新人職人がSSを書いてみる 29ページ目 [転載禁止]©2ch.net

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1通常の名無しさんの3倍
新人職人さん及び投下先に困っている職人さんがSS・ネタを投下するスレです。
好きな内容で、短編・長編問わず投下できます。

分割投下中の割込み、雑談は控えてください。
面白いものには素直にGJ! を。
投下作品には「つまらん」と言わず一行でも良いのでアドバイスや感想レスを付けて下さい。

荒れ防止のためこれまで「sage」進行を用いておりましたが、
現在当板の常駐荒らし「モリーゾ」の粘着被害に遭っております。
「age」ると荒れるという口実で「sage」を固持しつつ自演による自賛行為、
また職人さんのなりすまし、投下作を恣意的に改ざん、外部作のコピペなど更なる迷惑行為が続いております。

よって現スレより荒らし行為が消滅するまで暫定的な措置ではありますが、
職人さん、住民の方々全てにID出しのご協力をお願いいたします。
ID出しにより自演が多少煩雑になるので、一定の効果はあります。
また、職人氏には荒らしのなりすまし回避のため、コテ及びトリップをつけることをお勧めします。
(成りすました場合 本物は コテ◆トリップ であるのが コテ◇トリップとなり一目瞭然です)

SS作者には敬意を忘れずに、煽り荒らしはスルー。
本編および外伝、SS作者の叩きは厳禁。
スレ違いの話はほどほどに。
容量が450KBを越えたのに気付いたら、告知の上スレ立てをお願いします。
本編と外伝、両方のファンが楽しめるより良い作品、スレ作りに取り組みましょう。

前スレ
新人職人がSSを書いてみる 28ページ目
http://peace.2ch.net/test/read.cgi/shar/1420712607/

まとめサイト
ガンダムクロスオーバーSS倉庫 Wiki
http://arte.wikiwiki.jp/

新人スレアップローダー
http://ux.getuploader.com/shinjin/
2巻頭特集【テンプレート】::2015/02/14(土) 09:57:15.69 ID:2VzYF5+u0
〜このスレについて〜

■Q1 新人ですが本当に投下して大丈夫ですか?
■A1 ようこそ、お待ちしていました。全く問題ありません。
但しアドバイス、批評、感想のレスが付いた場合、最初は辛目の評価が多いです。

■Q2 △△と種、種死のクロスなんだけど投下してもいい?
■A2 ノンジャンルスレなので大丈夫です。
ただしクロス元を知らない読者が居る事も理解してください。

■Q3 00(ダブルオー)のSSなんだけど投下してもいい?
■A3 新シャアである限りガンダム関連であれば基本的には大丈夫なはずです。(H22,11現在)

■捕捉
エログロ系、801系などについては節度を持った創作をお願いします。
どうしても18禁になる場合はそれ系の板へどうぞ。新シャアではそもそも板違いです。

■Q4 ××スレがあるんだけれど、此処に移転して投下してもいい?
■A4 基本的に職人さんの自由ですが、移転元のスレに筋を通す事をお勧めしておきます。
理由無き移籍は此処に限らず荒れる元です。

■Q5 △△スレが出来たんで、其処に移転して投下してもいい?
■A5 基本的に職人さんの自由ですが、此処と移転先のスレへの挨拶は忘れずに。

■Q6 ○○さんの作品をまとめて読みたい
■A6 まとめサイトへどうぞ。気に入った作品にはレビューを付けると喜ばれます

■Q7 ○○さんのSSは、××スレの範囲なんじゃない?
△△氏はどう見ても新人じゃねぇじゃん。
■A7 事情があって新人スレに投下している場合もあります。

■Q8 ○○さんの作品が気に入らない。
■A8 スルー汁。

■Q9 読者(作者)と雑談したい。意見を聞きたい。
■A9 旧まとめサイトの作品まとめ自体は2012年3月でサービスを終了しておりますが、掲示板は利用できます。
ご活用ください。
3巻頭特集【テンプレート】::2015/02/14(土) 09:57:46.42 ID:2VzYF5+u0
〜投稿の時に〜

■Q10 SS出来たんだけど、投下するのにどうしたら良い?
■A10 タイトルを書き、作者の名前と必要ならトリップ、長編であれば第何話であるのか、を書いた上で
投下してください。 分割して投稿する場合は名前欄か本文の最初に1/5、2/5、3/5……等と番号を振ると、
読者としては読みやすいです。

■補足 SS本文以外は必須ではありませんが、タイトル、作者名は位は入れた方が良いです。

■Q11 投稿制限を受けました(字数、改行)
■A11 新シャア板では四十八行、全角二千文字程度が限界です。
本文を圧縮、もしくは分割したうえで投稿して下さい。
またレスアンカー(>>1)個数にも制限がありますが、一般的には知らなくとも困らないでしょう。
さらに、一行目が空行で長いレスの場合、レスが消えてしまうことがあるので注意してください。

■Q12 投稿制限を受けました(連投)
■A12 新シャア板の場合連続投稿は十回が限度です。
時間の経過か誰かの支援(書き込み)を待ってください。

■Q13 投稿制限を受けました(時間)
■A13 今の新シャア板の場合、投稿の間隔は忍法帖のLVによって異なります。時間を空けて投稿してください。

■Q14
今回のSSにはこんな舞台設定(の予定)なので、先に設定資料を投下した方が良いよね?
今回のSSにはこんな人物が登場する(予定)なので、人物設定も投下した方が良いよね?
今回のSSはこんな作品とクロスしているのですが、知らない人多そうだし先に説明した方が良いよね?
■A14 設定資料、人物紹介、クロス元の作品紹介は出来うる限り作品中で描写した方が良いです。

■補足
話が長くなったので、登場人物を整理して紹介します。
あるいは此処の説明を入れると話のテンポが悪くなるのでしませんでしたが実は――。
という場合なら読者に受け入れられる場合もありますが、設定のみを強調するのは
読者から見ると好ましくない。 と言う事実は頭に入れておきましょう。
どうしてもという場合は、人物紹介や設定披露の短編を一つ書いてしまう手もあります。
"読み物"として面白ければ良い、と言う事ですね。
4巻頭特集【テンプレート】::2015/02/14(土) 09:58:14.09 ID:2VzYF5+u0
〜書く時に〜

■Q15 改行で注意されたんだけど、どういう事?
■A15 大体四十文字強から五十文字弱が改行の目安だと言われる事が多いです。
一般的にその程度の文字数で単語が切れない様に改行すると読みやすいです。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
↑が全角四十文字、
↓が全角五十文字です。読者の閲覧環境にもよります。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あくまで読者が読みやすい環境の為、ではあるのですが
閲覧環境が様々ですので作者の意図しない改行などを防ぐ意味合いもあります。

また基本横書きである為、適宜空白行を入れた方が読みやすくて良いとも言われます。

以上はインターネットブラウザ等で閲覧する事を考慮した話です。
改行、空白行等は文章の根幹でもあります。自らの表現を追求する事も勿論"アリ"でしょうが
『読者』はインターネットブラウザ等で見ている事実はお忘れ無く。読者あっての作者、です。

■Q16 長い沈黙は「…………………」で表せるよな?
「―――――――――!!!」とかでスピード感を出したい。
空白行を十行位入れて、言葉に出来ない感情を表現したい。
■A16 三点リーダー『…』とダッシュ『―』は、基本的に偶数個ずつ使います。
『……』、『――』という感じです。 感嘆符「!」と疑問符「?」の後は一文字空白を入れます。
こんな! 感じぃ!? になります。
そして 記 号 や………………!! 



“空 白 行”というものはっ――――――――!!!


まあ、思う程には強調効果が無いので使い方には注意しましょう。

■Q18 第○話、って書くとダサいと思う。
■A18 別に「PHASE-01」でも「第二地獄トロメア」でも「魔カルテ3」でも「同情できない四面楚歌」でも、
読者が分かれば問題ありません。でも逆に言うとどれだけ凝っても「第○話」としか認識されてません。
ただし長編では、読み手が混乱しない様に必要な情報でもあります。
サブタイトルも同様ですが作者によってはそれ自体が作品の一部でもあるでしょう。
いずれ表現は自由だと言うことではあります。

■Q19 感想、批評を書きたいんだけどオレが/私が書いても良いの?
■A19 むしろ積極的に思った事を1行でも、「GJ」、「投下乙」の一言でも書いて下さい。
長い必要も、専門的である必要もないんです。 専門的に書きたいならそれも勿論OKです。
作者の仕込んだネタに気付いたよ、というサインを送っても良いと思われます。

■Q20 上手い文章を書くコツは? 教えて! エロイ人!!
■A20 上手い人かエロイ人に聞いてください。
5ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/14(土) 09:59:53.56 ID:2VzYF5+u0
容量オーバーをさせてしまったので新スレを立てました
6通常の名無しさんの3倍:2015/02/14(土) 11:30:22.26 ID:BYh2gJZC0
>>1
7ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/14(土) 17:36:19.77 ID:2VzYF5+u0
投下します
機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第34話

オーブの支配は露骨なものとなっていた。もともとクラインの人間と親交の深かったオーブの首長家はアスハを主導として動いていたが、ある日アスハの当主が男児を出産、父親は最後まで知れなかったという。
そのようなスキャンダルもあり、アスハ家は没落。かといって他の家が台頭することもなく、のんびりと時間が過ぎたのがオーブである。
現状は永世中立を謳いながらも金のある国にこびる蝙蝠国家となり下がってしまった。
「そういうわけです」
クリスが地球連合から借りたオーブへ向かう船の中でノンビリとオーブについて説明をしていたのだった。
「ま、タフな指導者がいない国はこうなるって見本ですね、公国からも地球連合からも技術を色々と吸い上げられてますし」
クリスはノンビリと語る。
「一応フラガ家もオーブにはお世話になったらしいんですけど、まぁ僕の祖父とかの代のことなので関係はないですね」
薄情だなぁ、とジェイコブ三兄弟が思う中、セインだけはボンヤリと海を眺めていた。アッシュは、ナイロビでの戦い以降のセインの様子に心配を抱いていた。
「少し、いいか?」
アッシュは席から立ち上がると、セインの隣の席へと移った。セインは、なにか曖昧な感じで頷くだけだった。
やはりおかしいとアッシュは思った。ナイロビの市街戦がセインにとって初めての戦場になるわけで、それにショックを受けたのかもしれないと、アッシュは思った。
「一応、僕はきみやジェイコブ達の保護者兼監督役だ。この間の戦闘で何かあったのなら、少し話しをしてくれないか。ストレスが溜まっているのなら、話して少しでも解消になると思うんだが?」
セインはそう言われても、穏やかに笑うだけで、首を横に振るだけだった。この態度もアッシュを心配させた。アッシュが知る限りセインと言う少年のメンタルはそれほど強くないはずだったが、ナイロビでの戦い以降、妙な精神的な強さを得ているような気がした。
アッシュは我ながらおかしな考えだと思ったが、セインの精神に何か良くないものが巣食っているような不安を感じるのだが、それを明示するものが何も無い以上、アッシュはセインに対してそれ以上追及することは出来なかった。
余計な追及はセインに対して余計な不安、ストレス、プレッシャーなどを与えてしまうかと思ったからだ。
「無いなら良いんだ。余計なことを聞いたかな?」
「いいえ」
セインは穏やかに笑っている。アッシュの胸には不安が募って行った。
「もし、何かあったら気にせずに行ってくれ、きみ達の面倒を見るのも僕の仕事だから遠慮せずにな」
はい、とセインは言ったが、やはりアッシュは少しセインがおかしいと思うのだった。しかし、追及することはせずにセインの隣の席を離れ、自分の席へと戻って行った。
アッシュが自分の席に座ると、隣では姫が窓に張り付いて海を見ている。
「楽しいですか?」
「はい!」
アッシュが尋ねると姫は元気よく答える。どうやらこちらは心配はいらないようだとアッシュは思った。
戦争に巻き込まれたというにタフな少女だとつくづく思う。だが、この少女のおかげで地球連合がクランマイヤー王国の後ろ盾になってくれることは確実になったのだから、アッシュとしては頭が下がる思いもあった。
できればセインもこのくらいのメンタルならば心配せずに済むのにとアッシュは思った。そんなことを考え、少し休もうと席に体を預けて時、不意に大柄の人影がアッシュの席の横に立った。
アラン・マイケルズ中佐だった。マイケルズ中佐は地球連合の代表の駐在武官となったようで、アッシュたちがこのままクランマイヤー王国に帰るまでついてくるということだった。
大柄で角刈り、無愛想な男というのがアッシュのマイケルズ中佐への印象だった。
8ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/14(土) 17:36:53.29 ID:2VzYF5+u0
「アッシュ摂政閣下、少々問題が」
マイケルズ中佐は申し訳なさそうに、小声で言う。アッシュとしてはそうか、問題か、いつものことだなと思うようになっていた。地球に降りてから、問題以外に出会ったことは無いぞとアッシュは思った。
「それで、なんですか中佐、問題というのは?」
「オーブが地球連合の艦隊の入港を拒否しているのです」
そうか、それは大問題だ。オーブのマスドライバーを使わないと無事に帰れないぞ。とアッシュは思った。
「理由はなんですか?」
「オーブはクライン公国と同盟関係にあり、地球連合とは敵対関係にあるとの表明がありました」
アッシュはそういうニュースは一度も聞いてないと記憶を掘り起こしてみる。
「クリス、マイケルズ中佐、オーブとクライン公国が同盟を結んだというのは本当か?」
アッシュが尋ねても二人とも首を横に振って知らないという態度を示す。
つまりは密約ということか、面倒な。オーブともあろうそれなりの規模の国がやることじゃないとアッシュは思ったのだった。
「地球連合の上の方はなんて言ってるんですか?」
「“卑怯な密約を行ったオーブに軍事的な制裁を”とのことです」
好戦的な人間が多すぎないか?とアッシュは思うが、それが地球連合の選択なら仕方ない。だが悪いが、クランマイヤー王国はこの件には関わりたくないし、関わることもないだろうとアッシュは思った。だが――
「我々の乗っている艦隊および艦船が先頭に立って、オーブ攻略に臨めとのことです」
アッシュはマイケルズ中佐の言葉に耳を疑いたくなった。こちらには一応、他国のVIPが乗っているんだぞ。
そんな船を戦闘に出すなど正気とも思えない。どうやらクランマイヤー王国は現状、地球連合にとっては鉄砲の弾と同じようなものなのかもしれないとアッシュはゲンナリする思いだった。
「悪いが、この船は戦闘には参加しないし、我々のMSも自衛のためくらいにしか動きませんよ?」
「それで充分だと思います。私の方から艦隊司令部に連絡を通しておきます」
そう言うとマイケルズ中佐は足早に去って行った。
「なに、また戦争するんですか?」
ジェイコブが席から身を乗り出してアッシュに尋ねる。アッシュはウンザリした様子で答えた。
「ああ、そうだよ。パイロット全員、ノーマルスーツに着替え、戦闘準備」
了解!という掛け声とともにジェイコブ三兄弟とセーレ、そしてセインが席から立ち上がり動き出し、船内の格納庫にある自機のもとへと向かった。
アッシュはこの時、見逃していた、セインの顔に狂気じみた笑みがあったことに。
セイン達は機体に乗り込む。大まかな整備は、クランマイヤー王国からついてきてくれた整備士がしてくれたので、機体の挙動に関して心配は無かった。しかし、ブレイズガンダムのコックピットの中のセインには別の心配事があった。
9ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/14(土) 17:37:52.49 ID:2VzYF5+u0
「戦場、戦場、洗浄、洗い流す?血で血を洗い流そうか?」
(よい心がけです、神の愛の道は常に赤くある必要があるのですから)
「はい」
セインは足りるのか分からなかった。それが心配だった。自分が歩く道を赤く洗うにはどれくらいの血の量が必要なのか、道の幅も長さも分からないぞ。と混乱がセインの頭を襲った。
「痛い痛い痛い痛い痛ーい!?」
猛烈な頭痛がすると同時に脳味噌の形状が変わっていくような感覚がセインを襲った。
誰が悪いのか、自分が悪くないのは確実だし、悪いのは敵だから敵を殺して、自分の強さを見せつけて最強になれば頭が痛くなくなって、幸せが来て。僕は誰にも怯えず、脅かされず、全てを手にできるんだ。セインの頭の整理がつくと同時に頭痛は収まった。
アッシュの声がセインの耳に届いた。
「全機出撃、船を守ることを第一に!前へ出ようとはするな!」
それじゃ、なにかどうしようもないじゃいかとセインは思った。格納庫の扉は開いている。アッシュさんの言うことを聞こうか?聞かなくてもいいか、とセインは思い、ブレイズガンダムを格納庫から、船外へと飛び立たせたのだった。
セインが求めていたのは、とにかく敵の血だったのだ。

「しかし、コード:ブレイズかぁ、アレってガチ失敗作だよね」
ロウマはバルドレンの研究室でバルドレンと菓子を食いながらとジュースを飲んでいた。
「失敗作ではないぞ。成功する可能性が限りなく低いだけじゃ。まぁコード:ブレイズを発動させた段階で、七割は死ぬがな。脳味噌の構造を電磁波やら何やらで無理矢理変えるからの。普通は耐えられんわい」
バルドレンはがははと笑っている。ロウマはこのジジイの無駄遣いに多少ウンザリしている。
「ある程度、リミットが来たら強制的にコード:ブレイズでしょう?それが無かったら超性能のMSで済むし、羽クジラの“ギフト”の無駄遣いだよ博士。ブレイズガンダムに積んである“ギフト”は俺も欲しかったのに」
プロメテウス機関の会議でくじ引きをやった結果、羽クジラの“ギフト”の使用権がバルドレンに移り、バルドレンはそれを使ってブレイズガンダムを作ったわけだが、ロウマとしては、その使い方は無駄も良いところだと思う。
「まぁ、ええじゃないかい。今度ワシが使用権を持っておる“ギフト”を一つやろう」
そう言われても、ロウマは、えー、としか思えなかった。バルドレンが持っている残りの“ギフト”は大したものではないからだ。
「まぁ、いいけど、もらっておくよ」
何も無いよりはましだとロウマは仕方なく後で貰おうと思った。
ロウマはこのままバルドレンとつまらない話しをしていても良いとも思ったが、そう言えば気になることがあったので、リモコンを操作し、研究室の壁面のモニターをつけた。すると映っているのは、オーブである。
「なんじゃ、観光番組か?」
「ジジイと青年で仲良く、観光番組みるわけないでしょうが、そもそも、ここテレビ映らないじゃない」
そうじゃったかのう、とバルドレンが考え込む間、ロウマは適当にモニターを操作する。そろそろ戦争が始まる頃だと思ったからわざわざこうやってモニターで見ているのだ。
ロウマとしてはオーブがさっさと落ちて、1抜けしてくれるといいと思った。そろそろ半端な国の出番はお終いで良いと思っているからだ。
そうしてモニターを見ていると、不意に目が留まった物があった。
10ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/14(土) 17:38:34.13 ID:2VzYF5+u0
「おお、ブレイズガンダムじゃのう」
俺が言いたかったのに、このジジイはと、ロウマはイラッと来たのでリモコンを投げつけた。リモコンはバルドレンの頭に直撃するが、対して痛そうでもなく、気にしてもいなかった。
「コード:ブレイズで生きていたなら中々の素材じゃが、同じパイロットかの?」
ロウマは何も言わなかったが、多分同じパイロットだと思った。無意識の小さな挙動がこの前に見たブレイズガンダムと同じだからだ。
セイン・リベルター君、少しは面白くなってきたかな、とロウマは口元に笑みを浮かべた。

敵だ敵を探さなきゃ、セインはアッシュの言葉を無視して、機体を飛び立たせ、オーブの本島に迫る。
「敵だぁー!」
セインのブレイズガンダムは本島への上陸を阻もうと洋上で防衛体制を取る艦船を見つける、そこへ向けてビームライフルのチャージショットを放つ。強力なビームは一撃で艦船を貫き、沈める。
その瞬間、セインの頭がすっきりとする。そうか、やはり。これで良いとセインは確信して、辺りの艦船を沈めるために、ひたすらに強力なビームを撃つ。
しかし、それを見過ごしておくほどオーブ軍も甘くない。オーブ軍の量産型MSであるM4アストレイがブレイズガンダムに襲い掛かる。
セインのブレイズガンダムは敵の放ったビームを回避しながら、別の沈めていない敵艦の甲板上に飛び移る。
「飛び回るなよ、面倒だなぁ」
セインはブレイズガンダムの上空を飛び回りながら攻撃の機会を狙ってくる、M4アストレイに辟易としていた。
とりあえず、狙って一機を落とすことにした。ブレイズガンダムのビームライフルからビームが発射されるが、セインはまだ、敵の動きの軌道を読み切れていなかったのか、ビームはM4アストレイの脚に直撃した。
「違うな、こうじゃないか」
セインは呟きながら、脚を失った機体にもう一度狙いをつけて引き金を引く。ブレイズガンダムのライフルの銃口から放たれたビームは、コックピットに直撃した。
(よい行いですよ)
「はい」
セインが頭の中の声と会話していると、セインの感覚では、それを邪魔しようと三機のM4アストレイがブレイズガンダム迫ってくる。
セインはつくづく邪魔だと思い、ブレイズガンダムのゼピュロスブースターのミサイルを突撃してくる三機の間に撃ち込み、煙幕のように爆発させた。
三機は直撃することなく爆発したミサイルに戸惑っていると、ミサイルの爆煙からブレイズガンダムが飛び出し、すれ違いざまに一機のM4アストレイの胴体を真っ二つに切り裂き爆散させる。
「あと二機」
セインのブレイズガンダムはビームサーベルを抜いたまま、敵に接近し、そのコックピットを貫いた。
セインはふと面白いと感じた。クライン公国のMSのコックピットをビームサーベルで貫いた時と感触が違うような気がしたからだ。
そう感じたので、セインは仲間の仇とばかりにビームサーベルを片手に突っ込んで来たM4アストレイの攻撃を軽く躱すと、そのコックピットをビームサーベルで貫いた。
やはり感触が違うと思い、セインの口元に笑みが浮かんだ。
「僕は、こっちの方が好きだな」
セインはコックピットを貫かれ、墜落していく、M4アストレイの姿を見ながら呟いた。
11ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/14(土) 17:39:10.44 ID:2VzYF5+u0
アッシュたちは船上で待機しながら、セインの戦いを見ていた。
「セイン強いなぁ、いつの間に腕を上げたんだ?」
ジェイコブが無邪気に言うが、アッシュとしてはそんな気分ではいられなかった。アッシュはどちらがマズイのか考え始めていた、機体かパイロットか、アッシュは機体の方だという思いが強かった。
アッシュから見てセインという少年は、無茶はするが本質的には臆病で、メンタルが弱いはず。それが急に変わって、命令を無視して戦場に飛び出し、あれほど堂々と戦えるようになるとは思えなかった。
おそらくブレイズガンダムに何か原因があるとアッシュは思った。ただでさえ出自が怪しい機体だパイロットをおかしくさせる何かが積まれていてもおかしくないとアッシュは考えた。
とりあえず、この戦闘だけは様子見だ。これ以上、セインをあの機体に乗せることはアッシュには抵抗があった。

「はは、はは、はは、楽しいぃなぁぁ」
(喜びに打ち震える素直な心を持つことが重要ですよ)
「はい」
セインのブレイズガンダムは既にオーブの本島に上陸していた。セインの頭にチラッとオノゴロ島という名前が思い浮かんだが、
セインはどうでも良かったので、シールドを構えながら、ビームライフルをアサルトモードに変え、高速連射されるビームで敵の機体をズタズタに引き裂いていた。
「うん、これもいいな」
セインがズタズタになって崩れ落ちる敵をみたら、これも良いと思えてきたので、今度はこうやって殺そうという気分になってきた。その時だった。どこからか飛来してきたビームがブレイズガンダムのビームライフルを貫き、破壊した。
「あ」
セインはとても悲しい気持ちになった。これでは上手く殺せなくなると思うと急な悲しみが襲ってきたのだ。
(あなたに悲しみを与える者は無数にいます。あなたは全てを打ち払わなければなりません)
「そうだ、ぶっ殺してやる。僕のライフルを壊した奴」
セインの思考が悲しみから急に怒りへと変わり、自分を攻撃してきた機体を探そうとすると、急に機体に衝撃が走り、ブレイズガンダムが弾き飛ばされる。
「なにかいるな」
セインの頭は怒りから冷静な状態に切り替わった。そこで、ようやく敵らしき物の姿を視認した、透明だが僅かに背景に対して歪んで見える何か。形はMSのようであった。
セインは、とりあえず、そこに向かってゼピュロスブースターのミサイルを斉射した。するとやはり煙の中に透明な何かが浮き上がって、しかもそれがブレイズガンダムに突っ込んでくる、
セインはブレイズガンダムにビームサーベルを抜かせると、透明な何かに向かってビームサーベルを振るった。その直後、ビームサーベルは何かに受け止められた。
「多少はできるな」
通信で敵の声が聞こえた。それと同時に敵のMSが姿を見せる。
機体はM4アストレイに似ているが、メインの装甲は黒く塗られ、各所の露出しているフレーム部分は金色のMSだった。さらに装備もセインが見たことのないものが各所に取り付けられていた。
「M4アストレイゴールドフレームと言ったところだ。まだ天(アマツ)を付けるには至ってない取るに足らない機体だよ」
そう言いがらも黒と金のM4アストレイはビームサーベル受け止めた状態から、反撃に出た。背中のバックパックからサブアームが伸びると同時にそこからビームサーベルが出力され、ブレイズガンダムに襲い掛かる。
セインは良くないな。と思い、機体を大きく後ろに後退させる。
12通常の名無しさんの3倍:2015/02/14(土) 17:41:49.64 ID:XvB3IWWn0
しえん?
13ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/14(土) 18:26:53.51 ID:2VzYF5+u0
「下がったな。少しでも賊をオーブの国土から追い出せたので、良しとするか」
黒と金のM4アストレイは優雅に構えを取る、セインはその態度に気に入らないものを感じたのでブレイズガンダムを動かそうとした。その時である、ブレイズガンダムの頭部が何かに打撃された。
目の前の機体が何かをしたのは明らかであった、黒と金のM4アストレイが左腕を横に払った瞬間に打撃の衝撃が襲ってきたのだから。
「我が名は、アルバ・ジン・サハク!サハク家を継ぐ者にして、オーブの盾なり!」
うるさい奴だとセインは思い、機体を動かす。その瞬間、再び見えない打撃が襲ってきた。しかし、ブレイズガンダムの動きを止めるほどの威力と衝撃ではない。
「なるほど猛獣の調教は、鞭だけでは駄目か、ならば」
ブレイズガンダムはビームサーベルを片手に突進する。対して黒と金のM4アストレイは後ろに下がりながら、左腕を振るう。セインはその瞬間、機体に何かが引っかかったような気がしたが、無視をした。
しかし、それが失敗だった。直後に、ブレイズガンダムに電流が奔り、コックピットまで電流は流れ、パイロットを襲う。
きついとセインは思ったが、元々正常な思考が出来ている状態ではなかったので、考えることはさほど難しくなかった。
(苦痛も道のひとつですよ)
「はい」
セインが思い至ったのは鞭状の武器である。技術的な原理は不明だが、多分そうだと思ったので、ビームサーベルを抜き放つと機体の周囲をやたらめったに振り回した。すると何かが切れ、電流は止まった。だが、敵の攻撃が止まるわけではない。
「隙ありだな!」
黒と金のM4アストレイは右腕のシールドから刃をスライドさせて、突進していた。シールドからスライドして伸びている刃はビームサーベル並の長さがあった。
セインはマズいと思った。思考に対して機体の操縦は追いついてくれなかった。そして刃が走る。刃は装甲を切り裂き、ブレイズガンダムの右腕を切り飛ばした。
セインはボンヤリと宙を舞うブレイズガンダムの右腕を見ていた。あれ、僕の腕だよな。何か他人事のような気がした。
セインは自分の右腕があるかを確認してみた。触ってみると確かにある。では、あの宙を舞っているのは誰の腕だ?考え、セインは自分の腕だと思い至る。
「ああああああ、腕、腕で腕ぇぇ!?」
セインは訳が分からない。頭が混乱していた。自分と機体どっちが自分なのかの境界が分からなくなっていた。
黒と金のM4アストレイは右腕のシールドから伸びる刃を悠然と構えながら、腕を失い呆然としているブレイズガンダムに近寄ってくる。
「オーブも昔は最新技術の宝庫だったんだがな。今では、この刃のような何でも斬れる剣といったような訳の分からん物に頼るようなっていてな。少し恥ずかしいよ」
声が聞こえるが訳が分からない。バリアがあったのに何で切れるんだ?そもそも僕の腕はどっちだ、飛んでったほうか、それともこの身体に付いてるほうなのか、くそくそくそくそ、頭が痛いんだよ、腕が痛いんだよ、もう嫌だ。
殺してやる、僕をイジメる奴は、僕より強い奴はもういらない、この世界にいらないから、ぶち殺してやる。
14ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/14(土) 18:31:25.77 ID:2VzYF5+u0
「……コード:ブレイズ……!」
セインは静かに、だが力強く言葉を発した。
その瞬間、ブレイズガンダムの関節部から赤い不可思議な粒子が炎ように吹き上がる。
「なんだ!?」
アルバは目の前で敵の機体が異様な状態になっていくのを目の当たりにし、危険を感じていた。
ブレイズガンダムは左腕にマウントされていたシールドを捨てると、黒と金のM4アストレイに突進する。
だが、その速度は先ほどの比ではなかった。アルバはその目で見たが、スラスターから噴射されているものも、通常の推進剤の炎ではなく、炎のように吹き上がる赤い粒子だった。
「猛獣ではなく、怪物か」
ブレイズガンダムは左拳で殴りかかる。武器が無い以上はそうするしかない。アルバのアストレイは右腕のシールドで防御したが、その左拳の威力は尋常ではなかった。
受け止めたはずなの黒と金のM4アストレイは大きく吹き飛ばされ、その衝撃で機体にダメージが生じる。
「相手にしたくないな」
アルバは戦士でもあるが、それ以前にサハクの家を継ぐものである。ここで怪物と戦って命を落とすことは許されない。アルバは即座に撤退を判断した。黒と金のM4アストレイはブレイズガンダムに背を向けると急ぎ去って行く。
「逃げるな、逃げるなよぉ、僕の腕はどうすんだ!くっつけろ、くっつけろよぉ!」
セインのブレイズガンダムは左腕を黒と金のM4アストレイに向けて追いすがるような姿勢だった。
「逃げるなら死ね、死んでから逃げろ!僕より弱いんだろ、逃げるんだから、僕が強いんだから、僕の言うこと聞けよぉ!」
セインがそう叫んだ瞬間だった。ブレイズガンダムの左手、武器にエネルギーを供給するコネクターから赤い粒子が漏れ出し、球体を形成する。
「燃え尽きて、消え失せろ!」
ブレイズガンダムの掌に生まれた赤い球体が、黒と金のM4アストレイに向けて発射された。回避できたのはまさに偶然だった。赤い球体は、黒と金のM4アストレイの横を通り過ぎて遥か彼方に着弾すると大爆発を引き起こした。
アルバは後ろを振り返らず、懸命に逃げた。あんな攻撃が何発も飛んで来たらオーブは終わりだと思った。だがその心配はいらなかった。
「ちくしょう、痛いよ、痛いよぉ、何なんだよ、ちくしょう、ふざけんな!」
セインのブレイズガンダムの左腕は赤い球体を発射した瞬間に崩壊していたのだった。セインのブレイズガンダムは、両腕を失い、地面に倒れながら、ジタバタと子どものように暴れもがいていた。
「……セイン君、この機体は……」
もう無理だとアッシュは思った。セインには悪いが、秘密でセインのコックピットの音声をアッシュは拾っていたのだ。口外はしないし、そもそもできるものでもない。
ただ、アッシュはセインをブレイズガンダムに乗せておくわけには行かないと思い、キャリヴァーでブレイズガンダムのいる場所に降り立っていた。
ブレイズガンダムの戦闘も見ていたが、マトモな戦い方ではない。それに、最後に放った赤い球体。あの威力にオーブ軍は戦意喪失といった感じだった。
おそらく近いうちに、オーブからの降伏声明が発表されるとアッシュは思った。戦闘は終わったのだ。
15ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/14(土) 18:32:32.86 ID:2VzYF5+u0
セインをブレイズガンダムの中に入れておくわけには行かないとアッシュは思い、キャリヴァーを降りると、ブレイズガンダムのコックピットを味方の権限で強制的に開けた。
コックピットの中ではセインがすすり泣いていた。
「腕ぇ、腕がないよ、腕が無いよぉ」
アッシュは痛々しくて見ていられなかった。アッシュはコックピットのセインを引きずり出す。
「バケモノめ」
アッシュはブレイズガンダムを睨みつけると吐き捨てるように言い、セインを少し離れた場所、おぶって連れていく。
そして、こんなことをしても意味はないと思ったが、アッシュはセインを優しく抱きしめてやった。意味はないとアッシュは思ったが、効果はあった。セインの目の焦点が元に戻り、現実に帰って来たのだった。
「アッシュさん。僕は……」
「……何も言わなくていい。疲れたろ?少し休め」
そう言った途端に、セインは眠りについてしまった。これだけでも異常だ。
アッシュはブレイズガンダムの存在を考え、クライン公国は何をしようとしているのか、想像がつかなくなっていた。

アッシュの読み通り、オーブはほどなくして降伏を申し出た。マスドライバーも無事であり、クランマイヤー王国の面々が帰れなくなるということもなさそうだった。
ブレイズガンダムに関しては大破に近い状態であったが、クランマイヤー王国までしっかりと持って帰ることをアッシュは明言した。アッシュとしてはレビーとマクバレルにしっかりと機体の謎を解明してもらいたかったからだ。
セインについては過労という診断が下された。身体よりも脳の疲労が酷いと医者は言ったが、アッシュとしてはそれもイマイチ信じがたい話しであった。
だが、どのみちブレイズガンダムが関係しているなら、乗せなければ良いだけの話しだと思うことにした。
そしてアッシュたちは小型の宇宙船にMSを積み込んで、マスドライバーで打ち上げてもらうことになった。マスドライバーの運用自体はそれほど難しいという訳でもなく、アッシュらが頼んだら、すぐに打ち上げの運びとなったのだった。
「どうした?」
セインはボンヤリと窓の外を見ているセインに声をかけた。
「少し、変な感覚なんです。腕が自分の腕じゃないような……」
「……気にするな……」
アッシュとしてはそれしか言いようが無かった。
「頭の中に良く分からない声はするし、時々頭が痛いような気がするんです。でも痛くなくて、体と体が切り離されたような気分が」
セインは頭を抱えている。アッシュとしてはどうしようもない。状況によっては病院にいれることも考えるしかないと思った。
「まぁ、宇宙に帰れば少しは気も休まるさ」
アッシュとしてはそれしか言う言葉がなかったのだった。

「二回目のコード:ブレイズでも生きてるか。すごいねぇ、セイン君」
ロウマは相も変わらず、バルドレンの研究室に入り浸っていた。
「ふーむ、一回目を耐えられるのは三割だが二回目を耐えた者はおらんしなぁ、これはひょっとするかもしれんぞ」
バルドレンは興奮気味だった。
「三回目のコード:ブレイズが発動されて生きておったら、確保に向かってくれんかの」
バルドレンは両手を合わせてロウマに頼んでいた。
「別に良いですよ」
ロウマとしては断る理由もない。確保したらしたで大変なことになるだろうが、それはロウマの知ったことではなかった。
16ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/14(土) 18:33:42.73 ID:2VzYF5+u0
34話終了です
17通常の名無しさんの3倍:2015/02/14(土) 19:03:01.44 ID:jhCKpnxW0
【恋愛】嫁にしたい&嫁にしたくないガンダム女子キャラクターランキングトップ10
http://kuriid.blog.jp/archives/1019781728.html
18ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg :2015/02/17(火) 11:58:00.84 ID:3poa3QTm0
「ウェル!」
バルクは、天高く立ち上る黒煙を見据え、叫んだ。
バルクは、今この都市に立っているザフト兵は自分だけであることを強制的に認識させられた。
そして彼には部下の死を悼む暇すら与えられることは無かった。
彼のジンの四方のビルから対戦車ミサイルが放たれた。

ミサイルは、固体燃料の白煙を引いてバルクのジンに襲い掛かる。
バルクのジンは、重突撃機銃で迎撃する。
旧式の戦車砲に匹敵する威力を持つ砲弾が次々と吐き出される。

76mm弾は、空中を飛ぶミサイルを次々と撃墜した。
発射されたミサイルが空しく砕けていく光景に周囲に潜伏する地球連合兵達は歯噛みした。

最後のミサイルが撃墜されたのと時を同じくして、周囲の廃墟の間からゴライアスが数機出現した。
バルクのジンを包囲する格好で各方向から出現したゴライアスは、土煙を巻き上げて突撃した。

指揮官であるハンスの着用するゴライアスは、ローラーダッシュを活用して接近すると胸部めがけて
右手に保持したグレネードランチャーを放った。

他のゴライアスもそれに続く。

一斉にグレネードが四方からジンに向かって撃ち込まれる。
グレネード弾が次々と着弾し、ジンのコックピットを揺さぶった。

戦車やモビルアーマーのリニアガンにも耐えるジンにとってそれらの攻撃は大した威力ではなかった。
しかし、その頭脳と中枢神経に相当する存在であるパイロット・・・バルク・ラースンに対しては衝撃を与えることが可能だった。

無論転倒や墜落時も考慮されているジンのコックピットの衝撃吸収機能はパイロットを気絶させるほどの衝撃を
パイロットに伝えることは無かった。

だが、それでもパイロットにダメージを与える程度には衝撃が伝達されていた。
19ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg :2015/02/17(火) 12:06:19.04 ID:3poa3QTm0
コックピットに鳴り響く警報音にかまわず彼は、ジンを前進させた。
ゴライアス部隊は次々とローラーダッシュを活用して後退する。

「こいつ!」

バルクのジンが足元を駆け巡る金属の小人を射殺すべく重突撃機銃を向ける。
その銃口の先には、ハンスのゴライアスがいた。

これは偶然ではなく、ハンドサインや発光信号で他のゴライアスに指示を出すハンスの機体を
指揮官機であるとバルクが見抜いていたからである。

76mm弾は、歩兵の携行火器にも耐える軽量装甲を纏った人工筋肉駆動の小人を吹き飛ばすには十分な威力を秘めていた。
だが、重突撃機銃が火を噴くよりも早く、遠方のビルから放たれた20mm弾が、重突撃機銃の弾倉を貫いた。


別の地点に移動していた狙撃兵 アンジェリカが20mm対物ライフルによって狙撃を行ったのである。
即座にバルクのジンは重突撃機銃を手放す。
弾薬が誘爆した重突撃機銃が爆発する。

「ライフルが!」
唯一の火器である重突撃機銃を失ったバルクは、ジンの腰部の重斬刀を抜いた。
重斬刀は、モビルスーツサイズの実体剣であり、
その威力はモビルアーマーや戦車の装甲を切り裂く程であった。
ただし近接戦闘用の武器である為、射程という点では、徒手空拳と変わらないものであった。

眼の前に立つ大男の名を持つ小人を切り倒すべく、巨大な長剣を握った単眼の魔神が疾駆する。

対する小人・・・・ハンスのゴライアスは動かない。
まるで恐怖にすくみ上ったかのようであった。

ハンスのゴライアスの目の前に重斬刀を振り上げたジンが現れる。
従来の陸戦兵器の常識からかけ離れたモビルスーツの高機動性のなせる業である。

「仕留めた!」

この瞬間、バルクは勝利を確信していた。


だが、突如、バルクのジンの足元・・・・地面が崩壊した。
20ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg :2015/02/17(火) 12:09:50.34 ID:3poa3QTm0
再構築戦争後、大西洋連邦やユーラシア連邦等の各国がテロや戦争に見舞われた都市の復興、改築に際して重視したのは、
市民を避難できる空間の確保であった。


