新人職人がSSを書いてみる 28ページ目 [転載禁止]©2ch.net

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1通常の名無しさんの3倍
新人職人さん及び投下先に困っている職人さんがSS・ネタを投下するスレです。
好きな内容で、短編・長編問わず投下できます。

分割投下中の割込み、雑談は控えてください。
面白いものには素直にGJ! を。
投下作品には「つまらん」と言わず一行でも良いのでアドバイスや感想レスを付けて下さい。

荒れ防止のためこれまで「sage」進行を用いておりましたが、
現在当板の常駐荒らし「モリーゾ」の粘着被害に遭っております。
「age」ると荒れるという口実で「sage」を固持しつつ自演による自賛行為、
また職人さんのなりすまし、投下作を恣意的に改ざん、外部作のコピペなど更なる迷惑行為が続いております。

よって現スレより荒らし行為が消滅するまで暫定的な措置ではありますが、
職人さん、住民の方々全てにID出しのご協力をお願いいたします。
ID出しにより自演が多少煩雑になるので、一定の効果はあります。
また、職人氏には荒らしのなりすまし回避のため、コテ及びトリップをつけることをお勧めします。
(成りすました場合 本物は コテ◆トリップ であるのが コテ◇トリップとなり一目瞭然です)

SS作者には敬意を忘れずに、煽り荒らしはスルー。
本編および外伝、SS作者の叩きは厳禁。
スレ違いの話はほどほどに。
容量が450KBを越えたのに気付いたら、告知の上スレ立てをお願いします。
本編と外伝、両方のファンが楽しめるより良い作品、スレ作りに取り組みましょう。

前スレ
新人職人がSSを書いてみる 27ページ目
http://peace.2ch.net/test/read.cgi/shar/1416950729/

まとめサイト
ガンダムクロスオーバーSS倉庫 Wiki
http://arte.wikiwiki.jp/

新人スレアップローダー
http://ux.getuploader.com/shinjin/
2巻頭特集【テンプレート】:2015/01/08(木) 19:25:05.67 ID:oLARq9qw0
〜このスレについて〜

■Q1 新人ですが本当に投下して大丈夫ですか?
■A1 ようこそ、お待ちしていました。全く問題ありません。
但しアドバイス、批評、感想のレスが付いた場合、最初は辛目の評価が多いです。

■Q2 △△と種、種死のクロスなんだけど投下してもいい?
■A2 ノンジャンルスレなので大丈夫です。
ただしクロス元を知らない読者が居る事も理解してください。

■Q3 00(ダブルオー)のSSなんだけど投下してもいい?
■A3 新シャアである限りガンダム関連であれば基本的には大丈夫なはずです。(H22,11現在)

■捕捉
エログロ系、801系などについては節度を持った創作をお願いします。
どうしても18禁になる場合はそれ系の板へどうぞ。新シャアではそもそも板違いです。

■Q4 ××スレがあるんだけれど、此処に移転して投下してもいい?
■A4 基本的に職人さんの自由ですが、移転元のスレに筋を通す事をお勧めしておきます。
理由無き移籍は此処に限らず荒れる元です。

■Q5 △△スレが出来たんで、其処に移転して投下してもいい?
■A5 基本的に職人さんの自由ですが、此処と移転先のスレへの挨拶は忘れずに。

■Q6 ○○さんの作品をまとめて読みたい
■A6 まとめサイトへどうぞ。気に入った作品にはレビューを付けると喜ばれます

■Q7 ○○さんのSSは、××スレの範囲なんじゃない?
△△氏はどう見ても新人じゃねぇじゃん。
■A7 事情があって新人スレに投下している場合もあります。

■Q8 ○○さんの作品が気に入らない。
■A8 スルー汁。

■Q9 読者(作者)と雑談したい。意見を聞きたい。
■A9 旧まとめサイトの作品まとめ自体は2012年3月でサービスを終了しておりますが、掲示板は利用できます。
ご活用ください。
3巻頭特集【テンプレート】:2015/01/08(木) 19:25:50.34 ID:oLARq9qw0
〜投稿の時に〜

■Q10 SS出来たんだけど、投下するのにどうしたら良い?
■A10 タイトルを書き、作者の名前と必要ならトリップ、長編であれば第何話であるのか、を書いた上で
投下してください。 分割して投稿する場合は名前欄か本文の最初に1/5、2/5、3/5……等と番号を振ると、
読者としては読みやすいです。

■補足 SS本文以外は必須ではありませんが、タイトル、作者名は位は入れた方が良いです。

■Q11 投稿制限を受けました(字数、改行)
■A11 新シャア板では四十八行、全角二千文字程度が限界です。
本文を圧縮、もしくは分割したうえで投稿して下さい。
またレスアンカー(>>1)個数にも制限がありますが、一般的には知らなくとも困らないでしょう。
さらに、一行目が空行で長いレスの場合、レスが消えてしまうことがあるので注意してください。

■Q12 投稿制限を受けました(連投)
■A12 新シャア板の場合連続投稿は十回が限度です。
時間の経過か誰かの支援(書き込み)を待ってください。

■Q13 投稿制限を受けました(時間)
■A13 今の新シャア板の場合、投稿の間隔は忍法帖のLVによって異なります。時間を空けて投稿してください。

■Q14
今回のSSにはこんな舞台設定(の予定)なので、先に設定資料を投下した方が良いよね?
今回のSSにはこんな人物が登場する(予定)なので、人物設定も投下した方が良いよね?
今回のSSはこんな作品とクロスしているのですが、知らない人多そうだし先に説明した方が良いよね?
■A14 設定資料、人物紹介、クロス元の作品紹介は出来うる限り作品中で描写した方が良いです。

■補足
話が長くなったので、登場人物を整理して紹介します。
あるいは此処の説明を入れると話のテンポが悪くなるのでしませんでしたが実は――。
という場合なら読者に受け入れられる場合もありますが、設定のみを強調するのは
読者から見ると好ましくない。 と言う事実は頭に入れておきましょう。
どうしてもという場合は、人物紹介や設定披露の短編を一つ書いてしまう手もあります。
"読み物"として面白ければ良い、と言う事ですね。
4巻頭特集【テンプレート】:2015/01/08(木) 19:26:17.52 ID:oLARq9qw0
〜書く時に〜

■Q15 改行で注意されたんだけど、どういう事?
■A15 大体四十文字強から五十文字弱が改行の目安だと言われる事が多いです。
一般的にその程度の文字数で単語が切れない様に改行すると読みやすいです。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
↑が全角四十文字、
↓が全角五十文字です。読者の閲覧環境にもよります。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あくまで読者が読みやすい環境の為、ではあるのですが
閲覧環境が様々ですので作者の意図しない改行などを防ぐ意味合いもあります。

また基本横書きである為、適宜空白行を入れた方が読みやすくて良いとも言われます。

以上はインターネットブラウザ等で閲覧する事を考慮した話です。
改行、空白行等は文章の根幹でもあります。自らの表現を追求する事も勿論"アリ"でしょうが
『読者』はインターネットブラウザ等で見ている事実はお忘れ無く。読者あっての作者、です。

■Q16 長い沈黙は「…………………」で表せるよな?
「―――――――――!!!」とかでスピード感を出したい。
空白行を十行位入れて、言葉に出来ない感情を表現したい。
■A16 三点リーダー『…』とダッシュ『―』は、基本的に偶数個ずつ使います。
『……』、『――』という感じです。 感嘆符「!」と疑問符「?」の後は一文字空白を入れます。
こんな! 感じぃ!? になります。
そして 記 号 や………………!! 



“空 白 行”というものはっ――――――――!!!


まあ、思う程には強調効果が無いので使い方には注意しましょう。

■Q18 第○話、って書くとダサいと思う。
■A18 別に「PHASE-01」でも「第二地獄トロメア」でも「魔カルテ3」でも「同情できない四面楚歌」でも、
読者が分かれば問題ありません。でも逆に言うとどれだけ凝っても「第○話」としか認識されてません。
ただし長編では、読み手が混乱しない様に必要な情報でもあります。
サブタイトルも同様ですが作者によってはそれ自体が作品の一部でもあるでしょう。
いずれ表現は自由だと言うことではあります。

■Q19 感想、批評を書きたいんだけどオレが/私が書いても良いの?
■A19 むしろ積極的に思った事を1行でも、「GJ」、「投下乙」の一言でも書いて下さい。
長い必要も、専門的である必要もないんです。 専門的に書きたいならそれも勿論OKです。
作者の仕込んだネタに気付いたよ、というサインを送っても良いと思われます。

■Q20 上手い文章を書くコツは? 教えて! エロイ人!!
■A20 上手い人かエロイ人に聞いてください。
5ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/13(火) 02:17:30.96 ID:RvaJ3NFm0
スレたてしたのはいいですが、数字の部分が全角でしたね。すみません。
ついでに前スレに止めをさしてしまい、申し訳ないです。
とりあえず投下します。
6ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/13(火) 02:18:06.37 ID:RvaJ3NFm0
クランマイヤー王国では段々と蒸し暑さを感じるようになっていた。ハルドは、その理由を姫から聞いた。
「クランマイヤー王国は季節を設定している珍しいコロニーなのです。四季があるんですよ。夏は第2農業コロニーの海で泳いでも良くなりますし、冬には雪が降ります」
季節循環型コロニーなんてまた面倒な物をとハルドは思った。昔一時期流行ったが、結局適温で固定したほうがコロニーの住人は住みやすいということで、廃れていったのだが、クランマイヤー王国ではまだ続いているようだった。
「湿度高いなぁ」
そう言いながら、ハルドはべたつく衣服を引っ張りながら、草地に倒れ伏しているセインを見下ろしていた。
「もう一回お願いします」
倒れたままセインが言うが、倒れたままでは無理なのでハルドは無視した。
セインが倒れ伏しているのは訓練のレベルを上げたからである。とりあえず木の棒での打ち合いに更に体を使ってもいいとルールを付け加えたらこのざまである。
まだ回数は少ないが、セインは思いっきりやられていた。投げられるは殴られるは蹴られるは棒で叩かれるはで、ボコボコにされる毎日だった。
「とりあえず、これで、俺の攻撃が粗方防げるようになったら、敵の攻撃に対応する能力は上がるだろうよ」
ハルドはそう言っていた。セインとしては、この前のテロリストとのMS戦で格段に動かしやすくなったことと、相手の動きが見えるようになったことで訓練に効果あると分かり、訓練に前向きに取り組んでいた。
「夏に体を動かすのはウンザリ」
ハルドの方はそれほど訓練に積極的というわけでもなかった。
「水でも飲んでろ。俺が帰って来るまで休憩な。帰ってこなかったら、訓練は無しだ」
適当な物言いでハルドは倒れ伏したままのセインを放って去ってしまった。セインは倒れたまま、釈然としない気分でハルドが去って行くの見届けるしかなかった。

「はぁー」
アッシュは蒸し暑い中、義勇兵たちの訓練の様子を見ていた。アッシュの外見は完全に元通りとなっており、やつれた様子はない。
「はぁあー」
アッシュはとにかくため息をついていた、それは義勇兵が関係あることで義勇兵の訓練が思うように進んでいないことに起因するものだった。
義勇兵の数は百人以上は集まったが、アッシュとしては最低でもその十倍は欲しかった。数が足りないのは仕方ないと思うが、義勇兵の訓練態度にも問題がある。遊びか健康のための運動目的で加わっている人間も相当数いて、訓練に真剣味がない。
ジェイコブとペテロなどはきちんと訓練メニューをこなしており、士気も高いが、それ以外となるとなんともと言った感じだった。
義勇軍には軍務経験者も参加してくれることになった。それは第1農業コロニーにある強制収容所にいた人々が収容されている施設の人々で、元軍人という人々だった。
立てこもりやテロには加わらなかった、ある程度良識のある人間である。彼らは義勇軍に加わるといった際に条件を出した。それはクランマイヤー王国の国籍と、職、そして住居である。
それを提供することは特に問題がなかった。
元軍人の人々は現在は、農民か工員もしくは何らかの技能を持っている者は、それが活かせる職につき、住居を与えられ、クランマイヤー王国の国民となり、義勇兵にも加わった。
職やら何やらで釣ったため、本当のところ義勇兵と言って良いのか疑問は残るが。
しかし、軍務経験者が加わったところで、義勇兵の訓練が良くなるわけでもなく、アッシュは、どうにもならないといった気持ちを持ちながら、教官役を続けることになるのだった。
7ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/13(火) 02:19:32.97 ID:RvaJ3NFm0
タイトル入れ忘れです
機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第15話

クランマイヤー王国では段々と蒸し暑さを感じるようになっていた。ハルドは、その理由を姫から聞いた。
「クランマイヤー王国は季節を設定している珍しいコロニーなのです。四季があるんですよ。夏は第2農業コロニーの海で泳いでも良くなりますし、冬には雪が降ります」
季節循環型コロニーなんてまた面倒な物をとハルドは思った。昔一時期流行ったが、結局適温で固定したほうがコロニーの住人は住みやすいということで、廃れていったのだが、クランマイヤー王国ではまだ続いているようだった。
「湿度高いなぁ」
そう言いながら、ハルドはべたつく衣服を引っ張りながら、草地に倒れ伏しているセインを見下ろしていた。
「もう一回お願いします」
倒れたままセインが言うが、倒れたままでは無理なのでハルドは無視した。
セインが倒れ伏しているのは訓練のレベルを上げたからである。とりあえず木の棒での打ち合いに更に体を使ってもいいとルールを付け加えたらこのざまである。
まだ回数は少ないが、セインは思いっきりやられていた。投げられるは殴られるは蹴られるは棒で叩かれるはで、ボコボコにされる毎日だった。
「とりあえず、これで、俺の攻撃が粗方防げるようになったら、敵の攻撃に対応する能力は上がるだろうよ」
ハルドはそう言っていた。セインとしては、この前のテロリストとのMS戦で格段に動かしやすくなったことと、相手の動きが見えるようになったことで訓練に効果あると分かり、訓練に前向きに取り組んでいた。
「夏に体を動かすのはウンザリ」
ハルドの方はそれほど訓練に積極的というわけでもなかった。
「水でも飲んでろ。俺が帰って来るまで休憩な。帰ってこなかったら、訓練は無しだ」
適当な物言いでハルドは倒れ伏したままのセインを放って去ってしまった。セインは倒れたまま、釈然としない気分でハルドが去って行くの見届けるしかなかった。

「はぁー」
アッシュは蒸し暑い中、義勇兵たちの訓練の様子を見ていた。アッシュの外見は完全に元通りとなっており、やつれた様子はない。
「はぁあー」
アッシュはとにかくため息をついていた、それは義勇兵が関係あることで義勇兵の訓練が思うように進んでいないことに起因するものだった。
義勇兵の数は百人以上は集まったが、アッシュとしては最低でもその十倍は欲しかった。数が足りないのは仕方ないと思うが、義勇兵の訓練態度にも問題がある。遊びか健康のための運動目的で加わっている人間も相当数いて、訓練に真剣味がない。
ジェイコブとペテロなどはきちんと訓練メニューをこなしており、士気も高いが、それ以外となるとなんともと言った感じだった。
義勇軍には軍務経験者も参加してくれることになった。それは第1農業コロニーにある強制収容所にいた人々が収容されている施設の人々で、元軍人という人々だった。
立てこもりやテロには加わらなかった、ある程度良識のある人間である。彼らは義勇軍に加わるといった際に条件を出した。それはクランマイヤー王国の国籍と、職、そして住居である。
それを提供することは特に問題がなかった。
元軍人の人々は現在は、農民か工員もしくは何らかの技能を持っている者は、それが活かせる職につき、住居を与えられ、クランマイヤー王国の国民となり、義勇兵にも加わった。
職やら何やらで釣ったため、本当のところ義勇兵と言って良いのか疑問は残るが。
しかし、軍務経験者が加わったところで、義勇兵の訓練が良くなるわけでもなく、アッシュは、どうにもならないといった気持ちを持ちながら、教官役を続けることになるのだった。
8ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/13(火) 02:20:12.87 ID:RvaJ3NFm0
ハルドは適当にコロニーの中をぶらついていた。涼めるところを探してだ。涼しさならばこの間修理を終えた王家邸に行けば、涼しいのだろうが、姫やヴィクトリオなどの子どもがいる。
結局、子どもの相手で暑い思いをしなければならなくなることが想像ついたので、王家邸は避けることにした。そうしてぶらついていると、行く先は案外少なく、MS製造工場に向かう以外選択肢は無かった。
MS製造工場に到着すると、半袖姿のレビーとマクバレルの姿を見つけた。
「あ、隊長、良いところに!」
レビーもハルドを見つけたようで、ハルドに声をかける。別に悪い予感はしなかったのでハルドはレビーの元に行くと、ついてきてくださいとだけ言って、ハルドを先導する。
「なんかあんの?」
「見てのお楽しみだ」
マクバレルがフフフと笑っていて気持ち悪いが、レビーは何もしない。どうやらこれは許容範囲のようだった。
そうしているうちにレビーが車椅子を止める。
「見せたいのはこれです!」
そう言われる前からハルドは、レビーが見せたいものが視界に入っていた。レビーが見せたがっていた物、それは新型のMSであった。
「名前はフレイドという。月から持ってきた開発途中の機体がようやく完成したのだ」
マクバレルが説明を始める。めんどくさくなりそうなのでハルドは聞き流すことにした。その代わりに機体を見る。
かなり大型の機体である。現行の機体と比べると一回り以上は大きい。機体全体のシルエットは鋭角的である。頭部は地球連合系のゴーグル型メインカメラであるが、印象的なのは前へと突き出した角である。
太さは機体の頭部とほぼ同じサイズであり、妙な厚みがあり、ゴツゴツとしており滑らかな表面ではない。
後は背中が印象的である、砲身のような筒状の大型スラスターユニットが2つ付いている。筒状のスラスターユニットの先端はいかにもスライドし、武装の発射口となると予想がついた。
後は肩だが、長方形型のパーツが付いている。これもスライドして武装の発射口となりそうな気がした。
武装は他に腰にグレネードの発射ユニットが付いている他、前腕部手首の近くに銃口が見える。
「結構な重装型だな」
「うむ、その通りだ」
マクバレルが答えるのかとハルドは少しウンザリした気分になった。
「機体を大型化した分、動力も巨大化、結果として出力と積載能力に余裕ができたため、可能となった重装備だ。これこそが、MSの進んでいく進化の道の1つと言った機体だ」
「進化の道?」
大仰なことを言いだしたのでハルドは尋ね返した。
「そう、進化の道だ。MSを従来のサイズのまま運用していくには、限界が見えてきている。よって、MSは進化しなければならない。その1つの形がフレイドだ。大型化し大出力と多彩な武装を持ち全状況に対応できる怪物的な方向への進化だ」
そう言われてもハルドとしてはイマイチ、ピンとこない話である。
「乗る方としては性能が良ければなんでもいいけどな」
そう言うとマクバレルがハルドに食って掛かりそうになったので、先制攻撃でレビーがマクバレルの頭をスパナで叩いていた。そしてレビーはマクバレルの代わりに言う。
「性能も良いですよ。と言っても量産機なんで、ネックスほど圧倒的な感はないですけど、悪い機体じゃないと思います。ただ大きさに慣れが必要ですけど」
そう言うとレビーは手持ちのタブレットの画面をハルドに見せる。画面に映っているのはフレイドの設計図らしかった。曖昧なのは分解され過ぎていてイマイチ判断がつかないからだ。
9ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/13(火) 02:20:52.53 ID:RvaJ3NFm0
「量産ラインに乗せる準備は出来てるんで、アッシュさんからオーケーを貰えれば製造を開始します。ただライン製造できるのがパーツ段階までなので、組み上げとその後の調整は人力になるので、生産ペースを早くできないのが問題ですけど」
レビーの言うことに関して、ハルドが特に気にすることは無かった。生産ペースが遅いのもハルドが気にすることではない。だが、レビーが触れていない部分で気になることがあった。
「条約破りは?」
ハルドが聞いたのはアプリリウス条約に抵触していないかという点である。MSへの新技術の搭載を禁止するというような条約だが、ハルドとしては無視してしまえという感覚だった。そしてそれは、レビーも同じようだった。
「内蔵している武装が間違いなく引っかかりますが、誤魔化すのでご心配なく」
3年見ない間にしたたかになったなぁと、ハルドはつくづく思う。ユイ・カトーは3年前から金の亡者だったので、今更だが。
「とりあえず、このフレイドってのがクランマイヤー王国の主力量産機になるって考えていいんだよな?」
ハルドはレビーに聞いてみたが、レビーは少し困った表情になっている。その代わりにマクバレルが復活し、答えた。
「結論を出すのが早いのが凡人の悪いところだな、天才は熟考す――がっ」
レビーのスパナがもう一度マクバレルの頭を叩いた。
「実際、教授の言う通りなんですけどね。一応、月から持ってきた開発途中の機体が2機と図面だけで開発まで至ってないのが1機あるんで、最終的には4機から選んでもらうことになると思います」
「つっても、現状つくれる機体から作ってかないと、もしもの時に間に合わないぞ」
ハルドが言うとレビーは困った顔になる。
「だから困るんですよ。私的には後の2機の方が量産には向いてると思うんですけど、現状開発が上手くいってないんで」
そりゃ、難儀なことだとハルドは思うが、それに関しても自分には関係のない話しだ。軍事関係はアッシュにだいたいを任せている。機体もアッシュが選べばいい。
「その件は時期が来たらで良いんじゃないか、まぁ今やれることだけやってればいいんじゃねぇの」
ハルドは適当な気持ちで言った。レビーもだいたい察していた。ハルドが興味をもっていないことを。
「まぁとりあえず、造っときますよ。今のところ説明したのはアッシュさんにも全部、伝えておくんで、ご心配なく」
「そうかい、じゃ、頑張って」
そう言うと、ハルドはまたブラブラと歩き出した。目的地はないが、本音を言えば、この工場は暑いのでさっさと退散したかったのだ。

結局、ハルドは政庁舎に向かうことにした。そこで働いているユイ・カトーのオフィスはエアコンを効かせてあるのを思い出したからだ。
「うーす」
ハルドは政庁舎に到着するとノックもせず、ユイ・カトーのオフィスに入った。一応、相手は財務大臣ということになっているので国家の重鎮なわけだが、誰も本気でそう考えているわけではないので、別段だれも気にしない。ユイ・カトー本人も。
ユイ・カトーは書類の山と格闘していたが、楽しそうであった。どうやって儲けを出すかに必死に頭を働かせているのだ。それがユイ・カトーの幸せでもあった。儲けを出すことに頭を使うことが楽しく幸せなのである。
10ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/13(火) 10:01:39.68 ID:RvaJ3NFm0
ハルドはオフィスに備え付けてある冷蔵庫を勝手に開けると、その中から勝手に飲み物を取り出し、勝手に飲む。部屋の主の許可を取らず。
「1地球連合ドルですよ」
不意にユイ・カトーが言うが、ハルドは無視して来客用の椅子に座り、ゆったりとしながら冷たい飲み物に口をつける。
ハルドは部屋の主の発言を無視して、自分の言葉だけを伝える。
「アッシュが小銃300丁欲しいってさ」
「200丁分の予算を出すので、自分でやりくりして300丁買ってください。と伝えといてください」
大臣もやりくりして物買わないといけない時代か、大変だなぁとハルドは思う。
「あと、迫撃砲と戦車も欲しいって」
「欲しい物をリストにして渡してくださいと伝えてください。返答は後日というのも合わせて」
「了解しました財務大臣殿」
とハルドはおどけて言うと、再び飲み物に口をつけて、完全に休憩の体勢に入る。セインを放っておいているがまぁいいだろう。暑い中で訓練するのは面倒だ。とハルドは気だるい感じを隠さずに思った。
ハルドがぼんやりと休憩している中、ユイ・カトーは顔をしかめていた。
「うーん」
部屋の主が唸っているがハルドは一向に気にしなかった。
「うーん、あー」
ユイ・カトーは大げさに悩んでいる仕草をしていた。それもハルドに見えるようにだ。それでもハルドは無視をしていた。
「……少しは、気にするとかしないんですかね?」
とうとうユイ・カトーの方が折れてハルドに話しかけた。
「面倒だから早く言えよ」
ハルドの言うことも最もだったし、底意地の悪い男なので気づいていたが無視するのは分かり切っていたことだったのでユイ・カトーの失敗だった。
「ちょっと、問題があるんですよね」
そう言うと、ユイ・カトーはハルドに分からないと思いつつ貿易の話しをし始めた。ハルドは興味もなかったがなんとなく要点だけをまとめた。
「資源物資の輸入量が落ちてるって話しか?」
ハルドは端的にユイ・カトーの言っていたことをまとめていた。
「割と安価で供給量も安定しているコロニーからの資源の供給が滞っている。輸出制限をしているという発表も何も無いのにこれはおかしいと」
ユイ・カトーは頷いて、自身も簡単に説明を続ける。
「別にこっちとしては新しい輸入先を見つければ良いんで放っておいても良いんですがね。今までの貿易相手のコロニーが食糧生産が弱めのコロニーだったんで食糧生産の強いクランマイヤー王国の貿易相手としてはツーカーの関係だったんです。
新しい貿易相手を探すにしても、向こうの欲している物資とこっちの出せる物資の折り合いがつかないと面倒なんですよ。こっちが強い立場に立てるなら良いんですが、弱い立場になると、ホントに面倒なんです」
ハルドは話しを聞きながら、ふと思う。
「財務大臣って貿易まで担当するのか?」
「さぁ?気づいたら私の仕事になっていました。まぁそれはどうでも良いんですが」
ユイ・カトーとしては本当のところどうでも良くはなく、貿易関係も任されるようになってから仕事の量は倍どころではなくなっていた。仕事が多すぎてオフィスで寝泊まりするくらいだ。
だが、その分、役得もある。この世の中色々と計算の合わない金も出てくるのだ。
普通に財務大臣の仕事をしていた時も、計算が合わずに余った金があったし、貿易関係も仕事にしてからはもっと計算の合わない金が出るし、ユイ・カトーも良く、うっかり、たまに、ごくまれにだが計算間違いをする。
11ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/13(火) 10:02:21.54 ID:RvaJ3NFm0
「俺はどうでもよくないと思うけどなぁ」
不意にハルドが鋭い視線でユイ・カトーを見る。
「俺が得意なのは何だか憶えてるよな?」
あ、これはヤバいとユイ・カトーは思った。もう逃げ場がないぞということも理解していたので開き直ることにした。
「MSの操縦、潜入、破壊工作、暗殺です」
「うん、そうだったな」
というとハルドはニッコリとわざとらしく笑って見せた。あ、終わっているなこれは、とユイ・カトーは思った。
「俺もそんなに馬鹿じゃないのは知ってるよな?」
ユイ・カトーはブンブンと首を縦に振った。むしろユイ・カトーが知る限りでは一番くらいに賢い男であった。
「単刀直入にいうけど、お前、着服してるだろう」
ハルドは断定していった。ユイ・カトーは嘘をついても意味はないことを知っている。ハルドに嘘をつくと、本当のことを言うまでひどい目に合わされるのだ。以前にハルドに嘘をついたがその時の傷痕は今も残っている。
ユイ・カトーの奥歯は差し歯だが、これは昔、ハルドに嘘をついた時に奥歯をペンチで引き抜かれた結果である。ハルドとしては2本抜くつもりだったが、奥歯を1本抜かれただけでユイ・カトーは本当のことを言った。
とにもかくにハルド・グレンという男は暴力に特化しているため、余計なことを考えると大変なことになるので、ユイ・カトーは正直に言うことにした。
「はい、着服しています。手を付けてもバレない金は全部自分の懐に入れています」
正直に言うと、ハルドはため息をついて椅子に大きく背を預けた。
「証拠もあるが、まぁいいよ。お前がいないと国も回らないしな。とりあえず俺しか気づいていない内は見逃してやる」
清濁併せ呑むという奴だ。ユイ・カトーは優秀だが金に関しては汚い女だが、この女がいないとクランマイヤー王国は成り立たなくなるのだから、多少の問題はしかたない。で、着服のことは置いておくとしてもだ。
「ところで、俺になんか頼みがあんじゃないのか」
ハルドは資源を輸入していたコロニーの話しに戻した。ユイ・カトーとしては、見逃されたことに関しての安堵感をもっと味わっていたかったが、それよりも、先にハルドに頼むことがあるのだ。
「ええ、隊長にはちょっと、そのウチが資源を輸入していたコロニー、名前はセーブルってコロニーですね。そこの様子を見てきて欲しいんです」
そう言われて、ハルドは、はぁ?という顔になった。
「そんな必要ないとは思うんですけど、セーブルコロニーの商売相手にコロニー間通信しても音沙汰なしですし、メールも何も返事は無しなんで、ちょっと気になって」
クランマイヤー王国に侵略でもされたんじゃないかとハルドは一瞬、思ったが、それは無いと自ら否定した侵略されたならニュースになっているからだ。
「まぁ、現状、俺がすることもないし行ってもいいが。それはお前個人から俺への依頼になるんで金を取るぞ。一応、今でも何でも屋だからな」
ハルドがそう言うと、ユイ・カトーは立ち上がり、備え付けの金庫から現金を取り出してハルドの前に置く。
「これで、私は依頼人なんで、ではハルドさんよろしくお願いしますね」
あ、この野郎とハルドは思った。依頼人になった以上は相手の方が今は立場が上だ、ユイ・カトーは上からこっちを見ているなとハルドは思った。
正直、腹が立ったが、金を貰った以上は依頼人には誠意を尽くさなければいけない、仕事とは辛いものだ。
「分かりました。依頼の件、お任せ下さい、ユイ・カトーさん」
ハルドがそう言うとユイ・カトーは勝ち誇った顔を一瞬した。その瞬間をハルドは見逃さなかった。いつかひどい目に合わせると心に決め、ハルドは金を受け取って、その場を立ち去ったのだった。
12ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/13(火) 10:03:08.85 ID:RvaJ3NFm0
さて、どうするかとハルドは思った。セーブルというコロニーの一件に多少キナ臭い感じもしていた。
「慣らし運転てことでフレイドを借りてくか、あとはセーブルの情報と一緒に行く奴だが」
危険な気がする時は、MSは手放さないというのがハルドの信条である。そして、ハルドはセーブルの位置すら知らないため、セーブルというコロニーについて知る必要があった。
最後に一緒に行く人間だが、ハルドをセーブルまで運ぶ船の操舵手としてコナーズは置いていけない。
それだけで充分だが、色々と経験を積ませるためにセインを連れていくのもありかとハルドは思った。なので、ハルドはセインを探しに行った。セインは馬鹿正直にハルドが帰ってくるのを草地で待っていた。
「おまえなぁ、もっと賢く生きろよ」
ハルドは待っていたセインを見ると同時に、そう言った。馬鹿正直に待つ必要などない。適当に理由を付けて訓練など抜け出せばいいのだ。
「帰って来ると思って待ってたんです」
セインは、ハルドに言うが、この信頼感はどこから来るのだろうかとハルドは疑問に思う。
「まぁいいや、ちょっと別のコロニーに出かけるからついて来い。ガンダム持ち出しでな」
そう言うとセインは怪訝な表情になる、ハルドは事情を説明するのを省いた。
「少し、外で経験を積むんだよ。それと俺の仕事のパートナーな」
パートナー、そう言った瞬間セインの表情が明るくなった。子どもは良く分からんなぁとハルドは思い、そして他にも重要事項があることを思い出した。
「今回はあれだ。前回の失敗をしないように出かけることを、ちゃんと伝えること」
ハルドは姫に、セインはミシィに前回の強制収容所の一件のように怒られるのはこりごりだった。

とりあえず、王家邸の夕食の時間にハルド、セイン、姫、ミシィが揃っていたので、このタイミングでハルドとセインは少し出かけてくると言った。すると案の定というか姫もミシィも自分も行くと言い出した。
ハルドがなだめたが聞かなかった。夕食の席にはアッシュもいたが、とりなす気は無かった。昼間の義勇兵の訓練で疲れ切っており、とりなす余力もなかったのだった。
結局というかなんというか、女性の力というのは強いものでハルドもセインも押し切られてしまった。
そのため最終的にセーブルへの出発メンバーは、ハルド、セイン、姫、ミシィ、コナーズということになった。
ハルドはこのメンバーとなったことで、また面倒が起きそうな予感がしたが、どうにでもなれと半ばヤケクソの気持ちのまま、その夜は眠りについた。出発は翌日の朝ということになったのだった。
13ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/13(火) 10:27:40.08 ID:RvaJ3NFm0
15話終了
14ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/13(火) 17:43:50.00 ID:RvaJ3NFm0
投下します
機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第16話

そして出発の朝である。ハルドはなんとなくキナ臭さを感じていたので、武装を整えていくことにした。腰にはレビーに作ってもらった剣を帯び、ベルトにナイフを収めた鞘を隠すように付ける。そして拳銃2丁とアサルトライフル1丁を身に着け、出発することにした。
出発の手順としては、ハルドとセインはMSを宇宙港まで運び、輸送船に搬入する。姫とミシィとコナーズは先に輸送船で待つという流れだ。
出発までは概ね上手くいった。概ねというのはフレイドが通常のMSより大型であるため、輸送船に搬入するのに手間取った程度の問題があっただけである。
「では、出発しましょう」
そう言ったのは姫である。思ったよりも上機嫌だった。理由としては仲間外れにされなかったからであると、同じ思いのミシィには分かった。しかし男性陣にはイマイチ理解ができていない様子でもあった。
「んじゃ、出しますよー」
ハルドは久しぶりにコナーズの声を聞いたような気がしたし、姿を見た気がした。コナーズは普段からクランマイヤー王国のコロニー内に入りたがらないようで、宇宙港の自分の船でノンビリしているようだった。
理由は知らないし、ハルドには興味もなかった。コナーズとは、ただ仕事だけの付き合いだ。仕事だけうまくやってくれれば文句は無い。
コナーズの操舵は確かで、輸送船は何の問題も無く、宇宙港を出て、漆黒の宇宙へと漕ぎ出した。
「じゃあ、グレンの大将。セーブルまでは3日程度なんで、適当に過ごしてください」
コナーズは飄々とした調子で言うと、自分は操舵手席を離れようとはしなかった。ハルドは特にすることもなかったので、輸送船内の船室でダラダラと時間を潰すことにした。
セインやミシィ、姫はカード遊びに興じているがハルドは興味もなかったので、やはりダラダラと時間を潰すことを選んだのだった。

そして3日後、輸送船内では特に何事もなかったが、船内の通信で急にコナーズからハルドへの呼び出しがかかった。
「すいません、グレンの大将。ブリッジまで来てくれますか?」
呼ばれたからには行くしかない。ハルドがブリッジへ向かうと、騒ぎを聞きつけ、セイン、ミシィ、姫がいた。
「呼ばれたのは俺だけのはずだが?」
「呼んだのはグレンの大将だけなんですけどねぇ」
まぁいい、といった感じでハルドはコナーズに要件を促す。察したコナーズはすぐに答える。
「セーブルコロニーに入港の申請をしたんですけど、許可が降りないんですよ。というか、音沙汰なしです」
「人がいる気配がないってことか?」
ハルドが聞くと、コナーズは頷いた。
「完全に港の機能が死んでる感じです。宇宙港はコロニーにとっちゃ、外界との繋がりを持つための生命線ですからね、これが死んでるってのは只事じゃないですよ」
暗に手を引くべきだという感情がコナーズの言葉には含まれていた。しかし、ハルドはあえてコナーズの感情を無視した。
「手は引かんし、調査は続けるよ。金も前払いだしな。多少は情報を持って帰らにゃ依頼主に悪い」
そう言うと、ハルドはセインを見る。
「MSでコロニー潜入するぞ」
ハルドがそう言うと、セインは緊張した面持ちになる。
「悪いが姫とミシィ、コナーズは船で待機で」
ハルドが全員の行動を決定すると、女性陣は明らかに不満げな顔をした。
「しかたないでしょう。二人乗りできるMSじゃないんですから」
ハルドはそう言うと、最後まで不満げな女性陣を置いて、セインを伴いMSの格納庫に向かった。
15ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/13(火) 17:44:35.00 ID:RvaJ3NFm0
「港の機能が死んでるって、コロニーの中の人は何をしているんでしょう?」
「そもそも中に人間がいるって保証もないけどな」
セインの疑問にハルドはなんとなく思ったことを言ってみた。
「コロニーの中の人間全員死んでるかもな。空調設備の不調なんかでもあれば、それだけで即、死につながるのがスペースコロニーってやつだから、何が起きてるか分かったもんじゃねぇ」
ハルドは適当に言ったが、セインは色々想像したようで、顔が青ざめていた。
「神隠しとかで全員行方不明とかあったりしませんか?」
セインは急にオカルトじみたことを言いだした。今がどんな時代だと思っているのかとハルドは、ビビりな弟子を情けなく思い、無視して先に格納庫に向かう。
そのハルドの無視はセインの不安を余計に煽ったらしく、セインはハルドから離れないように急いでハルドの後を追うのだった。

「まぁオカルトも無しじゃないかなぁ」
ブリッジでは残された女性陣とコナーズがハルドとセインがしていたのと同じような話しをしていた。
「住人が誰もいなくなったコロニーだって本当にあるよ。2日3日コロニーから離れてて戻ったら、コロニーの住人、誰もいなかったって、これ実話ね」
コナーズは宇宙船乗りに伝わる、怪談話を適当に話していた。それはコナーズが真実味のあるような口調で話すため、冗談に聞こえず、姫とミシィは背筋が寒くなる思いをしていた。
「コロニー以外にも神隠しってのは結構あるもんで、誰も乗っていない豪華客船の話しとかあるけど、聞くかい?」
「いえ、いいです!」
「私も」
姫もミシィも首を激しく横に振った。軽いオカルト話なら興味があるが、あまり怖い話をされても、姫もミシィも困るのだ。
そうこうしている内に、ハルド達の準備が終わったようだった。通信がハルドからコナーズに向けて送られてきた。
「こっちはオーケーだ。ハッチを開けてくれ」
「了解です。大将、お気をつけて」
コナーズがそう言うと、ハルドは何をと言った感じで返すのだった。
「戦争行くわけじゃねぇんだ、気ぃつけるもねぇよ。そっちこそお姫様方の機嫌を損ねないよう気をつけろよ」
「そこらへんは大将らとは年期が違うんで、まぁ大丈夫ですが。マジで気をつけてくださいよ、なんか嫌な予感がするんで」
コナーズは念を押して言うが、ハルドは適当に流す。
「了解、了解。気を付けますよ。じゃ、発進で」
ハルドの機体、フレイドが輸送機のハッチから宇宙へと飛び立つ。
「えーと、セイン機も発進します」
続いて、セインのブレイズガンダムが輸送船から発進した。
2機とも何ともしまらない発進の仕方だと、コナーズは思った。そしてどうにも嫌な予感が消えないのは何故なのかと考えた。だが、予感よりも先に直面している問題があった。
「コナーズさんは他にも何か面白いお話しを知ってるんですか?」
二人の少女が目を輝かせながら、自分に詰め寄っているという現状である。それからコナーズは知る限りの宇宙船乗りに語り継がれている話しを延々とする羽目になったのだった。

「んじゃ、まぁ。潜入工作といくか」
ハルドの乗るフレイドがブレイズガンダムを先導し、コロニーへと近づいていく。
「クランマイヤー王国と比べると随分大きなコロニーですね」
セインは近づくとセーブルコロニーの大きさに圧倒されていた。円筒形という形こそ同じだが、大きさはクランマイヤー王国のコロニー1つより二回り以上は大きい印象をセインは感じた。
16ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/13(火) 17:45:41.12 ID:RvaJ3NFm0
「割と新しいコロニーだからな。でかいのが流行だった時期に建造されたらしい」
ハルドは説明する。
「産業は金属関係が盛んだな。それ以外はパッとしない感じだ。金属関係が盛んなのは、レアメタル等が豊富な資源衛星をいくつも持ってるからだそうだ」
へー、とセインはハルドの知識に感心したが、すぐに感心して損したと思うことになる。
「ネットで調べたら書いてあった」
ああ、元から知っていたわけではないんですね。とセインは何とも言えない気持ちになる。
「とまぁ、概要を説明したのでおしゃべりは終わりで、本格的に行くぞ」
ハルドが言うと、フレイドは速度を上げてコロニーに近づく、ブレイズガンダムもそれを追う。コロニーの外壁の上を滑るように飛ぶフレイドに対し、セインのブレイズガンダムは何度か外壁につまずく。
「へたくそ。無理ならギリギリじゃなくて、壁面から離れて飛べ」
ハルドに言われて、セインは恥ずかしくなった。流石に、ハルドの機体の動きがカッコよかったから真似をしたとは言えなかった。
「気をつけます」
セインはとりあえずそう言った。その時だった。目の前でフレイドが止まったのは。止まると同時にフレイドは前腕のビームガンの銃口からビームサーベルを発生させ、コロニーの外壁に、その刃を突き立てていた。
「ちょっと、何やってんですか!?」
「見りゃ分かんだろ、侵入口を作ってんだよ」
ハルドはセインの声をうるさそうに作業をしていた。
「いやでも、そんな目立つ方法というか、どこに侵入口を!?」
本当にうるさいといった感じでハルドはセインの疑問に答える。
「緊急時用の脱出艇が射出されるところを逆側からこじ開けてんだよ。外壁面ギリギリを飛んでたのは、ここを探すため。ついでに言うと見つかる心配はねぇ」
断言する根拠がセインは欲しかった。
「外壁面ギリギリを飛んでた理由は、コロニーの警備隊が出張ってくるかどうかを確認するためだったが、出てこないところを見ると警備隊も機能停止のようだから、どんな目立つ方法を使っても、気づかれる心配は無しだ」
「はぁ、そこまで考えて把握するために動いてたんですね」
セインは感心していた。
「お前は俺がただカッコつけて、外壁ギリギリを飛んでたと思ってたのか?」
ハルドがそう言ったところで、フレイドはビームサーベルを停止させ、ビームの刃を消した。
「というわけで、入り口だ」
ハルドのフレイドが指を指した先にはMSが通れるサイズの四角い穴が開いていた。
「んじゃ、俺が先行するぞ」
そう言うとハルドのフレイドが四角い穴の中に侵入する。セインのブレイズガンダムもそれに続く。
「真っ直ぐな道ですね」
セインはそのまんまの感想を言った。今、機体は上昇しているような感覚だ。周りは無機質な壁である。
「そりゃ、脱出艇を出すのに曲がりくねった道だったら不味いだろ」
ハルドも当たり前のことを言い、セインはそれもそうだなと、あまり意味のない会話をしていた。
そうしているうちに、道の終わりが見えてきた。脱出艇の射出口を逆走しているなら、当然出口は脱出艇の乗り場であり、そこには当然のように脱出艇があるべきだが、そういう常識的な考えは、ハルド達が直後に見た光景で打ち砕かれた。
「あらまぁ」
ハルドの視界には破壊された脱出艇があった。よく確認すると、破壊された脱出艇の周りには死体が転がっている。死体は一見しただけ身なりが良くそれなりの立場の人間だとわかった。
「ひどいな」
セインも死体を確認して気分が悪くなっていた。そしてこのコロニーはどうなっているのかという思いが強くなる。
17ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/13(火) 18:20:46.38 ID:RvaJ3NFm0
「外へ出ましょう」
セインが言って、ブレイズガンダムを動かす。脱出艇の乗り場なら人を一気に入れるための搬入口があるはずなので、そこからなら、MSを出せる。そう思い機体を動かす。
ハルドは何も言わなかった。ただ、セインのブレイズガンダムの動きを見ているだけである。ブレイズガンダムは搬入口を見つけ、ハルドの乗るフレイドがやったようにビームサーベルで入り口を作る。
「こうするんですよね?」
セインがそう言って、出口を作った直後だった。セインのブレイズガンダムがいきなり吹き飛ばされた。ハルドはバズーカの直撃だと思った。
「なるほどなぁ、バリアで実体弾の衝撃までは消せないのか」
1つブレイズガンダムに詳しくなったとハルドは思った。直後、セインからの驚きの声が届く。
「何があったんです!?」
「お前が吹っ飛ばされただけだよ」
そう言うと、ハルドのフレイドが動く。フレイドの腰のグレネードを発射し、同時にフレイドのふくらはぎが展開されると、そこからミサイルが発射され、搬入口を一気に吹き飛ばす。
その衝撃で煙が舞い上がり、一時的に視界が悪くなる。その間に脱出艇乗り場から出る。
脱出艇乗り場などの狭い建物で大型のフレイドは自由が効かないため一刻も早く、外に出る必要があった。しかし、セインの作った出口から出たのでは狙い撃ちされるのが分かり切っていたので、ハルドは一気に道を作ったのだった。
外へ出ると、脱出艇乗り場は3機のMSに囲まれていた。敵の機体は、地球連合軍の量産型のアンヴァルが2機とクライン公国の量産機であるゼクゥドが1機だった。
妙な編成だが、ハルドは全員が敵だと判断し、行動に移る。
フレイドの前腕部に内蔵されたビームガンを即座に2連射し、アンヴァルのコックピットをビームで貫く。そして、残った、ゼクゥドには高速で接近し、先ほど使ったビームガンの銃口からビームサーベルを発生させると、コックピットを切り裂いた。
ハルドの乗るフレイドは一瞬で3機のMSを撃破した。
「敵はどうしましたか!?」
セインがそう言って、ブレイズガンダムで堂々と脱出艇乗り場から出てくるのは、その数十秒後だった。
ハルドは遅れてきたセインに対してため息をつかざるを得なかった。

「まぁ、いいんだけどよ。状況とか考えるの難しいし」
ハルドとセインは移動していた、なるべくコロニーの端に向かっていたのだ。移動中の話題は先ほどのセインの失態についてである。
ハルド曰く、そもそも搬入口は普通に内側から手動で開けられるのになぜビームサーベルで出口を作ろうとしたのかという点から始まり、脱出艇の破壊についてまで言及されていた。
「たぶんだが、目的は脱出艇の破壊より、脱出艇目当てに乗り場に来る人間を殺すことにあったと思うな。まぁ結果を見てから言うのもあれだが、あのMSは乗り場に来た人間を殺すために待機していた。
乗り場に来るのは多分、要人だろう。脱出艇の周りで死んでいた人間の身なりからして、結構な身分みたいだから、要人殺しでもしてたんだろう」
ハルドはとりあえず推測を交えながら、さっきの状況をセインに説明していた。
「このコロニーに何が起きてるんでしょう」
セインは不安を隠さない声で言う。
「そりゃあ、これから調べなきゃいけないが、まぁ予測はつく」
ハルドがそう言うとセインは食いついてきたが、ハルドは少し落ち着いた場所に行ってからな。とだけ、言って、その場で述べることを避けたのだった。
移動しているセインは、セーブルの風景をなんとなく眺めていた。高いビルばかりの都市だと感じた。故郷のアレクサンダリアの方が都会だが、こういう場所には久しぶりにくると感じていた。
18ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/13(火) 18:22:37.07 ID:RvaJ3NFm0
そうしているうちに、ハルドたちの機体は都市部を抜け、コロニー内に申し訳程度の面積しかない自然地帯の森の中に機体を隠すようにして停めた。
ハルド達は一旦コックピットから、降りて、顔を合わせて話しをすることにした。
「ハルドさんの予測ってなんですか?」
セインはとにかく聞いてみたかった。
「多分、クーデターだと思うな。あの要人っぽい人間の殺されっぷりからして、このコロニーを統治している自治政府に対してクーデターが起きてるんだと思うが」
ハルドは、言いながら少し考える様子でもあった。
「しかし、それにしては街の様子がおかしかったな」
「おかしかったですか」
セインは特に街に対して疑問を抱いていない。普通の都市だと思った。
「いや、人が歩いてなかったろ。クーデターで戒厳令が出て外出禁止ってのもあるだろうが、現状を見ると政府側は壊滅してる気がするから戒厳令もクソも無い気がすんだが」
「あまり、よくわからないです」
セインが素直に言うと、ハルドは説明する。
「いや、クーデターが上手くいってる時ってのは、もっとワーっと民衆が騒ぎそうなもんだけど、今のこのコロニーは静かすぎるんだよな」
説明するとハルドは、考え込む様子になった。その直後だった、爆発音がコロニー中に響いたのは。
何だと思い、二人は爆発音の元を見る、それは二人のいる位置から見て、天井の方の区画であった。円筒形コロニーである以上、内部は上を向いても都市がある。
二人が見上げた都市では頻繁に爆発が起きてる様子が見え、ハルドの目には、かすかだがビームの閃光も見えた。
「行ってみるぞ」
ハルドはそう言うと、すぐにフレイドに乗り込む。対してセインは僅かに遅れブレイズガンダムに乗り込む、2機はスラスターを噴射させ、上空へと飛び立ち、上に見える都市へと向かうのだった。

「おいおい」
「なんだこれ」
ハルドとセインは目の前で起きている出来事に巻き込まれないように、コロニーの中心部の無重力空間に待機し、距離をとって状況を観察していた。
ハルド達、二人の目の前で行われていたのはMS戦であった。アンヴァルとアンヴァルが戦闘していると思えば、ゼクゥドとアンヴァルが共闘している。規模こそ小さいが戦場のような雰囲気があった。
「コロニーの中で内戦かよ」
ハルドは信じられないものを見たように言った。セインは無言で戦闘に見入っていた。戦場というものを始めて見たからだ。
「無理だセイン。この件には関わるな、調査は終了、帰るぞ」
ハルドは状況が手におえるものではないと分かったため、さっさと退散することにした。ユイ・カトーへの報告も、見たことを伝えれば充分だろう。
「あ、はい」
戦場に目を奪われていたセインは、返事が一瞬遅れる。しかし、遅れたのは返事だけでなく、反応もだった。セインの機体は運悪く、流れ弾に直撃してしまったのだった。それもまたバズーカ弾である。
衝撃で姿勢を崩したセインの機体は戦場のようになっている都市部に落下する。さすがに地面に落下する前に体勢を整え、無事に着地した。だが、問題だったのは着地した場所である。
セインのブレイズガンダムが着地したのは戦場のような都市のど真ん中、激しいMS戦が繰り広げられている真っ只中であった。
「え、あの、これは」
ハルドは何もせず、戻ってこい、そう言おうとしたが間に合わなかった。
セインの目の前は当然ながらコックピットのモニターである。そして、そのモニターの中には敵機の識別コードも映る。セインの目が捉えたのはクライン公国という文字、そしてその識別コードを持ったゼクゥドであった。
19ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/13(火) 18:23:13.88 ID:RvaJ3NFm0
「うおぉぉぉぉぉ!」
セインはクライン公国という文字が見えた瞬間、強い殺意に襲われ、ブレイズガンダムのビームライフルのモードをアサルトライフルモードに変更し、クライン公国の識別コードを持つゼクゥドにビームを連射しながら突撃する。
ほぼ不意打ちだったため、ゼクゥドは避けることもなく、ビームの雨に機体を切り裂かれていった。敵機をズタズタに破壊しても、セインのブレイズガンダムは止まらず、左手でビームサーベルを抜くと、ビームを受けズタズタの機体をビームサーベルで更に切り裂いた。
「はぁはぁ……」
クライン公国を、敵を、間違いなく倒したことにセインは満足を覚えたが、次の敵はすぐに視界に入って来た。クライン公国の識別コードを持つアンヴァルである。
「お前もぉっ!」
セインはビームライフルをバスターモードに変更する。その瞬間、ブレイズガンダムのビームライフルのバレルが縦に展開され、銃口が広がる。
セインの機体は足を止めて敵を狙っていた。敵のアンヴァルは、走りながらビームライフルを撃ってくるが狙いは正確ではなかった。何発かは外れ、何発かはブレイズガンダムに当たるがフルアーマー(仮)の装甲板がビームを防ぐ。
「あのバカが、不細工な戦い方を」
ハルドは戦闘中は足を止めるなと口を酸っぱくしてセインに教えてきたつもりだが、今のセインはそれが、全く出来ていなかった。
「くらえ!」
ブレイズガンダムがライフルからビームを発射する。それは通常のビームライフルが発射するビームの何倍もの太さを持って、敵のアンヴァルに襲い掛かり、直撃する。
ビームの直撃を受けたアンヴァルの胴体は消し飛んでいた。異常とも言える破壊力であった。
「敵はっ!?」
セインは辺りを見回すと、やはりいた、クライン公国識別コードを持つ機体が。それも何機か固まっている。
「まとめて消し飛ばしてやる!」
セインはブレイズガンダムのビームライフルをチャージモードにする。すると、ライフルのバレルが展開されたまま、バレルが延長された形に変形した。
敵機とて、なにもしていないわけではない。突然の乱入者を完全に敵と認識し、集団でブレイズガンダムに攻撃を加えているが、ブレイズガンダムは全く怯まない。レビーとマクバレルの作成したフルアーマー(仮)が敵の攻撃を防いでいるのだ。
「終わりだっ!」
チャージが終了したブレイズガンダムのビームライフルから、巨大なビームが発射される、巨大なビームの線は、固まった敵を飲み込み消し飛ばした。敵機は跡形もない。
そして、セインは辺りを見回す。もうクライン公国の識別コードを持つ機体はなかった。
(また善い行いをしましたね。あなたは幸福への道を歩んでいますよ)
急に頭の中に声がした。この前の戦いの時も聞こえた声だ。セインは不思議に感じた。この声を聞くと癒される気がするのだ。そして命を奪ったことに対する重みが消える。
セインはこの戦いで数人の命を奪っていたが、それに対して全く気にならなくなっていたのだった。
ハルドは距離を取って、セインの戦いを見ていたが、苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
「あの装甲板は余計だったな」
ハルドは呟く。あのフルアーマー(仮)とかいう装備のせいで、戦い方が馬鹿になっているとハルドは思った。ダメージを受けないために、無茶な戦い方ができてしまうのだ。
足を止めて敵の弾を食らっても、まるで無視で反撃できるのは確実にセインの技量向上には良くないとハルドは思った。
ハルドの考えをよそにセインは、満足感を覚えていた。憎き敵を倒したことに対してだ。
20ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/13(火) 18:24:35.65 ID:RvaJ3NFm0
「僕はやれる。やれるんだ」
不意にセインが辺りを見回すと、セインのブレイズガンダムの活躍を讃えるように、ブレイズガンダムの周りにMSが集まってくる。
「どこの奴だが知らんが感謝する」
誰か分からない人物からの通信がセインの元に届く。
「アンタのおかげで公国のイヌどもをぶっ潰してやれた。感謝してもしきれない」
声の主は分からない。だが、1機のMSがコックピットのハッチを開き、その中から出てきた人物が手を振っていた。
セインも相手に合わせて、コックピットのハッチを開け、外へと出る。
「俺はアルマンドだ」
コックピットから出てきた男は、そう名乗った。40代くらいの髭面の男である。お世辞にも人相が良いとはセインは思えなかった。
「セイン・リベルターです」
セインも挨拶をすると、アルマンドは急な提案をしてくるのだった。
「礼がしたい。俺らのアジトに来てくれるか?」
アルマンドという男は物言いがなんとなく高圧的であると少しだがセインは感じた。
セインが返答をどうしようか迷っていると、ハルドの乗るフレイドが降りてきた。見たこともない機体の登場に、場が殺気立つが、セインがとりなす。
「僕の仲間です」
そう言うと、場に満ちた殺気は霧散していった。すぐに殺気立つようなところから、セインは、あまりガラの良い集団ではないような気がした。
「じゃあ、そっちの仲間も一緒に俺らのアジトに来てくれ」
やはり何となく高圧的だとセインは思った。ハルドの方は何も言わない。ただセインの好きにしろといった感じだった。
「じゃあ、お邪魔します」
セインは断ることもできず、アルマンドという男についていくことになった。
アルマンドという男についていくと、そのアジトとはセーブルコロニーの政庁舎だった。
「機体は適当なところに停めといてくれ」
アルマンドはそう言った。政庁舎の周りには、MSが何機も停められていた。セインとハルドもそれらの機体の中に自機を停めて、機体から降りる。
機体から降りて辺りを見回すと、物々しい雰囲気であり、銃を持った男たちがうろついている。
「あんまり良い空気じゃねぇな」
ハルドがボソッと呟く。セインも同じ感想だった。銃を持っている男たちのせいだろうかとセインは思った。銃を持つ男たちは正規の軍人という感じではなく、セインのみた感じで荒くれ者といった様子だった。
「ほら、ついてこいよ」
アルマンドという男はセインらを呼び、先導して前を歩く。アルマンドは何の躊躇いもなく政庁舎に入って行った。セインらもそれについていく。
入ってみてセインは唖然とする、政庁舎の中は酷い有様だった。壁やら何やらは銃痕だらけであり、床には乾いた血の跡もある。また、それ以前に強盗が入った後のように政庁舎の中は荒らされていた。
「助けない方が良い奴らだったかもな」
ハルドがボソッと呟く。セインとしてはハルドに状況を何とかしてほしかったが、ハルドは知らん顔をしていた。
「自分でまいた種だ」
また、ハルドがボソッと呟く。その呟きの意味は、つまりは自分で責任を取れということかと、セインは理解した。しかし、それはツラいとセインは思いながら、とにかくアルマンドについていった。
21ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/13(火) 18:41:42.70 ID:RvaJ3NFm0
アルマンドに案内された部屋は、このコロニーの代表が使っていた部屋だった。
「入ってくれ、今は俺の部屋だ」
そう言うと、アルマンドは中に入り、セインらも続く、部屋の中はやはり荒らされていたが、豪華な椅子と大きな机だけはそのままだった。
そして、セインはふと気づく、部屋に先客がいることに、先客は2人、1人は坊主頭で色白の大男、そしてもう片方は少年であった。歳はセインと同じくらい、鮮やかなブロンドをした整った顔立ちの少年である。
少年はセインに気づくと微笑みを向けた。セインとしては、その微笑みにどう返していいかわからず、どうも、といった感じで軽く頭を下げるのだった。ハルドは基本的に無視を貫いており、部屋に入ると同時に入り口のそばの壁に体を寄りかからせていた。
アルマンドは豪華な椅子に座ると、脚を机の上に乗せ言う。
「改めて名乗らせてもらうが、俺はセーブル解放戦線のリーダーのアルマンドだ」
セーブル解放戦線?リーダー?セインの頭の中は疑問符だらけだった。しかし、アルマンドは疑問だらけのセインの様子に気づくこともなく、話しを進める。
「で、こっちにいる奴らが」
と、アルマンドは少年たちの紹介に移った。ブロンドの少年が一歩前に出て笑みを浮かべながら自己紹介を始めた。
「クリスティアン・フラガです。そしてこっちはボスコフ。喉に傷を負っていて喋れないので僕が代わりに」
クリスティアン・フラガ。セインは混乱はしていたが、少年の名前だけは覚えることができた。
「フラガっていうと地球連合とかの名家だったか?」
ハルドが急に口を挟んできた。完全に静観というわけではないことがわかったので、セインは少し安心した。
「そうですね。でも僕は半ば勘当された身なので、なんとも」
クリスティアンはにこやかに答える。
ハルドは頭の中の知識を思い起こす。フラガ家、確か一度は没落したが、再興した地球連合の中の名家だ。多くの企業を経営し、地球連合の中でも有数の資産家一族だったはず。
オカルトチックだが、フラガ家の人間は特殊な勘を持っているという話しで、投資で失敗をしないなどという話しをハルドは聞いたことがある。そんな家のお坊ちゃんが、こんなところで何をしているのかハルドは不審感しか抱かなかった。
「少し、誤解されてしまっているかもしれませんが、僕はそれほど大した人間じゃありませんよ。家名で誤解されることも多いですが」
クリスティアンはハルドの方を見てにこやかな笑みを浮かべたまま言う。そして、その言葉にアルマンドも同意するのだった。
「ああ、そうだ。クリスは俺らの理想に共感して手を貸してくれてるだけだ。軍師としてな」
「軍師」
妙に古臭い言葉を耳にし、セインも怪訝な表情でクリスティアンを見る。するとクリスティアンは苦笑しながら言うのだった。
「軍師だなんてとんでもない。僕はただのアドバイザーですよ。客観的な視点から見たことを述べるだけの」
やはり何とも変な感じがセインはしていた。それに理想とは何だ?そう思い、セインは率直に色々と聞いてみることにした。
「えっと、アルマンドさん、聞いても良いですか?」
「なんだ?」
「セーブル解放戦線ってなんなんですか?」
セインはそれが一番気になっていたことを聞いてみた。するとアルマンドは、むしろ聞いて欲しかったように饒舌に語り始めるのだった。
「セーブル解放戦線ていうのはあれよ、腐敗した権力構造をぶっ壊して新たなセーブルをつくるための組織だ。このコロニーの自治政府を打倒したのも俺たちだ」
アルマンドが言うことだけを聞くと悪い組織には思えなかったがセインは何とも言えない違和感を覚えた。
22ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/13(火) 18:42:39.59 ID:RvaJ3NFm0
「理想っていうのは、どういうものなんですか?」
「俺たちセーブル解放戦線の理想は、腐敗した権力者、金持ちを懲らしめて、そいつらが儲けた金を貧しい奴らに分配するのさ。俺たちみたいな貧しい奴らにな」
懲らしめる。という言葉でセインは嫌な予感がした。おそらく、この組織の人々が脱出艇の周りの死体をつくり、この政庁舎の中の惨状を作り上げたのだろう。
言ってることはそれらしくしているが、この人たちは只のゴロツキだとセインは思った。とりあえず違和感の内の1つは解決したが疑問はまだある。
「えーと、自治政府を打倒したはずなのに、なぜこのコロニーは内戦状態みたくなっているんですか?」
セインが聞くと、途端にアルマンドは不機嫌な顔になって話すのを嫌がりだした、そしてこういうのだ。
「そういうのはクリスが説明しろ」
そう言われ、クリスティアンが前に出て説明する。
「先ほどリーダーが言ったように我々は自治政府を打倒しました。しかし、自治政府の中にはクライン公国への恭順派というものが存在しており、彼らは極秘にクライン公国の部隊を招き入れ、その上でクライン公国から武器などの供与されているのです。
我々セーブル解放戦線としてはコロニーの統治権をクライン公国に渡すわけにはいかないため、公国恭順派との争いとなっているわけです」
はぁ、と何となくはセインは理解したが、このままセーブル解放戦線がこのコロニーを統治するのも何だか問題がありそうな気がしていた。
セインはとりあえず最後に疑問に思っていたことを聞いてみた。
「あの、このコロニーの人の姿が見えないのは何故なんですか?」
セインが聞くと、アルマンドは舌打ちをして、小さい声で質問の多いガキだ、と言ったのがセインには聞こえた。これに関してもクリスティアンが答えた。
「コロニー市民は皆、シェルターに避難していますよ。ほとんどの市民は様子見といった感じですね、セーブル解放戦線につくべきか公国恭順派につくべきかを様子見してるんです」
まぁ、そうだろうなぁ、とセインは思う。このセーブル解放戦線はゴロツキの集団にしか思えないから嫌だろうし、公国に恭順するのだって多くの人々は嫌がるだろうとセインは思った。
「セーブルの人間だったら俺の味方をするのが筋だろうが、全く情けない奴らだぜ」
「おっしゃる通りで」
セインが見た感じ、クリスティアンはアルマンドのイエスマンなのかと思ったが、それもなにか違和感を覚える。
セインはどうにもスッキリしないことが多いと思った。こういう時、ハルドさんならパッと決めるんだろうと思い、セインは後ろを見る。するとハルドは全く興味なさそうな顔をしてボーっとしていた。
「まぁ情けない奴らの代わりにこっちには、その百倍の戦力が加わったわけだからな」
え?とハルドはアルマンドを見た。
「このセインは中々に腕の立つ奴だクリス。役に立つぞ」
いつの間にか、セインは仲間に加えられてしまっていた。セインとしては公国恭順派の存在は許せないが、セーブル解放戦線に加わるという選択肢もない。どう考えてもゴロツキにしか思えない集団に加わる義理など無いからだ。
「あの、僕は」
そうセインが言おうとした時だった、後ろのハルドが発言する。
「俺はパスだ。アホの仲間になるほど脳味噌腐っちゃいないんでね」
セインも同意したかったが、すぐに、そういう訳にもいかなくなった。
「おい、お前ら!」
アルマンドが怒鳴ると、銃を持った男たちが一斉に部屋に入ってくる。
「そっちの色男は仲間になりたくないそうだ。それなりのおもてなしをしてやんな!」
そしてハルドは銃を持った男たちに連れていかれてしまった。こうなると、セインとしてはどうしようもない。
「ええと、少しだけなら手を貸すことは出来ると思います」
情けないが、セインとしてはどうしようもなかった。だが考えようとしては1つのコロニーをクライン公国の支配から救うことに繋がるかもしれないのだ。ならば別に良いじゃないか、セインはそう思うことにしたのだった。
23ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/13(火) 18:43:36.97 ID:RvaJ3NFm0
16話終了です
24ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/14(水) 22:06:20.76 ID:pP0PoEEd0
投下します
ガンダムEXSEEDブレイズ
第17話

出撃はすぐだった。アルマンドが急に思いついたように出撃の号令をしたのだ。軍師らしいクリスティアンは何も言わない。
セインも出撃ということになった。ほとんど休まず出撃はセインにはかなりキツかった。
「敵は退けたぞ、この勢いに乗って恭順派の陣地を奪う!」
陣取り合戦のようなものなのかとセインはぼんやりと思ったが、すぐにぼんやりもしていられなくなった。
敵の機体が見えたのだ。識別コードはクライン公国、敵に間違いは無かった。セインのブレイズガンダムは敵機にビームライフルを3連射する。その内、1発だけが敵機に当たりダメージを与えるが、敵機はまだ動けていた。
「くそ、そんなに簡単にいかないか」
見ると敵の機体は続々と都市部を駆け抜けてくる、セーブル解放戦線のMSも同じように都市部を駆け抜け、両軍が激突する。
乱戦状態となった中で、ビームライフルを使うのは同士討ちの危険もあるため、セインのブレイズガンダムはライフルを腰にマウントし、ビームサーベルを抜いて、慎重に1機ずつ仕留めていった。
敵の技量は高くない。これなら自分でもやれる。セインがそう思った時だった。
「おいエースが来るぞ!」
アルマンドの叫びと共に、味方の機体の信号が次々と消失していく。
「おい、お前が行けよ!そのために仲間にしたんだぞ!」
何を勝手なとセインは思ったが、それでもこんな敵は放っておけない。セインが、そのエースとやらを相手にしようと決めた時だった。敵は向こうからやって来た。
乱戦状態の戦場の中から、1機のMSが飛び出し、セインのブレイズガンダムに襲い掛かってくる。セインは咄嗟の判断でシールドを使い、防御した。
ビームアックスの一撃がシールドに直撃する。だが、シールドは無事に攻撃を防いだ。
「ほう?」
敵の機体からの通信が入る。聞いたことのある声だった。しかし、セインの視界にあるMSは見たことのない機体であった。
とにかく特徴的なのは頭部、クライン公国の系列機らしくモノアイのメインカメラだが、可動式のそれが4つX字に配置されているのだ。
そして、全体のシルエットは重量型のどっしりとしたもの、そして両肩はスパイクアーマーになっている。
パイロットの趣味なのか、武装はビームアックスを両手に1本ずつ持ち、ビームライフルも2丁、腰にマウントしており、背中にはバズーカを2丁背負っている。
そして何より褐色の機体だった。この色にはセインは見覚えがある。そしてビームアックスの二刀流である。ある敵を思い出さずにはいられなかった。
「この!」
セインのブレイズガンダムも乱戦を抜け出し、ビームサーベルを収め、ビームライフル抜き、褐色の機体に狙いを定めようとした。だが、褐色の敵機はすでにいない。
「遅いな!」
敵機は一瞬でブレイズガンダムの懐に飛び込んでいた。そしてビームアックスが閃く。ビームアックスがブレイズガンダムに直撃する。だが、かろうじてフルアーマー(仮)の装甲が機体を守ってくれた。
「くそ!」
セインはヤケクソ気味にシールドで敵を殴ろうとしたが、敵機は一瞬で間合いを離した。見た目は重量型なのに異常に素早い機体だとセインは思った。
「いい機体だ。だが、パイロットの腕が見合ってないな」
通信で相手の声が聞こえる。その声を聞き、セインは間違いないと思った。
「おまえ、月で戦った奴だな!」
「ん?月でか?覚えがないな」
返答が返ってくると同時、ビームアックスが投げられ、ブレイズガンダムに襲い掛かってくる、セインは咄嗟にシールドでガードしたが、それは悪手だった。自ら視界を狭めてしまったのだから。
25ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/14(水) 22:06:56.82 ID:pP0PoEEd0
「甘いんだな、考えが!」
褐色の敵機が突撃し、肩のスパイクアーマーを利用したタックルをブレイズガンダムにぶちかます。シールドの上からだったのでダメージは無い。だが、ブレイズガンダムは衝撃で吹き飛ばされ、倒れる。
そして、褐色の機体は倒れたブレイズガンダムの上に立ち、腰のビームライフル一丁抜き、そのライフルをブレイズガンダムの頭に向ける。
「とりあえず、装甲板が着いてない頭だな」
そう敵のパイロットは言って、ライフルを撃ってきた。しかしブレイズガンダム本体には バリアがあるため、それを防ぐ。
「なに?」
相手が軽く驚いた声が聞こえた同時に、セインはブレイズガンダムの腕を動かし、倒れたまま相手にライフルを向ける。が、ブレイズガンダムが銃を向けた瞬間には敵機は、再び距離を取っていた。
そして、いつの間にか、投げたビームアックスを拾っている。それだけ余裕があったということだ。
「そうか、月で戦ったガンダムか、着膨れしてるので分からなかったぞ。そうかなるほどなぁ、パイロットはあの下手くそか。下手くそ向けに装甲板を着せてもらったわけか、なるほどなるほど」
馬鹿にしたような声が聞こえ、セインは怒りと共にビームライフルを褐色の機体に向けて連射する。だが、褐色の機体は重量型のシルエットからは想像もできないほど素早く動き、ビームを全て躱す。
「は、下手くそは卒業で3流パイロットといったところか」
褐色の機体はビームアックスを収め、ビームライフルを2丁抜き放ち、両手にライフルを持って、ブレイズガンダムに連射する。
セインにその射撃を回避できる技量はない。なのでシールドで防御するしかない。だが、2丁のライフルを使った怒涛の連射をされると防御した瞬間、ひたすら防御に回るしかなかった。
「下手くそを卒業した記念だ。俺の名前を教えてやる。ドロテス・エコーだ」
名前は聞こえた、しかし、セインには自分の名前を言って返す余力はない。ブレイズガンダムに防御させるだけで精一杯だからだ。
「3流パイロットの名前なんぞ聞いたところで仕方ないから言わんでいいぞ。どうせ、ここでなくとも、すぐに死ぬ人間の名前だ。憶えておく価値は無いからな」
ドロテスは明らかな侮りを持って、そう言うのだった。
「くそ、なめるな!」
「舐めようもない程度の腕で吠えるなよ」
セインは一瞬、だが、敵の機体の攻撃が緩くなったような気がして、防御しながらライフルを向けようとする。だが、それは単純に褐色の機体が武器を持ち替えていただけの間だった。
褐色の機体はバズーカを二丁持ち一斉に発射する。
セインはマズイと思い、やはり咄嗟にシールドを構えるのだが、バズーカから発射された砲弾はシールドを一撃で破壊した。そして、破壊された衝撃でブレイズガンダムは倒れる。
「姿勢制御が下手だから、すぐ転ぶ。3流にありがちだな」
やはりドロテスの声には侮りがあった。
「俺の機体じゃ、その機体を潰すには骨が折れそうなんでな、選手追加だ……ギルベール!」
セインは別の誰かを呼ぶ声を聞いた、その瞬間、都市部そのビルの上から何かが降ってくるのが見えた。赤い何か、いや、赤いMSであった。
「クラッシュっ!」
赤いMSはブレイズガンダムを思い切り踏みつけた。機体自体にダメージは無いが、衝撃でコックピットが揺らされ、セインにはダメージがあった。
「しゃあ、おらぁ!」
赤いMSは何度もブレイズガンダムを踏みつけると、飛び退き、ドロテスの乗る機体に並ぶ。
26ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/14(水) 22:08:22.37 ID:pP0PoEEd0
「はっはー、俺って偉くね、ずっと待っててやったんだぜぇ」
「ああ、偉い偉い。待てができるってのは賢いな、たぶん犬より賢いな」
敵の会話も通信でセインに聞こえていた。赤いMSもやはり敵だった。1機の相手だけでも絶望的なのに、2機に増えた、それだけどうにもならないとセインは思った。
そして改めてセインは赤い機体を見る。機体のベース自体は、ドロテスという男の乗っている機体と同じである。
違うのは、左右の肩に形状の違う大型のシールドを装備していること、そして大型のバックパックを背負い、右手には棘のついたハンマーつまりは鉄球を持っている。そして赤色の機体である。
「よう、3流。俺はギルベール・サブレットだ。死ぬまでの間よろしくな!」
新たに現れた機体のパイロットからも名乗られたが、セインには返す余力がないし、気持ちも折れかかっていた。
「おいおい、静かになんなよ。俺が滑ってるみてぇじゃん」
「滑ってるといえば、滑ってるな、お前の人生は大滑落といった感じだからな」
敵の2人のパイロットはセインとブレイズガンダムのことなど眼中に無いように話しをしている。そのことに折れかかった気持ちが息を吹き返す。
「だから……なめるなぁ!」
ブレイズガンダムはビームライフルをチャージモードで発射し、2機をまとめて消し飛ばすつもりだった。
だが、巨大なビームの閃光は2機に軽く回避される。
「なめるなってよぉ、なぁ、ドロテス?」
「無理を言うなという話しだ」
ブレイズガンダムはライフルをアサルトモードに2機に向かって乱射する。半ばヤケクソの攻撃だった。
「舐めてんのはそっちじゃねぇかよ――インパクトぉ!」
ギルベールという男の叫びと共に、鉄球がブレイズガンダムに高速で飛来する。回避――は無理だった。鉄球は推進機構を備えているようで弾丸の速さで、ブレイズガンダムに直撃し、ブレイズガンダムが吹き飛ばされる。
「あまりフラフラとするな、狙いがずれる」
吹き飛ばされている状態のブレイズガンダムに、ドロテスの機体のバズーカが直撃し、今度は逆方向に吹き飛ばされる、そして吹き飛ばされた先にはギルベールの赤い機体がいる。
「空中コンボだぜ!――シザース!」
ギルベールが再び叫ぶと、ギルベールの赤い機体の右肩のシールドが変形する。シールドが真ん中から二つに分かれ巨大なハサミのように変形した。
そして、そのハサミで吹き飛ばされてきたブレイズガンダムをキャッチする。キャッチした箇所は左肩であった。そして肩を掴んだ状態から、ブレイズガンダムを地面に叩き付ける。
「ギリギリいくぜぇ!」
ギルベールの言葉通り、左肩を掴むハサミはぎりぎりと圧力を増し、ブレイズガンダムの肩をはさみ潰すように、動いていた。
「そのまま、動きを止めておけ。俺は逆の腕を貰う」
ドロテスの機体が動き出す、その両手には一本ずつビームアックスが握られていた。そしてそのビームアックスでブレイズガンダムの右肩を狙う。
セインは右手のライフルを使い迎撃しようとしたが、ドロテスの機体にライフルは軽く蹴り飛ばされ、ブレイズガンダムの手を離れていった。
27ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/14(水) 22:08:51.58 ID:pP0PoEEd0
赤い機体と褐色の機体は2機がかりでブレイズガンダムを地面に抑えつけ、両肩を切り落とすつもりだった。
ドロテスの機体のビームアックスが右肩を襲う。だが、アックスは装甲で止まる。すぐに切れないのはレビーたちの好意で付けてもらった肩の装甲板のおかげである。
「おい硬いぞ。そっちはどうだ」
「こっちも硬いけどよ、もうすぐ潰れるぜぇ!」
そうギルベールが言った直後、装甲板がひしゃげ、砕かれる。
「しゃあ、おらぁ!」
ハサミはそのままブレイズガンダム本体の肩を潰すために圧力を強める。
「こっちも切れるぞ」
右肩の方もドロテスがビームアックスを押し当て続けた結果、装甲板が両断され、アックスのビーム刃が本体に届く。
「くそ、くそぉ」
ブレイズガンダム本体にはバリアシステムがある。だから攻撃は防げるはず。だが、そのバリアがどれくらい持つのかを把握するためのゲージが尋常ではない勢いで減っていく。それだけ、この2機の攻撃が強力ということだった。
「両腕、取ったらどうすんよ?」
「持って帰るか、貴重な機体のようだからな」
ドロテスもギルベールという男も完全にセインを仕留めたと思っている。そんな会話だった。そもそも相手になっていたのかという疑問さえ湧いてくる。この男たちは最初からセインなど相手にならないといった感じだった。
そんなに自分は弱いのか、セインは悔しさで、思わず涙がこぼれた。その間もバリアのゲージは凄まじい勢いで減って行く、おそらく1分程度でバリアが切れる。それで終わりだ。
「こんなところで……」
終わるのか?セインの心を絶望が覆う。もう終わりだと、結局なにもできないまま終わるのかと、そんな絶望に心が沈んだ時だった。
「あ、やべぇ」
急にギルベールという男の乗る機体がハサミをブレイズガンダムの肩から外した、そして同時にドロテスの機体もビームアックスを収める。
なんだ?とセインが思っていると、機体のレーダーに無数の、いやそれ以上に大量の味方機の信号が映る。
「援軍?」
セインは不思議な気がした、そんな戦力はセーブル解放戦線には無かったはずだ。だが、助かったのは確かだった。
「数が多いな」
「逃げっか、ドロテス」
赤い機体と褐色の機体は同時に撤退していった。ギリギリだ。ギリギリで助かったと思った。しかし、助かったと思うと、最後の敵の態度がセインは許せなかった。
仕留めきれなかったことを悔しがるようなそぶりが無かったのだ、あの2機のパイロットは。セインは、これはつまり自分などいつでも始末できるという意味だと受け取った。
そして、そう理解すると悔しくてたまらなかった。どんなに強い機体を手にしても結局、自分は弱いままなのかと、そんな思いに囚われたのだった。そしてその悔しさから思わず涙がこぼれた、自分はなんて情けない、セインは自らに失望するのだった。
28ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/14(水) 22:09:33.78 ID:pP0PoEEd0
「大丈夫かい、セイン君?」
自らに失望している中、通信が入ってきてセインは我に帰る。そういえば、まだ戦闘中だったと思い、辺りを見回してみるが、戦闘はすでに終わっているようだった。
「戦闘は終わったよ。一応はこちらの勝利だ。きみが敵のエースを引き付けてくれたおかげだ」
引き付けたというよりも遊ばれただけだとセインは思うが、口には出したくなかった。とりあえず、この声に返事をしなければと思い、声の主を思い出す、確か――
「クリスティアンさんでしたか」
「クリスと呼んでくれないかな。歳も近いことだし」
そう言われてセインは尋ねる。
「じゃあ、クリス、敵はなぜ撤退を?」
「それは簡単さ」
クリスが、そう言うと1台のトラックがブレイズガンダムのそばにやって来た。その荷台には大破したゼクゥドが乗っている。
「これを使ったんだよ」
大破したゼクゥドを?と思い。セインは混乱する。
「たいしたことじゃないよ。こんな風にMSの最低でも胴体だけ載せたトラックを大量に走らせて戦場に近づけた」
それで何故、敵が撤退したのかセインは理解ができなかったが、クリスが説明を続けてくれた。
「MSは胴体だけあれば識別信号を出せるからね、それで敵のレーダーを騙したんだ。きみの機体にも友軍機の信号が近づいてくるのが分かったろ?」
確かにレーダーには友軍が近づいてくるように映っていた。
つまりは胴体だけのMSに識別信号を出して友軍機に見せかける。大破しているから当然動かないから、基本は意味がないが、トラックに載せて動かすことで実際にMSが動いているようにレーダー上で偽装したというわけか。
「一発芸みたいなものだから、2回目は通じないけどね」
クリスは軽い口調で言う。しかし、よく思いついたなぁとセインは感心するばかりだった。
「きみの方は中々に大変だったみたいだね。相手の機体は新型でザイランと言うらしい。新型に乗ったエース2人相手に大健闘でスゴイよセイン君は」
クリスの声には心からの感嘆があるようにセインには聴こえた。ザイラン――新型の機体それもエース2人相手だ。よくよく考えれば仕方ないかもしれない。
そうだ、勝てなくても仕方なかったんだ、セインはそう思うことにした。そうしたら心が僅かに軽くなった、
けれど大事な物が欠けていくようにも感じたが、気にしないことにした。セインは自分は良くやった方だと思うことにしたのだった。
29ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/14(水) 22:10:22.51 ID:pP0PoEEd0
17話終了です
30ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/14(水) 22:54:15.71 ID:pP0PoEEd0
流石に1人だけで書き込みをしてると精神的にクルものがあるので、出来れば何か書き込みを
投下止めてほしいと言われれば、自分は投下止めます
31通常の名無しさんの3倍:2015/01/15(木) 04:44:52.15 ID:PDktYjVK0
今ちょっとした書き込みでもやりにくいから支援すらしにくい
32通常の名無しさんの3倍:2015/01/15(木) 11:11:46.29 ID:aezWDKOm0
そうね、バッサリ言えば
「どんな感想を言えば困っている」かな
一応私もSSスレの書き手の端くれ、感想がどれだけ励みになるか理解はしているのですが・・・

