの。圧倒的に論証を詰め込んで、それを圧倒的に
吐き出したいの。いろいろとか自然にじゃなくてね」
「君は多分マコツの講義を聴きすぎたんだよ。天才的で圧倒的な資質を持った人のね。でも世の中ってそ
ういう人ばかりじゃないんだ。みんな平凡な人で、暗闇の中を手さぐりしながら生きているんだ。僕みた
いにさ」
「私はもっと……なんていうか、圧倒的なことが好きなの。圧倒的に論証を詰め込んで、それを圧倒的に
吐き出したいの。いろいろとか自然にじゃなくてね」
「君は多分マコツの講義を聴きすぎたんだよ。天才的で圧倒的な資質を持った人のね。でも世の中ってそ
ういう人ばかりじゃないんだ。みんな平凡な人で、暗闇の中を手さぐりしながら生きているんだ。僕みた
いにさ」
今日は東京は雨がふって寒かったです。みなさん体調管理には気をつけてね。
>>372 ご丁寧にありがとう。やりかたわかったよ。
>>373 ありがとう。風邪引かないようにね。
>>380 いいスレだよね。これからちょくちょく来ます!
↑372は377の間違いでつた。すまそ
「ここにずっといるのかい?」と羊男が訊ねた。
「いや、現行試験に合格すれば出ていくよ。そのために来たんだからね」
「ここの冬はウザいよ」と羊男はくりかえした。「ミシュウ者が最初に読む民法の
本は何がいいですか?とか質問するんだ。そしてみんな凍りつくんだ」
>>381 ジェイさん。もうひとりの私は、ジェイズ・バーでオムレツ食べながら、
ウィスキーを飲んでいます。
>>382 突撃隊さん。ヨンさまならイメージつかめるかも・・・
>>384 ニンジンさん。華麗なテクニックで、最終合格しましょう。
>>385-387 ワタナベ君。力作です。「私たちは永遠にここにとどまるしかないのよ」には、萌えました。
「き、君は何を専攻するの?」と彼は訊ねた。
「本上まなみ」と僕は答えた。
「本上まなみって司法試験の受験科目なの?」
「いや、そういうんじゃなくてね。エロ画像とつなぎ合わせたりしてさ、遊ぶわけ
さ。蒼井そらとか篠原真女とか高樹マリアとかね」
蒼井そら以外の人の名前は聞いたことないな、と彼は言った。僕だって殆んど聞
いたことはない。巨乳でググるとそう書いてあっただけだ。
「でもとにかくそういうのが好きなんだね?」と彼は言った。
「別に好きじゃないよ」と僕は言った。
その答えは彼を混乱させた。混乱するとどもりがひどくなった。僕はとても悪い
ことをしてしまったような気がした。
「なんでも良かったんだよ、僕の場合は」と僕は説明した。「井川遥だって倉田
まり子だってなんだって良かったんだ。ただたまたま本上まなみだったんだ、ここ
にリンクが貼ってあったのが。それだけ」しかしその説明はもちろん彼を納得させ
られなかった。
「わからないな」と彼は本当にわからないという顔をして言った。「ぼ、僕の場合
はほ、ほ、法律が好きだから、ほ、ほ、ほ、法律の勉強してるわけだよね。そのた
めにわざわざと、東京の予備校に入って、し、仕送りをしてもらってるわけだよ。
でも君はそうじゃないって言うし・・・・・・」
彼の言っていることの方が正論だった。僕は説明をあきらめた。それから我々は
マッチ棒のくじをひいてどの予備校に行くかを決めた。彼がLECで僕が伊藤塾だ
った。
「法科大学院からいらっしゃると、死んだ町みたいに見えるでしょう?」と彼は言
った。
僕は曖昧な返事をした。
「でも実際に死にかけてるんですよ。現行試験のあるうちはまだ良いけれど、なく
なってしまえば本当に死んでしまうんでしょうね?町が死んでしまうというのは、
どうも奇妙なもんです」
「町が死ぬとどうなるんでしょうか?」
「どうなるんでしょうね?誰にもわからんのです。わからないままにみんな町を逃
げ出していくんですよ。もし受験生が一万人を割ったら――ということも十分あり
得ることなんですが――我々の仕事も殆んどなくなってしまいますからね、我々も
本当は逃げ出すべきなのかもしれない」
僕は彼に煙草を勧め、「やればできる」のレリーフ入りのデュポンのライターで
火をつけてやった。
「大学生相手ならば良い仕事があるんですよ。女子大生を酔いつぶさせる講座とか
は、人手が足りないんです。学生数の多い和田大相手の仕事ですから経営も安定し
ていますしね。本当はそれがいちばん良いんですよ」
「できれば君の方から質問してくれないか?君にももうだいたいのところはわか
っているんだろう?」
僕は黙って肯いた。「質問の順序がばらばらになるけどかまわないか?」
「かまわないよ」
「君はもう死んでるんだろう?」
鼠が答えるまでにおそろしいほど長い時間がかかった。ほんの何秒であったのか
もしれないが、それは僕にとっておそろしく長い沈黙だった。口の中がからからに
乾いた。
「そうだよ」と鼠は静かに言った。「俺は43点だよ」
「ベテは喧嘩するの?」と彼女が質問した。
「ベテはよく喧嘩するよ」と管理人は言った。「自習室で勉強する動物はみんなそ
うだけど、ベテの世界にも一頭ずつ細かい順位があるんだ。ひとつの囲いに五十頭
のベテがいると、ナンバー1からナンバー50までのベテがいる。それでみんな
その自分の順位をちゃんと認識しているんだよ」
「すごいのね」と彼女。
「その方がこちらも管理しやすいんだ。一番偉いベテをひっぱっていけば、あとは
黙っててもついてくるからさ」
「でも順位が決まっているのなら、どうしてわざわざ喧嘩なんてするのかしら?」
「あるベテが択一落ちしたりすると順位が不安定になるんだ。すると下の方のベテ
が上にのしあがろうとして煽る。そうなると三日くらいはどたばたやってるね」
「かわいそうね」
「ま、まわりもちだよ。蹴落とされるベテだって若い頃は誰かを蹴落としてきたん
だものな。それに論文試験の発表があるとナンバー1もナンバー50もなくなっち
まうんだ。みんな仲良く二月には願書を取りに来るよ」
「だからさ」と僕はベッドの上に腰を下ろして言った。「そこの部分だけを端折ってほしいんだよ。
他のところは全部我慢するから。意味不明な屈伸運動をやめて僕に落ち着いて勉強させてくれない
かな」
「駄目だよ」とヴェテは実にあっさりと言った。「これを抜かすってわけにはいかないんだよ。十年
も毎日毎日やってるからさ、自習室に来ると、む、無意識にやっちゃうんだ。これを抜かすとさ、
べ、べ、勉強出来なくなっちゃう」
「ねえ、私にもそういう生活できると思う?」
「自習室ひきこもり生活のこと?」
「そう」と直子は言った。
「どうかな、そういうのって考え方次第だからね。煩わしいことは結構あるといえばある。
ギャル男はうるさいし、下らないヴェテが威張ってるし、隣のヴェテは30分おきに意味
不明な屈伸運動を始めるしね。でもそういうのはどこにいったって同じだと思えば、とり
たてて気にはならない。ここで勉強するしかないんだと思えば、それなりに使える。そう
いうことだよ」
つれづれなるままに、日暮らし硯に向かひて、
心にうつりゆく魔骨の論証を、そこはかとなく書き付くれば、
あやしうこそもの狂ほしけれ。
しっかしみんなうまいですねえ。
実は一週間ほど前に1時間と時間区切って一気にwordに作りだめした
のが7,8個あるんだけど、発表する勇気がなくなってきた…。
ちなみに改名しました。
元々トリップのみコテ名なしでいこうと思ってたんだけど(「突撃隊」
>>366限定)やっぱり今ひとつ面白くないので。
僕はただ部屋の床に座って、頭の中に加藤あいの画像を再現しつづけていた。
不思議な話だけれど、半年間それを毎日毎日続けても僕は退屈や倦怠というものを
まるで感じなかった。何故なら、僕が体験した受験生活は余りにも長く、余りにも
多くの断面を有していたから、半年なんてあっという間だったからだ。巨大で、
そしてリアルだった。手を触れられるくらいに。
それはまるで夜の闇の中にそびえたつモニュメントのようだった。そしてその
モニュメントは僕の股間にそびえていたのだ。僕は全てを隈なく検証した。多くの
太い血管の中を音もなく血が流れていた。
しかし僕が半年間じっとその部屋の中に篭り続けていたのは、そのモニュメント
と遊ぶためではなかった。
僕はただ時間を必要としていただけなのだ。司法試験に関わる全てを具体的に―
―実際的に整理し、検証するのに半年という時間が必要だったのだ。僕は決して自
閉的になっていたり、外的世界をかたくなに拒否していたりしていたわけではない。
ただ単にそれは時間的な問題だった。もう一度商訴の基礎をきちんと回復し、立て
直すための純粋に物理的な時間が僕には必要だったのだ。
商訴の基礎を立て直すことの意味と、想像の中の加藤あいとの関連性についてま
では考えないようにした。それはまた別の問題だ、と僕は思った。それについては
またあとで考えればいい。まず第一に数年前に作った刑事訴訟法のノートをリニュ
アルすることだ。受験界では、平野説は流行っていないらしい。
僕は猫とさえ話をしないで、シケタイ刑事訴訟法を読んだ。
いでや、この世に生まれては、願はしかるべき事こそ多かめれ。
最高裁長官の御位は、いともかしこし。
最高裁の園生の末葉まで、人間の種ならぬぞ、やんごとなき。
正直に言って僕はべつに不合格を好んでいるわけではなかった。僕はただ、司法
試験に困惑し失望していただけだった。もちろん僕は司法試験を否定するものでは
ない。もし司法試験がなかったなら、僕の二十代の日々はもっとずっと退屈で色彩
を欠いたものになっていただろう。
司法試験は基本的には素直で気持ちの良い試験だったし、多くの受験生が司法試
験に好感を抱いていた。でも僕と試験委員の趣味が必ずしも合っていたとは言いが
たい。僕の読んでいるフランス文庫や、僕が覗いているエロサイトを試験委員はほ
とんど理解しなかったと思う。
だからそのような領域のものごとについて僕と試験委員が対等の立場に立って
語り合うことはまずなかった。そういう点では、僕と試験委員との関係は、僕と
居酒屋の大将との関係とはずいぶん違っていた。
久しく隔たりて書きたる答案の、我が方にありつること、
数々に残りなく書き続くるこそあいなけれ。
僕は家に戻ってから、自分の部屋の机の前に座って、マコツに握られたその手
長いあいだじっと見ていた。僕はマコツが僕の手をとってくれたことをとても
嬉しく思った。その優しい感触はそのあと何日にもわたって僕の心を温めてく
れた。でもそれと同時に混乱し、惑い、切なくなった。その温かみをいったい
どのように扱えばいいのか、どこにも持っていけばいいのか、それが僕にはわ
からなかったのだ。
行政法の試験がもうすぐあるのに、現実逃避して「国境の南、太陽の西」読んでしまったw
スターバクッスのカプチーノ飲みながら。
もう、何もいらない。現実の足音から逃れる時間の愛おしさを知る。
>>404 緑ちゃんワラタ。
>>411 源氏物語?なんか読んだ覚えが・・。
418 :
411:04/05/22 16:07 ID:???
徒然草
「でもとにかく私が樹海へ行かなかったのは、私がとにかくこうして生きていられ
たのは、論文感覚がいつかもし私のところに戻ってきたら、今年こそ合格するだろ
うと思っていたからなのよ。だから私は死ななかったの。それは資格とか、肢3が
正しいとか正しくないとかいう問題じゃないの。私はろくでもないベテかもしれな
い。無価値なベテかもしれない。私は来年も九十万ほど必要になるかもしれない(生
協割引無)。でもそんな問題じゃないのよ。あなたには何もきっとわかってないの
よ」
二〇〇五年という耳馴れない響きの年がやってきて、僕の二十代合格は完全に終
止符を打った。そして僕は新しいぬかるみへと足を踏み入れた。ローの入試があっ
て、僕は比較的楽にそれをパスした。他にやることもなくて殆んど毎日基本書を読
んでいたわけだから、特別な勉強をしなくてもローにパスするくらい簡単なことだ
った。
「ノルウェイの森」(単行本)は、当時1,000円だったんですね。
いま見て驚いた。
「あなたマコツが好き?」
「嫌いじゃないよ、べつに」
「どちらかというと好き?」
「どちらかというと好きだよ」と僕は言った。「でもその話また今度にしない?
今日はとても気持の良い日曜の朝だし、マコツと論マスの話をしてつぶしたくない
んだ。もっと違う話をしようよ。君の彼は塾の人?」
「ううん。よその予備校よ、もちろん。私たち後期A型答練で知り合ったの。私
はレギュラーの受講で、彼は一週遅れの受講で、ほらよくあるでしょう?一週遅れ
で答練を受けている男の子にネタバレやってからかっているうちに、恋が芽生えち
ゃうとか、そういうの。エッチしたのは、民法の第三回目をネタバレしたあとだっ
たけれど。ねえ、ワタナベ君?」
「うん?」
「商法の第三回、どんな問題が出たか、教えてあげましょうか?」
「ねえ、ワタナベ君、マコツのこと考えてるでしょう?」
「考えてないよ」と僕は正直に言った。
「本当?」
「本当だよ」
「セックスしてるときマコツのこと考えちゃ嫌よ」
「考えられないよ」と僕は言った。
「じゃあバラしてよ、今度」と僕はあきらめて言った。
「ねえ、私が今いちばんやりたいことわかる?」と常設自習室前で緑が小声で言った。
「見当もつかない」と僕は言った。「でも、お願いだから自習室の中でネタバレはしな
いでくれよ。他の糞ヴェテに聞こえると殺されるから」
「残念ね。けっこうレアな論点なのに、今回のは」と緑はいかにも残念そうに言った。
「ところで直前期には何があるの?」
今日は結婚記念日。家内と映画見に行きます。ちょっと早いけど、店じまい。
ヨンさまの「スキャンダル」をご鑑賞なさるそうです。奥様は・・・。
保全age
「ねえ、ワタナベ君、本当にもう半年も論文書いてないの?」
「書いてないよ」と僕は言った。
「じゃあ、択一通っても本当は答案なんか書けないんじゃないの?」
「まあ、そうだろうね」
「で、直前答練も受けなかったのね?」
「いや。受けようとしたんだけれど、伊藤魔骨の仮名で申し込んだら拒否されたんだ」
>>426 謙三さん、映画どうでしたか?奥さんを大事にしてあげてくださいね (^ー°)ゞ
「君の恋人の名前はなんて言うの?」と僕は聞いてみた。
彼女は名前を言った。僕はその名前を聞いたことがなかった。聞いたことないな、
と僕は言った。
「仕事用の名前を持ってるの」とユキは言った。「魔骨っていう名前で仕事してる
のずっと。馬鹿みたいだと思わない?そういう人なの」
僕は魔骨を知っていた。誰でも彼のことを知っている。とびっきり有名な男だ。
択一ヲチの発表を見て帰る電車の中で、ぼんやりと外の風景を眺めながら、僕はずっと自分という人
間の成り立ちについて考えていた。僕は膝の上に置いた自分の手を眺め、窓ガラスに映った自分の顔
を眺めた。ここにいる司法ヴェテという人間はいったい何なんだろう、と僕は思った。どうしてこん
なことができるんだろう、と僕は思った。でも僕にはわかっていた。もしもう一度同じ情況におかれ
たら、また同じことを繰り返すだろうということが。僕はやはりマコツに嘘をついても情報シートで
はなく牧野刑法を読んだだろう。たとえそれがどれだけマコツを傷つけることになったとしてもだ。
それを認めるのは辛かった。でも毎年やっていることだった。
「結局、私はロースクールに行くべきじゃなかったのね。それは最初から私にもわかっていたのよ。
三振するだろうことは、予想できたのよ。でも私にはどうしても我慢することができなかった。
どうしてももう一度学生ゴッコをしたかったし、国策コクサク言われたら受験しないわけには
いかなかった。ねえマコツくん、それが私なのよ。私は、そうするつもりはないのに、最後はいつも
ギャグにして合コンの持ちネタを増やしてしまうのよ、人生をすり減らしてね」
疲れたー。オレンジデイズ見て勉強するべー。
>>411 謙三さん教養人ですねー。カクイイ!
>>429 緑ちゃんよくカチアウね。昨日も同じ時間帯だったよw
>>433 緑は、昼食どきに30分、夕方6時〜7時ごろに30分くらいかな(^ー°)ゞ
436 :
氏名黙秘:04/05/23 18:56 ID:wY+9L1cF
今日の警視庁採用試験にノルウェイの森でてた
いままで5回読んだ本なのに答えがわからなかった(´д⊂)
「もう二十五だよ。みんな嫌でもベテになる」と僕は言った。
「たしかにそうだ。そのとおりだ。君の言うとおりだよ。でも、受験生って不思議
だよな。不合格によって年を取るんだね。まったくの話。僕は昔は人間というもの
は誕生日が来ると年をとっていくんだと思ってた」と五反田君は僕の顔をじっとの
ぞきこむようにして言った。
「悪かったね。そんなに僕の顔をじっと見ないでくれるかな?」と僕は言った。
>>435 「僕も情報シートだよ、もちろん」と僕は言った。「ちょっとした信者といってもいいのかもしれない」
そうなんだ、了解!商法がんばれーー!!
>>436 ここのスレの人たちだったら、ラッキーと思ったでしょうね?(^ー°)ゞ
みなさん、おはようございます(^ー°)ゞ
司法試験・・・・・・司法試験だ。そのためにここまで来たんじゃないか。寒さが頭の
動きまでを止めてしまいそうだった。考えろ。司法試験だ。七回目の司法試験。
・・・・・・オーケー、論文試験だ。僕の体の何処かに商訴の記憶をよみがえらせる電源
スイッチが存在するはずだ。・・・・・・スイッチ、捜すんだ。
やれやれ。
「僕にも合格する権利はある」と僕は言った。自分に向かって言ったようなものだ
った。僕にも合格する権利はある。
「何もしてあげられなくて悪いと思うよ。でもわかってほしいんだ。おいらはあん
たのこと好きだよ」
まあいい、そのうちに何か考えつくさ。
「ねえ、永沢さん。ところであなたの人生の行動規範っていったいどんなものなん
ですか?」と僕は訊いてみた。
「お前、きっと笑うよ」と彼は言った。
「笑いませんよ」と僕は言った。
「やればできる」
僕は笑いはしなかったけれどあやうく椅子から転げ落ちそうになった。「やれば
できるって、あのやればできるですか?」
「そうだよ、あのやればできるだよ」と彼は言った。
「あなたは僕がこれまで会った人の中でいちばん変った人ですね」と僕は言った。
「キー・ワードは自律なんだ」と鼠は言った。「全てはそこから始まってるんだ。きっとその
自律を君は理解できないよ」
「ベテはみんな頭が弱い」
「一般論だよ」と言って鼠は何度か指を鳴らした。「一般論をいくら並べてもベテはどこにも行け
ない。俺は今とても個人的な話をしてるんだ」
僕は黙った。
要するに司法試験の街においては若者たちが永遠に若く、その瞳は海の色のよう
なブルー、といったタイプではないのだ。だいいち受験生の瞳は青くはない。その
顔にはシミが点々と浮いていて、首にはタオルが巻かれていることもある。そして
この街で永遠に若いと言えそうなのは死んだ若者たちだけだ。
448 :
氏名黙秘:04/05/25 14:52 ID:XClhH2Lt
僕はドアを開けると、男が一人立っていた。僕と同じくらいの年恰好に見えた。
男は背が低く、髪が長めだった。目が細く、鋭かった。一昔前の司法試験受験生
みたいにみえた。過去問検討ゼミで額の髪をかきあげて「やはり団籐だよ」と
言ったりしそうな雰囲気がある。昔大学のクラスにも何人かこういうのがいた。
男は灰色のナイロン・パーカを着ていた。「ベテ」と僕はとりあえず名前をつけた。
「『あれができる』って言葉が好きなんですね?」と僕は訊ねてみた。
「ええ、それで小さい頃からAV男優になろうと思っていたんです」
でも僕は一度だけ、イトミミズの交尾を見たことがある。もう君たちの交尾を見
るのはいやだ、と僕はイトミミズに向かってはっきりと宣言した。セックスをした
いのならすればいい。でも僕はどうしても君たちの頭とお尻の区別がつかないし、
胴体とペニスの区別もつかない。だから僕は君たちの交尾を見たくないし、これ以
上我慢することは不可能だ、と。
恐しい数の答練のレジュメだ。八百七十八というのがその正確な数字だった。僕
は時間をかけて何度もレジュメを勘定してみた。八百七十八、間違いない。レジュ
メは科目ごとに積み上げられ、膝の高さを越えていた。まるでチョークで床に線を
引いて並べでもしたように、その列には一センチの狂いもない。アクリル樹脂の中
で固められた蝿のようにあたりの全ては静止していた。何ひとつぴくりとも動かな
い。八百七十八の死と八百七十八の沈黙。ちり紙交換車がやって来た。
司法試験・・・・・・司法試験だ。そのためにここまで来たんじゃないか。願書に貼付
した自分の写真が頭の動きまでを止めてしまいそうだった。考えろ。司法試験だ。
八回目の司法試験。・・・・・・オーケー、スイッチだ。
「何もかも終ったんだな」とベテは言った。「何もかも終った」
「終りました」と僕は言った。
「きっと現行を受け続けたほうがよかったんだろうな」
「僕はいろんなものを失いました」
「いや」とベテは首を振った。「君はまだやり直しの効く歳じゃないか」
「そうでしょうか」と僕は言った。
ロースクールの門を出る時、ベテは桜の幹に額をつけて声を殺して泣いていた。
誰かが彼の失われた時間を奪い去ってしまったのだ。それが正しいことなのかどう
か、僕には最後までわからなかった。
「いろいろありがとう」
「どういたしまして」それから魔コツはため息をついた。
「ベテが食事を食べないんです。あのままじゃ、死んでしまいます」
「つらいことがあったんですよ」
「知ってます」と魔コツは悲しそうに言った。「でもベテは私には何も教えてくれ
ないんです」
「きっと今に何もかもうまく行きますよ」と僕は言った。「時間さえ経てばね」
「そんな風に気持良く現行試験をあきらめてくれるベテを仕入れるのも大変なん
だよ」とジェイは言った。
「へえ」と僕はピーナツをかじりながら言った。
「ところでまた新司法試験なのかい?」
「やめたんだ」
「やめた?」
「話すと長くなる」
ジェイはじゃが芋を全部むき終えると大きなざるで洗い、水を切った。「それでこれからどうするの?」
「わからないよ。就活もまったくやってないし。たいしたもんじゃないけれど、
いちおう卒業すると肩書きがつく。もっとも何の役にも立たないけれどね」
「肩書きは立派だけれど、どことなくうさん臭そうだね」
「実にそのとおりさ」
「でも話すと長くなるんだろう?」
トリップテスト ごめんあそばせ(^ー°)ゞ
村上春樹、良いかねえ?
ナルシスティックな現状追認は浪人生には危険だぜー
現行もうすぐ200人になるよ。誰かこのネタぱろってけろ。
【国策】2006新司法枠は1300人?
1 :勝ち組 :04/05/24 23:22 ID:???
2006年の新司法試験合格者枠は1300人を軸に調整が進んでいる模様。
日本経済新聞によれば、既修者2350人から留年者などを除けば、初年度新司法試験の合格率は65%となるとのことです。
言うまでもなく、法科大学院は国策であります。
国民の人権に資する新しい法曹養成のシステムとして、失敗は許されません。
このスレは勝ち組となった私たち既修1期生だけではなく、後輩の入学者のためのものです。
国策法科大学院を高揚し、栄冠を我等が手中に・・・!
