◆◆◆2002年ネット受験生論文結果発表vol.5◆◆◆
憲法:総合B
憲法1問
一 A市図書館運営規則に基づくCによる閲覧禁止処分により、Aの知る権利が害されないか。
知る権利が何条で保障される権利か、そして保障されるとしてその権利に対する制約として
本件処分が適切なものかが問題となる。
ニ 1知る権利は明文ないが、21条1項で保障されると解する。
なぜなら、21条1項が保障する表現の自由は、表現行為により自己の人格を成長発展させる
自己実現の価値と、表現行為を通じて民主政の発展に資するという自己統治の価値を有する
ところ、現在では表現の送り手と受け手の分離・固定化が進み、一般国民は受けての側に固定
されているので、受け手の側から表現の自由を再構成する必要があるからである。
そして、本件のAの権利は、知る権利のうち自由に情報を受け取ることを妨げられないという
知る権利の消極的側面の問題であり、上述の知る権利の意義からは最大限の保障を要する。
2ただ、知る権利も無制約に保障されるものではなく、人権相互の矛盾・衝突防止原理である
公共の福祉(12条・13条)による内在的制約に服する。
そして、その制約としては、知る権利の重要性から、規制目的が重要であり、規制手段が
規制目的と実質的関連性があるものであることを要すると解する。
続き
三 本件処分の目的は、少年法61条の趣旨である少年の可塑性への期待とそのための少年の
プライバシーの保護にある。
そして、プライバシー権は明文ないが、自己の人格的生存に不可欠な権利なので、新しい
権利として13条により保障される。
かかる重要な権利であるプライバシー権を守るという本件規則に基づく処分の目的は重要である。
次に、手段だが、すでに本件雑誌は一般に対する発表済みのものである。そして、少年の
プライバシーについても、無制約に保障されるものではなく、その表現行為が社会の正当な
関心事であり、表現目的や方法が社会通念上妥当なものであれば、その表現行為により
プライバシーが侵害されたということはできない。
なぜなら、少年法61条が罰則を規定していないことは、必ずしも実名報道などを一律に
排除する趣旨ではないからと解されるからである。
本件では本件雑誌の表現がいかなるものかは不明だが、上記要件によりプライバシーの
侵害があるか否かに関わらず一律に閲覧を禁止することは、上述の知る権利の重要性
から考えるとプライバシー保護という目的と実質的関連性があるとはいえない。
四 よって、本件処分は違憲である。
以上
憲法2問
一 現行憲法は、国家の作用を立法・行政・司法に分けて相互に抑制・均衡させることにより
国家権力の濫用を防止し、国民の権利・自由を擁護することを目的とする三権分立原理を
採用する(41条・65条・76条1項)。そして、司法権は裁判所に属する。これは、
独立・公正が保障された裁判所(76条3項)による事後的な人権保障を図る趣旨である。
そして、司法権とは具体的な争訟に法を適用・宣言することによりこれを裁定する国家の作用をいう。
裁判所がこの司法権を行使するには、上述の三権分立の趣旨から、具体的事件性の存在、
および法律の適用による終局的解決可能性が必要である。
では、以下の各小問ではこの要件を満たし、司法権を行使しうるか。以下個別に検討する。
ニ 小問1について
1裁判所は法案の成立前に当該法案の無効宣言をなしうるか。
2本件では、未だ法案は成立しておらず、その法律に基づく具体的な人権侵害などは生じていない。
そのため、事件性の要件を欠くといえる。
また、この場合に司法権の行使を認めては、三権分立に反することになる。
3よって、本件では司法権を行使し得ない。
三 小問2について
1B宗教の教義の違憲の確認をなしうるか。
2まず、Bらの行為によりCらの人権が侵害されていないような場合には未だ事件性の
要件がないといえ、この場合は司法権を行使し得ない。
これに対し、もしBの教義に従った信者らの具体的な行動によりCらの信教の自由(20条)が
害されることがあったような場合には事件性の要件があるといえる。
しかし、かかる場合にBらの行為の不当性を認定するには、B宗教の教義について裁判所が
判断を下さなければならなくなる。