ただ、投下をやめて欲しいと思っている人はたぶん皆無だと思う
33通常の名無しさんの3倍:2015/01/15(木) 11:25:29.03 ID:aezWDKOm0
☓「どんな感想を言えば困っている」
○「どんな感想を言えばいいか困っている」

さっそく、それも最も重要な所で誤字だ、私はコレバッカリや
34通常の名無しさんの3倍:2015/01/15(木) 14:10:29.10 ID:4vC4HLg/0
ここのところ
攻撃されたり攻撃対策のクラウドフレア入れて設定弄ったりで2ch自体が書き込みにくくなってるから
まあ気にするな
35通常の名無しさんの3倍:2015/01/15(木) 14:46:14.20 ID:FeArAg2d0
自分が貰って嬉しいような感想を言えばいいんじゃないんですかね?
「どんな感想が欲しいの?」なんて、それこそ返答に困る質問では


>>EXSEED
面白く読ませてもらっています
ユイ・カトーが立場を逆転させる下り、セーブル侵入時のハルドとセインの遣り取り、
セインがドロテス&ギルベールにボコられるシーンとかが個人的には良かったです
ハルドって面倒見がいいのか悪いのかよくわからないな

実は正直に言わせてもらうと、
あまりに投下ペースがお早いので追いつけないというか
感想を挟む隙がないというか…完結待ちのようなふいんき(何故かry)
ストーリーの行く先を楽しみにしています
36ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/15(木) 18:31:22.89 ID:+OcM6Rqa0
コメントありがとうございます
前スレをほぼ1人で埋めきった時に、ふと自分のコレも荒らしなんじゃね?
とか思ったわけで、その後にいろいろと思うところがあったわけです
とりあえずセーブル編が終われば一段落で小休止を入れるので、それまでペースは早いと思います。
駄文で申し訳ないですが、一応の完成を見るまでは、お付き合いください
とりあえずグダグダと考える前に投下していこうと思います
37ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/15(木) 18:34:11.39 ID:+OcM6Rqa0
機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第18話

セーブル解放戦線のアジトに帰ると、セインは思わぬ歓待を受けた。セインがエース2人を相手にしていたため、解放戦線の被害が抑えられたからだ。
「きみは活躍したんだよ」
クリスに言われるとセインはむずがゆい気持ちになってきた。もはや、先ほどエース2人相手に死にそうになっていたことなど忘れていた。
「まだまだです」
「そんなに謙遜しなくてもいいのに」
クリスはおだてた。だが、セインはクリスの意図に気づかず、ただその言葉をそのまま受け取るのだった。
セインは、活躍の礼がしたいということで、すぐにアルマンドの部屋に呼ばれた。
なんというか目まぐるしい一日だと思った。ここまで全く休みなしだ。それでも呼ばれたからに行くしかない。セインは気づかぬ内にセーブル解放戦線の一員となっていた。
「良くやってくれたな、感謝するぜ」
部屋に入ると同時にアルマンドが感謝の言葉を述べるが、態度自体は横柄な感じにセインは感じた。
「この調子で、恭順派の奴らをぶっ潰す。で、早速だが作戦を思いついた」
やはり休みなしかとセインはウンザリした気分になって来た。が、それ以上に最悪な気分になる言葉がアルマンドの口から発せられることを、セインはまだ知らない。
「死体を奴らの基地にぶん投げて入れようと思う」
セインは、え?となった。アルマンドが何を言っているのか分からなかった。
「恭順派の奴らは、所詮はビビりの集まりだからな。死体が降ってきたら戦意喪失間違いなしだ。良い作戦だろ?」
何を言っているんだ、この男は?セインはアルマンドの常識を疑った。そして、それは表情に表れていた。
アルマンドはセインの疑いの表情の意味を取り違え、セインにとってさらに気分の悪くなることを言うのだった。
「心配すんなよ。死体は俺らに従わない市民どもだ。何十人かぶっ殺せば、様子見してる市民共も、俺らに付いた方が良いってことに気づく。一石二鳥って奴だ」
市民を殺す?戦いとは無関係の市民を?セインは、やはり、アルマンドという男が何を言っているのか分からなかった。
セインは説明を求めるように部屋の隅に立つ、クリスを見るが、クリスはアルマンドの作戦にウンウンと頷く様子を見せていた。
「ちなみにこの作戦の原案を考えたのはクリスだ。詳細を考えたのは俺だがな」
そう言ってアルマンドは自慢げに笑う。セインは愕然としており、アルマンドの笑い声さえ耳に入ってこない。セインは、クリスが考えたということが信じられず、クリスの方を見るがクリスは涼しい顔をしていた。
そして、クリスはセインに言い聞かせるように穏やかな声と柔らかな笑みを浮かべながら説明するのだった。
「セイン君、敵の戦意を砕くというのは戦いに勝つには重要なことなんだよ。人間の心はそんなに強くないから、ショッキングな光景でも見せれば簡単に心は弱る。そして心の弱った兵隊は弱く、打ち破るのは容易い」
クリスは説明するが、セインが聞きたいのはそういうことではない。
「民間人を殺すってどういうことなんだっ!?」
セインは怒鳴るが、クリスは首を横に振り、仕方ないという表情をしながら言う。
「現状、この戦いは様子見を続けている市民を味方につけた方が勝つような情勢になっているんだ。市民を味方に付けるためにためには多少の犠牲はしかたない。こちらに従わないとどうなるかという見せしめという名の犠牲だよ」
ふざけるな!とセインは思う。
「そんなことをして、クリス、キミは何とも思わないのか」
セインは激しく言葉をぶつけるが、クリスは涼しい顔をしていた。
「僕は戦術アドバイザーだ。クライアントの意向に沿ったやり方をするだけだよ」
「まぁそういうことだ。俺は派手好きだし、煩わしいことが大嫌いなもんでな。こういう方向性で行くように頼んでんだ」
アルマンドは平気な顔で言いのけ、クリスも同様に平気な顔をしている。こいつらは民間人を虐殺することを何とも思っていないとセインは確信し、そしてセインは理解した、こいつらはクズだと。
38ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/15(木) 18:35:12.24 ID:+OcM6Rqa0
「ふざけるな!僕はそんなことに付き合えない。もうアンタたちとは関わりたくない!」
セインは叫び、アルマンドとクリスに背を向けるが、2人はそれを許さなかった。
「いや、きみには関わってもらう。大事な戦力だからね」
「嫌だ!僕はもう、キミ達のためには戦わないぞ!」
セインは言う。だが、こうなることなどクリスは予測済みだった。
「いや、きみは戦わざるおえない。ボスコフ!」
クリスが呼ぶと、ボスコフがのっそりと部屋の中に入ってくる。それだけならばセインは驚きはしなかった。だが、ボスコフはセインを驚愕させる人々を連れてきた。
「ミシィ……」
セインは思わず呟いた。ボスコフはミシィ、姫、コナーズを連れて部屋に入って来たのだ。3人とも腕を拘束され、猿ぐつわをはめられていた。
「コロニーのそばに宇宙船があれば、流石にこちらも気づくし、拿捕するよ。3人には悪いけど、人質になってもらった」
「汚いぞ!」
そう言われてもアルマンドもクリスも涼しい顔をしていた。
「うるせぇガキだ。ちゃんと働けば無事に返してやるんだから、良心的だろうに」
「仕方ない。こういう手を使うのが一番有効だったからね」
やはりクズだとセインは思った。なぜなら2人とも罪悪感などは全くない様子だからだ。
「すまないが、我慢して戦ってくれ、きみがいないと困るんだ」
クリスは穏やかな笑みを浮かべながら言う。その態度がセインは許せなかった。だが、人質を取られている以上、セインにはどうすることもできない。
このままでは虐殺に手を貸すことになるのかと、セインの心が暗く重くなった。だが、その時だった。
「俺はパスだって言っただろうが、馬鹿野郎が」
急にセインの背後で声がし、同時に銃声が鳴り響き、アルマンドの眉間に風穴が開いた。
え?と思い、セインが慌てて後ろを振り向くと、そこには連れていかれたはずのハルド・グレンがいた。なぜ、セインはそう思うことしかできなかった。
ここに至るまでの過程を説明するには数時間ほどさかのぼることとなる。

――ハルドは銃を持った男たちに連行され、急ごしらえの牢屋らしきところに閉じ込められた。
閉じ込められた直後にハルドが思ったことは、セインが思った以上に頭が悪いというこであった。行動を起こすにしても考えがなさすぎるとハルドはセインに対してウンザリしていた。
わざわざ関わらなくていい戦いに関わった。これは後々厄介なことになるとハルドは予測できた。現にハルドは厄介な状況に陥っている。だが何とでもなる状況だ。ハルドは取り敢えずことを起こすまで、のんびりとすることにした。
いつのまにかハルドは寝ており、部屋の外の騒ぎで目を覚ました。部屋の外の雰囲気から作戦に成功でもしたのだろうとハルドは思った。
「そろそろ動くか」
別にタイミングを狙っていたわけではなく、何となくそんな気になっただけだ。それと部屋の中に閉じ込められているのが嫌になっただけだ。
ハルドは着ているノーマルスーツの前を開け、上半身だけをはだけた状態にし、アンダーウェアを露わにする。アンダーウェアには拳銃とナイフがホルスターと鞘に入った状態で、アンダーウェアにベルトでくくりつけてあった。
ボディチェックが甘いのは助かると思い、ハルドは拳銃とナイフを抜き放ち、ノーマルスーツを着なおし、前を閉める。だが、それも息苦しいと思いやはり、ノーマルスーツの前は胸元まで開けたままにしておいた。
「さて」
準備は整ったので行動に移すだけだ。とりあえずハルドは部屋のドアを何度もわざとうるさく蹴った。何度も何度も蹴る。すると外から扉が開いた。
39ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/15(木) 18:36:40.79 ID:+OcM6Rqa0
「おい、うるさ――」
やって来た男を部屋の中に引きずり込む、やられた男の方は訳が分からない力で体を投げ飛ばされ混乱している。
「1人でけっこう。ありがたいね」
そうハルドは言うとナイフを男の首に突き立てた。どうやら1人で見張りをしていたらしい、2人いたら片方が部屋に引きずり込まれた時点で、加勢に加わってくるからだ。
男は即死だった。ハルドは別に何も思わずナイフを引き抜き、男の服でナイフの血をぬぐう。
さてここでどうするかとハルドは考えた。この男の服を借りてもいいが、ノーマルスーツのままでも充分に活動は可能だ。着替えたら、わざわざまた着替えに戻らなければいけない手間を考えると、このままでいいかと結論付け、部屋から出る。
すると、タイミングよく別の兵士と遭遇した、ハルドは相手が声を出すより速く銃で始末した。銃には消音機が着けてあるので、音はしない。
ハルドは殺した男の銃は拾わなかった。消音機も何もついていないので、音が鳴る武器は嫌だったからだ。
そしてハルドは適当に施設内を歩き回る。そして目につく兵士は殺して回った。取り敢えず視界に入ったら即、殺しであった。
アルマンドという男の人望を考えれば、そんなに多くの兵士は集められないだろうというのがハルドの見解である。多くて百数十といったところだろう。
ハルドがそれを全員殺すのは不可能だが、こういう集団は頭を潰せばすぐに瓦解する。ただ、そうなるには面倒なのが1人いるとハルドは考えていた。
クリスティアンとかいう小僧である。実質的なこの組織の支配者はあのガキだ。どういうつもりで、こんなゴロツキを操っているのかしらないが、それなりに痛い思いをさせて反省をうながさせてやろうと思っていた。
と考えている内に、ハルドはナイフで2人を殺していた。楽な相手たちであった。ハルドの見立てでは街のチンピラが銃やMSに乗って粋がっているだけだ。おそらくクライン公国恭順派というのも同じような集まりだろう。
そういうふうに考えていると絹を裂くような悲鳴が聞こえてきた。
「うーん、女か」
どうして、こういうチンピラはやることが決まっているのだろうかとハルドはウンザリする気分だった。
取り敢えず声の聴こえたほうへ向かい、適当に部屋を開けるとコトはまさに真っ最中だった。とりあえずハルドは汚いものを見せている男の脳天を銃で撃ちぬき、同じようにしていた2人も撃ち殺す。
そして女は無視で、さっさと部屋から出ていく。助けた後は面倒なので関わりたくないのだ。中にはつけあがって、ついてくる奴がいるから無視に限る。ハルドは経験から答えを出し、さっさと女のいた部屋からは離れたのだった。
ハルドが目指す先は決まっていた。アルマンドの部屋である。あの手の馬鹿はああいう部屋から動かないものなので、そこまで行けばいい。その途中、目についた兵士を、息をするように簡単に殺しながらハルドは進んでいく。
そんなふうに進んでいくため、ハルドの通ったあとは死体の道が出来、血の川が流れていた。そんな惨状を作り出してもハルドの心はピクリとも動かない、ハルドという男は殺すということに完全に躊躇いのない生き物なのである。
そして全く無感情に兵士を殺しながら進んでいき、ついにアルマンドの部屋に辿り着いた。だが部屋の中はもめているようだった。
セインの怒鳴り声が聞こえてくる。中から外の音は聞こえなさそうだが、外からは中の声が聞き取れるというのは欠陥構造ではないかとハルドは思った。
そしてそんなことを思っていると、巡回の兵士に見つかったが、問答無用に先制攻撃で眉間に一発、相手を見ずに当てた。相手を見なかったのはハルドは現在、聞き耳をたてる作業に忙しいからである。
中からは「人質」という声が聞こえる。多分、人質は姫、ミシィ、コナーズあたりだろう。
人質を取った理由は、この組織が非人道的な作戦でもやろうとしているから。そのせいでセインが作戦の参加を渋った。というところだろうとハルドは考えた。
これでセインが自分の浅はかさ、どういう組織か分からずに加わるとひどい目に合うということを、最低でもそれだけは学習して欲しいとハルドは思った。
40ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/15(木) 18:38:00.01 ID:+OcM6Rqa0
本当は今回のことでもっと学習して欲しいことはあるが、セインは頭が悪いので無理だろうとハルドは諦めたのだった。
さて、そろそろいいだろうか?セインも色々と反省したことだろうし、助けてやるか、そう思いハルドはドアを蹴り開けた。
「俺は、パスだって言っただろうが、馬鹿野郎が」
これはセインに言ったつもりだが、セインは分からないだろうとハルドは思いながら、椅子に座っているアルマンドの眉間に銃弾を撃ち込んだ。
直後、クリスティアンという名のガキが叫ぶ。
「ボスコフ!」
色白の大男が銃をこちらに向けるが遅すぎるとハルドは思った。ハルドは相手の銃を撃ち、弾き飛ばす。すると大男は即座に肉弾戦に移るためにハルドに突進してきた。
「お、意外に素早い」
が、それでも遅い。ハルドは身を低くし突っ込んでくるボスコフという名の大男に全力の左フックを叩き込んだ。
ハルドの師匠直伝の打撃である。拳は見えない速度で撃ちだされ、拳は直撃したボスコフの顎を粉砕し、首が本来向かない方向まで回転しかけ、床に倒れ伏す。完全に昏倒していた。
「お!」
ハルドは意外だと思った。生半可な鍛え方だと首が180度以上回転し、即死なのだが、この男は耐えた。多分一生体に何らかの障害を抱える羽目にはなるだろうが死にはしないだろう。
「ボスコフ!」
クリスティアンが叫ぶ。頼りにしていた男が一瞬で戦闘不能に陥ったことは予想外だったようだ。端整な顔に焦りが浮かび、クリスティアンは胸元に手を入れる。ハルドはおそらく銃を出すのだろうと思った。そして銃を人質に向けるつもりなのだろう。
おそらくそれがベターなのはハルドも間違いないと思う。だが、一番のベストは土下座してさっさと謝ればいいのだ。
それで許されるとは普通は思わないが、ハルドは許す。ハルド自身は別にそれほど嫌な思いをしたわけでもないのだから謝れば許すだけだ。
だが、それは常識の範囲外である。普通の人間の感性では、謝って許されるとは思わない。
これが聖クライン騎士団のロウマ・アンドーだったら、「ごめんね」と言ってハルドと仲直りで終わるが、普通はそう思わない。
クリスティアンもそう思わず、銃を抜こうとしているのだ
とりあえず、ハルドはクリスティアンを一瞬で殺せたが、少し待ってみた。そしてやはり銃を抜き、人質に突きつけようとしたが、それより速く、ハルドが銃を撃ち、クリスティアンの持つ銃を弾き飛ばす。
「どうすんの?」
ハルドはとりあえず聞いてみた。
「降参です」
クリスティアンは素直に手を挙げた。
「そうか、じゃあ、少し俺とお話ししようぜ」
そう言うと、ハルドはクリスティアンの服の胸元を掴み部屋から引きずりだそうとする。
「これは、あの、もしかして?」
クリスティアンが端整な顔を青ざめさせながらハルドに尋ねる。
「うん。子どもには見せらんねぇから、別室でな♪」
ハルドはにこやかな顔で答え、次にセインの方を向く。
「お前は人質の解放。そのあとは俺が良いって言うまでなにもすんな。この部屋でおとなしくしてろ」
ハルドはそれだけ言うと、部屋から出ていった。クリスティアンは引きずられながら言う。
「ここには警備の兵も――」
言おうとした瞬間、廊下の光景をみて、クリスティアンはサーっと青ざめた。死体の道ができており、血の川が流れていることに。
「1人でやったんですか?」
「うん」
ハルドはたいしたことではないといった様子で答えた。クリスティアンの方は、自分は終わったと思った。
「じゃ、ここでお話ししようぜ」
ハルドは適当な部屋を見つけると、そこにクリスティアンを引きずり込んだ。
「俺はわりと拷問とか好きだぜ」
ハルドは急に物騒なことを言いだし始めた。クリスティアンの方は完全に震え上がっている。
41ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/15(木) 18:39:48.39 ID:+OcM6Rqa0
「だが、お前に拷問しようとは思わないな。お前はまだ利用する価値がありそうだからな」
ハルドは若干、穏やかな声で言った。するとクリスティアンの表情が明るくなった。その瞬間を狙って、ハルドは右ストレートを顔面にぶち込んだ。
文字通り、クリスティアンは吹っ飛ばされた。地面にうずくまるクリスティアンの顔からは血が尋常ではない量、流れ落ちていた。鼻の骨が折れ、同時に前歯もへし折れたのだ。
「ひどい……」
かろうじてクリスティアンが声を出す。
「意外にガッツがあるな、これだけで心がへし折れると思ったんだがな」
ハルドは歩き、うずくまるクリスティアンの上にどっしりと腰掛ける。ガッとクリスティアンが悶え声を出すが、ハルドは無視する。
「指か歯かどっちが良い?俺としては歯が良いと思うな。ちょうど歯も折れたことだし、もっと折ろうぜ!」
冗談じゃないとクリスティアンは思い、この状況を脱するための方策を考える。自分は頭がキレる方だ。なにか考え付くはず。だが、その前に質問に答えないといけない。
「指でお願いします」
そう言われて、ハルドは怪訝な表情を浮かべる。
「はぁ?なんで俺がお前の言うこときかなきゃならんのだよ。歯、これで決定な」
理不尽すぎるとクリスティアンは思ったが、もう声も出せない。ハルドは立ち上がり、部屋の中から何かを物色しているからだ。
ヤバイヤバイとクリスティアンは人生で最大の危機に出会っていた。どんな時もスマートに生きていた自分がこんな目にあっていることが信じられなかった。
「よし、これ使うか」
ハルドがクリスティアンの方に向き直ると。手に持っていたのはシャーペンとボールペンである。それで、歯に何を?とクリスティアンは思ったが、ハルドの口から出てきた言葉は戦慄するものであった。
「これで、奥歯抜くから」
クリスティアンはハルドが何を言っているのかわからなかったが、危険だと思い逃げ出そうとする。が、再びハルドがクリスティアンの上に座る。今度はどっしりではなく、体重をかけて壊すような感じでズドンといったような勢いで座った。
「ぐえ」
こんな声が自分の口からでるのかと思ったクリスティアン。しかし、そんなことを悠長に考えている余裕は与えられなかった。
「うし、じゃあ、やっからな」
ハルドは倒れるクリスティアンの上に座り、クリスティアンの口を無理矢理あけると、その口の中にシャーペンとボールペンを突っ込み――その後はとても酷いことになったのだった。

「おー綺麗な奥歯だな。折れた前歯も拾っておいたから、記念にしろよ」
そう言うとハルドはクリスティアンのポケットに歯を入れてやった。そして、現在の状態では見苦しいので最低限の手当をした。
とりあえず折れた鼻にはバンドを貼って、口の中は消毒して止血した。
「歯医者が儲かるな」
そう言って、ハルドはニッコリ笑いながらクリスティアンの肩を叩いた。
当のクリスティアンは虫の息であったが、命に別状はない。ただ、想像を絶する痛みを味わっただけだ。
「さて、クリスティアンいや、俺もクリスと呼ばせてもらおうかな」
ハルドは反応を全く見せないクリスに話しかける。
「お前の頭は役に立ちそうだから、生かしてやってる。そのことの理解はオーケー?」
ハルドが尋ねるとクリスは何も言わず頷く。
「じゃあ、行こうか?」
ハルドがそう言うと、クリスは何も言わずにハルドについていった。
42ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/15(木) 20:56:13.80 ID:+OcM6Rqa0
セイン達は待ちぼうけを食らっていたが、セインは少し安心に思っていた。ハルドが来てくれたのだ、これで何とでもなる。ミシィたちが一緒になってしまったのは問題があるが、きっとハルドが全て解決してくれるだろうと思っていた。
そして、待っていたら、不意に部屋の扉が開いた。そしてクリスとハルドが入って来たが、クリスの様相は一変していた。端整だった容姿が今は、鼻にパッチは当てられているし、前歯は無い。それ以前に生気が感じられない。
大丈夫か?とセインが言おうとした瞬間だった。姫は走り、クリスの元に向かっていった。そしてクリスの前に立つと、心からの心配が感じられる声で言うのだ。
「大丈夫ですか」
たったそれだけの言葉。だが、その言葉を聞いた瞬間、クリスは目に大粒の涙を浮かべ泣き崩れた。姫は泣き崩れているクリスを抱きしめ、頭を撫でる。
「よしよし、つらかったんですね。良く頑張りましたね――こうすると良いってお母さんに教わりました。どうですか?」
クリスは泣くだけで答えない。10歳の女の子に慰められるのもどうかとおもうが、クリスをこんな状態にするまで、ハルドは何をしたんだとセインは恐怖を感じていた。
「あまり人をイジメちゃ駄目ですよ」
姫は泣くクリスの頭を撫でながら、ハルドをキッと睨みつける。その視線に対してハルドは肩をすくめるだけだった。
「私たちを人質にした奴だけど、ああなると可哀想かも」
ミシィも泣き崩れるクリスには同情気味だった。年齢が近いことも同情を強くしていた。
コナーズは言うことはない、ハルドが拷問をして殺さないだけ、かなりマシなことだと思っていた。
セインも今は同情気味である。クズだと思ったがこうなると可哀想だった。
ハルド以外の皆は一様にクリスを哀れに思いながら、その涙が止まるのを待った。話しはそれからでも良いだろうと誰もが思ったのだ。

そしてしばらくすると、クリスは泣き止んだ。
「失礼しました。お嬢さん」
クリスは精一杯格好をつけて言うが、いままでの泣き姿を見た後では、意味がない。
「元気になったなら、良かったです」
姫はニッコリと笑う。そうするとクリスも笑うが前歯が無いので端整だった顔も今はマヌケ顔だ。
「クリスティアン・フラガです。クリスと呼んでくださいお嬢さん」
「アリッサ・クランマイヤーです。よろしくお願いします。クリスさん」
お互い相手に恭しく一礼を交わす。
「自己紹介が終わったなら帰るとしようかね」
自己紹介を見届けると同時にハルドは言いだす。ハルドとしてはもうこのコロニーにいる理由もないのだ。
「いや、待ってくださいよ!」
ハルドの決定にセインが口を挟む。
「ここで帰ったら、このコロニーはクライン公国の物になってしまうんじゃ!?」
セインは思ったことをそのまま言ったが、それに対してハルドは余計なことをという顔をするのだった。
「クライン公国の物にとはどういうことですか?」
案の定、姫が食いついてきた。これですぐに帰るわけには行かなくなるぞとハルドはウンザリした気分になって来た。
43ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/15(木) 20:57:25.44 ID:+OcM6Rqa0
とりあえずハルドはセーブルというコロニーが現在抱えている問題を説明した。姫にわかったかどうかは分からないが、姫は納得した様子で言うのだった。
「悪い人たちのグループが2つあって、このコロニーを手に入れようと争っている。普通の人達は、悪い人たちのせいで怯えて暮らしているということですね!」
まぁ、合っている?のかとハルドは思ったが、だいたいそんなところだろう。さて、姫はこの状況でどうでるのか。
「ゆるせません!」
姫は憤慨していた。
「偉い人は民の生活を第一に考えるもの!お父さんとお母さんが言っていました!王族は民を守り、民が幸せに暮らせる手助けをするものだって!」
姫の憤慨は頂点のようだ。これは面倒なことになるぞとハルドは思った。そして、その面倒を片づけるのは決まっている。
「ハルドさん!何とかしてください」
ほら、自分だ。とハルドは心からウンザリした気分になった。だが言われた以上はやるしかない。クランマイヤー王家からは姫のお願いを聞くことで金を貰っている身だ。
「それならば、不肖の身ながら、このクリスティアンもお手伝いしましょう」
これにはセインが反応した。
「なんでお前が入ってくるんだよ」
「そんなの決まっているじゃないか、僕はアドバイザーだよ。クライアントが死んだ今、新しいクライアントとして、このお嬢さんを選んだんだ」
何を言う、このクズが!とセインは食って掛かろうとしたが、ハルドがセインの首根っこを掴んだ。
「コイツは若いけどプロ意識はある。クライアントの意向に沿うから、姫様好みの作戦しか立てんよ」
そういうものなのかとセインは思い、クリスを見る。するとクリスは前歯の無い間の抜けた笑みを見せながら言う。
「そうとも、人道主義のお嬢さんがクライアントなら、僕も人道主義の作戦しか立てない。……ところで、姫というのは?」
そういえば説明してなかったと思い、ハルドは小さな女の子がクランマイヤー王国という国の姫であることを説明した。
「へー」
特に驚いた様子も、興味関心もクリスは見せなかった。
「少しは驚いたりしないのか?」
セインが聞くがクリスは涼しい顔をしている。
「いちいちクライアントの素上に驚いていたらプロは務まらないよ」
そう言ってのけるクリスだった。
「まぁいいよ、とにかく策をだせ、クリス」
ハルドに呼びかけられると、若干ビクッとするクリス。どうやらハルドにされたことが相当なトラウマになっているようだったが、気を取り直して案を出す。
「策というほど大層なものじゃありませんが、まずは市民を味方につけましょう」
ハルドらはどうやってという顔をするが、クリスは考えがあった。
「一応、このコロニーの内戦が泥沼になった時のために保護している人物がいます。このコロニーの代表の息子です。世襲も平時は批判が大きいですが、
現状のゴロツキばかりのセーブル解放戦線や公国恭順派よりはコロニーの市民の支持を集められるはずです。そしてこちらが掲げるスローガンは“コロニーの独立と自治を守る”です」
ハルドは首を傾げる。
「セーブル解放戦線との違いを出せないな。恭順派との対立姿勢を明確にする方向性か?」
クリスは頷く。
「実際それでいいでしょう、アルマンドが死んだ以上、セーブル解放戦線は放っておいても瓦解します。所詮はゴロツキの集まりですから。それよりも恭順派に絞ったほうがいいと考えます」
44ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/15(木) 20:58:00.93 ID:+OcM6Rqa0
セインは疑問に思ったことがあるのでクリスに聞いてみた。
「なんで代表の息子を保護しておいたんだ?」
「最初からアルマンドに見切りをつけるつもりだったんで。適当なときに代表の息子を担ぎ上げようと思って僕が極秘に保護していたんです」
最初から裏切るつもりだったのかとセインは理解した。やはりクリスは信用ならないと思った。
「だって、アルマンドにマトモな政治ができるわけないですからね。ちゃんとした人材は残しておきますよ、僕は」
それはもういいから、早くしてくれとハルドは手で合図をする。すると、やはりクリスはビクッとするのだった。
「じゃ、じゃあ手筈に移りますが、やることはシンプルです。代表の息子を連れてコロニーのテレビ局まで行って、電波ジャックを行い、放送をします。
内容はとにかくコロニーの独立と自治の必要性、そしてクライン公国に恭順したら、このコロニーがどんなひどい目にあうかを強調してもらいます。そして市民に立ち上がることを訴えさせます」
本当にシンプルだとハルドは思った。
「それで上手くいくか?」
言われてクリスは頷く。
「多分と言ったところですね、民衆を扇動するために、立ち上がった市民役として、サクラのデモ隊も用意しますから、デモ行進をしている映像も流しましょう。その映像もあれば動く市民も出るでしょう。
デモ行進が上手く行ったら、それを使って恭順派の基地の周囲を囲みます。恭順派は解放戦線ほど暴力的ではないので、民間人への攻撃はできませんので、戦闘を行わず制圧ができます」
まぁ悪くはないかとハルドは思ったが懸念もある。
「恭順派の攻撃目標は?」
「間違いなくテレビ局ですね。代表の息子を暗殺する方向性に移るはずなので、護衛を、えー」
「ハルド・グレンだ」
「代表の息子の護衛をハルドさんにお願いします。ハルドさんの戦闘能力は理解しているので大丈夫なはずです」
クリスはハルドと名前を呼ぶたびに、かすかに震える。よほどトラウマになることをされたんだろうなとセインは思った。
「ただ、攻撃は人だけではなく、テレビ局自体もMSで攻撃してくるので、セイン君はテレビ局の防衛に努めてください」
防衛と聞かされ、セインはえっとなってハルドを見る。
「セインは別に普通に戦ってりゃいいよ。クリス、他に戦力は」
「僕が保護している対象にはコロニーの警備隊もいますので、彼らにも協力を仰ぎましょう。戦力は物足りないですが、それが限界です」
ハルドが少し考え込む仕草を見せ、それから言う。
「デモ行進が上手く行くかで状況が変わるな」
デモ行進が上手く行けば、恭順派の基地を制圧することも可能だが、上手く行かないとジリ貧で負ける戦いだ。
「その辺りはこのコロニーの人々の良心に期待するしかないですね」
そうクリスが言うと、黙って聞いていた姫が言う。
「必死の思いで言った言葉は必ず人に届きます。そして届いた言葉は必ず人の心を動かすんです。お父さんが言ってました」
姫は穏やかな笑みを浮かべている。その笑みを見ると何故か先行きの不安感はなくなり、なんとかなりそうな気になってくるのだった。
「これが人の上に立つべき人間の器というものしょうかね」
クリスは姫の浮かべる笑みと、姫の態度の全てを鑑みて呟いたのだった。
45ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/15(木) 21:01:13.17 ID:+OcM6Rqa0
18話終了です
46ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/17(土) 00:28:15.25 ID:iN4Rltxd0
投下します
機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第19話

ハルド達の行動は速やかに行われた。まずアルマンドの死体を分かりやすい場所に置いておき、誰もが気づくようにした。
すると、セーブル解放戦線では誰がアルマンドを殺したかでもめ出し、果ては次のリーダーに誰がなるかで揉めだした。そして最終的には仲間割れで、身内同士での銃撃戦である。
ハルドらはその隙にさっさとセーブル解放戦線のアジトからは逃げ出した。もう放っておいてもセーブル解放戦線は潰れるだろうという確信がハルドにはあった。
「しばらくは小勢力が湧きだすと思いますが、コロニー警備隊が自由の身になれば、簡単に鎮圧できるでしょう」
クリスはハルドに怯えながら、そう言うのだった。
ハルドらはクリスの案内で代表の息子が保護されている場所に辿り着いた。代表の息子は見た感じでは頼りなさそうな感じではあったが、目には確固とした決意があった。
その場所にはクリスが保護したコロニー警備隊もいた。ハルドは代表の息子たちと姫、ミシィ、コナーズを入れ違いに保護場所に預ける。
クリス曰く、ここがコロニーでは一番安全だからだ。ハルド達にとっての最大の弱点は姫たちであるから、一番安全な場所に置いておくことは悪いことではないと思った。
そして、代表の息子とコロニー警備隊を仲間にしたハルド達は、セーブル解放戦線のアジトに戻った。警備隊にとってはMSの調達、ハルドとセインにとっては乗機に乗るために戻って来たのだ。
セーブル解放戦線アジト内では未だに仲間割れの銃撃戦が続いていたので、MSを奪取するのは容易いことだった。
奪取すると同時にハルドらはテレビ局に向かった。だれの邪魔もない。今のところハルドらの企みを把握するものはいないからだ。問題となるのは代表の息子が放送を開始してからだ。
動く奴はすぐに気づいて動く、それがハルドとクリスの一致した見解である。そして、起こりうる事態から代表の息子を守らなければならない。
「僕の読みだと人間兵力はそれほど多くはありませんが確実に来ます。ハルドさん、よろしくお願いします」
テレビ局前に着くと、クリスはハルドにそう言った。やはりハルドに話しかける時のクリスの声には震えがあった。
ハルドは何も言わず、代表の息子のそばでボディガードをしながら、ハルドとクリスは局内へと入って行った
残されたのはセインとセインの乗るブレイズガンダムそしてコロニー警備隊のMSだ。
来るならどこからでもかかってこい。セインはそう言いたかったが、そんな余裕はとてもではないがなかった。
局内に入るなり、クリスはハルドらと別れる。
「色々と面倒な手続きをしてきますよ」
そう言って別れたのだ。ハルドは代表の息子をさっさと連れていく。会見場らしき場所は既にセッティングされていた。これもクリスの手腕だろうか、中々に使える奴だとハルドは思った。
「じゃ、よろしくお願いします」
そう言うと、ハルドは代表の息子を会見台の上に立たせ、自分は一番護衛がしやすい場所を陣取る。
今回はハルドも完全武装だ。MSに積み込んでおいた銃器を全て持ってきている。
アサルトライフルに拳銃2丁とナイフに剣だ。アサルトライフルは消音機を付けており、静かに人間を殺せる仕様にしてある。
47ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/17(土) 00:29:20.20 ID:iN4Rltxd0
「いいぞ、早く来い」
ハルドが敵の到来を待ちわびる中、代表の息子はスピーチの原稿にもう一度目を通していた。戦い方は違えども、彼にとっても一世一代の勝負の場面だろう。ならばきちんと護衛を果たすのが自分の務めだとハルドは思った。
「電波ジャック、オーケーです。GOの合図で映像と音声がコロニー中に届きます」
クリスの声がテレビ局内全てに響き渡った。
会見台の上では代表の息子が緊張した面持ちで立っている。代表の息子はクリスの言葉に対して頷くと、ゆっくりと声を発した。
「セーブルの皆さん。私の声が聞こえているでしょうか。私は亡くなったこのコロニーの代表、デイビス・マッケンの息子、リックス・マッケンです。まずは急な放送で市民の皆さんにご迷惑をおかけしたことをお詫びします」
そう言うと、代表の息子は頭を下げた。そして言葉を続ける。
「皆さんもご承知の通り、現在セーブルは危機的な状況にあります。セーブル解放戦線を名乗る、ならず者たちと、セーブルを公国に売ろうと画策する公国恭順派の抗争が起きているためです。
この抗争によって市民の皆さんには大変な迷惑がかかっていることは承知しています。ですが現在、セーブル解放戦線は壊滅の状態にあり、セーブルの危機の1つは取り除かれました。残る脅威は恭順派の存在のみです。
そこで皆さんにお願いがあります。どうか起ち上がってくれませんか。このセーブルを守るために」
いよいよ本題である、ハルドはそろそろ敵が来ると予感していた。

「ありゃー、こうきちゃうかー」
公国恭順派のアジトでロウマ・アンドー大佐は代表の息子とやらの放送を見ていた。恭順派のリーダーの小男はロウマに対して伺いたてるような目を向けていた。
「俺を見んなよ。自分で頑張りなさい」
とは言っても、これを見逃すとせっかくセーブルを手に入れかけているのに、台無しになる。
このセーブルでの作戦は聖クライン騎士団の正式な任務ではなく、ロウマの遊びであるが、ロウマとしては貰えるものは貰っておきたい。ここで台無しになるのも勿体ない気がしたので、命令を出すことにした。
「ドロテス、ギルベール、ジェミニと何機か連れてテレビ局を潰してこい。あと、歩兵何人かで、あの息子さんを殺してこい」
まぁ、解決法としては最悪な部類だが、遊びなのでこの程度で良いだろう。ロウマはそう思うのだった。
ドロテスとギルベールは仕方なくロウマの命令を聞いて、MSに乗り込んだ。MSのコックピットからはジェミニという禿頭眉無しの双子が歩いているのが見えた。
「俺、アイツら嫌い」
「奇遇だな。俺もだ」
ジェミニはロウマが連れてきた得体のしれない双子だ。一言も発しないし、何もない時はただ突っ立っているだけの不気味な存在であり、ドロテスもギルベールもその存在が気持ち悪いと思っていた。
「まぁ腕は立つんだから、役に立ってもらうだけ立ってもらおう」
ドロテスがそう言うと、ギルベールは不承不承に同意するのだった。
「しかし、テレビ局かアイドルとかいるか?」
「いないだろう。今の状況では」
「おお、だから潰してもいいってことか」
そういうことなのかとドロテスは思ったがギルベールは馬鹿なので放っておくことにした。
48ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/17(土) 00:31:16.34 ID:iN4Rltxd0
「ドロテス・エコー。ザイラン出撃するぞ」
ドロテスはそう言って、ロウマから貰った新型機を自分専用にカスタムした褐色のザイランを発進させる。続いてギルベールだ。
「ギルベール・サブレット。ザイラン出すぜ」
ギルベール専用にカスタムされた赤いザイランが公国恭順派の基地から出撃する。それに続いてジェミニたちののザイランとクライン公国の量産機ゼクゥドが何機か発進する。そして歩兵を乗せた車両も発進していった。
ドロテスとギルベール先行量産されたザイランに乗っているわけだが、このザイランという機体はクライン公国の次期主力量産機となる機体だった。
しかし、ドロテスとギルベールはザイランに問題があると感じていた。2人の共通の見解はして機体のパワーと機動性は高いが、機体自体は重くて扱いにくいというものだった。
ゼクゥドより性能は高いが、ゼクゥドからザイランへの乗り換えは普通のパイロットだったら戸惑うだろうと2人は感じていた。
だが、エースパイロットであるドロテスとギルベールには、この重量感も悪くはないし、扱いにくさ、も別に感じていないため、問題はなかった。
「そろそろテレビ局だが、うん、雑魚が多いな」
ドロテスはテレビ局が視界に入ったことを確認し、その周りにいるMSの存在も確認していた。
「さっきのガンダムもいるぜ」
ギルベールが言う。それはドロテスも確認していた。
「今度こそ狩るか?」
「いいねぇ」
ドロテスは景気づけに煙草に火を付けると口に咥え、機体を先ほど戦ったガンダムタイプに向けて突進させた。ギルベールは別方向からガンダムを狙うべく、動き出した。
セインとブレイズガンダムにとって、絶望的な時間が始まる瞬間だった。

「本来、コロニーの有り方は自治と独立に有ります。クライン公国にこのコロニーを明け渡すということはコロニーあり方に反するのです。そしてコロニーの有り方を守って来た先人たちへの裏切りにもなります。
どうか皆さん、起ち上がってください。このコロニーを守るために!……」
クリスは人を使って放送をコントロールしていた。
「はい、ここでサクラのデモ隊の動画を準備」
そうクリスが命令すると、スタッフが動画を流す準備を始めた。
「皆さん、ありがとうございます。私の呼びかけに応えてくれた人たちがいるようです」
「はい、動画を流してください」
クリスの合図でサクラ役のデモ隊が行進している映像がコロニー中に放送された。サクラ役は金で雇ったが、クリスが思ったよりも上手くやってくれているのでありがたかった。
「皆さん、どうか、お願いします。このコロニーを守るため、どうか力を貸してください!」
スピーチなのかお願いなのか演説なのか分からないものはハルドの耳にも聞こえていたが、そちらに集中するわけにも行かなかった。
なぜなら恭順派の歩兵がテレビ局に入って来たからだ。とりあえず、先行し偵察にきた兵士を剣で串刺しにし、顔の皮を剥いで、テレビ局の入り口あたりに吊るしておいた。
今日1日で、人を殺しすぎているせいでハルドも若干、正気のふりをしているのが辛くなってきた。腹の中を何かがカリカリとかいているような気がする。
「そろそろ限界だぞ。入ってきたら問答無用で殺すからな!」
ハルドはテレビ局の入り口に向かって叫んだ。本当に限界である。多分、これ以上殺したら、正気じゃなくなる。というか正気のふりができなくなる。そんな予感がハルドにはあった。
49ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/17(土) 00:32:26.71 ID:iN4Rltxd0
「うーん、だめかな、こりゃ」
ロウマは帰る準備を始めようと思った。
今回は、セーブルというコロニーに、ちょっとした火種があるのを感じ取って、少し火の勢いを強めようと色んな人間を煽ってみた。
アルマンドという男は馬鹿で良かったし、恭順派のリーダーも自分が賢いと思っている小物なので、問題はなくことは進み、セーブルはぶっ壊れる寸前だった。
1つのコロニーがぶっ壊れるところをロウマは見たくて、この遊びを企画したが、多分、ここからは、上手く行かないし、このコロニーがぶっ壊れることもないだろうとロウマは確信していた。
なので、ここには用が無い。ブレイズガンダムがこのコロニーにあるのは予想外だが、ブレイズガンダム関係はロウマの管轄ではないので放っておくのだ。
もう帰ろう。ロウマはそう決めた。ドロテスとギルベールもやばくなったら勝手に帰るだろうし、放っておいても問題はない。ジェミニは……もういらないので、このコロニーに捨てていこうとロウマは思った。
「さて、帰ろうか」
そう言って、ロウマは帰り支度を本格的に進め始めたのだった。

「よう、三流」
ドロテスのザイランはブレイズガンダムに飛びかかっていた。ドロテスは何となく飛び蹴りをしてみると、ブレイズガンダムはシールドでそれを防御したのだった。シールドはセーブル解放戦線にあったものを勝手に持ってきて使っていた。
「これを盾で受けるなよ。判断が悪いな」
ドロテスの言う通り、MSの質量を盾で防げるわけもなく、ブレイズガンダムは大きく吹き飛ばされた。
「くっ!」
遠距離戦ではビームライフルは当たらない。セインはそう判断して、ブレイズガンダムにビームライフルを腰にマウントさせ、右手にビームサーベルを持たせる。
「接近戦か?別にいいが」
ドロテスの声はセインの耳にも届く、セインのブレイズガンダムと通信回線を繋いでいるからだ。
「はぁぁぁぁっ!」
サーベルで切りかかるブレイズガンダムに対し、ドロテスのザイランは両手に一本ずつビームアックスを持って迎撃の構えを取る。
サーベルの斬撃に対し、片手のビームアックスで受け止め、ドロテスのザイランはもう片方のビームアックスで反撃に出る。だが、ブレイズガンダムはそれよりも速くシールドでザイランを殴っていた。
「おう?」
ドロテスは少し驚いたが、別に問題はない。少しザイランの体勢が崩され、ビームアックスでの反撃が出来なかっただけだ。
「接近戦は少しは得意か?俺もだ」
殴られ、体勢を崩されながらも、ドロテスのザイランは足で、ブレイズガンダムの膝を蹴り飛ばしていた。
「あ?」
セインは急に機体がガクンとなったことの理由が分からなかった。そして、急なことに驚き、ブレイズガンダムのビームサーベルの圧力を弱めてしまった。
「しまった!」
そうセインが言った瞬間、ドロテスのザイランがビームアックス2本を振り下ろす。ブレイズガンダムは咄嗟にシールドでガードする。
「盾を使いすぎだ三流」
ビームアックスの圧力で盾を抑えつけられ、ブレイズガンダムは身動きが取れなくなっていた。
「そして、一本釣りぃ!」
急に別方向からの攻撃がブレイズガンダムを襲った。それは4本爪の大型クローである。それがブレイズガンダムの頭を鷲掴みにした。
50ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/17(土) 02:05:57.98 ID:iN4Rltxd0
「なんだ!?」
セインが驚くと同時に機体が凄まじい勢いで引っ張られる。ブレイズは何も出来ずに引きずられ。そしてビルに叩きつけられると、今度はビルの屋上へと引っ張りあげられるが、途中で止まる。
ブレイズガンダムはビルに吊り下げられた形になってしまった。
「俺を忘れてたろ三流ぅ!?」
「俺も忘れてたぞ。ギルベール」
「ふざけんな、友達だろ!」
セインのブレイズガンダムを吊り下げているのはビルの屋上に立つギルベールのザイランであった。
ギルベールのザイランはバックパックを始まりにし、左脇の下からワイヤーが伸びており、その先端には4本爪の大型クローが付いていた、それがブレイズガンダムの頭を鷲掴みにしていた。
この武装はギルベール専用のザイランに装備されたウインチクローという武装である。
ドロテスのザイランはビームライフルを2丁持ちし、ビルに吊り下がっているブレイズガンダムに狙いを定めていた。
「悪くない的だ」
言いながらドロテスはビームライフルを連射した。
「くっそぉ!」
ブレイズガンダムはスラスターを噴射し、クローから逃れようともがくが、スラスターの推力と同等のパワーでウインチクローはワイヤーを巻き上げていた。
「無駄ぁ、戦艦を引っ張るようなパワーのウインチだぞ!」
それだけのパワーを得るために、ギルベールのザイランは大型のバックパックを装備しているのだ。ウインチクローのパワーを得るためだけにだ。
「だったら!」
機体をもがき動かしながら、セインは判断を変えた。ビームサーベルをしまい、腰にマウントしたビームライフルを抜き、ビルの屋上のザイランめがけて、やたらめったにビームを撃った。
「うわ、あぶね」
ギルベールのザイランはクローを離して、避ける。拘束が外れたブレイズガンダムそのまま地面に落ち、無事に着地した。だが
「安心は早いな」
ドロテスのザイランがブレイズガンダムにタックルをしかけ、直撃させる。ブレイズガンダムはタックルの衝撃に弾き飛ばされた。
セインは急いで機体の体勢を整える。だが、体勢を戻した時には目の前には赤いザイランがいた。
ギルベールのザイランである。ギルベールのザイランは左肩のシールドの先端を、ブレイズガンダムの胸部に押し当てていた。
「デッドエンド!」
ギルベールが叫ぶと同時に、シールド先端から杭が撃ちだされた。それは超高速であり弾丸の速度を超え、その衝撃は再びブレイズガンダムを吹き飛ばす。
ギルベールのザイランの左肩にはシールドが装備されているが、実際の所、それはパイルバンカー、金属の杭を超高速で撃ちだす機構が内蔵された、盾というよりは一撃必殺の武装であった。
吹き飛ばされたブレイズガンダムの中、セインはあまりの衝撃に意識を一瞬だが失っていた。
セインは意識を回復させると同時に、機体のダメージチェックを急ぐ。あれだけの衝撃をうけたのだから機体が無事であるはずがない。
そう思って確認すると、バリアのゲージが大きく減少していた。つまりは装甲板を貫通したということだ。セインはそこまで考えが至らなかったが、ブレイズガンダムの胸を確認してゾッとした。装甲板が完全に貫通していたのだ。
胸部の装甲は特別厚くしたと聞いたが、それを貫通するということは、バリアがあっても貫通するかもしれないとセインに恐怖を感じさせた。絶対にあの攻撃に当たるわけにいかない、セインは恐怖をもって、心に決めた。
51ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/17(土) 02:07:31.36 ID:iN4Rltxd0
「おいおいドロテス生きてんぞ、アレ」
「お前のアレと同じで、それの硬さが足りなかったんだろう」
ドロテスとギルベールはふざけた会話をしながら、ブレイズガンダムに向けて機体を動かす。
先に攻撃を仕掛けるのはギルベールのザイラン。
「インパクトぉ!」
赤いザイランが右手に持った棘つきの鉄球を投げる。噴射機構を持ち、弾丸の速度で撃ちだされる鉄球をブレイズガンダムは、セインの咄嗟の判断でシールドを使い防ぐ。
だが鉄球の威力は凄まじく、一撃でシールドはひしゃげ、使い物にならなくなる。セインは躊躇わずシールドを捨てた。だが、その間に、ドロテスのザイランが距離を詰めていた。
「終わりはしないだろうが」
ビームアックスの一撃がブレイズガンダムの胴体に直撃する。装甲板がビームアックスの刃を防いだ。ブレイズガンダムは左腕を振り回し、ドロテスのザイランを払いのける。
だが、そこに隙が生まれ、再びギルベールのザイランウインチクローがブレイズガンダムに襲い掛かる。
セインは機体を操り、ブレイズガンダムはウインチクローを回避した。しかし、回避した先にドロテスのザイランがバズーカを2丁持ちで一斉射撃する。
これは避けられなかった、ブレイズガンダムは砲弾を食らい体勢を崩す。そこへギルベールのザイランが接近、左肩のシールドをブレイズガンダムに押し付ける。
マズい!?セインがそう思った瞬間には遅かった。
「デッドエンド♪」
パイルバンカーが超高速で撃ちだされる。再び尋常ではない衝撃がブレイズガンダムを襲い、胸部の装甲板を貫き、ブレイズガンダム本体に杭が当たる。
衝撃の中でセインは思った。勝てるわけがない。こいつらはバケモノだ。
意識が飛びかける中、セインがコックピット内のモニターに目をやるとバリアのゲージは0になっていた。
「あっ」
とセインは愕然としても、敵は攻撃を止めることなど無い。セインはマズすぎる状況に機体を起こした。
だが、ブレイズガンダムが立ち上がった直後にギルベールのザイランのウインチクローが再びブレイズガンダムの頭を鷲掴みにする。
「そろそろ試してみるか」
鷲掴みになると同時にドロテスのザイランがブレイズガンダムにタックルを仕掛け、機体を掴む。
何をする気だ?とセインが思った瞬間、2機のザイランは自分の方へとブレイズガンダムを引っ張った。片方は頭を鷲掴み、片方は体を掴み、引っ張る。
バリアの防御が無い状態でそんなことをされたら、どうなるか。結果は単純であった。ブレイズガンダムの頭が力任せに首から引きちぎられた。
52ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/17(土) 02:08:00.41 ID:iN4Rltxd0
「あ」
セインは呆然とするしかなかった。メインカメラがサブカメラに切り替わっても、立ち直れない。自分の力の象徴がこんなに簡単に砕かれるのか、セインは自分の中の何かが崩れる気がした。
セインが呆然としていても、戦いはまだ続いている。ドロテスもギルベールもセインの事情など気にはしない。
「俺、左腕な」
「では俺は右腕だ」
ギルベールのザイランは右肩のシールドの形状をしたハサミの武装を展開し、ドロテスのザイランはビームアックスを持ち、ブレイズガンダムに突進する。
両肩の装甲板は、先ほどの戦いで破壊されている。バリアも失っている以上、ブレイズガンダムの両肩を守るものは何も無い。
「はい!」
「一丁あがりというやつだ」
ギルベールのザイランのハサミが肩を潰して破壊し、ブレイズガンダムの左腕が地面に落ちる。ドロテスのザイランのビームアックスが右肩を切り落とす。
結末はあまりにも呆気なく、バリアを失っただけで、ブレイズガンダムはすぐに戦闘力を失った。これはブレイズガンダムの性能が低いわけではない。ブレイズガンダムの性能は2機のザイランを遥かに凌駕している。
では、何が勝敗を分けたのか、それは単純にパイロットの技量だった。ドロテス、ギルベールの2人とセインの間には埋めがたいパイロットとしての能力差があった。
「ちくしょう……」
セインは自分が弱いことを思い知らされた。そして何もできない存在であることも思い知らされた。
セインに出来ることといえば、戦うことの出来なくなったブレイズガンダムのコックピットの中で自分の無力に対してすすり泣くことだけだった。
「で、どうすんの、コレ」
「持って帰るか、機体はいいしな」
ドロテスとギルベールは戦闘力を失った機体を前に、悠長に相談していた。パイロットも戦意喪失していると思ったから、こうして2人は悠長にしていたのだった。
「俺、腕と頭持ってく」
「なら俺は本体か、おとなしくしてろよ、三流」
ドロテスはセインに呼びかけた。セインは三流と言われても反論する気力も起きなかった。実際に自分は三流だと思い知らされたからだ。もう好きにしてくれ、セインは気力を失っていた。
「まず、これ持って帰る?」
「いや先にテレビ局だ。忘れるな」
ドロテスとエコーが相談をしながら機体をテレビ局の方へ向けた、その時だった。突然のビームが2機を襲ったのは。2機は即座に動き、ビームを回避する。
「新手か?」
「みたいじゃん」
ドロテスとギルベールの2機のザイランが戦闘の構えを取った先、そこにいたのはセインの良く知る機体。そして良く知るパイロットの乗る機体があった。
「痛めつけ方がえげつないな。もっとシンプルにやれよ」
セインの良く知る声が聞こえた。セインは思わず叫ぶ。
「ハルドさんっ!」
2機のザイランに向かい合う機体、それはフレイド。ハルドの知る限り、最強の男であるハルドが乗る機体。それが、そこにあった。
53ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/17(土) 02:08:58.82 ID:iN4Rltxd0
19話終了です
54ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/17(土) 18:17:41.83 ID:iN4Rltxd0
投下します
機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第20話

「なんかヤバい気がするんだけど」
「奇遇だな、俺もだ」
ドロテスとギルベールは突如として現れた、初めて見る機体に警戒を強めていた。敵はザイランよりも大型の機体である、機動性は低いはずと2人は考えたが、それを差し引いて考えても、2人は嫌な予感しかしてなかった。
「多分だけど、俺らより圧倒的に強くないかな」
「奇遇だな、俺もそう感じていた」
2人が話すの機体に関してではない。パイロットの話しだ。2人は嫌なプレッシャーを感じていた。だが2対1で逃げ出すというわけにもいかない。
逃げても2人の上司のロウマは咎めないだろうが、一生ネタにされ続け嫌味を言われるのは確実だった。それは嫌だったので、ドロテスとギルベールは戦う覚悟を決めた。

「さて、やるか」
ハルドは極めて冷静であった。ここに来られたのは、テレビ局に侵入してきた歩兵を皆殺しにしたからであり、その過程はハルドにとってたいしたことではないので述べるに値しない。
「運が良いのか、悪いのか」
なんとなくハルドはそう思った。セインが死ぬ前に来られたのは運が良いと言えるのか、それともセインがズタボロになる前に来られなかったので運が悪いのかハルドは分からなかった。
「まぁ、久しぶりに本気でやるMS戦だ。せいぜい楽しむとするか」
セインも動けないし、邪魔もなければ気を使う必要もないわけで、気が楽と言えば楽なので総合的に見れば運が良いのかとハルドは思った。
そして、そんなことを思っている最中に敵は動いていた。
褐色の機体がビームアックスを持って突っ込んでくるが、赤い機体は見えないので、おそらく褐色は囮で、赤が何かしかけてくるだろうとハルドは思った。
ハルドはフレイドにバックステップをさせ、褐色のビームアックスを回避させる。褐色は続けざまに攻撃してくるが。ハルドには欠伸のでる遅さだったので、攻撃が来る前にフレイドが蹴り飛ばした。
そして褐色の攻撃と同時に背後から、赤いのが鉄球を投げてきたが、予想がついたので、機体を思い切り前屈させる。すると、鉄球は前屈状態のフレイドの真上を通り過ぎていった。
フレイドは前屈状態からさらに体を前に倒し、その場で宙返りをする。すると一瞬だけだが、機体が背後の敵の方を向くので、その瞬間に腰のグレネードを発射する。
「あぶねっ」
敵は必死で避ける。その場で宙返りをしたフレイドは、着地に失敗し倒れるが、ハルドは別に構わなかった。
「もらった!」
褐色の機体のパイロットの声がするが、何を貰ったというのか、ハルドには疑問だった。
フレイドは倒たれ状態のまま、向かってくる褐色に前腕に内蔵されたビームガンを撃つ。褐色は慌てて回避しながら、ビームアックスをしまい、ビームライフルを2丁抜くと、倒れたままのフレイドにライフルを向けようとする。
だが、それだけの時間はハルドが機体を立て直すには充分であり、褐色のがライフルを向けたタイミングにはフレイドは立ち上がり、前腕のビームガンを撃っていた。ビームガンの一発がライフルに直撃し1丁のライフルを破壊する。
55ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/17(土) 18:18:15.07 ID:iN4Rltxd0
「遅すぎないか、お前ら?」
ドロテスとギルベールはこう返したかった、お前が速すぎるんだ、と。
「なんか無理な気がすんだけど、完全に背後を取ったのに、回避しながら反撃してくんだけどコイツ」
「奇遇なことに俺も無理な気がする。攻撃が当たる気が全くしないぞ」
一応、まだ喋る程度の余裕は2人にはあったが、限界も近いと2人は感じていたので、2人は最後の手段を取った。
「ジェミニ、手伝え!」
ドロテスは警備隊相手に戦っていた双子を、こちらの戦いに呼んだ。気持ちは悪いがジェミニもエースだ。エース4人がかりで戦って倒せないなら、コイツは本物のバケモノだとドロテスは目の前の大型の機体を見ながら思った。
「まぁ、いいんだけどよ。何人がかりでも。結局、俺より弱いのには変わりないんだから」
フレイドが回避行動をとる、新手のMSの撃ってきたミサイルに対してだ。背中のスラスターを全開にして、地面を滑るように移動し、ミサイル全てを回避しながら、フレイドも反撃にバックパックのミサイルを撃つ。
その時、別の機体がフレイドの真上からフレイドにビームライフルを撃つが、それもハルドは見えているので、問題なく回避。
回避した先に褐色の機体が突っ込んできて、ビームアックスで切りつけるが、それも読めているので、ステップを踏んで回避し、回避した先に飛んできた鉄球は前腕に内蔵されたビームガンのビームを当てて軌道を変更させて、逸らした。
ミサイルを撃ってきた機体がビームライフルで狙ってきていたが牽制でビームガンを撃って撃たれるのを阻止、真後ろで褐色の機体がバズーカを構えていると思ったので、ハルドはバックパックのミサイルを背後に発射し、褐色の機体の動きを止める。
そこに赤い機体ともう1機別の機体がフレイドに接近戦を仕掛けてくる。赤いのはハサミらしき武器でもう片方はビームサーベルである。
赤い機体ではない方が速いなとハルドは判断した。ビームサーベルも持った機体は横薙ぎにサーベルでフレイドを切り払おうとしたが、フレイドは屈んで回避する。
大型の分素早く機体を動かす必要があるがハルドには問題が無かった。回避されたことで隙が出来たところにフレイドは蹴りを入れた。その衝撃でビームサーベルを持った機体は弾き飛ばされる。
背後に赤い機体が来ていることは分かっていたので、前腕部のビームガンの銃口からビームサーベルを放出させると、振り向きざまに赤い機体を切った。狙いは甘かったがハサミの部分を切り裂き、同時に赤い機体に蹴りを入れて、こちらも弾き飛ばす。
そろそろ、褐色が復帰して攻撃するころと読んだハルドは機体を動かし、その場から移動する。
「頑張ってんよな!?俺ら頑張ってんよな!?」
「頑張ってるが、どうしようもないぞ」
ドロテスとギルベールは心が折れそうだった。本気も本気の全力で相手を倒しに行っているが全く相手にならない。ジェミニの援軍を呼んで4対1にしても状況は変わらないそのことに、2人ともゲンナリするしかなかった。
56ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/17(土) 18:19:53.72 ID:iN4Rltxd0
「人間じゃない……」
セインは一連のハルドの動きを見ていて、そう思った。ドロテスという男もギルベールという男もセインと戦った時とは比べ物にならないくらい本気だとセインは見ていて思った。機体の動きのキレがセインと戦った時とは全く違うのだ。
しかし、それでもハルドには遠く及ばないのだ。では自分とハルドの差はどれくらいなのか、セインには見当もつかない。そして何故あんな手の届かないものを目指そうとしてしまったのだろうとセインは自問するしかなかった。
「僕は……」
何故かセインは涙が溢れてきた。そして自分がどれだけちっぽけな存在なのかと思い知らされた気持ちになったのだった。

