新機動炭酸コーラサワーW 模擬戦7戦目

このエントリーをはてなブックマークに追加
722名無しさん土曜日 ◆gLNd2xXs6c :2014/12/31(水) 00:57:06.09 ID:AWy8pb2W0
「大変の度合いなら、ビリーの方がもっとそうじゃない?」
「え、ぼ、僕かい?」
 スメラギからの突然の指名に、ビリーは思わず口籠った。
スメラギの胸元を見ており、会話に集中出来ていなかったのが原因だが、スメラギ本人は気付いていない。
「まぁ……叔父さんが絡んでいたのには、かなり驚いたけどね」
 叔父とは、総合企業アロウズの会長、ホーマー・カタギリのことである。
「叔父さんは物凄く真面目な人なんだ。だからなのかな……こうなってしまったのも」
彼が『イノベイター事件』に関与していたことは、すでに公けになっている。
アーサー・グッドマン、リー・ジェジャン、アーバ・リントといった彼の部下達も、全て身柄を収監されている。
他にも、リニアトレイン社総裁のラグナ・ハーヴェイ、イノベイターのマネージャーのアレハンドロ・コ−ナーらも、連座したとして同じように拘束された。
ASSのバラック・ジニンについては、レディ・アンとサリィ・ポォが弁護をしたおかげで、部下ともども追及は軽くて済んだ。
「アロウズは、政府主導で運営が大幅に変わりそうね」
「その余波を喰らった形だよ、僕は。在野の科学者でいたかったんだけどね。でも、叔父さんの為にも頑張らないといけないんだろうな」
「諦めなさいよ、ビリー。でもアロウズに入ったおかげで、可愛らしい女性と知り合えたんでしょ?」
「や、やめて欲しいな」
 カタギリは、何やかんやで、アロウズの研究施設の長になってしまった。
ホーマーの甥という立場をすっ飛ばし、そうなってしまったのは、明らかにプリベンターの意向による。
少なくとも、これでアロウズの研究部門は政府の敵にはならなくなるし、リボンズ達が復活した際にも利用は出来なくなる。
リボンズ達が『入っていた』殻も、今は研究所で管理されている。
「ミーナ・カーマインといったかしら。良さそうな人じゃない」
「いや、その、あのね……」
 スメラギも知っててやっているならかなりの悪女であるが、実際はそうではない。
まぁその分、タチが悪いのかもしれないが。
「ミーナ・カーマイン……彼女は」
「ああ、おそらく先祖が、イオリアかそれとも過去のリボンズに遺伝子を提供したんだろうね」
 ティエリアとリジェネは、小さく言葉を交わした。
イノベイター事件の後、事件解決の祝賀会(と言う名前の、今後の打ち合わせ)で、ミーナと二人は面識を持ったのだが、
その容姿がマイスター運送のライバル会社にして、リボンズの部下であった『トリニティ運送』の末妹にそっくりだったのだ。
彼女が『殻』でないことは、すぐさま刹那が『確認』し、一瞬ざわついたマイスター運送の面々も落ち着くことが出来た。
世間は広いようで狭い、ということを身を持って知ったわけである。
「しかし、どこへ逃げたのやら」
「リボンズ・アルマーク達のことかい、クロスロード女史」
「いえ、アリー・アル・サーシェスと、そしてトリニティ運送のことよ」
「さて、ね」
 リボンズ・アルマークの部下として、主だった面子で捕まっていないのは、
アリー・アル・サーシェスとヨハン・トリニティ、ミハエル・トリニティ、ネーナ・トリニティの四人である。
アリーはブシドーさんことグラハム・エーカーにMS(ミカンスーツ)戦で敗北した後逃走し、行方不明。
トリニティズに至っては、最終決戦の場であるヴェーダの端末に姿すら無かったことから、その前に脱したと思われるが、全くわからないまま。
「彼らは『下位種』としてリボンズに扱われていた。いずれ離反するか、それとも処理されるかのどちらかだったと思うよ」
「彼らにしてみれば、幸運だったのかもしれないな」
 皮肉なものだ、とリジェネは思った。
リボンズから離れることで、自分も、アリーやトリニティズも、ギリギリではあるが『負け組』にならなかった。
リボンズに取って代わったとしても、刹那が覚醒した以上、結局はイオリアの遺産も、人類の未来も、手に入れることは出来なかっただろう。
723名無しさん土曜日 ◆gLNd2xXs6c :2014/12/31(水) 01:02:34.58 ID:AWy8pb2W0
「人類革新重工の方も、協力はしてくれるみたいね。何しろ今後、運送用・社内用、機械類の整備の一切を面倒見てくれるらしいわ」
「アロウズでどうにかしたいんだけどね。体面上、仕方ない」
 イノベイター事件にて得た情報の大方を、アンドレイ・スミルノフとソーマ・ピーリスは、上司であるセルゲイ・スミルノフに報告した。
セルゲイは同僚のパング・ハーキュリーと相談した結果、イオリアの遺産やヴェーダに対して、直接的に関わらないことを決めた。
セルゲイは最初、マイスター運送やプリベンターと同じく、『遺産の守護者』側に人類革新重工を持っていきたかったようだが、流石に規模が大き過ぎる為、やむなく諦めた。
ハーキュリーは祝賀会で「GNドライブの製造が将来的に可能になった場合、うちが最優先の芽が出来た。それだけでも儲けものさ」と冗談を言ったが、
その冗談を差し引いても、人類革新重工にとっては、今回の事件はかなりのプラスになっている。
何しろライバル会社であるアロウズが派手にコケてくれた上に、プリベンターという政府の組織にも繋がりが作れたのだ。
「政府の方がヴェーダを悪用しないか、それが一番の懸念だけど」
「大丈夫よ。少なくとも、リリーナ・ドーリアンがいる限りは」
 リリーナ・ドーリアンは当初、イオリア・シュヘンベルグの『遺産』とイノベイター事件の全貌を公開したいと考えていた。
