クロノクルは、抱き上げた腕の中で青ざめ、目をきつく閉じ額に汗を滲ませたマリアの顔を
覗き込んだ。苦しげな息遣いがクロノクルの頬を打つ。
『恩寵の義式』がこれ程までに女王を消耗させているものだという事をクロノクルは今の今まで
まったく知らなかった。
抱きかかえたマリアを急いでクロノクルは寝室へと運び込んだ。そこは初めて入る女王の寝所
だった。毛足の長い絨毯に足をすくわれそうになる。
天蓋のついた大きなベッドには皺ひとつないシーツがひかれていた。そこへマリアを下ろすと
体の重みですっすっとシーツの陰がベッドの八方へと伸びていった。
(命を削ってまで国民を慈しむなど、馬鹿げている。自分のように不幸な人間を見たくないからなのか?)
姉の足を引っ張らないように、女王を支える為に、それだけの理由で軍人をやっている
クロノクルにはそう思うのだ。青い法衣から伸びる力の無い白い指に触れながらクロノクルが
そのようなことを考えていると、不意にマリアが言葉をかけてきた。
「クロノクル……あなたがここまで運んでくれたのですね」
「は、女王…!」
弾かれたようにベッドから一歩退く。
(女王は、今、私が触れていたことに気付いていないだろうか?)
一瞬そんな思いが脳裡に浮かび激しい動悸に襲われた。その為狼狽混じりにそれだけ答えるのが
やっとだった。
「礼を言います」
クロノクルの後方、テラスの花壇に暗い視線をやりながら、マリアはまだ苦しげな声音で
そう言い溜息をひとつついた。マリアにしてみれば、このようなことがなければ弟と間近で会う
ことすら叶わなくなっていた。
たまたまであっても今回クロノクルが儀式の際そばにいてくれたことで、こうしてここにいるのだ。
これ程嬉しいことはなかった。
クロノクルにしても折角姉と二人でいながら、切ない思いを噛み締めていた。赴任した
ラゲーンでのトラブル、地球のほこりっぽさ…それらすらもまだゆっくりと話してはいないのだ。
しかし今ここにいても消耗しきった女王を相手に、まして私的な話をすることなどは到底
出来そうになかった。
沈黙は辛く、クロノクルはこの場を早く去ってしまいたいと思った。
踵を返し、背を向けながら−−−それが女王にとるべき態度でないことなど承知だったが−−−
マリアを気遣う言葉をかけた。
「マリア女王、私は任務に戻ります。どうかごゆっくりとお身体を休め……」
だが言いかけたクロノクルはマリアの体温を感じた。先程触れていたマリアの指がクロノクルの
指に絡みついてきた。
ゆっくりと振り返るとシーツの皺の形がしゅるると変化したのが目に入った。そして女王を見ると
まだ、青ざめていることに変わりはなかったが半身を起こし微笑んでいた。
「もう大丈夫です。ですからクロノクル……」
「………………」
マリアが無理をしている事がありありと見てとれたがクロノクルは何も言葉を返せなかった。
マリアはアンバーカラーのクロノクルの目を見つめ、こう続けた。
「私はあなたと少しでも話がしたいのです」
艶を持った囁きにも似た声音だった。
そしてそのすぐ後、女王の威厳を持ったよく通る声を発した。
「人払いを!」
「私とて弟に会いたい、話をしたいと思うことはあるのです」
「あなたも同じではないのですか?」
確信を持ってそうマリアは問いかけ、同時に強い力でクロノクルの指を握りしめた。しかし、
それが何の合図であるか理解しているクロノクルは自分の気持ちを押し込めるように一言
言い放った。
「お手をお離しください、女王!」
しかしマリアは離そうとはしなかった。
「いいではありませんか…女王となってからはあなたのぬくみを、肌の熱さを感じることなど
なかったのですから……」
「何を仰います!」
ばっと指をふりほどき、クロノクルはテラスの際までつかつかと歩いた。
「しっ…。静かにして、クロノクル。……ねえ、お願いよ…」
懇願するような声にどうしても苛立ちを抑えきれなかった。
「姉さんは!休める時にしっかりと休まなければならないでしょう。昔のような事は二度と
いけないとおわかりのはずだ、マリア姉さん。貴女は女王なのです」
ベッドの上で俯いたままマリアは黙り込んだ。その姿を見下ろしながらクロノクルはこう言った。
「私は任務に戻らねばなりません」
それは自分に言い聞かせる言葉だった。二人だけの時間を不意にしたくはなかったが、
クロノクルには自制するより他はないのだ。
(二度とこの部屋に来てはならない!)