詳細は、日本経済新聞5月24日朝刊18面参照。
「ベテを飼う場合、いちばん大事なのは交尾の管理なんだ。だから牝ベテは牝ベテ、
牡ベテは牡ベテで隔離して、牝ベテの囲いの中に一頭だけ牡ベテを放り込む。まあ
牡ベテの中でも比較的まともな総合評価Aの牡ベテだよな。つまり立派な種をし
こむわけさ。そして一ヶ月ばかりのその仕事が終ると種牡ベテはもとの牡ベテだけ
の囲いに戻される。そのあとのことは想像できるだろう。種牡ベテに選ばれなかっ
た糞ベテどもに袋叩きにされるのさ。気の毒なものさ」
ヴェテが択一ヲチしてしまったあとでも、マコツは僕に何度も手紙を書いてきて、
「やればできる」し、「最後まであきらめずに頑張れば受かる」ことなのだと言っ
てくれた。
しかしそれに対して僕は返事を書かなかった。なんて言えばいいのだ?
「やればできる」のではないのだ。「できる奴はできる」の間違いだったのだ。
ヴェテが択一ヲチしてしまったあとでも、マコツは僕に何度も手紙を書いてきて、
「やればできる」し、「最後まであきらめずに頑張れば受かる」ことなのだと言っ
てくれた。
しかしそれに対して僕は返事を書かなかった。なんて言えばいいのだ?
「やればできる」のではないのだ。「できる奴はできる」の間違いだったのだ。
ヴェテが択一ヲチしてしまったあとでも、マコツは僕に何度も手紙を書いてきて、
「やればできる」し、「最後まであきらめずに頑張れば受かる」ことなのだと言っ
てくれた。
しかしそれに対して僕は返事を書かなかった。なんて言えばいいのだ?
「やればできる」のではないのだ。「できる奴はできる」の間違いだったのだ。
>>463-465 「レイコさん、これがワタナベ ◆QOExfD8fto の抜かず三発ってやつですか?」
「そうね。ワタナベくんのアレすごくすきよ」
すいません、LANの調子が悪くって。
お許しを。
「ちょっとしたマコツをのみこんだら司法試験なんか簡単なものよ」
「マコツって、どんなコツ?」
「つまりね、他の人が書かないようなことをちょっと盛りこんでおけばいいのよ。
すると採点する人は『この子は法律ができる』って思ってくれるわけ。すごく感心
してくれたりしてね。合格させてくれるのよ。べつにたいしたことじゃなくていい
のよ。ちょっとしたマコツでいいの」
「ねえ、いつになったら遊びに連れてってくれるの?」
「それが思ったよりもポータブルDVDプレイヤーが高かったんだ。いま金欠」
「高いっていったって、八万程度でしょう?」
「そうなんだけど、ハードがあるとソフトも買いたくなるだろう?」
「買っちゃったのね?ばりばりのいやらしいSM?何本?」
「十本」と僕は言った。
「少し魔コツを離れて、一人でのんびりしてきた方がいいよ。誰とも口きかないで
頭の中を空っぽにしてさ。緑ちゃん、魔コツにシフトしすぎじゃない、最近?」
緑は少し考えていたが、やがて肯いた。「そうね。そうかもしれないわね。でも
私探り入れてただけだから心配しなくていいのよ。答練はLEC、健康食品はWセ
シって決めてるから。もちろんカセットは辰巳」
「それで、一人で夕食食べてから、ずっと本を読んでいたの?」と漁師が質問した。
「まずC−Bookを片付けて、それから本を読んだ」
「どんな本?」
「信じないかもしれないけど、マコツの『試対』」
漁師は紙にマコツの『試対』と書いた。どういう字かわからなかったので文学が
教えた。僕が予想したとおり彼はちゃんとマコツの『試対』のことを知っていた。
世間の人にはよくわかっていないみたいだけれど、才能なしに司法試験に受かる
ことはできないんだ。もちろん誰でも努力すれば、けっこういいところまではいく。
何年間か司法浪人として訓練すれば、予備校に出して恥ずかしくないくらいのもの
はちゃんと書けるようになる。たいていの受験生が出している答案はその程度の
ものだ。それでももちろん予備校では通用する。でも本試験を突破するには特別な
才能が必要なんだ。それはピアノを弾いたり、絵を描いたり、百メートルを走ったり
するのと同じことなんだ。僕自身もかなりうまく答案を書けると思う。ずいぶん
研究もしたし練習もした。でもどう転んでも彼にはかなわない。同じ教材で勉強して、
同じように同じ時間だけ答案構成しても、できたものの切れが違うんだ。どうしてかは
わからない。それは才能というしかないものなんだよ。芸術と同じなんだよ。
そこには一本の線があって、それを越えることのできる人間と、越えることの
できない人間とがいる。
こりゃよくないね…。
我ながら憂鬱になる。
時計は十一時を回っていた。なんとかうまく法務省のHPに接続して合否を確か
めなくてはと僕は思った。でも僕が合否を確かめる前に、彼女は突然僕に向かって
直前答練の申し込みをしてほしいと言った。
「どうして?」と僕はびっくりして訊いた。
「私を充電してほしいの」と彼女は言った。
「充電?」
「体の電気が足りないのよ」と彼女は言った。
475 :
緑 ◆3iq.SpwfFA :04/06/03 11:29 ID:+4xYcz+K
僕は司法試験のことを最後までよく知らないまま年老いて、そして死んでいくの
だろうか?もしそうだとしたら、僕がこうして送っている受験生活というのはいっ
たい何なんだろう?そしてそのような未知の相手と格闘し、毎年不合格になる僕の
人生というのはいったい何なんだろう?
「どうしてそんなにマコツが好きなの?」と僕は質問してみた。
「そうね、ただ可愛いからじゃないかしら」と彼女は言った。「でもね、さっき
じっとマコツを見ているうちに、私はふとこう思ったの。私たちがこうして目にし
ているマコツというのは、マコツのほんの一部にすぎないんだってね。私たちは習
慣的にこれがマコツだと思っているわけだけれど、本当はそうじゃないの。本当の
マコツはもっと暗くて、禿げているし、その体の大半はクラゲみたいなもので占め
られているのよ」
マコツにはちゃんと骨もあるし、筋肉だってある。酸素呼吸をするし、排泄だっ
てする。精子だってちゃんと作られているのだ。そしてマコツは触手や傘を使って
憲法の講義だってする。潮の流れのままにただふらふらと揺られているわけではな
い。決してマコツの弁護をするわけではないけれど、マコツにもマコツなりの生命
的な意志というものはあるのだ。
それは受験勉強とかそういうものとはほとんど無縁の行為でした。私はただシケ
タイを読んで、シケタイを私の中に入れたかっただけなのです。それほど息苦しい
までにシケタイを求めたのは、生まれて初めてのことでした。私はそれまで「我慢
できないほどシケタイが読みたくなる」というような表現の本を読んでも、それが
具体的にどういうことなのかうまく想像できなかったのです。
マコツ
マコツと
何度も口の中でくりかえしていると
自分がある瞬間から
塾生になってしまうような
気がすることがある
相当に長い受験期間だったから、いくらなんでも長さが足りないなんてことはないはずだ。
でも合格は遠く、合格に向けて懐中電灯の光を当てても、梯子が底まで届いたのかどうかは
わからなかった。その光線は闇の途中で吸い込まれるように途絶えていた。
>>475 この時期バカンスだと?司法試験をバカンスんな!
483 :
謙三 ◆awUtfH6PYA :04/06/05 13:20 ID:JSifTXVR
つまり、論点のことを知ろうと長い時間をかけて、真剣に努力をかさねて、その結果我々
はその論点の本質にどの程度まで近づくことができるのだろうか。我々は我々がよく知って
いると思い込んでいる典型論点について、本当に何か大事なことを知っているのだろうか。
agr
485 :
鼠 ◆j3LooohTIA :04/06/05 16:44 ID:WKZfpQX5
僕は反射的に消印に目をやった。消印はかすれていてはっきりとは読みとれなかったが、
「霞」という字はなんとか判読できた。「霞ヶ関」と読めなくもなかった。千代田区の霞ヶ関?
魔コツは僕の知っているかぎりでは、門下省に知り合いなんか一人もいないはずだった。
僕らは願書を提出するとき以外は霞ヶ関に行ったことはなかったし、魔コツがそこに行った
ことがあるという話は一度も聞いたことがなかった。
486 :
氏名黙秘:04/06/05 17:05 ID:EZa/0M3Z
やれやれ。
ここはなかなか面白い。
目がはんせないな。
ピューッと風が路を吹き抜けた。
そろそろ夏だ。蒸し暑い季節が僕の気持ちを幾分高揚させる。
ぽんと僕の肩をたたく人がいる。
レックだった。金髪をたなびかせながら、ローに一緒にいこうよと誘った。
ちょっと心が揺れた。
やはり蒸し暑いせいだろう。
ロースクール?お金?現行廃止?
私は言葉を失った。少し、時間が止まる。テレビのCMも止まる。オカシナ時間帯。
これは時間ではない。多くの人間が鼻糞をホジリナガラ、テレビを鑑賞している
最中に起こった、ズッドン。
正確にいうと言葉ではない。自分のライフスタイルを
後方から「ズッドン」とニタニタとした人に、否定された気がしたのだ。
打ち込まれた気がしたのだ。
お気に入りのジージャンが、親しい人間ではあるけれど、
親しくしたくない人間によって、奪われた感じ。
あげ
マコトはうなずいた。それに従うように僕もうなずいた。
彼が言ってたことの一つ一つの言葉の意味は当然僕にも理解できた。
でもそれが全体としてどういう意味を言ってるのかは、
全く見当がつかなかった。
仕方なく僕は、本当に仕方なく家路につくことにした。
家に帰ると僕はペンケースから蛍光ペンを取り出して彼の言葉をなぞってみたけど、
やっぱりそれは僕の言葉にはならなかった。
僕はその蛍光ペンを特に気に入ってたわけじゃなかったが、
今でもペンケースにしまってある。
「君には向いてないよ。。。。」
僕の頭に、イナズマが落下した。何ボルトなのかは知らない。
ドンキホーテを書いたセルバンテスも知らないだろう。
その言葉が、鋭角チックなカーブを緩やかに描きながら、僕の自意識を刈り入れる。
僕は、耳たぶを軽くツネッテみる。
「過去、2回受かってるし、今年だって・・・」
悪くない。少し盛り上がってきた(^0^)/
かつては――と僕は思った――僕も希望に燃えたまともな受験生だった。高校時
代にはクラレンス・ダロウの伝記を読んで弁護士になろうと志した。成績も悪くな
かった。伊藤塾一期生のときには「いちばん最初に合格しそうな人」投票でクラス
の二位になったこともある。そして順調に成績も伸ばしてきた。それがどこかで狂
ってしまったのだ。
僕は台所のテーブルに頬杖をつき、それについて――いったいいつどこで僕の短
期合格計画が狂いはじめたかについて――少し考えてみた。でも僕にはわからなか
った。とくに何か思いあたることがあったというわけではないのだ。論マスで挫折
したのでもないし、マコツに失望したのでもないし、とくに2ちゃんに入れこんだ
というのでもない。僕は僕としてごく普通に勉強してきたのだ。そして伊藤塾を卒
業しようかという頃になって、僕はある日突然自分がかつての自分でなくなってい
ることに気づいたというわけだ。
きっとそのずれは最初のうちは目にも見えないような微小なものだったのだろ
う。しかし時が経過するに従ってそのずれはどんどん大きくなり、そしてやがては
そもそものあるべき姿が見えなくなってしまうような辺境に僕を運んできてしま
ったのだ。学者にたとえるなら、たぶん僕はいま美濃部と佐々木の中間点あたりに
いるはずだった。もう少しいけば上杉だって見ることができそうだ。そして――と
僕は思った――その先にはいったい何があるんだっけ?井上毅?
「存続する死」というのが現行司法試験に与えられたニックネームだった。僕は優
秀な上位ロー生であり、それ故にしっかりと保護されていた。死は僕の生活にほと
んど入り込んではこなかった。僕にとっての死とは、自分とは関係のない偶発的な、
そしておそらくは不幸な、三振制度にすぎなかったのである。しかし、現行受験生
にあっては、死は確実に存在していた。それはひとつの匂いとなり影となり、夏の
論文試験となり秋の悲鳴となって、僕にその存在を訴えかけていた。死は存在する。
しかし現行受験生はそれを恐れることを知らない。死とは変形された生にすぎない
のだ、と彼らは思っていた。
その日僕らは渋谷の伊藤塾で午後を一緒に過ごした。せっかく天気がいいのだか
ら、辰巳で公開模試を受けた方が楽しそうに思えたし、渋谷に向かう電車の中で僕
はクミコに向かってそのことをちょっと匂わせてもみたのだが、彼女は最初から伊
藤塾に行くと決めているようだった。もちろん彼女が伊藤塾に行きたいというので
あれば、僕の方にはべつに異論はなかった。ちょうど伊藤塾ではベテの特別展示が
おこなわれていて、僕らは日本中から集められた珍しいベテを順番に見物していく
ことになった。
私が彼と寝ることになったのは、ただ私が彼と寝たかったからです。私にはその
とき我慢することができなかったのです。彼の髪のはえぎわを近くで見てみたいと
いう欲望を抑制することができなかったのです。(^ー°)ゞ
「芭蕉って貧乏だったの?」帰りの電車の中で僕は父親にそう訊ねてみた。
「そうだね、金持じゃなかった」
「有名な人だったんでしょう?」
「もちろん有名な人だったよ」
「でも伊藤塾のDVD入門講座フルセットを申し込めないくらい貧乏だったんだ」
「貧乏だから伊藤塾に申し込まなかったというわけじゃないんだ」と父親は言った。
「ねえ、マコツというのはいったい何ものなんだ?あの男は僕の女房の教師だ。で
も考えてみれば、僕はあの男のことをほとんど何も知らないんだ。彼がいったい何
を考えて『やればできる』というのか、何を考えてインターネット講座なんかを始
めたのか・・・・・・僕にはまったくわからない。僕にわかっているのは、彼の頭髪の秘
密だけだ」
「マコツ様は岡田様とはまったく逆の世界に属している人です」と加納クレタは言
った。それからしばらく口を噤んで言葉を探していた。「岡田様が失っていく現行
試験の世界で、マコツ様は獲得していきます。岡田様が否定されるローの世界に、
マコツ様はちゃっかり進出しようとしています。だからこそあの方は『やればでき
る』とおっしゃるのです」
この前最後にマコツと会って話をしたのはもう三年以上前のことだったが、今こ
うして一緒にいても、久しぶりに会ったというような思いはまったく湧いてこな
かった。パンフやネットで時折その顔を見せられていたせいだろうと僕は思った。
ある種の情報というのは、好むと好まざるとにかかわらず、求めると求めざるとに
かかわらず、煙みたいに受験生の意識や目に入り込んでくるのだ。
しかし間近に顔を突き合わせてよく見てみると、この三年のあいだに彼の顔の
印象がずいぶん変わってしまったことに気づかされた。以前そこに見受けられた
スマートで人工的なヘアスタイルはどこか奥の方に押しやられ、より自然な髪が
ふさふさと繁っていた。ひとことで言えば、マコツはより洗練されたカツラを手に
入れたのだ。それはたしかによくできたカツラだった。
それはあるいは新しい増毛法のようなものかもしれない。でもそれがカツラであ
るにせよ、増毛法であるにせよ、僕は――アンチマコツのこの僕でさえ――その新
しい何かの中に、ある種の魅力のようなものを認めないわけにはいかなかった。
DVD講座/インターネット講座を意識しているみたいだなと僕はふと思った。
つまりアップに耐え得る何かがマコツには必要だったのだ。彼はテレビに出てくる
人間が話すように話し、テレビに出てくる人間が動くように動いていた。僕と彼と
のあいだには常に液晶画面が介在しているように感じられた。僕はこっち側にいて、
彼はあっち側にいた。
緑氏は完全なオリジナルですか?
>>504 上の三つは「ねじまき鳥」でつ。主人公が綿谷ノボルについて感じたことを書いた部分(^ー°)ゞ
妙なことに――別にそれほど妙じゃないのかもしれないけれど――新司法試験
の受験生は予備校に通わなかった。通う必要がないと言いかえた方がいいのかもし
れない。クローン技術の進歩により、予備校の講師のクローンが安く購入できるよ
うになったからだ。
たとえば旧試験の受験生がマコツの講義を聴こうと思えば、わざわざ渋谷の伊藤
塾まで電車に乗って行かなければならなかった。しかしいまではクローン・マコツ
2000XPを買えば、自宅でマコツの講義を自分の好きなだけ聴くことができるのだ。
2000XPは、マコツの爪の垢のDNAからクローン再生した製品である。前作
1800ESは、マコツの耳の垢のDNAからクローン再生したものであったため、評判
が良くなかった。宣伝コピーには三時間しか眠らないと謳ってあるにもかかわらず、
八時間の睡眠時間を必要としたのだ。
オーナーであるあなたが2000XPに、憲法の論マスと指令すれば、2000XPは二
十一時間連続で憲法の論マスを講義する。肩が凝ったときには、2000XPに肩を揉
めと命ずると、2000XPは肩を揉む(但し、肩揉み機能は2035年に生産されたシ
リアル・ナンバー34unko586987から34unko690034までには搭載されていない
ので注意すること)。
LECからはクローン・柴田が300台限定で販売される。先着百名にはクローン・
幸のおまけがつく。クローン・幸だけの単体発売はないのかとLECに問い合わせ
があったが、現在のところその予定はないとの回答がきた。クローン・幸をゲット
したければ、クローン・柴田を購入しなければならないということだ。
クローン・マコツは伊藤塾とアデランスとの共同開発であるが、アートネイチャ
ーと業務提携できなかった早稲田セミナーは、頭髪部分未完成のままでクローン・
羽広を発売する。
辰巳のクローン・麻里子の発売も間近だ。原本よりも相当にシェイプアップされ
ている。しかしダッチワイフ機能は搭載されていないので、夜のペットとしては使
用できない。男性受験生の諸君にとっては残念なことであろう。
さっきも言ったように私は二十のときから司法試験を受験してきたわけだけれ
ど、考えてみたら自分自身のために試験を受けたことなんてただの一度もなかった
のよ。友だちを感心させるためだとか、2ちゃんのレスを伸ばすためだとか、そん
なためばかりに司法試験を受けつづけてきたのよ。もちろんそういうのは大事なこ
とではあるのよ。でもある年齢をすぎたら人は自分のために勉強しなくてはならな
いのよ。勉強というのはそういうものなのよ。そして私はエリート・コースからド
ロップ・アウトして三十一か三十二になってやっとそれを悟ることができたのよ。
「いつも論証を変えよう、向上させようとして、それが上手くいかなくて苛々した
り悲しんだりしていたの。とてもいいものを持っていたのに、最後まで自分の答案
に自信が持てなくて、あれもしなくちゃ、ここも変えなくちゃなんてそんなことば
かり考えていたのよ。可愛そうなキズキ君」
512 :
クミコ:04/06/09 19:42 ID:???
「よくわかんないな」と僕は言った。「ただのDVD講座じゃないか。ないと困る
だろう。まだ少しストックはあるけど、余って腐るものじゃないよ」
「DVD講座を受講するのはちっともかまわないわよ。当たり前でしょう。私が訊
いているのは、どうしてマコツのDVD講座を受講したりしたのっていうことよ」
「まだよくわからないな」、僕は我慢強く言った。「たしかにマコツのDVD講座を
僕は受講するよ。それを聴いたからって鼻が赤くなるわけじゃない。べつに何も悪
くないじゃないか」
513 :
クミコ:04/06/09 19:42 ID:???
「悪いわよ。私の勤務先ではDVD講座をやっていないのよ。知らなかった?」
「知らなかった」と僕は言った。「でもそれだからって他校のDVD講座を嫌う理
由は何かあるのかな?」
「どうして嫌いかなんて、私にも説明できないわよ」と彼女は言った。「あなただ
って、雑談の多い講義や、スケジュールの詰まった答練は嫌いでしょう。私が○○
で答練を受講するのを嫌がるじゃない。そんな理由をひとつひとつ説明はできない
でしょう。それはただの好き嫌いなのよ」
514 :
クミコ:04/06/09 19:43 ID:???
僕にはそれらの理由を全部説明することはできた。でももちろんしなかった。
「わかった。それはただの好き嫌いだ。よくわかった。でも君は司法試験を始めて
からこの六年間にDVD講座をただの一度も受講しなかったのか?」
「受講しなかった」、クミコはきっぱりと言った。
「本当に?」
515 :
クミコ:04/06/09 19:43 ID:???
「本当よ」とクミコは言った。「私が受講する通信講座は何回か聴くとフニャフニ
ャになってしまうカセット・テープ、それだけ。あなたがこれまで私と一緒に受験
勉強を続けていてそれに気づかなかったなんて驚きだわ」
僕にとってもそれは驚きだった。この六年間のあいだ、僕はフニャフニャになっ
てしまうカセット・テープをただの一度も使わなかったのだ。
516 :
緑 ◆3iq.SpwfFA :04/06/11 11:42 ID:0zmDOHxC
「こんなに落っこちちゃったわ、ワタナベ君」
「ねえ、ワタナベ君。どうして中年になるとおならが出やすいの?」
「おならは、おなかの中にたまったガスが、肛門から排出されるものなんだけれど、
ガスが増加するとおならの回数も増加するんだよね。ガス増加の大きな原因は、
ストレスなんだ」
「なぜストレスが?」
「中年以降になると、ストレスが職場や家庭で増えてきて、緊張したときにつばをのみ
込む動作が増えるんだよ。その際空気も一緒にのみ込んでしまうことがガスを増加さ
せる原因なんだよね。腸管内ガスは、約70%がのみ込まれた空気で、約20%は血
液から放出されたもの、腸内細菌で分解された食べ物から生じるガスは残りの
10%ほどにすぎないんだよ」
「じゃあ、おならに悩んでいる人は、どう対応すればいいの?」
「ストレスの発散を心掛け、つばをのみ込まないように意識することが大事なんだ
よね」
「食生活はどうすればいいのかしら?」
「マメ類やイモ類など繊維の多い炭水化物は、ガスが大量に生じるから、控えた方
がいいよ。飲酒もそうだね。ガムは、空気をのみ込みやすいので、やめた方がいい
と思う。とにかくつばを飲み込まないように気をつけることが大事なんだ」
「ワタナベ君、あなた何回くらい司法試験を受けたの?」と直子がふと思いついたように小さな声
で訊いた。
「八回か九回」と僕は正直に答えた。
レイコさんが練習を止めてギターをはたと膝の上に落とした。「あなたもう三十歳を過ぎたんで
しょう?いったいどういう生活してんのよ、それ?」
直子は何も言わずにその澄んだ目でじっと僕を見ていた。
521 :
氏名黙秘:04/06/13 12:27 ID:sWL+3XiF
「何を聴いているの?」
「カトシンのMD」
「ふうん」と緑は言った。「私ね、ワタナベ君ってマコツのDVDで勉強してい
るんじゃないかと思ってたのよ。なんとなく、見かけで」
「MDの方が携帯に便利で、通学時間を有効に利用できるからね。世の中の大
抵の人はそうだよ」
「そうよね。まさか電車の中でDVD観るわけにはいかないものね」
保守
今日はいつもより30分早く起きた。たった30分だ。
それに特に何の理由もない。
別に、ミノ(私の飼っているゴールデンレトリバーの名前だ)の散歩をしようとか、
ちょっと豪華な朝食をとろうとか、暗記カードを多めに回そうとか、
思ったわけじゃない。
でも、今日は特別な1日だった。
河合塾から適性試験模試のデータが返ってきたり、飲み会の誘いがあったり、
そういうのもあったけれど、
何も思いつかね。
「でも本当に迷惑じゃないんですか?」
レイコさんは三皿目のざるそばを口にくわえ、口の端をきゅっとすぼめてか
ら吸い込んだ。
「私たちそのことについては二人でよく話しあったのよ。そして三人でセック
スをすることにしたのよ。そういうのって礼儀正しく受けた方がいいんじゃないかしら?」
「もちろん喜んで」と僕は言った。
「ごめんなさい」と直子は言った。「あなたを傷つけたくはないんだけど、でもこれだけはわかって。
私とマコツは本当に特別な関係だったのよ。私18のときからいつもビデオブース見てたのよ。
私は毎日マコツを画面越しにみて、ネクタイ変わったなとか、おでこにオデキができたなとか、
そんな風に桜ヶ丘で過ごしたの。はじめて握手してマコツからの手紙をもらったのは20の最初の
択一のとき、カリスマだったわ。私が択一に10連敗してはじめて若手の男の子からベテって後ろ
指を指されたとき塾長カウンセリングでわんわん泣いたのよ。私たちとにかくそういう関係だっ
たの。だからあの人が龍谷ローの教授に就任予定になったあとでは、いったいどういう風に若手
と接すればいいのか私にはわからなくなっちゃったの。ベテが大量虐殺されるというのがいったい
どういうことなのかというのも」
「どんなことが好き?」
「マスターベーションすること。2ちゃんでベテを煽ること。コンドームを風船のようにふくらますこと」
「一人でやることが好きなのね?」
「そうですね、そうかもしれませんね」と僕は言った。「女とやるセクースってめんどくさいんです。
もう年だし、一回イッたら第2ラウンドとか後戯とかどうでもよくなっちゃうんです」
みなさんお元気ですか?