しかし最終的に、レディ・アンやスメラギの説得により、一部だけを公けにし、大部分を秘匿することに同意した。
政府が隠し事をする、という点が彼女の倫理観にそぐわなかったが、
ドロシー・カタロニアや王留美も全公開に難色を示した上に、ヒイロ・ユイの「今の人類にはまだ早すぎる。そういうことだ」という言葉が決定打となった。
「今の大統領は少なくとも悪人ではないし、次か次の次辺り、彼女が大統領に選ばれるでしょう」
「その気が彼女にあるでしょうか」
「なくても、なるわよ」
 くすり、とスメラギは笑った。
それを見て、絹江も笑った。
ただし苦笑だが。
「何だか、『地球を裏から操る謎の組織』の幹部みたいになってません、私達?」
「まさか、そこまで大それたものではないわよ。少なくとも、リボンズ・アルマークがやろうとしていたことに比べれば、千倍も健全ね」
「……我々は、イオリアの遺産を守りつつ、同時に人類の革新の過程も見守る。リボンズがやろうとしていたのは、『支配』だからな」
 ティエリアは横合いからそう言いつつ、烏龍茶をボトルからグラスへと注ぎ足した。
溶けきっていない氷が、グラスの中でカランと音をたてる。
「ドロシー・カタロニア、王留美、マリナ・イスマイール、そしてマリーメイア・クシュリナーダ……その辺りがリリーナ・ドーリアンの補佐に回れば」
「後数十年は政府は安泰、ね」
「大いなる女性の時代、と後世から語られるだろうな」
 カタギリはティエリアから新しいグラスと烏龍茶を貰い、一口飲んだ。
なんとまあ、とんでもない時代に生きていることか。
「マリーメイアと言えば、この前の祝賀会でえらくあの男を追い回していたけど」
「パトリック・コーラサワーのことですか?」
 絹江は額を人差し指で小突いた。
祝賀会の様子を記憶の中から掘り出し、頭の中に描く。
「ええと、『気に入りました。クシュリナーダ家の入婿になりなさい』とか言われてましたね」
「そうそう」
「……あの男、結婚してるんじゃなかったでしたっけ」
「カティ・マネキンとね。彼女、私とビリーは旧知なんだけど……おもしろくなりそうな気がするわ」
「親と子くらい年齢が離れているんですけど」
「だからおもしろいのよ」
 笑いながら、スメラギはウイスキーの瓶を手を伸ばした。
が、途中で止め、烏龍茶のボトルへと方向を変える。
724名無しさん土曜日 ◆gLNd2xXs6c :2014/12/31(水) 01:09:45.38 ID:AWy8pb2W0
「春が、来そうじゃない?」
「春、ねえ」
 カタギリはしばし、これからコーラサワーの周囲で起きる騒動を予想し、グラスを小さく掲げた。
同じ男として同情するわけではないが、カティ・マネキンはそれなりに烈女である。
果たしてどういうことになるやら。
「春が来る、か」
 ティエリアとリジェネは視線を交わした。
スメラギが口にした春という単語が、コーラサワーの周辺だけを言っているのではないことを、二人は理解している。
これからも色々と問題が持ち上がるであろう。
だが、力を合わせれば、春の時間は長く続くはずである。
「……」
 二人は窓から、外を見た。
駐車場の真ん中で、マイスター運送の面々が歓談し、笑い合っている。
皆が食事を持ちより、マットを敷いてランチを楽しんでいるのだ。
 そしてのその輪の中心に、刹那・F・セイエイがいる。
窓で隔たれているので声は聞こえないが、左右からニール・ディランディ、ライル・ディランディのロックオン兄弟にダブルヘッドロックをされている辺り、何かでからかわれているのだろう。
ヘッドロックによって身動きがとれなくなっているその姿は、『真のイノベイター』として覚醒した新人類であるとは、とても思えない。
ロックオン兄弟の腕に挟まれているその顔は、間違いなく仏頂面であろう。
 アレルヤ・ハプティズムがロックオン兄弟を止めようとしているが、顔が笑っているのであくまでフリだけであることがわかる。
 姉にくっついて出入りしている間に、すっかり面々と仲良くなった沙慈・クロスロード、ルイス・ハレヴィの姿も見える。
体を寄せ合ってサンドイッチを食べている姿が、微笑ましい。
 ラッセ・アイオンが上半身剥き出しでポージングをしているのは、何かの余興のつもりだろうか。
 リヒテンダール・ツェーリ、クリスティナ・シエラから紙コップを投げつけられているが、本人は意に解していない様子である。
 フェルト・グレイスとアニュー・リターナーは何やら顔を寄せて話し合っている。
何を相談しているのか、だいたいの想像はつくが、口にするのは野暮というもの。
 モレノとイアン・ヴァスティ、リンダ・ヴァスティはかなり酒が進んでいるらしい。
三人の前に、何本も酒瓶が転がっている。
 何故か紅龍が執事姿で色々と動き回っているが、おそらく王留美から参加しろと言いつけられたに違いない。
「プリベンターとは、これからも何かとつるまなければいけないな」
「その度に苦労することになりそうだね」
「どちらが?」
「それは、もちろん……」
 ティエリアとリジェネは、そこで口を閉じた。
全く同じタイミングで眼鏡を外し、拭く。
「決まっているな」
「決まっているさ」
 これまた同時に、二人は言葉を発した。
725名無しさん土曜日 ◆gLNd2xXs6c :2014/12/31(水) 01:11:25.47 ID:AWy8pb2W0
「―――さて、私達も参加しましょう。ランチに」
 スメラギはそう言うと、席を立った。
皆もそれに従い、表に出る。
降り注ぐ陽光は暖かく、そして優しい。
「両方が苦労することになるさ」
 ティエリアは空を仰ぎ見つつ、呟いた。
春に嵐はつきもの。
だが少なくとも、辛いだけの嵐にはならないであろう。
その分、騒々しさは増すはずである。