スラスターを全開にし地面を滑るように移動するフレイド、その後ろを4機のエース機が追う。
「敵の機体の名前はザイランか……別に必要ないデータだな」
クリスから通信でデータが送られてきた。その間も背後からはビームやら砲弾やら、ミサイルが飛んでくるが、ハルドはだいたいどこに攻撃が飛んでくるか予測がついたので簡単に回避できた。
フレイドは思ったよりも良い機体である。大きいのは問題になるかもしれないがパワーがある分、戦闘では有利に働くことが多いだろうと思った。しかし量産には向かない機体であるというのが、ハルドの見解である。
機体のパワーを充分に扱いこなせるパイロットを養成できるか分からないのだから、量産する必要はない気がした。エース向けに数機あれば充分というのがハルドのフレイドに対する見立てである。
そんな見立てをしている間も敵の攻撃をは続いている、特徴のない2機が潰しやすそうだなとハルドは思うと、機体を急速反転180度ターンさせると追ってくる4機に向けて、フレイドの武装を一斉射した。
バックパックのスラスターユニットが展開しミサイルとビーム砲、そして肩のアーマーがスライドし三連装のビーム砲が展開され発射、そしてふくらはぎもスライドしミサイルが発射される。
道は狭く、逃げ場はない。この攻撃を行うためにハルドは機体をここまで移動させたのだ。
シールドを持つ赤い機体はその場にとどまり、防御に徹し、特徴のないザイランの1機もシールドで防御に徹していた。
しかし、シールドのない褐色のザイランともう1機の特徴のないザイランはシールドを持っていないため、空中に逃げざるをえなかった。
「ナイス回避」
ハルドは言いながらフレイドのスラスターを全開にさせながら跳躍させる。
空中でも2機のザイランは姿勢制御を完璧に行っている流石エースだとハルドは思ったが、別にたいしたことじゃないと冷静に考え直した。
そして、空中にいる特徴のないザイランに肩とバックパックのビーム砲を撃つ。敵機は直線に飛んでくる、それを回避した。だが――
「そういう武装じゃねぇんだよ」
ハルドが言うと同時に回避したビームが方向を曲げ、敵機を追う。
特徴のないザイランは追ってきたビームをもう一度回避する。だが、ビームは更に追いかけ、三度めは回避できずに直撃する。
だが、ダメージは極めて軽微で装甲を焦がす程度であったが、直撃した驚きからザイランは脚を止めてしまった。
57ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/17(土) 18:23:29.64 ID:iN4Rltxd0
「隙をいただき」
フレイドが腰のグレネードを動きの止まったザイランに発射し、それはザイランの頭部に直撃し、頭部を粉砕する。頭部が粉砕されたことでメインカメラとサブカメラが入れ替わる瞬間、動きに乱れが生じる。
そこをハルドは見逃さず、フレイドを突進させる。フレイドの腕にはビームサーベルが出力されていた。
ザイランのメインカメラがサブカメラに切り替わった瞬間にはザイランのパイロットであるジェミニの目の前のモニターにはフレイドの姿があった。
ドロテスのザイランがジェミニの機体を守るように射撃をするが、完全に死角から撃ったはずのビームライフルのビームが回避される。
ジェミニのザイランもビームサーベルを抜き、身を守るように切り払うが、フレイドは突進しながらも、容易く回避し、ビームサーベルでザイランの右腕を切り落とす。
そして突進の勢いのまま、ザイランの横をすり抜けるとジェミニのザイランの背後で、急停止し、その場で宙返りしつつ、バックパックのミサイルとビームをザイランの背中に全弾直撃させた。
フレイドの持つ最大級の火力による攻撃にはザイランも耐えることが出来ず、機体を爆散させる。
そしてザイランの爆発の煙の中からビームがドロテスの機体に飛来する。ドロテスはかろうじてこれを回避する。だが、反撃のタイミングはない。
「ジェミニの1人がやられたぞ」
「見てりゃわかんよ!」
4対1が3対1になった、冗談ではないとドロテスもギルベールも思う。ジェミニの最後は呆気なかったがジェミニとて、腕が悪いわけではない、敵の腕が怪物すぎるのだ。
ドロテスは機体を地面に着地させる。この怪物相手に、360度の全方位に対して注意を向けなければいけない空中で戦うのは絶対に嫌だったからだ。
「ドロテスさぁ、遺書書いてある?俺書いてない」
「奇遇だな、俺も書いてない」
ドロテスは空中の敵を見据えながらギルベールと話す。
「書いときゃ良かった」
「奇遇だな、俺もそう思う」
空中の敵機は悠々と地面に降りてくる。敵がいるなど眼中にないように。まぁ仕方ないとドロテスは思う。実際、全く相手になってないのだから。
ドロテスは残ったジェミニがどうなのかを様子を見た。片割れが死んだのに、全く動揺した様子が見られない。全く気持ちが悪い奴だと思ったが、大切な戦力だから気持ち悪いと思うのは失礼かと反省した。
敵機が地面に着地した。それがドロテスたちの攻撃の再開の合図となった。
「さて、続きか」
フレイドは赤いザイランが発射した、ウインチクローを悠々とステップで回避、回避した先に褐色のザイランがビームライフルとバズーカで射撃、
それもスラスターを急速噴射し、急速回避、避けた先に残ったジェミニのザイランがビームライフルを撃つが、フレイドは敢えて、脚を止め、体捌きだけでビームを回避しながら、反撃でビームガンを撃つ。それと同時に肩のビーム砲を発射した。
フレイドのビーム砲は特殊であり敵機をホーミング――追尾するのだ。
58ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/17(土) 18:24:10.46 ID:iN4Rltxd0
追尾すると言っても限界があり、ハルドが聞いた限りでは2回曲がった時点で追尾は終了、そして欠点として曲がる度に威力が弱まる。2度曲がると威力は最低で装甲を焦がす程度の攻撃力しかなくなる。
だが、ハルドは使える武装だと思った。牽制などには最高の武装であり、初見殺しの武装であると感じていた。
現にジェミニの乗ったザイランは回避行動を取るが、ビームが曲がり追尾する。追尾するほうに気を取られている内に、ザイランが回避しそうな方向を予測し、グレネードとふくらはぎに内蔵されたミサイルを発射する。
「置き撃ちってやつだ」
追尾するビームに気を取られたジェミニは回避行動を取って移動した先には背後からミサイルとグレネードが来ていることに気づかず、直撃を食らう。
ジェミニの乗ったザイランはバックパックを含む背中側を大きく損傷し、まともな戦闘機動は取れなくなった。
なので、ハルドはその機体にもう一度狙いを定め、両腕のビームガンとバックパックのビーム砲を撃つ。
着弾の衝撃で動けなくなっていたジェミニのザイランはその直撃を受け爆散したのだった。
「さて、2対1に戻ったわけだが、何か言いたいことはあるか?」
ハルドは援軍でやって来た2機を撃墜したうえで、相手に向かって通信で呼びかけたのだった
「いや、なにも」
「こちらもなし」
ドロテスもギルベールも後は死力を尽くして戦うだけだと覚悟を決めた。だが勝てないということは理解できていた。
ドロテスのザイランがビームライフルを片手にバズーカをもう片方の腕に持って連射する。それに対してフレイドは回避しながら前進する、大げさに避けるのではなく体捌き――機体を反らすなどの最小限の動きでビームや砲弾を躱して突っ込んでいくのだ。
冗談ではないとドロテスは思う。相手の機体の方が一回り以上は大きいのに動きの身軽さはこちらを遥かに凌駕している。これがパイロットの技量の差かと舌を巻く思いであった。
フレイドは突進しながら、ふくらはぎに内蔵されたミサイルを発射する。狙いは前にいる褐色のザイランではなく、不意打ちをするために移動している、赤いザイランだ。
適当に赤いのがいそうな場所にミサイルを撃った。当たりはしないが警戒で動きが遅くなる。ハルドはそれを狙った。
ドロテスは接近戦の覚悟を決めた。自機の両手の銃器を捨て、ビームアックスを抜き、相手の機体と同じように前に出る。
「うおぉぉぉぉ!」
ドロテスが叫び、褐色のザイランがビームアックスを振るうが、フレイドは突進の勢いのまま跳躍し、褐色のザイランを飛び越える。ドロテスは即座に機体を振り向かせるが、それでも遅かった。振り向いた瞬間には褐色のザイランの右腕が切り落とされていた。
「遅いな」
ハルドは思ったことをそのまま述べた。別に他意はない。
「ドロテス!」
赤い機体が遅れて戦闘に復帰し、鉄球を放つ。だが、ハルドはそれは見飽きていた。フレイドのふくらはぎのミサイルと肩のビーム砲を鉄球に当たるように発射した。これでふくらはぎのミサイルの残弾はゼロだ。
59ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/17(土) 18:24:50.33 ID:iN4Rltxd0
発射されたミサイルとビームは鉄球に直撃し、鉄球を粉砕するが。ミサイルの爆発の煙の奥から別の物体がフレイドに向けて飛来する。それはギルベールのザイランのウインチクローであった、ハルドはこれもつまらない武装だと思った。
フレイドは飛来してきたウインチクローの爪を逆に掴んだ。ウインチクローの速度は弾丸と変わらないが、ハルドは別に掴むことに困難を感じなかった。掴んだウインチクローはビームガンで即座に破壊した。
これにより、ギルベールのザイランは武装のほとんどが使用不可能になり、残るのは左肩のシールドのパイルバンカーだけであるが、この敵に当たる気がギルベールはしなかった。
「こちらを忘れるな!」
右腕を失ったドロテスのザイランが左腕一本で切りかかるが、フレイドは長い脚で蹴り飛ばすだけであった。
そして同時のタイミングで赤いザイランが動いているがこちらは長い腕で殴り飛ばした。
「弱すぎるんだよ、お前らは」
ハルドは通信で2機のザイランに言う。ドロテスとギルベールの言い分としては自分たちが弱いのではなく、貴様が強すぎると言いたかった。
「もう無理、逃げる」
「奇遇だな、俺も逃げるところだ」
ドロテスとギルベールはもう限界だと判断した。絶対に勝てないと分かったのに続ける必要はない。2人ともさっさと逃げることを決めた。だが、相手が逃がしてくれるかどうかは分からない。
戦闘をした感じでは、激しく殺しにかかってくるパイロットではないとドロテスもギルベールも感じていたが、逃がしてくれるかは別だ。
ドロテスとギルベールが逃げる算段を考えようとした、その時だった――
「使えない部下を持つと泣けてくるなぁ」
高速で何かが突進し、フレイドに刃を振るった。超高速の一閃だったが、フレイドはバックステップで回避した。
「ありゃ?」
突然の声は、驚いた声を出した。この声にはドロテスもギルベールも聞き覚えがある。
この声の主はロウマ・アンドーだ。
ドロテスもロウマもやったと思い、即座に機体を離脱させることにした。ロウマは上司だが死んでくれて良い上司だ。渡りに船と言った感じで2機のザイランはさっさと逃げ出す。
「おまえら、逃げるのは良いけど。ここは終わりだから、コロニーの外に出ろよー」
ロウマは逃げていく2機に向かって通信で呼びかけておいた。ロウマとしては、仕事はこれで終わりにしたかったが、そうも行かなくなった。
「よう、ロウマさん」
始めて見る機体のパイロットがハルド・グレンだからだ。ロウマは、この間の遊びの続きをしたくなってきてしまった。
「今日は良い機体に乗ってるねぇ、ハルド君」
条件は互角ということかとロウマは考える。すると、自分が負けるだろうなぁという気がした。だが、勝ち続けというのも遊びがつまらなくなる。
60ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/17(土) 18:25:34.58 ID:iN4Rltxd0
「遊びの賭けは何が良い?」
ロウマはハルドに聞いてみた。命以外なら、まぁ何をやっても良いだろうと思っていた。
「うーん、勝ち負けをつけるだけでいいかな」
「欲がないねぇ」
まぁそれならそれでいいとロウマは思った。じゃあ、やろう。そう思った時だった。
「ロウマ・アンドーっ!」
横合いから通信を通じて叫びが聞こえてきた。ロウマはうるさいハエだと思い、乗機のゼクゥド・是空の刀を一旦、鞘に納める。
横合いから突進してくるのは、ブレイズガンダムだった。両腕を失い、頭も無い機体が何をできるというのか、ロウマは理解不能だった。
ブレイズガンダムに乗っているセインも訳が分からず、ロウマ・アンドーが乗っているらしき機体に突っ込んでいたのだ。ハルドとロウマの通信が聞こえてきたため、セインは復讐の激情を抑えられなかったのだ。
「母さんの仇だ!」
セインがそう叫んだ瞬間、セインは激しい衝撃を食らった。何が起きたのか全く分からず、ブレイズガンダムは吹き飛び、地面に倒れ伏していた。
そして回復していたはずのバリアのゲージが一撃でゼロになっているのをセインは確認した。
「俺は頭が悪い、弱いの二項目を満たしている奴は相手にしない主義なんだ。きみはそこでヘタレてなさい。能無しにはお似合いだよ」
ロウマの声には特に何の感情もこもってなかった。道端の石ころを見るようなそんな声、ロウマの声は、そんな風にセインに聞こえた。
「ひどいなぁ、馬鹿だし弱いけど頑張ってるから、そこは評価しないと」
ハルドが言うが、ロウマとしては頑張っているだけでは評価に値しないのだ。
「世の中結果が全てだよ、ハルド君」
ロウマは言いながら自分の専用機ゼクゥド・是空、その右手に持った刀を再び鞘に納める。
「この間は、これで上半身と下半身がお別れしたけど、今日はどうかな?」
居合抜きの構えをとるゼクゥド・是空。対してフレイドは何も構えを取らない。
「たぶん避けるよ、ロウマさん。今日はわりと調子がいい。機体もいいし」
そうか、とロウマは言わず行動で確認することにした。結果が全てなのだから、調子が良ければ避けるだろうと思い。
ゼクゥド・是空が抜刀する。その速度は人間の反応限界を超えているように感じさせる速度だった。鞘から抜き放たれた刃が尋常ではない速度でフレイドを襲う。
「よっ」
尋常ではない速度の刃、しかしハルドは見えていた。そして、そのハルドの動体視力と反応速度にフレイドも応え、後ろに僅かに下がるだけで回避してみせる。
そりゃ避けるか。とロウマは思う。機体が良ければ地力が違うので避けられるのは当然。だが、これはどうか。
61ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/17(土) 18:26:15.52 ID:iN4Rltxd0
空を切ったゼクゥド・是空の刃が返り、返しの刃として、再びフレイドを襲う。が、それは果たせなかった。
ゼクゥド・是空の両腕が宙を舞う。
「まぁ、こんなもんか」
ロウマは宙を舞う自機の腕を見上げて呟いた。何をされたかは分かっている。ハルドの機体は居合抜きの一太刀を躱すと同時に、両腕からビームサーベルを出して、切り上げたのだ。ゼクゥド・是空の両腕めがけて。
「まいった。降参」
ロウマは、腕が無くなったら、どうにもならないので負けを認めた。本当なら両手を上げ、降参のポーズをしたいところだが、あいにく両腕は切り落とされているので、どうしようもない。
「じゃ、俺の勝ちってことで」
ハルドも軽く言う。
「一勝一敗で五分かぁ」
ロウマとしては、まぁいい結果だ。一勝一敗というのも見た目と語呂が良いから嫌いではない。
「じゃあ、帰るよ」
「次は殺すかもしれないんでよろしくお願いしますね」
ハルドは最後に物騒なことを言った。
「殺されるのは嫌だなぁ。俺は老衰で死にたいし」
そう言いながら、ロウマのゼクゥド・是空はのんびりと動き、帰るのだった。帰り際にロウマは言う。
「前にも言ったけど、そのうち俺に会いに来てよ。悪いようにはしないからさ。それじゃあね」
そしてロウマのゼクゥド・是空は去って行った。ハルドのフレイドは何もせずに見送るだけだった。
「なんで見逃すんですか!?」
地面に倒れ伏したままのブレイズガンダムの中からセインが通信でハルドに向けて叫ぶ。
「いや、だって俺も一度見逃してもらったし、お返し」
「そんなふざけたことを……!」
セインは理解できなかった。ロウマ・アンドーはセインの家族の仇だとハルドも知っているはずだ、それなのに見逃すというのはどういう訳か、セインはハルドが理解できなかった。
「なんか、勘違いしてないか、お前。俺はロウマ・アンドーに恨みはないんだけど。お前の復讐の手伝いをするとも言ってないし、俺が奴をどうしようが俺の勝手だろ」
そうだとしても、自分の気持ちを汲み取ってくれてもいいじゃないかとセインは思うのだった。
「お前の恨みはお前の物、俺には関係なし。俺を巻き込むなよ、気持ち悪い」
そこまで言うのか、この人は。とセインは愕然とした。
師匠だと思っていたのに。セインはハルドが自分の気持ちを理解してくれているとばかり思っていた。だから訓練もつけていたと。セインは自分の中のハルド像が崩れていく気がした。
「ガキはめんどくせ。気まぐれでちょっと優しくすれば頼るし、勝手な幻想を抱きやがる。うぜぇなぁ」
最後にハルドの言った言葉が決め手だった。セインの中の師匠というハルド像は完全に崩壊したのだった。
62ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/17(土) 18:29:35.38 ID:iN4Rltxd0
「ハルドさん、セイン君。作戦は上手く行きましたよ」
クリスから通信が入ったが今のセインにそれを聞く心の余裕はなかった。
「思ったよりも市民が集まってデモは大成功、恭順派の基地を取り囲んでいます。クライン公国の人間はこのコロニーに見切りをつけてさっさと帰ったみたいですね」
ハルドはロウマならそうするだろうと思った。あの男は色んな意味で見切りが良い男だからだ。
「あとは何時間か恭順派の基地の周りでデモを続けてれば恭順派も折れるでしょう。頼りの公国の人間はいないわけですから」
じゃあ、後はのんびり待機というわけかとハルドは思った。まぁゆっくり状況が動くことを待とうと思うのだった。
だがまぁ、そうも言ってられないことに気づく。ブレイズガンダムの腕などを拾わないといけないからだ。
「面倒だなぁ」
そう言いながらハルドはブレイズガンダムの切り落とされた腕や頭を集めて、1つにまとめておいた。修理する時にこうしておいた方が楽だからだ。そういう作業を終えると、クリスからまた通信が入った。
「公国恭順派は折れましたよ。市民の勝利です」
クリスは特に感慨があるようでもなく淡々と述べた。戦術アドバイザーのクリスからすれば戦闘がなくなるとメシの種がなくなるので喜ばしい自体ではないからだろう。
まぁこれで、このセーブルというコロニーのごたごたも終わりだ。時間にして一日だったか密度の高い一日だったとハルドは思うのだった。

その後、セーブルは安定を取り戻した。セーブル解放戦線の残党や公国恭順派の残党で活動している者たちは、コロニー警備隊に検挙され逮捕そして問答無用で収監となったからだ。
ハルドらは2日ほどセーブルに滞在した。代表の息子からは歓待を受けた。なんでもセーブルの平和を取り戻した功労者だからという理由でだ。
宇宙港も復活し、クランマイヤー王国との貿易も再開された。ことは、わりとスムーズに進んでいた。そんな中、クリスがハルドらにあることを申し出るのだった。
「クランマイヤー王国は戦いの準備をしているそうじゃないですか。僕という存在が役に立つと思うのですが、雇ってくれませんか」
クリスはそういう申し出を、ハルドではなく姫にした。姫がそういう申し出をされて拒否するはずが無いと踏んでの作戦だった。
そしてクリスの作戦通り、姫は二つ返事でクリスをクランマイヤー王国で雇うことを承諾したのだった。
また厄介な人間が増えたとハルドは思ったが、まぁクリスは頭もキレるし下衆なこともできる貴重な人材なので、味方に引き入れておいて損はないと、ハルドは考えることにした。
セーブルでの滞在はわりと穏やかであった。ただ一つセインが暗いことと少し荒れていることを除けば、ミシィなどが心配して話しかけてもセインは、はねのける。
なにかセインの心の中にわだかまりがあるようだったが、ハルドは面倒だったので無視をした。思春期のガキの気持ちなど、いちいち構っていたくないからだ。
そして、滞在の終わり、セーブルを出発する日。その日は別に何も無い。セインは無口で暗いがハルドは相手にしなかった。
セーブルに来た時と帰る時では、多少の変化はあった。それはブレイズガンダムがズタボロになったことと、セインが暗くなったこと、そしてクリスという新たな仲間を得たことだ。
ハルドはこの結果に対してプラスかマイナスかを判断することはなかった、物事にはなんでも良い面と悪い面があるからだ、そんなことを思いながら。ハルドはコナーズに輸送船を発進させた。
これでハルドらのセーブルでの戦いは終わったのだ。
63ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/17(土) 19:11:48.76 ID:iN4Rltxd0
ハルドは気づいてなかった。というより、考えてもいなかったが、これでハルドらクランマイヤー王国はクライン公国の企みを三度潰したことになる。
1つはアービルでの処刑の阻止、2つめは強制収容所の解放、そして3つめはこのセーブルでの公国恭順派を使ったクライン公国の侵略作戦である。
宇宙の誰もが気づいていなかったが、この時、すでにクランマイヤー王国はクライン公国と渡り合う1つの勢力として成り立ちつつあったのだった。
当のクランマイヤー王国も知る由はなく、ただひたすらにクライン公国の侵略政策に対して防衛の準備を整えるだけだった。
宇宙の情勢は誰もが気づかぬところでゆっくりと動き出していた。
64ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/17(土) 19:13:10.20 ID:iN4Rltxd0
20話終了
そして、ここで前半らしきものも終わりって感じで、少し投下を休みます
65ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/18(日) 00:13:13.65 ID:by9y2hhv0
一応、この後の分も出来てますが、何か思うところがあったり、
作品の流れとして直した方が良いところがあったりしたら教えてください
どのキャラの振る舞いが気に入らないとかでも全然、大丈夫なので言ってください
つまらないと直接言われると傷つくので、オブラートに包むかビブラートで言ってください

質問
・20話まできたわけなので話数も増えたので簡単なあらすじを付けた方がいいのか?
・上に同じくキャラも増えたので紹介を一度入れた方が良いのか
66通常の名無しさんの3倍:2015/01/18(日) 02:51:36.89 ID:7J3+sxWW0
>>EXEED
お疲れ様、面白かったです
ハルドが酷い、酷すぎワロタwww
彼がかなりチートなのはわかりますがその理由がわからないので
できれば前スレ・前々スレ分をどこかにUPして読ませて頂けると嬉しいです
あとセイン君をもう少し主人公として活躍させてあげてください…不憫すぎる
続きも楽しみにしています

あらすじやキャラ紹介などはスレを跨ぐときに
(入れたければ)入れるのがよろしいかと思います
ですが過去ログが読める状態であれば特に必要性は感じません
67ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/18(日) 20:00:13.06 ID:by9y2hhv0
チートっていうよりは一人だけ死ぬほど経験値をためてレベルがカンストした感じですね。ハルドは
前作でガチの化け物連中と殺し合って、普通に死にそうな目に何度か会っていたおかげで経験値ががっぽりという感じです

セイン君はガンダム主人公たちと比べると、特別なセンスを持っているわけでもなく、バイタリティやメンタルが強いわけでもないので、現状はこの程度の強さかと思いました
作中のメンバーの評価も、なんだか良く分からないけど凄いMSを動かせるっていう程度の評価しかないので可哀想といえば可哀想ですね
戦闘関係はハルドが圧倒的に強いと作中のメンバーのほとんどが知っているので、ガンダムに乗っているのに戦闘力を全く頼りにされないという不遇さがありますが、
まぁ少しずつ成長していきます。成長しなくても機体性能を頼りに中盤からは頑張って行きます
68ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/18(日) 20:24:40.34 ID:by9y2hhv0
ハルド・グレン 21歳 男

幼少期に研究施設に引き取られる。
研究施設の目的は「最高の人間を育て上げること」
そこでハルドは、最高の教育と、完璧な肉体管理、豊かな情操教育を施される。
しかし、ハルドが10代前半の頃、世界最強のパイロットだったエルザ・リーバスの手によって、施設は閉鎖に追い込まれる。
行くあての無かったハルドはエルザに引き取られ、ひたすらに戦闘教育を施され、何度もエルザの手で殺されかけながらも、戦闘技術を極限まで高めた。
15歳で特殊部隊に所属し、実戦経験をひたすら積むと同時に、エルザの命令で殺し屋としても活動をしていた。
特殊な才能を持っていたわけではないが、高いレベルの教育を受けたことによって得た優れた思考力とひたすらに積み上げた実戦経験により、
18歳の頃にはエースパイロットとなっていた。

ハルドは、本人の経験により、とにもかくにも努力と経験が第一とハルドは考えている。
二度か三度は死ぬ思いをしなければ強くなれないという考えの持ち主であり、
本当に強くなりたいんだったら、ひたすら実戦をくり返し、実戦の中で得た物を分析し、血肉としていくしかないと考えている。

口が悪く性格も破綻気味のため、誤解されやすいが、知的な能力は非常に優れている。これは研究施設で受けた教育の賜物であり、
高い教養を備えているが、誰からもそうは思われない。
69ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/21(水) 02:35:22.79 ID:C26Mh9kd0
少し休んだので一応セイン君の更生物語を、まちがいなく最悪の師匠に付いたと分かります
機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第21話


ドロテス・エコーはオフィスの中、自分のデスクでゆったりと煙草を吸っていた。至福のひとときである。斜め前のデスクでは同僚のギルベール・サブレットが週刊の漫画雑誌を読んでいる。
ギルベールのデスクには漫画雑誌が山のように積まれており、ドロテスのデスクの上には煙草と、煙草の吸殻が山のようになっている灰皿があるだけであった。
とても仕事をしているように見えないがこれでいいと上司のロウマ・アンドー大佐に言われているのだ。
ドロテスとギルベールはセーブルからクライン公国の首都であるアレクサンダリアに帰ると、ロウマに、このオフィスに案内され、その上で好きなデスクを使っていいし、好きなことをしていて良いと言われたのだ。
ちなみにこのオフィスに限り喫煙可、飲酒可だという。
ドロテスとギルベールは驚愕した。なぜなら、このオフィスは聖クライン騎士団の本部にあるからだ。そしてこのオフィスは本部の1つのフロアの半分を占領している。
そして、もう半分はというと倉庫である。だが、その倉庫もドロテスらが好きに使って良いということらしいので、実質1フロアがドロテスらのものだった。
ドロテスとギルベールは、ロウマがまたあくどいことをしてこのフロアを手に入れたのだと考えていた。
だが、オフィスの居心地は最高なのでドロテスとギルベールは喜んで使わせてもらっていた。
肝心のロウマというと、オフィスの奥の方に自分だけの部屋を造っていた。
ドロテスとギルベールは一度中を見たが、ロウマの部屋は圧巻だった机も椅子も最高級の物であり、来客用のソファーと机も豪華極まりないもの。
壁には高価そうな絵画や、彫刻が飾られ、豪華な装飾がされた剣や銃も掛けられていた。
そして、見ただけで高級と分かる棚の中にはいくらするか分からないような高級酒が並んでいる。本棚も内容より装丁の絢爛豪華さだけで選んだ本が並んでいた。
高級な絨毯も引いてあるうえ、窓からはアレクサンダリアの街並みが一望できた。
ドロテスとギルベールの感想はどこかの悪徳企業の役員の部屋のようであるで一致した。
「なんか格差を感じる」
「奇遇だな、俺もだ」
ドロテスは煙草を吸い、ギルベールは漫画を読む。二人はそれだけで満足だが、自分たちもロウマの部屋が欲しいと思うのだった。
まぁそんなこんなで2人がのんびりと過ごしていた、ある日、珍しくオフィスに人が来た。
「失礼する!」
凛々しい女の声がしたが、ドロテスとギルベールは気だるい感じで、声の方を見た。声の先にいたのは凛々しい顔立ちの長身の美女だった。
「プラチナブロンドの前髪パッツンてどうなん?」
ギルベールの疑問に対し、ドロテスも突然現れた美女の髪型には思うところがあったが何も言わないことにして、煙草を吸っていた。
突然現れた美女はほぼ銀色のプラチナブロンドであり、その髪を額の辺りで真っ直ぐ切り揃えていた。短髪ではなく、長髪で腰までありそうな長い髪だったが、前髪がとにかくドロテスらには印象的だった。
「私の名はイザラ・ジュールだ。よろしく頼む!」
そう言って、銀髪の美女イザラは一礼をする。ジュールというと名門のジュール家の人間かとドロテスは思った。そして思った通りだった。
「私は武門の家、ジュール家の出身だが、そのことは気にしないでくれ!」
いちいち声がでかいとギルベールは思った。
70ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/21(水) 02:36:31.78 ID:C26Mh9kd0
「ジュール家も、もはや没落した家。だからこそ私が戦場で武勲を立て、家を再興させるのだ!」
それよりも前髪を再興させたほうがいいと、ドロテスらは思った。
「ちなみに、私の階級は少佐で貴様らの上官だ。そしてロウマ・アンドー大佐がいない時は私が隊長代理となる」
ドロテスらは、は?となった。上官は別に良いが、隊長代理とはなんだと思った。そもそもドロテスらどこかの隊に入れられたという話しも聞いていないのだ。
「我らは、これより“ガルム機兵隊”として戦場で活躍するのだ。これは名誉なことである!」
“ガルム機兵隊”?ドロテスとギルベールは訳が分からなかったが、なんとなく察した、ロウマ・アンドーはそのガルム機兵隊という部隊のために、このオフィスを用意したのだ。
「早速だが、新入隊員の紹介をする。入ってこい!」
イザラが言うと、白髪の少年がぼんやりした様子で部屋に入って来た。
「よし、自己紹介!」
イザラが言うと、少年はぼそりと呟く。
「……ゼロ……です」
かろうじて聞こえる声だった。ドロテスとギルベールは不安しか感じなかった。するとイザラが言う。
「ジェミニとかいう前にいた隊員と同じようなものらしいので、あまり気にするなと大佐からの伝言がある!」
やはりドロテスもギルベールも不安しか感じなかった。ゼロという少年は場の状況が分からないようで、ぼんやりと何も無い宙を見ている。
「とにかく、最初はこのメンバーだが、後々、隊員は増員されるらしいので楽しみに待つように!」
イザラはそう言った後で、改めてメンバー見回し言うのだった。
「この中で、ロウマ・アンドー大佐に死んで欲しいと思う者は手を挙げろ!」
するとゼロを除く3名全員が手を挙げた、言いだしたイザラも手を挙げていた。
「よし、部隊の統率は取れているな。問題なしだ。この調子で行くぞ!」
オーとは行かなかったが、取り敢えず皆ロウマ・アンドーが大嫌いだという一点においては共通したチームだった。
しかし、後にこのガルム機兵隊はクライン公国最凶の部隊として誰もが恐れることになるとは、まだ誰も知る由がなかった。

ガルム機兵隊という隊の名前が決まったのは良かったが、何をするのかは隊長代理のイザラにも分かっていなかった。なので各々、好きに過ごしていた。
イザラはとりあえず体を鍛えていた。とにかく筋トレに励んでいたのだ。ドロテスはひたすら煙草を吸い、新聞を読み、空いた時間は昼寝をして過ごした。ギルベールは漫画を読んでいる。
ゼロはというと、意外なことに役に立つことが判明した。ギルベールが試しに茶の淹れ方を見せると、茶の淹れ方を覚えた。そして、誰かが、茶、というと茶を淹れて持ってきてくれるようになった。
というわけで、ゼロは教えれば一通りのことができると分かったので、メンバーはゼロを雑用係にした。イザラはプロテインを用意しろと命令するし、ドロテスは煙草を買ってこいと命令、ギルベールは週刊の漫画雑誌を買ってくるように命令した。
そうやって、のんびり過ごしていたある日、隊長のロウマ・アンドーがやって来た。
71ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/21(水) 02:37:28.19 ID:C26Mh9kd0
「よ、みんな元気?」
元気は元気だ、何もすることが無くて暇を持て余しているのだから。
「まぁ、ヒマだと思うけど好きに過ごしててよ。仕事がある時は俺が言うから、それまで勝手にしてていいよ。遅刻無断欠勤なんでもありだから、俺の力で給料とか色々の評価に影響でないようにするからね」
「超絶ホワイトじゃん」
ギルベールが馬鹿なことを言うが、裏があるに決まってるとイザラとドロテスは思った。
「ただし、俺が命令した仕事はキッチリやれよ。それさえすれば、俺はなんも言わんから」
そう言った後で、ロウマは不意に何かを思い出したように言う。
「ああ、そういや仕事はあるわ。毎月の月末に俺の素晴らしいところを書いたレポートを提出してもらうから、あと、俺の良いところを発表してもらうから」
何を言っているんだこの男は、とゼロを除くメンバー全員が思った。
「とりあえずギルベール君から、俺の良いところ発表」
ギルベールは、え?といった顔になりながらも何とか思いついた。
「顔が良い」
「次、ドロテス君」
「頭が良い」
「次、イザラちゃん」
「えー、えーと……性格が良い」
「よし、全員オーケーだ」
ロウマは満足したようだった。とりあえず皆ほっと胸を撫で下ろす。
「ところでさ、イザラちゃん。26歳だよね、それで少佐なんだよね?俺、26の時には中佐だったんだけど、どう思う?あと2年で大佐になれる?無理だよね。うん無理だね。頑張って、階級上がるといいね」
イザラはイラッとしたが我慢した。
「とりあえずキミら頑張ってね。キミらが頑張るとキミらを管理してる俺の評価が上がるから。俺の評価が上がると階級が上がって俺もついに准将って感じになるんで、死ぬ気でやれよ」
どこまでも自分勝手な男だと、メンバーは思う。が思ってもどうしようもない。階級の差が問題ではなく、ガルム機兵隊は全員が、ロウマに弱みを握られていた。
ロウマは最後に脅しをかけるように低い声で言った。
「キミらは、俺の命令に対して、死ぬ気でやらないとどうなるか分かるよな?」
そう言うと急に明るい声に戻ってロウマは言うのだった。
「じゃあ、俺は忙しいのでさよなら。あとはイザラちゃんよろしくね」
そう言うとロウマは去っていった。
残されたメンバーの雰囲気は暗いものとなっていた。全員、気づいているのだ自分たちが蛇の舌先で転がされる駒だということに。
72ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/21(水) 02:38:37.84 ID:C26Mh9kd0
クランマイヤー王国は初夏を迎えていた。ハルドらがセーブルから帰ってから数日が過ぎた頃である。
ハルドらがセーブルから帰って来た時には大騒ぎになった。その原因はバラバラになったブレイズガンダムであり、レビーとマクバレルは呆然とした後に、発狂した。
2人は奇妙な笑い声をあげながら「徹夜、伸びる開発期間、止まる製造ライン……」とブツブツ言いながら、ブレイズガンダムを工業コロニーのMS製造区画まで運んで行った。
セーブルから新たに仲間になったクリスはすぐさま歯医者と病院へ行き、折れた前歯と奥歯を差し歯にし、折れた鼻筋を元に戻した。
顔が元に戻るとクリスは如才なく皆に挨拶をし、自分が軍師であることを伝え、防衛大臣のアッシュの手伝いに入った。クリスが加わったことでアッシュの仕事量は半分以下になり余裕ができた。そしてできた余裕で。

「こうして夜に酒が飲めるというわけだ」
ハルドとアッシュは久しぶりに酒を酌み交わしていた。
初夏といえど、夜はまだ涼しい。酒で体が熱くなるのも悪い物ではなかったので、2人は強い酒を飲むことにした。飲む酒はウィスキーであった。クランマイヤー王国産の上物である。
「やっぱ酒はいいぜ」
「ああ、そうだな。しかし僕らは21歳だぞ。この年で酒飲みというのも変な気がするのは僕だけか?」
そんなことを言いながら、アッシュはウィスキーをストレートで飲む、ハルドも同じだ。
「別にいいじゃねぇか、酒でも飲まなきゃやってらんないだから、しかたねぇだろ」
「まぁ、そうだな」
言いながら2人は一杯目のグラスを空にする。2人はお互いのグラスにウィスキーを注ぐ。
「……最近、ていうかセーブルの頃からセインが面倒くさい」
「思春期なんだから面倒なのは普通だろ?」
アッシュはたいしたことではないように言うが、ハルドの方はイライラしていた。
「ガキがふてくされているみたいで、なんかムカつく。馬鹿で弱いくせに一人前のつもりでいやがる」
「セーブルで何かあったんだろう。知ってる範囲で教えてくれ」
アッシュにそう言われたので、ハルドはセインがセーブルでボコボコにやられたことを言った。
「多分、MSに乗って力を手にして自分が強くなったと思い込んでいたが、実際はそうではなく、何も変わらない自分だったということに気づいて落ち込んでるんだろう」
「流石はアッシュ先生、分析家だね」
茶化しつつ、ハルドはグラスの酒に口をつける。
「セイン君にはそういう態度は取るなよ。ただでさえナーバスになってるんだから」
「そういうのが面倒なんだよ。なんで俺がガキの顔色をうかがわなきゃなんねーの?」
アッシュは肩を竦めるとグラスの酒を飲んでから言う。
「そりゃ、きみがセイン君の師匠だからだろ?」
「師匠じゃねぇよ。ただ、なんとなく教えてやってるだけで、そんな気持ちはないな」
ハルドがそう言うとアッシュは意外といった表情になる。
「てっきり楽しく師弟ごっこをやってるもんだと思っていたんだけどな」
はんっ、とハルドは吐き捨てるように言うと酒を飲み、言う
「そんなんでもねぇよ。面倒なだけだ。後は1人でやってくれってのが本音で最近は全く面倒見てねぇや」
「それは少し可哀想だな。一応年長者として相手をしてやれよ」
アッシュも飲みながら言っていた。ハルドは負けずに飲みながら言う。
「だったら、アッシュ先生にお願いしますよ。俺よりはガキの扱い上手いだろ?」
「あのなぁ、それでも構わないが、きみとセイン君の関係は余計こじれるぞ。セイン君としてはきみに優しい言葉をかけてもらいたいんだよ」
なんで、俺がという顔をハルドがするとアッシュはたしなめた。
「一応、師匠という存在になってしまったんだから、少しは責任を取ってやれ」
「めんどくせ」
我慢しろとアッシュは言って、その後は雑談をしつつ適当に飲んで、適当な時間に2人は寝た。
73ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/21(水) 03:36:53.69 ID:C26Mh9kd0
結局、翌日になってもハルドはセインに何か言う気にはならなかった。とにかく面倒くさいのだ。
ハルドもセインも未だに王家邸に世話になり、そこに住んでいるが、セインはハルドと顔を合わせるのを避けるように、自分1人だけ食事の時間などをずらすようなマネをしてくる。
ハルドもそういう態度をされると煩わしいので関わりたくなくなってくる。なので今日も関わらない方向性でいくことにした。
ハルドは、今日はMS製造工場の方に顔を出すことにした。製造工場の人々は初夏の暑さにも負けずに今日も元気に働いていた。
とりあえずハルドはレビーかマクバレルを探すことにしたが、探すまでもなく2人はすぐに見つかった。2人はブレイズガンダムの前で作業の指示を出していたのだ。
「うっす」
ハルドが適当に挨拶すると、レビーもマクバレルもハルドを睨んだ。相当にピリピリしていた。
「機嫌悪いなぁ、ブレイズガンダムだってほとんど直ってんのに」
ハルドはブレイズガンダムを見る。外から見た感じでは新品同様にも見える。
「それは外装だけの話しだ」
マクバレルがイライラした声で言う。
「プラモデルじゃないんだからパーツを付けただけで動くわけがないだろうが」
「この後、フレーム接続のチェックと断絶した各部の動力ラインを繋げる作業があるんですけど、ブレイズガンダムは、これが面倒なんですよ」
レビーもイライラした口調で言う。
「我々とて、この機体を完全に理解しているわけではないのでな。作業効率は恐ろしく悪くなるのだ」
天才さんがそう言うなら大変な機体なんだろうとハルドは思った。だからレビーらもイライラしているのかと思ったら、理由はまた別にもあるらしい。
「セイン君が一度も、機体を見に来ないんですけど」
レビーはやはりイラついたように言う。
「自分の愛機が心配とかないのかしら」
なるほどセインの機体に対する愛着の無さが気に喰わないということか。
「それとフレイドの実戦データだがな。貴様の腕が良すぎてマトモなデータにならんぞ」
どうやらイラつきの矛先はこちらにも向いていたようだとハルドは理解した。なので、そのイラつきを抑えるための物をマクバレルに渡すことにした。
「そうなると思って、運用レポート持ってきたから、目を通しておいてくれ私見だから、どこまで参考になるか分からんがな」
そう言って、ハルドはマクバレルにレポートが入ったメモリーを渡す。
「ふむ、案外気の利く男だな。まぁ目を通すのは後になるが、実際フレイドはどうだった?」
「性能は良いよ。けどパワーとサイズを活かせるパイロットの育成が難しいから量産機には向かないな。エース用の少数生産が良いところだと思うが」
ハルドのフレイドの評価を聞いて、レビーもマクバレルも難しい顔になる。
「一応、もう1機の試作機が形になりそうなんで隊長にはそちらのテストもお願いしますね」
気づいたらテストパイロットになってるぞ。とハルドはこの技術屋2人組の強引さに辟易とする思いだった。
74通常の名無しさんの3倍:2015/01/21(水) 03:58:06.18 ID:W4h9gfg20
ここで飯テロ?
75ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/21(水) 18:59:19.59 ID:C26Mh9kd0
ハルドはMS製造工場から王家邸に帰ろうと思った。午後はのんびりと昼寝か読書をして過ごすのだと、思い帰り道を歩いている途中、偶然セインを見つけた。
セインは1人物思いにふけっているようだったが、ハルドの姿に気づくと目を逸らした。
ハルドはそれが何となく気に食わなかったので相手をしてやることにした。少し痛い目を見せなければ性根は直らないようだとハルドは結論付けたからだ。
ハルドから目を逸らすセインに対し、ハルドは近付き、その首根っこを掴んで、立たせた。
「何をするんですか!?」
セインが生意気にそう言ったので、ハルドは腹にパンチを一発入れて、大人しくさせた。
「ちょっと、話しをしようぜ」
そう言うとハルドはセインの首根っこを掴んだまま引きずって行く。そして、連れていった先は、誰もいない草原である。
「さて、俺に対する文句を聞こうじゃねぇか」
ハルドはセインを草原に座らせ、自分は立ってセインを見下ろしている。
「文句なんかありませんよ……」
セインはぼそりと言った。ハルドはイラッとしてセインの顔面を蹴飛ばした。もちろん手加減してだ。
「そういう態度が気に食わねぇんだよ、はっきりしろ」
セインは蹴飛ばされると、キッとハルドを睨みつけ、ぼそりと言う。
「自分が強いからってこんなことが許されるなんて思うな……」
「聞こえねぇんだよ!」
ハルドは聞こえていたが、気に食わないからもう一度セインの顔を蹴飛ばした。
蹴飛ばされたのは2回目だ、セインの鼻から血が垂れる。それがセインの心に火をつけた。
「……どうしてアンタはそうなんだ。嫌なんだよアンタみたいなのは!」
セインは叫ぶ。
「アンタを見ると自分が惨めになるんだ。強くなったと思ったら、本当は自分は弱くて、強い人間は一杯いて、その中でアンタが一番強くて、弱い自分と比較すると自分が何の価値もない人間のように思えて、辛いんだよ!アンタには分からないだろ!」
叫んだ声がうるさかったので、ハルドはもう一度セインの顔を蹴飛ばした。
「これもそうだ!アンタは強いから、誰にも負けないから好き勝手にふるまう!暴力を振るうのだって平気だ。だってアンタは強いから何を言われようが、されようが、無視して勝手ができる。それはアンタが強いからだ!」
ウンザリだ、面倒くさいとハルドは思った。
「弱い奴が吠えてるのを聞くのは、気分が悪いな」
セインはその言葉にカッとなってハルドに掴みかかろうとしたが、ハルドはセインの顔を思い切り殴った。その衝撃でセインは草原に倒れる。
「手加減なしで殴られるとスゲー痛いだろ?」
セインは怯えた目でハルドを見る。その目が気に食わないとハルドは思った。
76ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/21(水) 19:00:18.58 ID:C26Mh9kd0
「俺が強いのが問題なんじゃねぇ、お前が弱いのが問題なんだ」
ハルドはセインの鳩尾に蹴りを入れる。痛みによってセインは息が出来なくなり地面の上をのたうち回る。ハルドはセインが、自分の声を聞ける程度に回復するまで待った。
「……すぐに折れる弱い心、多少はマシになったと思ったが、まだ全然なっちゃいねぇ」
倒れたセインを無理矢理立たせ、ハルドはセインを投げ飛ばす。
「自分を律することのできない弱い心。だから反省し、自らを律し、自分を改善することができない」
セインは何とか受け身を取って投げのダメージを最小限にした。
「だから、同じ相手に同じようにやられる。褐色と赤いザイランの2機相手にだ」
セインは倒れながら、敗北を思い返すが、アレは相手が強かったからで……
「自分に非が無いと言い訳する弱い心」
ハルドは倒れているセインを蹴飛ばす。
「いま、言い訳を考えたろ?相手が強いからとかなんとか、だいたい想像がつくぜ」
ハルドは座ってセインを見ている。その表情は明らかにセインを馬鹿にしたものだった
「くそ、ちくしょう、ちくしょう……」
セインは必死の思いで立ち上がるするとハルドも立ち上がる。
「弱いのは心だけじゃなく頭もだな」
セインがハルドに殴りかかるが、ハルドは軽く躱しながら、セインの顔にジャブを何発か当てる。
「考え無しの猪突猛進。その場だけの考えで動く理性の弱さ」
セインの顔面の皮膚がパンチで切れて血が流れ出す。
「情勢の読めない察しの悪さ。本音と建て前も分からず、お世辞かどうかを考える頭もない」
セインの遅いパンチを躱し、ハルドはセインにボディブローを決める。
「だから、どんどん取り巻く状況が悪くなる。戦いだって頭の使いようだっていう理解が無いから弱い」
腹に決まった衝撃にセインはうずくまる。それをセインは冷たい目で見降ろしていた。
「相手が強いことに文句を垂れる前に自分が強くなれよ、カス」
ハルドはセインの髪を掴み。顔を上げさせる。
「戦うと決めたら覚悟を決めろよ、泣き言は言うな、甘えんな、自分が弱い?自分がちっぽけ?惨め?
そんなの俺の知ったことじゃねぇ、全部お前の頭が悪くて弱いのが、悪いんじゃねぇか、それを俺がどうしたのこうしたの、グダグダ言いやがって、気持ち悪いんだよ!」
ハルドは顔を上げ、上を見上げさせられている状態のセインの顔面に拳を打ち降ろした。
グチャリという音がしてセインの鼻が折れる。
「グダグダ言う前に強くなる努力をしろ。自分が弱いと思ったら強くなる努力をしてからグダグダとなんか言え、何もしてねぇでふてくされて意味なく時間を浪費するなら、その時間で強くなれるように頭を使え!」
ハルドが手を離すとセインは崩れ落ちて地面に倒れ伏す。だが、セインはまだ立ち上がろうとしていた。
77ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/21(水) 19:01:03.53 ID:C26Mh9kd0
「僕の……気持ちを……分かろうとも……しない癖に……」
そうセインが言った直後、ハルドはセインの腹を勢いよく蹴り飛ばした。
「分かるかボケェ!分かってほしかったら、口で言えガキィ!誰もが何もかも察して自分の思い通りに動いてくれると思うんじゃねぇ!てめぇの方が周りに甘えてんじゃねぇか!俺がお前の思い通りに動くか、馬鹿が!」
セインは蹴りの衝撃に、げほげほと咳き込む。
「優しくしてほしかったら、優しくしてくださいって言えば俺だって優しくしてやるし。
アイツは僕の仇なんで殺してくださいって、直接俺にお願いしたら、殺してやったかもしんねぇっつうの。それをてめぇは母の仇だか何だかで、何にも説明しねぇで、それで俺にどうしろってんだ馬鹿野郎!
そもそも気持ちを察してくださいって常日頃から言ってたら、俺だってお前に気を使ってやるっつうの!理解する努力はしてやってもよかったってのによ!」
もうハルドの方も訳が分からなくなってきていた。ハルド自身もこんなに興奮することは久しぶりだからだ。ハルドはセインの胸元を掴み、無理やり立たせるとセインの額に頭突きをする。セインの額が切れて血が噴き出す。
「ガキが格好つけていい気になりやがって、自分は頭が悪くて弱いので助けてくださいとでも言えば、何とかしてやるっつうの。自分一人で何かがどうにかできるほど、てめぇはたいした人間じゃねぇってことを知れ、カス!」
フラフラと立つセインにハルドはもう一発パンチを叩き込む。
「なにが自分はちっぽけだ!惨めだ!小さい存在だぁ!?てめぇみてぇな弱いガキはみんなそうだっつうの、格好つけて自己嫌悪に浸ってんじゃねぇ!
そんな暇があんだったら強くなる努力をしろ!自分のケツを自分で拭けるようになってからだっつうーの、自分の弱さを省みるのはなぁっ!それまで、てめぇは黙ってろ、馬鹿野郎がっ!」
最後に思い切りハルドはセインの顔面にパンチを叩き込んだ。そして気づく、マズいと。
ハルドが冷静になった時には血まみれのセインが草原に横たわっていた。

「……うん、まぁあれだ僕が最初に何か言っておけばよかったな……」
アッシュとハルドは夜中、酒を酌み交わしていた。セインは見た目よりは重症ではなかったが念のため検査入院となった。
「……別に気にしちゃいねぇし……」
そうは言っていても、流石にハルドはやりすぎた気がした。アッシュはそんなハルドを見ながらビールを飲む。
「まぁきみが言いたいことは全部言ったし、彼にも伝わったと思うよ」
アッシュはハルドに気を使い、そう言った。
「アッシュ先生は優しいなぁ」
ハルドは茶化しながら言うが、それほど元気な様子もない。
「本当のこと言うとムカついたから殴った部分も大きい」
ハルドはビールを飲みながら言う。
「ぶっちゃけ、俺はそんなにセインが好きじゃない。今日で理解した。ああいうグチグチした奴は嫌いだ」
そうハッキリと言われるとアッシュも困る。
「まぁ、それでもきみは努力したんじゃないか、セイン君は立ち直ったと思うぞ」
実際、セインは病院に搬送される最中、うわ言のように「強くなる」とずっと呟いていた。
「だと良いけどさ、間違いなく俺は人にものを教えるのに向いてないと分かった」
なにせパンチを使わなきゃ物を教えられないのだからとハルドは思う。
「……きみはセイン君をガキだと言ったみたいだが、僕たちもまだ若いんだ。色々と協力していこう」
「さすがアッシュ先生、うまくまとめるね」
そう言って、ハルドはビールを飲み干した。
78ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/21(水) 19:01:40.59 ID:C26Mh9kd0
数日が経って、セインは病院から退院した。退院するなりセインはすぐにハルドの元に向かった。
そしてハルドを目の前にして言うのだった。
「僕は自分が言ったことを悪いとは思っていません。僕はあなたを見ると自分が弱い存在だと感じるところも変わっていません。
ですがそれを考えるのと同時に、あなたに近づけるように強くなりたいとも思います。だから、僕を強くしてください。そして僕の復讐を手伝ってください」
セインは頭を下げてハルドに言った。ハルドとしては面倒だったが言った以上、仕方がない。
「俺はめんどくさがりなんで全部それなりでもいいなら、俺の出来る範囲で手伝ってやる。お前が自分で自分のケツを拭けるくらいにはしてやるよ。時間がかかるかもしれんがな」
そう言うと、セインとハルドは互いに僅かに微笑むのだった。
「男はよくわかりません」
その場を目撃したミシィは不思議そうに2人を見て、そう言った。
「まぁ、セイン君は殴られすぎてちょっとおかしくなってる部分はあるし、ハルドは元々おかしいから、ようやく釣り合いの取れた師弟関係になれたんじゃないかな?」
アッシュは悪意なくひどいことを言いつつ、ミシィに理解を求めた。そして多分これからもハルドとセインは揉めるだろうという予感をアッシュは抱き、これからも毎回この程度で済むことを天に祈るのだった。
79ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/21(水) 19:26:08.12 ID:C26Mh9kd0
21話終了です
セイン君はボコボコにされて頭が少しおかしくなってしまいました
そして作者も頭がおかしいのか、投下した記憶がないのに21話が投下されていて
何故とうかしてあるんだろうか、朝起きて不思議に思いました
しかし21歳の男に16歳の少年の面倒をちゃんと見ろってのも現実的な話だと無理とは言わないにしても難しいですよね
80通常の名無しさんの3倍:2015/01/22(木) 00:42:41.53 ID:5Q7torLk0
>>EXEED
投下乙です
>>68でハルドの生育環境をみる限りでは
まともな人間関係を築くことすら難しそうなんですが
やっぱりハルドキチってるwwwと思いました
たぶん年齢の問題ではないと思います
81ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/24(土) 01:46:52.97 ID:6wvHLmZM0
投下します
機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第22話


「少し出かけようと思うんで、アッシュとセインは一緒に来てくれ」
急にハルドがこんなことを言いだした。セインは別に問題なかったが、アッシュには仕事がある。だが、ハルドは無理やりアッシュを連れ出した。
3人が乗ったのはクランマイヤー王国から出ている宇宙船の定期便だった。アッシュとセインはハルドに強引に乗せられた。
定期便に乗ったあとで間抜けな話だが、アッシュは行先を聞いた。するとハルドは平然とした顔で答えるのだった。
「アレクサンダリア」と。

「まずくないか?」
「ヤバいと思います」
アッシュとセインは、顔をひきつらせながら言った。2人の顔が引きつっている理由は単純である。
ハルドにアレクサンダリアまで連れて来られ、さらにアレクサンダリアに到着し直後に向かった場所、アッシュとセインの目の前には聖クライン騎士団の本部の建物があった。
聖クライン騎士団の本部は城のような外見であった。外見は綺麗な城であるがセインにとっては恨みの対象でもある。しかし現状、セインは恨みの感情を湧き上がらせる余裕はなかった
「僕、お尋ね者なんですけど」
「僕も似たようなものだ」
アッシュとセインは警察所の前に立たされている犯罪者と同じようなものであり、2人の気分もその犯罪者と同じようなものだった。
「堂々としてりゃ、ばれねぇよ」
ハルドはそう言って、堂々と聖クライン騎士団の本部の中に入って行った。アッシュとセインは入りたくなかったが、ここにいるのも嫌だったので、とりあえずハルドを追った。
本部の中に入るとロビーは飾り気がなく、シンプルなものだった。
「すごい見られてる気が……」
実際、ハルドらはロビーにいた聖クライン騎士団員から怪訝な目で見られていた。本部に民間人が入ってくることなど滅多にないからである。
「堂々としてろって、今の所悪いことしてるわけでもないんだから」
ハルドはそう言うが、アッシュもセインもお尋ね者なので、悪いことをしてなくても色々と問題はあるのだが、ハルドは気にしていない様子で、堂々とロビーにある受付に向かった。
ロビーの受付嬢は美人であった。そして丁寧であった。
「聖クライン騎士団本部に何かご用でしょうか?」
そう尋ねられ、ハルドは大きな声で答えた。
「ロウマ・アンドーさんに会いたいんですけど!」
そうハルドが言った瞬間だった。ロビーの雰囲気が一変して張り詰めたものになり、ハルドらを見ていた騎士団員は引きつった表情になり、そそくさとハルドらから目を逸らした。
82ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/24(土) 01:49:22.23 ID:6wvHLmZM0
「ア、アポイントメントはございますか?」
受付嬢の表情も引きつったものになっていた。美人が台無しである。
「無いけど、ロウマさんから、来いって呼ばれてんだけど?」
「え、えーと、アポイントメントが無い以上、こちらとしては団員を呼び出すということは出来ないのですが……」
受付嬢は応対に困っている様子だった。通常通りにやればいいだけなのだが、ロウマの名前が出てくると、受付嬢としては慎重にならざるをえなかった。
「いや、だから、向こうから呼び出されてんだよ、わかんねぇかな」
ハルドも受付嬢を困らせていた。その時だった。
「おお!ハルド君じゃないか、よく来たねぇ!」
急に大きな声がした。セインには忘れることの出来ない声だ。
「おお、ロウマさんじゃないですか!」
そう、大きな声の主はロウマ・アンドーだった。
ロウマ・アンドーはハグをしたいようで両腕を大きく広げ、ハルドに近づく。対してハルドも大げさに両手を大きく広げ近付き、2人は抱き合った。
見た感じでは、とても親密そうだった。セインとしては敵と何故仲良くできるのか理解できなかった。そして、ハルドの態度に怒りも覚えていたが、ここで騒ぎを起こすのはマズイと理性が働いた。
ハルドに殴られ蹴られ、セインは理性やら何やらを学んだのだった。そして学んだ理性や状況判断能力が、ここでは大人しくしていることを選択させた。
ハルドとロウマは本当に仲が良さそうに振る舞っていた。実際に性格も合うのかもしれないとアッシュは思うのだった。
「ここの受付は顔だけは良いけど頭が悪くて困ったろ?」
「そりゃあ、まぁ」
ハルドが曖昧な返事をすると、ロウマは受付嬢の方に向かって行き、受付嬢に小声で何かを話しかけていた。すると急にワッと受付嬢が泣き出した。ロウマは満足した表情でハルドの元に戻った。
「いじめっ子だなぁ」
ハルドが言うと、ロウマは舌を出し、全く悪びれる様子はなく言うのだ。
「顔が良いだけの雌豚は、たまにああやって調教しないとね」
そう言うと、ロウマは手で、ハルドらに先へ行こうと合図するのだった。
アッシュとセインは嫌な予感しかしなかったが、ハルドはなんの警戒もなくロウマに付いていく。
「その他大勢の方もこちらへどうぞ」
ロウマがアッシュとセインを馬鹿にしたように言う。どうやらロウマにとって客はハルドだけらしかった。
ハルドらはロウマの案内でロウマのオフィスがある階まで向かった。
ロウマのオフィスがある階に到着すると、そのままロウマは何も言わず先頭を歩き、ハルドも何も言わずについていく、アッシュとセインはその後についていっていた。
ロウマのオフィスに行くまでの間に広いオフィスを通ったが、そこでセインはボーっとしている少年と、筋トレをしている女性、煙草を吸っている男、漫画を読んでいる男の姿を確認した。
このうち2人の男はセーブルでセインに敗北を与えた男たちなのだが、セインには知る由もなかった。
「どうぞ」
ロウマは広いオフィスの奥にある扉の前に立つと、その扉を開き、ハルドらを中へと招く。
ハルドらは特に警戒することもなく、その部屋に入った。そして、圧倒された。部屋の内装の豪華さにである。
「まぁ、座ってよ」
ロウマはハルドらに来客用のソファーに座ることを勧める。ハルドらは素直にソファーに座った。ハルドを真ん中にしてアッシュとセインがその隣という並びだ。セインはソファーに関しては最高の座り心地だと思った。
83ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/24(土) 01:50:35.40 ID:6wvHLmZM0
「一介の大佐の部屋とは思えねぇな」
ハルドは部屋を見渡しながら言う。するとロウマは笑いながら言う。
「悪いことすれば、これくらいの部屋は楽勝だよ。例えば3人ほど暗殺するとかね」
そんなことを言いながら、ロウマは部屋にある棚を開けた。中には酒瓶が大量に入っていた。
セインはこの男はやはりマトモじゃないと思いながら、現状ではその動きを様子見することしかできないことに歯がゆさを感じていた。
「なんか飲むだろ?」
ロウマは酒を見繕いながら言った。
「良い酒ならなんでも」
「同じく」
ハルドとアッシュは冷静な表情で言った。するとロウマは酒を決めたようで、酒瓶を手に取る。
「軍の高官の家族を皆殺しにした報酬で貰ったワイン。良いもんだよ。普通に買うとしたら安い車が買えるくらいの値段がする」
そう言って、ロウマはワインをソファーの前のテーブルの上に置く。
「保存状態悪いだろ?」
ハルドが言うが、ロウマは無視してグラスを4つ取り出し、全員の前にグラスを置いた。
「まぁ飲めれば良いし、貰ったのは最近だから、別にいいじゃないか」
そう言いながらロウマはワインのコルクを開ける。そして、全員のグラスにワインを注ごうとしたが。
「僕は未成年なので遠慮します」
セインは遠慮した。それ以上にロウマから何かを貰うというのが嫌だった。
「遠慮すんなよ、未成年くん。飲まないと殺すぞ」
そう言って、ロウマはセインの前のグラスにワインを注いだ。
「まぁ飲んどけ。少しは悪いことも覚えろ」
セインの隣に座るハルドが言い、その隣のアッシュも同意して言うのだった。
「高い酒なんて滅多に飲めないんだから、ここは遠慮せずいただいたほうが良いよ」
セインはハルドもアッシュも酒飲みだということを思い出した、どうやら2人は良い酒を前にして、ロウマに対する態度を軟化させていると思った。
そうセインが考えているうちに4つのグラス全てにワインが注がれた。
「じゃ、乾杯」
ロウマは勝手にそう言うと、勝手に飲みだした。ハルドもアッシュも勝手に飲みだしている。セインはどうすれば良いか分からなかったが、3人の真似をしてワインを飲んだ。
初めて飲んだ酒はセインにとって訳の分からない味であり、飲みこむと喉の辺りが熱くなった。
「美味いな」
「ああ、良いワインだ」
ハルドとアッシュは感嘆とした声で言っていたが、セインは美味いともなんとも思えなかった。
「1家皆殺しする価値はあるだろ?」
ロウマはヘラヘラと笑いながら、ワイングラスに口をつける。やはりマトモじゃないとセインは思った。
「まぁ、飲みながら楽しくお話しをしようか。ハルド君とその他大勢さん」
ロウマはやはり、アッシュとセインは眼中にないようだった。だが、それでは困ると、口を挟んだのはアッシュだった。
84ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/24(土) 01:51:11.14 ID:6wvHLmZM0
「ハルドとの話の前に、こちらには聞きたいことがあります。ロウマ・アンドー大佐」
アッシュはロウマを睨みつけていた。
「なんだい、その他1号君」
ロウマは馬鹿にした物言いを崩さない。
「お忘れですか、僕は一時期あなたの部下だったアッシュ・クラインです!」
アッシュは語気を強めて言うがロウマはどこ吹く風といった感じであった。
「いや、名乗らなくても誰だか分かってるからいいよ。きみに興味も関心もないんだけどなぁ」
知っていて、それでもその他大勢扱いしていたのかとアッシュは怒りを覚えた。
「僕が聞きたいのは、どうして3年前に僕を嵌めて濡れ衣を着せたのかだ。あなたの捏造した調査書のせいで、3年も監禁されたんだぞ!」
語気を強くアッシュが言うがロウマは興味なさそうに聞いて、そしてどうでも良いことのようにアッシュの疑問に対して答えを返した。
「だって、邪魔だったから」
ロウマの言うことはそれだけである。アッシュを人扱いせず、虫であるかのように言った。
「邪魔だったとはどういうことだ!?」
アッシュはロウマを殴りたかったが、怒りを抑えて尋ねた。
「面倒くさいなぁ……、単純にきみがいるとエミル・クラインを公王にしづらかったんだよ。今だし、この場だからぶっちゃけるけど、エミル・クラインが公王になれるようにお膳立てしたのって俺なんだよね」
なんだと?アッシュもセインも驚きの表情でロウマを見る。ハルドは興味がなさそうだった。
「エミル・クラインて、馬鹿じゃん。でも馬鹿の方がトップに置くには都合が良かった。けど、能力的には優秀なきみを公王にしたいって言う面倒なアホも多かった。
利口なきみにトップに立たれると俺がやりづらいから、色々手を尽くして、表舞台から消えてもらったわけ。
さすがに、色々暗い噂が立っている人間を公王にはできないから、きみに適当な罪を被って貰って、閉じ込めておいたわけだ」
政治的な都合で利用されたということかとアッシュは理解した。しかし、納得は出来なかった、そして怒りを抑えるのも限界だった。
「ロウマ・アンドーっ!」
アッシュは自分を3年間の監禁状態にさせた原因に殴りかかった。だが、その拳は届かなかった。
ロウマはソファーに座ったまま素早く蹴りを放ち、アッシュの鳩尾に叩き込む。アッシュは蹴られた衝撃でソファーに戻される。
「落ち着けよ。昔の話しなんだから許せって。それに今は出られてるんだから、いいじゃないか?」
ロウマは相変わらずどうでもいいといった感じで言うのだった。
蹴りの衝撃と痛みで冷静になった、アッシュはソファーに座りなおし、身を整え言うのだった。
「あなたのことは許せないが、今言っても仕方ないことなのは確かだ。会話の席で殴りかかった僕にも問題はあった。色々と腹の立つことは多いが、今は大人しくさせてもらう」
そうアッシュは言うと、テーブルの上のワインに口をつけるのだった。
ハルドはというと、隣のアッシュの行動などどうでも良いといった感じで、のんびりとワインを飲んでいた。
85ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/24(土) 01:52:33.16 ID:6wvHLmZM0
「さて、その他2号君も俺に何か言いたいことはあるのかな」
そんな風に言っても、ロウマは実際は興味がなさそうだった。それでもセインは聞かなければいけないことがあった。
「僕の名前はセイン・リベルターだ。憶えているだろう」
そうセインが言うと、ロウマは手をポンと叩き思い出したような、仕草をしたセインにはそれがふざけているようにしか見えなかった。
「うん、憶えてるよ。見逃してやったんだよなぁ、たしか俺が。そうかそうか、ハルド君と一緒にいたのか、結構面白い道を歩んでるね。悪くないよ」
そう言うが、ロウマはどうでも良さそうだった。セインはその態度に怒りを覚える。
「どうして、あの日、僕の母さんを殺した!?殺す必要はなかったはずだ!?」
セインは怒りを言葉に込めてロウマにぶつける。セインは両親を失った日を憶えている。このロウマ・アンドーという男はいきなり母を殺したのだとセインは思い返していた。
「そりゃ、殺したかったから。別に理由はないよ」
セインは一瞬、ロウマが何を言ったのか理解できなかった。だが、理解した瞬間にセインの身体は動いていた。
「この野郎っ!」
セインは殴りかかる。だが、やはり、その拳は届かない。ロウマの蹴りがセインの拳よりも早く顔面を捉え、セインを蹴り飛ばしていたからだ。顔面を蹴られたセインの鼻は折れ、鼻血がとめどなく溢れてくる。
「あー、くそ。やめてくれよ。ソファーと絨毯が汚れるだろ」
ロウマはセインよりもセインの鼻から流れ落ちる鼻血で自分の部屋が汚れることを心配していた。
「まぁ、鼻を蹴った俺も悪いんだけどさ」
ロウマは多少反省の色を見せながら言った。そして、そう言った後で不意に何かに気づいたように、言葉を続ける。
「今の声、あれか。ブレイズガンダムのパイロットと同じ声か。そうか、セイン君がブレイズガンダムのパイロットになったか、本当に面白い道を歩んでるなぁ」
そう言うが、ロウマはやはりどうでも良さそうだった。基本的にロウマはアッシュとセインには興味を示していなかったのだ。
「つーか、2人とも落ち着いてくんねぇかな、話しができねぇんだけど」
ハルドは隣に座る2人の騒ぎには興味を示してなかった。興味があるのは、ロウマが自分をやたらとさそってくる理由についてだ。
「俺としても話しがしたいから、その他大勢君たちは静かにしててくんないかな。きみ達の相手は、またそのうち個別にしてやってもいいから」
そうしてロウマはハルドに顔を向ける。
「じゃ、何の御用か教えてもらいましょうか、ロウマさん?」
ハルドも真面目な態度ではなかった。そしてロウマも真剣な感じはない。2人は世間話でもするような感じで話し始めるのだった。
「んじゃ、お話ししようかハルド君。俺もそこまでヒマじゃないから単刀直入でいいかな?」
「どうぞ」
ハルドは言いながら、瓶からグラスへワインを注ぐ。
「では単刀直入に、俺はハルド・グレン君、きみをスカウトしようと思ってる」
その言葉に驚いたのはハルドではなく、アッシュとセインだった。
「スカウトだと」
アッシュが思わず声を出すと、ロウマは大げさに首を横に振る。
「もちろん騎士団じゃないから、その他大勢さんたちは、ご安心をして、黙って座ってろ」
ハルドの方はのんびりと酒を飲みながら聞くのだった。
86ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/24(土) 02:24:42.64 ID:6wvHLmZM0
「何のスカウト?」
「怪しい秘密結社への」
そう言われ、ハルドは首を傾げながら言う。
「なんかやだなぁ」
「まぁそう言わずに」
ハルドとロウマの会話はのんびりしたものだった。
「秘密結社って、そもそも何よ。宗教がらみはパスな」
ハルドがそう言うとロウマは大げさに首を横に振る。
「大丈夫、由緒正しい秘密結社で、色々と陰謀を企ててるから」
アッシュとセインはそんな組織があることを、こんなに簡単に明かしていいのかと思った。
「俺の隣で2人、聞いてるやつらがいるけど、バラシていいの?」
「いいよ別に、どうせ、そいつら、なんの影響力もないし」
ロウマはアッシュとセインは完全に眼中にないといった感じだった。
「組織の名前はプロメテウス機関。なかなか格好いい名前だろ?」
「趣味は悪くないかな」
ハルドは本音で言った。
「組織の目的は、人間を次のステージに進化させること」
次のステージ?進化?アッシュとセインは話しが飛躍しすぎであるように感じた。
「あんまり、そういうのに興味ないな。人間は今のままで良いよ。これ以上、人間がパワーアップしても面倒くさいだけだ」
ハルドがそう言うと、ロウマも頷いた。
「その考えには同意だね。俺も組織の目的には興味ないし」
「じゃあ、なんで入ってるんだよ?」
思わずセインが尋ねた。するとロウマは平気な顔で言う。
「組織のネットワークを活用するため、組織に所属している人間とコネクションを得るため、組織の技術力を利用するため。これが俺がプロメテウス機関に所属した主な理由」
ロウマはぬけぬけと言い放ったが、少し考える仕草を見せ、続けて言う。
「まぁ、組織の活動も嫌いじゃないかな。色々と面白いしね」
「具体的にはどんな活動なんだよ?」
ハルドが尋ねるが、するとロウマは手でそれを制する仕草を見せて、言う。
「組織の活動を知るためには、まず組織の目的を知る必要があるね。プロメテウス機関、この組織の目的は人間を次のステージに進化させること」
じゃあ、とロウマは前置きを入れながら続ける。
「人間の進化ってなんだって話になるわけだ。身体的、知的に優れている?これに関しては、もう充分だ。コーディネーターがいるんだからね。
人工的というのがプロメテウス機関としては若干、気に入らない部分ではあるが、コーディネーターは進化した人類であるとプロメテウス機関は位置づけた。
けど物足りなかった。コーディネーターになっても人間は精神的には進化しなかった。知的に優れたはずのコーディネーターなのにも関わらず何度も人類が絶滅しそうな戦争を繰り返す。
そこでプロメテウス機関は考えたわけだ、人間は精神的に進化する必要がある。ってな具合にね」
87ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/24(土) 02:25:32.14 ID:6wvHLmZM0
ロウマは長い話しをしながら途中で何度かワインを口に含み、飲み込む。。
「そしてプロメテウス機関は人間を精神的に進化させるために活動を始めたわけだ。第1に始めた計画はEXSEED計画。ハルド君は、それなりに詳しいかな?」
ロウマの言葉を聞いたセインは横目でハルドを見ると、ハルドの表情は鋭くなっていた。
「そんなに怖い顔で見ないでくれよ。俺は基本的にEXSEED関係の計画にはノータッチなんだから」
アッシュとセインはハルドが、そのEXSEED計画と何か関係があることは察したが、その計画の内容までは想像できなかった。
「まぁ、たいした計画じゃないよ。そんなに上手くいってる計画でもないしね。単純にまとめると、人類全員をSEEDより優れた感受性や認識能力を持つEXSEEDという存在に変えることで人類の精神的な進化を促すって計画だね。
ちなみにブレイズガンダムも、その計画の端っこ、末端のほうのプロジェクトに使われているね」
なんだと?セインは、どういうことかロウマから聞き出そうと思ったが、ロウマは手で制して、言う。
「ブレイズガンダム周りも俺は基本的にノータッチだから、良く知らないんで、教えてあげられることは無いね」
ロウマはセインの心を読んだように、先に言った。
「じゃ、続けるけど、今プロメテウス機関が重視して行っている。というか成功しそうな可能性が一番高いと思って進めてるのが、人類統一計画」
ロウマは空になったグラスにワインを注ごうとするが、中身はなかった。
「人の物なのに飲み過ぎだなぁ、ハルド君」
そう言うとロウマは再び棚から酒を取って来た。
「ウィスキー、本物のスコッチだよ。本物だから当然、地球産」
ロウマは、そう言うと褐色の液体が入った瓶を、ハルドらに見せる。
「貰おう」
「僕もだ」
そう言うと、ロウマは自分のワイングラスにウィスキー注ぐと、ハルドとアッシュのグラスにも注いだ。
「じゃ、酒も新しくなったし、話しを続けようか」
ロウマはウィスキーを口に含み、飲み込む。
「人類統一計画も基本的にシンプルだよ。人類はバラバラだからいけない。人は集団として一つになってこそ本来の力を発揮できるみたいな考えがもとにある計画だね」
その話を聞くぶんには悪くはないとセインは思った。
「つっても今更、どうやって人類を1つにするのかって話しだ。現代は主義主張やら色々とごちゃごちゃしすぎてて簡単にはまとまらない。めんどくさいなぁって感じるね」
そこまで言うとロウマはニヤリと笑う。
「だから俺は提案したんだよ。もう征服して全部1つの国の文化にまとめちまえばいいんじゃないかってね」
セインは、急に話が物騒になったと感じた。
「それぞれ固有の文化なんかいらない、個性なんかクソくらえで、全部をぶっ壊して一つに組み立てなおし、一つの色に染め上げる。例えばクライン公国以外の文化やクライン公国の人間らしい考え方以外はいらないってノリで行こうってことだ」
そこまでロウマが言うと、ハルドが口を挟む。
「それで馬鹿なトップを用意して、騎士団に色々とやらせてるわけか」
「まぁ、そんな感じだね。各コロニーの思想統制やら文化破壊は全部、俺の指図だからね。
プロメテウス機関の人間として、人類を一つにするため文化はクライン公国のものだけで良いし、思想や主義主張もクライン公国のもの一つだけで良いってことで、色々と活動してるわけだよ、俺も」
88ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/24(土) 02:26:54.74 ID:6wvHLmZM0
話しを聞いて、全てを理解しきれたわけではないし、プロメテウス機関の思想というものも理解できなかったが、アッシュはクライン公国が今のようになってしまった元凶がロウマ・アンドーであるということだけは理解できた。
「貴様はこの国や他のコロニーを滅茶苦茶にして楽しいのか……!?」
アッシュは目の前の男に対しての怒りを抑えながら尋ねた。
「楽しいよ。楽しいに決まってるだろ。俺はイカレた物が大好きだから、今のイカレたクライン公国も大好きだし、世の中が滅茶苦茶になるのを見るのも好きだから、今は最高に充実してるよ」
ロウマはニヤリと笑う。その笑みを見た瞬間、アッシュは絶対にこの男と理解しあうことは出来ないと思った。
「俺はこれからも色々するよ。プロメテウス機関の人間としてね。人類を一つにするために全てをぶっ壊して蹂躙し、人類の思想の統一を図る。そして人類の思想や意思が一つになった時、人類は次のステージに進化するわけだ。……ぶっちゃけ興味ないけどね」
言いながらロウマはウィスキーを口に含み飲み込む。
「俺はそんな訳の分からねぇことに協力はできねぇんだけど」
ハルドがめんどくさそうな表情で言う。だいたいロウマの言ったことは理解できたが、ハルドも興味がなかった。
「俺だって興味はないよ。だけど一応、組織のネットワークとかを使ってる身だから、協力してるだけだし」
そんな適当さで公国や他のコロニーを滅茶苦茶にしているのか、アッシュとセインは怒りを通り越して呆れるしかなかった。
「俺には夢があるから、そのためにプロメテウス機関を利用して、今の公国も利用してるのよ」
ロウマは少し酔いが回って来たのか楽しそうだった。
「分かるかな夢だよ、夢。きみらにはないだろ?見れば分かる、きみら3人とも目の奥に輝きが無いからね」
なんだと、とアッシュとセインは思ったが、ハルドだけは別の表情だった。ロウマに対して馬鹿にしたような笑みを向けながら、ハルドは言う。
「アンタの夢なんか、だいたい想像つくよ」
そう言われ、ロウマの表情がピクリと動く。
「この部屋見りゃ簡単に想像がつく。家具とか調度品、酒の趣味だってセンスが良いが、よく言えば定番の高級品、悪く言えばテンプレ通りで個性がない。なんていうか、全体として洗練はされてない。とにかく良いと言われてるものだけ集めたような感じ」
ロウマの表情は笑顔だが、その表情はぴくぴくと動いていた。ハルドはどうやらロウマの触れてはいけない部分に触れかけていた。
「こういう部屋とかのコーディネートをするのは、だいたい……」
ハルドが言いかけた瞬間にロウマは手で制した。
「次のセリフは想像がつくよ。だけどそのセリフを俺に言って、生きてたやつはいないから、止めておいた方がいいね」
「じゃ、やめときましょうかね、ロウマさん」
そう言ってハルドはウィスキーを飲んだ。
「そうだね、お互い仲良くやろう」
ロウマもウィスキーを飲んで、落ち着いた。
「まぁ、これで人類統一計画については話したわけだ。時間がかかるけどプロメテウス機関では今一番期待されている進化への道筋だ。俺はこの計画に関してはそれなりの地位にいるから、クライン公国の蛮行を止めたいなら、俺を始末するのが効率良いけど、どうする」
そう言われ、アッシュとセインは行動を起こすか迷う。だが、ハルドは迷わず言うのだった。
「今は無理だな。こっちは3人だけど丸腰、やっても良いけどアッシュとセインは間違いなく死ぬし、俺とロウマさんでも相打ちで死ぬ公算が高いから今日はパスだ」
89通常の名無しさんの3倍:2015/01/24(土) 02:27:39.50 ID:VGDheCYi0
正体不明の支援的ななにか
90ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/24(土) 02:27:54.37 ID:6wvHLmZM0
「賢い判断だね」
そうロウマが言うと、ロウマの手首、その袖口から刃が飛び出してきた。
「ほら、そういう隠し武器持ちだ。冗談じゃないぜ」
「はは、いいじゃないか、敵になるかもしれない奴ら3人と密室でお話しだ。こういう準備をしない方が馬鹿だろ?」
まぁな、とハルドは言って酒を飲む。
「それじゃ、最後の計画の話しをしようか」
まだあるのかとアッシュとセインは若干ウンザリしてきていた。
「最後は別にたいした計画じゃないよ、ただ技術の進歩だけで人間は精神的な進化を迎えることができると考えている連中だ」
そう言うとロウマはウィスキーを飲み干し、グラスを空にすると立ち上がる。
「せっかくだから、きみ達に良い物を見せてあげよう。ブレイズガンダムのパイロットもいることだしね」
そう言うと、ロウマはハルドらを案内するのだった。ロウマによって案内された先はアレクサンダリアにある博物館だった。
ロウマは博物館の係員の1人にこう言った。
「人の道に新たなる火を」
そう言うと、係員は何も言わず、ロウマとハルドらを先導し歩き始めた。
「“人の道に新たなる火を”プロメテウス機関の合言葉。ダサいだろ?」
ロウマはヘラヘラとしながら、歩く。合言葉を簡単にバラシて良い物なのかとアッシュとセインは思った。
そうこうしているうちに、ロウマとハルドらはエレベーターの前に辿り着いていた。すると係員は何も言わず去って行く。
「じゃあ、行こうか」
ロウマはエレベーターの中に3人を案内する、エレベーターはひたすら下に向かっていた。かなり長い時間、エレベータに乗っていたが、やがて、エレベーターは止まった。
「さぁ、どうぞ」
ロウマはそう言うと3人にエレベーターから出るように促す。そしてエレベーターを出た直後3人は驚くべきものを目の当たりにした。
エレベータを出た直後、3人の視界に入って来たのは羽クジラの化石であった。
「イミテーションか何かか?」
アッシュの記憶では本物の羽クジラの化石はアプリリウス市にあるはずで、アレクサンダリアに移されたなどという話しは聞いたことが無い。
「いや、本物だよ。贋作はアプリリウスの方だね」
ロウマがアッシュの疑問に答える。
「科学技術派の奴らは、これを使って人類を進化させようとしてるのさ」
3人はロウマの言っていることの意味が分からなかった。
「ま、わかんないだろうから説明するけど、あの羽クジラの化石は設計図の塊みたいなもんなんだよ」
ロウマは適当に歩き始めながら喋る、3人もその後をついていく。
91ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/24(土) 02:28:22.89 ID:6wvHLmZM0
「十何年か前、ちょっと頭のおかしい科学者が酒を飲みながら、羽クジラの化石から取った遺伝子データを眺めていた。
すると酔っていたせいか、遺伝子データが何かの設計図に見えてきた。半信半疑ながらも酔っ払いの科学者はその設計図通りに何かを作ってみた。
そしたら、なんと地球上にはそれまで存在しないはずの成分の球体が出来たわけだ。」
3人とも、にわかには信じがたい話しであった。
「それを発端に羽クジラの化石の更なる研究が始まったわけだ。プロメテウス機関は、とりあえず暗号解読の天才たちを大量に雇って、遺伝子データを解読させた。
そしたら出るわ出るわ、未知の技術やら何やらの設計図やデータが、プロメテウス機関は極秘にそれらを確保して、開発をしてるわけ、ここでな。
プロメテウス機関は羽クジラの化石から得られた技術やら何やらを総称して“ギフト”と名付けている。未知の存在からの贈り物であると考えて名づけたわけだ。
まぁ“ギフト”もほとんどが実用化に至ってないんだけどな。技術が地球のレベルからかけ離れすぎてて、使い道が分からないものが殆ど。でも実用化に至ったものもある。
それがブレイズガンダムのジェネレーターやら各種機能なわけだ」
急にブレイズガンダムの話しになり、セインは若干混乱したが、同時に自分が乗っていた機体が酷く奇妙で気持ちの悪い存在のようにも思えてきた。
「と、まぁここまでで俺がプロメテウス機関について話せることは終わり。で後の重要なことは」
そう言うとロウマはハルドを見た。
「ハルド君がプロメテウス機関に入ってくれるのかどうかってことだけど、どう?」
「遠慮するよ」
ハルドは考える様子もなく言った。
「あ、そう。じゃあ考えが変わったら教えてよ。いつでも歓迎だから」
ロウマの方もあっさりとしたものだった。2人やり取りがアッシュとセインには理解できなかった。
「そんな簡単な話なのか!?」
「秘密結社だったら、もっと何かあるんじゃ!?」
ロウマはアッシュとセインの疑問に対してめんどくさそうな顔をしながら答える。
「別にどうでもいいんだよ。入るのも抜けるのも勝手なのがプロメテウス機関。その存在を世間にばらされても、別にどうでもいいとプロメテウス機関は考えてるし、きみ達その他大勢が騒いでもどうとでもなると考えてる」
そう言うとロウマはハルドらに背を向け施設の奥へと向かっていく。
「帰り道は分かるよな。俺は用事があるんで、勝手に帰ってね、じゃあ、さよなら。またね」
そしてロウマは施設の奥へと消えていった。
「じゃ、帰るか」
ハルドもあっさりしたものである。3人はエレベーターに乗り、上へ向かう。ハルドはプロメテウス機関の話しを聞かされても別に何とも思わなかったようだが、アッシュとセインはだいぶ混乱していた。
そしてすべてが冗談だったのではないか。そう思うことで、頭の中の整理を付けるしかなかったのだった。
ハルドとしてもプロメテウス機関の話しは突拍子もないことで信じがたいが、EXSEEDが計画の内に入っているのなら信じるほかなかった。ハルドはEXSEEDに関してはそれなり以上の因縁がある。
少なくともEXSEEDが関わっている組織なら、そんなところに入るという考えはハルドにはなかった。
むしろEXSEEDに関わることならその関係者を皆殺しにしたい衝動に駆られている。そして、その衝動がある以上、プロメテウス機関はハルドにとっての敵となるしかないのであった。
92ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/24(土) 02:44:01.37 ID:6wvHLmZM0
22話終了です
93ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/24(土) 07:49:46.68 ID:6wvHLmZM0
とりあえずロウマを片づければ一応の解決を見ることが出来ると分かった訳で、終着点の1つが見えました
ロウマが少しでも厄介そうな相手に見えればと思って頑張って書いていこうと思います
94通常の名無しさんの3倍:2015/01/24(土) 08:00:10.69 ID:bQlMDPya0
95ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/25(日) 05:13:40.37 ID:FNaLKoFB0
早朝投下
機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第23話

