1 :
通常の名無しさんの3倍 :
2014/06/23(月) 19:34:55.90 ID:YRA6vXVZ 新人職人さん及び投下先に困っている職人さんがSS・ネタを投下するスレです。
好きな内容で、短編・長編問わず投下できます。
分割投下中の割込み、雑談は控えてください。
面白いものには素直にGJ! を。
投下作品には「つまらん」と言わず一行でも良いのでアドバイスや感想レスを付けて下さい。
荒れ防止のためこれまで「sage」進行を用いておりましたが、
現在当板の常駐荒らし「モリーゾ」の粘着被害に遭っております。
「age」ると荒れるという口実で「sage」を固持しつつ自演による自賛行為、
また職人さんのなりすまし、投下作を恣意的に改ざん、外部作のコピペなど更なる迷惑行為が続いております。
よって現スレより荒らし行為が消滅するまで暫定的な措置ではありますが、
職人さん、住民の方々全てにID出しのご協力をお願いいたします。
ID出しにより自演が多少煩雑になるので、一定の効果はあります。
また、職人氏には荒らしのなりすまし回避のため、コテ及びトリップをつけることをお勧めします。
(成りすました場合 本物は コテ◆トリップ であるのが コテ◇トリップとなり一目瞭然です)
SS作者には敬意を忘れずに、煽り荒らしはスルー。
本編および外伝、SS作者の叩きは厳禁。
スレ違いの話はほどほどに。
容量が450KBを越えたのに気付いたら、告知の上スレ立てをお願いします。
本編と外伝、両方のファンが楽しめるより良い作品、スレ作りに取り組みましょう。
前スレ
新人職人がSSを書いてみる 25ページ目
http://peace.2ch.net/test/read.cgi/shar/1392735100/ まとめサイト
ガンダムクロスオーバーSS倉庫 Wiki
http://arte.wikiwiki.jp/ 新人スレアップローダー
http://ux.getuploader.com/shinjin/
2 :
巻頭特集【テンプレート】 :2014/06/23(月) 19:36:24.62 ID:YRA6vXVZ
〜このスレについて〜 ■Q1 新人ですが本当に投下して大丈夫ですか? ■A1 ようこそ、お待ちしていました。全く問題ありません。 但しアドバイス、批評、感想のレスが付いた場合、最初は辛目の評価が多いです。 ■Q2 △△と種、種死のクロスなんだけど投下してもいい? ■A2 ノンジャンルスレなので大丈夫です。 ただしクロス元を知らない読者が居る事も理解してください。 ■Q3 00(ダブルオー)のSSなんだけど投下してもいい? ■A3 新シャアである限りガンダム関連であれば基本的には大丈夫なはずです。(H22,11現在) ■捕捉 エログロ系、801系などについては節度を持った創作をお願いします。 どうしても18禁になる場合はそれ系の板へどうぞ。新シャアではそもそも板違いです。 ■Q4 ××スレがあるんだけれど、此処に移転して投下してもいい? ■A4 基本的に職人さんの自由ですが、移転元のスレに筋を通す事をお勧めしておきます。 理由無き移籍は此処に限らず荒れる元です。 ■Q5 △△スレが出来たんで、其処に移転して投下してもいい? ■A5 基本的に職人さんの自由ですが、此処と移転先のスレへの挨拶は忘れずに。 ■Q6 ○○さんの作品をまとめて読みたい ■A6 まとめサイトへどうぞ。気に入った作品にはレビューを付けると喜ばれます ■Q7 ○○さんのSSは、××スレの範囲なんじゃない? △△氏はどう見ても新人じゃねぇじゃん。 ■A7 事情があって新人スレに投下している場合もあります。 ■Q8 ○○さんの作品が気に入らない。 ■A8 スルー汁。 ■Q9 読者(作者)と雑談したい。意見を聞きたい。 ■A9 旧まとめサイトの作品まとめ自体は2012年3月でサービスを終了しておりますが、掲示板は利用できます。 ご活用ください。
3 :
巻頭特集【テンプレート】 :2014/06/23(月) 19:39:28.32 ID:YRA6vXVZ
〜投稿の時に〜
■Q10 SS出来たんだけど、投下するのにどうしたら良い?
■A10 タイトルを書き、作者の名前と必要ならトリップ、長編であれば第何話であるのか、を書いた上で
投下してください。 分割して投稿する場合は名前欄か本文の最初に1/5、2/5、3/5……等と番号を振ると、
読者としては読みやすいです。
■補足 SS本文以外は必須ではありませんが、タイトル、作者名は位は入れた方が良いです。
■Q11 投稿制限を受けました(字数、改行)
■A11 新シャア板では四十八行、全角二千文字程度が限界です。
本文を圧縮、もしくは分割したうえで投稿して下さい。
またレスアンカー(
>>1 )個数にも制限がありますが、一般的には知らなくとも困らないでしょう。
さらに、一行目が空行で長いレスの場合、レスが消えてしまうことがあるので注意してください。
■Q12 投稿制限を受けました(連投)
■A12 新シャア板の場合連続投稿は十回が限度です。
時間の経過か誰かの支援(書き込み)を待ってください。
■Q13 投稿制限を受けました(時間)
■A13 今の新シャア板の場合、投稿の間隔は忍法帖のLVによって異なります。時間を空けて投稿してください。
■Q14
今回のSSにはこんな舞台設定(の予定)なので、先に設定資料を投下した方が良いよね?
今回のSSにはこんな人物が登場する(予定)なので、人物設定も投下した方が良いよね?
今回のSSはこんな作品とクロスしているのですが、知らない人多そうだし先に説明した方が良いよね?
■A14 設定資料、人物紹介、クロス元の作品紹介は出来うる限り作品中で描写した方が良いです。
■補足
話が長くなったので、登場人物を整理して紹介します。
あるいは此処の説明を入れると話のテンポが悪くなるのでしませんでしたが実は――。
という場合なら読者に受け入れられる場合もありますが、設定のみを強調するのは
読者から見ると好ましくない。 と言う事実は頭に入れておきましょう。
どうしてもという場合は、人物紹介や設定披露の短編を一つ書いてしまう手もあります。
"読み物"として面白ければ良い、と言う事ですね。
4 :
巻頭特集【テンプレート】 :2014/06/23(月) 19:40:55.44 ID:YRA6vXVZ
〜書く時に〜 ■Q15 改行で注意されたんだけど、どういう事? ■A15 大体四十文字強から五十文字弱が改行の目安だと言われる事が多いです。 一般的にその程度の文字数で単語が切れない様に改行すると読みやすいです。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ↑が全角四十文字、 ↓が全角五十文字です。読者の閲覧環境にもよります。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あくまで読者が読みやすい環境の為、ではあるのですが 閲覧環境が様々ですので作者の意図しない改行などを防ぐ意味合いもあります。 また基本横書きである為、適宜空白行を入れた方が読みやすくて良いとも言われます。 以上はインターネットブラウザ等で閲覧する事を考慮した話です。 改行、空白行等は文章の根幹でもあります。自らの表現を追求する事も勿論"アリ"でしょうが 『読者』はインターネットブラウザ等で見ている事実はお忘れ無く。読者あっての作者、です。 ■Q16 長い沈黙は「…………………」で表せるよな? 「―――――――――!!!」とかでスピード感を出したい。 空白行を十行位入れて、言葉に出来ない感情を表現したい。 ■A16 三点リーダー『…』とダッシュ『―』は、基本的に偶数個ずつ使います。 『……』、『――』という感じです。 感嘆符「!」と疑問符「?」の後は一文字空白を入れます。 こんな! 感じぃ!? になります。 そして 記 号 や………………!! “空 白 行”というものはっ――――――――!!! まあ、思う程には強調効果が無いので使い方には注意しましょう。 ■Q18 第○話、って書くとダサいと思う。 ■A18 別に「PHASE-01」でも「第二地獄トロメア」でも「魔カルテ3」でも「同情できない四面楚歌」でも、 読者が分かれば問題ありません。でも逆に言うとどれだけ凝っても「第○話」としか認識されてません。 ただし長編では、読み手が混乱しない様に必要な情報でもあります。 サブタイトルも同様ですが作者によってはそれ自体が作品の一部でもあるでしょう。 いずれ表現は自由だと言うことではあります。 ■Q19 感想、批評を書きたいんだけどオレが/私が書いても良いの? ■A19 むしろ積極的に思った事を1行でも、「GJ」、「投下乙」の一言でも書いて下さい。 長い必要も、専門的である必要もないんです。 専門的に書きたいならそれも勿論OKです。 作者の仕込んだネタに気付いたよ、というサインを送っても良いと思われます。 ■Q20 上手い文章を書くコツは? 教えて! エロイ人!! ■A20 上手い人かエロイ人に聞いてください。
・IDを表示する方法は、レスのsage欄のチェックを外すだけです。 ・「NGID」、および「NGName」の設定は 専ブラの 「ツール」→「設定」→「機能」→「あぼ〜ん」→「NGID(例:含む→???でID非表示のレスをあぼんできます)」 →「NGName」に対象となる語をコピペなどで入れる ・なお「NGEx」はJaneの機能になりますが効果は絶大です。 「ツール」→「設定」→「機能」→「あぼ〜ん」→「NGEx」→登録名(任意)→追加 登録名選択ダブルクリック→対象URI/タイトル→含む→キーワード"新人職人がSSを書いてみる"
ほしゅ
乙
保守AGE
9 :
荒らし対策【ID表示とNG設定】 :2014/07/01(火) 00:03:17.12 ID:Eq8RmPXQ
・IDを表示する方法は、レスのsage欄のチェックを外すだけです。 ・「NGID」、および「NGName」の設定は 専ブラの 「ツール」→「設定」→「機能」→「あぼ〜ん」→「NGID(例:含む→???でID非表示のレスをあぼんできます)」 →「NGName」に対象となる語をコピペなどで入れる ・なお「NGEx」はJaneの機能になりますが効果は絶大です。 「ツール」→「設定」→「機能」→「あぼ〜ん」→「NGEx」→登録名(任意)→追加 登録名選択ダブルクリック→対象URI/タイトル→含む→キーワード"新人職人がSSを書いてみる"
乙
11 :
弐国 ◆lywiuYaB8LyX :2014/07/02(水) 22:15:31.60 ID:VCylzwyc
