男と女の姿がある。牡と牝、というべきか。
成牛にも勝る巨体が覆い被さり抱え上げるのは、あまりにも華奢な女体。
それは正しく荒波に翻弄される木の葉。
(顎が外れてしまう)
握って尚余る。いくら姉の手が小さくとも、それは己の拳より太い。
恐らく歯を立てないよう唇を窄め口いっぱいに含む。
(窒息してしまう)
両手を交互に添えて尚、鎌首全体が余る。己の前腕より長い。
時に低い音を立て、半ばまで喉の奥に呑み込む。
(亀頭って言うんだよ)
下品な学友の言葉だ。
が寧ろ、開きかけた茸の傘。
(姉さんの舌)
その性的な働きを初めて知る。
まるで別の生物のように這い回り躍っている。きっと敏感な所を。
(だって)
舌が動く度、男根と全身が震える。
その様子を上目遣いに見ている、見つめている。
(逆なんだ)
初めは、過剰の体格差で男に犯されていると思った。
が今は、女が犯していると分かる。
(気持ち、良さそう)
男が、女の股間に顔を埋めている。
己の指より厚くて太い舌が、激しい動きで高い音を立てる。
(お仕え、させている)
短く刈った癖毛を撫で、指に絡め、玩ぶ。至福の表情で。
壊れそうな女体に、男が溺れている。
(音が、恥ずかしい)
舌、唾液、肌、汗、それらの立てる音は日常なら顰蹙を買うものだ。
それに何より
(姉さんじゃない)
淫らな声で、厭らしい言葉を、あられもない格好で叫び続ける。
普段の姿から想像できない。
(ここに居ては駄目だ)
ハマーンは、ふらつく足取りで扉の前を離れる。
室内では、未だ続いている。
ハマーンに見られたのは、ドズルと姉の不注意だ。
その日、気分がすぐれぬ妹の登校を止めさせたのは間違いでない。
が、その熟睡を確かめず、自分たちの寝室の鍵どころか扉もろくに閉めないまま
“事に及んだ。”
二人に幸いしたのは、ハマーンが聡明で他者に寛容なことだ。
殊に、彼女にとって二人は、特別に大切な憧れだ。(さもなければ、尊敬し畏怖
する父の許を離れ、彼に背き家出した姉と同居する筈がない。)
また“それ”が“極めて個人的な事柄”で“好奇を憚るべき”と直感していた。
彼女は私室に戻った。
休む前に着替えたい。
寝間着まで汗で湿っている。
全裸になる時、パンツが変に濡れているのを確かめる。
汗だけじゃない、おしっことは違う、別だ。
乳首が硬く膨らんでいる。
股間にも、同じようになっている所がある。
(姉さんのように)
痛いのギリギリ手前、気持ち良いのギリギリ向こうまで、弄り、擦る。
何か湧き上がり、不意に浮かんで、直後落ちた。
肌寒さと、股間を“垂れ伝う”感触に目を開ける。
指が、血まみれている。
初めての経血だ。 (了)