現行の方、折り返し地点ですね。
マターリがんばりましょう。
職人乙
ロムばっかりだけど楽しませてもらってます
保守age
ずいぶん伸びたわね(^ー°)ゞ
私は生理がひどいので、ちょっとお休み。
結局僕は女の子が衣服の下でオシッコを流す、下品なバーを始めることにし
た。僕は学生時代にそういう店でアルバイトをずっとやっていたから、経営の
おおよそのノウハウは呑み込んでいた。どんな酒や食事を出して、どのように
膀胱を刺激すればいいのか、どのような音楽を聴けばオシッコをしたくなるか、
床に溜まったオシッコをどのように処理すればいいのか、だいたいのイメージ
は頭の中にあった。
532 :
クミコ:04/06/17 19:27 ID:???
私はそうしないわけにはいかなかったの。そしてそうするのが私たち二人に
とっていちばん正しいことだと私は思ったの。ねえ、そこにはあなたの知らな
いこともあるのよ。私は今はまだ梅干の種を口からだせないの。私はそれをあ
なたに隠しているわけではないのよ。種をしゃぶると中から美味しい汁が出て
くるだけなの。だから今はまだそれを口から出すことができないの。
>>532 「ねえ、君の梅干の種、もうぐちゃぐちゃに壊れているんじゃないの」
>>530 生理・・・ハァハァ・・・・・・禿しく萌えるぅぅ
今から久々にデートしてきまつ。
上手くいくかなあ・・・。
まともな人々が会社や学校に向かって急いでいる時刻だった。でも僕らはそ
うではなかった。平成14年度の過去問を徹夜で解いて、ぼんやりとコーヒー
を飲んでいた。そしてたぶんこれからぐっすりと眠る。好むと好まざるとにか
かわらず、そして程度の差こそあれ、我々は――僕とマコツとは――ごく普通
の世間の生活様式からははみだしてしまっていた。
「今日はこれからどうするんだい?」とマコツが首を僕の方に向けて言った。
「家に帰って寝るよ」と僕は言った。「とくに予定は何もない」
「僕が送ったパンフレットは見てくれた?」と彼は言った。
「ああ、見たよ」
「どう、楽しかった?」とマコツが訊いた。
「楽しかったよ」と僕は言った。
「それで、どうだった?麻里子よりもえみ子のほうがいいだろう?」
僕は三十七歳で、そのときボーイング747のシートに座っていた。その
巨大な飛行機はぶ厚い雨雲をくぐり抜けて降下し、パリ空港に着陸しようとし
ているところだった。
飛行機が着地を完了すると禁煙のサインが消え、天井のスピーカーから小さ
な音でBGMが流れはじめた。それは諏訪内晶子が演奏するブルッフの
『ヴァイオリン協奏曲 第1番 ト短調 作品26 第1楽章』だった。そしてその
メロディはいつものように僕を混乱させた。いや、いつもとは比べものになら
ないくらい激しく僕を混乱させ揺り動かした。
http://www8.wind.ne.jp/bykawano/suwanaiup.jpg
僕はパリ銀座と呼ばれる大通りに面した彼女のアパルトマンを訪ねた。僕の用事というのは、
訴訟だった。ネットの掲示板に彼女を下ネタで中傷する書き込みがあったのだ。その管理運営者
に対する損害賠償請求の代理人が僕というわけだ。
僕はひび割れた洋式トイレで怪我をしたお婆ちゃんの代理人として製造物責任を追求し勝訴
して以来、下ネタ訴訟のオーソリティとして名声を博していた。
どうもネタスレが減らされているみたいなんだよね。
おい!
>>545君も節度をもってやれよ!
減ったといっても、まだまだネタスレ多いですよ。
「ケイト」とマコツはもう一度大きな声で呼んでみた。でも反応はなかった。
ほんの微かな反応さえなかった。その目はどこも見ていなかった。DREAMING
のアルバム・ジャケットとまったく同じだ。救急病院に連れていった方がよさ
そうだとマコツは思った。病院なんかに行ったらたぶん間違いなく入院させら
れるだろう。でもそんなことを考えている場合ではないのだ。ケイトはこのま
ま太り続けて普通のおばさんになってしまうかもしれない。何があろうが彼女
を普通のおばさんにさせるわけにはいかなかった。
http://www1.ocn.ne.jp/~suzuenta/img3501.jpg
僕は前よりももっと深く自分一人の世界に引きこもるようになった。僕は一
人でシケタイを読み、一人で過去問を解き、一人で真コツの真似をして民法の
講義をし、それを自分自身で聴講することに慣れた。そしてそれをとくに寂し
いとも辛いとも感じなかった。
僕はよく島本さんのことを考え、イズミのことを考えた。彼女たちは今頃ど
こで何をしているんだろう。あるいは二人とももう合格してしまったかもしれ
ない。年収2000万を越えているかもしれない。でもたとえどのような境遇に
あるにせよ、僕は彼女たちと会って、まだ支払ってもらっていないローラー答
練のレジュメのコピー代250円を請求したいと思った。
保守
「あれはうちの大学から出た合格者の灰なのよ。うちの大学が生んだ、ただ一
人の秀才の灰」と島本さんは独り言を言うように言った。
僕は彼女の顔を見て、それからまた前を見た。トラックが雪解けの泥水を跳
ね返すせいで、ときどきワイパーを動かさなくてはならなかった。
「合格してすぐに、次の日には死んでしまったの」と彼女は言った。「たった一
日だけしか合格の喜びを味わえなかったのよ。二度か三度家族や友人と抱き合
って泣いただけ」
僕には何を言うこともできなかった。僕は左手をのばして、彼女の手の上に
置いた。
「ベテだったのよ。八年も図書館に通って勉強したわ」
「かわいそうに」と僕は言った。
「どこにも埋めたくなかったの。暗いところになんかやりたくなかったの。し
ばらく私の手元に置いてから、川から海に流して、雨にしてしまいたかったの」
「君の方はどうなの?もし来年合格できないようなことがあったら」と僕は島
本さんに尋ねてみた。
彼女は首を振った。「私のことは気にしなくていいのよ」と彼女は言った。「私
はなんとでもなるの。問題はあなたの方だと思う。あなたの方はとても困るん
でしょう?」
「多少はね。でもそんなこと君は気にしなくていい。不合格と決まったわけじ
ゃないんだから」
「こんなことが起こるだろうというのはわかっていたのよ」と島本さんは自分
に言い聞かせるように静かな声で言った。「私がいると、そのまわりでは決まっ
てろくでもないことばかり起こるの。いつものことなの。私が関わるだけで、
何もかも駄目になっていくの。それまでは何の問題もなく運んでいたものが、
突然みんなうまく行かなくなるの」
なんか悲しいでつ(´・ω・`)ショボーン
「ねえワタナベ君、共犯の混合惹起説と修正惹起説の違いをきちんと説明でき
る?」と突然僕に質問した。
「できると思うよ」と僕は言った。
「ちょっと訊きたいんだけれど、そういうのが日常生活の中で何かの役に立っ
てる?」
「日常生活の中で何かの役に立つということはあまりないね」と僕は言った。
「でも具体的に何かの役に立つというよりは、そういうのは物事をより系統的
に捉えるための訓練になるんだと僕は思ってるけれど」
緑はしばらくそれについて真剣な顔つきで考えこんでいた。「あなたって偉い
のね」と彼女は言った。「私これまでそんなこと思いつきもしなかったわ。択一
的競合だの偶然防衛だの誇張従属性説だの、そんなもの何の役にも立つもんで
すかとしか考えなかったわ。だからずっと無視してやってきたの、そういうや
やっこしいの。私の勉強のやり方は間違っていたのかしら?」
「無視してやってきた?」
「ええそうよ。そういうの、ないものとしてやってきたの。私、犯罪共同説だ
って全然わかってないのよ」
「それでまあよく択一に通ったもんだよね」と僕はあきれて言った。
565 :
緑 ◆3iq.SpwfFA :04/06/25 19:10 ID:uW2FMoI8
久しぶりにageてみるわ♪〜ο(*^▽^)οο(^▽^*)ο〜♪
み、み、緑ちゃん。ぼ、僕は、緑ちゃんが、す、す、好きなんだ。
「どうして?」と緑は怒鳴った。。
「あなた頭おかしいんじゃないの?英語の仮定法がわかって、数列が理解できて、マルクスが読めて、
なんでそんなことがわかんないのよ?なんでそんなこと訊くのよ?なんでそんなことベテ子に言わせる
のよ?小塚よりマコツの方が好きだからにきまってるでしょ。私だってね、やればできるとか無責任な
ことを言わないまともなオサーン好きになりたかったわよ。でも仕方ないでしょ、従軍慰安婦の話に感
動のあまり拍手しちゃったんだから」
梅雨なのに暑い日が続きますね(東京限定)
体調を崩さずにがんばってまいりませう。
「ワタナベ君、この問題よくわからないの。教えて?」
「いいよ」と僕は答えた。
僕は緑を誘って談話室に行き、そこのソファーに座って緑がわからないとい
う問題を読んでみた。
[ A男は都内某所のホテルからBに対してデリヘル嬢の派遣を依頼した。
BはC嬢をAの滞在するホテルを向かわせたが、到着前にC嬢はD男に
レイプされてしまった。AはDに対して損害賠償請求ができるか ]
「AからDへの債権侵害に基づく損害賠償請求が認められるためには、Aの債権
の成立が認められなければならないね。」
「そうなの。そこで、私こういうふうに書いてみたんだけれど・・・」
僕は緑の答案を手に取り、煙草を吹かしながら読んでみた。
この点、Aの債権はBの単独行為によって発生すると考える創造説・発行説
によると、すでにAの債権は成立しており、Aの請求が認められる。
しかし、この時点でデリヘル債権の成立を肯定することは、客Aのチェンジ
の利益を無視するものであり、妥当でない。
「悪くない」と僕は言った。
「筋は悪くないんだ。ただ、問題はデリヘル嬢という存在をどう捉えるかなんだよ」
「ふうん。それで、あなたはどう考えるの?」と緑は訊いた。
僕は5本目の煙草をゆっくりと肺に吸い込み、それを灰皿に押し付けた。
「僕ならきっとこうするね。A男は確かにデリヘル嬢を頼んだことによって、セックスができるという期待を持つだろう。
それは間違いない。でもね、それはあくまで期待にすぎないんだ・・・そう、いわゆる期待権なんだよ。結局のところA
はデリヘル嬢が来てくれなければ、セックスもできないしフェラチオをしてもらうこともできないわけだ。
デリヘル嬢という存在は、それだけ『具体的』な存在なんだ。それは『そこ』に存在しなければならない。そこに来るか
もしれないというだけではダメなんだ」
「そう把握すると、結論は変るのかしら?」と緑は訊いた。
「変らないね」と僕は答えた。「でも、問題は結論じゃあないんだ。多くの無名戦士の人生と同じように」
「ピース。ところで、ここで『糞ヴェテきもい!』って叫んでもいいかしら?」
「ピース。お好きに。僕は危なくなったら逃げるよ」
女の子がふたりやってきたのは十二時少し過ぎだった。一人は問題文のなかのC
嬢だった。確かに彼女の着衣には乱暴された痕跡が残っていた。彼女はトレンチ・
コートの下に緑のカシミアのセーターを着ていたが、少し土が付着していた。そし
てごく普通のウールのスカートの裾は、引きちぎれていた。装身具は小さくてシン
プルなピアスだけだったが、片方をなくしていた。品の良い女子大の四年生という
感じだった。
577 :
。。:04/07/01 15:51 ID:???
五反田クンにアイデンティファイしてしまう今日この頃。
みなさん、いかがお過ごしですか?
ウェ゛ー
∧ ∧γ⌒'ヽ 扇風機と遊んでいまつ。
(,, ・∀i ミ(二i
/ っ、,,_| |ノ
〜( ̄__)_) r-.! !-、
`'----'
「複雑そうな問題だね」
「あるいは単純な脳細胞」と彼は笑って言った。「で、まあ、今日は真コツのと
ころでバイトをしながら、憲法の勉強をしていた。もう何度もそこには行って
るんだ。随分実力も向上した。本当だよ。先生も褒めてくれる。実を言うと真
コツくらい出来るようになった。時々真コツの代わりに講義もする。誰も僕
だってわからない。縫ぐるみを着てるしさ。でもね、来年もまた伊藤塾に来て
ねって言うと受講生はみんな憮然とするんだ」
「今年の問題はどうなの?」
「難しい問題だ」と五反田君は言った。そしてひとさし指の先を今度は額の真
中につけた。「要するに見たこともない問題なんだ。君の言うように。そういう
ときは、自分で自分が信頼できるかどうかが大事だと思うよ。受講生は僕の言
うことを信頼してくれる。でもそれは虚像だ。ただのイメージだ。スイッチを
切ってDVDの映像が消えちゃえば、僕はゼロだ。ね?」
「でも今だって君が演じている真コツというのはいつも存在している」
「ときどきひどく疲れるんだ、そういうのに」と五反田君は言った。「すごく疲
れる。頭痛がする。本当の自分というものがわからなくなる。どれが自分自身
でどれが真コツかがね。自分を見失うことがある。自分と真コツの境界が見え
なくなってくる」
「誰だって多かれ少なかれそうだよ。君だけじゃない」と僕は言った。
「もちろんそれはわかってるさ。誰だって時々自分を見失うことがある。ただ
僕の場合そういう傾向が強すぎるんだ。なんていうのかな、致命的なんだ。昔
からそうだよ。正直言って君のことがうらやましかった。同じスレで男と女を
演じ分けて平然としていられる君の無神経さがね」
やれやれ。冷房ききすぎ。
僕は我妻講義契約総論の覚えている部分だけを暗誦した。
「よく覚えているのね」とユキが感心したように言った。
「そりゃそうだよ。僕も昔は君と同じくらい熱心に民法を勉強してたんだ」と
僕は言った。
「君と同じくらいの歳のころにさ。毎日予備校の自習室の机にしがみついて、
煙草の釣り銭を貯めて我妻講義を買った。我妻栄。世の中にこれくらい素晴ら
しい学者はいないと思ってた。古臭い活字を眺めているだけで幸せだった」
「今はどうなの?」
「今でも読んでいる。好きな見解もある。でも論証を暗記するほどは熱心に読
まない。昔ほどは感動しない」
「どうしてかしら?」
「どうしてだろう?」
「教えて」とユキは言った。
「本当にいいのかい?」と僕は訊ねた。
「痛くしないでね」とユキは言った
「あと半刻でいい、耐えろ」
呉用は口に出した。ユキの躰は、想像以上によく発育していた。服を脱がせ
て、はじめて気づいた。
一突き一突きが、長かった。ユキの額から汗が流れはじめた。二人の躰が、
ひとつになった。呉用はユキの腰を押さえて、突っこんでいる。それを何度も
くり返した。
「もう少しだ。もう少しで」
呉用は唇を噛んだ。
「ユキは、いい腰の動きをしています。鍛えあげられた娼婦であることは、よ
くわかります。自分がやるべきことも、しっかり頭に入れていると思っていい
でしょう」
「まだ十六歳だ、穆弘」
「ここで、閨の技を教えておくべきでしょう、呉用殿。ユキは、長谷川京子と
較べても、決して見劣りはしない」
「そうだろう。選び抜かれ、さらにエステで躰にみがきをかけていたのだから
な。しかし穆弘、あの秘孔は汐を吹くことはまずない」
「そこだ。無理に聞煥章が抱けば、やつは逮捕される。やつらの弱点は、まさ
にそこなのだ」
「しかし無理だろう。やつは扈三娘以外の女には、見向きもしない」
「何度も、試みる。全裸にし、聞煥章の寝床に寝かせておく。抱くのはたやす
いと思いこませる。その餌を何度も投げれば、いずれ食いついてくるとは思わ
ないか?」
「ふむ」
「逮捕されれば、掲示板で叩かれる。そこは、われわれの攻め口にもなる」
デバイス――また下らない名前の本だ。
でも真知子がそのネーム入りのシャツを着ていると、それはひどく象徴的な
言葉であるように思えてきた。装置。
でも、と僕は思った、どうしてたかが予備校本にそんな大層な名前をつけな
くてはならないのだ?
僕は靴を履いたままベッドに横になって、目を閉じて真知子のことを思い出
してみた。首が少し傾いた新保の写真。抜きまくり答練。デバイス。
装置。
それは恐ろしいほどの完璧な不合格答案だった。
何ひとつとして形のある論理を識別することができないのだ。どの科目の答
案なのかすら分からないのだ。そこに日本語があるという気配さえ感じられな
いのだ。そこにあるものは虚無だけだ。
そんな真の不合格答案の中ではそれを書いた受験生の存在が純粋に観念的な
ものに思えてくる。肉体が闇の中に溶解し、実体を持たないベテという観念が
エクトプラズムのように空中に浮かびあがってくる。ベテはロースクールから
は解放されているが、新しい行き場所を与えられてはいない。ベテはその虚無
の宇宙を彷徨っている。悪夢と現実の奇妙な境界線を。
僕は息を止めて待った。
しばらく沈黙があった。それからその音が聞こえた。かさこそという誇張さ
れた音。きぬずれの音だ。彼女のワンピースが床に落ちる。そして足音。それ
はこちらに向かってゆっくりとやってくる。
僕は不安のなかにも興奮を感じた。汗が背中をつたって流れていくのが感じ
られた。でもその足音が近づいてくるにつれて、奇妙なことに僕のペニスは逆
に少しずつ萎えていった。大丈夫、と僕は思った。セックスは邪悪なものでは
ない。僕はそれをはっきりと言うことができた。何も怖がることはない。流れ
に身を任せればいいのだ。大丈夫。
僕は温かい体液の渦の中にあった。僕は彼女の乳房をしっかりと握りしめ、
目を閉じ、息を止めていた。大丈夫。怖くない。僕は暗闇の中で巨大な喘ぎ声
を聞く。僕の顔には彼女の熱い吐息がかかる。僕自身が彼女に包まれ、含まれ
ている。何も怖がることはない、ただ繋がっているだけなのだ。
彼女の腰の動きが止まった。彼女は僕のお腹の上にいた。そして僕を見てい
た。僕は目を閉じていた。繋がっている、と僕は思った。
「前金でちょうだい。三万」と彼女は言った。
「楊令が、なにか?」
「わしは、ユキというなじみの娼婦を連れてきたが、異様な反応を示したのう。好きでもなく、
かといって嫌いでもない。特別ななにかを見る眼で、ユキを見つめていた。理由は、郭盛に聞いてわかった」
「どうも、わしらに隠れて、そのユキとやらいう女の写真を見て、一人で抜いていたのだな」
本営の秦明の部屋である。
風の音の中に、微妙な気配を感じた。
その気配が、呂方を眼醒めさせたようだった。呂方は隣りで寝ているユキの
躰に手をのばした。
「声をあげるな。お前は動かずともよい。少し催しただけだ。お前の芯に精を
放ったら、私もすぐに寝る」
ユキの着物を脱がすと、呂方はいきり立った自分の腰のものをユキの中に挿
入した。
「動かず、その場で敵襲に備えろ」
オドルンダヨ。ゲンコウノツヅクカギリ。
思考がまたこだまする。
「ねえ、君の言うローの世界というのはいったい何なんだい?君は僕が落っこ
ちると、現行試験の世界からローの世界に引きずりこまれると言う。でも現行
試験は僕のための世界なんだろう?この世界は僕のために存在しているんだろ
う?もしそうだとしたら、僕が僕の世界で試験を受けることにどんな問題があ
るんだろう?司法試験は現実に存在すると君は言ったじゃないか」
工事は首を振った。影がまた大きく揺れた。「ここにあるのは、ローとはまた
違う現実なんだ。あんたは今はまだここでは生きていけない。現行は合格者数
が少なすぎるし、受験生は多すぎる。あんたにおいらの言葉でそれを説明する
ことはむずかしい。それにさっきも言ったけれど、おいらにだって再来年がど
うなるか詳しいことはわかっていないんだ。ここはもちろん現実だよ。こうし
てあんたは現実に来年の試験を目指して勉強をしている。それは間違いない」
「でもね、現実はたったひとつだけしかないってわけじゃないんだ。現実はい
くつもある。現実の可能性はいくつもある。おいらはローの現実を選んだ。な
ぜなら、ローには戦争がないからだよ。そしておいらには捨てるべき受験歴も
なかったからだよ。でもあんたは違う。あんたにはライフワークのように続い
た受験歴があるんだ。だからローも現行も今のあんたには寒すぎる。あんたは
来るべきじゃないんだ」
工事にそう言われて、僕は部屋の温度が低下していることに気づいた。僕はポケットに
両手をつっこんで、軽く身震いした。
「寒いかい?」と工事が訊いた。
僕は肯いた。
「あまり時間がない」と工事は言った。「時間がたって試験日が近づけばもっと寒くなって
くる。もうそろそろ行った方がいいな。ここはあんたには寒すぎるから」
「この部屋で、ひとりだけで勉強しているのか、李袞?」
「うるせえ、俺の勝手だろう」
「私は、この部屋を出よう」
「なんだと」
「ここは、恥を詰めこんだ部屋だ。おまえが勉強だけでなく、他のこともひとりでやっている部屋だ。中にいると、
烏賊の匂いがする」
保全
ユキは、軽い鼾をかいていた。
まだ若い。あまり男にすれてもいない。合格して、それほど時は経っていな
いのかもしれない。
恩州の城郭の、古い旅館である。
局所に触れていると、ユキは眼を醒した。
「じっとしていろ。もう躰が保つまい。できるなら、眠っていてもいいのだぞ」
かすかに、ユキは頷いたようだった。この女の躰に、三度、精を放った。三
度目は、息も絶え絶えで、気を失いかけていた。ほんとうなら、一晩に三度も
放つような歳ではないのだが、この躰が王英はなんとなく気に入っていた。
「なあ、年月というのは人をいろんな風に変えていっちゃうんだよ。そのとき
に君と彼女とのあいだで何があったのかはしらない。でもたとえ何があったに
せよ、それは君が司法試験に落ち続けているせいじゃない。程度の差こそあれ、
どの合格者にもそういう経験はあるんだ。俺にだってある。嘘じゃないよ。俺
にだって同じような覚えはあるんだ。でも仕方ないことなんだよ、それは。誰
かの人生というのは結局のところその誰かの人生なんだ。誰かが君にかわって
試験を受けるわけにはいかないんだ」
僕は沈黙の暗闇の中を問題文に沿って目を走らせた。僕はそれ以上何も考え
ないことにした。考えたって仕方ない。ただ時間を引き伸ばしているだけのこ
とだ。何も考えず、構成用紙の上でペンを動かすことだけに集中するのだ。注
意深く、確実に。光が仄かに問題を照らしている。でもそれがどんな論点なの
かを見定められるほど明るくはない。ただ一つ二つの条文が思い出されるだけ
だ。見覚えのない論点。そう、彼女の言ったとおりだ。古い過去問の焼き直し。
そこには何種類かの構成のやり方が見える。でもその優劣までは読みとれない。
暗すぎるし、机も汚れている。
そしてまたあのフロントの女の子のことを考えた。彼女とあの時寝ておくべ
きだったかな、とふと思った。僕は試験が終った後あの現実の世界にまた戻る
ことができるのだろうか?そう思うと僕は現実の世界やらロー・スクールやら
に対して嫉妬した。あるいはそれは正確には嫉妬じゃないのかもしれない。そ
れは拡大され歪められた後悔の念かもしれない。でもそれは外見的にはそれは
嫉妬にそっくりだった。少なくとも試験を受けている最中は嫉妬そのものみた
いに感じられた。やれやれどうして答案構成をしているときに嫉妬を感じたり
するのだ。
頭が少し混乱している。
アタマガスコシコンランシテイル。
僕の思考が暗闇の中で軽くこだまする。思考がこだまするのだ。
僕はもう一度深呼吸して、頭から無意味なイメージを放逐する。いつまでも
答案構成を続けているわけにはいかないのだ。すでに二十五分が経過している。
答案を書かなくてはならない。そうだろう?そのために僕はここに来たんじゃ
ないか?