そう思いながら廊下へ向かって歩き始めたクロノクルを、マリアはふらつく足取りで追いかけ
てきた。
「…姉さん!いけません、そんなに青い顔して……寝ていなければ」
「いかないで……」
クロノクルの体にしなだれかかるように抱きついたマリアを支えようとしたクロノクルは
なれない毛足の長い絨毯に足許をすくわれ、音もなく、静かに二人は絨毯の上に倒れ込んだ。
マリアはクロノクルの上に体を乗せていた。クロノクルが身を挺して女王を助けたという事に
なるのだろうか。
軍の制服に包まれた弟の体は、マリアの知らないうちにとても男らしくとても逞しくなっていた。
まだ幼いと言ってもよかったクロノクルを幾度も愛した記憶が蘇ってきた。それと同時に
マリアの体が火照り出す。今のひとときだけは女王としては何も考えたくなかった。
むくりと上半身を起こしたマリアはそのままクロノクルの体を跨ぐような格好になり、
クロノクルの顔を見下ろした。クロノクルは首を横に振りながら言葉を探した。
「このようなことが表沙汰になれば女王でいられなくなる」
「一兵士とこんなことしちゃいけない……」
「こんなこと……宰相とすればいいんだ!」
半ば自棄で発したつまらない抗弁をマリアは受け入れず、代わりにふっくらと上品で艶やかな
赤い唇でクロノクルの口唇をふさぎ、やわらかい舌がいつもきつく結んだ口唇を簡単に割って
クロノクルの舌と絡んだ。
姉弟は甘い痺れの中にいた。体中の精気を吸われているかのように動けないクロノクル。
クロノクルとのくちづけににみるみる紅潮するマリアの白い肌。
クロノクルは久し振りに味わう長くやさしいくちづけに視線の定まらない様子だった。
マリアは制服のジャケットの前をはだけ、ピンで留められたアスコットスカーフ風のネクタイを
手早くほどいた。そして唇を離し、自分の体をクロノクルの下半身の方へとずらしながらシャツの
ボタンをひとつずつはずしていった。マリアは屈み込む様に、青い法衣のままの体を重ね、
初めて見る弟の成長しきった体に唇を這わせた。
「やめてよ、姉さん」
しかしマリアはもう止めることなど出来ない。それどころかもっと弟に心地よさを与えたいという
衝動で頭がいっぱいになった。
上品で形のいい唇が乳首をちゅる、と吸い上げるとクロノクルの体がびくっとはねた。その
反応の良さに、もっと強い愛撫をしてみる。
「…はぁ…ンッ」
するとクロノクルはいやいやをしながら間断無く湿り気を帯びた淡い喘ぎ声を上げた。
マリアはまだ今よりも少し声のキーが高かった頃のクロノクルの息遣いしか知らなかった。
自分の知らないうちに大人の男になっていた弟の声を聞き、もっと今のクロノクルを知りたいと
急き立てられる思いだった。
マリアの舌が刺激した肌には唾液のぬらぬらとしたあやしい痕が浮かぶ。そしてところどころ
には薄赤い跡を残すように刺激した。
(クロノクルが私の愛撫でこんなに感じてくれるなんて)
嬉しさと充実感に包まれたマリアの下半身もいつの間にかどろどろとした媚液で濡れていた。
マリアはクロノクルの体から降り、制服のパンツの留め具に指を置いた。そのすぐ下は
強張って膨らんでいる。マリアはその膨らみに唇をあて、甘噛みするように口を動かした。
しゅりしゅりと制服の生地と唇や歯がこすれる音が身体の芯を通って耳に届いた。
衣服の上からでもペニスを擦られる感覚ははっきりしている。じわりとした快感の波が硬くなった
ペニスの先から体の内に向かって逆流し、行き場を失った快楽の波は再び体の外へと向かって
いった。それが幾度か続き、波は大きな渦を作り体の外に向かっていった。
「マリア姉さん、気持ちがいい…」
クロノクルは泣きそうな声でそう告げると体を震わせ絶頂を迎えた。
女王と弟6
その行為の所為でマリアの唇から口紅と唾液がクロノクルの制服の黒いパンツに染み込んで
しまっていた。この部屋を出る時の事を考えれば目立つものではないが気にならないわけも
なかった。マリアは焦って法衣の袖口でこすってみるが滲み拡がるばかりでうまくとれはしなかった。