これは、再構築戦争末期、カシミール地方での核攻撃の影響である。
後に最後の核と呼ばれたこれによって西暦のソ連崩壊後は一時期SF小説の中の出来事のように語られていた核攻撃の危機が
現実化したことで各国は主要都市に核攻撃への耐性、市民が避難できる空間の確保を重要視したのである。

そしてCE71年時点、核シェルターとして転用できる地下鉄や地下施設など
・・・・・各国の多くの都市には、広大な地下空間が存在していた。


ハンスは、これら地下空間を敵の空爆に耐える退避壕として利用するだけでなく、
ザフト軍に対する攻撃手段として利用することを編み出したのである。


都市の地下空間の中で老朽化が進んでいる箇所を選び出し、其処が一定重量を超えると崩落する様に工兵部隊によって工作を施していた。
それでも落とし穴へと改造されたその地面は、人間や自動車が上に乗っても耐えられたが、
主力戦車を上回るモビルスーツ ジンの重量が耐えられるはずがなかった。

コンクリートの地面を踏み抜いたジンは、地下空間へと落下していった。

「しまったあ!」

落下の衝撃に揺れるジンのコックピットにバルクの絶叫が木霊した。
そしてその底には、対陸戦モビルアーマー用の大型地雷が仕掛けられていた。


ジンの巨大な足が、埋設された地雷を踏み抜いた次の瞬間、穿たれた大穴から眩いオレンジの爆炎が吹き上がった。
21ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg :2015/02/17(火) 12:16:47.74 ID:3poa3QTm0
今日は此処までです。
リアルが忙しかったので遅れてすみません・・・これからは早く更新できるように努めます
もうすぐ、第2ラウンドに物語は移行しますのでお楽しみに
後、クロスアンジュで敵に回った元第一中隊員と主人公機同型の部隊についてガンダムSEEDの
カラミティ、レイダー、フォビドゥンの通称三馬鹿と比較してるのをまとめブログや
感想サイトのコメントで見ますが、自分はAC X2のヴィルコラク遊撃隊を連想しましたね。
自分は桑島氏がCVしてるヴィヴィアンが生き残ればそれでいいんですがw
22通常の名無しさんの3倍:2015/02/18(水) 07:20:35.68 ID:2JOeGO7X0
投下乙です、ユーラシア兵氏は生き残る方に「お賭け」になられたんですねw
きっと気を揉ませるために最終話「付近」までは生き残りますよw
23ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/18(水) 20:12:01.74 ID:m5EJEA/L0
投下します
機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第35話

アッシュたちが宇宙に戻ると、小型船の合流地点には、見たこともない戦艦が待機していた。識別はクランマイヤー王国となっている。
「ずいぶんと立派な艦をお持ちなんですね」
マイケルズ中佐に、素直にそう言われたが、アッシュの頬は引きつっていた。
「ええ、まぁ」
アッシュはこんな戦艦の存在など知らない。アッシュの目には銀色に輝く戦艦が映っていた。
艦の姿はシンプルである。武装兼ブースターユニットが両脇に付き、真ん中に剣のようにまっすぐ伸びた艦の本体がある。両脇のユニットからは大きく翼が伸びているが、これはスラスターユニットも兼ねているようだった。
武装に関しては、良く分からないが、中央の本体に二連装のビーム砲が二門ついているのは外観から把握できたがアッシュの知るクランマイヤーの技術者コンビが武装に手を抜くわけが無いので、武装は隠されているが相当だろうとアッシュは考えた。
やりすぎないように言った記憶がアッシュにはあったが、これはやりすぎの範囲ではないのだろうかと思った。そうアッシュが色々と考えを巡らせている時、銀色の戦艦から通信が入った。
「こちらクランマイヤー王国所属、戦艦シルヴァーナである。艦長のベンジャミン・ドレイクが姫の迎えに来たぞ」
シルヴァーナというのか、あの戦艦はとアッシュはボンヤリ思った。しかし、わざわざ戦艦で来なくてもいいだろうとアッシュは思いながら、戦艦を見ていると戦艦からMSが発進した。
「よう、楽しかったか、地球は?」
通信にハルドの声が紛れ込んで来た。そして戦艦から発進したMSも見たことがないものである。
通常のMSより一回り小さく、シンプルな、としか言いようのない機体であった。特徴的なのは頭部のサイズと比較しても大きなブレード状のアンテナである。おそらくこれも自分がいない時に技術者コンビが開発したのだろうとアッシュは思った。
「マルトスって名前だ。良い機体だぞ。小さいけれどジェネレーターはそのままで、パワーは普通のMSとほぼ同じ、小回りとかスピードは上っていう機体だ」
説明されてもアッシュはどうでも良かったし、とにかく色々と余計な情報が入ってきて、頭がぐらつきそうだった。
「もういい。護衛なら護衛で、とにかくクランマイヤー王国まで連れて行ってくれ」
アッシュがウンザリとした声で言うと、了解という声が複数返ってきて、戦艦とMSは動き出し、アッシュたちが乗っている小型船も動き出したのだった。

アッシュたちは戦艦シルヴァーナの護衛で無事にクランマイヤー王国に辿り着くことが出来た。護衛が無くても無事に辿り着くことはできたとアッシュは思ったが、心配して迎えに来てくれたハルド達の好意に感謝しておくことにした。
「いやぁ、シルヴァーナは最高だな」
「海賊やるのが楽しみだぜ」
アッシュは感謝したことを後悔したのだった。
「海賊と言いましたが、どういうことでしょうか?」
マイケルズ中佐が訝しげな表情でアッシュに尋ねる。ああ、聞かれたくなかったというのに、アッシュが、そう思った瞬間、ハルドがマイケルズ中佐を殴り倒していた。
説明が面倒だったから、その対応は楽でいいとアッシュは思った。楽でいい、楽でいいが、一応マイケルズ中佐は賓客だぞと、アッシュは頭を抱えた。
24ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/18(水) 20:13:22.53 ID:m5EJEA/L0
「駐在武官なんだから、殴るなよ」
アッシュは怒りを通り越したような境地で冷静に言った。
「しょうがないだろ、よそ者には色々と説明が必要なんだから、取り敢えず眠って貰って、準備してから説明な」
またバイオレンスな展開かとアッシュは辟易しながら、ハルドに担ぎ上げられ、どこかへ連れていかれるマイケルズ中佐を見送った。
そしてアッシュは自分がいない間、クランマイヤー王国がどうなったかを確かめるため、王国の見回りに出たのだった。レビーとマクバレルは除外することにした。もう戦艦の改修の件で何をしたかは理解したからだ。
アッシュは見回りに出た途端、ちょっとした驚きにであった。なんとストームが植物の世話をしているのである。
アッシュからすると雑草にしか見えなかったし、それを畑一面に生やしているのはどういうことかと思ったが、ストームは狂人なので、こういうこともあるかと納得することにしたのだが、直後に、マリアの悲鳴が聞こえた。
何か事件かと思ってマリアの元に向かうアッシュ。するとマリアがガチガチと震えながら、ストームの畑を指さしていた。
「ヤバいです。これはシャレにならないくらいヤバいです」
アッシュは何がそんなにヤバいのか分からなかったので、ストームに聞いてみる。
「何を育てているんだ?」
「葉っぱちゃんだよ。吸うとハッピーになる葉っぱさぁ!」
あ、これはヤバいなとアッシュも思った。とりあえずアッシュは何も言わず、ストームの畑に生えている危険な植物を残らず刈り取った。
「あー、俺の葉っぱちゃん!」
ストームが悲痛な叫びをあげていたが、アッシュは無視した。
とりあえず、次はイオニスだ。アッシュがイオニスの元へ向かうと、そこにはヴィリアス式騎士道場という看板が掲げられた掘立小屋である。
アッシュは嫌な予感がしたが我慢して、掘立小屋に入ると、イオニスが騎士とは何かを人々に説いていた。それはいいが、聞いている人々の目は虚ろだし、小屋の中が煙で充満しているのがおかしい。
アッシュはイオニスに説明を求めた。
「ストーム殿から頂いた葉っぱを焚いてだな、私が説教をするとみなが騎士道についてよく聞いてくれてな。私も話し甲斐があるというものだ」
ストームからの葉っぱということでアッシュはダメだと思い。問答無用で掘立小屋を破壊した。
「あー、私の聖域がー!」
イオニスも悲痛な叫びをあげていたが、アッシュは無視した。
これで直接行動を起こしそうなヤバい人間たちの始末は付けたわけだが、残りはユイ・カトーだ。アッシュはユイ・カトーのオフィスを訪れたが、当然のように良くない事態になっていた。
ユイ・カトーのオフィスは豪華になっており、ユイ。カトー自身もブランド物と一目で分かるスーツを着ていた。
「その服と、この部屋の豪華さはなにかな?」
アッシュが聞いてみると、ユイ・カトーは何を言っているのかという表情を浮かべた。
「貯金で買ったんですが、何か?」
その貯金は公金を横領して貯めた金じゃないかとアッシュは言いたかったがやめておいた。このゲス女には何を言っても無駄だ。周囲に被害が出る形でトラブルを起こしていなければ良いと思って、去ろうとした瞬間、ユイ・カトーの机から一枚の紙が落ちた。
「あ、拾わないで!」
ユイ・カトーが叫ぶが既にアッシュは拾っていた。紙に書かれているのは、カジノ収益のようだった。
「カジノ、開いてたな?」
アッシュが笑いながら尋ねる。ユイ・カトーも笑いながら答える。
「ちょっと、お小遣い稼ぎをしたかったんで、てへ」
アッシュは無言で部屋を出ると、ユイ・カトーが開いていたカジノを潰した。クランマイヤー王国では賭博は違法だからだ。
「あー、私の金づるがー!」
アッシュは悲痛な叫びをあげるユイ・カトーを無視して、最後に一番ヤバそうなことになっている場所に向かうことにした。
「死んでないといいが……」
アッシュが一番に案じていたのはマイケルズ中佐のことだった。
25ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/18(水) 20:14:05.50 ID:m5EJEA/L0
「それで私はどうなるんだ?」
マイケルズ中佐は暗い地下室で目を覚ました。目の前には赤い包帯を顔に巻き素顔を隠した男が金づちと釘を持って立っていた。
「いや、どうも、クランマイヤー王国がクライン公国相手に私掠船やってるのを見逃すのと、前に地球連合相手に私掠船やってたのを見逃すこと、この二つがちゃんとできると分かれば俺はアンタをこの部屋から無傷で出すけど」
マイケルズ中佐は少し考えた、どうやら近頃の海賊騒ぎの原因はクランマイヤー王国だということが分かった。正義にのっとれば、公表すべき事柄だが、現状、自分の目の前には、金づちと釘を持ったイカレた男がいて、自分は椅子に拘束されている。
絶体絶命の状況であるわけだが、どうするべきか。マイケルズ中佐が考えていると目の前のイカレた男が口を開いた。
「つねづね思っているわけだが、いつでも座れたら便利じゃね?と、だから椅子と人間を合体させていつでも座れる人間を作ってみようと思うんだが、どう思う?」
言っていることの意味がさっぱり分からないが、何となくこの男が自分にやろうとしていることは分かった。釘で体と椅子を繋げようということだろう。
「とりあえず、一本いっとく?」
栄養ドリンクみたいな調子で言われても困るとマイケルズ中佐は思う。
「少し冷静にならないか?」
言っても意味はないと思った。少なくとも感覚的には自分より相手の方が冷静だからだ。
「別に難しい話しして無くね。俺はただちょっと悪いことを見逃せって話しだよ?」
「うん、そうだな。前向きに検討するよ」
とりあえずマイケルズ中佐は屈した。これで大丈夫だと思った。しかし、イカレ男がイカレているのは、それ相応の理由があるのだ。
「なんか、嘘ついてそうだから、ちょっと思い知らせるわ」
そう言うとイカレ男は釘を捨てた、マイケルズ中佐は嫌な予感しかしなかった。イカレ男はガムテープを取りだすとマイケルズ中佐の口が空かないようにガムテープを縦に巻いた。これでマイケルズ中佐は常に歯を食いしばった状態になった。
すると、次にイカレ男は安全ピンを取り出すと、マイケルズ中佐の唇をめくりあげ安全ピンで突き刺して固定した。マイケルズ中佐は突き刺さった安全ピンの痛みに悶えた。安全ピンによって唇はめくられ、歯が剥きだしになった。
「さて、野球は好きかな?」
そういうとイカレ男は片手持ちの金づちを両手で持って、野球のバッティングフォームをして見せる。
「白球も白い歯も同じようなものだよな?」
そう言ってイカレ男は金づちを振りかぶった。マイケルズ中佐は何をされるか想像がついた。白い歯をホームランしようといったところだろう。死にはしないだろうが死ぬほど痛い目にあわされると思った。その時だった。
「ちょっと、待て!」
アッシュ・クラインが地下室に突入してきた。アッシュはイカレ男に手でバツ印を作ると、
「ノー暴力、ノーバイオレンスだ!」
必死の形相でイカレ男に言った。イカレ男の方はしょうがないと言った様子で、マイケルズ中佐のガムテープと安全ピンを外し、拘束も外した。
自由になれたわけだが、何事も突拍子もなくマイケルズ中佐は訳が分からなくなっていた。
「まぁ、あれでも悪い奴ではないので、許してくれ」
アッシュは、そう言うがマイケルズの感覚からすると、あれで悪い男でなければ、この国の悪人というのはどういう生き物なのだと思った。
26ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/18(水) 20:14:58.72 ID:m5EJEA/L0
イカレ男は何も言わずに去って行く。アッシュとマイケルズ中佐もその後をついていく形になったが、途中で分かれた。アッシュは歩きながら話す。
「私掠船の話しは聞いていると思いますが、申し訳ないのですが見逃してくれませんか?」
アッシュは懇願した。マイケルズはこの懇願を拒否したらあのイカレ男が戻ってきて、自分を殺しに来るだろうことが想像できたので、申し出を受けた。
マイケルズ中佐は軍人の家系に生まれ、真っ当に生きてきたが、この時初めて道を踏み外した。こうしてマイケルズ中佐のクランマイヤー王国での一日目は終わったのだった。
翌日、クランマイヤー王国での二日目、マイケルズ中佐は業務を行おうとしたが、、そう思った矢先である、妙な女がマイケルズ中佐の元を訪れた。片方の前髪を長く伸ばし、目を隠している不審な女だった。
「財務大臣のユイ・カトーです。マイケルズ中佐ですね。あなたは重大な違反をしていますよ!」
いきなり怒鳴られてマイケルズ中佐は訳が分からなかった。
「ここクランマイヤー王国では現在、専業軍人は存在が許されていないんです。生産力が低下しますからね。外国人だからって私は特別扱いしませんよ!」
マイケルズ中佐は本当に訳が分からなくなっていた。自分は駐在武官であるからして、と言おうと思ったが、いきなり財務大臣と言われる女にパンチされた。人生でこんな扱いをされたのは初めてだった。
「ファック・ユー、黙れ!クソ忙しいのに一応VIPだから私自らが来たんですよ。とりあえず、このリストの中から仕事を選んでください」
そう言われ、マイケルズ中佐はユイ・カトーからリストを渡された。リストには職業が羅列されているがどれもロクな物には見えなかった、一つだけマイケルズ中佐の目を惹くものがあった。
「料理人でお願いします」
マイケルズ中佐は、昔、料理人に憧れていたことを思い出し、それを選択したのだった。
「お、いいですね。料理人。お店もプレゼントしときますよ。アッシュ摂政に言って駐在武官邸兼レストランという感じで行きましょう。はい、店の権利書とか労働に関する書類諸々です。ヒマがあったら書いておいてください。じゃあ、さようなら」
そう言ってユイ・カトーは去っていった。マイケルズ中佐は気づいたら料理人ということになっていた。自分の選択ではあるが、何か腑に落ちないものを感じていた。
マイケルズ中佐は駐在武官の仕事か、レストラン経営の準備か優先するにあたって、レストランの方を優先することにした。
レストランの店舗は人魚と海の男亭という酒場の隣だった。空き店舗だったために埃がたまっているかと思ったが、そうでもなく、割と小奇麗だったため、準備に手間はかからなそうだった。
マイケルズは、店の内装を考えていると不意に胸が高鳴ってくるのを感じた。昔の夢が意外なところで叶うことに興奮していると自分でも気づいた。
とはいっても、マイケルズ中佐は店の経営など初めてであるため、食材の調達など、細かいことは分からない。こういうことは同業の人間に聞くべきだと思い、隣の人魚と海の男亭へと向かった。
27ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/18(水) 20:15:49.40 ID:m5EJEA/L0
「ありがとしゃーす」
人魚と海の男亭を訪れると、ちょうど、仕入れの業者が来ていたようだった。
「あ、どうもっす」
そう挨拶をしてきたのはジェイコブだった。マイケルズは確か、パイロットだった記憶していたが、今の服装はそれとはまったく違った。
「……キミは肉屋なのか?」
マイケルズ中佐は聞いてみた専業の軍人がいないということは、このジェイコブという少年も働いているのだと考えたからだ。
「あー、肉屋っつーより、狩人っす。鹿、猪、熊、雉、兎。なんでも調達しますけど」
ふむ、ジビエを使う時はこの少年に頼むとしようと、マイケルズ中佐は思った。
「すまないが、私も店を開くことになった。きみに食材を頼む時もあると思うが、その時はよろしく頼む」
「了解っす。あと、野生の食材が必要なら第2農業コロニーに来てくれれば、食材は用立てしますんで。妹のマリアはちょっとしたハーブ園をやって小遣い稼ぎをしてるし、ペテロは魚を釣って小遣い稼ぎしてるんで、よろしくっす」
ジェイコブ三兄弟は意外と真面目に働いているのだなとマイケルズ中佐は思った。その時だった。店のカウンターから怒鳴り声がした。
「ジェイコブ!サボってんじゃないよ!マリアに言いつけるよ!」
若い女の声であった。その怒鳴り声に恐れをなしてジェイコブは去って行ってしまった。マイケルズ中佐は女を見る。
長い赤毛に、バンダナを三角巾代わりに頭に巻き、胸元が大きく開いた服を着ていおり、気象の激しそうな女だった。
「そこのデカいアンタも、冷やかしか、客かどっちだい?客なら座る、冷やかしなら帰りな!」
マイケルズ中佐は反応に窮し、思わず正直に答えてしまった。
「いや、自分は隣に店を開く予定の者だが……」
そう言った瞬間に赤毛の女の眼が鋭くなる。
「店ぇ?そういや聞いたね、レストランを開くとか。良い度胸じゃないか!ウチの隣に店を開くなんてさ、喧嘩売ってんのかい!?」
赤毛の女はより強い調子で言われた。マイケルズ中佐の周りにはこの類の女性はいなかったため、対応に困った。すると店の奥から恰幅の良い壮年の男性が現れる。
「アイリーンや、そんな怒鳴り声をあげるもんじゃない。お隣さんなら仲良くやっていかんとな。ジャクソンだよろしくの、で怒鳴り声をあげてたのが娘のアイリーン、こっちもよろしく」
マイケルズ中佐は、はぁと言った感じで良く分からないまま、ジャクソンという男性と握手をした。そして、ある程度食材の仕入れ先について聞くと、礼を言って、店を立ち去ったのだ。
マイケルズは食材はなんとかなりそうだと一安心した。そして今度は内装を整えるために雑貨屋などにも足を運んだのだった。そうして、マイケルズ中佐のクランマイヤー王国での二日目は終わったのだった。
そしてマイケルズ中佐がクランマイヤー王国に到着して三日目、マイケルズ中佐は気づいた。駐在武官らしい仕事を何もしていないことに。マズイと思い、知っている顔の中で一番マトモなアッシュ・クラインのオフィスを尋ねた。
デスクではアッシュが大量の書類の山と格闘していた。
「ヤギを街中でも連れて歩きたい?だれだ、この陳情書を出したのは!知るか、拒否!」
「隣の店を潰して欲しい?落ち着け!」
「やぎのみるくはおいしくないのでやめてください?好き嫌いするな!」
アッシュは国民が出した陳述書に目を通している最中だったようだった。邪魔かと思ってマイケルズ中佐が退出しようとすると、アッシュが気づいて呼び止めた。
「すみません、マイケルズ中佐。気づくのが遅れて。レストランを出店されるようですね。この国に馴染んでもらえているようで、うれしいですよ」
アッシュは笑顔を見せて、そう言った。やはり数少ないマトモな人間だと思った。マイケルズ中佐は、相談できる人間はこの人物しかいないと思って聞いてみた。
28ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/18(水) 21:25:52.09 ID:m5EJEA/L0
「駐在武官の仕事についてですが……」
そう、マイケルズ中佐が聞きかけた時、オフィスのドアが勢いよく開けられた。そこから現れたのは見たことも無いような美青年であった。
「アッシュ、私掠船に行くが、欲しいものあるか?」
美青年は近所に買い物にでもいくような調子で、相当に物騒なセリフを吐いた。マイケルズ中佐はここでも常識が崩れるのかと絶望した。
「酒。あと、マイケルズ中佐が駐在武官の仕事に悩んでいるようだから連れて行ってやれ」
クライン摂政!?マイケルズ中佐は訳が分からないといった感じでアッシュを見るがアッシュは書類の山と格闘中である。
「オーケーオーケー、じゃあ行こうか中佐殿」
マイケルズ中佐は美青年の尋常ではない腕力に引っ張られ、連れていかれたのだった。
「虎(フー)も怪我が完治して絶好調、シルヴァーナもあるし盛大に狩るぜ?中佐はMSに乗れるよな」
一応はエースクラスと言われる腕だったがとマイケルズ中佐が言うと、美青年は、そいつは良いと笑うのだった。恐ろしく魅力的だが、内に恐ろしいものを飼っているようにも見えた。
「俺はハルド・グレンだ。覚えなくても顔で分かるから良いだろ?」
美青年はハルドと名乗った。この青年もマトモではないようだった。
マイケルズ中佐はリニアトレインに乗せられた。事前に調べた情報ではクランマイヤー王国は四つのコロニーで成り立っているということは知っており、このリニアトレインは工業コロニーへ向かっていると分かった。
「とりあえず中佐はレディ・ルージュ号かな、乗る船は。状況が変わる前は普通に軍事訓練してたけどよ。私掠船始めてからは、こっちが訓練のメインになっちまった。あんまり無理しないで、実戦訓練できるから私掠船は良いぜ」
なにが良いのか分からないがクランマイヤー王国が実践的な訓練を重視していることだけはマイケルズ中佐は分かった。
そうやって考えているうちにマイケルズ中佐は工業コロニーの宇宙港に連れていかれた。ここにも宇宙港があるとはマイケルズ中佐は知らなかった。隠し宇宙港というものかと考えた。
「遅いよ、レイヴン!」
聞いた声がしてマイケルズ中佐は声の方を見ると、アイリーンが海賊の格好をしていた。本当に訳が分からないとマイケルズは思った。
「うるせぇ、こっちは客連れだ、おまえの船に乗せな。赤毛の女海賊さんよ」
「くっそ、めんどくさい客を。アンタ!MSには乗れるね!足止め役だよ!」
マイケルズは訳が分からなくなりすぎて好きにしてくれという気分になっていた。
「んじゃ、行きますか」
そうハルドは言うと血のように真っ赤な上着を着て、さらに血のように真っ赤な色の包帯で顔を覆うのだった。
「ブラッディ・レイヴン?」
マイケルズ中佐は思わず口に出したら、そうだ、とハルドは頷いた。マイケルズ中佐は嫌な予感しかしなかったが、無理やりにレディ・ルージュ号へと押し込まれたのだった。
「では、シルヴァーナ出港だな」
マイケルズ中佐が精神的に大変なことになっている中、戦艦シルヴァーナゆっくりと発進した。続くのは巡洋艦を海賊船に改修したレディ・ルージュ号である。マイケルズ中佐はレディ・ルージュ号に乗せられていたのだった。
「調子悪いって聞いたけど、大丈夫かよセイン」
シルヴァーナの艦内ではジェイコブがセインを心配して声をかけていた。
「いや、不思議とそんなことは無いんだよな。少し前まで調子悪かった気がしたんだけど」
「ならいいけど、ムリしないでよ」
マリアが姉のような口調で言う。ジェイコブ三兄弟では一番下の妹だというのに。
「まぁ、無理はしないよ、今日はマルトスって新しい機体のテストをすれば良いんだろ?」
セインが言うと、全員がマルトスを見上げた。フレイドに比べると不安が残る機体である。大きさが通常のMSより小さい時点で、戦闘に怖さを感じた。
29ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/18(水) 21:27:04.38 ID:m5EJEA/L0
「別にデカけりゃいいってもんでもないと思うよ」
ジェイコブ三兄弟で一番腕が立つペテロが言う。
「ハルドさんが言うには違うのはサイズだけで、パワーも何もかも従来機通りだから、普通にやればいいんじゃないかな?」
ペテロにはわりと余裕があるようだった。セイン達にはそれが羨ましかった。
「おまえら、そろそろ獲物だ。MSで出とけ」
ハルドの声がした瞬間、全員が不安を無視してマルトスに乗り込んだ。
マイケルズ中佐は無理矢理にフレイドに押し込まれていた。大型のMSであるフレイドにである。
「パイロットは殺さない、なるべく機体も壊さないってのがアタシらのルールだ!しっかりやんな!」
アイリーンはそう言うと外からコックピットのハッチを閉めた。マイケルズ中佐としてはもうどうしようもない。
ここまでエリートとして順風満帆な人生を送ってきたのに、いきなり海賊かという思いがあったが、ここで働かなければ、何をされるか分かったものではない。幸い敵はクライン公国だ。倒すのに躊躇いはなかった。
「くそ、アラン・マイケルズ出るぞ」
半ばヤケクソの気分でマイケルズ中佐は出撃したのだった。
「状況は、敵に関しては巡洋艦三隻……三隻だと!」
マイケルズは海賊がやるような戦闘ではないと思ったが、クランマイヤー王国の私掠船部隊は、普通に戦っていた。
「冗談じゃない」
そう呟きながら、マイケルズも戦闘に加わる、フレイドの挙動はここまでで把握したさして問題はない。そう思いながらビームガンをホルスターから抜き、敵機のコックピットに向けて、ビームガンを撃とうとした。その瞬間だった。
マイケルズ中佐のフレイドの目の前をビームが通り過ぎた。
「よくねぇよ、新入り、殺しは無しだぜぇ、腕を狙って武装を潰しな」
できれば、口頭で注意をして欲しいものだとマイケルズ中佐は、改めて敵機の腕をビームガンで潰した。そして直後に気づく。
「おい、連射が出来ないぞ!」
トラブルか何かだと思い、ヒートサーベルを抜き放ち、目の前の敵機の残った腕を切り落とした。整備ぐらいはきちんとして欲しいと思ったが、周りを見ると普通に連射をしている。というか、予備の方と交換を繰り返して持ち替えながら撃っている。
つまりは、そう言う風に使えということかとマイケルズ中佐は理解したが、非合理的すぎると感じた。そう考えている内にも敵は動いて逃げようとしたので、マイケルズ中佐はフレイドのビームガンを敵のコックピットに突きつけた。
「動いたら撃つ」
海賊とはこうすればいいのかと何となく分かったのだった。
マイケルズ中佐が敵を止めている間にレディ・ルージュ号は巡洋艦に突撃をした。噂で聞いた話だと、この時代に海賊は肉弾戦をして、艦を制圧するというのだ。実際に見てもマイケルズ中佐は信じがたかった。
「おら、新入り、パイロットを追い出せ、機体を貰ってくぞ」
誰からか言われて、マイケルズ中佐は戸惑ったが、とりあえずビームガンでコックピットの辺りを叩いてみて言ってみる。
「降りろ、降りなきゃ、殺すぞ」
海賊らしくとはこういうことだろうかとマイケルズ中佐は、言ってみたわけだが、聞かされた方としては低くドスの聞いた声で言われたわけだから、実際に身の危険を感じ、コックピットから出てくる。
「んで、それをキャッチして、巡洋艦の方まで持って行って、脱出艇に乗せるわけだ」
マイケルズ中佐は細心の注意でパイロットをMSの手に握らせると、そのまま巡洋艦まで運び、待機している脱出艇と合流させた。
この作業に関しては、妙にチマチマしており、海賊らしさを感じなかったが、これもパイロットを殺さないためなのだとマイケルズ中佐は思った。マイケルズ中佐の機体は安定した動きで、パイロットを脱出艇のそばまで連れていったのだった。
「これで俺らの、仕事は終わり、新入りー、帰るぞー」
30ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/18(水) 21:28:18.64 ID:m5EJEA/L0
まさか巡洋艦三隻にこれをやるのかと思っていたら、マイケルズ中佐の視界では既に脱出艇が三隻動いていた。つまりは巡洋艦を三隻、仕留めたわけだ。
マイケルズ中佐はクランマイヤー王国の戦力を過小評価していた。
彼らが不殺などせず、艦船の制圧行為などせずに、純粋に撃破に向かっていたら巡洋艦など、一瞬で墜ちるだろうと。クランマイヤー王国の兵の練度とその装備が本物であることを、地球連合軍の士官の目ではっきりと確認した。
「新入りー!帰るぞー!」
誰だか分からないが叫ばれ、我に返ったマイケルズ中佐は、戦力分析は後に回すということにして、レディ・ルージュ号に戻るのだった。
その後は鹵獲した艦船をクランマイヤー王国まで運ぶだけであり、マイケルズ中佐はボンヤリとそれを見ているのだった。

「うーん、マルトス、ちょっと嫌かな、俺は」
ジェイコブがコックピットから降りてきて、セインに話しかけた。
「僕もちょっと嫌かなぁ、相手より自分の方が小さいと、なんか圧力を感じて苦手」
セインは難し気な顔で話すが、それに対して、やって来たマリアが口を挟む。
「それは兄さんたちが男だからよ。男の人って背のデカい相手にすぐビビるでしょ。私はマルトス好きよ。素早くて小回りも効くのにパワー負けしないし」
男の性質の問題にされても困るとセインとジェイコブは思うのだった。

「今日も楽勝楽勝大楽勝ってな感じだな」
ハルドはシルヴァーナのブリッジで顔面の包帯を取って、ブラッディ・レイヴンをやめている所だった。
「しかし、そろそろ輸送船を狙うのは難しくなってきたな。この航路に関しては少し獲物を取りつくした感があるな」
艦長のベンジャミンがハルドに言う。ハルドの方は別にどうでもといった感じだ。
「輸送ルートを変えてんだろ。これだけ海賊に襲われてルートを変えないバカが軍の上層部やってんなら、真正面から公国とやっても勝てるっての」
「まぁ、そうだが。海賊はどうする?少し遠出でもするか?ルートを変えたのなら、変えたルートをクリスに予測してもらえばいい」
そうベンジャミンが言うと、ハルドは気乗りしない様子だった。
「こんだけ馬鹿やってんだ。そろそろ反撃がくるだろ。少し様子見だな。それに駐在武官どのも来てくれたことだし、武官殿に軍事訓練でもしてもらって、ほとぼりが冷めるのを待ってから動くことにしよう」
ベンジャミンは何も言わずに頷いた。これは全面的にハルドに了承という合図だった。争いごとに対する感覚に関してはハルドの経験値は圧倒的である。それに関してベンジャミンは絶対の信頼を持っていた。
「では、今後は少し動きを控えるということだな」
ベンジャミンが確認するとハルドは頷く。では了解だと、ベンジャミンはシルヴァーナの進路を固定したまま、少し休むのだった。

各員が各々勝手なことをしている内にシルヴァーナとレディ・ルージュ号はクランマイヤー王国に到着した。二隻の艦艇が入港するのは工業コロニーの宇宙港であった。
マイケルズ中佐はなるほど裏口かと思った。ここならば人目にもつかず、堂々と悪事が働けるわけだ。そう思った直後、マイケルズ中佐は自分も悪事に加担してきたではないかと、自責の念に囚われたのだった。
「んじゃー、とりあえず、荷出ししてくださーい!」
宇宙港で指揮をとっていたのはユイ・カトーであった。財務大臣が何をするのかと思えば、海賊の多くが、荷物をユイ・カトーのもとに巡洋艦から積み荷やら、乗組員の私物やらを盗ってきて並べる。その中に、マイケルズ中佐は気になる物があった。
「あのティーセット……」
間違いなく、クライン公国式の最高級品だ。地球連合軍にいたころから欲しかった。所属のの問題や地球に輸出されていないことから、絶対に手に入らないと思っていたが、とマイケルズ中佐は心の中に欲が生まれてくるのがハッキリとわかった。
31ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/18(水) 21:29:19.97 ID:m5EJEA/L0
「なにこれ、ティーセット?ゴミかな」
ユイ・カトーはハッキリと言い捨てる。マイケルズ中佐は、その発言が許せなかった、それよりも目前の危機が迫っていた。
「とりあえず、倉庫」
そう言いながら、ユイ・カトーが雑にティーセットのカップを雑に置こうとした時だった。
「待て!」
マイケルズ中佐は本能的に叫んでいた。マイケルズ中佐は葛藤していた、言ってしまおうか、だが言ってしまったら、人間として終わりそうな気もしていた。だが、物欲には勝てなかった。
「そのティーセットは私が預かろう!」
マイケルズ中佐は悪の道に堕ちてしまったのだった。
「まぁ、良いですけど。私等には価値が分かんないんで」
ユイ・カトーはそう言うと、テープにマジックで何かを書くと、ティーセットにそのテープを貼った。テープにはマイケルズと名前が書かれていた。
「私からするとゴミみたいな価値の物は倉庫に入ってるんで、欲しけりゃ届け出を出してくださいね」
ユイ・カトーはそれだけ言うと、さっさと収穫物の鑑定に戻っていった。
マイケルズ中佐はそれを無視して、ティーセットを眺めていた。手に取ってみると感触も何もかも最高だと思った。
自分の店で、このティーセットを並べることが出来れば最高だとマイケルズ中佐は思うのだった。盗品だとかは関係ない。物の価値には変わりないのだとマイケルズ中佐は思うことにした。
「くくく、随分と満足げじゃねぇか、武官殿よぉ」
声をかけられてマイケルズ中佐は初めて気づいた。声の主はハルド・グレンというの名の男だったとマイケルズ中佐は思い出した。
「海賊、楽しいだろ?連合にいたころよりさ」
ハルドはニヤニヤとしながら言う。マイケルズ中佐は否定できなかった。実際に楽しいし、実入りもあったのだから。否定はできない。
「まぁ、これで同罪だ。仲良くやろうぜ、アランさんよ」
名前で呼ばれたということは仲間になってしまったということなのかとマイケルズ中佐は一瞬だが葛藤したが、もはやどうでも良い。
こうなっては毒を食らわば皿までという気持ちで、マイケルズ中佐は、アラン・マイケルズ中佐ではなくクランマイヤー王国ではアランとして生きることに決めたのだった。

アランは姫からお茶に呼ばれた。唐突な誘いである。まだ店の準備も出来てなかったが、呼ばれた以上は行くしかなかった。
茶会にはハルドとアッシュもいたが、アランは気にしなかった。というよりは気にすることすらできなかった。何故ならティーセットが、クライン式の最高級品だからだ。
王族なら当然と思うかもしれないが、アランは震えるしかなかった。一点のシミも無い茶器、そして茶を淹れているのは執事だ。
「執事じゃなく、バーリ大臣な」
ハルドが横から言うが、アランは許せなかった。自分を虚仮にしているのかという思いしかなかった。
茶葉も良質なクランマイヤー王国産ではなく、わざわざ地球産にしている。アランは自分に茶の味が分からないとでも思っているのかと思った。良質なクランマイヤー王国産を出すのが筋だと思い、内心では怒り狂っていた。
そして、菓子はアップルタルトである。味は……アランは負けていると一瞬思った。自分が作ったものではこの味は出せないのではないのか、そんな思いに囚われた。優劣をつけたいというのか、この大臣はとアランは思った。
「中々ですな」
アランとしてはそう言うことしかできなかった。自分ならもっと美味い菓子を出せるぞという対抗意識があったが、アランはそれを口にしなかった。それを口に出させて、現状では劣っていることをハッキリさせたいというバーリ大臣の思惑だと思ったからだ。
「申し訳ありませんが、茶葉を確認させてください」
アランは屈辱の申し出をした。そして愕然とした。アップルティーなどのフレーバーティーですら自家製で、徹底的に完成度を上げている。自分はここまで徹底できないとアランは思った。
32ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/18(水) 21:30:35.65 ID:m5EJEA/L0
「年の功というものです」
バーリ大臣はそう言うが、アランはそれで納得できなかった。そして思わず言ってしまった。軍人として働いていた時とは比べ物にならない強い気持ちでだった。
「貴方には負けない!」
そうしてアランは無礼を承知で言い、クランマイヤー王家邸を走り去って行った。
それから数日後、ビストロ・マイケルズは開店した。アラン・マイケルズが経営する店である。
昼間は丁寧なランチと繊細な味わいの喫茶類とスイーツ、夜は豪華だが絢爛に過ぎない質実剛健といった感じのディナーコースを振る舞う名店となったのだった。

ある日、アランの元に古臭い電話が届いた。アランは肉類の調理で繊細な作業を強いられていたので、その電話を鬱陶しく思った、最高の肉を出すのには緻密な温度管理が大事だというのに。
「はい、ビストロ・マイケルズです。申し訳ありませんが、ウチは出前をしてません。緊急の用件でない限り、夜は電話をしないでください」
アランはそう言って、電話を切った。今日は新しいソースを試す日だというのに、厄介なことだとアランは思う。客はバーリ大臣を含むクランマイヤー王家の人間だ。最高の料理を出さねばとアランはたぎっていた。そしてその後の電話は無視した。
「お見事です」
バーリ大臣は口を拭きながら言った。
「クランマイヤー王国の味が、一つに詰まっていると言っても過言ではありません。ソースは魚介ベースなのに肉を邪魔しない。それどころか魚介の風味がむしろ、陸で育ったはずの牛の味を引き立てる。メインの味はお見事としか言いようがない」
バーリ大臣は珍しく長い言葉を発した。
「しかし、あなたは味を探求するばかりに食べる人のことを理解していない。見てみなさい。私の隣の姫様を。私が食べ終わっているのに、まだ食べた量は半分過ぎだ。
陸の味を重視しすぎるために肉を焼き締め過ぎましたね。肉は焼けば硬くなる自明の理です。硬ければ食べにくくなることは当然。あなたの料理は自分勝手だ」
そう言われ、アランは崩れ落ちた。
「確かに自分は、味しか追及していなかった。食べるのは姫様だというのに、そんなことも忘れていた。料理とは食べる人間のためにあるもの。料理人が自己満足で出してはいけない。そんなことも忘れていました」
アランは涙を浮かべているが、実際はたいして大げさな話でもなく、姫がゆっくり食事しているだけであった。
「自分は修行し直します。食べる人のための料理というものを」
そう言いながら、アランは、厨房へと戻って行った。電話は鳴り続けている。面倒だとは思ったが、アランは電話に出た。
「マイケルズ中佐、緊急の任務だ。同盟国のクランマイヤー王国の戦力も使い、月を墜とせ」
なんだ、そんなことかとアランは思い。適当に了解の相槌を打ち、アランは厨房に戻るのだった。
そして翌日。朝の食材仕入れの時、アッシュを見たので、声をかけた。
「地球連合軍が、月を墜とせと命令したので、よろしく」
そう言って、アランは、海老の目利き作業に入るのだった。
33ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/18(水) 22:05:22.54 ID:m5EJEA/L0
35話終了です
34ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/19(木) 19:03:17.19 ID:xT+GfhqW0
投下します
機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第36話

