【鬱】 村上春樹的司法試験 【再】

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64氏名黙秘
村上春樹からの手紙

拝啓。司法試験受験生の皆様、本試験直前の頃、いかがお過ごしでしょうか。僕はあいかわらず
毎朝4時に起きてジョギングをこなしています。よく「走りながら何を考えているのか」というような
ことを訊かれますが、そういうときには僕はきまって、司法試験受験生の幸多き未来を祈りながら
走っている、と答えます。そう言うと相手は、「あれ?」という顔をしますが、本当のことなのだから
仕方ありません。

さて、ここにこういう掲示板があって、いわゆる「ネタ」で皆さんが楽しんでおられるという話は
安西水丸さんから聞きました。早稲田大学文学部キャンパス前にある、「レトロ」という今風の
カフェのご主人が昔、乃木坂のバーで働いていたころ安西さんと知り合って、それ以来そのご主人
を通して司法試験受験生やら公認会計士受験生やら、いろいろと苦労なさっている若い人達の話を
聞いていたのです。

僕も一応早稲田大学を卒業したことがある身なので、それなりに関心をもってそれらの話しを
聞き、僕の知らない世界で日夜、過去問を解いたり、分厚い教科書を読んだり、六法全書を
読みこんだりしている人達がいるんだなあ、と思いながら自分の学生時代のことを思い出したり
しています。でもどの話も、僕にとっては遠い世界のことで、いまひとつピンとこなかったんですね。

すこし自分の事を話し過ぎたかもしれません。21世紀の法曹を目指している方々に、何か励みに
なるような文章を書いてくれ、と言われたのですが正直言って何を書いたらよいものか、こうしている今も
僕にはよくわからないのです。

でも今日、大磯の海岸前の国道を、近くにキャンパスを持つ有名私立大学の学生らしき若者達が
サーフボードを車の屋根に載せて、意気揚揚と通りすぎていくのを見ているうちに、君達のことを思いだし
いてもたってもいられない気持ちに駆られて、パワーブックの電源を入れたのです。

僕は君達に与うべき知識を何も持ってはいません。だから試験直前の時期に、なにか気の利いた言葉を
臆って君達にリラクゼーションをもたらす、という芸当はできません。あるいは誰かが言っているように
憲法前文―”まえぶん”と読むんだそうですね。今まで知りませんでした。―を読むのが効果的なのかも
知れません。

憲法を作った人達の理想を思い出せ、とか言う人もいますが、さすがにそれは違うんじゃないかと思いますが。
そんなものはロバのウンコです。どんなときでも、大切なのは熱いハートとクールな論理です。鋭くあろうと
思わないでください。理論なんて結局間に合わせのものに過ぎないんですから。

そういうわけで、僕は僕の仕事をし、君達は君達の課題をなんとかこなしながら時間というのは過ぎていく
わけですが、どうか最後まであきらめないでください。

最後に、羊男世界がいつまでも平和でありますように。

平成14年5月7日  大磯にて