ゴミ溜の宇宙(うみ)で ――正義の境界線―― 「代理、センサー届きました。――やはり正面は囮です。艦隊は4隻全てダミーで確定!」 「良かった、70秒以上儲けた。――全艦直ちにワイヤーアンコネクト。サポートアームパージ。 離床後高度62m。ゲルヒルデ、オルトリンデの順で発進準備。発進後艦隊は逆三角陣で編成。 ブリュンヒルデは他の艦よりパワーが出るので最後に。各艦へ発進準備開始を通達。艦長?」 アイマム。――隣の席から経験も、勿論年齢も上の艦長が、ごく普通にそう返事を返す。 短い緑の上着にベレー帽の少女、レベッカは違和感を感じずには居られない。 「代理、メカチーフより通信。ヴァルハラのメインハッチ開放タイミングを聞いてきてるけど?」 「予定より160秒早めます。ゲルヒルデの発進は170秒の短縮、あとの船も適宜早めて下さい」 「ベッキーのゲイツが出るなら、最後の最後。その時ゃ悪いが船に残った連中の為に犠牲に なってくれ。相手が3機以内なら、おまえだったら一人でも2分以上稼げるはずだ」 黒い服の上司の言葉を思い出す。その理想の上司足る彼は、敬愛してやまない先輩と共に 最前線に居る。二人とも1分稼げるなら最後どころか一番最初に進んで犠牲になるだろう。 「何故キャップと先輩が。力ある者こそ残らなければ……」 悪いが俺もフゥも死ぬつもりはないんでな。かえってくる以上船を堕とすなよ? そう言って ニッと笑ったウィルソンと、いつも通り表情の動かないフジコの顔がレベッカの脳裏に蘇る。 「ゲート開放開始を視認、現在1%。完全解放まで残り820。――代理?」 適当にでっち上げたのに一番バランスが良くなってしまった。工廠純正よりも出来が良い。 とメカマンチーフが自画自賛する彼女の機体。機体ナンバーも他の拾われたパイロット達の 機体がシューティングスターA、若しくはB、Cという名前の登録であるのに対して、彼女のそれは 分室組と同じ肩のマーク、髑髏の旗。それにちなんだスカルフラッグスである。 そのゲイツ。機体ナンバー、スカルフラッグス7は出撃待機で未だMSデッキに佇んでいる。 「了解。……発進タイミングを更に早めます。――ゲート解放24%でゲルヒルデは発進。 隙間のスペースは上下10m、十分です。ゲルヒルデ艦長、ビーコン無しでも行けますね?」 配下の腕前を完全に把握した上で、自分の評価には絶対の信頼を置く。それが彼女から見た 艦隊司令、ウィルソンの指揮の基本である。 『全くぅ、要らないトコばっかりキャップとフジコに似ちゃってさ。可愛く無いったらないわ、ホント。 ――ゲルヒィ艦長了解! 見てなさい。誰にモノ言ってるのか、解らせてあげるから!!』 分室組の腕前を完全に掌握しているわけではないが、少なくとも自分より悪いはずがない。 だからレベッカは指示の出し方のみはウィルソンを真似ることにしたのである。 「全員集中して! ウチが出るときもまだ20%未満よ? ぶつけたら……。代理、どうする?」 「艦長? ――えーと、じゃあぶつけた艦のブリッジ要員は一週間おやつ抜きにでもしますか? ……って、私も含めないとやっぱり不公平。ですか?」 代理は責任、三隻分ね。りょーかーい。――みんな聞いたね? 気合い入れてくよ! そう言って笑う艦長を見ながら、ああ。やはり私は此処まで割り切れない。と思うレベッカである。 「ゲルヒルデ、超微速前進開始。ゲート解放継続中。オルトリンデから、メイン始動開始とのこと」 「オールステーションリンク。シグナルオールグリーン。サブエンジン噴射シーケンス開始」 「室長代理ニコルソンから総員へ。各砲座、ミサイル発射管全門用意。先ずは前方のダミーを 薙ぎ払います。――我々が生きることこそが正義、そして古来、正義は必ず勝つ! 以上!!」 ――アイアイマム! 全員から彼女へ返事が返って来る。レベッカは逃げ道を自ら断った。
12 :
弐国 ◆lywiuYaB8LyX :2014/07/02(水) 22:17:01.94 ID:VCylzwyc
――正義の境界線―― 『もう動いた? ――キャップ。艦隊全艦、ヴァルハラより出航開始を確認!』 「アレはせっかちだからなぁ。現状で、……もう126秒! ひゅー。任せた甲斐はあったぜ」 隕石に偽装したウィルソンとフジコのゲイツは、敵MS隊の背後に入り込みつつあった。 「最終的にアドバンテージ200以上確定だ! やってくれるな、さすがはセリア隊長直伝の 指揮官っぷりだぁ。アレで艦隊指揮が初めてなんて、言わなきゃだれも思わねぇだろうぜ?」 ――そこまで読んだ上で彼女に? との問いにしれっと答えるウィルソンである。 『MSの撃墜は狙わないのですか?』 敵MS、MAはパメラが正面で足止め、ワチャラポンがサイドから挟撃、ジェイミーが 抜けた敵を狙撃。そして敵艦載機の真裏、敵艦隊主力の正面。ゲイツ2機のみで攪乱を計る。 非常におおざっぱ、かつパイロットの技量が無ければ実行出来ない作戦。但しヤキンの亡霊 が仕切る作戦である以上、成功の可能性が高いと踏んだ。言う事でもある。 「あぁ、ブリュンヒルデから目をそらす事が出来ればそれで良いんだ。あっちに要救助者が 出れば結果ますます時間が稼げる。200超えれば俺とおまえ以外は全機戻れる」 但し、件のデュエル率いる新型ダガー部隊も当然そこに居るはずである。突っ込んだが最後、 自分達が無事に帰れる可能性は一気に低くなる。 「320なら我々も戻れますね?」 ――まぁ、そうだな。確かに計算上350は軽く超えそうだが……。あまり普段無い 方向性の会話にウィルソンは多少戸惑う。 「ならばレベッカを褒める為に最低二人の内一人は戻らねばなりません。それに、……例の フィールドワーク、結果の検証をしなければいけません。……えぇと、その」 「……は? 検証、な。――わかった。二人でブリュンヒルデに帰るぞ、良いな!?」 プツン。いきなり通信モニターの画面が消え、サウンドオンリーの表示にイエス・サー。 と言う、何時も通りのフジコの事務的な返事のみが重なる。 「あれ? 加速しすぎです。操艦、じゃない。圧力だ。――艦長、機関室を。このままでは……」 いきなりレベッカの傍ら、コンソールの呼び出しがなる。 『ニコルソーン、どうしよう。プレッシャーが下がんないんだ! ……これ、爆発しちゃう!?』 「1号? ――判った了解。えと、B、C系統全面シャットダウン、4から12番ポンプ手動でカット。 それとA系統インジェクタ稼働率を30%以下にさげてバルブ全開。――見習いは卒業でしょ? 正規の機関士なんだから、慌てないでこれくらい判断してよ! 全くぅ。だいたいさぁ……」 何かを言いかけたレベッカを手で制すと、すかさず隣席の艦長がインターホンを取り上げる。 「機関室! いちいちエンジン不調時のシーケンスを指揮官にレクチャーさせるつもりなの!? ブリッジにはデータ以外あげないのは常識! 統括機関士長は何をしている、出しなさいっ!」 叱責しながら考える。人は足らない。自分が艦長をやる程だ、間違いない。そしてそれなりに 優秀な人材が集まっているのも本当だ。頼りなく見えるゾディアック組もエリート候補生である。 そして現司令代行のレベッカは元々パイロット。船の構造詳細なぞ、知っている道理がない。 だが彼女は、改造した上危険なトラブルを起こしたエンジンについて、的確にさばいて見せた。 過去、彼女の所属し全滅した部隊は、実質彼女が指揮した者のみが助かったのだと言う。 「代理、艦長の私が至らず申し訳無い。以降気を付けて最大限サポートします、指揮に専念を」 出来る能力を持った者が出来る事をする。12分室の唯一にして最大の掟である。
13 :
弐国 ◆lywiuYaB8LyX :2014/07/02(水) 22:19:55.60 ID:VCylzwyc
――正義の境界線―― 「司令、どうやらダミーがバレました。2番4番の反応消失。恐らくは巡洋艦主砲クラスの直撃に よるものと思われます」 ブリッジの真ん中、立体航宙図から次々にダミーのマークが消える。 白いスペーススーツに大佐の階級章。ヘルメットを首のハンガーから外しながら、 ラ・ルースは何時も通りの鉄面皮で淡々としている。 「多少早かったが構わんだろう。今更逃げを打っても間に合うまい。――艦長、始めようか?」 「ラジャー。対MS戦用意っ! 全砲塔、ミサイル発射管開け、イーゲルシュテルン起動。 CIC、ミサイル発射管は全門アンチビーム装填。――Dナンバーズは司令の別命あるまで待機」 「出来れば向こうの損害もあまり出さずに終わりたいものだな。なにしろブルーコスモスを 叩ければ、ナチュラルとコーディネーターのわだかまりを払拭できるのだ。軍人冥利に尽きると 言うものだろう? 人類の平和というこれ以上ない”正義”の名の下に戦えるのだからな」 「軍隊は平和の為に正義を背負って戦うのものと決まっています。特に我らはそうでありましょう」 ――ラ・ルースの言う正義は果たして自分の正義とどれだけ隔たりがあるだろう。 艦長は口には出さない。手法の差こそあれブルーコスモスのやりかたに反発する 部分は同じ。そして何よりラ・ルースは拾ってくれた恩人である。 「全くだ。良くわかっているな、艦長。――全艦に告ぐ、正義は我にあり! 全艦、前へ!!」 「偽装解除。最大船速、当艦先頭で単縦陣組みつつ前進。正義は我にあり!」 「敵の数は!?」 戦闘中といえど動かすなと言われれば、エース部隊Dナンバーズは艦長には動かせない。 一方のラ・ルースは索敵地域を指示して以来、表情というものを消し去って無言で艦橋に座る。 「当艦を基準として、グリーン25アルファからブラボー。MSが5、メビウスをリモートで動かして いると思われるものが5。オレンジチャーリーからデルタに展開するMSが4、都合、――いや、 報告! レッド156マーク11ブラボーに新たな敵MSを確認、数7。ジンの高機動型と推定!」 「当方の被害ダガー3,メビウス7。――グリーンアルファを突破した先に、敵狙撃部隊を確認!」 正面の浮きドックを改造したと思われる目標は、エンジンが改装され、砲塔さえ備えている。 というのに動かない。そして接近するアンノウンが二つ。やはり艦長は黙っていられなくなった。 「司令、あの二つのデブリはどう見ても敵のMSかと。確かにその為のDナンバーズですが……」 「この戦力差で本気で潰しに来るとはなかなかどうして。――艦長。私にはな、あのデカ物が 本体とは思えんのだ。向こうが来るのが早いか、こちらが見つけるのが早いか。……面白いな」 と、オペレーターの一人が立ち上がりつつ振り返る。 「緊急! 浮きドックの先、距離不明ですが、グリーンデルタにナスカ級と思われる反応あり!」 「居たか……。艦長、読み通りならアレがヤツらの本体だ。Dナンバーズを分割して強行偵察隊 を編成したいが、どうか?」 コピー、少佐に連絡を。――艦長に答えは、だが一つしか用意されていないのだ。 『ボルタ、グリン。それとシエラも来い。D1以下残りはカエサル直援! ――デュエル、出る!』 ――EWACストライカーのD2を連れて行け。艦長が指示出来たのはそれだけだった。 「アンノウン2個が明らかな人為的機動で320°転進。目視した噴射炎からゲイツと推定」 「ふむ……、此処までは予想通りだがヤツらの目的……。殺してしまっては勿体ないが」 「少佐にまだ繋がるか? ――自分だ。亡霊は出来得る限り生かして司令の前に連れてこい。 ――あぁ、勿論命令だ。……命令遂行に際し少佐の最大限の努力を期待する。以上だ」
14 :
弐国 ◆lywiuYaB8LyX :2014/07/02(水) 22:22:12.22 ID:VCylzwyc