アレクサンダリアからハルド達が帰ってきて数日、クランマイヤー王国の暑さは本格的なものとなってきていた。
ハルドは暑さにウンザリしながら、マクバレル特製の冷却ボックスから缶ビールを取り出し、ふたを開けて一気に口の中に流し込んだ。
「つーか、あたまおかしいな、このコロニーの設計者。四季設定がマジ過ぎて、暑すぎだろ」
隣に座るアッシュも同じようにビールを飲みながらハルドの愚痴に付き合っていた。
「まぁ、こういうのもいいだろう」
アッシュが大人な意見を言うと、ハルドは面白くなさそうな表情でビールを飲むのだった。
現在、2人は第2農業コロニーにある海の砂浜の上にいた。
何故2人がそうしているかというと、クランマイヤー王国では海開きが行われ、第2農業コロニーの海に入ることができるようになったため、海に行きたいと言い出した姫の付き添い役として、連れ出されたからである。
海では姫とヴィクトリオ、セイン、ミシィ、メイ・リー、セーレ、クリス、ユイ・カトーが遊んでいた。ハルドとアッシュは、その輪に入って遊ぶ元気もなかったので、監視役である。
「ちなみに僕は泳げないぞ」
アッシュが2本目のビールを開けながら言う。
「俺は20kgの荷物を背負って、30kmなら泳げた」
ハルドも2本目のビールを取り出し、開ける。
「バケモノだな」
「昔は泳げたが、今は泳げるかわかんね」
二人は同時にゴクゴクと喉を鳴らしながらビールを胃に流し込んでいた。
「しかし、この間のロウマ・アンドーの話しはどう思う。プロメテウス機関がどうとかいう」
アッシュは良い機会だと思ってハルドに、この間の話しについて相談するつもりだった。
「多分マジだと思うが、少なくとも俺はEXSEEDを直接見てるからEXSEED周りの話しはホントだな」
「そうか……」
そう言うとアッシュは2本目のビールを空にし、3本目の缶に手をつけながら言う。
「結局、プロメテウス機関の話しを聞いたわけだが、僕らは何をすればいいと思う?」
「別にぃ、今まで通りにしてればいいんじゃねぇの。俺らには関係のない話しだしな」
ハルドのビールは2本目の途中であった。最近アッシュの酒のペースが速く、ついていけない時がハルドにはあった。
「まぁ関係はないがなぁ。秘密結社だの言われると、流石に気になるよ。単純な話し、このコロニーを守り切ればプロメテウス機関の人類統一計画を阻止できるだろ?」
ハルドはアッシュに遅れて3本目の缶ビールに手をつけていた。
「まぁそうだな。コロニー含めて全てをクライン公国が征服するのが前提の計画だからな。しかし、あのロウマ・アンドーが主導してんじゃ、たぶん計画は上手くいかないと思うぜ」
アッシュはビールを飲みながらハルドの話しを聞き、缶から口を離して尋ねる。
96ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/25(日) 05:14:14.57 ID:FNaLKoFB0
「なぜだ。奴は頭もキレるし行動力も何もかも揃ってるように見える。計画の障害などなさそうだが」
ハルドはビールのふたを開け、一口ビールを飲んでから答える。
「あいつの部屋で俺がアイツの気に障ること言ったろ?それが原因」
「夢の話しか」
そうだ、と答えハルドはもう一口ビールを飲む。
「ロウマ・アンドーについて、何を気づいたか教えてくれないか」
アッシュは空になったビールの缶を持ったまま尋ねる。
「別にたいしたことじゃねぇよ、あいつが田舎者で成り上がり者だってだけの話しで、あの野郎はそれに対して異常なコンプレックスを抱いてる」
「そうなのか」
ハルドとアッシュは互いに新しいビールを取り出して開ける。
「あの野郎の部屋みた瞬間にピンときたよ。あ、コイツ成り上がり者だ。ってな」
「僕はそんな風に思わなかったがなぁ」
ハルドは新しいビールを一口飲むとアッシュの疑問に答える。
「そりゃ、クライン家の坊ちゃんじゃ下々の人間とは感覚が違いすぎてわかりゃしませんよ」
ハルドの言い方にアッシュは多少ムッとしたが、ビールを飲んでその気持ちと共に胃に流し込んだ。
「まぁロウマの野郎が田舎者で成り上がり者、なおかつ上昇志向が高いのは間違いない。そして野郎が手段を選ぶタイプじゃないとすると」
「僕の考えでは、ギリギリになって反公国に回る気がするな。そして公国を打倒して後釜に座る」
「俺も同意見。ロウマの夢ってのは案外、クライン公国公王とかかもしれねぇな」
ありえそうな気がしてくるのが、なんともと言ったところだとアッシュは飲みながら思う。
「ま、ロウマの野郎に俺は恨みがあるわけじゃないからどうでも良いけど」
「僕は恨みがあるので奴が幸せになるのはやだな」
我ながら子どもっぽい言い方で変だと思ったが、まぁ気に入らないものは気に入らないのだ。これは仕方ないとアッシュは思った。
「とにもかくにも、このコロニー守ってりゃ、奴の野望もプロメテウス機関とかいうわけのわかんねぇのも止められんだ。頑張ってくださいよ、防衛大臣殿」
ハルドは気楽な調子でビールを飲むのだった。ハルドはアッシュの苦労は特に気にしてなかった。
アッシュはそういうハルドの態度も気に食わなかったが言ってもしょうがない男だと理解はしているので、諦めて今日はビールを飲んで全てを忘れようと思ったのだった。

男2人が保護者の役割を忘れて、酒を飲んでいると3人組がハルドとアッシュの元にやって来た。
「今日は呼んでいただいてありがとうございます!」
そう言ったのはハルドが以前に第2農業コロニーの森であったジェイコブとい若者であった。弟のペテロも隣にいるが、もう1人知らない顔の女がいた。
「妹のマリアです。腹違いの妹でペテロとは同い年です」
ジェイコブがハルドに説明した。
ジェイコブにペテロにマリアか、親はクリスチャンだろうなとハルドは思った。
「3人とも、いつも訓練を頑張っているからな今日は楽しんでくれ」
アッシュがそう言うと、3人は「はい」と言い、海の方へ駆け出して行った。
「あの3人は?」
ハルドはアッシュに聞いてみた。
「義勇兵の訓練を人一倍熱心にやってる3兄弟だよ。試しにMSのシミュレーターを使わせたら、3人ともパイロットの素質がありそうだった。セイン君には悪いが、僕はセイン君より才能がある3人だと思う」
そりゃセインも可哀想に、ハルドは他人事のように思いながらビールを飲んだ。
97ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/25(日) 05:14:49.45 ID:FNaLKoFB0
次にやって来たのはレビーとマクバレルの技術屋コンピである。
「昼間から飲み過ぎですよ」
レビーが言うが2人は無視した。レビーとマクバレルも海で遊ぶ気はないらしく、ビールを冷却ボックスの中から取り出し、ふたを開けて一気に口の中に流し込んだ。
「昼も放っておけば夜になるんだから、昼も夜も同じもんだ」
ハルドが訳の分からないことを言いだす。ハルドもアッシュもかなりできあがっていた。
「まぁいいんですけど、とりあえず朗報です」
「工業コロニーに宇宙港があることを発見した」
レビーとマクバレルは順番に話した。
工業コロニーに宇宙港かハルドとアッシュは酒に酔った頭で考え結論を出す。
「工業製品搬出用でそんなに大規模じゃないんだろう?」
「だが、使用するには充分すぎる大きさだと」
酔っ払いに言おうとしたことを言われ、レビーとマクバレルは何とも言えない表情になる。
「了解した利用法はこちらで考えるから、きみ達には、その宇宙港の点検と整備を頼むよ」
アッシュが出した指示は特に問題がなかったので、レビーとマクバレルは了解と言ってビールを手に持ち、帰って行った。

「しかし胸部装甲が薄いな」
男2人、どちらともなく、海で遊んでいる集団を見ながら、なんとなく言った。
「バルカンでコックピットまで貫通レベルだぞ」
そう言ったのもどちらかは定かではない。
「子どもは仕方ないが、セーレとユイ・カトーは終わってるな」
「フェチ受けはしそうだけどな、哀れビキニコンビで」
男2人は酒を飲みながら、品評会を開いていた。
「20代が10代に負けるとか哀れビキニコンビはあの水着で恥ずかしくないのか」
「恥ずかしいという感情があったら、10代に交じってはしゃいで遊ばないだろ。あの中で20代は哀れビキニコンビだけだぞ」
「つーかスタイル悪いな哀れビキニコンビ。尻のラインも綺麗じゃないぞ」
「パイロットのセーレは鍛えるせいでケツデカくなるのはわかるが、ユイ・カトーは下半身太りか?」
「しかし、それに比べると10代チームの尻のラインは綺麗だな」
「胸部装甲も改善の余地があるしな、ウエストもみんな締まってる」
「気を使ってるんだろ。若いし。いや、みんな若いか」
なんだか哀れになって来たので男2人の品評会は中断となった。
後の時間は冷たいビールを暑い中で飲みながら、のんびりとしつつ保護者らしく、子どもの遊びを見守って過ごした。
のんびりと過ごす日がないわけではないが、今日は特にのんびりした日だとハルドとアッシュは思うのだった。
98ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/25(日) 05:16:00.40 ID:FNaLKoFB0
「私掠船しましょう!」
ある日、クリスがそんな提案をした。その提案を聞かされたのは、ハルド、アッシュ、ユイ・カトーであった。
「私掠船てなんですか?」
ユイ・カトーがハルドに聞く。ハルドは端的に答えた。
「国家公認の海賊」
そう言われてもユイ・カトーはピンとこないようだったので、アッシュが追加で説明する。
「私掠船というのは大昔にあった制度で国が、敵国の船が相手だったら海賊行為をしても罰しないという許可を出した船のことを私掠船と呼んだんだ」
アッシュの説明もそこまで詳しくはなかったがユイ・カトーは都合の良いように解釈した。
「つまり、強盗しても良い権利ってことですね」
それでいいかとアッシュは疑問だったが、とりあえずクリスの話しの続きが気になったのでユイ・カトーは無視することにした。
クリスは端整な顔の前で拳を握りながら苦渋の表情をしている。
「僕だって、こういう行為を勧めるのは良心が咎めるんです。ですがこの世は所詮ゼロサムゲーム。富は皆に行きわたるようには出来ていない、もてる者から分けてもらわなければ、僕たちは永久に貧しいままです!」
「良く言ったクリス君!奪おう金持ちから、金は待ってもやってこない、こっちから取りに行かなければ、金は来ないんだ!」
クリスとユイ・カトーは固い握手をした。
アッシュは色々言いたいことがあった。あったが、もういいやと思った。短い付き合いだが、クリスもユイ・カトーも下衆でクズだ、自分が何を言っても聞きやしないだろうと諦めた。
「とりあえず、民間船を襲うのは良くないので軍艦だけを狙いましょう」
そう言うと、クリスは宙域図を机の上に広げた。宙域図には軍艦が通りそうなルートが書き込まれていた。
「クライン公国と地球連合軍の軍艦が通りそうなルートを書き込んでおきました。まずは、クランマイヤー王国から離れ過ぎないようにしながら、クライン公国軍の輸送船を狙いましょう。我が国に足りないMSとか武器とかが手に入る可能性が高いので」
宙域図を見るといけそうな気がしてくるが、アッシュはよくよく考え、気づいたことを言う。
「これ、普通に戦争行為だぞ。クランマイヤー王国は独立国家で、独立国家の人間が、他国の軍を攻撃するって普通に戦争だぞ」
そう言われても、クリスは平然としていた。その様子を見てアッシュは何か名案があるのかと思った。
「ばれなければ良いんです。私掠船部隊は偽装して、クランマイヤー王国だとばれないようにすれば問題なしです」
「そうです、世の中、ばれなければ、なにやっても良いんですよ」
こいつら、思考が完全に犯罪者なんだよなぁとアッシュは呆れる思いだった。ここはハルドに何とかしてもらいたい。そう思いハルドを見るが、ハルドは目を輝かせていた。
「いいじゃん。楽しそうじゃねぇか」
アッシュは、もう駄目だと理解した。そしてアッシュはとりあえず頭の中に思いつく限りの偽装工作を思い浮かべることにした。もはや反論しても無意味な以上、少しでも無事に物事が済むように考えることの方が生産的だからだ。
それからクランマイヤー王国は私掠船作戦、別名、海賊作戦に向けて準備をすることにした。
まずは船が無ければ始まらない、ハルド達は取り敢えず、月の強制収容所から奪ってきた輸送船を使うことにし、髑髏のマークを船体に描き、海賊船らしい髑髏マークの旗を立てた。
海賊船の乗組員も重要である。とりあえず義勇兵の訓練をしている者たちの中からやる気のある若者を選び乗組員として、その他に虎(フー)とそのもとに熱心に通っている門弟たちを仲間に引き入れた。
99ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/25(日) 05:16:50.03 ID:FNaLKoFB0
虎は海賊行為に難色を示していたがクリスが騙すことに成功したのだった。
そして次はMSである。ハルドは直接レビーとマクバレルのもとに向かい機体の偽装について相談した。
「一応、フレイドは現在6機まで量産出来てるんで4機くらいなら改造して、その作戦に回せますけど」
レビーは困った顔をしていたが、マクバレルは乗り気だった。
「海賊らしくだな、任せておけ!武器はあれか、クラシックな見た目が良いんだろう!?」
ハルドも乗り気だったため、悪乗りした男2人により、フレイドは大幅なカスタマイズが施されることとなった。
そして問題は船長である。海賊をやる以上は船長が必要不可欠だ。ハルドは船長と言われ、思い当たる男は1人しかいなかった。
ベンジャミン・グレイソン。ハルドの戦友でハルドが昔乗っていた艦の艦長だった男である。今は勘を沈めたことの失意から戦意を失っているが、ハルドは荒療治を施すことに決めた。だが、それを実行に移すにはまだ早かった。
そして半月、王国の人々の努力の甲斐あって、私掠船もとい海賊船は完成した。
「いやー悪そうな船になりましたね」
クリスは他人事のように言うが、アッシュは気が気でなかった。この船がクランマイヤー王国のものだとばれたらと思うと夜も眠れなかった。
「とりあえず、船は工業コロニー側に一旦移すぞ。コナーズ、操舵は任せた」
ハルドに命令され、コナーズは船を操舵する。いつの間にかコナーズも片棒を担がされていた。
「なんで海賊船の操舵手に……」
そう言いながらもコナーズはハルドに逆らえないので、船を一旦工業コロニーの宇宙港に入港させる作業を行った。
工業コロニーの宇宙港はMS製造区画に隣接していたため、MSの積み込みも簡単だった。
そして肝心のMSであるが。マクバレルの自信作が完成していた。
「フレイド・プライベーティアだ」
そう言って、マクバレルに見せられたフレイドは姿が一変していた。
まず頭部の前へと突き出した四角い角部分が無くなっている。その代わりにトサカが付けられていた。
「あの部分はセンサー系だったので、形を変えるにしてもこうなってしまいました」
レビーが申し訳なく言うが、ハルドは別に気にしていなかった。
次に背中のスラスターユニットだが無くなっており代わりにバックパックが大型化されていた、変更されたバックパックにはスラスター噴射口が複数の方向に向けてついている。
「直線的な機動性能はかなり落ちましたが、多方向スラスターで小回りは前の機体より効くようになってます」
他に特徴的なところと言えば……特にないかとハルドが思ったが、なにか違うと腰の辺りを見て気づいた。腰はサーベルの鞘とビームガンのホルスターになっているのだ。
「ヒートサーベルは海賊っぽい形にしておいたぞ!」
マクバレルが言うのを見て気づいたが腰のヒートサーベルはナックルガードの付いた細身の片刃剣である。
「細さと硬度を両立するのに苦労したが、MSは問題なく切れる。そしてビームガンを見ろ!」
ハルドは言われた通りビームガンを見て、若干感動した。フリントロックピストルにも見えるような形のビームガンである。
「いいな、これ!」
「そうだろう!」
男2人が楽しそうにしている横でレビーは解説を始めた。
100ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/25(日) 12:29:13.89 ID:FNaLKoFB0
「正確にはビームライフルなんですけどね。とにかくバレルを切り詰めてピストルに見える形にしただけです。あと教授の妙なこだわりで、『連射できるのはおかしいし、なんかやだ』で押し通されて連射性能は極めて低いです。
あとバレルが短くなったせいかは分からないし、調べる気も起きませんが、普通のビームライフルより射程が短いです。ですが威力は普通のビームライフルの数倍はあるのでうまく使ってください」
レビーは仕方なしの説明を終えた。するとマクバレルが熱のこもった説明を始めるのだった。
「一発撃ったら、ホルスターに納めろ。そして後ろの腰にもう一丁装備させてあるから、次にはそっちを使え。古き良き時代の二丁拳銃の戦い方だ」
ロマンがあっていいなとハルドが思いながら機体を眺めると次に目についたのは左腕である。以前のフレイドではビームガンの発射口となっていた部分に鉤爪――フックがついていた。
「海賊と言ったらフックいや鉤爪か、名前はどうでもいいが武器名はスタンフックだ。フックにはワイヤーがついており投擲可能だ、ワイヤーには電流が流れる仕掛けがあり、ワイヤーがMSに巻き付いた時に電流を流せばパイロットの意識を飛ばすことが出来る。
フック自体もヒート刃を付けておいたから、問題なくMSを攻撃できるぞ。」
マクバレルの熱のこもった説明にハルドは若干感激を覚えた。
MSは好きの部類に入るハルドとしても、ここまで趣味に走ったMSを造れる人間がいるとは思わなかったからだ。
「あんた、やっぱりすげぇな」
ハルドは心からそう言った。しかしマクバレルはまだまだ見せ足りなかったのである。
「褒めるのはもっと後だ。貴様用にさらにカスタムした機体を用意してある」
そう言うとマクバレルはハルドを案内する。その後ろをレビーが仕方なしについていった。男の趣味に付き合わされるのは、レビーはウンザリだった。
「これが貴様の専用機だ」
案内した先、マクバレルが見せた機体にハルドは驚愕した。フレイドはフレイドだが、先ほどのフレイドより更に見た目が変わっていた。
頭部のトサカは膨らみ海賊帽のようにも見える。その上、メインカメラの半分には眼帯が付けられていた。
これじゃメインカメラ半分しか使えないんじゃ、とハルドが思った、その時レビーが仕方なしに説明した。
「眼帯部分は高精度カメラですからメインカメラよりも性能が上ですので心配なく」
レビーの説明を聞いてハルドはなるほどと思ったそして、視線を下に下げていくすると、フレイドの胸にはホルスターが4つあり、それぞれにビームガンが収まっている。
「次々と銃を変えながら撃ちまくるかっこいいだろう?」
マクバレルが言った言葉にハルドは頷いた。そしてフレイドの両腰には一本ずつサーベルである。
「二刀流も有りかと思ってな」
マクバレルの言葉に再度ハルドは頷く、そしてさらに下を見ると、右脚の膝から少し下の部分が棒に変わっていた。
「海賊と言ったら義足だからな。ビームサーベルを内蔵してるから武器としても使えるぞ」
ハルドは改めて全体を見た。すると肩のビーム砲が取り外され、肩当てに変わっていた。
「私はやめろって言ったんですよ。武装少なくなるから隊長キレるって」
レビーはマクバレルの身を心配して言う。できればマクバレルを殺さないで欲しいと願ったが、その心配は必要なかった。
101ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/25(日) 12:30:02.63 ID:FNaLKoFB0
ハルドとマクバレルは抱き合った。
「アンタ最高にイカレてるよ」
「ありがとう、最高の褒め言葉だ」
ハルドは感激だった。ここまで趣味に走ったMSに乗れるというのは幸せだ。そしてその趣味が自分に合うとなれば尚更だ。ハルドはマクバレルを強く抱きしめた。
レビーには訳が分からなかったが、ハルドが気に入ってくれたのでよしとすることにした。
そしてレビーは最後の説明をする。
「基本的に隊長の専用機以外は、武装周りはそこまで変わってません。
隊長の機体は肩のビーム砲が無いですけど他のフレイド・プライベーティアは肩のビーム砲はありますし、全部の機体にふくらはぎのミサイルと、右腕にビームガンが内蔵されてるので戦闘に支障はないはずです」
「オーケー、わかったわかった」
適当な返事をするとハルドは機体を船へと積み込んだ。
さて問題は、船長だが。なんとかなるだろうとハルドは思った。ハルドは取り敢えず荒療治が一番だと思っていた。

「何をする……やめろ」
ハルドはベンジャミン・グレイソンを無理矢理、船の船長席に座らせた。座らせた瞬間。板ジャミンは「ひぃっ!」と言って逃げ出そうとするのでハルドは、縄でベンジャミンを船長席にくくりつけた。
「おい、ベン、お前は何だ?」
「なんでもない、たのむ、私を放っておいてくれ」
そう言った瞬間ハルドはベンジャミンの頬を叩いた。
「何か勘違いしてないか、お前は誰だ、ベンジャミン」
そう言ってハルドはベンジャミンの口にウィスキーの瓶を突っ込み、無理やり飲ませる。
「グレンの大将、それはヤバいんじゃ……」
操舵手の席でハルドの凶行を目の当たりしているコナーズが弱気にたしなめる。だが、ハルドが聞くわけがない。
「うう、俺は俺は、駄目な男だ」
そう言った瞬間、ハルドは再びベンジャミンの頬を叩く。
「いいや、ダメな男じゃない。お前は男の中の男だ」
「男の中の男……?」
そうベンジャミンが言った直後、ハルドは再びウィスキーの瓶を口に突っ込む。
「いいな、ベンジャミン・グレイソンは死んだ。いいなベンジャミン・グレイソンは死んで、もうこの世にはいない。死んだ奴を誰も恨んだりしない」
ハルドはウィスキーの瓶を口から離す。
「ほら言ってみろ、お前は誰だ?」
「ベンジャミン・グレイソン……」
そう言った瞬間、ハルドは頬を叩いた。
「今、言ったろ。ベンジャミン・グレイソンは死んだ」
ハルドは、そう言ってウィスキーの瓶を口に突っ込む。
「ベンジャミン・グレイソンは死んだ。ベンジャミン・グレイソンは死んだ!いいな死んだぞ!ベンジャミン・グレイソンは死んだからな!」
ハルドはウィスキーの瓶を口から離す。
102ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/25(日) 12:31:08.14 ID:FNaLKoFB0
「よし、お前はだれだ?」
「……わからない。俺は誰だ?ベンジャミン・グレイソンが死んだなら俺は何なんだ?」
ベンジャミンはアルコールの効果でフラフラとしていた。
「お前はベンジャミン・ドレイク。キャプテン、ベンジャミン・ドレイクだ」
「ベンジャミン・ドレイク……」
「そう、ベンジャミン・ドレイクだ。そしてベンジャミン・ドレイクはこの船の船長だ。船長の仕事は分かるな」
ハルドがそう言うとベンジャミンの目がキリッとする。
「ああ、分かるとも。このベンジャミン・ドレイクを誰だと思っている?」
よし成功したと、ハルドは思った。洗脳成功である。これからベンジャミンは、ベンジャミン・グレイソンではなく、ベンジャミン・ドレイクとして生きるのだ。
ベンジャミンは艦を沈めたことで多くのクルーを死なせたことに自責の念を感じていた。だから、ハルドはアルコールとアルコールに混ぜたちょっとヤバい薬で過去を忘れた状態にさせたのだ。
そして薬には思い込みを強くさせる成分も入っている。ベンジャミンは自分が死んだと思っている。そして自分を誤魔化しているのだ。
もうベンジャミンは別人となった、これで何か月かすれば自責の念など無くなる。というかどうでも良くなるだろうとハルドは思った。人間は忘れることが出来る生き物なのだ、賢く嫌なことを忘れる機能が生物として備わっている。
ハルドはベンジャミンに忘れやすくなる環境を用意してやったのだ。
「この船の名前はなんだ!?」
ドレイク船長がハルドを呼ぶ。ハルドはそう言えば名前は考えてなかったなと思い出した。
「亡者の箱舟号でいいんじゃね、なんかそれっぽいし」
ハルドは適当に言った。興味が無かったからだ。
「よし、それでは、亡者の箱舟号!発進!」
生まれ変わったベンジャミン。ベンジャミン・ドレイクは意気揚々と声上げ、発進の号令を発した。
「アイ・サー」
コナーズはヤケクソで船を発進させた。たった今、人間が1人洗脳された場面を見て、あろうことか船長はその洗脳された人間だ。コナーズはもう訳が分からずヤケクソにならざるを得なかった
そして、ハルド命名の亡者の箱舟号は漆黒の宇宙へと船出したのだった。
103ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/25(日) 12:32:02.82 ID:FNaLKoFB0
23話終了です
104ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/29(木) 01:30:25.64 ID:XKXKZ2060
投下します
機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第24話


その日、クライン公国軍の輸送艦の艦長は奇妙な出来事に出くわした。この艦長は根が真面目かつトラブルを好まない性格であった、余計なことせず言われた任務だけを淡々とこなし日々を過ごしていればトラブルに会うことは無いと考えていた。
しかし、そんな考えはその日で崩れた。
前方に所属不明の輸送船がある。艦長は艦のオペレーターからそう報告を受けた。艦長は常識的な人物だったので、常識的な対応を取った。
「そちらの船がこちらの進路を妨害している、速やか退いていただきたい」
艦長はそう言ったが、所属不明の輸送船は動かない。艦長は、面倒はごめんだと思い、こちらが避けて通ることにした。
輸送艦は所属不明の輸送船を避けて通ろうとした。だが、その動きに合わせて、所属不明の輸送船は動き、輸送船の進路を妨害する位置へと移動した。
「どういうつもりだ!本艦は軍艦だぞ!これ以上、邪魔をするのなら、それなりの罰はうけてもらうことになるぞ!」
艦長としてはことを荒立てたくなかったが、所属不明の輸送船の動きは明らかにこちらの艦を邪魔するような動きであったため、艦長としても見逃すことはできなかった。
「邪魔?邪魔か?」
所属不明の輸送船から通信が入って来た。
「ああ邪魔だとも、頼むからどいてくれ」
艦長は言うが、通信の向こうでは笑い声が聞こえた。
「邪魔だと思うなら、通行料を置いていけ」
何を言っていると艦長は通信の相手に思った。
「通行料が払えないなら奪うだけだ」
「なんだと?」
艦長が相手の言った言葉の意味を理解しかねている間に、所属不明の輸送船からはMSが発進された。
艦長は初めて見る機体である。通常のMSより一回りは大きい機体であった。

「ジェイコブ、ペテロ、マリア。3人は周囲を警戒だ。ブリッジには俺が行く」
「了解」と3人の若者の声が返って来た。実戦演習のつもりでハルドは3人を連れてきたのだった。
ハルドのフレイド・プライベーティアが一直線にクライン公国軍の輸送艦に向かう。狙う先はブリッジだ。ハルドのフレイドは胸のホルスターからビームガンを抜き、右手に持つ。
そしてハルドのフレイドは輸送艦のブリッジの前に立つと、ビームガンをブリッジに向けて突きつけ、ハルドは言う。
「こっちの要求を飲まなきゃ、ぶっ放すけどオーケー?」
艦長としてはオーケーなわけがなかった。
「MS隊、発進!」
輸送艦にもMSは積んである。艦長は輸送艦の護衛のために艦に積まれたMS隊に発進命令を出した。
「オーケーじゃなくてノーか、悲しいぜ」
ハルドは大げさに言った。直後に横合いからクライン公国の量産型MSゼクゥドが襲い掛かってくるが、ハルドには問題がなかった。
ハルドのフレイドはブリッジに突きつけていた銃を横から迫ってくる、ゼクゥドに向けると、躊躇なくビームを発射した。発射したビームはゼクゥドの右の手首から先を消し飛ばす。
それとほぼ同時、ハルドのフレイドは胸のホルスターからビームガンを抜くと左手に持って、左手の銃からビームを撃ち、ゼクゥドの左手首から下を消し飛ばした。一瞬でゼクゥドの両手は無くなったのだった。
ハルドのフレイドは両手の銃を即座にホルスターに納め、残りの二丁を抜くと、真後ろから迫って来た、ゼクゥドに対し、振り向きもせずに撃った。
放たれた2本のビームはゼクゥドの両手に直撃し、両手を消し飛ばして戦闘力を奪う。
105ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/29(木) 01:31:14.62 ID:XKXKZ2060
「MSも金になるんでね。被害は最小限に留めておいたよ」
ハルドが艦長にそう言うと、さらに1機が迫ってきていたが、ハルドには相手にならない。
ハルドのフレイドは左腕のスタンフックを発射する。発射されたフックが新手のゼクゥドに巻き付き、巻き付いた瞬間にハルドは電流を流した。流された電流はコックピットまで届き、ゼクゥドのパイロットは電流により失神した。
ハルドのフレイドは一瞬で3機のゼクゥドを戦闘不能にしたのだった。
ハルドは自分の方が片付いたので、ジェイコブら三兄弟の様子を見ると、3機は連携して1機を確実に仕留めていた。
ハルドとしては連携は良いが、個人はまだまだだと感じた。それでもセインよりはセンスがあるように思った。
そして、そんなことを思っている間に、両手を無くした2機のゼクゥドがハルドのフレイドに突っ込んできた。武器も持てない戦闘がマトモに出来る状態ではないのに勇敢なことだとハルドは思ったが、ちゃんと相手をする気にもなれなかった。
ハルドのフレイドは素早く動き、突っ込んでくる2機のコックピットの目の前に銃を突きつけた。
「殺してもいいんだけど、たいしたことない任務でアンタらも死にたくないだろ」
ハルドとしても、これ以上MSを壊したくなかったので、そう言ったのだった。
「誇りある公国軍人として、貴様らのような海賊風情には屈しはしないぞ!」
お、海賊として認めて貰えたよ。とハルドは若干うれしかった。が喜んでいるわけにもいかないので、艦長さんには悪いが、少し手荒な手段を取らせてもらうことにした。
「ベン、やれ」
ハルドが言うと、輸送船もとい海賊船、亡者の箱舟号は公国軍の輸送艦に体当たりを仕掛けた。そして、船長のベンジャミンが高らかに号令を発する。
「接舷用意!」
そうベンジャミンが言った瞬間、亡者の箱舟号の船体の横側の一部が開き、大きな杭が発射された。それは敵の艦に乗り込むための接舷用の貫通パイルである。
それで敵艦の装甲を貫通し、内部まで届いたらパイルは空洞状になっているため、敵艦に乗り込むためのパイプとなっている。
亡者の箱舟号から撃ちだされたパイルは公国の輸送船の横側を貫通した。これで、敵艦まで乗り込むためのパイプ、通り道の完成である。
そして乗り込む段になったら、ハルド達には最強の存在がいる。
「虎先生よろしく」
ハルドはコックピットの中で言った。
虎としては若干、不本意な仕事だが、クリスからこのままではクランマイヤー王国の人間は冬を越せなくなると聞かされている虎は、悪事もやむなしと思っていた。
敵艦への突入要員は全員がバンダナで顔を隠している。その方が海賊らしいからである。虎もバンダナではないが布で顔の半分を隠していた。
「トツニュウ、タダシ、コロシ、サイショウゲン」
そう言って、虎はパイプを通って敵の輸送艦内に突入した。殺しは最小限にするというのは虎のせめてもの慈悲だった。
「おい、貴様ら。何をした!?」
輸送艦の艦長の元には被害報告が続々と入ってくる。
「この時代に海賊やってんだ。常識では理解できないことだよ」
ハルドはそう言う。実際、理解できないだろう。銃も持たない男たちに完全装備の兵隊が一方的にやられるなど。人間同士の戦いでは虎とその門弟が圧倒的だった。とにかく銃弾が当たらないのだからどうしようもない。その上、殴られたら一撃で失神である。
艦内の戦いは虎たちの一方的な勝利で終わり、輸送艦の乗組員は全員、拘束された。そしてブリッジに虎がやってくる。
106ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/29(木) 01:31:44.88 ID:XKXKZ2060
「ゼンイン、タオシタ、アト、ココダケ」
「ブリッジ以外は全部制圧したってよ。どうする艦長さんよぉ?」
こうなっては艦長として屈辱的だが、どうしようもないので敗北を認めるしかない。
「わかった。好きにしてくれ」
そう言うと、虎は艦長を気絶させた。

あとは単純であった。艦長以下全ての乗組員、そしてゼクゥドのパイロットも引きずりおろし、全員を輸送艦の脱出艇に乗せ、適当に放流する。
そして、ブリッジなどにあるこの艦の所在を知らせる信号やら何やらを発信している機器を全て破壊し、この船を探知できない状態にしてから、海賊船、亡者の箱舟号で牽引するのである。
輸送艦一隻を牽引することは、亡者の箱舟号でも問題なかった。細かい点だが、貫通パイルであけた穴は応急処置をしてふさいである。
そして、亡者の箱舟号はクランマイヤー王国へと帰るのである。帰る時に入港するのは、もちろん工業コロニーの宇宙港である。
宇宙港に帰ると早速、手に入れた獲物の確認作業が行われる。立ち会うのはユイ・カトーである。意外に面倒だと気づいたのがこの確認作業である。艦内全部を探して金目の物を見つけるのだから人手が必要だった。
とにかく、金目の物をユイ・カトーの元へ持っていき、確認してもらうと言う作業であるが、かなり非情な作業でもあった。
ある男が婚約指輪らしきものをユイ・カトーに見せたが、ユイ・カトーは偽物、ゴミと言って宝石の付いた婚約指輪を捨てた。艦内には色々と思い出の写真らしきものもあったが、金にならないのでゴミである。
そんなこんなで確認作業をした結果、思いのほか大漁であることがわかった。
MSはパイロットが乗っていたゼクゥド4機、そしてなんとクライン公国軍の新型量産機ザイランが4機も輸送艦内にはあった。その他にも資源やらなにやらの物資が大量に詰め込まれており、ユイ・カトーはウキウキしていた。
あまり大きな金にならないものは、この海賊行為に参加したものたちで山分けということになった。大きな金にならないでも小遣い稼ぎ以上の額をほとんどの参加者が得ることになった。
そして、後は艦の始末だが、これはレビーたちがすることとなった。艦を解体して、資源にするなり、MS開発用の部品にするなり、利用法はいくらでもあるそうだとハルドは聞いた。
とにもかくにも、私掠船作戦もとい海賊船作戦は大成功の結果に終わったのだった。

「脚はやっぱ戻して」
ハルドはマクバレルにそう言った。
「やっぱり嫌か?」
客観的に見たら恰好が悪いとハルドもマクバレルも気づいていた。前は暑くなっていたせいで気にしなかった脚が棒はやはり恰好が悪く気になる。ということで、ハルドのフレイド・プライベーティアの脚は元の脚に戻った。
「あと、ついでに注文があんだけど」
そう言うと、ハルドはマクバレルに真っ赤なカラスのマークを見せた。
「なんだこれは?」
「ブラッディ・レイヴン」
血塗れカラスだとハルドは言った。
「これを海賊の時の俺のシンボルにするから、塗装も変えてくれ。黒を基調にその上に血をぶちまけたような感じで頼む」
「構わんが、ブラッディ・レイヴン?」
「そう、俺は海賊ブラッディ・レイヴンになるんだよ」
ハルドは意外に凝り性であったが事が判明し、衣装まで用意していた。ハルドが用意したのはクランマイヤー王家邸の倉庫にあった赤い色の儀典用礼服で、それを自分で縫い直して改造した物を上着に、顔は目だけ出して真っ赤な包帯で全部覆ったものを衣装とした。
これで赤い怪人にして海賊ブラッディ・レイヴンの完成である。
ハルドはこの衣装を気に入ったようで、その後も何度もバージョンアップを繰り返すのだった。
107ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/29(木) 01:32:44.46 ID:XKXKZ2060
ハルド達クランマイヤー王国が私掠船作戦を行っていた頃、ロウマ・アンドーは地球にいた。1人ではない、自分が組織したガルム機兵隊の面々を連れてだ。
「南アフリカを取らないとねぇ」
ロウマ・アンドーは北アフリカのとある武装勢力のアジトにいた。
現在のアフリカ情勢は混迷している。アフリカ大陸の南側と東側は南アフリカ統一機構によって統治されている。南アフリカ統一機構は地球連合所属なのでクライン公国には敵にあたるわけだが、対するアフリカにおけるクライン公国勢力はというと。
北アフリカと西アフリカにある無数の独立勢力にそれなりの支援をしているだけであった。
「このままだと、アフリカ取られちゃうんだよね。それは俺困るなぁ」
ロウマは武器を提供してやっている武装勢力のリーダーに話していた。
「俺だけじゃなくてクライン公国も困るんだよね。きみも武器を渡してやってんだから、自分の陣地に閉じこもって、お山の大将やってないで他の勢力を潰しに回ってよ。別に無い知恵絞れとは言ってないんだよ。馬鹿は馬鹿らしく適当に銃を撃ちまくればいいんだ」
ロウマはそれだけ言うと、さっさとアジトから出ていった。言ったところで何もしないだろうと想像がつく。やるとしても馬鹿にされた復讐で自分を殺しにかかるかだ。この手の武装勢力の人間は短絡的だからやりかねないとロウマは思った。
しかしアフリカは嫌いだとロウマはつくづく思う。何十、何百年と先進国が援助をしてきたのにも関わらず、C.E.になった現代でも未だに発展を遂げていない。
ロウマとしては馬鹿しかいない大陸だとしか思えない。それに貧乏くさいのがウンザリだ。不潔なのも気分を害する。衛生観念が無いとロウマは勝手に思っていた。
「くそ、帰りてぇ」
ロウマはウンザリだった。聖クライン騎士団の任務として、アフリカへの出向を命じられここにいるわけだが、なにも自分でなくとも良かったはずだとロウマは思う。
最近、騎士団内での立ち回りが上手く行かない時がある。誰かがロウマの行動の邪魔をしているのだ。このアフリカでの仕事が終わったら見つけ出して排除しなければいけない。
邪魔者は殺せばいいのだ。友人が言っていたことを思い出す。
「大抵の事柄は殺せば終わる。終わらなければ皆殺しにすればいい。問題になるのならそれは殺す量が足りないのだ」
さて、では殺しをしようとロウマは思った。友人の言葉の通り、とにかく戦闘そして殺戮あるのみだと、ロウマはアフリカの大地に消えていった。

「で、俺らは何をやってんだかわかんねーんだけど」
「俺は分かるぞ。ロウマのクソ野郎に言われて、北アフリカの独立勢力を潰してるわけだ」
赤いザイランに乗るギルベールと褐色のザイランに乗るドロテスは戦闘の真っ只中。
ドロテスとギルベールが相手をしているのは北アフリカにある武装勢力の1つで、このあたり一帯を支配している集団だった。
褐色のザイランが、飛んでくるマシンガンの弾を回避しながら、両手に一丁ずつ持ったビームをライフルを撃ち返し、マシンガンを撃ってきたゼクゥドを撃破した。
「もともとあのゼクゥドって俺らがやったやつだよな」
「正確には公国がだがな」
「それは良いけど、なんで俺らそれをぶっ壊してんの?」
赤いザイランが右手に持った鉄球を投げる、噴射機構を持った鉄球は弾丸の速度でゼクゥドに襲い掛かり、ゼクゥドのコックピット付近を粉砕する。
「いらなくなったから殺せというのがロウマの指令だ」
「なんか勝手」
「奇遇だな。俺もそう思う」
褐色のザイランがビームアックスを投げる。すると投げられたアックスはゼクゥドのコックピットに突き刺さり、パイロットの命を奪う。
108通常の名無しさんの3倍:2015/01/29(木) 01:33:09.91 ID:Udl0w6s/0
しえん
109ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/29(木) 01:33:28.98 ID:XKXKZ2060
「お前ら、好き勝手言ってんね。俺が聞いてないと思ってる?」
ドロテスとギルベールはしまったという表情になった。ロウマが聞いていたのだ。
「ロウマ・アンドーさんは、お怒りです。こんなアフリカみたいなところに飛ばされて死ぬほどイラついてるんだよな」
だったら、そのまま死んでくれないかとドロテスとギルベールは思った。
「だから、まぁ、俺も戦闘に出るよ」
その声が聞こえた瞬間、一機のMSが戦場に降り立った。
「シャウトペイル。格好いい機体だろ」
ロウマがシャウトペイルと名乗った機体は全身が青色を基調に塗装された機体だった。機体全体のシルエットはザフトの時代から連なるクライン公国系の機体とは違う物で、極めてスリムであり、地球連合系の機体を連想させた。
特徴的なのは、右肩に装備されたシールドと大型のバックパックだが、特徴と言えばそれしかない機体でもある。かろうじて現在の特徴らしきものは、両手に銃を持っていることぐらいである。右手にビームライフルで、左手にマシンガンといったように。
ロウマの乗るシャウトペイルは右手に持ったビームライフルで周囲のゼクゥドを撃ちぬく。そして左手に持ったマシンガンを乱射し、地上を走る人間やMSなど構わずに撃ちまくる。
「いやぁ、こういうのもいいもんだよなぁ」
ロウマは民間人の虐殺など何とも思ってないようであり、それどころかストレスの解消のように、地上を走る人々を狙って撃っていた。
「そういうことは好ましくないな」
対艦刀を片手に、数機のゼクゥドを両断してきたイザラのザイランがロウマのもとに向かって歩いてくる。
イザラのザイランは純白に塗装され、対艦刀とビームライフルだけの装備といったシンプルな機体であった。
しかし、その対艦刀が異常であった。異常なのはその大きさである。純白のザイランが持つ対艦刀は機体の全長ほどの長さと、対艦刀の常識を超える太さがあった。
ゆっくりと歩く純白のザイランに対して、ゼクゥドが近接戦闘を仕掛けるが、イザラのザイランは全く相手にしないような動きで、対艦刀を上段から振り下ろし、向かってきたゼクゥドを真っ二つにする。
そして純白のザイランはロウマの乗るシャウトペイルに近づくと、手に持った対艦刀を突きつけた。
「私の前でそのようなことはやめてもらおうか?」
上司であろうがイザラはロウマの凶行が許せなかった。
「俺も戦闘は好きだけど人殺しはなー」
ギルベールが続いて言う。ギルベールは完全にやる気を無くしており、戦闘に参加する意思すら見せてなかった。
「おいおい、上司に刃向う部下かよ。わずらわしいなぁ、今ここで全員始末するか?」
ロウマは別にここでこいつらを皆殺しにしても良かった。人材の替えなどいくらでもいるからだ。
2機のMSとそして2人のパイロットの間に険悪な空気が漂う中、周囲で一斉に爆発が起きた。
110ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/29(木) 02:12:17.37 ID:XKXKZ2060
「……任務……完了……」
ゼロのザイランがゆっくりと爆発の中から姿を現す。漆黒に塗装されたザイラン、それがゼロの乗機だった。しかし、ゼロの機体は武装らしき物を何一つ持っていなかった。
では、どうやって、敵機を殲滅したのか。その答えはすぐにやって来た。無数のドラグーンが飛来し、ゼロのザイランに接続される。
無線誘導の自動砲台、ドラグーンは簡単に言えばそのようなものである。そのドラグーンがゼロのザイランの肩に3機ずつ両肩で6機、バックパックに6機装備されている。
ドラグーンを使ったオールレンジ攻撃に特化したのがゼロのザイランであった。
「さて、ゼロ君の頑張りで、任務も完了したことだし。俺は部下をぶち殺そうかどうかで悩んでるんだけど、イザラちゃんは何かある?」
「私も上官をぶち殺そうかと思っているので、別に言うことは無いな」
蒼い機体シャウトペイルが純白のザイランにライフルを向ける。対して、純白のザイランは機体の全長ほどもある対艦刀を構える。
両者は一触即発の空気だった。そして、その空気を感じ取って動いた者がいた。
「戦闘……継続……?」
ゼロが空気を敏感に読み取り、そして誤解をし、機体のドラグーンを射出した。ドラグーンの狙いは純白のザイランとシャウトペイルである。
無数のビームが2機に襲い掛かるが、2機はどうということもなく、それを避け、むしろそれが戦闘の合図になったように動き出した。
「死ね、クソ女!」
「死ぬのは貴様だ、ロウマ・アンドー!」
この状況で一番困っているのはドロテスである。どちらにつくにしても空気が悪くなることは確実である。ゼロも止めないといけない。
隊の中で常識人が自分しかいないとこうなるのかと、ドロテスはウンザリしながら煙草を一本口に咥え、火を付けた。煙が体の中に入ってくると考えもまとまってくる。ドロテスはしばらく静観することにした。
「ゼロ、私を助けろ!後でお菓子を買ってやるぞ!」
イザラは分が悪いと見たのか、ゼロを仲間に引き入れる作戦を取った。
「……了解……」
「イザラちゃんさぁ、ゼロ君を仲間に入れたくらいで、俺に勝てると思ってんの?」
ロウマのシャウトペイルは恐ろしく速く動いていた。機体の性能よりもパイロットの技量によるものだとイザラは考えた。
勢いあまって喧嘩をふっかけたが失敗だったとイザラは内心では後悔していた。想像以上にロウマは強いと思い知らされたのだ。
純白のザイランはビームライフルは躱すか、長大な対艦刀を使い弾くかで確実に回避していたが、マシンガンまでは回避の手が回らず、銃弾が機体をかすめた。
ゼロを菓子で釣って味方にしたは良いが、重力化ではドラグーンの性能は落ちるため、ロウマクラスのパイロット相手だと、簡単に避けられてしまう。
「強気だったイザラちゃんどうしたの?まさか今になって俺とやんのが怖くなったか?俺のナニを咥えてくれるんだったら許してやってもいいけどぉ?ははははは」
「ふざけるな!貴様のナニなど引きちぎってやる!」
「なんだよ、ナニで通じんのか、お嬢様かと思ったけど、これじゃつまんないね」
ロウマはがっかりしたように、呟き、シャウトペイルも同様にがっかりしたようにうなだれて両手を下に下げた。
「つまんね、もういいや。俺に攻撃したのは見逃してやるよ。俺は先に帰るんで皆、勝手に帰ってね」
ロウマがそう言うとシャウトペイルが奇妙な行動をする。右肩の大型シールドを外し、手に持ち、更に大型バックパックを外して手に持つと、その2つ合体させたのだ。
合体させた後のシルエットはエンジンの付いたサーフボードのようだった。シャウトペイルはそれに乗ると、高速で上昇し、その場から離脱していった。
111ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/29(木) 02:13:36.88 ID:XKXKZ2060
「待て!」
イザラの言葉もロウマにはもう届かない距離となっていた。MS単体で考えるならば非常に高い飛行能力であった。
シールドとバックパックを合体させたボード状の装備、正式な装備名はブースターボードという、それにシャウトペイルを乗せたロウマはのんびりと空の旅を楽しんでいた。
「イザラちゃんと喧嘩したのは良くないけど、シャウトペイルはまぁまぁか」
これなら量産に踏み切ってもいいだろうとロウマは思った。ザイランよりもパワー自体は落ちるが、機体自体は動かしやすく、ブースターボードで高い移動性能を持ち、ある程度腕が立つパイロットならば、ブースターボードを使って戦闘も可能だろう。
とりあえず、ロウマは一旦、落ち着くことの出来る場所についたらレポートを作成しようと思った。シャウトペイルの実戦運用についてのものだ。
レポートの内容を上層部がどう捉えるか分からないが上手く行けばザイランと同じように、公国の主力量産機となるだろう。
そうなった時は、シャウトペイルを開発した会社から多額の金を受け取るという予定がロウマの中にはあった。そうでもなければ、わざわざMSになど乗らない。
ロウマはこれから自分の懐に入ってくる金額への期待に胸を膨らませるのだった。

「何も言うことはないけど、とりあえずシャウトペイルはイザラちゃんにあげます。後、悪いことやってガンダム系っぽい機体を本来渡される部隊から、こっちに回してもらうようにしました。俺って偉いね」
ロウマ・アンドーは間借りしている武装勢力のアジトの一室でいきなり、そう言った。イザラとゼロがロウマに対して攻撃したことは不問に処すということだった。
「イザラちゃんは頭が悪いから、ああいうことやっても仕方ないしゼロ君は元々アレだから。ここは俺が大人になって、許してあげないとね」
ロウマは寛大さを見せつけたつもりだが、イザラとゼロには伝わっていなかった。
「死ね」
「……」
ロウマは無視することにした。ロウマは不意に部屋の隅を見ると、ここの武装勢力のリーダーがひきつった顔で立っている。
ロウマは緊張をほぐしてやろうと、リーダーの肩に手を乗せ、肩を揉んでやる。
「よかったじゃないの。俺たちのおかげで、きみは北アフリカ一帯の王様になれるかもしれないんだよ。何人死のうが、どこがぶっ潰れようがいいじゃないの。ほらしっかりしなよ」
ロウマはてっきり、リーダーが喜ぶと思ったが、こういう反応かと、つまらない思いだった。どうやら、この男は思ったより欲が無いようだ。早々に殺してもっと貪欲な人間をリーダーに替えた方が良いかもしれないとロウマは思った。だが、それも後だ、今は――
「んじゃ、今日も皆さん出撃しましょう。そんでもって他の勢力やら何やら潰してきてくれよ」
そうロウマが言うと、ガルム機兵隊の面々は嫌そうに部屋から出ていった。ロウマとしてはさっさとアフリカを制圧して宇宙に帰りたいのだから彼らには頑張ってもらいたいと思っていた。
112ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/29(木) 02:15:32.16 ID:XKXKZ2060
ガルム機兵隊は戦場では圧倒的な存在だった。相手は所詮地方の武装勢力であるが、ガルム機兵隊の戦闘能力の高さは確かだった。
ガルム機兵隊の強みは連携にあった。イザラの乗った純白に塗りなおされたシャウトペイルがブースターボードに乗り、驚異的な速度で敵陣に突撃しながら、長大な対艦刀を振り回す。
そしてイザラの活躍でできた穴をドロテスとギルベールが広げる。ドロテスとギルベールの機体は特性こそかみ合わないが、パイロット同士の相性で極めて高いレベルの連携をこなす。
そしてゼロの機体がオールレンジ攻撃で、さらに戦場全体に火力をばら撒き、敵全体を消耗させていく。各員が連携を意識せずとも勝手に戦っているだけで連携となる。それがガルム機兵隊の現在の戦い方であった。
メンバーが増えれば連携の幅はもっと広がると、ロウマは戦場を見ながら思った。そして増員するメンバーの目星は既についており、2、3日中にも新しいメンバーが到着する予定だ。自分の、自分だけの部隊が少しずつ完成していくことにロウマは満足を覚えていた。
その時だった。戦場を眺めるロウマの元に通信が入る。それは、クライン公国の中でも最も特別な存在からの連絡、エミル・クラインからの連絡であった。
「アンドー大佐。少しお話しがしたいので、戻ってきてくれませんか?」
それだけで通信は終わりである。ロウマは心底ウンザリだった。チンパンジー以下の脳味噌しかない女とお話しの時間、そしてそのそばにいるであろう、あの男。
顔と名前すら思い出したくないが、クライン公国の最高権力者に呼び出されたのなら行くしかない。
幸いガルム機兵隊はイザラに任せておけばいいので、気は楽だ。宇宙へ戻れるのも嫌ではない。しかし、エミル・クラインには会いたくない。だが、そうも言ってられず、ロウマは急ぎ、宇宙への帰り支度をするのだった。

ロウマと入れ違いにガルム機兵隊には2人が増員された。そして、ロウマが言っていたガンダム系っぽい機体とやらも到着した。
「アリス・カナーですー」
1人目の増員メンバーは眼鏡をかけた少女だった。大きなメガネと癖の強い髪が印象的であった。
「ガウン・レン……」
2人目の増員メンバーは無愛想な感じの男だった。東洋系の顔立ちに、髪を長く伸ばしている。
イザラは一通り元のメンバーの紹介をすると早速、戦場に向かった。
アリスの機体はザイランだが、色がおかしかった。完全なピンク色である。趣味が悪いとガルム機兵隊のメンバー全員が思ったが、機体の武装を見ると、そんなことは言えそうに無かった。
アリスのザイランはとにもかくにも重武装だった、それもビーム系の重武装ではなく、実体弾系の重武装である。
バックパックには大型キャノンが二門装備され、両肩には常識を超えた大容量のミサイルランチャーユニット。そして両手にはバズーカが一丁ずつ装備され、腰にも大容量のグレネードランチャーユニットを装備し、さらに脚にもミサイルポッドが装着されていた。
アリス曰く、「火力で制圧するのが、この世では一番効率的」だ、そうなので、この装備が一番効率が良いとアリスは言うのだった。
しかし、機体が重すぎる気がと全員が思った。
「だからシャウトペイルがあるんだと思いますよー」
アリス・カナーは間延びした喋りの少女だった。そしてアリスの言う意味がイザラは最初分からなかったが、アリスの行動は迅速ですぐに理解する羽目になった。
イザラのシャウトペイルがブースターボードに乗った瞬間、アリスのザイランもブースターボードに乗ったのだ。ブースターボードは本来は1機用だが、こういう2機乗りの使い方も考えられていた。
だが、アリスのザイランは重すぎる。落ちる落ちる!とイザラが心の中で叫んだ直後、突然にイザラのシャウトペイルにかかる重量が減った。
113ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/29(木) 02:16:07.81 ID:XKXKZ2060
「……」
その理由はガウン・レンのシャウトペイルがアリスの機体を脇から支え、持ち上げていたからだった。
ガウン・レンはシャウトペイルに搭乗していた。試作機であり、数が少ないこの機体を任されるということは相当な腕だろうとイザラは思った。その上、ガウンのシャウトペイルはカスタムされていた。
基本的な武装はヒートランスと腰にマウントしてあるビームライフルだ。
しかしガウンのシャウトペイルは通常のブースターボード用のシールドの他に左肩に大型のシールドを装備していた。イザラはチラッとだが、そのシールド内に様々な武装がマウントされているのが見えた。
「感謝する」
「……」
イザラが礼を言ったのにも関わらず、ガウンは何も言わなかった。イザラは別に気にしなかった。無口な人間はゼロでもう慣れたので、それが1人増えたところで別に構いはしなかった。
イザラは、とりあえず、出撃に際して、新たに加わったガルム機兵隊の面々もいることだし、一応、確認を取っておくことにした。
「ロウマ・アンドーに死んで欲しい者は手を挙げろ!」
イザラが通信で呼びかけると、ゼロ以外、新たなメンバー含めて全員の機体が手を挙げた。
「よし、部隊の統率は取れているな!では出撃!」
ガルム機兵隊の面々はロウマ・アンドーに死んで欲しいという気持ちを共に戦場へ向かうのだった。

「どうよ、ゼロ坊、新型は?」
戦場へ向かう途中、ギルベールはゼロに話しかけていた。
「…………」
ゼロは何も言わない。基本的に抽象的な質問には反応できないということが、短い付き合いでガルム機兵隊の面々は理解してきていた。
ゼロは新型機に乗っていたロウマ・アンドー曰く、ガンダム系っぽい機体らしいが実物を見るとガンダムらしいと言えばガンダムらしいシルエットのように、ガルム機兵隊の面々は感じたが、明らかに違うことは分かった。
なぜなら頭部がモノアイでトサカ付きというクライン公国系であったからだ。
機体名はコンクエスターというらしいが、詳しいことはガルム機兵隊の面々も理解してなかった。とりあえずドラグーンシステム搭載機という理由だけでゼロが乗ることとなった。
「まぁ試さなければ機体の良しあしは分からんだろう」
ドロテスが言うと、ギルベールも何か思うところがあるようだった。
「一応、俺もドラグーン適正高いし、俺が乗っても良いんじゃね」
それについてはイザラが否定した。
「ゼロの前の機体はドラグーンシステム搭載機だったから、これがベストな乗り換えのはずだ」
「俺も新型乗りたいよー」
「ザイランも充分新型だぞ」
ギルベールのわがままにドロテスが付き合ってやる。基本はギルベールも構ってもらいたいからグチグチと言っているのだ。適当に相手をしてれば、新型機のことなどどうでも良くなるだろうとドロテスは思った。
そうじゃなくてさぁ……、とギルベールがごねようとした時だった。アリスのピンクのザイランが突然、シャウトペイルのブースターボードから降りた。
急に重量が軽くなったため、アリスのザイランを乗せていたイザラのシャウトペイルはバランスを崩しかける。
114ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/29(木) 02:16:51.05 ID:XKXKZ2060
「こら、降りる時は降りると言え」
「すいませんー」
そう言いながら、アリスのザイランは落下しながら、バックパックのキャノン砲の砲撃を行っていた。かなり遠方に向けての砲撃である。しかし、着弾した地点では大きな爆発が起こっていることが確認できた。
「先制攻撃ですー」
アリスはのんびりと言いながら砲撃を続けていた。
「このまま、砲撃しながら戦場まで接近するんで皆さんはお先にー」
ではそうさせてもらおうと、軽くなったイザラのシャウトペイルは全速力で敵陣に突撃していった。
その後に続くのはガウンのシャウトペイルとゼロの乗るコンクエスターだ。そして続いて、ドロテスとギルベールのザイラン。最後に超重装備のアリスのザイランが続く。
「敵は今までよりも多少は大きな武装勢力で、“荒原の狼”という二つ名のエースがいるらしいぞ」
イザラは今更ながら敵の情報を伝えたが、ガルム機兵隊の面々は別に気にも留めてなかった。
「そのエースを誰が狩るか勝負しねぇ?」
ギルベールが言いだす。
「乗った」
隊長代理のイザラが真っ先に同意すると、他のメンバーも口には出さないが、その勝負に乗ったようだった。
「でも、私の砲撃で、もう死んじゃってるかもしれませんよー」
「では見つからなかったら、アリスの勝ちで良い」
イザラが勝手にルールを設定した。別に誰も文句はなかった。ロウマではないがこんな戦場はガルム機兵隊の面々にとって遊びだ。ルールだって真剣に決める必要はない。
「じゃあ、もっと撃ちまくりますよー、流れ弾に当たったらその人が悪いってことでー」
「当然だろう」
ドロテスは戦闘の前の煙草を口に咥え火を付け言った。
戦場は近い、ガルム機兵隊の面々は、それぞれが嬉々として戦場に飛び込んでいった。

「なんなんだ貴様らは……!?」
荒原の狼と呼ばれた男は息を荒げながら、叫んだ。突然自分たちのアジトに強襲をかけてきた数機のMSそれによって、荒原の狼の率いる武装勢力は壊滅した。
数十機あったMS。そして決して練度の低くないはずのパイロットたちがたった数機のMSに蹂躙されたのだ。
荒原の狼は最後に残ったMSとして、ガウンのシャウトペイルと対峙していた。
「…………」
ガウンは何も言わない。
「ありゃ、最後はガウンさんか」
「アレが荒原の狼みたいですよー」
「勝負はガウンの勝ちか」
荒原の狼の機体が動く。だがその瞬間にはガウンのシャウトペイルがヒートランスで荒原の狼の機体のコックピットを貫いていた。
「おお!」
イザラは感嘆した。かなり速い動きであったが機体性能によるものではなくパイロットの技量によるものだと感じた。パイロットとしての技量はおそらくロウマ・アンドーに匹敵するか勝るかもしれないと思った。
「つえー」
「奇遇だな俺もそう思った」
ドロテスとギルベールもガウンの操縦技術の高さに気づいた。腕が立てば認められるガルム機兵隊はそういう集団である。
「さて、では帰るか。新しい仲間の歓迎会をしたいがどうだろうか」
イザラが全員に呼びかけるとゼロが乗る機体以外は全ての機体が手を挙げた。ゼロも別に歓迎会が嫌というわけではない。歓迎会というもの、そのものが分からないので手の挙げようがないのだ。
「うーむ、気を悪くしないで貰いたいが、ゼロには悪気があるわけではなくてな……」
「わかってますよー、ゼロ君って昔流行った強化人間みたいなものなんですよねー、気にしませんよー」
115通常の名無しさんの3倍:2015/01/29(木) 02:19:40.33 ID:Udl0w6s/0
支援
116ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/29(木) 03:23:28.64 ID:XKXKZ2060
アリスはそう言ってくれたのでイザラはありがたかった。何気に隊長代理と言うのも大変な仕事だと思った。なにせ、ロウマ・アンドーが徹底的に下げにかかる士気を代わりに上げて隊員たちのモチベーションを上げなければいけないのだから。
「では、今日は特別に私のおごりで、外に飲みに行こう、歓迎会は盛大にやらないとな!」
そうと決まれば、ガルム機兵隊の面々はさっさと帰ることにした。
「イザラ、店は喫煙可の所でなければ、俺は行かんぞ」
ニコチン中毒のドロテスがそんなことを言いだすが、そんな心配はいらないだろうとイザラは思った。アフリカで禁煙の店など、まだ見たことが無いからだ。
「そんな心配よりも酒の心配をするべきだな。今日は飲み比べだぞ!」
うむ、体育会系のノリ、これが一番いいのだとイザラは思い、コックピットの中で、今日、飲みに行く店を探すという重大な仕事をしていた。
ガルム機兵隊の面々は軽いノリで帰路についていたが、彼らが訪れた先は焦土と化していた。ガルム機兵隊の名は自然とアフリカ大陸中に知れ渡り、恐るべき部隊として悪名をとどろかすようになっていった。そのことをガルム機兵隊に所属する面々は知る由もなかった。
117ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/29(木) 03:27:00.87 ID:XKXKZ2060
第24話終了です。支援ありがとうございました。
今回は長めでした。長文失礼しました
118通常の名無しさんの3倍:2015/01/29(木) 17:17:28.70 ID:1Q0VdcxO0
>>EXSEED
投下乙です
ガルム機兵隊の統一意思いいなwww笑ってもうたwww
ロウマの人でなしっぷりも相俟ってイザラちゃん好きだわ
でもロウマも冷血漢と見えて結構甘いね、強い子が好きなのかな?
敵チームもいいキャラ揃いで展開が楽しみです
119ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/01/30(金) 00:45:06.81 ID:qZxMxR9J0
感想ありがとうございます
ロウマに関してはクソ野郎なのが今後の展開で見えてくると良いと思ってます
ガルム機兵隊に関して言えば、間違いなくクランマイヤー王国組よりも仲が良いですね。書いててつくづく思います。
120EXSEED作者:2015/01/30(金) 03:48:24.97 ID:qZxMxR9J0
イザラちゃんの前髪はイザーク準拠です。
こう言うといろんな批判があるかもしれませんが僕は種と種死の物語を全面的に肯定してるわけじゃありません。
ただ作品作るだけに使わせてもらっただけです。だけど嫌いになれない何かが種シリーズにはあります。
個人的には00派ですがそれでも許される暖かな懐がこのスレにはあると信じてます。
121ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/01(日) 00:56:39.33 ID:lGdwfllw0
投下します
機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第25話

ガルム機兵隊がアフリカを蹂躙していたころ、クランマイヤー王国のハルド達は海賊稼業に勤しんでいた。と言うよりはハルド達が海賊仕事に味を占めていたのだ。
もう私掠船作戦などどうでも良くなっており、ハルド達は純粋に海賊を楽しんでいた。海賊仕事の最中、ハルドは海賊ブラッディ・レイヴンであり、ベンジャミンはキャプテン・ベンジャミン・ドレイク船長である。
今日も今日とて、獲物を探して、宇宙を漂っていた。
「ドレイク船長、前方に地球連合の艦隊があります!」
ブリッジクルーやその他の船員はクランマイヤー王国の若い衆の中から、ろくでなしと呼ばれている連中を集めて、使っていた。
海賊稼業はクランマイヤー王国の公然の秘密となっていた。
「艦は何隻だ?」
ベンジャミンもドレイク船長として、堂に入った物になっていた。もう過去を振り返るということはせずに前向きになっていた。
「輸送艦が1に護衛の巡洋艦が2です」
ベンジャミンは悪い獲物ではないと考えた。自分たちが乗っている輸送艦を改装した亡者の箱舟号では、まともな戦闘は行えないが、代わりに優秀な戦闘要員がいる。
「レイヴン、獲物だ。出てくれ」
通信をMSハンガーにつなぐと、ブラッディ・レイヴンになったハルドから返事が返ってくる。
「くくく、ちょうど獲物を頂きたかったところだ……」
ハルド本人が楽しそうにやっているので、ベンジャミンは特に何も言うことはなかった。
MS隊はすぐに出撃する。ハルドの機体は専用にカスタマイズされた機体、その名もフレイド・ブラッディ・レイヴンである。
今回はセインとジェイコブ、ペテロ、マリア、そして誰だか忘れたがクランマイヤー王国の若い男のパイロットが乗っている機体が出撃しているので、合計で6機のMSだ。
軍艦3席を相手にするには普通ならば、物足りない数だが、海賊ブラッディ・レイヴンなら造作もない仕事だろうとベンジャミンことドレイク船長は思った。