ふーん、とアランから聞かされた時、アッシュは朝のランニング中だった。そしてランニングを終え、少し休むかと思った瞬間にマズイと気づいたのだった。
これが同盟の弊害という奴かとアッシュは改めて後悔した。関わりたくもない戦争に関わらされるという、極めて厄介な出来事だ。しかい、拒否するという訳にもいかない。アッシュは、とにかく主要なメンバーを集めることにした。
そしてアッシュは端的に言った。
「とりあえず、月を落とすことになった」
メンバーは、おー、と何か驚きがあるような、そうでもないような微妙な反応だった。その態度ですでにアッシュはウンザリと来ていた。もう少し事の重大さを理解してほしいと思ったが仕方ない。このメンバーに緊張感をもって月の攻略などやれそうもない。
正確には月の基地を墜とすのだが、もうどうでもいいとアッシュは思った。
もう面倒くさいので戦闘関係はハルドに全て一任だとアッシュは思った。そして一任されたハルドが色々と細かい指示を出す・
「各員、好きなMSに搭乗。俺は新型に乗る。とりあえずシルヴァーナで高速接近して色々ぶっ放してから、戦闘に移る。オーケー?」
オーケーとその場にいたメンバーが言う。
「基地の制圧は地球連合任せ、こっちは言われるまでは対MS戦闘以外、余計なことはしない。オーケー?」
オーケーとメンバーがやはり言う。思ったより統率がとれているとアッシュは思ったが、これはハルドがバケモノみたいに強いから作られている統制なのではと思った。
だが、そんなことを考えてもしょうがない。とりあえずゴロツキが言うことを聞いていることだけで満足としようとアッシュは思った。
「じゃ、セインはブレイズガンダムでよろしく」
しかし、最後に言った言葉に関して、アッシュは見逃せなかった。
誰もいなくなってから、アッシュはハルドに詰め寄った。
「セイン君をブレイズガンダムに乗せるのは良くないと、言わなかったか?」
は、とハルドは吐き捨てる。
「俺が見てねぇのに何も判断できるわけないだろうが」
それはそうだが、こちらの言い分としてブレイズガンダムに乗せるのは危険と理解してもいいではないかとアッシュは思うが、ハルドはどうでも良い様子だった。
「使って、どう駄目なのかお前のレポートじゃわかんねぇから俺が行くんだろうが。トラブルが起きたら俺が解決するよ」
ハルドはそう言って、アッシュとの会話を打ち切ったのだった。そして去って行くハルド。だが、その最中に一言を言ったのだ。
「ガキの1人どうでもいいじゃねぇか……」
幸か不幸かその一言は確かにアッシュの耳に届いた。その瞬間、アッシュは駆け出す。
「ハルドぉぉぉ!」
アッシュは殴りかかる姿勢だったが、ハルドは他愛もなく受け流し、アッシュを宙で一回転させながら、床に転がす。
「俺はお前が嫌いじゃねぇから、こうする。嫌だと思うが俺に任せとけ」
ハルドはそう言うと、アッシュを離し去って行くのだった。

そしてシルヴァーナは出港し、地球連合軍の作戦に協力するのだった。
セインはハルドを見つけると言う。
「ブレイズガンダムの搭乗許可をいただきありがとうございます」
セインは無垢な表情でハルドに言うのでハルドはバツが悪くなり、セインの髪の毛をかきむしる。
「俺の言うことがちゃんと聞けたらって条件付きだぜ」
ハルドはそう言うと手を離し去って行く。ハルドは何か嫌な予感がしたが、無視した。嫌な予感はトラブルにつながる。
そしてトラブルがあると状況はハルドにとっては大概面白いほうに転んで行くのだ。なので、ハルドは大抵の嫌な予感は放っておくことにしている。今回もそうしたのだった。
それが失敗かどうかは実際にことが起こってからだと思いながら、ハルドは自分が乗る新型機の前に来ていた。機体の前にはレビーとマクバレルがいる。
本格的な戦闘ということで、今回はレビーとマクバレルの技術者コンビも艦に乗り込んで、機体の整備に当たっている。
35ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/19(木) 19:04:07.99 ID:xT+GfhqW0
「どーも隊長」
レビーが挨拶するとハルドは軽く手だけを上げた。
「一応、新型のザバッグについて説明しますね。サイズは標準、フレーム等は中量級です。武装は、ビームライフルとシールドに小型のミサイルを仕込んでます。ビームサーベルも標準装備。まぁスタンダードな機体です。あとは乗って慣れてください」
レビーはそこまで言うと、ハルドに機体を見るように促した。ハルドは機体に視線を移す。
なんともまぁ、特徴の薄い機体だとハルドは思った。頭部はゴーグル型で地球連合規格、全体のシルエットも少し曲線が入っているが地球連合系だとハルドは思った。唯一気になるのが、バックパックから伸びている×字のスラスターだ。
「バックパックには可動式スラスターがあるんで、小回りは良いと思いますよ」
「他になんか自慢みたいなのはないの?」
あまりにも特徴が無さ過ぎるとハルドは思ってレビーとマクバレルに聞いてみた。するとマクバレルが答える。
「正直、なんとなく作った機体だからウリはないな。ただフレーム等はシンプルな分、かなり堅牢に仕上げることが出来た。あとは火器管制システムか」
「火器管制システムを地球連合とクライン公国の武装全てに対応出来るようにしているので、奪った武器も問題なく使えますよ。あと、腕とか千切れても、他の機体の腕とかで代用できますね」
マクバレルとレビーが順番に説明したわけだが、ハルドはイマイチ、ピンと来なかった。とりあえず戦闘に関しては、明らかに役立つものは無いという訳だなとハルドは結論付けた。
「フレイドにしときゃ良かったかな……」
ハルドはザバッグという名の新型機を見ながら、そう呟くのだった。

セインは出撃までの間、手持無沙汰だったためシルヴァーナの艦内を見て歩いていた。
「あいかわらず、凄い船だなぁ」
れっきとした戦艦で士官用の個室もあるというが、クランマイヤー王国には現状、士官というか階級自体が無いので、ハルドら腕の立つパイロットが勝手に部屋を使っていた。実力社会ということで、皆、納得していた。
「僕も個室をもらえるくらいには働いてると思うけどなぁ……」
そうセインが呟いた時だった。セインは目の前を信じられない人影が通り過ぎるのを見た。セインは慌てて追いかけ、その人影の名前を呼ぶ。
「ミシィ!」
セインの幼馴染のミシィ・レイアがいたのだ。ミシィは振り返りセインを見る。
「なに、セイン、大声を出して?」
ミシィは首を傾げながら言う。そんなミシィにセインは詰め寄った。
「何?はこっちのセリフだよ!なんで、この艦にいるんだ!この艦は戦争に行くんだぞ!?」
セインが叫ぶとミシィは耳を押さえて顔をしかめる。
「そんなこと分かってるわよ。私はこの艦のオペレーターになったの。だから、この艦にいるんだけど?文句あるの?」
文句とかそういう問題じゃなく……セインは上手く言葉に出来ないのがもどかしかった。
「別に大変な仕事じゃないわよ。レーダーとか見て、何か来たとか言えば良いって言われたわ。あと発進の時に、発進のアナウンスをするだけだって」
多分、それだけが仕事じゃないだろうとセインは思った。
「それ、誰が言ったの?」
「ストームさんとイオニスさん」
頭のおかしい筆頭二人組じゃないか!とセインは何故ミシィがあのキチガイどもの言うことを真に受けのか信じられなかった。
「でも、なんでまた急に……」
「急じゃないわよ。前から考えてたの。私にも戦いで何かできることがないかって」
だからって、どうして急にとセインは思う。何か言いたいことはあるのだが、上手く言えなくてセインはもどかしくてたまらなかった。
「私は行くわ。セインも気をつけてね」
そう言うとミシィは颯爽と立ち去って行った。その場に残されたセインは言いたいことも言えずに、呆然としたあと、頭をかくことしかできなかった。
颯爽と立ち去ったミシィも言いたいことが全て言えたわけではなかった。心の中に溜め込んだ思いがあるが、それを口には出せなかった。セインとミシィ、お互いに素直になることが難しいのだった。
36ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/19(木) 19:05:48.50 ID:xT+GfhqW0
シルヴァーナが月へ向かっている最中、月では地球連合の攻撃が予測されており、その対応策が練られていた。
最高司令官は聖クライン騎士団団長のビクトル・シュヴァイツァー大将であった。
「諸君も分かっていると思うが、この月面基地が陥落することになれば、月周辺の各拠点への補給路が分断され、月周辺は自動的に地球連合のものとなるだろう。諸君らの奮闘を期待する!」
ビクトルの話しを聞きながら、ロウマ・アンドーはあくびを噛み殺していた。くだらねぇ、とロウマは思う。ビクトルのアホ大将は、なんとかなると思っているがロウマは、勝負はついていると感じていた。
兵も装備も二線級だ。息巻いているのはビクトルだけ。こりゃビクトルは切られたかなとロウマは思った。元々、厳格過ぎて人望に乏しかった男だ。聖クライン騎士団の上層部でもビクトル降ろしの声は上がっていた。
聖クライン騎士団の上層部の総意としてはビクトルにここで名誉の戦死を遂げてもらう予定なのだろうとロウマは思った。実際、わざとらしいくらいビクトル派の将校で固められている司令部を見れば、多少頭の働く人間ならば気づく。
ビクトル派はここで全滅で新しい聖クライン騎士団の体制がつくられるだろうとロウマは予測するのだった。となるとここでの自分の役割は何かとロウマは考える。
ロウマは考えた結果、綺麗に負けるようにすることが自分の仕事だと思った。ビクトル派の人間は全員死んで、それ以外の使えそうなのだけ脱出させ、綺麗な撤退戦を決める。それが、今回の自分の仕事だとロウマは考えたのだった。

「月が見えたぞ、各員戦闘態勢」
艦長のベンジャミンが艦内放送で全員に伝える。
「タイミングと位置が良くなかったな。基地に行くには月を半周しなきゃならねぇ」
ノーマルスーツを着てブリッジにいるハルドはそう言うと、ミシィに確認を取る。
「半周するまでの間にある月の施設は?」
ミシィは急に声をかけられ、慌てて調べてハルドに伝える。
「強制収容所が2つです」
ハルドはそれを聞くと面倒くさいといった感じを露わにしながらも、どこか運が良いといった感じも含ませながら言う。
「収容所の解放を優先。歩兵戦闘員にもきちんと準備させるように連絡しろ、オペレーター」
歩兵戦闘員とは虎(フー)達のことだ。ハルドに言われてミシィはたどたどしくオペレーターの仕事をする。その後ろでベンジャミンとハルドは話していた。
「いいのか、基地到着が遅れるぞ?」
「こっちはガチの戦争はしたくねぇんだ。基地で戦争なんかしてたまるか。だから捕虜の解放してましたって言えば、参加しなかった面目も経つだろ」
妙なところで過保護なことだとベンジャミンは思いながら、艦内放送で全員に伝える。
「本艦はこれより、強制収容所の解放に向かう。総員戦闘用意」
ベンジャミンがそう言うと、ハルドはブリッジから去って行った。
「んじゃ、行くか」
ヘルメットを被りながら、ハルドは格納庫を目指す。途中セインに出会ったので、ケツを蹴飛ばした。
「遅い、キビキビ動け」
はい、と言いながらセインは急いで格納庫へ向かっていった。現状、アッシュが言ったようにおかしなところは見えないなとハルドは思った。
格納庫へ到着すると、パイロットは全員がMSに乗り込んでいた。数は12機だ。とりあえず細かいフォーメーションは決めずに行ってみるかとハルドは思い、自分も機体に乗り込む。
「大丈夫だとは思いますが、気をつけて」
レビーがそう言ったのを聞いてから、ハルドはコックピットのハッチを閉じた。
「ハルド、収容所に近づいたせいで、収容所の警備の機体が出てきたが、どうする?」
ベンジャミンから通信が入ったのでハルドは答える。
「艦砲射撃は無し。静かに殺す」
そう言って、ハルドはオペレーターに言うのだった。
「オペレーター、ハッチ開け」
ハルドがそう言っても格納庫のハッチは中々開かなかった。
「あ、自分がやるんで」
コナーズの声が聞こえてきた。どうやらオペレーターはまだ使い物にならないようだとハルドは思った。
37ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/19(木) 19:06:36.74 ID:xT+GfhqW0
「オペレーター、発進してもオーケー?」
ハルドは若干イラつきながらミシィに言う。
「あ、はい、どうぞ」
どんくさく返事が返ってきて更にハルドはイラッとした。
「ハルド・グレン、ザバッグ、出撃する」
そう言って、ハルドの乗るザバッグは、シルヴァーナから飛び立った。続いてセインのブレイズガンダムである。
「セイン、気をつけてね」
「うん、気をつけるよ。じゃあ、行ってくる」
そう言って、セインのブレイズガンダムが飛び立つ。ハルドの元にもその通信の音声は届いていたので色々と言いたかったが我慢した。
収容所から発進してきたMSがハルドの視界に入る。機体はゼクゥドのようだった。ゼクゥドもそこまで古い機体ではないが、最近ザイランを良く見かけるため、どうしても旧式機のイメージがした。
「敵発見、ハルド機、攻撃するぞ」
機体の火器管制システムではロックオンできていないが、多分当たるだろうと思い、ハルドはトリガーを引いた。直後にザバッグの右手のビームライフルからビームが発射される。発射されたビームは遠距離のゼクゥドのコックピットを貫いた。
「当たるんだな、あの距離でも……」
セインは驚愕した。そしてそれと同時に頭の中に声が響く。
(あなたも続くのです)
「はい」
頭の中に声が聞こえてきた瞬間、セインは頭が上手く働かなくなっていくのを感じたが、声に逆らう気にはならなかった。
セインはブレイズガンダムを敵の集団に向けて突進させようとした。だが、その瞬間だった。ザバッグの蹴りがブレイズガンダムの頭を捉えた。
「何、突出しようとしてんだ、馬鹿」
衝撃とそれに加えてハルドの声が聞こえてセインは頭がハッキリとした。
「今日は俺とお前でツートップ。お前が俺のカバーしないでどうすんだ」
それもそうだな、自分は何をしようとしていたんだとセインは反省しながら、ハルドの機体のカバーに入る。
敵のゼクゥドの集団は目の前だったが、問題はなかった。ハルドが前に出れば、セインがその背後をカバーする。逆になった場合はハルドがカバーする形になった。
そうして問題なく、収容所のMS部隊は殲滅させたのだった。ほぼ二機で片がついた。ハルドが多く倒したがセインも、そこまで負けてはいなかった。
「地球へ行って、腕を上げたか?」
ハルドがセインに言うが、セインとしては良く分からなかった。自分の腕がここまであがっているのがおかしいとさえ思っていた。
「おい、なんか言え」
ハルドのザバッグがブレイズガンダムを小突いてようやくセインは反応した。
「はい!?」
「何そんなに驚いてんだ?収容所に降りて、武装解除の勧告するぞ」
ハルドはセインの動きに妙な物を感じていた。アッシュが言っていたほど露骨ではないが、とにかく前へ出ようとする。
それ自体は別に不思議とは思わなかった、セインは馬鹿なので猪突猛進型なのでおかしくはないが、機体の挙動にセインのソレとは別の何かが混じっているような気がした。色々と考えることはあるが判断材料が少なすぎるとハルドは思ったのだった。
強制収容所の武装解除は思ったよりもスムーズにいった。虎(フー)を筆頭に歩兵戦闘員が張り切ってくれたおかげで大きな争いにもならず、収容所の人間たちを解放できた。
「なぁ、ミシィ、シルヴァーナから収容所のコンピュータにハッキングして、収容所の収容者リストを出せないかな?もしかしたら僕らの親もいるかもしれないし」
セインに言われ、ミシィは気づいて言われた通りにしてみた。しかしリストにはセインの親もミシィの親の名前もなかった。
38ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/19(木) 19:07:40.80 ID:xT+GfhqW0
「残念だね」
ミシィが言うとセインは応える。
「しょうがないよ」
そんなに簡単に見つかったら苦労しないのだ。こればかりは地道にやっていくしかないと思い、セインは機体を月面から飛び立たせた。
シルヴァーナとその艦載機は月の基地を目指し、再び移動を開始した。強制収容所の収容者はとりあえずシルヴァーナに乗せたのだった。
「俺らの寝床無くなったなぁ」
ジェイコブがぼやくとマリアが叱責する。
「大変な思いをしてきた人たちのためなんだから、当然でしょ!」
「兄さん良くないよ、そんな自分勝手な考えは」
ペテロにまで言われてしまい、ジェイコブは落ち込むしかなかった。
「セイン、好きに戦うか?」
ハルドは何となく、セインにそう言ってみた。少し確かめたいことがあったからだ。いつものセインなら遠慮するが。
「はい、そうさせてください」
セインの声は、いつになく自信に満ちているようにハルドは感じた。地球で自信をつけたなら、それはそれでいいがとハルド思った時にはすで、もう一つの強制収容所が視界に入っており、収容所からは警備のMSが発進していた。
そして、その動きと同時にセインのブレイズガンダムが動く。ハルドが見たブレイズガンダムの動きは恐ろしく狂暴だった。
とにかく敵を殺すことに特化した動きだと思った。収容所の警備のMS隊が不甲斐ないのは事実だが、それをおいてもセインのブレイズガンダムの動きはハルドの目には驚愕だった。
自分の相手にはならないし、多分、セインより地力が格上相手にも勝てないだろうが、格下を殺すには十分すぎる動きだと思った。ハルドはそれとなくブレイズガンダムをサポートしてみたが、ブレイズガンダムは、セインは一顧だにしない。
「なるほど、こういう状態か」
ハルドは少し判断材料が増えたと思った。何を使っているかは分からないが戦闘能力を覚醒させる系統の何かが、ブレイズガンダムに積まれているなと思った。
ハルドの読みでは超音波か何かで脳内に声が響くもの、そして殺すことが最上の行為と錯覚させるものだろうとハルドは見当をつけた。
そうやってハルドが考えを巡らせている内に、収容所のMS部隊は壊滅したのだった。
「敵を殲滅した後に味方を攻撃することは無しか、上出来なシステムなこった」
これなら、そこまで心配する必要は無いとハルドは思うが、アッシュがあれだけ心配していたのだから、何かあるはずとハルドは考えた。
そうやって考えている内にも他の機体が、収容所の武装解除に向かっていた。やはりこの収容所も武装解除がスムーズにいった。歩兵戦闘員様様だとハルドは思った。
「セイン、セイン!」
セインは呼ばれて正気に戻った。いや、おかしくはなっていなかった。ただ戦うことが楽しいだけだとセインは思う。
「セイン!聞いてる?」
呼びかけていたのはミシィだった。
「うん、聞いてるよ」
おそらく収容所の収容者リストの件だろう。セインは望み薄だと思いながらミシィの報告を聞いた。
「うそっ……?」
急にミシィが息をつまらせたような声を発した。セインは何かあったのだろうと思い、シルヴァーナに戻る許可をハルドに貰おうとした。
「ああ、かまわねぇよ」
ハルドは考え事があるような感じで言うとセインが、シルヴァーナに戻るのを簡単に許可してくれた。収容者はすでにシルヴァーナに乗りこんでいる。セインはミシィの言葉からもしかしたらを想像した。
「セイン・リベルター、帰艦します」
「あいよ」
コナーズの声がして、格納庫のハッチが開いた。セインは急ぎ、機体をハンガーに固定し、機体から急いで降りる。
39ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/19(木) 20:29:21.04 ID:xT+GfhqW0
「マシントラブル?」
レビーが尋ねてきたがセインは無視してしまった。それよりも早くミシィを探さなくてはという思いにとらわれていた。
セインはとにかく急いで収容者が保護されているエリアに向かった。セインはとにかくミシィを探さなくては、そう思った矢先だった。
「……レイアおじさんにおばさん……」
ミシィが目の前で両親に抱きしめられているのを見て、セインはそこに近づく。そうか、ミシィの両親はここの強制収容所にいたのかと思いながら、近づくと、ミシィの両親はセインの姿にも気が付いた。
「セイン君」
アレクサンダリアを出てから初めてだった、見知った人から名前を呼ばれたのは、セインの瞳から涙が溢れる。ミシィの両親は腕でおいでと示す。セインはそれで限界に達しに、ミシィの両親に駆け寄り、二人を抱きしめた。
暖かいと思った。人のぬくもりがこんなにも素晴らしいとはセインは知らなかった。この時セインは完全に子どもの表情に戻っていた。そして、子どもに戻っていたことで自分を守るすべも忘れてしまっていたのだった。
「あの、僕の父さんは?」
セインは無垢な表情でミシィの両親に尋ねた。それを聞かれた瞬間、ミシィの両親は気まずい表情になり、そして言う。
「キミのお父さんは数日前に……」
セインが子どもに戻る前ならば、負ったダメージも少なかったろうが今は、子どもに戻ってしまっていた。自分を守る術など持ち合わせてなかった。そして残酷な真実が容赦なく突き立てられる。
「殺されたよ」
セインは、え?という言葉も出せなかった。言っていることの意味が分からなかった。
「数日前に収容所の看守と揉めて、その場で銃殺されたんだ」
ああ、そうかそうなのか、死んでしまったのか、僕の父さんはとセインはボンヤリと思い、訳が分からないながらも、その場に背を向けた。
「待ってよ、セイン!もういいじゃない。セインのお父さんのことは悲しいと思うけど、私の家族はそろったし、みんなで一緒にいようよ、もう戦わなくてもいいじゃない!」
セインは後ろで誰かが叫んでいるのが聞こえたが、その声は上手く聞き取れなかった。
(孤独こそ神の愛を受ける正しき道ですよ)
「はい」
セインの頭の中を両親の思い出が駆け巡っていた、せめて父さえ生きていればと思ったが、それも無いのだ。では自分はどうすれば良いのか。誰かに道標を示して欲しかった。
(殺し、敵の血で道を美しく彩りましょう、あなたにはそれしかないはずです)
「はい」
セインはふらふらとしながら格納庫のブレイズガンダムのハンガーに向かった。
「とりあえず全部満タンにしておいたけど、あまり減らない内にもどってくるのはだめよ」
レビーの声がしたがセインは無視をしてコックピットハッチを閉めた。
「ブレイズガンダム出ます」
セインはそう言うと、ブレイズガンダムをシルヴァーナから発進させたのだった。
40ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/19(木) 20:30:30.19 ID:xT+GfhqW0
「総員、守りを固めろ!」
ビクトル団長は、そう叫んでいた。そのさまを後ろでノンビリと眺めながらロウマ・アンドーはビクトルの脳味噌は猿かオウムと同じレベルだと確信した。
「守ってばかりじゃ、守れませんよー」
ロウマはどうでも良いように言いながら、落書きをしていた、それは猿の身体にビクトル団長の頭が乗っているものとオウムの首の上にビクトル団長の頭が乗っているものだった。
ビクトルはロウマの落書きに目ざとく気付き、それを取り上げる。
「貴様、こんな無礼をしてタダですむと思っているのか!?」
ビクトルはロウマを怒鳴りつけるが、ロウマはどうでも良い様子だった。
「どうせ、ここで死ぬ人間の絵なんです。勝手に書いても良いでしょう」
そう言うと、ビクトルは額に青筋を浮かべていた。昔から馬鹿だと思っていたがここまで馬鹿だとは思っていなかった。完全にロウマの誤算であったとロウマは反省していた。
「勝ちたけりゃ、起死回生の戦ですね。基地を完全に放棄して基地に依らない戦闘をするしかないでしょうが。各員に完全な遊撃戦闘、司令部を置かない戦闘をすれば勝つ目もあるでしょうがね」
ロウマはビクトルにそんな決断は出来ないと思ってそう言ったのだ。当然、ビクトルは無視した。馬鹿はいいなぁとロウマは思うのだった。
まぁ今言った策も部隊が一線級、例えば自分が子飼いにしているガルム機兵隊のような部隊がいて初めて成り立つので、どのみちこの戦場では無理だろうと思った、その時だった。司令部を衝撃が襲った。
「あらまぁ」
ロウマは基地を襲った衝撃からして、対要塞砲を持った艦だと察したので、逃げる準備をすることにした。
「自分に特命が下ったようなので、失礼します!」
ロウマは大声で言った。ビクトルが振り返る。
「自分は観艦式の準備を任されてしまったようなので、この場は退散しますよ」
ロウマは適当な任務をでっちあげて、さっさとこの戦場から、逃げる算段だった。
「ふざけるな、貴様!」
ビクトルが当然のごとく掴みかかってくるがロウマは、軽く殴り倒した。司令部の誰もがその行為を見過ごした。
「見栄えの良い兵士は連れていくので失礼。ビクトル団長は見栄えが悪いのでいらないので失礼」
そう言うとロウマは司令部から去って行く。それに合わせて司令部から数名がロウマについていく。
「ま、こういうことです」
ロウマはそう言うと、司令部から立ち去った。ロウマの動きに合わせて基地の兵の一部が撤退の動きを示す。
「いいね」
ロウマは呟く、ほとんどが自分から声をかけてきた兵士だ。ビクトルには先が無いと察してロウマにすり寄って来たのだった。ロウマはそういう奴らが嫌いではなかった。この手の弱い奴らは使いやすいからだ。
逆にビクトルのような奴は使いにくい、半端に強いからなびかない上に、頭が良いわけでもないから、こちらの策を察してくれない。さっさと死んでくれると楽なのだ。ロウマは司令部の床に倒れ伏しているビクトルを思うと、さっさと死ねと思うのだった。

シルヴァーナは武装を解放し、月基地へと攻撃していた。ベンジャミンが叫ぶ。
「対要塞プラズマブラスター撃て!各種ミサイルランチャー解放、全弾を月基地へ!」
ベンジャミンの声に合わせて、シルヴァーナのブースターユニットが開き、プラズマブラスターの砲身が露わになり、そこから高出力の弾頭が発射される、そして、シルヴァーナの本体とブースターユニットのミサイルランチャーから大量のミサイルが発射される。
「まだだ、ゴッドフリートは連射、基地の機能が停止するまで撃つのを止めるな!」
ベンジャミンの命令のもと、シルヴァーナ本体の主砲は延々とビーム砲を撃ち続けている。
そんな中MS隊は基地制圧に動いていた。
「セーレはジェイコブたちを連れて、地球連合軍の援護。イオニス、ストーム、キチガイ組は好きに戦え、セインは俺のカバー……」
ハルドが言う前にセインのブレイズガンダムは戦場に飛び込み、戦闘を繰り広げていた。ハルドは何となくイラッとしたが、無視をした。セインの戦いぶりは相も変わらず狂暴そのものだった。
「なんで僕がこんな目に」
セインの心は怒りに支配されていた。父の死を聞かされて、湧いて来たものは悲しみではなく、怒りだった。理不尽なこの世界への怒りがセインを支配し、行動する力を与えていた。
41ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/19(木) 20:31:22.94 ID:xT+GfhqW0
「殺してやる。公国の奴らは皆殺しだ!」
そうだ全部クライン公国が悪いんだと思い、セインは叫び、そしてブレイズガンダムを動かす。
飛来するビームをシールドで防ぎながら、ビームライフルのチャージショットを敵の集団に叩き込む。
「どいつもこいつも、僕の敵だあぁぁぁぁぁぁ!」
セインのブレイズガンダムは鬼神のような戦いぶりを全軍に対して見せつけていた。その時だった、どこからか飛来したビームがブレイズガンダムに直撃した。
「僕にあてるなぁ!」
セインのブレイズガンダムはビームが飛来してきた方へと身体を向け、ビームを撃とうとするが、その瞬間に敵機の蹴りが直撃した。
「行きがけの駄賃で遊んでやるよ、セイン君」
通信で声が届いた。セインにとっては忘れることの出来ない声だった。
「ロウマ・アンドー!」
セインのブレイズガンダムはビームサーベルを抜き放ち、接近していたロウマの機体に斬りかかる。ロウマの機体はザイラン、性能では勝つとセインは確信していた。
「はい、下手くそ」
ロウマのザイランは異常な速さでビームアックスを抜くと、サーベルを受け流して、反撃でブレイズガンダムにアックスの刃を叩き込み、その上でさらに蹴り飛ばした。
「相も変わらずヘボいねぇ、セイン君」
セインは怒りと共にブレイズガンダムのビームライフルを発射するが、ロウマのザイランは軽く躱しながら、前へ出てブレイズガンダムとの距離を詰めてくる。
「いいこと教えてやろうか?」
セインは判断に窮した。接近戦になることは間違いない。だが、ロウマのザイランの動きにどう対応するのか、ロウマのザイランは右手のビームライフル、左手にビームアックス、そして蹴りがあるのは分かっている。何が来るのかセインが考えようとした瞬間だった。
(あなたは神に愛されています。全てがあなたの思い通りでしょう)
「はい」
頭の中の声に答えた瞬間にはロウマのザイランはブレイズガンダムの目の前にいた。
ビームアックスを振りかぶっているが、それはフェイントで飛んでくるのは蹴りだとセインは予測し、ブレイズガンダムを僅かに後退させ、蹴りを空振りさせる。そして本命はビームライフルの近接射撃だとセインは予測した。
ビームライフルなら一発当たったところで、ブレイズガンダムのバリアが守ってくれるので無視しても良い。それより反撃だとセインは思った。
セインの予測通り、ビームライフルの近接射撃がブレイズガンダムの頭部を襲うが、セインはこれを無視して、ビームサーベルでロウマのザイランに斬りかかった。当たる。そういう確信がセインにはあったが、結果は違った。
ロウマのザイランは軽く回避し、反撃で蹴りをブレイズガンダムの頭部に叩き込んだのだ。
「センスないねぇ」
ロウマの馬鹿にした声が聞こえ、セインは怒りに支配されながら、ブレイズガンダムを操りロウマに斬りかかる。
「いいこと教えてやるっていった続き聞きたい?」
ロウマのザイランはブレイズガンダムの攻撃を軽く躱し続けながら、言葉を続ける。セインの反応などどうでも良いといった口調だった。
「きみのお父さん、殺したの俺なんだよね」
え?と、セインは耳を疑った。
「きみの両親を殺したのは俺だってこと、時間差はあったけどね。結果は同じだろ?」
セインはハッキリとした怒りを感じた。この男が、この男が母さんだけでなく父さんも、そう理解した瞬間、セインはあの言葉を呟いた。
「……コード:ブレイズ……」
その言葉と同時にブレイズガンダムに明らかな異変が生じる、関節部から粒子が炎のように吹き出し、スラスターが青の噴射炎から炎のような粒子の奔流に変わる。
ハルドはセインのブレイズガンダムとロウマのザイランの戦いを観戦しながら、理解した。
「アッシュが言ってたのはこのことか」
変貌を遂げたブレイズガンダムはロウマのザイランを見据え、異常な速度で突進し、ビームサーベルで斬りかかる。だが、ロウマのザイランはそれでもなお軽く躱して見せる。
42ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/19(木) 20:32:24.25 ID:xT+GfhqW0
「おーお、こえーこえー」
口ではそんなことを言いながらもロウマのザイランの動きは余裕であった。
「死ぬか、消えろぉ!」
セインは狂暴な言葉を吐くが、ロウマに通じていなかった。
「気合は充分、実力不充分かな」
ロウマはそう言うとザイランを操り、突進してくるブレイズガンダムの脚を軽く蹴った。
衝撃が強かった訳はないが、突進で前傾姿勢になっていたブレイズガンダムは前のめりになって、体勢を崩す。その隙に、ロウマのザイランはさっさと戦場を去ろうとするのだった。
「まぁ、近いうちに会いに行くから、それまで元気でね、セイン君」
体勢を直したブレイズガンダムはライフルを抜き放ち、背を向けているロウマのザイランを狙う。
「死ね、死ね、死ねぇ!」
何のチャージもなく放たれたライフル、しかし、その威力は戦艦の主砲を遥かに上回り、戦場の全てから見える巨大なビームを放ったのだった。
しかし、それでもロウマは仕留められなかった。当然のようにロウマのザイランはビームを回避していたのだった。
「必死過ぎて気持ち悪いよ、セイン君」
ロウマはそれだけ言って、去って行った。ロウマとしてはこの戦場で、ブレイズガンダムを相手にする必要はなくなったからだった。
ロウマの機体は、クライン公国の戦艦の一つに着艦した。ロウマは降りると、その姿はノーマルスーツではなく、普通の軍服であった。着替えるのも面倒であり、着替える必要も無いと思ったからだブレイズガンダムの相手程度で。
ロウマはMSを降りると、そのままブリッジに向かい、撤退の指示を全軍に出したのだった。
幸い、というかロウマが狙った形で、ブレイズガンダムが巨大なビームで戦場に空けた空白がある。そこを通って行けば、問題はないだろうとロウマは考え、全軍に命令を出した
「さて、帰るとしましょうかね」

司令部でビクトルは全軍が撤退の態勢に入っていることを理解した。冗談ではないと思う。総司令の自分を置いて撤退だと。ロウマ・アンドーの根回しはどこまで進んでいたのかと考えざるを得なかった。
「ビクトル団長……」
司令部に残った僅かな部下が、ビクトルを気遣って声をかけるが、それすらビクトルには屈辱だった。かくなる上はと、ビクトルは無謀とも思える手段に出ることにした。
「座して死を待つなど、屈辱!聖クライン騎士団の団長である以上、戦場で果てることこそ誇りなり!」
そう宣言するとビクトルは司令部か去って行った。そしてその向かう先は格納庫であった。
戦場ではセインとブレイズガンダムが狂乱していた、常識を超えた破壊力を見せ、自壊したビームライフルを投げ捨てブレイズガンダムはビームサーベル抜き放つと。目に映る敵すべてに向かっていった。そして、その全てを斬り捨てる。
「馬鹿にしやがって馬鹿にしやがって、くそくそくそくそ、僕が強い僕が強いんだぞ、僕が強いんだよぉぉぉ!」
ハルドはその光景を見ながら冷静に分析していた。
「異常に機体の反応速度が速いな、出力が上がってるのはこの際どうでもいいが、反応速度は人間の反射神経そのままぐらいか?」
ハルドの目から見ても、セインのブレイズガンダムの様子がおかしいのは分かったが、味方を攻撃していない以上、たいした問題ではないと思った。ハルドはそれよりも、これが敵として向かってきたときのことを考えて分析していたのだった。
「まぁ、楽勝か」
分析した結果として、ハルドはそう結論を出した。所詮は獣と同じような戦い方だ。殺す術はいくらでもあると結論を出したのだった。
「あああああああ。僕が僕が僕があぁぁぁぁぁ!」
ブレイズガンダムはシールドを投げ捨て、両手にビームサーベルを持って周囲の敵を斬り捨てると、直後にビームサーベルから数百メートルにも及ぶ巨大なビームの刃が発生し、月の基地に向けて振り下ろす。
43ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/19(木) 20:33:13.00 ID:xT+GfhqW0
「なんだよ、わりと上等じゃんか」
ハルドは経験で同じようなシステムを持った機体に乗った人間を何人も見たことがあったが、だいたいは命令が守れず、敵味方の区別すらなくなるのだが、セインのブレイズガンダムにその傾向はない。
命令も守っているし、敵だけを攻撃しているので、ハルドとしては、随分と上等なシステムと感じるくらいで、アッシュほど危機感を抱かなかったのだった。むしろ戦力として考えればパワーアップだ。そこそこが、かなり使えるようになったとハルドは思った。
そうハルドが思っていた時だった、基地のから大出力のビームが発射され、地球連合軍の艦隊に直撃した。ハルドとしては運が無いなと思う程度、関心はビームを発射した対象にあった。
「へー」
ハルドは驚きもなく言った。
「最後の手段を最後に取っておくから負けるってことを知らない馬鹿を本日また一人発見しましたよっと」
「馬鹿は切り札を最後に取っておくから馬鹿って言われるんだよね」
これはハルドとロウマのそれぞれの言葉である。二人の視線は基地の一画から現れた人型の、しかしMSと呼ぶには巨大すぎる兵器に向けられていた。
サイズは50mを超えているそして、その頭部はガンダム型、機体全体に華美な装飾が施されているが、見れば全身に砲門だらけ、そして背中に巨大な砲を背負っていた。
「このガンダムジハーディアで。貴様らに目にものを見せてくれる」
乗っているのはビクトル団長だった。ビクトル団長は最後の意地として前線で戦うことを選んだのだった。
「僕の前でキラキラと輝くなぁ!目障りなんだよぉ」
その姿を見た瞬間にブレイズガンダムが一直線にガンダムジハーディアに突撃した。
「一機相手、造作もない」
そうビクトル団長が言った瞬間に、ガンダムジハーディアから無線式オールレンジ攻撃兵器、ドラグーンが射出される。狙いはブレイズガンダムであったが、ブレイズガンダムはそれら全てを無視して突撃する。
「く、速いか」
ビクトル団長は判断を変え、ガンダムジハーディアの周囲にドラグーンを基点としたビームバリアを展開する。
「だからぁ!邪魔ぁ!」
しかし、それも無視してブレイズガンダムはビームバリアに対して突っ込む。
「戦艦の主砲も防ぐビームバリアだぞ!どうしようもなかろう!」
そうビクトル団長が叫んだ瞬間、ブレイズガンダムは素手でビームバリアを引き裂いて、その内側に侵入する。
「なんだと!?」
ビクトル団長は驚愕したが、まだ危険材料は少ないと感じた。このガンダムジハーディアに華美な装甲を持つのは見た目の威容を気にするためだけではない。
装甲に強力な耐ビームコーティングをするためにあるのだ。そう思った瞬間、ガンダムジハーディアの両肩が数百メートルの長さのビームサーベルに斬りおとされた。
「なんだと!?」
セインのブレイズガンダムは両手のビームサーベルを捨てて、右の掌をガンダムジハーディアに向けていた。
「目障りなんだよ」
その呟きと共に、ブレイズガンダムの右の掌に赤い粒子が集まり、直後に放出される。それはビームライフルなどにエネルギーを供給するコネクターから発せられたものだったが、その威力は甚大であった。
赤い粒子の奔流は、ガンダムジハーディアの上半身を飲み込むと、その全てを塵と化した。決死の覚悟で出撃した聖クライン騎士団の団長、ビクトル・シュヴァイツァーは最後の言葉も残せず消滅したのだった。
「強い、強い、強い、僕が、僕が最強だあぁぁぁぁっ!」
セインの叫びと共に、ブレイズガンダムは戦場の宇宙に咆哮するのだった。
44ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/19(木) 21:46:12.81 ID:xT+GfhqW0
36話終了です
45ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/20(金) 00:18:32.98 ID:Ykf/MLzA0
だいたい強い力をてにいれるとろくなことにならないもの。
セイン君は耐えられのか。たぶん無理で結論。
46ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/21(土) 13:52:57.28 ID:11mf5vp10
投下します
機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第37話

総司令のビクトル・シュバイツァー大将が戦死したことによって、ほどなくして月基地は地球連合軍へと降伏を申し出た。
対して、ロウマ・アンドーの指揮する撤退部隊は戦場の間隙を潜り抜け、ほとんど被害を受けずに撤退に成功したのだった。この結果により、地球連合軍は月基地の制圧に成功したもののクライン公国軍の兵力自体を削ることはできなかった。
このことが後にどのような影響を与えるのかはまだ誰も予想がつかないでいた。あるいは撤退作戦を成功させたロウマ・アンドーにだけは、その後の予想がついていたかもしれない。