――正義の境界線―― 「グラスパーがついて来れない? 何でだ? 向こうの方がスピード出るだろうが!」 「機雷原にかかった模様。損害は無しですが、大幅に迂回する為合流までプラス320との事」 不味いな……。連れてきた3機のうち1機は電子偵察機、他の2機はソードとランチャー装備、 エールストライカーは彼のみ。パイロットで急遽選んだのでこうなったが、本来グラスパーからの 換装でD2以外はエールで機動力を確保して亡霊と格闘戦に持ち込む。 そう言う腹づもりだったシェットランドはデュエル・プラスのコクピット内、冷静に考える。 「機動力はそれでも同等か若干上、数は勝ってる。ならば腕の差だが……」 相手はMSたった数機でエターナルの直近まで潜り込んだ、と言う情報が上がっている程の 凄腕。自分が勝っているとは決して思えない彼である。 「敵MSは、現在イエロー23マーク22チャーリー。距離を徐々に詰めつつ併走中。 角度が現状のままなら、約250秒で我が隊斜め後方43度よりコンタクト!」 ――アンノウンの現状位置は? の問いに即座に返答が返る。索敵、情報収集に特化した EWAC(※)ストライカーを装備し、それの扱いに長けたパイロットのD2が居るからではある。 これを浮きドックの裏側に送り届けるのがメインの仕事だが、その前に”一仕事”がある。 「ゲイツ2機、か。ってこたぁ、反応はおなじみのジョリーロジャー野郎と白線のヤツだな?」 『前回会敵した機体との熱紋合致率97%強、ほぼ断定して良いと思われます』 相手は百戦錬磨の亡霊。多分速度を上げて前方に回り込む。いや間違い無く回り込んでくる。 いきなり奇襲作戦を破棄してシェットランドの部隊の追撃に切り替え、機雷をバラまきつつ、 追いついて来る。それだけでも驚愕に値するのに、更に先回りするなら移動経路も確保済み。 恐らくデュエル・プラスを前面に、強行偵察隊を出す。その事さえ、予測の範囲内なのだろう。 「ウチの司令閣下のお考えまで計算済みとは恐れ入ったぜ……」 データ画面には【エネミー】の注意書きのついた2つの点。G兵器の流れを汲む特殊な機体を 使っているわけでもなければ、あのジョーダンの乗ってきたNJC搭載型でもない。スピードも パワーもただのゲイツだ。コース、タイミング。次の手を完璧に読み切り、更にそのはるか上を 行かなければ先回りなどムリなのだが、恐らくはやる。それをやるのがヤキンの亡霊だからだ。 「シエラ、グリン。ボルタのD2に多分白線が行くからガードしろ。敵の撃墜はねらう事はない。 出来れば白線は拿捕。ボルタは逃げまくってEWACストライカーの損傷を最小限に抑えろ」 『リーダーはどうすんだ? まさか単騎で亡霊とやりあう気じゃ……』 やりたかねぇがな……。だが思った言葉と口に出す言葉は違った。 「“お客さん”が俺をご指名で来るんだぜ、グリン。失礼があっちゃあ艦長サマに怒られんだろ?」 敵は闇に紛れ、ゴミを兵器に変え、たった数機のMSだけで部隊全体を混乱に陥れる能力を 持った特殊部隊。今回も、たったの2機で本陣奇襲のはずだったのだ。 だからこそ、そこに隙がある。自分を納得させるようにシェットランドは、モニターに映る 光点を見つめる。どんなに優秀なパイロットだろうが量産型がたったの2機である。 『“亡霊”はリーダーをピンポイントで狙ってくる、と?』 「まぁ来てくれなきゃ困る。その為のデュエルだし、命令は生け捕りだ。……俺は撒き餌だろう からな。俺に食い付いてくれる価値がねぇってんなら、デュエルは司令に返すしかねーだろ?」 少なくともラ・ルースはそうだろう。但し自分が本当にそう思っているかどうか。エースパイロット とやり合える、と言う事に関しての高揚感は感じるものの、自身でさえ良くわからない 「シエラ、フォーメーション組めっ、たぶん白線は正面、グリーンデルタあたりから来るぞ!」
15 :
弐国 ◆lywiuYaB8LyX :2014/07/02(水) 22:24:39.38 ID:VCylzwyc
――正義の境界線―― 「いくら命令でも承伏できません、性能差は明確です。2機ユニットを崩すメリットが見えません」 MSを示すマークが4つ。編隊を組んでいるのはウィルソンのモニターでも見て取れる。 「メリットか……。デュエルがまっすぐ俺に向かってくるのは端から判ってる。ここまで逃げまくって 来たからな。あちらサンも決着をつけたがっているさ。それに……」 脂汗を浮かべて指揮を執って居るであろうレベッカの顔が浮かぶ。 「ブリュンヒルデがMS回収の為に待ってる。製造歴も就航歴も所属もないナスカタイプ。データ どころか鮮明な映像さえ、撮られるわけには絶対にいかん。命に代えてもヤツらを止める!」 「何故そんなにリュンディに固執するのか判りません! 状況からみて部隊存続にとって 必要不可欠なのは船よりキャップの存在です。必要以上に危険に身をさらすのは……」 コンタクトまで残り369秒。モニターの数字が減っていくのをウィルソンは見やる。 「黒い部隊の存在、明るみに出ると困るのは誰だ? 後の話し合いで不利益を被るのは ザフトでも最高評議会でも誰でもない。プラントに暮らす一般市民だ……!」 バイザーで隠れて細かい所は見えないが、フジコが珍しくやや感情的に返事を返す。 「そのプラントに、我々は見捨てられたのですよ!? 付き従う義理など何処に……」 「俺たちは誰の為に戦ってきた? 少なくとも俺は、プラントの普通の人々の為に命を張って 来たつもりだ。……おまえはレーダーのヤツを潰せ。他の高性能型は無視して良い。 承伏できないと言うのならそれで良い。船に戻って直援に付けっ! セリア隊長、返答は!?」 ――コピー、レーダー付きを潰し、その後キャップの援護に回ります。以上。それだけ言うと 通信は切れ、隣を飛んでいたゲイツは角度を変えて見えなくなる。 「――すまない。フゥを俺の正義につきあわせる権利など、本当は俺には……」 「代理、どうしたの?」 「報告! 艦長、ジェイミー・エラン班。帰投します」 レベッカがインターホンに手を伸ばしかけたのに艦長が気づいて、声をかけたタイミングで、 オペレーターから報告があがる。 「全機甲板にのせてケーブル接続。こないだローラシアタイプの主砲外して作った砲を 三機全機に持たせて。浮き砲台としての利用もあり得るからワイヤの接続も同時に!」 「アイアイ。ジェイミーさんに伝えます」 艦長は、事前にレベッカから指示のあった通りオペレーターに返事をしながら隣の レベッカを見やる。既にインターホンを顔につけている 「ニコルソンです、メカチーフに。――私の機体の準備を10分で。……はい、お願いします」 「代理! 何を……」 すっくと自席に立ち上がったレベッカを仰ぎ見る形になる艦長。 「必ず出るわけではありません。でも、現状キャップの班のみが作戦遂行遅延中です。支援に 出た場合、帰ってこれる目処が立たなければ、私がブリュンヒルデの加速する時間を稼ぎます。 その後の指揮は艦長に一任。私を含め3機全て見捨てて下さい。……キャップからの命令です」 眥(まなじり)を決して、ベレー帽を脱いだレベッカにオペレーターから声がかかる。 「観測班から代理に緊急。ヴァルハラの2ndセイフティ解除の回転灯を視認とのこと!」 早すぎる。ウィルソンが帰投シーケンスに入ってから解除のはずだったが、ともあれ。 「……艦長。とりあえずデッキに下ります。キャップとセリア隊長の位置と状況、確認を大至急!」
16 :
弐国 ◆lywiuYaB8LyX :2014/07/02(水) 22:26:53.48 ID:VCylzwyc
――正義の境界線―― 「D2ボルタ、聞こえて? D4ベルーガよ。リーダーの読みが当たればこないだの白線の ゲイツはこっちに来る。リーダーからの命令でもある以上、Dナンバーズの誇りにかけて、 逃げて逃げて逃げまくるのよ! 高機動戦闘の達人としてD2を任されてんだからさ!」 シエラ・ベルーガ大尉。男性としての魅力はともかく、軍人、士官として、パイロットとしての シェットランドに惚れ込んだ彼女は、大戦前から志願して部下となり、行動を共にしている。 シエラに限らずMS、MAのパイロット、メカマン達の求心力は意外にもシェットランドである。 「D4シエラ、グリンだ。俺はランチャー、おまえはソード。白線とやり合うには少々装備が……」 「グリン、何の為のダガーLヌーボォさ! ここでしくじったら、またリーダーが冷血司令や 陰険艦長に嫌味言われんだよ? 出撃のたんびにそんな目に遭わせる部下が居るかい!」 彼の性格と思想から重要任務では置いてけぼり、総力戦では最前線送りが常ではあったし、 だから彼が201艦隊でGを受け取り大隊長の地位にある事自体には満足している彼女である。 『ベルーガ副長、グリンさん。物足りないかも知れませんが自分は大丈夫であります』 『ぬ。……すまん、ボルタ中尉。勿論、おまえの腕に疑問はない。シエラも文句はないな?』 ――リーダーの選んだDのメンバーだもの。出来なければ選ばれない。そう言いながらも、 正面から当たる以外に打つ手が無いか考えるシエラ。力の差は十分認識している彼女である。 「――くっ。どうして認識できる程に実力差のある敵を拿捕せよなどと、無理のある命令が……」 シェットランドの待遇については納得しているものの、ここ暫くの”仕事”の内容については 彼女には大いに不満があった。 「よし! 来るのが白線なら、こっちは思い切って行く。グリン、あんたは前に出て牽制。 ボルタは私が守ってやるから、予定通り逃げまくる。――但しパックは破損しても良し!」 『でも副長、リーダーがパックを守れと……』 命令は絶対。勿論だ。但し作戦遂行に支障を来すというならば、現場で出された命令を 多少無視しても良かろう。それに命令には“出来れば”が付いたのだ。現状は、出来ない。 「私らの任務はナスカ級の偵察。ならばパックが無くても機体が辿り着けば済むじゃないか。 目視とカメラで映像押さえれば終わり。それにあと8分ほどで予備の燃料も到着する」 『……わざとパックを囮に使うようなことはしませんよ? 一応リーダーの直接命令ですから』 コスモグラスパーの到着はほぼ480秒後。つまり戦闘で大立ち回りをしても、機体さえ 壊さなければ武器弾薬、燃料の補給は確実にここに来るのだ。 「構わない、任せる。――で、こっちのゲイツは亡霊本人じゃない。となれば……? グリン!」 『わかった。最初から狙っていくがアグニ(大砲)に当たってくれるタマじゃない、多分抜かれる、 そんときゃシエラ、間違いなく対艦刀で白線を頭から叩き割れ。――そう言う事だろ?』 ――コンタクトまであと80。通信からボルタの固い声が流れる。 「おうともさ、亡霊本人じゃあないなら、生け捕る必要なんて無いだろ! ――上級大尉でなく 私を連れてきてくれたんだ。上司の功績を挙げずして何が部下かっ……! ――展開っ!」 「3rdセイフティも解除された? 連中、今回は本気だ。と言う事ですね、キャップ……」 サブディスプレイに流れるデータの羅列の中に該当するデータを見つけたフジコが呟く。 「前衛に大砲、レーダー直近に大剣か。ふっ、ひねってきたな。――だが、常に事態はキャップの 思惑通り、動かぬならばいつも通りに私が動かすまでだ……! 皆殺しだ、ナチュラル共!」
17 :
弐国 ◆lywiuYaB8LyX :2014/07/02(水) 22:31:13.73 ID:VCylzwyc
予告
ヴァルハラ撤退戦。
デュエルプラスが骸骨機のゲイツを見つけ捕縛のために立ちはだかる。
ゲイツもまたデュエルプラスを足止めするためにライフルを構える。
双方、生きるために戦いが必要なのだと信じながら……。
ゴミ溜の宇宙(うみ)で
次回第十二話 『会敵』
※EWAC【イーワック】(Early Warning And Control)は早期警戒管制システムの総称。
これに特化した航空機を早期警戒管制機(Airborne Warning And ControlSystem)と呼び
空中警戒管制システムや空中警戒管制機とも言われる。略称AWACSは一般的には
【エーワックス(エイワックス)】のように読むことが多い。
種死に出てきたAWACSディンの機体ネーミングは、レーダードームを抱えて飛んでいる
ので間違いでも造語でもなく現存兵器に通じるものだ。と言う訳ですね。
EWACとAWACS。戦争ものやSFでは意外に目にする言葉ですが違いが分からなかった
のでちょっと調べてみました。
今回分以上です。ではまた
>>1 スレ立て乙です
前スレ
>>919 ありがとうございます。編集長、では無いのですよね。多分。
すごくモチベーション上がります! マジで。
駄作だな
19 :
通常の名無しさんの3倍 :2014/07/02(水) 23:32:04.08 ID:rEQnssoy
投下乙です!