「ごめんなさい、クロノクル…」
「構いません。ジャケットで隠せます」
クロノクルは言い切って今度は自分からマリアの唇を吸った。
顔を近付けると整えられた髪からごく淡く爽やかな香りがした。
「それよりも女王、お身体の方は……」
「ええ、平気です。クロノクルといられるのですから、少しくらいの無理はしましょう……」
「そのようなお言葉………」
やや強引な行動をとったものの、嫌われなかったことに安心したマリアは、今度は自分も共に
満たされる為に、赤くなって俯いているクロノクルが身につけたもの全てを脱がせた。
クロノクルもマリアの目を見据えたまま、まだ身に纏っている重苦しい青い法衣と下着を
脱がそうと裾から手を侵入させる。しかし。
「なんだ…なんということだ」
クロノクルは驚いて声を上げた。衣装の中、クロノクルの手にはマリアの肌がじかに触れた。
どこに触れても、普通、女性が身につけているべきものは何も身につけていなかった。
胸を覆うものも陰部を隠すものも、何も……。
しかしマリアは諭すような口調で答えた。
「気にしないことです。これが義式の正装なのですから、ね」
しかし弟にとってそれは到底納得できるものではなかった。
(一国の女王が国民の前でこんな姿を晒さねばならない理由は一体何なのだろうか?)
色々な考えがざわざわと浮かんでは消えたが、結局考えは纏まらず、カガチがそれを
強要しているのでは、と結論づけてしまっていた。
それは姉を自分の許から取り上げた事への嫉妬からくる考えかもしれなかった。
「カガチはこのような辱めを女王に強要するのですか!?」
「そうではありません。いいのです、これが正装なのだとカガチには聞いています」
「……正装?儀式の?」
クロノクルははりのある乳房のすぐ下で手を止めたまま、時も凍りついたかのように感じていた。
「そうです」
平然と言い放つ姉を信じられない思いで見つめた。
「カガチめ!このようなことを女王にさせるとは侮辱でありましょう!」
「でもクロノクル……女王という…役目は果たしたいのです」
「…………!?」
怒りや嫉妬、失望感で言葉を失ったクロノクルをマリアはやさしく抱きしめた。
「おこらないで。今だけは……あなたのことだけを考えていたいのです………」
マリアは自分の手でケープを止める大きなブローチをはずし、クロノクルは裾から忍ばせていた
手を抜き、法衣を脱がせる為に使った。するり…と青い大きな纏い布が肩から滑り落ち、
マリアの白い肢体が現れた。
小ぶりながらはりと丸みを帯びた乳房、色素の薄い乳首、薄くくびれたウエスト。子を生んだ
体とは到底思えないような瑞々しい肉体だった。
「姉さんは昔と全然変わっていない。きれいだ……。私はもっと背が低かった」
「そうね、私の方が大きかったわ。今はこんなに逞しくなって……」
向かい合ってふわふわとした絨毯の床に座り、抱き合い互いの体中をまさぐり、幾度目かの
くちづけを交わしたあと、マリアはクロノクルの首に廻した腕をほどき、クロノクルの体を
ゆっくりと床に押し倒すように力を込めた。力では当然負けはしないクロノクルだったが姉に
体を委ね横たわった。
マリアの体はさっきとは逆向きに−−−クロノクルに自分の下半身を晒しながら−−−
クロノクルの体を跨いだ。
マリアは先刻の愛撫でベタベタになったクロノクルのペニスをちろちろと舐め上げた。むわりと
むせ返るような精液の匂いと味だったが、それを喉の奥に飲み下す行為は媚薬を舐める様な
ものだった。クロノクルは一度射精していても、姉の口淫ですぐに屹立した。マリアはそれを
根元までくわえ込みながら、細くしなやかな指で陰嚢や会陰を圧迫したり撫でつけたりして刺激した。
クロノクルも、すぐにマリアの淡い茂みを潤す透明の液体を舌ですくい喉をならしながらのんだ。
それから秘唇に、膨らみを持った陰芽に、クレヴァスに、膣口に、甘やかでなだらかな刺激を
与え続けた。ときにはわざと音をたて、時にはひどく緩慢な焦らしを与えた。それに応えるように