 プリベンターに、あの男がいる限り。
726名無しさん土曜日 ◆gLNd2xXs6c :2014/12/31(水) 01:12:22.63 ID:AWy8pb2W0
次回、多分最終回。
それでは。
727通常の名無しさんの3倍:2014/12/31(水) 23:16:40.45 ID:VcxnIqCN0
>>726
土曜日さん乙です!!
一通り事件が解決して、総括といったところですね(逃亡中の奴が何人かいますが)。
あと、最後の方での、00本編では死亡したり不幸になったりしたキャラが、皆で仲良くランチを楽しんでいる場面が印象的でした。
次回で最終回とのことですが、コーラさんは良くも悪くも変わらないんだろうなと。
続きを期待しています!!
728名無しさん土曜日 ◆gLNd2xXs6c :2015/01/01(木) 00:52:55.29 ID:4Z5HEpTg0
 平和な時の軍人は暇である、と言われることがある。
が、実際はそうではない。
戦争が無いというだけで、こなす日課は山のようにある。
しかも、時間を守ることへのの厳しさは通常の社会人のそれより遥かに上ときている。
 さて、プリベンターである。
プリベンターは軍隊ではないが、所属しているメンバーには元軍人がいる。
いる、のだが。
「あー、ダルいダルい」
「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見……」
「おーいオデコ娘二号、お茶持ってきてくれ」
 ひたすらダルいを連発する男。
 般若心経を唱える男。
 ソファに脚を投げ出しながらお茶を要求する男。
 仮にもこれ、かつてはエースパイロットと呼ばれた面々。
誰が誰かをいちいち言う必要も無いかもしれないが、
上からアラスカ野ことジョシュア・エドワーズ、ブシドーことグラハム・エーカー、自称スペシャルことパトリック・コーラサワーである。
「あんたたちねえ……」
 コメカミに怒筋を浮かべながら、プリベンターの現場リーダー、サリィ・ポォが三人に近づく。
「だらしなさすぎるでしょう、しっかりしなさい」
 まるで学校の先生である。
で、生徒達(?)の反応はと言えば。
「いや、だって二日酔いで」
「不生不滅不垢不浄不増不減是故空中無色……」
「じゃあオデコ姉ちゃん一号、お茶持ってきてくれ」
 これである。
ええのんかこれで。
もちろん良くない。
サリィの額に、もうひとつ怒筋が増える。
爆発するまでもう僅か、というところだろうか。
つーかすでにヒルデ・シュバイカーがフライパン片手に待機している。
サリィが一つ手を振れば、ダッシュで飛んで行って三人の頭をパチコーンと叩くだろう。