20 :
通常の名無しさんの3倍 :2014/07/06(日) 10:34:41.78 ID:OhCUMM7M
投下乙 面白かったずぉ
21 :
通常の名無しさんの3倍 :2014/07/06(日) 22:30:57.92 ID:rC9+jkzo
戦争は両方正義なんだよだよな、当たり前だけど ここ数回サブタイトルと内容がシンプルにリンクしててこういうの好き そして俺のフジコちゃんに変なフラグ立った気が
22 :
凡人な魔導師 ◆ylCNb/NVSE :2014/07/08(火) 23:37:22.96 ID:NAAcUGQg
こんばんは。こちらではお初になります。 諸事情あってこちらのスレで書かせてもらえることになりました、他スレで「魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED」というSSを書いている 凡人な魔導師 という者です。 これからSSの投下をさせて頂きます。 注意事項として、 ・コンプエースにて連載中の 魔法少女リリカルなのはVivid と 機動戦士ガンダムSEED DESTINY のクロスSSです ・本編から5年後のキラとシンの一人称ものとしています。基本はキラ、時々シン、稀にその他キャラの視点です ・まとめWikiに既に15話まで投稿済みです。よって今回の投下は16話になります。また、酷い中二病で酷いオリ設定、オリ路線となっています。 もはやタイトルとキャラ名を借りた別のナニか 以上が注意事項となります。 2chにSSを投下するのは初めてなので、時間かかったりするのは大目に見てください……
23 :
凡人な魔導師 ◆ylCNb/NVSE :2014/07/08(火) 23:41:48.73 ID:NAAcUGQg
陽動作戦。 結局のところ奴ら赤組の採った作戦は、それだった。 「な、に!?」 ≪警告。防御不能≫ そうと悟ったのは、バインドで固定されて身動きを封じられた俺目掛けて巨大な──約10m程の屈強な岩人形がすっ飛んできた時だった。 漆黒の甲冑を着こんだゴーレムが、拳をかざして砲弾のように迫ってくる、悪夢のようなトリガー。 もしこのままぶつかれば、間違いなく俺のHPは容赦無く砕かれ、撃墜されてしまうだろう。 確信。 瞬間。 頭の中が急激にクリアになって、ドス黒いナニかが湧き上がると同時に悟りは確信に代わったと、何もかもを認識して支配できるのだと、決定できる……まるで神様にでもなったかのような感覚を覚えた。 時間の粘度が増す、空間の密度が増す。 何度も何度も危機を救ってくれた、頼もしくとも今は恨めしく思える甘美な感覚は、だけど完全に身を委ねるわけにいかないと俺はもう知っている。 知っているからコントロールする。 まずは第一に真っ先に、状況把握に努める。 あらゆる対象を同時に一瞬で視てやる。 前提。 この赤組と青組とで戦うチームバトルの肝は、一辺50kmの正方形なフィールドの中央にある一際目立つビル群の存在。 魔法戦が「非物理破壊設定」を前提にしている都合上、物理的に在るビル群を先に制圧して拠点・要塞化すれば俄然状況は有利になると全員が認識していた。 ──故に争奪戦があって、そして俺ら青組はそれに勝ちかけていた。もう少しでティアナ率いる赤組を追い出せると。 直感。 そこに、奴らの作戦が仕掛けられていたのだ。 俺がフェイトに、キラがなのはにタイマンを仕掛け、残りは中央区ギリギリで混戦に持ち込んで。まるで必死に決死の防衛戦をやっているように「演出」した。囮だ。 なら本命は? 結局何を狙っていたのか?
24 :
凡人な魔導師 ◆ylCNb/NVSE :2014/07/08(火) 23:45:01.51 ID:NAAcUGQg
それはいわば、ちゃぶ台返し。──なにもかも上手くいかないもどかしさに癇癪を起こした子どものように、前提を破壊してしまおうと。 確定した事態を羅列する。 一つ。おそらくコロナが事前に創っていたであろう高さ10m程のゴーレム『ゴライアス』を、魔法的レールカタパルトで射出して、 ビル群の2割を破壊──ついでにフェイトが射線上に誘導、固定させた俺、シン・アスカにブチ当てる。 妥当な判断だ。青組の中核に携わっていると自負している俺を墜とせればバトルの流れは大きく変わるんだから。 もう一つ、ビル群のど真ん中まで後退させられていた20mの巨人『ゴライアスMK‐U』が突如サヨナラ! といわんばかりに爆発四散、 肉体(?)を構成していた岩塊を四方八方に撒き散らし、青組前衛もろとも更に2割を破壊した。 それらの相乗効果、ドミノ倒しでビル群は最終的にその6割を単なる瓦礫の山にしてしまったわけだ。もうそうなると要塞としての価値はなく、これからのバトルの様相も変わっていくだろう。 ──奪われるぐらいなら、その前に破壊してしまえばいいってのか。 乱暴だが有効な戦術だ。 「──やらせるか」 スローモーションに見えても確実に俺に接近している『ゴライアス』と、それを射出したレールカタパルトはかなり目立つ筈なのに発見できなかったのは、 予め用意してた上で使用ギリギリまでティアナの幻惑魔法で隠してたってことだ。 そりゃただ射出しただけじゃ確実に撃ち落とされるしな。 悔しいのは、こんな単純な作戦を見抜けなかった己の瞳だ。ギリギリの綱渡りのような作戦にハマりにハマっちまってこの結果、誰よりも俺が看破しなくちゃいけなかったのに。 じゃなきゃ昔と同じ、目先しか見えてなかったあの頃と同じだ。 だから、こんなところで終われない。 ただただ闘志が湧いてきて、カッと全身が熱くなる。 「こんなんで! 終われるかぁぁぁ!!」 直撃すれば撃墜するゴーレムがなんだっていう。防御も回避もできない状況がなんだっていう。救援を期待できない状況がなんだっていう! 強くなると、もう一度決めたのは、望んだのは自分自身だから。
25 :
凡人な魔導師 ◆ylCNb/NVSE :2014/07/08(火) 23:47:26.22 ID:NAAcUGQg
強くなければ、悪足掻きだってできやしないのだから。 ならば。 『第十六話 この道を選んだ、その理由の全て』 「──う、おおおぉぁあラァッ!!」 「な……んッ、シン!?」 己の意識がブラックアウトしかけていたんだと、他人のように思った。大質量に殴られた自身の肉体が、 狂った独楽のように空を飛んではいないことを、逆に理路整然に蒼穹を翔ていることを実感として知った。 身体に襲いかかった凄まじい衝撃は確かに有った。しかし痛みは無く、それこそが魔法の恩恵と理解しているからこそ、まだ生きているんだって思える。 残りHP104、撃墜されてないし、戦闘不能でもない、余裕だと自然に考えられたのは全くもって自然なことだ。 「もう一本だ、デスティニー」 ≪了解。アロンダイトを左手に顕現します≫ 「……バルディッシュ」 ≪ロード‐カートリッジ。ザンバー‐フォーム移行≫ アロンダイト二刀を構え、黄金の魔力刃を天に掲げたフェイトと対峙しているうちに、衝撃が抜けてだんだん意識が鮮明に戻ってきた。 ──、そうだ。既に歪に【喰われて】いたゴーレムの残り半身を、吹き飛ばされながらでも右の大太刀で叩き切ってやったのが多分5秒前のことで、 なら次はその操者自身に左の掌槍をぶつけてやろうと【菫色の霞】を抜けて進路を定めた瞬間に、フェイト・T・ハラオウンが立ち塞がってきたのが2秒前のことだ。 しっかり思い出した。 そして互いの剣を弾き合って、睨み合いをしているのが今。信じられないものを前にしたような、驚愕と疑問の表情を貼りつけた彼女相手に、 オートパイロット状態で距離をジリジリ詰めていた躰の制御をようやく取り戻す。 同時に、 (……! ……キラを仕留め損なったのか、なのは) 頭の片隅に、放ってはおけない事態があると感じては押し留める。 “ちょっと! 大丈夫なの!?” 「──ルーテシア。……大丈夫だ、離脱するから援護してくれ」 “なのはさんと、あと、キラさんがそっちに向かってます。そうすれば多分フェイトさんも”
26 :
凡人な魔導師 ◆ylCNb/NVSE :2014/07/08(火) 23:49:28.69 ID:NAAcUGQg
「ああ」 タイマンならまだしも流石にこのHPで混戦は避けたいと思って、思ったところで通信をよこしてきた青組支援役ルーテシア・アルピーノに撤退の意を告げる。 言われる前に感じとった感覚は正にその通りだったから。 何故か生き残っているキラが此方に向かって移動して、なのはが追っている感覚。 フェイトは圧倒的な速力と旋回能力を主戦力とした近接寄りのオールラウンダー、つまり俺のデスティニーと同タイプの手強い戦士で、 当然片手間に戦える敵じゃない。今なら互角以上に戦えるのに、口惜しいが集団戦じゃ……ここで墜ちちゃなんにもならない。 「うん……うん、わかったティアナ。タイミングは任せる」 そんな彼女も似たような通信をしていたのか、少しずつ後退をし始めた。なのはが俺を保護するように、彼女もキラを保護して撤退する算段か。 「勝負はお預けみたい、シン」 「半分以上アンタが勝ったみたいなもんだろ」 「でも、まだ本気で戦ったらどうなるかは判らない……でしょ? 貴方も私も」 「……次は勝つ」 「うん、楽しみだ」 強敵と戦える嬉しさというやつだろうか、自然に浮かべた力強く綺麗な微笑みに呆気にとられているうちに、 フェイトは背中を向けて鮮やかな黄金を靡かせ颯爽と去っていった。これは、認めてもらったってことなのかね。 ただ動かずに見送ることぐらいしかできなかった俺には、少し眩しいぞ。 「まだ、弱い。まだ追いつけないなら、いつかは。……遠いんだな先は」 躰の外部まで拡大していた意識が通常まで縮み、【菫色】を取り込みさざめいでいた大翼も通常の紅一色に戻って。臨戦体勢を解除する。 ……本音を言えば、そりゃ俺の中にも強敵と戦いたいって欲求はある。かつてはザフトのトップガン、 唯一絶対のスーパーエースだったプライドもある。もっと全力で全力の彼女と剣を交えたかった。 でも彼我の実力差を分析できるぐらいには、糞正直に突っ込んでいきたくなる気持ちを抑えられるぐらいには、大人になったつもりだ。 ……それを少しだけ淋しく思えるのは、あの生意気に反発ばかりしていた生き方に、確かなアイデンティティを感じていた左証ってやつなのかもしれない。 それでも、いつかの熱を喪っても、もっと強くならなくちゃならない。フェイトにはまだ余裕があって、単純な実力では負けていたのは事実。
27 :
凡人な魔導師 ◆ylCNb/NVSE :2014/07/08(火) 23:51:21.70 ID:NAAcUGQg
今は撤退して回復しなければ。 でなけりゃ──、── ──こんな俺を、ミネルバのみんなが見たらなんて言うんだろうか? 突拍子なく浮かんだその考えの答えは、当たり前のように一つで、その一つを想像するのが無性に怖かった。想像が、一瞬、俺の意識の一部を支配した。 避けては通れない思考だと、構えていたつもりだったのに。 あぁ、16歳の俺と今の俺は、きっと別人なくらい変わっているんだと自覚はしている。 でも端的に言えば大人になったと評される変化も、果たして「あのミネルバ」のクルーが納得できる変化なのかと問われれば、自信はないのだ。 ifのことと解っていても。 冷静に状況を鑑み、独断暴走しないで、さらに自身を弱いと分析し、向上心を持つなど。 ありえない、最初からそうでいてくれたら──という想いが、聴こえてきそうで、それはどこまでいっても恐怖だ。 この道を譲るつもりもないが、俺達のような不出来な人間が果たしてこのまま「悪足掻きの為に強く」なっていいのかと、 なんてことのない、それは弱気だった。 認めてくれる人がいないと、俺はこんなにも弱い。 “ヒトは変わっていくものだ、良くも悪くも。……変わっていける明日があるのなら、誰しも” ふと、懐かしい声が、心に直接響いた。 「……、……レイ……」 “胸を張れ、シン。お前はお前の道を、今度こそ前を向いて歩いているんだ。それを否定することは誰にもできやしない” 「……サンキュ」 なんとまぁ、珍しくも俺を慰めてくれて。それだけで不思議と怖さは完全になくなっていた。……まったくこの親友は何時になっても、俺に優しい。 決して何の解決にもならないのかもしれないけれど。 良くも悪くもかつて俺を導いた親友が、今は背を押してくれるというのなら、応えないといけないな。 いや、俺は応えたい。 「いつか絶対、なんとかしてやる。だから、待っててくれ」 “フッ……首を長くしているさ” 「それから……ステラ」 “なぁに?” 「さっきは助けてくれて、ありがとうな」
28 :
凡人な魔導師 ◆ylCNb/NVSE :2014/07/08(火) 23:54:25.59 ID:NAAcUGQg
“ううん。ステラ、シンが元気だとね、嬉しいの。だから、シンが元気で良かった” 「……、あぁ。俺は元気だ」 背負っているものは限りなく多くて大きい。けど、立ち止まるわけにはいかない。 何があろうと、全て背負ってひたすら進むと決めたんだから。 さて。なのはが来る前に、涙、拭っとかないとな。 ◇◇◇ 「じゃ、そのティアナの狙撃でか?」 「そうなんですっ。わたしも遠目に観ただけなんですケド、ママの捕縛と、キラさんのバインド破壊を同時にしてました。ティアナさんの弾丸!」 「たいがいなバケモンだなアイツも……」 興奮覚めやらぬといった面持ちの高町ヴィヴィオが語る、いかに自分が目撃できた光景が凄かったのかという情報は、 なんだか内容を聴くまでもなく何故か納得してしまえるような説得力に満ちていた。 視るもの総て、この娘の翠と紅のフィルターにかかってしまえばアっという間に鮮烈なものになってしまうのではないかと、少し羨ましく思えたりもするのは内緒だ。 恥ずかしいからな。 「見蕩れてたらイイの貰ってた……なんてこと、ないよな?」 「それはなかったですよー。アインハルトさんってとっても綺麗ですから」 「へ?」 「あ、わっ。わ、技がってことです! どうしたらあんな風に動けるのかなって!」 喉から手が出るほど欲しかったビル群の崩落から、既に3分が経過していた。 ルーテシアの転送魔法で青組本陣まで戻ってきた俺は、同じく転送魔法で戻ってきたヴィヴィオから、 菖蒲色に輝く回復結界の中で前線の状況を教えて貰っていた。 おかげで大分全体が読めてきた。やはり直感よりも情報による認識と確認のほうが確実なんだなぁと、 いつかレイに怒られた過去を棚に上げ頭のメモに追記していく。 「そうか……結局キラはギリ生き残って撤退済み、アインハルトも瀕死で撤退、 コロナは魔力切れでリタイア……此方はエリオが撃墜、状況はイーブンか」