しかし、宗教の教義の妥当性の判断は法的判断とはそぐわず、法を適用することにより
終局的な解決がなしえないといえる。
よって、終局的解決性の要件を欠く。
3しかし、かく解するとCらの裁判を受ける権利(32条)を害しないか。
思うに、32条の趣旨は、公平・中立・適正が保障された裁判所による裁判を受ける権利であり、
宗教の教義につき判断を下すような裁判所ではその中立・公正に反することになる。
そのため、32条には反しない。
4よって、本件では司法権を行使し得ない。
四 小問3について
1返還請求に対して司法権を行使しうるか。
2まず、税金の徴収という具体的事件性はある。
また、裁判の確定によりその税金の返還が認められるので、終局的解決可能性もある。
しかし、自衛隊の合憲性の判断は、直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある
事項にあたり、統治行為に当たる。
かかる事項の判断は、非民主的機関である裁判所がなすべきではなく、
主権者(前文、1条)である国民の判断に任されるべきである。
3よって、裁判所は司法権を行使しえない。
以上
民法:A
民法1問
一 小問1(1)について
1(1)BがCに対する返還請求をなしうるには、AC間の売買契約がBに帰属せず、
甲地の所有権(206条)がいまだBに帰属していることが必要である。
では、いまだBに所有権が帰属するといえるか。まず、本件売買が826条1項の
利益相反取引にあたり、Bに効果が帰属しないのではないかが問題となる。
(2)826条1項の趣旨は、親による子の利益の侵害を防止することと、取引の
相手方保護との調和を図る点にある。
そのため、利益相反行為に当たるか否かは行為の外形から形式的に判断すべきである。
(3)本件Aの行為は、形式的外形的に判断すれば親権者たるAの通常の財産処分
行為にあたり、利益相反行為には当たらない。
2(1)では、Aの行為が権利濫用にあたり効果不帰属でないかが問題となる。
(2)824条1項の趣旨は、新件の適正な行使により子の利益を保証することにある。
そして、特に826条を設けた趣旨から、826条に当たらない行為は権利濫用には
当たらないと解するべきである。
ただし、相手方が親の意思を知り・知りえた場合には93条ただし書を類推適用
してその行為は無効となると解する。
なぜなら、自己の利益を図る意思と子の利益を図るという表示との間に不一致が
あり、類推の基礎があるからである。
(3)本件では、CはAの意思を知っている。
よって、本件行為は無効であり、Aに効果帰属しない。
3よって、Aは所有権に基づきCに返還請求しうる。
ニ小問1(2)について
1CがBに本件土地を返還したことにより、CはBに対して不当利得に基づき500万円の
返還請求をなしえないか(703条)。Bに利得があるといえるかが問題となる。
2不当利得の趣旨は、利益の移転に法律上の原因を欠く場合の当事者間の公平を
図ることにある。
そのため、利得の有無は、請求の相手方に生じているか否かにより判断すべきである。
3本件では、Aは自己の債務の弁済に500万円を使用しており、Bにはなんら利得が
ないといえる。
4よって、CはBに不当利得を請求し得ない。
また、かく解しても、CはAもしくはDに不当利得返還請求をなしうるので不当ではない。
三小問2について
1本件売却時においてはAはBの教育資金に代金を利用する意思があったので、
権利濫用にはあたらないといえる。しかし、その後考えを変えてDに対する
債務の弁済に用いている。
そこで、BはDに対して不当利得を請求しうるか。Dの利得に「法律上の原因」が
あるといえるか、そしてDの利得とBの損失との間に因果関係があるといえるかが問題となる。
2上述の趣旨からは、行為者の意思を知った上で債務の弁済を受けたものは、
公平の理念から損失者との間では法律上の原因がないといえる。
また、因果関係に関しても、公平の理念から直接・間接を問わないと解する。
3本件では、DはBの意思を知っていた。
そして、Dの利得とCの損失との間には間接的な因果関係があるといえる。
4よって、本件では不当利得に基づき500万円の返還請求をなしうる。