僕は腹をきめて、暗闇の中を手探りでゆっくりとペンを動かし始めた。でも
まだ右手がうまく動かない。自分の手じゃないような気がする。筋肉と神経が
上手く連動していないのだ。僕はいったい何をしているんだ。僕は左利きじゃ
ないか。僕はペンを左手に持ち替えて答案の続きを書き始めた。
「いいスリネタだ」
言うと、馬麟は手を上下に動かしながら、無言で頷いた。
「コンピュータ会社でバイト始めたんですか?」
「うん。そば屋のバイトよりも立派な肩書きに見えるし、だいたい生来俺はそ
ういうの得意なんだ。コンクリート漬けだって独学でやってきて殆んど完璧だ
しな。検察官をまるめ込むのだって同じさ。コツがひとつわかったら、あとは
いくつやったってみんな同じなんだよ。まあ今回は少年法の適用はないけどな」
「そうね」と彼女は言って、いつものあの軽い微笑みを顔に浮かべた。その微
笑みはどこか遠くの場所から吹いてくる柔らかな風のように思えた。「たしかに
あなたの言うとおりね。ごめんなさい。でも言い訳をするわけではないけれど、
しかたなかったのよ。私には『わら人形』とか『架橋』とかそういう言葉を使
うしかなかったの」
「なにも僕に謝ることはないんだよ。前にも言ったけれど、ここは予備校で、
君は受講生なんだ。君は君の本に書いてあるとおりに書けばいいんだ。僕はそ
ういうのに慣れている。『善意のリカちゃん人形』とか『ウィリアム・ホールデ
ンの出てた映画』って書かれてもわからないしね。君は何も気にしなくていい」
受験生が見た僕の像はおそらくかなり正確なものだったのではないかという
気がする。だからこそ彼らはみんな僕のところにまっすぐやってきて、そして
やがて去っていったのだ。彼らは僕に問題解析能力の優秀さを求め、僕がその
能力を維持していこうとする僕なりの誠実さ――という以外の表現を思いつけ
ないのだ――を認めた。
受験生は僕に対して質問したり、心を開こうとしたりした。彼らの殆んどは
心優しい人々だった。でも僕には彼らに何かを与えることはできなかった。も
し与えることができたとしても、それだけでは足りなかった。僕はいつも彼ら
に出来る限りのものを与えようと努力した。できるだけのことは全部やった。
僕も彼らに月謝を求めようとした。でも結局は上手くいかなかった。そして彼
らは去っていった。
それはもちろん辛いことだった。
でももっと辛いのは、受験生が入ってきた時よりずっと哀し気に学校を出て
ゆくことだった。彼らが体の中の何かを一段階磨り減らせて出てゆくことだっ
た。僕にはそれがわかった。変な話だけれど、僕よりは受験生の方がより多く
磨り減っているように見えた。どうしてだろう?何故毎年彼らは不合格になる
のだ?そして何故いつも僕の手の中に磨り減った受験生の影が残されているの
だ?何故だろう?わからないな。
データが不足しているのだ。
だからいつも解答がでてこないのだ。
何かが欠けているのだ。
タクシーの中で僕らはあたりさわりのないヘビー・ペッティングをした。乳
頭をついばむとか、パンティの中に手を入れて秘孔を弄ぶとか、彼女の
掌が僕のペニスを上下にしごくとか、そういうことだった。そういうことをし
ながら、僕はこのあと彼女をどうしたものかと思い悩んでいた。もうひと押し
すれば彼女と寝られるだろうということは僕にはわかっていた。
自分の中にこれから先ずっと司法試験を受験していくだけの力があるのかど
うか、僕にはまだわからなかった。法務省はもう僕を助けてはくれなかった。
それはもう僕のために夢を紡ぎだしてはくれなかった。空白はどこまでいって
も空白のままだった。僕はその空白の中に長いあいだ身を浸していた。その空
白に自分の体を馴染ませようとした。これが結局僕のたどりついた場所なのだ、
と思った。僕はそれに馴れなくてはならないのだ。
そしておそらく今度は、法科大学院へ進学する未修者のために幻想を紡ぎだ
していかなくてはならないのだろう。それが彼らに求められていることなのだ。
そんな幻想がいったいどれほどの力を持つことになるのか、わからなかった。
でも今の司法という存在に何らかの意味を見いだそうとするなら、彼らは力の
及ぶかぎりその作業を続けていかなくてはならないだろう――たぶん。
「しかし、さまざまな問題が出題されるものだ。そう思わないか、宋江?」
「なんとか、落ちないように、守りの答案を書こうと考えていたころには、
想像もしなかった問題がな」
「それだけ、現実に近づいたのだ、夢が」
「現実に近づけば近づくほど、おまえと私はいがみ合うのだろうな、晁蓋」
「そういうことかな」
「それまで、死ぬなよ、晁蓋」
「死ぬものか。われらの夢がほんとうに花開くのは、合格してからなのだ」
僕たちは映画館を出てしばらく近くの公園を歩きまわった。昨夜若い人たち
がこの公園にたむろしたのであろう、あたりはゴミのやまだった。駄菓子のあ
き袋、花火の残骸、その他諸々。そしてキキのほうを見た。「どうしてゴミをゴ
ミ箱に捨てないのかしら?」と彼女は僕の耳元で囁きつづけていた。
どうしてゴミをゴミ箱に捨てないのだろう?
僕にはわからなかった。
一時間半後に僕たちはもう一度その映画館に入った。そしてもう一度最初か
ら『イージーライダー』を見た。ラスト・シーンで田舎のおじさんが主人公の
二人をライフル銃で狙撃する。子供の頃見たときにはそのおじさんの行動に憤
慨したものだったが、なぜか今見るとおじさんに共感してしまう。主人公がバ
イクで走る。おじさんが銃を構える。息を呑む。目を閉じる。おじさんが引き
金を弾く。キキが言う。「最高にスカッとするわね」。フェイドアウト。
ゴミはゴミ箱に捨てないといけないよね。
「俺の気持が、おまえにわかるか。俺は、二十二の時から、ひとりで司法試験
を受け続けてきた」
「そんな人間は、受験生の中にいくらでもいるだろう。しかし、おまえのよう
な、かわいそうな男はあまりいない。最後はひとりきり。考えただけでも、背
筋が寒くなる」
「俺はな、俺は」
「おまえの気持など、わかる気はない」
「聞けよ、聞いてくれよ。俺は答練の成績優秀者で三回も名前を載せたことが
ある」
「やめろ、李袞。自分が憐れになるだけだ」
「馬鹿にするんじゃねえぞ、ちくしょう」
李袞は、自分が泣いていることに気づいた。なぜ涙が出てくるのか、自分で
もわからなかった。
「ちくしょう」
「自分をくやしがるだけでは、なにもできんぞ、李袞。やれることをやれ」
でかい方が言う。やさ男は、横に立って眼を伏せていた。自分の醜さを見な
いようにしているのだ、と李袞は思った。
でかい方に、李袞は殴りかかった。やさ男が踏み出してみた。李袞の躰は、
宙に舞っていた。這いつくばったまま、李袞は眼の前の土を見た。
「男になれ、李袞。やればできる」
でかい男の声は、心にしみこんでくるようだった。しかし、どうやれば男に
なれるのか。就職する決意もできず、論文試験をひかえているのに、いつもど
こかでびくびくしている。
「男と言ってもな」
「おまえは、合格できる」
「どうやって?」
「いま使っている教材を全部捨てて、シケタイを買うのだ。それで、おまえは
合格だ。二度と落ちることはない」
「教材を捨てる?」
「私に言えるのは、それだけだ、李袞」
「マコツのことなんだけど」と僕は言った。「誰も知らないのかな。彼の住所と
か、本名とか、そういうの?」
彼女はゆっくりと首を振った。「私たち、そういうこと殆ど話さないのよ。み
んな勝手な名前つけて生きているの。私はメイ。もうひとりの子はマミ。みん
な片仮名の二文字なんだけど、マコツだけ三文字なの。それで威張っているの」
「馬麟と一緒に、おまえもLECに行け。LECに行けば、もう二度と落ちる
ことはあるまい」
「まことですか?」
「マコツではない、LECだ」
鮑旭の眼が輝いた。喪門神と呼ばれ、択一十連敗をしていたころとは違う自
分で、外の世界に触れてみたかったのだろう、と魯達は思った。
「私は志を抱いています、魯達殿。力は足りませんが、志に揺るぎはない、と
思っています」
半年ばかり彼女は僕の勤める予備校に通っていた。秋のはじめから冬の終わ
りまでの半年だ。
僕が彼女が忘れた司法試験用六法を持って階段を上り、答練の教室のドアを
ノックして「六法ですよ」、と叫ぶと、少し間をおいて「どうも」、と彼女が言
った。「どうも」、という以外の言葉を聞いたことがない。もっとも僕にしたと
ころで「六法ですよ」、という以外の言葉を言ったこともない。
僕にとってもそれは孤独な季節であった。家に帰って寝るまでのわずかな時
間を使って勉強を始めるたびに、体中の骨が皮膚を突き破って飛び出してくる
ような気がしたものだ。僕の中に存在する得体の知れぬ力が間違った方向に進
みつづけ、それが僕をどこか別の世界に連れこんでいくようにも思えた。
答案を書く、そしてこう思う。僕が試験委員に向けて何かを語ろうとしてい
るのだ、と。試験委員が僕に向かって答案を書くことは殆どなかった。僕に向
かって何かを語ろうとする人間なんて誰ひとりとしていなかったし、少くとも
僕が語ってほしいと思っていることを誰ひとりとして語ってはくれなかった。
多かれ少なかれ、誰もが新しい司法試験のシステムに従って生き始めていた。
それが僕のと違いすぎると腹が立つし、似すぎていると悲しくなる。それだけ
のことだ。
オーストラリアはシドニー大学の寄生虫学教授JohnWalker医師がこの度、
ナメクジを食べる事は非常に危険な行為であるという論文を発表した。
医師によれば、1971年以来、このような粘液性の腹足類動物(ナメクジ、カタツムリなど)を食べた事による
髄膜炎感染のケースが多数報告されているという。
月曜、オーストラリアの医学雑誌に掲載される予定の今回のレポートでは子供がカタツムリを食べた直後に死亡したケースや、
ナメクジの粘液で覆われたレタスを食べた人が髄膜炎にかかったケースなどが報告されているという。
医師によれば、最近あったケースでは、ある学生が庭で見つけた2匹のナメクジを$20をかけた度胸試しがてらに食べ、
髄膜炎に感染したという。そこでWalker氏は今回の研究に乗り出し、
ネズミの肺の中に見られる寄生虫をナメクジやカタツムリの幼虫が運び、それが人間の髄膜炎の原因と成る事を発見したのである。
またナメクジを飲み込んだ学生の脳が寄生虫によって肥大したため、Walker氏は患者の頭蓋骨内部から水を吸出して対処したという。
学生はその後17日間に渡って入院し、勉強を再開できるようになるまで5ヶ月を要したという。またWalker氏によれば、
同学生の友人らもその時一緒にナメクジを飲み込んだものの、すぐに吐き出していたとのこと。
ttp://x51.org/archives/000444.php
あんなもんを生で食う奴がいるなんて信じられん。
エスカルゴは大好物だが。
「ねえ、ワタナベ君、私もう五年も受験してるの。私ってベテなのかしら?
エリートが時効によって消滅した後の変形物なのかしら?」
「そんなことないよ。民法126条をみてごらん。五年の時効期間は『短期』って
いわれているよ」
見知らぬ女の子にセックスしませんかと声を掛けるのが病的に好きだった。
一時期、十年も昔のことだが、手あたり次第に道行く女の子をつかまえては
マコツは好きですかとか僕とセックスしませんかと聞いてまわったことがある。
見知らぬ女の子にセックスしませんかと聞くタイプの男性が極端に不足してい
た時代であったらしく、誰も彼もが親切にそして熱心に僕とセックスをしてく
れた。見ず知らずの女の子が何処かで僕の噂を聞きつけ、わざわざセックスし
にやってきたりもした。
彼女たちはまるで枯れた井戸に石でも放り込むように僕に向って実に様々な
セクシーポーズをとり、そして僕が彼女たちの凹にザーメンを放出し終えると
一様に満足して帰っていった。あるものは気持ちよさそうに吐息をもらし、あ
るものはもう一度と僕にすりよってねだった。実に要領よくフェラチオしてく
れるものもいれば、始めから終わりまでイキッぱなしという女の子もいた。退
屈なセックスがあり、涙を誘う臭い凹があり、冗談半分に出鱈目なセックスを
するものもあった。それでも僕は能力の許す限り真剣に、彼女たちとのセック
スに精魂を傾けた。
それはまったくのところ、労多くして得るところの少ない作業であった。今
にして思うに、もしその年に「見知らぬ女の子とセックスをする世界コンクー
ル」が開かれていたら、僕は文句なしにカラオケでチャンピオンを唄っただろ
う。そして賞品に台所マッチくらいはもらえたかもしれない。
マコツがこう書いている。過去と現在についてはこのとおり。未来について
は「やればできる」である、と。
しかし僕たちが歩んできた暗闇を振り返る時、そこにあるものもやはり不確
かな「おそらく今年くらいは」でしかないように思える。僕たちがはっきりと
知覚し得るものは予備校の予想答練の問題に過ぎぬわけだが、それとても僕た
ちの記憶をただすり抜けていくだけのことだ。
あなたのせいじゃない、と彼女は言った。そして何度も首を振った。あなた
は悪くなんかないのよ、精いっぱいやったじゃない。
違う、と僕は言う。債権者代位訴訟、独立当事者参加、訴えの利益。違うん
だ。僕は何ひとつ出来なかった。指一本動かせなかった。でも、やろうと思え
ばできたんだ。
二ヶ月のあいだに受験生にできることはとても限られたことなのよ、と彼女は言う。
そうかもしれない、と僕は言う。でも何ひとつ終っちゃいない、今年もきっ
と同じ結果に終るんだ。リターン・レーン、キック・アウト・ホール、ボーナ
ス・ライト消滅、終ったんだ、何もかも。
うつだなぁ
ゴキブリにとって時の流れがその均質さを少しずつ失い始めたのは三日ばかり
前のことだった。ゴキブリホイホイの接着剤に脚をとられてからだ。
ゴキブリがホイホイの中に入ったのにはもちろん幾つかの理由があった。その幾
つかの理由が複雑に絡み合ったままある温度に達した時、音をたててヒューズが
飛んだ。三匹の仲間と一緒にホイホイの真ん中の餌をめざした。そしてあるものは
接着剤を気管につまらせ、あるものは猫の爪ではじき飛ばされ、あるものは衰弱し
て死んだ。
「あんな餌をふだん食べていないわけじゃなかったんだ。でも冬も近づいてきたからね。
少し食いだめしておこうかと欲を出したのかもしれない」いくらか気分の良い時には一緒
に捕まった仲間とそう話した。そしてそれだけを言ってしまうと後は黙り込んだ。
もう三日も前のことになる。
時の流れとともに全ては通り過ぎていった。それは殆ど信じ難いほどの速さだった。
そして一時期はゴキブリの中に激しく息づいていた幾つかの感情も急激に色あせ、意味
のない古い夢のようなものへとその形を変えていった。
その一週間ばかり、鼠はツキからもすっかり見放されていた。こま切れの睡
眠と六法とヤマカケ、ちんこはすっかり縮んでしまっていた。彼女の白い肌を
洗ったシャワーの水が薄茶色の彼女の恥毛を伝って排水溝に流れ込み、その蓋
の上に何本かの恥毛が溜まっていた。嫌な眺めだった。頭の中はまるで古新聞
を丸めて押し込んだような気がする。眠りは浅く、いつも短かかった。
「ねえ、今日はどんなことして遊びたい?新しく始まった片栗粉プレイなら
新発売特別価格で二十パーセント・オフなの、お得よ」
「それにしようか・・・」
「それがいいわ。いい片栗粉が入荷したの。片栗粉は産地で選ばなきゃね」
「どこの片栗粉?」
「千代田区霞ヶ関産」
「マットに塗った片栗粉がねちゃねちゃして気持いいね」
「私の体についた片栗粉を舐めてもいいのよ」
「ほんとう?」
「片栗粉はピュアな炭水化物だから、たくさん舐めるとお腹いっぱいになるの。
今度お店に来るときは夕飯たべてこなくていいわよ」
「ねちゃねちゃして糊みたいだね」
「お店に破れた障子襖を持ち込んで、障子の張り替えもできるのよ」
「ほんとう?お姉さんも手伝ってくれるの?」
「もちろん手伝うわ。それに障子の張り替えの場合、延長料金は通常の
二分の一でいいの、お得でしょう?」
緑のしおり
「あなたはどちらを応援してるの?」と商法262条が訊ねた。
「どちら?」
「つまり悪意擬制説と異次元説よ」と民法112条。
「さあね、どうかな?わかんないね」
「どうして?」と商法262条。
「僕は悪意を擬制されるのはまっぴらだし、異次元に住んでいるわけじゃないからさ」
民法112条と商法262条とを見わける方法はたったひとつしかなかった。一方
は悪意が擬制されるにもかかわらず、他方は悪意が擬制されない。
その違いがどうして生じるのか、と僕は最初の日に二人に訊ねてみた。どう
してだか分からない、と彼女たちは言った。
やれやれ。あと一日か。
試験まで、あと二日になった。
呼延灼が、なぜ勉強さえしようとしないのか、郭盛にはわかる気がした。
一夜漬けが有効な試験がある。しかし、一夜漬けが命取りになる試験もある。
敵はこちらの動きに乗じる構えを、常に崩していないのだ。
呼延灼とともに、ソープ嬢に肉薄した。もう少しで、手が届くところだった。
あの時、弥生ちゃんは乳房を両手で中央に密集させ、乱れることがなかった。
それが、多分、郭盛が考えた以上に、強固な防御だったのだ。だから、わず
かの時間で果ててしまった。
「パイずりで、一刻もたなかったのか」
呼延灼が訊ねた。
呼延灼がもし指揮官だったとしたら、間違いなく、届きそうになった弥生
ちゃんの凹にこだわっただろう。
激戦の中での判断は、受験勉強ではあまり経験しなかった。弥生ちゃんとの
わずか四刻のぶつかり合いだけで、呼延灼や関勝や穆弘という、一軍を率いる
男たちの力を、見せつけられたという気分だった。
「郭盛、少しちんこを鍛えろよ」
呼延灼が、また言った。
「商法の第一問を、どう思う、郭盛?まともに書けば、四頁全部必要だと思うが」
「長くなれば、疲労はベテにはこたえます。しかし、知識量と整理の手際よさ
に関しては、ベテが優勢だろうと思います。だからまだ、五分の睨み合いが続
く、と俺は思います」
「それだけか?」
「ここで、前の席に座っている肉感的なノースリーブが、趙安にとっては、
かなり気になる存在になっているのではないか、と思います」
「まあ、お前の見方は悪くはない」
「しかし、正しくもないのですか?」
「何通くらい合格答案を書いたのかしら、これまで?」
「数知れず」
「二百通くらい?」
「まさか」と僕は笑って答えた。「僕はそれほど長く受けてはいない。まったく
ベテではないというわけでもないけど、どちらかと言うとすごく局地的なんだ。
幅が狭くて、ひろがりに欠ける。せいぜい十五通くらいのものじゃないかな」
「そんなに少しなの?」
「みじめな人生なんだ」と僕は言った。「暗くって、湿ってて、狭い」
「局地的」とユキは言った。
僕は肯いた。
「林冲」
「おう、朱仝」
林冲は、しっかりと声を出した。
「民訴の第二問が、さっぱり分からん。刑訴受ける前に、結果は決まった。
俺は、おまえより先に死ぬ。悪く思うな」
「いいさ、闘い抜いた」
「さらば」
見開かれた朱仝の眼にあった炎が、吹き消したように消えた。
評価されることが、合格することなのである。聞け!司法ベテよ!評価こそ、
この世で高く評価され珍重される宝にも勝る宝である。
評価されることによって初めて価値が生じる。評価がなければ、存在の胡桃
は空ろであろう。聞け!司法ベテよ!
もろもろの出題傾向の変化、――それは出題者が変化するからである。出題
者になる運命を背負った者は、常に破壊せずにはやまない。
かつては諸々の受験生が、論証を刻んだ大理石の板を、自らの頭上に掲げた。
支配しようとする者と、支配されようとする愛情、それが結びついて、そのよ
うな板を作り出したのだ。
金太郎飴答案に包摂される喜びは、「自我」に繋がる歓喜よりも、偉大だったのだ。
しかし、司法ベテよ!汝らは怪物の千の首に頚木を掛けなければならない。
わが兄弟よ!汝にまだ「自我」がないのならば、――人類そのものも目標を持
たぬということではないか?
ツァラトゥストラは、こう語った。
みなさん、明日と明後日、
頑張りましょう(^ー°)ゞ
彼女は目を動かさずに頷いた。
僕は車の背もたれを後ろに倒して彼女の股を開き、そこに自分のものを押し
込んだ。でも彼女の凹の中はからからに乾いていて、とてもそれを奥に押しや
ることはできなかった。僕は彼女の凹に唾をつけてみたが、そんなものではと
ても間に合わなかった。近くにある水気のものといえば雪だけだった。僕は車
を下りて、軒下に固まっている雪の汚れてなさそうな部分を、島本さんのかぶ
っていた毛糸の帽子の中に入れて持ってきた。
そしてそれを少しづつ自分の口に含んで溶かした。溶かすのに時間がかかっ
たし、そのうちに舌の先がなにやら塩っぱいものを感じはじめた。車の外では
野良犬がおしっこをしていた。まさか、とは思ったが、いまは早く彼女とやり
たいということ以外に何も思いつけなかった。それから僕は島本さんの凹を再
び開け、水を口移しに凹に移した。移し終わると自分の鼻をつまみ、犬のおしっこ
の臭いを避けた。それに気づかない彼女はむせながらも、詳しい事情を訊こうとは
しなかった。何度かそれをやっているうちに、彼女はようやく僕の凸を奥に流し
こめたようだった。
保守!