29 :
凡人な魔導師 ◆ylCNb/NVSE :2014/07/08(火) 23:58:08.62 ID:NAAcUGQg
「手数で言えば、こっちがまだ優勢ですよね」 実際、この娘の観察眼は大したものだった。感受性にも優れ、それを素直に表現できる才覚もある。少々頑固で無茶をしやすいきらいはあるが、 これは後学の為に子育てのイロハを母二人に教えて貰ったほうが良いかもしれない。 ……ああ、でも、こう殴り合い上等なバトルマニアにはならないよう育てたいと思いますハイ。環境の問題かなのかなぁ。 「向こうも承知してるだろ。そろそろ何か仕掛けてくるかもしれない」 「ティアナさん、追い込まれた時に何をしでかすか分からないってママが言ってました。だとしたら……」 敵司令ティアナ・ランスターの気質は策謀家でなく、どっちかと言えば素直な武闘家だが、 持ち前の射砲撃魔法と幻覚魔法への自信と発想は厄介だと聞いた。大抵デカイことをやってくるらしい。 ならアクションを起こした時に直ぐ様対応できるよう、俺もなるべくHPは多いほうが気兼ねなく突っ込めるってもんだが……、 ……まだ1700/2500か。こんぐらいまで回復していれば、近いうちに戦線復帰こそ可能だが足りない。それはヴィヴィオも同様のようで、 ソワソワウズウズと全回復を心待ちにしているのだと見受けられた。回復結界は焦れったいなチクショウ。 ……にしても、だ。 派手に魔法が飛び交っている戦場を遠目に、今度はどうやって戦おうかとも考えている様子の少女に、隠れて俺は安堵のため息をつく。 ……ふむ。ヴィヴィオのやつ、今朝はなんかちょっと様子が変なように思えたが、この分なら杞憂だったようだな。 「デスティニー。ミラージュ‐コロイドのオートコントロールどうなってる?」 ≪現在隠蔽率87%。このペースを維持した場合、5分後には60%を切ります≫ 「70%を切ったらマニュアルにしろ」 ≪了解≫ いい頃合いだし、青組の被害を再確認するか。 まず、主戦場はガレキ外周部へと移り、散発的な乱戦が続いているってのが今の前提条件だ。……あんまり歓迎できない戦況なのは否定できない。 てか、こうならないように作戦を立てたってのに……いや、コレばかりは仕方ないことだがな。 環境は生き物だ。 つい2分前のこと、エリオは崩れるビルからリオを庇ってHP半減し、その直後フェイトと会敵してもなんとか互角に戦っていたが、 しかしクリーンヒットを入れ彼女を半裸に剥いたところでノーヴェの介入パンチを喰らい気絶した。 ……うん、きっと刺激が強すぎたんだな。よくやったよ男エリオ・モンディアル。 また同時に、長いこと殴り合いをしていたヴィヴィオとアインハルトの戦いに決着がついた。互いの実力・スキルを知った上での戦いは、 いつかの練習試合のものよりも高次元で見応えのある打撃痛撃の応酬となったが、これもまた地の強さで碧銀の覇王少女が制した。
支援
31 :
凡人な魔導師 ◆ylCNb/NVSE :2014/07/09(水) 00:01:20.62 ID:zH0MR/MB
『覇王‐断空斬』の直撃でヴィヴィオのHPは668まで低下、ルーテシアに回収されて今ここにいる訳だ。 「今回はもうちょっと粘れるかなって、思ったんですけどねー」 「いや上出来だろ、あれで。……次はもっとやれるさ」 「! はい、頑張りますっ!」 俺の知る限り、単純な格闘戦ならここのメンバーでも上位に入るアインハルト相手に、 射砲撃を封じられた状態で何発かクリーンヒットを入れただけでも大した実力だ。カウンター戦法もかなり板についた。 まぁその後アインハルトも、前線に赴いて砲撃体勢に入っていたなのはを強襲、 パンチでビームを相殺したりバインドを砕いたり一撃御見舞いしたりと謎技術でハチャメチャに善戦したけど、 やはりというかなんていうか特大連繋砲撃『ストライク‐スターズ』の奔流に呑み込まれ戦闘不能となったわけだが。 これに応じて赤組司令のティアナが前進、幻覚魔法と狙撃でもって状況をブレイクしにかかった。 結果、前線の戦況は膠着状態に入り、現在は両陣共に落ち着いて戦闘継続者の整理に努めている。 とまぁこんなわけでだな、今のところの戦闘模様は、 赤組 青組 ノーヴェ スバル フェイト VS なのは ティアナ リオ キャロ ルーテシア それぞれ戦闘不能(回復中)が二人、リタイアが一人。 こんな感じに随分と小規模になっている。その中でもローテーションで回復しながら戦っているのだから、 支援役の二人はまだまだ大忙しだろうが。 。 最低、ずるずると消耗戦になるのは避けたい。できうるなら早急に此方からアクションを起こしたいとルーテシアも考えているだろう。 何故なら現状、懸念要素を抱えているのは青組なのだから。 「リオの戦力は正直、意外だった」
「炎熱と電撃の二重属性、結構対応するのは苦労するんです。それにリオ自身が力持ちさんですから」 「ああ。……おぉ、岩投げた」 「あれで三重属性ですね」 遠く離れた戦場で尚なかなかの存在感を見せつける炎龍と雷龍を使役する、中華拳法っぽい格闘術──春光拳といったか──と馬鹿力で 前線を支えるリオ・ウィズリーの勇姿。他と明らかにジャンルが異なる少女はなるほど、慣れないと攻略は難しそうだ。 変身魔法で中学生っぽくなった小学生リオの、歴戦の猛者に負けず劣らずな獅子奮迅ぶりは目覚ましく、 少しばかり過小評価していたことは認めざるを得ない。 だが…… 「ルーテシア、俺を出してくれ」 出撃要請を打診する。 HPは1850まで回復した。せめて2000は欲しいが……仕方ない。無茶しなけりゃなんとかなる範囲だ。 “シンさん、まだそのライフじゃ” 「リオは限界だろ、もうアレは」 “それは、解ってますけど。……でもここで出して、キラさんを釣るわけにもいかないんです” 「む……」 そうか、キラが生きてるってことはHPももう全快近いと。 あの戦況でリオだけがルーキー、いかに能力があろうと体力も技術も他メンバーに及ばず、スキルで誤魔化すにも時間的に限界な筈だ。 誰かが加勢しないと確実に潰れるが、確かにこの混戦状態に俺とキラが参加したらそれどころじゃなくなっちまうのも正しい。 なんたってアイツの最も得意とするのは、混戦における高機動連続一斉精密狙撃なんだから……下手すりゃ形振り構わない全面衝突に発展する。 せめて状況をもう一度ブレイクしなければ、俺は出せないのかよ。 つくづくキラを討てなかったのが悔やまれる。 “ちょっといいかな、ルーテシアちゃん。いっそシンくんとヴィヴィオを出してみたらどう?” “……囮にするって意味で、です?” “そう。きっとキラくんは兎も角、アインハルトちゃんのHPはまだ安全域に入ってない筈だから” そこで、俺とルーテシアの思念通信に青組司令なのはが割り込んできた。 ノーヴェ相手に思念誘導弾をしこたまブチ込みながらの提案は、キラ生存を逆手にとった内容で。 確かに現状で敵に揺さぶりをかけるにはそれも一手だ。 ……けどそれ以上に、ヤツを倒せなかった彼女自身の失敗を雪ぐ手段みたいなもののようにも思えた。
33 :
凡人な魔導師 ◆ylCNb/NVSE :2014/07/09(水) 00:06:35.14 ID:zH0MR/MB
当初の予定じゃ、最初に仕掛けた砲撃戦で、仲間を守る為に間違いなく突っ込んでくるであろうヤツをなのはが叩き潰すつもりだったから。 しかし、討てなかった。なのは自身は「ちょっと驚いちゃって、狙い逸れちゃった」と言っていたが……多分驚いたことって俺の【行動】そのものにだろうな。 加えて、奇しくも俺と同じ状況だったキラの【行動】にもなんだろう。ピンチの時に同じことをしたってのは、妙に気分が悪いものだ。 次出てきたら、確実に墜とすといった意気らしい。強いってことは負けず嫌いってことだし妥当だよな。 “成程、いっそ私たちが誘導すると。……、……ルーテシアから青組各員へ! 総攻撃、集結して各個撃破を狙ってください。それから、シンさん、ヴィヴィオ!” 「おう」 「はいっ」 そして、ルーテシアは決断する。 “出撃、お願いします” 「「了解!」」 よしきた! 二人揃ってガッツポーズ。だったら善は急げ、行動は迅速にしなくちゃな。 「これって、ティアナさんを焦らせるってことですよね?」 「そーなる。俺とお前が参戦すれば次に危ないのはノーヴェかフェイトだ。 だったら向こうが強引にブレイクしてくれる……それに乗ればいい」 ≪リニア‐カタパルト、ヴォワチュール‐リュミエール、スタンバイ完了。射出します≫ 「よし、行くぞ!」 「はい!」 背負ったヴィヴィオからの確認に答えながら、前線目指して加速を開始する。これが戦場でなけりゃ、 背中に確かな存在感を主張する柔らかい物体にちょっとは何かしら思いを馳せらすんだが、ここは戦場だしな。 つーか我ながら下品な思考をできるようになったもんだ……これも大人になったってことなのか。 それに相手は小学生なんだぞ。キラと違って俺はロリコンじゃねぇ。 “シスコンさんだもんね?” 「黙っとれ!」 「ふぇ!?」 「……あ、いや、悪い。独り言だ気にするな俺は気にしない」 「???」 ≪クォーターライン通過≫ おっといかんいかん、つい口に出してツッコミしちまったぜ。……要らぬ茶々を入れてくれるな妹よ。
34 :
凡人な魔導師 ◆ylCNb/NVSE :2014/07/09(水) 00:08:37.47 ID:zH0MR/MB
っていやいや、そんなことはどうでもいいんだ、重要なことじゃない。問題は俺達が前線に確実に近づいてるってことだろ。 流石にデスティニーの最大速度は凄まじく、あっという間に戦いの様子を目視できるようになる。 ……どうやらノーヴェ相手に追撃戦を仕掛けているみたいだな。赤組は後退中だ。なら、もうアクションがあってもいい頃だが…… “スバル・ナカジマから青組各員へ。ティアが姿を消しました。多分一撃狙ってるものと思われます! 警戒を!” “うん、報告ありがとうスバル。あと、キラくん出撃したみたい……ルーテシアちゃん?” “ビンゴ! なのはさんは所定の位置へ、相殺お願いします。シフトE!” “了解!” “シンさんはそのまま上空に待機してください” 「わかった」 動いたか。 キッカケはティアナ……予想通りデカイのを撃ってくるようだ。そう、予想通りに。 消耗した状態で敵の増援と敵の密集が重なれば、否が応でも距離をとりたい筈だから。 その為のシフトE、前線にいた青組全員が撹乱しながら四方八方に散り、なのはが後退して砲撃体勢、 ルーテシアが前進して防御体勢をとる。これに対し赤組は追撃せず、同じように前線を離脱していく。 まるで、蜘蛛の子を散らずかのような一目散っぷり。ものの数秒でバトルステージから戦いの音が消え失せた。 「赤組のみんなも離脱していきますね」 「向こうも戦いっぱなしだった奴らを下がらせたいだろうし、狙いは一緒だ。けど」 「けど?」 嫌な気配が全身に纏わり付く。 錯覚でなく震える大気は、塵のように世界に遍在する魔力素と、 今までの戦闘で戦場に散布されていた魔力の大移動を意味していた。二方向、なのはとティアナに向かっての。 かくして、状況はブレイクされた。このままなら、それでおしまいになる筈だ。 しかし、 「二人共あくまで、攻撃の手は緩めないと思う」 「……え──」 そう呟いた瞬間、 世界が光に包まれた。
35 :
凡人な魔導師 ◆ylCNb/NVSE :2014/07/09(水) 00:11:21.91 ID:zH0MR/MB
◇◇◇ 『スターライト‐ブレイカー』。 究極的な破壊力と攻撃範囲を有する集束型砲撃は、集束型の名の通り、大気に散らばっている魔力をも集めて取り込んで纏めて射出する必殺魔法。 オリジナルは高町なのはのものであり、受け継いだのがティアナ・ランスター。 シフトEは、この二人のブレイカーが激突する展開を想定して実装されたフォーメーションであり、その後の行動指針を含有した計画表だった。 「やぁヴィヴィオちゃん、シン。久しぶり」 「吃驚しましたね」 「あ、キラさん。アインハルトさんも……、久しぶりですっ」 「そう、だな。まさかこうなるってのはなぁ」 だったのだが、ねぇ? 「いや、でも流石にびっくりしたよ。まさか前線にいたみんなが撃墜されるなんてさ」 「同感だよホント……なんで巻き込まれるかなぁ」 「あ、あはははは……」 予定なら。青組と赤組の予定なら、ブレイカー同士の激突にお互い人的被害はなかった。 だって同程度の魔法の激突がお互い判っていて、踏まえて仲良く離脱したんだから。 んで俺はリオを保護し、なのはは最後の切り札の準備をするつもりだった。赤組も大体同じつもりだったろう。 しかし予定外なことに、ブレイカーの化学反応とでも言うべき現象が起きてしまったわけで…… 混ぜるな危険。どこか所帯染みた注意文が脳裏を掠めた。 世紀末を彷彿させる、融合した桜と橙の光の塊はどこまでも膨らみ続け、離脱して待機状態だった者達を例外なく呑み込み、 撃破してしまったのだ! 撃った本人達も呆然、撃たれた者達も呆然、これなんて最終戦争? とぼやきたくなる惨状に暫く動ける者はいなかった。 誰にとっても予想外。生き残りはに全力で上方に逃避した俺withヴィヴィオとキラ。後方にいたアインハルトとなのは、 フェイト、キャロとたった7人で、ついでに言うとキャロはたった今なのはに墜とされた。 状況、3対3。 [うぅ。そんなー] [なんつー締まらない結末……!]