以上
民法2問
一 BC間の関係は債権関係であり、本来当事者間のみに妥当する相対的な関係である。
しかし、金銭債権の場合、その内容は透明なものであり債務の弁済者が誰であるかは通常債権者にとっては関心がないものである。また、第三者にとっても債務の弁済をなすことにつき利害関係がある場合がある。
そのため、第三者による弁済が認められる。ただ、一方で、債務者の意思を尊重する必要がある。
では、具体的にはいかなる場合があるか。以下検討する。
ニ AC間の合意が不要な場合
1まず、第三者弁済(474条1項2項)が考えられる。
これは、通常債務の弁済者が誰かにつき債権者は関心がないこと、そして第三者に弁済の利益がある場合があることから認められた。
ただ、第三者に「法律上の利害関係」がない場合には債務者の意思を尊重する必要があるので、債務者の意思に反してはなしえない。
本件では、ABは親子であり、相互扶助義務がある(730条)。
よって、Aには法律上の利害関係があるといえ、Bの拒否に関わらずAは弁済をなしうる。
2また、明文ないが、債務引受のうち履行引き受け及び並存的債務引受をする場合がある。
これは、債務者と引受人との間での契約なので、債権者の合意は不要である。
ただ、債務者Bとの契約なので、Bの意思には反しえない。
三 AC間の合意が必要な場合
1まず、更改(514条)が考えられる。
これは、上述のよう第三者の弁済を認める必要があることから認められた。
そして、これは債務者が変更することになるので債権者の利益を保護するために債権者と新債務者との契約になる。
ただ、この場合も旧債務者の合意が必要である。
2次に債務引受のうち面積的債務引受がある。
これは明文ないが上述のような趣旨から認められる。
そして、これは債権者、旧債務者のいずれの利益や意思を無視することもできないので三面契約による必要がある。
3次に、Aが保証人(446条・454条)となることが考えられる。
これは、保証人と債権者との間の契約なので、債務者の意思に反してもなしうる。
以上
商法:D
商法1問
一 本件ではA社とB社が合併(408条)しているが、合併は会社の基礎に重大なる変更を生じさせるものなので、会社の実質的所有者である株主の保護の必要性がある。
では、いかなる方法で保護されうるか。
合併契約書の承認の前後に分けて検討する。
ニ承認前について
1まず、合併の内容につき情報開示がなされる(408条の2第3項)。
2また、A社が有するB社の株式は60%に過ぎず、特別決議(408条3項・343条)をなすには足りない。
そこで、Xとしては、他の少数株主の合意を得ることにより本件決議を否決させることができる。
そこで、XはB社に株主名簿の公開を要求して(263条3項)、株主間での意見交換をなすことが考えられる。
3次に、株主総会において検査役の選任を要求して、総会決議の適正を図ることが考えられる(237条の2)
4また、取締役の説明を求めうる(237条の3)。
三承認後について
1(1)まず、合併無効の訴え(415条1項)をなすことが考えられるが、無効原因について明文の規定がないため、本件決議が無効原因に当たるかが問題となる。
(2)法が合併の無効につき一般条項によらず、合併無効の訴えを定めたのは、無効による影響が大きいため法的安定性を図る趣旨である。
そのため、無効原因は特に重大な違法があった場合に限られると解する。
(3)本件では、A社もB社も、ここ10年間ほどの1株あたりの純資産額も1株あたりの配当もほぼ同じであった。
それにもかかわらず、合併比率はB社3株に対してA社1株というものである。
B社がA者の子会社であることを考慮したとしても、かかる比率での合併は、不当にB社の少数株主の利益を害するものといわざるを得ない。
(4)よって、本件決議の違法は重大であり、無効原因に当たる。
よって、合併無効の訴えを提起しうる。
2また、株主の投下資本の回収のため、株式買取請求をなしうる(408条の3)。
以上
商法2問
一 小問1について
1EからBに対して遡求権(43条1号)を行使するためには、遡求権は手形上の二次的・従属的な権利なので、Eが形式的資格を有し、実質的にも無権利でないことが必要である。