マリアの中からは途切れることなくなめらかな媚液が溢れ出てきた。
「ぁん……む……んン……あっあぁん……んはぁっ…………」
マリアは弟の愛撫で高揚し、快美感が高まってくると、ペニスをくわえたまま喘ぎ、クロノクルが
自分にするように卑猥な音をたてながら屹立を攻め続けた。クロノクルにしても、自分をくわえて
喘ぐ姉の歯が、思いもよらない部分に軽くあたるとなやましい溜息をついてしまった。
クロノクルはマリアの秘口の奥まで指を突き入れたい衝動に駆られ、秘腔の奥から溢れ出る
媚液を中指にからめるようにしてから、マリアの膣の中に突き入れた。その瞬間、マリアは
ペニスを口から離し、背をのけぞらせ
「いやぁ」
と切ない声を上げた。クロノクルの指は、その声の瞬間ぎゅうっと締めつけられ、その後も
何度も締め上げられた。
急激な快感にマリアの体中から汗が噴き出し肌に筋を作りながら流れ落ちていた。
「マリア姉さん、気持ちがいいのですか?」
愚問だと思ったがそう聞かずにはいられない程、強い快感を与える事が出来たようだった。
「姉さん……?」
「は…ぁ、はぁ………そうよ、とてもいいの。クロノクル…あぁ……」
激しい息遣いと共にその言葉が聞けたクロノクルは、姉が快美感に酔いしれる姿をもっと
見たいと思った。
突き立てた指を、ゆっくりと中で動かす。指の動きに陰部が歪み、にちゃ、くちゅ、という
卑猥な音が響いた。マリアはクロノクルの視線を感じながらも、喘ぐばかりになっていた。
指の与える細やかな動きが、時折大きな快楽を生み出すスイッチを押す。マリアにはもう
クロノクルを悦ばせる余裕はなくなって、ただ喘ぎ続けていた。
「あああっ……っ!」
昔は知らなかったスイッチの在処を今しっかりと掴んだクロノクルは、一旦埋め込んでいた
中指を抜き、今度は人差し指も一緒に潜り込ませた。2本の指を合わせるとクロノクルの
ペニスほどではないが充分に太く内部に圧迫感を与える事が出来た。そして指はスイッチの
オン・オフを器用に切り替え、限りない快美感を発生させた。もう片方の手ではマリアの乳房や
脇腹にねっとりとした愛撫をくわえ、舌で陰核を転がす強烈な
快楽の波動も加わり、指を挿入されたマリアの膣からクロノクルの口や頬にぽたぽたと
マリアの媚液がしたたり落ちた。
「お願い、…もうやめ……て…お願い、…クロノク…ル……ねぇ……」
両手と口を動かし続けるマリアはクロノクルの両股の間に突っ伏したまま、体を動かすことも
出来無いほどの快美感の中を彷徨ていた。
「むかしはこんなこと…できなかったのに……!!クロノクル、だめぇ…
…姉さん、おかしくなっちゃう…………」
マリアが荒い息を整える間もなく、クロノクルはマリアを体から下ろし自分がマリアの上に
重なった。
「姉さん、いきたいよ……」
「私もクロノクルでいきたいの………」
言い終わるやクロノクルのペニスがマリアの媚肉を割り、膣の深い部分まで埋まった。
クロノクルにしがみつき、その広い胸に顔をうずめたマリアの鼻にかかった甘い声が響いた。
その声に刺激され、クロノクルはゆるゆると腰を動かし始めた。しかし一度快楽を味わい
高ぶっている為、そしてこの瞬間マリアが無意識に締めつける為、もう既に我慢できそうに
なかった。クロノクルは情け無いと思いつつも、少しはにかみながらその事を伝えた。
マリアはそんなクロノクルを愛おしんで赤い髪を撫でつけた。
マリアはクロノクルに合わせ腰を動かし、クロノクルはマリアの気遣いに甘えながらも、
いつしか互いに高めあい呼応しながら絶頂を迎えた。
永遠に続くかと思われた時間は僅かに小一時間ほどだった。
しかしそれでもこの時を過ごせた事はふたりにとって大きな喜びだった。
「ごゆっくりとおやすみください。私は任務に戻ります」
すっかりと身支度を整えたクロノクルは、ベッドの中でとうとうと眠る女王の手にもう一度だけ
触れたい衝動に駆られたが、いつもと同じ様に敬礼をし、寝室をあとにした。
もう二度とこのような事はないであろうという予感とともに……。