支援
37 :
凡人な魔導師 ◆ylCNb/NVSE :2014/07/09(水) 00:14:26.71 ID:zH0MR/MB
[完全不燃焼って感じねぇ] [あと任せたわー、頑張ってー] 通信魔法を介して響く、完全に巻き添えを食った戦士達の嘆き(?)の声に思わず脱力してしまう。 光が収まった後にゆっくりと俺達のとこまで飛んできたザフト白服姿のキラと、 キラに背負われていたアインハルトも同様、あんまりな光景にお手上げなようで。 実質戦闘中だというのにこうしてゆったりと話ができるぐらいには、なんとも気が削ぎれる間抜けな結果だった。 戦闘ってのは不条理と不測の事態の連続であって、予定通りにことが運ぶことはないと解っていても、 やっぱりこんなんじゃな。やるせない儚さに身を委ねちまっても仕方ないよなぁ。 「でも、関係ないか。俺達には」 「そうだね。僕達は戦うだけだから」 「シンさん……?」 ああそうだな、実はこんなの俺達には関係ないことだった。 キラの言う通り、目的達成に他のメンバーの状況などどうでもいいことで、お互いを高め強くなる為に、ただ戦うだけだった。 むしろこの状態は歓迎すべきことなのかもしれない。 「なぁ、ヴィヴィオ降ろしてきていいか?」 「勿論。てか僕も降ろしたいし。……二人もフェイトもそれでいい?」 「あ、はい」 「わかりました」 これ以上の作戦行動に意味はない。 子ども達の同意に、通信モニター越しにフェイトは困ったような笑顔で、なのはは何処かさっぱりしたかのような笑顔で賛同する。 [仕方ないよこれじゃあ。……結局、因縁持ち同士の1対1になっちゃったね] [にゃはは、思い通りにはいかないものだねー。でも、久しぶりにフェイトちゃんとサシで戦えるのは良い機会かも] [もう、なのはったら] まったくだ。折角のチーム戦もここまでお互いがズタボロになっちゃ機能しない。みんな同じ考えだからこそ、個人戦に傾倒する。 俺だって本当に久しぶりに、他の邪魔もなくキラと1対1で戦えるのは願ったり叶ったりだ。 意外かもしれないが、あのメサイア攻防戦以降にちゃんと戦ったことなど無いのだから。 想定外と言えど、この試合で最高の素材を見つけられたならば、あとは戦えるだけ戦うだけ。 「なのは達が動いた。僕達も」 言葉は交わさずに、なのはとフェイトは西の方へ飛んでいく。彼女らは彼女らの戦域を求めたのだろう。 なら子ども達の戦域は中央、俺達は東だ。尤も、それが遵守されるわけじゃないけど、一応。
38 :
凡人な魔導師 ◆ylCNb/NVSE :2014/07/09(水) 00:16:44.76 ID:zH0MR/MB
俺は先行くキラwithアインハルトに追従し、大地を目指す。 「どうでしたか、アインハルトさん?」 「え……?」 「この戦いです。まだ訊くには早いかもですけど」 唐突に、けど自然にヴィヴィオがアインハルトに質問した。端から聞けばなんてことないこと、 しかし少女にとっては大事なことのように思えた。 初めてのことばかりだったけど、楽しかったですかって。敵である彼女に正面から訊いて。 対して彼女は、スッと瞳を閉じ、胸の前で何かを掴み取るかのように拳を握り、穏やかに答える。 「ああ……、……本当に、色々と勉強になりました。まだまだ至らぬこの身、未知の戦術、 未知の領域……私の世界の可能性を知ることができました。本当に、ありがとうございます」 「まだまだこれからですっ。そりゃ集団戦は終わっちゃいましたけど……、 ……アインハルトさん、わたしとの1対1、受けてくれますか?」 「はい。喜んで……!」 背負われたままのヴィヴィオとアインハルトの交わした微笑ましいやり取りに、思わず笑みが溢れる。 初めて区民センターで会った時よりもずっとずっと良い表情をしていて、少女もまた一つ大人になったのだと思う。 その思いを、今は力に変える。 だから、大地に到達して、二人を降ろして。キラはヴィヴィオとアインハルトの頭を撫でて、 俺は二人に拳を突き出して、そうして数歩離れて。 離れて、感傷を棄てた。 「じゃあ、俺達も」 「やろう。全力で」 【SEED】を覚醒させて、【極光の翼】を広げて、俺達は対峙する。 「……!」 「……綺麗……」 子ども達の驚く豹、ふと溢れた感想も、もはや届かない。既に他人は意識にない。 俺達の意識は唯の一つに。 俺の意識はキラの翼に。 赤色の粒子を吹き散らす、白色を滲ませた、底の見えない深い蒼色の魔力翼に。 キラの意識は俺の翼に。
39 :
凡人な魔導師 ◆ylCNb/NVSE :2014/07/09(水) 00:19:44.28 ID:zH0MR/MB
菫色と白色を取り込み、鮮やかでありながら禍々しい、二重の紅色の魔力翼に。 俺達の。いや、人類の業を顕した罪深くも美しい翼に。どうしようもなく、釘付けにされる。 これは【人の魂を喰らった証】──複数のリンカーコアが織り成す奇跡なのだから。 「いくよ……!」 ≪シュペール‐ラケルタ転送≫ 「こいよ、キラ・ヤマトォ!!」 ≪アロンダイト展開≫ 逃れられないと解っているから立ち向かう。 俺達は、飛翔する。 ◇◇◇ 全てはエヴィデンスの掌の上で踊らされた、破滅へと向かう呪いなのだと、かつてクロノは評した。 キッカケは、ジョージ・グレンが地球に持ち帰った羽鯨の化石『エヴィデンス01』。これによって人類は暴走したのだ。 狂喜と狂気の果てに、鯨の遺伝子情報体を無作為に胎児に埋め込んでみるなどという、 想像を絶した行いを実際にやってしまった科学者達のせいで産まれた者達──【SEED】を持つ者──が、 種の存続を賭けた戦争の時代を戦い生き抜いて。その身に秘めた力を解放してしまって。 今やエヴィデンスの苗床として、次元世界から消え去ろうとしている世界で。 俺達の中には、自分のモノだけでなく、幾つもの魂が存在している。 それは【SEED】がエヴィデンスの能力を一部継承しているから。 エヴィデンスは、あらゆるモノを魔力に変換し、己の糧とする能力を持つ。 それは物質だろうが霊的存在だろうが環境だろうが何だって問わない。そういうものだ。 この能力があったからこそ、俺達は戦争を生き抜くことができたと言ってもいい。特にキラの例が分かりやすいか。 考えてみろ。【SEED】の能力は長いこと、保有者の反応速度や演算能力といった神経系に関する能力を一時的に、 飛躍的に上昇させる因子だと考えられていたが、つーかそんぐらいしか判らなかったのだが、それじゃ説明がつかない点が幾つもあった。
40 :
凡人な魔導師 ◆ylCNb/NVSE :2014/07/09(水) 00:22:39.25 ID:zH0MR/MB
まず、そもそも、常識として。 そんな能力があるからといって先の大戦で、素人のキラ・ヤマトが4人のザフト赤服相手に生き残れた訳がないんだ。 宇宙コロニー・ヘリオポリスが崩壊し、偶然連合のMS・ストライクに乗ることになって。それからずっとザフトの エリート部隊だったクルーゼ隊に追いかけられて何故無事なのかだ。 これは後の時代で検証したことだが、キラの母艦アークエンジェルが第八艦隊と合流する直前の戦闘の時点では、 アスランらの実力は確実にキラの上をいっていたという。 己の機体に慣れ、連合のストライクに対する油断を捨て、全力で襲いかかった。 そして最高のコーディネイターといえども、素養があったと言えども、当時のキラにそれを退ける実力も運も仲間も無かった。 そんな状況を、たかだか頭の回転が速くなった程度で切り抜けられる訳がないんだ。しかし事実キラは【SEED】で乗りきった。のみならず、 ソレをキッカケに操縦技術を大きく向上させた。敵の気配を少し感じられるようになったのも、この頃からだと言っていた。 つまり、真実は。 キラは【SEED】を利用して無意識に、敵パイロットの実力をコピー・吸収し、また四面楚歌を常とする戦場という環境も吸収したのだ。 吸収していって、強くなった。 俺にも似たような経験が幾つもある。頭の中がクリアになって、何故か急に強くなったような感覚は確かにあった。 これは仮説だが、リンカーコアとリンクしているエヴィデンスの遺伝子情報体が、身体的・精神的要因により保有者の生命活動が 著しく低下した際に、自己保存の為に活動を開始したのではないかとデュランダルさんは推測している。 そして、己の意思で発現・制御しているうちは、吸収能力は抑られているのではと。 俺達は、エヴィデンスに生かされていた。 だからこそなのか、俺達は無意識に、死者の魂とそのリンカーコアを取り込んでしまっていた。 そして、取り込んだ魂の中でも特に近しく、強い意思をもつ者は自意識を形成した。 だから、 俺の中には、 レイ・ザ・バレルが、 ステラ・ルーシェが、 マユ・アスカが。 キラの中には、 ラクス・クラインが、
41 :
凡人な魔導師 ◆ylCNb/NVSE :2014/07/09(水) 00:24:44.35 ID:zH0MR/MB
フレイ・アルスターが、 ラウ・ル・クルーゼが、 トール・ケーニヒが、 間違いなく、明確に存在している。 魂があって、意識があって、揺蕩っていた。 彼らと話せるようになったのは、彼らを認識した日からだった。あの日、 ヴィヴィオとアインハルトの練習試合があって、キラとクロノに真実を教えられたあの日。 そうして一時塞ぎ込み、八神家のみんなに心配をかけてしまったのは記憶に新しい。 だってわけがわからない。 なんでそんなことに。 理不尽すぎて、頭がどうにかなりそうだった。自分の身体のことも、消滅する世界のことも、内に在る魂なことも、なにもかもが。 どうしようもなかった。 確かに、また逢えて言葉を交わせるのは嬉しいかった。 ステラやレイやマユには、どうしても謝りたかった。 だけどそれ以上に。人殺しである自分から死別すら奪われ、彼女らが未だこの世に縛られている現状が、どうしようもなく悲しくて。 なにより、あらゆるものを奪われた俺達から、死を奪われるのは我慢ならなくて。 戦争だから仕方無い、生命はいつか死ぬ。そんな言葉で片付けられるほど命は軽くない。そんな命が、戦争で死んだ命が、ココに在る。 止めてくれと叫びたかった。到底許せるものではなかった。 何故、昔の学者はこんな巫山戯たモノにSEED──種子──と名付けたのか、今となってはわからない。 もしかしたら単に、一時期学会で発表され議論されたSEED──優れた種への進化の要素であることを運命付けられた因子 ──理論に当てはめたかっただけなのかもしれない。 だけど、こんなモノが花咲く未来なんて、こんなモノで進化する人類なんて、俺達は認めない。 絶対に。 だから俺達は……
支援
43 :
凡人な魔導師 ◆ylCNb/NVSE :2014/07/09(水) 00:31:01.32 ID:PcJfYGLz