「月が落ちたみたいっすね」
ガルム機兵隊に新たに配属となったジョット・ライアットは乗機のゼクゥド狙撃型で延々と遠くの敵を狙い撃っていた。ザイランは狙撃に向かない機体であるためゼクゥドのカスタム機に乗っているのである。
「まぁ、私たちには関係ない話しだ」
純白に塗られた専用MSのシャウトペイルのコックピットの中、イザラはジョットが仕留めた獲物を確認していた。
「グラディアルだな、10点やろう」
「そりゃ、どうもっす」
イザラとジョットの二人は何をしているかというと、ひたすらにアフリカの大地を蹂躙している真っ最中だった。並ぶ二機に追いつくように、ピンク色の超重武装のザイランが到着する。
「狙撃なんて、面倒なことしていないで、全部ドカンと行きましょうよー!」
ピンク色のザイランのパイロットのアリスが間延びした声で言う。
「スナイピングは芸術っす。馬鹿にしたら殺すっすよ」
ジョットが物騒なセリフを吐きながら、スナイパーライフルをアリスのザイランに向ける。
「喧嘩は良くないぞ、中止!」
言われて、ジョットはスナイパーライフルの銃口を向ける先を戻した。
「ジョットには悪いが私も少し面倒な気がしている。なので、アリス!」
「はーい」
間延びした返事とともに超重武装のザイランから大量の砲弾が発射され、敵の陣地に降り注ぐ。
「芸術のわからない人達っす」
ジョットがぼやくがイザラは気にしないことにした。この程度のボヤキに耐えられないのであれば、直属の上官のロウマ・アンドーの嫌味を聞いたら死んでしまうからだ。
「イザラちゃん、俺らすっごいヒマなんだけど」
赤いザイランに乗るギルベールがイザラに告げる。
「しりとりでもしていろ」
イザラは適当に言った。こちらは遠距離から、敵の陣地に打撃を与えている所を眺めているのだから、邪魔しないで欲しかった。
「いや、しりとりはやったよ?やったけど、ゼロ君、語彙少ないし、ガウンの旦那は『……』で全部済ませるからしりとりになんないの。俺とドロテスだけで、しりとりしても虚しいの!分かる?」
「分かる!」
イザラは言いきった。分かるがやってもらおうとイザラは思った。しかし、すぐに、そうノンビリもしてられないということも分かったのだった。
「敵さん、来ますねー」
「そりゃ、あんだけ派手に砲撃したら、こっちの居場所ばれるっす」
まぁ、それはそれでいいではないかとイザラは思った。こちらから出向く手間が省けたというものだった。
前方には相当数の敵機がいたが、イザラたちは戦いを間近に控え嬉々としている。
「ガルム機兵隊、突撃!」
イザラの掛け声とともにガルム機兵隊の面々は遥かに数が勝る相手へと、喜び勇んで突っ込んでいったのだった。
47ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/21(土) 13:53:42.20 ID:11mf5vp10
「ふむ、それほど強敵でもなかったな」
イザラは機体が持つ長大な対艦刀を収めながら言うのだった。
ガルム機兵隊の機体の周りには大量のMSの残骸があった。そしてその残骸の中に立つガルム機兵隊MSにはほとんど傷がなかった。
「バケモノだ……」
最後に残った一機のMSが立ちつくし、パイロットが呟く。その声はイザラたちにも聞こえた。
「私たちがバケモノか、本当のバケモノは私たちなどとは比べ物にならんというのに、物事を知らん奴だ」
イザラがそう言った直後、最後に残った敵機のコックピットがビームによって貫かれた。
「そう言ってやるな、イザラ。こんな田舎でMSに乗って威張り散らしているような輩に物を知れと言う方が酷だ」
ドロテスはコックピットの中で煙草を吸いながら言う。倒した敵のことは正直、どうでも良かった。
「うーむ、そういう考え方もできるが……」
イザラが少し考え、何かを言おうとした瞬間だった、最悪の相手から通信が入って来たのだ。
「やぁ、元気?イザラちゃん、俺のこと忘れていない?」
通信はロウマ・アンドーからだった。ロウマは一方的に喋る。
「ねぇ、聞いてよ。俺ついに准将になったのよ。これってすごくない。すごいよな?イザラちゃんは階級そのままだっけ?頑張りが足りないと思われてて可哀想ね。俺なんか二十代で将官よ、准将、俺って有能だね」
クソが、用件を話せとガルム機兵隊の全員が思った。ガルム機兵隊の面々としてはロウマが失敗する話なら聞きたいが成功していく話など聞きたくもなかった。
「まぁ、自慢話は後できみらと顔合わせした時にするとして、仕事をよろしくしたいのよね。軍じゃなく、俺個人の関係でさ」
やはり来たなとイザラは思った。ロウマ・アンドーが私利私欲のため以外に特殊部隊を設立することは考えられないのだから、当然のことだとイザラは思った。
「まぁ、詳しい話しは宇宙でするから、地球の衛星軌道上の要塞まで頑張ってきてちょうだい」
それだけ言うと、ロウマは勝手に通信を切った。相も変わらず、勝手な男だが仕方ないとイザラは思った。あれでも上官である以上、従わざるを得ない。
「ガルム機兵隊、総員宇宙へ向かうぞ!」
イザラが勢いよく号令したものの、ガルム機兵隊の機体に生気はなくウンザリとした様子がMSからでも伺えた。その姿に戦場へ嬉々として向かっていった勇姿は全く感じられなかった。

セインは一人、MSのコックピットに籠りながら、時間を過ごしていた。周りの全てが煩わしい中でコックピットの中だけが、静かで落ち着けた。
一人に、天涯孤独になってしまった自分にはここが一番いいとセインは思っていた。ミシィとミシィの家族は無事にクランマイヤー王国に辿り着いて、クランマイヤー王国に住むというらしい。
ミシィとその家族は、セインも一緒に住もうと提案をしたが、セインはそれを拒否した。セインとしては同情でそんなことをされるのは真っ平御免だった。
心配して声をかけてくれる人もいたが、セインはそれすらも鬱陶しく感じた。両親を殺されたことのない奴らに何か言われても、腹が立つだけだった。
もう自分は一人、そう思うと家族の思い出が蘇ってきて、セインはコックピットの中で泣いた。それしか出来なかった。
ブレイズガンダムのコックピットの外では、何人かが、待機していた。コックピットに閉じこもったきりで降りてこないセインを心配してだ。その中にハルドの姿はなかった。
「セインくーん、出てきなさーい!もう何日もお風呂に入ってないし、コックピットの中の非常食だって、もう無くなるでしょ!出てこないと飢え死にしちゃうよー!」
拡声器を使って呼びかけているのはレビーだった。セインはブレイズガンダムの通信システムを完全にシャットダウンしているので、原始的な呼びかけしか方法はなかった。
「セイン、ねぇ、出てきてよ。もう一回ちゃんと話をしよ?ねぇ?」
次に拡声器を使って呼びかけるのはミシィであった。ミシィの言葉には心からの心配が感じられた。しかしセインは無視をし、ただ自分の言葉だけをブレイズガンダムのマイクを使って叫んだ。
48ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/21(土) 13:54:40.62 ID:11mf5vp10
「うるさい、放っておいてくれ!」
そう叫んだ瞬間に、セインは自分が一人になったのがハッキリしたような感じがし、寂しく、そして惨めな気持ちになったのだった。
セインがそうやってコックピットに閉じこもっていた頃、ハルドはクランマイヤー王国の田園風景を眺めながら、ぼんやりとしていた。夏の暑さはまだ消えない。いくらなんでも夏が長すぎはしないかと、コロニー環境設定に文句を言いたいハルドだった。
「弟子が引きこもっているのに、師匠は日向ぼっこか?」
そうハルドに声をかけたのはアッシュだった。
「摂政閣下こそ仕事をほっぽり出して優雅に散歩かい?」
ハルドの言葉を無視してアッシュはハルドの隣の草地に座る。
「仕事よりもセイン君のことの方が重大だと思ってな」
アッシュは真剣そのものといった表情だった。ハルドはその表情を見ると、からかう気も失せたとしらけた気分になった。
「なんとかしてやらないのか?」
アッシュが問う。
「なんもしねぇ、時間が解決するだろ。それか無理矢理だな。結局みんな赤の他人なわけだから、親兄弟のように優しく引きこもりを見守ってやれねぇよ」
「わりと冷静だな」
「俺も経験あるしな」
ハルドに言われてアッシュも少し驚いた。この男にもそんな時期があったのかと。
「俺の時は、ビームサーベルでコックピットのギリギリをかすめられて、コックピットの中が露出したところで、
俺の師匠に当たる奴に引きずり出され、肋骨を折られ、脚の骨を砕かれ、両手の指の骨を全部を折られてから、『これでも、悲しいか?それとも痛いか?どっちだ?答えてみろ?』ってやられた」
それは、まぁ悲惨だなとアッシュは思う。
「ここで俺の師匠がクソだったのは、嬉しいですと言わなけりゃ、もっとひどい折檻を加えてくることだったな」
そいつは何ともとんでもない人物だなとアッシュは思うが、過去にアッシュはその人物と出会い殺されかけていたことを知る由もなかった。
「ところで、きみが引きこもった理由はなんだ?」
アッシュは何となく興味を惹かれたので聞いてみた。
「仲の良い奴。っていうか友達が死んだ、いや殺されたか。まぁそれで俺は色々嫌になって引きこもったわけだ」
「きみに友達がいたとはな」
アッシュとしてはそちらの方が驚きだった、このイカレた男と友達になれるとはよっぽどの人物だと思った。
「俺としては、お前も友達だと思ってんだけど」
アッシュの驚いた表情から色々と察し、ハルドは言った。アッシュは、失礼、と咳払いをした。
「俺だってな、ガキの頃は友達がいっぱいいたぞ。……俺のガキの頃の話し聞きたい?」
話したいならどうぞ、とアッシュは手で示した。
「じゃあ、話すけどよ。すごく良い生活だったぞ。顔が良くて才能は平凡って理由で変な実験施設に色んな奴らと一緒に放り込まれ、最高の勉強をして、最高の食事、最高の健康管理最高のメンタル管理で何の不満もなかった。
それが俺の師匠がやって来たせいで全部パーだ。俺の師匠が全部台無しにして、施設で生き残ったのは俺だけ、行くあてもないから師匠についてったら、今のこの有様だ。最後までムカつく女だったけど、この手でぶっ殺したから溜飲は下がったけどな」
それは大変な人生だったなと言ってやりたいが、ハルドの中では色々と完結している問題なので何か言うということはしなかった。
「まぁ時間だよ、放っておけば、いずれ閉じこもってられなくて、出てくんだろ」
そう単純な問題だともアッシュは思えなかった、しかし当座はハルドの言う通りにしようと思ったのだった。一応はハルドも考えてはいるようだし、任せてみてもいいかと思ったのだった。
そんな風にアッシュが考えている中、ハルドは別のことを考えていた。それはあの変貌を遂げたブレイズガンダムをどう仕留めるかである。
単純に動きだけなら、獣と同じなのでいくらでも捌けるが、武装が完全に把握できないのは厄介だとハルドは考えていたのだった。弱くはないがあの程度では、とハルドは思うところがあった。
セインとブレイズガンダムでは、自分の望みは叶えられそうにないと思い、ぼんやりとクランマイヤー王国の、のどかな風景を眺めるのだった。
49ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/21(土) 13:56:02.22 ID:11mf5vp10
「よう、元気?」
ロウマ・アンドーは地球の衛星軌道上の要塞の中の自分のオフィスにガルム機兵隊の面々を集めると第一声にそう言った。
「貴様に呼ばれるまで元気だった」
そうイザラがが言うと、他のガルム機兵隊の面々も頷く。ロウマとしては、その態度に関しては興味を示さず、それよりも、准将になった自分の制服を見せびらかすのに努力を割いていた。
「どうかな?」
ロウマが言うと、ドロテスが答える。
「主語が無いと分かりかねます」
そう言うと、ロウマは、興を削がれたようだった。
「面倒だから、単刀直入に仕事」
そう言うと資料をイザラに投げて渡した。イザラは他愛もなく受け取る。紙の資料であってもだ。
「写真に写ってるガンダムとパイロットを捉まえて来ること。手足は引きちぎっても良いけど、機体は胴体だけは無傷で、パイロットは……胴体と頭部があって命があればいいや。そんな感じで捕獲しようか」
イザラたちは命令の内容よりも、語尾に不穏な感じを抱いた。
「俺も出るから、きちんと働いてくれよ、俺の忠犬さんたち」
イザラたちは命令よりも最悪の存在が来ることが何よりも嫌だった。

セインが引きこもり始めてから数日、セインが引きこもっている以外は変わりのない日だと誰もが思っていた時だった。急な衝撃がクランマイヤー王国のコロニーを揺らした。
それは外部からの砲撃だった。砲撃をしたのはピンク色のザイラン。ガルム機兵隊のアリス・カナーの搭乗機だった。
「むー、実体弾だけじゃ、コロニーの外壁は撃ちぬけませんねー」
アリスは不満げだったが、ガルム機兵隊の隊長代理のイザラは続けて砲撃の命令を出す。
「外壁に穴を開ける必要はない。とにかく、砲撃されていることを理解させるように揺らすように、狙いを定めずに撃て」
「了解ですー」
そう言うとアリスのザイランは砲弾をコロニーへと万遍なく発射するのだった。
「自分は宇宙港から出てくる目標以外のMSがあれば足止めっすね」
ジョットが確認を取るとイザラは、うむ、と返事をした。指揮官のはずのロウマ・アンドーはいつの間にか消えていたので、隊長代理のイザラがガルム機兵隊の指揮をとっていた。

「敵なんだろ!出る!」
セインはコロニーを襲った衝撃に敏感に反応し、ブレイズガンダムを操縦し、機体を機動させ、工業コロニー側の宇宙港から、出撃したのだった。
「戦えば、戦っていれば、全部、全部忘れられる!」
セインの心は荒み、戦いを求めるようになっていた。何のための力だったのか、何のための強さだったのかを全て忘れ、セインは戦いに没頭しようとしていた。
宇宙港からブレイズガンダムが出撃したのを、ジョットのゼクゥド狙撃型が確認した。
「獲物が罠にかかったっす。籠を作るっす」
そう、ジョットが言うとゼクゥド狙撃型はスナイパーライフルを宇宙港入り口に向けて構えると、出撃しようとした敵機の少し前を狙って撃つ。そうすると敵機は警戒して引っ込む。これで籠の完成だ。後は延々と出撃させないように狙撃を繰り返していればいい。
結果として、先行したブレイズガンダムは孤立してしまったのだった。
「さて、数の暴力は性に合わんが斬り捨てるとするか」
イザラはそう言うと乗機の純白のシャウトペイルに対艦刀を抜かせ、ブレイズガンダムに斬りかかるために突撃する。
「この、ふざけるな!」
数で自分を何とかするつもりか、冗談じゃない馬鹿にするな、お前らなんて僕が本気を出せば相手にならない。セインはそう考えた瞬間にあの言葉を発した。
「コード:ブレイズ!」
ロウマは、赤い炎のような粒子を発するブレイズガンダムをMSのコックピットの中で眺めながら、愉快そうに言う。
「これで、四回目、問題なく完成してるね」
50ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/21(土) 13:57:06.48 ID:11mf5vp10
「殺す、殺してやる、お前ら全員、殺してやる!」
突撃してきたイザラのシャウトペイルの斬撃を防いだ瞬間にシールドがひしゃげるが、無視して、ブレイズガンダムはライフルでイザラのシャウトペイルを思い切り殴った。
しかし、それもイザラの防御のできる範囲の攻撃だった。ライフルを対艦刀で防ぎ、逆に相手の武装をを破壊するが、ライフルで殴られた衝撃までは防げず、弾き飛ばされる。
「パワーとスピードは凄まじいぞ、気をつけろ!」
イザラが全体に指示を出すとともに、再度の攻撃の瞬間を狙った時だった。ガウンのシャウトペイルのヒートランスの先端がブレイズガンダムの肩を捉えたが、バリアによって弾かれる。
「……」
ドロテスとギルベールはブレイズガンダムと何度も戦っているので、バリアの存在は知っており、ガルム機兵隊の面々にはその存在を伝えていたが、バリアに物体が当たった瞬間にあのような反応を示すことはなかった。
今まではバリアによって弾かれるのは、バリアが崩壊した時だけだった。
「試すか?」
「いいねー、チャレンジ大好き」
ドロテスとギルベール、褐色と赤のザイランが同時に動き出したと思った、瞬間ドロテスの褐色のザイランが二挺持っているビームライフルの片方をギルベールの赤いザイランへとパスをする。その瞬間、赤いザイランがビームライフルを撃つ。
しかし、異常な速度でブレイズガンダムはビームライフルを回避する。しかし、回避した先をドロテスのザイランがビームライフルで撃つ。そして、それと同時にギルベールのザイランがビームライフルを撃つ。ほぼ同時の攻撃である。
これでどうなるか、それが、どういう効果を見せるのかを確認したかったのだ。そしてその結果は二人の予想通りとなった。片方のビームは機体表面で弾けずにブレイズガンダムに直撃したのだった。
「なるほどな。防御を捨てているいうわけか」
「こちらも確認した、ほぼ同時の攻撃なら、ダメージを与えられそうだな」
イザラがドロテスたちの動きを見て言うが、そう楽観もできない相手だと思った。なにせビームライフルが直撃したというのに焦げ跡程度しか残さないのだから。
「何かで装甲をかたくしてるっすね。耐ビームコーティングじゃ焦げ跡はつかないはずっすから」
ジョットは変わらず籠を作りながら、イザラたちに私見を述べる。
「硬い相手なら、ひたすらに撃って殴って、打ち砕けば良いだけだ」
そうイザラが言うと、純白のシャウトペイルが動き出し、それに合わせるように、ガウンのシャウトペイルが動く。
「私に合わせられるか?」
「……」
ガウンからの返答はないがイザラは問題ないと思った。眼前のブレイズガンダムは両手にビームサーベルを握っているが、その長さは尋常ではなく、数百メートルはありそうだった。
そして、それを見境なく振り回してくるのだから、イザラたちにかかるプレッシャーは相当だったが、イザラたちガルム機兵隊の機体は巨大なビームサーベルを軽々と回避しながら、ブレイズガンダムに肉薄する。
「まず一太刀!そして、同時にぃ!」
巨大なビームサーベルを躱して突撃し、ブレイズガンダムに肉薄したイザラのシャウトペイルがブレイズガンダムの右肩に対艦刀を振り下ろす。それと同時にガウンのシャウトペイルが左肩にヒートランスを突き立てる。
タイミング的にイザラの機体の一太刀の方が早くブレイズガンダムの肩に直撃しバリアを弾き飛ばした。そして、バリアが弾き飛ばされた瞬間にガウンの機体のヒートランスがブレイズガンダムの左肩にバリア無しで直撃する。
だが、見た感じでは損傷はほとんど無いようであり、僅かに装甲がへこんだようにしか見えない。
51ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/21(土) 15:06:35.32 ID:11mf5vp10
「攻略法は分かったが、時間がかかりそうだな」
「……」
イザラたちは連続攻撃を行うことは避け、一旦距離を取る。しかし、イザラたちが距離を取ると同時にドロテスとギルベール、そしてゼロの機体が攻撃に移る。
セインはハッキリしない意識でドロテスとギルベールの存在を認識していたが、以前とは動きが別物であると感じていた。圧倒的に速く、鋭い動きに変わっていたのだ。
「言ってなかったか?本気出すってよ!」
「デカい武器を振り回し過ぎで、かえって隙が出来ているな。セイン!」
ドロテスとギルベールの機体が高速で接近していく中で、ゼロの機体、コンクエスターはドラグーンを射出し、タイミングを狙っていた。
「うっしゃ、接近完了」
ギルベールの赤いザイラン、その左肩のシールドがブレイズガンダムの右肩に接触する。しかし、それだけではバリアは弾けない。
「このタイミングだ。ゼロ、撃て!」
ドロテスの褐色のザイランがビームアックスを片手にブレイズガンダムに突進していた。時だった、ドロテスの声に合わせ、ゼロがドラグーンからビームを発射する。
発射されたビームはブレイズガンダムに直撃し、バリアが弾け飛ぶ。その瞬間だった。
「しゃあっ、デッドエンド!」
ギルベールのザイラン、その左肩のシールドに内蔵された杭打ち機が超高速で撃ちだされブレイズガンダムの右肩に直撃。そして、それと同じタイミングでドロテスのザイランのビームアックスがすれ違いざまに左肩にビームアックスを叩き付ける。
ギルベールの機体の杭打ち機はイザラたちガルム機兵隊が持つ武装の中で単純な打撃力なら最強の武装であり、装甲が強化されているとはいえ、ブレイズガンダムは右肩を襲った衝撃にゆらつく。
「どーよ?」
ギルベールが勝利を確信したような声を出すが、すぐにドロテスがたしなめる。
「よく見ろ、ガウンのヒートランスよりはへこんだが、破壊はしてない」
「うっそだろ!?硬すぎじゃね!?」
ブレイズガンダムはよろめきから立ち直ると、ドロテスとギルベールの機体に向けて数百メートルの長さのビームサーベルを振るうが、二機には軽く回避されてしまう。
「俺の方も駄目だな」
ビームサーベルを機体に回避させながら、ドロテスが言う。ドロテスのザイランがビームアックスを叩きつけた場所には、薄く焼けたような跡があるだけだった。
「イザラ、俺の武装のほとんどは役に立たん。おそらくゼロの機体のドラグーンも直撃したところで効果は無いだろう。俺とゼロはサポートに回るぞ」
ドロテスは自分の機体の武装を鑑みて、そう判断した。この判断はイザラも妥当だと思い了承した。
「よし、ドロテス機と、ゼロ機はサポート。打撃力のある機体を援護してくれ。アリス、そちらはどうだ?」
イザラはジョットと協力して、籠を作っている、アリスの様子を尋ねる。
「こっちは上々ですー。宇宙港から出てきそうなのを、砲弾ぶっ放して引っ込ませてるだけですからねー」
ならいいとイザラは思ったが、アリスは続ける。
「今日はビーム主体で来てるので、弾切れの心配はいりませんよー、時間いっぱいボコボコにして平気ですー」
そうか、では何も心配をせず、この化け物のようなMSを狩れるというわけかと思うとイザラは胸が高鳴った。なかなかいない狂暴な獲物だ。狩りのしがいがある、ニヤリと笑いながら、イザラは自機をブレイズガンダムに突っ込ませたのだった
52ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/21(土) 15:07:08.73 ID:11mf5vp10
その頃、クランマイヤー王国の宇宙港では、出るに出られない状況が続いていた。少しでも宇宙港から、出ようとするMSがあると狙撃がされ、場合によっては大量のビームの砲弾が飛んでくる。
クランマイヤー王国の兵は手詰まりといった感じだったが、その中でハルドは何をグダグダと、と思いストームを連れてきた。ストームは半ば酔っ払っている様子だが、ハルドは関係ないといった感じだった。
「レビー、狙撃銃はあるか?」
「MS用のがありますよ。規格的にサイズが合うのがザバッグしかないですが」
だったら、ストームをザバッグに乗せればいいと、ハルドはストームのケツを蹴り飛ばして、無理やりザバッグのコックピットに乗せた。
「ちくしょう。なんだよ、人が気持ちよく酔っ払ってるってのによぉ」
「うるせぇ、働け、ごくつぶし」
そう言うとハルドは外側から、MSのコックピットハッチを閉めた。
「俺はネックスで出る」
思えば久しぶりだが、宇宙戦闘ならネックスが一番性能がいいので、ハルドはネックスを選んだのだった。テロリストに乗っ取られ破壊されたという過去があるが現在は完ぺきに修理されている。
「好きだと思ったんでライフルの銃身にビームエッジをつけておきました」
レビーが声を張り上げて遠くからハルドに説明する。
「銃身からビームの刃が出るんで、ライフルの銃身で殴れば大抵の物は斬れます」
そりゃあいいとハルドはレビーに感謝を言いながら、ネックスに乗り込む。そして、酔っ払いのストームに命令を出す。
「宇宙港の入り口を狙ってるスナイパーがいる。仕留めるか、少し手を止めさせろ」
「くそ、上から言いやがってよぉ、酒代おごってくれるから働くだけだかんな」
そうストームはぼやくと、ザバッグを動かし、スナイパーライフルを手に取り、宇宙港の入り口付近に張り付く。そしてその後ろにはハルドのネックスがいた。
「なつかしいぜぇ、アラスカ……お前のために100メートルを走り切る間に、五人のスナイパーを狙撃してやったんだよな」
「お前が撃ったのは三人だ、二人は俺が殺った。忘れんな」
ハルドが訂正すると、通信からはストームの品のない笑い声が聞こえてくる。
「うひひ、どっちでもいいじゃねぇかよぉ、そんなことは。ただオメー、俺に借りあんだろって話しだよっと」
急にストームの乗るザバッグが宇宙港から身を乗り出した、とその瞬間ストームのザバッグはスナイパーライフルをジョットのゼクゥドに向けて発射した。
「ありゃ?」
「やばっすっ!?」
ジョットのゼクゥドは狙撃の手を止め、慌てて自分を狙ってきた長距離ビームを回避した。その間に籠に一瞬の隙が出来た。
「ハルド・グレン、ネックス出るぞ!」
その隙をついて、ハルドの乗ったネックスが宇宙港から宇宙へと発進する。それに続こうとした機体もあったが、
「ジョットくんのカバー」
アリスのザイランの砲撃が宇宙港の出入り口を再び塞いでしまったのだった。
「あ、ちょっと気持ち悪い……」
狙撃手を相手に狙撃を決めるという大技を披露したストームだったが、その後が最悪だった。コックピットのハッチを開けると、無理……、と言って、胃の中の物をぶちまけた。
宇宙港は基本的に無重力であるから、宇宙港の空間内にストームの吐瀉物が縦横無尽に漂うことになった、これは宇宙港から出られない現状と合わさってクランマイヤー王国にとって、大変な事態だった。
「くそが、酔ってっから始末し損ねるんだ」
ハルドは後続のクランマイヤー王国のMS隊が続いてこないことにイラついてぼやくのだった。しかし、ハルドの方にもぼやいているようなヒマは無くなった。目の前にMSが立ちふさがっているからだ。
見たこともないことからハルドは新型であると断定した。しかし、どこの国の新型かはわからない。人の頭のような丸い頭部に、光る十字のラインが頭部を縦横に走っている。
機体も全体的に曲線のシルエットを描いており、人間の姿形に極めて近い。色は黒を基調に赤が組み合わさったカラーリングが施されていた。
機体の見た目に国の特徴という物が出るものだが、この機体にはそれらしいものが全くなかった。
しかし、ハルドはどうでも良いと思った、どこの新型でも良い。今は邪魔なだけだ。
53ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/21(土) 15:08:15.02 ID:11mf5vp10
「あのさぁ、どいてくんない」
「イヤだ。って言ったらハルド君はどうするかね」
通信から聞こえてくる声はロウマ・アンドーの物だった。厄介な奴が、また……、ハルドはウンザリする思いで答える。
「ぶっ殺す」
「殺されるのは嫌だから、反撃しようかな」
その瞬間ハルドは高速で機体を横に動かした。直後にビームがハルドの乗るネックスの横を通過した。撃ったのは目の前の機体である。
速いな、とハルドは思った。目の前の機体は両手にビームガンらしき物を握っている、恐ろしいほどの早撃ちだとハルドは思った。機体が銃を抜く手が全く見えなかった。
「マリスルージュ。機体名は俺が適当に命名、適当な訳で悪意の赤。俺にぴったりだろ?」
そうロウマが言い終わる前にハルドは機体を縦横に動かす。手の動きが速すぎて射撃の狙いが殆ど見えなかった。機体性能はブレイズガンダム並みかとハルドは考えた。
「剣は捨てて、銃を使うのかよ」
異常な速度で連射されるビームを回避しながら、ロウマに問う。
「俺は元々コッチの方が得意だよ」
じゃあ、本気かとハルドは思いながら、マリスルージュにビームライフルを向ける。が撃たない。
マリスルージュはハルドのネックスがビームライフルの狙いを定めた瞬間に、高速で移動した。
ハルドはその先を読んで、ネックスのビームライフルの狙いを即座に変えていた。それはマリスルージュが移動した先であった。だが、ロウマもそれを予測していたように、ビームガンを撃ち、飛来してくるビームに当てて打ち消す。
「少しズルいな、性能差がありすぎる」
ハルドが言うとロウマが答える。
「勝負は機体性能で決まらないんだから、がんばりなよ」
ハルドとロウマは互いに戦闘をしているような調子はなく、ノンビリと喋っていた。しかし、喋りながらも二機のMSは目まぐるしく動いていた。
射撃の早さよりも怖いのは機体の速さだった。ハルドは常に注意していなければ、敵を見失いそうだった。そして、今、それが起きてしまった。
まずい!ハルドはそう思った瞬間、直感的に後ろを振り返りながら、いつの間にか背後に回り込んでいたマリスルージュを相手に脚を後ろに伸ばし、つま先のような部分で軽く触れる。
ネックスには足がないため、つま先のような部分となるわけだが、この行為によって、ネックスは僅かに動き、マリスルージュもかすかに動く、ほとんど動いてはいないし、何も変わって無いようだった。
ハルドはつま先が触れたと同時に必死の操縦でネックスの身体をねじらせる。その行為によって完全に背後を取っていたマリスルージュのビームガンの射撃を紙一重で躱しながら、さらに、反撃のビームライフルを撃ったのだった。
ロウマは驚愕と当然が入り混じった思いを抱きながら、思いもよらない反撃を紙一重で躱した。
「くっそ、やっべぇな」
ハルドは荒く息をつきながら、ネックスの体勢を整える。その瞬間にマリスルージュが正面から射撃をしてくる。ハルドはこれに関しては心配はいらないと思った。当てる気はなく、本命は別だ。しかし、相手の策に乗っている風に見せるのも大事と思い、回避した。
瞬間、マリスルージュが動く、しかしハルドはだいたい移動しそうな場所は見当がついたので、そこをビームライフルで狙い撃つと、マリスルージュは宙返りをするような動きで回避しながら、ビームガンを撃つ。これも、まだ予測の範囲内。
ネックスは同じように回転しながらビームガンを回避し、反撃のビームを撃つ。多分これも当たらないとハルドは思い、実際にもマリスルージュはダンスのステップを踏むように回避しながら、僅かにネックスとの距離を詰めつつビームガンを撃つ。
ハルドは距離が嫌だと思った。現在の敵との間合いでは派手に回避に動くと、逆に狙い撃たれて終わるため、最小限の動きで回避しなければいけないとハルドは思った。
ネックスは飛んでくる、ビームガンから連射されるビームを半身になって躱し、上半身を屈めて躱し、その場で回転するなどしながら、全てを躱しつつも、常にビームライフルでの反撃を止めなかった。
対するマリスルージュも同様に全てのビームライフルの攻撃を躱しながら段々と距離を詰めてくる。
54ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/21(土) 15:10:15.79 ID:11mf5vp10
相手との距離が縮まるということは攻撃が届くのが早くなり、より高速の対処が求められるということである。だが、いくら距離が縮まっても二機の回避と攻撃の正確さは変わらなかった。
しかし、限界はある。いつかは近接戦闘になるとハルドは予測できている。ロウマは焦れないタイプだ。ハルドは逆だった。先にこちらが動き、主導権を握りたかった。
そして、ハルドは射撃を回避するのがギリギリだと思った距離になった瞬間に行動に移る。詰め寄るマリスルージュの先手を取るようにネックスは突進し接近する。
ロウマは来たかという感じだった。接近戦の読みは出来ている、全て対応できるという自信がロウマにはあった。
目の前に迫ったネックスがライフルでビームガンを叩き、マリスルージュの腕の防御を崩す。それは別に良いとロウマは思った。それより、次、高速でビームサーベルが抜き放たれ、そのまま斬りつけにかかる、これも大丈夫だ。
ビームガンでビームサーベルを防ぐ。こういう事態に備えて耐ビームコーティングがしてあるから、ビームガンで防げると思った瞬間、眼前のネックスがビームライフルを返して殴りかかるロウマの眼にはライフルの銃身にチラリとビームの光が見えた。
マズイ、ライフルが殴りかかっている軌道は左腕である。ロウマは隠し玉を使った。それは肘から出るビームブレードである。肘のビームブレードはちょうどビームライフルが殴りに来ている軌道と一致した。
そして、ロウマの予想通り、ビームブレードとビームライフルの銃身が干渉していた。これによって、ビームライフルによって腕が切断されることは防げた。では、反撃である。
やはり、そういう隠し玉があるかとハルドは思った。だが、それで終わるわけが無いだろうと、ハルドはビームライフルの引き金を引いた。
マリスルージュの肘のビームブレードが干渉しているため、頭部しか狙えないが、それでも撃った。しかし躱された。それも大胆な方法、頭を大きく後ろに反らすという方法だ。
躱すだけで終わるわけが無いと思ったハルドは当然、反撃が来ると思い、ある予想をして機体をバックステップの要領で後ろに下げた、そうすると、マリスルージュは右脚の前蹴りを放ってきた。
頭を後ろに反らしている以上出せる蹴りはこれぐらいだが、ハルドはさらに念を押して機体を後退させると、前蹴りをしたマリスルージュ足の裏から、大量のビームブレードがスパイクのように発生した。しかしそれでもネックスは蹴りの間合いの範囲外だった。
しかしながら、ロウマも器用というのかハルドが回避したという一瞬の隙をついて、マリスルージュは無茶な体勢にも関わらず左のハイキックをネックスの頭部に叩きこもうとする。
間合いの範囲外だ、問題ない。そう思うほどハルドは楽観的でなかったし、ロウマも甘くなかった。左足のつま先からはビームサーベルが伸びていたのだ。
冗談じゃないとハルドは思いながらネックスを操る。左のハイキックである以上、当然、右側から来るので、ネックスは頭部を左側に大きく傾け、高速で襲ってきたハイキックを紙一重で躱す。
そして躱したことによって出来た僅かな余裕でビームライフルを構え、マリスルージュを撃つ。
対してロウマのマリスルージュは無茶な姿勢、状態で言うと目の前にあるのがネックスの脚という状態ながらも、相手の位置は見える場所に頭部があったため、ビームガンを撃つ。
二機が放ったビームは激突し、再び掻き消えた。
互いの攻撃が一つも届かなかったことを確認すると、二機は一旦間合いをあけた。
「いやー楽しいね」
ロウマは荒い息をついていた。予測はできても対処は疲れるのだった。
55ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/21(土) 15:10:45.45 ID:11mf5vp10
「俺はつまらないって言ったら?」
ハルドも一息をつきながら尋ねてみた。
「そしたら、俺、悲しくて泣いちゃうね」
「つまんね、つまんね、つまんねぇーっ!」
「うわーん、つまらないって言われたー!えーん、えーん、うわーん!」
ハルドとロウマの二人は馬鹿みたいなやり取りをしながらも、自分と相手の能力を考え、ある種の結論に達していた。
ロウマは考える。戦闘中、明らかに反射神経じゃ回避できない場面があったことから、先読みをしていることは確かだと、反射神経自体も相当に鍛えてはいるだろうがそれだけではないと予想するのだった。
おそらくは、無限に近い数の戦闘の流れのパターンから、相手の動きや癖を見て、数パターンに絞っており、そのパターンに入った瞬間に、体が動くように作られているとロウマは考えた。
それだけではマシーンのようであり、パターンを外れた行動をこちらが読んで予想外の行動を取ればいいと思うが、ハルドという男は人間であり有機的に考え、不測の事態も考えながら、パターンの中から直感で最善を選んでいるとロウマは予測していた。
ほとんど未来予知のようなものだとロウマは結論付ける。これを可能にしたのは恐らく、頭がおかしくなるような数の戦闘や戦場を生き残る。いや、勝ち残り続け、ひたすらに経験を積み上げ、ありとあらゆる相手と戦い勝ってきたからだろう。
未来予知レベルまで高められた、異常なまで戦闘の勘、これがハルド・グレンの強さの秘密だろうとロウマは考えたのだった。
ハルドは考えていた。詰めるかな、と。ロウマも相当に勘が良いし、読みも良いが、まだ対処できる範囲内だとハルドは思った。生身での殺しはロウマの方が得意だが、MSを使った殺しは自分の方が得意だ。人には向き不向きがあるなとハルドはボンヤリと思った。
ハルドは頭の中に余計な物が多すぎるなと思った。なので捨てることにした。そして目的を一つに定める、アイツを殺そう、と。
「うん、いい感じだ」
三年ぐらい前と同じ感じだとハルドは思った。さっぱりとして何もかもがどうでも良いような感じだった。これが一番いいかもなと、ふと思ったが、それもどうでも良いと思った。
「とりあえず、ロウマさん。殺すけど、いいかな?」
駄目と言われたらどうしようもない。無視して殺そう。その先は、まぁどうでも良いとハルドは思うのだった。
ロウマは危険を感じていた。ハルドの様子がおかしい、というか三年前に戻っているような気がした。正気のラインを超えた状態。これとやって勝てるわけがないとロウマは確信があった。
なにせ今のネックスとマリスルージュの性能差以上の性能差がある相手も倒してしまった状態なのだから、自分では無理だ。
奥の手を出して仕留めることも可能だが、こうなっては確実ではない。別に戦いに命を賭けているわけでもない。ちょっとした遊びのつもりだったのに相手がマジになってきて最悪だとロウマは思った。
「俺は逃げたいかなぁ、と思っているんだけど、いいかな?」
ロウマはとりあえず聞いてみた。
「あ、そう。じゃあ勝手にどうぞ」
不意に殺気が収まったような気がした。ロウマは自分も大概だが、このハルドも大概だと思った。
そんなこんなでロウマの撤退が見逃されようとしていた時だった。ハルドの背後、ロウマの視界の中で、宇宙に炎が吹き上がった。
「おいおい、なんかやっちゃった、ウチの兵隊?」
ハルドは思考が普段に戻ると同時に機体を振り返らせた。その瞬間、ハルドの目に信じられない物が映った。
「炎の翼……?」
56ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/21(土) 15:44:36.85 ID:11mf5vp10
37話終了です。
そろそろストックが尽きてくるのでストーリーに関して要望等があれば何なりとどうぞ。
実現できるかは分かりませんが、その点はご了承下さい
57ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/22(日) 16:23:12.53 ID:OII0KXqo0
投下します
機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第38話