「楽しそうだな、あいつら」
 そんな騒ぎを横目で見つつ、デュオ・マックスウェルは麦茶を一口飲んだ。
「なら混ざればいい」
「ヤだ」
 ヒイロ・ユイのツッコミを、デュオは一言で退けた。
無論、ヒイロもデュオの言う「楽しそう」がそのままの意味ではないことを知ってて言っている。
729名無しさん土曜日 ◆gLNd2xXs6c :2015/01/01(木) 00:57:36.86 ID:4Z5HEpTg0
「何時ものことだ。いちいち気にしていられるか」
「何時ものことだと、尚更困るんですけどね」
「慣れてきている自分に少し苛立ちを感じるな」
 張五飛、カトル・ラバーバ・ウィナー、トロワ・バートンの三人も、コーラサワー達に止めには行かない。
絡んだところで全く得が無い。
ただただ疲れるだけである。
「そういえばミレイナの姿が見えないが、どうしたんだ」
「マイスター運送がランチパーティをしている。そちらに行ってるらしい」
「……休憩時間中に行って、そして帰ってこれますかね」
「距離的にどう考えても無理だな」
「時間有給休暇扱いにすればいい」
 なお、彼ら五人も丁度昼食を終えたばかり。
グラハム・エーカーの元部下であるダリル・ダッジのラーメン店『えむすわっ堂』からの出前である。
ハワード・メイスンも経営に加わり、近々二号店を出す勢いらしい。
「ま、俺達ものんびりさせてもらってていいわけでもないんだけどな」
「アリー・アル・サーシェス、奴の足取りはわからないままだ」
「奴のことだ。潜伏はお手の物だろう」
「だけど、彼の部下は捕まったままです。いくら彼でも、一人では何も出来ないでしょう」
「だといいがな」
 イノベイター事件の際に、アリーの部下は一網打尽にされた。
他に部下はいないはず、である。
「リボンズ・アルマークとまた手を組む可能性もあるだろう」
「刹那・F・セイエイの話では、リボンズ・アルマークが力を取り戻すまでには時間がかかるということだ」
「本当なんでしょうか」
「信じるしかないだろう、刹那・F・セイエイを」
「だとしても、調査を続けるべきだろう。その為のプリベンターだ」
 トロワの言葉に、頷く四人。
思えば、張五飛に強引に集められた割りには、デュオ達は『プリベンター』をしっかりと『自分の居場所』にしている。
何だかんだで、彼らは一つのチームなのだ。
「だが、イオリアの遺産を守るとなれば、さすがに人手不足じゃないか?」
「ゼクス・マーキスとルクレツィア・ノインの復帰は?」
「まだテラフォーミング事業の途中です。もうしばらく時間がかかると思いますよ」
「まあ、あの二人がいればいたで、あのバカ三人と色々揉めるだけだ」
「疑いようがないな」
 あの二人がいれば、と思ったことは今までにも何度かある。
戦士として、パイロットとして、十分な戦力になるだけの実力を持っている。
が、トロワが言ったように、間違いなくコーラサワーやグラハムと色々ぶつかっていたであろう。
いずれ二人が戻ってきた時の騒動を考えると、なかなかに頭が痛いガンダムパイロット達である。
730名無しさん土曜日 ◆gLNd2xXs6c :2015/01/01(木) 01:01:36.94 ID:4Z5HEpTg0
「あいつの嫁さんは?」
「カティ・マネキンのことか」
「戦術予報士として素晴らしい人なんですよね。加わってもらえれば、助かると思います」
「あのバカの抑え役も頼めるだろうしな」
「だが嫁が側にいると、アイツが喜ぶだけだ」
 五人は顔を見合わせ、頷きあった。
嫁はともかく、コーラサワーが今以上に奔放になったら、それこそサリィの怒筋が十個以上出来てしまう。
「……当面は、この面子でいくしかないのかね」
「そうだな。サーシェスの件については、速めに解決しておきたい」
 アリー・アル・サーシェスはプリベンターの宿敵ともいえる。
因縁が長々と続くことを、望んだりはしない。
さっさとカタをつけておきたい問題である。