こんな運命は壊してやろうと決めた。 強くなって、あらゆる素材を利用して、システムG.U.N.D.A.Mを用いて最大限の悪足掻きをしてやる。 復讐みたいなものだ。意地みたいなものだ。 はいそうですかと、せめて俺達が生きたあの世界だけは簡単に消させるものか。あんな糞みたいな世界でも。 目標の為なら死者も利用する異常者になってでもだ。 幸か不幸か、【SEED】の内に在る強い魂のリンカーコアは利用可能で、力を解放すれば物質を【喰う】ことだってできた。 これを、純粋な力と見なして。今までの全てを棄てて。 俺達は、再び力を得ることを選んだ。 世界の為でもなく正義の為でもなく、見知らぬ誰かの為でもなく、自分自身の為に。 ──────続く
44 :
凡人な魔導師 ◆ylCNb/NVSE :2014/07/09(水) 00:36:27.23 ID:PcJfYGLz
以上です ・・・・・・長い、長すぎる。したらばなら10レスなのに18レス使用だと!? そして原本よりも改行しまくったせいで構成も酷いことに・・・・・・キビシー はい、精進して工夫します。ダラダラと長く失礼しました。 アドバイス等があれば、沢山よろしくお願いします
長ぇ
流すぎ荒らしだろこれ
47 :
通常の名無しさんの3倍 :2014/07/09(水) 11:11:01.28 ID:LHosziOc
まぁ仕様の違いに慣れれば構成のやり方も分かるだろうし別にいいとは思うよ
48 :
通常の名無しさんの3倍 :2014/07/09(水) 13:08:15.20 ID:9U9T02sa
投下乙 なのは系の一回の投下分量が多い理由がわかった。最大行数とか違うんだな 今回は出来ていた物をここ用に加工する作業があったから大変だったと思うが 次回から一応テンプレは目を通しておいて欲しい 一レスの最大が新シャアは48行、1行につき45字めいっぱいで書くならそれでも容量オーバー したらばの投下先は最大60行〜70行くらいだったのでは? 多分今回は容量では無く、空白行が多い事で最大行数オーバーになったのが原因だと思う 個人的にはもっと減らしても、表現的には変わらないと思うがどうだろう? それと改行を40から50前後で願いたい。横に目線が振られて単純に読みづらい 文章はそれなりにこなれていると見えるので、10レス前後にまとめられる様にすると良いと思う 今回の分も、多少見直せば48行×8くらいに収まる気がする 河岸が変わって大変だと思うが、次回投下も期待する
>>47 >>48 アドバイスありがとうございます。正直、環境の違いを舐めてました。
私のSSは大体30KBを携帯で書いていたのですが、
次回からはワードも活用して読みやすく、投稿しやすい文章を書いていこうと思います
50 :
弐国 ◆lywiuYaB8LyX :2014/07/10(木) 21:24:35.94 ID:Wtnmmf6G
ゴミ溜の宇宙(うみ)で ――会敵―― デュエル・プラスのモニタ−は黒いゲイツが突っ込んで来るのを捕らえ、戦術画面では コンタクトまでのカウントダウンが始まっている。 妨害電波だらけの宙域であるので無線のモードは最大出力にし、知られているザフト系の オープン回線複数に発信されるようセットする。 停戦勧告の文言は規則では最低2回繰り返すことになっていたから、杓子定規の勧告文を 2回読み上げた後、それでもスピードの鈍らないゲイツに対してシェットランドは自分の言葉で 呼びかける事にした。 「自分は地球軍月軌道艦隊海兵隊のシェットランド海兵少佐だ、前方のMS! 戦闘行為を 即時中止、武装を解除して投降しろ! 人権条約に基づき、捕虜条項の絶対遵守を保証する! あんたも、他の者も全員だ! ――戦争は終わったんだ、お互いもう戦いは要らんだろう!?」 ――と、唐突にスクリーンに【Intercepted radio : no image】の文字が浮かぶ。 『申し入れ感謝する。……こちらも戦闘は極力避けたい、だが投降は出来ない。このまま だまって見逃して欲しい。――貴官らの目的が我らの身柄確保である限り戦闘中止は無い。 誤解の無いよう言っておくが、こちらも断じて戦闘など。……断じてしたくない!』 「うお! そう言う話をしながら撃っては来るのか! ――くそっ、Dリーダー、エンゲージ!」 射程距離に入った瞬間にゲイツが撃ってくる。通信の内容とは裏腹に張られた弾幕は デュエルプラスの取り得る予定の行動を全て奪い取り本命は全弾直撃コース。だが。 「ゲイツなのにビームライフルじゃない? こっちはGだ、PS装甲だぞ! ヤツだってわかって、 ――! わかった上で精密射撃だぁ!? この状況下で普通するか、そんな事!!」 着弾位置の画面を見てシェットランドが毒付く。PS装甲に実体弾は無効。デュエルプラスも 当然そうなのであるが、PS素材で全てを覆うわけにはいかない。 「あえて関節とパックだけを狙う……。でえぇい、細かいことを! 馬鹿にしやがって!!」 黒いゲイツは擦れ違いざまスピードはそのままに反転し距離をとりつつ、デュエルプラスに 更にマシンガンを撃ちかける。狙いは手足の関節とストライカーパック。狙いが見えた シェットランドは今度はシールドを掲げて直撃を避けるが、シールドのビームコーティングが 微妙に剥げていくのが気になる。 「――気にしすぎか? ……いや、相手が相手だ。そこまで計算してねぇとは限んねぇものな」 反転し、ライフルを構えたデュエルプラスの気勢をそぐかのように、モニター上にはまたも 無線を傍受した事を示すマークがでる。 『こちらはヤキンの亡霊と呼ばれる者だ。デュエルのシェットランド少佐へ再度繰り返す。これ以上 お互いに余計な損害を出さない為にも見逃して欲しい。貴官の言う通り、既に戦争状態ではない』 そう言いながらも迫るゲイツは、デュエルに対して砲撃の手はゆるめない。 「撃ちながら言う事か! ――そっちが投降すれば全ては終わる、そうは思わねぇのかっ!?」 ――くそ、やはりサーベルの間合いには絶対に入ってこないか……! ゲイツと再度交錯 するとき、そのタイミングを計っていたシェットランドである。 『少佐。済まないが、そうは思わない。……だから武装解除は出来ないし、もちろん投降はない』 腰のラッチに下げたビームライフルを取り出す気配は未だに見せないゲイツを、 シェットランドはモニター越しに睨むことしかできずにいた。
51 :
弐国 ◆lywiuYaB8LyX :2014/07/10(木) 21:25:32.46 ID:Wtnmmf6G
――会敵―― 「報告が遅い! 索敵班は何をして居たかっ!」 「確認に手間取りました! 敵浮きドック……、のようなものに動きあり。機関始動の模様!」 ――始まったか。艦長、間に合うのだろうな。スペーススーツのヘルメットで表情がいつもより 見えないラ・ルースは、腕組みのまま微動だにせず、艦長に問う。 「問題はナスカ級の動向だ、どうなっているのか!?」 「センサーには依然かかりませんが出航した模様。ですがまるで加速しません、予想の7%程度」 「故障している……? 遅いが加速はしてるのだな? 少佐を待つ時間は無い、か……。司令」 「あぁ、構わん。……任せる」 振り向いた艦長に、問いを発することもさせずにラ・ルースは答える。 「敵要塞、あれはこれより仮にゴーストネストと呼称する。我が艦隊はこれを無視、ナスカ級の 艦隊へ向け全艦最大船速、最短距離で前進! でよろしいですね? ――何かっ、チャン軍曹!」 「直線コースはデブリと機雷で進路がありません!」 ――取り得る航路は! の艦長の声に今度は副長が即座に答えを返す。 「機雷が混ざっているのでミサイルで吹き飛ばすには1から4のルート全てに無理があります。 誘爆されるとデブリ制御が不可能になって、むしろ回避できない大型デブリが多数出ます!」 「くっ、MSをわざと分散させたのはこの流れを作るためだったか……。」 突然頭を上げ、無表情からにやりと笑ったラルースはメインスクリーンに目を向ける。 「……やはりな。――艦長、なれば取るべき道は多分ひとつだが。行けるかね? 我々で」 つまり無理をしてでも行かなければ取り逃がす。次はない。暗にそう言っているのだ。 艦長はパネルに目をやり、そこしか穴がないのを見て取ると、席に立ち上がり声を張り上げる。 「民間の浮きドックを改造した張りぼてであります! ――操舵! 面舵5、上下+7、船速最大! ゴーストネストの正面より突入、これを抜く! 当艦が先陣を切る! 全艦我に続け!」 「カエサルブリッジより全艦。目標ゴーストネスト、艦隊はこれを突破、その後ろのナスカ級拿捕を 最終目標とする。艦隊各艦、増速最大。カエサル先頭にて単縦陣は維持」 『ラジャー、目標確認。カエサルに続く。増速スタンバイ』 『コピー、目標ゴーストネスト奥のナスカ級。単縦陣は維持』 また微動だにしなくなったラ・ルースの口元には、だが微笑が張り付いている。 ――キミが無能で無いならば。まるでそう言われているかのような感覚に艦長は陥る。 「ゴーストネストを全戦力上げて突破、ナスカ級とそして例のゲイツを拿捕する!」 ――あくまでキミが無能で無いと言い張るならば、その程度はやって貰わねば困るな。 何も語らないラ・ルースの声が聞こえた気がして、艦長は背中に汗が伝うのを感じる。 だから背中からへなへなと崩れてしまわないように、更に声を張り上げる。 「Dナンバーズ、現在の統率は誰か!?」 『こちらD1、デイモン・マークス上級海兵大尉。現在指揮は自分であります』 まるでシェットランドとは正反対な如何にも軍人な声が返る。だが彼もシェットランドの言う “中間管理職”なのであり、また相容れない同士にも見えるがシェットランドの腹心でもある 「これよりゴーストネストに突っ込む。恐らくまともに主砲は打てまいがミサイルは来る。 イーゲルシュテルンだけでは間に合わん。正面は貴様等に全て任せるぞ? 上級大尉」 『ラジャー。エールとランチャーで十分対応出来ます。その為のDナンバーズです、お任せを』
52 :
弐国 ◆lywiuYaB8LyX :2014/07/10(木) 21:26:50.54 ID:Wtnmmf6G