では、Eはこの要件を充たしているか。
2まず、形式的資格を有するか、本件手形には裏書の連続が認められるかが問題となる。
裏書の連続とは、受取人から最終の被裏書人にいたるまで、各裏書の記載が間断なく続いていることをいう。
そして、裏書の連続を要求した法の趣旨は、裏書の連続により権利移転効力を認めることにより手形の流通を促進することにある。
そのため、裏書の連続の有無に関しては、できる限り要件を緩和すべきである。
そのため、白地式裏書でも裏書の連続が認められると解する。
3では、Eは実質的権利を有するといえるか。
まず、BはCに手渡すべくDに本件手形を託したのであり、かかるDから譲り受けたEは本件手形上の権利を承継取得し得ない。
そこで、Eが手形上の権利を善意取得(16条2項)しえないかが問題となる。
善意取得は、手形の外観を信頼したものを保護し、手形の流通を図る趣旨である。
そして、手形の満期後においては手形の流通を図る必要がない。
本件手形は、Aが5月31日を満期として振り出したものであるが、Eが取得したのはDが満期を7月1日と書き換えた手形である。
そこで、Eが期限後裏書(20条1項)を受けたことになるのではないか、本件手形が変造手形(69条)に当たるのではないかが問題となる。
変造とは、手形債務の内容を決する手形面上の記載に無権利者がほしいままに変更を加えることをいう。
そして、手形の満期は手形債務の内容を決するものといえる。
よって、手形の満期の書き換えは手形の変造に当たる。
よって、変造前のBとの関係では、本件手形の満期は5月31日のままということができ、6月10日に裏書を受けたEは期限後裏書を受けたことになる。
よって、Eの裏書は期限後裏書ということになり、16条2項の適用はない。
4よって、Eは善意取得しえない。
よって、EはBに対して遡求権を行使しえず、手形上の権利を行使し得ない。
ニ 小問2について
1では、Dに対しては遡求権を行使しうるか。
2変造者たるDは、変造後の所持人といえる。
そのため、Dとの関係ではDは変造後の文言に従って責任を負う。
よって、Dとの関係では本件手形の満期は7月1日であり、Eの裏書は期限後裏書にはあたらないことになる。
3よって、EがDの無権利につき善意無重過失であれば、Eは手形上の権利を善意取得しうる。
4よって、EはDに対して遡求権を行使することができ、手形上の責任を追及しうるといえる。
以上
刑法:B
刑法一問
一 乙の罪責について
1Aについて
(一)乙のAに対してコンクリート片を投げる行為は、Aの身体機能に障害を加える行為といえるので、傷害罪(204条)の客観的構成要件を充たす。
また、Aはそれを認識しているので、構成要件的故意もあるといえる。
よって、乙はAに対する傷害罪の構成要件を充たす。
(ニ)(1)しかし、乙はAが殴りかかってきたのを避けるために本件行為に及んでいるので、正当防衛(36条1項)が成立しないかが問題となる。
(2)正当防衛は、緊急状態下の法の自己保全として違法性が阻却されるものである。
そして、違法性の本質については争いあるも、法益侵害のみならず行為態様の社会的相当性の欠如に本質があると解する。
そのため、社会的正当行為としての正当防衛が成立するには、主観的正当化要素としての防衛の意思が必要と解する。これは、「ため」という文言にも合致する。
そして、防衛の意思の内容としては、緊急常態化における行為なので、急迫不正の侵害を認識してこれを避けようとする意思で足りると解する。
本件では、乙は「けんかの加勢くらいはしてやろう」という意識を有していたが、積極的加害意思を有するものではなく、いまだ急迫不正の侵害を認識してこれを避けようとする意思しか有していないといえる。
よって、乙には防衛の意思があるといえる。
(3)そして、急迫不正の侵害があったかが問題となるが、法が侵害の急迫性を要求したのは、過去もしくは将来の侵害に対する正当防衛の成立を否定するためである。そして、法は予期された侵害を避ける義務を負わせるものではない。
よって、乙が「けんかの加勢くらいはしてやろう」という意識を有していたとしても、いまだ侵害の急迫性が認められる。