 首都ブリュッセルに注ぐ陽光は、暖かく、そして優しい。
プリベンター本部の窓から見える空も、青く澄み渡っている。
今、外で散歩をしたらさぞかし気持ち良いことであろう。
「平和、ってことかね……」
 麦茶をすすりつつ、デュオは呟いた。
『イノベイター事件』が一応の決着を見てから、しばらく経つ。
人気アイドルグループが主犯だったということで、かなりの騒ぎとなった。
ほぼ連日、テレビでも新聞でも週刊誌でもネットでも、取り上げられ続けた。
一般人をはじめ、犯罪学者であるとか心理学者であるとか、様々な人間が、好き勝手な憶測を並べたてた。
解決した当事者であるプリベンターも、当初はマスコミの突撃を喰らった。
パトリック・コーラサワーも英雄として讃えられる―――ことはなかった。
レディ・アンとJNNTVのハワードが色々と手を尽くし、真相の大部分を秘匿したからだ。
表だって公表されたのは、おおまかに言えば、
「リボンズ・アルマークがサイバーテロを企んだ」
「目的はイオリア・シュヘンベルグの過去の研究、『電脳空間の新構築』の悪用」
「プリベンターが事前に察知し、プリベンター全員で、事に及ぶ前に止めた」
「リボンズを始め『イノベイター』の面々は逃亡中」
「サイバーテロには、リニアトレイン社やアロウズの一部も加担していた」
の五点のみ。
つまりは、『ヴェーダ』も『イオリアの遺産』も、ほとんどが隠されたままになっている。
イオリア・シュヘンベルグの言うところの人類の革新とそれに繋がる技術については、巧妙に軸をずらして、故意の情報を流して誤魔化した。
「バレなきゃ、いいけどな」
 世界は広い。
不審を抱く人間も少なくないだろう。
リボンズもいずれ復活する。
それに、『自覚のないイノベイド』達の中に、第二のリボンズたらんと『目覚める』者がいるかもしれない。
「まだやってるのか、あのアホ三人は」
 扉の向こう側から、コーラサワー達が騒ぐ声が聞こえる。
キレたサリィがヒルデにフライパンアタックを指示してから、十数分は経っているだろう。
731名無しさん土曜日 ◆gLNd2xXs6c :2015/01/01(木) 01:05:14.00 ID:4Z5HEpTg0
 デュオはぎゃあぎゃあと五月蠅い声から、目と耳を逸らし、再び窓の外を見た
大統領府の正面の大通りでは、何やらパレードをやっている。
「ああ、そう言えば……新しい太陽光発電システムが一基、スタートするんだっけか」
 本来なら、その式典にプリベンターも参加しなければならない立場にある。
だがまだイノベイター事件が世間では沈静化していないので、公の場に堂々と姿を出すと、下手にマスコミに付きまとわれかねない。
それを避けるというレディ・アンの判断により、今回は見合わせる形となっている。
「ん?」
 デュオは、窓から顔を離した。
コーラサワー達とは別に、何やら大きな声がしたからだ。
それは、コーラサワー達がいる部屋とは別の方から聞こえてくる。
そしてそれは、段々と大きくなってくる。
「なんだ?」
 デュオが立ち上がった瞬間、プリベンター本部の表扉が、けたたましい音と共に開いた。
「た、た、大変ですぅ!」
 叫びながら入ってきたのは、ミレイナ・ヴァスティだった。
「ミレイナ? お前、マイスター運送に行ってたんじゃあ」
「とにかく大変なんですぅ!」
「何が大変なんですか、落ち着いて下さい」
 カトルが麦茶の入ったコップを差し出す。
それをミレイナは受け取ると、いっきに飲み干す。
「はー、はー、ですぅ」
「で、何があったんです?」
「テ、テ、テ」
「て?
「テレビをつけて下さい、ですぅ」
 ミレイナの言葉を受けて、トロワが本部の中央にある大きなモニターのスイッチを入れる。
ブゥン、と電子音を立ると、そこには太陽光発電システムオープンの式典の様子が映し出される。
「これが、どうかしたのか」
「ニ、ニュースチャンネルに変えて下さいですぅ」
 再度、トロワがモニターのパネルをタッチする。
ニュース専門番組に、瞬時に映像が変わる。
「こ、これですぅ」
 モニターに映し出されたのは、若い女性のニュースキャスターと、そしてカコミ枠で炎上する大きな建物。
「これは……?」
「け、刑務所ですぅ」
「刑務所?」
「こ、郊外にある……」
 モニターの中で、ニュースキャスターは表情を一切変えず、ニュース原稿を読み上げる。