ハルドとロウマが戦いを繰り広げていた最中、セインのブレイズガンダムとガルム機兵隊の戦いも激しさを増していた。
「でやぁぁぁぁぁっ!」
イザラの機体の対艦刀がブレイズガンダムの脚を打撃する。切断が不可能である以上、打撃と言うしかなかった。
その一撃は足払いのような役割を果たし、ブレイズガンダムは体勢を崩す。その瞬間を狙って、ドロテスのアシストとタイミングを合わせたギルベールの機体の攻撃が左肩を直撃する。
そして、ゼロのコンクエスターとガウンの機体の連携攻撃も成功し、脚の関節にガウンの機体の攻撃が直撃する。
「しかし、硬いな」
「だが、見た感じはボコボコでどうしようもなさそうだがな」
イザラとドロテスが言った。
セインはコックピットの中で何が何だか分からなくなっていた。攻撃しているのに当たらない。全身が痛い。気づくと転ばされている。訳が分からなくて、セインは気が狂いそうな気分だった。そして全身の痛みで今にも泣きだしたかった。
「ちくしょうちくしょうちくしょう、僕は強いんだぞ、強い奴をこんな風にするなんておかしいだろ!?僕は最強だぁぁぁぁ!」
セインがコックピットの中で、そう叫んだ瞬間、ギルベールの赤いザイランが左肩のシールドに内蔵された杭打ち機を直撃させた。
「いたぁぁぁぁぁっいっ!痛いよ痛いよ、なんなんだよ、なんでこんなことするんだよ、ふざけやがって、皆殺しにしてやる」
ブレイズガンダムは数百メートルの長さのビームサーベルやたらめったと振り回した。
「子どもが棒を振り回しているような動きだな」
イザラはビームサーベルといって良いのか分からない長さと太さのビームの刃を軽く回避しながら言う。
「そう言うな、必死なんだろうよ」
ドロテスの褐色のザイランがビームライフルを撃つ。
「ほら、セイン行くぞぉ」
ドロテスの機体の放ったビームライフルでバリアが弾けた瞬間、またもギルベールの機体の杭打ち機が直撃した。
「ぐうううう痛いって言ってるだろ!なんなんだよ、やめてくれよ!僕は強いんだぞ、強い奴の言うことを聞けよ!」
セインはコックピットの中でひたすらに叫んでいた。言葉は完全に支離滅裂だった。
「嫌だ、痛い、嫌だ。助けて、父さん、母さん」
そう呟いた瞬間、セインはその二人がいないことを思い出して涙が溢れた。
「誰か守って、守ってください、僕を守ってください。守れって言ってるだろ!僕が最強なんだから、僕を守れよ!」
言ってセインは気づく、もう自分を守ってくれる人も大切にしてくれる人もこの世にいないこと。
「父さん母さん父さん母さん……僕が強かったら良かったんだ」
強ければこんなことにもならなかった、痛い思いもしなかった。戦わなくても良かったし辛い思いもしなくて良かった。
「強さ強さ強さ、強さをくれよ、強さをくれよ、強さをくれって言ってるだろっ!」
もう良い、全部いらない、強さがあれば全部戻ってくる、全部なくても良いから強さを下さい、全てをずっと大切にしたいから全てをなくしても良いので強さを下さい。矛盾の狂気を抱き、セインはコックピットの中で胎児のように丸くなりながらひたすら願った。
その時だった、コックピットに電子音声が響いた。
(パイロットの脳波からEXSEEDと同一のものを観測。プロジェクト:ブレイズは第2段階へ移行、現行機のリミッターを解除し“ギフト”『セラフの火』を解放します)
その声が聞こえた瞬間だった、強烈な頭痛と共にセインは自分が切り替わり変貌していくような感覚に襲われた。
58ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/22(日) 16:23:46.59 ID:OII0KXqo0
それと同時にブレイズガンダムにも変化が生じていた。急に攻撃を止め、ビームサーベルも捨て、棒立ちとなっているブレイズガンダムに警戒しガルム機兵隊。その目の前でブレイズガンダムのバックパックが内側から噴き出る何かに破壊された。
噴き出るのは炎のような赤い粒子の奔流。それが宇宙に舞い上がって行く。その場にいた者全員が危険だとしか思えなかった中で、吹き上がる炎のような奔流はやがて形を変えていった。
それは見るもの全員が同じ感想を抱く形。翼だった。しかし、燃え上がり揺らめき背中から生える二枚の翼。天使を思わせる形だが、美しさよりも危険さを感じさせる翼だった。
ブレイズガンダムはバックパックを粉砕し、胴体の奥底から、その炎の翼を生やしていた
「なんかヤバくね」
「奇遇だな俺もそんな気がしていた」
ドロテスとギルベールが話しているとイザラも加わる。
「私も危険な気がするな」
そう三人が話した直後だった。ブレイズガンダムが背中の翼を振る。ガルム機兵隊の面々は、その行動に何の意味があるのか、即座には理解できなかったが、直後に理解した。
ブレイズガンダムが翼を振るうと同時に炎の矢のように羽が拡散してガルム機兵隊に襲い掛かった。数はそれほどでもなかったため、回避には困らなかったがイザラはどのような攻撃なのか、シールドを使い敢えて受けてみた。
そうしたところ、イザラは驚愕した、羽がシールドに突き刺さっているのだ。そして、それだけではなく、刺さった部分から周囲をドロドロと熱で溶かしていた。
「受けるな!熱で溶かされるぞ!」
そんな馬鹿な、とガルム機兵隊の面々は思った。ビームを防ぐシールドを溶かす熱量とはどれほどのものなのか。ガルム機兵隊の面々がそんなことを考えているとブレイズガンダムは新たな攻撃を見せた。
それは炎の翼を伸ばして、翼で薙ぎ払うというものだった。シンプルな攻撃、しかし、ビームサーベルでの攻撃より明らかに速かった。ドロテスが回避にしくじり、機体の片足を翼に飲み込まれる。飲み込まれた瞬間にドロテスは自機の脚が消し飛んだことが分かった。
ガルム機兵隊からすれば全ての攻撃が未知のものだ。反撃など危険を冒す行為はしたくなかったため、様子を見ようとした。すると、ブレイズガンダムの攻撃はどうやら、羽を飛ばすことと、翼で薙ぎ払う以外にないことが分かった。
ならば、容易い。そう思って、イザラのシャウトペイルが接近しようとした瞬間だった。ブレイズガンダムは片方の翼を自分を守るようにたたみ、それにくるまった。イザラは対艦刀を止めずに振り下ろした。
しかし、無駄だった。対艦刀は炎の翼に触れた瞬間、ドロドロに溶けて使い物にならなくなった。
「手詰まりだな」
イザラはそう言いながら、溶けた対艦刀を捨てる。
攻撃だけではなく、防御も手に入れたブレイズガンダムに対し、ガルム機兵隊はなすすべもなく。ただ、何かが起きるまで、攻撃を避け続けるしかできなかった。
59ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/22(日) 16:26:16.20 ID:OII0KXqo0
「ブレイズガンダムってEXSEED関係の機体だって前に言ったっけ」
ハルドとロウマは一時休戦して、変貌したブレイズガンダムの暴れっぷりを眺めていた。
「聞いたな。俺の読みだとパイロットをEXSEEDに作り変えるシステムでも入ってんだろ?」
ロウマは拍手をした。それは通信でハルドの元にも届く。
「ご明察だね。まぁそんな感じ、電磁波やら何やらを流すことで、脳内電流をEXSEEDのものと近づけて云々て感じだったかな。狂暴になるのは副作用かな、それを和らげるために脳内麻薬がドバドバ出るようにも色々しているらしいよ。
乗っている間は福音って言うらしいけど、天の声が聞こえて気持ち良くなって戦闘狂になるんだよね。戦闘狂になるのは実戦で使えるEXSEEDを作るって目的もあんだけどね」
ロウマが話すということは、話しても対して問題になることではないのだろうとハルドは思った。
「感覚同化できんの?」
ハルドは何となく聞いてみた。感覚同化とはEXSEEDの能力で機械などに自分の感覚を投射し、機械など思考の思いのまま自在に操る物だ。通常の脳波操作とは違うのは、感覚レベルで機械などと同化できるというところだ。
「ばっちり積んでるねぇ、でも普段は感覚の同化はないよ。フィルタリングっていうか、リミッターがかけられているからね」
「どうせ簡単にリミッター解除できるんだろ」
ハルドがウンザリしたように言うと、再びロウマは拍手した。
「またまた、ご明察。コード:ブレイズ、この一言でリミッターは解除、脳味噌を強制的にEXSEEDと同じ状態にするわけ。そうすると当然、機体と感覚同化が起きる」
そう言うと、ロウマは、あ、と何かに気づいたような声を出した。
「俺の部隊の奴が、感覚同化してるブレイズガンダムを思いっきりぶっ叩きまくってたからねぇ、セイン君。キレちゃったから、あんなことになってるのかも。嘘だけど」
速攻で嘘とばらしやがった何がしたいんだか、全く分からんとハルドは思った。
「とにかく、早く何とかしたほうが良いよ。アレだと見境なし、完全に暴走状態だね。ハルド君の大切なクランマイヤー王国も焼き尽くされちゃうよ。頑張ってセイン君を倒したほうが良いと思うけどね、俺は」
この野郎、俺とセインを戦わせるつもりだな、とハルドはロウマの考えが読めた。しかし、実際問題、ロウマはやる気がなし、ロウマの手勢は役立たずだ。クランマイヤー王国に危害が加わるなら、自分が行くしかないかとハルドは思った。
「弱点は頭か心臓の位置だったよな」
MSと感覚が同化している以上、頭が壊されれば自分の頭が吹っ飛んだと思って意識を失う。心臓の位置も同じ理屈だ。
「流石はEXSEED殺しのハルド君。なれたもんだね」
「次にそう言ったら、お前を先に殺すからな」
ハルドはロウマに、その忠告だけ残して機体をブレイズガンダムへ向けて発進させた。
ロウマはハルドの忠告を聞いてもヘラヘラと笑っていた。そして、ガルム機兵隊の面々に通信する。
「はい、ガルム機兵隊の雑魚の皆さん。ご苦労様。今から最強の援軍が行くので雑魚たちは一時撤収、よろしく」
あくまでガルム機兵隊を小馬鹿にした通信を一方的に送ると、ロウマは高みの見物の決め込むのだった。
60ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/22(日) 16:27:07.81 ID:OII0KXqo0
「おい、ハルド、外はどうなっている!?出撃しても良いのか!?」
籠が解除されたから、クランマイヤー王国の機体も参戦可能となっているが、ハルドは多分邪魔にしかならないだろうと思った。アッシュクラスがいても恐らく一人の方が楽に戦えるだろうと思った。なのでハルドはこれだけ伝えた。
「俺の使う武器運搬係が欲しい。それ以外は来んな。あとレビーとマクバレルは俺が欲しいと言った武器をすぐに用意できるように待機しててくれ」
了解した。という声が聞こえたこれで安心して戦えるというものだ。
「さて、セイン・リベルター君。殺し合いでもしてみようか?」
ブレイズガンダムに対してネックスが接近する。それを振り払うかのように翼の薙ぎ払いが来るが、なんてことはない攻撃でハルドはブレイズガンダムに接近する。すると今度は翼にくるまる。
「さて、斬った感じはどんなもんかね」
ネックスはビームサーベルを抜き放ち、炎の翼に斬りかかる。当然というか、結果は全く刃が通らなかったわけだが、ハルドは違和感を覚えた。
「少し干渉があったな。構造的にはビームシールドに近いか?」
そう思ったハルドはレビーに連絡を取る。
「耐ビームコーティングを、相当ぶ厚くした実体剣を用意してくれ」
レビーから了解の返事が聞こえると共に、くるまった状態の翼から羽が発射される。そういうのもありだろうな、と思っていたのでハルドは苦も無く避けるが、そのついでにシールドの先の方に、羽をわざと当ててみた。そして、シールドに刺さった羽を観察してみる。
熱量は凄いが速度は大したことなし、そして気になったのでビームサーベルを羽に当ててみると、ビームサーベルと鍔迫り合いになった時と同じような干渉に仕方をした。
なるほど、羽というよりは超高出力のビームサーベルを飛ばしているということかとハルドは考えた。羽がそうなら、大元の翼も恐らく超高出力のビームではないかとハルドは予測した。
炎の翼のように見えるが、見えるだけで、ただのビーム。神秘性もなにもあったものではないとハルドは思い、とりあえず色々と試してみようと思った。
「耐ビームコーティングをクソ厚くした散弾とショットガンをくれ」
ハルドはレビーに連絡した。さて、どれくらいで削れるのか試してみようか。ハルドは、実験をするような気持ちでブレイズガンダムの相手をする気になっていた。
ハルドは、しばらくは回避に専念した。武装が来なければどうにもならないからだ。
「おい、武器だ」
通信で声が聞こえてきたのはアッシュだった。アッシュが運搬役とは豪勢なことだと思ったが、ブレイズガンダムに接近する可能性もあるのだからアッシュくらいの腕が無いとダメかと思った。
アッシュから渡されたのは、古臭い形のポンプアクション式のショットガンだった。
「こんなんしかねぇの?」
「そもそも、MS用のショットガンが廃れているんだ。文句を言うな。弾は用意できたので三発だ。大事に使え。あとショットガンも、それ一丁だからな」
そう言うと、アッシュは戻って行った。ブレイズガンダムの現状に関して色々と質問したいこともあるだろうが、それは後回しということだろうとハルドは思った。今は現状をどうにかするということをアッシュは優先しているのだとハルドは考えた。
61ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/22(日) 16:29:35.36 ID:OII0KXqo0
「さて、怪物退治はショットガンが定番だが、どうしたもんかね」
とりあえず、効果があるのか試してみようと、ハルドはネックスを操りショットガンを構えさせると、ブレイズガンダムが翼での薙ぎ払いをする距離を取ってみた。するとハルドの考え通りに翼での薙ぎ払いをする。
「ワンパターン過ぎねぇかな」
きょうびゲームのキャラでも、もっと多彩な攻撃をしてくるが。そんなことを思いながらハルドはネックスを操り、翼を軽く躱し、そして狙いをつける。狙いは翼が伸びて薄くなった部分、翼の先端部だ。
「とりあえず、通るかね」
物は試しという感じで言いながら、ハルドはショットガンを撃つ。その効果は思った以上だった、翼の先端部の薄い部分はショットガンの散弾で軽く穴が空き、散弾によってズタズタにされた翼の先端部は形を維持できなくなり、散っていく。
翼の先端が散っていくと同時に、ブレイズガンダムがもだえ苦しむような動きを見せた。
「お前はお前で、機体は機体だぜ、セイン。って今更言っても遅いか」
ネックスはもだえ苦しみながらもブレイズガンダムが無事な片翼を薙ぎ払いに用いてきたので、それを軽く回避しながら、一枚目の翼と同じように先端部をショットガンで吹き飛ばした。
「さて、先端は効くが、根本の方はどうかなっと」
ポンプアクションのショットガンを操作しネックスは翼の根元に近い部分を撃ってみた。しかし散弾は厚い耐ビームコーティングがされているのにも関わらずビームの翼を貫ききれずに溶け落ちていった。
「翼に停滞してた感じを見るに、貫通力が足りないって感じだな。レビー、実体弾を高速で撃ちだすライフルをくれ。弾は特別にコーティングした奴な」
「注文が多すぎます。間に合いませんよ」
じゃあ、待つよ。という感じに言って、ハルドは通信を切った。その直後、ブレイズガンダムの羽が飛んできた。狙いを多少絞ってはいるようだが、それでも回避は簡単であり、ネックスは軽く避けて見せた。
すると、回避直後のネックスを翼が襲った。それも今までのような薙ぎ払いではなく、翼の先端による突きだった。
「おっと」
不意を突いたつもりだったろうが、回避できる範囲内だった。こういう動きもしそうな気がしていたため、ハルドには予想の範囲内だった。
「どうした?悪い頭で考えた結果がこれか?」
ハルドはブレイズガンダムを侮って言う。通信はブレイズガンダムと繋いでいた。すると驚いたことに反応が返って来た。
「なんだよ、なんなんだよぉぉぉぉぉ!あああああああ!」
翼が荒れ狂い、ネックスに襲い掛かる。
「訳わかんないんだよ、ぶっ殺してやる。僕が最強なのに、僕より強いなんておかしいだろぉぉぉぉぉ!」
ブレイズガンダムの背中の二枚の翼が長さを増し、ネックスに襲い掛かる。翼は突き、薙ぎ払い、叩き付け、その全てを織り交ぜて、ネックスに襲い掛かるがネックスはその全てを軽く回避して見せる。
「ちくしょうちくしょうちくしょう、弱くない弱くない弱くないんだぁぁぁぁぁ!」
セインの叫びはすべてハルドの元に届いていた。その必死さもハルドには伝わった。そしてハルドが返した言葉は。
62ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/22(日) 17:56:55.33 ID:OII0KXqo0
「くだらねぇ」
たったそれだけの感想しかハルドには浮かばなかった。ガキが自分の思い通り上手く行かないのを世界に対して叫んでいるだけなのかと思うと、ハルドは気持ちが急に冷めて来るのを感じた。
「ハルド、弾と剣だ」
ちょうどいいタイミングでアッシュの乗るキャリヴァーが補給を届けに来た。ハルドのネックスと、アッシュのキャリヴァーは荒れ狂う翼をかいくぐりながら、補給の受け渡しを手渡しで行った。
「弾は六発、ショットガンの装弾数限界と同じだ。撃ち切ったら連絡を寄越せ。剣はビームサーベルより少し短い実体剣だ。コーティングを厚くし過ぎたせいで切れ味は保証できないらしい。……それはいいとして、どうしたんだ明らかに荒れてるぞ?」
アッシュがブレイズガンダムについて尋ねてくる。ハルドはくだらないことだと思いながらも応えた。
「思春期のガキ特有のヒステリーみたいなもんだ。一応、師匠らしいし俺が始末をつけてやるとするよ」
そうハルドは言うとアッシュのキャリヴァーから距離を取り、再びブレイズガンダムに向かう体勢になる。
「しかし、強いって根拠はどこから出てくるのかね」
翼の突きが真っ直ぐネックスを襲うが、ハルド別段恐れることなく、翼に対して真っ直ぐショットガンを発射した。散弾は翼に直撃しズタズタだった先端部がさらにバラけて散る。
ハルドは思った通りだと結果から理解した。どうやらブレイズガンダムの炎の翼は胴体の奥底から放射状に伸びているビームの束であるということに。そのため、翼に対して縦の攻撃は通じにくいが横に裂くような攻撃は通じやすいという結論に至った。
「俺は自分がそれなりに強いとは思うが最強なんて傲慢な考えに至ったことはないけどな」
ハルドは喋りながらネックスを動かしつつ、ブレイズガンダムの攻撃を見極める。次に来たのは翼の薙ぎ払いだ。
ハルドはネックスを操縦し、炎の翼の先端ギリギリの位置を取るように動かした。そして、炎の翼の薙ぎ払いが来ると、翼の先端を横方向に裂くように実体剣を振るった。
その瞬間、炎の翼の片方の先端が真ん中から二つに裂けた。
「やっぱり横方向に弱いな」
ハルドは攻略法を得たと確信した。取るに足らない相手だと、今になると思う。見た目の威容はある。なにせ炎の翼を生やした機械の天使様だ。だが乗ってるのは駄々をこねているガキ。相手にならないとハルドは思った。
「なんでなんでなんで、僕の前に立つんだよアンタはぁぁぁぁぁ!」
「知るか。つか、うるせえ。落ち着け」
先端が裂けたことで、新しい攻撃方法を思いついたのか、ブレイズガンダム背中の二枚の翼を自ら複数に分かち、計六枚の翼が新たに生まれた。
だからと言って、ハルドは別段恐ろしくもなんともなかった。
攻撃が一度に六つ来るだけで、攻撃自体はワンパターンであくびが出そうだったし、翼を分割したことで一枚ずつの強度は落ちていたのでショットガンで先端を雑に撃って、翼は散った。そして、セインは悶え苦しむのだ。
63ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/22(日) 17:57:40.16 ID:OII0KXqo0
「いたいぃぃぃぃぃ。痛い痛い痛いんだよ!なんでだよ、僕は強いんだぞ!」
聞こえてくる声にハルドは呆れたように返す。
「お前は弱いよ。俺より強いところなんて何一つ無いだろうが」
その言葉がセインに届いた瞬間だった、それまで翼で攻撃していたはずのブレイズガンダムがネックスに向かって突進をした。
「ハルドぉぉぉぉぉっ!」
くだらねぇ、ハルドはそれしか思わずに、ネックスを動かす、動きは最小限。向かってくるブレイズガンダムにショットガンを向けるだけだった。
ブレイズガンダムは突進して何をしたかったかというとネックスの顔面へと右手でパンチをしたかったのだ。ハルドは機体の首を傾け、そのパンチを簡単に躱すと、ショットガンをブレイズガンダムの左肩に押し当てた。
「悪いが目を覚ます時間だ。最強って夢からな」
ハルドが言った瞬間にネックスはショットガンを発射しバリアを弾き飛ばし、それと同時に実体剣をブレイズガンダムの胴と肩を繋ぐ関節の隙間に突き刺す。
機体の強度からいって刺さることはなかった。だがハルドは関節の隙間に刺した実体剣に、“てこの原理”で力をかけ、ブレイズガンダムの胴と肩を繋ぐ関節フレームをへし折ろうとした。
バリアは継続的な力がかかっているため、機能を失っていた。そして機体を操るセインは痛みに襲われていた。関節技で関節を外されるような痛みであった。
「痛い痛い痛い、止めて、ハルドさん、痛いんだよ!」
ハルドはセインの声を無視してネックスのスラスターの出力を最大にし、全パワーをもって力をかけた。その直後、セインの耳にだけ、ベキッ、という何かが折れる音が聞こえ、セインの肩に激痛が走った。
「ハルドぉぉぉぉぉ!?」
ハルドはうるさいと思いながら胴と肩の関節フレームをへし折った勢いで、同時に曲がった実体剣を放り捨てビームサーベルを抜いた。
「レビーとマクバレルから聞いたんだけどよ。ブレイズガンダムはフレーム経由でパワーを供給しているらしいけど。そのフレームが折れるとどうなるんだろうな」
ハルドは独り言を言いながら、ブレイズガンダムの左肩にショットガンを撃ってみた。バリアは発生せずに散弾が、左肩の装甲にめり込む。セインの身体も同じ痛みを受け、悲鳴をあげていた。
「確かに、MS戦じゃ廃れる武器だな。装甲を貫通出来ないんじゃ。でもビームサーベルはどうなんだろうなっと」
そう言ってハルドはネックスを操り、無造作にブレイズガンダムの左肩を切り落とした。その瞬間だった。
「ぎゃああああああっ!」
セインの絶叫がハルドの耳に届いた。感覚が同化しているなら、セインは左肩を斬りおとされた痛みをあじわっているというわけだとハルドは思った。
「弱いな」
弱点やら何やらがハッキリしすぎているためハルドとしてはロウマのマリスルージュよりもはるかに戦いやすかった。
「さて、セイン君。俺はこれからキミをダルマにして、その物騒な背中の翼を引き千切り、頭を吹っ飛ばす予定なんだが、どうする?」
ハルドは何となく尋ねてみた、すると返ってきた声は、歯をガチガチをと鳴らし、震えているのがハッキリと分かるのに強がるセインの声。
「殺す、殺してやる、殺してやるぞ、ハルドぉ」
いいね、とハルドは思った。流石に仲間だ。一方的にイジメ殺すのは、ハルドも多少は心が痛む。少しは抵抗してもらったほうが気兼ねせずに済むというものだ。
64ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/22(日) 17:58:25.39 ID:OII0KXqo0
「じゃあ、セイン。少し痛い目にあってもらおうか」
そう言うとハルドはネックスを操り、ハルドに操られたネックスはショットガンを片手にブレイズガンダムに突撃するのだった。
ハルドはいけるか?と若干様子見をしながら動いていた、接近しているのにも関わらず、炎の翼で身を守ることもせずに、ブレイズガンダムは右腕と両足を振り回していた。
「頭が弱いなぁ」
そう言いながらハルドは右足で蹴りを放ったブレイズガンダムの脚を掴む。
「頭が使えればこんなことにならずに済むのにな」
ハルドはそう言いながらショットガンを右脚に絡ませながら、ネックス自体もブレイズガンダムの右脚に絡ませながらスラスターを全開にする。
その瞬間、セインは悲鳴をあげた。何故ならブレイズガンダムの右ひざの関節フレームに本来曲がらない方向へと力をかけられていたからだ。
「対MS用サブミッション・ホールド。地球連合軍で開発されたが馬鹿らしくて習得してるやつは、ほとんどいない技だ。貴重な技を味わえてうれしいだろう」
MSの関節が一定のものではないと極まらない、MSの形状などによっては極まらないなどの成功率が低すぎるという理由で、地球連合軍でも馬鹿話の1つとして扱われる類のものだが、ハルドは、それを完全に習得していた。
「なるほどな、関節技ならバリアが発生してもすぐに消えてほとんど意味がないから、ブレイズガンダム相手だったら最高の技だな」
ハルドは思った以上に効果があったので、満足だった。通信から聞こえてくるセインの悲鳴も、なるほどMSが食らったらこんな風に痛がるのかという勉強になった。そしてほどなくしてブレイズガンダムの膝関節のフレームがへし折れる。
すると、ネックスはブレイズガンダムの脚を離し、なんてことはないという動きでブレイズガンダムの右ひざを斬り、右ひざから下を斬りおとした。
再びセインの悲鳴がハルドに届くが、ハルドは完全に無視した。
「ちくしょう、僕の腕、僕の脚、どうすんだよどうすんだよ!どうしてくれるんだよ!これじゃ歩けないよぉ……ちくしょうちくしょう、殺してやる、ハルドぉぉぉぉぉ!」
うるせぇなぁ、と思いながら、ハルドはネックスを操り、襲ってくる六枚の炎の翼を回避する。
一枚目は薙ぎ払い、上方向へと移動し回避。二枚目は、回避したところ狙った逆方向からの薙ぎ払い。ハルドは機体を水平にし、一枚目の翼との隙間に入るようにして回避する。
三枚目はまっすぐ伸びてくる翼の突き。これは水平状態のままスラスターを全開にして上方向へと回避した。四枚目はスラスターで上昇した先に待ち構えていたように、叩き付ける動きの翼。これは横方向に機体をローリングさせながら回避した。
五枚目は横方向にローリングしている際に進行方向から襲ってくる、薙ぎ払いの翼。ローリングの最中、スラスターが上方向を向いた瞬間に全開にし、下方向へ急加速し回避。
六枚目は下へ急加速したネックスを狙った薙ぎ払いの翼。ネックスは脚部のスラスターだけを全開にし、急制動をかけ、薙ぎ払いを回避することもなく、空振りさせる。
「ほんと、雑だな。戦い方が。相手が逃げたところを狙って攻撃する。だけどな、俺が回避手段を用意していない場所に逃げるかよ」
ハルドはもう詰みだと思った。
ブレイズガンダムがなんだというのだ。たいしたことなどない、性能がいくら高かろうが、馬鹿話で済まされるような技で容易く壊される機体ではないか。
EXSEEDがなんだというのだ。機体と感覚が一体になる?それによって機体を自在に扱える?だが、所詮は痛い痛いと叫ぶだけしかできないではないか。ただの人間を舐めすぎだ。そんなものなど無くともMSなど自在に扱える。
“ギフト”がなんだというのだ。馬鹿らしい。超技術だろうが、実際にはそんな技術があっても全く相手にならないではないか。これなら普通の人間の作った物の方がよっぽど役に立つし、恐ろしいだろう。
65ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/22(日) 17:59:16.97 ID:OII0KXqo0
「虚栄と虚飾にまみれすぎだよ。お前もお前の機体も、何も真実がねぇ。空想の世界で吼えるだけで、現実を必死に生きてないんだ」
ただの人間を舐めるな、とハルドは思っていた。そしてただの人間がひたすらに鍛え上げ磨き上げ続けた力を舐めるなとも。安易な物に頼らず、本物の自分の力だけで勝ち取って来たものを持つ人間の恐ろしさを。ハルドはセインに叩き込んでやろうかと思っていた。
ハルドはセインに言ったが、今のセインには意味は分からないだろうし、これから先ずっと分からないかもしれないとも思った。少なくとも今のままではセインは気づかないだろうとハルドは思うのだった。
ネックスは先ほどのサブミッション・ホールドに使ったために銃身が曲がったショットガンを放り捨てる。
するとちょうどいいタイミングで、アッシュのキャリヴァーが補給を渡しに来る。補給は実体弾のライフルとナイフだった。実体剣は用意に時間がかかるのでそれで我慢するようにとのことだった。まぁいいとハルドは思った。
まぁ、軽くやろうとハルドは思った。軽くやって仕留められる相手だ。そう思った直後にブレイズガンダムが素手で突っ込んでくる。ハルドのネックスは突っ込んで来たブレイズガンダムのコックピット辺りにライフルを撃ちこんだ。
バリアがあっても、コックピットの中はさぞ揺れたのだろうとハルドは思った。何故ならブレイズガンダムの動きが止まったからだ。その瞬間にネックスはブレイズガンダムに飛びかかりしがみつく。
そしてしがみつきながら、ネックスはナイフを胴と肩の関節部に差し込み、力を込め続ける。すると、バリアが弾けては消えるという状態が連続した。その間にライフルを関節部に差し込み、ネックスはひたすらに関節部にライフルを連射した。
セインの痛い痛いという声が聞こえたが、それがある種のシグナルだと思い、ひたすらにナイフを関節部に突き立て続けたまま、ライフルを連射した。すると、突然セインが悲鳴をあげたので、ハルドは右肩もやったという確信を得た。
そして試しにナイフを思い切り突き刺した。ナイフの刃は思ったよりも簡単に関節部のフレームに突き刺さった。セインはこれでいいかと思い、ナイフで関節部のフレームを滅多刺しにして右肩と胴の繋がりを斬り裂いた。
今回はセインの悲鳴が無かった。ハルドは仕方ないかと思った。人間で言えば、肩をナイフで滅多刺しにされて胴体から引きちぎられたのだ。人間なら普通ならショック死だ。しかし可哀想なことに機体と感覚同化したEXSEEDにショック死というものはない。
「殺してやる……殺してやるぞ……ハルドォ……」
聞こえてくる声は虫の息だった。しかし手足を潰して、頭を潰さなければEXSEED機というのは何が起きるか分からないのだ。ハルドは念には念を入れて最後に左足も潰すことにした。
「悪いな、戻ったらメシくらいは奢ってやるよ」
そう言うと、ハルドは残った左脚に狙いを定める。ブレイズガンダムの方はまともな攻撃手段として残っているのは、左脚で相手を蹴るくらいだった。
ハルドは案の定といった感じで、襲ってくるブレイズガンダムの左脚をネックスで受け止めると、わずかに前へと出て、左脚と股関部を繋ぐ、脚の根本の関節にナイフを突き刺した。
「一応、味方機だからな、どこに何を刺せば動かなくなるかは分かる」
ハルドはそう言いながら、ブレイズガンダムの股関節部分を見ると、ナイフがつっかえになり、動かすだけで異常な負担がかかっているように見えた。
66ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/22(日) 18:00:04.72 ID:OII0KXqo0
「ぎぃぃぃぃぃっ!」
セインは声にならない悲鳴をあげていた。ハルドは効いているなと思い。とりあえず様子を見た。その間も炎の翼が襲ってくるが、攻撃のパターンは単調で、避けるのも楽過ぎて欠伸が出そうになっていた。
バリアは弾けては消えている。つまりは継続的なダメージが入っているという証拠だ。ブレイズガンダムは機体を動かす度に股関節の左脚を繋ぐ部分に負担がかかっているのだ。
「もういいか」
ハルドはそう言うとネックスでブレイズガンダムの懐に飛び込み、左脚を右腕で抱え込むように持ち上げる。それだけで、ナイフが突き刺さっている関節部への負担が極端に増し、ブレイズガンダムの左脚の根本の関節フレームは呆気なく折れた。
ハルドはネックスにナイフを回収させると、次にビームサーベル抜き放ち、左脚を根元から斬りおとした。
「があぁぁぁぁぁ!」
セインの絶叫が聞こえる中、まぁこんなものかとハルドは思い、四肢を失ったブレイズガンダムを見る。あとは鬱陶しい翼かと思い、ハルドはネックスを操り、ブレイズガンダムに向かう。
ブレイズガンダムは、ネックスを近寄らせないように翼を振り回すが、ハルドのネックスは苦も無く回避し、ブレイズガンダムに近づく。するとブレイズガンダムは翼にくるまり、防御姿勢を取ったのだった。
「なんだ?俺が怖いか?」
ハルドはそう言うと、ネックスでブレイズガンダムを飛び越え背後に回り込む。狙いは炎の翼なので、別に本体が防御を固めていてもどうでも良かった。
「へー」
特別関心があるわけでもないが、ハルドは翼の発生源を見て呟いた。翼の発生源は機体の中に浮かぶ炎のような球体だ。真空中で炎が燃えるわけはないので、炎とは違う物質、これが“ギフト”という物なのだろうとハルドは思った。
“ギフト”自体を刺してみてもいいと思ったが、何が起こるか分からないので止めておき、翼を引き千切ることを優先しようと思い、ハルドは翼にナイフを突き刺した。
ナイフを水平にして刺す。ブレイズガンダムの炎の翼は横方向に攻撃した方が裂きやすいと分かっているので、翼に対して縦にならないように水平の向きにして刺したのだった。
ブレイズガンダムは攻撃のために翼を六枚にしていた、そのせいで翼一枚の密度は薄くなっていたのか、思った以上にナイフは簡単に通った。ハルドは試しにその状態から、ナイフを90度ほど回してみた。するとナイフによって空けられた穴は簡単に広がった。
「わりと楽な作業だな」
ハルドはそう言うと、ネックスが手に持ったナイフを抜き、同じ翼の別の場所。と言っても、先ほど刺した場所のすぐ上に突き刺し、90度回す。すると傷口が繋がり、翼にそれなりの大きさの穴が空いた。
ハルドはそれをくり返し、翼に空けた穴を全てつなげると、翼の一枚はアッサリと千切れ落ちた。
セインの悲鳴が聞こえるがハルドは単純作業のように淡々と、一枚目の翼にやったのと同じことをくり返し、二枚目の翼も千切り落とした。
「父さん、母さん、助けてよ……」
聞こえてくるセインの声は強気な物ではなくなっていた。完全に泣き言である。翼にくるまっている様子も、泣いている子どもが毛布にくるまっているのと同じようにも見えるが、ハルドは、躊躇いもなく淡々と作業をくり返し、翼を三枚目、四枚目と落としていく。
「別にさぁ、お前のことをイジメたいわけじゃないんだぜ」
ハルドはそう言いながら、五枚目の翼を落とす作業に移った。
「ぶっちゃけ、お前のことは好きじゃないけどよ。それとイジメたいって感情は別なわけで、お前が迷惑を起こしそうだから、こうやって俺が痛めつけてるわけだ」
そう言うと、五枚目の翼を落とし終わり、六枚目に移る。
67ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/22(日) 18:11:18.38 ID:OII0KXqo0
「お前がもっとしっかりしてりゃ、こんな面倒をせずとも済んだわけで、結局の所、お前の力不足が原因なわけだ」
ハルドは六枚目の翼を落とし終わると、ウンザリした調子で言う。
「まぁ要するに、お前が弱いってことだよ」
弱い、その言葉はセインの折れた心に再び火を付けた。
「弱くない!僕は弱くない!僕は最強なんだ!」
ハルドは、文字通り手も足も出なくなったブレイズガンダムの前にネックスを移動させると。躊躇なく、ブレイズガンダムの頭部と胴を繋ぐ首の部分にナイフを突き立てた。
「あ、そう」
ハルドは、それだけ言うと、ナイフを首の部分に突き立て続けたまま、頭部に実体弾のライフルを連射し続ける。
ブレイズガンダムの角が折れ、メインカメラが破損し、頭部がいびつな形に変形していく。もう少しかとハルドは思う。何らかの方法で機体の強度を以上に高めているが、打撃の衝撃までは消しきれないために、頭部はダメージを受け続けている。
「まぁ、一回死ぬ体験をするんだな。考え方も変わるだろ」
そう言いながら、ハルドはライフルを連射し続ける。頭部は衝撃で変形し更にいびつな形となっていた。それでも、まだセインの悲鳴が聞こえるので、機体を殺し切れていないのだ。
ハルドはセインの悲鳴が聞こえなくなるまで、ひたすらにライフルを連射した。すると、悲鳴からうめき声に変わってきたのがわかった。もう少しかと思い、ハルドはライフルを連射する。
そして、ついに何も聞こえなくなり。機体がぐったりとしたように動かなくなる。
「死んだかな?」
ハルドはそう言いながら、首に突き立て続け、バリアを無効化していたナイフを首から離し、ナイフをブレイズガンダムの頭部に突き立てようとした。するとバリアも何も無く。ブレイズガンダムの頭部にナイフが突き刺さる。
「死んだか」
そう言って、最後にハルドはライフルを撃ち、ブレイズガンダムの頭を吹き飛ばしたのだった。
「面倒だったな」
ハルドはそう言うと、一息をついた。そして、それは紛れもなく油断だった。
「はい、ありがとさん」
突然、ロウマの声が聞こえた。それと同時に、水銀の色をした金属質の紐のような物体がブレイズガンダムをくるみ、引っ張っていく。
待て。ハルドがそう言うヒマもないほどの早業だった。ブレイズガンダムは紐に包まれ連れ去られていく、その先を見ると、ロウマ・アンドーの乗るマリスルージュが背中から、金属質の紐を出していたのだった。
「漁夫の利って奴。セイン君とブレイズガンダムはもらっていくよ」
あの野郎、最初からこれが狙いだったかと、ハルドは憤り、ネックスをマリスルージュへと突進させる。しかし、マリスルージュは背中から、水銀の質感を持った液状の紐を伸ばすと、その先端が槍のような鋭さに代わり、向かってくるブレイズガンダムに向けて飛ばす。
想像以上に自由自在、そして素早い動きを見せる水銀の槍にネックスは回避に専念するほか無かった。
「ヘルメスの水銀球。俺のマリスルージュに搭載されてる“ギフト”だね。水銀みたいだけど、人間の意思に反応して自由に形状を変化させる液体金属で、固体と液体どちらにも一瞬で変化する」
そうロウマが言うと水銀の槍は、先端を無数に分割させ、先端に鋭利な針を持った無数の触手へと変化させる。
「まぁ、ハルド君はそれと遊んでてよ。俺はセイン君を連れていくから。ちなみに触手の針は単分子くらいの細さで硬いから、問答無用でMSの装甲なんか貫くから用心してね」
「待ちやがれ!」
ハルドがそう叫んでも、ロウマのマリスルージュは、背中から水銀を伸ばしながら、立ち去って行く。胴体だけのブレイズガンダムは既にロウマの手元だ。
ハルドは邪魔だ、とビームサーベルを抜き放ち、水銀の触手を斬りおとすが、いかんせん職種の数が多すぎた。触手は檻のようになりハルドの行く手を遮る。
その間にマリスルージュの姿は見えなくなっていた。ロウマの方も追って来られないと判断したのだろう。水銀の触手が一斉にただの金属質の液状物質に戻って、去って行った。ハルドからすれば、完全にしてやられた形だ。
「ちくしょうがっ!」
ハルドは一機だけ取り残されたネックスのコックピットの中で毒づくことしかできなかった。
68ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/22(日) 18:13:55.79 ID:OII0KXqo0
38話終了です
69ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg :2015/02/22(日) 18:49:29.50 ID:0IZannS20
投下開始

「やったか?」
「・・・!」
ハンス以下周囲に展開する連合兵達は、憎むべき、宇宙より降り立った機械人形が落下した大穴を凝視した。

内部で高性能爆薬が炸裂したそこは、黒煙が立ち上り、まるで地獄へと通じる穴の様に見えていた。

漸く最後のジンを撃破したと連合兵の一人が思ったその時、
穴の縁に白煙を上げる機械の腕が現れた。

バルクのジンは地球連合側の二段構えの罠を受けてなお生き延びていた。
だが、無傷ではなく戦闘能力の過半を喪失していた。

中世の騎士のヘルメットの様な鶏冠状ブレードアンテナが付いた頭部は、
半分砕け、本来なら装甲によって保護されている紅玉の色をしたメインセンサーと破損した機械が剥き出しであった。
その姿は、墓場より這い出た幽鬼を思わせる不気味な姿であった。


「一人でも多く・・・」
バルクは、朦朧とする意識の中で、信号弾発射用のスイッチを探し求めた。
それはNJ環境下で救難用に使用されるものだった。

だが、彼は、自身が生還すること等もはや考えていなかった。
モニター上に不鮮明に映された敵部隊がそれを許さないこと等認識していたし、
何より自身の無能で部下を全て失った以上帰ることは出来なかった。

信号弾を発射したのも別の部隊に警戒を促す為である。

半壊したジンは上空に向けて信号弾を打ち上げると、這いずる様に目の前の敵へ接近しようとした。
大きく損壊した腕が振り回され、地面を構成するコンクリートが砕け散った。

「まだ生きていたのかよ!?」
ゴライアスを着用した連合兵の一人が恐怖と驚きの混ざった口調で叫んだ。
だが、ハンスは気にも留めず、指示を出した。


「止めだ!」次の瞬間、ジンのはるか前方の廃墟が爆発した。
70ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg :2015/02/22(日) 18:53:02.10 ID:0IZannS20
空襲で崩壊したビルの基部に設置された大型対戦車ミサイルランチャーが火を噴いたのである。

元々拠点防衛用に開発されたこの装備は、有線による遠隔操作で操作されていた。
ハンスは市外のみならず、市内の廃墟にもモビルスーツ対策として
これらのランチャーを複数配置していた。

これは、これまでの戦闘で拠点内部に少数のモビルスーツが侵入した結果、
防衛線が内部から瓦解させられたケースがあったからである。

円筒内に充填された液体燃料の炎と白煙を引いてミサイルは、進路上にあるバルクのジンに突撃した。

万全な状態なら回避も撃墜も容易である。
だが、今のジンは、両腕を損壊し、全ての武装を喪失しており、
パイロット自身、負傷している状態で、そのどちらもが不可能な状態であった。