土曜日の夜に「二〇〇五年の最終合格を誓い合う伊藤真との食事会」があり、そ
れは十一時半に終った。講義のあとで僕は大学から歩いて十分ばかりのところにあ
る小さなレストランに行って合格を誓いオムレツとサラダを食べた。
そのうちに僕は先週行われた東京校での食事会ではいったい何を食べたのだろ
うということが気になりはじめた。でもそんなことはどうでもよかった。問題なの
は受験界では、叫びの成川、食事のマコツが定着しつつあるということだった。
「ねえ、ワタナベ君。どうして東京と京都でしか食事会をやらないの?」
「さあ?北方は唐津と広島にも来たけどね」
「そうよね。稚内とか西表島でも、何かやるべきよね」
「日本最北端で逆立ちをして樺太に向かって二〇〇五年の最終合格を叫ぶ会とか、
イリオモテ山猫の交尾を見ながら食事をする会とかがあってもいいよね」
嗚呼、天と地の間には、司法ベテだけが夢見ることのできる事物がある。ことに
天上にある。すべての神々は、ベテの比喩であり、ベテの騙りものであるのだ。
神々はベテを引きて昇らしむ、――雲の国へ。この雲の上に、ベテはベテの脱け
殻を捨て、それを神と呼ぼうではないか?わが同志よ!
嗚呼、「及び難いこと」には、飽き飽きした!及び難いことが実現されねばなら
ぬ、などということはないのだ、同志よ!嗚呼、ベテであることに、私は飽き飽き
した!
ツァラトゥストラは、こう語った。
「お地蔵さん」と僕はもう一度道ばたの地蔵に向かって大きな声で呼んでみた。
でも反応はなかった。ほんの微かな反応さえなかった。その目はどこも見ていな
かった。意識があるのかどうかもわからない。救急病院に連れていった方がよさ
そうだと僕は思った。
age
僕が合格したのは20XX年の11月10日だ。旧司法試験の最後の年ということに
なる。記念的といえば記念的と言えなくもない。そのおかげで、僕は「最後のベテ」
という綽名を与えられることになった。でもそれを別にすれば、僕の合格に関して
特筆すべきことはほとんどない。相変わらずマコツのシケタイを使っていたし
(商法Uなどは改正続きで第20版になっていた)、コンパクト・デバイスは再び改
訂されてジャンボ・デバイスになっていた。
でも僕が合格した頃には、もはや旧司法試験の余韻というようなものはほとんど
残ってはいなかった。予備校の講座は適性対策一色だったし、合格祝賀会も大幅に
縮小されて昨年は養老の滝で行われた。旧試験の合格者が存在するという事実さえ
人々に知覚されることはなかったのかもしれない。僕らはその小さな幸福の中で最
後の司法修習を始めることになった。
鼠はおそろしく本を読まない。彼が過去問と論証パターン以外の活字を読んで
いるところにお目にかかったことはない。僕が時折時間潰しに読んでいる基本書を、
彼はいつもまるで蝿が蝿叩きを眺めるように物珍しそうにのぞきこんだ。
「何故基本書なんて読む?」
「何故論証なんて集める?」
僕は酢漬けの鰺と野菜サラダを一口ずつ交互に食べながら、鼠の方も見ずに
そう訊き返した。鼠はそれについてずっと考え込んでいたが、5分ばかり後で
口を開いた。
「論証の良いところはね、全部小便になって出ちまうことだね。ワン・アウト・一塁
ダブル・プレー、何も残りゃしない。」
鼠はそう言って、僕が食べつづけるのを眺めた。
「何故基本書ばかり読む?」
僕は鰺の最後の一切をビールと一緒に飲みこんでから皿を片付け、傍に置いた
読みかけの「刑事訴訟法・新版」を手に取ってパラパラとページを繰った。
「田宮がもう死んじまった人間だからさ。」
「生きてる学者の本は読まない?」
「生きてる学者になんてなんの価値もないよ。」
「何故?」
「死んだ人間に対しては大抵のことが許せそうな気がするんだな。」
僕はカウンターの中にあるポータブル・テレビの「伊藤塾法科大学院別コース
で志望校合格を勝ち取ろう!法科大学院入試完全攻略法」の再放送を眺めながら
そう答えた。鼠はまたしばらく考え込んだ。
「ねえ、生身の人間はどう?大抵のことは許せない?」
「どうかな?そんな風に真剣に考えたことはないね。でもそういった切羽詰まった
状況に追い込まれたら、そうなるかもしれない。許せなくなるかもしれない。」
マコツがやってきて、僕たちの前に新しい論証を2枚置いていった。
明日の食事会のメニューが気になる。
「民訴の話をしよう」と僕は言った。「どうも気にかかるんだ」
二人は肯いた。
「何故死にかけているんだろう」
「いろんなものを吸い込みすぎたのね、きっと」
「パンクしちゃったのよ」
僕は左手にC‐bookを持ち、右手にシケタイを持ってしばらく考え込んだ。
「どうすればいいと思う?」
二人は顔を見合わせて首を振った。「もうどうしようもないのよ」
膣の内部が動いた。
いや、そういう気がしただけだ。体位は寸分も変っていない。
項充は、いやな気分に襲われた。
あまり気のすすまない、前戯である。膠着して、もう何十分が過ぎただろう。一日ごと
に女は替えているが、前戯の内容は変えるなと穆弘に命じられていた。
「隊長」
中軍にいる穆弘のところへ、項充は馬を飛ばした。
「女は動きません。しかし、何かおかしいのです。俺の思い過ごしかもしれませんが」
「おかしいと感じたのだな、おまえ?」
「はい」
「いつものようにチェンジせずに、すぐに俺に報告に来たのか」
チェンジしようかすまいか考えて、堂々めぐりになり、結局は部屋に入れてしまう。
それは、ついた隊長にはよく言われたことだった。李俊にも呼延灼にも言われた。
梁山泊の上級将校として、何人かの娼婦を呼んだ。先に舐めさせようか、それとも後ろ
からいきなり挿入しようか、いろいろなことを思いつくが、それから考え込み、堂々めぐ
りをはじめる。思いついたことをすぐにやってみろ、とよく言われた。
私、こういうエロいの嫌い!
「ねえ、そんなところでいったい何をしてるの?」
「合格するために勉強してるんだよ」と僕は言った。
「本当?」と彼女は言った。「私にはそんな風には見えなかったけれどな。
それに、そんなところにじっと座って、目をつぶって直前答錬の問題握り
しめてたって合格はできないんじゃないかしら」
僕は少し赤くなった。
「べつに私はどうでもいいんだけれどね、知らない人がそういうの見たら
ヘンタイじゃないかって思うわよ。気をつけないと」と彼女は言った。
「ヘンタイじゃないんでしょう、あなた?」
「違うと思う」と僕は言った。
「べつにあなたがおかまだって、ヘンタイだって、なんだって、私は
ちっともかまわないんだけど」と彼女が言った。「あなたの名前はなんて
いうの。名前がわかんないと、よびにくいから」
「イトウ・マコツ」と僕は言った。
彼女は僕の名前を口の中で何度か繰り返していた。
「あまりぱっとしない名前じゃない、それ?」
駅から五分ばかり線路に沿って歩いたところにエロ職人の家があった。そこは川のわき
のじめじめした低地で、夏になれば家のまわりを蚊と蛙がぎっしり取囲んだ。職人は五十
ばかりの気むずかしい偏屈な男だったが、エロ小説に限っては正真正銘の天才だった。彼
はエロ小説を頼まれると、まずエロサイトに何日もかけてアクセスしまくり、ブツブツ文
句を言いながら方々のサイトから美女の画像を集めた。そして納得できる画像をみつける
と左手で股間をまさぐり右手でキーボートを叩いた。
「ひどく寒い」ひととおり再現答案を書き終わってから、そう口に出して
呟いてみた。書かれた論証はまるで自分の言葉には見えなかった。それ
は芦部の天井にあたり、デバイスの地下に舞い下りてきた。僕は煙草を
くわえたままため息をついた。いつまでもここに座って丸暗記した論証
を吐きつづけているわけにもいかない。じっとしていると冷気はインク
の匂いと一緒に体の芯にまで凍み込んでしまいそうだった。
僕は立ち上がってズボンについた冷たい土を手で払う。そして煙草を
靴で踏み消し、傍のブリキ缶の中に放り込む。
ロースクール・・・・・・ロースクールだ。そのためにここまできたんじゃ
ないか。寒さが頭の動きまでを止めてしまいそうだった。考えろ。
ロースクールだ。適性七十八点のロースクール。・・・・・・オーケー、
スイッチだ。この建物の何処かに受験歴八年のベテをよみがえらせる
電源スイッチが存在するはずだ。・・・・・・スイッチ、捜すんだ。
渋谷のアパートまで帰り、ソファに寝転んでビールを飲んだ。そして郵便受けに入って
いた四通か五通の手紙をチェックした。どれもたいして大事ではないDMだった。中には
全日本行政書士公開模擬試験の案内もあった。読むのは全部後回しにして、封を切っただ
けでテーブルの上に放り出しておいた。
僕は伝聞法則の論点のことをよく覚えていた。僕がそこを読んだのは大学の二年生
か三年生の秋の休みのときだった。紅葉が美しいころで、正確に知覚・記憶している。
山が海に迫っていて、川の流れは美しく、反対尋問を保障しなくても正確に表現・叙述
できた。僕は基本書を読み終えた後で美味しい川魚を食べたことを覚えていた。
司法試験をあきらめて何処へ行けばいいのかもわからなかった。何処にも行き場所はな
いようにも思えた。
生まれて初めて心の底から恐怖が這い上がってくる。黒々と光る地底のDQNのような
恐怖だった。彼らは職を持たず、彼女を持たなかった。そして鼠を彼らと同じ地の底に引
きずり込もうとしていた。鼠は彼らのぬめりを体中に感じる。缶ビールを開ける。
その三日ばかりのあいだに鼠の部屋はビールの空缶と煙草の吸殻でいっぱいになった。
ひどくマコツに会いたかった。でもマコツのところには戻れない。お前が自分で橋を焼い
たんじゃないか、と鼠は思う。お前が自分で壁を塗り、中に自分を閉じ込めたんじゃない
か・・・・・・。
鼠はシケタイを眺める。空が明け、海がグレーに色づき始める。そしてくっきりとした
朝の光がまるでテーブル・クロスでも引き払うように闇を消し去るころ、鼠はベッドに入
り、彼の行き場所のない苦しみと共に眠った。
答案書くなんて何年ぶりかな?書き方まで忘れちまったよ。ズボンは脱ぐんだっけ?
・・・・・・下らない冗談はよせ。黙って書くんだ。
694 :
氏名黙秘:04/07/28 15:03 ID:3zMopUo2
悪くない。
ある日仕事の打ち合わせから戻ってみると、郵便受けに絵はがきが入っていた。
司法ベテが三週間くらい洗濯していないようなポロシャツを着て図書館で勉強して
いる写真の絵はがきだった。差しだし人の名前は書いていなかったけれど、それが
誰からのはがきなのかは一目で理解できた。
「もう私たちは会わないほうがいいだろうと思います」と彼女は書いていた。
「私はたぶん近いうちに地球人と結婚することになると思うから」
社会復帰。
僕は受験時代には経験したことがないような忙しい日々を送るようになった。
僕は現行試験を受け続けるベテのことを考えた。生まれながらに失敗の影に覆われた
あの不幸な男のことを。彼にこの時代が乗り切れるわけがなかったのだ。
「トレンディーじゃないんだ」と僕は声に出して言ってみた。
ウェイトレスが通りかかって、変な顔で僕を見た。
「あたしも二十一年間いろんな受験生を教えてきたけどね、こんなのって初めてだな」
「何が?」と僕は訊ねた。
「つまりね、ん・・・・・・、双子が二人とも司法ベテなんてのはさ。ねえ、ご家族も大変でしょ?」
入口があって出口がある。大抵のものはそんな風にできている。郵便ポスト、電気
掃除機、動物園、ソースさし。もちろんそうでないものもある。例えば、司法試験。
一九七三年九月、僕の受験はそこから始まる。それが入口だ。出口があればいいと
思う。もしなければ、法律を学ぶ意味なんて何もない。
「あなたが司法試験から得るものは殆ど何もない。ABCDEFGに置き換えられ
うちのめされたプライドだけだ。失うものは実にいっぱいある。歴代大統領の銅像
が全部建てられるくらいの銅貨と、取り返すことのできぬ貴重な時間だ」
「この近辺に、一本、道を通す。処女の道だ。ここさえ仕上がれば、年の初めから
この女を働かせることができるだろう。道を通すことは、これまで処女の道にかか
わっていた者と飛竜軍がやる。王英はすでに腰を動かしている。通している間は、
出血がある。通してしまえば、もう血は出ん」
彼女は僕が作曲した『高輪グリーンマンションの唄』の出だしのコードを弾いた。
令状なしではじめて弾くらしく最初は被疑者に宿泊料を支払わせたようだが、次の
日からは捜査機関が宿泊料を支払った。「勘がいいのよ」とレイコさんは僕に向かって
ウィンクして、指で自分の頭を指した。「三日取調べをしたけど、令状がなくても
違法とまではいえないのよ」
ペニスの大きさを調べるのは簡単だった。来年から受験願書にペニスの大きさを
記入しなければならないことになったのだ。
あのねワタナベ君。私のことを永久塾生だとか信者だとかお布施マシーン
だとかいう風には思わないでね。私はただマコツにすごく興味があって、
すごく知りたいだけなの。ずっと女子高で女の子だけの中で育ってきたでしょう?
マコツが何を考えて、その頭皮がどうなってるのかって、そういうことをすごく
知りたいのよ。それもパンフの写真とかそういうんじゃなくて、いわば
ケース・スタディーとして」
「やめろ」
一刻ほど質問を続けると、盧俊義が弱々しい声を出した。
「やめてくれ」
主査は、質問するのをやめなかった。
「死にたいか。いま、一番したいことは、死ぬことであろうな」
「殺せ」
「そうたやすくはいかん。おまえを口述落ちにして、命だけは取らずにおくのだ」
嗚呼、なんと一行レスの少ないスレよ。再び容量オーバーで沈むのか?
ツァラトゥストラは、こう語った。
「あなた馬鹿ねえ」と緑は言った。「知らないの?勘さえ良きゃ何も知らなくても
司法試験なんて受かっちゃうのよ。私すごく勘がいいのよ。次の五つの中から
正しいものを選べなんてパッとわかっちゃうもの」
僕は原則的に不合格のあとで言い訳をすることを好まないが、おそらく今年
の不合格はそれを必要とするだろうと思う。
まず第一に、今年の答案は五年ほど前に僕が書いた『蛍』の表紙をつけた
サブノートの論証が軸になっている。
僕はこの論証ノートをベースにして三頁くらいのさらりとした答案を書いて
みたいとずっと考えていて、適性試験を受験する前のいわば気分転換にやって
みようというくらいの軽い気持ちでとりかかったのだが、結果的には四頁でも
足りないくらいの、あまり「軽い」とは言い難い答案になってしまった。
「僕に興味があるのは○○で講師をしていた○○です」と僕は言った。
「行方はわかりませんか?」
「可能性は幾つかあります。最も一般的なのはスクラップです。予備校
講師の回転はとても早い。通常の講師は三年で減価償却されてしまうし、
修理代をかけるよりは新しいものに代えてしまった方が得なんです」
「もちろん流行の問題もありますしね。そこでスクラップにされる。
・・・・・・第二の可能性は中古品として引き取られることです。ジョークは
古いがまだ使えるといった講師は往々にしてどこかの予備校に流れたり
もします。そしてそこでベテやヴァカ手の相手をして一生を終えます。
第三に、これは非常に稀なケースですが、タレントになることもある。
でも八十パーセントまでがスクラップです」
どこに二十回は抜けるエロ本があるとか、そういうことだけはよく知っているんだと僕は言った。
そして面白いエロ本を捜してまわる仕事の話をした。
ユキは僕の話を黙って聞いていた。
「だから詳しいんだ」と僕は言った。「フランス文庫を読んでぶうぶうう鳴いて地下のキノコを
捜す豚がいるけど、あれと同じだよ」
「あまり法律の勉強が好きじゃないの?」
僕は首を振った。「駄目だね。好きになんかなれない、とても。何の意味もないことだよ。
面白いエロ本をみつける。雑誌に出ているときはみんなに紹介する。ここでフィニッシュ
だよ。こういうものを食べると元気が出るよ。でもどうしてわざわざそんなことをしなくちゃいけないんだろう?
みんな勝手に自分の好きなものを食べてオナニーすればいいじゃないか?そうだろう?
ユキはテーブルの向かい側からじっと僕を見ていた。何か珍しい生物でも見るみたいに。
「でもやってるのね?」
「仕事だから」と僕は言った。
「ねえ、ワタナベ君。不真正不作為犯が理解できる人って、裸の王様に出てくる
民衆みたいじゃない?」
「そうだね。作為義務は個別的・具体的に判断せざるをえないし、それを類型化するって
いっても、立法者以外が類型化するのは、罪刑法定主義との関係で問題があるだろうし」
「それで、正直な少年になろうと思った刑法学者が、違法性説や明確性の原則違反を
主張してるの?」
「何にも書いてないから、明確とも不明確とも、どちらともいえないと思うけどね」
「ところで、裸の王様って、パンツもはいてなかったのかしら?それって、公然わいせつ罪
になるんじゃない?当時も、皇室典範21条のような制度があったのかしら?」
「訴追もされないし、罪にもならない。ちんこは国家なり」
「裸で思い出したんだけど、裸の行為論ってなに?」
「水泳とか、相撲とかじゃないの?」
「ばかねえ。水泳は水着を着てるし、相撲だってまわしをつけているじゃない」
「裸の行為といえば、入浴とか・・・?」
「入浴した後でするアレとか?」
島本さんは小さなパースの中からダイナマイトを出した。彼女がライターを手に取る前に、僕は
マッチを擦って、それに火をつけた。僕は導火線に火をつけるのが好きだった。彼女が目を細め、
そこに導火線の炎の影が揺れるのをみるのが好きだったのだ。
隣りの席からユキはじっと僕の股間を見ていた。僕はユキの胸の谷間に目を注いでいたけれど、
彼女の視線をずっと股間に感じつづけていた。不思議な視線だった。二万円の洋服を買ってやった
だけなのに、その視線は僕をどきどきさせた。
「私、眠くないの。それに今アパートに帰っても一人だし、もう少しドライブしてたい。音楽聴いて」
僕は少し考えた。「あと一時間。それから帰ってぐっすり眠る。それでいい?」
「それでいい」とユキは言った。
「ゆっくり脱がせて」とユキが耳元で囁いた。僕は言われるままに彼女のセーターやらスカート
やらブラウスやらストッキングやらをゆっくりと脱がせた。僕は脱がせたものを反射的に畳みそ
うになったが、そういう必要はないのだと思いなおしてやめた。
「どう?」と彼女は微笑みながら僕に訊いた。
「裸の行為ができるね」と僕は言った。
「でも、あなたがいつも見ているビデオは、裸にならなくてもやってるやつじゃない?」
「どう?」とユキは微笑みながら僕に訊いた。
「素敵だよ」と僕は言った。彼女はとても小さなおっぱいを持っていた。美しく、生命感に溢れ、清潔で
セクシーだった。
「どういう風に素敵?」とユキは訊いた。「もっとくわしく表現して。うまく表現できたらすごく
親切にしてあげる」
「昔を思い出す。小学生の頃」と僕は正直に言った。
ユキはしばらく不思議そうに目を細めて微笑みながら僕を見ていた。「あなたってちょっと
ユニークね」
「まずい答えだったかな?」
僕は体の力を抜いて目を閉じ、流れに身を委ねた。それは僕がこれまでに体験したどんな
セックスとも異なっていた。
「悪くないでしょう?」とユキが僕の耳もとで囁いた。「悪くない」と僕は答えた。
それは素晴らしい片栗粉と同じように心を慰撫し、肉を優しくほぐし、痔の痛みを麻痺させた。
そこにあるものは洗練された親密さであり、凹と凸との穏やかな調和であり、限定された
パターナリスティックなコミュニケーションだった。
「悪くない」と僕は言った。隣りのあばさんが糠漬けを漬けながら何かを歌っている。なんだっけ、これは?
ボブ・ディランの『ハード・レイン』だ。僕はユキをそっと抱いた。
いや、何ね。ちょっとフランスまで出かけていたもんで、ええ。
二週間に1回更新されるんですよね、連載WEB小説。
750 :
氏名黙秘:04/08/02 22:39 ID:P24fgU9X
久々にトニー滝谷を読んだ。
泣けた。
「ねえ、ワタナベ君。キセル読書って知ってる?」
「なに、それ?キセル乗車なら知っているけど・・・」
「予備校の自習室で、B5版の大きなテキストに隠して、エロ本を読むの。
知り合いとかが話し掛けてきたら、エロ本はさっとしまって、テキストを
読むでしょう。知り合いが去ったら、またエロ本を読むのよ」
「あのオバサン、どうしていつも不機嫌そうな顔しているのかしら」
「きっと、何にも面白いことがないのよ」
やれやれ。
ほれほれ。
誰かカフカやってよ。
「ねえ、ワタナベ君。駅の売店で、法律の錯誤弁当と、禁止の錯誤弁当と、違法性の錯誤弁当
を買ったら、中身がどれも同じなの。ひどいと思わない?」
「ほんとうだね。のり弁とのり弁スペシャルほどの違いもない」
ワラタ
「ねえハジメくん、再現答案からは何もわからないわ。それはただの影みたいなものなのよ。
本当の私はもっと違うところにいるのよ。それは再現答案には書けないのよ」と彼女は言った。
その再現答案は僕の胸を痛くさせた。その答案を見ていると、彼女がこれまでにどれほど
多くの時間を失ってしまったのかを実感することができた。それはもう二度と戻ってくること
のない貴重な時間だった。どれだけ努力しても二度と取り戻すことのできない時間だった。
ずいぶん長い時間が経過してから、彼女は何かを決心したように席をさっと立って、
僕の勤めている予備校に向かってやってきた。それはあまりにも唐突な動作だった
ので、僕は一瞬心臓が停まりそうになった。でも彼女は僕のところに来たわけでは
なかった。彼女は僕の勤める予備校の脇を通り過ぎ、そのまま近くにある電話のと
ころに行った。そして小銭を入れて、伊藤塾にダイヤルを回した。
766 :
氏名黙秘:04/08/10 10:21 ID:Y6sWsk3d
そういえば、小銭を入れて電話することがなくなった気がする。
「ねえ、ワタナベ君。刑法の教科書って、何だか形式的法治主義のムードが濃くない?
今はなくなったけれど、尊属殺重罰規定があった頃、さんざん条文の解釈を展開して、
最後に注のところで、例の違憲判決を挙げて、自分も違憲だと思うって言ってるのよ」
「違憲だと思うのなら、解釈なんかしなければいいのにね。それに、実質的デュープロセス
の記述が、妙に全体のトーンとマッチしていないのも、その例だね」
「どうしてそうなるの?」
「罪刑法定主義(自由主義)を徹底すると、当罰性が高くても法律がなければ処罰でき
ない。裏返せば、法律さえあれば処罰できる。厳格解釈をする学者は、実は立法をしろ
と注文しているのと同じ。形式的法治主義そのものなんだよね」
「彼らが学生だったころは、憲法の講義で『法の支配』を教えてなかったの?」
「そうだろうね。もっとも、前田あたりの世代になると、『法の支配』が明確に出てくる。
彼の場合、はじめに民主主義がある。民主国家における国家の処罰意思とは、主権者国民
多数の処罰意思ということになる。しかし、それだけだと少数者の人権が侵害されるおそれ
がある。そこで、対抗原理として罪刑法定主義(自由主義)が出てくる」
「つまり、民主主義と自由主義は同一平面で闘うことになるのね?」
「そう。そして裁判所が両者の裁定をする。裁判所の役割を尊重する『法の支配』の
原理に適合している」
「なんだか司法関係者のプライドをくすぐる構想だわね。民主主義と自由主義を掌の上
で手玉にとって、最後は裁判所がお釈迦様のように裁定するのね」
「形式的法治主義だと、お前ら法律がなければ何にもできないだろう?って言われてる
みたいで、面白くなかったからね」
僕は最初に今年の夏と顔を合わせたときから、この夏は嫌だと思った。もっと正確
に言うならば、僕はこの夏を避けなければならないと思ったのだ。そして夏は僕を
熱中症で倒れさせがっていると本能的に感じた。僕は夏を前にして文字通り体が
ぶるぶると震えた。
「発表までには、まだずい分時間がある。」
続く
>>775 氏名黙秘の後の???って、どうやればできるんですか?