「所属不明のMSが接近してきています!」
地球連合の軍艦のブリッジ内は、その報告だけで大騒ぎになった。
「ブラッディ・レイヴンか!?」
艦長が思わず、その名を呼んでしまった。その瞬間、ブリッジ内が静まり返った。
ブラッディ・レイヴンまたの名を血塗れガラス。その名は地球連合でも知れ渡っていた。クライン公国、地球連合どちらの所属かを問わずに襲い掛かる、狂気の怪人。民間人の間でも最近は知られるようになってきている。
敵の血で染めた真っ赤な赤い服に、ただれた顔面を隠すために顔に巻いた包帯も敵の血で真っ赤だという。
「所詮は噂だ。それにまだ確認も取れておらんMS隊、発進!」
艦長の指令に応じて、MS隊が発進し、フォーメーションを組みながら所属不明機に向かっていく。
その直後だった、MS隊の隊長から、恐怖に駆られたような叫びが艦長の元に届いた。
「奴です。ブラッディ・レイヴンです!真っ黒に血塗れの姿、奴だブラッディ・レイヴンだ!畜生!当たらない、一発も当たらないぞ!どうなってる!?なんだ?まて!やめてくれ!やめ――」
「おい、どうした、応答しろ!?」
艦長の叫びも虚しく、発進したMS隊の隊員からの連絡は全て途絶えた。そしてそれと同時に艦長の肉眼も捉えた、黒くそして血に濡れたような赤い色を帯びた機体を。
「海賊ブラッディ・レイヴン参上……」
くぐもった声が通信で艦長の元に届いた。
「なにが海賊だ。ならず者め!艦砲射撃、奴を近づけるな!」
艦長の叫びと同時に巡洋艦は弾幕を張り、ブラッディ・レイヴンを近づけないようにするが、放たれる砲弾はことごとく躱され、ブラッディ・レイヴンを捉えることはできない。
122ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/01(日) 00:57:46.55 ID:lGdwfllw0
「くそ、怪物め!」
艦長が悪態をついた瞬間、ブラッディ・レイヴンは巡洋艦のブリッジに張り付いていた。そしてブラッディ・レイヴンはいつものように、胸元のホルスターからビームガンを抜くと、それをブリッジに突きつける。
「さて、賢明な艦長殿。艦砲射撃を止めてもらおうか?」
ブラッディ・レイヴンのくぐもった声が艦長の元に通信を通して届く。
「止めなければ、こちらは手間が省けて楽だが、どうだろうな。艦長殿の周りのクルーはビームで消し飛ばされて死にたいと思っている者たちばかりかな?」
ブラッディ・レイヴン得意の脅しである。艦長はブラッディ・レイヴンの噂を聞いている。言うことを聞いておけば、ブラッディ・レイヴンはむやみな殺生はしない。だが、逆らったら最後、逆らった人間の家族まで探し出して殺すという。
実際、クライン公国ではブラッディ・レイヴンに逆らったために、乗組員全員とその家族全員が殺されたという噂がある。噂であるため確証はないが、そんな噂が出回るほど凶暴な存在だと艦長はブラッディ・レイヴンを認識していた。
「艦砲射撃止め……」
艦長は仕方なし艦砲射撃を止めた。艦長としては軍人としてのキャリアに傷がつくとは思ったがクルーと自分の命そして、もしかしたら家族の命に関わるかもしれないのだから、無謀な選択は出来なかった。
「賢明な判断に感謝するよ」
くぐもった声が聞こえると同時に遠方から髑髏のマークを付けた輸送艦が近づいてくる。
「接舷用意及び、突入準備」
輸送艦は、ブラッディ・レイヴンの活躍により、MS隊の邪魔や艦砲射撃を受けずに、巡洋艦の横に機体をつけることに成功した。
そして艦を横につけたらやることは一つ。接舷と突入だ。海賊船亡者の箱舟号の横から貫通パイルが撃ちだされ、巡洋艦の横腹に突き刺さると同時に、貫通パイルは突入用のトンネルとなる。
そして突入するのは虎(フー)達、肉弾戦闘組である。
虎が突入したのなら安心である。もうブリッジに銃を突きつける必要もないのだが、格好とインパクトの問題でハルドは機体の動きを変えずにブリッジにビームガンを突きつけたままにしていた。
しかし、いつまでもこうしているというのも飽きるし、心配事はハルドにもあった。
「セイン、そっちはどうだ?」
セインとジェイコブ3兄弟はもう一隻の巡洋艦から発進したMS隊の相手をしていた。
「なかなか大変です」
セインは、今回はフレイドに乗っていた。ロウマにプロメテウス機関の話しを聞かされ、そして“ギフト”という訳の分からない技術が使われていると聞いてから何となくブレイズガンダムに乗ることにセインは抵抗を覚えていた。
セインのフレイドがビームガンで相手の機体、地球連合軍の量産機であるグラディアルの肩を貫いた。
「実際、大変だよなセイン。なるべく壊さず、パイロットを殺さないように相手を無力化しろって」
セインに通信で話しかけたのはジェイコブだった。
ジェイコブのフレイドがセインの機体が肩を撃ちぬいたグラディアルに後ろから接近し、細身の刀身を持ちナックルガードの付いたヒートサーベルで、撃ちぬかれたのとは反対側の肩を切り落とす。
「そうだなぁ。ハルドさんみたくはできないよ」
セインはジェイコブに同意するのだった。この海賊仕事を始めてからはジェイコブたち3兄弟とセインは仲良くなった。ジェイコブは2歳年上だが、話しやすく兄のように感じる時があった。
「何事も経験だ。不殺やってりゃ嫌でも、それなりに腕が上がる。不殺はパイロットスキル上げるためだ」
ハルドはセインとジェイコブにそう言うが、そうは言っても殺さずに戦うことはセインとジェイコブの3兄弟にはまだ難しい部分があり、それぞれ何人かパイロットを殺傷している。
123ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/01(日) 00:58:35.70 ID:lGdwfllw0
セインは人を殺すことに抵抗はなくなっていた。ジェイコブたち3兄弟は元々、そういう殺人などで悩むタチではなく精神面でもセインよりパイロット向きだった。
「私は輸送艦の推進システム潰してきますね」
マリアが気が付いて機体を動かす。確かに、劣勢と見て地球連合の輸送艦は撤退しようとしていた。マリアは3兄弟の末の妹だが、状況を読む能力は兄たちよりは高かった。
「あんまり派手にやるなよ。推進器周りは誘爆率が高いんだ。中のお宝が傷つくのと人が死ぬのは勘弁だからな」
ハルドはマリアに注意をした。ハルドが人死にを嫌がるのは人道主義に目覚めたわけではなく、人死にが多いと、軍が本気で動き出すし、それに海賊としてスマートさに欠けるからだ。
ハルドの理想としては誰も殺さず、大きく傷をつけることもなくスマートに獲物をかっさらっていくというのが理想だった。
「あ……!あ、大丈夫だったぁ」
ペテロの、のんびりとした声がハルドの耳に届いた。
「ペテロてめぇ!なんかしたな!?」
「いや、してないです。してないです。コックピットに当たりそうだったけど、敵がよけてくれて肩に当たったんです!」
ペテロは必死の弁解をしている。これでもジェイコブたち3兄弟の中ではパイロットとしては1番の腕だった。
ハルドが気づくと、もう一隻の巡洋艦から発進したMS隊も戦闘能力を失っていた。
ジェイコブの機体が艦砲射撃を潜り抜け、ハルドの機体と同じようにビームガンをブリッジに突きつける。すると艦砲射撃は止んだ。マリアの機体も輸送艦の推進システムを破壊すると、ブリッジに銃を突き付けている。
セインとペテロの機体は両手にビームガンを持ち、戦闘能力を失った機体相手に動いたら撃つと、脅しをかけている。
ハルドは手際が良くなったと感心した。特にセインはこの海賊仕事で実戦経験を積むことによってパイロットとしての腕が上がっているし、ジェイコブたち3兄弟も同様に腕を上げた。エースとは言えないが、それなりの成長を遂げたとハルドは思った。
そんなことを考えている内にハルドが抑えている一隻目の巡洋艦では虎が仕事を終えたようだ。虎からの合図がハルドの元に届く。
なので、亡者の箱舟号にくくりつけておいた巡洋艦から発進したMS隊のパイロットを艦内に戻してやり、巡洋艦の乗組員全員と一緒に脱出艇で宇宙に放り出した。
「巡洋艦一隻ゲットと」
ハルドは機体を操り、突きつけていたビームガンをホルスターに納めさせる。
その間も亡者の箱舟号は次の船を制圧するために動いていたし、ハルドにも仕事があった。
ハルドのフレイドが腰のヒートサーベルを抜きながら、セインが動きを抑え込んでいる、グラディアルに近づいた。
124ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/01(日) 00:59:01.87 ID:lGdwfllw0
「さて、機体とはオサラバしてもらおうか」
グラディアルのパイロットにブラッディ・レイヴンとして通信を送ると明らかに怯えたような声が返って来たがハルドは無視してコックピットにヒートサーベルを突き刺した。だがパイロットは死んではいない。
ハルドの機体が刺したのは正確にはコックピットではなく、コックピットの真横当たりであり、そこに刃を突き刺したまま、刃を僅かに走らせる。
そうしたら、サーベルをグラディアルから抜き、もう一度刺す。今度もコックピットのすぐそばである。そして刺したまま、また僅かに刃を走らせると、驚いたことにコックピット前の装甲が剥がされ、コックピット内部が露出しパイロットの姿が露わになる。
ハルドのフレイドは露わになったパイロットを指でつまむと、セインの機体にパスした。
これと同様の作業を全ての機体に行い、パイロットは全員回収したことになる。
「あいかわらず、すごいなぁ」
ペテロはハルドの技術に感動していた。機体の損傷を最小限にパイロットだけを取り出すという技術は普通に見ても驚異的だが、ペテロが真に驚くのはハルドがこれを普通の戦闘中でもこなせるということだった。
敵がビームサーベルで切りかかってこようが、何をしようが、ペテロの見た感じではコックピットの辺りをちょちょっと切っただけで、後はパイロットを指でつまんで、終わりという。
信じられない戦い方をハルドはいつもしており、ペテロはハルドを人間ではないと思っていた。実際、ほとんどの人間が見ても信じられない戦い方だが、ハルドにとっては楽な部類の作業であった。
ハルドがパイロットをコックピットから引きずり出す作業をしていると、二隻目の巡洋艦も制圧が完了したようだった。セインがハルドから渡されたパイロットを船に戻し脱出艇で乗組員全員と一緒に宇宙に放流させる。
そして最後は輸送艦である。輸送艦も同じように制圧し、乗組員全員を脱出艇に乗せて宇宙に流す。脱出艇がその後どうなったかハルド達は知らなかったし、興味もなかった。
とにもくにも、これでハルド達は今日の獲物を手にしたわけだ。巡洋艦二隻と輸送艦一隻とその積み荷、そしてMS、傷物もあればそうでないのもあるが12機という大量の成果だった。
「海賊、ブラッディ・レイヴンは今日も絶好調ってな」
ハルドは息苦しくなってきたので、顔に巻いていた包帯を外した。コックピットの中の空気が良いもののわけはないが、だいぶ楽になった。あとはいつも通り獲物を連れて帰るだけだ。
「では、亡者の箱舟号は帰港のために発進する。各自、獲物は忘れるなよ!」
ベンジャミンが号令をかけると亡者の箱舟号の中ではオー!という雄たけびが続いた。クランマイヤー王国の海賊稼業もとい私掠船作戦は順調であった。
125ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/01(日) 00:59:34.68 ID:lGdwfllw0
「はー疲れる」
セインは機体を艦に戻し、コックピットから降りるとため息をつきながら、そう言った。最近、自分でもパイロットとしての技量は上がっている感じがするがまだまだであるともセインは思っていた。
「よ、セイン。お疲れ」
ジェイコブもコックピットから降りてきていた。ジェイコブはセインの姿を見つけると近付き肩を組み、ひそひそと話し始める。
「今日も“お宝”は中々らしいぞ」
「ほんとかい?この間もそう言ったけど、最悪だったじゃないか」
セインは眉をひそめてジェイコブに小声で言う。
「なんの話し?」
ペテロも近づいてくるとジェイコブは3人で肩を組んで円陣を組んだ。
「“お宝”だよ。“お宝”俺ら若者にとっての」
「なんだ、それかぁ。俺はいいかなぁ、別に」
ペテロは乗り気ではない。この間の“お宝で”ひどい目にあったからだ。
「一回くらい最悪でも、次は良いかもしれないだろ、挑戦だペテロ」
「そうは言ってもなぁ」
ペテロが乗り気ではない表情であるのと同じように、セインも若干乗り気ではなかった。セインがジェイコブの話しに乗るか悩んでいると、男3人の円陣に対して声がかかる。
「なにやってんの、兄さん?」
声をかけたのはマリアである。セインはなんとなくマリアの方を見ると、ドキッとした、マリアはノーマルスーツをはだけて着ており、上半身はアンダーウェアだけだった。アンダーウェアだけだと身体のラインが丸分かりになりセインはそれにドキドキしたのだ。
「また下らないメモリー漁りの相談?趣味悪いからやめた方が良いと思うよ」
マリアはそれだけ言うと、去って行った。
「うるさい。メモリー漁りは俺たちの楽しみなんだ。他人が残してったメモリーファイルの中身を覗いて何が悪い。そしてその中のエロ画像やエロ動画を鑑賞して何が悪いんだ!」
ジェイコブはマリアに怒鳴るが、マリアはクールに返す。
「そのセリフ、父さんとかの前でも言える?」
そう言い返されるとジェイコブは弱り、縮こまるしかなかった。そんなジェイコブのことは気にならず、セインはマリアのことばかり考えていた。なんというか、最近ドキドキするぞ、と。
先ほども通り過ぎていった時の汗の匂いとそれに混じったシャンプーの匂いにドキドキした。アンダーウェアの件も変だとセインは思った。
少し前に水着姿のマリアを見ているのにもかかわらず、それより露出が低いはずのアンダーウェアのマリアに何故か今日はドキドキしてしまった
マリアは小麦色の肌にショートカットの健康的な見た目の少女である。セインはそういうタイプが好みだったかというと、また違ったはずだが、なぜだかマリアを見るとドキドキする回数が増えた。
そしてドキドキすると同時に胸にチクリとした罪悪感の痛みが走るのだ。その時、頭に思い浮かぶのはミシィの顔であり、セインとしては何が何だか分からなかった。ミシィは只の幼馴染だぞ。と思うがドキドキと同時の罪悪感を覚えた時は必ずミシィの顔が浮かんだ。
ああ、もう自分はどうしてしまったのだろうか、セインは1人で悶々とするしかなかった。
ペテロは弱気になっている兄と、悶々としている態度が表に出ているセインを見て、この2人は大変そうなぁと、人生に全く悩みの無いペテロは思うのだった。
そんな若者たちを乗せ、海賊船は今日も無事に獲物と共にクランマイヤー王国に帰って来たのだった。
126ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/01(日) 01:52:46.53 ID:lGdwfllw0
ロウマ・アンドーは、ロウマにとって下らなく、意味のない話しを延々と聞かされていた。目の前にいるのはクライン公国の公王エミル・クラインであるが、ロウマはそんなことはどうでも良かった。
エミル・クラインから急な呼び出しがあったと思って、アフリカから急いでアレクサンダリアに帰ってきて、その上で公王の宮殿に来てみれば、お茶会と下らない話しである。ロウマは、エミル・クラインを殺してやろうかと思ったが、我慢していた。
「――それで、最近は、海賊が現れるという話しですの。ブラッディ・レイヴンという名前で、もう何千人も罪なき人々を手にかけているという噂を聞きましたわ」
ロウマとしてはそれが、どうしたという感じだった。お前は直接、手を下していないが何千人じゃ済まない数の人間を苦しめているぞ。と言ってやりたかったが我慢した。
エミル・クラインは客観的に見れば美しい容姿の部類に入る、ピンクの髪も容姿も、あのラクス・クラインにそっくりだと言われているが、ロウマは見た目で判断するタイプではないので、エミル・クラインの能力を客観的に見ることが出来た。
ロウマの見立てでは、エミル・クラインは、レジ打ちのパートをやっているのがお似合の能力だと思っていた。
そう思って心の中では馬鹿にしているが、肩書が公王なので、そんなバカ女にも従わなければいけない。屈辱は慣れており我慢はできるが、限界はある。ロウマは限界が来る前にさっさと、このピンク髪のバカ女の話しが終わらないかと思っていた。
「海賊なんて怖い時代ですわね。わたくし、怖くて夜も眠れませんわ……」
そうエミル・クラインが言うと、脇からそっとエミル・クラインの手を握る存在がいた。
「大丈夫だよ。キミのことは僕が守るから心配いらないよ」
エミル・クラインの手を握るのは男である。茶色の髪をした穏やかな顔の男。
「ユリアス殿がいれば安心でしょう」
ロウマは適当にそう言った。言ったものの誰の耳にも入ってないだろうと思ったが。
茶会に参加しているのは、ロウマ、エミル・クライン、そしてユリアスという男だけだが、今は、エミルとユリアスはお互い手を握り見つめ合い二人だけの世界に入っている。
ロウマは改めてユリアスを見た。名前と階級を合わせるとユリアス・ヒビキ近衛騎士長。聖クライン騎士団でも特別な存在である、近衛騎士その長。そしてロウマが知っている範囲では世界最強のMSパイロットだ。
そして、エミル・クライン公王陛下とは相思相愛の関係である。だが、ロウマからすればユリアスがマトモに恋愛など、ちゃんちゃら可笑しかった。
「海賊のことはアンドー大佐にお願いするのはどうだろう?」
ユリアスは全く悪気なく言った。ユリアスと言う男も、エミルもだが、この2人には悪意というものが無い。基本的に鈍感で頭が悪いから、人の気持ちや悪意にまで気が回らないのだ。
「それはいいですわね。きっと、アンドー大佐なら、解決してくれますわ!」
エミルは、はしゃぎながらユリアスの手を握っている。
ロウマとしては断りたかった。さっさとアフリカに戻って片付けないといけない仕事があるのだと言いたかった。
127ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/01(日) 01:53:17.58 ID:lGdwfllw0
「騎士団の方には、わたくしの方からお話しをしておきますので、海賊討伐の件、お願いしますわ」
お願いすると言っている割には頭の1つも下げない。この傲慢さがロウマは嫌だった。そして、どうせこのバカ女は、連絡するのを忘れるだろう。しかし、なぜか任務の指令はきちんと下される。
ユリアスが気を回して、騎士団に連絡するからだ。その連絡も不備が多いので、ロウマはこの2人からの頼みごとの際は、常に本来必要とされる量以上の仕事をしなければならない。もう、ウンザリだったが、公王陛下の頼みなら受けなければいけない。
なんのコネもなかったロウマが20代で大佐という地位に登りつめることができたのも、この公王と懇意にしているからだ。最大限に利用するためには、我慢するべき時は我慢しなければならない。ロウマはそんな心境に至っていた。
「それでは、アンドー大佐。頼むよ」
ユリアスがにこやかに言う。ロウマはこちらのことを無意識に下に見ているなとユリアスの笑みから察した。馬鹿にしやがって。幼い時に捨てたはずの言葉が蘇って来る気がした。
「ええ、公王陛下からのご依頼、謹んでお受けします」
ロウマは座ったまま一礼をして言った。依頼された方が頭を下げるというのも変な話だと思った。
そしてロウマはアフリカのこと考えた。アフリカに戻るのは遅くなるだろうが、人員は遅れるだけ送る準備はしているし、イザラも上手くやるだろうから心配はないと考えた。そして、騎士団の本部で海賊討伐の件を説明しなければならない、これが一番面倒である。
「では、私は海賊討伐に向かいますので、この場は失礼させていただきます。またの機会がありましたら、その時もお誘いください」
ロウマはそれだけ言って、席を立った。
「残念ですわ、アンドー大佐とはもっとお話しをしたかったのに……」
俺は話したくないよバカ女、とロウマは思った。
「仕方ないよ、アンドー大佐は任務なんだ。キミの寂しさは僕が埋めるよ……」
気持ち悪い男だとロウマはユリアスのセリフを聞いて思った。そしてそのセリフにときめくエミル・クラインの頭の悪さも相当だと思った。
ロウマはいい加減、この2人の顔を見たくなかったのでさっさとこの場から失礼することにした。
「それでは失礼します」
ロウマは椅子から立ち、一礼をすると、その場から立ち去った。ユリアスとエミルはロウマが去った後も、のんびりと2人だけのお茶会を楽しむのだった。

「しかし、ユリアスも邪魔になってきたな」
ロウマは気配で周囲に誰もいないと分かっていたので、独り言を言いながら歩いていた。本当にイライラしている時、ロウマは独り言を言いたくなるのだった。
「消すわけにいかないし、ああ面倒だ」
そもそも、あそこまでエミル・クラインと懇ろになるとはロウマの計算違いであったのである。男女の仲というのは予測できないものだとロウマはつくづく思った。
そもそも、ユリアスは気づいているだろうか、自分がマトモな人間でないことに、そう考えてロウマは我ながらバカなことを考えると思った。気づくはずはない。ユリアスの出生について知っているのはプロメテウス機関の人間だけだ。
別に隠すほどたいしたものでもない。ユリアスがキラ・ヤマトという伝説的存在の遺伝子をベースに他の優秀なパイロットの遺伝子データを組み込んで作られた合成人間だということ。
128ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/01(日) 01:54:10.69 ID:lGdwfllw0
そして誕生の際にさらにスーパーコーディネーターというカビの生えたような技術も使って能力を限界まで向上させた存在であること。成長を促進させて、10代後半の状態で産まれたこと。記憶は全部、偽物であること。
別にどれもたいしたことではないが、本人にばれれば簡単に精神崩壊するだろうなぁとロウマは思った。できれば、それを言う機会が欲しいと思った。
最近のユリアスは調子に乗りすぎである。作り物の分際で度が過ぎているとロウマは思っていたが、現状、利用価値があるため処分することができないのが歯がゆかった。
本人は作り物だと気づいていないから調子に乗っているが、自分が作り物だと知ったら、どんな反応をするのだろうか、そんなことを考えながらロウマは歩いていた。目的地は聖クライン騎士団の本部である。
ロウマはそこを目指して歩いていたが、公王の宮殿を出た直後に嫌な奴に出会った。
「今日も公王陛下におべっかを言いに来るとは忙しい身だな。アンドー大佐」
出会った相手はシーラ・カーンズ准将であった。聖クライン騎士団でも上層部に属する人間であり、ロウマを徹底的に嫌っている人間だった。
「申し訳ありません。准将閣下、今は任務を受けたばかりで忙しいため、お話しはご遠慮させていただきます」
ロウマは一応、階級が上の相手には敬意があるように見せていた。本心では馬鹿にしていたが。
「蛇が忙しいか。また悪巧みか?いい加減にしなければ、私もその長い舌を引っこ抜く羽目になるな」
シーラは堂々とした女性だった。女だてらに戦場で武勲をあげ、階級があがってからは政治的な駆け引きでも優秀であり、なおかつ清廉潔白な人格を評価されている騎士団としては文句のない人材であった。
「いやいや、悪巧みなんてそんな……」
ロウマは卑屈な笑みを浮かべながらペコペコとしていた。ロウマはこういう態度を取ることに抵抗は無かった。
「まぁいい、貴様の存在が騎士団いや、騎士団のみならず公国全体の毒になっていることは察しがついている。直にその身に裁きが下る。それまで好きにしていろ」
ロウマは何も言わず頭を下げていた。だが、最後にロウマが黙っていられない一言が聞こえた。
「田舎者で成り上がり者か、汚い手を使わなければ、美談にもなったろうが、残念だよ。貴様の存在は」
ロウマは頭を上げなかった。頭を下げたまま、シーラが去って行くのを待った。顔を上げなかったのは礼儀からではない、この時、ロウマはとても人に見せられないような凶悪な表情になっていたからだ。
「俺を田舎者と、成り上がり者と言ったな……」
ロウマは肩を震わせていた。
「殺す。絶対に殺す」
エミル・クラインの茶会から溜まっていたストレスがロウマにとっての禁句を聞かされたことによって爆発した。
この瞬間、ロウマ・アンドーは絶対にシーラ・カーンズを殺すと心に決めた。

ロウマの行動は迅速だった。敵と決めた以上は敵が何を知ろうとしているのか知る必要がある。ロウマは騎士団内のツテを使い情報を集めた。その結果、シーラ・カーンズは明らかに自分を追い落とそうという意思があるとロウマには感じられた。
ロウマが関与している使途不明金の行方や、ロウマが行った残虐な私刑、政治家への賄賂疑惑など、シーラはロウマの悪事を事細かに調べ挙げているとロウマは知った。
そして極めつけは北アフリカの制圧作戦にロウマを推薦したのがシーラ・カーンズということだ。ロウマはだいたいシーラの狙いが読めた。ロウマがアレクサンダリアにいては、ロウマは悪事をもみ消すだろうとシーラは考えた。
だからロウマをアフリカへ送り、その間にことを進め、ロウマの悪事を暴露しようという考えなのだろう。だが、シーラの思い通りにはいかなかった。
129ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/01(日) 01:54:46.71 ID:lGdwfllw0
結果的にあの下らない茶会が救いとなってロウマは悪事をもみ消す時間を得ることができたのだ。たまにはエミル・クラインの馬鹿さ加減にも感謝すべきだとロウマは思った。
さて、だいたいの事情が分かったところでロウマはどうするかを考えようと思ったが、考えるまでもなかった。
「殺すか」
最初からそう決めていたのだ。別に難しいことではない。シーラ・カーンズなど簡単に殺せる。そう思いロウマは準備を始めた。と言ってもたいしたものではない。
ただ私服に着替え、消音機をつけた拳銃を懐に忍ばせておくだけだ。シーラ・カーンズの家の住所は分かっているし、家族構成も分かっているので問題はない。
ロウマはやることを決めたら、さっさと騎士団本部から出ていった。向かう先はシーラ・カーンズの家である。

夕方、シーラ・カーンズは自分のオフィスでデスクワークに没頭していた。彼女が没頭していたのはロウマ・アンドーの悪事を暴露するための準備である。ロウマ・アンドーが帰国していたのは予想外だったため、急がなければいけないとシーラは思っていた。
ロウマ・アンドーという男は危険な男である。今の騎士団がこうなってしまったことも、公国がこうなってしまったのもロウマ・アンドーの画策であるとシーラは分かっていた。だからこそロウマを排除しなければならない。
ロウマを排除すれば、元の公国に戻るそんな思いがシーラにはあった。そのためにはロウマが行ってきた悪事を明るみに出して奴を失脚させなければいけないシーラは正義感と義務感に突き動かされ、行動していた。
デスクワーク中、シーラは不意に時計を見る。時計の針は16時30分を指していた。ああ、こんな時間かとシーラは一息つくことにした。ロウマのことは重大事だが、それと同じ重大事がシーラにはある。それは息子のことだ。
この世で一番大切な存在である息子。16時台は息子に連絡をする時間だ。今日は遅くなるや早く帰れるなどを伝える時間だ。この時間がシーラにとっては心休まる瞬間でもある。シーラは電話を手に取り、家に電話をした。すぐに出るだろう。いつもそうだ。
「はい、カーンズです」
うん、よく言えました。シーラは息子の声を聞いた瞬間に顔がほころんだ。4歳になる息子でまだ、言葉はたどたどしい部分があるが、それも可愛げの一部だ。
「お母さんだけど。元気?」
「うん。元気」
「そうよかったわ。今日はちょっと遅くなるから、ベビーシッターの人に夕ご飯を作ってもらって」
「うん。わかった、今日はいつもと違う人だけど、凄く面白いんだよ」
いつもと違う人?シーラは怪訝に思った。自分には何も連絡が無い。普通、人を交代させるなら連絡があってしかるべきだが。
「ねぇ、わるいんだけど。お母さん、ベビーシッターの人と話したいんだけど変わってくれる?」
「うん、いいよ……」
なぜだろうかシーラは嫌な予感がした。
「はい、代理のベビーシッターです」
その声を聞いた瞬間、シーラの顔から血の気がサーッと引いた。
「ロウマ・アンドー……?」
「はい、そうです。良くご存じで」
シーラは訳が分からなかった、何故ロウマが自分の家にいるのか。だが、何にしてもいっておかなければならないことがある。
130ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/01(日) 01:55:25.84 ID:lGdwfllw0
「私の息子に手を出したら、タダではおかん!」
「何を言っているのやら、私はベビーシッターですよ。子どもに手をだすわけないじゃないですか」
ふざけるな、クソ野郎!シーラはそう叫びたかった。だが、相手を刺激してはいけないと自制した。
「そこを動くんじゃない、くれぐれも言っておくが、私の子どもに手を出したら殺してやる!」
「では、気をつけますよ」
電話は向こうから切られた。シーラは混乱していたが、とにかく早く家に帰らなければいけないと思い、デスクをそのままに、急いで家に帰った。
自宅の玄関に到着するとシーラは一旦冷静になることにした。そして武器として、拳銃を取り出し、ゆっくりと玄関のドアを開けた。シーラは一歩一歩慎重に歩き、ロウマと息子の存在を探す。だが、探すまでも無かった。
「これ、美味しいね」
「うん、お兄さんの得意料理だからね」
ダイニングから息子とロウマの声がした。シーラは急ぎ自分の家のダイニングへと向かった。
「そこまでだ!」
シーラは銃を構えた。銃は表彰もされたことのある腕前だ。決してロウマに後れを取るとは思わなかった。だが、シーラが銃を構えた瞬間、ロウマがシーラの銃を撃った。衝撃でシーラの銃は弾き飛ばされる。慌ててその銃を、拾うが銃は着弾の衝撃で壊れていた。
「お母さんも帰って来たみたいだね」
「うん!」
息子とロウマはのんびりと会話をしている。シーラは息子にその男から離れなさいと叫びたかったが、大声を出してロウマを刺激するのは危険と思い、シーラは思いきった行動が出来なかった。
「ご飯も食べたし、少しテレビでも見てきなよ。お兄さんはお母さんとちょっと、お話しがあるから」
ロウマはそう言ってシーラの息子をダイニングから遠ざけた。
「さて、座ってお話ししましょうよ。シーラ・カーンズ准将閣下?」
シーラはロウマの言う通り、ダイニングテーブルに座った。2人は向かいあって座った。
「何が目的だ?こんなバカなことをして、貴様は終わりだ」
シーラの厳しい物言いにロウマは困ったように肩をすくめ、頭をかく。
「別に終わらないと思うけどねぇ」
「終わらないわけがないだろう。こんな事件を起こして!」
シーラが怒鳴ると、ロウマは指を口に当てシーという仕草を見せる。
「子どもがテレビを見てるんだから静かにね」
ロウマは余裕といった態度だった。これがシーラを不安にさせる。
「なんだか大騒ぎしてるけど、俺は結構こういう仕事もしてるから割となれてるんで平気なんですが」
そう言うとロウマはとある新聞記事をシーラに見せた。内容は軍人家族皆殺しというショッキングな内容だった。
「これも俺の仕事。さて状況が読めてきましたかね。准将閣下」
「……誰からの依頼だ……」
ロウマはニヤリと笑い言う。
「別に……ただ俺個人の私怨。あんたが俺を追い落とそうと必死なのは知ってるけど、あんなものいくらでも揉み消せる。俺には悪い友達がいっぱいいるからね」
「では、なぜ……」
いくらでも揉み消せるなら、自分たちのことなど放っておいても良かったではないかとシーラは思う。
「放っておいても良かったけど、アンタは俺をキレさせることを言った。だから殺す」
それだけ、たったそれだけの理由で、私たち家族を殺すというのか。
「俺は大抵のことは許すよ。でもな、俺を田舎者と言ったり、成り上がり者と言った奴は殺す。絶対に殺す。そいつが一番大切にしているものをぶっ壊して、そいつも殺す」
シーラは初めて、ロウマの憎悪の表情そして怒りの表情を見た。この世の全てを憎んでいるような瞳に見えた。
131ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/01(日) 02:20:42.66 ID:lGdwfllw0
「だから、アンタの大切な息子を殺すんだ」
そう言ってロウマは立ち上がった。同時にシーラも立ち上がる。息子を殺させるなど、そんなことはさせないと、ロウマの前に立ちふさがる。
「……まぁいいけど。確かアンタ格闘術でもなんか表彰されてたよな。いいよ、殴り合おうか」
そう言うとロウマは銃を懐にしまった。その瞬間、シーラはしめたと思った。格闘術に関しては聖クライン騎士団でも男女合わせた中で5本の指に入ると自負している。対して相手のロウマは荒事をしたことなどないように見える。
「プライドの壊れる瞬間は良いもんだな」
そう言った瞬間ロウマのジャブがシーラの顔面を捉えた。速すぎる!シーラは愕然とするしかなかった。
「たいしたことねぇな」
そう言ってロウマはシーラを一方的に殴り倒した。男女の体力差が問題ではなく、技術の差が圧倒的だった。ロウマの格闘技のレベルはシーラが考えていたものを遥かに超えていた。
「……なん……で、そんな……優秀なのに……こんなこ……と
「決まってるだろ、悪いことが好きだからだよ」
ロウマは微笑んでそう言うと、シーラの息子を呼んだ。そして懐から銃を取り出す。
「なーに?」
シーラの息子の最後の言葉はそれだった。ロウマはシーラの息子がダイニングに入った瞬間に頭を撃った。
息子が倒れ、頭から血を流した瞬間になってシーラは全てを理解したようだが、ロウマは面倒なので、さっさとシーラの頭も撃った。そして確実さを求め、更に胴に二発撃った。
「女の悲鳴はうるさいから嫌いだよ」
とりあえず殺したい相手は殺せたのでスッキリした。後はどうでも良い。自分の悪事を暴露しようとしている連中は他にもいるが、恨みが無いので、もっと楽に殺そうとロウマは思い、シーラ・カーンズの家を出た。
それから数日、聖クライン騎士団員の中から不審な死を遂げる者が5名ほど出た。その間、ロウマはスッキリとした表情であった。
「海賊討伐の件はもう少ししてからってことで」
色々と肩の荷がおり、それにストレスの解消に成功したロウマはのんびりとそう言うのだった。
132ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/01(日) 02:22:44.84 ID:lGdwfllw0
25話終了です
133通常の名無しさんの3倍:2015/02/01(日) 05:16:32.03 ID:lGdwfllw0
>>120
酔ってるとダメだなぁと思いますね。変なことを書く。もっと大人にならねばと思いますね。
134ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/02(月) 19:21:58.16 ID:7WS6umkJ0
投下します
機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第26話

クランマイヤー王国は相も変わらず海賊稼業で儲けていた。最初はクランマイヤー王国の艦だとばれないか心配で夜も眠れなかったアッシュだったが、今は平気な顔で戦利品の分別をしている。そして
「海賊も悪くないな」
と言う始末である。クランマイヤー王国では海賊行為が普通の行為になりつつあった。
しかし、この海賊行為にも裏では色々と問題があった。若者たちのガラが悪くなった。将来は海賊になると言い出す子どもが現れ教育に良くないなどである。
だが、基本的にクランマイヤー王国の人間は善良で素朴な性質のようなので、ちょっと注意をすればすぐに真面目に戻るので大きな問題にはならなかった。しかし、問題となるのはクランマイヤー王国の人間ではなく、外の人間であった。
それは本業の海賊。細々と宇宙海賊をやっている人間もこの時代には、まだいたのである。彼らは大した稼ぎもない、そんな人間たちであり、羽振りの良い、新参者の海賊を嫉妬せずにはいられなかった。
そして、ある日ハルド達がいつものように海賊仕事をしようとしている矢先、事件は起きた。
ハルド達が獲物を待ち伏せしていた宙域に民間船がやって来たのだ。ハルド達は、民間船は襲わない主義であったが、民間船の様子はどうにもおかしかった。
「罠だな」
ハルドは断定する。ハルド達は予めルートについて下調べをしているのだ。これまでのデータから民間船がこの宙域を通ったことは一度としてない。しかし、現に民間船は現れている。しかも、何かの故障をしているように見えた。
「罠だな。撤収」
ハルドに続いてベンジャミンもそう断言し、亡者の箱舟号は撤収を開始しようとしていたのだが、若いパイロットたちは反対した。
「本当に故障してるかもしれませんよ?」
セインが真っ先に言い出し、ハルドはめんどくさそうな表情を浮かべていた。
「じゃ、お前らで見てこい」
ハルドは面倒だったので、勝手にさせることにした。最近はいつもこれである。
年下が何かを言い出したら、どうぞ御勝手にといった具合に勝手にさせている。アッシュなどからは色々と文句を付けられるが、ハルドはいい加減、他人の面倒を見ることにウンザリしていた。
ハルドからの許可が出たので、若いパイロット、セイン、ジェイコブ、ペテロがMSで発進していった。マリアも嫌な予感がするというので艦に残っている。
セインは、今日はブレイズガンダムに乗っていた。ジェイコブとペテロはフレイドだ。3機のMSは順調に民間船に近づいていく。ハルドはそろそろ何かありそうだなと思った。その直後だった。民間船が爆発し、爆発した中から何かが飛び散り、3機のMSに当たった。
「なんだこれ!?」
ジェイコブは機体を動かそうとするが機体が動かない。機体には全くダメージが無いのにも関わらずだ。
「兄さん、こっちも駄目だ!」
ペテロの機体も同様に動けなくなっていた。
「こっちは大丈夫だけど……なんだったんだ?」
セインのブレイズガンダムは無事である。動きに問題ないが、ブレイズガンダムの機体表面を何かが、張り付いていた。セインは機体を操り、ブレイズガンダムが指でそれを摘まんでみると、粘着性のある物体であった。
135ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/02(月) 19:22:41.71 ID:7WS6umkJ0
「トリモチ弾って奴だな。粘着性の物質で機体の動きを無力化するために使われる鎮圧用の武装だ」
ハルドは海賊船のブリッジでそれだけ伝えると、自分はMSハンガーに向かった。
「どうしたんですか?」
ハルドの突然の行動にマリアが疑問の声をあげる。
「MSの動きを止めたら、艦を制圧。俺らがいつもやってるだろ?」
ハルドにそう答えられ、マリアはあっとなり、自分もMSハンガーへと急いだ。
「ハルドさん。これどうすれば?」
セインが機体の表面に付いたトリモチの扱いに困惑している、その時だった、周囲に船とMSの反応が現れたのは。
「くそ、なんなんだよ」
セインはようやく気づいたが、ブレイズガンダムはバリアのおかげで、トリモチの直撃を受けずに済んだのだった。
「セイン、何とかしてくれ」
ジェイコブからの通信が入り、セインはジェイコブの機体を見るとトリモチは硬質化しており、見た感じではどうしようもなさそうだった。
「とにかく、敵っぽいのが来てるなら、俺たちの機体は艦の方に投げ飛ばしてくれ、これじゃ戦えない」
ジェイコブにそう言われたので、セインは躊躇なくジェイコブとペテロの機体を艦の方に投げ飛ばした。そして自分はこちらに迫ってくる所属不明機の相手だとセインは心に決めた。
「かかってこい、こっちは海賊だぞ!」
脅しになるか分からないが、とりあえずセインはそう言ってみた。すると意外な返事が帰って来た。
「こっちだって海賊だ馬鹿野郎!」
だみ声でそんな返事が帰って来たので、セインとしてはキョトンとするほかなかった。しかし、すぐに冷静に戻る。あ、同業者さんですか、仲良くしましょうという雰囲気が相手の声からは感じられなかった。
ならば相手にするしかない。セインは敵の数を把握しようとする。船が一隻にMSが3機である。ブレイズガンダムに乗っている今なら、楽にやれると思った。
セインは敵を目視で確認すると、ブレイズガンダムが持つビームライフルを撃った。狙いは少し自分でも甘かったとセインは反省し、実際に狙いが甘かったため、3機のMSは散開し回避し、それぞれが別方向からブレイズガンダムに襲い掛かってくる。
敵の機体は地球連合軍の量産型MSグラディアルの改造機であった。
「動きが良いか?けど!」
セインは充分に経験値を積んでいた。複数と戦う時は絶対に包囲されないこと、とにかく動き回って相手に包囲されないように立ち回る。海賊仕事の中で学んだ戦闘技術だった。
パワーもスピードもブレイズガンダムの方が上である以上、一旦逃げに回ると相手の機体はブレイズガンダムを捉えることに苦労する。
「そして隙だ!」
捉えることに苦労すると相手の動きは、こちらを慎重に狙うように切り替わる。その瞬間が隙になることもセインは理解してきていた。
ブレイズガンダムのビームライフルから放たれたビームが、敵の機体の内1機のビームライフルを破壊する。
「次はコックピットに当てるぞ。嫌なら下がれ!」
セインは優勢に立ったら、相手に啖呵を切って見せることも覚えていた。精神的に優位に立つと、実際の動きでも優位に立てるということを感覚で理解してきていたのだった。
一瞬だが明らかに3機のMSの動きに怯えが見えた。なるほど、こうやって戦えばいいのか、セインは何かを掴んだような気がした。
そう思った矢先である、どこからともなくビームが飛来し、ブレイズガンダムに直撃する。
136ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/02(月) 19:23:12.37 ID:7WS6umkJ0
「ひゅー、硬いねぇ」
若い男の声が聞こえ同時に、新手がセインの視界に入る。新手の機体は深緑色のグラディアルであると辛うじて分かるが異常にカスタマイズされていた。
「4対1で悪いが、相手をしてくれよ、坊ちゃん」
坊ちゃんだと!セインは新手の口ぶりに怒りを覚え、叫んだ。
「セイン・リベルターだ。二度と坊ちゃんなんて呼べないようにしてやる」
セインの叫びもイマイチ相手は気にしてないようで、あり深緑のグラディアルはビームを撃ちながら、セインのブレイズガンダムに突撃しつつ、通信で話しかける。
「熱くなんなよ坊ちゃん。熱くなったら負けだぜ、こういうトークはな」
相手はふざけているとセインは思ったが、相手の言うことにも一理あると冷静になった。ハルドにもよく、簡単に熱くなりすぎだと言われているのだ。
「少し冷めたよ、お兄さん」
セインは軽い調子で言いながら、ブレイズガンダムのビームライフル深緑のグラディアルに撃った。
このテンポだとセインは思った。軽やかに戦う。これが現在の自分のベターだとセインは思った。
深緑のグラディアルはビームを回避しながら撃ち返してくる。その動きを見て、セインはこの深緑色の機体はエースクラスだと確信に至った。
ということは自分はそれなりのパイロットが乗ったグラディアルとエースが乗ったグラディアルを相手にすればいいのかと理解した。
理解すれば行動は簡単だった。弱い奴から潰せ。ハルドからはそう言われている。セインは躊躇わず、ビームライフルを失った機体の下半身、股間の部分をビームライフルで狙った。
海賊仕事で何度かグラディアルと戦った経験からとりあえず股間を撃てば下半身全部が吹き飛び、マトモな戦闘機動は取れなくなる。
狙ったビームは直撃し、グラディアルの下半身が吹き飛んだ。これで一機は動けなくした。残りは三機だ。
「こっちも忘れんなよ。坊ちゃん!」
深緑のグラディアルがビームライフルを撃ってくる。もちろんセインは忘れておらず、そのビームを回避し、そのまま動き続ける。
「脚を止めないのは感心だね、坊ちゃん」
「お褒めに預かり光栄だよ」
ハルドならこう言うだろうと思いセインは真似して言ってみた。なるほど軽口を叩くと余裕ができるな、とセインは思った。そして余裕が出来るということは敵の動きも見えるということだ。
セインは敵の動きを見て、敵は射撃戦をしたがっているように感じた。ならば逆を取る。相手がしたがっていることの反対をする。これもハルドの教えだ。
ブレイズガンダムは敵から逃げるように移動する。背後からは二機のグラディアルそして、その後ろから深緑色のグラディアルが、ブレイズガンダムを追いながらビームを撃ってくる。
敵は完全に射撃戦。そして敵を追う体勢に入っている。ではこの逆を取るなら。そう思い、セインはブレイズガンダムを急速反転させ180度のターンをさせた上で最大加速をさせる。
敵の動きに動揺が見られた。しかしそれも一瞬である。向かってくるなら撃てばいいと敵は考えた。
だが、追う側で撃っていた敵が急に迎え撃つ側になって、狙いを正確にすることは難しく、グラディアルの撃つビームはブレイズガンダムを外れていく、そして、中には当たるのもあったが、それはシールドで防いだ。
バリアには頼るなとハルドからは言われているセインはブレイズガンダムに常にシールドを装備させていた。
「うおおおお!」
右手のビームライフルを腰にマウントし、左腰のビームサーベルを抜き放ち、ブレイズガンダムは一機のグラディアルに突進するとビームサーベルで、上半身と下半身を繋ぐ部分を切り裂き、二つを分かつ。
上半身と下半身が分割されたグラディアルは上半身だけでもがきながらビームライフルを撃とうとするが、ブレイズガンダムは頭部のバルカンを発射し、ビームライフルを破壊し、敵から逃げるように遠ざかった。
137ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/02(月) 19:24:10.14 ID:7WS6umkJ0
セインは敵が接近戦をしようとしているように感じたから逃げたのである。相手が戦いたがっている土俵では、基本的に戦わない。セインがハルドに何度も何度も言われていることであった。
ブレイズガンダムが逃げると、一機のグラディアルはビームサーベルを抜きかけていたので、慌ててライフルに戻そうとしていた。セインはコックピットのモニターで背後の様子を確認していたので、ブレイズガンダムを振り向かせ、ライフルを撃たせた。
ライフルから発射されたビームはグラディアルの股間に直撃し、グラディアルの下半身が爆発する。上半身は残ったが、残った上半身にもブレイズガンダムはビームライフルを撃つ。
狙いはビームライフルであり、ブレイズガンダムが撃ったビームはライフルに直撃し、グラディアルの戦闘力を無力化させる。
これで残りは深緑のグラディアルだけだとセインは深緑の機体を見据えた。
「駆け引き上手だね、坊ちゃん。その様子だと恋の駆け引きの方も得意かい?」
深緑色の機体から調子のいい声で通信が届く。恋!?セインはドキッとした。恋は……
「恋は分からない!」
セインは真面目に答えた。すると深緑のグラディアルは奇妙な動きをしだし、通信からは笑い声が聞こえた。
「笑うな!」
セインは真面目だった。真面目に答えたのに、笑われたのが許せなかった。
「いやいや、ごめんごめん。真面目に答えるからさ。ついね」
深緑のグラディアルのパイロットは謝罪したが、セインはあまり許す気にはなれなかった。
「んじゃ、この戦いが終わったら、恋の手ほどきでもしてやるよ、坊ちゃん」
深緑のグラディアルのグラディアルが動き出す。ビームライフルを構えながら、突進。だったら、とセインは敵から逃げるような挙動をブレイズガンダムに取らせた。
「やっぱり、そう来るか、坊ちゃん」
深緑の機体は追うということを止め、その場に立ち止り、ブレイズガンダムを狙う。
「止まった、だったら」
ブレイズガンダムは逃げる挙動を止め、深緑の機体を中心に円を描くような機動をしながら、ビームを撃つ。
「相手にあわせてばっかりじゃ駄目だぜ、坊ちゃん」
深緑のグラディアルはそれを回避し、ブレイズガンダムに突進してくる。攻撃のパターンの切り替えが速い!?セインは慌てて、敵から逃げるような挙動をブレイズガンダムに取らせるが、その瞬間、深緑のグラディアルは止まり、精密射撃をブレイズガンダムに浴びせる。
「もう一つ忠告、パターンが一つじゃ女の子は寂しがるよ」
深緑のグラディアルのパイロットは、ふざけた態度であったが冷静だった。
「クソ」
セインは、相手の動きを読むことが難しいと感じ、少し強引に攻めることにした。シールドを構えながら、ビームライフル連射し、突進したのだ。
深緑のグラディアルは当然、避けて、ブレイズガンダムから逃げる。
「忠告、強引なのは悪いこととは限らない。でも強引すぎるのは、良くないね」
突然、深緑のグラディアルは方向転換し、ブレイズガンダムの方に向かって、突進してくる。セインは、あっ!と思った。
自分の機体も加速して、その上で相手の機体も加速しながら突っ込んでくる、この状況で相手の機体の攻撃を回避できるほどの技量をセインはまだ持っていなかった。
138ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/02(月) 19:25:14.19 ID:7WS6umkJ0
深緑のグラディアルがビームサーベルを抜き放ち、ブレイズガンダムをすれ違いざまに切る。ビームの刃はバリアによって阻まれ、ブレイズガンダムにはダメージはなかった。
「ま、強引に迫るとこういう手痛い反撃を食らう羽目になるから気をつけなよ、坊ちゃん。ま、坊ちゃんは頑丈みたいだから平気そうだけどね」
そういうものかとセインは理解した。なるほど女子は難しいぞ。と戦闘とは関係ないことをセインは考えていた。それというのも深緑のグラディアルには殺意が感じられないからだ。
「ま、若いんだから、色々と考えなさいな」
深緑のグラディアルのパイロットが戦闘中とは思えないノンビリとした調子で言う。色々と考える。その言葉を聞いた瞬間にセインはハルドの言葉を思い出した。
「お前、頭悪いから、考えない方がいいかも」
ショックだったセリフだったので、鮮明に音声付きで憶えている。そして、この言葉を言われた直後にハルドから最後に取るべき戦術を教わったことを思い出した。
「うおおおおおお!」
セインは唐突に雄たけびをあげ、ブレイズガンダムを深緑のグラディアルに突進させた。最大加速、これ以上は出せない加速である。
「だから、強引じゃダメだって」
深緑のグラディアルのパイロットは仕方ないと言った調子で、ブレイズガンダムの突進をひらりと躱す。対して、ブレイズガンダムは最大加速のまま無理やり方向転換し、深緑のグラディアルにビームライフルを連射する。
深緑のグラディアルはそれも軽く躱すが、その次の弾丸のように突進してきたブレイズガンダムは回避できなかった。ブレイズガンダムはタックルで相手に抱き付くように掴まると、機体のパワーに任せて、グラディアルを締め上げる。
「マジ?」
深緑のグラディアルのパイロットは唖然とした声を出した。なぜなら機体がミシミシと悲鳴を上げているのだ。
「いや、押して押して押しまくるってのもあるけど、これは坊ちゃん!?」
セインがハルドから伝えられた最終手段それは単純に機体スペックで圧倒して倒せとそれだけである。セインとしてはそのアドバイスに対して色々と言いたいことがあったが、ブレイズガンダムはセインにしか、動かせない。
つまりブレイズガンダムを動かしている時点で個性を発揮しているので、パイロットの実力を発揮しているといことにもなるという良く分からない等式をハルドに突きつけられ、釈然としないがセインは納得したのだった。
「うおおおおお!」
セインはヤケクソだった。もう勝てば何でもいいという気持ちで機体性能に頼り切った。こう割り切ると案外楽だということに気づいた。
セインはブレイズガンダムのパワーを更に上げる。抱き付いたままパワーを上げたことで、深緑のグラディアルの機体に更なるダメージが入る。
「あ、ムリだコレ」
深緑のグラディアルのパイロットがそう言った瞬間、深緑のグラディアルの両腕の関節が抱き付かれ締め上げられる圧力に負けて、粉砕される。
「これで、なんか文句あるかー!」
セインはヤケクソだった。自分自身に色々と言いたいこともあったが、まずは相手だ。深緑の機体のパイロットからの通信では、拍手が聞こえた。
「いやー、若いっていいね。押せ押せもありだね、若いうちは。セイン・リベルター君」
深緑のパイロットは“坊ちゃん”ではなく、セインの名前を呼んだ。これは、つまりこのエースクラスのパイロットに認められたということかとセインは思い、コックピットの中で小さなガッツポーズをした。
「でも、女の子に押せ押せで行くのは危険だからやめた方が良いよ、セイン君」
深緑のグラディアルのパイロットから最後の忠告があったが、勝利の余韻に浸るセインは聞いていなかったのだった。
139ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/02(月) 21:35:31.88 ID:7WS6umkJ0
セインがグラディアルの部隊と戦っていた頃、海賊船亡者の箱舟号に危険が迫っていた。
「あ、所属不明のMSが三機こっちにきますよ」
ブリッジクルーをしているクランマイヤー王国の若者がノンビリとした調子で言う。
「敵だな」
ベンジャミンは冷静に答えた。
「敵だったら、何とかしないと!」
焦っているのはコナーズ1人であり、コナーズは船長のベンジャミンに直訴していた。
「逃げられるほど足の速い船でもなければ、武装が無いから、諦めるしかないだろう」
コナーズはベンジャミンの言葉に顔面蒼白になった。そんなやり取りをしている間にも、所属不明のMSは亡者の箱舟号に接近しており、ついには亡者の箱舟号の船体に乗ったのだった。
所属不明のMSは三機ともグラディアルである。その内の一機だけが朱色に塗装されていた。
朱色のグラディアルはリーダーらしく、ゆっくりと亡者の箱舟号のブリッジに近づくと、そのブリッジにビームライフルを突きつけた。
いつも自分たちがやっていることだと、コナーズは思い、そしてなんてひどいことをいつもしていたのだろうと、コナーズは考えた。
「降伏してアタシらの縄張りから出ていきな。そうすりゃ、ちょっとの金でみのがしてやるよ」
女の強気な声が聞こえた。これもいつも自分たちがやっていることだ、やはり自分たちは酷いことをしていたなぁとコナーズは思った。その時だった。
「しけた海賊に払う金なんざねぇな」
ハルドの声がコナーズの耳に聞こえた。いや、海賊仕事をしている時はブラッディ・レイヴンだが。
「誰だい」
朱色のグラディアルが周囲を索敵しようとした瞬間だった。朱色のグラディアルの頭部にビームガンが突きつけられた。
「海賊ブラッディ・レイヴン参上」
ビームガンを突きつけていたのはブラッディ・レイヴンのフレイドであった。
「さて、しけた海賊の相手をして、本命を逃すのはもったいないので、早々にご退場願おうか」
朱色のグラディアルのパイロットは機体を即座に後退させた。ブラッディ・レイヴンのフレイドは撃たない。
「お前たち、コイツをやるよ」
朱色のグラディアルのパイロットが叫んだが、それに応える機体は1つもなかった。全てブラッディ・レイヴンのフレイドが始末していたからだ。
「無駄な殺しはしない主義でな。全員生きてるよ」
ブラッディ・レイヴンは余裕を持った声で言う。朱色のグラディアルに乗るパイロットは驚愕するしかなかった。
いつの間に二機のグラディアルを仕留めたというのか、ブラッディ・レイヴンのパイロットとしての能力は想像を絶するものだと、朱色のグラディアルのパイロットは察した。しかし、引くことはできない。
「アタシらスカルドラゴン海賊団をなめるんじゃないよ!」
そう叫んだ瞬間に、朱色のグラディアルの両腕が吹き飛んだ。ブラッディ・レイヴンの撃ったビームガンの攻撃によってだった。
「まぁ、セインの相手にはちょうどいいくらいの腕だが、俺相手じゃな」
別に朱色のグラディアルのパイロットの腕が悪いわけではない、おそらくエースクラスの腕はあるだろうが、自分には遠く及ばないとブラッディ・レイヴンことハルドは思った。
「しかし、スカルドラゴン海賊団?頭の悪いガキが付けたような名前だな」
「ブラッディ・レイヴンだって似たようなもんじゃないかいっ!」
朱色のグラディアルのパイロットはまだ強気だった。ハルドは自信作のこの名前を馬鹿にされたことには少しイラッとしたので、殺そうかと思い、ビームガンの狙いを朱色のグラディアルのコックピットに定めた。その時だった。
140ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/02(月) 21:36:12.85 ID:7WS6umkJ0
「もうやめにしてくれんか?」
男の声が通信で、ハルドの耳に届いた。だが、それとこれは関係ないので、朱色のグラディアルのパイロットは殺そうと思った。だが、そういう訳にもいかない言葉が後から、聞こえてきた。
「ワシはスカルドラゴン海賊団、船長のリバーズ・ジャクソンだ。その朱色の機体に乗っているのはワシの娘だ。見逃してくれんか?」
それも関係ないとハルドは思った。だが、ベンジャミンがハルドに言う。
「空気を読んで止めておけ」
空気を読むのは大嫌いだが、空気を読んでおいた方が得な場面はある。ハルドは渋々ながら、自機のフレイドが構えるビームガンをホルスターに納めさせた。
「それで?今更、停戦を願い出るのか?」
ハルドは所属不明の船に向かって通信をする。返って来るのはリバーズの声である。
「ああ、そうだ。そちらの力を侮っていた。謝罪をしたいので、こちらの船まで来てくれんか?」
謝罪をしたいなら、そちらが出向くのが筋だろうとハルドは思った。そして何か狙いがあるだろうということも予想できた。
「罠だと思うぞ」
ベンジャミンもそう言うが、罠に敢えて乗るのも悪くはないとハルドは思った。ロウマ・アンドーではないが、遊びという奴だ。
「構わん。そちらに出向こう。ただし仲間は1人つけさせてもらう」
「ああ、構わない。こちらは謝罪する立場だからな」
こちらが仲間1人連れていくというのが、どれほどの大惨事を生むのか相手は想像もついてないようだ。ハルドはコックピットの中でほくそ笑んだ。
「では、そちらの船に向かうので、少し待ってくれ」
そうハルドが通信で言うと。相手は了承し、朱色のグラディアルと他二機のグラディアルもよろよろと船へと戻って行った。
「んじゃ、セイン君、さいなら」
深緑のグラディアルもボロボロの体で戻り、上半身だけになったグラディアルも必死になって自分たちの船へと戻って行った。セインも帰ろうと思いブレイズガンダムを動かすが、帰る前に持って帰らなければいけない荷物が二つほどあったことを思い出した。
ジェイコブとペテロの乗ったフレイドである。
「おーい」
ジェイコブの呼ぶ声がした。セインはジェイコブのフレイドを探すとジェイコブのフレイドは機体に付着したトリモチが硬化しており、どうにもならない状態だった。ペテロの機体も同様である。
セインはこのままではどうしようもないのでブレイズガンダムで2機を掴んで、船まで戻った。
船に戻ると、ハルド――今はブラッディ・レイヴンが腰に剣を帯び、胸に拳銃を4丁ほどホルスターで吊り下げている所に出くわした。
「相手の船に乗り込むんですか?」
セインは別に心配はしていなかった。通信で聞いていた限りだと、仲間を1人連れていくと言っており、その仲間ときたら、1人しかいない。
「イクカ」
仲間を連れていくとしたら、最強の戦力である虎(フー)しかいない。虎(フー)がハルドのフレイドに乗り込み、その後にハルドも乗り込む。
「じゃ、行ってくっから」
ハルドは軽い調子で言って、フレイドを発進させた。きっと大変なことになるんだろうなぁと思いながら、セインはハルドを見送った。
ハルドの乗るフレイドは真っ直ぐに所属不明の船に向かっていった。
「とりあえず、やられる前にやる方向性でな」
「ワカッタ」
ハルドと虎はコックピットの中で極めて簡単な打ち合わせをした。そしてハルドのフレイドは所属不明の船に近づく。すると、所属不明の船の外観が露わになった。
141ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/02(月) 21:38:23.02 ID:7WS6umkJ0
露骨な海賊船であるとハルドは思った。それなりに古い巡洋艦に髑髏のマークと髑髏の旗、宇宙では旗は、はためかないので推進器を使ってはためかせている。
「アレ、ヒツヨウカ?」
「海賊だったら必要だろ」
そうこうしている内にハルドの機体は船に近づくすると、船のハッチが開いた。ハルドは躊躇いもなく、船に乗り込む。それと同時に、ハッチが閉まる。入った場所はMSハンガーだった。ハルドは何の警戒もなくコックピットのハッチを開けると、コックピットから降りる。
格好はブラッディ・レイヴンの衣装だ。血のように赤い上着と、血のように赤い包帯を顔面に巻き素顔は全く見えないといういつもの衣装。
ハルドと虎がMSハンガーに降りると同時に、船内放送が始まった。
「がはは、罠にかかったな、馬鹿め!何がブラッディ・レイヴンじゃ、少し痛い目にあわせてやるわい!」
やはり罠だったが、想像がついていただけに、驚きなどあるはずがない。
「虎先生」
ハルドがそういうと、虎が消えたような速さで動き出し、物陰に隠れている男たちをひたすらに殴り倒していく。
「おい、ちょっとは驚くとかせんか!それよりも、ワシがなんか言う前にそっちから攻撃するのは無しじゃろう。空気を読まんか!」
空気を読むのは、ハルドは大嫌いであり、虎は空気を読むという言葉の意味が分からないのでリバーズの言葉は意味をなさなかった。数分も経たずにMSハンガーに隠れていた男たちは全員、虎の手で気絶した。
「では、そちらに出向くとしようか、せっかく素敵なおもてなしをしていただいたのだから、こちらもお返しをしなければな」
ハルドはブラッディ・レイヴンのセリフ回しで、リバーズに伝わるように言った。
「……ちょっと誤解があったようじゃの。一旦、帰ってくれんかの?こちらも、もう一度準備をし直すので……」
「ははははは……心配ご無用。こちらは満足しているので、このままのもてなしをお願いしますよ」
ハルドと虎は、MSハンガーから出て、この船のブリッジを目指す。
「ちょっと待って、勘弁してくれ」
船内放送では船長のリバーズの泣き言が聞こえてきているが、ハルドと虎は無視して進む。道を塞ぐ男たちは粗方、虎がなぎ倒してくれるがハルドが仕事をしていないわけではない。
愛用となってきた片刃剣の刃の無い方で男たちの頭やら腹やらを死なない程度の力で思いっきり殴っていた。
「いや、ちょっと暴力的すぎやせんか、お前たち?」
船長の泣き言は続いている。ハルドは何を言っているのかという感じだった。海賊なら暴力的でいいだろうに、そう思いながらハルドは男の頭を剣で殴っていた。
そうやって、とりあえず目につく人間を倒していくと段々と、かかってくる人間は少なくなってきた。しかし、代わりに1人の女がハルド達の道を塞ぐのだった。
「アタシはアイリーン・ジャクソン!情けない親父に代わってアンタらをぶちのめしてやるよ」
そう女が強気に言った瞬間にハルドは女の顔に蹴りを叩き込んでいた。直撃した蹴りは鼻の骨を折ったようで、女はうずくまり、手で鼻を抑えるが、血が鼻から大量に流れ出していた。
「虎先生、女蹴れないだろ?」
だから代わりに蹴ったという感じでハルドは言う。
「オンナ、カオ、ケル、ヨクナイ」
女の顔を蹴るのは良くないと虎先生は言いたいのだろう。やはり虎先生は紳士だなぁとハルドは思った。
「うう……アンタら、おぼえてなよ……」
女は気丈に言うが、顔は半泣きで鼻からはとめどなく血が溢れている。
142ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/02(月) 21:39:32.55 ID:7WS6umkJ0
「傷つけた相手のことを一々憶えていたら、記憶容量が持たんよ」
ハルドはそう言って、女の横を通り過ぎていった。虎も横を通りすぎるが女に対してペコリと礼をしてから去る。ブリッジは目前だった。
ハルドは躊躇なくブリッジに踏み込んだ。そして同時に虎が駆け込み、銃を持ってそうな人間を文字通り瞬く間に倒す。
「さて、こういうわけですが、リバーズ船長。どうするのがベストでしょうねぇ」
ハルド――今は赤い包帯に顔を覆われた怪人ブラッディ・レイヴンはリバーズ船長を前に口元だけニヤリと笑って見せた。

こんなはずではなかったとリバーズは、赤い包帯の見るからに危なそうな人間を前にして後悔していた。
リバーズ・ジャクソンは小太りの風采の上がらない男である。だが、海賊と言う肩書がつくと、そんな見た目にも貫禄がついた。
リバーズの家は代々、宇宙海賊をやっている。一番いい時期は軍艦なども襲っていたらしいが、リバーズの代では、そんな栄光も過去のもので、小さな民間の商船を襲って生計を立てているケチな海賊だ。
リバーズ自身は時代の流れと思って仕方なく過ごしていたが、娘のアイリーンは色々と思うところがあったらしい、海賊としてもう一度一旗をあげようと考えていたのだ。
そうは言っても、海賊として一旗を上げるにはスカルドラゴン海賊団は、もう弱小である。だから、虎の威を借る。ではなく、おこぼれを頂く。でもなく、それなりの海賊と同盟を結んで、ちょっと世間に名の知れた海賊になろうとしたのだ。
そこで選んだのがブラッディ・レイヴンの海賊団だった。今時、軍艦相手でも見境なく襲い掛かる血に飢えた野獣のような海賊たち。そんな海賊団と同盟を結ぼうと考えたのだ。
もちろんタダで同盟を結んでくれるとは思えなかったので、こちらの実力を少し見せて、できれば仲間にしてほしいぐらいの気持ちでいたが、アイリーンは対等の仲間になるために攻撃をしかけたわけだが、結果としてはこのざまである。
娘のアイリーンは哀れにも鼻の骨を折られ泣いているし、おそらく自分は殺される。そう思ったリバーズは、この経緯を全て、ブラッディ・レイヴンに話したのだった。

「本気で攻撃ってわけでもなかったと?」
ブラッディ・レイヴンはリバーズから船長席を奪って座っていた。当のリバーズは正座をさせられている。
「ちょっと、娘がやんちゃでして。少し本気になったというわけです」
ふーん、とハルドは思い。なんだかどうでも良くなってきた。どうでも良くなってきたついでに言っておくことがあった。
「あんた、海賊向いてないよ」
ブラッディ・レイヴンの口調も面倒なのでハルドは包帯を取りながら言った。
「それはもう重々承知で……」
リバーズは、自分が死ぬと確信した。噂ではブラッディ・レイヴンは殺す時、たまに包帯を取るのだ。そして包帯の下の恐ろしい素顔を見せ、相手が恐怖におののくところを殺すのだとリバーズは聞いていた。
噂ではブラッディ・レイヴンの顔面は醜くただれているという。しかし、リバーズが包帯を取られた後に見たのは美男子の顔であった。
「まぁ、あんたは海賊に向いてないって話しだ。娘さんやら他のは違うみたいだし、こっちの条件を飲むなら俺らの仲間にしてやってもいい」
美男子になったブラッディ・レイヴンは一方的に物を言う。だがリバーズには逆らう気力もなかった。
143ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/02(月) 21:40:18.20 ID:7WS6umkJ0
「あとはこっちが好きにさせてもらうだけで、残りはアンタの返事次第だが、どうする?」
そう言われて、リバーズに何かを考えて反論する余裕などあえう訳がなかった。リバーズは二つ返事でブラッディ・レイヴン――ハルド達の仲間となることを承諾したのだった。

アッシュ・クラインは私掠船作戦という無謀極まりない作戦が順調であり軌道にものってきたので、心配事が一つ消えて割と穏やかな日々を過ごしていた。
義勇兵の訓練はイマイチだが、海賊もとい私掠船作戦で実戦経験を積んでいるらしいので、訓練もそんなに真面目に考える必要もなくなり、肩の荷が下りていたのだった。だが、そんな日常が続くと無意識に考えてしまっていたのが、アッシュの失敗だった。
今日も今日とて、アッシュはぼんやりと義勇兵の訓練の面倒を見ていたが、そんなにやる気はなかった。海賊で経験を積むからどうでもいいと思っていたのだ。
そこにユイ・カトーがやって来た。珍しいなとアッシュは思ったが、特に気にしなかった。ユイ・カトーは別段変わった様子もなく、ノンビリと歩いてきていたからだ。
「どうかしたのか?」
アッシュはユイ・カトーに聞いてみる。するとユイ・カトーは急に引きつった表情になりながら、笑みを浮かべている。
「やってしまいました」
その言葉とユイ・カトーの表情だけで、アッシュは何となくわかった。アッシュは義勇兵に訓練の中止を告げると、立ち上がり、歩き出した。
うん、こんなことになる気はしていた。と、アッシュはトラブルが起きたことを理解した。
冷静に考えてハルドに任せていて、ここまで順調に来ていたのがおかしいのだと今更ながらに気づく。よくよく考えてみれば半分くらい頭がおかしい人間なので何をやってもおかしくはない。
アッシュの横をユイ・カトーが一緒に歩き、二人は工業コロニーの宇宙港を目指した。
「どのくらいヤバそうかな?」
「ほどほどです」
なら大丈夫かとアッシュは少し冷静になった。だが、それも工業コロニーに海賊船が二隻並んでいたところまでだった。
「仲間が増えたから」
ハルドはそれしか言わなかった。アッシュは色々と説明を求めたかった。なぜ髑髏のマークがついた船が二つになっているのか、そして見慣れないボロボロの人間たちはなんなのかと。
宇宙港には姫も来ていた。
「わぁ、海賊さんですね」
姫は何だか楽しそうにはしゃいでいるが、アッシュとしてはそんな気分になれなかった。
とりあえず、そいつらは誰なのかとアッシュは聞きたかったが、ハルドに聞いても無駄なのでベンジャミンを見つけて、ベンジャミンに説明を求めようと思い、動き出した。
「貧乏海賊団だ。ハルドが可哀想だからということで、保護をした。このコロニーに住まわせてやれと、ハルドが言っていたぞ」
ブリッジの船長席に座るベンジャミンは話が通じる相手なのでありがたかった。それにハルドとの付き合いも長いので、意図を読み取ることもできるようだった。
アッシュはベンジャミンの存在がありがたかったが、ベンジャミンの口から発せられた言葉には何のありがたみもなかった。
144ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/02(月) 21:40:57.14 ID:7WS6umkJ0
「ふざけんな!」
アッシュはとりあえず、キレて、ブリッジの蹴っ飛ばしても大丈夫そうなところを探して少し考えてから蹴っ飛ばした。蹴った足は痛かったが、少し冷静になった。
「ハルドの言い分では、海賊連中の何人かは戦力になるし、クランマイヤー王国の兵隊にしようという考えだそうだ。ちなみに海賊連中には住民票を用意して正式にクランマイヤー王国の国民にし、それから私掠船作戦のメンバーに加えるということだ」
本当にベンジャミンがいるとありがたいとアッシュは思う。よくよく考えてみると、ハルドは虎(フー)レベルでコミュニケーションが困難な時があるため、ベンジャミンがいなければ、全くハルドの意図が分からない時がある。
「ハルドなりの甘さを見せたということだろう、クランマイヤー王国の住民になれば、海賊をやめてもここで生きていく手段を見つけることが出来るし、海賊を辞めたがっていた人間にその機会を与えたということもあるだろう。
それに、正式に国民であれば、私掠船作戦が失敗しても、クランマイヤー王国の軍人だと言い張って捕虜になることもできる。今の時代、国籍不明、住所不定、身分証明無しの人間だったら捕まれば間違いなく極刑だからな」
うーむ、本当に頼りになるなベンジャミンはとアッシュは感心した。ハルドの考えをここまで明確に伝えられる人間がいるとは思わなかった。
しかし、ここで問題が生じていることにアッシュは気づいた。
「で、その住民票やらの作成はだれが?」
「それはもちろんキミだろう、ハルドがアッシュの仕事だと言っていたぞ」
いやいや、おかしいとアッシュは思う。自分は防衛大臣で住民票やらなんやらの仕事は自分の担当ではないはず。いや……防衛大臣というのはそういうのも仕事なのか?アッシュは訳が分からなくなっていた。
「ハルドは頭がおかしいのかな?」
ベンジャミンは首を傾げ、答える。
「3年見ない間にだいぶ頭がおかしくなったが、アイツの師匠に比べれば、まだ人間の思考をしている範疇だぞ。そんなにおかしいとも思わんが」
そうか慣れか、とアッシュは諦めた。諦めて住民票作成に必要なものはなんなのか政庁舎に務めるマッケンジーに、その場で連絡を取って尋ねるのだった。
145ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/02(月) 21:41:44.07 ID:7WS6umkJ0
結果的にスカルドラゴン海賊団の一味は、無事にクランマイヤー王国の国民となった。これを機に海賊を辞める人間も、それなりの数はいたが、多くは残って私掠船作戦に協力してくれるということだった。
ユイ・カトーの持論では働かない奴は働かせるであったので、スカルドラゴン海賊団の面々も平時は定職に就くことになり、私掠船作戦をする時だけ、海賊に戻るという生活になった。就職の斡旋はユイ・カトーが全て取り仕切った。
ユイ・カトーは仕事を紹介したことで、スカルドラゴン海賊団からは大いに感謝されたが、住民票を用意したアッシュには何の感謝もなかった。
スカルドラゴン海賊団の船長リバーズ・ジャクソンは海賊を辞めて、クランマイヤー王家邸のそばで、酒場を経営するようになった。リバーズの娘のアイリーン・ジャクソンは看板娘だが、海賊は辞めず、私掠船作戦にも参加する女海賊となった。
リバーズの店は“人魚と海の男”亭というあまり趣味の良い名前ではなかったが、リバーズは料理の腕が良く、アイリーンも美人の看板娘ということで評判の店となった。店にはベケットという名の男もおり、ギターやらピアノなど店内で音楽を奏でている。
アッシュが聞いた話では、このベケットというのはセインと一戦を交えた深緑のグラディアルのパイロットらしく、見た目は中々の色男であった。この男も海賊を続けるようだった。
この3人以外の海賊たちもクランマイヤー王国で上手くやっているようであるという話しがアッシュの耳には届いていた。一応、海賊たちの身元保証人はアッシュということになっているためである。
スカルドラゴン海賊団の海賊たちも今はクランマイヤー王国の国民で義勇兵にあたるから、アッシュの監督の範囲内でもあった。
アッシュとしては上手くいかないような予感がしていたものの、想像以上に海賊たちはクランマイヤー王国の空気や風土に馴染みやすかったようで、アッシュは一安心だった。
とまぁ、このような形でスカルドラゴン海賊団はクランマイヤー王国の内に組み込まれ、クランマイヤー王国はさらに戦力を増したのだった。
146ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/02(月) 23:09:21.65 ID:7WS6umkJ0
26話終了です
147ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/04(水) 22:55:04.23 ID:DCbq2fpg0
投下します
機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第27話

