152 :
通常の名無しさんの3倍:
サンクキングダムの学園には、穴場とも言えるベンチがある。
日当たり良好。
学園の施設からは離れた場所にあるので周囲は静かで、人通りもきわめて少ない。
天気のいい昼下がりなど、日光浴がてらにくつろぐには、絶好の場所である。
しかしながら、「空き時間などにちょっと一休み」と思ってそこに行ったとしても、その場所に落ち着くことは
けっこう困難だったりする。
というのもそのベンチは、以前に偶然そこを見つけ、どうやらそこをいたく気に入ったらしい新入生が、
休み時間のあいだ中、たいていそこにしっかりと、仏頂面で腰を下ろしているから。
なお、その新入生の名前は、ヒイロ・ユイという。
その日。
ヒイロはいつものように、そのお気に入りのベンチに腰掛けて本を読んでいた。
彼なりにくつろいでいるのだろうが、相変わらず仏頂面なのが彼らしいと言うべきか。
ふと書面に影が差し、ヒイロは顔を上げた。
そこにはなぜか、笑顔でたたずむリリーナの姿があった。
足音も気配もしなかったのに、いつ来たんだ?
いぶかしく眉を寄せるヒイロ。
「隣に座ってもいいかしら?」
リリーナは笑顔で聞いた。
「……おまえの国だ。好きなようにしろと言っただろう」
普段ならば、わずらわしいと立ち去るところだが。
「それじゃ、失礼しますわ」
そう言って、すとん、とヒイロの隣に腰を下ろす。
ヒイロは何も言わず、再び手中の本に目を落とした。
しばらくが過ぎ。
相変わらずヒイロは何も言わず、リリーナも何か言うわけでもない。
ただ時間だけがゆっくりと過ぎていったが、その沈黙は不思議に冷たさを感じさせなかった。
奇妙だけれど、暖かい時間。
そこから数分後。
こと。
肩口になにかが乗せられたような重みを感じ、ヒイロはそちらに振り向いた。
そこには目を閉じたリリーナ。唇から漏れる小さな寝息。
ちっ。
小さく舌打ちをひとつ。
153 :
通常の名無しさんの3倍:01/09/27 01:45
揺り起こそうと手を上げたが、直前で嗅覚をくすぐるものに気づいた。
肩に置かれたリリーナの小さな頭。さらさらの金髪から微かに立ち上る、シャンプーの清潔な香り。
「……」
少し考え、手を下ろすヒイロ。
まあいい、しばらくは寝かしてやろう。
そのまま数分。
目を覚ます気配なし。
横を向くと間近にリリーナの顔。
綺麗なカーブの眉、長くてカールしたまつげ、ピンク色の唇。
ヒイロは横を向いたまま、無言で手中の本を閉じた。
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通常の名無しさんの3倍:01/09/27 01:46
さらに数分。
リリーナを眺めているヒイロの顔は、あいかわらず普段どおりの仏頂面だったが、識者が見れば
両眉がほんの少し鈍角になっていることに気がついたかもしれない。
「……ん……」
リリーナが小さく身じろぎをした。
その瞬間、肩にもたせていた頭がかくんと滑り落ち、ばたとヒイロの膝の上に落下する。
さすがに目を覚ますかと思ったが、上半身をヒイロの足の上にもたせかけ、うつぶせの状態でリリーナは再び寝息を立て始めた。
学園理事の職。国家の代表としての責。16の少女には過大すぎる激務。
疲れているのだろう。それは理解できたが。
……しかし普通、ここまで熟睡するか?
内心ヒイロはそう思ったが、だからといって起こすつもりは毛頭なく。
暖かくて柔らかい、しっとりしたリリーナの重みが足に心地いい。
金色の髪が水のように流れて、自分の腰の周囲に広がっている。
そのまま、何が起こるでもなく、また数分。
ヒイロはふと我に返り、ちらりと腕時計に目を走らせた。
もう少しこうしていたかったが、まもなく昼休みも終わる。
自分は授業に行かねばならないし、彼女もまた仕事に戻らなくてはならないだろう。
揺り起こそうとして、ふと別な考えが浮かんだ。
人差し指をたて、白くて細いリリーナのうなじにそっとあててみる。
普段ならこんなことは考えもしないだろうな。
そんなことを考えながら、ヒイロはくぼみに沿って静かに指を走らせた。
シルクに指をあてているような感触。
つーっ
「……んっ」
ひくっ
その刺激に、リリーナがくすぐったそうに身を縮める。
その反応が気に入って、ヒイロは何度か指を往復させてみた。
つっ
つっ
その度に、彼女がぴくぴくとふるえ、吐息を漏らす。
数回目の往復の途中。
何度目かの震えを終えた後、彼女はやっと目覚めて、ゆっくりと上体を起き上がらせた。
ヒイロはそっとうなじから指を離す。
リリーナが目覚めでぼーっとしていたのは2.3秒ほどであろうか。
我に返り、自分がとっていた体勢に気がついたのだろう。ほほが少し赤くなる。
「……ご、ごめんなさい。眠ってしまっていたのね」
「かまわん。悪い感触でもなかった」
つぶやくヒイロ。
「え?」
「なんでもない」
きょとんと目を見開くリリーナをしばし見やった後。
ヒイロは午後の授業に出席するために、てこてことその場を歩き去っていった
書いては見たものの、ちっともHネタにならんかったなあ。
ま、いいか。「かわいい女の子にマクラにされる」という男のロマンは書けたし。