「ねえ、ワタナベ君。行為無価値にはどうして故意が三つもあるんだろう?」
「心理事象としての故意は一つのはずなんだけどね」
「何だか変よね。まるで、玄人女とやるときは構成要件的ちんこ、レイプするときは
違法ちんこ、素人女とやるときは責任ちんこ、ちんこは一つしかないはずでしょう?」
「まあほとんどの男性は、責任ちんこで結婚するわけだけど」
>>777 作風が突然変化してませんか?
777getいいな。。
779 :
氏名黙秘:04/08/19 01:35 ID:O6rqvEtD
保守
「たとえば彼だよ」と僕は言って、真剣な顔つきでアイスピックでシケタイを
砕いている若いハンサムな予備校講師を示した。「僕はあの子にとても高い
月謝を払っている。受験界の事情を知らない人がちょっとびっくりするくらいの
額の月謝だよ。そのことは他の糞ベテには内緒にしてあるけれどね。どうして
あの子にだけそんな高い月謝を払っているかというと、彼は誤植を探し出すと
100円くれる」
「悪かったと思う」と僕は言った。
「謝ることはないわ」と彼女は言った。「もしあなたが辰巳へ行きたいのなら、
別に行ってもいいのよ。何も言わずに別れるわ?私と別れたい?」
「わからない」と僕は言った。「ねえ僕の説明を聞いてくれないかな?」
「説明っていうと、辰巳の太った女の人のこと?」
「やれやれ」と僕は言った。やれやれという言葉はだんだん僕の口ぐせのようになりつつ
ある。やれやれと言ったところでやれる相手はいなかったけれども。「これで予定していた
受験期間の三分の二が終り、しかも我々はどこにも辿りついていない」
「そうね」と五月の姉さんは言った。「妹はどうしているかしら?」
鼠、連絡を乞う
至急!!
ドラゴン・ホテル406
「羊は君に何を求めたんだ?」
「全てだよ。昭和六年から昭和二十年までさ。GHQの記憶、敗戦国の弱さ、
憲法の矛盾・・・・・・羊はそういうものが大好きなんだ。奴は触手をいっぱい
持っていてね、海底油田にそれを突っこんでストローで吸うみたいに
しぼりあげるんだ。そういうのって考えるだけでぞっとするだろう?」
「君は世界が良くなっていくと信じてるかい?」
「何が良くて何が悪いなんて、誰にわかるんだ?」
羊は笑った。「まったく、もし一般論の国というのがあったら、君はそこで
王様になれるよ」
「領土抜きでね」
「領土抜きでだよ」羊は三本めの海底油田を一息に飲み干し、空き缶をかたん
と床に置いた。
「本当にあの二人は幸せになれるかしら?」しばらくあとで二人きりになった時、
五月の姉さんが僕に訊ねた。
「少し時間はかかるかもしれないけど、きっと大丈夫だよ。なにしろ二十年ぶん
の空白を埋めてDVDを手に入れたんだからね」
「日活ロマンポルノはとても好きよ」
「僕も好きだよ」
宅配便を開けると我々は性交し、それから街に出て映画を観た。映画の中でも
多くの男女が我々と同じように性交を行っていた。他人の性交を眺めるのも悪く
ないような気がした。
ここが行き止まりなのかもしれない (笠原メイの視点4)
>>788-789 こういういやらしいのダメだって言ったでしょう!このスレ、女の子がたくさん見ているんだから。
「ねえワタナベ君?」と緑が訊ねた。「わいせつ物販売罪の事実認定のやり方が変った
の知ってる?」
「知らない」
「あのね、成年男子の中から無作為抽出で五人を民間鑑定委員に選任するの。それから、
傍聴人を退出させ、五人の男性にはズボンとパンツを脱いでもらうのよ」
「おいおい」
「それから、問題のわいせつ文書なり図画なりを五人の男性に閲読・閲覧してもらって、
三十分以内に五本のうちの三本のペニスが勃起すると、裁判官は民間鑑定委員のペニス
に拘束されて、有罪を認定しなくちゃならないわけ」
「まさに行為者の属する素人領域における並行的評価がなされるわけだね。でも、勃起
の正確性を担保する制度が必要だね。ドーピング検査とかやるの?」
「大丈夫。傍聴人の中にエロいお姉さんがいたとしても鑑定時には退席させているわけ
だし、女性裁判官は司法ブスだから、勃起の正確性は担保されているのよ」
797 :
氏名黙秘:04/08/30 22:22 ID:TDtnwoMs
書き下ろし新館期待あげ。
「ロースクールなんかどうでもいい。そんなものは禿ワシにでも食われてしまえばいい。
僕は誰がなんと言おうとあの90問を3時間で解く択一試験が好きだったんだ」
お腹痛いので、今日はお休みです(^ー°)ゞ
父は煙草の灰を灰皿に落とした。「おいおい、論点ブロックの積み木ばかり
やっているとベテになるぜ」
「でも多かれ少なかれ受験生はみんなやっていることでしょう?」
「まあ少しはな」と彼は言った。そして難しい顔をした。「試験委員の目障り
にならない程度にはな」
そのようにして四年か五年があっという間に過ぎていった。そのあいだに僕は何冊
かの本を読んだ。でもどの本とも長つづきしなかった。僕は買った本を何ヶ月か読む。
そしてこう思う。「違う、こういうんじゃないんだ」と。僕は買った本の中にどうしても僕の
ために用意された何かを見いだすことができなかった。僕は買った本の何冊かを
自慰のために使った。でもそこにはもう感動のようなものはなかった。それが僕の
受験生活の第三段階だった。
「でも結局はみんなローに行く。」僕は試しにそう言ってみた。
「そりゃそうさ。みんないつかはローにいく。でもね、それまでに5年は現行を受けなければならないし、貯金を切り崩しながら5年も現行を受けるのは、はっきり言って何も考えずにローに流れるよりずっと疲れる。そうだろ?」
そのとおりだった。
「何故ローになんか行く?」
「何故現行に拘る?」
列車を下りたのは十二時過ぎだった。プラットフォームに立つと、魔コツは思い
切り体を伸ばして深呼吸をした。次は、ラヂオ体操第二か?今日は周りに人が多い
からやめておこうか。
プラットフォームから見える街は典型的な小規模の地方都市だった。小さなデパート
があり、ごたごたとしたメイン・ストリートがあり、十系統ばかりのバス・ターミナル
があり、観光案内所があった。
「緑ちゃんは来なかったの?」と彼女が訊ねた。
「ああ、来なかった。それに絶対買うつもりだったマスカット饅頭もなかった」
魔コツはマスカット饅頭の代わりに仕方なく買った吉備団子を口にしながら
そう言った。
「まあ、話せば長くなるんだけどね」と彼女はだしまき玉子を食べながら言った。
「うちのお母さんというのがなにしろ復習と名のつくものが大嫌いな人でね、再現
答案なんてものは殆ど作らなかったの。それにほら、私、夜は水商売でしょ、だから
忙しいと今年はP&Cものにしちゃおうとか、本屋でできあいの論証パターン買って
それで済ましちゃおうとか、そういうことがけっこう多かったのよ」
「でも、私、そういのが子供の頃から本当に嫌だったの。嫌で嫌でしようがなかったの。
試験と試験の合間の短い時間に論証パターン見てるとかね。それである日、来年
で司法試験も終るってときだけど、過去問の答案はちゃんとしたものを自分で作ってやると
決心したわけ。そして新宿の紀伊国屋に行っていちばん立派そうなピロシの本を
買って帰ってきて、そこに書いてあることを隅から隅まで全部マスターしたの。
まな板の選び方、包丁の研ぎ方、魚のおろし方、かつおぶしの削り方、何もかもよ。
そしてその本を書いた人が民訴の先生だったから私の料理は全部味気なくなっちゃ
たわけ」
三たび、私は御用司祭の部屋に呼ばれた。何もいうべきことはない。あなたに抱かれ
たくもない。次に会うのは法廷にしよう。いま私の興味を引くものは、あなたの淫猥な
抱擁と、たらこのような唇から逃れることだ。
体位が変えられた。司祭の部屋のベッドで長く寝そべると、枕の上に司祭が残した
フケが私の髪について気持ち悪かった。
私の顔の上に司祭の顔が見えた。その顔のおもてに、昼から夜へと移る色彩の凋落を
眺めることで、一日が過ぎてゆく。横になり、手枕をして、私は待っている。そして
また、司祭との退屈なセックスが始まった。
まさにそのとき司祭が入ってきた。彼のものを受け入れると、私はちょっと身震いした。
司祭はそれに気づいて恐れないようにと言った。私は彼を受け入れた。結局において、
女が受け入れられないペニスなんてものは、鯨のペニスだけなのだ。
司祭は私の乳房をわしづかみにし、相変わらずその姿勢を変えずに、絶望のあまり
あなたは私から顔をそむけるのか、と訊ねた。私は絶望なんかしていない、司祭様の
不細工な顔を見ながらセックスしていると、吹きだしかねないのだ、と答えた。
この言葉を聞くと、彼の手がいらいらした仕草を示したが、彼は体を起こして、
その法衣の皺を直した。
やり終えると、司祭は私を「友よ」と呼んで、ヤッターマンのシールをあげるから、
今日のことは誰にも言わないでくれと、私に囁いた。
811 :
猿通る:04/09/07 13:21 ID:???
「彼は社会的に重要な人間ではない。
正真正銘のベテである」
(ルイ=フェルディナン・セリーヌ 『教会』)
刊行者の緒言
これらのノートはフランソワーズ・サユリンの受験中の日記の中から発見された
ものである。われわれはいっさい手を加えずにこれを刊行する。
最初の頁には日づけがなかったが、それが厳密な意味でのロースクール進学より
数週間後のものであると推定できる確実な証拠がある。従ってそれは、遅くとも
二〇〇四年四月の初旬ごろに書かれたのであろう。
当時、フランソワーズ・サユリンは、四人の男を遍歴した後、ド・ロルボン公爵
に関する不倫調査をするため、2ちゃんに三年前から居住していた。
刊行者
「ご満足ですか」
彼が三度も放出したのに溌剌としているのを見て、私は微笑する。彼が放出する
たびに、私の頭も空になる。二時から四時まで、激しく交わった。するとファスケル
氏は腑ぬけになったみたいに、二、三度あくびをした。私はもう一度電灯を消すと、
彼のペニスを口に咥えた。彼は無意識の状態におちて行く。
まだあと一回セックスするだけの余力は残っていると私はみた。。独身者、下級技師、
店員たちは、私の凹のことを「ぼくらのねぐら」と呼んでいた。
「マダムはいませんよ。街へ買物に行ったんです」女給仕のマドレーヌが私に叫んだ。
私は性のはげしい失望を、長い間の不愉快なむずがゆさを味わった。それと同時に
マドレーヌのシャツが乳房の尖端を摩擦しているのを見た。そしてマドレーヌのうなじ
に生えたうぶ毛、モップを動かすたびに揺れる尻、スカートの下の美しく長い脚を想像
して、マドレーヌの虜にされてしまった。
「何をなさいますの?アントワーヌさん」
そのとき私はマドレーヌの背後に回り、彼女の形のよい両の乳房を捉えていた。
私は扉の敷居の上に立っていた。そのうちひとつの渦巻きが起り、ひとつの影が天井
を通って、私の腰を前に突き出させたように感じた。マドレーヌの中に入った。あらゆ
るところから同時に、私の内部にはいってきた快楽によって、私は理性を失った。
マドレーヌは私の腕の中で漂った。私はマドレーヌのシャツを脱がせた。彼女の巨乳
が小さすぎる下着の影であえいでいることがわかった。私は彼女の耳たぶを唇でついば
んだ。
「auf・・・」
嗚呼、汝、自己の右手を汚すアマチュア・オナニストたちよ。究極のオナニーの
何たるかを知れ!プロのオナニストは右手を使わない。自己の創作したエロ小説を
読むだけで放出できるのだ。その時、オナニストのエロ小説は神の創造物である女性器
を超える。超人の出現だ。
その時、私は汝とともに高らかに叫ぼう。神は死んだ、と。
ツァラトゥストラは、こう語った。
「シャルル、お願い。シャルル、帰ってきて。もうたくさんよ。あたしはあんまり
不幸だわ」
女は私の前にひざまづくと、ズボンのファスナーを下げ、いきり立った私の
ペニスをつかみ出した。それから、舌でひと舐めした後、口に含んだ。
これは・・・・・・しかし、どうして躰が火のように火照るのだ、光のように苦悩を
反射しているこの顔に、赤みがさすのは何故なのだ・・・・・・しかしながら私は、
肩掛けに、外套に、右手の酒糟色の大きな痣に見覚えがあった。これはあの女だ。
リュシーだ。家政婦のリュシーだ。
私は自分の方から、彼女の力になることを申し出ることは遠慮したい。しかし
必要とあれば彼女の方から、私と交わることを要求するのは差し支えない。私は
彼女のフェラチオを眺めながら、ゆっくりと彼女の長い髪をなでた。彼女の目は
じっと私に注がれているが、私を見ているよではない。味わっていた。ペニスの
固さとしなやかさを。私は、二、三回、腰を揺すって彼女の口の中で果てた。
あなた方、ほんといいかげんにしなさいよ。怒るわよ。
彼は常に彼の義務を、息子としての、夫としての、父としての、また法に忠実
な善良なるフランス国民としての義務をすべて履行した。法に忠実なるフランス
国民として、彼は駐車違反を一度も犯さなかった。彼は並々ならぬ努力で、彼を
駐車違反へと駆り立てる誘惑から逃れようとした(パコーム家が今日に至るまで
彼を含めて十三代にわたり駐車違反を犯したことがないことは、プーヴィルで
知らない者はいなかった)。彼は決して駐車違反を犯すことが幸福だとは思わな
かった。そして彼は快楽に耽っているときでさえ、駐車違反を犯してはならない
と心の中で念じていた。
もちろん彼がフランス国民として果たすべき最大の義務、フランス文庫を読む
ことは片時も忘れたことはなかった。書斎でも(パコーム家のフランス文庫の
コレクションは彼を含めて十三代の当主が収集したものですでに三千冊を超えた)、
風呂場でも、トイレでも、彼はフランス文庫を読み耽った。セント・プリバール祭
の夜、彼がトイレでフランス文庫を読んでいると、ゴキブリが彼のペニスの上を
這った。それでも彼は『若妻さかえの悶え』を読みつづけた。
822 :
氏名黙秘:04/09/08 21:00 ID:v7k7mGox
最新作のアフターダークで、高橋っていう登場人物が
司法試験目指すとか言ってるな。
どうでもいいが、今から現行目指すのってかなりリスキー
だと思うんだが。
村上春樹は新司法試験とかについては調べなかったのかな。
へえ、村上春樹新作出したの?
最近、小説コーナーにほとんど立ち寄らなくなってたんで知らなかった。
法律書コーナーに直行するだけだなんて味気なさすぎだな。
新作?すごいわ。
で、ネタバレ解禁はいつから?
最近ネタにつまってましたから、新作はありがたい。
合格の瞬間は異常なものだった。私は合格者掲示の前で身動きせず、
凍りついたようにじっとして、怖ろしい法悦に浸っていた。しかし
この法悦の最中において、なにか新しいものがいましがた現れた。
私は《シケタイ》を理解し、それに精通したのだ。実を言えば、私は
自分の発見したものを、答案に書いたのではなかった。しかし合格し
た今となっては、言葉にすることは容易であろうと思う。肝心なこと、
それは偶然性である。定義を下せば、合格とは必然ではないという
意味である。
合格するとは、ただ単に〈ベテでなくなる〉ということである。合格
できる出題に恵まれ、〈合格する〉ままになる、しかし合格することを
決して〈演繹すること〉はできない。これを理解した受験生はいると
思う。ただ彼らは、必然的にして、合格しうる答案なるものを案出し、
この偶然性を乗り越えようと試みた。ところが、いかなる必然的合格答案も
合格を〈演繹すること〉はできない。偶然性とは消去しうる見せかけや
仮象ではない。それは絶対的なるものであり、それ故に完全な無償なので
ある。
>>822 ネタかと思っていたら、本当だった。昨夜、仕事の帰りに本屋へ直行したら、
びっくり!
春樹さんの新作「アフターダーク」は、ベニー・ゴルソンの名曲
「FIVE SPOT AFTER DARK」に由来すると思われ。
記憶が少し曖昧なのだが、この題名は、有名なジャズ・スポット
FIVE SPOTでギグの後、ジャズメンたちが自分たちが楽しむ
ために演奏することをAFTER DARKと言った、のだと何かで
読んだような。そこから転じて、楽屋ネタ、楽屋オチの意味に
なったとか・・・。ソースなしなので嘘かもしれんよ。
「FIVE SPOT AFTER DARK」が有名すぎるため、アルバム・
タイトルを忘れることがある。今朝、このCDを棚から探すとき、
必死で「FIVE SPOT AFTER DARK」を探していた。歳だ。
2曲目の「UNDECIDED」は今の耳で聞いてもオシャレ。3曲目
の「BLUES−ETTE」はトミフラのピアノのリフが印象的。
4曲目「MINOR VAMP」のイントロに合わせて、「サンライズ・
サンセット」を唄っているのは、俺だけだろうか?
5局目「LOVE YOUR SPELL IS EVERYWHERE」のゴルソン
のソロはエモーショナルだなぁ。
カーティスは、ベニーのエモーショナルなソロを横目で睨みながら、
ちょっと不愉快な気持ちになった。「おい、ドラムスはエルヴィンじゃ
ないんだぜ。どうしてそんなに熱くなる?背中にゴキブリ這ってんのか?」
カーティスは、思いっきりクールなソロにしようと思った。
・・・が事実かどうかは知りませんが、二人のコントラストは、かなり笑える。
でも、この曲の白眉はトミフラのソロ、だと俺は思う。
「どんな気持ちがするものかしら。ちんこが二本ついてるって?」
「なんだか変なものだよ。セックスするちんことおしっこするちんこという
ように使い分けられるわけじゃないから、セックスしながらおしっこはでき
ないんだ。だから二本ついているからって、特に便利ってことはない。反対
に、一本つかんでおしっこしているときに、もう一本から出るおしっこが
隣りでおしっこしている人にかかったりすると、無用なトラブルの原因になる
んだよ」
834 :
氏名黙秘:04/09/10 16:40:59 ID:JeiMajUQ
もう一度司法試験について書く。これで最後だ。
僕にとって答練を受けるのはひどく苦痛な作業である。一ヶ月かけて一行も書けないこともあれば、三日見晩書き続けたあげくそれの論点がみんな見当違いといったこともある。
それにもかかわらず、勉強をするのは楽しい作業でもある。
生きる事の困難さに比べ、それを言い訳にすることはあまりに簡単だからだ。
LECの頃だろうか、僕はその事実に気が付いて一週間ばかり口もきけないほど驚いたことがある。
司法試験を言い訳にすれば日本中の人間が納得し、無職だということは正当化され、時は矢のごとく流れる・・・そんな気がした。
(中略)
一日4時間も2chで祭りを漁るような人間には、それだけの答案しか書く事はできない。
そして、それが僕だ。
どうでもいいが、IDがジェイですた。
>>832 6曲目の「TWELVE-INCH」はどんなんだったか思い出せない。
たぶんブルースだったぞ。そう、確か、ベースとトロンボーン
だけのパートがあった。
837 :
氏名黙秘:04/09/11 12:24:01 ID:j9PPjids
>>837 こんどのは、司法試験受験生が主人公なんだって?
「風の歌を聴け」から、もう25年か。。。早いな。。
>>832 マイナー・ヴァンプのトミフラも、すごくいいよね。
最後の司法ベテに出会ったのはいつのことだったろう?
この文章は、そのような、いわば考古学的疑問から出発する。様々なベテの遺品
にラベルが貼りつけられ、種類別に区分され、分析が行われる。
さて最後の司法ベテに出会ったのはいつのことであったか?
二〇一〇年、または二〇一一年というのが僕の推定である。どちらでもいい。
どちらにしたところでたかが司法ベテに関する話だ。僕にとっての司法ベテは、
月に一度しか洗濯しない不格好なワークシャツを着た醜いにわとりのような
ものである。
それでもなお、僕の作業は辛抱強く続けられる。竪穴の枠が広げられ、僅かでは
あるが新しい出土品がその姿を現わし始める。
僕は自転車に乗って近くの区立図書館に出かけた。
図書館の玄関の脇にはどういうわけかにわとり小屋があり、小屋の中ではワーク
シャツを着た司法ベテが少し遅い朝食だか少し早い昼食だかを食べているところ
だった。とても気持ちの良い天気だったので僕は図書館に入る前に小屋の横の敷石
に座り、煙草を一本吸うことにした。そして煙草を吸いながらベテが餌を食べている
ところをずっと眺めていた。ベテたちはひどく忙しそうに餌箱をつついていた。
その煙草を吸い終った時、僕の中で何かが確実に変化していた。なぜだかはわから
ない。しかしなぜだかはわからないままに、五羽の司法ベテと煙草一本分の距離を
隔てた新しい僕は、自分自身に向かって二つの疑問を発した。
まずひとつ、僕が最後の司法ベテに出会った正確な日付になんて誰が興味を持つ?
もうひとつ、日あたりの良いにわとり小屋で餌箱をつついている司法ベテと僕の
あいだに、これ以上お互いに分かち合うべき何が存在するのか?
もっともな疑問だった。僕はにわとり小屋の前でもう一本煙草を吸い、それから
自転車に乗って図書館とベテに別れを告げた。だからにわとり小屋のベテが名を持たぬ
ように、僕のその記憶は日付を持たない。
もっとも、たいていの僕の記憶は日付をもたない。僕の記憶力はひどく不確かである。
それはあまりにも不確かなので、ときどき僕は答案上で自分が馬鹿であることを証明
しているんじゃないかという気がすることさえある。しかし、僕は自分が馬鹿である
ことを証明しているということにすら気づかない。だいたい不確かさが証明している
ことを正確に把握するなんて、不可能なんじゃないだろうか?