――会敵―― 「次弾発射ラグはストライクのデータとほぼ同じ、多分打撃有効範囲も同じ、か。ならば……!」 フジコは、ランチャーパックを背負ったダガーLヌーボォからの火線をかいくぐりながら データ画面に目を走らせる。自機の反応速度、アグニの性能、付近のデブリ、敵MSの位置。 「デカけりゃ良いってものじゃあ……! ――ここだっ! 増槽パージ!!」 巨大なビームの柱の横を紙一重ですり抜け、増槽タンクと追加ブースターを目眩ましに各々 見当違いの方向へ散らしつつ、デブリを蹴って方向を変え、一瞬でダガーの背後をとった。 ダガーは慌てて振り向くと巨大なビーム砲、アグニを構えなおすが。 「仲間ごと撃ってみろ! 威力が大きすぎるのも考え物だな!!」 ダガーLヌーボォが照準した肩とシールドのふちに白い2本線の廻った黒いゲイツの後ろ、 ダガー2機が一直線で並ぶ。威力が大きすぎてアグニは撃てない。一秒にも満たない躊躇の のち肩の機関砲が火を噴くが、フジコはやすやすと機体をひるがえして至近距離へと滑り込む。 悠々と正面に入り込んだゲイツは骸骨旗を見せつけるようにシールドのビームクローを展開。 ダガーが多少慌てた素振りでビームクローから逃れようと角度を変えた瞬間。 「甘いっ! 死ね、ナチュラル……!」 エクステンショナル・アレスタがコクピットハッチを握りしめ、ビームピックがコクピットを焼き潰す。 「MS相手に大砲でどうにかなると思っているのがそもそもの間違い。……レーダーのヤツ、 今度こそはお前を撃墜(おと)してやるから待っていろ!」 シールドを掲げライフルを構えなおすゲイツの後ろ。コクピットに穴が開き、ハッチ付近を 焦がしたダガーは、各関節が力を失い、動きを止めると虚空を漂い始めた。 『もう一度だけ、停戦勧告する。ただ、やめないってんなら出来るようだし。お互い、楽しもうかぃ?』 巨大な剣を背負ったダガーLヌーボォから女性の声で通信が入る。 「わざわざ通信。仲間が目の前で落ちたのに……? 小賢しい異常者が、かく乱を狙うか!?」 つぶやききつつ、何か違和感を感じたフジコがライフルを撃ちかけつつ、距離を詰めると 見せかけ左に大きく位置を変えた瞬間。直前までゲイツが占めていた空間をビームが薙ぎ払う。 「ぅわ、っぶな−。剣じゃないの、アレは!」 違和感は剣の向きだったことに気付いたフジコは、しかしうかつには接近しない。データ上は 近接戦闘用パックであるからだ。そして相手は当然のことであるように、たった今グリップの 根元からビームを放った艦船を両断できる大剣を背中から抜いて、構えた。 『ありゃ、バレてたか。まぁ、簡単に当っちゃ、それはそれでつまらないってね……。さぁ、やろうか!』 巨大な剣を上段に構えて仁王立ちするダガーLヌーボォの後ろ、徐々にEWACシステムの 異様な姿が小さくなっていく。一撃も与えず逃がすわけにはいかないのがフジコの立場だが。 「行かせるわけには……!」 『亡霊じゃなくて残念だけどね。……おまえの相手は、私だっ! 二本線っ!!』 無重力であろうが巨大な剣には当然巨大な慣性が発生し、機体自体の制御にも 相当な負荷がかかるはず。なのであるが、目の前の機体は上段から剣を振り切ったのち、 バランスも崩さずに横から薙いで見せ、躱されたとみるやEWACダガーを背負う位置に ポジションを変え、同時にビームブーメラン、マイダスメッサーを投擲した。 ガイン! シールドに当たったブーメランはコクピットまで響く衝撃を残して主の元へと帰る。 『ここは通さないよ! どうしても通りたきゃ私を墜として行きな。……出来るもんなら、ね』 ――出来る上に扱いなれている、不味い。ライフルの照準をつける一瞬のスキに連続で 攻撃を受けたフジコは、そう思うとシールドを構えなおす。
53 :
弐国 ◆lywiuYaB8LyX :2014/07/10(木) 21:28:03.11 ID:Wtnmmf6G
――会敵―― 「考えろ! 今、私がしなくちゃいけないこと……。それは、なんだ!?」 EWACダガーを一刻も早く追いたいのだが、形だけ“抜いた”ところで後ろから切られる。 ライフルを照準する余裕をくれる相手ではない。 「――とにかく、的は大きい。一発で良い、ライフルが撃てる隙、……ならば必要なのは、なんだっ!」 黒いゲイツは、ビームクローを展開してソードダガーとの距離を詰める。距離をとって ライフル、ではなくわざわざ敵の得意とするであろう近接戦に持ち込む。 『いーい度胸だ! それでこそ!』 「なるほど。これくらい、かな……。まともになんか、やらない、わよ! 一応考えはあるんだ!」 黒いゲイツは三連続の斬撃をすんでの所で躱すと、背中に背負っていた棒を左手に掴む。 「使わないつもりだったけど、……ありがとうみんな。これでリーチは互角!」 棒の先にはささやかにコロイド粒子がフィールドを作りナイフ程度のビーム刃を形成する。 本体からのエネルギー供給無しで使えるビームサーベル。をメカマンたちが作ったはずだった のだが、実際には小さなフィールドを90秒形成するのにこれだけの長さが必要になったのだ。 相手の腕もあいまって、ゲイツのビームクローではMSの全長ほどもある対艦刀の懐には 入れないが、この“ビームなぎなた”ならば10mを超える。長さだけなら引けを取らない。 『そんなおもちゃで、どうするつもりだぁああっ! 舐めるな! 二本線っ!!』 大上段に振りかぶった対艦刀を受けたゲイツはシールドの上1/3を切り取られながら 刃の軌道を変え左手のなぎなたを突き出す。コクピットを狙ったそれは当然躱されたが、 その隙にさらに距離を詰めついにビームクローの間合いに入る。 巨大な剣を振り回すことで発生する慣性までをも使って一気に身をひるがえすダガー。 「大口叩いた割には抜けてるね。……見えた! そこっ!!」 ダガーの避けた空間に右手のライフルを構える。丸いドームを背負ったMSがレティクルの 真ん中に入り、射程距離が7%オーバーであることをモニターの画面が伝える。巨大な刀が 頭の上に落ちてくるが、フジコはシールドが2つに割れるのと引き換えにトリガーを引く。 一瞬ののち、レ−ダードームには冗談のように穴が開きMSは火球へと姿を変える。 『しまった! ボルタ!! ……おまえぇえっ!』 再度距離をとったフジコは、今まで無視していた返信のスイッチを入れて、聞こえるように呟く。 「自分のミス、でしょ? 私のせいでは無いじゃない。どうせいっぱい、うじゃうじゃいるのだから ナチュラルなんて何人殺してもさしたる影響もないし。おまたせ。こんどこそは、あなたの番よ」 ――子供の声だと!? くそガキの分際で思い上がるな! 身の程を知れ!! ソードダガーは 斬撃を繰り返すが、なぎなたを両断するに止まる。先ほどと比べて明らかに正確性にはかける。 ゲイツはほぼ形の残っていないシールドと残弾数の無いライフルを放り出し、ハイマニューバ用の 実弾ライフルを構える。と、センサーが敵機を捉えたことを、警報音とともにフジコへ伝える。 「宙間戦闘機複数接近? ……まさか!」 『遅いぞ! ……? B4はEWACストライカーか!? ――リーダーの要請? まぁ良い、 そのままゴーストネストの裏へ抜け強行偵察、こいつだけかわせば良い! B2、エールを 自分に、その後はそのまま帰投。B1、B3はリーダーにパックを渡しつつ援護しろ、行け!』 レーダードームを背負った宇宙戦闘機がレンジの外を通り過ぎるのを看過するしかない フジコの目の前。ダガーLヌーボォが対艦刀を投げ捨て、ビームサーベルを抜いた。
54 :
弐国 ◆lywiuYaB8LyX :2014/07/10(木) 21:29:37.43 ID:Wtnmmf6G
――会敵―― 「どうやら二本線のゲイツは振り切ったか。……さてEWACストライカー、俺で使えるものなのか?」 B4のコードを持つコスモグラスパーのコクピット。彼はただ運ぶだけだと思っていたし、専用機で ない以上能力の半分も使えないことを知っていたので、接続さえせずに居たのだが。 コネクト。の表示が出たと同時にデータを映すモニターの最大値の0が一ケタ増える。望遠画像も あり得ないほど大きくズームされ、いきなり黒いナスカ級が三隻、視界に飛び込んでくる。 「――これで1/3の能力かよ、こいつぁいけてるぜ!」 「ライブラリにデータが、無い? ……ひゅー。このご時世に箱入り娘ってか。隠してぇわけだ」 主砲の射程に入ったらしく時折機体をかすめていくが、小回りの利く宙間戦闘機、直撃さえ 避ければどうと言う事はなく、次の射線は3秒前には警告が出る。当たる気がしない。 MSのライフルも同じこと。直縁の位置を動く気がないならこの距離で当てるのは ほぼ不可能。彼にはMSの動きさえ、データと映像で詳細に見えていた。 「とりあえず一発目を送っておくか」 ミサイルともブースターとも見える通信用のデータポット。彼はミサイルランチャーのように数機 並んだそれの内1番ポットの射出準備をする。 「これで大隊長も、艦長や司令に顔が立つってわけだ。……まずは外観と熱紋、行け!!」 小さく機体に振動を伝えてデータポッドを射出した直後、コスモグラスパーはいきなり閃光と 大きな振動に見舞われる。 「いったい……。何ぃ!」 データポッドの進行方向真正面、爆炎の向こう側に全くデータ画面には捉えていなかった 黒いゲイツがライフルを構えて浮いていた。 他の機体群と同じく黒い機体。だが、いつものマットブラックではなく、全身ぬれたような グロスブラックで磨き上げられ、肩の骸骨旗のマークの頬には不似合いなハートマークと その中に7の文字。機体を完全に目視で捕らえた後、漸くステルス看破の警報が鳴り始める。 「ミラコロでもないただのアクティブステルスだとっ? なんてこった! 見えすぎて引っかかった!」 MSと戦闘機、接近戦では分が悪い。機体を翻して一気に距離を引き離そうとした瞬間、 既にゲイツはグラスパーの真上に陣取って居た。 「は、早すぎる。どうやって! これは、パイロットの腕が……! うおっ、しまっ……」 パックをビームクローで引き裂かれるが、パックをパージしたタイミングは爆発よりも早かった。 だが、パックを切り裂いたゲイツの次の獲物は当然グラスパー本体、そしてわざわざビームクローを 使わずともビームライフル一発ですべては決した。 『艦長、後を頼みます。――スカルフラッグス7、レベッカ・ニコルソン。行ってきまあぁす!!』 長いスラスター光を引いた黒いゲイツは一気にブリュンヒルデのブリッジから見えなくなる。 「了解代理。……ブリュンヒルデ艦長より総員、只今代理より全権を委譲された。だからこれは キャップの命令だと思って聞いて。――速度1パーセント600秒継続、その後キャップ、セリア、 代理、いずれかの機体が確認できなかった場合は、全力加速で現空域を離脱、いいわね!」 時間を2分ほど延ばしたがレベッカが当初言っていたプランを引き継いだだけ。だが仲間を 置き去りにする罪悪感はぬぐえず、それの指揮を執っていたのは置いて行かれる当人である。 「そもそもココにあんたが帰ってこなきゃ意味ないんだから……。わかってるよね? ニコルソン」
55 :
弐国 ◆lywiuYaB8LyX :2014/07/10(木) 21:30:45.88 ID:Wtnmmf6G
予告 フジコ対シエラ、ウィルソン対シェットランド。 戦いは、熾烈を極め、火花を散らし、爆炎に照らされ、命をすり減らして。それでも続く。 戦いの先に何があるのか、今の彼らには見ることは出来ない。 それを見るのは、生き延びた者でなければ出来ない事だから……。 ゴミ溜の宇宙(うみ)で 次回第十三話 『切り札』 今回分以上です。ではまた
56 :
通常の名無しさんの3倍 :2014/07/10(木) 21:58:21.61 ID:eYNxv8CR
弐国さん、投下乙です!
57 :
通常の名無しさんの3倍 :
2014/07/13(日) 09:50:13.15 ID:GciHSDMT >>55 弐国さん乙、アレスター好きのオレは嬉しかった
そして前スレのプロレスさんも乙
プオタ的にはやはり季節というか夏と言えばな話で面白かったです