「ベケットさん。恋ってなんなんでしょう?」
昼の人魚と海の男亭の二階ではセインがベケットを前に、神妙な顔で尋ねていた。取り敢えず、ベケットは、最初は何も言わず、セインに話すことを促すのだった。
「最近、前は何とも思ってなかった女の子に対して急にドキドキするようになったんです。これって恋なんでしょうか?」
ベケットは頷くだけで何も言わず、セインに続きを促す。
「でも、その子にドキドキすると何だか罪悪感が……なんていうか変な話なんですけど、幼馴染の顔が思い浮かんで申し訳なくなるっていうか、別にただの幼馴染なのに、変じゃないですか……?」
そこまでセインが話し終わってベケットはようやく口を開く。
「幼馴染は女の子?」
「はい」
セインはすぐに返事をする。その返事を聞くと、ベケットはうんうんと頷く。
「結構、難しい問題だね。まぁ簡単といえば簡単だけど。とりあえず俺が思ったのはセイン君の感受性というか、気持ちの分析力が弱い?すごく簡単に言えば、きみが鈍感ということで全てカタがつく話だね」
鈍感と言われ、セインは何とも言えない表情になる。ベケットは面倒なので全て説明してしまおうと思った。
「セイン君。きみは心の奥では幼馴染のことも女性として好意を持っているんだよ」
そう言われて、セインは、はぁ……?という感じになり、ベケットの言っていることが信用できない気がしてきた。
「ミシィは只の幼馴染ですよ」
「セイン君。幼馴染という性別はないよ。あるのは男と女とその中間か、それらに当てはまらないかだ。きみはキミ自身では意識してないかもしれないが、その幼馴染に対して女性を感じているんだよ」
女性を感じる……そう言われてセインはミシィのことを思い浮かべてみた。
「きみの主観じゃなく、客観的にその子のことを考えてごらん」
客観的にミシィを考える。顔は……間違いなく美少女だ。黒くて長い髪も綺麗だし。それにスタイルだって良い。この間、海で遊んだ時だってしっかりとくびれがあったし、肌もきれいだった。
そこまでセインは考え、あれ自分はなんでこんな美少女と一緒にいて平気だったんだ?と思ってきた。
「あ、ちょっとヤバいです。ミシィが女の子に思えてきました。ていうか、ミシィのことを考えるとなんだか頭がボーっとしてきます」
しまった、とベケットは思った。鈍感な少年には情報量が多すぎたのだ。だが別に自分が困ることでもないので放っておくことにした。
「うわあああああああ!どうしようどうしよう。すっごく恥ずかしい。今までの自分が恥ずかしい!」
セインは今までの行動を省みてみる。全てではなくミシィとのやり取りに限ってだが。そうすると自分は美少女の前で相当恥ずかしいことをしていたぞ、と自己嫌悪に陥ってきた。
「どうしましょう、僕なんだか、ミシィにも恋をしているのかもしれません」
ベケットは良くなかったな。と反省する気持ちになっていた。自分が困らないとはいえ、この純情な鈍感少年を自己嫌悪で苦しめさせてしまったことについてである。
148ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/04(水) 22:57:13.33 ID:DCbq2fpg0
「まぁ、きみが二人の女の子に恋をしているってのは間違いないね」
事態はこの鈍感少年に解決できるようなものでもないが、それでもベケットは一応、話に付き合ってやることにしたのだった。
「二人の女の子に恋をするって不誠実じゃありませんか?」
「付き合っているわけでもないのに、何を言っているんだいセイン君?」
ベケットはセインの肩を掴み、その目を見る。
「例えは悪いが、きみは今レストランでメニューを眺めている段階なんだよ。メニューを見ている段階で目移りすることを咎める人がいるかい?いないだろ」
「はぁ……そうですけど」
「だけど、ここで良く考えないといけないのが、そのレストランに入る資格がキミにはあるかってことだ」
そう言われて、セインはキョトンとしている。ベケットは察しの悪い鈍感少年であることを忘れていたので、ザックリと説明することにした。
「きみが好きでも相手がキミを選ばないことだってあるってことだよ。それは大丈夫?」
「……わかりません……」
セインは急にうなだれた。これでは駄目だと思い、ベケットは掴んだ肩をゆする。
「逆にどうぞ食べてって場合もあるんだ。プラスに考えよう。若いんだから」
そう言うベケットも若いほうであり20代半ばであるが、それはどうでもよかった。問題はセインである。
「あとは、タイミングとか時間だ。運の悪いことにキミの行っているレストランは料理がメニュー1つにつき1人分しか用意されてない。
キミがメニューを考えている間に他の人がキミが頼みたかったメニューを頼んで美味しく食べてしまうことだってあるし、レストランの閉店時間もある。頼むのが遅れれば遅れるだけ、きみが美味しい物を食べ損なう可能性が高まるんだ」
ベケットはここまで言って、やはり、この年頃の少年にレストランの例えは良くなかったことに気づいた。ちょっとしたワードでも性的な方向に捉えてしまう年頃の少年に食べられてしまうは良くなかった。
セインの顔面は蒼白である。おそらく愛しの幼馴染が見ず知らずの男に美味しくいただかれるところを想像してしまったのだろう。
「落ち着け、セイン君。まだ大丈夫だ」
ベケットはセインの肩を揺らし正気を取り戻させる。
「レストランは開店準備がまだ整っていない。女の子は早く食べて欲しいと思っていても、ゆっくり時間をかけて欲しいとも思っている臆病な存在なんだ。きみはレストランが開店した瞬間を狙うんだ」
セインはギリギリだが、ベケットの言うことが分かった。まだミシィもマリアも恋に本気になるには臆病だということがわかった。
「では、僕はどうすれば良いんでしょうか?」
そんなのは簡単だ。ベケットは一言で済ませる。
「カッコ良くなれば良い」
それが問題なんだとセインは思ったが、それしかないのかと絶望的な気分になってきた。
「大丈夫、時間はある。俺も協力するから、頑張って彼女をつくるんだ。少年!そして青春を楽しむんだ!」
ベケットは力強くセインの肩を握った。実際のところ、この鈍感少年に一人で努力させるのは危険すぎると思ったため、ベケットは協力を申し出たのだった。
ベケット自身、努力してもこの鈍感少年からじゃ何やっても無理だろうなぁ、という感じはしていた。おそらく、この鈍感な少年のことを好きな女の方からアプローチをしてくるだろうとベケットは考えるのだった。
セインは結局マトモな答えを得られなかったので、どうにもこのベケットは信用ならないと考えるようになっていたのだが、この人物しか頼れる相手がいない以上仕方ないと思うことにした。
そんなこんなでセインの恋の問題は解決を見ずにセインの悶々とした思いが増すだけでおわったのだった。
149ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/04(水) 22:58:48.66 ID:DCbq2fpg0
ロウマ・アンドーは面倒を感じていた。とにかく休みたい、サボりたいという気持ちしかなかった。
ロウマ・アンドーは気づいたら、海賊討伐の艦隊の司令官になっていたのだ。艦隊といっても大きな規模ではなく、戦艦一隻に巡洋艦が二隻だ。戦艦はエミル・クラインの好意により、新造の戦艦であり、海賊討伐が処女航海である。
「海賊相手にヴァージンを差し向けるって、すごいフラグだと思わない?」
ロウマは戦艦の艦長に話しかけてみたが、艦長はロウマの言葉の意味が分からず、怪訝な表情を浮かべるだけであった。
しかし、どうしたものかとロウマは思う。最近では海賊船が二隻になったという話しを聞いている。となると、無理だろうなという気分しか湧いてこないのでやる気も無かった。
艦長はロウマのことが嫌いなようで、ロウマの言うことなど聞く気はなさそうだった。三隻の軍艦の艦長全員がそんな調子である。これだから二線級の兵隊は嫌なんだよなぁ、とロウマは思う。
ロウマのこれまでの感覚だと、前線に近い一線級の兵隊のほうが忠実であり、逆に後方の二線級の部隊の方がプライドやら何やらがあるような感じで頭が硬直しており、こちらの言うこと聞かないことが多いと感じていた。
まぁ、今回は失敗でいいかとロウマは思った。失点もある程度ないと偉い人間からは好かれない。完璧な人間は案外好まれないとロウマは組織に対してそんな認識を持っていた。
それでなくとも、エミル・クラインの後ろ盾が自分にはあるのだから、たまの失敗もご愛嬌で済まされるだろうとロウマは考えていた。
それに地球のアフリカでは自分の麾下にあるガルム機兵隊が凄まじい戦果を挙げているので、聖クライン騎士団でのロウマの評価は連日うなぎ上りであるからして、今回の海賊討伐が失敗しようとも、ロウマはどうでも良かった。
「俺は寝るから戦闘が始まったら起こしてね」
ロウマは艦長にそう言うと、ブリッジの指令席に座ったまま寝息を立てはじめた。艦長がそれを見て露骨に舌打ちをしたのは言うまでもない。
……戦闘が始まったら起こせって言ったのになぁ、ロウマはこんな簡単な言いつけも守れない艦長に辟易としていた。
そしてブリッジのモニターに映る外の映像に目をやると、艦載機が海賊のMSと戦闘中の場面だった。
艦載機の動き悪いなぁ……ロウマは寝起きのボーっとした頭でぼんやり、そう思った。海賊のMSは殺す気がない戦い方だ。まぁ、スマートな海賊を気取っているのだろうとロウマは予想した。
殺す気が無いなら、こちらはいくらでも適当にしていられる。戦闘は艦長に全部任せることにし、ロウマは今のうちに小説を書いておくことにした。
『責任の所在は全て三隻の軍艦の艦長にあり、艦長らの戦術的な能力は極めて低く、艦隊司令ロウマ・アンドーの指揮を無視して独断で艦隊を動かし、艦隊を自滅に追い込んだ』
話しの大まかな流れはこんな感じでいいかとロウマは思った。後は、この小説をしかるべきところに提出すれば、自分は責任を問われず、軍艦三隻の艦長らに責任が行くという仕組みだ。
ロウマは小説を粗方書き終えるとブリッジのモニターに目をやった。すると、噂のブラッディ・レイヴンがまさに迫ってきている最中だった。黒の塗装の上に血を思わせるような赤を塗っている。なるほど血塗れカラスという異名はここからきたかとロウマは納得した。
そして噂になるだけの腕だと思った。ロウマの見ている間、その一瞬の間に四機の艦載機を戦闘不能にして、ブリッジまで到着していた。ロウマはブリッジまで到着されたことより、艦載機を戦闘不能にした方法に目を丸くした。
150ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/04(水) 23:00:10.26 ID:DCbq2fpg0
ブラッディ・レイヴンはコックピット部分のごくわずかな装甲だけを切って、コックピットの中身を露出させ、そこに指を突っ込むとパイロットをつまんで外に放り出していた。
このレベルの操縦技術を持つパイロットがごろごろしているわけがない。ロウマはブラッディ・レイヴンの正体に見当がついたのだった。
「艦長、予定変更。艦長は相手の言うこと聞いて大人しく捕まっててちょうだいな。俺はかってにやるから」
そう言うとロウマはブリッジを出ていった。艦長はロウマのあまりに勝手な行動に唖然とするしかなかった。
「とりあえず、隠れっかな」
海賊の仕事の手順は話しを聞いてだいたい分かっている。ロウマは抵抗しない代わりに、隠れてやり過ごそうと思った。ロウマは艦内で適当な通気口を見つけ、その中に隠れることにした。
「さて、これで見逃してくれるかどうかね」
まぁ、そんなに上手く行くはずはないだろうとロウマが思った直後、艦内が大きく揺れた。おそらく接舷用の道を作っているのだろう。この後は海賊が艦に乗り込んでくる。乗り込まれると、だいたい終わりというのが海賊を相手にした人間の話しである。
どうやら海賊は相当に強いらしいのでロウマは戦いたくなかった。だから、やり過ごそうと考えたのだ。
通気口の中に隠れていると、外では戦闘が繰り広げられている音が聞こえた。
「粗方片付けたぞー」
すぐにそんな声が聞こえてきた。あとは艦長が余計なことを言わずに気絶でもしてくれていれば自分の存在は気づかれず、このまま戦艦に隠れて、海賊のアジトまで行けるのだが、とロウマは考えた。しかし、世の中そんなに甘くないと思い知らされるのだった。
「カクレテル、デテコイ」
片言の声が聞こえた。ロウマはもう少し誤魔化そうと思った。だが、
「カクレテル、ヤツ、デナイ、コロス」
出ていかないと殺すと言われたら出ていくしかない、ロウマは渋々通気口から出てきた。
ロウマに気づいたのは東洋系の顔立ちをした男であった。ロウマにとって幸いと思えたのはこの男が1人で探索をしていたことであり、仲間に自分の存在を教えていないこと、つまりはこの男を黙らせるなりすれば、ロウマの存在は露見しないということだ。
「オーケー、オーケー、そっちに従うから暴力はやめてちょうだいよ」
ロウマは両手を軽く上げ、男にゆっくりと近寄る。その瞬間、ロウマの姿が消えた。そして消えたと思ったロウマの姿が現れたと同時にロウマは腰に帯びた軍刀を居合抜きの要領で抜き放った。
だが、軍刀を抜いたはずのロウマの方が逆に吹き飛ばされていた。ロウマは人生において初めて文字通り吹っ飛ばされるという体験をした。
「くそが……」
思わず毒づくが問題ない、こんなこともあろうかと軍服の下には緩衝素材のインナーを何枚も重ねてきている。衝撃は問題ない。
おそらく、この男はこの一撃で倒せなかった相手はいなかったのだろう。明らかに油断してロウマに近づきながら歩いてくる。
ロウマは相手が油断していると確信し、急に立ち上がると拳銃を連射した。しかし、ロウマは驚愕するしかなかった。男は銃弾を全て避けて見せたのだ。
「人間じゃないね」
ロウマは手に持っていた銃を捨てた。役に立たない以上持っていても、しょうがないからだ。
「ナゼ、タテル?ゼンリョク、ナグッタ」
世の中には便利な物があるということを知らないらしい、このカンフーマスターは。防御の手段がある以上、なんとでもなるかとロウマは思った。戦っている場所は戦艦内でも数少ない、1G区画、重力があるのはお互いにメリットがある。
151ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/04(水) 23:03:23.27 ID:DCbq2fpg0
自分のメリットは動きやすいということ、そして軍刀を使った普通の剣術が使えること、相手のメリットも自分と同じだ。いつもと同じ動きが出来るうえ拳法なんかに必要な踏み込む動きが出来る。デメリットは相手のメリットがそのまま当たる。
ロウマはクルクルと軍刀を回しながら、相手との間合いを測る。ふりをして懐に手を突っ込みスローイングナイフを握ると、男に投げた。
男は虚を突かれたようで動きが若干、遅れたが、飛んできたナイフは全て避けてみせる。
なるほど面白いなとロウマは思った。明らかに不意を突いた上に速く撃った銃の方が簡単に回避できて、投げナイフの方が避けるのに手間取るか。
銃弾を回避するところを見ると、身体的な能力に絶望的な差がありそうに感じるが、どうやらそうではないとロウマは気づいたのだった。身体能力は間違いなく相手が上だが、それでも人間の身体能力の範疇だろう。
銃弾を避けるのは単純に見切りが並はずれているだけだとロウマは考えた。おそらく銃を相当に警戒し、研究し、銃の気配に対し神経を極限まで研ぎ澄まし、それで銃弾を避けているのだとロウマは考えた。
ならばいくらでもやりようはあると、ロウマは考え、動く。ロウマは相手に見えないように服のボタンをむしるとそれを掌に隠し、軍刀で切りかかる。
男はロウマの動きに若干の警戒をしているのか慎重な動きである。男はロウマの剣を躱した。その瞬間、ロウマは掌のボタンを指で弾き高速で撃ちだした。
一瞬、男はそれが弾丸に見えた。そして、弾丸ならばと常日頃からの癖で無理な体勢からでも回避の動作に移る。それがロウマの狙いだった。
「汚い手には弱いなカンフーマスターさん♪」
無理な体勢での回避動作で出来た隙をロウマは見逃さなかった。ロウマの軍刀の鋭い刃が男を襲う。回避は不可能だった。だが。深くは無かった。
「まぁ、こんなもんかしら。俺の腕じゃあな」
ロウマはヘラヘラと笑いながら軍刀を担ぐ。
男は鼻の上、目の下の部分に横一文字の傷がつけられ、そこからは止まることがなく血が流れている。
「……虎(フー)ダ……」
男は構えながらゆっくりと喋る。おそらく名前だろうとロウマは思った。まぁ久しぶりに
本気で戦っている相手だ名を名乗るのも悪くないだろうとロウマは思い、自らの名を告げる。
「ロウマ・アンドーだ」
ロウマは軍刀を下げ、手をだらんとゆったりした構えでいる。
「オマエ、ナマエ、オボエタ、ハカ、キザム!」
そう虎(フー)という名の男が言った瞬間、虎が消えたようにロウマは見えた。だが、これは大丈夫だという確信があった。おそらくは拳による打突。だが、それは防具が防ぐから問題はない。
直後、凄まじい音がロウマの腹部で鳴ったが、これは耐えられる。ロウマは衝撃にふらつきそうになったが、耐えた。そして、拳による打突の直後の虎の衣服を左手で掴むと、頭突きを虎の頭に叩き付けようとした。
だが、そんな見え見えの攻撃に虎が当たるわけはない。衣服を掴む手を叩き落とし、手刀をロウマの顔面に撃ち込み、迎撃しようとする。
「だから、正直すぎるね虎さん」
パンパンと乾いた音が二度鳴った。それは紛れもなく銃声、ロウマは叩き落されたはずの左手に銃を握っていた。
「銃が一丁だなんて、だれも言ってないでしょうに」
ロウマは虎を小馬鹿にするように言った。虎の両脚には銃弾によってつけられた傷痕があり、そこから血が流れ、虎の履くズボンを赤く染めていた。
152ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/04(水) 23:05:40.33 ID:DCbq2fpg0
「胴体への攻撃は怖くなかった。ヤバいのは頭と脚だ。防具がないからね。だけどまぁ頭は腕でガードできるから何とかなる。結局一番の問題は脚への攻撃、だから脚を潰したかった。脚を狙う攻撃は脚を使うのが多いしね」
ロウマは左手の銃を虎に向ける。
「さて、虎さんの真価が問われる時だ。その脚で頑張って避けてくれよ」
ロウマは虎に向けて、銃を連射する。考えが甘いのはお前も一緒だと虎は思った。この程度の傷で動きが鈍ると?舐めすぎだという怒りが虎にはあった。
ロウマは死んだろ、と思った。だが、そんなことは全くない。虎は銃弾を全て躱して、ロウマの元まで駆け抜ける。
防具で何とかなると?私が鍛えた拳はそんな生温い物ではないと、この男に教えてやらなければならなかった。
虎はロウマの懐深くまで踏み込むと、全身全霊の一打をロウマの腹に叩き込んだ。その直前までのロウマの表情は馬鹿を見るようなものであった。だが、その顔は一瞬で消え、一打とともに壁まで叩き付けられ、苦悶の表情に変わるのだった。
「っざっけんな!クソ野郎!片言喋りの土人野郎が俺の腹にパンチ!?ふざけんな、くそ、いてぇ、いてぇ、いってぇぇぇぇぇぇっ!」
ロウマは床をのたうち回っていた。ロウマは心の中で畜生っ、畜生っと連呼していた。痛い思いをしたくなくて偉くなったし、強くなったはずなのにこれか?ふざけんな土人野郎、ぶち殺してやる、俺に痛みを思い出させやがった。絶対に殺してやるぞ!
ロウマの頭の中は痛みで冷静さを失い、狂乱していた。だが、それも一瞬だった。
「いてえいてえいてえ、え、え、え、えーとクソ、もう嫌だ」
ロウマは冷静な表情に戻り、大きくため息をついた。
「きみとやんのはもう嫌だね」
そうは言っても付き合ってもらう。虎はそういうつもりだった。だが、急に体がふらついた。脚の怪我のせいか?
いや、そんなやわな鍛え方はしていない。ではなぜ、体が言うことを聞かない?気づくと虎は尻餅をついていた。尻餅をつくまでに何があったか頭がはっきりしなかった。
「いや、ほんと単純だな虎さん。最後のパンチの威力には驚いたけど、予想通りの所をなぐってくれた」
ロウマは余裕の表情に戻っていたが、額には脂汗が浮いている。まだダメージがある証拠だった。
「人間には意地があるからさ、同じ所を殴ってくると思ったの。だからさ」
そういうとロウマは軍服の上着を脱いで見せる。すると、ロウマの腹部分には明らかな工作がなされていた。それは小さな針である。小さな針が腹部にテープで張り付けてあったのだ。
「最初に殴られた時から、ちまちまと工作してね。こういうの作ったのよ。神経毒が塗ってある針の山みたいなものを。虎さんはそんなの殴ったわけ。
そんなの作る隙はなかったって思うかもしれないけど。俺は手先が器用だからね。こういうのは得意分野なのよ」
ロウマの顔から苦痛が段々と消えていく。痛みが去って行ったようだった。対して虎は尻餅をついた状態からさらに床に倒れこんでいた。
153ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/04(水) 23:06:35.19 ID:DCbq2fpg0
「虎さんは最初に俺の腹を殴った瞬間から罠にはまっていたわけだ。俺とやるにはオツムの出来に問題があったね」
ロウマは軍刀を鞘に納めると床に倒れ意識のない虎の身体を抱え上げる。
「殺して見つかると厄介だから殺さないし、きみはそれなりに面白いから殺さないでおいておくよ。聞こえてないと思うけど、エサが欲しくなったら俺の所に来ると良いよ、虎さんは」
そう言うと、ロウマは通気口に虎の身体を隠し、自分は別の場所に隠れることにした。幸い虎の所在が分からないということは大きな問題にならなかった。
「強すぎるってのも大変だ。信頼が強すぎてやられてるなんて心配されないからなぁ」
ロウマは結局のところ見つかることはなかった。そして海賊たちは艦内の探索を終えたと判断すると、艦長たちを乗せた脱出艇を艦から放り出した。海賊たちは一仕事を終えたといった感じで、艦を海賊船にワイヤーでつなげると海賊船で戦艦を引っ張っていく。
ロウマはこの先に海賊のアジトがあると確信し、そこにはある男もいるだろうという確信があったのだった。

ロウマはボンヤリと時を待った。通気口の中は狭く薄暗く、少年時代を思い出さずにはいられない場所だったが、隠れるにはここしかなかった。
そうして待つうちに、艦内がまた慌ただしくなってきた。ロウマの勘では港についたのだと思った。おそらく今は、戦艦内をかき回して金目の物を探している最中なのだろう。外へ出るなら今しかないかと考え、ロウマは動き出す。
細心の注意を払い、ロウマは誰にも見つからず戦艦の外へと出た。しかし、ここがどこだか想像がつかなかった。
「古いが整備された港、海賊らしい不潔さはなく清潔感があるな」
ロウマは通気口から甲板にでると、極力姿勢を低くしながら、周囲を警戒しつつ、戦艦が係留されている宇宙港の様子をみながら、ひとりごちた。
さて、ここからがロウマの活動の問題である。海賊のアジトの宇宙港を見つけたからそれで良しとはいかない。そもそもアジトがあることだけわかっても、アジトがどこの場所にあるのかわからなければ意味がない。
面倒ではあるが、このアジトの座標を示している機器を探すしかなかった。そう思った瞬間だった。ロウマの背後に濃密な殺気が感じられたのは。
ロウマは振り返りざまに居合い抜きで軍刀を抜き放つと同時に相手を斬ろうとした、だが、軍刀は金属がぶつかり合う音をだすだけで止まったのだった。
軍刀は片刃の剣によってその刃を止められており、ロウマの筋力と軍刀の強度ではこのまま力押しで斬ることは不可能と察したロウマは、その場からさっと飛び退く。
対して相手は追ってくる。片刃の剣を片手に持った男は剣を振り回してロウマに襲い掛かる。ロウマは相当な速度で襲い掛かってくる刃を躱しながら、反撃の一太刀を放つ。その刃も相手に届くことなく、剣によって防がれた。
その段に来てロウマはようやく相手を観察することができた。相手は血のように赤い上着に、血で染めたような真っ赤な包帯で顔を覆う男、つまりはブラッディ・レイヴン。そして――
「仮装が似合うじゃないか、ハルドくぅん!」
ロウマの軍刀が剣の防御をすり抜け、ブラッディ・レイヴンの顔面をかすめる。
はらりと落ちる包帯、その下にあった顔はロウマの言った通り、ハルド・グレンのものである。
154ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/04(水) 23:08:19.94 ID:DCbq2fpg0
「ロウマさんも長旅ご苦労さんですね。ドブネズミにみたいに隠れてたせいで、お召し物が汚れていますよ。そのままドブネズミと一緒に暮らしていた方が良かったんじゃないですかねぇ」
ハルドに言われて、ロウマは改めて自分の服装を見た。確かに誇りまみれで汚れてはいる。だが――
「戦艦にドブネズミはいないからねぇ、1人暮らしになっちゃうよ。寂しいのは嫌いなのよ、俺」
「あら、そうでしたか。じゃ、独房も嫌でしょうけど。我慢して今日はそこで寝てもらうか、1人で棺桶に入ってもらわないとなぁ」
ハルドもロウマも適当に話しをしながら間合いを詰めていた。お互い顔見知りで、そこまで嫌いでもないが、殺せないほど好きなわけでもない。つまりはハルドとロウマは両者にとってどうでも良い存在だった。
先にハルドが動く。剣を低くおろしたまま突っ込み、間合いに入ると同時にロウマに対して切り上げの一撃を打ち込む。
ロウマはそれを軽く回避し、軍刀での突きを放つが、ハルドは更に距離を詰めることで、突きの刃の内側、さらにそれを放った腕の内側にまで入ると、ロウマの身体に体当たりをする。1人が思いきりぶつかって来た衝撃は大きくロウマは倒れこんだ。
倒れこんだロウマに反撃するためハルドは剣を使わず、甲板上に転がるロウマに蹴りを入れようとした。だが、ロウマは軍刀を捨て、無手になると倒れた姿勢のまま両手でその蹴りを受け止め、ハルドの脚を取ると、取った脚を使いハルドを甲板上に転がす。
ハルドを転がした瞬間、ロウマは飛びかかりハルドの上に馬乗りになる。
「弱くなったね、ハルド君」
ロウマは左腕を振りかぶった。その瞬間、ハルドの頭を以前の記憶がよぎり、直感的にこの攻撃は危険だと脳が判断した。
ハルドは必死の体で両腕を使い首から頭にかけてをガードした。その瞬間ロウマの口からチッという言葉が漏れた。
ロウマの拳が振り下ろされる。その瞬間、ロウマの軍服の袖口の中から刃が飛び出した。飛び出した刃はガードするハルドの腕を貫通した。
「いってぇぇえぇぇっ!」
ハルドは叫びながら、馬乗りになっているロウマを力任せに蹴り飛ばし、距離を開ける。
「くそ、暗器仕込むなよ。普通の軍服にさ」
ハルドはロウマの手首、その袖口から伸びている刃に目をやった、刃渡りは正確には分からないが15センチはありそうだった。切れ味といい充分すぎるほどの凶器であると。ハルドは左腕に空けられた穴を見て思う。
「かっこいい武器だろ。仕事でも使える。そして、これで何人か殺してる」
ロウマはそう言いながら、落ちている軍刀を拾った。軍刀を拾うとロウマはくるくるとそれを回し始める。小休止といった感じだ。
「しかし、本当に弱くなったね、アービルで戦った時よりも弱くなってないかい?」
ハルドにそんな自覚はないがロウマは続ける。
「なんというか、イカレ具合が足りないね。一時期のきみは完全な自己中心主義者だった。自分のためなら何でもやる。躊躇いのない強さ。けど今の君はなんだか、ぬるい気がするね。昔のイカレっぷりを俺に見せてくれよ」
そう言うとロウマは身を低くして、ハルドに襲い掛かる。ハルドは躊躇った。ロウマの世迷言にではなく、ロウマの両手の武器に関してだ。
左手は手首のブレード、右手は軍刀だ。攻撃が明らかに速いのは左手、だが重いのは右手だ。どっちに対処する。そう思った瞬間、ロウマの蹴りがハルドの腹に直撃した。ハルドは衝撃に苦悶の表情を浮かべながら、ロウマから距離を取る。
155ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/04(水) 23:09:03.61 ID:DCbq2fpg0
「MS戦じゃ敵わないけど、生身じゃ俺の方が強いみたいだね」
ロウマは余裕の体で、軍刀を担いでいる。MS戦だったら、とっくにこっちがぶっ殺してやっているが、今は生身で斬りあいの最中なので、そういうことを考えても仕方ないとハルドは思った。
「ま、アンタが強いのはわかったけど。敵地ではしゃぎすぎだっつーの」
そうハルドが言うと、長い棒を持った海賊たちが続々と甲板の上にやって来た。
「あれ、男らしく一対一じゃないの?」
「んなわけあるかあるかボケ、今を何年だと思ってやがる。合理化の時代だぞ」
ハルドはそう言うと長い棒を持った海賊たちにロウマを叩けと命じた。
「あ、ごめん。降参。俺痛いの嫌だから」
そういうとロウマは甲板上で土下座を始めた。ハルドは別にそれが悪いことだとは思わなかった。まぁ降参といったなら降参なのだろう。だが、少しハルドは腹の虫がおさまらないこともある。
ハルドは土下座するロウマのそばにゆっくり近よると、自分もしゃがみ込んでロウマの肩に手を添え、
「顔を上げてくれよ、ロウマさん」
感動の場面になりそうだったが、それはハルドもロウマも願い下げだったのでこれで良かったのだ。ロウマが顔を上げた瞬間、ハルドの右拳がロウマの顔面を捉えた。
その一発でロウマは気絶した。とりあえずこれで、ロウマに追わされた怪我の分はチャラだとハルドは思った。
しかし、問題はこのロウマという男を始末するまで終わらない。そもそもロウマをここに引き入れてしまった時点で、こちらの負けとなっているかもしれないからだ。ハルドはウンザリとしながら、ロウマの処遇について考えるのだった。
156ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/05(木) 00:03:02.30 ID:WKMj6o6G0
27話終了です
157ガンプラEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/05(木) 05:50:26.07 ID:WKMj6o6G0
海賊編はイマイチですかね?ちょっと荒唐無稽過ぎたかもです。
楽に資材とか入手するにはこれかなと特に考えずやってしまいました。
あと生身戦闘の多さに関しては自分でもわけがわからないですね。ノリで書いてたらそうなったとしか言い様がないです。
158ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/06(金) 18:13:45.96 ID:BZhcUcsc0
投下します
機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第28話

ハルドはロウマの処遇について頭を悩ますこととなった。すぐに殺すという選択もあったが、それではロウマがクランマイヤー王国の情報を既にながしているのか把握できなくなる。
ハルドは仕方なくロウマを拘束し、監禁することにした。しかし、クランマイヤー王国には刑務所に相当する施設がないらしく、牢屋らしき物の存在もなかった。ハルドは仕方がないので、クランマイヤー王家邸の地下室の一画に閉じ込めておくことにした。
虎(フー)に関しては戦艦内で怪我をしている所を発見された。それなり以上の怪我だが、命に問題はないらしいとハルドは知った。
ここで問題になってくるのがロウマであり、虎を倒したとなると、余計に生かしては置きたくなかった。だがそういう訳にいかないのがはがゆかった。

地下室の一画ジメジメとした薄暗い部屋でハルドとロウマは対面で椅子に座っていた。机は無い。
「とりあえずロウマさん。ここがどこだか分かる?」
「地下室!」
ロウマはふざけて子供っぽく答えた。対してハルドも同じように相手をする。ニコニコと笑いながらハルドは拍手をしながら言う。
「わーすごい!大正解!ロウマ君すごーい!」
とまぁ、こんな風にやり取りをするのは二人とも面倒だったので、ロウマから口を開く。
「場所がどこだかは知らないっていうか、調べようとしたところでハルド君に襲われたわけよ。ここの情報はどこにも漏らしていません。以上でーす」
信用はできないが、まぁそんな暇もなかったろうとハルドは考え、とりあえず、ロウマの言うことに関しては信じてみることにした。
ロウマは拘束して椅子にくくりつけてある。体の自由は全くない。ハルドはとりあえず得られた情報を他のメンバーに伝えるために椅子から立ち上がる。
「ありゃ、いっちゃうの?寂しいなぁ、もう少しお話ししようぜ」
そうは言われてもハルドも完全にヒマという訳ではない。不思議とハルドは性格的にロウマを嫌いになれなかった。
「アンタは嫌いじゃないけど、俺も忙しいの。また後で」
そう言うとハルドはドアに向かう。その時思い出したようにロウマの方を振り返り言う。
「アンタと話したいって人間はそれなりにいるし、退屈はしないと思うぜ」
そりゃ良かったとロウマは思う、捕虜になった以上、会話以外の退屈しのぎなどないから、ありがたかった。
「じゃ、期待して待つよ。それじゃ、また」
ロウマはドアから出ていくハルドを見送りそう言った。そしてハルドと入れ違いに入ってくる人物にわくわくしながら待ってみるが、期待外れだった。
ハルドと入れ違いに入ってきた人物、それはセイン・リベルターだった。セインはロウマのことを睨みつけながら、椅子に座る。
「きみは退屈なんだよなぁ」
ロウマは欠伸をしてみせる。もちろんわざとであり、セインを馬鹿にしたものだった。
「僕が退屈かどうかは関係ないだろ!」
ロウマは拘束された状態で肩を竦めて見せる。
「おーこわ、怖いな。ボクちゃん。すぐ怒鳴る人ってきらーい」
ロウマはセインをからかって遊ぶことにした。これぐらいしか捕虜の楽しみはないのだから、たまにはいいだろう。まぁ、たまにはではなく、しょっちゅうやっているがとロウマは思う。
「僕が聞きたいのは何故、母さんを殺したかだ。ミシィの家は両親ともに連行された。だけど僕の家は母さんが殺された。何故だ」
ロウマは、ああ、そのことかと思い出し、急に冷めてくるのを感じた。
「別に、殺したいから殺した」
その言葉にかっとなってセインはロウマに殴りかかる。だがセインのパンチをロウマは首の動きだけで躱し、反撃に頭突きをセインに叩き付ける。
159ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/06(金) 18:14:24.48 ID:BZhcUcsc0
「殺したいから、殺すってそんなに悪いことか?きみだってゴキブリを見たら、殺したいから殺すって衝動で殺すだろ?あの時の俺はそんな感じだった」
セインはロウマの頭突きを食らって、床に倒れこんでいたが何とか体を起こし、椅子に座る。
「僕の母さんがゴキブリだってのかっ!?」
だれもそんなこといってないだろうに頭の悪い子どもだなぁと、ロウマは内心ウンザリしていた。
「ものの例えなんだから過敏に反応しないでくれよ。キミと話す時、俺はキミみたいに頭の出来の悪い奴と話す時、相手に分かるように話さないといけないから、気も使うし頭も使うから面倒なんだよ」
ロウマの物言いに関して、セインはまたカッとなりそうだったが、今回はかろうじて抑えることが出来た。ここで動けば、また馬鹿だと言われるのが目に見えているからだ。
「おーステイができました。ステイ、ステイ。待てができるって偉いね。んじゃ、ご褒美をあげようかな?その前に質問がはいるけど」
ロウマは変わらず馬鹿にしたような口調で話すがセインはこらえていた。
「質問は簡単。セイン君は御両親のこと好き?」
なんだ、この質問は?とセインは思ったが、躊躇いなく答える。
「好きだ」
その答えにロウマはウンザリとした表情になり、大げさな溜息をついた。
「みんなそう答える。いいねぇ、親に愛されてるって。俺は親が大嫌いだったよ」
なぜ親の話しになるのかセインは分からなかった。
「まぁ、きみのお母さんを殺しちゃったのも、たいした理由じゃないんだよ。ムカついたんだ。キミのお母さんが俺の母親に似ててね」
似ているからなんだというのだ。セインはロウマの言っていることが分からない。
「俺、母親嫌いでね。母親をぶっ殺したかったのよ。そして俺の母親に似ているキミのお母さんを見ていたら、なんともこう、ぶっ殺したくなって撃っちゃったわけよ、拳銃」
ロウマはニッコリを笑顔を作ってセインの方を向く。セインはやはりこの男の言っている言葉の意味が分からない。その程度の理由で人を殺すのか?この男は正気じゃない、セインは愕然としていた。
「殺したいから殺す、きみのお母さんを殺したくなったから殺した。キミには分かんなくても俺にはスジの通った話なのね、これ」
やっぱりだ、こいつは訳が分からないとセインは思った。絶対に理解できないし、理解したくもない、こんな人間を人間とも思わない奴とは。
「僕はお前を絶対に許さない、いつか必ず思い知らせてやる」
「殺してやるって言えよ、セイン君。だからキミは退屈なんだ。どこまでいっても感性がただの人間。見ててウンザリだよ」
セインはロウマの言葉に何も返さなかった。返す気にもなれなかった。こんな奴とは、なるべく関わりたくない、そう思い、セインは椅子から立ち上がる。
「あら、お帰りかい?もっと話しをしてやってもいいぜ。きみのお母さんの死に顔とかさ」
セインはもうウンザリだと思って、地下室の扉を開けて出ていく。
思ったよりは退屈しのぎになったかなとロウマは思う。まぁ、あの少年はつまらなかったが、それを含めてもまぁまぁな退屈しのぎであった。
さて、この後はどうなるか。ハルドならば、そろそろ見切りをつけてこちらを殺そうとするかもしれない。まぁその時はその時だ。なるべくあがいて駄目そうだったら運が無かったで終わり、それで良いとロウマは思った。
160ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/06(金) 18:15:18.81 ID:BZhcUcsc0
そう考えていると、地下室のドアが開いた。さて次はどんな客だろうロウマが期待した人影は、期待に見合う存在のハルドとそして小さな女の子であった。
女の子はぺこりとロウマに頭を下げると可愛らしい声で話し出す。
「クランマイヤー王国王女アリッサ・クランマイヤーです」
そう言うと、王女と名乗った小さな女の子はロウマと対面の椅子にちょこんと座った。そして期待に目を輝かせながら言うのであった。
「あなたが凄い悪い人ですねっ!?」
王女と名乗った女の子は興奮したようでロウマに尋ねるのだったが、ロウマは訳がわからず、地下室の入り口付近の壁にもたれかかっているハルドに視線を送る。
「すごく悪い奴が来てるから、会ってみますか?って言ったら食いついた」
ああ、そうとロウマは思った。クランマイヤー王国など聞いたことのない国だが、そんな国もあるのか、とか、この少女の期待に応えるのは面倒だなぁとかロウマは余計なことを考えていた。
その間、姫らしき女の子は、ずっとロウマの顔を見ている。見透かすような瞳といっていいのかロウマは判断がつかなかったが値踏みされているということは分かった。この10歳くらいの少女が人を値踏み?冗談としか思えないが姫の目は真剣であった。
「あんま、楽しくないんですけど、ハルド君?」
「我慢しろって、姫様が一番偉いんだから、お前の処遇は姫様の胸先三寸だぜ」
そりゃ大変だとロウマは思ったが、それほど深刻視もしていなかった。すこし視線が気になったが、とりあえず姫様の機嫌を損ねないように悪い奴をやってやろうかとロウマは思った。ロウマは子どもはそれほど嫌いでもなかった。相手にするのも平気だった。
姫はロウマをしばらく見ると、居ずまいを正して椅子に座る。だが、椅子が大きく体の小さな姫が座ると人形が座っているようにも見えた。
さて、脅かそうか、そうロウマが思い口を開こうとした瞬間だった。
「あなたは強い人ですね」
思いもがけず姫から言葉が来た。
「あなたは凄く強い人だと思いました。強いから色んな物を粗末に扱っても自分一人で進んでいくんだと思います」
ロウマは少しイラッときた。おそらくハルド辺りが嫌がらせで、この子どもに言わせているのだろうが、なんとも堂に入った物言いである。ロウマは目の前の姫に対して僅かだが畏敬を抱きそうになり、それを振り払った。
「あなたの強さは前を見ていること、全てを踏み潰してもそれでもあなたは進んでいく気がします。あなたは前を見て進み、そして成功を掴む。でもその成功を掴むことはそんなに重要じゃなくて、本当はその成功を人に見せたいだけ――」
そこまで言った瞬間ロウマは拘束された状態で椅子を揺らし、大きな音を立て姫の言葉を遮る。
「自己分析はもう済んでるんだよ、お嬢ちゃん。言われなくても分かっていることを言われるのって、すごい不快なんだけど、わかるかな?」
ロウマの目に僅かに殺気が宿る。ハルドや虎と戦った時でさえ見せなかった殺気である。
「お嬢ちゃんの大切なものは何だい?ここを出たらぶち壊してやるから、お嬢ちゃんの目の前で丁寧に壊してやるよ」
ロウマの瞳には狂気が宿っていた。ハルドは止めるべきどうか迷ったが、成り行きを見守ることにした。
「壊しても良いですよ。直せるものなら、直します。直せないものなら、それの思い出を胸に大事にしまっておきます」
ロウマは自分の瞳には相手を怯えさせる力があると信じていた。だが、この小さな姫にはそれが通用しなかった。
161ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/06(金) 18:16:20.61 ID:BZhcUcsc0
「お父さんとお母さんが言っていました。王族は常に得るより失うものが多い者であると、だから何かを得た時は最大限に喜び、失った時は悲しみを最小限に抑えなさい。辛くてもそうあるのが王族であると言っていました。だから私は何かを壊されても泣いたりしません」
ロウマ相手になかなかどうして堂々とした物言いだとハルドは思った。
「ロウマさん。あなたは悪い人だと聞きました。私の知り合いにも悪い人はいます。学校で同じクラスのジョージくんです。
ジョージ君はいつも悪いことをしていますけど、それは悪いことが好きなのではなくて皆に注目されたいから。ロウマさんもそうじゃないですか?」
ジョージ君がどんな人物かは知らないが、ロウマはそのジョージ君と一緒にされるのは嫌だった。
「いやいや、姫様。俺の悪いことってのはね……」
「言い訳はしない!私はお母さんに、そう教わりました。ロウマさんも皆に注目されたくて悪いことをしているように思います。悪いことをやって自分は他の人と違うってところを見せたいんじゃないかと思いました」
そう言われ、ロウマとしては閉口するしかない。小学生の理屈を大人の世界に持ち込まれてもロウマにはしようがなかった。だが、この小さな姫様のちょっと頭の悪い物言いは嫌いじゃないぞとロウマは思う。
「王器があるね」
ロウマはなんとなく呟いた。
「王器って何ですか?」
子どもは単純なので、すぐこちらの言葉に反応する。ロウマはそれが面白かった。
「王様とかに相応しい人間としての器だよ。俺やハルド君が持ってないもの」
そう言うと姫は顔をパッと明るくした。
「それってすごいんですか?」
「うん、すごいすごい」
多分、この姫が本物ならば、間違いなく天下を取れる器だとロウマは思った。なぜなら、なんとなくロウマはこの姫の下で働いてやってもいいかもしれないと思い始めていたからだ。
おそらくこの姫は、気づけば、周りには頼りになる仲間が増えている。姫がどうこうしたわけではなくとも、自然と気づいたらこの姫の周りには人が集まっているのだろう。
「姫様は人に愛される人ってことだよ」
ロウマは若干、羨ましく思いながら、姫に言った。すると姫は気づいたら椅子から降りており、背伸びしてロウマの両手で挟み込むように触っていた。
「いっぱいの人に愛されるなら、私一人では愛は抱えきれないのであなたにもあげます」
姫は花のように可憐に咲き誇る笑顔をロウマに向けたのだった。
こりゃ、やばいな。とロウマは思う。多分この姫さんは殺せないぞと思い始めていたのだった。すると、そこへハルドがやってきて、時間ですと姫を部屋から追い出していった。
「どうよ?」
ハルドはロウマに尋ねる。
「うちの公王に爪の垢を煎じて飲ませたい」
ロウマは素直に何かを言いたくなかった。実際、あの姫は相当な難物だと感じたからだ。
「あれで10歳だぜ。あのまま成長したらヤバいだろ」
ハルドは椅子に座りながらロウマに話しかける。
「ありゃ、天下を取ってもおかしくないな。頭は悪い癖に物事が見えてるし、とにかく人を引き付ける」
「最高評価だな」
ハルドは苦笑して言うと、ロウマも苦笑する。
「あれに惚れて、ここで長く傭兵かい?ロリコンだねぇ」
後半部分は冗談めかしてロウマは言った。ハルドは肩をすくめるしかなかった。
162ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/06(金) 18:17:21.16 ID:BZhcUcsc0
「なんとなくであの姫様についていったら、それなりの付き合いになっちまった」
「ま、がんばりなさいな。あの姫様の下は大変だろうけどな」
ハルドとロウマはそれきりで話しを打ち切り、ハルドは部屋を出ていった。
それからしばらく、ロウマのもとを訪れる人はいなかったが、夕食の時間になり、ハルドが夕食を持ってきて食べさせてくれた。両手足が拘束されているからとはいえハルドに食事を食べさせてもらうのは中々に苦痛であった。
そしてハルドが夕食の食器を下げると、今度こそ誰も来なくなった。こういう場合、潜入工作員を配置しているコロニーなら、工作員が自分を助けに来てくれるはずだが、この未知のコロニーではそれは期待できない。はずであった。
「大佐、大佐、起きてますか」
深夜頃になって、ドアの外から自分を呼ぶ声がした。ロウマは運が良いと思った。どうやら潜入工作員のいたコロニーだったらしい。
「起きてる。開けろ、入れ」
ロウマは高圧的に命令した。いい加減に拘束がきつくて嫌になってきたのだ。ロウマはすぐに中に入るように言った。そして、ドアを開けて入ってきた人物、それはゴリラのような巨体の男であった。
「……だれだっけ……?」
ロウマは巨体の男を思い出せずにいた。すると巨体の男の方から名乗り始める。
「ディレックスです、ディレックス!」
声がでかいなぁと思いながら、ロウマは記憶を掘り起こしているとそれらしい人物が思い当った。
「ああ、ディレックス君か」
確か、月の強制収容所に出張させて、ドロテスが何かミスを起こすように働きかけさせたはずだが、なぜこんなところに。そもそもだ。
「なぜ連絡を寄越さなかったんだい?」
ディッレクスは肩を落とし答える。
「大佐が、大佐からの連絡があるまで、連絡をするなって言ったんですよ」
そんなこともあったかと、ロウマは記憶になかった。とにかくディレックスに拘束を解くように命じるとディレックスは素直に動き、ロウマの拘束を解く。
「じゃ、帰ろうか」
とは言ったものの多分無理な気がした。ハルドらは警戒の網を張っているかもしれない。であるならば、人質などがいる。ロウマは人質にあの姫を選んだ。
「ふむ、寝る子は育つから良く寝てるねぇ」
ロウマは姫に対して起こすとか起こさないを関係なく強引に体を掴み、自分の盾になるようなポジションで抱え込んだ。騒がれると面倒なのでロウマは姫の口に猿ぐつわをした。あの達者な口ぶりを聞けなくなるのは残念だが、仕方がなかった。
そうしてロウマが、人質に姫を手に入れ、姫の寝室から出ると同時にディレックスが吹き飛ばされていた。
「おや、ディレックス君。楽しそうだね」
ロウマは完全に他人事の状態だった。自分は人質を抱えて安全だから、ディレックスはどうでも良かった。
「ゴドウ、てめぇ!」
ハルドが怒りの形相でディレックスを睨みつけていた。ゴドウはディレックスの偽名だろうとロウマは思った。
「死ね」
ハルドが銃を向ける。間違いなくディレックスは殺されるだろうが、ディレックスにはまだ使い道があるので、殺されては困る。ロウマは、ハルドとディレックスの射線上に人質を抱えて立つ。
「さて、大事な姫を撃つのかなハルド君?」
ロウマは自信を持って言ったが、撃たないという確信はなかった。昔なら撃つ可能性が高いが、今のぬるいハルドならば撃たないだろうという予感がしていた。
163ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/06(金) 21:15:56.78 ID:BZhcUcsc0
「少女を抱えて逃走か、いい趣味だなロリコン野郎」
ハルドは強がり、そんなセリフを吐きながらも、ロウマの予感は的中し、ハルドは銃を下げる。
「だろう?昔から趣味はいいって言われるんだ」
ロウマとしては別にロリコンと言われようがどうでも良かった。ロウマの腕に抱えられた姫が暴れるが、ロウマは気にせず、姫の顔に自分の顔を近づけて言う。
「あと8年経ったら、俺はこの姫を嫁にするよ」
……は?という空気が場を包む。すると、暴れている内に猿ぐつわが外れたのか姫が口を挟んだ。
「駄目です。私は6年後にハルドさんと結婚するんです!」
またもや、……は?という空気になる。一番状況に困っているのはハルドだった。
「クランマイヤー王国では16歳になったら結婚出来るんです!」
あ、そうなの。とハルドは納得した。しかし、納得している場合ではない色々。と冷静になって状況を考えると、運の悪いことに騒ぎを聞きつけていた何名かが、姫の大胆なプロポーズを聞いてしまった。
こうなったら、姫に関しては、いっそロウマに持って行ってもらってもいいような気がハルドはしていた。
「ハルドさんは私と結婚するのが嫌なんですか〜!」
姫が叫ぶと同時に、ハルドはぎょっとし体を硬直させた。それと同時にロウマは走り出す。ロウマはこの屋敷に詳しくはないが、外へ出る窓の位置だけは把握していた。ロウマは外へ出ると同時に姫を手放す。
「いいんですか?」
同時に飛び降りたディレックスが人質を手放すことに心配な表情を浮かべていたが、
「そうだね」
それだけ言ってロウマは無視して走り出した。まぁ、あれだけ大胆なプロポーズをしたのに仲を引き裂くのも忍びないとロウマは思ったのだ。
「脱出ルートは?」
ロウマは走りながらディレックスに聞く。
「宇宙港に脱出艇を用意してあります」
ゴリラにしては上出来だとロウマは思い、宇宙港まで走る。ハルド達は追跡を諦めたようだった。
ロウマとディレックスは何の邪魔もなく、宇宙港へ辿り着き、クランマイヤー王国から脱出した。案外と楽であった。
「で、ディレックス君、何か調査はしてあるだろうね」
脱出艇が安全圏までたどり着いた時、ロウマはディレックスに尋ねた。するとディレックスは写真の束をロウマに見せた。
写真に写っているのは、兵士の教練の場面や、MSの開発の場面である特にMSは完全な新型であった。
「なるほどなるほど……」
ロウマは写真を見ながら、ある考えに思い至った。
「それで大佐、クランマイヤー王国をいつ攻めるんですか?」
ロウマの考えが読めないディレックスは、何気なく尋ねたが、ロウマの返答はあっさりしたものだった。
「攻めないよ」
どうしてとディレックスが言いたかったが、ロウマはディレックスの言葉を全て無視することにしていた。
「まぁ俺には俺の絵図面があるってことで」
ロウマはそれしか言わなかった。しかし、ロウマの中にはしっかりとした未来の世界図が描かれていた。そして、その世界図を描くためにはクランマイヤー王国に働いてもらう必要があるのだった。
「まぁ、多少は頑張って俺の思い通りにしてもらわないとな」
ロウマは頭の中で思い浮かべる、戦いの未来とは全く違うノンビリとした調子で言うのだった。
164ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/06(金) 21:16:32.76 ID:BZhcUcsc0
「くそっ、やられた!」
アッシュは大失態を犯したと思った。よりによってロウマ・アンドーを逃がすとは。これではクランマイヤー王国が公国に反意を持っていることが露見し、公国に攻める口実を与えてしまう。
「まぁ、落ち着けって」
アッシュに対してハルドは冷静だった。ハルドはすぐに攻めてこないだろうという確信があるため余裕があった。
「ハルド、キミの落ち着きは分かるがな。こっちは、まだ準備不足なんだぞ」
ハルドの冷静さに影響されたのか、アッシュも髪をかきむしりながらではあるが冷静さを取り戻し、状況を整理してみる。
ロウマ・アンドーにクランマイヤー王国の場所が割れた。これはクランマイヤー王国が攻撃を受ける可能性が極限まで高まったことに他ならない。では公国はすぐに攻めてくるか、それはないとアッシュはハッキリと言える。
「アレクサンダリアからここまでは遠すぎるか……」
アッシュは1人呟く、クランマイヤー王国は辺境のコロニーであり、ここまで来るのにはかなりの時間を要する。それも大部隊の移動であれば、補給の都合もあるため、時間はかなりかかる。
さらに補給を円滑にするためには補給線を整える必要があるが、そのためにはクランマイヤー王国に辿り着くまでのコロニーを制圧し、補給の中継点として設備を確立させなければならない。
これらの手間を考えると、公国がクランマイヤー王国を攻めるまでには相当な日数がかかる。それに、その日数を浪費してまでクランマイヤー王国を落とす価値があると公国が考えるかも疑問だ。
どうしても希望的観測なってしまうが、アッシュは時間はまだあるし、場合によっては当分攻めてこないという考えを持っていた。

そして数日後、ニュースによって報道された中にクランマイヤー王国の情報はなかった。ニュースでは、ロウマ・アンドー大佐が海賊の捕虜になっていた聖クライン騎士団の騎士を1人助けたことが、大ニュースとして取り上げられていた。
助けられた騎士団員はディレックス、クランマイヤー王国ではゴドウという偽名を使っていた男だ。
「色々と筒抜けになったな」
アッシュは朝食を食べながらニュースを見ている。
「しかし、海賊関係は何もなし、肝心のディレックスは何も分からない様子ときたもんだ」
ハルドはリンゴにかぶりつきながらニュースを見ていた。ニュースではディレックスは長い間監禁されていたらしく海賊のアジトの場所は分からない、ロウマに関しても海賊船からディレックスを救出したためアジトが分からなかったと報道されている。
「いい面の皮だ」
ハルドは会見を行っているロウマの映像を見ながら言う。知っていることは全部隠して平気な顔をしていやがる。ムカつく奴だとハルドは腹が立った。
「実際、ロウマが騎士団に報告しているかだが……」
「俺はしてないと見るが、まぁなんともなぁ……」
ロウマ・アンドーのやることに関してはハルドもアッシュも想像がつかない部分がある。
「ま、考えてもしかたないし、適当に今日も防衛の準備。俺は新型MSが完成したらしいから慣らしついでにちょっと偵察」
そう言うとハルドは食べ終えたリンゴのごみをゴミ箱に投げ入れ、立ち上がる。
「ロウマが何かしら騎士団に報告していたら、クランマイヤー王国の周囲に何かあるか」
ま、そういうこと。というとハルドは立ち去って行った。アッシュはニュースを見ながら残りの朝食を平らげるのだった。
165ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/06(金) 21:17:02.42 ID:BZhcUcsc0
28話終了です
166ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/07(土) 10:35:08.33 ID:LthUwG370
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機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第29話

ハルドはレビーとマクバレルに呼ばれたので、とりあえずMS製造工場まで出向いていた。すると珍しいことにセインもいた。
「あ、どうも」
セインはハルドの姿を見るとぺこりと頭を下げる。ハルドは手で、よう、と挨拶するだけだ。
「で、レビーとマクバレルは?」
2人とも姿を見せない。普段は姿を見せなくてもいいのに顔を出す奴らなのにも関わらずだ。
「……ロウマ・アンドーのことは……」
「なんだ、殺して欲しかったか?」
そう言うとセインはうつむいて言う。
「いえ、自分の手で殺します」
あ、そう。とハルドは流した。深く追求しても楽しい話しにはならなそうだったからだ。
そうして待つこと数分、汗をかきながらレビーがやって来た。そしてそれに遅れてマクバレルが急ぐ様子もなく悠々と歩いてくる。
「いやーすいません。お待たせしちゃって。とりあえず単刀直入に、新型と新装備が完成したのでお披露目です」
そう言うと、レビーとマクバレルはハルド達を先導していく、すると辿り着いた場所にはバックパックだけがあった。
大型の翼を持つバックパックであり翼にスラスターが内蔵されている他、ミサイルポッドらしき物とビームキャノンの存在が伺える。
「ブレイズガンダム専用のバックパック、“ゼピュロスブースター”です」
レビーは自慢げに名前を言ったが、マクバレルは不機嫌そうだった。
「なにがゼピュロスだ。神話から名前を取るなんて気持ち悪い……」
マクバレルは聞こえるようにぶつぶつと言っていた。当然レビーにも聞こえる。
「エアードインパクターとか、何となく音だけで機体名とか装備の名前を決める教授よりはマシだと思うんですけど」
レビーは片手にスパナを握り、笑いながらマクバレルに近づく。よくよく見るとレビーの目は笑っていない。
「だいたい、フレイドの時は名前を決めるのは教授に譲って、その時は私は何一つ文句を言わなかったじゃないですか!それなのに私が装備を決める時は文句ばっかりって、どういう人間性ですか!?」
「ふざけるな、フレイドの時、キミだって文句を言ってたろう。『教授は音だけで決めるからセンスが無い。神話のエッセンスを入れないと駄目だ』って、きみも散々文句を言っただろう」
そう言った瞬間、レビーのスパナがマクバレルの頭を捉えた。
「私は決まってから文句を言いましたー、教授は決める時に文句を言いましたー、そのちがいですー」
レビーは二発目のスパナをマクバレルの頭に叩き付けた。ときどき思うが、事故にならないのが凄いとハルドとセインは素朴に思った。
「あーもう、面倒なんで、セイン君はこれ付けたブレイズガンダムに乗って、宇宙に出てテスト。隊長はそこらへんにある新型機を見つけて、それに乗ってください。運が悪いことにここにいる教授先生が音で何となく名前を決めた“キャリヴァー”って機体です」
こいつらも大概、適当だよな。とハルドは思いながら、言い争っているレビーとマクバレルを放って、新型機を探すことにした。
「じゃ、僕は宇宙に出るんで」
セインはレビーとマクバレルの喧嘩を無視し、ブレイズガンダムに乗り込んでいった。ハルドの方はというと、さして苦労もなく新型機を見つけることが出来た。
「なるほど、これか」
ハルドは1人呟き、機体に目をやる。機体色は全体がグレー、おそらく機体色を決める段階でも揉めているのが想像できた。
とりあえずの機体の特徴は、両肩にスラスターを内蔵した翼が装着されていること、そしてその翼を多少小型にしたものが腰にも装着されている。背中を見ると機首になりそうパーツが見えたので可変型の機体だとハルドは予測した。
後、見て分かるのはモノアイであることライフルとシールドを持っていることぐらいだ。他は乗って見なければ分からない、ハルドは私服のままキャリヴァーという名前らしき機体に乗り込んだ。
乗り込むとフレイドよりもコックピットは狭く、ごちゃごちゃしている気がした。フレイドから機種転換するとパイロットは困りそうだとハルドは思った。
ハルドは適当にコックピットの中を弄り、武装などを確認する。すると可変機であることがハッキリとした。
167ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/07(土) 10:35:47.12 ID:LthUwG370
「まいったな。俺って可変機とか乗ったことないんだよなぁ」
まぁ今更言ってもしょうがないと思い、ハルドはコックピット内で変形形態について確認する。
基本は寝ただけ変形という奴かとハルドは理解した、両肩と両腰の翼が変形時にきちんと翼として機能し、機首部が展開されて頭部を隠し、戦闘機に近い形態になるとハルドは把握した。
武装に関しては、ビームサーベル、そしてミサイルランチャーがバックパックに付いている。MS時は打ち上げ式だが、可変時は水平方向への発射になるようだった。後、機首部にはビームキャノンが内蔵されている。
機首のビームキャノンは可動域広いようでMS形態でも使用が可能ということがハルドはわかった。
これで機体についての把握は終了である。後は実際に動かすだけだ。
「ハルド・グレン、キャリヴァー、テストに出すぞ」
ハルドは周囲で作業をしている技術者に注意を促すためにマイクで、そう言うと、機体をスラスターで浮かせた。
「思ったより軽いか?」
ハルドはキャリヴァーのスラスターを噴射させた状態、ホバリングの状態で機体を進ませると、宇宙港を目指す。
ハルドは人が少なくなってきたところを見計らって、スラスターの噴射を強め速力を上げる。それと同時に肩の翼も自動で展開された。すると、1G環境下でも安定してスラスターで移動できた。
「なるほど、肩の翼の役割はMS時の安定翼で、1G環境下での飛行可能機体か」
ハルドは少しずつこの機体が掴めてきたような気がした。ハルドはキャリヴァーを飛行させ、宇宙港に辿り着くと、ハルドはマイクで自分の声を聞かせると、何の手続きもなく、ハルドは宇宙に出ることができた。
「顔パスは楽でいいぜっと」
ハルドはセインの機体を探す。するとセインのブレイズガンダムは単純な動きを繰り返してバックパックが装着された機体の挙動を確認していた。
ハルドはからかってやろうとビームキャノンを使うことにした、キャリヴァーは背中に収まっている機首部を肩まで引き出すと、その機首に内蔵されているビームキャノンを、セインのブレイズガンダムに向けて発射した。
ビームは一直線にブレイズガンダムに向かって行き、直撃する。ブレイズガンダムはフルアーマー(仮)を外されているので、バリアがビームを防いだ。
「注意力散漫だな」
ハルドは通信でセインに話しかける。セインとしてはたまったものではない。
「死んだらどうするんですか!?」
「死んでないんだから、どうでも良いだろ。まぁそれは良いとして、慣らしに付き合え」
慣らしに付き合うと聞いてセインは嫌な予感しかしなかった。
「いや、僕は機体のテストがあるんで……」
「機体のテストってのは実戦形式でやるんだぞ?だから2人呼ばれたんだろうが」
もちろん嘘であるが、その辺りの事情に詳しくないセインは簡単に騙せた。
「……わかりました!やればいいんでしょう!?」
お、ヤケクソになったな。これをからかうのが面白いのだとハルドは知っていた。
「そ、やればいいの。俺の方はお前の機体のバリアが切れたら勝ちで、そっちはこの機体の頭か両腕、両足のどこかに弾を当てれば勝ちだ。もちろん胸に当ててコックピットに直撃させて俺を殺してもお前の勝ちだ」
「物騒なこと言わないでくださいよ」
とは言っても、本気で戦えば当てられるかもしれないとセインは思っていた。
このバックパックの性能は極めて良い。さっき何度か試してみたが、機体の機動性が格段に上がり、バリアのエネルギーゲージも上昇している。おそらく追加のパワーパックが内蔵されている。それに武装も増えたやってやれないこともないはずとセインは思っていた。
「んじゃ、行くぞ」
ハルドが開始の合図をした。その瞬間だった。ハルドの機体がビームサーベルを抜いてセインの目の前にいた。
速すぎっ!セインは対応を考えている暇もなく、ビームサーベルに斬られる。そう思ったが、ハルドはビームサーベルの刃を止めていた。
「流石にセインく〜んには、今のはズルかったな、ごめんごめん。今のなしで」
そう言うとハルドの機体は背を向けてブレイズガンダムから逃げていく。セインは思った。明らかに、おちょくられていると。
168ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/07(土) 10:36:26.81 ID:LthUwG370
「待てーっ!」
セインのブレイズガンダムのバックパックから青い炎が噴射され、ハルドのキャリヴァーを追う。
追いながら、セインのブレイズガンダムは追加されたバックパックに内蔵されたミサイルランチャーからミサイルを発射する、複数のミサイルはキャリヴァーに向かって一直線に飛んでいく。
「えーと、チャフは……これか」
追われるキャリヴァーのふくらはぎの部分が開き、チャフがばら撒かれる。チャフの効果により、ミサイルは進むべき方向を狂わされ自滅する。
セインはミサイルがチャフで妨害されたことに一瞬、気を取られた。そして、これが駄目だと思いだした。そしてそれを思い出した時には、チャフの向こう側からビームが飛来し、ブレイズガンダムに直撃する。
「はい、セイン君。今のは何点でしょう?」
「100点です。コックピットに直撃してました」
セインは奥歯をぎりっと噛みしめる。普通の機体なら今ので死んでいたということだ。ハルドはそれを言いたいのだ。
「自分の攻撃が当たると思わないことだな。半端に当たると思ってるから、防がれた時に驚くんだ。ほら、続きだぞ」
ハルドのキャリヴァーはまだ動き続けていた。脚を止めているのはセインのブレイズガンダムだけだ。新しいバックパックを貰ったというのにこのざまでは。
「うおおおおおお!」
セインはブレイズガンダムを最大出力に背中のゼピュロスブースターも最大出力で噴射させる。セインの身体に凄まじいGがかかるがセインはそれに耐え、ハルドのキャリヴァーを追う。
「熱くなりやすすぎだっつーの」
ハルドのキャリヴァーがバックパックからミサイルを発射する真上に打ち上げられたミサイルは一定の位置に達してから降下し、相手を狙う。この場合の相手とは当然ブレイズガンダムだ。
「それなら!」
セインは機転を利かせた、高速で動く今の状態ではミサイルを回避するような高度な戦闘機動は出来ない。ならば、撃ち落とす。
セインはそう判断し、ゼピュロスブースターに内蔵されたミサイルのロック向かってくるミサイルに設定し発射する。ミサイルをミサイルで迎撃する。
「勿体ねー」
ハルドはそう言う回避方法もあるが、ミサイルの無駄になるからやめた方が良いと思った。
「ハルドさん!」
セインの叫びと共に太いビームの線がハルドのキャリヴァーの横を通り過ぎる。ゼピュロスブースターに装備されているビームキャノンのビームである。
セインのブレイズガンダムは両脇の下からビームキャノンを抱えて持ちながら、それを連射しつつ、ハルドのキャリヴァーに向かってくる。
「それ当たったら、俺が死ぬって分かってんのかね、彼は」
ハルドはキャリヴァーを変形させて逃げることにした。高速移動の最中、機体の形態が変わり、キャリヴァーは戦闘機のようなフォルムに変わる。
「さて、追いつくか?」
キャリヴァーは最大の速度でブレイズガンダムから逃げる。対して、ブレイズガンダムはバックパックの力も使いながらそれを追う。
驚くべきことに、両者の距離は明らかに縮まり始めていた。
「可変機に追いつくって、どんだけバケモノ性能のMSだよ」
ハルドはブレイズガンダムの訳の分からないほど高いスペックに戦慄していた。おそらく、機体性能は時代が違うとしかハルドは思えなかった。そしてハルドがそんなことを思っている間にも、キャリヴァーとブレイズガンダムの距離は目と鼻の先になっていた。
追いつく、セインがそう思った瞬間だった。
「鬼ごっこをしてるんじゃないんだぜ」
キャリヴァーが変形し、急制動がかかる。セインのブレイズガンダムはキャリヴァーに追いつくどころか、追い越してしまった。
169ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/07(土) 10:38:30.27 ID:LthUwG370
「ばーか」
ハルドがそう言うと同時にキャリヴァーはビームライフルを発射する、ブレイズガンダムは高速で移動しすぎていたため、回避機動を取ることもできず背後にビームが着弾する。
「くそっ!」
セインが慌てて機体を立て直し、振り返ると、そこにはキャリヴァーはいない。セインはしまったと気づく。キャリヴァーは変形し、ブレイズガンダムの後ろに回り込み、機首部のビームキャノンを発射する。
セインはそれに対しても反応できず、ブレイズガンダムはビームの直撃を受ける。
「くそ、くそ」
セインは悪態をつくが全く相手になっていないことに歯噛みすることしか出来なかった。次に相手はどう動く、セインの頭はそれでいっぱいになりかけていた時だった。
「セイン、上だ!」
ハルドの声が聞こえてセインは上を向いたが、その直後、横からビームが飛来し、ブレイズガンダムに直撃する。
「くそ、卑怯だ」
セインがそう言った、瞬間、目の前にはハルドのキャリヴァーがいた。最初と同じ状況。セインはこの状況に対してビームサーベルを抜き放つと、目の前のキャリヴァーを薙ぎ払った。
だが、ハルドの操るキャリヴァー踏み込み、薙ぎ払いを潜り抜け、ビームサーベルでブレイズガンダムに斬りかかる。
ブレイズガンダムは回避するすべもなく、ビームサーベルの直撃を受ける。それと同時にバリアが弾けた。
「俺の勝ちだな」
ハルドは余裕の調子で言う。セインとしては言いたいことがあった。
「あの、『上だ!』は卑怯じゃないですか?」
これはセインとしても譲れない点である。それに対してハルドはというと。
「お前は俺の言うこと信用しすぎ、あれか、俺が死ねって言ったら死ぬのか?俺が嘘ついたことより、自分の状況判断能力の低さと対応能力の低さを反省しろ」
なんだか、いつもこんな感じでやり込められている気がするがセインは我慢するほか無かった。
「まぁいいや。テストもいいだろ。さっさと帰ろうぜ」
そう言うとハルドのキャリヴァーはノンビリとした動きで工業コロニーの宇宙港を目指して動きだした。それに続くようにブレイズガンダムも。しかし、セインには少し心配事があった。
「レビーさんとマクバレルさん、喧嘩してましたけど大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だろ。あいつら同棲してるぐらい仲良いし」
は!?セインはハルドの一言に驚愕した。同棲?あの2人が?いや冗談だろうとセインは思ったが、頭が混乱してきた。
セインの混乱はさておき、ハルドのキャリヴァーとセインのブレイズガンダムは無事に宇宙港に到着し、そのままMS製造工場まで戻った。
セインはレビーとマクバレルを見る。2人は別々の場所で仕事をしている。険悪な雰囲気は感じられないが、同棲、この単語がセインの頭を離れなかった。
2機が戻るとレビーとマクバレルは2人並んでパイロットの二人が降りてくるのを出迎える。
「どうだった?」
レビーが聞くがセインの頭はそれどころではなかった。
「反応が過敏すぎるな。もう少しマイルドにした方が乗りやすいか。あとは、防衛用の機体に可変機は向いてないからやめとけってだけ、基本的には良い仕事だったよ。人型での動きもスムーズで可変機にありがちとか言われる、関節の嫌なカクつきとか全くなかった」
ハルドはスムーズに答え、後でレポートにして渡すとレビーたちに言っているが、セインの頭は同棲だけで手一杯だった。
「ブレイズガンダムのほうはどうだ」
セインが答えようとしたが、頭の要領が別のことにさかれているので、考えがまとまらない。
170ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/07(土) 10:40:13.02 ID:LthUwG370
セインが中々答えないので、相手役のハルドが答えることとなった。
「バックパック自体の性能は問題なしだ。武装も調子が良さそうだし、最大推力時には可変機のキャリヴァーを追い越すくらいの速度が出る。
だが、少し重いかもしれないな。遠距離では問題ないが、中から近距離だとバックパックの重さと推力に機体が振り回される可能性があるが、そこはパイロットの技量しだいってことで、なぁセイン!」
「はい!」
セインは良く分からず返事をしてしまったが大丈夫だろうかと、周囲を見回すが大丈夫そうなので安心した。
しかし同棲か、同棲ということはこの2人は、そういうことをしているわけで、そう思ってレビーとマクバレルを見ると何だかセインは恥ずかしくなってきた。
うーん、きついきついぞ、この場は、セインはなぜかこの場から逃げ出したくなっていた。
「セイン君、何か聞きたいことある?」
レビーがセインに尋ねる。セインの頭は混乱しており、あ、聞いても良いなら一つききたいことがの調子で言ってしまった。
「同棲ってどんな感じなんですか」
セインは思わず言ってしまったことに言って、数秒経ってから気づいた。ハルドはお前って本当に馬鹿なんだなという目でセインを見ており、レビーとマクバレルはキョトンとした表情をしている。
「別に普通だけど。私たち同棲してるって言ってなかったかな?」
レビーは何でもないことのように言うが思春期の男子にとっては普通が一番困ると言いたかった。それに聞いてないぞとセインは思った。
「はいはい、おバカさん。頭を冷やそうねー」
ハルドはセインの後ろ襟を掴むと引きずって行く。
「じゃ、2人ともお疲れさん」
ハルドはレビーとマクバレルに別れの挨拶をするとセインを引き連れて帰っていく、そして帰る途中、人魚と海の男亭に寄ったのだった。

「いらっしゃいませー」
店に入ると、ウエイトレス姿のミシィがいた。セインはそれにも驚愕した。
「ミシィ、なんで!?」
セインは驚きながらもミシィの服装を冷静に観察していた、少し胸元の空いた白いブラウスに、フリルの付いたミニスカート。長い黒髪はポニーテールにまとめている。これはこれで大問題だとセインは思った。
「ヒマだから、昼間だけ働かせてもらってるの。アイリーンさんからも接客が良いって褒められるんだから」
接客が良い?接客ってどんな接客なんだ!?セインは頭が爆発しそうだった。
「ミシィ、コーラ2本、ツケで」
「はーい、承りましたー!」
コーラは瓶の物が2本すぐに来た。ハルドは栓抜きで瓶の王冠を外すとコーラに口をつける。対して、セインはボーっとしている。
ハルドはセインを正気に戻すために冷たいコーラの瓶をセインの首筋に押し当てた。すると悲鳴をあげてセインは正気に戻った。
「お前ねぇ、レビーも若いけど大人の女なんだから同棲したり、色々してるっつーの。いちいち驚くなよ。おまえ思春期にしても、ちょっと性欲が変な方に走りすぎ」
そんな説教をハルドから受けていると、ベケットがセインの存在に気づいて同じ卓に付く。
「なに、セイン君。とうとうやっちゃった?」
ベケットが興味津々だったので、ハルドが説明するとベケットは大いにウケた。
「そうかそうか、同棲に反応しちゃったか、若いなぁ、ホント♪」
2人の大人はどちらもセインに対して馬鹿にするような感じだが、セインにも言い分はある。
「だって、同棲ですよ!気になりませんか!?」
そう言われても、2人の大人は平然としている。
「あのなぁ、男と女だぞ。何があったって不思議じゃねぇだろ。もともと大騒ぎするような話しでもねぇの。それに本人たちが大っぴらに話してないんだから、それをこっちが勝手に大騒ぎするのは野暮なの。分かるか、お前は最高に野暮ったい野郎なんだよ」
そう言うと、ハルドはコーラを飲み干し、追加をミシィに頼む。セインはベケットに助け舟を求めるがベケットも肩を竦めながら言う。
「確かにセイン君は野暮だったかなぁ、同棲を隠してないにしても大っぴらにしてないんだから、勝手に騒ぐのは相手に失礼だし、妄想するのもほどほどにしておいた方が良いかなぁ。
後ね、同棲を大っぴらにしないってのは別れた時、気まずくならないようにするためでもあるからね。本人たちじゃなく周囲も破局したと分かると気まずくなるから」
171ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/07(土) 12:08:12.55 ID:LthUwG370
ああ、くそ、なんで大人は分かってくれないんだとセインはもどかしい思いに駆られていた。同棲、セインにとっては魅力的なキーワードである。
「うーん、でも、同棲ってことは赤ちゃん出来てすぐばれるから、意味ないんじゃ――」
そう言った瞬間、ハルドの手刀がセインの脳天を捉えた。
「そういう詮索や物言いが野暮だってんだよ!」
ハルドはとりあえずこのバカな弟子の脳味噌をスッキリさせ何も考えられなくなるよう、クランマイヤー王国を一周するまで帰って来るなという修行を課したのだった。

その夜、レビーはテーブルの上で野菜を切りながら、マクバレルに話しかけていた。
「同棲ばれちゃったかな」
「別にばれても構わんだろう。そもそも隠してもないしな」
「大っぴらにもしてないけどね」
レビーは車椅子のため、野菜を切るのにキッチンでは何かと不便であるため、テーブルを使っていた。レビーは野菜を切り終えると、鍋の中に順番など気にせずに入れる。機械に関しては繊細だったが、料理に関してレビーは大胆だった。
「まぁ、ほとんどが気づいていたのではなかろうか」
「セイン君が気づくのは無理だったみたいだけどね」
家の中では2人の呼び方はレビーとチャールズに変わる。同棲をしているといってもたいした話しではない。ただ相性の良い相手とずっといるだけの話しだ。
思春期男子の妄想を刺激するようなことも当然してはいるが、それについては語ることもない。
レビーが同棲生活で一番楽しいのは夜ベッドに入る時で、この時ばかりはマクバレルが紳士になり、車いすのレビーをベッドに乗せようとするのだが、毎回それが上手く行かずに、いつも言い訳をする。
レビーはマクバレルがする言い訳を聞くのが一日の一番の楽しみだった。同棲と言ってもその程度なのだ。
残念ながら、思春期の少年の燃え上がる心を満たすようなものはなく、レビーは心の中で何となくセインに謝ってしまった。

「同棲ねぇ」
アッシュはハルドと酒を飲みながら、何を下らないことをといった表情を浮かべていた。
「同棲の話しもいいが、偵察はどうした?」
アッシュはハルドに頼んだ仕事についてきいてみたが、ハルドは完全に忘れていた。
「明日行くよ、明日、セインと一緒にな」
「絶対だぞ」
アッシュはハルドに念を押すと椅子にもたれかかる、何か思うところがありそうな表情を浮かべる。
「しかし、同棲。同棲かぁ」
「なんだ、アッシュ大先生も思春期のガキ並に妄想か?」
ハルドはからかって言ってみたが、アッシュの思うところは違ったらしく、急にとんでもないことを、ハルドを見て尋ねる。
「きみの女性経験は何人ほどだ?」
アッシュが普段とは違い、とんでもないことを言いだしたのでハルドは目を丸くしながらも、とりあえず答えた。
「1人だけど」
そう言うと、アッシュの表情が一気に暗くなった。
「いや、1人だけど、したのは3年前で、それ以降はしてないぞ」
そうハルドが付け加えてもアッシュの表情は暗いままだった。暗い表情のままアッシュは言う。
「僕は21だが経験無いんだが、どう思う?」
どう思うと言われても、ハルドは困る。
「ああ、童貞なのか、としか思わねえけど」
そうハルドが言った瞬間、アッシュは酒の入ったグラスを机に叩きつけ、言う。
「そうだよ、童貞なんだよ!」
いや、キレられても困るとハルドは思った。
「くそ、3年の監禁がなければ僕だって恋愛して色々いたしてたはずなのに……」
どうしたんだ、コイツはとハルドは思った。
「ムラムラでもしてんの?」
「そりゃするよ!冷静に見えるが、女性を見たのも3年ぶりなんだぞ。色々妄想するだろ普通!」
監禁された経験が無いので、ハルドは分からないが、とりあえずキレるのは止めてほしいと思った。
172ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/07(土) 12:09:09.27 ID:LthUwG370
「ああ、もう彼女とか欲しいし、恋愛経験とかしたい」
「すればいいじゃん」
ハルドは簡単に言った。別にアッシュの見た目は悪いわけではない。むしろ良い方だ。監禁生活で痩せこけた体も今は元に戻っているわけで、アッシュの顔は精悍で男前と言った感じだ。
「そんな簡単にいくか!」
だからキレるのは止めてほしいとハルドは思った。
「ぶっちゃけると、アレがしたい」
あ、飲み過ぎだコイツとハルドは思ったが放っておくことにした。
「アレがしたいんだよ」
そりゃハルドだってアレがしたい時はあるが……
「自分で処理して一旦、冷静になろうぜ」
ハルドは解決策を提案したつもりだが、いまいち効果はなかった。
「1人でするのと、アレは違うだろ!というか1人でしても何か虚しくなるんだよ、最近」
重症だなぁとハルドは思った。
「ところで、実際、どんな感じなんだアレって、経験者の談を聞かせてくれないか?」
あ、すごい剛速球が来たぞとハルドは思った。答えたくはないが答えないと面倒になるだろうと思ったので、仕方なく答えることにした。
「俺の場合はなんていうか満たされた感じがしたな、お互いの欠けている部分が埋まっていくような充実感と満足感、そして愛しい相手と密着してるってことに幸福感を抱いた」
ハルドは抽象的かつ美化してその時の気持ち言った。
「くそ、いいなぁ、僕もしたいなぁ」
アッシュは酒をひたすらに飲む。
「やっぱり恋愛だよ恋愛。恋がしたいんだ」
じゃあ、すりゃいいだろとハルドは思い、ハルドも酒を飲む。
「ところで、話しは変わるが、レビーとマクバレルは、アレはどうしてるのかな?」
話し変えんなよとハルドは思ったが、アッシュは半ば酔っ払いなので仕方ない。しかしアッシュを酔っ払いと思うハルドも実際は相当に酒が回っていた。
「さぁなぁ」
想像はつくが考えるだけでも人間として最悪な気もハルドはしていた。
「しかし付き合ってたら、アレはするわけで、実際どうするんだろうな。口でするのかな?」
「口じゃね。いや、でも脚が動かないだけって聞いたような気もするし、アソコは普通なんじゃねぇ?」
男2人、最悪の会話をしていた。
「セイン君とミシィさんはどうだろう、してるのかな?僕はしてないと思うが」
「セインは無理だろ。頭悪いから身近な人間の好意に気づかないと思うね」
「あ、やっぱり?かわいい幼馴染なんて最高なのに気づかないなんて勿体ないなぁ。あ、なんか腹立ってきたぞ、セイン君に、これ嫉妬だな」
ハルドも何だか楽しくなってきていた。セインの癖に生意気だぞと思った。
「2人がいたし始めたら録画しようぜ」
「録画して、どうするんだ?」
「お前が1人でいたす時に使え」
そうハルドが言うと、アッシュはゲラゲラと笑った。もう何が何だか分からんとハルドは思った。
173ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/07(土) 12:10:01.57 ID:LthUwG370
「とりあえず、女を見つけようぜ、おんな」
「名案だな、候補は?」
アッシュが興味津々で聞く。
「ユイ・カトー」
「貧相なスタイルの女は嫌だ」
「セーレ・ディアス」
「運が悪そうな女は嫌だ」
「メイ・リー」
「誰だっけ、それ?」
「アイリーン・ジャクソン」
「気が強そうで嫌だ」
全滅じゃねぇか、とハルドは知っている女の名を挙げてみたが、駄目そうだと分かった。
「僕はあれだな、この屋敷の近くにパン屋があるだろ、あそこのパン屋の子がいいな」
パン屋の娘?とハルドは思い出す。確かにパン屋の娘はいたなぁと記憶を掘り起こすことに成功した。確か素朴な感じの可愛い女だ。栗色の長い髪を編んでお下げにしている。
「なに、ああいうのがタイプなの?」
「悪いか?」
悪くはねぇよ、じゃあ、誰だとハルドは思い当たるタイプの女を挙げる。
「第1農業コロニーで馬の牧場やってる家の娘」
真面目そうに働いている所が印象的な女だ。顔はとびぬけて美人という訳ではないが、普通に綺麗な顔だ。確かくすんだ金髪を肩までのショートカットにしているが派手な感じはなく地味だ。
「うん、その子もタイプだ」
「じゃあ、屋敷近くの小学校教師も好きじゃねえの」
「あ、見たことないが、どんな感じだ?」
「えーと、黒髪ロングで清楚な感じ、ピアノ弾いてるお嬢様っぽい」
「僕の好みにジャストミートだ!」
なるほどとハルドは思った。アッシュは清楚か素朴な感じの女が好み、とハルドは記憶した。
「3人も候補いるんだったら、大変だな」
「ああ、大変だ。これから作戦会議をしなくてはな」
そうアッシュが言い出し、夜中じゅうハルドとアッシュはアッシュの恋愛成就のための作戦を練り始めた。
しかし、結局、この夜に練られた作戦が実行されることはなかった。理由は単純にアッシュにあり、アッシュが女性に奥手でヘタレであることが判明し、作戦は実行できなかったのである。
「まぁそうだろうな」
そうハルドは思い、結局アッシュの恋愛関係の問題は解決を見ずに終わったのだった。
174ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/07(土) 12:10:31.54 ID:LthUwG370
29わ終わりです
175ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/08(日) 18:08:30.37 ID:MHCRioxG0
投下します
機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第30話