バルクの網膜に最後に映ったものは、オレンジ色の炎の輪を後ろに抱いた鈍色の槍だった。

「野蛮なナチュラルが・・」
頭から血を流しながら、バルクは自嘲気味に言った。
その鋭い槍の切っ先は彼のいるコックピットを守る破損した胸部装甲に突き刺さった。

直後信管が作動し、爆発と炎がジンの剥き出しの内部機関を襲った。
少し遅れて搭載されていた推進剤と弾薬が誘爆し、上半身が爆散した。

残った下半身が黒煙を吹き上げながら後方の廃墟に倒れ込んだ。


都市に侵入したザフト軍偵察小隊は、文字通り一人残らず全滅したのであった。
71ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg :2015/02/22(日) 18:55:44.05 ID:0IZannS20
「やったぜ!」
パドリオ軍曹は、ガン・ビートルの車内で両手を挙げて叫んだ。

ゴライアス3機がハンスの着用するゴライアスに接近する。
「MS3機の割に早く片付きましたね」

「油断するな、機甲兵に被害はないが、歩兵には無視できない被害が出ている。
もし部下がちゃんと従っていたら、あの世送りになっていたのはこっちかもしれん」
ハンスは、未だに燻るジンの下半身のみの残骸を眺めていた。

「それに、これはまだ前哨戦に過ぎん、もうじきザフトの奴らが本気で来る。」

「・・・・!」
その時、通信が入った。

「第7小隊より連絡、侵入した無人偵察機1機を撃墜、ザフト側航空部隊のものと思われます!」
まるで示し合わせたかの如く市内外周に展開していた偵察の歩兵部隊より報告が入った。

彼らは、林立する建築物の間を飛ぶドローンを監視塔替わりに
使用していたホテルの屋上から銃撃を浴びせることで撃墜に成功していた。

「定期便共か・・・」
ハンスは呟いた。

定期便・・・それは、地上攻撃に現れるザフト軍飛行部隊の隠語であった。

ディン、攻撃ヘリコプター 下駄履きのジンで構成されるそれらは、
友軍戦闘機の傘のない彼らにとって死神にも等しい存在であった。


「郊外に展開している第1特別防空隊に連絡、回廊に敵が接近したらクラッカーの山で盛大に歓迎してやれと伝えろ!
市内の部隊は敵が散開行動をとった場合に備えて、防空陣形で待機!急げ」



廃墟の都市に潜む地球連合軍部隊が、罠を張る中へとザフト軍飛行部隊は接近しつつあった。


彼らは、先行したバルク小隊が壊滅したことをまだ知らない・・・・・
72ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg :2015/02/22(日) 18:57:40.09 ID:0IZannS20
今日は此処までです

>>22
今週は生き延びましたが、次はヤバそうですね。
73ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/24(火) 19:32:57.14 ID:yOBo1gvq0
投下します
機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第39話

セインはずっと夢を見ていた。
夢の中で、セインはハルドと戦っており、完膚なきまで叩き潰された。夢の中なのにとセインは思う。夢の中でくらい自分が勝ってもいいじゃないかと。だが、何となくスッキリはした。負けたのにだ。
不思議だと思いながらも、セインは、目を覚ました。目を開けた先にあったのは見たことのない天井だった。どこだろうかと考えようにもイマイチ頭が働かなかった。
「おや、お目覚めかい?」
起きた瞬間、忘れることの出来ない声がして、セインは声の方を見た。そこには両親の仇であるロウマ・アンドーがいた。
「お前はっ!?」
セインは体を動かそうとしたが、体がついていかず、ベッドから落ちた。
「脳のバージョンアップに体がついていってないみたいだね。まぁ自然に治るよ」
そう言うと、ロウマはベッドから落ちたセインを、やけに手慣れた動きでベッドに戻し、セインの上に布団をかける。
「起きたなら、良いね。健康そうだし。実験的には問題なし。まぁしばらくはマトモに動けないだろうけど、我慢しておとなしくしてなさいな」
そう言うとロウマは立ち去って行った。セインは待てと言いたかったが、急激な疲労と眠気が体を襲い、耐えきれず意識を失った。

次にセインが目を覚ました時、部屋には煙草の匂いが充満していた。何事かと思い、体を起こそうとするが、体が言うことを聞かず。起き上がれなかった。
仕方なく、セインはベッドに横たわりながら、首だけ動かし部屋の中を見回すと。煙草を吸っている褐色の男と赤毛の男が携帯のゲーム機で遊んでいた。すると煙草を吸っている方の男が気づいたのか、セインの方を見て言う。
「すまんな、禁煙と書いてなかったもんでな」
それでも煙草を吸うのはやめて欲しいと思いながら、セインは急に襲ってきた眠気に抗えず、眠りについた。

その次にセインが目を覚ました時には、女性が二人いた。体はやはりマトモに動いてくれなかった。しかし、手を挙げることは出来た。
「あ、起きたみたいですよー」
妙に間延びした甘ったるい声が聞こえた。
「ふむ、体力が感じられなさそうな面構えだ。動けるようになったら鍛えてやるか」
なんとなく何を言っているかは分かるが、セインはイマイチ思考が追い付いていないような感覚を味わっていた。
「あ、クッキー焼いたんでー、お腹すいたら食べてくださいー」
その声が聞こえた瞬間に、セインは意識を失い眠りについた。

良く分からないが、知らない人間が多いぞ。と思いながらセインが目を覚ました時、部屋には男が三人いた。長髪の男が二人いるが汚らしい長髪の男が芸術がどうとかしゃべっていてうるさかったが、どうにも疲労感は抜けずにセインは眠りにつくことにした。

そして、その次にセインが目覚めた時、体の調子はいつも通りのような気がして、ベッドから起き上がった。うん、自分の身体だ。という感覚がしっかりとあった。
そうやって体が元に戻ってみると、自分は監禁されていることに気づいた。外へ出るドアは開かないように施錠されているのだ。
「あれ、どうなっているんだろうか?」
気づかない内に自分は拉致されているということかとセインは思った。すると、施錠されていたドアが開き、人間が現れた。
一人はロウマ・アンドー、もう一人は知らない老人だった。
「ふむ、コード:ブレイズを四回まで成功させ、なおかつ元気。それにブレイズのプロジェクトを第二段階にまでしたわりには普通の少年じゃな?」
「まぁ、そんなもんですよ。普通に見える奴がヤバいって良くある話じゃないですか」
ロウマと老人が話をしている。セインは二人の言っている意味がわからなかったが、チャンスだと思った。脱出のチャンス。老人を突き飛ばすのは心が痛むが老人を突き飛ばして、そのまま脱出しようと、セインは短絡的に考え、動いた。その瞬間だった。
ロウマの拳がセインの腹にめり込み、セインを一撃で床に倒れさせる。
74ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/24(火) 19:34:24.31 ID:yOBo1gvq0
「俺の隙はつけないよ。生身だと、きみの知っているハルド君より俺の方が強いからね」
セインは床に転がりながら、ロウマの言葉を聞く。では生身で勝つのは絶望的だと思った。
「とりあえず、騒ぎはどうでもいいんじゃが、この小僧の脳味噌の構造を調べたい」
老人は言う。どうやらマトモな類の人間ではない。そうセインは理解した。
「じゃ、おとなしくさせてから連れてきますか」
そう言うとロウマは肩を回しながら、セインの前に立った。
「ほら、親の仇だぞ。頑張れ、頑張れ」
そう言われ、セインは頭が沸騰しそうになりながら、立ち上がり、構えを取る。
「構えは一人前だね」
ロウマがそう言った瞬間、セインは見えない打撃を顎と腹にくらい、悶絶して倒れ伏した。
「殴り合いは向いてないね、セイン君は」
そう言うと、ロウマはぐったりとしたセインを抱え部屋から運び出した。
「うはははは、そうかこうなるのか、こういう形でもEXSEEDになるのか!」
ぐったりしたセインがかろうじて聞いたのは老人の歓喜の声だった。
「ワシ、間違えとった!けど、嬉しい!そうか、こういう攻撃的なタイプへのEXSEED化もあるのか!」
セインは自分が実験動物の扱いをされているのがわかった。なので機会を伺い逃げ出そうとするが、その度にロウマがセインに打撃を加え、おとなしくさせる。
「うひひ、セイン君、君みたいなEXSEEDを攻性型EXSEEDと名付けよう。戦闘に特化したタイプのEXSEED。ワシの予想ではこれから100年の間に大量に現れるぞぉ!戦闘のストレスが引き金となってEXSEED化する人間じゃあ!」
セインは老人が何をそんなに喜んでいるのかわからなかった。セインはとにかく、この訳の分からない場所を出たかった。しかし、監視の目がある以上、そうもいかないと現実を思い知らされていた。
セインは結局、何もできずただ実験動物のような扱いを受けただけで、部屋に戻された。セインは疲れたと思い。すぐに眠りについた。

目を覚ました時、セインは煙草の匂いが鼻につくのを感じた。
「悪いな。禁煙と書いてなかったもんでな」
ハルドはそう言った、男を見る。以前に見た褐色の肌の男だった。
「メシを持ってきた食え」
そう言われると、セインは空腹を感じた。褐色の肌の男は食事のトレーをセインの前に置く。
「しばらく点滴生活だったからな。口を通すメシはしばらくぶりだろう。気をつけて食え」
褐色の肌の男はそう言うと、部屋の椅子に座り。煙草を吸う。セインはそれはやめて欲しかったのでハッキリ言った。
「煙草はやめてくれませんか?」
そう言うと褐色の肌の男は、何も言わずに煙草を携帯灰皿に突っ込んだ。
「戦い方と同じ、真っ直ぐな物言いだな。セイン・リベルター」
なぜ、自分の名前をとセインは思った。すると褐色の肌の男は穏やかに微笑む。
「俺はドロテス・エコーだ。わかるだろ?」
セインは、ハッとなった。褐色のザイランのパイロット。自分が何回か戦った相手だと気づいたのだった。
「あなたが、ドロテス……」
セインは敵の機体のパイロットを初めて見た。敵も人間であるから、同じ姿をしているわけだが、セインはそれを今初めて、自分の目で理解したのだった。
「さっさと食え。冷めるぞ」
ドロテスは食事のことを言った。確かにセインは空腹であったが、これに手を付けて良いものかとも思った。なぜなら敵の物だからだ。
「毒は入ってない。もしくは敵の施しを受けるのが嫌か?」
ドロテスは、そう言うとセインの頭に手を置く。セインは不思議と手を振り払う気にはならなかった。
「敵を倒したかったら。まずは生きることを優先しろ。恥は捨てでもな。生きなきゃ反撃など出来んぞ。それに空腹の奴は弱いから楽に倒せるぞ」
ドロテスはそれだけ言って、セインの頭から手を離すと、再び椅子に戻った。セインはドロテスの言葉にも一理あると思い。食事に手を付けたのだった。
セインは聞いてみたかった。どうしてあなたのような人がロウマ・アンドーのようなおとこの下にいるのかと。
75ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/24(火) 19:35:41.79 ID:yOBo1gvq0
ドロテスはセインの表情から大体聞きたいことを察して答えたのだった。
「行くところが無いからさ。俺は中東で民間人の大量虐殺の疑いをかけられていた。そんな奴を引き取ってくれるのはロウマのような奴ぐらいだ。それにな、奴の下なら安全なんだよ。
奴は少なくとも誰よりも優れている。奴の下にいて言うことを聞いてる限り、俺の戦闘能力なら絶対に捨てられず、良い思いが出来る」
そんなくだらない理由なのかとセインは思った。しかし、ドロテスは微笑しながら言う。
「お前が敵のメシを食ったように、俺も器用に生きたくなったんだ。使い捨てにされず勝ち馬に乗れる生き方。それがしたかったというのが本音だよ」
そう言うと、ドロテスは空になった食事のトレーを手に取り、去って行く。セインはその背が何か寂しさを抱えているようで声をかけられなかった。

次の食事の時間にやって来たのは赤毛の男だった。
「俺、ギルベール。分かるよなセイン?」
食事のトレーを渡す時にそう言った。赤いザイランのパイロットだったはずとセインは思い出す。
セインは食事をしながらギルベールを見る。態度はおかしいが制服は異常にきちんと着ていた。
「俺みたいな奴が服をちゃんと来てるのがおかしいって?顔に書いてあるぜ、セイン。表情に出し過ぎだって」
ギルベールは笑いながら言う。
「俺は憲兵上がりだからな。分かる憲兵?」
そう尋ねられて、セインは首を横に振った。
「ありゃ、わかんね?単純に言うと、軍人相手の警察みたいなものかな」
ギルベールはニコニコと笑いながら話していた。
「まぁ、俺はあんまり綺麗な憲兵じゃなくてな。怪しいけど立件できないような奴を戦場で事故に見せかけて殺すような仕事だったわけだ」
セインはその話を聞かされて何とも言えない表情になる。
「俺が勝手に話してるわけだから、戦場で会ったら問答無用でぶっ殺してくれてかまわねえぜ。俺もドロテスも身の上を語ったけどよ。
それはつまり、誰にも知られずに死んでいくのが寂しいからなんだぜ。お前だけにでも俺らを覚えてて欲しいって、しょぼい願いだ。だから頼むぜ。死ぬなよ」
それだけ言って、ギルベールは空になった食事のトレーを持って帰って行った。
一人部屋に残されたセインは、そんな話を聞かされて自分にどうしろと言うのだと思った。どこだか分からない施設の中に捕まり、監禁されているような自分にだ。

セインはボンヤリとしていた。部屋のベッドに横たわって天井を見上げながら。すると、突然、部屋の扉が開いた。
「おや、ヒマそうだね。セイン君?」
扉を開けて現れたのはロウマ・アンドーだった。ロウマは勝手に部屋に入ると、勝手に部屋に備え付けてあった。椅子に座った。
「何しに来た?」
セインは敵意を剥きだしにして問う。すると、ロウマはヘラヘラとした笑みを浮かべながら言うのだった。
「何をしに来たってわけでもないけど、ちょっとお話し。ドロテス君やギルベール君とは仲良く話しをしていたみたいだから、俺とも仲良くお話ししようよ」
ふざけたことをと思い、セインはロウマを睨みつけた。すると、ロウマは肩を竦めて言う。
「そんなに怖い顔をしないでくれよ。俺にも悲しい過去があるんだ」
そう言うと、ロウマは真面目な表情になり、過去を語り始めるのだった。
「俺は、以前は軍の実験体でね。少し脳を弄られているんだ。そのせいかは分からないが、自分のやっていることが分からなくなることがあるんだ。そういう時は、大抵とんでもないことをしている。セイン君の両親を殺したのも、その時だったのかもしれない」
ロウマは話しているうちに悲痛な表情になり、その表情からはセインに対して申し訳ないという気持ちが溢れているように見えた。
セインはロウマのその話しを聞くと、この男にも少しは同情する余地があるのかもしれないと思った。しかし、セインはハッキリと言う。
76ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/24(火) 19:36:39.56 ID:yOBo1gvq0
「アンタの境遇には同情するが、やっぱり僕はアンタを許すことが出来ない」
そうセインが言った直後だった、ロウマは平然とした顔に戻っていた。
「あ、そう。別にいいよ。今の話しは嘘だから」
ロウマは、そう言うとケロッとした顔で、ふざけたように舌を出して見せる。
「ふざけるな、僕を騙したのか!」
セインが怒鳴るとロウマは最高に楽しそうに笑い。そして言うのだった。
「いつだって悪いのは騙す奴。騙される奴は悪いんじゃなくて、馬鹿なだけ。馬鹿であるのが悪いことなら仕方ないけどね」
ロウマはセインの怒りがあまりに露骨で滑稽に見えた。だから可笑しくて笑ったのだ。
笑われたセインはというと、ベッドの上に座った姿勢のまま、怒りに震えていた。しかし殴りかかることは控えた。セインはロウマと自分に相当の実力差があることをハッキリ理解していたからだ。
「アンタはそうやって、いつも誰かを馬鹿にして楽しいのかよ……?」
セインは怒りに震えながら、ロウマに尋ねる。ロウマは尋ねられると当然といった感じを露わにしながら、答える。
「楽しいよ。馬鹿を馬鹿にする。当然のことをしているわけだから、すごいスッキリするね」
「あんたが言う馬鹿って何なんだよ?」
「そりゃ、俺の基準で決めることだから、ハッキリはしてないねぇ。でも馬鹿はすぐに馬鹿だと分かるよ」
ロウマはヘラヘラと笑いながらセインの質問に答えた。セインはやはりこの男は理解できないと思った。セインが困惑した表情を浮かべているとロウマは少し考えながら、話し始めた。
「ふむ。少し真面目に話してやってもいいかな?少しは賢くなってきた、ご褒美ということでね」
セインはどうせ何か嘘をついて自分を騙すつもりだろうと、真剣に聞く気はなかったが、ロウマは淡々と話しはじめるのだった。
「俺は意外かもしれないけど、地球生まれでね。生まれた家は貧乏だった。まぁ貧乏と言っても食うに困るほど極貧ではなかったけど、周囲からは貧乏だってハッキリと分かる家の生まれだった。
家族は父と母、そして祖母。ろくでもない家族だったよ。
酒浸りで仕事の出来ない能無しの癖に、家族にだけは威張って暴力を振るう父親。
親父には何も言い返せない癖に、子供の俺に対してぐちゃぐちゃと常識と一般道徳レベルの説教を垂れるしかしない、無教養な母親。祖母は寝たきりで介護が必要。頭もボケてて鬱陶しいことこの上なかった。
そんな家族の中でも俺は優秀だった。自慢じゃないけど学校じゃ何をやらせても俺は一番だったんだぜ?」
ロウマの今の能力などを考えれば子どもの頃は、さぞ優秀だったろうとセインは思った。
「だけどな、誰も俺を認めてくれなかった。家が貧乏、育ちが悪い、親が無教養、家柄が悪いとかでな。そんなくだらない理由で、みんな俺を馬鹿にしやがった。
ふざけてると思わないか?俺は誰よりも優秀だったのに、みんな俺を見下していた。学校で何か事件があれば、全部俺のせいにされた。理由は分かるか?俺の家族やら何やらがクソだってだけでだ。
俺はいつだって下を向いて誰かに頭を下げてなきゃいけなかった、学校ではな。俺自身が悪いわけじゃない。俺の生まれた家が悪かったって理由でだ。俺はな自分が誰よりも優秀だってことだけを心の拠り所に生きてきたよ。
……そういえば、よくイジメの標的にもされたね。子どもの頃はひょろくてガリガリだったし、家が貧乏で格好も汚らしかったから。だけど、俺が黙ってやられるわけないから、当然、反撃をする。すると、いじめっ子は泣いて親に泣きつくわけだ。
その度に俺は母親に叱られ、いじめっ子の家へ頭を下げに行かされた。相手が悪いにも関わらず、お袋は俺の話しなんか一言も聞いてくれなかった。俺には味方なんて一人もいなかったよ。家族ですら味方じゃなかった。
俺に言わせれば、家族なんて遺伝子が同じだけで、自由を縛る鎖だ。そんなものを大切にする人間も俺はクソだと思うね」
77ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/24(火) 19:37:24.24 ID:yOBo1gvq0
セインはロウマの話しを聞きながら、ふと思った。ロウマは真実を語っているのではないかと。
「……まぁ、ぐちゃぐちゃ言ってもしょうがないか。少し面白い話にしよう。そうだな、俺とセイン君が似ているってことを話そうか。実はね、俺も両親が殺されているんだよ」
セインはロウマの話しを何一つ信じる気にはならなかったが、その言葉には関心を惹かれた。
「そして、なんという偶然か。殺した相手も同じ。つまり、これはどういうことか」
ロウマが両手でセインを指さして尋ねる。セインはおそるおそる口にした。
「アンタが殺した……?」
そうセインが答えるとロウマは大きな拍手をした。
「大正解。その通り、俺の両親は俺が殺した。人生最初の殺しだったよ」
そう言うと、ロウマは朗らかに話し始めた。
「それは、ある日。と言っても俺が13歳になって少しの日の夜だったか。親父は相変わらず酔ってた。俺は無視して、勉強をしようとしたけど、酔った親父が俺の教科書を破って、こう言った。お前なんぞ高校に行かせる金はねぇぞってな。
それで俺はキレた。そして思わず親父を殴った。殴ったら当然反撃がくるけど、問題なかった。思いっきり、ぶん殴って思い知らせてやった。クソみたいな親父だったから、手加減をしようなんて気持ちはなく、ひたすら殴ったね。
俺は当時から筋肉量が増え過ぎないよう考えながらも鍛えてたし、酔っ払いで能無しの親父なんか相手にならなかった。俺は親父が、許してくれ、やめてくれ、が言えなくなるまで殴った。
そしたら、今度に現れたのはお袋だ。俺はお袋に親父を殴った理由を説明したけど、お袋はヒステリックにわめくだけで話にもならなかった。だから俺はお袋の顔面を何発も思い切り殴った。
そして気づいた。ここにいたんじゃ未来が無いとね。だから、意識の無い親父とお袋、そして寝たきりのボケ婆さんを家に置き去りにしたまま、家に火を付けた。簡単だった。すっごくな。
火は家を燃やして俺の家族を焼き殺してくれた。俺はこれですべてがリセットだと思った。不思議なことに死んだ家族に対して何かを思うということはなかったな。これがセイン君と俺の違いか」
セインは、もっと根本的に違うところがあると思ったが、上手く言葉にできず。ロウマの話しを聞き続けるしかなかった。
「親と家を消した俺は、行くあてもないから都会に出たよ。そこで窃盗や殺しをして何年間か生きた。ウリもしたけど、これはセイン君には分からないかな。まぁ言えるのは、女はクソだってことを学んだわけさ、俺は都会でね。
で、まぁ悪事をしながら何年かを生きた後、16歳になった俺は、宇宙へ上がるシャトルに密航して、頑張ってアレクサンダリアまで辿り着いたわけだ。そして身分を詐称して聖クライン騎士団の入団試験に合格して今に至るわけ。どうかな、俺の過去は」
尋ねられ、セインは答えた。
「アンタがろくでもない奴だってことは分かったよ」
そう言うとロウマは笑った。
「いいよ、率直な感想で」
ロウマはそれだけを言うと椅子から立ち上がった。どうやら部屋から去るつもりだとセインは思った。
「まぁ、俺のマジな話を聞けただけ良かったと思いなよ。まだ数人にしか話してないんだ」
そう言うと、ロウマは部屋から去ろうとしていた。しかし、セインは言いたいことがあったので、思わず声をかける。
「アンタはもしかして、昔、馬鹿にされていたから、それを見返すためだけに色んな人を苦しめているのか?」
セインは我ながら、馬鹿な質問だと思った。今までのロウマがやって来たことを考えれば、そんなちっぽけな目的のために動いていたとは思えないが、セインは、この疑問だけはどうしても頭から消えなかったのだ。だから聞いた。
すると、ロウマは振り返り、セインの目を見据えるとニッコリと笑いながら言った。
「そうだよ」
その一言だけを言って、ロウマは部屋から去って行った。
セインは唖然とするしかなかった。
セインの中ではロウマは悪の大ボス的な立ち位置だった。しかし、ロウマが行動する理由を聞かされた知った瞬間に、大ボスという認識は崩れ去った。そして、セインの中で、よりロウマという男は許せないという気持ちが強まったのだった。
78ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/24(火) 19:40:15.63 ID:yOBo1gvq0
ロウマに対する怒りが強まっても、結局セインは変わらず、部屋でボンヤリとしていることしかできなかった。脱出しようと思ったが、そう簡単に脱出する手段などなく、すぐに手詰まりとなった。
仕方ないので、トレーニングでもしようとしたら、銀髪の前髪パッツンの女性に注意された。
「それじゃ負荷が足りないだろう!負荷が」
トレーニングの仕方に問題があったようで、セインは叱られ、みっちりとトレーニングの基礎というもの叩き込まれ筋肉への負荷が限界に達した時点で解放された。
その後も銀髪前髪パッツンの女性が来るたび、厳しいトレーニングがセインに課せられた。善意で鍛えてくれているのだろうが、こうなってくると、ある意味ロウマよりタチが悪い存在だった。
そして段々と女性が来る回数が増えてきているような気がして、セインは部屋の中だというのに、体が動かなくなるまでのトレーニングを毎日のように強いられ、そして食事のメニューも筋肉に良いものに変えられ、プロテインを飲まされるようにもなった。
セインは死にはしないと思ったが、このままでは望んでもいないのにマッチョになってしまうと思い、早く脱出しなければという気持ちが強くなっていくのだった。

そうやってトレーニングの日々が続いたある日だった、ロウマが上機嫌で部屋を訪れてきた。セインは僅かながら、ほっとした。今日はトレーニングは無しかと思ったからだ。
「今日は面白いものを見せに来たんだよ」
ロウマはそう言って、セインを部屋から連れ出す。意外なことに拘束は無しだった。
「手錠も無いなんて、僕が逃げ出すとは思わないのか?」
セインが挑発するような口調で言うが、ロウマはどうでも良いといった表情で返す。
「どうでも良いよ。逃げたら殴ればいいだけだし、そもそも、この施設自体が檻のような物だから、逃げらんないわけだし、別にね」
ロウマはそう言うと口笛を吹きながら、飄々と歩いていく。セインはその後を結局、どうしようもないと悟り、その後ろをついていくしか出来なかった。
ロウマが案内する道は思ったよりも長かった。そして、その長い道のりの先に有ったのは、大量の作りかけのMSが並ぶ場所だった。
「プロメテウス機関のMS製造工場って奴。ここの機体は性能なら、どこの国のものよりも上。俺の新しい機体もここ製だよ」
ロウマは説明をしながら、工場の中を悠々と歩いていく。すると、MSの開発を行っている人間たちはロウマを見て、敬礼なり、会釈などをするのだった。それに対してロウマは手で、いいよいいよ、と僅かに照れる仕草を見せた。
セインは、ロウマはもっと横柄な人間かと思ったが、そうでもなさそうなように見えた。
「プロメテウス機関の人間だけが、俺の本当の仲間だからね。態度もどうしても甘くなっちゃうのよ」
ロウマはセインの考えてそうなことを察すると、そう言って、セインの案内を続ける。すると、セインは工場の中でも特徴ある区画へと通された。そこは大きな円筒状のフロアだった。
そこで、セインは一機の完成したMSの姿を見つけた。全く見たことのないシルエットの機体。そのはずなのに、何故か愛着を覚える、この気持ちは何だろうとセインは思った。
「見学はご自由にどうぞ」
ロウマがそう言うと、セインはMSのそばに駆け出し、その姿をじっくりと眺める。
頭部はV字のアンテナが重なる形で4本取りつけられ、頭部のセンサーは大型だった。腕部分に関しては肩アーマーは横に広がり、その中にスラスターが内蔵されていた。そして手を見ると掌にはビームの砲口のような物がついていた。
背中は大きな放出口を持つ大型のスラスターユニットが装着されており、セインは高い機動性を連想した。
セインは機体を見ながらあることに気づく、それは機体の胴体を見た瞬間だった。
79ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/24(火) 19:54:04.04 ID:yOBo1gvq0
「ブレイズガンダム……?」
セインの呟きを聞いたロウマは答えた。
「その通り、この機体はブレイズガンダムがベース。と言っても胴体だけね」
セインはその言葉を聞いた瞬間、ロウマに詰め寄った。
「よくも、僕のブレイズガンダムを勝手に!」
「おいおい、きみのもんじゃないだろうに。元はプロメテウス機関の物なんだから、好きに改造してもいいだろ?」
それはそうだが、とセインは思うが納得はできない。
「どうして改造を?」
「プロジェクト:ブレイズが第二段階に移行したせいで、素のブレイズガンダムじゃ“ギフト”の機能に耐えられなくなったのね。運よく、ハルド君にブレイズガンダムがぶっ壊されたし、ちょうどいいから改修って感じでこうなったわけ」
セインはなんだか納得のいかないものを感じた自分が愛機にしていた物を勝手に弄られるのは気持ちが悪かった。
「機体名はオーバーブレイズガンダム。まぁ何でもいいか」
ロウマのセインを見る目は明らかにどうでもいい物を見る目だった。
オーバーブレイズガンダム。名前は別に構わないと思ったが、セインは分からないことがあった。
「どうして敵の機体を直したりした?」
すると、ロウマはセインをわざとらしく憐れむように見た。
「だって、味方になるし」
何を言っているのかセインは分からなかったがロウマは続ける。
「これから、きみの頭をパッカリと開けて、脳味噌の状態を直に見て、その後で脳味噌を直に弄って、こっちの味方に洗脳するから」
セインは一瞬、訳が分からなかったが、すぐに状況を理解した。自分が危険な状況に置かれていることに。セインは慌てて逃げようとするが、セインの後ろ襟をロウマが素早くつかむ。
「ほら、逃げんなよ。最後の自由時間は堪能したろ。覚悟を決めて頭をパッカリされるんだね」
冗談じゃない、セインは必死でもがく。その時だった。施設が凄まじい振動に襲われたのは。
80ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/24(火) 19:54:31.48 ID:yOBo1gvq0
39話終了です
81ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/25(水) 18:42:46.14 ID:OMS0tumg0
投下します
機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第40話

セインがロウマに捕まってから、すぐにクランマイヤー王国では会議が開かれた。それはどうやってセインを救い出すかである。
「俺はセインがそこまで好きじゃねぇし、いなくても構わねぇけど、ロウマの野郎にしてやられたのがムカつくから、全力を出すぞ」
会議の開始の言葉はハルドのそれだった。クランマイヤー王国としてはほぼ国民同然に加え仲間である少年をさらわれたのが、許せないといことだった。
「では、作戦としては歩兵部隊を投入して、セイン君を捜索、救出ということでいいですか」
クリスが大まかな案を出すと、直後にハルドが否定の声を放つ。
「手ぬるいな。こっちは首都攻撃されてんだ。もっと派手に行こうぜ」
クリスが嫌な予感を感じているのを隠さない表情でハルドに尋ねる。
「MSでの単騎突撃で思い知らせる」
それは作戦じゃないとクリスは言いたかったが、ハルドは言葉を続ける。
「こっちは舐められてんだ。少しは相手に思い知らせてやらねぇとな。幸いこっちには最高の軍師と最高のメカニックがいる。そして、俺っていう最高のパイロットがいる。問題はねぇだろ」
最高の軍師と言われてもクリスは全く嬉しくなかったし、問題があると思った。
「セイン君がどこに捕まっているかも分からないでしょう」
「心配すんな、だいたい見当はついている」
ハルドは恐らくセインはプロメテウス機関の施設に捕えられていると考えていた。ブレイズガンダムも持って行ったということはブレイズガンダムに何らかの細工をするつもりだとも予想していた。そしてそれができそうな施設で怪しいのはというと。
「アレクサンダリアを強襲する」
ハルドはそう断言した。プロメテウス機関の大規模施設がある場所だ。狙ってみる価値はあるとハルドは考えたのだった。
「マジで?」
クリスはハルドの発言に耳を疑ったが、少し考え、これも効果的かもしれないと考え出した。
「作戦のことは良く分からないんですけど。どんな機体が欲しいのか言ってくれないと、こっちとしては対応しようがないです」
レビーが手を挙げて発言する。それはそうだ、機体はどうするのだとクリスは思った。
「とにかく、速度を重視してくれ、アレクサンダリアの防衛網を突破できる機体だ。そして火力もな。コロニーの外壁をぶち抜いて突入するからよ」
ハルドが答えるとレビーとマクバレルは顔を見合わせて頷いた。
「乗ったら死ぬかもしれない機体を用意できますよ」
レビーが真剣な表情でハルドに言うと、ハルドは笑いながら言った。
「上等だ」
クリスは訳も分からず進んでいく状況に困惑していたが、ハルドに声をかけられ、正気に戻った。
「機体が完成したら、最速でアレクサンダリアに到達するルートを出せ」
ハルドはクリスにそれだけ言って、解散!と場を仕切ったのだった。
部屋に残ったのは、ハルドとアッシュだけになった。
「少しは師匠として責任を感じてくれているのか?」
アッシュが尋ねるが、ハルドの表情はキョトンとしたものだった。
「いや、俺はロウマの野郎に思い知らせに行くだけだけど」
ハルドは素でそう答えた。アッシュはため息をつきたくなったが我慢した。
「セイン君を救えるのはきみだけだ。頼むぞ」
アッシュはそう言ってハルドの肩を叩いた。その直後から。クランマイヤー王国ではセイン救出の準備が整えられることとなった。
82ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/25(水) 18:43:25.76 ID:OMS0tumg0
メカニック陣は狂喜しながらネックスに無茶な改造を始めていた。というよりは元からつけたくてたまらなかったユニットをネックスにつけている様子だった。
「とりあえず死にますね」
レビーはハルドを呼ぶと単刀直入に言った。
「そうか、死ぬのか」
「ええ、単純にパイロットの身体にかかるGが半端じゃなくなるので」
「直線を最大加速の場合、甘く見積もって20G以上だな。最高速度での旋回時にかかるGは面倒なので計っていない」
レビーとマクバレルの技術者コンビは淡々と言ってのけた。改造後のネックスのスペックについての話しだった。
「俺、ペチャンコにならねぇ?」
ハルドが聞いてみたが、技術者コンビはコンビは首を横に振る。
「予想だが肋骨が全部折れるぐらいだ」
「内蔵が圧迫されて、血は間違いなく吐きますね」
ハルドは急にセインを助けに行きたくなくなってきた。すると、技術者コンビはノーマルスーツを見せてきた。
「これで何とかなります。というか、します」
レビーはそう言って、ハルドにノーマルスーツを着るように言った。ハルドは良く分からなかったが、とりあえずノーマルスーツを着て、レビーらの元に戻ってきた。すると、台車に何やら鎧らしき物を乗せたレビーとマクバレルが待機していた。
「じゃ、装着で」
ハルドは訳も分からず台車の上にあった鎧のパーツらしき物をノーマルスーツの上に装着した。ヘルメット以外の部分は完全に近代的な鎧姿となったハルドは色々とレビーらに聞きたかったがレビーらは無視して、ハルドにヘルメットを被るように言った。
ハルドは色々と疑問はあったがヘルメットを被った。するとレビーが更にヘルメットらしき物をハルドを渡してきた。
「ああ、これも被るのね」
そう言ってハルドは兜をヘルメットの上に被った。その状態では、まだヘルメットの透明部分は見えたままだったが。レビーが指示をした。
「脇のスイッチを押してください」
言われてハルドは兜のスイッチを押した。すると兜のバイザーが降りて、ノーマルスーツの元のヘルメットの透明部分も完全に覆われて隠れた。兜の下、ヘルメットの中のハルドはカメラ映像で外を見ていた。
「これどうなの?」
ハルドはレビーとマクバレルに聞いてみた。今のハルドの姿は人間というよりMSと言う方がしっくりくるような姿であり、兜はハルドの目のある部分だけ赤い光が一本のラインで走っていた。
「かっこいいですよ。悪役怪人みたいで」
「主人公のライバルキャラといった感じに私は思うな」
まぁ見た目はそれなりでいいが、性能の方はどうなのかと気になるところだったが、こればかりは実際に試してみないと分からないだろうとハルドは思った。
「簡単なパワーアシスト機能が内蔵されているから。ノーマルスーツの上に装着しても重量は感じんし、20G以上の負荷がかかった状態でも機体を操作できるはずだ」
“はず”か……とハルドは若干、不安に思ったが、まぁレビーとマクバレルの仕事なら信頼しても良いだろうと思うのだった。
「機体の方は元々、開発していたユニットがあるのでそれを更に過激に改良しています。急ピッチで進めているので、そこまで時間はかからないはずです」
レビーが機体の進捗状況について説明をした。状況からいって、心配する必要は無いようにハルドは思った。ただ、問題はその機体がどんなバケモノで、乗って自分が生きていられるのかだけが心配だった。
83ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/25(水) 18:44:19.77 ID:OMS0tumg0
機体の完成に関しては、心配はないと分かったので、ハルドは次にクリスの所に出向いた。クリスはハルドの来訪に怯えを露わにした。
「ビビんなよ、逆にむかつくんだけど」
ハルドはそう言いながら、クリスの部屋の椅子にどっしりと座る。
「進捗状況は?」
ハルドは横柄な態度でクリスに尋ねる。クリスは完全に立場が下の状態で、ハルドの質問に答えるのだった。
「アレクサンダリアまでのルートは出来てます。シルヴァーナで向かうと目立ちすぎるので、コナーズさんに輸送船を操縦してもらって、ある程度までアレクサンダリアに接近し、ハルドさんだけを切り離して、強襲をかけます。これが大まかなプランです」
ハルドは何も言わず頷いた。
「強襲後は全部ハルドさん任せで好きなようにやってもらって結構です。ただしセイン君の救出任務だということを忘れない範囲でお願いします」
作戦と言えるほどのものじゃねぇよなぁ、とハルドはつくづく思いながら、クリスには了解、これでいいとハルドは言うのだった。

そして、セイン救出作戦まで時間は進む。
「大将、そろそろ限界です。これ以上進むと公国軍の検問にひっかかります」
コナーズは輸送船を操縦しながら、ハルドに通信を繋ぐ。ハルドの機体は徹底的な改修の結果、輸送艦内に搭載することは出来なくなっており、輸送艦の外にカバーで隠されながら吊られて運ばれていた。
「了解だ。コナーズは予定地点で待ってろ。セインを助けて帰ってくる」
コナーズは、それよりも舐めたマネをされた仕返しに行くんだろうなと思っていたが、そのついででもセインを救い出せれば結果オーライだとも思っていた。
「じゃ、切り離すんで、御武運を」
そう言うとコナーズは輸送船と、ハルドの乗る機体の接続を解いた。その瞬間、カバーによって隠されていた異様な機体の姿が露わになった。
それはブースターのバケモノと言って良いような代物だった。
機体のベース自体はネックスだったが、そのバックパックには機体の全長より巨大なブースターが接続され、脚部も、巨大なブースターと追加装甲が一体になった物が装着されていた。そして肩にも追加装甲に巨大なブースターユニットが接続されている。
そして武装も尋常ではなかった両脚部と両肩部には16連装ミサイルポッド一基ずつ接続され、更にミサイルポッドには広角稼働が可能な高出力ビームキャノンが装着されている。
武装はそれだけではなく、背中のバックパックにはブースターと共に超高出力対艦プラズマキャノンが装備され、両腕は、銃身にビームエッジが仕込まれた近接戦闘も可能なロングライフルが手に持つ形ではなく、機体に直接接続する形で装備されている。
火力で言えば、半端な巡洋艦など相手にならず、MSとしては怪物クラスの火力を持った機体にネックスは改造されていた。
ハルドは例のノーマルスーツの上に装着するアーマーを着用していた。機体の全体像を初めて見た時、嫌な予感がしたが、その嫌な予感はまだ消えなかった。
だが我慢だ、そう思って頭部のアーマーの脇にあるスイッチを押してバイザーを下げる。すると視界がカメラ画像に変わる。
「ハルド・グレン。任務に出る」
そう言って、とりあえず軽く様子見のつもりでスラスターを吹かしてみた。その瞬間、ハルドはコックピットのシートに体を引っ張られた。いや、前からの力によって。シートへと押しつぶされているのだと気づいた。
84ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/25(水) 18:47:03.29 ID:OMS0tumg0
「死ぬ、間違いなく、死ぬ!」
ハルドは思わず叫んだが、それがハルドが喋れる限界だった。機体の速度は上がり続け、ハルドは呼吸が出来ないほど、Gに押しつぶされていた。
『パイロットの呼吸機能に問題発生、対処します』
アーマーからそんな音が聞こえ、ハルドは胸に痛みを感じ、口と鼻が無理矢理塞がれるのを感じた。おそらくアーマーが肺に穴を開けて直接、空気を送っているのだろう。呼吸の心配はなくなったが、レビーとマクバレルが事前に説明をしなかったのは許せなかった。
帰ったら、絶対に何か仕返しをする。そう思い、ハルドは着ているアーマーのパワーアシスト機能を最大限に使用し、機体を操縦し、アレクサンダリアに向かうのだった。