(4)そして、鉄棒での侵害に対し、コンクリート片を投げる行為はいまだ相当性を失うものではない。
(5)よって、乙には正当防衛が成立し、違法性が阻却される。
よって、乙には犯罪が成立しない。
2Bについて
(一)Bに対して頭部打撲傷を与える行為は、傷害罪の客観的構成要件に該当する。
しかし、乙はそれを認識していない。
そこで、乙に故意(38条1項)が認められるかが問題となる。
思うに、故意責任の本質は規範に直面して反対動機の形成が可能なのにもかかわらずそれを乗り越えて犯罪にいたったことに対する道義的避難にある。
そして、規範は構成要件という抽象化した形で与えられている。そのため、故意も構成要件の範囲で抽象化しうると解する。
そして、故意の内容を抽象化しうるので、故意の個数も抽象化しうると解する。
かく解しても、観念的競合が成立するに過ぎず(54条1項)、被告人に不当な不利益は生じない。
そして、本件では「およそ人」であるAに対する傷害の故意があるので、Bに対する傷害の故意を認めうる。
よって、乙に故意責任を問いうるので、傷害罪の主観的構成要件も充たす。
(ニ)しかし、乙の行為はAからの侵害を避けるために行ったものである。そこで、Bとの関係で緊急避難(37条1項)が成立しないかが問題となる。
まず、緊急避難も、正当防衛と同じく緊急状態下における法の自己保全として違法性が阻却される。そのため危難の意思が必要である。
そして、防衛の意思と危難の意思の内容は共通するので、乙には危難の意思があるといえる。
そして、Bとの関係ではAによる侵害は「現在の危難」に当たる。
そして、鉄棒による侵害とコンクリート片による侵害とは、後者による侵害が前者による侵害を超えるとはいえない。
よって、緊急避難が成立する。
よって、乙には犯罪が成立しない。
ニ 甲の罪責について
1Aとの関係について
甲自身は実行行為を行っていない。しかし、甲乙間では相互に心理的・物理的影響力があり、相互利用補充関係が認められるので、共謀共同正犯が成立し、甲との関係でも傷害罪の構成要件を充たすといえる。
そうだとしても、甲との関係で正当防衛は成立しないか。甲は、「この機会にAを痛めつけよう」との意思を有していたので、防衛の意思があるといえるかが問題となる。
前述の正当防衛の趣旨からは、積極的加害意思がある場合には主観的正当化要素としての防衛の意思があるとは認められない。
よって、甲には防衛の意思がないといえ、正当防衛は成立しない。
よって、甲には傷害罪が成立する。
2Bとの関係について
本件でも傷害罪の客観的構成要件を充足する。
そして、主観的構成要件だが、前述の通り、Aに対する傷害の故意があるのでBに対する傷害の故意を認めうると解する。
そして、違法性阻却事由としての緊急避難が成立しないかが問題となるも、積極的加害意思があるので危難の意思が認められない。
よって、緊急避難は成立しない。
よって、甲には傷害罪が成立する。
3よって、甲にはAに対する傷害罪とBに対する傷害罪とが成立し、両者は一個の行為で二つの結果を生じさせたものなので、観念的競合となる。
以上
刑法2問
一 宝石を売却した行為
1本件宝石は詐欺罪(246条1項)によって取得されたものなので、「財産罪に対する〜〜」(250条2項)にあたる。
そして、それを100万円でCに売却しており、これは「有償の処分あっせん」にあたる
そして、甲は本件宝石が盗品等であるということを知った上で売却をしており、故意も認められる。
よって、甲には盗品等有償処分斡旋罪が成立する。
2では、Cに対して盗品等であることを隠して売却した点につき詐欺罪が成立しないか。
思うに、盗品等有償処分斡旋罪においては、盗品であることを隠した上で処分がなされるのが通常である。
よって、盗品等有償処分斡旋罪は詐欺罪を内包するといえる。
よって、詐欺罪は成立しない。
ニ代金のうち30万円を自己の借金の返済に使った点
1個の行為が横領罪(252条1項)に当たらないか。「横領した」といえるかが問題となる。
2横領罪は、委託信任関係に反して任務違背行為をする行為を罰するものである。
よって、「横領」とは、他人の財物を自己物として利用処分する意思をいうと解する。