『今から一時間程前、ブリュッセル西刑務所が何者かに襲われ、一部の被収容者が脱走しました』

「……おいおい、どういうことだこりゃあ」
732名無しさん土曜日 ◆gLNd2xXs6c :2015/01/01(木) 01:11:16.52 ID:4Z5HEpTg0
「あの、そのですね、一部の被収容者というのがですね」
「ミレイナ、そこから先は私が話すわ」
 何時の間にか、皆の背後にはサリィ・ポォが立っていた。
手を腰に当て、顔を幾分顰めている。
「ブリュッセル西刑務所に収容されているのが、どのような連中か、皆は知っているわね」
「まさか」
「そう、アリー・アル・サーシェスの部下達よ」
「……!」
 デュオは小さく仰け反った。
「あの炎上具合、中から脱獄を企てたってわけじゃあないよな」
「ええ、外から無理矢理、建物の壁を破壊されたそうよ」
 逃げ出したのがアリーの部下ならば、それを手引きしたのは当然―――。
「アリー・アル・サーシェス本人がやったのか!?」
 サリィはデュオのその問いには答えず、歩を進め、モニターに近づいた。
パネルを操作し、また別の映像を呼び出す。
「レディ・アンからさっき届いた映像よ。西刑務所の監視カメラのひとつなんだけれど」
 狭い刑務所の廊下を、口を大きく開いて笑いながら走る一人の男が、そこにある。
間違いなく、アリー・アル・サーシェスその人である。
「……ばっちし映ってやがる。あの野郎」
「それだけじゃないわ」
「まだ何かあるのか?」
「サーシェスの後ろに続く、三人の姿がわかるかしら」
「三人?」
 デュオ達はモニターを凝視した。
アリーに続いて、刑務所の壁を爆薬で壊していく者達がいる。
「あれは……」
「トリニティの三人!?」
 そう、ヨハン・トリニティ、ミハエル・トリニティ、ネーナ・トリニティの三人。
どういう趣向なのかわからないが、
ヨハンは『ランボー』のジョン・ランボー、ミハエルは『コマンドー』のジョン・メイトリックス、
ネーナに至っては『あの胸にもういちど』のレベッカ(つまりはル○ン三世の峰不二子のライダースーツの元ネタ)の格好をしている。
「何だこりゃあ!?」
 異様な光景に、度胆を抜かれるプリベンター一同。
無理も無い話である。
「ちょっと待って下さい、襲撃されたのが一時間前とニュースキャスターは言ってましたよね」
「……アリーも、その部下達も、既に逃亡したってことよ」
 警察は何をしていた、とはカトルは言わない。
警察が何とかしていたら、こんなニュースは流れていない。
「レディ・アンからすぐさま追うように、と命令が出ています。出動するわよ」
「了解した」
 ヒイロ・ユイが立ち上がる。
政府の首都の側で事件を起こしたのであれば、追うのに手間はかからない。
かからないはずである、のだが。
733名無しさん土曜日 ◆gLNd2xXs6c :2015/01/01(木) 01:13:50.79 ID:4Z5HEpTg0
「レディ・アンから追加で情報が出ています。部下はパレードに紛れ込んでいる可能性が高い、と」
「そりゃヤバイ。すぐに……」
 行こう、と言葉を続けようとして、デョオは舌を止めた。
そして窓に飛びつき、外を見る。
パレードには多くの一般人が参加している。
この中から探すのは、相当に骨が折れる。
「しかも、ただ紛れ込んでいるわけじゃないの」
「まだ何かあるのか!?」
「どうやら連中、『着ぐるみ』で変装しているらしいのよ」
「着ぐるみ……?」
 デュオは額を小突いた。
そして思い出した。
イノベイター事件の前に、各地の遊園地から着ぐるみが盗まれたという事件があったはずだ。
再々度、デュオは窓の外を見た。
パレードの人の列の中に、動いている着ぐるみが多く見える。
風船を子供に配っているパンダ、玉乗りの曲芸をしているネコ、タップダンスを踊っているピエロ……。
数えきれない。
どれがアリーの部下で、どれが普通の着ぐるみなのか。
「警察と連動して動きます。皆、すぐに準備を―――」
 