ハルドとセインはとりあえずだが、偵察任務に出ることとなった。前日は結局、機体のテストだけで、偵察のことなど完全に忘れていたハルドのミスであり、それを帳消しにするための偵察である。
ハルドは久しぶりにネックスに乗り、セインはブレイズガンダムにゼピュロスブースターを装着した状態で宇宙に出ていた。
「偵察って何を偵察するんですか?」
セインからは状況を知らないものからすれば至極まっとうな質問がでた。ハルドはしょうがなく答える。
「ロウマを逃がしちまったから、アイツが余計なことを騎士団の連中に言ってれば、騎士団がクランマイヤー王国の周りで何かやってくる可能性があるから、それを見てくるってだけの話し」
そう説明すると、セインは納得した。ハルドはついでにセインに巡回ルートのマップを送り、その通りに巡回して偵察しとけと言って、二機のMSは分かれて行動した。
「しかし、偵察って言っても、特にすることがないような気が……」
セインは指定された巡回ルートの宙域を回りながら独り言をつぶやいていた。実際、指定されたルートには何もなくクライン公国の軍の気配など全く感じなかった。
「うーん、一緒に来なければ良かったかな」
セインは若干後悔していた。ハルドからは偵察任務と聞いていたので期待して来てみたが、拍子抜けである。こんなことなら、ジェイコブ達と遊んでいる方がよかったと後悔していた。
しかし、セインが後悔をしていた時、セインのすぐそばでは、あるトラブルが起きていた。だがセインはそれに気づかず。通り過ぎてしまいそうになったが、かろうじて気づいた。何故ならミサイルがブレイズガンダムに直撃したからである。
「わりぃ、ごめんな!」
そんな声が通信から聞こえると同時にブレイズガンダムに宇宙船が激突する。
「はぁっ!?」
セインのブレイズガンダムは宇宙船に轢かれて引っかかり、そのまま連れていかれる。
バリアのゲージが大きく減っていることからダメージは相当だったようだが、ブレイズガンダムは一応無傷であった。
「え、なにこれ!?」
セインは状況が全く分からなかったが、ブレイズガンダムの引っかかっている地点からはこの宇宙船が、どこかのMSに追われていることが分かった。
「あ、生きてた?わりぃね。ちょっと助けて」
セインは何が何やらという感じであったが、とりあえず追ってくるMSを観察してみた、識別は所属不明機と出ている。
ならば、やってもいいかもしれないが、いきなり衝突事故を起こすような相手を信用してもいいのかセインは疑問だった。
こういう時はハルドに聞くのが一番面倒が無いので、ハルドに連絡を取ってみた。するとハルドの機体からはパイロットは睡眠中ですので、また後でという電子音声が返って来た。
まぁ、そう言う人なのでしょうがない。取り敢えず。追ってくる方は攻撃をしているようだったので、それは良くないとセインは素朴な判断で引っかかった状態から機体を立て直すと追ってくる機体の相手をするために機体を動かす。
176ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/08(日) 18:09:24.10 ID:MHCRioxG0
「お、サンキュー、良い人だね」
軽いなぁと思いながら、セインは敵となったMSを見る。どうやらゼクゥドのカスタム機のようだが、エースという気はしなかった。セインのブレイズガンダムは軽く狙いを付けてビームライフルを撃つと一機のゼクゥドの肩に直撃した。
すると意外なことに敵となった機体は、それだけで立ち去って行った。
「あれ、呆気ないな?」
セインは相手の動きが不思議だったが深く考えられるほど、セインの思考は戦闘用に出来ていないので、何となく逃げていったで済ませてしまった。
それよりも気になったのは自分を轢いた宇宙船であり、セインは事と次第を問いただしたかった。
「あ、ごめんね。俺、急いでっから」
いや、それは通らないとセインは思い、ブレイズガンダムのビームライフルを宇宙船に向けた。
「あ、やっぱり、急いでないや、ゆっくり行くよ」
急に言っていることが変わったぞ、この宇宙船の船長らしき男。声だけ聴くと若く感じるが実際は分からない。セインは怪しいような気がしてきた。
しかし、怪しい対象を見つけたとして、どうすれば良いのかセインは分からなかった。ハルドの流儀なら、とりあえず暴力であり、アッシュなら上手く話し合いをするだろう。だがセインは、そのどちらの方法を取れるほど性格や能力があるわけではなかった。
なので、とりあえず聞いてみることにしたのだった。
「えーと、急いでる理由と、追われてた?理由を教えてくれませんか」
我ながらノンビリとしているとセインは思ったが、こう聞く以外の方法が思いつかなかった。
「急いでるのは逃げてたから。追われてた理由は相手が怒ることをしたから。これでいい?」
これでいいのかと聞かれても尋ねたセインの方が分からなかった。これでいいのか?という疑問がセイン自身にもあった。
「あのさぁ、俺、追われてるから、逃げ込むところが欲しいんだけど、どっか良いところ知らない?」
宇宙船の男から尋ねられ、セインはそれなら分かるぞと思い、迷わず決断した。
「近くにクランマイヤー王国というコロニーがあるので、案内しますよ」
こうしてセインは見ず知らずの相手をクランマイヤー王国まで連れていくことになったのだった。

「……セイン君、きみは……うん、まぁいいけどね」
宇宙船が宇宙港に着くと同時にアッシュが大急ぎでやって来た。その顔色は極めて悪かった。アッシュはMSを降りてノンビリしているセインを見ると何か言いたそうだったが、途中でやめた。
アッシュに遅れ、姫とヴィクトリオが見知らぬ宇宙船が見物に来た。アッシュはそれをちょうど良いと思って、姫とヴィクトリオを自分の元に呼び、こう質問した。
「姫様とヴィクトリオは、知らない人を自分の家に連れてくるかい?」
すると姫とヴィクトリオは迷わず、すぐさま答える。
「連れてきません」
「連れてこなーい」
子ども2人の言うことは同じだった。そしてその答えを聞いたアッシュはセインを見るがセインは何のことだか、分からなかった。
177ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/08(日) 18:10:04.42 ID:MHCRioxG0
「セイン君が、ハルドに殴られる理由が分かったよ」
アッシュは呆れてそう言うと宇宙船の方へと向かっていった。セインは結局、何が何だかわからなかった。

「いやー、どうもどうも、お騒がせして申し訳ありませんね、皆さん」
宇宙船からは陽気に1人の男が降りてきていた。男は30前後といったところか、派手な模様のシャツにサングラスを額にひっかけ、明らかに染めたであろう色合いの茶髪を後ろになでつけた髪型をしていた。
アッシュは宇宙船の乗降口につけられたタラップの下で腕を組みながら、男が降りてくるのを待つ。その後ろには姫とヴィクトリオがいる。
「いやー、どうもどうも、この国のお偉いさん?若いのにすごいですねぇ、いやはや自分はもう尊敬しちゃいます」
陽気な男はアッシュを見つけると急いでタラップを降り、アッシュに揉み手ですり寄る。アッシュはこういう手合いが苦手というわけではないが、めんどくささを感じていた。
「お名前と、ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?現状、あなたは身分不詳の不法入国者で不審者なんですがね」
そう言うと、陽気な男はアッとわざとらしく驚いて見せると。アッシュに名乗りを始める。
「自分はそうですねぇ、まぁ名前なんか無いも同然ですが、こう呼んでください。“ストーム”嵐を呼ぶ男と」
この男はふざけているなとアッシュは思った。とりあえず、あとでハルドに会わせておこうと思った。ハルドならキレて何発かなぐってくれるかもしれないとアッシュは考えたからだ。
「職業は、アレですジャンク屋ってやつ。あと何でも屋?何でもやる何でも屋じゃなくて、何でも売る何でも屋です。たとえばお菓子とかもありますよ」
そう言うと、ストームと名乗る男はポケットを探るとお菓子を取り出した、するとアッシュの後ろにいる姫とヴィクトリオが目を輝かせる。
「お近づきのしるしに、そこのお嬢さんとお坊ちゃんに」
ストームはしゃがみ、子どもの目線になると、お菓子を差し出してみせる」
すると、姫とヴィクトリオは喜んで、そのお菓子を貰って去って行った。知らない人から物を貰ってはいけないというのに、アッシュはあとであの子ども2人には何か言わなければと思った。
「イケてる男は子どもにもモテるってね」
ストームという男は相も変わらず陽気な態度を見せている。アッシュは別にこの男が嫌いというわけではないが、少しはっきりさせないといけないことがあると思った。
「この国にはどういった御用でいらっしゃったのかを伺ってないのですが」
アッシュも意地が悪く言っているわけではない。余計な揉め事を持ち込まれたくないから、こうやって聞いているのだ。
「来た理由って、そりゃ、あれですよ。まぁなんつーか、商売?色々、売りたいものもありますし。……まぁ誤魔化せないと思うんで言いますけど、仕事のトラブルで追われてたんで、逃げてきましたってのが正しいんですがね」
正直に言ってくれるのはありがたいとアッシュは思った。最初、誤魔化そうとしたのはいただけないが、それは仕方ないだろう。だが、これだけでは信用できない部分もある。まだ、この男がクライン公国の回し者であるという可能性も否定できないのだ。
そうアッシュが考えていた時だった。セインに遅れてハルドがようやく帰って来た。ハルドも騒ぎを駆けつけたらしく、アッシュとストームの元にやって来た時だった。
「あれ、ストームか?」
ハルドは男の姿を見たと同時にその名前を言ったのだった。
178ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/08(日) 18:10:34.67 ID:MHCRioxG0
「ハルドの知り合いだったか、すまなかった。色々と取り調べみたいなことをして」
アッシュはハルドとストームが知り合いだと分かると、クライン公国の関係である危険は少ないと考えた。そしてハルドはストームとアッシュを誘い、人魚と海の男亭に飲みに出かけていた。
ハルドが言うには仲直りという理由だが、単純にハルドが昼間から酒を飲みたいだけだった。
アッシュも真面目だが、酒に関してはだらしない部分があり、飲みに行くとなると断れない男だった。
こうして、男3人、飲みに出かけたわけだが、なぜかセインも連れていくこととなり結局4人となって出かけることになったのだった。
「いやいや、こっちもアレな感じだったし、そっちが謝ることじゃないよ」
ストームという男はつくづく朗らかな男だった。成人組はビールをジョッキで頼み、クランマイヤー王国では夏の盛り、真昼間からビールをあおっていた。セインはというと机の隅で肩身が狭そうにコーラを飲んでいる。
「しかし、驚いたな。ハルドがこんなところにいるなんて、軍は辞めたのか?」
ストームがビールを飲みながら尋ねると、ハルドはつまみの唐揚げを食べながら答える。
「3年前に辞めた。つっても辞表とか出してないから、脱走兵扱い。アンタと同じだよ」
セインは横で聞きながら、ハルドが軍隊にいたと初めて知ったのだった。
「マジかぁ、大胆だなぁ、エルザはどうした。お前がいなくなるのなんて許さんだろ、あの女」
「俺がぶっ殺した。あの女、クライン公国に裏切りやがった」
Fuck!ストームが急に叫び、机を叩いた。
「あの女、よりによってクライン公国かよ。マジ許せねぇ」
どうやら身内話らしかったのでアッシュもセインも口を挟むことはせずに、自分の目の前の料理に手を付けていた。
「ストームはさぁ、前にクライン公国に捕まって、拷問受けてから、公国嫌いで頭もおかしくなっちまったの」
ハルドは平然とした顔でとんでもないことを言った。アッシュはそこまでの会話で理解し、気になったことを聞いてみた。
「ストームは地球連合軍だったということは分かったが、ハルドとのつながりが分からないな。ハルドは特殊部隊だったはずだろう?」
特殊部隊出身だったのか、その情報もセインは初めて聞いた。
「俺はアレ、特殊工作員時代に、ハルドと顔見知りだったってだけよ」
特殊工作員?アッシュはそれは初耳だった。ハルドもその特殊工作員だった時代があったということか?アッシュはハルドの方を見る。ハルドは空気を読んで答えた。
「俺は15歳から特殊部隊員をやりながら、特殊工作員もやってたっていう、兼業特殊工作員だったから」
特殊工作員だったのか、それもセインは初耳だったが、セインはそもそも特殊工作員が何をするか分からなかったので、聞いてみることにした。
「特殊工作員って何をするんですか」
「盗み、破壊、殺し、上からの命令があれば何でもやるのが、俺とハルドだったな。もっと綺麗な仕事をしてたやつもいるけど」
ストームが平然と答えた。そういうことを自分より年下のころからやっていたのか、とセインはハルドに対して畏敬の念を抱いた。
「まぁ、クソみたいな仕事だったよな、ストーム?」
「ああ、クソだった。実際に肥溜めの中を走ったこともあるしな」
壮絶な人生だなとアッシュは思ったが、一応食事もある場で肥溜めの話しは止めてほしかった。
ハルドとストームは昔話に花を咲かせていた。それはそれでいいものだとアッシュは思う。よくよく考えると自分には昔話をする相手さえいないのだから。
179ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/08(日) 18:11:31.06 ID:MHCRioxG0
「ハルドは才能無い方だったから、大変だったよなぁ」
「言うなよストーム。今じゃ、俺の方が上だぞ」
そうだったそうだったとストームは豪快に笑って見せるが、ストームの話しの中でセインは聞き捨てならない部分があった。
「ハルドさんの才能がなかったって本当ですか!?」
セインは前のめりになってストームに尋ねる。すると答えを返したのはハルドだった。
「本当だよ。俺は才能には恵まれてはいないっていうか普通か。まぁそんなもんだった」
セインはそれが信じられなかった、今では天才としか思えないほどの強さをもっているというのに。
「才無き者には努力しか無し。死は恐れ、傷つくことは恐れず、自らの流した血と汗、そして敵の返り血によって極限まで磨きあげた。それが今の俺って感じ?」
「おお、かっこいいねぇ、ハルド!」
ストームが茶化すが、結局は努力だけで、そこまで登りつめたということかとセインは理解した。ならば自分も、セインは自分を磨き上げれば、このハルドという男と同等になれるのではという予感を得ていた。
そのセインをストームは一瞬だが冷めた目で見た。だがそれは、本当に一瞬であり、誰も気づかなかった。
「酒もいいんだけどさぁ、俺の所の商品も見てくんないかな、最近、きびしくてさぁ」
ストームは酒が進んできたころにハルドらにそう言う。そういえばジャンク屋であったことをアッシュは思い出していた。
「いいんじゃね、行こうぜ、アッシュ」
ハルドは少し酔っているのか顔が赤くなっていた。それを分析しているアッシュの顔も赤い。
「僕は、遠慮します。トレーニングがあるんで」
セインはそう言うと、さっさと消えてしまった。ハルドは付き合いの悪い奴だなぁと思ったが、気にしないことにした。
「……俺らなんか目指しても良いことないのにねぇ……」
ストームは去って行くセインの背を見て、ぼそりと言ったが、その声は誰の耳にも入ってなかった。
ハルドとアッシュはビールを瓶で買い、それを飲みながら、ストームのジャンク屋があるという宇宙船を目指した。途中、レビーとマクバレルに声をかけてみた。2人はハルドらの酒臭さに辟易としながらもジャンク屋には興味があるようだった。
そんなこんなでクランマイヤー王国の4人がお客として、ストームの宇宙船まで来た。ストームは宇宙船の貨物室部分を開ける。するとそこに有ったのは明らかにマズい品物の数々であった。
「小型核弾頭ミサイルに陽電子砲、Nジャマーキャンセラー、その他いろいろ禁制品……」
アッシュは一瞬で酔いが醒めた、そりゃこんなものを積んでいたら誰からでも狙われるだろうと、アッシュは冷静になった頭で結論を出した。
「はは、相変わらず、やべぇな、ストーム」
「陽電子砲、欲しいな」
「私は、アルミューレ・リュミエールのコア部品が欲しいですね」
レビーとマクバレルは楽しそうに危険な品々の数々を見ているし、ハルドはハルドで、ストームと何故かハイタッチをしている。
「ジャンク屋が廃れるわけだ……」
アッシュは昔習ったことを思い出す、C.E.152現在、ジャンク屋はほとんど犯罪者として扱われている。元々、戦場跡で兵器を拾って、リサイクルする民間業者というだけで倫理的にどうかという問題があったが、近年ではそれがより問題視されているのだ。
180ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/08(日) 19:26:14.52 ID:MHCRioxG0
ジャンク屋の組合も力を失い、統制が取れなくなったジャンク屋がそれぞれ好き勝手やっているのが現状であり、その結果、過激なことをするものも増え、ジャンク屋は強盗や窃盗としかおもえないような行為にも及び、犯罪者まがいの真似までするようになっている。
その結果が犯罪者扱いだが、このストームという男を考えるとそれも仕方ないかとアッシュは思った。
「とりあえず、僕は正気に戻ったわけだが、これはヤバくないか?」
アッシュがそう言うとハルドが言葉を返す。
「ストームがヤバくなかったことなんてないぞ。こいつは平和な国に戦いを持ち込むのが仕事の男だったからな」
ああ、それで嵐を呼ぶ男か……アッシュは納得したが、納得している場合ではないということを思い出す。
「ほとんどテロリストじゃないか!」
「ほとんどじゃねぇよ、完全にテロリストだ」
ハルドが冷静に返した瞬間だった。コロニー内に警報が鳴り響く、そして宇宙港のゲートが外側から破壊された。
ハルド達も宇宙港にいるわけだから、影響がないわけがない。宇宙港のゲートが破壊された跡にはしっかりと、漆黒の宇宙が見えている。つまりは空気が一気に外へ流れ出すわけだった。
「ああ、俺のお宝……!」
ストームのジャンク品は全て宇宙へと放り出されていった。そして、ハルド達もそうなりそうだった。ハルドは適当な場所に捕まりながら宇宙に放り出されないように努力していた。そして叫ぶ。
「ストーム!お前が来るといつもこうだ!」
ハルドは先ほどまでの親密さはどこへ行ったのか、ストームへの怒りを爆発させている。
「皆さん大変ですね」
レビーは車椅子に座っているわけだが、一番余裕があった。レビーの車椅子はこういう状況も想定した造りになっているようで、車いすからアンカーが撃ちだされ、椅子を固定したうえでレビーの身体はベルトで車椅子に固定されていた。
マクバレルはレビーの車椅子に命綱をつけて余裕の体勢である。アッシュもかろうじて捕まる場所があったので宇宙に放り出されずにすんでいる。
「少しの辛抱だ。このコロニーは穴が開いたらその部分を塞ぐ、瞬間硬化剤が撒かれる」
アッシュは一応、全員に伝えた。そして、その言葉を言った直後、宇宙港に空いた穴から、何かがコロニー内に侵入してきて、ハルド達の横を通り過ぎていく。
「ハルド!何が入った!?」
「MS!数はわかんね!」
アッシュもMSだとは分かった。つまりはこのコロニーが攻められたわけだ。アッシュは飛ばされそうになりながらも懐から情報端末を取り出し、コロニーに警報を出す。
「侵入者だ!戦闘経験のある者はMSに搭乗し、侵入者の迎撃。民間人はシェルターに急げ!」
アッシュは情報端末から各所に指令を出す。だが、その指示に熱中するあまり、ウッカリと掴まっていた物から手を離してしまった。
「あ」
とりあえず、クランマイヤー王国所属の3人はアッシュが死んだと思った。
ハルドは借りていた金を返さなくて済むからラッキーだと思い、レビーは量産機の開発の許可をもらうのが面倒だったから、いなくなると楽になるかなぁと考え、マクバレルは特に何も思わなかった。
アッシュは自分が宇宙の方へと向かって吸い込まれるのを感じるのと同時に、不思議なことにゲス3人の考えを感じることができた。その瞬間、アッシュの脳が覚醒する。
181ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/08(日) 19:27:10.55 ID:MHCRioxG0
「ふっっざけるなぁっ!」
アッシュは直感でつかめる部分を把握し、そこに超人的な反射神経で手を伸ばし、掴まり、宇宙に放り出されることを避ける。
アッシュが久しぶりにSEEDの力を使った瞬間だった。その直後、瞬間硬化剤が宇宙港に空いた穴に撒かれ、穴は完全に塞がれ、酸素漏れもなくなる。これでハルド達は宇宙へと放り出されることが無くなったわけで、状況も元に戻る。
そして身の安全が確保されたら、ハルド達がすることは侵入者の撃退だった。

「くそ、侵入だって!?」
セインは慌ててノーマルスーツに着替えていた。ジェイコブたちは既に着替え終わって出撃している。
クランマイヤー王国が攻められることはあると聞いていた、実際にこんな場面に遭遇することをセインは想定していなかった。急いで機体に乗り込むが焦りが判断を遅らせる。
「ええと、コロニー内でビームライフルは厳禁だから、マシンガンか?」
セインは曖昧な判断でMS用のマシンガンを手にMSがいるという地点へと出発する。
セインはブレイズガンダムを飛行させながら、機体を向かわせるが、その最中にもメインカメラのモニターで敵の位置を確認する。
「……戦場には……なってないな!」
セインはほっと胸を撫で下ろす、この平和で美しいクランマイヤー王国が戦場になるなど耐えられないからだ。
セインのブレイズガンダムはゼピュロスブースターを最大加速にし、戦闘が行われている地点へと向かった。
「戦闘地点は、くそ、牛飼いさんの家か」
たまに牛乳を分けてくれる親切な農家だ。ここで戦闘を行いたくなかったがジェイコブたちは戦闘を始めている。
「どうなってるんだ、ジェイコブ!?」
「しらねぇよ!こいつらストームの積み荷と、俺らのMSを寄越せって!」
なんだそれは、セインも敵の姿を確認するがクライン公国の量産型MSであるゼクゥドが6機ほどであった。
「ストームを知らないって言ったら、暴れ出したんだ。それでMSを寄越せって大騒ぎで」
ペテロが答えマリアが続く。
「でも、こいつらたいした腕じゃないよ。私たちでも被害を出さずに二機をはやれる」
そうかそれならと、セインは少しだが安心した。その時だった。
「……貴公は勇者か……」
暗い声がセインの通信を通じてセインの耳元に届いた。
「……私は……勇者との……死闘を望む」
なんだ!?セインは異様な気配を感じて機体を気配の方に向けると、そこにはカスタマイズが施されたゼクゥドがいた。そのゼクゥドは華麗な装飾が施されているが、機体から発せられている気配は重く、苦しかった。
「勇者ではないけれど、戦えるぞ!」
セインは重い声の主に、そう言い返した。すると声の主は少し考える間をおいて、こう言った。
「では……私を……殺して……勇者に……なれ!」
その声が聞こえた瞬間、目の前のゼクゥドがセインの視界から消えた。
え?と、セインがなった瞬間には、そのゼクゥドはセインのブレイズガンダムの前にいて、見たこともない槍のような長柄の武器を振り上げていた。
「速すぎるっ!?」
セインは咄嗟にシールドでガードしたがブレイズガンダムは大きく後ずさりする。ゼクゥドのカスタム機である以上、パワーはそこまで怖いものでは無かった。しかし、動きが速すぎるとセインは思った。
182ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/08(日) 19:28:00.04 ID:MHCRioxG0
セインは近接戦闘は危険と思い、マシンガンを構えるが、その瞬間、敵のカスタマイズされたゼクゥドが投げた槍に、マシンガンが貫かれた。
「……遠距離戦は……無粋……」
重苦しい声がセインに届く、遠距離戦はしたくないってことかとセインは考えたが、それは声の主の考えとは違ったものであった。
「……グリューネルト……槍」
重苦しい声は通信で誰かを呼んだ。すると、どこからか二機のゼクゥドが現れ、そのうちの槍を大量に背負ったゼクゥドが背負ったうちの一本をカスタマイズされたゼクゥドに渡した。
「……さぁ……続きだ……」
再び、カスタマイズされたゼクゥドが動く、先ほどの一回で何とか目は慣れたのでセインは対応してシールドで防御しながら、ビームサーベルを抜き放った。
だが、その動きに対応し、ゼクゥドのカスタマイズ機は接近し、距離を詰め、左手に持った大型の盾で、ブレイズガンダムに体当たりする。
だがパワー負けはしない。ブレイズガンダムはゼピュロスブースターを使い、倒されないように踏ん張った。以前の二機のザイランとの戦いで倒されたら、終わりだと理解していたからである。だが、敵は違う動きを取った。
押し切れないなら引くだけ、カスタマイズされたゼクゥドは急にバックステップで後退した。そのため、ふんばっていたブレイズガンダムは一機だけで勢いを出している状態になり、前につんのめった。
そして、その瞬間、カスタマイズされたゼクゥドが槍のような武器を高く上げ、ブレイズガンダムの頭部に振り下ろす。
セインはそれを回避することは出来ず、バリアに頼るしかなかった。振り下ろされた武器はブレイズガンダムの頭部に直撃し、バリアのゲージを大きく減らした。

「ハルド、おいアレ、あの機体だ!」
アッシュは急いで現場へ向かう途中、ハルドに指さしでカスタマイズされたゼクゥドを示す。
「ゼクゥド・クルセイダー?」
ハルドは機体の名前を呟く。それは聖クライン騎士団の隊長クラスのパイロットにのみ渡される機体。
だが、今時、そんな機体に乗っている奴など聖クライン騎士団にいないはずとハルドは考えた。聖クライン騎士団は最新鋭機を常に貰っているのだから、今更ゼクゥドに乗っている人間などいないはずだと考えた。
「ハルド、あの機体の周りの二機を見ろ。きみも戦ったと聞いたぞ」
アッシュに言われ、ハルドはゼクゥド・クルセイダーの周りを動く二機のゼクゥドに目をやった。その内片方は右肩に大型のシールド、そして背中に大量の槍を背負っている。そしてもう片方は左肩に大型のシールドで背中に大量の対艦刀だ。
ハルドはこの組み合わせの三機を知っていた。
「あの、騎士野郎か!」

頭部に槍の直撃を受けた直後、それ以上の追い討ちを、このゼクゥドはしてこなかった。舐めているのかとセインは思うが、それにしては攻撃には本気さを感じる。
「セイン、こっちは終わった。そっちに――うわっ」
ジェイコブのフレイドが背中に槍を背負ったゼクゥドに動きを阻まれる。
「何やってんの、兄さん!私がセインのフォロー――ああっ!」
マリアのフレイドが背中に対艦刀を背負ったゼクゥドに動きを阻まれる。
「たぶんだけど、そのパイロットさんは一対一がしたいんじゃないかな。それで部下に邪魔させてると思うよ」
ペテロのフレイドはノンビリと観戦といった体だった。この中で一番腕が立つ癖にとセインは思ったが、そんなことを考えても仕方ない。
セインはブレイズガンダムをちゃんと立たせ、ビームサーベルを構える。すると、カスタマイズされたゼクゥドは動き出す。
こっち待ちなのか?セインは敵の意図が良く分からなかったが、何とか槍をシールドで防ぐ。するとシールドでブレイズガンダムが思い切り殴られた。
殴りもありなのか!?セインは敵のパターンをこれで読んだつもりになったが、それは甘かった、シールドによる打撃でブレイズガンダムが後ずさりをすると稲妻のような速さで突きが放たれた。
183ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/08(日) 19:28:40.78 ID:MHCRioxG0
「速っ!」
思わずセインがそう言ってしまうほどの速さの一撃である。当然パイロットがその速度に驚愕しているのだから、ブレイズガンダムには避けようがなく、その槍の一撃を食らう。
「ちくしょう!」
セインは威勢よく叫ぶとシールドを捨てると、ブレイズガンダムにビームサーベルの二刀流をさせる。とくに考えはなかったが、シールドがあっても相手の攻撃の起点になるだけなので、セインはシールドを捨てたのだった。
「来い!」
セインが叫ばなくても、敵は動いていた。槍による頭部を狙った薙ぎ払い、ブレイズガンダムはそれを避けずに片手のビームサーベルで受け止め、反撃にもう一方の手に持ったビームサーベルで突きを放つ。
しかし、それはシールドで受け流された。そして、その直後に槍が振り下ろされる。セインのブレイズガンダムはかろうじて反応し、槍の振り下ろしをバックステップで回避した。だがそれは悪手であった。振り下ろされた槍の軌道は途中で止まり、突きへと変化した。
衝撃がブレイズガンダムを襲う、槍の突きが直撃したことによるものである。
セインは敵が想像を絶するほどに強いことを理解した。機体性能の差を考えれば、あのザイラン二機のコンビの1人より上のような気がしていた。
どうやって相手をする?セインがそう考え、機体を立て直した瞬間に敵が襲い掛かってくる、相も変わらず速い挙動である。
初手はシールドによる打撃、セインのブレイズガンダムはそれを防御する手段が無いので、バックステップで回避する。すると直後に槍による突きが飛んでくる。
セインはビームサーベルでそれを何とか反らし、突きの直撃を免れるが、相手はその直後にはシールドを前にしての体当たりに及んでいた。
これも避けようがなく、セインのブレイズガンダムは体当たりの直撃を受け、地面に倒される。セインは急ぎ機体を立て直そうとしたが、その前に敵の槍が突きつけられていた。
「……機体のシステムか……命を何度か拾っていることを……忘れるな」
そう言うと、カスタマイズされたゼクゥドは槍を引いて、背を向ける。
セインのブレイズガンダムは立ち上がり、背を向けた相手に向かって、ビームサーベルを両手に持ち、突っ込んでいく。
だが、相手は一顧だにせず、無造作に槍を振るって、セインのブレイズガンダムを弾き飛ばすのだった。
「……相手にならん……」
そう言って、カスタマイズされたゼクゥドが立ち去ろうとした時であった。一機のフレイドがカスタマイズされたゼクゥドの前に立ちふさがった。
「じゃあ、俺の相手をしてもらおうか――?」
通信から聞こえてきた声はハルドの物であった。
「イオニス・レーレ・ヴィリアス!」
184ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/08(日) 19:30:03.37 ID:MHCRioxG0
30話終了です
雑魚相手には無双できるけど、エース相手にはボコボコのセイン君の活躍はもう少し先です
185ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/09(月) 16:49:32.27 ID:0TUSV3hf0
投下します
機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第31話

知り合いなのか?セインはハルドが名前を呼んだことを疑問に思った。その瞬間だった、セインの目の前からカスタマイズされたゼクゥドが異常な速さで動き、フレイドに向かっていく。
「……私の名を……呼ぶな!」
長い槍の一撃が高速で放たれ、ハルドのフレイドを襲うが、ハルドのフレイドは海賊の仕事で使う、フレイド・プライベーティアのヒートサーベルを抜き放ち。槍の一撃を細身の剣で受け流す。
「腕が落ちたな、騎士野郎……腕というよりは心かな」
ハルドのフレイドは剣一本で相手をするつもりにセインは見えた。しかし、それで、この相手が倒せるのかという疑問があった。
やべぇな、とハルドは思う、腕は落ちているような気がするが、殺気と殺意が3年前とは別物に鋭い。接近戦はなるべくしたくなかったが、ヘタな遠距離戦はクランマイヤー王国の国土に傷をつけることになる。
とりあえず、このイオニスという名前らしい、パイロットを何とかすれば状況は解決のようだが、それにしたってこの男と格闘戦は……さすがのハルドもイオニスの実力を3年前に戦って知っている以上、迂闊なことはしたくなかった。
ハルドのフレイドはヒートサーベルを片手にゆっくりと間合いを整える。そもそも武器が悪いとハルドは思う。フレイドの手に持っているのは海賊らしく見えるように作られたサーベルで見た目はいいが強度が不安だった。
ハルドのフレイドとイオニスのゼクゥド・クルセイダーは二機ともに軽い動きで間合いを調整していた。だが、不意に、ゼクゥド・クルセイダーの方が動き出した。
ハルドは間合いを読み違えた!?と錯覚したが、実際にはゼクゥド・クルセイダーは強引に距離を詰めて、槍――セインがそう誤解していた武器、ビームハルバードを大きく横に薙ぎ払う。
「こえー」
ハルドのフレイドはしゃがみこんで、その薙ぎ払いを潜り抜けて回避し、反撃にヒートサーベルの突きを放つが、シールドで防がれる。
ハルドはここまで誘いだと感じ、迷わず、機体を大きく後ろに跳躍させる。すると、その直前まで、ハルドのフレイドがいた場所を短く持ったビームハルバードが下方向への突きで貫いた。
しかし、イオニスの攻撃はこれで終わりではなかった、地面に突き刺さったハルバードを思いきり振り上げて見せる。するとその勢いでハルバードが刺さった場所の土が飛び、飛んだ土はフレイドのメインカメラにも直撃した。
「やべ!」
ハルドは久しぶりに戦闘で驚いた。MS戦でこんな原始的な目つぶしを食らうとは思っていなかったのだ。ハルドのフレイドのメインカメラには土が付着し、一時的に視界が悪くなっていた。
「……貰ったぞ……勇者……」
一瞬の動きの乱れ、それをイオニスは狙ったのだろうが、ハルドはまだ余裕がある。見えなくとも、何となくは相手の姿がわかる。
それに勇者というセリフを聞いた、3年前の昔も戦った時に聞いたセリフだ。そのセリフを聞いてハルドはまだ、相手が正気であると考えた。
イオニスのゼクゥド・クルセイダーはハルバードの突きを放つ。セインが全く対応できなかった高速の突きである。ハルドはかろうじて見えた軌道を頼りに、その突きを回避した。そ
れが精一杯であり、反撃は出来なかった。
「きっつー」
フレイドで高スキルの格闘特化型パイロットとやるのがこんなにきついとはハルドは思わなかった。機体の大きさが邪魔になって、軽快な動きで相手に付いていくということが、このフレイドのサイズだと難しかった。
「機体変えてー」
と今更言っても仕方ないできるならば、相手を変わってもらいたかった。できることなら、アッシュにだ。
186ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/09(月) 16:50:47.27 ID:0TUSV3hf0
アッシュ・クラインは久々に戦闘に参加していた。搭乗する機体はキャリヴァーである。キャリヴァーはアッシュの思い通りに動き、それを駆って戦場となっている場所までたどり着いたわけだが、状況は良く分からなくなっていた。
ただのゼクゥドがジャンク屋崩れだということは何となく理解した。そしてイオニスは用心棒というところなのだろうが、そのイオニスは雇い主が敗れたのに戦いをやめようとしていなかった。
アッシュが知る限り、イオニス・レーレ・ヴィリアスという男は、正気かどうかは怪しいが、このような集団に加わる男ではなかったはずだった。
何よりも騎士の誇りを――そう思い、アッシュはある種の納得を得た。おそらく自分と同じだろう誇り高き聖クライン騎士団が崩壊していくの目の当たりにし、心が耐えられなくなり、今のようになってしまったのだろうとアッシュは予想した。
アッシュの予想は間違いなく事実であり、イオニス・レーレ・ヴィリアスは騎士団の堕落とともに心を病んでしまっていた。もはや生きる価値なしと死を求める屍の戦士と成り果てていたのだった。
アッシュは状況を変えるには、どうするべきか考え、とりあえずイオニスの侍従のグリューネルトとエルスバッハの動きを止めること考えた。
「僕が変わろう」
アッシュはグリューネルトと戦っている、ジェイコブの機体に通信で下がるように言うと、アッシュのキャリヴァーはグリューネルトのゼクゥドと対峙した。
「さて、久しぶりだが、行けるか?」
問題はないとアッシュは感じていた。秘密にやっているハルドとの模擬戦も、何とか互角にはやれている。能力的にはリハビリは完了して元通りのはず。
ならば、グリューネルトの相手など、どうということはないはずとアッシュは思う。
「止めます」
アッシュとしてはどうぞという感じだ。グリューネルトの機体にはこちらを落とそうという殺気が感じられない、アッシュからすれば全く怖くない相手だった。
アッシュの機体はグリューネルトのゼクゥドに真っ直ぐ突っ込んでいく、グリューネルトのゼクゥドはビームライフルで、アッシュのキャリヴァーをけん制するがアッシュは避けることもせず、突っ込む。所詮は時間稼ぎの牽制射撃にすぎないと思ったからだ。
突進したアッシュのキャリヴァーは、思い切りグリューネルトのゼクゥドが持つシールドを蹴り飛ばした。衝撃でグリューネルトのゼクゥドは後ずさるが、防御の姿勢はそのままだった。
そこにアッシュのキャリヴァーの追撃が入る。アッシュのキャリヴァーはグリューネルトのゼクゥドを飛びこし、背後を取ろうと動くが、グリューネルトのゼクゥドの対応も速く、即座に背後にシールドを構えた。
その時だった、空中に飛び上った瞬間にキャリヴァーが変形を始め、無理やりに減速を始め、結局は跳躍せずに、元の位置に立つ。そこはグリューネルトが背後に警戒を感じ、後ろを振り向いたため、今はグリューネルトのゼクゥドの背後となっていた。
「詰みだ」
背中を向けているグリューネルトのゼクゥドを背後からアッシュのキャリヴァーはビームサーベルで、めった切りにする。コックピットを除いてだ。それでグリューネルトのゼクゥドは完全に機能を停止した。
「お見事です」
「貴方も相変わらずの忠臣ぶりだ」
アッシュはグリューネルトにそれだけを伝えると、ジェイコブにグリューネルトの介抱を頼み、この戦闘地帯から去り、機体を可変し、エルスバッハの元へと向かった。
187ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/09(月) 16:51:41.14 ID:0TUSV3hf0
「……えーと、出てくれますか」
ジェイコブは何だか良く分からなかったが、とりあえずビームライフルをコックピットに向けたまま、パイロットに降りるように言った。
すると降りてきたのはメイド服の女性であった。まだまだ若いジェイコブはメイド服にやられてしまい、それからずっとメイド服に悶々とした日々を過ごすことになるのだった。

「ああ、もう、なんで、ちゃんと攻撃してこないのよ!」
マリアの苛立ちは限界だった。相手のゼクゥドはこちらの攻撃を軽く回避する癖に、攻撃は適当な時間稼ぎである。
ちゃんと攻撃してきたなら、相討ち覚悟で仕留めてやるのにとマリアは、いささか危険な考えを持って戦っていた。その時だった。
「マリア、僕と変われ」
アッシュの声が聞こえ、マリアはすぐさま、機体を後退させると、その前を、MA形態のキャリヴァーが地面ギリギリを飛んでいった。
「アッシュ大臣ですか」
「そうだが、大臣はやめてくれ」
本当に大臣はやめてくれとアッシュは思いながらエルスバッハのゼクゥドを見据え、キャリヴァーを低空軌道のまま、突っ込ませた。
地面ギリギリを飛ぶのにアッシュも恐怖感がないわけではないが、それでもアッシュのキャリヴァーは地面ギリギリを飛びながら、エルスバッハのゼクゥドに向けて加速する。
エルスバッハのゼクゥドは大型のシールドを構え、受け止める体勢だ。心意気はいいとアッシュは思うが、考え方が甘い。アッシュはそう思いながら、機体を操作した。
アッシュのキャリヴァーがMA形態のまま激突するかと、見えた瞬間、キャリヴァーは変形しながら、シールドを構えるエルスバッハのゼクゥドを飛び越え、それと同時にビームサーベルを抜き放つ。
そして、すれ違いざまにエルスバッハのゼクゥドの両腕を切り落としたのだった。
「これで終わりですが、どうしますか?」
着地したキャリヴァーのコックピットからアッシュが尋ねる。返ってきた言葉は簡潔だった。
「降参する」
それが聞ければアッシュは十分だった。
「マリア、後は頼む」
そう言うと、アッシュはキャリヴァーを変形させて、最後の戦いが行われている所へと向かった。残されたマリアは、呟いた。
「かっこいい……」
飛び去っていくキャリヴァーとそのパイロットであるアッシュに向けて。

「うらぁ!」
ハルドのフレイドはヒートサーベルを思い切り、叩き付けていた。そして同時に蹴りであり、さらに蹴りの後にヒートサーベルの一撃が飛ぶ。
セインはそれを観戦していたが、化け物じみた速度の攻撃であるが、それを全て捌くカスタマイズされたゼクゥドのパイロットも相当だと思った。
「いいねぇ、少し、本気出すぞ」
ハルドは戦いながら、頭の中で血が通ってはいけない場所に血が通るような感じがしていた。久しぶりに手加減なしで、充分以上に満足に殺せる相手だとハルドはイオニスを認識していた。
「うらああああああああああっ!!」
ハルドは叫び声を出す、全周波通信、誰にも聞こえる通信だった、セインはその声は獣の咆哮のようにしか思えず、アッシュは危険の兆候だと思った。アッシュは急ぎ機体をハルドとイオニスの戦場に向かわせた。
「しゃあっ」
フレイドがあり得ない速さで動く、MSには決められたスペックがあるはずなのにとセインは思うが、エースパイロットその一部の怪物たちはそれを軽く凌駕していく。
フレイドの動きは速すぎた。この時初めて、ゼクゥド・クルセイダーは盾ではなく槍を使って防御をした。
188ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/09(月) 16:52:15.48 ID:0TUSV3hf0
「おっせぇ!」
ハルドのフレイドはサーベルを持たない手で思い切り相手を殴り、体勢を崩させると、同時にヒートサーベルがゼクゥドを襲う。
放たれた攻撃は突きだった。それをゼクゥドはハルバードを手放し、手のひらで受け止める。
「クソが!命がそんなに大事か!?」
ハルドのフレイドはヒートサーベルを手のひらから引き抜き、再度、相手を突き殺そうと狙っていた。だが、その横合いからハルドのフレイドに一機のMAが激突する。
「選手交代だ、ハルド」
激突したMAはアッシュのキャリヴァーであった。アッシュのキャリヴァーはハルドのフレイドを無理矢理に戦場から弾き飛ばすと、MS形態に変形し、イオニスのゼクゥド・クルセイダーに並び立つのだった。
「思い出しませんか、イオニスさん。僕はその機体を見ると思いだします。騎士団にいたころの無垢な自分を、正義に殉じていた頃の自分を。あなたはそうではないのですか」
「……言うな……アッシュ……私は、耐えられなかったよ、今の騎士団の任務に……」
それで良いとアッシュは思った。アッシュが知るイオニスはそれをしてはいけない男だ。
「やり直しましょう!ここでだったら、やり直せる!」
そうアッシュが言った直後だった。貫かれた手にハルバードを持ち、ゼクゥド・クルセイダーが動き出す。
対して、アッシュのキャリヴァーはシールドを捨てビームサーベルを二刀流に構えていた。
「最後まで戦う。それでいいんだな!」
勝手な奴だとアッシュは思う、騎士団の時代の頃から勝手な人間だと思っていたが、ここでそれを見せるなとアッシュは憤り、脳内が覚醒しSEEDの力が解放される。
SEEDの力の感じ方には色々な種類があるというがアッシュは世界を遅く感じるタイプのSEEDだった。
突きで放たれるハルバードもゆっくりと見え、そして、その動きに合わせるようにビームサーベルを振るう。
そしてゼクゥド・クルセイダーの片手は斬り飛ばされ、ハルバードごと遠くへと飛んでいった。
勝負はついた。これでいいのだ。殺す必要は無い。アッシュがそう思うと、ゼクゥドのパイロット、イオニスは憑き物が落ちたような晴れやかな顔でハンカチを使い白旗を振っていた。そうこれで良かったのだとアッシュは思った。こうして戦闘は終結した。

終結したあとには問題が色々あるわけだが、アッシュは久々の戦闘で疲れたこともあり、ハルドに面倒を任せた。
面倒を任せた相手は、今回クランマイヤー王国を襲ったジャンク屋であり、ハルドは適当に拷問をして、二度クランマイヤー王国の名前が言えなくなるようにトラウマを刻んだという。
アッシュは気持ちや戦力的にイオニス、グリューネルト、エルスバッハの三人を手放したくなかったので、とりあえず姫に面会をさせた。
「大変な道のりでしたね」
姫はそう言って、イオニスの頭を撫でた。それだけでイオニスは号泣し、お供の二人も涙を露わにした。
そして直後にアリッサ・クランマイヤー姫とクランマイヤー王国に忠誠を誓ったのだった。
アッシュは単純な決着だと思ったが、イオニスの性格を考えれば姫など高貴な女性に説得させれば簡単に落ちるだろうことは予測できた。
まぁ、そんな単純な人間でも頼りにはなる。騎士道精神がいささか斜め上に行っていて、思い込みも激しい狂人ではあるが、戦力としても裏切りをしない人間としても、充分以上に信頼できるのがイオニスという男であるとアッシュは思ったのだった。

イオニスとの戦いを終えた後、ハルドはマクバレルの元に直行した。
「それで、色々と不満があると聞いたが」
マクバレルは不機嫌な顔をして色々と面倒な客を迎えていた。ハルドは機体に対する様々な不満と、ある注文をマクバレルに伝えた。
「まぁ分かるがな、貴様用の機体を開発するとなると時間がかかるぞ」
マクバレルは背を向け言った。
「時間は任せる。アンタが考えた俺用の最高の機体を造ってくれ」
ハルドはマクバレルに完全に任せることにした。自分専用の最高のMSの開発というもの。そうやって、水面下でクランマイヤー王国の軍備は次第にすすんでいくのだった。
189ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/09(月) 16:52:47.28 ID:0TUSV3hf0
「さてと、イザラちゃん。進捗状況はどうなのか、説明してちょうだいな」
ロウマ・アンドーは久しぶりにアフリカの土を踏んでいた。今は間借りしている武装勢力のアジトを会議室として、ガルム機兵隊の面々を集めていた。
「北と西アフリカの七割の武装勢力を壊滅させました」
イザラが答えると、ロウマはつまらなさそうな表情をありありと浮かべていた。
「何、順調なのつまんねー。俺はキミらが失敗して俺に泣きついてくるのを期待してたんだけどな」
ロウマはガルム機兵隊の面々にはとにかく士気を下げるセリフを言い続けていた。
「まぁ、いいや。ところでキミら悪いことやってない?」
ロウマは急に態度を変えると、ガルム機兵隊の面々を見回した。ガルム機兵隊の面々には何も身に覚えがない。
「いや、俺は悪いことやってんだよね。NPOとかからの支援物資の食糧を毒入りの奴と交換してみた。そしたら、キミらが制圧してない残り三割の土地の人間?ていうか土人か。そこの奴らバタバタ死んでるらしいぜ」
ロウマは平然と最悪なことを言ってのけた。ガルム機兵隊の面々は善悪の問題以前にロウマを見て、コイツは頭がおかしい……としか思えなかった。
「でさぁ、交換した支援物資の食糧、こっちは毒入りじゃないやつね。それを地元の有力者に横流ししたら、大儲けで俺の懐は潤いまくり」
つくづく最悪だとガルム機兵隊の面々は自分たちの指揮官を見て思った。ロウマの方は、もっと受けるかと思っていたため、何か面白くない様子だった。
「まぁ、いいよ。やったのは俺じゃなくてキミらってことになってるから」
ロウマの最後の言葉に、ガルム機兵隊の面々は全員が、訳の分からないといった表情になる。
「書類とか見てたらさぁ、この悪事を主導したのはイザラちゃんで、他のガルム機兵隊の面々も関わってることになってんのよ。いやぁ、怖いねぇイザラちゃんがこんなことするなんて」
ロウマは飄々と言ってのけるが、その場にいたものたちは冷静ではいられない。
「アンドー!貴様!」
イザラがロウマを怒鳴りつけ睨むが、ロウマはヘラヘラと笑っていた。
「なんだよ、殴らない程度の分別はあるのか。つまんね。イザラちゃんの綺麗な顔をボコボコにできるとワクワクしてたのになぁ」
ロウマは、言うことは言ったという体で立ち上がる。ガルム機兵隊の面々が睨みつけているのも完全に無視してだ。
「とりあえずキミらには、これで戦争犯罪を犯している疑惑が生まれたわけだ。まずいよね、民間人を無差別に毒殺とか、死刑レベルだよ。まぁ、俺の言う通りに動いてればこれが表に出ることもないわけで、だから俺の言うことを聞いてみんな頑張ってね」
そう言うと、ロウマはさっさと部屋を出ていくために歩き出そうとしたが、あ、と言って立ち止まる。
「今度、ナイロビで地球連合の代表者たちが集まる会議があるんで、キミらはその会議に際して色々と仕事があるから、よろしく。俺は宇宙で作戦を高みの見物という立場だから、適当に頑張ってね。じゃ、さよなら」
そう言うと、ロウマはガルム機兵隊の面々の視線など気にもせず、さっさと部屋から出ていってしまった。
部屋に残されたガルム機兵隊の面々の間には重苦しい空気が漂っていた。
「言っても仕方ないが、弱みを握られ、奴の下についたが、弱みがどんどんと累積していくぞ」
ドロテスが煙草を携帯灰皿に押し付けながら言う。イザラは何も言わず机を叩いた。
「私たち詰んでませんかー?」
アリスが軽い声で絶望的な一言を言う。ガルム機兵隊の面々はその通りだと理解していたが、口に出したくはなかった。
「……給料とか休みとかいっぱいあって、いいけどよ。ロウマの旦那に完全に弄ばれてるよな」
ギルベールも流石にウンザリした様子だった。とにかくロウマ・アンドーのタチが悪すぎるのがガルム機兵隊の抱えている問題だった。
「……ロウマ・アンドーに死んで欲しいと思っている者は手を挙げろ」
イザラは取り敢えず聞いてみた。当然のごとくゼロ以外の全員が手を挙げる。部隊の統率は取れている、それだけが彼らの救いだった。
190ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/09(月) 18:53:40.77 ID:0TUSV3hf0
「騎士とは労働するもの!」
イオニス・レーレ・ヴィリアスは気が狂ったように畑を耕していた。
「いやぁ、労働は気持ちがいいなぁ!」
イオニスは晴れ晴れとした笑顔を浮かべながら、額の汗を拭いていた。
ハルドはその光景を見ながら、アッシュに、イオニスを指さして見せ、その後に自分の頭を指さして見せる。
「いや、イオニスさんは正気だ。ただ、まぁ、あんな感じだから、アレな人だと思って応対したほうが良いな」
アッシュはそう言うと、イオニスと関わりたくないので、ハルドを連れてその場を去った。
「それで、どうすんの?地球に行くわけ?」
ハルドとアッシュは歩きながら話しをしていた。
「まぁ、そうなるだろうな。色々とやらないといけないことは山積みだが、僕が行かないとどうにもならないしな」
「戦力的には俺も行った方が良いんだろうが、あいにくと脱走兵扱いなもんでな、地球連合の会議には流石に行けねぇよ」
ハルドとアッシュは地球へと行く話をしていたのだが、なぜこのような話となったかは、朝にさかのぼる。

「いろいろ考えたんですが、地球連合と仲良くしましょう」
クリスティアンが、朝っぱらから唐突にそんなセリフを吐いた。集まっていたのはクランマイヤー王国を動かしている人間たちであり、当然、アッシュとハルドも含まれていた。
「朝っぱらから随分と楽しそうだな、クリス」
ハルドがクリスに皮肉交じりで言うが、クリスは一向に気にした様子は見せなかった。
「ええ、楽しいですよ。皆さんには内緒で地球連合に打診していた事柄についての返事が、ついに帰って来たんですよ!」
そう言われても、集まったほとんどが、はぁ……?という感じにしかならなかったし、アッシュに至っては色々と言いたいことがあった。
「クリス君は何を勝手にやっているんだ!そういうことは、報告・連絡・相談をして行うようにと、いつも言っているだろう!」
アッシュが怒ると、クリスはまぁまぁと手でアッシュをなだめる仕草を始めた。ハルドは何となくその態度がむかついたので、常備しているナイフをクリスに向かって、当たらないように投げた。
「ひぃ!」
クリスは必死になって避ける。すると、いつの間にかクランマイヤー王国の一員となっていた。ストームがハルドの真似をしてナイフを投げる。
「ひぃ!ってなんでアンタまで!」
クリスは避けながら叫ぶが、ストームはキョトンとしていた。
「あれ、これって、そういう流れじゃないの?」
ストームの常識ではナイフが投げられたら、自分も投げて良いということになっているようだった。
「昔を思い出すぜ。ロシアで公国のクソヤローにダーツしようぜ。的はオマエってやってたころが懐かしい……」
ストームは1人で昔を思い出す状態になっていたので、流してクリスは話しを進めることにした。
「まぁ、報告しなかった、僕が悪かったです。すみませんでした」
謝って済む問題なのかとセインは思ったが、アッシュは頷いているので許される問題なのだろうとセインは思うことにした。
「悪いと思ってんなら死ね」
「騎士なら腹を切るぞ!切腹の準備だグリューネルト、エルスバッハ!」
ハルドとイオニスがとんでもないことを言いだす。セインはふとエースパイロットになるには頭がおかしくないとなれないのかと、ハルドとイオニスの二人を見て思い、それならエースになれなくても良いかもしれないと思った。
「皆さん、悪口はダメですよ。いじめは見過ごしません!」
最終的に姫が、とりなしたのでハルドとイオニスは黙り、ストームも現実に戻ってきた。クリスは本気で切腹をさせられそうになり、半泣き状態になっていたが、姫が助け一命を取りとめた。
191ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/09(月) 18:54:43.33 ID:0TUSV3hf0
「話しを続けますね」
クリスは平気な様子を装って言うが、体は震えているし、顔面には冷や汗が残っていた。
「打診した事柄は、クランマイヤー王国も地球連合の代表者会議に参加をお願いするというものです」
とりあえず、全員黙ってクリスの話しを聞いていた。
「簡単に説明すると、クランマイヤー王国も地球連合の会議にゲストとして参加して、地球連合の後ろ盾を得ようということです。会議の議題にクランマイヤー王国への支援も加えてもらいました」
ここで、セインが気になったのでクリスに質問をした。
「なんで、今更、地球連合の協力を得ようとするんだ?」
「単純にクランマイヤー王国だけだと、影響力が弱いからです」
そう言うと、クリスは自分の構想を皆に発表し始めた。
「クランマイヤー王国は現在、色々な人の協力によって、それなり以上の力を持つコロニーにはなりました。ですが、クライン公国からの防衛になった際にはたしてクランマイヤー王国だけの戦力で守り切れるのかという疑問は消えません。
僕は、場合によっては他のコロニーが保有している戦力をこちらに回してもらうということを考えています。戦いは数ですからね。本音を言えば地球連合軍が手を貸してくれるのが理想ですが、助けたところで旨みの無い田舎コロニーに兵力は回さないでしょう。
なので、クランマイヤー王国の周辺のコロニーと軍事的な協力関係を築き、有事の際には兵力を派遣してもらいたいのです。そのためにはクランマイヤー王国がただの田舎コロニーではいけません。助ける旨みがないですからね。
だから、地球連合の後ろ盾を得ることで、クランマイヤー王国はただの田舎コロニーではなく、地球連合の御墨付きある立派なコロニーであるということを周辺のコロニーに示し、助ける旨みがあると思わせるのです」
クリスは長々と説明したが、セインはいまいち分かっていなかった。あとで説明してあげるからと、隣に座るミシィがセインに言った。とりあえずセインはそれで良いことにした。
「地球連合の御墨付きを得るということは、クライン公国とガチで戦うことを表明することにもなるが、それに関しては?」
ハルドが質問するが、クリスは平然と答える。
「どうせ、いつか攻めてくる相手です。むしろ態度をはっきりさせた方が、周辺コロニーやその他の勢力に対してアクションを起こしやすくなると僕は重います」
その答えに対して、ハルドは興味なく、あっそう、と言って終わりにした。
アッシュは頭を抱えており、クリスに尋ねる。
「あのなぁ、こういうことは事前に行っておかないとダメだろう。一応僕に話しを通しておいてくれよ」
そうアッシュが言うとクリスは悪びれる様子なく、すいませんと言うのだった。
「と、まぁ、これが僕の伝えたいことですが、皆さん賛成してくれますか」
そう言うと、全員が手を挙げた。何人かは内容が全く頭に入ってなかったが、とりあえず手を挙げていた。
「では、ナイロビでの地球連合代表者会議には参加ということで、それでは姫様、よろしくお願いします」
「はい!」
勢いよく返事をしたが姫は何が何だかわかってなかったうちの1人であった。
「おいおい待ってくれ、姫様を会議に参加させるのか?無理だろう」
アッシュがそう言うとクリスは当然のように返す。
「そりゃそうです。会議に参加するのはアッシュさんですから」
アッシュは、はぁ?となった。冗談じゃないぞとアッシュは思う。そもそも自分は亡命の身のはずだと思ったが、そんなことは関係ないらしいと、アッシュは場の雰囲気で理解した。
192ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/09(月) 18:55:40.21 ID:0TUSV3hf0
「アッシュは防衛大臣から摂政にクラスチェンジな」
ハルドがそう言うと、満場一致で拍手が起きた。
「防衛大臣はクリスさんですね」
姫も訳が分かってないのに、そんなことを言いだす。
アッシュは本気で冗談ではないと思ったが、誰も冗談と思っている者はおらず、アッシュ・クラインは無事にクランマイヤー王国の摂政となったのだった。
「とりあえず、防衛大臣の初仕事で地球行きのメンバーを決めますね。姫様とアッシュ摂政は当然として、一応の護衛にセイン君とセーレさん、ジェイコブ三兄弟も行きますよ。あとコナーズさんに地球への降下艇を操縦してもらいます」
ハルドはいないのかと全員が思ったが、ハルドは苦笑して首を横に振って言う。
「俺、脱走兵だから、地球連合やつらが多いところはまずいんだよ」
つまりは、クランマイヤー王国は最強の戦力の1人を置いて出発するということになるのかと、多くのものが、不安を感じた瞬間だった。

そして、時は進み昼頃、ハルドとアッシュは連れ合って歩いていた。
「まぁ俺がいなくても大丈夫だろ、摂政様がいりゃあな」
「次に摂政と言ったら、怒るぞ」
アッシュは疲れ切ったように眉間を抑えていた。拉致されて気づいたら摂政とは訳が分からないな人生は、とアッシュは考えざるを得なかった。
「ま、複雑に考えずに、地球観光でもするつもりで行って来いよ。こっちはこっちで勝手にやってるからさ」
それが一番心配だとアッシュは思う。ブレーキ役がいないのを良いことに好き勝手をしそうな人間ばかりだからだ。
「僕は一応だが、各所の見回りをしてくる」
「そうか、俺は酒場でメシ食ってるから、終わったら来いよ」
そう言って、ハルドは去って行った。そしてアッシュは地球行き直前に色々と念を押しておかなければいけない人物の所へ行くことにした。

「どうも、アッシュ摂政」
ここでも摂政かとアッシュはウンザリする気分だった。
レビーとマクバレルは珍しく、MSを弄っていなかった。2人が眺めているのは、この間、鹵獲した戦艦である。
「とりあえず、これをウチの艦に直しときますね」
レビーが普通に言う。それに対してアッシュは、ああ頼む、と言いそうになったが、冷静に考えると窃盗である。
「くれぐれも、クライン公国の艦だとばれないように改修してくれ」
仕方ない仕方ないんだとアッシュは苦渋の思いで、そう言った。なにせクランマイヤー王国に戦艦を建造するような時間と予算は無いわけで、ある物を奪って使うしかないのだ。
「とりあえず、何事もやりすぎないように」
アッシュはレビーとマクバレルの二人にそう言って、去った。
次はユイ・カトーである。このゲス女は平気で公金を横領するからタチが悪い。
「横領?してませんよ」
平気な顔で嘘をつく、アッシュはどうしてやろうかと何度も思うが、ユイ・カトーがいないと国が回らないので、どうしようもない。必要悪というものだと思って見逃すことにした。
「とりあえず、何事もやりすぎないように」
「わかりました!」
返事だけは良いんだよなぁ、このゲス女とアッシュはウンザリしながら、その場を去った。
そして最後に向かったのは酒場である。よくよく考えたら一番マズい人間が自由の身になっていることを思い出したのだった。
ハルド・グレン。とりあえずヤバい人間である。そのヤバい人間は普通に食事をしていた。
「おう、早かったな」
ヤバい人間は気軽に挨拶をしてくるが、とりあえずアッシュは言っておかなければならないことがあった。
「とにかく、余計なことはするなよ」
アッシュは念押しのつもりで言ったが、ハルドは何言ってんだという感じであった。
とにかくアッシュは自分が帰って来るまで国がマトモであるといいなと思いながら、ヤケクソ気分で昼間からビールを頼んだのだった。

そして数日が経ち、アッシュと姫は護衛の何名かと一緒にクランマイヤー王国を出発した。アッシュは最後まで危険人物たちに、余計なことはするなと念を押したが、無駄だった。
アッシュがいなくなると同時にクランマイヤー王国の危険人物たちは好き放題を始めるのだった。
193ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/09(月) 18:56:48.42 ID:0TUSV3hf0
31話終了です
次回から何となく地球編です
194通常の名無しさんの3倍:2015/02/09(月) 20:40:15.58 ID:1PmGSgEL0
>>EXSEED
投下乙です!
30話を読んで、アッシュはMS乗らないのかなーと
思ってたとこだったので活躍が読めて良かった
カッ飛んだキャラ達のなかで唯一の常識人なせいで
胃痛が酷そうなアッシュにも春が訪れるといいなと思います
あとガルム機兵隊が相変わらず仲良くて笑いましたw
195ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/11(水) 16:55:42.69 ID:kjakvFSx0
投下します
機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第32話

「地球って楽しみです」
地球への降下艇の中、姫ははしゃいでいた。一度も行ったことのない場所は楽しみなのだろうとアッシュは思った。
「地球ってどんな感じの場所なんですか?」
セインもわくわくとした気分を抑えられないようでアッシュに尋ねる。他のものも聞き身を立てている。アッシュは地球へ行ったことがあるのが、自分とクリスだけなのかと気づいた。
「別に普通の場所だよ。そんなにコロニーと変わりないさ。ただ、地平線に沈む夕陽だけは、もう一度、見てみたいかな」
少しカッコをつけた物言いになってしまったが、アッシュの本心としてはそんなものである。アッシュ自身はコロニーと地球の違いをたいして気にしたことが無かった。
「やっぱりカッコいい……」
マリアがぼそりとアッシュを見て呟いた。それを横で聞いていたセーレもなんとなく同意した。
「確かにアッシュ殿は男前だな」
セーレは普通に言ったが、それが間違いである。
「セーレさん……まぁ、いいです」
マリアはセーレの鈍感さに付き合いきれなかった。女同士というのに理解力が無さ過ぎると言いたかった。しかし、言っても仕方ないのでマリアは諦めた。勝手に諦められたセーレはどうしようもなかったが、それにすら気づかなかった。
そんなこんなで数日が経つ。クランマイヤー王国から地球までは降下艇の速度では、数日がかかった。アッシュとしてはノンビリとした旅と考えるようにしたが、若者はそういう訳にも行かず飽きはじめていた。
しかし、そこへ、コナーズの艦内放送が入る。
「えー、もうすぐ地球、地球です。とりあえず降下するんでシートベルトをよろしくお願いしますね」
降下艇内の全員がシートベルトをして、降下に備える。圧力はすぐに来た。大気圏突入の圧迫感である。アッシュは別段何ともないが、初めてのものは少し慌てていた。
「少しの時間だよ」
アッシュが軽くそう言うと、慌てている者も落ち着いた。そして実際、少しの時間で、大気圏突入は終了した。
「はーい、地球でーす。シートベルト外していいですよ」
コナーズが船内放送で伝えると、皆がシートベルトをはずし、降下艇内の窓に駆け寄り、外の風景を見る。
こんな上空じゃ見えるものもないとアッシュは思ったが、初めて地球に来ればこうもなるかと思った。
「んじゃ、アフリカのナイロビに降下します」
ナイロビか、とアッシュは考える。会議を開くにはあまり良い場所ではないなと思った。
「ナイロビは下策ですね」
気づくと隣の席にはクリスが座っていた。クリスも地球生まれなので、外の景色には興味が無いようだった。
「キミもそう思うか」
「当然です。ナイロビは南アフリカ統一機構の首都で地球連合の重要な一画ではありますが、クライン公国の手が伸びてる北アフリカと西アフリカの現状を考えると、ナイロビは位置的に危険が大きいですよ」
アッシュは眉間に手を当て考える仕草を見せてから、クリスに言う。
「それでも、ナイロビの会議を選んだ理由があるんだろう?」
そう言うとクリスは肩をすくめる。
「残念ながらタイミング的にここしかなかったというだけです。僕の予想ではアフリカは近いうちに落ちますね。そうなると、クライン公国は宇宙の統一に動き出すので、早いうちに地球連合と話しをつけるにはこの会議しかなかったわけです」
となると、危険は大きいという訳か。そうアッシュが思った直後だった。降下艇を衝撃が襲った。
196ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/11(水) 16:57:42.01 ID:kjakvFSx0
「ちょっと距離が遠すぎですねー、外しましたー」
アリスはノンビリとした声で、イザラに報告する。イザラは別に気にしなかった。
「まぁ、そういうこともある。外したなら無視でいいだろう」

アッシュは急いで降下艇の操縦席へと駆け込み、コナーズに尋ねる。
「何が起きた?」
「攻撃です!どこからは分かりませんが、航行には影響はないです!」
そうは言っても、攻撃を受けた以上、漫然と飛んでいるわけには行かない。
「上昇は?」
「――無理です!どっかが、いかれました!」
アッシュは操縦席の窓を見るが、段々と高度が落ちている気がした。

「あれ?かすったみたいですよー、あの船、高度が落ちてますねー」
「じゃあ、もう一発狙ってくれ」
イザラは取り敢えずの指示をアリスに出した。

「状況が悪いな……」
アッシュは現状を考え指示を出す。
「MS隊発進!ジェイコブ三兄弟は降下艇の護衛。僕とセーレ、セインは、砲撃してきた相手を仕留めるぞ!」
そう言ってアッシュは急ぎ、降下艇の格納庫へ向かった。

「あれ、MSが降りてきますねー」
アリスは、自機の強化されたメインカメラに映った映像を隊長代理へと報告する。
「ふむ、やはり戦闘部隊が乗っていたな。この時期にナイロビに来るならそうだろうと思ったよ」
イザラの乗るクライン公国のMSシャウトペイルが右肩の大型シールドとバックパックを連結させたサブフライトシステム“ブースターボード”に乗る。
「全機は揃ってないが、ガルム機兵隊、戦闘用意だ!」

「いけるか、セイン君?」
アッシュはキャリヴァーに搭乗し、ブレイズガンダムに搭乗しているセインに尋ねる。
「風があるのが、なんとも、変な……」
「変に風を意識しないことだ。MSの推力の方が上だから、大丈夫。それより砂の上での戦闘だというのを忘れるな。出撃前に足裏の設置圧を砂上に設定するんだ」
それを言い終わるとアッシュのキャリヴァーは降下艇から飛び降りた。続いてセーレのフレイド大気圏内仕様が飛び降り、それに遅れてセインのブレイズガンダムが飛び降りる。
「ジェイコブ、やることは?」
「降下艇の護衛です!」
アッシュは言いたくないが、最低の命令を下した。
「弾が降下艇に飛んで来たら、自分の機体に直撃させてでも、弾を止めろ!いいな!」
「了解です!」
そう言っている内に、砲弾が降下艇に向かって飛んできた。アッシュのキャリヴァーは何でもないことをするように砲弾をビームライフルのビームで撃ち落とす。
「むむー、多分あたりませんよー、イザラさーん」
アリスが報告するが、イザラも見ていた、肩と腰に翼を持った見たこともない灰色のMSが砲弾をビームライフルで撃ち落としたのだ。
「おもしろそうだな」
イザラの口元に笑みが浮かんだ。あの灰色の翼持ちは並の腕ではなさそうだとイザラは思い、ガルム機兵隊各員に伝える。
「灰色鳥は私の獲物だ。誰も手をだすなよ!」
そうイザラは言うと、乗機のシャウトペイルを高速で飛翔させた。
「灰色鳥って?」
ギルベールがドロテスに聞く。ドロテスは煙草を口に咥えに火を付けて、一服してから答える。
197ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/11(水) 16:58:41.42 ID:kjakvFSx0
「翼が四枚あって灰色だから灰色鳥なんだろ」
ドロテスはギルベールの頭でも分かる程度の説明をしてやった。これで分かるだろうとドロテスは思った。しかしイザラも直情的だ。隊長代理としてあれでいいのかとドロテスは思う。
しかし、隊長代理ではない自分たちは同じ真似をしても何の問題も無い。
「ドロテスよぉ」
「奇遇だな、俺も見つけた」
ドロテスとギルベールの2人は、仕留め損ねた獲物を見つけたのだった。
「ガンダムタイプは俺とドロテスだ!邪魔ぁすんな、アリス!」
ドロテスの操る褐色のザイラン、ギルベールの操る赤色のザイランがセインのブレイズガンダムに向かって飛びかかって行った。
「勝手な人たちだなー」
アリスはコックピットで頬を膨らませていた。するとアリスの目の前に、大型のMSが降りてきた。
「私の相手してくれるんですかー、でもー、私って強いですよー」
アリスのピンクのザイランの前にはセーレのフレイドが立ちふさがっていた。
「一応、私も強い方だがな」

「ひっさしぶり三流!」
ギルベールの赤いザイランが右手に持った鉄球を、セインのブレイズガンダムに投げつけてくる。
ブレイズガンダムは鉄球を受けることはせずに、回避の選択肢を取った。そしてセインはここが問題の瞬間だと理解している。
「俺たちを忘れてないよな。三流」
この二機は連携してくる。セインは、この後の敵の攻撃は予想がつき、即座に回避運動に徹する。そして褐色のザイランがビームライフルを二丁持ちで連射してくるのを全て回避した。
そして回避したタイミングで、赤色が仕掛けてくる。セインは頭の中でこの二機との戦いは何度もシミュレーションしていた。
そしてそのシミュレーション通りに赤色が突撃してくる。だが、これはフェイントだとセインは思い、赤色は無視して機体を大きく後退させると、ブレイズガンダムのいた場所をバズーカの砲弾が通り過ぎていった。
「へぇ」
「おお」
ギルベールもドロテスも感心した声を出した。反撃こそされていないが、攻撃が全て回避されたことに対しての賞賛である。
「三流から二流ってとこじゃね?」
「まぁ、もう少し試してから判断だな」
赤色のザイランと褐色のザイランは共に地面に着地した。セインのブレイズガンダムも着地する。空中で下から攻撃されるのはセインが怖かったためである。
「高さの有利を捨てるか?」
「下からの攻撃されんのこえーんじゃね」
通信はセインにも届いている。その通りだとセインは認めて、相手の動きを伺う。この二機を相手に先手を取るのにセインは恐怖があった。
この二機の連携は想像を絶するレベルで高い。二機が一つの機体のように動くとセインは感じていた。迂闊な攻撃や動きは手痛い反撃の元となる。セインはそう考えていた。
「動かねーんなら、こっちからっと」
赤色のザイランが鉄球を投げる――ふりをして、褐色の機体がビームアックスを投擲する。それと同時に赤色のザイランがウインチクローを発射する。
セインは盾を捨てることにした。ビームアックスの投擲をブレイズガンダムがシールドで受け止めた直後にシールドずらし、わざとウインチクローをシールドで受ける。
「ありゃ、釣り失敗」
相手の声が聞こえた瞬間、ウインチクローのワイヤーをブレイズガンダムのビームライフルで焼き切る。
198ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/11(水) 16:59:14.74 ID:kjakvFSx0
「ばーか、耐ビームコーティングぐらいしてあるって、あれぇ!?」
ブレイズガンダムのビームライフルはいくつかのモードがある。セインはその内のバスターモードを使い、通常の三倍の威力のビームでワイヤーを焼き切ったのだった。
「甘く見過ぎだ」
ドロテスの声と共に褐色のザイランがブレイズガンダムに突っ込んでくる。
片手にビームアックス、片手にビームライフルという装備。セインもブレイズガンダムに同じ装備をさせる。右手にビームライフルそして、左手にビームサーベル。
「この距離の戦いは好きか」
褐色のザイランは目と鼻の先である。敵の声が聞こえた。セインは頭の中で答える。大嫌いだと。
褐色のザイランのビームライフルの銃口がセインの目に映る、それと同時にブレイズガンダムはビームライフルで相手のビームライフルを殴り、銃口を無理矢理に下へと向ける。それと同時にビームアックスがブレイズガンダムを襲うが、その速度は対応できる範囲だった。
「遅い!」
セインが叫ぶと同時にブレイズガンダムの左手のビームサーベルは切り上げられ、褐色のザイランの顔面にかすり傷をつける。
その途端に褐色のザイランは後退をし、赤色のザイランと並び立つ。
「ギルベール、二流だな」
「ああ、ドロテス、二流だ」
二人の声が聞こえた瞬間だった。セインは二機のザイランから圧倒的な殺気が発せられるのを感じた。
「名前を聞いておこうか二流」
セインは殺気に気圧されながらも、答える。
「セイン・リベルターだ」
セインは喉を振り絞って答えた、それほどまでに、目の前の二機の圧力は異常だった。
「オーケー覚えた」
「こちらもだ」
二人のパイロットの声が聞こえた瞬間だった。セインは今までにない危険を感じた。間違いなく、殺されると、そんな予感に襲われたのだ。
だが、その直後、何が起きたのか、二機のザイランはブレイズガンダムに背を向けて去って行った。
「悪いがこちらは仕事持ちでな、遊びはできん」
「次は楽しくやろうぜ、セイン」
褐色と赤色のザイランの2機は去って行った。セインには訳が分からなかった。だが、あの二機と渡り合えた、それはセインにとって大きな成果であった。

アッシュの目の前には長大な対艦刀を持ち、サーフボードのようなサブフライトシステムに乗った見たことのない機体が迫っていた。
アッシュは対艦刀の存在を危険と判断し、接近戦はしたくなかったため、相手から距離を取ることを選択したかったが、空中戦ではサーフボードに乗った敵の方が速かった。
「そらぁ!」
対艦刀が横薙ぎに振るわれたのを、アッシュのキャリヴァーは空中で宙返りするように回避し、その最中にビームライフルで反撃する。しかし、相手の速度の読みが足りないのかビームは空を切る。
「やめてくれないか、こちらはクライン公国の敵対国ではないし。こちらの船にはVIPが乗っている。攻撃はやめてくれ」
よくよく考えればおかしい話しである。これからクライン公国の敵になるための会議に行く上に、そもそも自分が摂政で世間的に見たらVIPだ。
「関係は――」
長大な対艦刀が尋常ではない速度で閃く。
「ない!」
アッシュのキャリヴァーはそれでも容易に対艦刀を回避する。相手の腕が悪いとは思わないが、勝負にならないとアッシュは思う。少なくともハルドと同じレベルの相手でなければ戦いにはならないとアッシュは思った。
199ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/11(水) 17:00:11.81 ID:kjakvFSx0
「私を舐めているのか!」
対艦刀とサーフボードを使った高速の攻撃は読みづらく、恐ろしく速いが、それだけでアッシュは別に怖いとも思わなかった。
「舐めてはいない。キミの実力の高さも評価しているが、僕の相手にならないだけだ」
そして、アッシュは自分の中の力を解放する。。それはSEEDの力だ。力が解放された瞬間世界の速度が自分の物になるような感覚をアッシュは得た。
そして、その感覚に任せて機体を操縦する。動きは別に大したものではない。ビームライフルをしまい、ビームサーベルを二刀流に構え、アッシュの感覚ではゆっくりと動く相手をビームサーベルで切り刻むだけである。
そして時間の間隔はアッシュからイザラへと移る。イザラは何が起こったのか分からなかった。気づいたら機体は凄まじい衝撃を受け、両腕を失っている。一瞬だった。一瞬でこれか灰色鳥!イザラは歓喜を覚えていた。
「家なんかどうでも良い。そうだジュール家なぞどうでも良い。お前が欲しいぞ灰色鳥!お前を必ず私の前に屈服させ、私の物にするぞー!」
落ちていく機体の中からの声はしっかりと聞こえていた。アッシュはゲンナリとする。図らずも狂人をまた一人作り出してしまった。神は自分を狂人処理機にしたいのかとアッシュは絶望の思いに囚われるのだった。