3本件代金は盗品等の売却代金であるが、刑法においては全体的な財産法秩序を守る必要性があるので、かかる金銭も「他人の物」といいうると解する。
そして、盗品の処分であっても、特定の財産を処分するという委託信任関係が成立しているといいうる。
4よって、横領罪が成立する。
三「70万円でしか売れなかった」といって70万円しか渡さなかった点
1かかる行為が詐欺罪に当たるか。
2思うに、横領罪も詐欺罪も財産犯であり、本件行為は横領好意の責任を免れるために行ったものといえ、もはや横領罪で評価し尽くされている行為といえる。
3よって、本件行為は不可罰的事後行為に当たる。
4よって、犯罪は成立しない。
四 よって、本件では盗品等有償処分斡旋罪と横領罪が成立し、両罪は別個の行為であり目的・手段の関係にも立たないので併合罪(45条)に当たる。
以上
民訴:F
民訴1問
一 民事訴訟においても、裁判の公開を定める憲法82条1項を受けて、手続が公開されるのが原則である。
裁判の公開の趣旨は、裁判を国民に監視させることにより、当事者のみならず国民一般の裁判の公正・適性に対する信頼を確保することにある。
そして、これを受けて民訴87条1項では必要的口頭弁論の原則を定めている。
これは、判決で裁判をするには公開法廷で当事者双方が対席の上弁論・証拠調べをするという口頭弁論を強制するもので、これにより裁判の公開が保護される。
しかし、手続においては例外的に非公開とされる場合がある。
具体的にはいかなる場合があるか、以下検討する。
ニ 準備段階において
口頭弁論の準備として、準備手続がなされるが、そのうち弁論準備手続(169条2項)は原則として非公開とされる。そして、書面による準備手続は非公開である(175条)。
この準備手続は、上述の口頭弁論の準備段階として、口頭弁論での審理の充実を図るためのものである。
このうち弁論準備手続においては、審理の中心はあくまでも口頭弁論なので、その準備段階を公開することにより適正・公正を図る必要性は低い。
よって、原則として非公開とされる。
そして、書面による準備手続は、書面審理なので公開の必要性がさらに低いといえる。
よって、これは非公開とされる。
三 証拠調べ段階において
1まず、証人尋問において、証人が圧迫される恐れがある場合には、傍聴人の退廷が認められる(規則121条)。
これは、証人の自由な証言を通じて真実発見を図るためである。
2次に、文書提出命令においては、一定の非開示事由が定められている。
これは、開示することによる不都合性を回避するためである。
しかし、この非開示事由に当たるかの審査が必要である。
そして、この審査を公開で行ったのでは、非開示事由を定めた趣旨が没却される。
よって、非開示事由に当たるか否かの判断はインカメラ手続として非公開でなされる(223条6項)。
3そして、当事者の秘密についても、憲法82条2項の「公序良俗」を広く解することにより、非公開で審理をなしうると解する。
なぜなら、そもそも憲法82条1項が裁判の公開を定めたのは当事者や国民の信頼を確保するためであり、公開することによりむしろ当事者の信頼を害するようなことになっては元も子もないからである。
ただし、あくまでも公開が原則なので、「公序良俗」に反するといえるためには、公開することによる損害が著しく、その秘密に基づく活動が著しく困難になるような場合に限られると解する。
よって、かかる場合には非公開となる。
以上
民訴2問
一 本件訴訟は氏名冒用訴訟に当たるが、この場合の当事者は誰か。当事者の確定基準が問題となる。
当事者に対して訴状の送達を行う必要があるので(101条)、当事者は訴訟の開始時から確定されている必要がある。そして、当事者に対して既判力が及ぶので(115条1項1号)、その基準は明確なものである必要がある。
よって、訴状の当事者欄の記載(133条2項1号)を基礎として、請求の原因や理由などから総合的に判断すべきである。
本件では、当事者欄の記載は乙であり、請求原因は乙に対する所有権移転登記請求なので、当事者は乙といえる。
ニ 小問1(1)について
本件では、丙の氏名冒用が判明している。
そして、丙は乙の授権をえていないので、無権利者に当たる。
よって、裁判所は補正を命じ、授権をえることを求めることになる(34条1項)。