その日アレクサンダリアの周囲を警戒していたクライン公国軍のMS隊と管制官は奇妙な物を目撃することになった。それは、ミサイル以上の速度でアレクサンダリアに向かってくるMSサイズの物体だった。
管制官は調査を指示し、MS隊にその物体が何かを調査させようとした、だが、近づいた瞬間MS部隊は消滅した。管制官はただならぬ事態と考え、その場の最高司令官に指示を仰いだ。その場の指揮官は冷静で的確だった。
戦艦とMSを発進させ、防備を固めさせたのだ。常識的な相手だったら、問題はない判断だったが、今回は違った。そのためその判断は結果的にミスとなったのだった。

ハルドはどこまでも速度を上げる機体の中で、意識が混濁しかけていた。その瞬間、アーマーが『興奮剤を投与』します。といって、ハルドの腕にノーマルスーツすら貫く太さの注射針を突き刺し薬剤を投与する。
その瞬間にハルドの意識がハッキリとして、目の前にMSが迫ってくるのが見えた。数は四基。ハルドは高速で敵機をロックし。両脚と両肩のミサイルポッドに装着されている広角稼働ビームキャノンを四門同時に斉射した。
ビームキャノンの威力はハルドの想像を超えており、四機のMSは一瞬で消し飛んだ。
やりすぎだろ、アイツラとレビーとマクバレルの顔を思い出すハルドだった。そんなことを考えている間に目の前では、戦艦とMSの大部隊が展開され始めていた。
多分、このネックスがアレクサンダリアに到着するまでに防衛準備は整うだろうとハルドは思った。ハルドは仕方ないと思って機体の速度を更に上げた、敵部隊はまだ展開が終わっていない叩くのは今だとハルドは思った。
敵部隊との距離が詰まるのは一瞬だった、その間、ハルドは何度も意識が飛びそうになったが、大量の興奮剤や良く分からない薬を肺など直接注入されることで意識を保っていた。
敵部隊は……とハルドは、吹き飛びそうな意識の中でミサイルを敵部隊のMS隊をメインにロックし、16連装ミサイルポッド×4の合計64発のミサイルを敵MSの集団に撃ち込み、そして背中の対艦プラズマキャノンを戦艦に向けて、発射した。
ハルドは装着しているアーマーのカメラを通して、MS隊を中心に大爆発が起きるのを見届け、そして戦艦がプラズマキャノンによって轟沈するのも確認した。だが、敵はまだいた。
アレクサンダリア周囲を警戒していたパトロール艦、騒ぎを聞きつけ接近してきているのだった。アレクサンダリアに突入するには問題ない距離の敵。
だが、帰る時邪魔になると思い、ハルドは高速機動のまま、右腕のロングライフルを大きく右方向へ向け、パトロール艦のブリッジに狙いをつけ、狙撃した。
プラズマキャノンでも良かったが、プラズマキャノンの場合、射角に問題があり、機体を旋回させなければ当てることは出来なかった。
しかし今の速度で機体を旋回させた場合、間違いなく自分は死ぬと判断したハルドは腕が動くぶん射角を広く取れるロングライフルを選択したのだった。
ロックオンサイトすら出ていないが、ハルドは当たったと確信し、実際にパトロール艦のブリッジにロングライフルのビームは直撃した。ブリッジにビームが直撃したパトロール艦は航行不能に陥っていた。
85ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/25(水) 18:49:55.08 ID:OMS0tumg0
ハルドは当座の敵を排除したと感じ、高速接近しながら、アレクサンダリアのコロニー外壁の一箇所に向けて、全ての武装を発射した。
半端な軍艦のそれを上回る火力のを受けたコロニーの外壁は簡単に穴が空き、改造されたネックスは高速機動のままアレクサンダリアの市内に突入した。
コロニーの市民にとって幸いだったのは、穴があけられたのが民間居住区ではない場所であったことだった。民間居住区であれば、市民は宇宙に吸い出されていたし、音速を軽く突破しているネックスの移動時に発する衝撃波。
それによって、間違いなく死んでいたからだ。
ハルドとしては狙ってやったわけではなく、偶然であり、別にアレクサンダリアの市民が何人死のうと関係なかったが、結果的には死者を出すことはなかった。
アレクサンダリア市内へと突入したハルドが真っ先に向かったのは、アレクサンダリアの博物館である。
ここは以前にロウマによって連れて来られプロメテウス機関の拠点だということがハッキリとしているのでハルドに躊躇いはなかった。
確信はなかったが、セインはここだろうとハルドは勘でアレクサンダリアを攻めたのだった。いなかったら、エミル・クラインでもぶち殺して帰る。ハルドはその程度の考えでアレクサンダリア攻めを提案していたのだった。
ハルドは機体を徐々に減速させながら、博物館に狙いを定める。とりあえず民間人は知らんと思ったが、一応、警告は出すことにした。
「博物館、ぶっ壊す!」
何とか声は出せるまで、減速ができたことにハルドは安心した。減速した後は、ぶっ放すだけだ。警告は出したし、もう知らん。吹き飛べとハルドは思って、合計64発のミサイルを博物館に叩き込んだ。
その攻撃で博物館は脆く崩壊し、ミサイルの爆発の衝撃波が周囲を襲う。
「わははははは!」
なんだか楽しくなってきたぞ、とハルドは思ってミサイルポッドの広角稼働ビームキャノンを博物館めがけて叩き込むするとビームが煙を切り裂いて地下の施設を露出させながら、地下の施設に直撃する。
「コイツで終いだ!」
ハルドは機体に装備された対艦プラズマキャノンを博物館の地下にある施設に狙いを定めた。
「ふざけんな!ぼけ!こら!やめろぉっ!」
幻聴でロウマの声まで聞こえてきたような気がするが、ハルドは迷わずプラズマキャノンを発射した。
ちなみにネックスに装備されているプラズマキャノンは着弾というか接触した箇所が漏れなく溶鉱炉のようになり、被害範囲を拡大させるというマクバレル特製のプラズマキャノンである。
「どうだ、この野郎!俺を舐めるとこうなるって思い知ったか!」
ハルドは幻聴で聞こえてきたロウマの声に対して叫びながら、高笑いをした。ハルドにも問題がある部分は多々あるが、改造されたネックスに乗っている際に大量に投与された薬剤の影響も相当にあった。

「っざけんな、あのイカレ野郎。マジでやりやがった」
ロウマは瓦礫の中から這い出し、悪態をついた。クソが、思い知らせてやるとロウマも冷静さを保つことは出来ずに叫んだ。
「マリスルージュを出せ。あのイカレ野郎に地獄を見せてやる!」
だが直後にロウマの望んでいない返事が返ってくる。
「マリスルージュはコックピットが埋まってて、どうにもなりません!」
ちくしょう、ふざけんな、とロウマは思った。その時だった、一瞬冷静になって何かを忘れているような気がした。
「あ、クソガキ!」
ロウマはセインの存在を思い出した。攻撃を受ける前までは、確かに掴んでいたはずだが、今はどこにも見当たらない。
「くそ、逃げられたか?」
そう思い、辺りを見回した瞬間だった。セインが信じられない場所にいたのをロウマは見つけたのだった。
「悪いね、ロウマさん。この機体は貰っていくよ」
セインはハルドのような物言いで、オーバーブレイズガンダムのコックピットハッチの上からロウマに呼びかけた。
「クソガキィッ!」
ロウマは普段の飄々とした態度を崩して悠々とオーバーブレイズガンダムのコックピットに乗り込むセインを睨みつけた。機体に乗り込んだセインはコックピット内を確認した。機体の操作関係はブレイズガンダムを同じ、いけるとセインは思い機体を起動させた。
幸い、どこの誰が襲撃したかは分からないが、施設の天井には大きな穴が空いていた。セインは迷わず機体を動かす。
「セイン・リベルター。オーバーブレイズガンダム、行きます!」
新たな炎をまとったガンダムが地下から空へと、飛び立った。
86ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/25(水) 18:51:24.89 ID:OMS0tumg0
ロウマは飛び立っていく、オーバーブレイズガンダムを見て歯噛みをするしかなかった。そして、視界からその姿が消えるとロウマは髪をかきむしり、大きくため息をついてから言う。
「……はい、被害報告、よろしく。あと、この拠点はもう使えないから、移動準備を各所に連絡ねー。移動が無理とか、破損が大きいものは徹底破壊でよろしくね。はい、みんな頑張って働きましょう」
うまくいかないものは仕方ないとロウマは思うことにした。いつまでもこだわって他の仕事に支障を出すわけにもいかない。ロウマは切り替えがうまい方だった。しかし、執念深い方でもある。おそらく攻撃してきたのはハルドだろう。
ハルドと自分の手から上手く逃げ出したセインには後々、機会があれば思い知らせてやろうとロウマは思うのだった。

「さすがにアレクサンダリアが攻撃されるのは見逃せないよ」
聖クライン騎士団近衛騎士団長ユリアス・ヒビキは、エミル・クラインとのお茶の時間を抜け出して、アレクサンダリアを襲撃してきたMSの対応に動いていた。全ては自分の命より大切なエミルを守るため、と言って彼女とのお茶の時間を抜けてきたのだった。
「全機、所属不明機の撃破にあたれ!」
ユリアスは顔も知らない近衛騎士のMS隊に命令を下した。ユリアスの時間のほとんどはエミル・クラインと過ごすことに費やされているため。他の近衛騎士のことなど、どうでも良かった。
ユリアスの目の前で近衛騎士専用にカスタムされたザイランが、ブースターまみれの機体に突っ込んでいくが、全く相手にならず撃墜されていった。
「強いね」
そう呟きながら、ユリアスは自機を所属不明機へと向かわせる。
ハルドはやって来た近衛騎士団のMSを撃墜しながら、その奥から隊長らしき機体が来るのを見た。
「ガンダムタイプか!?」
ハルドは迫ってくる敵を前にして嫌な予感がしていた。ガンダムタイプは昔は特定のOSが組まれた機体を示す言葉だったが、今では、特定の頭部形状を持った機体をそう呼ぶようになっている。
そして何故かは知らないがガンダムタイプは、だいたい高性能だ。これは代々ガンダムタイプの機体が高性能だったことに由来するらしいが、ハルドも詳しいことは知らない。
「どういうつもりかは知らないが、攻撃はやめてもらう」
パイロットの声が聞こえてハルドは改めて相手の機体を見る。右手にライフル、左手にシールドのスタンダード装備に、青い大きな翼と、両腰に何らかのキャノン砲を持った機体だ。それに大型の手持ちビーム砲を背中の真ん中に吊るしている。
「攻撃はもうしねぇよ。だけど用があってね。少し待ち合わせだ」
ハルドのネックスは両腕のロングライフルを向かってくるガンダムタイプに撃つ。現状、ネックスは棒立ち状態だった。
「悪いけど、待ち合わせは無しにしてくれ」
ガンダムタイプのパイロットはそう言いながらライフルの二連射を軽く躱して、変わらずにネックスに向かってくる。
ハルドは嫌な予感がした。今の二連射はある程度相手の動きを予測して撃った攻撃だ。一発目は避けられるが二発目は当たるという計算でハルドは撃った。実際相手もそのハルドの計算に乗って動いてくれて、二発目も直撃コースだったが、軽く躱した。
「待ち合わせは厳守ってのが信条なんだ」
ハルドのネックスは接近してきたガンダムタイプにロングライフルを振って迎撃する。ライフルの銃身はビームエッジつまりビームの刃を発生させるので充分以上の近接兵器になるが、ガンダムタイプはそれも軽く躱し、よりネックスに接近してくる。
だが、それもハルドの狙いの一つ。両肩両脚のミサイルポッドに装着された広角稼働ビームキャノンを至近距離に踏み込んで来たガンダムタイプに撃つ。
だが、ガンダムタイプは、青い大きな翼を動かすと全身をねじらせ、発射されたビームキャノンを全て回避してみせる。
ハルドとしては不意をついたつもりだったが、効果は無かった。ガンダムタイプはビームサーベルを抜いてネックスに斬りかかろうとしている。このネックスでは接近戦は無理だと思い。ハルドは叫ぶ。
87ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/25(水) 18:52:23.03 ID:OMS0tumg0
「両肩ブースターパージ!ブースターロケット発射!」
そう叫んだ瞬間、改造されたネックスの両肩のブースターと、同じように接続されていたミサイルポッドがパージされて射出される。流石にそれには面食らったのか、ガンダムタイプは一時間合いを離しながら回避する。その時だった。
「ネックス?ハルドさんですか!?」
通信から知った声が聞こえてきた。それはセイン・リベルターのものである。ハルドはセインの機体の方を見ると。なんとまぁと少し驚いた。
「随分とお色直ししたもんだな」
胴体以外はブレイズガンダムの面影がないじゃないかとハルドは思った。
「無茶しすぎですよ」
「お前のために無茶をしたんだ。そこは感謝を先にしろ」
本音ではハルドはロウマに一泡ふかせたかっただけだが、セインが自力で逃げ出したという、この分だと二泡ぐらいは吹かせたかと思った。
「もういい、脱出だ」
ハルドがそう言った瞬間、ビームライフルのビームがハルドのネックスとオーバーブレイズガンダムの間を貫いた。
「待ち合わせは上手くいったみたいだけど、それ以上はさせない」
撃ったのはハルドが先ほどから戦っている。ガンダムタイプの機体である。
「いいや、待ち合わせが済んだらすぐに出かける。グズグズしないのが良いデート」
そう言うとハルドのネックスのバックパックからワイヤーが射出され、オーバーブレイズガンダムに巻き付く。
「飛ばすぞセイン!、死ぬなよ!」
マズイとユリアスは直感的に思ったが、現状、コロニーの中では使えない武装が多すぎて、相手を止める手段が無かった。ユリアスは仕方ないと思い、相手の行動を見逃した。
ハルドのネックスは助走無しに一瞬で最高速を出した。その速度は青い翼のガンダムタイプも追いつけないものだった。
ネックスは最高速を維持しながら、プラズマキャノンをコロニーの外壁に発射する。するとコロニーの外壁は簡単に穴が空き、ネックスとそれに引っ張られるオーバーブレイズガンダムは脱出にアレクサンダリア市内からの脱出には成功するのだった。
しかし、運がなかった。外壁から出た瞬間にアレクサンダリア周囲を巡回するパトロール艦に遭遇したのだった。
「もう一隻か!」
ハルドはイラつきながら、両腕のロングライフルと脚部のミサイルポッドを斉射して、パトロール艦を沈めて最高速でアレクサンダリア周辺を離脱した。
少しプランとは違った部分はあったが、おおむね成功であり、セインは救出したうえで、おまけがついてきた。しかし肝心のセインはオーバーブレイズガンダムという新たな機体のコックピットの中でGに耐えきれず死にかけていたのだった。
ハルドはそんなセインのことには思い至らず、別のことを考えていた。
「あのガンダムタイプのパイロット……」
青い翼を持ったガンダムのパイロットのことがハルドの考えることの中心であった。恐ろしく強いパイロットだとハルドは確信していた。その強さは自分やロウマと違って徹底的な鍛錬の上で収めた物ではなく、自然なものではないかとハルドは考えていた。
小細工なしに純粋に強いパイロット。久しぶりに会った本当の強敵だとハルドは内心で歓喜に打ち震えていた。あのパイロットなら自分の望みを叶えてくれるのではないか、ハルドの心の内にそんな思いが芽生えた瞬間だった。
88ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/25(水) 18:53:30.55 ID:OMS0tumg0
「逃げられた」
仕方ないとはユリアスは思う。向こうは好きに武装を使えるが、こちらはマトモに武装を使えないのだ。下手に使えばコロニーに被害がでる。
この“フリーダムガンダム・センチネル”の武装を使えば。
しかし、とユリアスは不意に別のことを思った。あの所属不明機のパイロットは凄いなと素朴な感想を抱いた。ユリアスから見ると動きの良し悪しはあれど才能のある者の動きは何となく輝いて見えるが、あの所属不明機のパイロットにはそれが全くなかった。
つまりは無才であるとユリアスは考えた。ユリアスの勘では全く才能がないのにも関わらず、一瞬とはいえ自分と自分が乗ったフリーダムガンダム・センチネルと互角に戦ったのだ。その点に関してユリアスは素直に畏敬の念を抱かずにはいられなかった。
「名前を聞いておけば良かったな」
ユリアスはボンヤリとそんなことを思いながら、機体を帰投させるのだった。

「やっちゃったねぇ、ハルド君、俺を軽く怒らせちゃったねぇ。ホントやっちゃったよ」
ロウマは大破した施設の中、残骸の上に座りながら笑みを浮かべながら呟いていた。そばにはディレックスがいた。
イザラたちガルム機兵隊もロウマの前に揃っているが、ロウマが発する異常な殺気の前では誰もがうつむくしかなかった。
「きみらには悪いんだけど、一分待ってね。策を考えるから」
そう言うとロウマは目をつぶり、腕を組んで考える。そして一分後。
「ハルド君に現状手を出すのは下策かな。しばらくは俺とガルム機兵隊は新体制になった聖クライン騎士団からの任務を粛々とこなす。以上」
そう言うと、ロウマは残骸から降りて立ち去ろうとした。だが、その前にイザラに一言言った。
「俺は今、きみの想像を絶するほどキレてるからな。今日だけは、いつもの統率確認をしたら一分以内に全員ぶち殺すからな。いいな、調子に乗るなよ、殺すぞ」
ロウマは穏やかな表情で物騒な言葉を言うと、ディレックスを伴って立ち去って行った。
ガルム機兵隊の面々としてはプロメテウス機関などの色々を聞かされてウンザリしている部分もあったのでストレス解消にしていた恒例の統率確認をしたかったのだが。イザラはやめることにした。
「ガルム機兵隊、がんばるぞ、オー!」
イザラは間の抜けたことを言ったが、何とか全員が手を挙げてオー!と言ってくれた。隊長代理ながら嬉しいことだとイザラは思うのだった。

背後でオー!と言うのが聞こえる中、ロウマはブツブツと口を開いていた。
「別にさぁ、ハルド君にやられたってのはそこまでイラつかないのよ。いやまぁムカつくけど、笑って過ごせるって言うかね。そういう不思議があるのね。ただ、あのセインってガキに出し抜かれたのは許せないわけ。こういうの、ディレックス君は分かる?」
「飼い犬に手を噛まれるという感じですか?」
ディレックスに言われて、ロウマはポンと手を叩いた。
「うん、そんな感じだね。久しぶりに役に立ったね。ディレックス君。あのセインとかいう取るに足らないガキが俺に舐めたマネをした。それが許せないってことだね。まぁセイン君は機会があったら、ひどい方法でぶっ殺すとしよう」
そう言いながら、ロウマはニヤニヤとセインを嬲り殺す未来を想像しながら、歩き進んでいくのだった。

世界は動いていた。その動きは誰も完全には把握できていなかった。把握できていると思っている者がいてもそれは思いこみであり、世界は誰かの望みを叶えることなく渦を巻き混沌としていくのだった。
89ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/25(水) 18:56:11.52 ID:OMS0tumg0
第40話終了です

機体乗り換えも無事に済んで、とりあえす中盤まで終了と言った感じです。
投下に関しては一週間ほど休みます。
そろそろ終盤に入り離脱するキャラも出てくる頃合いになってきます
90ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/26(木) 02:04:21.89 ID:4wTyryNk0
そろそろゲームとかでのラスダン突入前状態、つまりはイベント消滅フラグが立ってくるため、キャラクターの掘り下げが足りないなどと思う方は言ってくれるとありがたいです
91ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/03/04(水) 21:32:27.20 ID:CZ2MXlQW0
現状、色々な物に関して、追い込み中なんで、つまらないとかワケわからないでも良いんで感想下さい
気合いが入りパフォーマンスが向上します
92ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/03/06(金) 02:26:19.26 ID:/1U99Cwy0
投下します
機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第41話

コナーズが操縦する輸送船は輸送船の下部に改造されたネックスを吊り下げたまま、クランマイヤー王国の工業コロニーにある宇宙港へと、ゆっくりと入港した。
「ハルドの大将。まだ生きてますか?」
コナーズはセインを救出してからしばらくしたら、急に静かになったハルドを心配して通信を通して声をかけた。
「一応生きてるが、全身が筋肉痛だ。それになんか胸の辺りがおかしい」
一応は生きているということで、コナーズはホッとした。心配するべきは他にもいる。それは輸送船の格納庫にしまわれたMSの中にいるセインだ。セインに関しては通信で何度も呼びかけているが応答がない。
「二人とも、クランマイヤー王国ですよ。もう安心ですからね」
コナーズは通信で二人に呼びかけるが応答が無かった。コナーズは本格的にマズイことになっているのではないかと思った。
宇宙港にはコナーズの輸送船の接近を聞きつけて、多くのメンツが集まっていた。コナーズは輸送船を宇宙港に停泊させると、外のメンツに呼びかける。
「救出は成功したみたいですけど、なんかヤバそうです!」
外へとマイクで呼びかけるとコナーズは格納庫のハッチを開けた。
「格納庫の機体にはセインが乗ってます。自力じゃ出られなさそうな雰囲気なんで、無理やり出してください」
コナーズがそう伝えると、ハッチを通り抜け、ミシィが一番乗りに格納庫に乗り込み、続いてレビーが部下と一緒に機材を持ちながら、格納庫に乗りこみ、マクバレルが最後に悠々とついていく。
格納庫に乗り込んだ瞬間、レビーとマクバレルは驚愕した。全く見たことのない機体があったからだ。
レビーとマクバレルは機体の全体を一瞬見ただけで、ブレイズガンダムの進化系だと察した。胴体部分が同じというのが二人の考えを決定づける一番の要因だったのは間違いなかった。
「教授、この機体は……」
「ブレイズガンダムの発展形。いや、本来のスペックを発揮するための姿だろう。まったく訳の分からん機体だ」
レビーとマクバレルは間違いなく、この世界で最先端の技術と知識を持つ二人組であったが、その二人にもブレイズガンダムと言う存在は理解しきれない怪物であった。
「レビーさん!お願いします。セインが、セインが!この中に!」
レビーは機体に目を奪われていたが、必死な少女の叫びで我に返った。今はとにかく、少女の叫びに応え。少年を救出しなければいけないと、車いすを動かした。その間、マクバレルはただひたすらに機体に見入っていた。
「とにかくハッチを開ける!機体の損傷は後回しで!」
レビーは部下に命令すると、レビーの部下はレーザーを発する巨大な工具で、コックピットハッチを焼き切ろうとする。
「大丈夫、ミシィちゃん。すぐに会えるから。少し……何十分か待ってて」
それから数十分、レビーはひたすらにミシィを慰めながら、コックピットのハッチが焼き切れるのを待った。そして待った結果は確実なものとしてミシィの前に成果を示した。
コックピットのハッチは焼き切れ、機体から引き剥がされると、コックピットの中にはセインがいた。ミシィはセインの姿を確認した瞬間、顔を青ざめさせた。
なぜなら、セインの顔色は蒼白を通り越して土のような色だったからだ。ミシィは驚き、思わず口をおさえながらも、人目もはばからずコックピットの中のセインに抱き付いた。
レビーとその部下は、まさか死んでいるのではという嫌な予感が頭をよぎったが、直後にその予感は否定された。
「……生きてます!セイン生きてます!」
ミシィが泣きながら、レビーの方を振り向いて笑う。レビーは心の底から良かったと思った。しかし、なぜセインは、ああもぐったりしているのだろうとレビーは不思議に思った。
「良かった!良かったよ!セイン!」
ミシィが抱きしめる状態から、体を離してセインの手を握って振った瞬間だった。セインの腕があり得ない方向にプラプラと所在なく動いた。
「……折れてませんか?」
レビーの部下の一人がそう言った。レビーもそう思い、叫んだ。
「担架ぁーっ!」
セインはミシィに抱えられながら担架に乗せられたが、その間も全身の骨が本来あり得ない方向にプラプラと動いていた。
「ぜ、全身骨折かな……」
レビーは部下を見るが部下は目を逸らした。
状態はどうであれ、セインは無事に帰って来た。それだけでクランマイヤー王国にとっては喜ばしいことだった。
93ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/03/06(金) 02:27:51.76 ID:/1U99Cwy0
「何を騒いでるんだか。こっちの心配もしてほしいぜ」
ハルドは機体から降りて、輸送船の格納庫の方を見ていた。
「まぁ、いいじゃないか。無事に物事が上手く行ったんだ。それぐらい」
ハルドの出迎えはアッシュだけだった。
「姫とヴィクトリオは?」
「小学校」
まぁ、急に帰って来た感じだから無理もないか。一応いつも遊んでいるように見えるが姫もヴィクトリオも立派な小学生だ。
「まぁ、迎えが摂政閣下ってだけでもありがたいと思おうかね」
ハルドは茶化しながら言う。そう言うとアッシュは僅かに不機嫌になった。
「いい加減、摂政閣下はやめろ。僕はウンザリだ。……それより、そのアーマー取らないのか?」
ハルドは言われて気づいた。そういえば、改造したネックスに乗るために装着したアーマーを付けたままだ。
全身を外すのには手間がかかるにしても。頭部のバイザーを上げるくらいなら楽だし良いだろうと思ったが、ハルドは嫌な予感に襲われてバイザーを上げるのを躊躇った。
「話す時くらい顔を見せろ」
アッシュの手が伸びて、頭部アーマーの横のバイザーを上げるスイッチを押した。その瞬間バイザーが上がった。それとほぼ同じタイミングだった。
「ごはぁっ」
ハルドが口から血を吹き出して。全身が痙攣しだした。
「おい、どうした!?」
目の前で吐血し痙攣し始めた人間を見てアッシュは驚愕に襲われたが、冷静に叫んだ。
「担架ぁー!」

気づくとセインは良く知った天井を見ていた。良く知っていると言っても、あまり良いものではない。セインはこの天井はクランマイヤー王国の病院の物だと知っていた。
セインは体を動かそうと思ったが、体が全く動かない。首も動かせないので視線だけを動かすと全身が包帯とギブスに包まれていた。見た目は完全にミイラ男ではないかとセインは思った。
「よう、元気か?」
隣から声が聞こえた。しかしセインは現在、全身をギブスで固定されたミイラ男、状態なので隣のベッドの様子を見ることは出来ないが、声で分かった。声の主はハルド・グレンだ。
「つっても、返事も出来ねぇか」
そんな声が聞こえると、ベッドを仕切るカーテンが開いた。おそらくハルドの方で開けたのだろう。セインは首が動かないので、目だけでハルドを見ると、ハルドも中々に悲惨な状態だった。
両腕と両脚は完全に包帯とギブスで覆われ、簡単なことしかできない状態。そして、胸に包帯が何重にも巻かれているのをセインに見せつけていた。
「レビーとマクバレルの口車に乗って、ヤバい機体に乗ったらこのざまだ。笑ってくれっていってもわらえねぇか、全身の骨が漏れなく骨折かひび入ってるんだもんな」
全身骨折!?ハルドの機体に引っ張られて以降は記憶が無いが何があったというのかとセインは驚愕した。
「いや、俺の機体、というかマクバレルとレビーのせいなんだけどね。加速は良いんだけど減速しようとすると死ぬ機体だから。しょうがなく最大加速でアレクサンダリアから逃げたら、機体の加速Gに耐え切れず、お前の身体はボロボロになったわけ」
セインは、ミイラ状態の身体で考えた。つまりはハルドの機体に引っ張られたせいで、今現在こんな身体になっていると。それはハルドにも原因が無いかとセインは思った。
「フガガガガ!、フガガ!」
「なに言ってんのか分かんねぇよ。って痛ぇ……俺も肺とか肋骨とか胸辺りが殆どぶっ壊れてるから、喋るのきついんだよ」
ハルドはそう言うと横になった。セインがかろうじて見えた範囲では、顔は痛みで辛そうだった。
「フガガガガ」
ありがとうとセインは言ったつもりだが、おそらくは伝わってないだろうとセインも思った。しかし、それだけの怪我を負っても自分を助けてくれたのは、セインからすれば嬉しかった。
両親もいない今、それでも自分を大切に思ってくれる仲間。セインはそれをかけがえないのないものだと思った。
「何言ってるか分かんねぇし、喋りたくねぇから黙ってろ」
ハルドがそう言うがセインの心には感謝とそして、クランマイヤー王国――よくよく考えれば自分にとっての第二の故郷、そこへ帰って来た喜びがセインの心を埋め尽くしていた。
94ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/03/06(金) 02:29:16.14 ID:/1U99Cwy0
「セイン君は骨がくっつくまで二日くらいかな。ハルドさんは肺に穴が空いてるから一週間はここで大人しくしてもらわないと」
医師は病室で淡々と説明した。いつもセインが訓練で負った傷を治療してくれる医師だった。
「はぁ!?ふっざけんな!って痛ぇ……」
医師はため息をつきながら説明する。
「現代医学だと。骨折なんかは二日か三日あれば治るけど、内臓に穴が空くと別なんですよ。それにハルドさん、こっちじゃ分からないけど、出所不明の生体組織ペーストで肺の穴塞いだでしょ。そのせいで肺全体が色々とマズイことになってるんですよ」
セインはミイラ状態から少し我慢すれば元に戻れると思い喜んだ。しかし、ハルドは別だった。
「ふざけんな!俺も速攻で治せ!
「いや、無理ですよ。肺が腐りそうなんですから」
そう言われ、ハルドはマジで?という表情になり大人しくなった。
「出所不明の生体組織ペーストのせいですよ。品質の悪い物はよくこうなるんです。肋骨が変な方向に曲がって心臓や肺を貫きかけてたのは、まぁ良いですけど。そもそもこんな状態になって痛くなかったですか?」
「いや、痛くなかったけど……」
ハルドは少し考え、強制的に注入された正体不明の薬剤のことを言った。
「ああ、だからか、尿から田舎の医者じゃ訳の分からない成分が出てきてね。軍の知り合いに尋ねたら、危険で使用が中止された薬の成分と一致したんですよ。痛みとか感じなくなる類の効果を持ったものですね」
ハルドは色々と頭の中で物事の整理がついてきた。
「俺の私見だが、レビーとマクバレルは俺が死ぬ可能性を気にせず、ヤバい機体をつくって、更にヤバいアーマーでヤバい薬をめったやたらに注入したわけか」
ハルドは笑いながら言った。すると医者はうんうんと頷いた。
「多分そんな感じでしょう。まぁ医療以外のことは私の管轄外なのでお好きに。まぁとにかくハルドさんは。内蔵関係の治療とハルドさんが言うヤバいクスリを身体から抜くのに一週間入院でお願いします」
そう言って医者は去って行った。ハルドはセインを見る。
「なんで、助けられた奴より、助けた奴の方が被害が大きいんだろうな?」
セインはハルドが色々キレてる状態だと思い、とりあえず寝たふりをしたのだった。

「いてぇいてぇ、くっそいてぇ!」
セインが退院の日はそんな声で目が覚めた。全身の包帯はとれ、骨をもくっついていた。セインは身支度を整えるとハルドに挨拶をして去る。
「すいません。お先に失礼します」
セインは小さな声で言ったつもりだったハルドには聞こえていた。
「ふざけんな、くそ!退院したらお前も同じ目に合わせるからな!」
セインは嫌な予感がしたが、気にせずに病室を出た。すると、すぐに誰かが自分に抱き付いてきた。
「良かった、良かったよ、セイン」
抱き付いてきたのはミシィだった。セインは抱き付いてきたミシィを拒むことなく、穏やかに頭を撫でた。
「うん、帰って来た」
セインの言葉はそれだけだったが、セイン自身は何もかもを振り払った、本当の自分ただ一人の言葉だと思ってミシィに伝えたのだった。
セインは思う。大切なものを決めつけるにはまだ自分は子どもであり早すぎると。それでも、子供でも、いまの大切なものは守りたい、それはクランマイヤー王国であり、そこに住む人々、ミシィにその家族、そして自分が知っている人たちだ。
命を捨てでも、と以前は言ったかもしれないがセインは、そんな気持ちにはならなかった。今は、絶対に命を捨てたくない。どんな苦しみや辱めにあっても、それでも自分は生きて、大切な人のそばにいたい。
皆から離れ、一人になり、孤独を経たセインの答えがそれだった。誰かと常に一緒にいなければいけない。セインは、ハルドやロウマなどの強者からすれば、一笑に付されるような答えだろうが自分にはそれしかないと思った。
セインは思う。自分は弱いと。多くの敗北のと人の言葉がそれを気付かせた。自分は強さとは無縁の存在だと。だからこそ多くの人々と歩みを共にしよう。
そして、一人ではなく多くの人と、今となりにいるミシィや、それを含めた多くの人々と歩いていこうと思ったのだった。それだって強さだとセインは考えた、アレクサンダリアでの何も出来ない日々の中で、そう思った。
セインは完治直後でまだふらつく体をミシィに預け、ゆっくりと歩きはじめたのだった。
95ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/03/06(金) 02:30:34.33 ID:/1U99Cwy0
「鍛えなおすか……」
ハルドは病室のベッドの上でボンヤリとそんなことを考えていた。ロウマには何度か言われているが弱くなっているという自覚はハルドもあった。最近は、馬鹿をやって強さを誤魔化してばかりだった。
しかし、アレクサンダリアで戦ったガンダムタイプに、本気を出したロウマ。強敵はまだまだいそうだ。別に死ぬのが怖いわけではないし、それを望んでもいるのだが、全力を出しきって死ななければ意味がない。ハルドはそう思っていた。
とりあえずは、勘を三年前の特殊部隊所属時代まで戻す。そこからがスタートだとハルドは考え。今は体を治すために、とにかく休もうと決めたのだった。それから数日後、ハルドは無事に退院した。

クランマイヤー王国はロウマが率いるガルム機兵隊の襲撃以降、平穏な日々が続いていた。クランマイヤー王国のコロニー内は季節が秋へと変わりつつあった。平穏な日々、そして季節が移り変わる中でも人々はやることがあった。
新たな機体に乗ってクランマイヤー王国へ帰還したセインは新たな機体オーバーブレイズガンダムについての説明をレビーとマクバレルに強いられていた。
機体を説明する中でどうしてもプロメテウス機関と“ギフト”の存在に触れる必要があったため、その部分はハルドが説明した。レビーもマクバレルも別段、驚いた様子はなく簡単に納得したようだった。
「まぁ怪しい技術を開発している秘密結社なんて腐るほどありますし」
「その説明が一番納得しやすかったので信じただけだ」
というのが二人の弁である。ともかく、レビーとマクバレルはオーバーブレイズガンダムに興味津々であり、セインが入院中に既に機体の中身を粗方解析したとのことである。
「出力はブレイズガンダムと比べて通常時でも150%の上昇。あと、ブラックボックスだった動力部分がオープンになって、その“ギフト”ってのが解放されてるわ」
レビーはそう言うと、機体の各部パーツを外すように部下の作業員に命令した。部下は速やかに機体のパーツを外すとオーバーブレイズガンダムの動力が露出した。
「あれが“ギフト”というものなのだろう?」
マクバレルは動力炉の中心に浮かぶ。炎のような球体を示した。
ハルドはブレイズガンダムとの戦闘の最中で少し見たがハッキリと見たのは今回が初めてであるし、パイロットのセインも初めて見た。
「調べたが、恐ろしく高効率なエネルギー体だ。通常時でも、現行のMSの動力などは足元にもおよばない。アレ一つをうまく使えば、地球一つ分のエネルギー問題など簡単に解決できる。まぁ、人間にアレを使いこなせるとは思えんが」
ハルドはマクバレルの言葉に気になる点があったので、質問してみた。
「通常時って、ことは通常じゃない場合もあるんだよな?」
マクバレルは作業員にパーツを戻すように命令したうえで、ハルドの質問に答えはじめる。
「少し、実験したが。どうやら炎のような物体は人間の精神に感応して出力を上げるようだ。特に興奮状態だと、出力量は極端に高まる。そして高出力時には、人類が現在観測出来ていない未知の粒子を放出するようになる」
だからブレイズガンダムは、あんなパワーを発揮出来ていたのかとセインは納得したのだった。その横でハルドは思考を巡らせ、マクバレルに尋ねてみる。
「興奮状態で出力が高まるなら、セインのブレイズガンダムは常に出力が高い状態でないとおかしいはずだが、そんなことは全くなく、俺からは安定しているように見えた。それに極端と言う言葉が気になるな。
その極端は機体を自壊させるレベルか?後は人間には使えないってのが気になるな。どういう意味だ?」
マクバレルは一気に質問をされてウンザリといった感じだったが、素直に答えるのだった。
「ブレイズガンダム時にはフィルタリングがかけられており、出力が常に安定するように制御されていた。おそらく何らかのコードでフィルタリングを解除しパイロットの感情の昂りを“ギフト”に伝えていたのだろう」
マクバレルは説明はウンザリと言った感じで続きはレビーに譲る。
「出力が上がっても機体にはダメージはいかなかったと思いますね。ブレイズガンダムのフレームは異常な出力が流れてきた場合は、放出するように出来ていますし、背中を突き破って、炎の翼を出したのは、完全なイレギュラーでしょう」
ハルドはふーんと、レビーとマクバレルの説明を聞いていた。するとマクバレルがハルドの最後の質問に答える。
96ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/03/06(金) 02:31:25.16 ID:/1U99Cwy0
「人間にはアレが使いこなせないというのは、人間は感情が変動する生き物だということだ。
薬剤を大量投与して常に興奮している人間でもいれば、あの“ギフト”は、最高のエネルギー発生装置になるが、そんなことを続けていられる人間などおるまい。結局はMSの動力で収めておくのが妥当な代物だ」」
ハルドは話しを聞きながら何となく思ったことを言ってみた。
「羽クジラの一族さんたちは、地球人が常に興奮し続けているか、感情を常に一定に保っていられる生き物だと思ったのかね?」
ハルドの考えに対し、マクバレルは頷いた。
「生物の進化の形が読めん以上、そういうものを用意しておくのもありだろう。実際、陳腐なSF小説の世界にいるような感情を自由にコントロールできるようになった人間しかいない世界では、この“ギフト”は最高のエネルギー源だぞ」
まぁ、そうだろうなとハルドが考えていると、セインが何の話ですかとハルドに顔を近づけてくる。鬱陶しいのでハルドはセインの顔を押して遠くにやった。
「話は変わりますが、色々とこのオーバーブレイズガンダムは機体の各部がオープンになったのでブレイズガンダムの頃より整備も楽になってますし、どうやら“ギフト”への感情接続のフィルタリングも緩和されてます。
ただ、フィルタリングが緩和されたせいか、パイロットの精神状態が影響されやすくなっているみたいですね。出力の上がり下がりがあるかもしれないのでパイロットのセイン君は気をつけてください」
セインは素直に、はい、と返事をしたが。隣のハルドは頭を抱えた。
「精神状態の安定って、お前が一番苦手な部類じゃねぇか」
セインはハッキリ聞こえたが無視をした。
「まぁ動力に関しては何とでもなるが、我々としては気に入らんのはフレームや外装を手がけた奴らだ。私が“ギフト”の情報を知っていたなら、完璧な形でフレームも外装も仕上げてやったというものを!」
マクバレルは怒り心頭といった様子だった。
「とりあえずだ!フレームや外装は私が仕上げ直しをするので、機体を動かせるようになるまでは、少し待て!」
「オーバーブレイズガンダムをクランマイヤー王国風に最高の形に仕上げるから待っててね、セイン君」
レビーとマクバレルはセインに対してそう言った。セインはいまいち話の流れが分からなかったが、この二人に任せておけば大丈夫だと思った。その直後だった。ハルドが手を挙げて言った。
「前に頼んだ、俺専用機はどうなってるんですかー?」
そうハルドが言った瞬間、レビーとマクバレルはバツの悪い表情になった。
「あー、えーと、努力中です」
「というか手詰まりだ。ここの設備では貴様の本気の操縦を完全に受け止める機体は造れん」
忘れてはいなかったが忙しくておざなりになっていた機体だ。そもそもクランマイヤー王国の設備が悪いから完成までこぎつけられないのだとレビーは思った。
マクバレルが本当のことを正直に言ったので、レビーがマクバレルの服の袖を引っ張る。その言葉を聞かされたハルドの目は完全に座っており、いつの間にかどこからか拾ってきた、鉄パイプを手に持っていた。
「オーケーだ、クソ野郎ども。少し反省させて仕事が捗るようにしてやるよ」
ハルドは鉄パイプを片手にゆっくりとレビーとマクバレルに近寄る。マクバレルは平静を装っているが、顔面は蒼白で冷や汗を大量にかいている。どうしようもないとレビーは思い、起死回生に策にうって出た。
「ごめんなさい!私、お腹に赤ちゃんがいるかもしれないんです!許してください!」
そうレビーが叫んだ瞬間、場が呆然となった。一番、呆然としたのはマクバレルだった。
「え、まじ?父親は?」
ハルドは鉄パイプを振り上げた状態で制止し、レビーに尋ねた。レビーは無言でマクバレルを指さした。ハルドは、まぁそうだろうと思った。
「お願いします。子どもを父親がいない子にしないでください!」
レビーは全くのでまかせだが、とりあえずだ自分とマクバレルがハルドの暴力から逃れるにはこれしかないと思って言ったのだった。
97ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/03/06(金) 03:22:18.82 ID:/1U99Cwy0
「いや、そうか、うん。なんか、ごめんな。多分俺が良くなかったな、すまん。体には気をつけてな」
ハルドは珍しく本心から謝った。何故かはわからないが、謝らないといけないと思って、鉄パイプを下げたのだった。
「子どもがいるかもしれないって言ったから、まだわかんねぇんだろ?」
「生理が来ていないので、もしかしたらと思って。早とちりかもしれないかもしれないですけど」
ハルドの問いにレビーはしれっと答える。生理は一週間前に来ているので子どもが出来ている可能性はゼロだ。しかし、妊娠ネタでハルドがここまで弱くなるとはとレビーはハルドの弱点を見た気がした。
「まぁ、なんだ、もし出来てたら、結婚式は早めに挙げろよ。腹が目立たないうちにな。祝儀は俺が多めに出すからよ」
レビーはハルドが思ったよりも本気な感じだったことに少し驚きながらも、多少の感謝の気持ちを抱いた。
そしてハルドはバツが悪そうな表情のまま工場区画を去り、ハルド専用機の話しはうやむやになったのだった。
この間、セインは良く分からないので、呆然としているしかできなかった。セイン・リベルター16歳。まだまだ未熟であった。