セーレのフレイドは砲弾の雨を突っ切り走っていた。
「おねーさん。すごー」
敵からの賞賛も悪いものではないと思いながら、セーレのフレイドは新装備といって渡されたビームスピアをピンクのザイランに突きつけた瞬間だった。ピンクのザイランは不可思議な動きで、スピアの軌道を避ける。
「その重武装でなぜ!」
セーレは理解ができなかった。アリスは久しぶりマトモに付き合ってくれる敵にサービス精神で説明した。
「重武装だから、体捌きだけで回避しないとー」
そうアリスが言うと再び砲撃が開始され、その中をセーレのフレイドを駆け抜け、アリスのザイランに一太刀を入れようとする。
その瞬間だった、アリスのピンクのザイランが全ての武装をパージした。
「こういう勝負がしたいんですよねー、おねーさんー」
全ての武装がパージされたアリスのザイランはスマートに見えた。しかし物騒にビームダガーを握っている。
「良くないな」
アッシュはそう思い、上空から、セーレのフレイドとピンクのザイランの間にビームライフルを撃った。
「キミらの隊長らしき人物は僕が落とした。一度撤退してくれ」
アッシュがそう言うと、以外にも敵は素直に撤退をしたのだった。

「ああ、灰色鳥、灰色鳥、灰色鳥……」
撤退の最中、イザラはずっと灰色鳥と呟いていた。
「セイン、いいじゃん」
「ああ、面白くなってきた、あのセインとか言うガキ良いぞ」
アリスは自分だけ、面白い相手と会えなくて不満だった。
しかし、まぁいいだろうとアリスは思う。この後のナイロビの戦いがあれば面白い相手などいくらでも見つかると思ったのだった。

「コナーズさん、降下艇は大丈夫ですか?」
「まぁ飛ぶのは良いですが、MSを今更乗せろってのはどうも無理が」
アッシュは仕方ないと思った。ナイロビまでの距離はそれほどでもない。MSは個別に推進剤を使いながら、飛行し降下艇を追う形となった。
みっともないが、アッシュたちは無事にナイロビに辿り着いた。そして直後に尋問が始まる。当然である。MSを展開したまま首都に突っ込んで来れば普通の神経なら尋問なりなんなりするだろう。
アッシュたちが尋問でウンザリし、誤解を解いて無事にホテルに帰ると、ホテルの部屋には先客がいた。
「アラン・マイルズ中佐です」
そう名乗ったのは長身でさっぱりとした角刈りの男性であった。アッシュは自分たちの監視役だと思った。こう言う時ハルドがいると外傷を与えない拷問で精神的に屈服させてくれるのだが、いないのが惜しかった。
アッシュは一応伝えておくべきことを、マイケルズ中佐に伝えた。
「クライン公国部隊とナイロビ近郊で接触しました。会議に際しての襲撃があると思われるので警備は厳重に」
アッシュは取り敢えず伝えたが、マイケルズ中佐の反応は曖昧だった。アッシュは役に立たないと即座に判断し、その日は眠りについた。
200通常の名無しさんの3倍:2015/02/11(水) 17:39:58.51 ID:YxRY2AG70
支援
201ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/11(水) 17:48:53.00 ID:kjakvFSx0
ロウマ・アンドーは宇宙の軌道上の要塞で面倒な降下部隊の編成を行っていた。
「くそ、うぜぇ、全員死なねぇかな」
そんなことを言いながらもロウマは編成を完璧に仕上げた。
「降下部隊の編制、終了しました」
ロウマは敬礼をして報告をする、相手はロウマより階級の上の相手だからだ。
リオネル准将、たいした武功もないが、家柄で准将に登りつめた相手だ。ロウマはこの男が死ぬほど嫌いだった。
「ご苦労、アンドー大佐」
リオネル准将はそれだけ言うと、ロウマを見る。
「きみもなかなか大変だね。准将の席が空かなくて、苦労してるそうじゃないか」
その声を聞いた瞬間、ロウマはこの男をぶち殺してやろうかと思ったか、理性が勝って、それはなされなかった。
「まぁ安心したまえ、この作戦が成功したら、私は少将になり准将の席は空くよ」
ああ、そうですかとロウマはリオネルの言葉など聞いてなかったし、失敗するように色々と策は練った、ロウマはリオネルが幸せな顔をして部屋を出ることはないようにしておいた。どんな邪魔が入ってもだ。
作戦開始の時を今か今かと待つのはリオネル准将と、ロウマ・アンドー大佐も同じであったが目的には極めて大きな違いがあった。

ナイロビに付いた当日は、アッシュたちは疲れから眠りについてしまったため。その翌日からアッシュたちは会議に向けての準備を始めた。
アッシュたちがまず手を付けたのは服装であった。アッシュは正装というものを久しぶりにした。地球連合の首脳たちと会っても失礼のない格好を自分と姫はしておく必要があった。
「うごきづらいですー」
姫にはドレスを用意した。アッシュの見立てでは姫が着るのならばこれしかないと思った。
あとはアッシュが気になることは。
「護衛役はどうなりますか?」
アッシュは昨日から自分たちにくっついているマイケルズ中佐に質問した。返ってきた答えは淡白であった。
「護衛は地球連合の兵が固めます」
アッシュとしては、そうですか、としか言いようがなかった。そうなってくると、セイン達の居場所が困ることになる。
「僕の読みでは間違いなく、会議中に襲撃がありますね。不幸なことに、宇宙からナイロビへの降下ラインはクライン公国が掌握してるんで、最悪、MS隊が降下してきますよ」
クリスがこともなげに言ってのける。状況は良くないということだ。
「クランマイヤー王国のMS隊も会場の警備に当たらせますが、よろしいですね?」
アッシュはクリスの言葉を聞き、そう決断しマイケルズ中佐に伝えた。
マイケルズ中佐の顔に一瞬侮りが見えたが、アッシュは仕方ないと思う。何も知らなければ、こちらは田舎の小国の数機のMSであり、戦力にはならないと思うだろう。だが、そう思われてもアッシュはセイン達を遊ばせておく気にはなれなかった。
「一応、警備の隊には伝えておきます」
マイケルズ中佐はそう言っただけだった。全面的に頼りにできそうな人物ではないが、これくらいの用事なら任せてもいいだろうとアッシュは思った。

「俺らも警備かー、まぁすることあるわけでもないけどなぁ」
ジェイコブはホテルの部屋でノンビリとしており、セインも同じく、その部屋にいた。
「地球って言っても、コロニーとあまり変わった感じしないしなぁ」
セインは拍子抜けしていた。地球というのはもっと何か名状しがたいが凄い場所だと思っていたのに、着いてみれば天井が無くて代わりに空があるだけでコロニーと一緒だと思った。
「ただいまぁ」
急に扉が開いて、ペテロとマリアが袋を持って入ってきた。
袋の中身はセイン達の昼食である。若者たちはファストフードのハンバーガーにしてみたのだった。クランマイヤー王国にはチェーン店が少ないので、こういう物を食べる機会も少なかったので、若者たちは満足して食事をした。
「うん、なんか都会的な味」
ペテロがハンバーガーを食べながら言うが、日頃のペテロの食事ぶりは味を理解しているようには見えなかったので、一同は味の評価は無視して各々食べてみる。味は、そこそこというところだった。
その頃、アッシュと姫と護衛役のセーレはVIPということで、地球連合の南アフリカ統一機構の外務大臣に昼食に招待されており、高級な料理に舌鼓を打っていたのだった。
202ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/11(水) 17:49:44.63 ID:kjakvFSx0
「レーションですー、ご飯ですよー」
アリスがMSのコックピットで寝ているガルム機兵隊の面々を通信で叩き起こした。
野営時の食事はガルム機兵隊の面々の間では罰ゲームの一種だった。
「今日はガウンさんですよー」
つまりは怪しい薬草やら謎の肉が入った粥かと思い、全員がゲンナリする。
「……」
ガウンは何も言わず、全員の皿に粥をよそうと、無言で手を合わせ食べ始めた。ほどんどが食いたくないと思ったが、食わねばならぬのが、ガルム機兵隊の鉄の掟だった。
ゼロが平気な顔で粥を口に入れたが、その瞬間、ぺっぺっと吐き出す。
「駄目だよー、ゼロ君―、吐き出しちゃー、ガウンさん傷ついてるよー」
アリスがゼロの背中をさする。さしものゼロも毒物への耐性は備えていなかったようで、無表情とはいかずに目に涙を浮かべていたが、懸命に食べていた。
「……」
ガウンは何も言わなかったが、確かに傷ついている様子だった。これで自分たちが食べないのも可哀想だとイザラたちは思ったので、仕方なく粥を食った。するとイザラたちは毒状態になった。

数日はあっという間に過ぎ、地球連合代表者会議の日となった。アッシュと姫はマイケルズ中佐に付き添われながら、朝早くに、議場へと出発した。対してセイン達はノンビリと自分たちのMSの置いてある場所へ向かうのだった。
「あれ、これ地図、おかしくね」
ジェイコブが気づいて言う。セインも地図を見たが、確かにおかしかった。自分たちの警備場所はナイロビの端も端で議場からは異常に離れている。
「つまりは、のけ者にされたというわけだ」
のけ者にされることに慣れているセーレが答えを出した。セイン達は色々と文句を言いたいこともあったが、今更どうこういう訳にもいかない。
会議が始まっているのに警備場所に付いていませんでしたではシャレにならないしクランマイヤー王国の恥となると気づき、セイン達はノンビリとした態度から打って変わって大急ぎで、警備場所まで向かうのだった。

「緊張してますか、姫様?」
アッシュは車の中で優しく姫に尋ねた、姫は頑なな様子で首を横に振る。
「大丈夫です。皆がんばってるのに、私だけ失敗なんてできません」
姫は強く言った。アッシュはその言葉に少し困った表情になる。
「だったら、その顔はダメですよ。皆、姫様の笑顔を見たいのです。姫様が笑顔でいてくれれば、それだけで成功なんですよ」
そう言うと、アッシュは優しく姫の手を握った。
「……アッシュさん……ハルドさんに振られた時はアッシュさんと結婚します」
あれ、こういう話しだったかとアッシュは話が変な方向に流れるぞと思った。そして摂政が姫と結婚など典型的な悪人のような気がしてアッシュはそれだけは嫌だった。
「結婚相手はゆっくり探しましょうね」
アッシュとしてはそれしか言いようがなかった。そうしているうちに、車は議場へとたどり着いた。
203ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/11(水) 17:50:25.92 ID:kjakvFSx0
宇宙では作戦の準備が進められていた。
そんな中、ロウマは手持無沙汰にボンヤリと施設内を歩いていると偶然知り合いと出会った。白髪を乱暴に伸ばした老人である。ロウマはその姿を見るとすぐに声をかけた。
「バルドレン博士」
声をかけると老人も気づいたようだが、ロウマの姿を見ても不機嫌に鼻を鳴らすだけだった。
「人の道に新たなる火を」
「人の道に新たなる火を」
バルドレンはプロメテウス機関の一員、そしてEXSEED計画の責任者でもあった。
「博士がいるってことは、EXSEED投入?」
ロウマは興味本位で聞いてみたが、バルドレンは極めて不機嫌な様子で答えた。
「EXSEEDではなく、EXSEED用MAを御所望じゃよ。軍はな。あのリオネルとかいうクソボウズがワシにエクシーダスを貸せと言いおった」
「で、貸したんだ」
「貸すに決まっとるだろう、ワシも軍の金で研究しとるんじゃぞ、拒否などできるか!」
バルドレンはリオネルに向けるべき怒りをロウマに向けていた。
「まぁエクシーダスUじゃ、万が一にも撃破されることはないだろうし戦果もあげてくれるじゃろう。ワシはそれで我慢する!」
そう言うと、バルドレンは怒りをあらわにしながら立ち去って行った。
ロウマとしては参ったという感じだ。バルドレンの爺さんが噛んでいるとなると状況は大荒れになるとロウマは予想できた。これでは、自分の計画も上手く行かないかもしれないなぁ、とぼんやりと考えるのだった。

代表者会議は粛々と進められていた。特に大騒ぎになるような議題もなく、各国のクライン公国への対策もアッシュが理解できる範囲では極めてマトモだった。そして会議が終盤になる。
そろそろ、クランマイヤー王国関係の議題だった。
「それでは、次の議題、クランマイヤー王国への地球連合の支援についてです」
進行役が議題を読み上げた、自分の出番かと、アッシュは思い、立ち上がろうとしたが、姫様が早歩きで、壇上へと昇って行ってしまった。
ちょっと待て、これはマズいぞ。アッシュは冷や汗をかき、どうしたものか考え込んでしまった。議場内は小さな少女がドレス姿で壇上にあがっていることにざわついている。
「皆様、はじめまして、クランマイヤー王国の王女、アリッサ・クランマイヤーです!」
姫はマイクが付いているのにも関わらず、大声で言い、そして深々と礼をする。
「偉い人の皆さんにお願いがあります。クランマイヤー王国を助けてください!クランマイヤー王国でも頑張ってクライン公国と戦う準備はしてますけど、それだけでは足りないらしいので、地球連合の人達の協力が必要らしいんです。
だから、協力してくれることを約束してくれると嬉しいです」
ああ、どうしたものかとアッシュは思う。議場内の雰囲気は悪くはないが、それは姫が可愛らしく見た目が良い女の子が必死に訴えかけているのが受けているだけだ。
しかし、ここで自分が出ていくのも状況的にマズい気がするとアッシュは思った。ここで出ていくと、何だか悪い摂政が姫の必死の訴えを邪魔している感じになるようにアッシュは思ったからだ。
「いやぁ、大したものです。私の孫より随分としっかりしていらっしゃる」
近くの席の老人たちからは、そんな話ししか聞こえて来なかった。
そんな中、ある中年の男性が手を挙げる。質問だろう。これはマズイとアッシュは思った。
「貴国ではクライン公国と戦う準備とは具体的に何をしていらっしゃるのですかな」
よしとアッシュは思った。これなら姫にも答えられるぞと思った。
「自国産のMSの建造と基本的な物流の見直し、それによる国の収入のプラス化、防衛施設の建造です」
ほう、と姫がよどみなく答えたので質問者は感心したようだった。
これは自分も回答の一例として用意しておいたものだ、姫が盗み見をしていたのだろう。アッシュは姫の盗み見もたまには役に立つと思った。
204ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/11(水) 17:51:21.58 ID:kjakvFSx0
壇上の姫はアッシュには冷静に、そして何故か別人のようにも思えた。
「質問の時間かもしれませんが、私に言葉を言わせてください。私はお父さんから、言葉こそが人を動かすと言われてきました。しかし、未熟な私には、その実感はまだありません。
ただ、そんな未熟な私にも手を差し伸べてくれる人たちが大勢います。私は彼らに恩返しをしたいのです。そのためには、皆さんのご協力が必要になります。
未熟な私には、あなた方に、今すぐ与えられるものはありませんが、いつか必ずお返しをするので、どうか私たちを助けてください」
姫はそう言うと深々と一礼をして壇上を降りていった。言っていることは陳腐だが、アッシュは何か恐ろしい物を感じた。完全にこの姫の虜となっていたのだ。
おそらく議場内にも同じ気持ちになったものがいたに違いない。姫が壇上から降りても、議場内は沈黙に包まれていたが、やがてまばらに拍手が起き、そしてそれは段々と広がり万雷の拍手となったのだった。
アッシュは危険だと思った。この少女は危険であると。姫はアッシュの顔を見て笑顔を浮かべているが、アッシュはその笑顔を今は子どもの物と考えることは出来なかった。怪物である。アッシュは、この少女こそが一番の怪物なのではと思ったのだった。

「さて、作戦開始だ」
リオネル准将は淡々と、そう言った。ロウマは盛り上がらねぇ作戦開始だと思いながら、議場の様子をテレビで見ていた。やはり器が違うと、あの姫のことを見ていた。怪物のランクをつけるなら、堂々一位だとロウマは思った。
ロウマはすることも、やりたいこともなかったので、衛星軌道上にある、宇宙空母の司令部の隅に座りながら、ノンビリと茶を飲んでいた。
ロウマの視線の先では、降下ポッドに積み込まれたMS部隊がナイロビへと落ちていく。まぁ、よくこんなつまんない戦いで命を落とせるなぁ、一兵卒は、とロウマは馬鹿にしながらその光景を眺めていた。

ナイロビの端で警備任務に当たっていた、セインとジェイコブ三兄弟にセーレは、轟音が空から聞こえてきたので、機体を真上に向けた。
「セイン、上!」
マリアが叫ぶが、叫ばなくてもセインも見ていた。しかし落ちてくるのが何かは分からなかった。だが、横ではセーレのフレイドがビームライフルを構え、落ちてくるもの狙いをつけて、ビームを発射していた。
「クライン公国の降下ポッドだ。迎撃しろ!」
セーレにそう言われ、セイン達の機体も慌ててビームライフルを構えて、降下ポッドを狙うが、距離が遠すぎて、当たらない。
「当たらなくても、とにかく狙え。ここに対空防衛用の装備が万全にあるとは思えない」
つまり敵はナイロビに降り放題ということかとセインは思った。
「こんな端じゃ、何も出来ないでしょう!姫とアッシュさんを守るなら、中心部にいかないと!」
ジェイコブが提案し、セインもそれは同意だった。
「わかった。現状、この地点は警備の意味が薄いので放棄し、ナイロビ中央部、最重要目的地は議場だ。そこに向かう」
セーレは現状、指揮官であったので命令を出し、クランマイヤー王国の機体を中央部に向かわせたのだった。

「さて、私たちにも仕事があると、ロウマは言ったわけだが」
仕事がこれとはな、イザラを含めガルム機兵隊はナイロビから少し離れた地点で待機していた。
「ロウマからの追伸では作戦は絶対に失敗するので、ガルム機兵隊が退路を確保し、しんがりとして働くようにとある」
「つまりは延々待機かよ」
ギルベールがウンザリといった口調で言う。
「まぁ暇なのもいいだろう、たまには。それにロウマが言うには作戦は失敗するのだろう?」
ドロテスは口に咥えていた火の付いた煙草の灰を携帯灰皿に落とす。
「奴の読みが当たるのは確実だが、失敗するところも見てみたいな」
イザラは意地悪く笑うと、コックピットのシートにゆったりと身を預けた。
205ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/11(水) 17:56:09.36 ID:kjakvFSx0
32話終了です
言葉を一言でも間違えればハルドと虎先生とロウマの三人が同時に姫様を暗殺しにかかるルートもありましたが、それを全て回避できたのが姫様の凄さです

あんまり意味の無い解説でした
206ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/12(木) 19:35:13.86 ID:ypaXXM3g0
投下します
機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第33話

さて、第一陣の損耗は20%とというところかな、ロウマは降下ポッドの被害を予想してみた。
「降下ポッド損耗率は20%作戦継続に問題はありません」
「ならば、よし」
リオネル准将は鷹揚とした態度で報告に返事をする。
ムカつくなぁとロウマは思った。初めて会った時から貴族らしさがあり、鼻持ちならない男だったが、准将になって、態度が更に偉そうになったと思った。家柄だけの無能の癖にとロウマは思う
家柄、そう家柄だ家柄さえあれば、自分も今は准将に。ロウマは苛立ちが抑えきれなくなりそうだった。なので、リオネルが失墜するところを考え、溜飲を下げることにした。
どうせ作戦は失敗する。リオネルは簡単にナイロビを制圧できると考えているが、第一陣の降下ポッド隊の損耗率が20%の時点で長期戦を覚悟しなければならないのだ。
リオネルは補給も降下ポッドで行うと考えているが、奇襲で20%の降下ポッドが撃墜される。相手の態勢が整えば、降下ポッドなど50%が地上に辿り着けるかだ。
50%の補給でどこまで戦えるだろうねぇ、リオネル君。ロウマは内心でほくそ笑んでいた。ロウマは北アフリカと西アフリカを手中に収めているので、陸路での補給線を確保することも容易だったが、リオネルのためにそれを使おうとは思わなかった。
それにロウマは虎の子のガルム機兵隊を温存している。しんがりを役目しているが、きちんと働いてくれるだろう。
ロウマは撤退戦まで、含めて、戦場の流れを予測しきっていた。

「くそ、空からか」
セインのブレイズガンダムは上空にライフルを向け、ひたすらに落ちてくるクライン公国のMSを落としていた。相手の命を気遣う余裕などなかった。その時だった。
(幸福への道は近いですよ)
前に聞こえた訳の分からない声が、セインの脳内に響く。
「くそ、気持ち悪いな」
セインは呟きながら、上の敵に向かってひたすらビームライフルを連射する。
「こちらはアッシュだ。姫は無事。そちらは?」
アッシュから通信が届いてクランマイヤー王国の一同はホッとした。
「姫はシェルターに、僕は戦場に出る。悪いがジェイコブ、キミの機体に同乗させてくれ」
「あ、それなら、私が!」
マリアがジェイコブを押しのけて志願した。誰もその理由は分からなかったが、大差は無いのでアッシュは了承した。
「じゃあ、議場前までいきますね」
マリアは不謹慎であったが、小躍りしたかった。憧れのアッシュと同乗である。
「わっけわかんね」
ジェイコブは妹の行動の意図が読めないながらも、降下してくる敵をひたすらにビームライフルで撃ちぬいていた。
地球への降下任務際してフレイドは大幅なスペックアップが図られていた。ビームライフルの装備にシールドと手持ちのビームサーベルの追加、そしてスラスターユニットに1G環境でも安定した飛行を可能とする翼が取り付けられていた。
「僕もわかんないなぁ」
ペテロ機はシールドを装備せず、ビームライフルを二丁持ちで、降りてくる敵を撃ち落としていた。
そんな中、セインのブレイズガンダムは降下が完了した、MSを前にしていた。数は五機だがセインは怖いとも思わなかった。
207ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/12(木) 19:36:32.10 ID:ypaXXM3g0
「ザイランが五機か……まぁ、いいか」
そうセインが言った瞬間、ブレイズガンダムは動き、一機目のザイランのコックピットをビームライフルで貫く。
すると二機目が自分に注意をひきつけようと動き出してきたので、セインはブレイズガンダムのシールドをマウントしている左腕で、ビームサーベルを抜き放つと、二機目の動きに合わせてコックピットを貫いた。
(幸福の道をあなたは歩んでいます)
セインは頭の中に聞こえる声をうるさいと思わなくなっていた、この声が聞こえると考えがまとまり、判断力が高まるように感じていた。
(幸福の道は神の愛への道)
セインは三機目をビームライフルのバスターモードで撃った。敵のザイランはシールドでそれを防ぐが高出力の一撃は完全に防げず、シールドが溶け出し、相手はシールドを捨てた。その瞬間にブレイズガンダム接近し、ビームサーベルでコックピットを斜めに斬り裂いた。
(神の愛の道をあなたは歩んでいます)
セインは不思議と心が穏やかだった。戦っている最中なのにも関わらず、心は平常時、いやそれ以上に落ち着いていた。
四機目と五機目がブレイズガンダムから逃げるように、ビームライフルを撃ちながら後退していく。
「下手な射撃……」
セインは昔の自分を見ているようだった。当たるわけがないと思いながら、ブレイズガンダムのビームライフルをチャージモードで発射し、四機目と五機目をまとめて消し飛ばす。
(しかし、その道には多くの障害があります。あなたはそれを打ち破り、あなたの価値を見せるのです)
「分かったよ……」
セインは無意識に頭に響く声にこたえていた。そして、ブレイズガンダムはクランマイヤー王国の一団から離れ、独立して動き出すのだった。

セインはとにかく思考するようになっていた。学校の勉強とは異なる頭の使い方や思考法だが、それが戦場で一番役立つと知った。
セインは何人かのエースパイロットと本気で模擬戦をしてもらった。アッシュは徹底的に相手の挙動を見切るタイプであり、イオニスは相手の挙動を無理矢理にずらし、自分のペースを無理矢理に獲得するタイプだった。
ストームとも戦ったが、想像を絶する腕前だった。セインの感覚ではハルドよりも強いと一瞬、思ってそう言ったが、ストームは笑って違うと言った。ストームの戦い方は、とにかく遅かった。
挙動の速さなどはなく、ゆっくりと攻撃を避け、確実に相手に当てるというものだが、ゆっくり動いているはずのにセインの感覚では、恐ろしく挙動が迅速にも感じた。
ストーム曰く、基本的に読み合いで勝っているから、軽く無理をせずに動ける。とストームは言った。ストーム曰く、MSを無理に動かすと絶対に遅くなるから、MSの動きたいように動かす。という話しだった。
では、自分の動かしたいようにしたいときはどうすればいいのかとストームに聞いたら、MSと上手く話し合って妥協点を見つけろとのことだった。結婚もこれが大事と付け加えられた。
最後に本気のハルドと戦ったが、セインは訳が分からなかった。とにかく強いということだけは分かったが、その強さの理由が全く分からなかったのでセインが聞くと。
「100回以上戦場に出て、その度に目についたエースは殺して、それで、アッシュ、イオニス、ストーム、ロウマ、そして俺を殺せば。俺と同じくらいには強くなれるよ」
答えも訳が分からなかったのでセインは、ハルドの言うことは気にしないことにした。
ただ、分かったことは頭を使って戦うということだった。
セインのブレイズガンガンダムは静かに移動していた。敵はすぐ近くにいる。降下ポッドで着陸したばかりの部隊だ。まだ散開せず、打ち合わせらしきことをやっている。
(障害を打ち払うのです)
「はい」
セインはその言葉の通り、密集しているザイランの小隊めがけてブレイズガンダムのチャージショットを撃った。セインは視界の端で二機ほど逃れているのを見た。
208ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/12(木) 19:37:29.79 ID:ypaXXM3g0
「逃げる敵は……そのままか、反撃か」
セインは考えることにした。急に襲われて、隊長らしき機体が消し炭になって黙って逃げる訳はないと思った。
(鉄槌を振るうのです)
「はい」
セインのブレイズガンダムはビームライフルを腰にマウント、ビームサーベルを右手に持ち突撃する。被弾に関してはシールドとバリアでカバーする。敵機の驚愕と恐れが伝わってくるような気がした。
(愚かな者は、正しきものを恐れるのです)
「はい」
セインのブレイズガンダムは一瞬で二機のザイランに接近し、ほぼ一瞬の動きで二機のコックピットをビームサーベルで貫いた。
(神の愛の道は赤く色づいていなければなりません)
「はい」
セインは、少し訳が分からなくなってきた。この声は自分の頭からではなく天から聞こえてくるのではないか、つまりは天の声なのではないかと思えてきた。
しかし、理性的に考えると、そんな訳はないとセインは思う。
(あなたはあなたに与えられた神の愛の道を歩みなさい)
「……はい」
声が聞こえてくると、どうでも良くなってくる。セインはハッキリとしなくなってきた頭で、とにかく敵を探してブレイズガンダムを動かすのだった。

「降下ポッドは?」
アッシュは無事にキャリヴァーへと搭乗を終えて、戦線に加わっていた。貴重な飛行戦力としても、アッシュのキャリヴァー極めて頼りにされていたのだった。
「新しく何機かが」
言われて、アッシュのキャリヴァー飛行形態に変形し、上空へ向かう。こういう戦い方はアッシュの好みではなかったが、しかたなかった、降下ポッドはことごとくアッシュのキャリヴァーの手で撃ち落とされる。
中にはカンの良い者もいて、途中で降下ポッドを切り離し、中のMSを降下させるが、アッシュが、空中戦用に調整されていないザイランを見逃すわけが無かった。
「運が無かったと思ってくれ」
アッシュはそれしか言う言葉が無い。訳が分からずに流れ流され気づいたら一国の摂政になったような男に落とされるのだ。運が悪いとしか言えない。
アッシュのキャリヴァーがミサイルを発射し、空中で降下姿勢に入っていたザイランを撃墜する。
「公国も考えが甘いな。降下戦力だけで、なんとかできると思っているのか?」
現状、ナイロビには地球連合の各国から集められた兵士が警備に当たっている、練度も装備も優れた部隊だ。降下ポッドのみならず、陸上からの侵攻という二面作戦を考えても良いのではとアッシュは考えた。

ロウマ・アンドーはウキウキとリオネル准将が焦り出すところを眺めていた。陸上との二面作戦を展開する準備など簡単だったが、ロウマはリオネルに進言も何もしなかった。それどころか現状のアフリカ情勢すら教えていない。
さっさと考えをまとめないと夜になっちゃうよ、リオネル君。ロウマはリオネルと戦況を見て、予想する。
夜になるとこちら側が攻勢に出ることは難しい、それに兵士の休息も必要だ。丸一日MSに乗って戦っていられる人間は少ない。降下部隊は、最低でも拠点設営をして兵を休息させなければならないわけだが、拠点設営の工兵部隊の降下は上手く行っていない。
これはリオネルが実戦を知らないためだとロウマは思った。戦闘は思い通りに終わらない。リオネルの考えでは、降下部隊で奇襲をかけて、それで簡単に制圧と考えたため拠点の設営など後で良いという考えがあったのだろう。
もしくは地球連合の拠点を使えばいいという考えだが、これも甘い。敵の拠点を利用するのは拠点を設営するより厳しい、極めて優秀な歩兵が大量に必要であり、それらを投入して、施設制圧をするのは言うよりもはるかに困難なことなのだ。
考えが甘いなぁ、リオネル君。まぁ考えを甘くさせたのは俺だけど、とロウマは思う。参謀などからの進言書やら命令書はロウマが改竄してリオネルに渡していた。
当初の計画ではもう少し、マトモな戦場になるはずだったが、まぁ元々リオネル君も人の話し聞くほうじゃないし、とロウマは思う。
ロウマなら、初手が失敗した段階で撤退に移る。降下作戦は中止で、また今度。
そもそもがリオネルが焦りすぎの作戦だ。地球連合の代表者が揃うからと一網打尽にするなど、考えが甘いとロウマは思う。
代表の護衛などを考えれば一線級の部隊と装備が揃っており、ロウマとてまともにはやりたくない布陣が築かれている。それに気づかないリオネルはつくづく無能だとロウマは思ったのだった。
209ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/12(木) 19:38:26.44 ID:ypaXXM3g0
「はああっ!」
セインはブレイズガンダムを操り、ひたすらに戦っていた。シールドはいつの間にか紛失しており、ブレイズガンダム今は、両手にビームサーベルを持って戦っていた。
両手のサーベルが閃き、一本はザイランのコックピットを貫き、一本はゼクゥドの右腕を切り落としていた。
(命を奪うことはあなたの幸福につながります)
頭の声はまだ続いているがセインはもう気にならなくなっていたので、無視した。それよりも戦いだ。もっと戦って戦って戦って、自分は――セインのブレイズガンダムがバックパックのミサイルランチャーから後方に向けてミサイルを発射した。
セインは、敵の降下ポッドがこの近くに降りてきたのを見たので、戦闘が行われているここに来るだろうと思って、取り敢えずの牽制用にミサイルをばら撒いたのだった。
目の前の右腕を失ったゼクゥドが投降の通信を届けるがセインは聞かなかった。無視したのだ。
「逃げんなよ、逃げんなよ!」
ブレイズガンダムのビームサーベルがゼクゥドのコックピットを切り裂く。
「そうやって、どいつも、こいつも、ぼくぉ!」
ブレイズガンダムのバックパックのビームキャノンが後方に向けられ、発射される。爆発からセインは、一機は仕留めたと思った。
爆煙の中から反撃のビームが来るが、セインは容易く回避した。ハルドさんもこんな感じなのかな?不意にハルドはそう思いながら、ビームが飛んできた先に向けて、ゼピュロスブースターに内蔵されているミサイルとビームキャノンを発射した。
爆発が二つ起きた、どうやら敵は二機いたようだった。
「うん、意外だな」
何故か分からないが、セインはナイロビが、この戦場が、戦いが好きになり始めていた。
(喜びは道を歩む糧となります、あなたは喜びを大いに感じるのです)
「はい」
セインは、口元が緩んでいくのを感じた。ああ、楽しいや。セインは心からそう思った。

「お腹が空いたな……」
セインは戦いながら、なんとなくそんなことを思った。すでに夜になっており、辺りは暗いはずだが、炎やらビームの光などで昼のように明るい。
とりあえずセインは目の前にいたゼクゥドをビームライフル撃ちぬき、パイロットも殺害した。
「……拠点に行けば、ご飯を貰えるのかな」
セインは適当に機体内の地図情報を弄ると、地図情報には青で自軍の拠点が映っていた。セインはとりあえず一番近い、拠点を目指そうと思った。
最短距離で行こう。セインはそう考えた。最短距離には敵の部隊がいくつかある。こっちの道の方がおもしろそうだとセインは思ったのだ。
セインのブレイズガンダムがバックパックのスラスターを全開にし、移動しようとしたがコックピット内にアラートがなる。どうやら、推進剤が切れかかっているらしい、だが拠点に行けば全て解決だと思った。
セインはビームライフルのモードをAに設定し、拠点のそばにいる敵部隊に後ろから静かに、近づくと、とりあえず指揮官機を中心にまんべんなく、高速連射されるビームをばら撒いた。
ダメージ自体は大きくないが敵の怯えが感じたのと同時にセインはバックパックのミサイルとビームキャノンを斉射し、それをひたすらに続けた。その間も、ビームライフルは高速連射している。
セインの視界の中で敵の指揮官機が、崩れ落ちるのが見え、その傍にいた両機も続々と倒れていく。足元の方を見ると、歩兵もいたので、セインはブレイズガンダムの頭部のバルカンで歩兵を薙ぎ払う。
セインのブレイズガンダムはあっという間に、拠点を襲撃して部隊を壊滅させたのだった。
セインのブレイズガンダムはゆっくりと自軍の拠点に入る。すると、誘導係いたので、その軍人の指示に従って、ブレイズガンダムを駐機させた。
210ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/12(木) 19:40:06.68 ID:ypaXXM3g0
セインが機体から降りると、すぐに整備兵らしき人間がやってきて、セインに尋ねる。
「必要なモンは?」
言われて、セインは一瞬悩んだが、必要なものは簡単に思い出せた。
「推進剤を満タンに、あとシールドの余りがあれば下さい。国際規格のビームライフル用エネルギーパックも三つほどあれば」
「あいよ、メシが食いたきゃ、あっち、少し寝たかったら、テントの中30分で起こすから安眠はできねーよ。あと元の部隊と連絡が取れなくて困ってるなら通信所な」
セインは眠くも無かったし、仲間と通信を取ろうという気分にもなれなかったので、あっちと言われる方に向かった。
そこは、仮設の食堂である。セインは取り敢えずカレーを食べた。美味いような気がした。食事をしたら、また戦闘がしたくなってきて、セインはさっきの整備士の元に向かった。
「終わりましたか?」
「機体自体には、かすり傷しかないし、楽なもんよ。それで、もう出撃かい?」
セインは尋ねられ、ニッコリと答えた。
「敵を殺してる方が、気持ちが良いんです」
セインはそれだけ言うと、整備兵の方を見ずに機体に乗り込んだ。さて、戦闘再開である。

「まぁずぅいぃんーじゃない。リオネル君?兵士はキミの玩具じゃないんだよ。こんな作戦で、こんなに被害出したら上もオカンムリだよ」
ロウマはいい加減退屈になってきたので、リオネルに話しかけてみた。するとリオネル、取り乱した様子で両腕を振り回す。
はは、おもしれ、とロウマは思ったが。流石にリオネルがアホに過ぎるにしても、これ以上の損害は、作戦だけではない、クライン公国全体を考えても、良くはない。まぁ悪いという訳でもないとロウマは考えたが。
「もういい、エクシーダスを使う」
リオネルが言った言葉をロウマは聞き逃さなかった。ついに使っちゃうかーと、そう思いながらも、もっと早く使っとけば、こんな面倒な戦況にならなかったのだが、とロウマは思う。
「エクシーダス、降下!」
リオネルは気合が入っているとロウマは思ったが、今更、無名の実戦経験なしのEXSEEDが乗ったエクシーダスを出してもなぁ、とロウマは結局負けで終わるだろうと思った。
ロウマは司令部の窓からサソリに似た形のMSが降りていくの眺めながら、もう終わりだろと思うのだった。

「何か来る?」
真っ先に気づいたのはアッシュであった。宇宙から降下ポッドとは違った大質量の物体が降下してくるのを感知した。
アッシュは機体のメインカメラを最大望遠にすると、そこに映ったのは大型のMAだった。
「総員、大型MAが降下してくるぞ、対空戦闘用意!地上に降ろすな!」
気づくとアッシュは地球連合軍MS部隊の総隊長のような役割になっていた。
「なんか、凄く大きくない?」
マリアも機体のカメラで確認をした。マリア自身MAに詳しいわけではないが、見たことのない機体ではあるが、形はイメージしやすかった。サソリである。サソリの形をしたMAが降りてきていた。
地球連合軍の機体がひたすらに対空砲火するが、サソリ型のMAにはビクともしない様子だった。
「ビームシールドを張っている。耐ビームコーティング弾頭を持っている機体は、とにかくそれを使え!」
アッシュが全軍に命令を下す。気づくと、ほぼ全員がアッシュの命令に従っているという状況だった。
211ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/12(木) 20:33:47.25 ID:ypaXXM3g0
アッシュが命令を下すと同時に耐ビームコーティング弾頭のライフルが絶え間なく、発射されるが、それでも無傷であった。
「フェイズシフト装甲か!厄介な物を、僕が航空戦闘で注意を引く、その間に、地上の全戦闘部隊はMA対策を頼む」
アッシュはそれだけ言うと。通信を切った。そして。キャリヴァーを可変させ、降下してくるサソリ型のMAに向かわせたが、アッシュはその全容を見て声も出なくなる。
「MSなのか……?」
サソリ型のMAには、MSの上半身が付けられていた。大昔の記録で見たMAゲルズゲーにシルエットは似ているが、大きさはけた違いだ。
アッシュが驚く中、サソリ型のMAは航空戦闘をやらかそうというのか、全身のスラスターを吹かし、アッシュのキャリヴァーの方に機体を向ける。
「これで時間稼ぎは出来るが」
アッシュは、なるべく早く倒したい相手だと思った。
MS部の機体はザイランだろうが、それがビームライフルを連射して撃ってくる。連射されたビームはアッシュの嫌な軌道だった。とにかく避けにくいところにビームが飛んでくるのだ。そうしている内に、サソリのMAの上面ハッチが開きミサイルが大量に発射される。
本来は一機のMSに撃つ量ではない。だが、この敵はそういう判断はしない。というかできない敵なのかとアッシュは思いながら、自分の力の全開を解放する。
SEEDの力である。SEEDの力により、緩慢に見える世界の中からミサイルの雨の突破口を見つけ出し、アッシュのキャリヴァーはミサイルの雨から抜け出した。
「こちら、アッシュ。スマンが仕留めきれない。敵MAはSEED持ちの可能性あり、SEED保有者はスマンがMAの対応を頼む」
セインはアッシュの全周波通信をぼんやりと聞いていた。イマイチ頭が働かなくなっている気がし、アッシュの言っていることを理解するのは困難だったが、MSを破壊し、パイロットを殺すことには問題はなかった。
(戦いは素晴らしいものです)
「はい」
セインは頭の中に響く声の言うことを聞いていれば、幸せになることが分かったので、敵を殺すことにした。ブレイズガンダムの性能は圧倒的である。相手が反応できないスピードで突っ込み、コックピットにビームライフルの銃口を当て、引き金を引けば終わり。
セインはこれでいいのかとやることが分かってきた気がする。
こうすれば強くなる。相手の弾に当たらない方法を考えて、動き。相手の嫌がる攻撃をして、動きを止めて仕留める。接近戦では相手の動きを捌きながら、自分の有利な間合いを作って相手を仕留める。難しく考えなくてもいいなと、セインは思った。
(神の愛を得る日はまだ遠いですが、あなたの歩みは確かですよ)
「はい」
セインの頭にその声が聞こえた直後だった。地響きが機体を襲った。
「なに?」
セインは不機嫌な調子で言った。頭の中の声との会話を邪魔されたからだ。しかし、邪魔されてもなおセインは、それを許す気になれた。セインの視界には巨大なロボットがいたからだ。
「はは、アレを倒せば僕が強い、強いぞぉ」
セインは狂気の表情を浮かべながら、巨大なロボットへ向けてブレイズガンダムを進ませたのだった。
212ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/12(木) 20:34:25.79 ID:ypaXXM3g0
「ぶっちゃけ、アレって失敗作でしょ」
ロウマ・アンドー司令部を抜け出し、バルドレン博士の研究室にいた。2人はプロメテウス機関でも関係が良好な2人だった。
「あたりまえじゃ、エクシーダスなぞ、ベースは三年前の機体じゃぞ。それに良いEXSEEDを乗せるわけがなかろうが」
バルドレンはバルドレンで色々と憤りがあるようだった。
「ハルド・グレンは始末しておらんな!?」
ロウマは両手をあげて見せる。
「してないしてない。博士はハルド君が嫌いだもんね」
「当り前じゃ、タダの人間のくせしてEXSEEDを2人も始末しおった。奴はワシのEXSEED部隊でなぶり殺しにしなければならん!」
執着は怖いなぁとロウマは思った。1人に関しては始末というより、添い遂げたってかんじだったが、まぁこの老人に何を言っても無駄だろうとロウマは思う。
「貴様もプロメテウス機関なんじゃから、多少は協力してもらうぞ!」
今度はこっちに飛び火してきたかとロウマは思う。機関の名前を出されるとどうにも断りづらかったが、今、そんなことよりも重大なのは――
「お、博士、エクシーダス地上に降りたみたい」
「なんじゃと!?」
そう言うと、博士は食い入るように自分の研究室にある小さなモニターにかぶりついた。
「博士、それじゃ、俺が見えないから」
そう言うとロウマはリモコンを操作し、研究室の壁面全体をモニターにした。
「おお!おお!」
博士は感激しながら、ロウマの隣にちょこんと座る。ロウマは取り敢えず冷たい瓶のコーラを栓抜きで開けて、博士に渡し、自分のも開ける。
「ワシは、ポテトチップスは塩味しか食べんぞ」
分かってますって、とロウマが言い、塩味のポテトチップスを開けると、自分と博士の二人の手が届くところに置いた。
とりあえず、これで観戦体勢は整ったわけだが、エクシーダスはどんな働きをするのやらと、ロウマは思いながら、コーラを飲んだのだった。

「運がないね、俺たち」
「兄さん、僕、もっと腹いっぱい食べたかったよ」
「すぐに諦めないの!私の兄さんたちでしょ!」
サソリ型のMAが降下したのはクランマイヤー王国の部隊が戦闘をしている地点だった。
ジェイコブ三兄弟はこの世の終わりのような精神状態になっていた。
それを察した、セーレのフレイドが勇気づけるべく、ビームスピアを手に、サソリ型のMAに突進していくが、放った突きはビームシールドで軽く防がれた。
「これは無理だ、撤退」
セーレは撤退の判断は早かった。これがジェイコブ三兄弟の命を救った。その直後である。
サソリ型のMAの尻尾部分が稼働し、クランマイヤー王国の機体に狙いをつけると、拡散ビーム砲を発射した。拡散ビームと言ってもMSとはサイズが違う、一発でも当たれば致命傷だ。
幸運にもクランマイヤー王国の機体はそれを全て避けた。各員死にそうな思いになってだ。
「クランマイヤー王国、無事か!?」
「無事です!」
セーレが答えたがジェイコブは、少し不安があった、セインのブレイズガンダムの姿が見えないのだ。無事に戦っているという情報は入ってきている。それでもジェイコブは不安感を拭えなかった。
ジェイコブはこの戦場というものは人間をおかしくさせる働きがあると感じ取っていた。もしもセインがそれに飲まれていたらと思うと心配でいられなかった。
213ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/12(木) 20:35:10.46 ID:ypaXXM3g0
「はは、僕は強い、神の愛、得るのは最強だ!」
セインのブレイズガンダムは真っ直ぐにサソリ型MAに突撃していた。脇から邪魔な声が入る。
「キミもSEED持ち?状況は劣勢だけど上手くやろう」
上手く?そんなのいらない、あのサソリは僕が殺すんだ、神への道への燭台に相応しい。セインは正気を無くしていたのかもしれない。いや、完全に正気を失っていた。
「当たれ!」
セインはチャージショットのビームライフルを撃つが、ビームシールドで防がれるだけだった。
面白くない。と、セインは思った。ならば接近戦だろうと思い、ブレイズガンダムをサソリ型のMSに突進させる。
その瞬間、サソリ型のMAからドラグーンが射出されるが、瞬時にそれを落とした味方がいた。SEED持ちのスナイパーだった。
どいつもこいつも邪魔だとセインが思った瞬間だった。何かがずれた、セインとサソリ型のMAのパイロットの間でそのずれは共有され、お互いは心で出会った。
「僕が怖い?」
「怖くない」
「僕を殺す?」
「殺したい」
「そうか」
「そうだ」
感覚の共有は一瞬だった、セインは一秒に満たない間に敵と交信していた。その時だった。サソリ型のMAは全ての砲口を開き、その全てから最大出力のビーム砲を放った。
(これでも怖くない?)
セインの頭に声が聞こえた。怖くない?怖いわけがない。ふざけるなとセインは思った。
「おまえは、オマエはこんな力を持って、それで、こんな、分かるぞ僕を馬鹿にしていたんだろう!力のない奴と!殺す!絶対に殺してやる」
狂乱するセイン、そのセインの怒りの声と共に不可思議な現象が起きていた。それは、ブレイズガンダム関節部から漏れる火の粉だった。
アッシュは上空で戦況を観察していた、その瞬間だけはハッキリと見えた。
「ブレイズガンダムが燃えている?」
アッシュは目の錯覚だと思ったが、そうではなかった、その戦場にいた全てがブレイズガンダムが燃え上がるさまを見ていたのだから。
(コード承認を要求します。コードはブレイズ)
「コード:ブレイズ!」
セインが叫んだ瞬間、ブレイズガンダムの関節部が火を放った。そして、驚異的な速度で動き出したのだ。
「死ね」
セインは確かにそう言った、その瞬間にブレイズガンダムはサソリ型のMAのビームシールドをすり抜け、MAの人型部分を殴り飛ばし粉砕していた。
「もういい、お前のような偽物はいらないんだ。強さは僕が持っている物が全てだ」
セインがそう言うと同時にブレイズガンダムは大きく距離を離しながらも、ビームサーベルを抜く。
「僕の強さを否定する奴は死ね」
そうセインが言った瞬間、ビームサーベルが数百メートルの長さまで伸びた。そしてセインはそれを躊躇いなくサソリ型MAに叩き付けた。ビームシールドなど関係ない威力だった、それによりサソリ型MAは両断され、パイロットの命も失われた。
そしてブレイズガンダムの動きは止まらない。MAを撃破してもブレイズガンダムはゆっくりと浮遊した。
セインの頭の中にぼんやりと光点が点いたり消えたりしている。セインはそれがうっとうしてくて堪らなかった。多分これは、みんな敵で弱い奴らだろうとセインは思い、全部消そうと思った。
「おまえら、みんな、いらないな」
浮遊するブレイズガンダムの表面が段々と剥がれていく、おそらくはバリアだろうと、その光景をみていたアッシュは予測した。
そして剥がれたはずのバリアが、再形成され、レンズのような形になっていった。その瞬間、アッシュはセインがやってはいけないことをしようとしている気がした。
「セイン君!何をする気だ」
アッシュの声は届かなかった、ブレイズガンダムはレンズ上の物体に向けてビームを撃つ。放たれたビームはレンズを通して拡散し、ナイロビの市街に降り注いだ。そのビームに当たったのはクライン公国の機体だけであった
214ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/12(木) 20:35:40.78 ID:ypaXXM3g0
「ありゃ、まぁ」
ロウマは唖然としていた。まさかここまで壊滅的な被害を受けるとは思わなかったのだ。
「ふーむ、エクシーダスの観察が、思いもよらずコード:ブレイズの成長具合を見ることになるとはな」
バルドレンは上機嫌のようだった。使い捨てのEXSEEDよりもブレイズの方が上手く言っているのが楽しいと言った様子だった。
ロウマはこのままバルドレン博士に付き合っても良かったのだが、そうもいかない事情がある。
「ちょっと、用事があるんで退出しますよ」
「なんだクソか?」
似たようなもんだと思い、ロウマは司令部へと向かった。司令部は大慌てである。虎の子のMAが撃破されたリオネル准将はロウマに縋り付く目をしているが、ロウマは相手にしなかった。
「准将、ここは撤退でしょう。残った将兵を無事に北アフリカに撤退させるのが将の仕事です」
ロウマはそれらしく言った後で付け加えた。
「わざと負ければ、地球連合軍から多額の謝礼を貰えると、この紙に書いてありますしね」
そう言ってロウマは懐に入れておいた紙を出す。それは誰が見ても秘密の指令書だった。
「なるほど、私も理解しましたよ。リオネル准将が無謀な作戦を立てたのが、作戦が失敗すれば大金が手に入るとなれば、そうしますよねぇ」
ロウマはそう言いながら、拳銃をリオネル准将の額に向けて撃った。周りにいた者は、呆然とするしかなかった。ロウマはこの場の主導権を得るべく、毅然とした態度で言い放つ。
「裏切り者は死んだ。ここからは、俺が指揮を執る。全部隊は撤退を最優先、北アフリカに抜けろ!」
ロウマはこうして、見事に撤退戦を指揮して見せ、上層部からの評価を確実なものとしたのだった。

「あ、来ましたねー、撤退する我が軍と、敵軍ですー」
アリスは監視を怠っていなかったし、ナイロビ辺りでヤバい光が見えたのも何度も確認していた。
「了解、敵軍を徹底的に排除するぞ」
イザラの声と同時にガルム機兵隊が動き出す。彼らとしては普通のことをやっていたのだが、追撃する地球連合軍からは、悪魔の部隊と恐れられた。
「あたま……いたい」
ゼロが乗る機体、コンクエスターがナイロビの方を指さして言う。
「ちょっと休ませましょうよー」
アリスは何故かゼロに甘いため、イザラはそれを了承した。
別に機体数で困っているわけではない。ゼロが働かなけれな、イザラがゼロの分まではたらけばいいだけだ。
イザラの純白のシャウトペイルは無茶苦茶に地球連合軍の機体を切り刻んでいた。
「ちょっと、撤退!そして迎え撃つ」
イザラの指示はシンプルだが暖かいとゼロは感じていた。イザラは嫌いではない頑張ろうとも思っていた。
ゼロのコンクエスターが動き、ドラグーンで追撃する敵を殲滅する、単純な破壊力ではガルム機兵隊で一番だった。

夜も明け昼になり、また夜になってナイロビでの戦闘は終結した。結果的に見れば地球連合軍の圧倒的勝利であり、その勝利を担ったと言えるアッシュ・クラインは叙勲された。これは暗に地球連合とクランマイヤー王国と同盟が成り立ったことも意味していた。
セインは戦闘が終わるとノーマルスーツを脱ぐこともなく、ぼんやりと戦場跡とナイロビの市街を徘徊していた。
「ハルドさんより強く」
セインはそう呟きながら廃墟の屋上にたどり着いた。。
「強くなれば全部変わるんだ」
セインは自分が破壊したサソリ型のMAの残骸を眺めながら言った。
ハルドは強くなれということはあったが、賢くなることも勧めていた。だが、賢さに意味はないとセインはこの戦場を見て思った。強さだけあれば自分は自分でいられる。誰にも脅かされることは無いのだ。
そしてセインの仇敵であるロウマも強さより賢さを重視しているようだったが、セインはそれを敵の言葉と無視をした。
ボンヤリと廃墟に佇むセインに対して声がかけられる。
「おーい、セイン。いくぞー!」
そう言われてセインはキョトンとなった。どこへ行くのかということである。
「南アフリカのマスドライバーがぶっ壊れたから、オーブにマスドライバーを借りるんだってよ」
ジェイコブが叫んでいったことはセインにとって初耳であった。
215ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/12(木) 20:38:42.31 ID:ypaXXM3g0
33話終了です
段々とダメになっていくセイン君に救いはあるのか?
ハルドがいればまた状況は違ったんですけどね。勝手な行動をしたら即セインをイジメにかかりますからね
216ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/13(金) 20:11:24.30 ID:vdCGTZkc0
投下します
機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ
第34話

オーブの支配は露骨なものとなっていた。もともとクラインの人間と親交の深かったオーブの首長家はアスハを主導として動いていたが、ある日アスハの当主が男児を出産、父親は最後まで知れなかったという。
そのようなスキャンダルもあり、アスハ家は没落。かといって他の家が台頭することもなく、のんびりと時間が過ぎたのがオーブである。
現状は永世中立を謳いながらも金のある国にこびる蝙蝠国家となり下がってしまった。
「そういうわけです」
クリスが地球連合から借りたオーブへ向かう船の中でノンビリとオーブについて説明をしていたのだった。
「ま、タフな指導者がいない国はこうなるって見本ですね、公国からも地球連合からも技術を色々と吸い上げられてますし」
クリスはノンビリと語る。
「一応フラガ家もオーブにはお世話になったらしいんですけど、まぁ僕の祖父とかの代のことなので関係はないですね」
薄情だなぁ、とジェイコブ三兄弟が思う中、セインだけはボンヤリと海を眺めていた。アッシュは、ナイロビでの戦い以降のセインの様子に心配を抱いていた。
「少し、いいか?」
アッシュは席から立ち上がると、セインの隣の席へと移った。セインは、なにか曖昧な感じで頷くだけだった。
やはりおかしいとアッシュは思った。ナイロビの市街戦がセインにとって初めての戦場になるわけで、それにショックを受けたのかもしれないと、アッシュは思った。
「一応、僕はきみやジェイコブ達の保護者兼監督役だ。この間の戦闘で何かあったのなら、少し話しをしてくれないか。ストレスが溜まっているのなら、話して少しでも解消になると思うんだが?」
セインはそう言われても、穏やかに笑うだけで、首を横に振るだけだった。この態度もアッシュを心配させた。アッシュが知る限りセインと言う少年のメンタルはそれほど強くないはずだったが、ナイロビでの戦い以降、妙な精神的な強さを得ているような気がした。
アッシュは我ながらおかしな考えだと思ったが、セインの精神に何か良くないものが巣食っているような不安を感じるのだが、それを明示するものが何も無い以上、アッシュはセインに対してそれ以上追及することは出来なかった。
余計な追及はセインに対して余計な不安、ストレス、プレッシャーなどを与えてしまうかと思ったからだ。
「無いなら良いんだ。余計なことを聞いたかな?」
「いいえ」
セインは穏やかに笑っている。アッシュの胸には不安が募って行った。
「もし、何かあったら気にせずに行ってくれ、きみ達の面倒を見るのも僕の仕事だから遠慮せずにな」
はい、とセインは言ったが、やはりアッシュは少しセインがおかしいと思うのだった。しかし、追及することはせずにセインの隣の席を離れ、自分の席へと戻って行った。
アッシュが自分の席に座ると、隣では姫が窓に張り付いて海を見ている。
「楽しいですか?」
「はい!」
アッシュが尋ねると姫は元気よく答える。どうやらこちらは心配はいらないようだとアッシュは思った。
戦争に巻き込まれたというにタフな少女だとつくづく思う。だが、この少女のおかげで地球連合がクランマイヤー王国の後ろ盾になってくれることは確実になったのだから、アッシュとしては頭が下がる思いもあった。
できればセインもこのくらいのメンタルならば心配せずに済むのにとアッシュは思った。そんなことを考え、少し休もうと席に体を預けて時、不意に大柄の人影がアッシュの席の横に立った。
217ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/13(金) 20:12:28.93 ID:vdCGTZkc0
アラン・マイケルズ中佐だった。マイケルズ中佐は地球連合の代表の駐在武官となったようで、アッシュたちがこのままクランマイヤー王国に帰るまでついてくるということだった。
大柄で角刈り、無愛想な男というのがアッシュのマイケルズ中佐への印象だった。
「アッシュ摂政閣下、少々問題が」
マイケルズ中佐は申し訳なさそうに、小声で言う。アッシュとしてはそうか、問題か、いつものことだなと思うようになっていた。地球に降りてから、問題以外に出会ったことは無いぞとアッシュは思った。
「それで、なんですか中佐、問題というのは?」
「オーブが地球連合の艦隊の入港を拒否しているのです」
そうか、それは大問題だ。オーブのマスドライバーを使わないと無事に帰れないぞ。とアッシュは思った。
「理由はなんですか?」
「オーブはクライン公国と同盟関係にあり、地球連合とは敵対関係にあるとの表明がありました」
アッシュはそういうニュースは一度も聞いてないと記憶を掘り起こしてみる。
「クリス、マイケルズ中佐、オーブとクライン公国が同盟を結んだというのは本当か?」
アッシュが尋ねても二人とも首を横に振って知らないという態度を示す。
つまりは密約ということか、面倒な。オーブともあろうそれなりの規模の国がやることじゃないとアッシュは思ったのだった。
「地球連合の上の方はなんて言ってるんですか?」
「“卑怯な密約を行ったオーブに軍事的な制裁を”とのことです」
好戦的な人間が多すぎないか?とアッシュは思うが、それが地球連合の選択なら仕方ない。だが悪いが、クランマイヤー王国はこの件には関わりたくないし、関わることもないだろうとアッシュは思った。だが――
「我々の乗っている艦隊および艦船が先頭に立って、オーブ攻略に臨めとのことです」
アッシュはマイケルズ中佐の言葉に耳を疑いたくなった。こちらには一応、他国のVIPが乗っているんだぞ。
そんな船を戦闘に出すなど正気とも思えない。どうやらクランマイヤー王国は現状、地球連合にとっては鉄砲の弾と同じようなものなのかもしれないとアッシュはゲンナリする思いだった。
「悪いが、この船は戦闘には参加しないし、我々のMSも自衛のためくらいにしか動きませんよ?」
「それで充分だと思います。私の方から艦隊司令部に連絡を通しておきます」
そう言うとマイケルズ中佐は足早に去って行った。
「なに、また戦争するんですか?」
ジェイコブが席から身を乗り出してアッシュに尋ねる。アッシュはウンザリした様子で答えた。
「ああ、そうだよ。パイロット全員、ノーマルスーツに着替え、戦闘準備」
了解!という掛け声とともにジェイコブ三兄弟とセーレ、そしてセインが席から立ち上がり動き出し、船内の格納庫にある自機のもとへと向かった。
アッシュはこの時、見逃していた、セインの顔に狂気じみた笑みがあったことに。
セイン達は機体に乗り込む。大まかな整備は、クランマイヤー王国からついてきてくれた整備士がしてくれたので、機体の挙動に関して心配は無かった。しかし、ブレイズガンダムのコックピットの中のセインには別の心配事があった。
「戦場、戦場、洗浄、洗い流す?血で血を洗い流そうか?」
(よい心がけです、神の愛の道は常に赤くある必要があるのですから)
「はい」
セインは足りるのか分からなかった。それが心配だった。自分が歩く道を赤く洗うにはどれくらいの血の量が必要なのか、道の幅も長さも分からないぞ。と混乱がセインの頭を襲った。
「痛い痛い痛い痛い痛ーい!?」
猛烈な頭痛がすると同時に脳味噌の形状が変わっていくような感覚がセインを襲った。
誰が悪いのか、自分が悪くないのは確実だし、悪いのは敵だから敵を殺して、自分の強さを見せつけて最強になれば頭が痛くなくなって、幸せが来て。僕は誰にも怯えず、脅かされず、全てを手にできるんだ。セインの頭の整理がつくと同時に頭痛は収まった。
アッシュの声がセインの耳に届いた。
「全機出撃、船を守ることを第一に!前へ出ようとはするな!」
それじゃ、なにかどうしようもないじゃいかとセインは思った。格納庫の扉は開いている。アッシュさんの言うことを聞こうか?聞かなくてもいいか、とセインは思い、ブレイズガンダムを格納庫から、船外へと飛び立たせたのだった。
セインが求めていたのは、とにかく敵の血だったのだ。
218ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/13(金) 20:13:27.56 ID:vdCGTZkc0
「しかし、コード:ブレイズかぁ、アレってガチ失敗作だよね」
ロウマはバルドレンの研究室でバルドレンと菓子を食いながらとジュースを飲んでいた。
「失敗作ではないぞ。成功する可能性が限りなく低いだけじゃ。まぁコード:ブレイズを発動させた段階で、七割は死ぬがな。脳味噌の構造を電磁波やら何やらで無理矢理変えるからの。普通は耐えられんわい」
バルドレンはがははと笑っている。ロウマはこのジジイの無駄遣いに多少ウンザリしている。
「ある程度、リミットが来たら強制的にコード:ブレイズでしょう?それが無かったら超性能のMSで済むし、羽クジラの“ギフト”の無駄遣いだよ博士。ブレイズガンダムに積んである“ギフト”は俺も欲しかったのに」
プロメテウス機関の会議でくじ引きをやった結果、羽クジラの“ギフト”の使用権がバルドレンに移り、バルドレンはそれを使ってブレイズガンダムを作ったわけだが、ロウマとしては、その使い方は無駄も良いところだと思う。
「まぁ、ええじゃないかい。今度ワシが使用権を持っておる“ギフト”を一つやろう」
そう言われても、ロウマは、えー、としか思えなかった。バルドレンが持っている残りの“ギフト”は大したものではないからだ。
「まぁ、いいけど、もらっておくよ」
何も無いよりはましだとロウマは仕方なく後で貰おうと思った。
ロウマはこのままバルドレンとつまらない話しをしていても良いとも思ったが、そう言えば気になることがあったので、リモコンを操作し、研究室の壁面のモニターをつけた。すると映っているのは、オーブである。
「なんじゃ、観光番組か?」
「ジジイと青年で仲良く、観光番組みるわけないでしょうが、そもそも、ここテレビ映らないじゃない」
そうじゃったかのう、とバルドレンが考え込む間、ロウマは適当にモニターを操作する。そろそろ戦争が始まる頃だと思ったからわざわざこうやってモニターで見ているのだ。
ロウマとしてはオーブがさっさと落ちて、1抜けしてくれるといいと思った。そろそろ半端な国の出番はお終いで良いと思っているからだ。
そうしてモニターを見ていると、不意に目が留まった物があった。
「おお、ブレイズガンダムじゃのう」
俺が言いたかったのに、このジジイはと、ロウマはイラッと来たのでリモコンを投げつけた。リモコンはバルドレンの頭に直撃するが、対して痛そうでもなく、気にしてもいなかった。
「コード:ブレイズで生きていたなら中々の素材じゃが、同じパイロットかの?」
ロウマは何も言わなかったが、多分同じパイロットだと思った。無意識の小さな挙動がこの前に見たブレイズガンダムと同じだからだ。
セイン・リベルター君、少しは面白くなってきたかな、とロウマは口元に笑みを浮かべた。

敵だ敵を探さなきゃ、セインはアッシュの言葉を無視して、機体を飛び立たせ、オーブの本島に迫る。
「敵だぁー!」
セインのブレイズガンダムは本島への上陸を阻もうと洋上で防衛体制を取る艦船を見つける、そこへ向けてビームライフルのチャージショットを放つ。強力なビームは一撃で艦船を貫き、沈める。
その瞬間、セインの頭がすっきりとする。そうか、やはり。これで良いとセインは確信して、辺りの艦船を沈めるために、ひたすらに強力なビームを撃つ。
しかし、それを見過ごしておくほどオーブ軍も甘くない。オーブ軍の量産型MSであるM4アストレイがブレイズガンダムに襲い掛かる。
セインのブレイズガンダムは敵の放ったビームを回避しながら、別の沈めていない敵艦の甲板上に飛び移る。
「飛び回るなよ、面倒だなぁ」
セインはブレイズガンダムの上空を飛び回りながら攻撃の機会を狙ってくる、M4アストレイに辟易としていた。
とりあえず、狙って一機を落とすことにした。ブレイズガンダムのビームライフルからビームが発射されるが、セインはまだ、敵の動きの軌道を読み切れていなかったのか、ビームはM4アストレイの脚に直撃した。
219ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/13(金) 20:14:24.89 ID:vdCGTZkc0
「違うな、こうじゃないか」
セインは呟きながら、脚を失った機体にもう一度狙いをつけて引き金を引く。ブレイズガンダムのライフルの銃口から放たれたビームは、コックピットに直撃した。
(よい行いですよ)
「はい」
セインが頭の中の声と会話していると、セインの感覚では、それを邪魔しようと三機のM4アストレイがブレイズガンダム迫ってくる。
セインはつくづく邪魔だと思い、ブレイズガンダムのゼピュロスブースターのミサイルを突撃してくる三機の間に撃ち込み、煙幕のように爆発させた。
三機は直撃することなく爆発したミサイルに戸惑っていると、ミサイルの爆煙からブレイズガンダムが飛び出し、すれ違いざまに一機のM4アストレイの胴体を真っ二つに切り裂き爆散させる。
「あと二機」
セインのブレイズガンダムはビームサーベルを抜いたまま、敵に接近し、そのコックピットを貫いた。
セインはふと面白いと感じた。クライン公国のMSのコックピットをビームサーベルで貫いた時と感触が違うような気がしたからだ。
そう感じたので、セインは仲間の仇とばかりにビームサーベルを片手に突っ込んで来たM4アストレイの攻撃を軽く躱すと、そのコックピットをビームサーベルで貫いた。
やはり感触が違うと思い、セインの口元に笑みが浮かんだ。
「僕は、こっちの方が好きだな」
セインはコックピットを貫かれ、墜落していく、M4アストレイの姿を見ながら呟いた。

アッシュたちは船上で待機しながら、セインの戦いを見ていた。
「セイン強いなぁ、いつの間に腕を上げたんだ?」
ジェイコブが無邪気に言うが、アッシュとしてはそんな気分ではいられなかった。アッシュはどちらがマズイのか考え始めていた、機体かパイロットか、アッシュは機体の方だという思いが強かった。
アッシュから見てセインという少年は、無茶はするが本質的には臆病で、メンタルが弱いはず。それが急に変わって、命令を無視して戦場に飛び出し、あれほど堂々と戦えるようになるとは思えなかった。
おそらくブレイズガンダムに何か原因があるとアッシュは思った。ただでさえ出自が怪しい機体だパイロットをおかしくさせる何かが積まれていてもおかしくないとアッシュは考えた。
とりあえず、この戦闘だけは様子見だ。これ以上、セインをあの機体に乗せることはアッシュには抵抗があった。

「はは、はは、はは、楽しいぃなぁぁ」
(喜びに打ち震える素直な心を持つことが重要ですよ)
「はい」
セインのブレイズガンダムは既にオーブの本島に上陸していた。セインの頭にチラッとオノゴロ島という名前が思い浮かんだが、
セインはどうでも良かったので、シールドを構えながら、ビームライフルをアサルトモードに変え、高速連射されるビームで敵の機体をズタズタに引き裂いていた。
「うん、これもいいな」
セインがズタズタになって崩れ落ちる敵をみたら、これも良いと思えてきたので、今度はこうやって殺そうという気分になってきた。その時だった。どこからか飛来してきたビームがブレイズガンダムのビームライフルを貫き、破壊した。
「あ」
セインはとても悲しい気持ちになった。これでは上手く殺せなくなると思うと急な悲しみが襲ってきたのだ。
(あなたに悲しみを与える者は無数にいます。あなたは全てを打ち払わなければなりません)
「そうだ、ぶっ殺してやる。僕のライフルを壊した奴」
セインの思考が悲しみから急に怒りへと変わり、自分を攻撃してきた機体を探そうとすると、急に機体に衝撃が走り、ブレイズガンダムが弾き飛ばされる。
220ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk :2015/02/13(金) 20:15:36.07 ID:vdCGTZkc0
「なにかいるな」
セインの頭は怒りから冷静な状態に切り替わった。そこで、ようやく敵らしき物の姿を視認した、透明だが僅かに背景に対して歪んで見える何か。形はMSのようであった。
セインは、とりあえず、そこに向かってゼピュロスブースターのミサイルを斉射した。するとやはり煙の中に透明な何かが浮き上がって、しかもそれがブレイズガンダムに突っ込んでくる、
セインはブレイズガンダムにビームサーベルを抜かせると、透明な何かに向かってビームサーベルを振るった。その直後、ビームサーベルは何かに受け止められた。
「多少はできるな」
通信で敵の声が聞こえた。それと同時に敵のMSが姿を見せる。
機体はM4アストレイに似ているが、メインの装甲は黒く塗られ、各所の露出しているフレーム部分は金色のMSだった。さらに装備もセインが見たことのないものが各所に取り付けられていた。
「M4アストレイゴールドフレームと言ったところだ。まだ天(アマツ)を付けるには至ってない取るに足らない機体だよ」
そう言いがらも黒と金のM4アストレイはビームサーベル受け止めた状態から、反撃に出た。背中のバックパックからサブアームが伸びると同時にそこからビームサーベルが出力され、ブレイズガンダムに襲い掛かる。
セインは良くないな。と思い、機体を大きく後ろに後退させる。
「下がったな。少しでも賊をオーブの国土から追い出せたので、良しとするか」
黒と金のM4アストレイは優雅に構えを取る、セインはその態度に気に入らないものを感じたのでブレイズガンダムを動かそうとした。その時である、ブレイズガンダムの頭部が何かに打撃された。
目の前の機体が何かをしたのは明らかであった、黒と金のM4アストレイが左腕を横に払った瞬間に打撃の衝撃が襲ってきたのだから。
「我が名は、アルバ・ジン・サハク!サハク家を継ぐ者にして、オーブの盾なり!」
うるさい奴だとセインは思い、機体を動かす。その瞬間、再び見えない打撃が襲ってきた。しかし、ブレイズガンダムの動きを止めるほどの威力と衝撃ではない。
「なるほど猛獣の調教は、鞭だけでは駄目か、ならば」
ブレイズガンダムはビームサーベルを片手に突進する。対して黒と金のM4アストレイは後ろに下がりながら、左腕を振るう。セインはその瞬間、機体に何かが引っかかったような気がしたが、無視をした。
しかし、それが失敗だった。直後に、ブレイズガンダムに電流が奔り、コックピットまで電流は流れ、パイロットを襲う。
きついとセインは思ったが、元々正常な思考が出来ている状態ではなかったので、考えることはさほど難しくなかった。
(苦痛も道のひとつですよ)
「はい」
セインが思い至ったのは鞭状の武器である。技術的な原理は不明だが、多分そうだと思ったので、ビームサーベルを抜き放つと機体の周囲をやたらめったに振り回した。すると何かが切れ、電流は止まった。だが、敵の攻撃が止まるわけではない。
「隙ありだな!」
黒と金のM4アストレイは右腕のシールドから刃をスライドさせて、突進していた。シールドからスライドして伸びている刃はビームサーベル並の長さがあった。
セインはマズいと思った。思考に対して機体の操縦は追いついてくれなかった。そして刃が走る。刃は装甲を切り裂き、ブレイズガンダムの右腕を切り飛ばした。
セインはボンヤリと宙を舞うブレイズガンダムの右腕を見ていた。あれ、僕の腕だよな。何か他人事のような気がした。
221ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk
セインは自分の右腕があるかを確認してみた。触ってみると確かにある。では、あの宙を舞っているのは誰の腕だ?考え、セインは自分の腕だと思い至る。
「ああああああ、腕、腕で腕ぇぇ!?」
セインは訳が分からない。頭が混乱していた。自分と機体どっちが自分なのかの境界が分からなくなっていた。
黒と金のM4アストレイは右腕のシールドから伸びる刃を悠然と構えながら、腕を失い呆然としているブレイズガンダムに近寄ってくる。
「オーブも昔は最新技術の宝庫だったんだがな。今では、この刃のような何でも斬れる剣といったような訳の分からん物に頼るようなっていてな。少し恥ずかしいよ」
声が聞こえるが訳が分からない。バリアがあったのに何で切れるんだ?そもそも僕の腕はどっちだ、飛んでったほうか、それともこの身体に付いてるほうなのか、くそくそくそくそ、頭が痛いんだよ、腕が痛いんだよ、もう嫌だ。
殺してやる、僕をイジメる奴は、僕より強い奴はもういらない、この世界にいらないから、ぶち殺してやる。
「……コード:ブレイズ……!」
セインは静かに、だが力強く言葉を発した。
その瞬間、ブレイズガンダムの関節部から赤い不可思議な粒子が炎ように吹き上がる。
「なんだ!?」
アルバは目の前で敵の機体が異様な状態になっていくのを目の当たりにし、危険を感じていた。
ブレイズガンダムは左腕にマウントされていたシールドを捨てると、黒と金のM4アストレイに突進する。
だが、その速度は先ほどの比ではなかった。アルバはその目で見たが、スラスターから噴射されているものも、通常の推進剤の炎ではなく、炎のように吹き上がる赤い粒子だった。
「猛獣ではなく、怪物か」
ブレイズガンダムは左拳で殴りかかる。武器が無い以上はそうするしかない。アルバのアストレイは右腕のシールドで防御したが、その左拳の威力は尋常ではなかった。
受け止めたはずなの黒と金のM4アストレイは大きく吹き飛ばされ、その衝撃で機体にダメージが生じる。
「相手にしたくないな」
アルバは戦士でもあるが、それ以前にサハクの家を継ぐものである。ここで怪物と戦って命を落とすことは許されない。アルバは即座に撤退を判断した。黒と金のM4アストレイはブレイズガンダムに背を向けると急ぎ去って行く。
「逃げるな、逃げるなよぉ、僕の腕はどうすんだ!くっつけろ、くっつけろよぉ!」
セインのブレイズガンダムは左腕を黒と金のM4アストレイに向けて追いすがるような姿勢だった。
「逃げるなら死ね、死んでから逃げろ!僕より弱いんだろ、逃げるんだから、僕が強いんだから、僕の言うこと聞けよぉ!」
セインがそう叫んだ瞬間だった。ブレイズガンダムの左手、武器にエネルギーを供給するコネクターから赤い粒子が漏れ出し、球体を形成する。
「燃え尽きて、消え失せろ!」
ブレイズガンダムの掌に生まれた赤い球体が、黒と金のM4アストレイに向けて発射された。回避できたのはまさに偶然だった。赤い球体は、黒と金のM4アストレイの横を通り過ぎて遥か彼方に着弾すると大爆発を引き起こした。
アルバは後ろを振り返らず、懸命に逃げた。あんな攻撃が何発も飛んで来たらオーブは終わりだと思った。だがその心配はいらなかった。