しかし、丙が甲と通じている以上、乙の授権がえられるとは思えない。
よって、裁判所は不適法なものとして訴えを却下すべきである(140条)。
三小問1(2)について
1判決の既判力が「当事者」に及ぶので、本件訴訟の既判力が乙に及ぶことになる。
しかし、既判力が認められるのは手続保証の用件が充足したことによる自己責任によるものである。
そして、本件では乙は手続保障の要件を充足しているとはいえない。
そこで、乙としては判決の更正を求めることになるが、控訴機関が経過しているので控訴をなしえない。
では、再審請求をなしうるか、338条1項3号の「授権」を経ていないといえるかが問題となる。
2 338条1項3号が再審を認めたのは、手続関与の機会を与えられなかったものに手続関与の機会を与える趣旨である。
そのため、無権利者による訴訟追行も「授権」がなかった場合といえる。
3本件では、無権利者たる丙による訴訟追行がなされており、「授権」がなかったといえる。
よって、乙は再審請求をなしうる。
四小問2について
本件では、「当事者」たる乙が死亡している。
そのため、訴えの利益を欠くものとして訴えが却下されるのが原則である。
しかし、それが看過されて判決が確定している。
そのため、口頭弁論終結後の承継人たる丁(115条1項3号)に既判力が及ぶことになる。
しかし、前述の通り丁には手続関与の機会がなかった。
よって、上述と同様に338条1項3号により上訴をなしうる。
以上
刑訴:A
刑訴1問
一 1レントゲン撮影をした上で、下剤を用いて大麻樹脂を対外に排出させ、それを押収する処分は強制処分に当たるか。当たるとすれば令状を要することになるので(197条1項ただし書)問題となる。
2 197条1項ただし書が強制処分法廷主義を定めた趣旨は、刑訴法の目的である人権保障と真実発見(1条)の調和を図るために、人権侵害の恐れが著しい場合には公正な第三者たる裁判所の令状による審査を要求したものである。
そうすると、強制処分とは必ずしも有形力の行使を伴う処分に限られず、被告人や被疑者の意思を制圧し、重要な権利利益の制約を伴う処分を広く含むと解すべきである。
3本件では、レントゲン撮影により強制的に体内の状態を認識させられており、さらに下剤によって強制的に体内の物を排出させられている。これは、人の生理的機能を害するものと言え、甲の権利の制約を伴う処分といえる。
また、かかる状況下では甲の意思が制圧されているといえる。
4よって、本件処分は強制処分にあたり、令状が必要になる。
ニ1では、いかなる令状によるべきか。必要とされる令状は捜査の性質によって異なるので、レントゲン撮影をし、その後下剤によって大麻樹脂を対外に強制的に排出させ、それを押収するという処分の性質が問題となる。
2まず、レントゲン撮影は、高度な知識経験を有する人による、事実の法則を適用してえられた事実たる体内の状態を認識する処分なので鑑定に当たる。
よって、鑑定処分許可状(223条1項)によることになる。
3では、下剤を用いて大麻樹脂を対外に排出させ、それを押収する処分の性質はいかなるものか。
この点、大麻樹脂は体内に吸収されることなくいずれは対外に排出される無価値物なので、それを押収することは物の占有を強制的に取得する捜索差押令状(218条1項)によるとも思える。
しかし、下剤によって強制的に体内の物を排出させることは、人の生理的機能を侵害するものであり、人の身体に作用する処分なので、身体検査令状(218条1項)によるべきである。
そして、この場合人の身体に対する影響が大きいので、医師の定める条件によるべきである(218条5項)。
そして、身体検査令状によることによって、直接強制が可能となる(222条1項、137条1項)。
4このように、鑑定処分許可状と身体検査令状の併用が必要ということになる。
以上
刑訴2問
一 1本件で訴因変更をなす前提として、「3月18日ころ」「若干量」という記載で訴因が特定(256条3項)しているか、していないとしたら起訴が不適法なものとして控訴棄却の判決(338条1項4号)をすることになるので問題となる。