ハルドはひたすらに訓練の日々だった。三年間で無くなった感覚を取り戻すために、ひたすらに体を動かしていた。訓練の相手はストームが殆どだった。
ハルドとストームは王家邸の裏にある草原で徒手格闘の訓練を延々と続けている。ハルドのローキックからハイキックへ軌道が変化する蹴りをストームはすんでの所で避けるが、空を切ったはずの蹴りの軌道がもう一段階変化し、蹴りが伸びてストームを襲う。
ストームこれは回避できずに真正面から受け止めるが、ストームの動きもそれだけでなく、ローキックをハルドの軸足に放っていた。しかし、ハルドの蹴り脚の方が圧倒的に速く、ローキックを放ったはずのストームの蹴り脚を弾き、ストームを地面へと転ばせた。
地面に転がった瞬間にストームは降参のポーズをして、ハルドを呆れさせる。
「ったく、話しになんねぇ。なまり過ぎだストーム」
「そうは言うけど、俺ってばもうすぐ40歳よ。おじさんよ。無理言うなって」
ストームは抗議の声を上げる。ハルドはその声を無視して、この分では訓練としての密度が弱いなと考えていた。この際、虎(フー)と組み手をしてもいいが、その場合、本気になりすぎて、どちらかが重傷を負うということになりかねない危険性もあった。
ハルドは冷静に今の自分の状態を考えてみた。基本的な戦闘技術は確実に落ちてるし、直感的な判断力の正確さも落ちている。体力も低下はしていないが、鍛え上げていたわけではないので昔と比べて変わっていない。ハルドはそれも問題のような気がした。
とにかく、三年前より弱くなっているのは確実だとハルドは冷静に自分を分析した。今までは弱くなっていても困らなかったが、明らかに強い敵の存在がハッキリとした以上、出来れば自分の強さを昔のものに戻したかった。
「おーい、ハルドくんよー、もう訓練終わりにして、飲みに行かねぇ?おじさん、喉乾いたよ」
まだ昼間だぞ飲んだくれがと、ハルドは色々とストームに思うことがあった。とにかくこの男はマトモに働かないのだ。働かない癖にクランマイヤー王家のツケで昼間から酒を飲むダメ男。
昔からどうしようもないところはあったが、軍を辞めてから酷くなったようだとハルドは思った。
98ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/03/06(金) 03:24:20.41 ID:/1U99Cwy0
“ストーム”本名は不明。歳は40歳になると本人は言っているが、それも怪しいものだ。見た目では30代前半にも見える。
地球連合軍時代は軍上層部直属の特殊工作員。特技は狙撃と言語。地球上の全ての言語、今は滅んだ小数民族の言葉さえ完全に理解し、話すことすら容易だ。狙撃に関しては非公式だが、地球連合軍内で最高のスコアを出したこともあった。
工作員時代の基本的な仕事は武器の密輸や武装組織の支援、麻薬の密造密売など様々な非合法活動で国家を疲弊させ、内側から崩していくという長期的な作戦を主としていた。他にもテロ活動の扇動なども行っていた。
ハルドのように、単純にターゲットを殺すだけの工作員とは単純仕事とは全く逆の仕事がストームのしていたことだった。
まぁ仕事は色々と汚いことが多く、当時から愚痴をこぼしていたが、軍の機密を数多く握っているということで、容易には軍を辞められず。
任務中に死亡したことにして、軍から脱走したが、ストームを知っている人間は誰もストームが死ぬなど思っていなかったので、ほとんど意味がなかった。かわいそうなので見逃した結果、今に至るというわけだ。
「飲むのは夜だけだ。それよりも早く仕事を見つけろ、ごくつぶし」
「俺ちゃん、働くのイヤー。それよりもお酒を飲みたいよー」
ホントにクソだなコイツとハルドは思った。そして、もう放っておくことにした。訓練は自力で何とかするしかないと思うのだった。

それから数日、ハルドはひたすら自力で訓練をしていたし、他の面々やクランマイヤー王国の人々ものんびりしたものだった。
そんなある日だった。朝食の時間に姫がハルドやアッシュに急に伝えた。
「今日は刈り入れをします!」
何の?とハルドとアッシュは顔を見合わせた。セインは最近、ミシィとその家族が住む家で朝食を取ることが多いので、この場にはクランマイヤー王国生まれではない者はハルドとアッシュとセーレしかいなかった。セーレに関してはハルドもアッシュも意識の外だった。
「とにかく稲刈りなんです!お米をとるんです!神聖な儀式なんです!」
ああ、米かとハルドは朝食の米飯を食いながら何となく理解した。まぁ暇だし良いかと思って姫に付き合うことにした。ヴィクトリオも何だか知らないが楽しそうなので良いと思った。
「僕はちょっと仕事が……」
アッシュは及び腰だった。まぁそうだろうとハルドは思った。摂政になり地球連合と同盟が結ばれてから、外交関係はアッシュに一任されており、アッシュは内政と外交の両面の仕事を一人でこなしていた。まぁいつか過労死するだろうなとハルドは他人事のように思った。
まぁ、アッシュが頑張っているのでクランマイヤー王国は過ごしやすくなったという国民の声も聞こえてきている。
ハルドからすれば凄まじいと思うことだが、不満は一切出てきていなかった。これは、おそらくアッシュの繊細な性格が不満分子のことも考えて、色々な配慮をしているからだろうと思った。
そういう余計なことまで考えて仕事をしているから死にそうになるのだとハルドは思ったが、口には出さなかった。
「むー、じゃあアッシュさんはいいです。私とハルドさんとヴィクトリオ君で稲刈りに行ってきます」
ハルドは訓練を休むのもたまにはいいかと思って、朝食を終えると姫についていくのだった。
ハルドは稲刈りをする場所はクランマイヤー王家邸のあるメインコロニーかと思ったが、違った。第一農業コロニーで稲刈りをやるようだった。ハルドはイマイチ理解しがたかった。第一農業の田は相当な広さがあるが、どうするのかと。
そんなことを考えながら、第一農業コロニーでリニアトレインを降りると、駅の前は凄まじいことになっていた。
とにかく人に人、クランマイヤー王国中の人間が集まっているようだった。
99ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/03/06(金) 05:47:06.35 ID:/1U99Cwy0
「あ、ハルドさん。どうもっす!」
ジェイコブ三兄弟の長男のジェイコブがハルドの姿を見つけ声をかけた。ジェイコブの顔には奇妙なペイントがされていた。
「お前、顔の何?」
言われてジェイコブはハルドがクランマイヤー王国生まれの人間ではないことを思い出した。
「稲刈りっすから、顔に化粧をして、神様が来るのを敬ってお迎えするんです。神様に汚い顔は見せられないっすから」
何だか複雑な文化があるようだとハルドは思った。
「森の人たちは、ああしますけど、私たちは田んぼの泥で良いんですよ」
姫がハルドに講釈をできるのが少し嬉しいように説明した。ハルドとしては泥を顔に塗るのは不潔なので、嫌だと思った。
「じゃあ、始めましょう!」
姫が小さな体からどうやって出しているのか分からないほどの大声で皆に呼びかけた。すると、皆はオー!と叫び、持ち場についていく。
ハルドは状況が読めなかったが、とりあえず周りの動きに合わせようと思った時だった。姫に引っ張られ、稲刈り用の服装に着替えさせられ、そのまま稲刈りに従事させられた。
「どうすんだ、コレ」
そう思いながらも、ハルドは器用な方だったので、クランマイヤー王国の住人の動きを見て、それを真似すればいいだけだったので全く困ることはなかった。しかし、そうでないものもいたようだった。
「セイン、そうじゃないって!もっと腰をしっかりしなきゃ!」
「うるさいなぁ、ミシィに言われなくても分かってるよ!」
どうやら、この場にはセインとミシィもいたようで、二人で仲良く騒ぎながらやっていた。ハルドはその光景を何となく悪くないと思うのだった。前は別にどうでも良かったと思ったはずだが、少し自分も変わっているかとハルドが思った時だった。
急に指が襲ってきて、ハルドは上半身を反らして躱した。指を放ったのは姫だった。どういうつもりなのかハルドは聞きたかったが、姫は頬を膨らませていた。
「むー残念です。おまじない失敗です」
神事におまじない、クランマイヤー王国という国は一体何年なのだと、ハルドは少し呆れながら姫に聞いてみる。
「どういうおまじないですか?」
「田んぼの泥で、好きな人のほっぺたに一の字を書くと結ばれるっておまじないです」
「それじゃ、姫様は俺とは結婚できませんね」
ハルドは姫の機嫌を損ねないような口調で言ったが、お呪い失敗した時点で姫はご立腹であった。
「いいです、私が大きくなったハルドさんが結婚してくださいっていうような美人になりますから」
そう言って、姫は稲刈りの作業に戻って行った。
ハルドは結婚と言われてもピンとこないし、そもそも、これからさき結婚をしようなどという気持ちは全くなかった。自分が真に愛する人間はただ一人であり、その一人を想い続けていればハルドは充分だったからだ。
100ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/03/06(金) 05:48:12.51 ID:/1U99Cwy0
それから数時間、休憩を挟んで稲刈りは終わった。まだ稲は大量に残っているが、それは後で機械を使い刈り取るらしいとハルドは聞いた。それでは今までやっていたのは何なのかと思ったが、これはある種の儀式であるとハルドは聞いた。
その証拠に夕方になると大きな火が焚かれ、太鼓や様々な楽器が鳴りはじめ、クランマイヤー王国の人々は火の周りで踊りはじめる。
「あれ、ハルドさんも来てたんですか」
セインがミシィと並びながら歩いて、ハルドの姿を見つけ、挨拶をする。セインの頬には泥で一の字が書かれていた。
「ミシィは抜け目がないな」
ハルドはセインを少し馬鹿にするような口調で言ったが、ハルドの口元には笑みが浮かんでいた。まぁ悪くない、悪くはないとハルドは思った。ミシィなら上手くセインの手綱を握るだろうしお似合いと言えばお似合いだ。
「お幸せに」
ハルドはそう言うと、二人を放って、酒を配っているらしい場所に向かった。すると森の部族のリカードが酒を配っていた。
「忙しいことだな」
「なに、日々の生活を比べればたいしたことはない」
ハルドは何となく、リカードと話しがしたくなったので、リカードの隣に座った。
「きみはこのような祭りごとを原始的だと思うか?」
リカードは仕事をしながら、ハルドに尋ねた。
「いや、雰囲気もあって嫌いじゃないよ、俺は。あんまり綺麗な世界で生きてきたわけじゃないから、こういう人間味のある世界は好きかもしれない」
そうか、とだけいってリカードは酒を配っていた。
「この祭りにおいて酒は、神の水ということで部族の長である私が責任を持って配ることになっている」
そりゃ大変そうだなと思いながら、ハルドは盃をリカードに差し出した。リカードは何も言わずに盃に酒を注ぎ、ハルドは酒を飲む。米酒、質も良いし祭りで出すような代物ではないような気がした。
「この祭りでは、火に要らないものをくべ、その代わりに願いを叶えてもらうという風習があるが、君に要らないものはあるか?」
リカードに尋ねられた瞬間、ハルドは自分、と言いたくなったがやめておいた。他人に余計なことは話したくなかった。
「君のことだ。自分とでも言うのではないかと思ったが」
どうやら何もかもお見通しらしいとハルドはバツの悪い表情になり、盃をリカードに差し出した。リカードは盃に酒を注ぎながら言う。
「生も死も自由だ。この世界は自由に満ちている。全てきみの好きにしたらいい。ただ、世界は許しても人は許さない。それが生きていくこと、そして死ぬことの面倒なところだ。私たちは世界ではなく常に人に縛られている。
きみの死を望まず、この世界に居続けることを望む人間もいる。厄介だろうが、その望みを叶えてからでもいいのではないかね、全てを捨てて死を望むのも」
面倒だなぁとハルドが思うとリカードは僅かに微笑んだ。
「人の生とは面倒なものだ。面倒を忘れるには神の水が必要なのだ」
そう言うと、リカードはハルドの盃に酒を注いだのだった。
「火の周りでは若者たちが楽しんでいる。きみも行くといい」
ハルドは盃の酒を手に火のそばに近づいた。すると偶然セインとミシィの二人組にであった。
「ハルドさんもお願いですか?僕は僕の周りの人たちを守れるような強さが欲しいってお願いしました」
セインの表情は穏やかだった。ハルドは直接見たわけではないが、自分が破壊したブレイズガンダムに乗っていた時のセインの表情とは全く違うのだろうと思った、
そしてなんとなく大人っぽくなったことにムカついたのでセインの尻に蹴りを入れた。その瞬間、そばにいたミシィが口うるさくまくしたのでハルドはさっさと逃げだした。
101ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/03/06(金) 05:49:51.02 ID:/1U99Cwy0
41話終了です
102ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/03/10(火) 05:11:32.34 ID:gNBGw6/X0
投下します
機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第42話

祭りから数日後、ハルドはイマイチ身の入らない訓練を一人で続けていた。そんな時だった。クリスが大声でハルドを呼んだのは。
呼ばれて、ハルドはイマイチ気乗りがしない状態で、クランマイヤー王家艇の、広間にやって来た。ハルドの以外のクランマイヤー王国の主要なメンツは揃っていた。
「大変、というか凄い事態です!地球連合とクライン公国が競い合って、アメノミハシラを制圧しようとしています」
ハルドはそれの何が凄いのかという感じだった。そもそもアメノミハシラが今更なんだというのかというのがハルドの感覚であった。
「アメノミハシラはMS製造のプラントとしても一級品です。オーブが落ちた現状、アメノミハシラは、どこの所属にもなってない状態なんです。ユウキ・クラインが提唱したコロニーの自治・独立の原則に従うと、アメノミハシラは独立国となり侵攻が可能となります」
クリスの説明は熱が入っていたが、他のものはイマイチ、ピンと来ていない様子だった。
「こう言ってはなんだが、今更一コロニーが侵略を受けているというのがそんなに大変な事態なのか?」
アッシュが疑問を口にする。するとクリスは即座に答えるのだった。
「問題ありです。地球連合、クライン公国どちらに取られても、アメノミハシラは生産に加えて交通の要所でもありますから、ここの自治が奪われると、各コロニーの自治権の存在意義に疑問符が加えられ、侵略または自治権の侵害が容易になる可能性があります」
「アメノミハシラが落ちると自分たちのコロニーも別にいいかなって、なびく連中が出てくるってことだな」
ハルドが端的に説明するとクリスは頷き、更に話しを続ける。
「それにアメノミハシラは腐ってもオーブの所属だったコロニーです。影響力は計り知れませんし、できることなら独立と自治を続けてもらって、クランマイヤー王国との軍事的な協力関係を結んでもらいたいんですよ」
「そのためには、地球連合かクライン公国の占領下になってもらっては困ると」
アッシュが最後にまとめるが、アッシュとしては様々な懸念があった。
「クライン公国が相手だけならば、問題はないが、地球連合も攻めているのだろう?一応、この国は地球連合に後ろ盾に立ってもらっているわけだが、それはどうする?」
クリスは大した問題ではないという表情だった。
「地球連合に関してはアメノミハシラの制圧が根本の目的ではなく、アメノミハシラを制圧することで得られる利益が目的なわけですから、独立と自治を条件に地球連合に対する優遇措置を取れば、地球連合の戦意を奪うことは出来ると思います」
「そう上手くいくかね」
ハルドが懐疑的な視線を送ると、クリスは肩を竦めながら言う。
「上手く行かない可能性は高いですね。その場合は、アメノミハシラはクランマイヤー王国との同盟関係にあるということを主張して地球連合には引いてもらいます。
味方の味方は味方といった感じで、クランマイヤー王国を間に挟んだ形でアメノミハシラと地球連合は協力関係にあるということにします」
「アメノミハシラとクランマイヤー王国は現状、全く交流はないが、戦闘中に同盟締結をやるつもりか?」
クリスは当然といった様子で頷く、その態度にアッシュはゲンナリとするしかなかった。
「その仕事は当然、僕だろうな」
そう言うと、クリスを含め誰もが当然と頷いた。アッシュは大きくため息をついて、それきり黙った。
103ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/03/10(火) 05:12:16.91 ID:gNBGw6/X0
「とりあえず、アメノミハシラ周辺は三つ巴の状態で戦線は膠着状態です。今からシルヴァーナを最大速度で向かわせれば間に合うでしょう」
クリスがそう言うと、全員が大慌てになった。急な戦闘準備である。急と言っても急すぎる。
「ふざけんな、死ね」
とハルドが言うと、同じようにクリスに死ねという言葉が続けざまにかけられた。しかし、クリスも、もう慣れた、この程度では何とも思わないようになっていたのだった。

シルヴァーナには急ピッチで物資の積み込みが行われていた。
「レビー、俺の機体は?」
ハルドが尋ねると、レビーはあの改造が施されたネックスを指さすのだった。
「お前、俺に死ねって言ってんの?」
「いや、クリス君から、隊長はこの機体で、アメノミハシラまで先行してくださいって」
冗談じゃないとハルドは思う。この機体に乗ったせい、実際にはこの機体のせいではないが、怪しい薬を大量投与され、肺が腐りかけた。絶対に乗りたくないそう思ったが、周囲の視線が乗らないことを許さない雰囲気だった。
「ノーマルスーツ用のアーマーは改良したので。今回は前回のようにはならないはずです。あと排泄物用パックも最高のものにしているので乗り心地は前とは格別ですよ」
ウソくせぇと思いながら、とりあえず、ハルドはネックスに乗る準備を始めた。とにかくアメノミハシラまでどれくらい日数がかかるか分からない以上、念には念を入れておく必要があった。
取り敢えずは下剤で腹の中の物を全て空にし、栄養剤の注射を自分で打つ。これで二日程度は何も食わなくても大丈夫のはずだ。
ハルドがそんな涙ぐましい準備をしている中、セインはオーバーブレイズガンダムのんびりとシルヴァーナに積み込んでいた。
なにか自分ばかり貧乏くじを引かされていないかと思いながら、ハルドはノーマルスーツを着て、その上にアーマーを装着した。装着した瞬間、前より重量が増している気がした。
「色々と性能アップをしたり、機能を足していたら少し重くなりました。すみません」
まぁ、それで体が持つようになるなら、良いだろうとハルドは我慢することにしてネックスに乗り込んだ。そう言えばとハルドは今になり気づいた。この機体はなんという名前なのか知らないことに。
「レビー、この機体なんて名前だ?」
「ネックスAB(アサルトブースター)です」
なんだか普通だなぁ、と思いながら、ハルドは機体を移動させる。1G環境に全く対応していない機体なので、どうにもならず宇宙港に係留してある機体なので、移動も楽だった。
「そいじゃ、ハルド・グレン。ネックス先行して発進するぞ」
宇宙港の皆に聞こえるように言って、ハルドのネックスは加速を開始した。その瞬間に、ハルドのネックスは見えなくなっていた。
「いやーあんな風に加速するんですね」
「思った以上に速いな。実験は成功だったな」
レビーとマクバレルはネックスの去った後を見て、ハイタッチしたのだった。
「ハルドさん、凄いの乗ってるんだねー」
ミシィはノンビリと言うが、セインはあの機体によって刻まれた恐怖は消えていなかった。
「いや、あの機体は凄いっていうか、うん凄いけど、良くないよ」
セインは去っていたハルドの無事を思うのだった。

ああ、死ぬなこれ……、ハルドは意識を保つのに必死だった。今自分にかかっているGはどれくらいなのかと考える余裕はあったが、その程度しか考える余裕が無かったとも言える。
「活性剤を投与します」
アーマーから声がし、ハルドは首筋に何かの注射を打たれたのを感じた。活性剤ってなによとハルドはそれほど学識が無いわけではないので、活性剤という言葉に何か危険なものを感じていた。
しかし、活性剤というもののおかげなのか、ハルドは意識がハッキリとしてきた。身体がGに押しつぶされているのは変わらないが、何となく動けるような気がしていた。
「ヤバい薬だ。間違いなくヤバい薬だ」
ハルドは思わず口にした。おそらくストーム辺りが調合した麻薬などの類だろう。冗談じゃないとハルドは思いながら、ネックスを操る。早くアメノミハシラに着かなければ自分は薬漬けにされるという危機感がハルドにはあった。
104ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/03/10(火) 05:13:03.56 ID:gNBGw6/X0
アルバ・ジン・サハクは地球連合軍そしてクライン公国軍のからの散発的な攻撃に苦しめられていた。
オーブでの防衛戦の敗北後、実家のサハク家に戻ってきたアルバであったが、すぐに戦闘へと身を投じることになった。オーブという国の最後の砦であるアメノミハシラを守るために。
「く、世界はそんなにも、オーブを敵視するのか」
アルバは地球連合軍の量産型MSを乗機のM4アストレイゴールドフレームの右腕のシールドに内蔵されたブレードで一刀両断にすると、即座に別の機体に対して、シールドに内蔵されたビームライフルを連射し、撃墜する。
M4アストレイゴールドフレームの右腕のシールド内部には様々な武器が内蔵されている。これにより、ほぼ全ての距離で戦闘が可能だった。
「アルバ様、クライン公国軍が迫っております。一時撤退を」
アルバはサハク家の生まれであり、次期当主。アメノミハシラの責任者の一人であった。そのような身分であれば、危険な戦場であれば引くことも重要である。だが、アルバはそれを選択できない男だった。
「オーブの将兵が命を賭して戦っているこの戦場にて、アルバ・ジン・サハクのみが引いてなるものか!我こそはオーブの守護神ぞ!」
そう叫び、アルバは視界に入って来た大量のクライン公国軍へと突撃していった。
その直後だった。どこからか分からない、大量のミサイルがクライン公国軍の部隊を消し飛ばし、高出力のプラズマ砲がクライン公国軍の戦艦を貫き、轟沈させた。アルバは何事かと思った。地球連合軍の仕業とは思えない鮮やかな手並みだったからだ。
そうアルバ疑問を抱いた瞬間、アルバのゴールドフレームの横を大量にブースターを取り付けた機体が通り過ぎた。
何者、今のオーブに対して援軍を差し向けてくれるような組織や集団などあるはずが無いとアルバが思った瞬間だった。文章メッセージがアルバに届いた非常に短いメッセージだった。
「我、援軍なり」
ハルドはネックスのコックピットで死にそうになりながら、メッセージを打った。声で伝えなかったのは、機体のGが凄まじく肺が圧迫されて声が出せないのと、
新しいアーマーが何を思ったか、喉に直接、針を刺しており、さらにその刺し方が適当で声帯に傷を負ったためだった。
「援軍、感謝する!敵の襲撃もしばらくは無いはずだ。一度休まれよ!」
アルバの声が聞こえたが、ハルドとしてはそう簡単に休めない。ありがとう、休ませてもらうよ、と言って急制動をかけた瞬間にハルドの身体はGに潰されて死ぬ。制動をかけるにはネックスを減速させなければならなかった。
「我、機体関係故、減速必要、周回減速」
ハルドは、そう文章メッセージを送ると、ネックスの速度をゆっくり落としながら、アメノミハシラの周りを回る。
確か元は機動エレベーターのステーションの一つとして建設されていたのだと思い出した。ベースは綺麗な円形を描いているが、その周囲にゴテゴテと色々な区画がついたのは時代の流れかとハルドは思った。
減速は粗方完了したかとハルドは思った。すると、金色の悪趣味と言うかなんというか分からないM4アストレイがハルドのネックスを誘導していた。ハルドはその誘導に従い機体を移動させる。
アメノミハシラのMS発進エリアは思ったより巨大で、普通の機体よりもはるかに巨大なネックスABを楽に収容できた。ハルドはアメノミハシラにようやく到着したことで、大きく息を吐いた。
全身薬漬けで身体中注射針だらけだが、とりあえず任務を果たせたことを良しとすることにした。ハルドはとりあえず機体を降りることにした。
すると、機体のコックピットハッチの前には人だかりが出来ており、ハルドはコックピットのハッチを開けた瞬間に多くの人々に囲まれることとなった。
「援軍感謝する!筆舌にも尽くしがたい思いだ!」
短髪で赤毛の男がハルドの手を握ってきた。こちらはアーマーのバイザーも上げてない、見た目は怪人かMS状態だというのに、まぁ色々と思うところがあったのだろうと思い、ハルドはアーマーのバイザーを上げた。その瞬間だった。
「がはっ」
ハルドは血を吐いて意識を失った。
105ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/03/10(火) 05:14:17.88 ID:gNBGw6/X0
ハルドが目覚めたのは野戦病院のベッドのようだった。周囲にはけが人ばかりだった。
「あーあいいううええ?」
ハルドは何となく声を出そうと思ったが、上手く声が出なかった。おそらく、あのアーマーのせいだと思った。声帯が傷つけられて声が出ないのだ。
「だめですよ、喉に穴が空いて声帯も傷ついている上に肺に穴が空いているし、栄養剤などの多量投与です。動くのはお勧めできません」
ハルドが目を覚ましたのに気づいた医者がそう言っても、ハルドには仕事があった。とりあえず紙とペンらしき物を調達し、偉い人間に会わせろと道行くに人に尋ねた結果、作戦司令部に辿り着いた。
作戦司令部は重苦しい雰囲気だった。真ん中には赤毛で短髪の男が悔しそうな表情でいた。
「やはり、どちらかの軍門に下るしか生き延びる道は……」
参謀らしき男が言うが、赤毛の男はその男を睨みつけた。
「オーブは独立と自治を何よりとしてきた国だぞ!そんなことをして祖先の御霊に恥ずかしいとは思わないか!」
そんな風に赤毛の男が叫んでいた時にハルドは、周りを気にせず、どっしりと作戦司令部の空いていた椅子に座る。
「別にどちらかの軍門に加わる必要はない」
ハルドは声が出せないのでペンで紙に字を書き、赤毛の男に渡した。
「貴公は援軍に来てくれた……、しかしどうして喋らないのだ?それに何と書いてあるか分からないのだが」
ハルドは自分が達筆すぎることを忘れていた。達筆すぎて読めないのである。幼少期に散々仕込まれたせいで、今でも異常な達筆なのであった。そして喋れないことに関しては、喉を指さしてから、指でバツ印を示すと赤毛の男は察してくれた。
ハルドは書き直して、赤毛の男に渡すと、赤毛の男はハルドに対してすがるような目を向けた。ハルドはクリスから事前に渡されていた同盟締結の書類と自分のメモ書きを赤毛の男に渡した。
「クランマイヤー王国は地球連合の後ろ盾を持つ国だ。クランマイヤー王国と同盟を結べば間接的には地球連合の味方になるが、それによって地球連合に直接支配されずに済む。独立と自治を守るにはこれしかないと思うが?」
ハルドは同盟締結の書類を持ったままの赤毛の男が考えるのを見守った。見守っている中、ハルドはとにかくティッシュが欲しくなった、タンのようなものが喉に絡んでしかたない。
「ティッシュない?」
ハルドはメモをにそう書いて、適当な人たちに見せるとすぐにティッシュを貰えた。これで良かったと思い、ハルドは咳をしてタンを出した。その直後ハルドはサーッと顔面の血が引くのを感じた。
ティッシュにはタンではなく大量の血が付着していた。血を見るのは慣れているが、血を吐くのには慣れていないハルドは若干の焦りを感じた。
そんなハルドの焦りを知る由もなく、アルバはひたすらに悩んだあげく、答えを出した。
「やはり駄目だ!地球連合は仮にもオーブ本国を侵略し征服した相手だ。間接的とはいえそんな奴らと肩を並べることなど、私には……っ!」
そう言いながらもアルバが決断をまだ悩んでいるのは、表情から明らかだった。ハルドは何でもいいから早くしてくれねぇかな、と思っていた。先ほどから咳をするたびに血を吐いており、ハルドの横には血まみれのティッシュが山のようになっていた。
「もういいじゃねぇか、昔のことは置いとこうぜ。それより今を生き延びることを優先しようぜ」
ハルドはメモ書きをアルバに投げ渡した。アルバはそのメモ書きを見た瞬間に顔を怒りに染める。
106ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/03/10(火) 05:15:18.70 ID:gNBGw6/X0
「貴公はよそ者だから分からないだろうが、我々にも誇りがというものがある。そう簡単に割り切れるものではないのだ!」
そうアルバが叫んだ瞬間、ハルドはとりあえずアルバの顔面を殴り飛ばした。
「うるせぇ、さっさと同盟締結の書類にサインしろ」
ハルドは殴られ、床に座り込んだ状態のアルバにメモ書きを投げ渡した。ハルドからすればアルバらの誇りなどどうでもよく、口から大量に溢れてくる血の方が問題だったので、さっさと解決してもらいたかったのだった。
「貴様ぁーっ!」
アルバが怒りに任せてハルドに向かってくるが、甘いとハルドは思った。
ハルドは体重を乗せたローキックをアルバの太ももに叩き込み、その痛みと衝撃で足が止まった瞬間、顔面にジャブを二発、そしてストレートのコンビネーションを叩き込み、アルバをノックアウトした。
その瞬間に参謀らしき男が飛びかかって来たが、ひじ打ちを顎に決めて、一撃で倒し、別の男は股間を全力で蹴り飛ばした。
よっしゃ、どんどんかかって来い。ハルドは絶好調だった。口からは血が止めようもなく溢れているがテンションは最高潮だった。とりあえず司令部の全員をブッ飛ばす。そしてむりやり同盟締結の書類を書かせればいいとハルドはそういう結論に達した。
そして実際に全員を殴り倒したあとだった。
「やめんか!」
うるせぇ!ハルドは声のした方に向かって飛び蹴りを放ち、声の主を一撃でノックアウトさせた。余裕じゃねぇか。そう思った瞬間がハルドの限界だった。血を吐きすぎたせいかもしれないとハルドは思い、クラクラとして床にしゃがみこんだ。
「父上!」
アルバが起き上がり、鼻から血を垂らしながら、ハルドが飛び蹴りで沈めた相手に対して叫ぶ。あ、親父さんなのね、ハルドは飛び蹴りを直撃させた相手を見る。しかし似ていない親子だなと思った。まぁコーディネーターなら別におかしくもないかとも思った。
「貴様、よくも父上を!」
お、やるか?とハルドは自分を見下ろしてくるアルバを見て思う。こちらは体力が限界なだけで、気力は充分だ。ぶっ殺してやるよ、とハルドの闘争本能は最高潮に達していた。その時だった。
「やめんか、バカ者ども!」
ハルドが飛び蹴りを当てた相手が、何とかといった感じで起き上がっていた。すかさずアルバが駆け寄り体を支える。
「使者どのには、どういうつもりでこのような狼藉を働いたのか尋ねたいものですな」
ハルドが飛び蹴りを当てた男は老年に入ったばかりの男性だった。ハルドはメモに書く。
「お前らがグチャグチャとうるさいから、黙らせた」
ハルドはメモにそう書いて見せる。
「グチャグチャとはなんだ貴様!」
アルバが怒鳴るが壮年の男性はまぁ落ち着けとアルバをなだめる。
「私はエルド・レム・サハク。サハク家の当主にして、このアメノミハシラの統治者である」
そりゃ、大層な身分だこって、とハルドが思った瞬間、ハルドは血を吐いた。ハルドはメモに書いて見せる。
「病気の類ではないので、ご安心を。喉と肺にちょっと穴が空いているだけです」
ハルドとしてはそれよりも、早く同盟締結の書類を何とかしたかった。
「アルバや、同盟締結の書類をここに」
「父上!?」
賢明な判断だとハルドは思った。ペンはこれを使ってくれと、ハルドはエルドに持っていたペンを渡した。
「これが同盟締結の書類か。しかし随分と古い上に、そちらの国の名前は既にかかれてあるようだが?それに日付も少し前のようだ」
それも苦肉の策だった。アッシュや姫を連れてアメノミハシラまで連れて行って書類にサインをさせたのでは間に合わない可能性が高いと悩んでいた時に、ミシィから思わぬ案が出たのだ。
「先に書いておけばいいんじゃないんですか?ドラマとかでも離婚の書類に先に名前を書いておいて机の上に置いておくとかいうパターンあるじゃないですか」
クリスはその案に乗った。そして書類が古いように見えるのは、真新しい紙に最新の日付だと地球連合に難癖をつけられる可能性もあるので色々と偽装工作をしたのだ。
アッシュは最後まで反対したが、クリスとハルドで押し切った。こちらにはユイ・カトーとストームという公文書偽造のエキスパートがいるので大した問題ではなかった。
107通常の名無しさんの3倍:2015/03/10(火) 09:57:54.02 ID:V3X+84oH0
支援
108ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/03/11(水) 02:48:43.89 ID:MOyib2HZ0
「それに名前を書けば、アメノミハシラとクランマイヤー王国は同盟関係になる。とにかくやるなら早くやってくれ」
ハルドは意識を失いそうな状態だったが、必死でこらえた。
「しかし、父上」
アルバはまだ何か言いたそうだったが、父のエルドがそれを押しとどめる。
「誇りは大事だ。だがそれよりも大事にしなければいけないのは、今の国だ」
エルドはそういうと、書類にサインをした。これで仕事は終わりだな、とハルドは一瞬思ったがそう簡単にも行かないとすぐに思い至った。
「地球連合は引くぜ。間違いなくな。直接同盟関係のないコロニーを守る義理はないからな」
そうメモに書きアルバに渡すと続けてメモを書き。アルバに渡す。
「心配すんな。クランマイヤー王国の軍がこっちに最速で向かってる。安心しながら、少し耐えるぞ」
そのメモ書きをアルバに渡すとエルドから書類を同盟締結の書類を奪うと、ハルドは司令部付きのオペレーターに渡し、画像付きで地球連合軍の艦隊に通信を送れと命令をした。
「あの、私、アメノミハシラのオペレーターなので外部の方の命令はちょっと……」
そう言うと、ハルドは新しくメモを書いてオペレーターに見せた。
「グチャグチャ言うとお前のアソコにナイフをぶち込むぞ」
そのメモ書きと先ほどまでの暴力の現場を見ていた以上、オペレーターは従うしかない状態になった。
「ええと、文面は?」
「クランマイヤー王国と同盟関係にあるんで引いてくれって送れ、地球連合に対する優遇措置も検討しているって付けてな」
優遇措置という言葉を聞いてアルバいきり立って、ハルドに向かっていくがハルドは後ろ回し蹴りでアルバを迎撃した。
「美味しいエサでもつけなきゃ引かねぇだろ?少し我慢しろ」
ハルドはそう書いたメモ書きをアルバに放り投げる。アルバは歯を食いしばり屈辱を必死にこらえていた。するとアルバの父のエルドが穏やかな表情で息子の肩に手を置く。
「息子よ。辛いだろうが、綺麗事だけで済むほど我々の住む世界は洗練されてはいないのだ。時には淀みを飲み込むことも学ぶのだ」
つまりは清濁併せて飲み込んで、合理的に生きろよクソ坊ちゃん。ハルドは声が出ないので、せめて好き放題に考えて喋ったつもりになることにした。
「あ、あのー本当に文章を送っていいんでしょうか」
オペレーターはハルドの命令に従っていいのか、まだ考えあぐねていたようで、アルバとエルドに伺いを立てた。
「さっさと送れよクソ女。マジでナイフとf○ckさせるぞ」
ハルドはメモを渡しその上で、オペレーターの椅子の背もたれを蹴飛ばしたが、それがハルドの活動限界だった。ハルドは虚脱感を感じ、その場に倒れた。
あ、まずいなとハルドは思った。多分これは良くない倒れ方だ。身体を動かすのに必要な成分が根本的に足りなくなっているせいだとハルドは思った。
「文章の件は構わない。そのまま送ってくれ」
エルドはオペレーターにそう言うと、オペレーターは安心した顔で文章を打ち始めた。
その間、アルバとエルドはというと、床に倒れ、意識が朦朧としているハルドを見下ろしていた。
109ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/03/11(水) 02:50:17.48 ID:MOyib2HZ0
「使者とはいえ、常識的に考えてこれだけの乱行を起こしたのです。憲兵に独房まで連行させましょう」
「うむ、それがいいな。ただし、独房の中できちんと治療は行わせるように」
当然ですとアルバが言うと、憲兵が司令部に入って来た。アルバの指示によるものだろうとハルドは思った。
まぁこのまま連行されても良いとも思ったが、ハルドは憲兵というものが大嫌いだった。軍にいた時代に相当な回数厄介になっていたことが原因だった。なので最後の気力を振り絞ることにした。
ハルドはゆらりと立ち上がると、一番近くにいたアルバの鳩尾にボディブローを叩き込んだ。そして最後のメモを書いて放り投げる。
「これがクランマイヤー王国流の交渉術だ」
崩れ落ちるアルバの次はエルドだった。全く落ち度が無いのにもかかわらず、ハルドの裏拳を顎に受けて意識を失った。
ハルドは次に憲兵に目を付けると、一番先頭の憲兵に口の中の血を吹きかけた。それによって生じた明らかな隙を狙って顔面に右フックを叩き込み、一撃で昏倒させる。
次の憲兵は前蹴りを鳩尾に叩き込み、それとコンビネーションでハイキックを叩き込み床に沈め、三人目の憲兵は肘打ちで意識を刈り取り、四人目はボディブローで体がくの字になった瞬間頭を押さえ、顔面に膝蹴りを叩き込んだ。
「銃が無いと無理ですよ、こんな化け物!」
憲兵の一人が泣き言を言った瞬間に右フックを食らい、床に倒れ伏す。その直後だった。ハルドも限界に達し、床に倒れ伏した。ハルドは上出来だと思うことにした、死にかけの身体で相当な数を殴り倒した。そのことにハルドは満足して意識を失った。
110ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk
42話終了です。支援どうもでした