【論文本試験】憲法 第一問【問題別スレ】

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504朧月夜 ◆asa1afC2
一市民Bの知る権利は閲覧禁止により侵害されたか

図書館長Cによる閲覧禁止の措置の結果、市民Bは市立図書館で雑誌を閲覧
できなくなった。そこで、Bは知る権利の侵害を主張できるか。知る権利が
憲法上保障されているかどうかが問題となる。

一般に知る権利には、情報の収集を公権力によって妨げられないという消極的性格と、
情報の開示を公権力に請求するという積極的性格がある。
このうち、知る権利の積極的性格は憲法上保障されているとは解されない。
なぜなら、確かに現代社会では情報の送り手と受け手の分離が固定化しているため、
知る権利の積極的性格の確保の必要性は無視できないが、情報開示請求の内容や手続は
憲法上一義的に明らかであるとは言えないからである。知る権利の積極的性格の確保は
立法政策の問題として考えるべきである。
これに対して知る権利の消極的性格は具体的権利性を有し憲法21条1項で保障されて
いると解される。なぜなら知る権利の消極的性格の内容は不作為請求であり、裁判所の
憲法適合性の判断になじむものであるからである。
とするならば、本問におけるBの閲覧請求が知る権利の積極的性格に関わるものである以上、
憲法21条1項で保障された消極的自由権としての知る権利の侵害はないといえる。

結論。閲覧禁止の措置によっては市民Bの知る権利は侵害されておらず、憲法21条1項
には反しない。

二図書館長Cは裁量権を逸脱しているかどうか
市民Bの知る権利(憲法21条1項)の侵害はないとしても、閲覧禁止の措置が
図書館長Cの裁量権を逸脱しているのではないかが、さらに、問題となる。

そもそも市立図書館は市民に図書の閲覧の機会を提供することにより、
市民の文化的生活の向上に資するのみならず、様々の政治社会問題に対する
市民の関心に図書閲覧の面から答える責務を負った公共機関と言える。
そして市立図書館の通常の定期刊行物は、市民の閲覧請求があれば、
閲覧に供することが当然に予定されているものと言える。・・・@

しかしながら定期刊行物といえども、その記載内容に穏当さを欠く場合がありうるし、
とりわけ強い社会的関心を引く重大な少年事件が取り上げられ、少年の実名や顔写真が掲載
されていることもある。当の少年が将来正常な社会生活へ復帰する機会を可能な限り確保
する観点から、社会復帰を妨げるおそれのある実名や顔写真を掲載した当該雑誌を
閲覧できないようにすることもまた公共機関たる市立図書館に期待されている
というべきであろう。・・・A
そうすると、その具体的判断は、図書館行政に通暁し、市民と市立図書館の関係に
直接の責任を有し、実務経験も豊富な図書館長の裁量に委ねるのが妥当である。・・・B
本問の図書館運営規則が図書館長に少年法61条に反する雑誌の閲覧禁止の
判断権を与えているゆえんである。・・・C
505朧月夜 ◆asa1afC2 :02/07/27 08:28 ID:???

問題は、図書館長Cの判断に裁量権の逸脱があったかどうかである。
(一)
本問では具体的な事情が必ずしも明らかではないが、この点については、
小学生を残忍な方法で殺害した14歳の少年の実名や顔写真を写真週刊誌が報じた
いわゆる実名報道事件が参考になる。
本問において、図書館長Cが少年法61条に違反すると判断したところからすれば、
雑誌に掲載された少年事件は、単なる窃盗事件や傷害事件に止まらない、実名報道事件に
類似する重大な社会的事件であると想定できる。・・・D
以下では、このような想定を前提として、図書館長Cの判断につき論じる。
(二)
図書館長Cが当該雑誌を閲覧禁止にした措置の目的は、可塑性ある少年の
将来の社会復帰の可能性をできるだけ確保することにあると考えられる。
とするならばその目的は正当であるといえる。
(三)
では、そのための閲覧禁止という手段は必要かつ相当であろうか。
たしかに図書館長Cが当該雑誌を閲覧禁止とすることにより、市民Bは市立図書館において
当該雑誌を閲覧する機会を失い、結果として公的機関の判断によって重大な少年事件に対する
正当な関心の充足が大きく妨げられたとも言える。・・・E
しかし閲覧禁止により市立図書館を通じての市民Bの情報受領の機会が失われたとしても、
そのような不利益は間接的付随的なものにすぎない。なぜなら定期刊行物たる当該雑誌は
市立図書館を通じてしか目にすることができないものではないからである。
そうであるならば、閲覧禁止による市民Bの不利益よりも重大事件を犯した少年の社会復帰の
可及的確保の要請を優先すべきであろう。従って閲覧禁止という手段は不必要または不相当で
あるとまでは言えないと考えられる。・・・F
(四)
このような目的、手段両面の検討からすれば、雑誌の閲覧禁止の措置は図書館長Cの
裁量権を逸脱していないと言ってよい。

結論。閲覧禁止は図書館長Cの裁量を逸脱しておらず、違法ではない。・・・G
506朧月夜 ◆asa1afC2 :02/07/27 08:29 ID:???
>>35の詳細バージョンです。再現率は95%くらいかな。ほぼこのとおりです。
予想してた問題に似ていたし、裁量権パターンも準備していましたが、
本番では思ったほど書けませんでした。自分でもなんだかイマイチだなあと思います。
悩んだのが@AとFでした。せっかくですからわたしの再現を書いておきました。
あと再現の検討を全問しましたが・・・、やっぱり来年出直してきます。

(答案作成の意図〜二に関して)
@A・・・市立図書館の社会的意義を書きました。辰巳の柳澤先生が平成10年第1問で
文化祭の社会的意義を厚く論じていましたので、そのマネをしましたが、
とても柳澤先生のようにはできませんでした。
B・・・昭和女子大事件最高裁判決の裁量権を論じた部分を思い浮かべていました。
C・・・@ABで規則から裁量権を導いたつもりでしたが、規則の立法事実?のような感じ
でしょうか、この書き方は。
D・・・利益状況が異なる様々なケースに仕分けして論じるのは困難だと思ったので、
強引に認定しました。
E・・・知る権利の積極的性格は人権問題としてではなく、裁量権問題で論じようとして、
ここに持って来ました。もっとしっかり書けばよかったです。あとBが少年事件に
関心があるかは確かに問題文からはわかりませんね。本番では気づきませんでした。
F・・・論述に成功したか自信なし。論理に飛躍があるし。
G・・・知る権利の積極的性格の人権性を一で否定したので違憲とは言えないと思い、
「図書館運営規則違反ではない」というつもりで「違法ではない」としました。

なお知る権利の消極的性格に関しては試験中全く念頭にありませんでした。