とにかく、というか、そんな具合に、僕の記憶は旧試験においても、新試験において
も、おそろしくあやふやである。前後が逆になったり、問題文の事実と想像が入れかわった
り、ある場合にはシケタイの目とデバイスの目が混じりあったりもしている。そんなもの
はもう記憶とさえ呼べないかもしれない。だから僕が受験時代をとおしてきちんと正確に
思い出すことができる記憶といっても、たったふたつしかない。物権の定義と債権の定義だ。
僕はそれから二十年経った今でもときどき、物権と債権の定義を頭の中で転がして
みる。
大丈夫、ローなんか何回入ってもいいんですから。
そしてその定義を頭にとどめながら、僕は僕という一人の人間の存在と僕という
一人の元若手が辿らねばならぬ道について考えてみる。そしてそのような思考が
当然到達するはずの一点――にわとり、について考えてみる。にわとりについて
考えることは、少なくとも僕にとっては、ひどく茫漠とした作業だ。そしてにわとり
はなぜかしら僕に、ベテのことを思い出させる。
自宅が高田馬場にあったせいで、僕のまわりには結構多くのベテがいた。ベテと
いっても、べつに我々とどこかが変っているわけではない。また彼らに共通する
はっきりとした特徴があるわけでもない。彼らの一人一人は千差万別で、その点
においては我々も彼らもまったく同じである。しかし、僕はいつも思うのだけれど、
ベテの個体性の奇妙さというのは、あらゆるカテゴリーや一般論を超えている。
僕のクラスにも何人かのベテがいた。成績の良いものもいれば良くないものもいた
し、陽気なのもいれば無口なのもいた。ちょっとした豪邸に住んでいるものもいれば、
日あたりの悪い六畳一間に台所といったアパートに住んでいるのもいた。様々だ。
しかし僕は彼らのうちの誰かととくに親しくなるということはなかった。だいたい
ベテはあたりかまわず誰とでも親しくなるという性格ではない。
彼らの一人とは十年ばかり後で偶然顔を合わすことになるのだが、それについては
もう少し先で語った方がいいと思う。
舞台は渋谷のラブホに移る。
順序からいけば――というのはつまり、あまり親しく口をきかなかったクラスメイト
のベテたちをのぞけば、ということだが――僕にとっての二人めのベテは大学二年生の
春にアルバイト先で知りあった無口な元女子大生ということになるだろう。彼女は
二十八歳のベテで、小柄で、考えようによっては美人といえなくもなかった。僕と彼女
はその夜、はじめてセックスをした。
853 :
氏名黙秘:04/09/11 22:13:03 ID:lq7gaFWC
彼女はとても熱心に僕のペニスをしゃぶっていた。僕もそれにつられて熱心に
彼女のクリトリスをしゃぶったが、彼女のしゃぶりぶりを横で見ていると、僕の
熱心さと彼女の熱心さはまったく質の違うものであるような気がした。つまり、
僕の熱心さが「少なくとも何かをするのなら、熱心にやるだけの価値はある」という
意味での熱心さであるのに比べて、彼女の熱心さはもう少し人間存在の根元に近い
種類のものだった。
村上春樹的固有名詞変化
過去分詞 小松 みどり
↓
過去形 小松林 みどり
↓
現在形 小林 みどり
うまく説明できないけれど、彼女の熱心さには、彼女のまわりのあらゆる日常性
がその熱心さによって辛うじて支えられているのではないかといったような奇妙な
切迫感があった。それは男性に明白かつ現在の危険を感じさせた。だからおおかた
の男性は彼女とオルガスムスのペースがあわなくて、彼女の口の中に射精してしまった。
最後まで射精せずに彼女と共同作業ができたのは僕一人だけだった。
とはいっても、僕と彼女とがとくに親しかったわけではない。僕と彼女が最初に
まとめて口をきいたのは、最初にセックスをしてから一週間ばかりたってからだった。
そう、僕はこのようにして二人めのベテに出会った。
しかし彼女はまるでベテには見えなかった。
三人めのベテは、ロースクールにいた。彼はこんなことを喋っていた。
「この法科大学淫では」と彼は言った。「みなさんとずいぶん歳の離れたベテたち
がみなさんと同じように一所懸命勉強しております。・・・・・・みなさんもご存じの
ように、ベテもヴァカ手も人間です。みんなが気持ちよく生きていくためには仲
良くしなくてはならない。そうですね?」
沈黙。
「もちろんベテとヴァカ手のあいだには似ているところもありますし、似ていない
ところもあります。わかりあえるところもあるでしょうし、わかりあえないところ
もあるでしょう。でも努力さえすれば、わたくしたちはきっと仲良くなれる、わた
くしはそう信じています。でもそのためには、まずわたくしたちはお互いを尊敬し
あわねばなりません。それが・・・・・・第一歩です」
沈黙。
「例えばこう考えてみて下さい。もしあなた方の法科大学淫にたくさんのベテたちが
テストを受けに来たとします。今みなさんが勉強している席に、今度はベテが座るわ
けです。そう考えてみて下さい」
仮定。
「試験の翌日の朝に、みなさんが学校にやって来ます。そして席に着きます。すると
どうでしょう。机にはナベツネイラネの落書きやエイトマンのシールを貼られて傷だらけ、
椅子にはチューインガムがくっついている、机の中の上履きは片方なくなっている。
さて、どんな気がしますか?」
沈黙。
「例えばあなた」彼は実に僕を指さした。僕は一番前の席に座っていたのだ。「嬉しい
ですか?」
みんなが僕を見ていた。
僕は真赤になりながら慌てて首を振った。
「ベテを尊敬できますか?」
僕はもう一度首を振った。
沈黙。
それから何ヶ月かたった秋の午後、ちょうど今日のように気持ちのよい日曜日の午後、
僕は坂道をクラスメイトの女の子と歩いていた。僕は彼女に恋をしていた。彼女が僕を
どう思っていたのかはわからない。とにかくそれは僕たちの最初のデートであり、二人
で図書館に行って例のにわとりをからかってきた帰り道だった。
僕たちは坂道の真ん中で一人の老婆とすれ違った。
「信吾ちゃん」老婆が僕を呼びとめた。
「あのお婆ちゃん、知り合い?」と彼女が訊いた。
「いいや、知らない。人違いだろう」
僕たちは、老婆とすれ違うと、再び坂道を登りはじめた。
「不思議ね」と彼女は言った。「私も同じ日に同じ法科大学淫のテストを受けていたのよ」
「まさか」
彼女はスプーンを取り、シュガーの代わりに味の素をカップに入れると、何度かコーヒー
をかきまわした。
「先生はベテだった?」
彼女は首を振った。「覚えていないわ。だってそんなこと考えつきもしなかったもの」
「落書きはした?」
「落書き?」
「ナベツネ イラネってさ」
ベテ。
僕は数多くのベテに関する本を読んだ。「橋の下のベテ」から「星になったベテ」まで。
それでも僕の心の中のベテは僕のためのベテでしかない。あるいは僕自身である。
東京。
そしてある日、山手線の中で最後のベテを発見したとき、この東京という街さえもが
突然そのリアリティーを失いはじめる。・・・・・・そう、ここは僕の場所ではない。言葉は
いつか消え去り、夢はいつか崩れ去るだろう。あの永遠に続くように思えた退屈な現行
司法試験が何処かで消え失せてしまったように。何もかもが亡び、姿を消したあとに残
るものは、おそらく重い沈黙と無限の闇だろう。
法科大学淫・・・・・・、法科大学淫というのはあのベテの元女子大生が言ったように結局
は逆説的な欲望であるのかもしれない。どこにも出口などないのだ。
それでも僕はかつての忠実な塾生としてのささやかな誇りをトランクの底につめ、港
の石段に腰を下ろし、空白の水平線上にいつか姿を現すかもしれない合格を待とう。
そしてベテが人々の喝采に包まれ、緑なす草原で羊とたわむれる姿を想おう。
だからもう何も恐れまい。荒らしが削除依頼を恐れぬように、パコーム家の人々が
駐車違反を恐れぬように。もし合格が本当にかなうものなら・・・・・・
友よ、
友よ、永遠なるベテよ。
「アフターダーク」を読んでいます。ドキドキです。
なんかいいですよね、「アフターダーク」は。
「アフターダーク」は傑作。最後の数行は、胸に迫るものがあった。
この作品、ふくらまそうと思えば、まだまだふくらませることができた。
面白い話をたくさん含んでいる。白川と中国マフィアの話。高橋とその家族
の話。コオロギさんの話。
しかし、あえてエリとマリの姉妹の話にしぼっている。それで、とても
分かりやすくなった。
もう友人・恋人・夫婦は十分書かれたので、これから春樹さんに向かい
あってほしいのは肉親。友人・恋人・夫婦は別れればそれまで。肉親とは
死別以外はない。親が幼児を殺すというアブノーマルな死別も、しょちゅう
新聞で見るようになった。春樹さんの場合、時代のカウンセラーとして期待
されているところがある。これからは肉親でしょう?
仕事や学校の帰りに買って、夕飯・お風呂のあとで、いっきに読んだ。
アフターダークな読書でした。
「あなたが早口な魔骨さんの小説を書くの?」
「そう。僕が早口な魔骨さんの小説を書くんだ」
「そんな小説、誰も読みたがらないかもしれない」
「そうかもしれない」と僕は言った。
「それでも書いてみたいのね?」
「仕方ないんだ」と僕は弁解した。「うまく説明できないけどね。・・・・・・たしかに
僕は間違った壺を買っちまったのかもしれない。でもね、結局のところ、壺のそば
でクシャミをしたのは僕なんだ。そうしたら、早口の魔骨さんが出てきたんだ」
あなたの勉強部屋にだってやはり早口な魔骨さんのカセット・テープはないかも
しれない。とすれば僕とあなたは「早口な魔骨さんのカセットを持たない」という
共通項を持つことになる。不思議な共通項だ。
けれどもあなただってどこかの食事会で、早口な魔骨さんが「てんとう虫のサンバ」
を歌う姿くらいは見かけたことがあるだろう。どんな本棚にも長いあいだ読み残され
た一冊の本があるように、どんな洋服ダンスにも「箪笥音頭」のシングル・レコード
がおまけで付いていた時代があったように、どんな食事会にも一人の早口な魔骨さん
がいる。
彼はほとんどどの広告どのパンフレットにも写真が出ているし、いつもにっこり
微笑んでいる。頭髪には人一倍気を使っている。彼は古い牛乳瓶みたいにテーブル
の前にきちんと腰を下ろして食事会が始まるのを待っている。頼りなげな小さな音
を立ててコンソメ・スープを飲み、フィッシュ・フォークでサラダを食べ、いんげん
豆をすくいそこね、最後にはアイスクリーム・スプーンが足りないという有様だ。
時折ひっぱり出される古いLECのパンフレットにも彼は写っている。
ここに写っている早口な魔骨さんに似た人はだあれ?三歳になった娘が訊ねる。
ああ、なんでもないよ、ただの早口な魔骨さんさ。
彼には名前はない。ただの早口な魔骨さん、それだけだ。
もちろん、名前なんていつかは消える、と言うことだってできる。
しかし、そこにはいろんな消え方があるはずだ。まず最初に、あれだけ予備校が
プッシュしてやっていたのに突然名前が消えてしまうタイプ。これは簡単だ。「司法
試験は終わり、ベテは死に絶えた」・・・・・・我々は彼らの死を悼む。
次にやめてしまった球団オーナーみたいに、やめたあとも白い光が選手の上をチラ
チラとさまよい、そしてある日マイクを向けられると突然プツンと切れてしまうタイプ。
これは始末におえない。道に迷ったインド象のような足あとを野球界に残し、四百年
前のギルド社会を現代に蘇らせる。
そして最後にもうひとつ、壺のそばでクシャミをすると飛び出してくるタイプ、つ
まりは早口な魔骨さんたちだ。
魔骨の悪口を言う者、立ち入るべからず。
魔骨を悪口を言うために立ち入ったものは、もとろんそれなりのささやかな
報いを受けることになる。
あるいはそれは、僕のために準備されたささやかな報いであったのかもしれ
ない。僕の背中には小さな早口な魔骨さんが貼りついていた。
彼の存在に気づいたのは八月の半ばだった。何かがあって気づいたというわけ
ではない。去年までは子泣きジジイが貼りついていたのだ。ただ、ふと感じただ
けのことだ。僕の背中に早口な魔骨さんがいる、と。
それは決して不快な感覚ではなかった。たいした重さではないし、耳のうしろに
息を吹きかける悪戯は気持ちよかった。彼は漂白された影のように僕の背中にぴた
りと貼りついているだけだった。
同居している猫たちもはじめの二三日こそ早口な魔骨さんを胡散臭い目で眺めて
いたが、彼の方に自分たちのテリトリーを乱す意志のないことがわかると、すぐに
仲良しになってしまった。
何人かの友人たちは落ちつかない様子だった。向かいあって酒を飲んでいる最中に、
僕の背後から早口な魔骨さんが手を伸ばし、おでん皿の中のはんぺんを箸でつまむ
からだ。
「どうも落ちつかないな」
「気にするなよ」と僕は言った。「これといって害もないんだから」
「アフターダーク」感動しました。
オーケー、それではまず自己紹介から始めましょう。
僕は二十六歳で、司法試験予備校のベテ管理課に勤めています。
これは――あなたにも容易に想像がつくと思うのですが――おそろしくつまらない
仕事です。まず仕入課が仕入れると決めたベテに問題がないかどうかを調べます。
これは仕入課とベテの癒着を防ぐための作業なのですが、まあ、実にいい加減なも
ので、世間話をしながらベテの耳たぶをちょっとひっぱってみたり、鼻をつまんで
みたり、その程度のものです。長く鼻をつまんでいると、ベテは息が苦しいと言う
ことがあります。これがいわゆるベテ管理というやつです。
それからもうひとつ、つまりこれが我々の仕事の中心になるわけですが、近隣の
住民から寄せられたベテに対する苦情への対応、というのがあります。たとえば、
近くに住むOLがベテに見つめられただけでストッキングが伝線してしまっただと
か、有名大学に合格した友人に「合格おめでとう」と言ったのをそばで聞いたベテ
が低いうめき声をあげただとか、そういう類の苦情です。
まああなたは御存じないと思うけれど、こういった苦情の数は実に――うんざり
するほど――多いのです。四人の課員が一日中バタバタと走りまわっても追いつか
ないほど多いのです。
我々はそれらを便宜上ABCの三ランクに分類しています。丁度論点をABCに
分類するように、苦情のはがきとかメールとかを分類するのです。我々はこの作業
を「理性の三段階評価」と呼んでいます。しかしこれはもちろん、苦情を寄せられた
ベテに対する法務省の成績通知とは関係ありません。
「ねえ、ワタナベ君。パコーム家の第十三代当主は、駐車場を借りたみたいよ」
AFTER DARK
相変わらず春樹さんは時代の切り取り方がうまい。中国人娼婦とか、元女子プロ
レスラーとか、ファミレスで朝まで読書している女子大生とか・・・、いまを感じさせ
ます。
ちょっぴり嬉しかったのは、デューク・エリントンのレコードをかけていた中年
のバーテンダー。村上作品には、中年バーテンダーは欠かせない?と思うのは
オールド・ファン?
出番は少なかったけど、印象に残りました。ファミレスにたむろしている若い人
よりも、ジェイズバーで飲んでいた、鼠や僕は、幸せだったんだなー、とも思いま
した。
続編はあるのかな?白川がどうなるのか、興味津々なのだが・・・
「afterdark」の高橋は、きっと司法試験に合格すると思うわ(^ー°)ゞ
「ベテが夕食のデザートにアイスクリームを食べるんですか?」と僕は思わず
訊きかえした。
「ええ、毎日」と彼女は言った。「だってアイスクリームよ」
「そうですね」と僕は言った。
「それから私が不合格になってしょげたりしている時はいつも慰めてくれたわ。
指を入れたり舌を入れたりしてね。わかるでしょう?とても仲がよかったのよ。
とてもとても仲が良かったの。だから八年目に彼が合格しちゃった時には、私は
本当にどうしていいかわかんなかったわ。これからどうやって受験を続けていけ
ばいいのかね。それはたぶん彼の方も同じだったと思うの。もし立場が逆で、
私の方が先に合格しちゃたとしたら、彼も同じように感じたと思うわ」
「合格の原因はなんだったんですか?」
「腸閉塞。毛だまが腸につまったの。それでおなかだけがふくらんで、ガリガリに
勉強して合格したの。三日間勉強したら合格したわ」
「医者には見せたんですか?」
「ええ、もちろん。でももう手遅れだったの。だから手遅れだってわかってからは
家に連れてかえって、好きなだけ勉強させたの。勉強している間もずっと私の中に
指を入れていたのよ」
彼女は今はいないベテを思い出して膝の上に置いた手をしだいに股間に這わせ
ていた。
「勉強を始めてから四時間くらいたって硬直がはじまったの。股間がだんだん盛り
上がってきて、最後には石みたいにかちかちになっちゃて・・・・・・そしてズボンを
脱いだわ」
彼女は股間に這わせた指をパンティの上で擦りながら、しばらく黙っていた。僕は
話の行きつく先のわからないままキーボードを叩いていた。
「あてていいですか?」とタイミングをみはからって僕は訊ねた。
「あてるって、何を?」
「僕のちんこです。僕のちんこをあなたの凹にあてる・・・・・・そういうことです」
「いいわよ」と彼女はなんでもなさそうに言った。そして灰皿の中に煙草の灰を
落とした。「あててみて」
僕は唇の前で両手の指を組んで目を細め、アノクタラサンミャクサンボダイと呪文を唱え、精神を
集中するふりをして、彼女のブラウスのボタンをひとつづつ外していった。
「何か見えてきた?」とからかうような口調で彼女は言った。
僕はそれを無視して彼女を裸にする作業に没頭した。女の口もとに神経質そうな
微笑が浮かび、僕は政治的美称説と言おうとしたけど、ばかばかしかったので無言
でいた。頃あいをみて僕は彼女をベッドに運んだ。
「悪くないでしょう?僕のちんこ?」
「立派なものよ」彼女は感心したように言った。「プロなの?」
「ある意味ではそうです。プロのようなものです」と僕は言った。たしかにそのとおり
なのだ。女体に関する基礎的な知識と微妙なニュアンスの違いを見わけるテクニックさ
え持っていれば、たいていの女性を喜ばせることができる。そしてそのような人間観察
に関していうなら、僕だってプロといえなくもない。問題はその先だ。
「私はなんていうか・・・・・・対象として面白いのかしら?」
僕はペニスを抜いて、ため息をついた。「そうですね。あらゆる人間は等しく面白い
んです。これが原則です。でも原則だけではうまく説明のつかない部分がある。それは
また同時に自分の中のうまく説明のつかない部分でもあるんです」僕はそれにつづく適当
な言葉を探しながら、彼女の少し垂れ下がった乳房を下からすくいあげて、接吻した。
「そういうことです。まわりくどい説明だとは思うけれど」
「よくわからないわ」
「僕にもわからない。でも、とにかくつづきをやりましょう」
僕は再び彼女の凹にペニスを挿入し、腰を動かし始めた。女はさっきと同じ姿勢の
まま僕の動きに合わせていた。僕は何度か深呼吸して欲望が戻ってくるのを待った。
「あなたはずっと広い庭のある家に住んでいたでしょう?」と僕は言った。
「ええ、・・・auf・・・たしかに・・・・・・」と彼女は言いかけて少し混乱した。
あなた、しばらく姿みせないと思っていたら、ここに潜伏していたの?
悪いことというのは往々にして重なるものである。
これはもちろん一般論だ。しかしもし実際に幾つか悪いことが重なって
しまえば、これはもう一般論なんかじゃない。基本書を買ったとたんに
改訂された第二版が出版される、カセットフェアの日付を見まちがえて
通常価格で購入してしまう、電車の中で会いたくもない知り合いの合格者
に会ってしまう、1問目の答案用紙を2問目と取り違えてしまう、女の子
とデートしているところを彼女に見られてしまう、タクシーに乗れば交通
事故で道路は渋滞という有様だ。そんな時にもし、悪いことは重なるもん
だよ、なんて言う奴がいたら、僕はきっともうだめぽと言って走り出して
しまうに違いない。
あなただってきっとそうだろう。
一般論なんて結局はそういうものだ。
だから司法試験に短期合格するのはむずかしい。予備校の玄関マットか
何かになってタダで講義を聴くことができたらどんなに素敵だろうと時々
考える。
しかしやはり玄関マットの世界にも玄関マット的な一般論があり、苦労
があるのだろう。まあ、どうでもいいや。
「それで受講生はして欲しいんじゃないかしら?現行司法試験用の論証集の論点ミスのチェックと改訂を。どう、違う?」
「とてもして欲しいですね」と僕は言った。
「してあげてもいいれど、それはけっこう長くかかるかもしれない」
「2010年までに終わりそうですか?」
「たぶん無理ね」と柴田は言った。
やれやれ。何とか900は超えた。
「合格したと言いたいんだけれど
教材はもう必要ないから君にあげると言いたいんだけれど・・・・・・」
この曲を聴くたびに僕は受験会場の教室を思い出す。暗くて、少し湿った、大学
の教室だ。天井は高く、コンクリートの床を歩いていくとコツコツと音が反響する。
北側には幾つか窓があるのだが、すぐそばにラブホの建物がせまっているもの
だから、試験中なのに、そこに入ってゆく人たちをチェックしてしまう。
904 :
氏名黙秘:04/09/17 21:49:30 ID:ggzK37GB
age
日曜日の昼間のラブホはとてもしんとしていた。隣りの大学では何やら
試験をしているようだ。そういえば大学の正門前に「司法試験第二次試験」
とかいう立て看があった。不細工な男女がぞろぞろと大学のキャンパスに
向かって歩いていたけれど、あの不細工な人たちが将来裁判官や検察官や
弁護士になるのだろうか?なんだか一生試験を受け続けているような感じ
のおじさんやおばさんもいた。
>>836 CDには「ブルース・エット」のファースト・テイクがおまけでついていた。
この人たちにして、この程度って感じで、ちょっとホッとした。
afterdark発売直後は盛り上がっていたけれども、最近ちょっと
書き込み少なめですね、みなさん。
ところで、トロンボーンをやる男の子、実母は早くに亡くなって、
義母がいるんですね。Afterdark
冒頭いきなり「私たち」の視点で始まります。「私たち」の視点は
船頭の春樹さんに連れられて、作中のテレビのブラウン管を通り抜け
たりします。以前の作品で作中人物が壁を通り抜ける話がありまし
たが、この作品は、視聴者参加小説みたいで、「私たち」の視点が
ブラウン管を通り抜けるんですよ。素敵でしょう?