「お い お 前 ら 、 話 は 聞 い た な !」

 サリィの言葉をかき消すくらいに大きく、別の声が室内に響く。

「あのバカ野郎、とんでもないことをしでかしたらしいな、おい!?」

 誰、と訝しむ必要はない。
この嬉々とした声、パトリック・コーラサワー以外の誰のモノでもない。

「準備はいいな? 出来てるな? チンタラしてると置いていくぞ!?」

 グラハム・エーカーの姿は、既に無い。
おそらく一報が入った時点で、ジョシュアを無理矢理引っ張って飛び出していったのであろう。
どこまでもワンマンアーミーである。
734名無しさん土曜日 ◆gLNd2xXs6c :2015/01/01(木) 01:17:14.44 ID:4Z5HEpTg0
「さぁ行くぜ!」

 コーラサワーが、プリベンターのジャケットを勢いよく羽織る。
サリィ・ポォが呆れた顔をしているが、全く気に掛ける様子も無い。

「ついてこいよ!」

 一連の流れを見て、デュオは思う。
ああ、これからもこうやって、コイツに色々とひっかきまわされるんだろうな、と。

「この、模擬戦無敗―――」

 プリベンターに身を置く限り、続くんだろうな、と。

「スクランブル2000回―――」

 アリーを倒しても、リボンズを捕まえても続くんだろうな、と。

「不死身で幸せの―――」

 もしかすると、人類が本当に革新するまでずっと、と。

「プリベンターのスペシャルエース―――」


 コーラサワーは駆け出していく。
前だけを見て、振り向きもせず。
ただひたすら、マイペースに。
どこまでも、自分中心に。
駆け抜けていく、コーラサワーは。




「パトリック・コーラサワーによ!!」





 ―――新機動炭酸コーラサワーW・完―――
735名無しさん土曜日 ◆gLNd2xXs6c :2015/01/01(木) 01:23:38.63 ID:4Z5HEpTg0
コーラーサワー主人公でW作り直そうぜ
1 :通常の名無しさんの3倍:2007/10/09(火) 18:48:40 ID:???
お前をスペシャる!

ここから全ては始まりました。
新機動炭酸コーラサワーの第一回目を投下したのは、この直後。
2007年10月9日、23時50分のことでした。
ここまで投下し続けることが出来たのは、パトリック・コーラサワーという素晴らしいキャラクターと、そしてスレの皆様のおかげです。
無事、完結致しました。
本当にありがとうございました。

これからの皆様に御多幸あらんことを。

そしてパトリック・コーラサワー、あけましておめでとう&ハッピーバースデイ!
736通常の名無しさんの3倍:2015/01/01(木) 23:06:53.78 ID:YZQk+WFz0
>>735
土曜日さん、あけおめ、そして完結おめ!!

このスレが始まって、もう7年以上になるんですか、月日が経つのが早いですね…
こういう何らかの余韻を残したエンディングも中々良いですね!!