2訴因の特定の趣旨は、裁判所に対して審判対象を告知することおよび被告人に対して防御の範囲を告知することである。特に、刑訴法の目的たる人権保障(1条)からは、後者が重要である。
それゆえ、訴因の特定が要求される。
しかし、犯罪の性質によっては訴因の厳格な特定が困難な場合があり、かかる場合に厳格な訴因の特定を要求してはかえって過酷な取調べを招くことになり、妥当でない。
また、上述の訴因の特定の趣旨からは、被告人の防御を害しないならある程度幅のある記載も可能であると解する。そして、かく解することが「できる限り」という文言にも合致する。
3本件訴因は覚せい剤使用罪であり、これは被害者が存在せず、反抗の密行性が高いので訴因の特定が困難な場合に当たる。
そして、覚せい剤使用罪においては、使用の事実が重要なのであり、検察官の最終使用行為についての起訴であるとの釈明(規則208条)がなされていれば、使用日時や使用量は、防御においては非本質的部分であるといえる。
4よって、検察官により最終行為についての起訴であるとの釈明がなされれば、被告人の防御を害さず、訴因の特定に欠くことはないと解する。
ニ 1では、かかる訴因を変更しうるか。
(一)まず、訴因変更の必要性があるかが問題となる。
(ニ)前述の通り、訴因の特定は被告人の防御のためにある。
そのため、変更前の訴因で犯罪を認定することにより被告人の防御を害するような場合には訴因の変更が必要となると解する。
(三)本件では、被告人は「3月18日ころ」の覚せい剤使用について防御を尽くしていたといえる。
そのときに、「3月上旬」の覚せい剤使用を認定されたのでは、被告人の防御を害するといえる。
(四)よって、訴因の変更が必要である。
2(一)では、訴因の変更が可能か。
「3月18日ころ」「東京都内のA方」の使用と、「3月上旬から3月20までの間」「東京都内またはその周辺」の使用との間に公訴事実の同一性(312条1項)があるといえるかが、ないのなら訴因変更をなしえないので問題となる。
(ニ)法が訴因変更において公訴事実の同一性を要求したのは、審判対象がまったく別の事件になることにより、被告人の防御が害されるのを防止する趣旨である。
また一方で、紛争の一回的解決という訴訟の合目的的要請がある。
そこで、両者の調和の観点から、新旧両訴因が、一方が成立すれば他方が不成立という非両立性の関係にあれば公訴事実の同一性があるといえると解する。
(三)本件のような覚せい剤使用罪は、併合罪(刑法45条)となるので、原則として両立する関係にある。
しかし、検察官としては上述の通り最終使用行為についての訴追意思を有する。
そのため、「3月18日ころ」の最終使用行為と「3月上旬から3月20までの間」の最終使用行為の間には非両立性の関係があるといえる。
また、前述の通り使用場所は防御にとって非本質的部分であり、「東京都内のA方」の使用と、「東京都内またはその周辺」の使用との間には、そのうちの最終使用行為の場所という点で非両立の関係にあるといえる。
(四)よって、公訴事実の同一性があるといえ、訴因変更は可能である。
3そうだとしても、変更後の訴因が特定しているといえるか。
前述の訴因の特定の趣旨からは、最終使用行為としての釈明があれば、被告人の防御を害することはなく、訴因の特定にかけることはないといえる。
4よって、本件では訴因変更請求を許すべきである。
以上
368 :
再現君 ◆I76WZtQ.MY :02/10/26 14:09 ID:ghnt8Rbr
答案全部アップしました。
成績評価は
BADBFA
総合B
135.85
2084位
です。
民法と刑訴のA、そして商法と民訴のDF。
これらがどういう理由でこういう評価になったのか、皆さんの御意見をお待ちしています。
369 :
再現君 ◆I76WZtQ.MY :02/10/26 14:14 ID:ghnt8Rbr
個人的な感想としては、民法は淡々と要件に当てはめたのが良かったのかと
思っています。
刑訴の2問目は、余事記載があったかと思われましたが、A評価ということは
総評かはされなかったということですよね。
順を追ってかけたのが良かったんだと思います。
憲法・刑法は可もなく不可もなく。
商法・民訴は・・・両方とも2問目が爆死だったんでしょう。相対的にも、絶対的にも。