「ある種のものごとは一度前に進んでしまうと、もうあとには戻れないのよ、ハジメくん」
とベテ女は言うだろう。真夜中すぎのソファーの上で、僕はそう語りかける彼女の声を
耳にすることができた。「あなたが言うように、あなたと二人きりでLawSchoolに行って、
新しい人生をやりなおすことができたら、どんなに素敵だろうと思うわ。でも残念だけれど、
私にはこの場所から抜け出すことはできないの。それは金銭的に不可能なのよ」
そこではベテ女は十六の少女で、庭のひまわりの前に立って、伊藤咲子の『ひまわり娘』
をぎこちなく歌っていた。
「結局、私は司法試験なんか受けるべきじゃなかったのね。それは最初から私にもわかって
いたのよ。こうなるだろうことは、予想できたのよ。でも私にはどうしても我慢することが
できなかった。どうしてもパンフのように魔骨がいつも微笑んでいるのか確かめたかったし、
どんな整髪料を使えばきっちりした分け目がつくのか訊ねてうちのお父さんに教えてあげた
かった。ねえハジメくん、それが私なのよ。私は、そうするつもりもないのに、最後には
いつも何もかもをだいなしにしてしまうのよ」
この先ベテ女と会うことはもうあるまいと僕は思った。彼女はもう僕の記憶の中にしか存在
しないのだ。彼女は僕の前から消えてしまった。彼女はそこにいたが、今では消えてしまった。
そこには試験というものは存在しない。試験が存在しないところには、受験というものもまた
存在しない。国境の南にはたぶんは存在するかもしれない。でも太陽の西にはたぶんは存在し
ないのだ。
緑に中田氏age
自習室の中でも僕は以前と同じような現行試験の受験勉強をしていた。
僕は問題集を開き、ノートに答案構成を書き込み、会社法の条文を覚えた
りした。
LawSchoolに進学した有紀子も僕に対して、少なくとも外面的には、以前
と同じように接していた。僕らは相変わらず二人で死んだ芦部先生の話し
をしたり、新保の120選はどうして刑法だけ100選なのかを話し合ったりした。
おおまかにいって、僕と有紀子とはたまたま同じ屋根の下にいる昔なじみ
みたいに暮していた。そこには語られない言葉があり、語ることのできない
事実があった。でも僕らのあいだにはとげとげしい空気はなかった。ただ
有紀子が現行試験を受けないだけだった。
十月が近くなると僕らは別れて勉強した。僕は相変わらず論文答練を受講し、
有紀子は新司法試験の対策講座を選んでいた。あるいはそれが我々のあいだ
におけるおそらく唯一のかたちのある変化だったかもしれない。
結局のところ何もかも徒労に過ぎなかったのではないかと思うこともあった。
僕ら受験生は自分たちに振り当てられた論点をひとつひとつ思い出して答案
用紙に吐き出してきただけのことではなかったのか。だからそこから大事な
何かが失われてしまっても、技巧性だけでこれまでと同じように金太郎飴答案
を大過なく書ききれるのではないか。そういう風に考えると辛かった。この
ような空虚で技巧的な答案はおそらく試験委員の心を深く傷つけていること
だろう。でも僕らは今年も彼らの問いに答えることができなかった。
僕はもちろん司法試験と別れたくはなかった。それははっきりしていた。
でもそんなことを言えるような実力は僕にはなかった。それもはっきり
していた。現行試験がどこかに消えてしまってもう戻ってこないから、
すんなりとLawSchoolに行くというわけにはいかない。ものごとは
それほど簡単ではないし、またそれほど簡単であってはならないのだ。
それに加えて僕はまだ択一合格者数日本一の幻影を頭の中から追い払う
ことができずにいた。それはあまりにも鮮明でリアルな幻影だった。
幻影を見ることに疲れ果てると、僕は窓の前に立っていつまでも外の
風景を眺めていた。ときどき自分が、生命のしるしのない乾いた土地に
ひとりで取り残されてしまったように感じられた。幻影の群れが、まわり
の世界から親族や友人を残らず吸い尽くしてしまったようだった。目に
映るすべての論証や答案が、まるで間に合わせにつくられたもののよう
に平板であり、うつろだった。
僕は十五回受験した先輩ベテの消息を僕に教えてくれたあの大学時代
の同級生のことを思いだした。彼はこう言った。「みんないろんな勉強方法
を試してみる。いろんな落ち方をする。でもそれはたいしたことじゃないんだ。
あとには砂漠だけが残るんだ」
「でも砂漠でセックスするのも面白いかもしれないわね」
「砂漠でセックス。ナイル河でオナニー」
「あなたは本当に私と砂漠でセックスしたいの?」
「僕はもう既にそれを決めてしまったんだよ、島本さん」と僕は言った。
「でもねハジメくん、もうすぐ発表があるのよ、日本にいなくていいの?」
「顔色が悪いよ」と羊男が言った。
僕はソファーに腰を降ろし、何も言わずに缶ビールのふたを開けてひと口飲んだ。
「きっと越権行為でいいんだよ。慣れない人には領得行為説は訳がわかんないからね。
だいたい不法領得の意思を実現するすべての行為なんて、実行の着手時期に関する
主観説そのものじゃないか?不法領得の意思の飛躍的表動。客観説なら、自己の占有
する他人の所有物を侵害する現実的危険が生ずること、と定義すればいいんだ。
なのに、牧野・木村が越権行為説で、客観説の人たちがこぞって領得行為説なんだよ
ね。もう訳がわかんない」
「学者の休日に関する法律というのがあってね、その第一条では、横領罪については
学者の休日にする、と定められているんだ」
「わかるよ」と僕は言った。
羊男は何も言わずに僕を見ていた。マスクからのぞく目にはまるで表情というもの
がなかった。
「ねえ、ジェイ、司法浪人をしている時に金がかかったんだろ?」
「かかったよ」
「借金は?」
「ちゃんとあるよ」
「その小切手ぶんで借金は返せるかい?」
「お釣りがくるよ。でも・・・・・・今年で司法浪人が終るかどうかはわからないよ」
「いいさ、そのかわり僕と鼠が不合格になった時はここに迎え入れてほしいんだ」
「これまでだってずっとそうして来たじゃないか」
僕はビールのグラスを持ったまま、じっとジェイの顔を見た。「知ってるよ。でもそうした
いんだ」
ジェイは笑ってエプロンのポケットに小切手をつっこんだ。「あんたがはじめて司法試験
を受けた時のことをまだ覚えているよ。あれは何年前だっけね?」
「十三年前」
「もうそんなになるんだね」
>最初に誤解をといておきたいのだが、クミコが塾に戻るか戻らないかは私が決定
することではない。それはあくまでクミコが自分で判断することだ。先日のクミコとの
やりとりで君自身が確認したはずだが、クミコは司法試験をやめたわけではない。
私は身内として落ちつく場所を提供し、身柄を一時的に保護しているにすぎない。
だから私にできるのはクミコを説得して、君との話し合いの場を持たせることだけだ。
実際に私はコンピューターの回線を使って、クミコが君の講義をオンラインで受講
できるようにセットアップもした。私に具体的にできるのはそれくらいのことだ♂
「でもね岡田さん、受験生なんていつまでも続けられないですよ。人間というのは
いつかはこけるもんです。こけない人間はいません。人間が二本足で立って歩いて、
歩きながら女の裸を想像したり因果関係の錯誤の問題を考えるようになったのは、
進化の歴史から見たらついこないだのことです。こりゃね、こけますよ。勉強もしな
いで女の裸ばかり想像していたんじゃね。とくに今岡田さんが住んでいる司法試験の
世界では、九十八パーセントの人間がこけます。とにかくややこしい問題が多すぎるし、
ややこしいことが多いから成り立っているような世界だしね」
僕は顔をあげ、合格者掲示を見回し、息をのみこんだ。
壁を抜けたのだ。
僕の受験番号は、掲示板の右端に載っていた。受験期間がおそろしく長かったのと
同じくらい、僕は鮮明に完全に覚醒していた。その対比が極端だったので、自分の
覚醒に馴染むまでに少し時間がかかった。心臓が大きな音を立てて速い収縮を繰り
返していた。間違いない。僕は合格している。僕はやっとここに辿り着くことが
できたのだ。
「そして岡田さんはね、こういっちゃなんだけど、もうそろそろ転ぼうとしています。
わたしのカレンダーにはですね、もう一、二週間先にですが、大きな真黒な活字で
ちゃんとこう印刷してあるんです。岡田さんはもうすぐ転ぶことになるってね。ほん
とうですよ。脅しているんじゃありません。わたしは合格予想に関しては、テレビの
天気予報なんかよりずうっと正確です。だからわたしが言いたいのはですね、もの
ごとには引きどきというものがあるってことです」
牛河はそこで口を閉じて、僕の顔を見た。
私が今司法試験を受けているのは、好むと好まざるとにかかわらず、
ここが私に相応しい場所だからです。ここが私のいなくてはならない
場所だからです。私には選り好みをする権利はないのです。たとえ私
が合格したいと思ったところで、私ひとりの力ではどうにもできないの
です。私が合格したくないと思っていると、合格したいと思っていないと、
あなたは思いますか?
「いやね、何もベテだからいけないっていうんじゃないですよ。試験の世界って
いうのはね、岡田さん、一種の錬金術です。わたしはあられもない下品な答案が
実に立派な結果を生み出す例をいくつも見てきました。またその逆の例もいくつ
も見てきました。つまり高潔な大義みたいなのが腐り果てた結果を生み出すのも
見てきました。正直に言ってだからどっちがいいというようなものでもないんです。
試験の世界というのはですね、ああだこうだの理屈じゃなく出てきた結果が
すべてなんです。下品な言い方ですみませんがね、ちんぽの大きさと同じです。
大きい奴は大きいんです。わかりますかね?」
僕のまわりには祝福があった。
それはもう涸れた井戸ではなかった。僕は合格していたのだ。気持を
落ち着けるために僕は何度か深呼吸をした。なんてことだろう、合格し
ているのだ。風は冷たくはなかった。むしろ温かく感じられるくらいだ。
まるで昨夜行ったファッション・ヘルスの暖房のようだ。それからふと
思いついてズボンのポケットを探ろうとした。そこにまだレナちゃんの
名刺が入っているかどうか、僕は知りたかった。あそこで起こった出来
事はこの現実と繋がっているのだろうか?
良スレ
「ねえ、ワタナベ君。相当因果関係説折衷説の論証がよくわからないの。
構成要件は社会通念を基礎に類型化されているから、一般人の認識・予見
しえた事情を判断基底にするのは理解できるの。でも、行為者が特に認識
していた事情は、社会通念とは無関係でしょう?」
「そこは、構成要件が責任類型でもあるところから、行為者の認識を判断
基底にするといわれるね」
「そこがよくわからないの。責任の本質は非難可能性でしょう?非難と
客観的な因果関係とどういう繋がりがあるの?」
「それはね、昔の電気製品を思い出すと、わかりやすいと思うよ。
たとえば古くなったテレビの配線の具合がおかしくなってブラウン管
が映らなくなることがよくあったよね。そういうときには、『このオンボロ
テレビ!』と非難しつつぶん殴ると、配線がつながって映るようになったんだ。
折衷説も同じ。『このバカタレ行為者』と非難すると、因果関係がつながるんだよ」
「ねえ、岡田さん、ベテの受験生が誰かを憎むとき、どんな憎しみがいちばん強い
とあなた思いますか?それはね、ベテが激しく渇望しながら手に入れられないで
いる合格を、苦もなくひょいと手にいれている若手を目にするときですよ。自分が
足を踏み入れることのできない世界に、顔パスですいすい入っていく若手を指を
くわえて見ているときです。それも若手が身近にいればいるほど、ベテの憎しみは
募ります。そういうもんです」
僕は闇のずっと奥の方に、合格への微かな息吹きを感じとることができる。そう、
それでいい。あたりはとても静かだし、彼らはまだ僕の存在に気づいてはいない。
僕と合格を隔てている壁が少しずつゼリーのように柔らかく溶解していくのがわかる。
僕は息をひそめる。
今がそのときだ。
「ねえ岡田さん、合格した後で飲むビールのよく冷えた一本というのは、まったく
こたえられませんね。世の中には不合格のあとで飲むビールもビールであることに
変りはないっていう人もいますけど、いえいえわたしはそうは思いませんね。
不合格のあとのビールっていうのは、味がよくわからないくらい不味いですよ」
牛河ネタを議員板でやった椰子いるのかな?ちょっとシャレにならんね、
あそこでやると。
僕の予感は間違ってはいなかった。家に帰ったとき、猫が僕を出迎えた。僕は
パソコンのスイッチを入れ、法務省のHPにアクセスした。合格。僕は買い物の
紙袋を置き、猫を抱あげた。合格証はおばあちゃんの記名捺印か・・・。百合子タン
の方が萌えるけど・・・。まあいいや、もしかして孫は陽子かもしれないし。
「でもいいですよ岡田さん、うちの先生にはそうはっきり返事しておきましょう。
ただですね岡田さん、今年であなたの受験は終らないですね。たとえ岡田さん
の方がすっぱりと終わらせたいと思ったとしてもそう簡単には行きません。という
わけで、わたしはたぶん十月になるとあなたにパンフレットをお送りすることに
なると思います。だからちんちくりんで見苦しいパンフレットで申し訳ないです
が、どうかうちのパンフレットの大量送付に少しでも馴れるようにしてください
な。わたしは個人的には岡田さんに対して含むところは何ひとつありゃしませんよ」
僕にはわかっている。僕はなんとか合格できる場所に辿り着きたいと思っている。
でもそこに行くための方法も、そこでいったい何が僕を待っているのかも、残念
ながら今の僕にはまだはっきりとはわからない。司法試験の受験を始めて以来長い
あいだ、僕は真っ暗闇の中に放り込まれたみたいな気持ちでずっと暮してきた。
でも僕は、少しずつではあるけれど合格の核心に近づいている。その場所に近づいて
いると思う。僕はそのことをどうしても君に伝えたかったんだ。僕はそこに近づいて
いるし、もっと近づくつもりだ。
「ねえ、ワタナベ君。武蔵野に風が吹いて桶屋が儲かったら、武蔵野の風は
起訴されるの?何罪?」
「もののたとえさ」
「殺人犯を産んだ母親の出産行為は、殺人の実行行為なの?」
「もののたとえさ」
「でも、こんなこと誰が言ったの?」
「一休さんだろう?」
僕のちんこは再び君の肉体の中の僕であり、深い井戸の底に突き刺さっている。
壁にもたれ、手には乳房を握り締めている。君が次第に昂奮してゆくにつれ、君
の肌の火照りの感触が手のひらに伝わってくる。ちんこがまん汁で微かに湿って
いることがわかる。喉の奥で心臓が激しく音を立てている。耳には君の熱い吐息
の響きがまだ鮮やかに残っている。それから闇の中で体位がゆっくりと変えられる
音が聞こえる。僕は静かに腰を動かし始めた。でもその一瞬、すべてのイメージ
は消滅する。井戸は再び強固な壁になり、僕は井戸の外側にはじき返される。
「たしか君は司法試験を受験していたな」と男は訊ねた。「ベテについてどの程度
のことを知っている?」
「何も知らないのと同じですよ」
「知っていることだけを話してくれ」
「愚鈍目。雑食、群居性。たしかバブル期には推定三万人のベテが棲息していた
はずです。やればできると誤解した。そんなところですね」
「いや、いささか喋り過ぎました。悪いけどわたしのぶんのコーヒー代、
払っておいてくださいね。なにしろわたしは失業者ですからね・・・・・・、
といっても司法浪人もやはり失業者みたいなものですね。まあお互い
うまくやりましょうや。幸運を祈りますよ。十月八日。岡田さんももし
気が向いたら牛河の幸運を祈ってください」
牛河は立ち上がり、くるりと背中を向けて喫茶店を出ていた。
息をひそめて意識をひとつに集中すると、その部屋の中にあるものを目にする
ことができる。彼女はそこにはいない。でも僕はそれを眺めている。それはマン
ションの部屋だ。208号室。分厚い窓のカーテンはぴたりと引かれ、部屋はひどく
暗い。花瓶の中にはたっぷりとした花があり、その暗示的な香りが部屋に重く
漂っている。入口のわきには大きなフロア・スタンドがある。でもその電球は
朝の月みたいに白く死んでしまっている。でもじっと目をこらしているとそのうち
に、どこかからこぼれてくるらしいほんのわずかな光のおかげで、そこにあるもの
の形をなんとか認めることができるようになる。映画館の暗闇に目が馴れてくるの
と同じだ。部屋の奥のベッドにはひとりの女が横になっている。着衣はつけていない。
彼女が寝返りをうつと、かたちのよい乳房と太腿のつけ根の花弁が現れた。僕は
身を震わせた。淡い闇は彼女の花弁の輪郭を仄かに映しだす。開かれた花弁は闇の
中でその姿を濃密なものに変えてゆく。僕はウィスキーのグラスに口をつけ、その
液体を喉の奥に少しだけ流し込み、自分の股間のものの状態を確かめた。勃っている。
「現行受験生には未来はありませんからね」と僕は言って、牛河を無視して基本書に
目を走らせた。
牛河は笑った。「たしかにそのとおりだ。うまいことを言いますね。現行受験生には
たしかに未来はありません。名言です。あたしも手帳に書いておきたいくらいだ。
でもね岡田さん、なかなかそう物事がすんなりと進むわけじゃないんですね。たとえば
あなたは今年合格してしまえば現行試験とおさらばだと考えていらっしゃる。しかし
法務省というところはそんなに気がきいていません。彼らは実力ある受験生からしか
合格者をとれないんです」
しばらく留守にしていたら、ずいぶん伸びているわ。
牛河ネタ面白い。エロもずいぶんよくなったみたい。
翌日の朝、同じように電車に乗って高田馬場にでかけた。そして同じベンチに
座って基本書を読んだ。昼になるとコーヒーを買って飲み、ドーナツをひとつ
食べた。夕方のラッシュアワーになる前に電車に乗って帰宅した。その次の日も
まったく同じことの繰り返しだった。やはり何も分からなかった。何の発見も
なかった。謎は相変らず謎のままであり、疑問は疑問のままだった。でもほんの
少しずつ自分が不合格に近づいているという漠然とした感覚があった。僕は公表
された模範答案を見て、その近づきを目で確かめることができた。
彼女はそんな僕のとなりに腰を下ろし、黙って脚をくみ、バッグの口金を開けて
ヴァージニア・スリムの箱を取り出した。そして前と同じように僕の股間に手のひら
を置くと、ゆっくりとそこを撫で回した。前と同じくらいの速さで僕のものは勃起した。
彼女は僕のペニスを口にくわえ、それを細長い消しゴムくらいの大きさにまで成長
させた。それからサングラスを外してジャケットを脱ぐと、僕の右手を彼女の胸に
あてがった。僕は相手の目をみた。それは不思議な目だった。そこには奥行きがあって
表情がなかった。
「ここが目的地なの?」と彼女が訊ねた。
「いや、違うよ。ここでもうひとつ列車を乗り換えるんだ。我々の目的地はこれより
ずっと小さいロースクールさ」
次スレ「村上春樹的司法試験5」では、Afterdark解禁でつか?
↓
僕は再び太りつつある。
↓
「それからね岡田さん、あるいは余計なお節介かもしれませんが、世の中には
一生受からないでいた方はいいというベテだってやっぱりいます。しかしそういう
ベテにかぎって熱心に受かりたがる。不思議なものです。あくまで一般論です
がね・・・・・・。またいずれお会いすることになるでしょう。そのときに状況が良い方
に変っているとわたしとしても嬉しいんですがね。それではおやすみなさい」
951 :
氏名黙秘:04/10/02 10:55:15 ID:tyY2s0fR
あげんとな
「そうそう、現行試験の話の続きだったですね」と牛河は思いだしたように言った。
「ここでひとつ正直に告白しますとね、わたしはこれまで一度も択一試験に合格し
たことがないんです。論文を受験する栄誉を賜ったことがないんです。答練で答案
書くだけなんです。法務省はですね、岡田さん、わたしだけじゃなくて一切のマーチ
に冷たいんです。わたしはそれを法務省のお掃除のおばちゃんから直接に聞いたんです」
953 :
氏名黙秘:04/10/02 15:32:05 ID:D9RnEYwE
壁に取り付けた鉄の梯子をつたって真っ暗な井戸の底に降りると、
僕はいつものように手探りで、壁に立てかけておいたイチローの
バットを探し求める。イチローが年間最多安打を放ったときの記念
すべきバットだ。井戸の底の暗闇でその傷だらけのバットを手に
すると、不思議なくらい気持が安らいだ。それはまた僕の意識の
集中を助けてくれもした。
「でも三年やっただけじゃ合格できなかった。そこに岡田さん、放下大学院のことが
突然からんできたんですね。しかしいやいや驚きましたね。まことに失礼な言い方だ
とは思いますけれど、海老で鯛を釣るというのはこのことですね。多くのベテを釣り
あげることができました。あとは岡田さん、あなたひとりだけなんです」
「僕は現行試験のことを愛している。それはたしかだ。僕が現行試験に対して抱いて
いる感情は、他のなにものをもってしても代えられないものなんだ」と僕は言った。
「それは特別なものであり、もう二度と落ちるわけにはいかないものなんだ。僕は
これまで何度も試験に落ちてきた。でもそれはやってはいけないことだった。間違った
ことだったんだ。僕は司法試験の姿を見失うべきではなかった。この何ヶ月かのあいだ
に、僕にはそれがよくわかったんだ。僕は本当に司法試験を愛しているし、現行試験の
ない浪人生活にはきっと耐えることができない。もうどこにも行ってほしくない」
僕は黙って牛河の頭を眺めていた。そこには光の角度によって幾つかの奇妙な
くぼみが生じていた。
「大丈夫、岡田さんは受かりやしません」と牛河は笑って言った。「もし受かった
としても、口述の迷路をくぐり抜けているあいだに、どこかで何かにぶつかっちゃ
います。がつんってね。大きなたんこぶができます。試験委員だってね、これは
真剣にやっているんだから、岡田さんなんか合格させたくないです。同じ合格者
を取るなら、岡田さんのような糞ベテよりは若いところからすんなりと取るほうが
合格者平均年齢が下がっていいじゃないですか。どこから取ろうがたいして成績は
変わらないんだから」
957 :
氏名黙秘:04/10/03 07:54:51 ID:xRJmSOvz
>>957 京香さんの記事、写真つきじゃなかったぽ_| ̄|○
牛河ねた、続ききぼん。
牛河ねたも少し飽きてきちゃったわ。
Afterdarkの発売にあわせて、旧作もハードカバーで復刊しているらしいわよ(^ー°)ゞ
ヴァージニア・スリムで1000を目指せ!
やれやれ
964 :
氏名黙秘:04/10/05 12:51:00 ID:nmxXxOgA
職人さんは、今日もお休みでつか?
「君はもう死んでいるんだろう?」 ベテが答えるまでにおそろしいほど長い時間がかかった。
「そうだよ」とベテは静かに言った。「俺は死んだよ」
「まだ受からないの?」と僕は訊ねてきた。
「まだ受からないよ」とベテは答えた。
「受験番号を探してたんだよ」と僕は息をついてから言った。
「知ってるよ」と羊男は言った。「探しているところが見えたもの」
「じゃあ、どうして声をかけてくれなかったんだ?」
「あんたが自分で見つけ出したいのかと思ったんだよ。で、黙ってたんだ」
それで見つかったの?
「できれば君の方から質問してくれないか?君にももうだいたいのところはわかっているんだろう?」
羊男は黙っていた。「合格者の順序がばらばらになるけどかまわないか?」
「かまわないよ」と僕は答えた。
「君はもう死んでいるんだろう?」
>>965へ永遠のループ
それはひとつの顕れです。〈不合格になった〉というのは、もっと長い時間のこと
です。それは前もってどこかの真っ暗な部屋の中で、私とはかかわりなく誰かの手
によって決定されたことです。しかしあなたと知り合って受講したとき、そこには
新しい別の可能性があるように見えたのです。このままどこかの出口にうまくすっ
と抜けられるのではないかと私は思いました。でもそれはやはりただの幻影にすぎ
なかったようです。
ねじまき鳥さん、正直に正直に正直に言っちゃうと、私はときどきものすごく
こわくなります。うまくいえないんだけど、最近になってバイクの事故で死んだ
男の子のことをちょっと考えたりします。正直にいってこれまでそんなに思いだ
さなかった。不合格のショックで、私の記憶みたいなのが、ぐにゅっと変な風に
ゆがんでしまったのでしょうか?
できたらあなたにこういう風に考えてほしいのです。つまり私はゆっくりと
不合格に向かって、身体や顔かたちが崩れていくような種類の治る見込みの
ない病にかかっているのだと。
ベテがようやく気を取り直したように、一匹また一匹と泣き始めた。やがて
それに混じって糞ベテの泣き声も聞こえた。糞ベテはまるでねじを巻くような
奇妙な特徴のある声で鳴いた。ギイイイイイイ、ギイイイイイイと。彼は二十
歳のときに北海道の山村から司法試験の合格を目指して上京し、一年前に平安
がなくなるまで、農耕の手伝いをしながら受験勉強をした。しかし、不思議な
ことに三十歳になる今日まで、合格することはなかった。
「でもね、不合格と言われて『へい、そうですか。わかりました』って簡単に
引き下がるわけにはいきません。そんなことしたらこの牛河が先生にえらいこと
どやされます。相手が司法試験だろうが、土塀だろうが、そこにちょいと合格点
をつけてみる・・・・・・それがわたしたちのやってる仕事なんです。合格点ですね。
冷蔵庫を売ってもらえなかったら氷を買って帰る、この精神です」
979 :
氏名黙秘:04/10/06 22:39:21 ID:nwenC6hb
ロー内部ネタキボンヌ
>>979 俺はHarvardしか知らないけど、いいの?
春樹さんの小説にバリー・ハリスのレコードは登場してたかしら?(^ー°)ゞ