最後に、土曜日さん、お疲れ様でした!!
737通常の名無しさんの3倍:2015/01/01(木) 23:27:40.60 ID:ol+KEKfD0
>>735
土曜氏さんお疲れ様です!
俺たちの戦いはまだまだ続くぜENDに
まだまだはしゃぎ続けるコーラさん達が見えました

コーラさんの誕生日に完結を見ることができ感慨無量です
738通常の名無しさんの3倍:2015/01/02(金) 21:56:10.31 ID:oy9zqzHS0
>>735
土曜日さん、完結おめでとうございます。
物語は終了するが、コーラさんの活躍はまだ終わらない!!
時にコミカルに、時にシリアスにと、色々と楽しく読ませて頂きました。

最後に、7年間お疲れ様でした!!
739通常の名無しさんの3倍:2015/01/05(月) 00:29:56.99 ID:HPkLDPUf0
このスレも7年目かあ、すごいなw
740通常の名無しさんの3倍:2015/01/06(火) 23:04:13.63 ID:L5ApO5nX0
保守ワー
741通常の名無しさんの3倍:2015/01/08(木) 21:25:03.50 ID:9tzjq0wW0
保守ウー
742通常の名無しさんの3倍:2015/01/11(日) 01:41:55.27 ID:YX90dFvM0
保守ワー
743通常の名無しさんの3倍:2015/01/13(火) 00:46:51.74 ID:hpQmfImG0
保守ウー
744通常の名無しさんの3倍:2015/01/14(水) 02:46:12.15 ID:fALzrZ4c0
保守ワー
745通常の名無しさんの3倍:2015/01/16(金) 22:20:14.12 ID:rV27STRw0
保守ウー
746通常の名無しさんの3倍:2015/01/18(日) 18:38:28.67 ID:gd1XJC150
保守ワー
747通常の名無しさんの3倍:2015/01/20(火) 22:44:30.60 ID:w8ryTtZc0
保守ウー
748通常の名無しさんの3倍:2015/01/22(木) 22:25:11.93 ID:uKXuK2BB0
保守ワー
749通常の名無しさんの3倍:2015/01/24(土) 21:10:10.12 ID:OmfogM2X0
保守ウー
750通常の名無しさんの3倍:2015/01/26(月) 22:38:59.03 ID:g/W3XmeY0
保守ワー
751通常の名無しさんの3倍:2015/01/28(水) 23:16:17.32 ID:QAUeaykv0
保守ウー
752通常の名無しさんの3倍:2015/01/30(金) 22:30:17.76 ID:xRJ2YnKU0
保守ワー
753通常の名無しさんの3倍:2015/02/01(日) 21:10:47.12 ID:slYFhsbh0
保守ウー
754通常の名無しさんの3倍:2015/02/03(火) 22:52:08.62 ID:7Zh30CfW0
保守ワー
755通常の名無しさんの3倍:2015/02/05(木) 22:49:38.92 ID:NPmutuOV0
保守ウー
756通常の名無しさんの3倍:2015/02/07(土) 21:31:10.01 ID:NkQ1s5Yi0
保守ワー
757通常の名無しさんの3倍:2015/02/09(月) 21:53:22.06 ID:3caDeuHS0
保守ウー
758通常の名無しさんの3倍:2015/02/11(水) 22:09:49.69 ID:J5tyYguT0
保守ワー
759通常の名無しさんの3倍:2015/02/13(金) 22:29:24.68 ID:SEKTdfWe0
保守ウー
760通常の名無しさんの3倍:2015/02/15(日) 21:51:14.29 ID:WZ/zJMWE0
保守ワー
761通常の名無しさんの3倍:2015/02/17(火) 21:59:25.81 ID:nIuu+Ne40
保守ウー
762通常の名無しさんの3倍:2015/02/19(木) 22:20:32.82 ID:RLbebdHr0
保守ワー
763通常の名無しさんの3倍:2015/02/21(土) 20:50:13.10 ID:xTj0HnvD0
保守ウー
764通常の名無しさんの3倍:2015/02/23(月) 22:34:26.17 ID:aDHqebaQ0
保守ワー
765通常の名無しさんの3倍:2015/02/25(水) 22:00:13.05 ID:j8oxvwJx0
保守ウー
766通常の名無しさんの3倍:2015/02/27(金) 22:30:12.70 ID:UO9lTGJM0
保守ワー
767通常の名無しさんの3倍:2015/03/01(日) 20:35:38.61 ID:VWl9gWHt0
保守ウー
768通常の名無しさんの3倍:2015/03/03(火) 22:21:00.37 ID:9pAq6bp70
保守ワー
769通常の名無しさんの3倍:2015/03/05(木) 22:36:58.87 ID:2FG4bZnM0
保守ウー
770通常の名無しさんの3倍:2015/03/07(土) 21:09:57.26 ID:dMzTP+zI0
保守ワー
771通常の名無しさんの3倍
保守ウー